ページ番号1009030 更新日 令和3年5月10日

メキシコ:炭化水素法改正の探鉱・開発への影響

レポート属性
レポートID 1009030
作成日 2021-05-10 00:00:00 +0900
更新日 2021-05-10 10:00:37 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 探鉱開発基礎情報
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 4
抽出データ
地域1 中南米
国1 メキシコ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,メキシコ
2021/05/10 舩木 弥和子
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概要

  • メキシコ議会で、石油製品市場における国営石油会社Pemexの支配力を強化する可能性を持つ炭化水素法改正案が承認された。経済的緊急事態、あるいは、エネルギー安全保障や国家安全保障に対する差し迫った脅威が認められる際には、民間企業に与えた許可を一方的かつ一時的に停止し、補償金を支払うことなく民間企業の事業を引き継ぐことができるとの内容だ。許可を失った企業の資産をPemexが恣意的に収用、掌握する可能性が懸念されている。
  • AMLO大統領や政府は、探鉱・開発部門に関しては、今回の炭化水素法改正の影響はないとしている。しかし、インフラや設備などを建設して、生産された油・ガスを移動、保管、販売するといった活動には、同法が適用されるおそれがある。また、メキシコで生産した石油・天然ガスの輸出許可が発行されず、結果的にPemexに油・ガスを販売することを余儀なくされる可能性も憂慮されている。
  • メキシコでは、3月に電力産業法の改正案が議会を通過し、公布、施行された。電力供給源の優先順位として、CFE(連邦電力委員会)の水力発電所や石炭、ディーゼル、重油を燃料とする火力発電所が優先的に電力を生産・供給し、それで足りない分の電力を、民間企業が推進してきた天然ガス、風力、太陽光発電所などから供給するとの内容だ。これについては、自由競争を阻害するとともに、再生可能エネルギーへの民間投資を制限し、電気料金の高騰につながる可能性があるとして、批判や懸念が噴出している。すでに憲法に反するとして裁判所で係争中であり、現在、同法の適用は暫定的に差し止められている。改正炭化水素法についても、同様の動きがとられる可能性がある。
  • AMLO大統領は、最高裁判所で憲法違反の裁定が下った場合には、PemexとCFEを強化するために憲法を改正するとしている。現在の議会の議席配分では、AMLO大統領とその連立与党だけでは憲法を改正することはできないが、メキシコでは2021年6月6日に、下院全議席の改選が行われる。その結果次第では、連立与党だけでの憲法改正が可能になる可能性もあり、エネルギー政策が大きく転換する可能性もありうる。

(Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas、LatAmOil他)

 

2021年3月26日にAndres Manuel Lopez Obrador(AMLO)大統領が提出した炭化水素法改正法案が、4月14日に下院で賛成292票、反対153票、棄権11票で、22日に上院で賛成65票、反対47票、棄権6票で承認された。近日中にAMLO大統領が署名して成立する予定だ。

改正された炭化水素法は、石油製品市場における国営石油会社Pemexの支配力を強める可能性を持つ内容となっている。すなわち、規制当局CRE、あるいは、エネルギー省(Sener)は、経済的緊急事態、あるいは、エネルギー安全保障や国家安全保障に対する差し迫った脅威が認められる際には、民間企業に与えた石油精製や給油所の運営に関する許可を一方的かつ一時的に停止することができる。そして、エンドユーザーや消費者の利益、そして第三者の権利を安全に保証するために、補償金を支払うことなく民間企業の事業を引き継ぐことができるとしている。さらに、当局は、占拠・介入・中断された設備を管理、統制するために民間企業が雇用していたスタッフを活用するか、国有企業を含む新たな事業者と契約するか、あるいはその両方を組み合わせることができるとしている。また、事業の返還について期間は定められておらず、企業側は緊急事態などが終了したことを証明しなければならないという。一方で、下流事業者の貯蔵に関する要件を緩和して柔軟性を持たせたり、石油製品の盗難に対する罰則を強化したりしており、業界関係者やPemexを支援する取り組みも含まれている。しかし、全体としては、国家管理を中心とした政府の戦略を強化し、Enrique Peña Nieto前政権下で実施されたエネルギー改革を逆行させることを目的としており、メキシコのエネルギー市場への外資の参入を制限しようと試みるAMLO大統領の取り組みの一環と見られている。

Enrique Peña Nieto前政権下で行われたエネルギー改革に伴い、Chevron、Shell、BP、ExxonMobil、Repsolなどがメキシコの石油製品の輸入・貯蔵・流通市場に参入した。近年、Pemexの製油所が精製能力を大幅に下回って操業していることもあり、石油製品輸入量は増加し、これら民間企業による給油所の数は全体の30%程度まで増加している。そして、Pemexはディーゼルの小売市場の約50%、ガソリンの小売市場の約30%を他社に奪われている。このような状況が、Pemexを守り、同社を中心にエネルギー部門の進展を図ろうとするAMLO大統領が、エネルギー改革をさらに逆行させようと考える動機となっているとの見方もある。改正された炭化水素法では、国家安全保障やエネルギー安全保障に対する差し迫った脅威が認められる場合、民間企業に与えた許可を停止するとされているが、この概念、定義が明らかにされておらず、曖昧である。そのため、許可を失った企業の資産をPemexが恣意的に収用、掌握を行う可能性が懸念される。また、既存の事業だけではなく、今後の拡張計画にも影響を与える可能性は大きいと考えられる。

一方、AMLO大統領や政府は、探鉱・開発部門に関しては、石油製品市場に関する規則を変更した今回の炭化水素法改正の影響はないと説明している。今回の改正が、探鉱・開発部門に影響を与えることは、本当にないのだろうか。

探鉱・開発が進展し、生産に移行する場合、パイプラインなどインフラや設備などを建設して、生産された油・ガスを移動、保管、販売、あるいは、輸出することになるが、これらの活動には今回改正された炭化水素法が適用されるおそれはあるだろう。石油会社は、政府が経済的緊急事態、あるいは、エネルギー安全保障や国家安全保障に対する差し迫った脅威が認められるとした場合には、許可が取り消され、設備が差し押さえられることがあるということを理解した上で、投資を行わなければならない。

さらに、改正された炭化水素法が、Senerが付与する輸出入許可にも適用される可能性があると見る向きもある。石油会社が生産した石油・ガスの一部を所有し、それを自由に処分できるという契約を締結しているにもかかわらず、改正された炭化水素法の下では、必ずしも輸出許可が発行されず、Pemexに販売することを余儀なくされる可能性があるというのだ。

すなわち、改正炭化水素法は炭化水素の全ての分野、つまり、探鉱・開発、精製、輸送、貯蔵、再ガス化、液化、さらには石油化学のバリューチェーンにも影響し、メキシコ国内で活動する石油会社にとっての脅威となる可能性があるということになる。

メキシコでは、同じようにAMLO大統領が2月1日に国会に提出した電力産業法の改正案が、2月23日に下院を、3月2日に上院を通過し、3月9日付連邦官報により公布され、翌10日から施行された。炭化水素法の改正案と同様、行政府から提出された法案であることから、審議日数が制限され、国会で十分に審議などが行われず、承認されたこの法案は、電力など戦略的分野における国家の主導性を回復させ、エネルギー安全保障を強化することを目指すAMLO政権の戦略の一環である。メキシコ以外の民間企業による略奪によって疲弊した国営企業を救済することがこの改正の大きな目的とされている。CFE(連邦電力委員会)の水力発電所や石炭、ディーゼル、重油を燃料とする火力発電所からの電力が、電力の需要家へ優先的に供給され、それでも足りない電力を民間企業が推進してきた天然ガス、風力、太陽光発電所などが供給することになっている。これでは、需要のリスクが一方的に企業に押し付けられ、安定的な利益など見通せるはずもない。

背景には、CFEの苦境があると考えられる。CFEは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で電力使用量が減少したため、収益が減少し、また、発電用重油の在庫増加にも直面している。さらに、国内の炭鉱から石炭を購入するよう圧力をかけられている。AMLO大統領は、2020年にも、建設済みを含む風力発電所や太陽光発電所など民間の多くの発電所を稼働させるための許可を制限し、CFEの強化を図ろうとした。

この改正電力産業法は、自由競争を阻害するとともに、再生可能エネルギーへの民間投資を制限し、電気料金の高騰につながる可能性を秘めているとして、野党や財界から批判や懸念が噴出している。すでに、競争監視機関Cofeceが同法を憲法に反するとして裁判所に提訴し、現在、同法の適用は暫定的に差し止められている。

さらに、メキシコ国外からも、米国の業界団体が懸念を表明、メキシコ政府との契約に基づいて投資を行ってきた企業が法的手段をとる可能性や、この法案が米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に違反する可能性があるとの指摘がなされている。

改正炭化水素法についても、メキシコ野党の上院議員が、法案が成立した22日に、同法が憲法違反であると主張し、裁判所に異議を申し立てるとしている。また、成立すれば、改正電力産業法と併せて、メキシコの投資先としての信頼感を大きく失墜させることになるだろう。

AMLO大統領は、最高裁判所で憲法違反の裁定が下った場合には、PemexとCFEを強化するために憲法を改正するとしている。現在の議会の議席配分では、AMLO大統領とその連立与党が憲法を改正することはできない。しかし、メキシコでは2021年6月6日に、下院議員500名と15州の州知事の選挙が行われる。近年では最大規模の選挙とされるが、憲法を改正することができるだけの議席数をAMLO大統領側が獲得できるのか、もしも獲得したらエネルギー産業にとっても大きな意味を持つ選挙になる可能性を含んでいる。

 

以上

(この報告は2021年4月30日時点のものです)

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