ページ番号1009034 更新日 令和3年5月17日
原油市場他:米国等での新型コロナウイルスワクチン接種普及進展とインド等一部諸国での新型コロナウイルス感染拡大等の強弱材料に挟まれる中、原油価格は若干上昇
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概要
- 米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来等に向け、製油所でのガソリン生産が活発化する一方、暖房シーズンの終了接近により留出油生産が不活発化したこともあり、ガソリン在庫は増加傾向となり平年幅上限を上回る一方、留出油在庫は減少傾向となり平年幅上限付近に位置する量となっている。他方、製油所の原油精製処理量が増加したうえ輸出も堅調であったことにより原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限は上回っている。
- 2021年4月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、日本では原油精製処理活動の鈍化もあり在庫は増加となったものの、米国では在庫が減少した他、欧州でも原油精製処理活動活発化により在庫が減少したことで、相殺されて余りあった結果、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、ガソリン在庫に加えその他の石油製品在庫が増加した一方、留出油在庫が減少したこともあり、米国では石油製品在庫は小幅に増加した。他方、欧州の一部諸国で都市封鎖措置等が実施されたこともあり、個人の外出が敬遠される等したと見られることにより、中間留分需要がもたつき気味になるとともに当該製品在庫が増加したことから、当該地域の石油製品在庫も増加した。また、新型コロナウイルス感染拡大抑制のため、4月12日以降日本では新型コロナウイルス感染抑制関連措置が実施されたこともあり、同国ではガソリン需要等が抑制されたと見られるとともに石油製品在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、平年幅上限を超過する量となっている。
- 2021年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場では、米国等で新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展するにつれ石油需要の伸びに対する期待が市場で増大したことに加え、5月7日に米国のコロニアル・パイプラインがサイバー攻撃により操業を停止したことに伴い同国東部海岸地域でのガソリン供給が混乱を来し始めたこと等が原油相場に上方圧力を加えた一方、インドでの新型コロナウイルス感染が拡大傾向となったうえ、コロニアル・パイプラインが操業を再開したこと等が原油相場に下方圧力を加えたことから、原油価格(WTI)は1バレル当たり概ね61~66ドルを中心とする範囲で上下に変動しつつも、若干ながら上昇する傾向を示した。
- 今後は、米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大しやすくなると見られるうえ、一部諸国及び地域における新型コロナウイルスワクチン接種普及進展による石油需要の増加に対する期待が市場で強まりつつあることが、原油価格上昇にとって支援材料となるものと考えられる。ただ、インド等新型コロナウイルス感染者数が高止まりしている諸国及び地域における感染状況等によっては原油相場に下方圧力が加わる場面が見られることがありうる。また、イラン核合意正常化を巡る動向とイランからの原油生産状況によっても原油価格が変動する可能性がある。さらに、6月1日に開催が予定されるOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置を巡る方針や中東情勢等地政学的リスク要因等も原油相場に影響しうるものと見られる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が2021年4月に実施している減産措置を5月から7月にかけ縮小へ
(1) 協議内容等
2021年4月27日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催した(但し後述の通り完全な形での開催ではなかった)。当該会合は当初OPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministers Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、及びカザフスタンとされる)とともに、4月28日にテレビ会議形式で開催される予定であったが、まず、JMMCが4月27日へと1日繰り上げられて電話会議形式で開催され、さらに同日JMMC委員の産油国が他のOPECプラス産油国に対しOPECプラス産油国閣僚級会合を完全な形で開催することは取り止める旨連絡するとともに、意見交換を実施することを通じOPECプラス産油国閣僚級会合の声明を起草する(そしてその後発表する)など、変則的なものとなった。
今回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、前回会合(4月1日開催)で決定した減産措置(2021年4月に実施している日量690万バレルの減産措置を、5月は日量35万バレル縮小し同655万バレル、6月にさらに同35万バレル縮小し同620万バレル、7月にさらに同44万バレル縮小し同576万バレルにする)につき、当初予定通り実施することを確認した(表1参照)。
また、前回OPECプラス産油国閣僚級会合開催の際にサウジアラビアが明らかにした、同国が単独で実施している日量100万バレル(4月時点)の自主的な追加減産措置の段階的縮小(5月は同25万バレル縮小し同75万バレルに、6月に同35万バレル縮小し同40万バレルにする他、7月には同40万バレル縮小し当該追加減産を終了)についても、当初予定通り実施することを確認した。
さらに、当該会合では、2021年3月のOPECプラス産油国による減産遵守率が115%と良好なものであることを歓迎した。そして、2021年3月のOECD諸国石油在庫は前月から1,440万バレル増加し、過去5年(2015~19年)平均を7,740万バレル超過しているものの、当該石油在庫は減少傾向となっている旨OPECプラス産油国は認識した。そして、会合では、過去最大規模の金融及び財政支援策により世界経済回復が継続し、その回復が2021年後半に加速すると予想する旨の見解が提示された。
しかしながら、会合では、新型コロナウイルスワクチン接種実施にもかかわらず、一部諸国では新型コロナウイルス感染者数が増加しており、それが経済及び石油需要を抑制する可能性があることに言及した。このような市場を巡る不透明な状況から、減産措置参加国は注意を怠らないとともに柔軟な対応を継続する旨喚起された。
他方、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産遵守率を達成できていないOPECプラス産油国減産措置参加産油国は9月30日までに減産目標未達成部分を追加して減産するよう求められるとともに、会合では、遅滞なく世界石油市場均衡を加速することの重要性が強調された。
次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は6月1日に開催される予定である。また、次回JMMCについても6月1日(次回OPECプラス産油国閣僚級会合開催日と同日)に開催することとした。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2021年4月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、サウジアラビアの自主的な追加減産を含め5~7月にかけ減産措置を縮小する方針を決定した。ただ、当該会合開催直前まで、OPECプラス産油国は4月に実施する減産措置を5月もほぼ同規模で実施する方向で議論を継続していたことが覗われる。背景としては、OECD諸国石油在庫が未だ過去5年平均を上回っていた(図1参照)他、イラン核合意正常化を見越したイラン原油生産増加の可能性に加え、当時欧州一部諸国等で新型コロナウイルス感染拡大に伴う都市封鎖措置等が強化されることにより石油需要が下振れする恐れあったことなど、必ずしも足元の石油需給状況の堅調さが盤石ではなく、これまで将来の石油需給引き締まりに伴う原油価格上昇期待から金融緩和を背景として低コストで投資資金を調達し原油市場に流入させていた(結果原油価格を下支えする一因となっていた)投資家の心理が、イラン原油生産増加、新型コロナウイルス感染者数抑制のための都市封鎖等に伴う石油需要の下振れ、そしてOPECプラス産油国閣僚級会合における減産措置縮小の決定等に伴い、変化することにより、投資資金が原油市場から急速に退出することを通じ原油価格が急落するといった展開となる可能性があることに対する懸念があったことが挙げられる。
そのような背景とともに、足元石油需給が季節的に緩和しやすい第二四半期(北半球での暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は終了した後となる一方で、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期にはまだ早い)に突入しつつあったことに加え、3月30日に開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)では、新型コロナウイルス感染が世界の一部諸国及び地域で拡大、都市封鎖措置及び旅行制限等が再導入されている状況を認識しつつ、サウジアラビアの提案により2021年の世界石油需要の前年比での増加見通しを日量590万バレルから同560万バレルへと下方修正したうえ、特に4~6月の世界石油需要を以前の見込みよりも日量100万バレル下方修正したことに伴い、OPECプラス産油国は原油価格下落を防止するために先制的に行動すべく、5月の減産措置の4月のそれとほぼ同規模で実施することを検討したものと見られる。
しかしながら、3月31日に米国エネルギー省のグランホルム(Granholm)長官がサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相と間で電話会談を実施、会談後グランホルム氏は、消費者にとって手頃な価格で信頼できるエネルギー源を確保するための国際的な協力の重要性につき再確認した旨同日夜(米国東部時間)に明らかにした。
3月29日時点の米国平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり2.941ドルに到達しており、さらなるガソリン小売価格の上昇(そしてこの先米国は夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入することからガソリン小売価格がさらに上昇する可能性がそれなりにあった)は米国国民の不満を増大させる(米国平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3ドルを超過して上昇し続けるようだと同国国民の不満が増大しやすいとされる)ととともに政権の支持率に影響する恐れがあったことから、これ以上の原油価格の上昇をグランホルム氏が牽制した可能性が示唆される。
3月31日に実施した米国とサウジアラビアとの電話会談は、エネルギー分野での協力の強化につき両国が緊密に作業していく旨の内容であったと4月1日に国営サウジ通信が伝えた他、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は4月1日に開催したOPECプラス産油国閣僚級会合の際の減産措置方針決定の際には米国を含む消費国からの影響は受けていない旨明らかにしているが、それまでサウジアラビアの自主的な追加減産を含めOPECプラス産油国の減産措置を維持する方向で協議していた、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国が、4月1日開催のOPECプラス閣僚級会合直前(24時間前とされるが、それは米国とサウジアラビアの電話会談の実施前後の時点と概ね重なる)に減産措置緩和へと議論を急転換したとされており、実際4月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、サウジアラビアによる自主的な追加減産を含め、5月から7月にかけ減産措置を縮小する旨決定した。
なお、原油価格が下落するなど石油市場を巡る状況が変化した場合には、原油生産量を増加、凍結、もしくは減少させるなど方針を迅速に調整する意向である旨サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相が4月8日に明らかにしており、依然として新型コロナウイルス感染や新型コロナウイルスワクチン接種普及を巡る状況等世界石油需給を巡る情勢に不透明感が強いこともあり、原油価格下落に対し遅滞なく対応できるようにするため、次回OPECプラス産油国閣僚級会合を1ヶ月未満後の4月28日に開催することにしたものと見られる。
しかしながら、4月1日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催後、米国及び中国で新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展しつつある他、経済が改善しつつあることを示す指標類が発表されるなどしたこともあり、4月6日に国際通貨基金(IMF)が発表した世界経済見通し(WEO: World Economic Outlook)では、IMFは2021年の世界経済成長見通しを6.0%と2021年1月20日発表時の5.5%から上方修正した。また、IMFが2021年の世界経済成長見通しを上方修正したこともあり、4月13日にOPECが発表した「月刊オイル・マーケット・レポート」において、OPECが2021年の世界石油需要を日量19万バレル上方修正したことに加え、4月14日に国際エネルギー機関(IEA)が発表した「オイル・マーケット・レポート」においても、IEAが同年の世界石油需要を日量21万バレル上方修正したことが、原油相場に上方圧力を加えた。
このようなことを含む原油価格上昇要因が、4月1日のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定された減産措置の縮小に伴う市場での石油需給緩和感の醸成、インド等での過去最高水準への新型コロナウイルス感染者数増加による同国等の経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念の市場での増大、そしてイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議進展等を見越したイランからの原油生産増加観測の市場での拡大といった、原油相場への下方圧力を抑制する格好となったこともあり、4月1日以降原油価格は今回のOPECプラス産油国閣僚級会合直前まで概ね58~63ドルを中心とする範囲で比較的安定して推移した(図2参照)。
また、このように原油価格が比較的限られた幅で変動していたこともあり、4月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり2.9ドル台と、米国国民の政権に対する不満が強まり始める1ガロン当たり3ドルを割り込んだ状態で推移した(図3参照)。
従って、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国としては、原油価格は上昇傾向には至っていないものの、かといってOPECプラス産油国による制御が困難となるような下落傾向も発生していないことから、原油価格がさらに上昇した場合に比べれば原油収入を多く確保できない可能性があることにより、大いに満足できる状況というわけではなかったと見られるものの、原油価格下落傾向継続に伴い原油収入が大幅に減少することにより窮地に立たされつつあるわけでもなかったことにより、現状は受入可能な状態であると見られた。
一方、米国側としても足元のガソリン小売価格が1ガロン当たり3ドル寸前ではあるもののその水準を割り込み続けていたこともあり、米国国民による不満が増大する可能性は低いという意味で、現状の原油価格水準は受入可能な状況であると見られるなど、OPECプラス産油国及び米国双方の利害が概ね一致している状態であったこともあり、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、既に決定した減産措置の縮小方針に関しては、さらなる調整を施さず、当初予定通り実施することとしたものと考えられる。
他方、既に方針を決定している5~7月の後の、8月以降の減産措置を巡る方針については、新型コロナウイルスワクチン接種の普及がさらに進展する結果世界経済成長が加速するとともに石油需要の伸びが回復することにより、石油需給が引き締まる方向に向かうとともに原油相場に上方圧力を加えるといった展開もありうる一方、変異株を含む新型コロナウイルス感染が一部諸国で拡大することにより、都市封鎖措置等が強化されることを通じて、世界経済成長が伸び悩むととともに、石油需要が下振れする結果、石油需給緩和感が市場で醸成されるとともに原油相場に下方圧力を加えるリスクも存在するなど、不透明感が強いことに加え、現時点では8月まであと3ヶ月程度あるなど比較的期間的な余裕もあることから、当該期間における減産措置に関する方針の決定は見送られたものと考えられる。
しかしながら、今後新型コロナウイルスワクチン接種普及状況及び感染状況等を巡る情勢に加え、イラン核合意正常化を巡るイランと西側諸国との協議の進捗状況、もしくはイランの原油生産状況等によっては、原油相場が上下に変動する可能性があることから、原油価格の安定化を図るべく、減産措置参加国は注意を怠らないとともに柔軟な対応を継続する旨喚起された他、原油生産方針に関し時機を得た判断を行うべく、約1ヶ月後の6月1日に次回OPECプラス産油国閣僚級会合を開催する旨決定したものと考えられる。
(3) 原油価格の動き等
今般のOPECプラス産油国閣僚級会合では、過去最大規模の金融及び財政支援策により世界経済回復が継続し、その回復が2021年後半に加速すると予想する旨の認識が示されたことで、この先の世界石油需要の回復に対しOPECプラス産油国が自信を持っていることが示唆されていると市場参加者が受け取ったことに加え、一部諸国では新型コロナウイルス感染者数が増加しており、それが経済及び石油需要を抑制する可能性があるものの、減産措置参加国は注意を怠らないとともに柔軟な対応を継続する旨喚起されたこと、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催を6月1日とするなど時間的な間隔を開けずに開催する旨決定することで、石油市場の状況変化に迅速に対応する姿勢が示されたことにより、新型コロナウイルス感染拡大に伴う石油需給緩和の可能性に対する不透明感を巡る懸念が市場で後退したこともあり、OPECプラス産油国閣僚級会合開催当日である4月27日の石油市場では原油相場に上方圧力が加わる格好となっており、この日のWTIの終値は1バレル当たり62.94ドルと前日終値比で同1.03ドル上昇した。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2021年2月の米国ガソリン需要(確定値)は日量774万バレル、前年同月比で13.6%程度の減少と2021年1月の同12.5%の減少から多少なりとも減少率が拡大した(図4参照)他、速報値(前年同月比で10.8%程度減少の日量800万バレル)から下方修正された。同月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量60万バレル程度と推定されるところ確定値では同69万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。また、2021年1月31日には113,454人であった同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が2021年2月28日には同50,925人へと半減したこともあり、個人の外出が促進されたことが同国の自動車運転距離数を増加させる方向で作用したと見られるものの、2月は前年同月比で大きく冷え込んだ地域があったこともあり、個人の外出が敬遠されたことが、自動車運転距離数(2月は米国全体で前年同月比12.1%の減少と1月の同11.3%減少から減少率が拡大している)に負の影響を及ぼした(特に2月15~16日頃に米国テキサス州等に寒波「ウリ(Uri)」が来襲した結果、停電等が発生するなど混乱したテキサス州の同月の自動車運転距離数は前年同月比18.9%の減少と1月の同10.5%の減少から減少率が大きく上昇している)ことが、同月のガソリン需要の前年同月比での落ち込みの背景にあるものと考えられる。他方、2021年4月の同国のガソリン需要(速報値)は日量894万バレル、前年同月比で52.7%程度の増加と、3月の同国ガソリン需要(速報値)の同868万バレル(同11.6%程度の増加)から前年同月比での需要増加率が大幅に拡大している。1月20日の大統領就任後100日間で2億回の新型コロナウイルスワクチン接種実施の目標を4月21日に前倒しで達成するなど、同国では新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展していることに加え、気温が上昇してきたこともあり、個人の外出が促進されるとともに同国の自動車運転距離数が3月から増加した(併せて、2021年4月の同国自動車運転距離数の前年同月比で伸びが推定58.1%と3月の同14.8%から拡大している)ことが、4月の同国ガソリン需要増加率の前月からの拡大に寄与しているものと考えられる。ただ、2020年4月は米国では新型コロナウイルス感染拡大の個人の外出敬遠に対する影響が強く現れた時期でもあったこともあり、同月の自動車運転距離数は前年同月比で40.1%減少するとともに、同月の米国ガソリン需要も前年同月比で37.8%程度減少した反動で、2021年4月の同国ガソリン需要が大幅に増加した格好となっている側面もあり、2021年4月の同国ガソリン需要は2019年4月の当該需要(日量941万バレル)に比べれば依然として5.0%程度減少したままとなっている。そして、新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展に伴い、この先も個人による自動車を利用した外出が活発化するとともにガソリン需要が回復に向かい続けるとの期待が強まりつつある他、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2021年は5月29日(5月31日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休(5月29~31日))から9月6日(9月6日の労働者の日(レイバー・デー)に伴う連休(9月4~6日))まで)が視野に入ってきていることにより、同国のガソリン価格が上昇しつつあることもあり、製油所でのガソリン生産に伴う利幅が拡大してきていることから、製油所での稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加した(図5参照)ものの、かえって製油所でのガソリン生産活動が多少なりとも需要に先走って活発化したこと(ガソリン最終製品の生産は図6参照)もあり、4月上旬から5月上旬にかけての米国ガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を上回る状態となっている(図7参照)。
2021年2月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量395万バレルと前年同月比で1.6%程度の減少となり、1月の同1.6%程度の減少とほぼ同程度の減少率となった他、速報値である日量414万バレル(同3.2%程度の増加)から下方修正された(図8参照)。2月15~16日頃にテキサス州等に寒波「ウリ」が来襲するなどしたことが、同国の製油所及び石油化学工場を含む製造活動に影響を与えたことにより、2月の同国の鉱工業生産が前年同月比で5.7%の減少と1月の同2.2%の減少から減少率が拡大したこともあり、同月の同国の物流活動が前年同月比で2.4%の低下となったことが留出油需要に影響したものと考えられる。他方、2021年4月の留出油需要(速報値)は日量409万バレルと前年同月比で16.7%程度の増加となっており、3月の当該需要(速報値)の同396万バレル(同1.3%程度の増加)から増加率が相当程度拡大している。米国で新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展するとともに追加経済対策が実施されたことにより、経済成長が持ち直しつつあったこともあり、2021年4月の米国鉱工業生産が前年同月比で16.5%の増加と相当程度伸びたことにより、同月の物流活動も前年同月比でそれなりに拡大したと見られることが、留出油需要の増加率に反映されているものと見られる。また、2020年4月は、米国での新型コロナウイルス感染拡大による経済活動制限強化の影響が強く現れた時期でもあり同月の同国鉱工業生産は前年同月比で16.3%の落ち込み幅を記録するとともに、同月の同国物流活動も同10.0%の減少となるなどしたことから、2020年4月の米国留出油需要は日量351万バレルと前年同月比で14.9%の減少となったことにより、その反動が2021年4月の当該石油製品需要の伸びに反映された側面もあるものと考えられ、2021年4月の留出油需要は2019年4月のそれ(日量412万バレル)を僅かではあるが下回っている。また、米国の製油所における原油精製処理活動は上向いたものの、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期が終了しつつあるとともに、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が市場参加者の視野に入りつつあることにより、3月初頭頃以降製油所でのガソリン生産に伴う利幅が留出油生産に伴う利幅を上回ったことから、製油所ではガソリンの生産を重視する一方、留出油生産の優先度が低下したこともあり、当該石油製品の生産が頭打ち気味となったこと(図9参照)が一因となり、4月上旬から5月上旬にかけての米国留出油在庫は減少傾向となった他、平年幅上限付近に位置する量となっている(図10参照)。
2021年2月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で12.1%程度減少の日量1,744万バレルとなった(図11参照)。ガソリン、ジェット燃料、プロパン/プロピレン及びその他の石油製品を含め幅広く石油製品需要が前年同月の水準を割り込んだことが同国石油需要の前年同月比での減少に反映されている。同月は寒波「ウリ」が米国に来襲した結果、石油化学製品生産関連施設の稼働に支障が発生したと見られることもあり、石油化学産業向けの原料となるエタンの需要が落ち込んだことが、エタンを含むその他の石油製品需要の減少の背景にあるものと見られる。また、ガソリン、留出油、及びその他の石油製品等幅広い範囲の石油製品の需要の確定値が速報値から下方修正されたこともあり、米国石油需要(確定値)は速報値(日量1,941万バレル、前年同月比2.2%程度の減少)から下方修正されている。他方、2021年4月の米国石油需要(速報値)は日量1,970万バレルと前年同月比で34.1%程度の増加となった。2020年4月は米国での新型コロナウイルス感染拡大により個人の外出規制及び経済活動制限の影響を強く受けた時期でもあり、ガソリン、留出油及びジェット燃料と広範に渡り需要が減退しており、その反動が2021年4月の同国石油需要に現れたことに加え、米国での新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展と追加経済対策の実施、そして米国株式相場の上昇等もあり、米国での個人の外出が促進されるとともに経済活動が回復しつつあったことが、2021年4月の米国石油需要の大幅な伸びに織り込まれているものと思われる。ただ、2021年4月の米国石油需要は2019年4月のそれ(確定値、日量2,033万バレル)をなお2.8%程度下回っている。また、2021年4月のその他の石油製品の需要は日量423万バレルと前年同月比で同73万バレルの増加となっているが、過去の実績(2020年2月~2021年1月の1年間(確定値)で日量308~431万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、米国原油生産が概ねほぼ一定の水準で推移した一方、製油所での原油精製処理量が増加した他、3月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で4月実施予定の減産措置をサウジアラビアの自主的な追加減産を含め3月のそれとほぼ同規模とする旨合意するなど当初の市場の予想よりは石油需給を引き締める方向で減産措置を決定した(当初OPECプラス産油国は4月の減産措置の規模を3月のそれに比べ日量50万バレル縮小することが望ましいと考えていた旨2月24日に報じられた他サウジアラビアも日量100万バレルの自主的な追加減産につき縮小あるいは終了することを検討していたと3月2日に伝えられた)により米国よりも主要OPECプラス産油国である中東湾岸諸国やロシアに相対的に近距離である欧州市場での石油需給引き締まり感が市場で強まったことが欧州での指標原油であるブレントの価格に上方圧力を加える格好となったうえ、2月中旬の米国テキサス州等への寒波「ウリ」の来襲後、寒波の影響を受けた米国の油田での原油生産が比較的早期に回復する一方同国の製油所の操業再開がもたつき気味となったこともあり、2月後半以降3月中旬にかけ同国の原油在庫が相当程度増加したことが米国の指標原油であるWTIに下方圧力を加える格好となったことにより、ブレント原油価格のWTIのそれを上回る幅が拡大したこともあり、米国からの原油輸出が比較的高水準を維持した結果、4月上旬から5月上旬にかけ米国の原油在庫は減少傾向を示したが、平年幅上限を上回る状態は続いている(図12参照)。そして、留出油在庫が平年幅上限付近に位置する量となった他、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図13及び14参照)。
2021年4月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、日本では製油所の装置不具合発生等による原油精製処理活動の鈍化もあり在庫は増加となったものの、米国では原油在庫が減少した他、欧州でも春場の製油所メンテナンス作業が峠を越えつつあることもあり製油所での原油精製処理活動が活発化するとともに在庫が減少したことで、相殺されて余りあった結果、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図15参照)。石油製品については、ガソリン在庫に加え冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要減少によりその他の石油製品在庫が増加した一方、留出油在庫が減少したこともあり、米国では石油製品在庫は小幅に増加した。他方、米国での新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展に伴い、この先も個人による自動車を利用した外出が活発化するとともにガソリン需要が回復に向かい続けるとの期待が強まりつつあった他、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が視野に入ってきていることにより、米国のガソリン価格が欧州のそれに比べ総じて堅調に推移したこともあり、欧州の製油所の稼働上昇に併せ生産が活発化したガソリンが米国方面に輸出されたと見られることが、欧州でのガソリン在庫を抑制したものの、4月は欧州の一部諸国で都市封鎖措置等が実施されたこともあり、個人の外出が敬遠された他経済活動が制限されたと見られることにより、軽油等中間留分需要がもたつき気味になるとともに当該製品在庫が多少なりとも増加したことで相殺されて余りあったことから、当該地域の石油製品在庫は増加した。また、新型コロナウイルス感染拡大抑制のため、4月12日以降日本の一部都府県において新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくまん延防止等重点措置が適用されたこと、さらに4月25日には、同じく新型コロナウイルス感染拡大防止のため東京都を含む4都府県に対し緊急事態宣言が発出されたことにもあり、同国での個人の外出及び経済活動が鈍化したと考えられることにより、ガソリン及び軽油の需要が抑制されたと見られるとともにそれら製品を中心として同国の石油製品在庫が増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、平年幅上限を超過する量となっている(図16参照)。そして、原油及び石油製品双方の在庫が平年幅上限を上回ったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する状態となっている(図17参照)。なお、2021年4月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は65.6日と3月末の推定在庫日数(66.7日)から低下している。
4月14日に1,400万バレル台後半程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、4月21日に1,300万バレル台半ば程度、4月28日は1,200万バレル台半ば程度、5月5日には1,200万バレル弱程度の、それぞれ量へと減少した。また、5月12日には1,200万バレル台半ば程度へと回復したが、当該在庫は4月14日の水準を下回るとともに、総じて減少傾向となった。日本、韓国、及び中国等アジアの一部諸国で春場の製油所メンテナンス作業が本格化したり、製油所の一部装置で不具合が発生したりしたことにより、3月から4月にかけてはそれら製油所での稼働が低下するとともに石油製品生産活動が不活発化した影響が、これら諸国によるシンガポール方面へのガソリン等軽質留分の輸出抑制の形となって現れたうえ、2月15~16日頃に米国テキサス州等メキシコ湾岸地域に寒波「ウリ(Uri)」が来襲したことにより、停電や凍結などで装置に不具合が発生したこと等に伴い一部製油所の操業が停止した結果、原油精製処理活動が減速する(同国メキシコ湾岸地域の原油精製処理量は2月12日の週には日量829万バレルであったが、2月26日の週には同389万バレルと同440万バレル減少した他、この週の原油精製処理量は、ハリケーン「グスタフ(Gustav)」が米国メキシコ湾岸地域に来襲した2008年9月19日の週(この時は同347万バレル)以来の低水準に到達していた)とともに、石油製品生産活動が鈍化したこともあり、米国ガソリン在庫が減少したことにより同国のガソリン価格が欧州のそれに比べ相対的に割高になるとともに米国等に向け欧州方面からガソリン等が輸出される代わりに、欧州方面からアジアに向けたガソリン等の流れが低下したと見られることが、シンガポールでの軽質留分在庫減少の背景にあるものと考えられる。そして、インド等で1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が増加傾向にあることが、これら諸国での個人の外出を低迷させるとともにガソリン需要に影響を与えていると見られることが、アジアでのガソリン価格を抑制する方向で作用したものの、シンガポールでの軽質留分在庫の減少によりアジア地域のガソリン需給引き締まり感が強まったことが、ガソリン価格を押し上げる方向で作用したこともあり、4月中旬から5月中旬にかけてのアジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は概して拡大する傾向を示した。
また、米国での新型コロナワクチン接種進展に伴う個人の外出促進により同国のガソリン需要が持ち直しつつあるとともに、欧州から米国向けガソリン輸出が活発化しつつあることにより欧州でガソリンに混入するナフサの需要が増加するとともに、欧州方面からアジアへのナフサの流入が鈍化するとの予想が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格を下支えしたものの、日本、韓国、台湾及び中国等一部アジア諸国のナフサ分解装置でメンテナンス作業が実施されたり実施される予定であったりすることに伴い、これら装置の稼働停止により原料となるナフサの需要が減少するとの見方が市場で発生した他、気温が上昇傾向となったことにより、暖房向け需要が低下しつつあった液化石油ガス(LPG)の価格が下落するとともに石油化学産業における原料としてナフサと競合し始めるとの観測が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加える格好となった結果、4月中旬から5月中旬にかけナフサ価格はドバイ原油価格をどちらかというと下回る展開となり、3月中旬から4月中旬にかけナフサ価格がドバイ原油価格を上回ったり下回ったりした状態と比較すると、相対的に軟調に推移した。
4月14日には1,300万バレル台半ば程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、4月21日も1,300万バレル台半ば程度の水準を維持した。4月28日には1,300万バレル弱の量へと減少したものの、5月5日には再び1,300万バレル台半ば程度の水準へと回復、さらに5月12日には1,400万バレル弱の量となるなど、概ね限られた範囲内で推移した。アジア一部諸国でメンテナンス作業が実施される等していることにより製油所の稼働が低下するとともに中間留分のシンガポールへの流入が鈍化する一方、2月中旬から3月下旬にかけ欧州での1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が増加傾向となったこともあり、3月中旬頃から5月上旬頃にかけ欧州一部諸国が都市封鎖措置等を実施した(国によって期間や措置内容等は異なる)ことにより欧州での中間留分需要が低迷したこともあり、アジアからの欧州方面向けての中間留分輸出がもたつき気味となったことに加え、3月以降1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が増加傾向となったインドからの中間留分輸出が活発化したと見られることにより、競合するシンガポールからの中間留分輸出が抑制される格好となったことが、シンガポールでの中間留分在庫を比較的小幅な変動に止める背景となったものと考えられる。そして、そのようにシンガポールでの中間留分在庫が概ね横這いとなったこともあり、4月中旬から5月中旬にかけアジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)も総じて限られた範囲内で推移した。
4月14日に2,400万バレル弱程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、4月21日には2,400万バレル台後半程度の量へと増加した。4月28日には2,400万バレル台半ば程度の水準へと若干低下したものの、5月5日には2,700万バレル台前半程度の量へと再び回復した。5月12日には2,600万バレル台半ば程度の量へと減少しているが、当該在庫は総じて増加傾向と示している。2月を中心としてシンガポールでの重油在庫が低水準となったことにより、アジア市場での重油価格が欧州市場のそれに比べ割高となる場面が見られたこともあり、欧州方面からアジアへ重油が流れたことが、シンガポールでの重油在庫の増加傾向を創出した一因となっているものと考えられる。そしてそのようなシンガポールでの重油在庫の増加傾向に伴いアジア市場での重油の需給緩和感が市場で醸成されたことが、重油価格に下方圧力を加えた結果、4月中旬から5月中旬のアジア市場での高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合重質高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は3月中旬から4月中旬のそれに比べ、総じて拡大する傾向を示したが、シンガポールでの重油在庫拡大に伴いアジア市場の重油価格の欧州市場のそれに対する割高感が薄れたこともあり、欧州方面からシンガポールへの重油の流れがこの先鈍化するとの観測が市場で発生したことが、重油価格のさらなる下落を抑制する格好となっている。
3. 2021年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場等の状況
2021年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場では、米国等で新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展するとともに個人の外出規制及び経済活動制限が緩和される兆しが見えてきたことにより、同国等の経済成長加速と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことに加え、2020年前半に大幅に増加した世界石油在庫が今や正常な水準に近づいてきた旨の見解を5月12日に国際エネルギー機関(IEA)が披露したこと、5月7日に米国のコロニアル・パイプラインがサイバー攻撃により操業を停止したことに伴い同国東部海岸地域のガソリン供給が混乱を来し始めたこと等が原油相場に上方圧力を加えた一方、インドの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が増加傾向となり、しばしば過去最高記録を更新する場面が見られたことにより同国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、コロニアル・パイプラインが操業を再開したこと等が原油相場に下方圧力を加えたことから、原油価格(WTI)は1バレル当たり概ね61~66ドルを中心とする範囲で上下に変動しつつも、若干ながら上昇する傾向を示した(図18参照)。
米国製薬大手ファイザー及びドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックが2021年に両社製の新型コロナウイルスワクチン1億回分を追加で欧州連合(EU)諸国に対し供給することでEUと合意した旨4月19日にEUが発表したことにより、EU諸国でのワクチン接種普及が加速することにより、当該地域での経済成長が加速するとの期待が市場で増大したこともあり、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したことに加え、2月のサウジアラビアの原油輸出量が日量563万バレルと前月(同658万バレル)から相当程度減少し、2020年6月(この時は同498万バレル)以来の低水準に到達した旨4月19日にJODI(Joint Organizations Data Initiative)が明らかにしたことから、4月19日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.25ドル上昇し、終値は63.38ドルとなった。ただ、4月19日時点のインドの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が259,167人であり、前日の過去最高水準(273,802人)近辺で推移するなどしている旨4月20日に報告されたことにより、同国等での個人の外出規制及び経済活動制限の強化に伴う経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.44ドルと前日終値比で0.94ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2021年5月渡し原油先物契約は取引を終了したが、6月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり62.67ドル(前日終値比0.76ドルの下落)であった)。また、4月20日現在のインドの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が295,158人と過去最高水準に到達した旨4月21日に判明したことにより、同国等での経済成長減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場でさらに増大したことに加え、4月21日にEIAから発表された米国石油統計(4月16日の週分)で、原油在庫が前週比で59万バレルの増加と市場の事前予想(同300~355万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことから、4月21日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.09ドル下落し、終値は61.35ドルとなった。この結果原油価格は4月20~21日の2日間で1バレル当たり合計2.03ドル下落した。そして、リビア中央銀行が石油産業向け資金供給を拒否しているとして、4月19日にリビア国営石油会社NOCが同国東部のハリガ(Hariga)石油ターミナルからの原油出荷に対し不可抗力条項の適用を宣言する(後述)とともに、同石油ターミナルを運営するNOC傘下のアラビアン・ガルフ・オイル(Arabian Gulf Oil)の原油生産量が日量28万バレル(同社原油生産量の約90%)程度減少したと4月19日に伝えられたうえ、同じくNOC傘下のシルト・オイル(Sirte Oil)も資金不足で今後72時間以内に原油生産量を日量10万バレル減少せざるをえなくなる旨4月22日に明らかにしたことより、同国からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことが、4月22日の原油相場に上方圧力を加えたものの、4月21日現在のインドの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が314,644人と過去最高水準に到達した旨4月22日に判明したうえ、日本政府が同国の一部地域で4月25日から5月11日にかけ緊急事態宣言を発出する方針を固めた旨4月22日に報じられたことにより、同国等での個人の外出抑制及び経済活動制限の強化に伴う経済成長減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、4月22日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.08ドルの上昇にとどまり、終値は61.43ドルとなった。4月23日には、この日英国金融情報サービス会社IHSマークイットから発表された4月のユーロ圏製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門景況感改善と悪化の分岐点)(速報値)が63.3と前月の62.5から上昇した他市場の事前予想(62.0)を上回ったうえ、同日IHSマークイットから発表された4月の米国製造業PMI(50が当該部門景況感改善と悪化の分岐点)(速報値)が60.6と前月の59.1から上昇した他、2007年5月の当該統計史上最高水準に到達したこと、同日米国商務省から発表された3月の同国新築住宅販売件数が年率102.1万件と前月比で20.7%増加、2006年8月(この時は同103.5万件)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(同88.5~88.6件)を上回ったことにより、欧米諸国での経済成長加速と石油需要の伸びの拡大に対する楽観的な見方が市場で増大したことに加え、欧米地域での経済状態が改善しつつあることを示唆する経済指標類が発表されたこともあり米国株式相場が上昇するとともに投資家のリスク許容度が拡大したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.14ドルと前日終値比で0.71ドル上昇した。
また、4月25日に日本政府が東京都及び大阪府を含む4都府県に対し5月11日までの予定で緊急事態宣言を発出したうえ、4月25日時点でのインドでの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が352,991人と過去最高記録を更新した旨4月26日に判明したことにより、これら諸国の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、リビア政府が10億ディナール(約2.25億ドル)の資金を提供することにより、同国のハリガ石油ターミナルからの原油出荷に関する不可抗力条項の適用を4月26日に解除する旨同日NOCが発表したことにより、同国からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、4月26日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.23ドル下落し終値は61.91ドルとなった。しかしながら、4月27日には、過去最大規模の金融及び財政支援策により世界経済回復が継続するととともに、その回復が2021年後半に加速するとの予想の下、当初予定通り5月1日より減産措置を縮小する旨4月27日にOPECプラス産油国が確認したことに加え、米国の石油需要は2020年の新型コロナウイルス感染拡大前の状態にまでほぼ回復した他中国の石油需要は2020年の新型コロナウイルス感染拡大前を上回っている旨大手国際石油会社BPのルーニー最高経営責任者(CEO)が4月27日に明らかにしたことで、この先の石油需要の増加による石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.94ドルと前日終値比で1.03ドル上昇した。4月28日も、欧州での新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展に伴う個人の往来の活発化もあり、今後6ヶ月間で日量520万バレルの石油需要増加が発生すると見込まれる旨米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが予想していると4月28日に伝えられたことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、4月28日にEIAから発表された米国石油統計(4月23日週分)で留出油在庫が前週比で334万バレルの減少と市場の事前予想(同65~124万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したこと、4月27~28日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、雇用と物価が顕著に改善するまで現状の金融緩和政策を維持する旨の方針が示唆されたこともあり、米ドルが下落したことから、この日(4月28日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.92ドル上昇し、終値は63.86ドルとなった。また、米国バイオ医薬品製造会社モデルナが同社製新型コロナウイルスワクチン製造能力を拡大する旨4月29日に発表したことにより、新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展を通じ世界各国及び地域における個人の外出規制及び経済活動制限が緩和するとともに経済成長が加速し石油需要の伸びが回復するとの期待が市場で増大したことに加え、米国ニューヨーク市の経済活動を7月1日に完全な形で再開する方針を4月29日に同市のデブラシオ市長が表明したうえ、フランスのマクロン大統領が5月19日以降同国の外出禁止令を段階的に緩和し6月30日には完全に解除する他、5月19日以降同国の経済活動制限を緩和する旨明らかにしたと4月29日に伝えられたことにより、米国等の個人の外出及び経済活動の活発化に伴う石油需要の伸びの拡大に対する楽観的な見方が市場で増大したこと、4月28日夕方(米国東部時間)に発表された米情報技術(IT)大手フェイスブックの2021年1~3月期業績が市場の事前予想を上回ったうえ、4月29日に米国商務省から発表された2021年1~3月の同国国内総生産(GDP)が前期比で年率6.4%の増加と2020年10~12月期の同4.3%から加速した旨判明したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日(4月29日)の原油価格の終値は1バレル当たり65.01ドルと前日終値比で1.15ドル上昇した。この結果原油価格は4月27~29日の3日間で1バレル当たり合計3.10ドルの上昇となった。それでも4月30日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、4月29日時点のインドの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が、386,555人と過去最高記録を更新した旨4月30日に報じられたことで、同国の経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、2021年4月のイランの原油生産量が前月比で日量20万バレル増加したことが一因となり4月のOPEC産油国原油生産量が前月比で同10万バレル増加した旨4月30日にロイター通信が伝えたことで、石油需給の緩和感を市場が意識したこと、4月30日に中国国家統計局から発表された4月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門景況感改善及び悪化の分岐点)が51.1と3月の51.9から低下した他市場の事前予想(51.7~51.8)を下回ったうえ、同日中国国家統計局から発表された同国非製造業PMI(50が当該部門景況感改善と悪化の分岐点)が54.9と3月の56.3から低下した他市場の事前予想(56.1)を下回ったこと、インドでの新型コロナウイルス感染拡大に伴い5月4日午前0時(米国東部時間)よりインドからの入国を原則禁止する旨4月30日に米国のバイデン大統領が発表したこともあり、米国株式相場が下落したこと、4月30日に米国商務省から発表された3月の同国個人支出が前月比で4.2%の増加と2000年6月(この時は同6.5%の増加)以来の大幅な増加率となった他市場の事前予想(同4.1%増加)を上回ったうえ、同日シカゴ購買部協会から発表された4月のシカゴ地区製造業景況感指数(50が当該部門景況感改善及び悪化の分岐点)が72.1と3月の66.3から上昇、1983年12月(この時は75.0)以来の高水準に到達したうえ市場の事前予想(65.0~65.3)を上回ったこと、そして米国株式相場が下落したことにより投資家のリスク許容度が縮小したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日(4月30日)の原油価格の終値は1バレル当たり63.58ドルと前日終値比で1.43ドル下落した。
ただ、米国ニューヨーク州、ニュージャージー州、及びコネチカット州の各州知事が5月19日を以てこれら州内での飲食店等における収容人数制限の大部分を解除する旨5月3日に発表したことで、同国での個人の往来及び経済活動の活発化に対する期待が市場で増大したことに加え、新型コロナウイルスワクチン接種完了者に対し観光旅行等の制限を緩和するよう欧州委員会(EC)が5月3日に提案したことにより、欧州での個人の往来及び経済活動活発化に対する期待が市場で増大したこと、欧州で新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展すれば金融緩和政策を段階的に縮小することが可能になる旨5月3日に欧州中央銀行(ECB)のデギンドス副総裁が示唆したことによりユーロが上昇したうえ、5月3日に米国供給管理協会(ISM)から発表された4月の同国製造業景況感指数(50が景況感改善と悪化の分岐点)が60.7と3月の64.7から低下した他市場の事前予想予想(65.0)を下回ったこともあり、米ドルが下落したことから、5月3日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.91ドル上昇し、終値は64.49ドルとなった。また、5月5日にEIAから発表される予定である米国石油統計(4月30日の週分)で原油在庫が減少しているとの観測が5月4日の市場で発生したことに加え、新型コロナウイルスワクチン接種者や新型コロナウイルス感染からの回復者に対する外出等に関する制限措置を緩和する方針につきドイツ連邦内閣が承認、連邦議会上下院の承認後週末にも制限措置緩和が実施に移される可能性がある旨同国のランブレヒト法相が5月4日に明らかにしたことにより、同国での個人の往来の活発化及び経済成長の加速に伴う石油需要の回復に対する期待が市場で増大したことから、5月4日の原油価格の終値は1バレル当たり65.69ドルと前日終値比で1.20ドル上昇した。この結果原油価格は5月3~4日の2日間で1バレル当たり合計2.11ドルの上昇となった。5月5日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、5月5日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が前週比74万バレルの増加と市場の事前予想(同33~65万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したこと、5月4日時点のインドの新型コロナウイルス感染による死者数が1日当たり3,780人と過去最高水準に到達した他、同日の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が382,146人と依然高水準で推移している旨5月5日に判明したことにより、同国等での経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことが原油相場に下方圧力を加えたものの、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比799万バレルの減少と市場の事前予想(同200~230万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.63ドルと前日終値比で0.06ドルの下落にとどまった。また、5月6日には、5月5日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が市場の事前予想に反し増加している旨判明した流れを引き継いだことに加え、5月5日時点でのインドの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が412,431人の過去最高水準に到達した旨5月6日に判明したことで、同国等の個人の外出規制及び経済活動制限の強化に伴う石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.92ドル下落し、終値は64.71ドルとなった。5月7日には、この日中国税関総署から発表された4月の同国輸出額(米ドル建)が前年同月比で32.3%の増加と3月の同30.6%から増加幅が拡大するとともに市場の事前予想(同24.1%の増加)を上回って増加している旨判明したうえ、同日中国独立系報道機関財新伝媒から発表された4月の同国サービス業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門景況感改善及び悪化の分岐点)が56.3と3月の54.3から上昇するとともに市場の事前予想(54.2)を上回ったことにより、同国の経済成長に対する楽観的な見方が市場で増大したことに加え、5月7日に米国労働省から発表された4月の同国非農業部門雇用者数が前月比で26.6万人の増加と市場の事前予想(同97.8~100万人の増加)を相当程度下回ったことにより、米国金融当局による金融緩和政策が長期化するとの観測が市場で増大したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり64.90ドルと前日終値比で0.19ドル上昇した。
また、5月7日には、米国テキサス州から米国南東部及び北東部にガソリン、軽油及びジェット燃料といった石油製品を輸送するコロニアル(Colonial)パイプライン(石油製品輸送能力テキサス州~ノースカロライナ州日量250万バレル程度、ノースカロライナ州~ニュージャージー州同90万バレル程度とされる)が、サイバー攻撃により操業を停止した旨同日午後(米国東部時間)に報じられたことにより、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期接近に際し米国東部海岸地域でのガソリン供給不足の懸念が市場で増大したことにより、5月10日の同国ガソリン先物相場が上昇したことが、同日の原油相場に上方圧力したものの、その後、サイバー攻撃を受けたコロニアル・パイプラインにつき週末までに米国東部海岸地域への石油製品輸送を再開させる旨当該パイプラインを運営するコロニアル・パイプライン社が5月10日に明らかにしたことにより、米国北東部でのガソリン供給不足の懸念が市場で後退したこともあり、米国ガソリン先物相場が上昇幅を縮小したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.02ドルの上昇にとどまり、終値は64.92ドルとなった。5月11日は、5月12日にEIAから発表される予定である米国石油統計(5月7日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、コロニアル・パイプラインの操業停止に伴い米国東海岸の一部地域でガソリン不足が発生し始めたこともあり、同国ガソリン先物価格が上昇したこと、5月11日にドイツ民間調査会社欧州経済研究センター(ZEW)から発表された5月のドイツ景気期待指数(ゼロが景況感改善と悪化の分岐点)が84.4と4月の70.7から上昇した他市場の事前予想(72.0)を上回ったことによりユーロが上昇したうえ、米国経済は金融当局の目標には依然ほど遠い状態にある旨5月11日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のブレイナード理事が明らかにしたことにより、同国金融当局による金融緩和政策が長期化するとの期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.28ドルと前日終値比で0.36ドル上昇した。さらに、5月12日には、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで、IEAが2020年前半の新型コロナウイルス感染拡大時において膨張した世界の石油在庫はより正常な水準に戻った旨、そして、OPECプラス産油国が減産措置を緩和したとしても、6月以降石油在庫引き出しが発生するなど、石油供給の増加は石油需要の増加に追い付かないであろう旨示唆したことから、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、5月12日に米国労働省から発表された4月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で4.2%の上昇と、3月の同2.6%の上昇から上昇幅が拡大、2008年9月(この時は同4.9%の上昇)以来の大幅な上昇率となった他、市場の事前予想(同3.6%の上昇)を上回ったことで、米国経済回復に対し楽観的な見方が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.80ドル上昇し、終値は66.08ドルとなった。この結果原油価格は5月11~12日の2日間で1バレル当たり合計1.16ドル上昇した。しかしながら、5月12日夕方(米国東部時間)に、米国エネルギー省のグランホルム長官が、同日午後5時の時点ではコロニアル・パイプラインの操業が再開しているはずである旨明らかにした他、その後コロニアル・パイプラインを操業するコロニアル・パイプライン社も同日午後5時頃当該パイプラインの操業を再開した旨発表したうえ、米国国内海運上の規制(米国で建造された船舶により米国人船員による運航に限る)であるジョーンズ法(Jones Act)の適用免除を要請した企業1社に対し適用免除を承認した旨同国国土安全保障省のマヨルカス長官が発表した(別途同国石油精製大手バレロ・エナジー(Valero Energy)が当該法の適用を免除された旨同日報じられた)ことにより、米国国内でのガソリン等石油製品供給混乱に対する市場の懸念が後退したこともあり、米国ガソリン先物価格が下落したことに加え、5月12日時点のインドでの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が362,727人と依然として高水準のままとなっている他死者数が4,120人と2日連続で4,000人を超過した旨5月13日に判明したこともあり、同国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことから、5月13日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.26ドル下落し、終値は63.82ドルとなった。それでも、5月14日には、前日の価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、これまでの価格下落に対し値頃感から株式を買い戻す動きが発生したこともあり、米国株式相場が上昇したこと、5月14日に米国商務省から発表された4月の同国小売売上高が前月比横這いと市場の事前予想(同1.0%増加)を下回ったうえ、同じく同日発表された5月のミシガン大学消費者信頼感指数(1964年=100)が82.8と4月の88.3から低下した他市場の事前予想(90.0~90.4)を下回ったこともあり、緩和的な金融政策が長期化するとの観測が市場で増大したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.37ドルと前日終値比で1.55ドル上昇した。
4. 原油市場における主な注目点等
地政学的リスク要因面での主な注目点は、まず、イランを含む中東情勢であろう。イラン核合意の正常化を巡る関係国間の協議はオーストリアのウイーンで継続中である。4月27日には当該協議を巡る合同委員会が開催され(米国とイランは間接協議)、協議をさらに迅速に進めることで意見が一致した。5月1日及び5月7日にも、改めて合同委員会が開催された他、5月7日の合同委員会では、交渉速度を引き上げる方針につき関係国間で意見が一致、交渉関係者は合意に向けできる限りウイーンに滞在する見込みである旨ロシアの代表が5月7日に明らかにした。また、5月7日の合同委員会実施の際には米国からEUを経由し間接的に対イラン制裁解除項目がイランに提示されており、核合意に関連する制裁(イランの石油輸出及び金融取引に関する制裁等)については解除可能としているものの、中東地域等でのテロ活動支援やイラン国内の人権侵害行為等に対する制裁については解除するかどうか明確になっていない部分もあるとされ、5月7日には、米国のサキ大統領報道官が、イラン核合意に関連する制裁以外の制裁については緩和する意向はない旨明らかにしている。他方、イランは米国による制裁の全面解除を希望している他、新型遠心分離機の廃棄や当該分離機稼働に伴い新たに習得したウラン濃縮技術等に関連する知見の放棄を行う意向を示していないなど、依然両者間では意見の相違があることが示唆されている。他方、5月8日にイランのロウハニ大統領は、イラン核合意正常化に向けた協議は細部に関するものを残すのみとなった旨発言し、先行きは楽観的であるとの認識を明らかにした(但し、ロウハニ氏の認識は必ずしも米国等他の諸国により共有されているわけはない旨5月8日に報じられる)。また、EUのボレル外交安全保障上級代表は、当該協議は今後数週間が重要になるが、5月末までには交渉がある程度の段階まで進展することを楽観視している旨示唆した(協議に関する当初の事実上の期限は5月21日とされていた(2月21日にイランと国際原子力機関(IAEA)が、最長3ヶ月間IAEAの査察及び監視を事実上暫定的に実施する(米国の対イラン制裁が解除された時点で核関連施設等に対する監視カメラの映像をIAEAに提供するが、3ヶ月以内に米国が対イラン制裁を解除しなければ当該映像を廃棄するとされる)ことで合意しており、その期限が5月21日に到来することが一因であるとの指摘もある)が、核合意正常化を巡り依然米国とイランとの間での意見に相違があることから、5月上旬の段階で関係国間で期限の延長が検討されていた旨5月13日に伝えられる)。なお、5月11日には、6月18日に実施される予定であるイラン大統領選挙投票に向けた大統領立候補者の受付が開始された(受付は5月15日に締め切られ、同国の護憲評議会での審査後最終的な大統領候補者は5月26日頃に明らかになるとともに5月28日には選挙戦が開始される予定である)。
他方、5月中にイランのザリフ外相が中東地域の緊張緩和等につき協議するため、現在断交中のUAEを公式に訪問するべく調整中であることが5月6日に明らかになった他、5月7日には、サウジアラビア外務省幹部がイランとの間で緊張緩和のための協議を実施した旨明らかにしている。また、5月10日にはイラン外務省のハティーブザーデ報道官も同国とサウジアラビアが協議を実施していることを初めて公式に認めた。
ただ、イランを含め中東地域においては不安定な要素も引き続き存在する。4月2日には、ペルシャ湾南部で、イラン革命防衛隊の艦船4隻が米国沿岸警備隊所属の艦船2隻に対し異常接近するなどの危険行為を3時間程度行った旨4月26日に報じられた他、4月26日にはペルシャ湾を航行中の米国沿岸警備艇「ファイアボルト」及び哨戒艇1隻に対しイラン革命防衛隊の艦船3隻が異常接近した旨4月27日に米国海軍が明らかにした。また、5月10日には、ホルムズ海峡でイラン革命防衛隊の高速船13隻が米国海軍の艦船等6隻に異常接近したとして米国側が警告射撃を実施した旨同日米国防省が発表した。
また、サウジアラビアが主導する有志連合軍はサウジアラビア南西部の都市であるハーミス・ムシャイト(Khamis Mushait)に飛来した、爆弾を搭載した無人攻撃機を破壊した旨4月20日に発表、他方イエメンのフーシ派武装勢力は無人攻撃機を発射しハーミス・ムシャイト近隣のアブハ国際空港に着弾した旨主張したと同日報じられる。また、4月23日にも、フーシ派武装勢力はサウジアラビアのハーミス・ムシャイトにあるキング・ハーリド(King Khalid)空軍基地に向け無人攻撃機2機、同国南西部のジーザーン(Jizan/Jazan)にある同国国営石油会社サウジアラムコの石油関連施設に向け無人攻撃機1機を、それぞれ発射した旨表明した。そして、同日サウジアラビアが主導する有志連合軍は爆弾を搭載する無人攻撃機2基がハーミス・ムシャイトに飛来したが迎撃した旨明らかにした。さらに、4月27日にサウジアラビアの国営サウジ通信は、同日午前6時40分(現地時間)に同国西部の紅海沿岸都市ヤンブーにある製油所の沖合を航行していた、爆発物搭載した無人船舶を撃破した旨報じた。また、フーシ派武装勢力は、5月13日にもサウジアラムコの施設、及び同国南西部の都市ナジュラーン(Najran)にある空港他に向け12発の弾道ミサイルと無人攻撃機を発射した旨主張、サウジアラビアが主導する有志連合軍は8機の無人攻撃機と3発の弾道ミサイルを迎撃した旨同日伝えられる。
このように、今後も、5月末とされる目標に向け、イラン核合意正常化のための関係国間での交渉が進められるものと見られる他、イランとサウジアラビア等との間で中東地域の緊張緩和のための協議も継続するものと考えられる。そしてイラン核合意及び中東地域諸国関係が正常化に向かうにつれ、この面で中東地域情勢不安定化に伴う当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退するとともに、原油相場に下方圧力を加えるものと考えられる。ただ、その過程では、中東諸国周辺海域でのイラン(もしくはイランの友好国であるシリア等)の船舶が攻撃されたり、イスラエルをはじめとする諸国の船舶が攻撃されたりすること、もしくはイランが支援しているとされるイエメンのフーシ派武装勢力からサウジアラビア等に向けミサイルや無人攻撃機が発射されること等を通じ、イラン核合意正常化に向けた協議が不調になるのではないかとの懸念が市場で発生することにより、原油相場に上方圧力を加える場面が見られるといった可能性も残っている。
さらに、5月7日以降イスラエルのエルサレムにおいてイスラエル警察とパレスチナ人との間での衝突が発生、パレスチナ人数百人が負傷したことを受け、5月10日にはパレスチナ自治区のガザを事実上支配するイスラム原理主義組織ハマスがエルサレム及びイスラエル南部等に向けロケット弾を発射、これに対しイスラエル軍は同日ガザ地区に対し空爆を実施する一方、ハマスは5月13日未明にイスラエルのテルアビブとエルサレムに向けロケット弾を発射、5月14日にはイスラエル軍の地上部隊がガザ地区への攻撃を開始するなど、両者による対立は深刻化しつつある。イスラエルは大産油国ではない(但し同国の地中海沖合には天然ガス田がある)が、このような対立や攻撃が強まるようだと、イスラエルとその周辺諸国における情勢が不安定化することにより、中東地域からの石油供給が脅かされるのではないかとの不安感が市場で増大する結果、原油相場に影響を及ぼす場面が見られることも否定できないので注意が必要であろう。
他方、リビア西部の首都トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National Accord)と対立していた、東部トブルクを拠点とする代表議会(または暫定議会)(HoR: House of Representatives)を支援するリビア国民軍(LNA: Libya National Army)の指導者であるハフタル将軍が、9月12日までに同国内のエネルギー部門の操業を完全に再開できるよう約束した旨9月12日に在リビア米国大使館(チュニジアのチュニスで臨時執務中)が声明を発表して以来、同国の原油生産量は増加基調(2020年9月の日量14万バレルが2021年3月には同120万バレルに)となった。併せて2021年2月5日には国連の仲介の下リビア関係者の出席による和平協議において統一政府(GNU: Government of National Unity)の暫定首相に同国西部ミスラタ(Misrata)出身の政治家であるデイバ(Dbeibah)氏を選出するなど、リビア国内情勢正常化に向けた作業が進行中である。ただその過程において、リビア中央銀行からリビア国営石油会社NOCへの資金供給が必ずしも順調には実施されていなかったことが判明、4月19日には同国東部のハリガ石油ターミナルで施設改修のための資金が不足したことにより操業に支障が発生するとともに同ターミナルからの原油出荷に関し不可抗力条項の適用が宣言された他、同国中部のNOC傘下の石油会社でも資金繰り上の問題から原油生産量が減少する恐れがある旨明らかなるなどしている。リビア政府は同国石油産業に向け資金供給を行う意向を表明しており、リビア政府がNOCに対し10億ディナール(2.25億ドル)の資金を供給することに伴い、4月26日にNOCはハリガ石油ターミナルからの原油輸出に対する不可抗力条項の適用を解除する旨発表した。ただ、それでもリビアでは石油産業向けを含め予算承認手続きが遅延気味となっており、それが同国の原油生産に影響を与える恐れがある旨GNUのオウン(Aoun)石油ガス相が4月29日に示唆するなどしているところからすると、今後も同国石油産業への資金配分が円滑に行われないことに伴い、同国での原油生産及び出荷等に支障が発生するとともに同国からの原油供給が減少することにより、石油需給引き締まり感が市場で発生するとともに、原油相場に上方圧力が加わるといった場面が見られることもありうる(また、デイバ暫定首相は4月26日に同国東部の都市であるベンガジを訪問する予定であったが、同地域を支配するLNAが拒否したことにより訪問が延期となるなど、依然として勢力間での対立が残存していることが示唆される部分もある)。
経済面では、新型コロナウイルス感染、新型コロナウイルスワクチンと治療薬の開発及び普及を巡る状況が世界経済成長及び石油需要の伸びに関する観測を市場で発生させることを通じ、原油相場に影響を及ぼすことになるであろう。4月21日に米国のバイデン大統領は同国の新型コロナウイルスワクチン接種が当初の目標(1月20日の同大統領就任から100日以内に2億回の接種達成)を前倒しして達成する旨4月22日に判明するであろう旨明らかにした他、米国ニューヨーク市の経済活動を7月1日に完全な形で再開する方針を4月29日に同市のデブラシオ市長が表明したうえ、5月3日には、米国ニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州の各州知事が5月19日を以て同州の飲食店等での収容人数制限の大部分を解除する旨発表、フランスのマクロン大統領も5月19日以降同国の外出禁止令を段階的に緩和し6月30日には完全に解除する他、5月19日以降同国の経済活動制限を緩和する旨明らかにしたと4月29日に伝えられることに加え、新型コロナウイルスワクチン接種完了者に対し観光旅行等の制限を緩和するよう欧州委員会(EC)が5月3日に提案するなど、世界の一部諸国及び地域においては、新型コロナウイルス感染抑制のための個人の外出規制及び経済活動制限に関する措置を緩和する動きが見られる。また、米国バイオ医薬品製造会社モデルナは同社製新型コロナウイルスワクチン製造能力を拡大する旨4月29日に発表するなど、新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展するとの観測が市場で強まっている。このようなことから、世界の一部諸国及び地域において経済成長の加速及び石油需要の伸びの回復に対し楽観的な見方が拡大するとともに石油需給引き締まり感が市場で意識されつつあることが原油相場に上方圧力を加える格好となっている。しかしながら、インドでは5月6日時点の1日当たり新規新型コロナウイルス感染者数が414,188人と過去最高水準に到達した旨5月7日に判明するなど、1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が過去最高水準をしばしば更新するほど増加し続けたうえ、その後も1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が高水準を維持するなどしていることから、経済成長及び石油需要が下振れすることにより石油需給緩和感が市場で醸成され、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られることもありうる。このようなことから、原油相場は上方圧力と下方圧力に挟まれやすい状態となっているものの、市場では最終的には新型コロナウイルスワクチン接種普及が拡大するにつれ、世界経済成長が加速、石油需要の伸びが回復するとともに、石油需給が引き締まり、それが原油相場を押し上げるとの期待が根強く存在することにより、原油相場の下落は限定される一方、むしろ原油価格は上振れしていきやすいものと考えられる。
また、4月27日に米国のバイデン大統領は1月20日の大統領就任100日目の演説を行ったが、その際1.8兆ドル規模の景気刺激策である「米国の家族のための計画」を明らかにした。3月31日に発表した2.25兆ドル規模のインフラ整備を中心とする追加経済対策とともに、今後議会で審議が行われていくものと見られるが、当該審議が前進している、もしくは前進する兆候が見られるようであれば、米国経済がさらに浮揚するとともに、石油需要が増加するとの期待が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となることも想定される。
さらに、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の実施による同国経済成長鈍化の可能性に対処するために、2020年3月15日に米国連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げた。また、8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均で2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価上昇率が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、2021年2月24日にもパウエル議長はインフレ目標に到達するまでには3年を超過する期間を要する可能性がある旨の見解を披露した。緩和的金融政策実施方針を米国金融当局が堅持する場合、長期的な経済回復と石油需要の増加、及び原油価格の先高期待から、足元で経済が減速していることを示唆する指標類が発表されることを含め原油価格を押し下げる方向で作用しやすい要因が見られても、それによって原油価格が下落した局面では原油を安価で購入する良い機会であるとの投資家の判断から金融緩和政策により低コストで調達された資金が市場に流入し原油の購入が促進される結果、原油価格がそれほど下落しない(もしくは経済が減速していることを示唆する経済指標類が発表されても、米国のバイデン政権がさらなる追加経済対策を実施するとの期待が市場で強まる結果、株式相場が上昇するとともに米ドルが下落することにより原油価格がかえって上昇する)現象が見られやすくなる一方、経済が加速することを示唆する指標類が発表されたり、新型コロナウイルスワクチン接種普及進展等に伴う世界経済成長の加速及び石油需要の回復により、原油価格がこの先上昇するとの予想が米国大手金融機関等から発表されたりすることを含め、原油価格を押し上げる方向で作用しやすい要因が出現した場合には、金融緩和政策により低コストで調達された資金の流入が加速する結果原油相場の上昇幅が拡大するといった現象が見られやすくなるなど、原油価格の上下変動が非対象となる場面が見られることもありうる。ただ、米国金融当局は金融緩和政策を早めに縮小せざるをえなくなるかもしれないと見込む市場関係者もいることに加え、インフラ整備実施のために今後米国が長期国債を増発するとの観測が市場で増大する結果、米国長期債券利回りとともに米ドルが上昇する結果、米国株式相場及び原油相場が下落する場面が見られる可能性も否定はできない。
他方、新型コロナウイルス感染収束後の世界経済成長の加速に伴う銅を含む金属需要の増加観測に加え、乾燥した気候が欧米諸国及びブラジルにおける農産物生産地に訪れていることによる農産物生産への影響に対する懸念を反映し、それら商品価格が上昇しつつあることを背景として、商品インデックスファンド等の金融商品に向けた投資が活発化することを通じ、金属、農産物のみならず、原油市場等に対しても投資資金が流入することにより、原油価格が上昇する可能性もある。
米国では5月29~31日の連休(5月31日が戦没者追悼記念日(メモリアル・デー)の休日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入する。このため、ガソリン需要が盛り上がることに伴い、当該製品生産のため製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量も増加することにより、原油の購入が活発化するなど、季節的な需給の引き締まり感が市場で強まる結果、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。
また、大西洋圏では間もなくハリケーン等の暴風雨シーズンに突入する(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2019年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した(2020年は米国等の石油市場が新型コロナウイルス感染拡大により影響を受けたこともあり2019年の数値を用いることとする、以下同様))。4月8日時点でのコロラド州立大学の予想によると、2021年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が予想されている(表2参照)。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2019年は当該地域で日量188万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体の約15%を占める)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域(2019年の当該地域の原油精製処理能力は日量866万バレルと米国原油精製処理能力全体の約47%を占める)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間での石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。
OPECプラス産油国は6月1日に閣僚級会合を開催する予定である。既に5~7月の減産措置については具体的な方針を決定しているが、次回会合においては、直近の石油需給及び原油価格を巡る状況等を考慮しつつ7月の減産措置について再調整を行おうとするか、8月以降の減産措置の方針について協議しようとすることになろう。米国及び中国を中心として新型コロナウイルス感染が沈静化しつつあるとともに、個人の外出及び経済活動が活発化しつつあるうえ、北半球では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近しつつあることから、これら諸国での石油需要が増加する結果石油需給が引き締まる方向に向かうとともに原油相場に上方圧力加えるとの観測が市場で強まりつつある一方、インド等では1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が高止まりしていることもあり、同国等で個人の外出及び経済活動が不活発化するとともに石油需要にその影響が及びつつあり、それが石油需給を緩和するとともに原油相場に下方圧力を加える方向で作用するとの懸念も市場で発生している。そして、緩和的な金融政策の下、低コストで調達されたものを含め資金が原油市場に活発に流入していることが原油相場を下支えしている側面があると見られることもあり、例えばOPECプラス産油国減産措置のさらなる緩和等に伴い、この先の石油需給引き締まりと原油価格の上昇期待を巡る石油市場関係者の心理が変化するようであれば、これまで流入していた投資資金の急速な退出を引き起こすことにより原油価格が急落するといった展開となることも否定できない。一方で、減産措置の緩和を躊躇した場合にはこの先の石油需給引き締まりによる原油価格上昇観測が市場で一層強まることにより原油相場にさらに上方圧力が加わると見られるものの、併せて既に5月10日時点で全米平均で1ガロン当たり3.051ドル(因みにこの価格は2014年11月3日(この時は同3.077ドル)以来の高水準である)に到達している米国のガソリン小売価格がさらに上昇すると見られる(そしてその場合、米国国民の不満が増大するとともに、バイデン政権への支持率にも影響し始める可能性がある)ため、サウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国にとっては、そのような米国の状況に配慮するべく減産措置を緩和する必要性も高まる。加えて、イラン核合意の正常化を見越してイランが原油生産をさらに増加させることを含め、OPECプラス産油国減産措置の枠外で原油の供給が増加するかもしれないといった不透明感もある。このようなことから、OPECプラス産油国としては今後の減産措置を巡る方針に関し難しい舵取りを迫られることになろう。そして、次回OPECプラス産油国閣僚級会合直前の世界各国及び地域における新型コロナウイルス感染と個人の外出規制及び経済活動制限の状況及び見通し、そして原油価格の推移、イラン等OPECプラス産油国減産措置対象外の産油国の原油生産状況及び見通し等が、7月以降のOPECプラス産油国減産措置を巡る方針に大きく影響するものと考えられる。
全体としては、今後米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要に突入するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大しやすくなることに加え、一部諸国及び地域における新型コロナウイルスワクチン接種普及進展による新型コロナウイルス感染収束に伴う個人の外出及び経済活動の活発化による石油需要の増加及び石油需給の引き締まり期待が市場で強まりつつあることが、原油相場上昇にとって支援材料となるものと考えられる。ただ、インド等新型コロナウイルス感染者数が高止まりしている諸国及び地域における感染と経済及び石油需要への影響に関する状況、もしくは観測等によっては原油相場に下方圧力が加わる場面が見られることがありうる。また、イラン核合意正常化を巡る動向とイランからの原油生産状況によっても原油相場が変動する可能性がある。さらに、6月1日に開催が予定されるOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置を巡る方針や中東情勢等地政学的リスク要因等も原油価格に影響しうるものと見られる。
5. 世界天然ガス市場動向
米国では、2021年2月15~16日頃にテキサス州等に来襲した寒波「ウリ」による気温低下(図19参照)に伴い、テキサス州等の産油州での油・ガス田関連施設が凍結した(地下から生産される原油、NGL、天然ガス及び水の混合流体のうち、特に水が凍結しやすいとされる)ことや、気温の低下に伴いテキサス州等での暖房のための空調機器稼働向け電力需要が増加した一方テキサス州の送電網は連邦政府からの規制を敬遠するため他の州の送電網から隔離されていたことにより同州は他の州からの電力融通が困難な状態であったこともあり、寒波来襲で同州の電力需給が逼迫するとともに電力供給に支障が発生した(一時470万世帯が停電したと伝えられる)ことにより、油・ガス田関連施設の操業が停止、例えばテキサス州の天然ガス生産量は寒波来襲前の日量213億立方フィートから2月17日には同118億立方フィートへと約45%減少した他、米国全体の天然ガス生産量も2月17日の週は日量887億立方フィートと2月10日の週の同1,021億立方フィートから約13%減少した(なお、これら生産数値は地中から産出された天然ガスを処理する過程で回収される液体炭化水素(NGL)等を含んでいるものと見られる)。このようなこともあり、2月は発電部門で使用される天然ガスの量が抑制されるとともに、当該部門では代替として石炭等が燃料として利用されることとなった(図20参照)。また、気温の低下により、米国メキシコ湾岸地域での製油所、石油化学工場をはじめとした事業所の操業に支障が発生したこともあり、2月の産業部門における天然ガス需要ももたつき気味となった。ただ、このような気温の低下に伴い2月の米国での民生(特に家計)部門の暖房向け天然ガス需要が相当程度増加したことが、発電及び産業部門での軟調な需要を相殺して余りあったことから、2月の同国天然ガス需要は前年同月比で相当程度増加することとなった(図21参照)。ただ、3月は、米国の発電部門では、2月のテキサス州等への寒波来襲の影響が残ったと見られ、発電用燃料として石炭が比較的積極的に利用された他、太陽光及び風力による発電も堅調であったことにより、当該部門での天然ガス需要は前年割れとなった。他方、寒波来襲後石油産業等での操業回復が進んだ他、1月31日の時点で113,454人であった同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が2月28日には62,701人へとほぼ半減したうえ、3月も月内を通じ当該新規感染者数が概ね同水準で推移したことにより、産業部門での天然ガス需要は前年同月並みの水準となった。さらに、2021年3月は概ね前年並みの気温であったこともあり、民生部門での天然ガス需要も前年同月とほぼ同水準であった。このめ、発電部門での天然ガス需要の落ち込みが影響する格好となり3月の同国の天然ガス需要は前年同月のそれを下回る状態となった。4月は米国が前年同月に比べ温暖となったことにより、民生及び発電部門での天然ガス需要が抑制された。他方、新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展(1月20日の大統領就任後100日間での2億回の新型コロナウイルスワクチンを接種するとの目標を4月21日に前倒しで達成する(4月22日の報告で目標達成が判明する)であろう旨4月21日に米国のバイデン大統領が明らかにしていた)に伴う米国経済成長加速への期待から同国株式相場が上昇するとともに同国での経済活動が活発化したと見られる(同月の米国鉱工業生産は前年同月比で16.5%の増加となった)こともあり、4月の産業部門での天然ガス需要は前年同月を上回った(また2020年4月は新型コロナウイルス感染拡大の影響が経済部門に強く現れた時期でもあったことにより、同月の天然ガス需要が落ち込んだが、その反動が2021年4月の当該需要に現れる格好となったという側面もある)。ただ、民生及び発電部門での天然ガス需要の前年同月比の減少が産業部門での天然ガス需要の伸びを相殺して余りあったことにより、4月の同国の天然ガス需要は前年同月比で減少している。
他方、米国の天然ガス生産量は、2月15~16日頃に同国テキサス州等に来襲した寒波に伴う気温の低下による油・ガス田関連施設の凍結や停電により操業が停止したこともあり、大きく落ち込むこととなったが、その後寒波が過ぎ去るとともに気温が上昇、電力供給が復旧するとともに油・ガス田の操業が再開したことにより、同国の天然ガス生産は寒波来襲前の水準へと回復した(図22参照)。また、米国での天然ガス生産減少に伴い、同国からメキシコへパイプライン経由で輸出される天然ガスの量も2月は落ち込んだが、寒波が過ぎ去った後は回復、2021年4月は2020年9月以来の高水準に到達している(図23参照)。さらに、寒波来襲に伴い米国国内の民生部門向け電力供給や天然ガス供給を優先させた結果、米国LNG出荷施設では電力や天然ガスが供給不足に陥った(図24参照)結果、当該施設での操業に支障が発生したことにより同国からのLNG輸出は減少することとなったが、寒波来襲後には、当該施設での操業が正常化した他、欧州及びアジア等の天然ガス消費国からの引き合いが活発化したこともあり、3~5月上旬の同国からのLNG輸出は堅調に推移した(図25参照)。
そして、米国テキサス州等への寒波来襲により民生部門での暖房用天然ガス需要が盛り上がる一方、同国での油・ガス田関連施設での操業上の支障による天然ガス生産低下により、同国の天然ガス貯蔵施設からの天然ガス在庫の引き出しが進んだ結果、2月5日には過去5年平均を6.4%程度上回っていた同国の天然ガス貯蔵量は2月26日の週には過去5年平均を8.8%程度下回るなど当該貯蔵の減少傾向が加速した(図26参照)。この結果、市場では天然ガス需給引き締まり感が強まるとともに2月12日には100万Btu当たり2.912ドルであった同国の天然ガス先物価格は2月17日には同3.219ドルへと上昇した(図27参照)他、2月16日には同国オクラホマ州で取引されるスポット天然ガス価格が100万Btu当たり1,250ドルにまで上昇する場面も見られた(因みに1週間程度前の当該地域のスポット天然ガス価格は同9ドル程度であった)。ただ、その後冬場の暖房シーズンが終わりを迎えるとともに暖房用天然ガス需要が減退し始めたこともあり、同国の天然ガス貯蔵量の過去5年平均を下回る率も縮小、4月9日には過去5年平均を0.6%程度上回る状態となった。また、それとともに天然ガス需給緩和感が市場で醸成されたことにより米国の天然ガス相場にも下方圧力が加わりはじめ、4月6日の同国天然ガス先物価格は100万Btu当たり2.456ドルとなった。しかしながら、その後は米国LNG出荷施設向けの天然ガスの流れやメキシコへの天然ガス輸出が堅調であったことに加え、4月中旬以降しばしば気温が平年を下回る程冷え込んだ(図28参照)ことが同国の暖房用天然ガス需要を刺激したこともあり、米国天然ガス貯蔵量は過去5年平均程には増加しなかったことから、当該貯蔵量は再び過去5年平均を下回るようになり、5月7日時点では下回る率は3.4%程度に到達している。そしてそれに伴う米国天然ガス需給引き締まり感を市場が意識したことが同国天然ガス先物価格に上方圧力を加えたこともあり、当該価格は再び上昇傾向となり、5月前半には100万Btu当たり2.9ドル台後半を中心とする領域で推移するようになっている。
英国等を含む欧州では、英国NBP及びオランダTTF両価格がアジアのLNG価格高騰の影響を受けて1月12日にかけ上昇した(この時は英国NBP天然ガス先物価格が100万Btu当たり推定10.580ドル、TTF天然ガス先物価格が同9.357ドルに到達した)後は、アジアのLNG価格が下落し始めたことに加え、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用天然ガス需要期の終了が接近しつつあるとの感覚が市場で発生し始めたこともあり、NBP及びTTF価格も下落傾向となり、3月3日にはNBP天然ガス先物価格が100万Btu当たり推定5.413ドル、TTF天然ガス先物価格が同5.489ドルと1月12日の価格の半分程度の水準となった(図29参照)。しかしながら、当該地域の一部において風力発電量が低迷した(図30参照)ことに加え、気温が平年を下回って低下するとの予報が発出されたうえ、実際しばしば気温が平年を下回った(図31参照)他、特に3月上旬や4月上旬には気温が平年を相当程度下回る状態となったことから、発電及び暖房向け天然ガス需要が押し上げられる格好となった。また、ノルウェーのトロル(Troll)ガス田(2020年の天然ガス生産量日量約36億立方フィート)をはじめとして同国や英国のガス田を含む天然ガス供給関連施設がメンテナンス作業実施等により供給を削減する場面が度々見られた。このようなこともあり、例年4月以降欧州の天然ガス貯蔵量は増加傾向となるはずのところ、かえって当該貯蔵量が減少するといった展開が見られるなど、総じて伸び悩むとともに、2月12日には過去5年平均を5.5%下回っていた欧州の天然ガス貯蔵量は、5月前半には、過去5年平均を概ね27~29%程度下回る(図32参照)など、当該地域での天然ガス需給は引き締まる方向に向かいつつあったこともあり、この先夏場の空調向け電力供給のための発電部門での天然ガス需要期を控え在庫再充填向け天然ガス需要の増加観測が市場で発生した他、5月6日時点でも欧州地域で平年を下回る気温がこの先2週間程度継続するとの予報が発表されたことが、天然ガス相場に上方圧力を加える格好となった(なお、5月14日の時点においても5~6月において気温が低下するとの観測は市場で根強く、これが欧州での天然ガス価格を下支えする一因になっているもの見られる)。
加えて、3月23日午前7時40分頃(現地時間)に日本(愛媛県今治市)の船舶貸渡会社正栄汽船が保有し台湾の海運会社長栄海運(エヴァーグリーン・マリン)が運航するパナマ船籍のコンテナ船「エヴァー・ギブン(Ever Given)」(全長400メートル)がスエズ運河で座礁、同運河を斜めに塞ぐ格好となったことにより同運河での船舶の通航が南北方向ともにほぼ不可能となった。3月29日午後3時頃当該船舶は完全に離礁するとともに当該運河での船舶通航は再開されたが、欧州諸国は主にカタールからスエズ運河経由でLNGを輸入していることから、コンテナ船座礁に伴うスエズ運河の閉鎖に伴いカタール等から欧州向けのLNG供給の混乱(スエズ運河を迂回し南アフリカの喜望峰沖合をタンカーが経由した場合、欧州へのLNG供給が2週間程度遅延することが予想された)に対する不安感が市場で増大したことにより、欧州の天然ガスが上昇する場面も見られた。
さらに、2030年時点での二酸化炭素を含む温室効果ガスを1990年比で40%削減するという既存の目標につき、2030年時点で温室効果ガスを1990年比で60%削減すること目指すことを含む欧州気候法案につき2020年10月7日に合意した欧州(EU)議会と2030年時点での温室効果ガスを1990年比で55%以上削減することを目指すことで12月11日に合意した欧州(EU)理事会との間で、少なくとも55%の温室効果ガス純削減率を達成するという目標とすることで4月21日に暫定的に合意したこともあり、炭素排出権価格が上昇したこと(5月14日には二酸化炭素排出1トン当たり56.49ユーロ(同推定68.59ドル)の過去最高水準に到達した、図33参照)によっても、発電部門等において石炭と比較して相対的に二酸化炭素排出量の少ない天然ガスの需要が増加するとの観測が市場で拡大したことを通じ、欧州の天然ガス相場に上方圧力を加えた。
また、冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期を控え水力発電用の貯水地域での降雨状態が芳しくなく、またこの先も大幅な貯水状況の改善が見込まれないアルゼンチンが4月19日締切のLNG買付入札においてLNGタンカー13隻分のLNG(6~8月着)を確保したことに加え、4月28日締切のLNG買付入札でもLNGタンカー10隻分のLNG(6~8月着)を確保したと報じられるなど、同国がLNG購入を活発化している旨示唆されることも、大西洋圏でのLNG需給引き締まり心理を市場関係者で強めることを通じ欧州地域の天然ガス価格に影響を与えている側面があるものと見られる(また、ブラジルでも水力発電活動が低迷しており、発電部門向け天然ガス需要の増加とともに大西洋圏におけるLNG調達活動が活発する結果、欧州での天然ガス価格に影響を及ぼす可能性があると見る向きもある)。
さらに、4月27日及び5月3日に実施されたウクライナのパイプライン経由での欧州向け天然ガス追加供給のためのパイプライン利用申請をロシア国営ガス会社ガスプロムが行わなかったことにより、欧州の天然ガス需給が引き締まり気味で推移する中ロシアから欧州方面への天然ガス供給が増加しないとの見方が市場で増大したことに加え、中国等アジア一部諸国によるLNG買付活動の活発化(後述)に伴う当該地域のLNG価格の上昇による欧州とアジアとの間でのLNG供給面での競合の強まり(図34参照)、そして、欧州の天然ガス取引に残存している石油製品連動型天然ガス価格に影響を及ぼす原油価格の上昇も、欧州での天然ガス相場に上方圧力を加えたことから、3月3日に英国NBP先物価格で100万Btu当たり推定5.413ドル、オランダTTF先物価格で同5.489ドルであった欧州の天然ガス価格は上昇傾向となり、5月14日にはNBP先物価格で同9.686ドル、TTF先物価格で同9.547ドルに到達した。そしてこのような天然ガス需給引き締まり等の要因もあり、欧州でのLNG輸入は堅調に推移した(図35参照)。
北東アジアでは、2020年12月後半から2021年1月前半にかけてのLNG価格高騰後、気温が相対的に上昇してきた(図36参照)反面、LNG価格高騰の際に発電部門を中心として調達が活発化した重油の利用が優先されたことで天然ガスの需要が抑制されたうえ、冬場の暖房シーズン向け天然ガス需要期が終わりに近づきつつあったことによる需要家のLNG購入意欲の低下(図37及び38参照)に伴う、LNG需給緩和感の市場での醸成が北東アジアスポットLNG相場に下方圧力を加えたことにより、2月12日には100万Btu当たり8.264ドルであった当該地域LNG先物価格は3月2日には同5.875ドルとなるなど下落傾向となった。
しかしながら、その後は、スポットLNG価格下落によりスポット市場で調達されるLNGの値頃感が強まったことにより、中国及びインド等アジア地域の一部の買い手、及び大手国際石油会社をはじめとする、複数の供給源及び供給先を有するLNG事業者(「ポートフォリオ・プレーヤー」と言われ、安価なスポットLNGを調達し原油価格連動型LNG価格体系等による短期、中期及び長期LNG売買契約を締結する需要家他に対し販売を行うことを目指す等する)の間で3~6月着等のLNG調達が活発化した。また、原油価格の上昇に伴い原油価格連動型長期契約LNG等に上方圧力が加わったことにより、さらにスポットLNG調達が活発化するとの見方が市場で発生した。そして、欧州の天然ガス価格上昇により、LNG供給が欧州市場及びアジア市場の間で競合するようになった。さらに、3月23~29日のスエズ運河でのコンテナ船座礁に伴う船舶の通航停止により大西洋圏からアジア太平洋圏へのLNG供給上の混乱に対する懸念も市場で発生した。そして、新型コロナウイルス感染が沈静化しつつある中国では、経済活動が活発化するとともに産業部門での石炭需要が増加した一方、国内炭鉱事故防止のため安全規制が強化されたことが国内での石炭供給上の足枷となったうえ豪州からの石炭輸入が伸び悩むなどした(2018年8月23日に豪州政府が中国ファーウェイ・テクノロジーを自国の5G通信網構築から事実上排除したこともあり両国の関係は従来から良好ではなかったが、2020年4月23日に豪州のモリソン首相が新型コロナウイルス感染経路につき独立した調査の実施を主張したことに中国側が反発したことでさらに両国関係が悪化したこともあり、中国の豪州からの石炭輸入が減少し始めた(中国の豪州産石炭通関手続きが遅延している旨10月13日に伝えられる)他、12月13日には豪州産石炭の調達を事実上停止するよう指示を受けた旨中国国内発電所が明らかにしている)こともあり、石炭価格が上昇した結果、産業部門において石炭に代わり天然ガスの需要がこの先増加するとの観測が市場で発生した。また、2020年12月後半から2021年1月前半にかけてのスポットLNG価格の高騰を経験した中国のLNG購入者の間で、2021年夏場から2021~22年の冬場のかけての天然ガス需要期に向け、当該時期にLNG需給が引き締まることにより大幅に上昇したスポット価格でLNGを購入せざるをえなくなる事態を回避することを含め、早期にスポット市場でのLNG調達を確保しようとする動きが発生した。例えば、中国国営石油会社中国石油化工集団公司(シノペック: Sinopec)が4月6日に締め切った2021年6月から2022年2月にかけてのLNG購入入札において同社は少なくとも40隻分のLNGを調達した旨4月8日に伝えられる他、中国民間ガス会社新奥能源(ENN)も4月13日に締め切った2021年7月から2022年2月にかけてのLNG購入入札において少なくとも12~15隻分のLNGを調達した旨4月15日に報じられる。さらに、4月23日には日本の気象庁が5月~7月にかけ日本は全国的に気温が平年よりも高くなる見込みである旨の予報を発表したことに加え、同日韓国の気象庁(Korea Meteorological Administration)からも、5~7月にかけ同国の気温が平年を上回る確率が概して高い旨の見解を明らかにしたため、夏場の気温上昇に伴う空調のための発電部門での天然ガス需要の増加観測が市場で発生した。
このような要因が、アジア市場でのスポットLNG相場に上方圧力を加える格好となったことから、北東アジアでのLNG先物価格は上昇傾向となり、5月14日には100万Btu当たり9.132ドルと2021年1月18日(この時は同18.309ドル)以来の高水準に到達した(また、5月14日時点での7月渡しの北東アジアのLNG先物価格(5月17日の取引より期近価格となる予定)は100万Btu当たり10.450ドルで取引を終了している)。また、北東アジアや欧州でのスポットLNG調達が活発化したことにより、LNGタンカーの傭船が進んだ結果、世界的に傭船可能なタンカーの隻数が3月初旬頃には20隻を超過していたものが、5月中旬には10隻未満の水準へと減少するとともに、同時期スポットLNG輸送コストも概ね倍程度の水準へと上昇している(例えば豪州~北東アジアのLNG輸送コストは3月初旬頃は100万Btu当たり概ね0.3~0.4ドル程度と推定されるところ、5月中旬には概ね同0.6~0.8ドル程度へと上昇している)。
以上
(この報告は2021年5月17日時点のものです)