ページ番号1009041 更新日 令和3年5月27日

トルクメニスタン、アゼルバイジャンのカスピ海油ガス田共同探鉱・開発合意の行方

レポート属性
レポートID 1009041
作成日 2021-05-27 00:00:00 +0900
更新日 2021-05-27 15:30:30 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 探鉱開発
著者 四津 啓
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 5
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 アゼルバイジャン
地域2
国2 トルクメニスタン
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,アゼルバイジャン,トルクメニスタン
2021/05/27 四津 啓
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概要

  • 2021年1月、トルクメニスタンとアゼルバイジャンが、カスピ海の係争地「ドストルク」鉱区での共同探鉱開発活動の実施で合意。当該鉱区はソ連時代に石油・天然ガスの賦存が確認されていたが、ソ連解体後のアゼルバイジャンとトルクメニスタンが帰属をめぐって対立し、探鉱開発活動が頓挫していた。
  • 鉱区における活動主体、具体的な活動のロードマップ等は未定で、次のステップは政府間協定の締結。MOUでは、生産物をトルクメニスタンに70%、アゼルバイジャンに30%の比率で分配することが定められている。生産物の輸送にはアゼルバイジャンの既存インフラを利用することが考えられる。
  • ドストルク自体は期待される埋蔵量の規模が特に大きいわけではないが、長年にわたる2国間の帰属問題を終結させ、今後は協力の可能性を作り出した点に今回の合意の意義がある。アゼルバイジャン側からは、トルクメニスタンが生産物を国際市場に送り込むために既存のアゼルバイジャンのインフラを提供する用意があるとの発言が出てきている。

(出所 業界報道記事)

 

1. ドストルク鉱区の経緯

2021年1月21日、トルクメニスタンの首都アシハバードで、トルクメニスタン及びアゼルバイジャンの外相が、両国首脳(トルクメニスタン・ベルディムハメドフ大統領、アゼルバイジャン・アリエフ大統領)のテレビ会議中継による同席のもと、ドストルク鉱区での共同探鉱開発活動の実施に関する覚書(MOU)に署名した。

「ドストルク」(トルクメン語dostluk、アゼルバイジャン語dostlugで、「友情」の意。本稿では原則的にカタカナ表記とする)鉱区はこれまでトルクメニスタン側でSerdar(ブロックⅢ)、アゼルバイジャン側でKapazと呼ばれていた鉱区で、ソ連時代に石油・天然ガスの賦存が確認されたものの、ソ連解体以降2国間で帰属をめぐる論争が解決せず、探鉱開発活動が進められてこなかった。地理的には、トルクメニスタンのチェレケン半島とアゼルバイジャンのアプシェロン半島を結ぶ「アプシェロン隆起帯」のほぼ中央に位置し、西にはアゼルバイジャン最大の石油プロジェクトであるACG(Azeri Chirag Gunashli)油田、東にはトルクメニスタン初の外資生産分与契約(PSA)プロジェクトであるブロックⅠのガス田があり、有望視されてきた。(図参照)

アゼルバイジャンでは、国営石油会社SOCARが1997年にロシアのLukoil、Rosneftとの間で当該鉱区のPSAを締結し、ロシアを巻き込むことでトルクメニスタンとの領有権問題を解決し油ガス田開発を前進させようという動きが見られた。しかし目論見はうまくいかず、トルクメニスタンの抗議にさらされPSAは形骸化した。

一方のトルクメニスタンでは2007年に、ドストルクを含む海上ブロックⅢのPSAを、ロンドンに拠点を置くキプロス企業Buried Hill Energy(BHE)と締結した。しかしBHEは2012年にアゼルバイジャンの巡視船により鉱区での震探活動を停止させられ、それ以降探鉱活動を中断せざるを得なくなっている。今般のMOUに関して、今のところBHEからの反応はない。

図:ドストルク鉱区の位置とアゼルバイジャン、トルクメニスタンの主なカスピ海上油ガス田
図:ドストルク鉱区の位置とアゼルバイジャン、トルクメニスタンの主なカスピ海上油ガス田(JOGMEC作成)

2. 既存情報と今後の見通し

1月21日のMOUは、2月23日にアゼルバイジャン議会で、3月14日にトルクメニスタン議会でそれぞれ批准された。今後は、探鉱・開発活動の実現のためにより具体的で拘束力のある政府間協定が締結される予定と見られる。また報道によると、ドストルクから生産される炭化水素資源はトルクメニスタンに70%、アゼルバイジャンに30%の比率で配分されることがMOUに記載されている[1]

ドストルクでの探鉱・開発活動の実施に関し、LukoilのアレクペロフCEOは2月にトルクメニスタンを訪問してベルディムハメドフ大統領と会談し、参加への関心を明確に表明している[2]。今のところLukoil以外に具体的な名前が挙がっている企業はなく続報が待たれるが、先述のBHE(トルクメニスタン側でPSAを結んでいる)や、英国BP(アゼルバイジャンでACG、Shah Denizプロジェクトのオペレーターを務め、「南ガス回廊」の株主でもある)の参加の可能性も考えられる。

生産物は石油・天然ガス共に、最も適正な国際価格を実現するため、アゼルバイジャンから国際市場向けに輸送されることが想定されよう。つまり、石油についてはBTCパイプラインで地中海へ、天然ガスは「南ガス回廊」でトルコや欧州の市場に送られることが考えられる。ドストルクから西に約30キロメートルの位置にあるACG油田の施設にパイプラインをつなぎこめば、その後、既存インフラを活用することができる。

5月12日から2日間アシハバードで開催された「トルクメニスタンの石油・ガス分野への投資誘致国際フォーラム(OGT-2021)」では、SOCARのアブドゥラエフ社長が、トルクメニスタンの石油・天然ガスを国際市場に送るためにアゼルバイジャンのインフラを提供できると述べている[3]


[1] Business Turkmenistan(2021年2月19日)

[2] Neftegaz.ru(2021年2月19日)

[3] Arzuw News(2021年5月12日)

 

3. 合意の意義

ドストルクの埋蔵量については今後情報が更新されていくはずだが、少なくともACGやShah Denizのような莫大な規模ではなく、ACGの北でSOCARがEquinorと開発を進めるKarabagh油ガス田(石油6,000万トン(4.4億バレル)、ガス150~300億立方メートル)と同程度と見込まれている。商業生産に向けて有望ではあるものの、規模の観点では、多大なキャッシュフローを生み出す存在ではない。ドストルクの共同開発合意がもつ意味は、単に同鉱区の探鉱・開発活動が前進するということだけに止まらない。鉱区の帰属をめぐる対立は、カスピ海の2国間の境界をめぐる対立でもあり、その問題が解決したということは、ドストルクでの協力を皮切りに両国のより視野の広い協力が可能となるのである。前段で挙げたSOCAR社長による発言の念頭にあるのは今のところはドストルクの生産物輸送だが、ドストルクをアゼルバイジャンに接続し、そこからさらに東に位置するトルクメニスタン側のガス田を結んでいくと、1990年代から構想されるカスピ海横断パイプライン(Trans-Caspian Gas Pipeline; TCGP)が出現する。今の段階でTCGPの実現や「南ガス回廊」へのトルクメニスタン産ガスの供給に言及するのは時期尚早だが、今般の協力合意はその下地を作ることに成功したと見做すこともできるだろう。ドストルクの生産物をトルクメニスタン:アゼルバイジャン=70:30で分割するという、アゼルバイジャン側が大きく譲歩したような内容で両国が合意している背景には、将来アゼルバイジャンがトルクメニスタンからの生産物を輸送する際に得られる、パイプライン収入が考慮されていることが推察できる。

特に、ACG油田の生産量の自然減退(2010年80万バレル/日をピークに2020年は48万バレル/日)に伴って、本来100万バレル/日以上の輸送能力を持つBTCパイプラインは現在60万バレル/日弱程度でしか稼働していない。BTCパイプラインの償却はすでに完了しているかもしれないが、稼働率をより高めて追加的なパイプライン収入を得ることは、アゼルバイジャン政府やBTCパイプラインの事業者にとっては長年の課題だったはずである。

 

4. カスピ海の領有権問題

本稿の終わりに、アゼルバイジャンとトルクメニスタンの間では一旦落ち着いたように見られるカスピ海の領有権問題について、他の沿岸国も含めて主な経緯を表にまとめておきたい。なお、ドストルクの生産物の配分比率には合意したとされるが、2国間でカスピ海にどのように境界線を引くのかは情報がない。ロシア・カザフスタン・アゼルバイジャン間では2003年に中間線による国境が実質的に確定していて、カスピ海南部のトルクメニスタン、イラン、アゼルバイジャン間の境界線は今も未定となっている。

表:カスピ海の領有権をめぐる主な経緯
出来事
1921 イラン・ソビエト友好条約
1940 イラン・ソビエト通商海事条約:カスピ海の共同管理を宣言
1991

ソビエト解体により沿岸国がイラン、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、ロシア、カザフスタンの5か国となり、領有権問題が複雑化。

5か国中で最も海岸線の短いイランはカスピ海を湖と見做して沿岸国で均等分割することを主張し、その他4か国はカスピ海を海と見做し、国際海洋法条約に則って領海と排他的経済水域を設定するべきとの主張が基調となった。
1996 沿岸五ヵ国首脳会議(アシハバード):イラン、ロシア、トルクメニスタンはカスピ海の共同開発を主張
1998

2月、ロシアとカザフスタンがカスピ海海底分割の原則合意。アゼルバイジャンとトルクメニスタンは中間線による分割で交渉開始。イランはこれを非難。

3月、ロシアとカザフスタンがカスピ海分割条約調印。ロシアとアゼルバイジャンが中間線分割で合意。イラン、トルクメニスタンはこの動きを非難。

11月、外相級沿岸五ヵ国会議開催(モスクワ)。イランがカスピ海の均等分割を提案。
1999 アゼルバイジャンが海上鉱区でExxon、MobilとそれぞれPSA締結。イランは権益侵害として非難し、テヘランで開催予定だった沿岸五ヵ国サミットをキャンセル。
2000 ロシアとカザフスタンがカスピ海協力条約調印
2001

ロシアとアゼルバイジャンが「バクー宣言」でカスピ海海底分割に合意

外相級沿岸五ヵ国会議(トルクメンバシ)がイランの反対で延期
2002 第1回沿岸五ヵ国サミット(アシハバード)開催するも合意なし
2003 ロシア、カザフスタン、アゼルバイジャンがそれぞれの国境線の接点の確定に関する議定書に調印。これによりカスピ海北部は2国間中間線により分割済。
2005 ロシアがカスピ海諸国共同海軍(CASFOR)創設提案(その後立ち消え)
2007 第2回沿岸五ヵ国サミット(テヘラン)。沿岸五ヵ国が武力を用いない解決を目指す共同宣言。
2010 第3回沿岸五ヵ国サミット(バクー)。平和的解決を目指す共同宣言。
2014 第4回沿岸五ヵ国サミット(アストラハン)。15海里に国家主権水域、その先10海里に漁業水域を設けることで合意。但し基準海岸線の設定は先送り。
2018

第5回沿岸五ヵ国サミット(アクタウ)で「カスピ海の法的地位に関する条約」調印。

15海里を領海、その先10海里を漁業水域とすること(基準海岸線も設定)、海底資源の帰属は隣接国、対岸国と個別に合意すること、海底ケーブル、パイプラインの敷設に際しては通過国同士で合意すること、条約は全5か国が批准したときに発効し、有効期間は無期限で内容の変更には全5か国の合意が必要であること、他全24条から成る。

2019年10月までにトルクメニスタン、カザフスタン、アゼルバイジャン、ロシアが批准。イランは現在も批准していないため、条約は未発効。

(各種資料[4]を基にJOGMEC作成)


[4] 主に「トルクメニスタン/アゼルバイジャン:カスピ海Kapaz油田の領有権問題について」(古幡、JOGMEC石油・天然ガスレビューTopics 、2007年)を基に更新

 

以上

(この報告は2021年5月27日時点のものです)

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