ページ番号1009032 更新日 令和3年5月13日
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概要
- SOCARとBPが探鉱中のカスピ海沖Shafag Asiman鉱区で、試掘井第1号の掘削が完了し、天然ガスコンデンセートを確認。今後追加の掘削を行って埋蔵量を評価する。
- 同鉱区の天然ガス埋蔵量は、アゼルバイジャン最大のガス田Shah Denizに次ぐ規模と期待されており、現状Shah Denizフェーズ2が唯一の供給源となっている「南ガス回廊」の追加のガスソースとなることが想定される。しかし水深が大きく、陸からも距離があるため、今後の探鉱・開発活動が順調に早期に行われるかは不透明。
(出所 各社公表資料、業界報道記事)
1. Shafag Asiman鉱区の概要
アゼルバイジャン国営石油会社SOCARの2021年3月24日の発表によると、英国のBPをオペレーターとして同社とSOCARが50%ずつ権益を保有し探鉱を行っているカスピ海沖Shafag Asiman鉱区において、最初の試掘井の掘削が完了し、天然ガスコンデンセートの賦存が確認された。但し埋蔵量の具体的な情報は今のところなく、今後水平井を追加で掘削し評価する。
Shafag Asiman鉱区はバクーから南東125キロメートル沖合に位置し、鉱区の面積は1,100平方キロメートル、水深は650から850メートル。アゼルバイジャン最大の天然ガスプロジェクトShah Denizからは60キロメートル、サンガチャル油ガス処理ターミナルからは145キロメートル離れている。
SOCARとBPは2010年にShafag Asiman鉱区における生産物分与契約(PSA)を締結し、2012年に3次元地震探査を実施、2020年1月に第1号となる試掘井SAX01の掘削を開始していた。掘削開始に時間がかかったのは、カスピ海で使用できる掘削リグの手配に時間を要したためとされる。当初の計画では掘削深度は7,000メートルで、掘削期間は9か月を予定していたが、結果的には深度約7,200メートル、14か月の掘削期間となった。
Shafag Asimanの構造そのものは地震探鉱によって1961年に発見されていた。具体的な規模は未詳ながら、SOCARの初期的な評価では、天然ガス埋蔵量5,000億立方メートル、コンデンセート埋蔵量6,500万トン(4.8億バレル)とされ、評価結果次第ではアゼルバイジャンでShah Denizに次ぐ規模のガス田になることが期待されている。しかし、水深が大きく掘削深度も大きいこと、陸からの距離が長い(Shah Denizよりさらに沖合)ため生産物輸送・処理のためのインフラ建設にもコストがかかることから、今後開発が順調に進められるかにはまだ疑問が残る。埋蔵量評価の続報を待ちたい。
2. コンデンセート発見に関するアゼルバイジャン国内とBPの反応
SOCARの発表には、今回のコンデンセート発見に関するアリエフ大統領の発言が記載されている。アリエフ大統領は今回の発見により「アゼルバイジャンの他、多くの国のエネルギー安全保障が強化され、アゼルバイジャンで生産される天然ガスを欧州に輸送する南ガス回廊のガスソースが補強される」とし、また、アゼルバイジャンにおけるBPとSOCARの良好な協力関係を強調している。
一方のBPはコンデンセート発見に関してはプレスリリースを行っておらず、BP AzerbaijanウェブサイトのShafag Asimanプロジェクト紹介ページでも、SAX01掘削開始には言及があるが掘削の完了とコンデンセート発見について記述はない。引き続き淡々と評価を行っていく姿勢が窺える。BPは、他の欧米メジャーと同様に、エネルギートランジションの潮流の中で資産の見直しを行っているが、長期間にわたってACG油田とBTCパイプライン、Shah Denizガス田と「南ガス回廊」を主導してきたBPにとって、アゼルバイジャンは引き続き重要なエリアとして残されていくと見られる。ただし、沖合の深海ガスプロジェクトで開発コストが高くなる可能性がある当該鉱区での追加の探鉱活動とその後の開発作業がBPの中でどれほど優先されるかは不明であり、現時点では本格的な開発時期は見通せない。
3. アゼルバイジャンの他の主なカスピ海ガスプロジェクト
上述のアリエフ大統領の発言の中で言及された「南ガス回廊」(Southern Gas Corridor)は、最終区間であるギリシア-イタリア間を結ぶTrans Adriatic Pipeline(TAP)が2020年に完成し、同年末にアゼルバイジャン産天然ガスの欧州(イタリア)への輸送を開始した。南ガス回廊はTAPの他2本のパイプライン(South Caucasus Pipeline(SCP)及びTrans-Anatolian Natural Gas Pipeline(TANAP))からなる総延長3,500キロメートルの天然ガス輸送ルートであり、その天然ガスは全てShah Deniz(フェーズ2)から生産されている。現状の南ガス回廊の年間輸送容量は、SCPが250億立方メートル、TANAPが160億立方メートル、TAPが100億立方メートルだが、これらは今後拡張される計画となっていて、将来的にはShah Deniz以外のガスソースが必要となる。今のところShah Denizに続くような規模の有望な案件は見つかっておらず、Shafag Asimanを含め引き続き今後の他のガス田の探鉱活動が注目される。
参考までに、アゼルバイジャン領カスピ海で進行中の主な探鉱・開発段階プロジェクトを下表に列挙する。
鉱区 [番号は図2参照] |
参加者 | PSA締結 | 原始埋蔵量 | 水深 | 貯留層の 深さ |
状況 |
Absheron [1] | Total SOCAR |
2009年 |
ガス340BCM コンデンセート 1億t |
500m | 6,500m | 2022年生産開始予定。 |
---|---|---|---|---|---|---|
Ashrafi-Dan Ulduzu-Aypara[2] | Equinor SOCAR |
2018年 | 20-225m | 2020年2月に地震探査を完了し、現在データ処理・解釈中。 | ||
Dostlug[3]
|
未定 |
ガス700BCM 石油6,500万t |
トルクメニスタンとの係争エリアだったが、2021年1月に共同開発に関するMOUを両国間で締結。今後政府間協定を締結して、探鉱・開発活動が進められる予定。 | |||
D230[4] | BP SOCAR |
2018年 | 400-600m | 3,500m | 2020年3月に3次元地震探査を完了し、現在データ処理・解釈中。 | |
Karabagh[5] | Equinor SOCAR |
2018年(RSA) | 石油6,000万t | 150-200m | 3,400m | 2022年生産開始予定。 |
Shafag Asiman[6] | BP SOCAR |
2010年 | ガス500BCM コンデンセート6,500万t |
650-850m | 7,000m | 2012年に3次元地震探査を実施。2021年3月に最初の試掘井でコンデンセートを発見。 |
SWAP [7] (Shallow Water Absheron Peninsula) |
BP SOCAR |
2014年 | 2016年に3次元地震探査完了。試掘井を2021年掘削予定。 | |||
Umid-Babek[8] (一部生産中) |
SOCAR Nobel Oil |
2017年(RSA) | ガス600BCM コンデンセート1,100万t |
50-700m | 7,000m | Umidのステージ1は2012年生産開始、ステージ2が2022年生産開始予定。Babekは探鉱活動中。 |
ACG [9] (Azeri-Chirag-Gunashli)(生産中) |
BP, SOCAR, MOL, INPEX, Equinor, Exxon, TPAO, Itochu, ONGC | 1994年 | 石油12億トン | 100-400m | 2,000m~ | 最大の石油プロジェクト。2010年をピークに生産量減退中。深いガス層の開発が長年検討されている。 |
Shah Deniz [10] (生産中) |
BP, TPAO, Petronas, Lukoil, NIOC, SOCAR, SGC | 1996年 | ガス1,200BCM コンデンセート2.4億トン |
50-500m | 6,000m | 最大のガスプロジェクト。Phase1、2生産中。生産量ピークは2023年頃。追加でPhase 3を計画している。 |
(各社公表資料、報道記事から作成)
以上
(この報告は2021年5月13日時点のものです)