ページ番号1009027 更新日 令和5年5月29日

ロシア:脱炭素という世界の潮流に対するロシア政府及び石油ガス会社による対応の現状

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レポートID 1009027
作成日 2021-04-30 00:00:00 +0900
更新日 2023-05-29 15:02:00 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業水素・アンモニア等
著者 原田 大輔
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年度
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No
ページ数
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア
2021/04/30 原田 大輔
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概要

  • 気候変動対策としての世界的な脱炭素の潮流と代替エネルギーとしての水素に対する関心が高まり、ロシアにとって最大の化石燃料市場である欧州がグリーンディールによって大きく舵を切る中、ロシアもこれに引き摺られる形で、昨年11年ぶりに改訂された2035年までの長期エネルギー戦略に水素エネルギーが盛り込まれることになった。
  • 他方で、ロシア政府及び石油ガス企業の認識は、「2050年までに正味排出量ゼロを目指しても、天然ガスを中心とする化石燃料は移行期のエネルギー源として必要なはずであり、産油ガス国との競争に対しては本意ではないが、価格で対抗し、シェアを維持していく。2050年正味排出量ゼロと言っても化石燃料の使用が全く無くなるわけではない。いずれにしても欧州需要は既に縮小基調に入っているから、その分を中国(原油・ガス共にパイプライン稼働済み)やアジア諸国(LNG販売)で攻めて行く」というものであり、その方向性は今も大きくは変わっていない。
  • 長期エネルギー戦略に急遽盛り込まれた水素エネルギーについては、水素の供給源として最も安価で安定的に供給可能な天然ガスという資源とその天然ガスや水素を欧州まで輸送できる天然ガスパイプライン網というインフラを既に有するGazprom、そして欧州が望む気候中立な水素となり得る原子力発電による電力を用いたイエロー水素生成の主体となるRosatomに光が当てられている。
  • その陰では、LNGを主業とする独立系ガス生産会社のNOVATEK、そして、RosneftやLUKOIL等主要石油会社は政府の政策からは取り残された形になった。しかし、彼らは独自の解釈・考え方で試行錯誤を行い、この脱炭素の潮流に対応して行こうとしている。

――――――――――

Rosneft
政府の動きに敏感に反応し、2000年8月から年内発表に向け炭素戦略策定に着手。しかし、秋口から長期的な石油生産とクリーンな生産技術開発の重要性を主張。年末に出された戦略も野心的とは言えるものではなかった。炭化水素生産の大幅削減を発表した大株主BPとの矛盾が指摘される中、BPと環境技術協力に関する協力を立ち上げ、批判を躱そうとしている。反Rosneftの報道に対しては訴訟も辞さない姿勢。

LUKOIL
フェドゥン副社長を気候変動担当副社長に任命。脱炭素に向けた情報公開は進める一方で、性急な脱炭素化には慎重な姿勢を貫く。「ロシアの石油会社は代替エネルギー技術を開発するという高額で意味のないことに没頭するより、森林吸収とCCSに注力すべき」と断言。また、「二酸化炭素排出量を相殺することが、世界最大の森林地帯を有するロシアでは可能であり、2025年までに炭素取引システムを導入して欧州に対抗すべき」と主張。

NOVATEK
ロシア企業の中では、最も脱炭素、CCS、水素分野(アンモニア輸送を含む)への関心・実現に向けたベクトルが強い。その背景には水素エネルギー開発においては政府の枠組みからは良くも悪くも漏れたため、自由に、経済合理性に従ってカーボンニュートラルLNG及び水素を追求すべく、独自路線を矢継ぎ早に出し、プロジェクト実現に邁進している。

Gazprom
天然ガスからの水素生産では、新たなCAPEX投下が少なく、二酸化炭素排出量の少ないメタン熱分解(ターコイズ水素)に注目。パイプラインという既存インフラ保有による優位性の一方で、水素生産は需要地で行った方が、経済性が良いことも認識。S-2の繋がりからShellと戦略提携を推進。大西洋貿易では初めてとなるヤマルLNGカーゴをカーボンニュートラルLNGとしてShell(英国)へ販売する等関係強化。

Gazprom Neft
戦略を見直すことを表明するも化石燃料増産目標は継続。

Tatneft
2050年までに炭素中立を目指す計画を発表したロシアで最初の石油ガス企業に。但し、中期的に化石燃料増産は否定せず、炭素中立に向けた具体的な方策は不明確。

――――――――――

  • 現在までロシアの石油ガス会社で気候変動対策や炭素戦略について表明を行った会社はこれら企業に留まっており、またほぼ全ての会社が化石燃料の増産目標を立てていることが特徴となっている。
  • 水素エネルギーについては「2024年までのロシアの水素エネルギー開発計画」に従い、ロシア政府は、今後2024年までに水素エネルギーを支援するための一連の政策が策定、必要な法的及び研究基盤を形成する予定。
  • プーチン大統領は「安価で豊富な石油ガスの開発は継続する一方で、ロシアの石油ガス会社はパリ協定に従い、さらに『グリーン』になるべく、脱炭素に無向けた投資をせざるを得ない」と述べ、排出量削減ターゲットを規定した温暖化ガス排出量削減に関する法律(政令第666号)を制定。しかし、ロシアは広大な森林による二酸化炭素吸収を計算に入れており、その実現ハードルは決して高いとは言えない目標設定となっている。また、プーチン大統領はロシア政府に2050年までにロシアが気候中立な形で社会経済を発展させるための戦略を策定することも指示。ノヴァク副首相は2021年内に温暖化ガス排出削減戦略を発表する予定であることを表明し、また、現在ロシア政府が気候変動への対応と燃料エネルギー産業によって排出される炭素排出量の削減に焦点を当てる「新エネルギー(New Energy)」戦略を策定していることも明らかにしている。さらにロシアは2022年に温暖化ガス排出量規制を導入する予定であり、ロシア政府も矢継ぎ早に温暖化ガス排出量削減に向けた戦略を練りつつある。
  • カーボンニュートラルを目指す旗艦・宣伝的パイロットプロジェクトとして、当初サハリン州リマレンコ知事が立ち上げたサハリン州域内のカーボンニュートラルを2025年までに実現するプロジェクトが中央政府を巻き込むプロジェクトに昇華。当初案では水素クラスターを創設し、Rosatom、仏エア・リキッド社、米エアープロダクツ社等と国際コンソーシアムを立ち上げるものだったが、ロシア初の炭素取引パイロットプロジェクトも加わり、経済発展省及びサハリン州政府が具体的なロードマップを作成中。今後実現に向けた方策、対象プロジェクト、そして課題が明らかになるだろう。
  • 世界的な脱炭素の流れ、そして特に国境炭素税という産油ガス国に直接影響を及ぼす事象の発生を受けて、防衛本能としてロシア政府が急速に注目し始めているのが、既に持っている世界最大を誇る資産である森林(ロシア一国で世界の5分の1を占める)である。ロシアという国単体で括るのであれば、ロシア領域に所在する森林による二酸化炭素吸収はロシアが享受するべき「排出権」に等しく、国境炭素税を課される筋合いはないというロジックを成り立たせようとしていると考えられる。

 

1. はじめに

2019年12月のフォン・デア・ライエン欧州委員長の就任と共に打ち出された欧州グリーンディール、そして、コロナウイルスとその経済停滞が、欧州加盟国を温暖化ガス削減政策の更なる推進に向け、ひとつにまとめ上げることになった。その結果、合意に至った欧州復興基金及び2027年までの多年度財政枠組みを受けて、7月に「欧州水素戦略」及び「エネルギー統合戦略」が出され、域内の2050年までの正味排出量ゼロと脱炭素化に向けた動きが急速に加速している。そして、2020年9月には中国(2060年)及び日本(2050年)も正味ゼロエミッションを宣言した。

これら各国の戦略が出るまでのロシア政府及び石油天然ガス企業の認識は、「2050年までに排出量正味ゼロを目指しても、天然ガスを中心とする化石燃料は現在の莫大なエネルギー需要を満たすために移行期のエネルギー源として必要なはずであり、産油ガス国との競争に対しては、(本意ではないが)価格で対抗し、シェアを維持していく。2050年排出量正味ゼロと言っても化石燃料の使用が全く無くなるわけではない(化石燃料は欧州委員会のベースケースで2050年時点過半を占める)。いずれにしても欧州需要は既に縮小に入っているから、その分を中国(原油・ガス共パイプライン稼働済み)やアジア諸国(LNG販売)で攻めて行く」というものであり、その方向性は今も大きく変わるものではない。

他方、水素という新たなエネルギーに対する関心が国際的にも高まり、ロシアにとってのドル箱市場である欧州でも関連する戦略が出された結果、ロシアの長期エネルギー戦略にも水素エネルギーが俄かに組み込まれることとなった。2020年6月、11年ぶりに改訂・承認された「ロシアにおける2035年までのエネルギー戦略」では、欧州での動きを敏感に反映し、「水素エネルギー」という新たな項目を追加している。7月下旬にはエネルギー省が2020年から2024年までの水素開発ロードマップを作成し、Gazprom及びRosatomが中心となって、それぞれ水素生産・燃料使用のパイロットプロジェクトを立ち上げる方針が打ち出されている。これら動きを読み込んでいくと、ロシアは水素を石油天然ガスに置き換わる敵と見ているよりは、欧州が望む気候中立な水素(ターコイズ水素やイエロー水素)を生産するプロセスの研究(Gazprom及びRosatom)を進めて行き、当然天然ガスより高く売れる水素をプラスアルファの商機として、捉えようとしていると考えられる。

また、水素に対する関心が高まり、水素の供給源として最も安価で安定的に供給可能なその天然ガスという資源と、その天然ガスや水素を欧州まで輸送できる天然ガスパイプライン網というインフラを有するGazprom、そして欧州が望む気候中立な水素となり得る原子力発電による電力を用いた水素生成の主体となるRosatomに光が当てられた。一方、その陰で、LNGを主業とする独立系ガス生産会社のNOVATEK、そして、RosneftやLUKOIL等主要石油会社は政府の政策からは取り残されている。しかし、彼らは独自の解釈で、この脱炭素の潮流に対応して行こうとしている。

本稿ではロシアの石油ガス各社の炭素戦略とその特色、戦略発表から現在までのロシア政府の動向を追う。

 

2. 石油ガス会社各社のこれまでの対応と変遷

(1) Rosneft:2035年に向けた炭素戦略を2020年12月に発表。

政府の動きに敏感に反応し、8月から年内発表に向け炭素戦略策定に着手。しかし、秋口から長期的な石油生産とクリーンな生産技術開発の重要性を主張。年末に出された戦略も野心的とは言えるものではなかった。炭化水素生産の大幅削減を発表した大株主BPとの矛盾が指摘される中、BPと環境技術協力に関する協力を立ち上げ、批判を躱そうとしている。反Rosneftの報道に対しては訴訟も辞さず。

――――――――――

2020年8月14日、Rosneftは長期的な炭素戦略を策定し、年内に明らかにすることを発表した。大株主であるBPは先立つ8月4日に、2030年までに低炭素エネルギー向けの投資を年50億ドル拡大すると共に再生エネルギーによる発電量を50ギガワットに増やし、石油・ガス生産を2019年比で40%(日量100万石油換算バレル)削減する極めて野心的な目標を発表している。しかし、その後Rosneftに関してはBPに並ぶようなドラスティックな目標が議論されているという情報は出て来ず、秋に入ると、180度転向するような方針がRosneft幹部から出て来るようになる。

図1 Rosneftの主要企業指標の推移
図1 Rosneftの主要企業指標の推移
出典:年次報告書から筆者取り纏め

10月、カシミーロ第一副社長は、「今後国際石油会社が採るべき方策は、従来型エネルギーと再生可能エネルギーのバランスの取れた開発、持続可能な生産、環境保護、そしてエネルギー効率の高い技術の導入である。石油会社は低炭素エネルギーへの投資に資本を再配分するのではなく、自分たちが最も得意とすること、つまり石油を地面から抽出することに集中するべきである。石油・ガス業界は近年、既にその探査活動を劇的に後退させており、コロナウイルスの大流行の結果として今年は設備投資を削減している。しかし、2030年までに今日の生産量の45%を実現するためには、石油ガス開発に推定2.8兆ドルの投資が必要になる。炭素の管理は世界の最重要課題であり続けるべきであるが、業界は再生可能エネルギーに焦点を移すのではなく、石油とガスを抽出するための、より効率的でクリーンな方法を模索すべき」であると述べている。また、環境に対するRosneftの独自の方策として、これまで2017年以降、二酸化炭素排出量を310万トン削減し、10年前の8%だった総生産量に占める天然ガスシェアを19%へ拡大してきた。また、製油所でのエネルギー効率の向上を達成し、過去5年間で40億ドル相当のグリーン投資実施の他、2019年にはロシア国内に100万本の植樹を行っていることを紹介した。

写真1 セーチン社長のオンラインプレゼン

また、同月、セーチン社長はイタリア・ヴェローナで実地・オンライン開催された第13回ユーラシア経済フォーラムで講演し、「再生可能エネルギーは世界のエネルギー需要をすぐには満たせない。エネルギー需要は増加するが、再生可能エネルギー価格が高いためである。欧州が化石燃料を排除するには理論的に50兆ドルの投資が必要であり、それは欧州連合のGDPの3倍以上の規模となる。再生可能エネルギーの拡大はレアメタル不足を招く。長期的なエネルギー需要は新たな技術、経済発展と二酸化炭素排出量目標の間に生じる矛盾が決めることになる。再生可能エネルギーへの加速的シフトは化石燃料の投資縮小を招き、結果として急激なエネルギー価格高騰を招く。世界の石油ガス産業は新技術開発の主導的地位にあり、依然巨大なポテンシャルを持っている。次の数十年は在来型エネルギーと再生可能エネルギーが共同で努力し、気候変動に対応し、人間が享受できるエネルギーを齎すシナジー効果を見ることができるだろう」と述べ、8月の大株主BPが発表した方向性に逆行し、近年の炭素産業に対するダイベストメントが今後石油ガス価格の高騰を招くことに対する警鐘と最終的に石油ガスの価格競争力が再生可能エネルギーを凌駕する見通しを示した。

12月21日、8月の公約を守り、Rosneftは「2035年までの期間のための炭素マネジメント計画」(The Carbon Management Plan for the period until 2035)による2035年に向けた気候目標(Climate goals to 2035)を発表した。ポイントは以下の4つの目標から成っている。

(1) 二酸化炭素換算で2,000万トンの温室効果ガス排出の防止。

(2) 上流の排出原単位(emissions intensity)を30%削減。

(3) メタン排出原単位は0.25%未満に抑制。

(4) 石油随伴ガスのゼロ・フレアリング。

また、その他の分野として発電からの排出量の最適化に焦点を当て、既存発電所を低炭素・再生可能エネルギー源から生成された電力に置き換えるための研究も行うとしている。さらにRosneftは炭素回収・利用・貯留(CCUS)のための地下貯蔵施設と枯渇したフィールド貯留層の高いポテンシャルを有しており、CCUSバリューチェーンの発展機会を齎すことを強調。もう1つの重要な分野として、二酸化炭素と比較してはるかに高い気候影響の可能性があるメタン排出削減を取り上げている。Rosneftは2019年以来、メタン排出量を削減するための包括的なプログラムを実施しており、さらにプログラムを拡大し、ドローン、レーザー及び熱画像スキャナー、超音波検出器等の革新的な技術の導入を進め、0.25%未満のレベルへのメタン排出原単位の抑制に貢献するとしている。その他、石油製品からの排出量をさらに削減するために、リテール市場でのCNG販売を拡大するプログラムを継続し、水素、バイオディーゼル、持続可能な航空燃料等の新たなクリーン燃料を製造する選択肢も検討する。二酸化炭素排出量を削減するためのもう1つの重要な方法として挙げているのが、天然の炭素吸収源である森林植樹である。Rosneftは年間平均100万本以上の植樹を行っており、既に森林による温室効果ガスの吸収に大きく貢献していることを宣伝。今回の気候目標では、ロシアの森林の炭素吸収ポテンシャルを開放し、排出量を相殺するための大規模な森林再生と森林維持プログラムを開発することも目指している。そして、2050年までに正味カーボンニュートラルを達成するための追加方策を模索していくことが謳われたが、あくまで模索していくというポジション表明に留まっている。

図2 Rosneftが公表した2035年に向けた気候目標(2020年12月21日)
図2 Rosneftが公表した2035年に向けた気候目標(2020年12月21日)

注1:2,000万トンの温室効果ガス排出の防止については、(直接・間接双方の)スコープ1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)及びスコープ2(他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出)を対象。つまり、スコープ3(スコープ1及び2以外の事業者の活動に関連する他社の排出)は対象としない。

注2:上流の排出原単位を30%削減についてもスコープ1及び2を対象。

注3:ゼロ・フレアリングは石油随伴ガスを対象

注4:ロシア国内資産のみを対象。

出典:Rosneft

 

前述の通り、既に秋口からRosneftの対応は気候変動対策よりは石油生産に重心が移っており、8月時点のような盛り上がりは見られないのではないか、という憶測を裏切らない気候目標の表明となった。アナリストはRosneftがロシアメジャーでは初めて同社の成長計画に固執した2035年炭素目標を設定したことを評価しつつ、欧米企業に比べて野心さに欠けるも、ロシア企業も気候変動問題における化石燃料に対する懸念を示し始めたと分析、一定の評価をしている。目標では自らのオペレーションから直接・間接に生じるスコープ1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス))及びスコープ2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)の排出を対象としている一方で、スコープ3(スコープ1・2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出))については対象としてない不完全さと、水素やバイオ燃料のようなよりクリーンなエネルギーの評価について短く触れられているだけに留まっている点に難があることを指摘している。

図3 サプライチェーン排出量(スコープ1+スコープ2+スコープ3)のカテゴリー
図3 サプライチェーン排出量(スコープ1+スコープ2+スコープ3)のカテゴリー
出典:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム

ところで2019年のRosneftのスコープ1・2の排出量はそれぞれ5940万トン・2180万トンと推定されており(IODによる。なお、BPは合計で5500万トン)、2030年までにRosneftはその30%を削減する目標となっている。他の見方をすれば、Rosneftの上流における排出量を2019年の27キログラム/BOEから19キログラム/BOEへ削減させる目標となる。低炭素石油生産のトップを走るサウジアラムコの現在の排出量は10キログラム/BOEと言われており、30%であったとしても他国営企業に比べて以前高い排出量目標となっていることになる。また、複数の欧米メジャーがコミットしている長期的なゼロエミッションについては、Rosneftは「2050年までに達成するための追加機会を模索する」としてコミットしていない。更に大株主であるBPが現在の生産量(日量260万バレル)を2030年までに40%、日量156万バレルまで減少させ、再生可能エネルギー開発目標を立てているのとは対照的に、Rosneftは石油生産を減少するのではなく、成長戦略として拡大する方針を明らかにするものだった。

この動きに対して、大株主BPが進めるドラスティックな方針との矛盾を突く論評が年明けから出始め、BP及びRosneftはその火消しに追われることになる。一部メディアに対してRosneftは、記事削除と謝罪広告掲載を求める訴訟に発展し、現在に至っている。1月6日、フィナンシャル・タイムズが口火を切り、BPは2019年にRosneftから7億8500万ドルの配当を獲得し、その投資から生じる23億ドルの税引き前利益を計上しているが、その一方でRosneftの石油生産量がBPの年間炭化水素生産量全体の約3分の1を占めていること、他方、Rosneft取締役も兼ねるルーニー新社長の下で出されたBPの新たなグリーン転換戦略の観点と、前述のRosneft幹部が主張する石油市場に齎すダイベストメントによる供給逼迫・価格高騰等の危機との方向性の違いを指摘。Vostok Oilプロジェクトの枠内でRosneftと共同出資するYermakneftegazを通じて、数十億バレルの原油埋蔵量を確保するために北極圏で探鉱開発を続けるBPは、今後持続可能なエネルギーグループとしてのブランド化に苦労するだろうと分析している。

このような外部からの指摘による企業イメージ挽回を図るべく、2月に入ってすぐにRosneftとBPは、炭素管理と持続可能性を追求する分野で協力することに合意し、戦略提携に署名したことを発表している。具体的には再生可能エネルギーの使用、炭素の回収、利用、貯蔵(CCUS)の機会及び水素の開発を想定した新しいプロジェクトを共同で調査する内容である。また、この中では水素ビジネスの発展に取り組むことが含まれており、BPと共に再生可能エネルギーを利用した水素生産プロジェクトの展望についての検討を行うとしている。このことはロシア石油会社において初めての取り組みとなることから注目される。これまでにロシアの石油ガス産業では、エネルギー戦略でも規定されたGazprom、そして、独自に自社の天然ガスソースを活用するNOVATEKが水素ビジネス、排出される有害物質の有効利用に関する新技術の開発に取り組む意向を示してきた。確かに現在のRosneftの天然ガス生産量(67BCM)はNOVATEK(75BCM)に次ぐ第三位の規模にあり、CCSを併用したブルー水素を生産するポテンシャルは十分にあると考えられる。また、水素を利用して、計画中のプロジェクトの枠内でのLNG生産・輸送の際のカーボンフットプリントを低減させるポテンシャルも有しているのも事実である。他方でフィナンシャル・タイムズの批判記事を受けて、付け焼刃・形だけBPとの協力を立ち上げた感は拭い切れず、BPとの戦略提携の具体的な内容が出て来るのかどうか進捗が注目される。

その手掛かりとなると期待されたのが、時宜を得て、投資家とアナリスト向けに3月初旬にRosneftが企画した2035年に向けた炭素管理計画のプレゼンテーションイベントであった。その要点を次の通り紹介する。

  • 2035年の炭素管理計画では上流の排出量を30%削減し(スコープ1及び2)、二酸化炭素排出量を2,000万トン削減。随伴ガスフレアをゼロにし、自然の二酸化炭素吸収源(森林等)を開発することを想定。
  • 2,000万トンの排出削減はRosneftの将来成長での排出と既存の排出削減の組み合わせで実現(2019年現在8,100万トン)。
  • 上流排出量の30%削減と二酸化炭素排出量の2,000万トン削減は、エネルギー効率プログラム、ガス利用プログラム、随伴ガス再注入、再生可能エネルギー導入、独自の風力発電、ブルー水素プログラムによって実現すると想定。また特定されていない新技術を通じて、さらに追加2,000万トンの二酸化炭素排出量を削減する可能性を指摘。
  • 2017年以降、随伴ガスフレアは55%削減された。再注入及び有効利用プログラムを通じてこれを継続することを目指す(ヴァンコール、ヴェルフネチョン、ユルブチェンで圧入を既に実施)。
  • Vostok Oilプロジェクトでは風力発電プロジェクトを検討中。再生可能プロジェクトはロシア南部のSS、インド・ナヤラエナジーでの太陽光発電ユニット設置している。
  • Vostok Oilプロジェクトは、Rosneftがベストプラクティスを活用し、ゼロ・フレアリングを目指す。その排出レベルはバレル当たりわずか0.012トンの二酸化炭素 (世界のグリーンフィールドプロジェクトでは平均0.05トン)。
  • Rosneftは、スコープ3の排出量も検討している。Vostok Oilプロジェクトは硫黄含有量が低く、水素化処理(二酸化炭素を大量に消費する精製プロセスの1つ)に対して、精製所での排出量削減に有利。
  • ロシアの森林(11〜59億の二酸化炭素の炭素吸収源として機能する可能性がある)のポテンシャルと独自の森林再生プログラム(10〜20百万トンの潜在的なオフセットについて言及)も検討。
  • 会社はBPと協定を結んでおり、炭素の回収、利用と貯蔵、森林プロジェクト、メタン排出防止などの協力を想定している。
  • 省エネプログラムでは2014~20年の間で390億ルーブルと4.5石油換算トンの省エネを達成。2022年の戦略では、森林プログラム(300万本の木が既に植えられている)とグリーン投資(1,700億ルーブルが費やされている)を想定している。

 

プレゼンテーションイベントへの招待者はRosneftの資金調達先である金融機関・投資会社がメインであり、現在市場に蔓延する脱炭素の流れに後ろ向きなRosneftの印象を払拭する意味があった。しかし、プレゼンテーションの内容は、結論から言えば、12月に出された戦略を覆すことはなく、非野心的な目標は堅持しつつ、プラスアルファとして大株主BPの戦略と体面を保つべく、Rosneftとしても脱炭素に向けた努力はしていくということを示すものだった。低炭素の先にカーボンニュートラルの達成の可能性も指摘するが、「検討」に留まり、全般的に具体的な方法に対する根拠に欠ける。その根拠のひとつとして、ロシア政府も注目する持てる資産である森林吸収(後述)に期待を寄せていることも注目された点となった。

 

(2) LUKOIL:脱炭素化の程度に応じた石油需要シナリオを作成。長期戦略は2022年春公開か。

フェドゥン副社長を気候変動担当副社長に任命。脱炭素に向けた情報公開は進める一方で、性急な脱炭素化には慎重な姿勢を貫く。ロシアの石油会社は代替エネルギー技術を開発するという高額で意味のないことに没頭するより、森林吸収とCCSに注力すべきと断言。二酸化炭素排出量を相殺することが、世界最大の森林地帯を有するロシアでは可能であり、2025年までに炭素貿易システムを導入して欧州に対抗すべき、としている。

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過去にはConoco Philipsが20%を出資し、ロシア石油会社の中では最も欧米企業スタンダードでの情報公開・経営戦略を有するという見方もあるLUKOILだが、脱炭素に向けた動きでは情報公開は進める一方で、慎重な姿勢を貫いてきた。

LUKOILは2002年9月に同社の温暖化ガス排出量を国際基準で公開する体制整備を完了したことを発表した。このことは、ロシアの石油生産者が他の国の生産者の努力に遅れを取りながらも、気候問題に対してより大きな注意を向け始めていることを示す動きと捉えられた。LUKOILは所謂スコープ1排出量について、2016年から2019年の比較で、ガス生産量の増加にもかかわらず(筆者注:18BCM→34BCM/但し原油生産量は94百万トン→85百万トンへ減少している)、2016年排出量の4,170万トンから3,982万トンに削減。減少の主な原因は、随伴ガス活用プロジェクトの増加の結果によるものとしている。2019年のスコ-プ 2排出量は864万トンで、社内発電の開発と省エネプログラムの実施を反映して、2016年のレベルから17%減少。ロシアの企業は、排出量の削減と低炭素エネルギーへの多様化の点で、BPやShellなどの国際企業よりもはるかに遅れているが、投資家が環境パフォーマンスをますます重視しているため、この問題はますます重要になっていると市場アナリストは分析している。

写真2 フェドュン副社長

10月には、取締役会はフェドゥン副社長を気候変動担当副社長に任命。気候変動問題のガバナンスシステムを強化する一環として、戦略・投資・持続可能性委員会の機能と名前を戦略・投資・持続可能性・気候適応委員会に改名し、それぞれの機能と目的も改訂した。同副社長は既に気候戦略を承認することを計画していると発表してきた。また、その目標は2050年までにゼロ炭素排出量を達成することであるとも述べてきた(しかし、ゼロ排出量はまだ目標には表れていない)。

図4 LUKOILの主要企業指標の推移
図4 LUKOILの主要企業指標の推移
出典:年次報告書から筆者取り纏め

フェドゥン副社長は、油価下落時の政府対応への警鐘や今後のロシアの生産見通しについて悲観的な意見を憚りなく言うことで有名だが、脱炭素に関する国際動向に対しても実利的な意見を述べている。「ロシアは2025年までに炭素貿易システムを導入するべきである。それにより欧州の炭素調整システムとのオフセットが可能となる。また、ロシア政府は第一に森林吸収容量をしっかり測定するべきである。20年前の研究では、EUが要求する4分の1に当たる二酸化炭素・5,000万トンを森林が吸収することができるとされていた。既にデータが古い。LUKOILはCCSプロジェクトも推進し対応していく。ロシアの石油会社は代替エネルギー技術を開発するという高額で意味のないことに没頭するより、森林吸収とCCSに注力すべき。5%の利益率という代替エネルギービジネスに、15%という石油開発産業の現状から変更する必要性は見出せない」。また、2021年3月には、同副社長は森林吸収の重要性を繰り返し、二酸化炭素排出量を相殺することが、世界最大の森林地帯を有するロシアでは可能で、8,000万ヘクタール、さらに約2,000万から3,000万ヘクタールの炭素農場を開発することができるだろうとも述べている。

さらに同社のアレクペーロフ社長は、3月に脱炭素化のさまざまな目標に応じて世界の石油需要に関する可能なシナリオを想定した結果を発表した。3つのシナリオから成り、「進化シナリオ(Evolution Scenario)」は、各国が温暖化ガス排出量に対するそれぞれの気候変動への取り組みを果たす前提で、石油需要は2035年にピークを迎え、日量1.05億バレル(参考:0.95億バレル@2019年)となる。その場合、世界の気温は2.6度上昇する。同社長は「このシナリオはパリ協定の目標を達成することはできないが、今日最も現実的であるように考えている」と述べている。また、「均衡シナリオ(Equilibrium Scenario)」は、再生可能エネルギーの成長が加速し、気候目標とエネルギーの利用可能性のバランスが均衡することを前提とするもので、「このシナリオは地球の気温が1.5〜2°C上昇するシナリオであり、世界中の気候規制の積極的な成立と準備が必要である」としており、2030年にピーク石油需要である日量1億バレルに達し、世界の気温は1.8度上昇する。3つ目の「変換シナリオ(Transformation Scenario)」では、世界のエネルギーと産業の急激な変化を想定しており、世界の気温の上昇は1.5度に抑制される。ピーク石油需要は2025年に日量0.99~1億バレルなる。なお、新規プロジェクトへの十分な投資が不足しているため、今後5年間で原油供給不足が顕在化するリスクがある。これは価格の変動につながり、世界経済の成長ダイナミクスに悪影響を与える可能性がある。化石燃料の生産を性急に拒否することは不可能であり、リスクを伴うと警鐘を鳴らしている。また、LUKOILがこれらシナリオをベースにエネルギー転換を考慮した会社の長期戦略の更新に取り組んでおり、それは年内に策定され、2022年の春に公開される予定であることを示唆している。

 

(3) NOVATEK:2020年に8月に環境・気候変動目標を公表。2022年長期戦略をリバイス予定。

ロシア企業の中では、最も脱炭素、CCS、水素分野(アンモニア輸送を含む)への関心・実現に向けたベクトルが強い。その背景には水素エネルギー開発においては政府の枠組みからは良くも悪くも漏れ、自由に、経済合理性に従って現在のLNGに加わる新たな商品であるカーボンニュートラルLNG及び水素を追求すべく、独自路線を矢継ぎ早に出し、プロジェクト実現に邁進している。

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Gazpromに次ぐロシア第二位の天然ガス生産企業であり、パイプラインではなくLNGに特化し、ロシアの天然ガス輸出戦略実現の一角を成すNOVATEKは、現在水素の8割弱が天然ガスから生産されているのにも関わらず、昨年ロシア政府が発表した2035年までの長期エネルギー戦略及び追って発表された2024年までの水素開発ロードマップではNOVATEKは一切言及されず(10月の独露新エネ協力ではノヴァク・エネルギー大臣(当時)から水素分野で言及あり/後述)、水素エネルギー開発においては政府の枠組みからは良くも悪くも漏れ、独自の路線を矢継ぎ早に出している。

まず、2020年8月25日、NOVATEK取締役会は2030年までの環境目標を承認し、公開した(図4参照)。温室効果ガスと大気汚染物質の排出を削減し、企業活動における化石燃料(石炭、燃料油及びディーゼル)を天然ガスに置き換えることが柱となっている。また、将来的な世界のエネルギーミックスにおける天然ガスの役割について、再生可能エネルギーからのエネルギー供給の不足分を補いながら、エネルギー転換における従来の化石燃料に代わる低炭素エネルギーとして重要な役割を果たすことを強調している。

図5 NOVATEKが公表した2030年までの環境及び気候変動目標(2020年8月25日)
図5 NOVATEKが公表した2030年までの環境及び気候変動目標(2020年8月25日)
出典:NOVATEKプレスリリース

9月には、ギャトヴェイCFOは「メタンからの商業的水素製造の可能性を検討している。NOVATEKには大規模な水素プロジェクトの可能性を探究するのに十分なガス資源がある。天然ガスから炭素回収と貯留を組み合わせて水素を生産するブルー水素は、ガスを脱炭素する効率的な方法と考えている。NOVATEKはこれまでガス生産とLNG輸出に焦点を合わせてきたが、現在は水素についても検討している」ことを明らかにした。

また、10月にはNOVATEKがMethane Guiding Principles Initiative(生産から最終消費者までの天然ガスサプライチェーン全体での行動の優先分野に焦点を当てた、業界と非業界組織間の自発的な国際的な複数の利害関係者のパートナーシップ)のメンバーになったことを公表。ギャトヴェイCFOは、「エネルギー生産ミックスに天然ガスが多く含まれているため、NOVATEKは既に世界の石油及びガスセクター全体でも温室効果ガスとメタンの排出原単位が最も低い企業の1つである。天然ガスは環境的に持続可能な未来と大気へのメタン排出の削減のための唯一の最も重要で費用効果の高い方法である」と述べている。また、NOVATEKはグリーン電力を使用して水素を生成するために、ヤマル半島とギダン半島、カムチャツカ・ムールマンスクのLNG積替えターミナルの近くに風力発電所を建設することを検討していることが報じられた。コメルサントによれば、NOVATEKがブルー及びグリーン両方の水素の生産を検討しており、Repsolとの最初の協議を行ったという報道も出ている。

図6 NOVATEKの主要企業指標の推移
図6 NOVATEKの主要企業指標の推移
出典:年次報告書から筆者取り纏め

さらにミヘルソン社長は、NOVATEKがヤマル半島北西部でCCSプロジェクトを実施する予定であり、「今年、NOVATEKは2030年までの追加の戦略的環境目標を策定することを約束する。そのような取り組みの1つに、ヤマルで実施する予定のCCSプロジェクトがある。30〜40年以内に水素が重要なエネルギー源になる」と指摘している。そして、「NOVATEKは共同水素プロジェクトを実施するためにパートナーを招待する。今後30〜40年で、水素は重要なエネルギー源になり、エネルギーバランスでそのシェアを増加すると確信している。日本の水素エネルギー関連会社は現在市場をリードしている。日本には既に燃料供給インフラがあり、水素燃料自動車は連続生産されている。水素輸入技術がテストされており、水素を受け取るターミナルが立ち上げられている。水素は世界のエネルギー開発の次のステップ。水素を生成する最も安価な手段は天然ガスの水蒸気改質だが、水素を生成するための新しい技術は、ガスと水の電気分解の両方から出現している。NOVATEKは現在、自社のニーズに合わせて水素を生産しており、その施設で有望な市場向けに水素の生産を設定するためのソリューションも開発している」と将来的な供給先として日本に言及しながら水素生産を実現していくことを表明した。

ギャトヴェイCFOは、「水素についてはまだその商業的および経済的実行可能性を評価しており、しばらく時間がかかるだろう。ウスチ・ルーガで水素分解装置新設を計画しており、国内消費にまず充てる予定である。ヤマル半島でのCCS及び再生可能エネルギー開発についても研究しているところ。NOVATEKの焦点は、将来のLNGプロジェクトを通じて、現下で進もうとしている『エネルギー転換』のリーダーになることである。2030年までにLNG生産量を最大7,000万トンに増やす予定。現在の石炭需要をLNGに置き換えることで、1億7,000万トン以上の二酸化炭素排出量を削減することができる」と述べた。ここで述べられたウスチ・ルーガでの水素分解装置は、2021年末から2022年初頭に稼働させる予定で、減圧軽油を原料として、高温高圧の水素ガス環境下での触媒反応により、良質なナフサ、灯油、ジェット燃料、軽油または高級潤滑油を得るプロセスのことであり、水素化分解は多量の水素を消費するため、付帯設備として水素製造装置を必要とすることから、石化プロセス・製品化の一貫として水素を調達する一環と考えられる。高温・高圧であるため建設費、運転費ともに高いのが難点である特徴がある。

2020年12月に入ると、脱炭素に向けた実際の動きが加速し、実現し始める。まず、ロスストック(ドイツ)で最初のカーボンニュートラルのLNG燃料補給所を立ち上げたことを発表。12月10日にはNOVATEKが独ジーメンスとLNGを脱炭素させるための戦略パートナーシップ協力協定を締結したことも明らかにし、LNG、電力及び水素生産におけるカーボンフットプリントを削減させる高技術開発と実現を目指し、電力及びLNG生産において使用されている天然ガスを炭素中立な水素に代替するためのプロジェクト実現を開始することを表明した。また、実際にNOVATEKがロシア初となる産業水素発電プロジェクトを開始したことも明らかになった。これは二酸化炭素排出量削減計画の一環として、ヤマルLNGプラントに電力を供給する発電所のジーメンス製ガスタービン(SGT-800)8台のうち1台を更新し、コンバインドサイクル発電の燃料中の水素の割合を最大60%に拡大する計画である。

また、CCSプロジェクトについては10月に既にヤマル半島において具体的プロジェクトの実施を計画していることが発表されていたが、ギャトヴェイCFOは2022年に開始される可能性があるとして、「NOVATEKはこの地域の地質をよく理解しており、二酸化炭素圧入と貯留に十分適した層があることは確かだが、圧入量とこのプロセスの経済性の問題はまだ解決されていない」と説明している。その後、2021年3月には2022年初頭までにCCS事業におけるFIDを目指している一方、ロシアには炭素注入を監督する法的基盤がないため、規制プロセス構築に取り組むことを表明した。

それに先立つ2021年1月にはNOVATEKと独Uniperが、Uniperが保有するロシア及び欧州発電所への供給を含む水素バリューチェーン開発の可能性を調査・アセスするMOUを締結(対象はブルー水素及びグリーン水素)している。

さらに、ミヘルソン社長は、NOVATEK独自の液化技術(アークティック・カスケード)を用いたパイロットプロジェクトである、ヤマルLNG第四トレイン(90万トン)について既に試運転を終えており、数週間以内に商業生産を開始する予定であることを発表すると共に、2021年に同施設での水素化分解装置の建設も完了する予定であり、2022年の第1四半期の終わりかそれより少し後に生産を開始する計画であると述べている。

長期戦略については、2017年に策定された現在の戦略について、NOVATEKは2022年炭素排出削減目標を含む長期戦略をリバイスすることを発表している。

4月下旬には新たな情報として、ミヘルソン社長は「ヤマル半島サイトで水素輸送の手段として年間220万トンのアンモニア生産を検討している。(同氏が主要株主でありNOVATEKと関係の深い)シブールはメタノール生産を研究していると共に、NOVATEKはアンモニア生産を研究しており、これは両者の共同プロジェクトになることもあり得る。既に電力業界ではアンモニアが燃料として使用されている。日本市場からの注文もある。また、(ヤマルLNGプロジェクトでの)発電量の30〜40%を水素に変換することを検討している。そして、アンモニア生産についてはそれぞれ110万トン生産容量のプラントを2トレイン建設し、合計で220万トンを段階的に達成する。2022年前半にこれに関する投資決定を行う予定である」と述べている。但し、このアンモニアまたはメタノール生産計画が遅延するオビLNGプロジェクトの代替策であるかどうかは言及していなかった。

 

(4) Gazprom:新たな長期的な炭素戦略に関する情報はなし(2018年戦略を踏襲/表1参照)。

天然ガスからの水素生産では、新たなCAPEX投下が少なく、二酸化炭素排出量の少ないメタン熱分解(ターコイズ水素)に注目。パイプラインという既存インフラ保有による優位性の一方で、水素生産は需要地で行った方が、経済性が良いことも認識。S-2の繋がりからShellと戦略提携を推進。大西洋貿易では初めてとなるヤマルLNGカーゴをカーボンニュートラルLNGとしてShell(英国)へ販売する等関係強化。

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NOVATEKや他石油会社とは対照的に、欧州向け水素輸送に適したパイプラインインフラと莫大な天然ガス資源を有するGazpromも長期エネルギー戦略を受けて、ガスの有効利用の方法として水素を検討し始め、アクチューシン技術担当副社長も「昨年のパリ協定発効と世界市場でのGazpromの競争力を高める必要から水素が重要な優先事項になった」ことを明らかにしている。

図7 Gazpromの主要企業指標の推移
図7 Gazpromの主要企業指標の推移
出典:年次報告書から筆者取り纏め

2020年10月、コメルサントはGazpromが特にメタン熱分解の将来性の高さに着目しており、「メタン熱分解は二酸化炭素排出を伴わない技術であり、その貯蔵設備を建設する必要もない。そして、副産物として得られた水素は、恐らく、個別のビジネスの対象になり得るであろう」との見解を紹介している。Gazpromの複数の子会社は年間合計で約35万トンの水素を生産しているが、その大半がアンモニア、メタノール、自動車用燃料の生産のために利用されている。また、Eurogas協会のワトソン会長は、「現在建設中のNord Stream 2は将来、天然ガスだけでなく水素も輸送することになるだろう。そして、その割合が輸送総量の最大80%に達する可能性もある」と述べた一方で、Gazpromは、「天然ガスを原料とする水素もしくはメタン・水素燃料に関しては、大口需要家に隣接するエリアで生産することが望ましい。大口需要家とは、例えば、冶金工場であり発電所である。つまり、パイプラインでは純粋な天然ガスだけを輸送することが経済的・技術的に望ましい」との見解を示している。Gazpromも、「水素は二次エネルギーであり、生成に追加的エネルギーを必要とする。一方、天然ガスは既に現時点で経済の低炭素化に一定の貢献をしており、そのポテンシャルはまだフルに活用されていない」と、ロシア国内で水素を生産し輸送するよりも、天然ガスを需要地で水素転換する方が合理的との認識を示したことを紹介している。

ブルミストロヴァGazprom Export社長(兼)Gazprom副社長は、Gazpromが水素プロジェクトを共同で進めるパートナーシップを欧州企業と協議していることを明らかにし、イシュコフGazprom輸送副部長は、Gazpromがドイツ・グレイフスワルトでNord Stream経由の天然ガスから水素を生産するプロジェクトを検討しており、現在社内に水素を扱う新たな部署を設置したことを報告した。2020年12月1日・独露資源フォーラム水素会議が開催され、同部長はガスプロムが水素発電プロジェクトのために「ガスプロム・ヴォドロド(水素)」という専門の子会社を設立したことを紹介し、さらにドイツのNord Stream及びNord Stream 2パイプラインの揚陸地点付近にメタンから水素を製造する大規模プラントを建設することも計画していることを表明した。「ロシアから欧州へのパイプラインによる水素供給の可能性もあり、メタン変換のような従来の安価な方法で水素を製造する場合には既存のパイプラインインフラにより二酸化炭素をロシアにリバース輸送しCCS等を活用する可能性がある。現在、Gazpromは自社の施設で年間36万トンの水素を製造している。2021年以降、同社は潜在的顧客に約1万トンの水素を輸出することができる」との発表を行った。

2021年3月に入ると具体的な動向として、GazpromがヤマルLNGから供給されたカーボンニュートラルLNGを英国・Shellのドラゴン・ターミナルへ販売したというニュースが流れた。Gazpromによれば大西洋海盆における最初のカーボンニュートラルLNGのデリバリーとなる。LNG Megrez船(174,000立方メートル)が2月下旬にARC7砕氷LNGタンカー「ニコライ・ズーボフ」号(172,600立方メートル)からムールマンスク沖合の洋上積替えを経由して輸送したもので(GazpromはヤマルLNGとの間で年間290万トンの供給契約を有している)、ShellとGazpromは炭素基準(VCS:verified carbon standardsとCCB:climate, community and biodiversity)による排出量認証に基づいて、ドラゴン・ターミナルでの抽出から配送にかかる炭素排出量を相殺したと発表している。また、その直後、Gazprom及びShellが温暖化ガス排出削減のための戦略協力協定に署名した。期間は5年間で、エネルギー市場の分析、プロジェクト立ち上げ及びデジタル技術における協力に重点を置くものとなっている。

3月18日、Gazprom経営委員会は、水素の生産と利用及び既存のガスインフラを使用した水素とメタン・水素混合物の輸出における問題の現状を確認したことを発表。水素は二次エネルギー源であり、水素を生成するために追加のエネルギーが必要であり、それが原価に影響を及ぼすことや現在進む海外のプロジェクトのほとんどは、国の補助金と援助によるものであることを指摘している。「現在、Gazpromはさまざまな技術で年間35万トン以上の水素を生産しており、水素エネルギーの分野で独自の技術力を蓄積することが重要。また、水素をエネルギー源として使用するためのいくつかの重点分野を検討しており、企業の生産活動におけるメタン・水素燃料の利用のための革新的な技術の開発、ゼロ排出量を達成するべく、メタンから水素を生産するための革新的な技術の開発及び水素輸送(とりわけ輸出)の開発が挙げられている。これら技術の大規模な開発は、水素生産の原料としての天然ガスの追加需要を生み出すだろう。」と結論している。

4月21日にも経営委員会で水素の生産と利用、水素とメタン水素混合物の輸出について、同様のレビューが行われている。要点は、(1)最近では、多くの国が水素エネルギーを国の低炭素開発戦略の実施に不可欠な分野と見なしている。(2)ただし、水素は二次エネルギー源であり、水素を生成するには追加のエネルギーが必要。これは原価に影響を及ぼす。(3)現在進む外国プロジェクトのほとんどは、国の補助金と救済によって資金提供されており、今日、「エネルギー」水素の共通の世界市場はない。(4)現在、Gazpromグループの施設では、さまざまな技術で35万トン以上の水素を生産しており、それを利用してさまざまな製品を生み出していいる。(5)Gazpromは、天然ガスの独自の特性、すなわち環境への配慮とコスト効率を利用して、水素エネルギーの分野で独自の技術力を蓄積することが重要。(6)Gazpromは水素をエネルギー源として使用するためのいくつかの技術開発分野を検討している。生産活動におけるメタン水素燃料の利用のための革新的な技術開発、水素輸送方法とともに排出量ゼロでのメタンから水素を生産するための革新的な技術開発。特に輸出を前提。これら技術は、水素生産の原料としての天然ガスに対する追加の需要を生み出すだろう、と3月の内容と重複する内容となっている。

 

(5) その他企業の動向

上記Rosneft、LUKOIL、NOVATEK及びGazprom以外では、昨年から現在までロシアの石油ガス会社で世界的な潮流である気候変動対策や炭素戦略について表明を行った会社は、Gazprom Neft及びTatneftの2社に留まっている。

1. Gazprom Neft:戦略を見直すことを表明するも化石燃料増産目標は継続。

2020年12月、Gazprom Neftのデューコフ社長は、現在のスコープ1及び2だけでなく、3も視野に入れた戦略を見直すことを表明している。但し、新エネルギー開発よりもむしろ石油ガス開発は焦点にあり、よりクリーンで効率のよい開発を目指していくもので、OPECプラス協調減産が無くなれば、生産目標である日量200万バレル(2019年は日量127万バレル)拡大達成を目指すことを明らかにした。

2. Tatneft:2050年までに炭素中立を目指す計画を発表したロシアで最初の石油ガス企業に。但し中期的に化石燃料増産は否定せず、炭素中立に向けた具体的な方策は不明確。

Tatneft取締役会も2020年12月、環境対策に応じた戦略の改訂を取締役会が支持し、2021年内の新戦略策定を目指すことを発表した。また、2021年2月には2050年までに炭素中立を目指す計画を発表し、ロシアで炭素中立の方針を最初に明らかにした石油ガス企業となった。

具体的に言うと、2月2日、TatneftはWWF、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトによる共同イニシアティブであるInternational SBTi(Science Based Targets initiative)に参加したことを公表し、温室効果ガス排出量の削減とSBTi基準の観点からの脱炭素化に関する科学に基づく目標を今後2年以内に策定し、採用することを明らかにする等、ロシア石油ガス企業としては初めて欧米メジャーをさらに超えるような勢いで、炭素中立に邁進する姿勢を示している。

図8 Gazprom Neft及びTatneftの主要企業指標の推移
図8 Gazprom Neft及びTatneftの主要企業指標の推移
出典:年次報告書から筆者取り纏め

 

表1 ロシア石油ガス会社各社の脱炭素・気候変対策・ESGに関する目標及びポジションの比較(2021年4月現在)

表1 ロシア石油ガス会社各社の脱炭素・気候変対策・ESGに関する目標及びポジションの比較(2021年4月現在)1

表1 ロシア石油ガス会社各社の脱炭素・気候変対策・ESGに関する目標及びポジションの比較(2021年4月現在)2
出典:筆者取り纏め

3. ロシア政府の気候変動対策に対する動き

(1) エネルギー戦略全般

2020年6月に11年ぶりに長期エネルギー戦略を改訂したロシアだが、そこでは化石燃料については表2の通り、生産を維持・継続、特に天然ガスについては拡大していく方針が示されている。また、気候変動への対応に至っては、温室効果ガス排出量は1990年比で半減しているとし、既に気候変動問題へロシアとして対応してきたことを示しながら、世界の潮流とは一歩下がった対応に留まっていると言える。

 

表2 「ロシアにおける2035年までのエネルギー戦略」におけるポイント(抜粋)

表2 「ロシアにおける2035年までのエネルギー戦略」におけるポイント(抜粋)
出典:政府発表文書からJOGMEC取り纏め

(2) 水素エネルギー開発に向けた動き

他方で、新たに盛り込まれた水素エネルギーについては、政府が主導し、その生産拡大に向けた研究・技術開発に力を入れていくことを表明している。この背景には第一義に気候変動対策というわけではなく、石油天然ガスに代わる又は加わる高付加価値商品の開発を進め、石油ガス産業収入を多様化させる意図がある。

ミシュースチン首相は、2020年7月に草案が出ていた「2024年までのロシアの水素エネルギー開発計画」を10月に正式承認したのを受けて、「この計画では、水素生産施設を建設し、世界市場のこの有望な分野における国内企業の地位を強化するために、規制枠組みの策定、技術研究及びプロジェクトに対する国家の支援を規定。化石燃料からの段階的な離脱は世界的な傾向になっている。多くの国が現在、水素を含む代替エネルギーを開発するプログラムを実施している。エネルギー資源の需要構造は変化している。エネルギー輸出国であるロシアはこれを考慮に入れなければならない。水素エネルギーの分野では、とりわけヨーロッパとアジアの水素市場に近接しており、ロシアが有する水素資源、強力な技術と生産は大きな可能性を秘めている」と述べている。また、「メタン水素燃料で稼働するガスタービンや鉄道輸送、二酸化炭素を排出せずに水素を製造するユニットの開発等、パイロットプロジェクトを支援する。新産業のための優秀な労働者の訓練に特別な注意が向けられる。政府の計画は、石油・ガス産業と原子力発電所で水素の試験的低炭素生産を実施する。GazpromやRosatomに加えて、サンクトペテルブルク鉱山大学(プーチン大統領の博士課程指導教官だったリトヴィネンコ氏が学長を務める)が、ロシアが環境に優しい水素サプライヤーとして海外での位置づけを確立するキャンペーンを組織・監督する予定である」ことを明らかにした。この中では前述のNOVATEKについての言及はない。

ロードマップに従えば、今後水素エネルギーを支援するための一連の政策が策定され、必要な法的及び研究基盤が形成される。2021年には水素エネルギー開発コンセプトを選定し、プロジェクトのためのオフィスと部門間ワーキンググループを設立。パイロットプロジェクトをサポート、水素の輸出を促進し、有望な技術開発を進める。パイロットプロジェクトには、メタン水素燃料を使用するガスタービン、鉄道輸送のプロトタイプ、二酸化炭素を排出せずに水素を生産するための設備が含まれている。並行して、水素の生産、貯蔵、輸送に関する研究を実施する。また、規制を緩和し、人材育成を進める。一連の措置の実施により、生産性の高い輸出志向の産業を創出し、高度な資格を持つ専門家と適切なレベルの科学的支援を提供することが可能になる。具体的なスケジュールは表3の通りである。

 

表3 2024年までのロシアの水素エネルギー開発計画・今後の推移
2020年~2024年 水素の生産国及び消費国(ドイツ、日本、デンマーク、イタリア、オーストラリア、オランダ、韓国、その他の国)との二国間協力の提案の準備
2021年~2024年 水素の生成、輸送、貯蔵のためのエネルギー効率の高い国産技術の開発、ガス発電設備及び輸送モーター燃料としての水素及びメタン水素燃料のテスト
2021年第一四半期 水素エネルギー開発概念の策定、省庁間ワーキンググループの形成、パイロットプロジェクトの実施のための国家支援手段の開発などの計画や支援策の準備
2022年第一四半期 水素エネルギーの分野における優先パイロットプロジェクトのリストの特定
2022年第4四半期 メタン水素混合物の生産、輸送、貯蔵及び使用の標準化の分野における外国との協力
2023年 炭化水素処理施設または天然ガス生産施設での低炭素水素生産のためのパイロットサイトの作成、原子力発電所で水素を生産するためのパイロットプロジェクトの実施
2024年 二酸化炭素を排出しない水素を生産するパイロットプラントの建設、メタン水素燃料で作動するガスタービンの開発・製造・テスト、水素鉄道輸送のプロトタイプの作成

出典:ロシア首相府から筆者取り纏め

2020年11月には、ロシアで水素エネルギーを研究する六つの教育・科学機関が、自動車向けなどの水素技術の開発に向けたコンソーシアム「テクノロジック水素バレー」の結成で合意した。トムスク工科大学、ロシア科学アカデミー・シベリア支部ボレスコフ触媒研究所、化学物理学問題研究所、トプチエフ石油化学合成研究所、サマラ州立工科大学及びサハリン国立総合大学が参加している。今後、関連する大手企業と協力し、水素の生産から貯蔵、安全な使用に至るまでの技術の共同研究開発に取り組む。12月に初の科学会議を開催する予定であることが発表された。

この4月には、ソローキン・エネルギー省次官が、ロシアは2035年までに世界の水素取引の20~25%のシェアを達成することを計画していることを明らかにした。目標は世界の水素貿易の20~25%を獲得することにあり、この目標を数値で評価することは依然として困難だが、低いシナリオでは2035年に100万~200万トン、アクティブなシナリオでは最大700万トンになる可能性がある(昨年6月に承認された政府のエネルギー戦略では2024年に20万トン、2035年に200万トンの水素輸出を想定している)と述べている。楽観シナリオではロシアは2024年に100万トン、2035年に700万トンを輸出している見通しとなる。

また、経済発展省は独立した水素生産者にGazpromの天然ガス輸送システムへの直接アクセスを与えることを提案している模様との情報が出ている。水素が天然ガスと混送されることを想定しており。水素を輸送するために別のシステムを構築する必要がなく、輸送コストを大幅に削減できるメリットがある。また、幹線ガスパイプラインの近くに水素施設を建設できるように、2022年12月までに法改正を導入する予定。他方、エネルギー省は、水素が天然ガスよりもはるかに高価であり、混合された後どのように抽出されるか不明であると懸念を表明しており、Gazpromは本件についてコメントを控えている。アクシューチン技術担当副社長は3月に、既存のガス輸送ネットワークに水素を追加すると、組成、品質、価格が変化し、既存のガスパイプラインインフラストラクチャを介した水素の供給がガスプロムの契約輸出価格の変更と輸出契約上の義務違反の可能性を示唆していた。

 

(3) パリ協定に基づく温暖化ガス排出量を設定とその対応戦略策定に向けた動き

化石燃料の生産維持を掲げ、水素生産を新たな商機と捉える戦略が動き出した矢先、プーチン大統領は2020年10月下旬、「ロシアの石油ガス会社はパリ協定に従い、さらに『グリーン』になるべく、脱炭素に無向けた投資をせざるを得ない。また、ロシアは代替エネルギー源の開発を真剣に検討する状況にある。一方で安価で豊富な石油ガスの開発は継続する」と若干の軌道修正、又は国際社会に対してのスタンドプレイに思えるコメントを出している。その直後の11月初旬にはロシア政府が排出量削減ターゲットを決定したことが発表され、プーチン大統領のパリ協定に基づくという発言はその前振りだったことが分かる。ロシア政府はパリ協定を順守し、温暖化ガス排出量削減に関する法律(政令第666号)に署名した。ベースは1990年比となっており、ソ連解体によりGDP及び排出量が減少した時期と一致する。その後GDPは回復したが、排出量はソ連時代に比べ、かなり低いレベルとなっている。また、ロシアは広大な森林による二酸化炭素吸収を計算に入れており、その実現ハードルは決して高くない目標設定となっている。新法令では温暖化ガス排出量をこれまでの25〜30%の範囲ではなく、30%の削減目標を想定。国連のデータに基づくと、ロシアは現在森林に吸収された炭素を含めれば今回の排出削減目標は特に野心的であるとは見なされない。このタイミングが、米国トランプ政権によるパリ協定からの正式撤退手続きが完了したのとほぼ同時だったことも奇妙な偶然だった。また、プーチン大統領はロシア政府に2050年までにロシアが気候中立な社会経済発展するための戦略を策定するように指示を出している。

年が明けて、ノヴァク副首相が2021年内に温暖化ガス排出削減戦略を発表する予定であることを表明した。また、2月にはプーチン大統領が2021年~2030年の環境分野の開発と気候変動の分野で連邦プログラムを策定するよう政府に指示を出すべく、「生態学と気候の分野における連邦の科学技術プログラムを開始する法令」に署名。プログラムの目標は環境安全保障を支援し、環境の状態を改善し、気候変動問題の解決に効果的に貢献する国内技術を開発し、実施することにあるとしている。政府は同プログラム開発、承認、科学集約型の技術ソリューションの開発を6カ月以内に規定する必要がある。

気候変動担当のエデルゲリエフ大統領顧問は、「ロシアは脱炭素化の取り組みを集約化しなくてはならない。いくつかの企業は気候変動中立目標を発表しているが他は遅延しており、野心的な目標を要請する。ロシア政府は2050年までの低炭素戦略と法整備について依然承認していない。排出権取引メカニズムも含め、ほとんどのエネルギー企業は政府の方針と抗している。民間企業ではLUKOILがゼロエミッションについて真剣に検討している企業のひとつだが、依然移行戦略は明らかではない(現時点でも発表には至らず、宣言したのは実現方策が明らかになっていないTatneftに留まる)。ロシアはサハリン島で2025年までに炭素中立を達成するプロジェクトや2022年中葉に炭素取引を実現することを拡大するべきである」と述べ、ロシア企業の対応の遅さを批判した。

また、ロシア政府は国内の二酸化炭素排出量削減に関する法律を検討しており、ソローキン・エネルギー省次官はサハリンにおけるカーボンニュートラルパイロットプロジェクト(後述)を参考にしながら、ロシアが全国的な二酸化炭素排出取引システムを立ち上げていくと述べている。

4月、ノヴァク副首相は、現在ロシア政府が「新エネルギー(New Energy)」と呼ばれる戦略策定に取り組んでいると公表した。気候変動への対応と燃料エネルギー産業によって排出される炭素排出量の削減に焦点を当てるもので、いつ公開されるかを特定しなかった。これと並行して、ソローキン・エネルギー省次官は同省が新戦略の一環で、ロシアの水素産業開発コンセプトの起草にも着手したと述べている。

また、レシェトニコフ経済発展大臣は、「ロシアは2022年に温暖化ガス排出量規制を導入する予定であり、その基本原則は今後政府が下院に提出する予定の同ガス排出量に関する法律によって定められる。」と述べた。同法ではグリーンプロジェクトへの投資を誘致するための炭素市場の設置と、その条件設定も定められる見込みとなっている。同規制により大企業は排出量について専門の政府機関に毎年報告することが義務付けられることが想定されている(まだ確定ではない)。現在のところ、二酸化炭素排出量が15万トンを超える企業がまずは対象となり、その後、2024年以降は5万トン超を排出する企業が加わることが検討されている。また、同時にその他11の新法と既存の法律の改正も導入されると言われている。

 

(4) 国境炭素税に対する対抗

これまでの動きを見る限り、ロシア政府は、政府や企業の気候変動に関する公約を取り巻く話題の多くに懐疑的であると考えられる。他方、政府は自国の二酸化炭素を排出・吸収する量の再評価を行うことから始める必要があり、顧客の気候変動対策に引き摺られて、ロシア産エネルギーが低炭素要件を満たしているかどうかを評価することから始めなければならないという状況に迫られているのが現状とと言えるだろう。

フラモフ天然資源環境省次官は、ロシアが二酸化炭素排出量を測定する法案を作成していることを明らかにし、所謂「国境炭素税」を導入するというEUの方針に対して、対抗しようと考えていることを示唆している。レシェトニコフ経済発展大臣は、「ロシアは監視システムの導入によりソフトカーボン規制を導入することを検討しているが、国内で炭素税を設定する予定はない。価格の上昇を消費者に移転しないことにより、インフレと需要の停滞を防ぐことに重点が置かれているためである。自発的にこれに移行する準備ができている企業がある場合には、検証済みの証明書を入手するために必要な全てのメカニズムが与えられる。ロシア経済は炭素集約的であると考えられているが、全てに当てはまるわけではない。過去20〜25年間で、電力容量の近代化や原子力、水力発電容量、再生可能エネルギーへの取り組みなど多くのことが行われてきた。さらにロシアが保有する森林吸収能力が加われば、良いバランスを生み出すだろう」と述べている。

また、チュバイス大統領特使は1月、「ロシア通貨をベースとした二酸化炭素排出量の商業化は、二酸化炭素排出量削減に対するロシア企業のモチベーションのアップにつながるだろう。これは実行可能であり、実行すべきだ。二酸化炭素排出量、カーボンフットプリント、気候問題のような今や誰もが知っている例の通り、この4〜5年の間に税導入も含めさまざまな議論があったにも関わらず、政府は無力や弱さをあらわにし、ひどい過ちを犯した。その結果、何も行われなかった。ゆえにEUは「国境炭素税」を導入し、ロシアの企業はそれを支払うことになる。自国の政府ではなく、他国の政府に支払うことになるのだ。二酸化炭素排出量の商業化が可能で実現すべきであった時に、政府は二酸化炭素排出量の商業化に失敗した」とロシア政府の失策を批判している。

 

(5) ロシア・タクソノミー草案を発表

4月、ロシア政府はグリーン分類規則(タクソノミー)草案を発表した。経済発展省は対外経済銀行(VEB)と協力して、グリーンファイナンス商品を使用したプロジェクトを判断するための基準を策定したもので、法案は現在、各省庁で議論されており、5月に政府に提出される可能性がある。グリーンプロジェクトの分類法及び検証メカニズムを含み、グリーン基準を満たすプロジェクトを計画している場合、公的・民間を問わず、どの企業もグリーンファイナンスを調達することができる内容となっている。但し、グリーンプロジェクトは、政府によって承認された利用可能な最高の技術を使用する必要がある。風力、太陽光、原子力、小水力プロジェクト(容量が25メガワット未満)はすべてグリーンプロジェクトと見なされる。さらに鉱山から発生するメタン及びLPG、クリーンな燃料を得るための石炭処理を含む「移行プロジェクト」もグリーンプロジェクトと規定されている。「移行プロジェクト」とは次のカテゴリーに入るものを意味し、それら既存の生産施設は移行プロジェクトと見なされ、グリーンプロジェクトとしてグリーンファイナンス調達の対象となる。(1)少なくとも20%の資源エネルギー効率の改善。(2)汚染物質または温室効果ガスの排出または排出が少なくとも20%の削減を達成。(3)水循環システムへの移行を試行している場合となる。

 

(6) 米国主導のオンライン気候変動サミット(4月22日から23日)に向けた動き

4月中旬、米露が互いに制裁を発動した状況においても、バイデン大統領が主導しオンライン気候変動サミットに対して、プーチン大統領は参加した。4月22日は例年に比べ遅延していた年次教書演説も予定されており、その中でプーチン大統領は、ロシアは水素を含むエネルギー部門の開発に新たな統合的アプローチを必要としていると述べ、気候変動の課題に対応し、その産業とインフラをそれらに適応させる必要があること、また、炭素排出量を利活用するための新たな産業を創出し、排出量を確実に削減し、厳しい管理と監視を導入する必要があると強調した。

写真3 オンライン気候変動サミットでのプーチン大統領スピーチの模様
写3 オンライン気候変動サミットでのプーチン大統領スピーチの模様
出典:ロシア大統領府

23日の気候変動サミットでは、ロシアの温室効果ガスの純排出量を今後30年間でEUの排出量よりも少なくしたいと発言し、達成可能であるとも述べている。ロシアは世界で4番目(EUを単体とすれば5番目)に大きな温室効果ガス排出国であるが、「今後30年間で、ロシアの累積正味温室効果ガス排出量はEUよりも少なくなるだろう。我々の国の大きさ、地理、気候、経済構造を考えるとこれは難しい作業だが、ロシアの科学的・技術的な可能性を考えると、この目標は達成可能であると確信している」と述べている。なお、ロシアの温室効果ガス排出量は、EU加盟27カ国の約半分であり、合計すると人口当たり3倍以上にもなる。EUは2030年までに40%の削減を、2050年までに完全なカーボンニュートラルを達成することを目指して、今後30年間で排出量を削減するという積極的な目標を発表しており、ロシアは2019年9月に2015年のパリ協定に参加し、プーチン大統領は現在政府に対し、1990年の排出レベルを最大30%下回るよう2030年までの排出削減に向けて取り組むよう命じている。

また、プーチン大統領は、ロシアでの外資によるプロジェクトの実施において「クリーンテクノロジー」に投資する意思のある外国企業に優遇を与える可能性を検討する準備ができているとも述べた。

 

表4 世界の二酸化炭素排出国上位20カ国

表4 世界の二酸化炭素排出国上位20カ国
出典:BP統計(2019年の値)

4. メディアによる分析・批判

このようにロシア政府及び石油ガス会社による新たな戦略・方針が出される背後で、メディアは専門家の分析を引用し、ロシアの政策・対応に対して厳しい批判も出している。

石油業界紙Oil Capitalは11月の記事で、2024年までの水素ロードマップに対して、ロシアで水素に関し特筆できるのは、原子力発電所の蓄電施設用に水素を利用することを念頭に置いた国産の技術が若干存在するという事実のみであり、また、ロシアの大規模発電設備で利用されている電解用機器を国産化することが難しい問題も存在することを指摘している。「水素が大量に使用されるようになって初めて、ロシア国内での電解用機器の生産が促進されることになるだろう。ロシアのエネルギー分野では技術革新が進んでおらず、新技術が現場に浸透するまでに10年単位の年月を必要とするという事実を勘案すると、水素エネルギーをロシアで定着させるには、世界のエネルギー分野のトレンドを注意深く観察し、水素エネルギー関連の研究開発に巨額の資金を投下する必要がある。そのような措置を講じなければ、ロシアは将来、外国の水素関連技術に大きく依存することになるだろう。ロシアはブルー水素を発展させるための大きなCCSポテンシャルと原子力発電からのイエロー水素生産ポテンシャルを有している。Rosatomは2018年の時点で既に、全ての原子力発電所で水素を生産するための電解装置を装備している(今のところ生産された水素はすべて自家用に使用されている)。既に技術的準備はできており、我々は短期間でイエロー水素の生産量を増やすことができると述べていた。ロシアで生産が本格化すると、水素は輸出されることになる。初期の段階では、それがブルー水素であれ、イエロー水素であれ需要を見出すことが可能だろう。しかし、時の経過とともに、ガスの生産と販売に従事するGazpromよりもRosatomの方が優位に立ち、同社の輸出ポテンシャルがガス会社のそれを上回ることになるだろう」と分析している。

また、同誌は、もしロシアがエネルギー省の資料に記されているように、2024年までに水素の輸出量を20万トンに増やし、さらに2035年までに200万トンに増やして世界の水素市場において16%のシェアを獲得したいのであれば、欧州にとって魅力的な価格を提示する必要があるとも指摘。ロシアは、他国のライバルたちとの激しい競争に晒されることになる。水素の主要な生産者としては、Praxair(米国)、エア・リキッド(フランス)、BOCグループ(英国)、岩谷インターナショナル(日本で生産される水素の40%が同社製)、Linde(ドイツ)等の名を挙げることができる。また、水素の生産計画を検討している石油ガス会社としては、BP、Shell、Chevron、Equinor等の名を挙げることができる。グレー水素の生産コスト(CAPEXと二酸化炭素分離コストを含む)は1キログラム当たり1.24ユーロ、ブルー水素は1キログラム当たり1.31ユーロ、グリーン水素は1キログラム当たり3.43ユーロになると試算されている。この生産コストの数字にロシアにはパイプラインという輸送インフラが既に存在するという事実を加味して勘案すると、ロシアの場合はブルー水素の輸出が最も経済的合理性が高いといえる。しかし、そこには一定の条件が付く。すなわち、ブルー水素とグリーン水素の価格がほぼ同じになるまでに(いくつかの分析では2045年までにそのような状況が生じると予測されている)、生産及び供給体制を構築しなければならないという条件であると課題を指摘する。

日刊経済紙であるヴェードモスチは複数の業界専門家の見解を紹介している。国家エネルギー研究所・フロロフ副所長は、「ロシア企業がEUの水素エネルギー戦略に対応して投資を行うかどうかを決めるのは2024年頃でよいとみている。EUは今後数年、水素エネルギーの発展を目指して試行錯誤を重ねるとみられ、現実的な展望やEUの大企業の反応及びコスト増加に対するEUの国民の態度が明らかになるのは、水素エネルギー戦略で区切りの年とされている2024年頃と予想される。EUは2000年代にガスエネルギーの発展に注力し、2010年までに約1億キロワットのガス火力発電所を建設した。しかし、EUの天然ガス市場は買い手市場になるとの目論見は外れ(2009年初めにはロシアとウクライナの対立によりEUへのガス供給が停止する事件も起きた)、再生可能エネルギーへの注力にシフトするようになった。EUは2010年頃には再生可能エネルギー技術の開発に大規模な支援を行い、太陽光発電や風力発電の設備の生産が活発化したが、多くのメーカーは倒産したり、中国に拠点を移したりした。一方、気象の変化の影響が大きい再生可能エネルギーの割合が拡大したことで、EUではエネルギー供給が不安定化するリスクが高まった。例えば、フランスでは近年、複数の石炭火力発電所が閉鎖されたが、今年の冬の寒波に再生可能エネルギーだけでは対処できず、再稼働させる羽目になった。リスクを低減させるには蓄電能力を強化する必要があるが、バッテリーは非常にコストがかかるので、代替バッテリーとして期待されているのが水素だろう」と指摘。「水素の生産には基本的にEUの再生可能エネルギーが使用されるので、ロシアで生産した水素をEUに輸出しても需要はない。ロシア企業はEU企業とEUで合弁会社を設立し、例えばNord Streamでメタン(ターコイズ水素)を輸出するのなら実現の可能性はある。EU市場の見通しが明らかになるまでは、ロシア企業は保険としてガス化学を発展させておくべき」と分析している。スコルコボ・モスクワ経営スクール・エネルギーセンター・ミットロヴァ所長(シュルンベルジュとノバテック社外取締役)は、「このまま各国で順調にエネルギーシフトが進んでいけば、2040年にはロシアのエネルギー資源輸出は現在より少なくとも16%縮小し、GDP成長率を平均で年間1.1%下押しする。ロシアがエネルギーシフトの流れに乗るには、低炭素化を促す制度(温室効果ガスの価格形成のメカニズム等)の構築や、風力発電や太陽光発電等の再生可能エネルギーを発展させるための支援が必要」と述べている。

ロシアに対してだけでなく、欧州が進める国境炭素税に関して、Bloombergもその実現には複数のハードルがあることを指摘している。欧州グリーンディールは気候変動に取り組むためにこれまでに提唱された中で最も野心的な政府計画だが、まずコストがかかる。少なくとも初期段階では、EU企業はグローバルなライバルに対して競争力が低くなるだろう。それら企業が域内から避難するのを防ぐために、EU政は炭素集約型コモディティの輸入にペナルティーを科す方法を考案している。詳細はまだ発表されていないが、2019年7月にフォン・デア・ライエン委員長は炭素国境税と明言した。その後、炭素国境調整メカニズムという新しい名前が付けられている。同課金は保護貿易主義を嫌うWTOの怒りを招く可能性があるが、既に排出量に価格を付けている国にとっては受け入れられる可能性がある。世銀によると、現在、世界の排出量の5分の1が炭素価格の対象となっている。それでも、政治的問題から炭素量を決定する方法や域外の国にクレジットする方法等、技術的要因、メカニズムを実装するためにヨーロッパが取り組む必要のある課題は他にもある。欧州委員会は6月に規制案を発表する予定だが、法制化するには欧州議会と加盟国の承認が必要。このプロセスには2年もかかる交渉が含まれている。つまり、同メカニズムは現実的には2023年まで実効されない。国境炭素調整メカニズムはEUの予算収入の新たな財源であり、年間50億ユーロ(60億ドル)から140億ユーロになると欧州委員会は推定している。当初の対象産業は、電力、セメント、鉄鋼、アルミニウム及び肥料が最も可能性の高い候補となっている。

 

5. サハリン州の取り組みが中央政府主導へ昇華

前述の通り、2月にソローキン・エネルギー省次官はサハリンにおけるカーボンニュートラルパイロットプロジェクトを参考にしながら、ロシアが全国的な二酸化炭素排出取引システムを立ち上げていくと述べ、中央政府も一目を置くプロジェクトとなった同プロジェクトであるが、当初サハリン州リマレンコ知事が立ち上げたものだった。10月下旬、サハリン州政府は州内に水素クラスターを創設し、Rosatom、仏エア・リキッド社、米エアープロダクツ社等と国際コンソーシアムの取りまとめを進めていることを明らかにした。水素クラスターには、水素生産施設、水素をアジアに輸出するための施設、水素を様々な経済分野で活用するための水素コンペティションセンター等の設立が検討されている。これに対してはGazpromのミレル社長もサハリン州の取組みに賛同の意を表明し、Gazpromとしては同州で水素技術の専門家育成プログラムの実施に協力し、育成される専門家を雇用する意向があると述べていた。

その後、年明けの1月にアブラムチェンコ副首相が、ロシア初の炭素取引パイロットプロジェクトの計画スケジュールを承認したことを発表し、それがサハリンで行われる同プロジェクトと正式に中央政府のお墨付きを得ることになった。パイロットプロジェクトでは、2025年までにこの地域のカーボンニュートラルを目指すもので、具体的なロードマップは経済発展省及びサハリン州政府によって作成されているとされている。具体的なマイルストーンは次の通りである。

 

表5 ロシア初のサハリン島での炭素取引パイロットプロジェクトの計画スケジュール
~2021年中葉 サハリンでの2025年までの排出規制に関する法律を制定
~2021年8月 サハリン地域の排出量と吸収能力を評価し、データベースを作成
~2021年9月 温暖化ガス排出量の80%を占める経済活動を定義
~2022年4月 参加者の登録、気候プロジェクト、排出量等パイロットプロジェクト試行をサポートするために情報システムを立ち上げる

出典:筆者取り纏め

 

また、ソローキン・エネルギー省次官はサハリンにおけるカーボンニュートラルパイロットプロジェクトを参考にしながら、ロシアが全国的な二酸化炭素排出取引システムを立ち上げていくと述べている。併せて、人口は約50万人、地域の経済は石油、ガス、石炭の生産に集中している特徴があるサハリン地域の計画では、次のマイルストーンが想定されていることを明らかにしている。なお、パイロットプロジェクトの関連コストに関する情報はない。

 

<参考>ソローキン次官の発言(2021年2月19日)

(1) サハリンの温暖化ガス排出量と天然炭素隔離の可能性のリストアップを2021年8月までに作成し、排出量取引システムは、2025年までにカーボンニュートラルを達成することを目指して、2022年半ばから運用を開始する予定。

(2) 石炭火力発電所はガス及び水素燃料に置き換えられる。

(3) 2035年までにすべてのガソリン車とディーゼル車の禁止と並行して、税控除、充電ステーション、EV専用駐車場を導入する必要がある。

(4) サハリン地域は約90の島々で構成されているため、地熱エネルギーだけでなく、小規模の水力、風力、太陽光発電も活用。

(5) ロードマップによって提案された多くの対策は、2021年6月から7月に予定されている下院からの正式な法的承認を必要としている。

 

3月にはトロソフ経済発展省次官が、ロシアは来年極東で炭素クレジット取引試験を開始することを発表。但し、どのように達成されるかについての詳細はまだ決定されていない。成功すればパイロットプロジェクトは他の地域にも拡大されることを明らかにした。相対的に孤立したサハリンの状況と経済(年間130億ドル規模)はテストエリアとして最適である。領土の約4分の3は二酸化炭素を吸収する森林であり、いくつかの主要な石油とガスのプロジェクト以外に産業は少ないこともメリットと述べている。また、経済発展省はサハリン島における温暖化ガス排出量に対して、トン当たり150〜2,000ルーブルの罰金を提案していることも報道されている。経済発展省がサハリン州政府と共に作成している法案の一部で、関係省庁による承認を求めて提出されている模様。1月に同地域でのパイロット試験ロードマップ(上記表4)が承認され、2025年までに炭素取引とカーボンニュートラルを達成するべく、石炭焚きボイラー及び燃料油ボイラーをガスに移行する必要があり、これら規制を6カ月以内に進める必要がある。また、5万トンを超える温暖化ガスを排出する企業は排出量を報告し、事前に設定された排出量クォータに従う必要がある。排出量は認定された独立機関(経済発展省及び対外経済銀行(VEB)が審査)によって検証される必要がある。草案では、規制対象企業が割当量を超えた場合、トン当たり150〜2,000ルーブルの罰金が科せられることになる。他方、これは国際的な主要ベンチマークをはるかに下回っていると指摘されている。

サハリン島には原子力発電所が存在しないため、Rosatomがどのようにイエロー水素を生産するのか不明であったが、4月に同社が仏エア・リキッド社とサハリン島での水素生産に参画することを前提とした協力のMOUに署名した際、具体的な内容が明らかになる。RosatomはRITM200型原子炉を搭載した浮体式原発を建造(2,000億ルーブル/26億ドル)することを検討しており、日本への輸出を前提に年内にFSを終える予定で、年間水素生産量を3~10万トンと見込んでいる模様である。

 

6. 森林吸収に対するロシア石油会社及びロシア政府の熱視線

世界的な脱炭素の流れ、そして特に国境炭素税という産油ガス国に直接影響を及ぼす事象の発生を受けて、防衛本能として上述の石油会社(特にRosneft)や(3.(4)国境炭素税に対する対抗する意味でも)ロシア政府が急速に注目し始めているのが、世界最大を誇る資産であるロシアの森林(ロシア一国で世界の5分の1を占める)である。ロシアという国単体で括るのであれば、ロシア領域に所在する森林による二酸化炭素吸収はロシアが享受するべき「排出権」に等しく、国境炭素税を課される筋合いはないというロジックを成り立たせようとしていると考えられる。

まず、2月に入り、天然資源環境省がロシアの森林の二酸化炭素吸収能力を算定する方法を変更することを発表している。変更では予備森林(筆者注:森林の区分では幼齢林、壮齢林及び老齢林があるが、その中でまだ林木が小さく樹高の成長段階にある幼齢林を指すと考えられる)と農地の森林を含む人的に管理された森林もその算定の中に考慮されると共に、温暖化ガス排出量の試算では森林火災、害虫、伐採の結果、失われた森林の実際の面積も考慮されることになったとしている。この改正による累積効果によって、ロシアの森林による二酸化炭素吸収量は2億7,000万から4億5,000万トン増加し、ロシアの二酸化炭素排出量を3分の1削減できる可能性があるという見方も為されている。他方で、方法論に調整が加えられているものの、ロシアの森林に関する現在のデータは極めて古い、または事実上存在しない可能性も指摘されており、ロシアの森林吸収能力の実際について疑問を投げかける意見もある。

図9 世界の森林面積上位10位(2020年)
図9 世界の森林面積上位10位(2020年)
出典:林野庁

Bloombergは、推定6,400億本の樹木を保有するロシアはそれら森林を温暖化ガス排出量対象とすべきではないという動きに対して、気候変動交渉では認めるべきであると長い間、ロシア政府が主張してきたことを紹介している。他方で、ロシアはこれまで巨大なタイガ(亜寒帯に植生する針葉樹林)の管理が不十分であり、地球温暖化も要因となっていると見られる乾燥の影響で、過去2年間で記録的な山火事が発生している。チェクンコフ極東北極発展大臣は、「ロシアには世界の森林の20%が存在し、国際社会はその点で公平であるべきだ。我々はこの森林を大規模な炭素回収ハブに変える可能性を有している」と述べている。具体的には、ロシア企業は新しく木を植え、森林保護に投資することでロシア政府から森林の一部をリースすることを可能にし、投資によって二酸化炭素吸収が改善されたことがデータで確認された場合にはその企業は排出権を取得し、デジタルプラットフォームで取引することができるというものが想定されている。ロシアの最新のデータによれば、ロシア国内の森林は2018年に約6億2,000万トンの二酸化炭素を吸収したと推定されており、国全体の排出量の約38%を相殺するのに十分な量であったと言われている。しかし、このカーボンオフセットスキームは温室効果ガス排出量を次の10年で、世界全体で半分に削減する必要があると警告する科学者からは批判を受けている。排出量を削減するロシアの計画は、再生可能エネルギー、新技術、エネルギー効率でなければ意味がないというものであり、現存する森林吸収量の活用は現状維持に他ならないためである。ロシアは欧州が検討を進める炭素国境調整メカニズムによって、年間80億ドルもの追加費用が発生することを懸念している。しかし、樹木は脆弱であり、森林火災や病気の発生などの予測できない出来事により、森林からの炭素隔離に関する正確なデータを取得することは困難であることにも留意が必要である。詳細な統計データが不可欠である一方、ロシアでは関連統計は過去25年間更新されていない。植樹に基づくオフセットプログラムは、実際には大気中の二酸化炭素量を新たに減らすことに貢献していないことが判れば、批判に晒されるだろうとBloombergは分析している。

 

7. 水素エネルギー開発での日独への接近と秋風

3.(2)で紹介したように水素エネルギー開発を課題として負ったロシア政府及び石油ガス会社は、10月の「2024年までのロシアの水素エネルギー開発計画」の政府承認前後から、その技術を持つドイツ及び日本に対して急速に接近している。以下、これまでの動きを紹介する。

 

(1) ドイツとの協力に向けた進捗

10月9日、ノヴァク・エネルギー大臣(当時/現在エネルギー担当副首相)はロシアとドイツが、新しいグリーン技術を使用した発電の共同研究に関する覚書に署名することに合意したと発表した。「ロシアは、エネルギーの供給者として、将来も新しい技術でエネルギー供給者であり続けるべく、他の国々と一緒にこれらの研究に参加する準備ができている。ドイツと協議を行い、再生可能エネルギー源と水素についてもロシアはヨーロッパの将来のパートナーになるべく、この分野の共同研究に関する覚書に署名することに同意した。現在喫緊のトピックは、水素について、その生産、貯蔵及び将来のエネルギー源・エネルギー貯蔵としての利用である。ロシアでは、この点について特に注意を払っている。NOVATEK、Gazprom及びRosatom等の企業が積極的に取り組んでおり、技術研究開発を進めている」と述べている。この発言によって、政府承認文書では言及されなかったNOVATEKについて、同社が8月から他企業に先んじて動き出したことが認められる形となったことが目を引く。また、ノヴァク大臣は将来のエネルギーミックスにおける水素のシェアは7%~25%に増加する可能性を指摘。「太陽と風力から電力を生産する技術が安くなっており、これらの技術は価格の観点から活発に開発されている。それは水素の生産価格の引き下げを可能にするだろう。現在、天然ガスはいわゆるグレー水素及びブルー水素の主要な生産源である」ことも強調した。

また、11月下旬に、独露外国貿易商工会議所は、ドイツのビジネス界は水素技術におけるロシアとの緊密なパートナーシップに賛成し、ロシアをドイツとヨーロッパへの水素の主要な輸出国にするための共同パイロットプロジェクトを開始する計画であることを発表した。Wintershall Dea Russiaのマネージングディレクターであり、商工会議所の水素イニシアチブグループの責任者であるムリン氏は、水素を持続可能なエネルギー源として使用し、主にガスおよび石油産業で数十年にわたって成功を収めてきたドイツとロシアの間のエネルギーパートナーシップを継続していくと述べ、ソローキン・エネルギー省次官は、ロシアとドイツは、生産、輸送、消費をカバーする水素エネルギーの共同プロジェクトを特定する最終段階にあると述べている。

この10月から11月のタイミングは8月下旬のナヴァルヌィ氏毒殺未遂事件によって欧米関係が悪化し、最終的に欧州連合は10月15日に対露制裁(6人のロシア当局者と法的組織1つに制裁(個人の資産凍結と出入国禁止/企業の資産凍結))を発動し、米国は20日に新たな制裁ガイダンス(Nord Stream 2に関して、2020年国防授権法における「パイプ敷設船舶の提供」の提供対象を港湾サービス・保険付保等に拡大)を発動している時期に当たることも興味深い。そのような最中にあっても(そのような状況だからこそ)、ドイツは政治外交と経済を分け、並行して水素という新分野でのビジネス分野で関係構築を図っていることが垣間見える。12月にはさらにロシアとドイツが水素生産及び海上輸送の共同パイロットプロジェクトを検討していることをノヴァク副首相(11月9日にエネルギー大臣からエネルギー担当副首相に昇格)が述べている。また、「ロシアには水素エネルギーの十分なポテンシャルがあり、資源ソースがある。電力も生産・輸送・貯蔵に関する科学技術もある。欧州やアジア地域への地の利もある」ことを宣伝している。

オリヴァー・ヘルメス独東方ビジネス協会会長はロシアからの水素輸送に関して、「Nord Stream 2は水素を輸送できるだろう。特殊素材が使用された御陰で、古いガスパイプラインとは異なり、今後数十年に亘ってNord Stream 2に70%まで水素を満たすことができる。欧州の将来のエネルギー供給に対するNord Stream 2の重要性はここ数ヶ月で高まっている。同パイプラインは最新の環境安全基準に基づいて構築されており、天然ガスという移行エネルギー源から水素の時代に移行する良い機会を開く」と欧米からの圧力を受けながら、ドイツ領海の建設再開を開始する12月5日直前に、Nord Stream 2を水素輸送手段としても擁護しながら、天然ガスパイプラインへの水素混送が可能であることを明らかにしている。

年明け2月には、アルトマイヤー独経済大臣が「独露は水素の生産と輸送の可能性について緊密に連絡を取り合っている。ロシアはドイツと協力してグリーン水素の生産と輸送を行うことができる」を明らかにした。ロシア産水素は天然ガス起源のグレー水素かCCS付随のブルー水素、メタン熱分解によるターコイズ水素、原子力発電電力による水の電気分解から生産されるイエロー水素と考えられてきたが、欧州連合が要望する再生可能エネルギーからの電力によって生産されるグリーン水素も念頭し入っていることを示唆した。

4月には、前述の10月に独露で署名された新しいグリーン技術を使用した発電の共同研究に関する覚書とは別に、水素エネルギー協力に関する共同宣言を準備していることをノヴァク副首相が明らかにしている。「水素エネルギー協力に関するロシアとドイツの共同宣言の署名は、高いレベルで準備が整っている。現在、最も集中的な対話はドイツ及び日本と行われている。ロシアとドイツの協力に関しては、持続可能なエネルギーの分野での協力に関するロシア・エネルギー省とドイツ連邦経済エネルギー省の間の共同宣言の署名は高度なレベルで既にまとまっている。ドイツとロシアのエネルギー大臣が議長を務める持続可能なエネルギーに関するハイレベルのワーキンググループと水素エネルギーにおける協力に関するサブグループを設立する見通し」であると述べており、近々独露間で共同宣言が発表されると見込まれていた。

最終的に独露間の共同宣言は4月20日に締結された。ロシア・エネルギー省とドイツ連邦経済エネルギー省が持続可能なエネルギーに協力する意向宣言に署名し、同宣言では、持続可能なエネルギーに関するハイレベルのワーキンググループと水素エネルギー分野に関する協力のためのそのサブグループを設立し、エネルギー効率を改善するための新しいエネルギー資源の使用に関する幅広い協力の潜在的な分野(生態学的プログラムの解決、エネルギーシステムの信頼性と安全性の分野における技術交換、資源基盤の分析及び再生可能エネルギーの国内および国際市場のパラメーターの研究)を含む内容となっている。また、水素発電統合に関する協力のためのサブグループを設立することにも合意したことが明らかになった。

写真4 ソローキン次官とドイツ連邦経済エネルギー省によるオンライン意向宣言への署名の様子
写4 ソローキン次官とドイツ連邦経済エネルギー省によるオンライン意向宣言への署名の様子
出典:ロシア・エネルギー省

また、意向宣言署名と同日、独Uniperはドイツ初のLNGターミナルとなる予定だったヴィルヘルムスハーヘンLNGターミナル(年間725万トン)の建設を取り止めたことを発表した。同ターミナルの計画をドイツ水素市場へ目を向けて、「グリーン・ヴィルヘルムスハーヘン」として水素生産ハブを立ち上げる計画に変更するという意向であり、ターミナルでは再生可能エネルギー起源のグリーンアンモニアを受け入れ、その後水素分解装置で水素を生産すると共に、並行して、水から水素を生産する電解装置も設置する。これら2つのプラントにより年間29.5万トン(2030年時点のドイツの水素需要の10%)の水素生産を予定であることを明らかにしている。

図10 ドイツ向け天然ガス輸入インフラの概要
図10 ドイツ向け天然ガス輸入インフラの概要
出典:公開情報筆者取り纏め。地図はEUGAL社公開情報より。

(2) 日本との協力に向けた進捗

日本との協力に関しては、まずロシアは11月にソローキン・エネルギー省次官が、(2020年6月に承認された長期エネルギー戦略において)2035年までに200万トンの水素を輸出するという新しい政府の方針を受けて、既に日本の政府当局者や川崎重工業、他の日本企業と協力・交渉を開始していることを明らかにした。また、「ロシアが生産できる水素には、グレー水素、ブルー水素、原子力発電所を使用してグリーン(イエロー)水素の3つがある。天然ガスから水素を取り出すことが最も経済的な方法であり、生産コストは電気分解によって生産される水素の半分から4分の1である。ロシアは競争力のある輸出価格を提供する。輸送コストの削減と安全な輸送がロシアの水素輸出にとって最大の課題になる。ヨーロッパの既存のガスパイプラインに水素を混合し、日本や他のアジア諸国には船で水素を輸送することを検討している」と述べている。ソローキン次官は日本の水素需要に大きな期待を寄せており、Rosatomは経済産業省及び川崎重工業と、ロシアから日本への水素輸送パイロットプログラムについて、2021年末迄に可能性調査を実施していることも明らかにしている。

また、Rosatomは2月に入り、2030年までに日本の水素需要の最大40%を満たすことができると発表した。サハリン州で検討されている水素製造プラント計画は日本への輸出を優先して検討されており、日本との技術協力の発展にも関心を寄せている。なお、パイロット輸出プロジェクトは電気分解による水素生産が想定されているが、現在サハリン州内には原子力発電所はなく、その電源については明らかにされていない。

4月にはノヴァク副首相が、前述のドイツと進む共同宣言署名に関する発言の中で、「現在、最も集中的な対話はドイツ及び日本と行われている。日露エネルギー諮問委員会の枠組みの中で、原則として二国間作業部会内の協力について合意に達しており、ロシア企業と日本の当局との間の水素に関する協力の見通しに特に注意が払われている」と述べている。

 

以上

(この報告は2021年4月30日時点のものです)

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