ページ番号1009033 更新日 令和4年1月14日
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修正:2022/1/14
概要
- メジャー企業の2021年第1四半期決算は、パンデミックで落ち込んだ石油・ガス需要の回復と油価の上昇により全社黒字となった。全社黒字となるのは2019年第2四半期以来のことである。しかし、今期においては企業の行動に大きな変化は見られず、財務状況の改善を重視する姿勢は継続される見通し。
- ExxonMobilは、上流部門・化学部門が好調で5四半期ぶりに黒字となった。エネルギートランジションへの対応として、CCSへの注力を再強調した。Shellは、全事業が好調かつ資産売却が進み、財務の健全性が高まった。BPは、LNGスポット価格高騰等の恩恵を受けガストレーディング部門での記録的な売上により増益。また、48億米ドル相当の資産売却により財務の健全化を進めた。Chevronは黒字も、テキサス大寒波等の影響により下流部門で利益を伸ばせず。Totalは、決算の内容は良好であったが、不可抗力宣言がなされたモザンビークLNGプロジェクトの今後の動向が注目されている。
1. メジャー企業の2021年第1四半期決算の概要
メジャー企業の2021年第1四半期決算は、パンデミックで落ち込んだ石油・ガス需要の回復と油価の上昇により全社黒字となった。
表1:決算の概要
(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)
2019年12月に中国の武漢市で第一例目の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が報告されてから数カ月で世界的な流行となり、ロックダウン等の措置による経済活動の停滞により、石油・ガス需要(特に石油)が落ち込んだ。また2020年3月には、サウジアラビアとロシアの間の減産交渉が不調に終わって、その後、急速な石油増産が行われ、油価は急速に下落傾向となって、企業財務にさらなる打撃となった。
これを受けて、メジャー企業各社は開発計画の見直しに基づく設備投資の削減、ポートフォリオの最適化(積極的な資産売却)や減損処理など対応を迫られた。よって、2020年は大幅な赤字が目立った。
その後、石油・ガス需要が一定量回復し、油価も上昇、2021年第一四半期にはメジャー企業各社は収益を確保することができた。
2. 各社決算動向
(1) ExxonMobil
ExxonMobilの2021年第1四半期決算は、前年同期6.1億ドルの純損失から27.3億ドルの純利益となった。上流部門・化学部門が好調で5四半期ぶりに黒字となった。さらに、11四半期ぶりに設備投資計画と配当金を営業キャッシュフローから全額賄うことができた。また、前の2020年第4四半期決算では、米国における天然ガス資産の減損処理を行ったため大きな損失額が出ていたが、今季はそれに匹敵する減損処理がなかったことも影響している。
石油・ガスの生産量は、前期を98kboe/d上回り3.7mmboe/dとなったが、このうち原油の生産は2月のテキサス大寒波の影響等により前期の2.3mmb/dから2.2mmb/dに落ち込んだ。ただし、第1四半期全体の米国・パーミアン地域での生産量に限ると、平均394kboe/dとなり、前年比で12%増加した。
エネルギートランジション対応について、同社は二酸化炭素回収・貯留(CCS)分野におけるグローバルリーダーとして、同分野に注力していく方針を改めて強調した。
表2:ExxonMobil決算概要
(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)
(2) Royal Dutch Shell
Royal Dutch Shellの2021年第1四半期決算は、前年同期0.2億ドルの純損失から56.6億ドルの純利益となった。今回黒字となったことについて、「全セグメントが好調で統合型ビジネスモデルの強みが発揮された」とCEOのBen van Beurden氏は説明した。
石油・ガスの生産量は、前期3%増の3.4mmboe/dとなった。生産を停止していた豪州・プレリュードFLNGの再稼働などが要因となった。
Shellは純負債を650億ドルに引き下げる長期的な目標を掲げているが、今期時点の純負債は713億ドルで、2020年第4四半期と比較して40億ドル以上減少した。黒字に転じたとはいえ、今後も財務状況の改善に注力する姿勢は継続する見通しである。
表3:Royal Dutch Shell決算概要
(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)
(3) BP
BPの2021年第1四半期決算は、前年同期43.7億ドルの純損失から46.7億ドルの純利益となった。LNGスポット価格高騰等の恩恵を受けガストレーディング部門で記録的な利益を上げ、企業全体の業績に貢献した。BPはトレーディングによる利益の詳細を公表していなが、ガス・低炭素エネルギー部門の利益は、前年同期10億ドルから34億ドルに増大した。
石油・ガスの生産量は、前期から横ばいの3.2mmboe/dとなった。前年同期(3.7mmboe/d)と比較すると減少しているが、これは主にbpx energyとアラスカの資産売却の影響である。
また、オマーン・Block 61の一部権益売却を含む48億米ドル相当の資産を売却したことにより、350億ドルの純負債引き下げ目標を予定より1年早く達成し、財務の健全化を進めた。
表4:BP決算概要
(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)
(4) Chevron
Chevronの2021年第1四半期決算は、前年同期6.7億ドルの純損失から13.8億ドルの純利益となった。油価上昇により上流部門で収益を強化したが、テキサス大寒波等の影響により下流部門で利益を伸ばせなかった。
石油・ガス生産量は、前年同期比4%減の3.1mmboe/dとなった。Noble Energyの買収により生産量は増加したが、一方でOPEC+の減産、資産売却、テキサス大寒波などの多くの要因によって相殺された。
また低炭素社会の実現に向けて、カーボン・ネガティブ・バイオエネルギー(BECCS:Bio-energy with Carbon Capture and Storage)の開発と商業的で大規模な水素ビジネスの展開について意欲を見せた。Chevronは決算発表に先駆けて、今年3月にMicrosoft社、Schlumberger社と共同でカーボン・ネガティブ・バイオエネルギーの開発計画を発表している。加えて4月には、トヨタ(北米)と水素ビジネスに関する戦略的な協力協定(memorandum of understanding)を結び、水素インフラ構築に向けた政策や燃料電池車の需要の検討等、大規模な水素ビジネスの成立に向けて協力することで合意した。
表5:Chevron決算概要
(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)
(5) Total
Totalの2021年第1四半期決算は、前年同期0.3億ドルから33.4億ドルの純利益に向上した。CEOのPatrick Pouyanné氏は、石油・ガス価格の上昇に加えて、LNG事業、再生可能エネルギー(再エネ)・電力事業の貢献があったと述べ、「再エネの設備容量は、過去1年間で3GWから7.8GWに増加し、発電量は2倍以上、純発電量は60%以上増加し、フランス国内の顧客数は500万人を超えた」と再エネ事業の成長を強調した。
石油・ガス生産量は、前年同期比7%減の2.8mmboe/dとなった。これは、OPEC+の減産によるものである。
一方で、不可抗力宣言をしたモザンビークLNGプロジェクトの行方が注視される。
表6:Total決算概要
(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)
おわりに
石油・ガス需要の回復と油価の上昇により今期は全社黒字となったが、メジャー企業にとっての当面の優先事項は、財務状況の健全化と配当の増加であろう。カーボンニュートラルに向けた動きが加速し、さらには油価下落・財務悪化に伴って配当減少を強いられているメジャー企業では格下げが相次いだ。石油会社に対する評価を高めるためには、設備投資を拡大するよりも財務健全化や配当回復を優先することが重要と考えられる。
今後、世界がパンデミックを克服し、経済活動が活発になり、エネルギー需要が増加する局面で、メジャー企業が開発計画の見直しを行うのか、そしてどのような投資を行うのか、今後の動向を注視したい。
以上
(この報告は2021年5月13日時点のものです)