ページ番号1009051 更新日 令和3年6月3日
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概要
いわゆるLNGクラブの軛から解放されLNGのコモディティー化が本格化してから10年が経過しようとしている。市場の成熟という経済の流れは滔々として、その中にあるLNGは、近年、さまざまな変動に翻弄されている。
電力・ガス自由化、スポットLNG割合の増加、新興国での利用拡大等に起因して、LNG需給の変動が拡大している。温室効果ガスやメタン放散の削減強化、国境炭素税の適用等、欧州を震源とした新たな環境政策は、カーボンニュートラルLNG等のボランタリーな活動とともに、いまや世界の一大潮流となっている。世界的な太陽光発電の拡大は継続し、発電用燃料としてのLNGの重要性はますます高まっているが、一方でLNG一本足打法の是正も指摘されている。そして、昨年来、新型コロナウイルス蔓延がすべての変化を加速させ、より一層不透明感が高まっている。
このような激動する時代においてこそ、「変わらないもの」の価値は高まっており、LNGをはじめとするエネルギーセキュリティーの確保も、より一層その重要性を増している。
ここでは、まず、2020年以降のLNG需給実績、予測等について述べた後、次に、今冬のLNG需給逼迫等について分析し、最後に、2025年までのLNGセキュリティーについて論じてみたい。
- 2020年LNG需給実績
- 2021年ガス・LNG需給・在庫・価格速報と見通し
- 2020年12月-2021年1月LNG需給逼迫分析(日本は買い負けたのか?)
- 緊急時のスポットLNG供給能力(トラブル時、頼れる売主はだれか?)
- LNGサプライチェーンリスク評価(2025年までのLNG需給バランス)
(出所 GIIGNL、IEA、Platts、Rystad Energy、GIE、EIA、Intercontinental Exchange、Kpler、日本機械学会、METI他)
1. 2020年LNG需給実績
(1) LNG貿易
2021年4月に発表されたGIIGNL(The International Group of Liquefied Natural Gas Importers、LNG輸入者国際グループ)アニュアルレポート2021によると、2020年のLNG貿易量は356.1MTに達し、2019年と比較して1.4MT(0.4%)増加した。
ミャンマーがLNG輸入国に仲間入りし、LNG輸入国は42か国、LNG輸出国は20か国となった。
2020年第1四半期のLNG貿易は好調に推移したものの、第2四半期および第3四半期には、新型コロナウイルスの影響により需要が低下した。この際、供給側の減産により需給バランスが調整された。第4四半期には需要が強まり、計画外の液化設備の停止により、市場が引き締まった。
米国が、新規LNGの大半(11MT)を供給し、豪州(2.4MT)、ロシア(0.3MT)も供給を増加させた。一方、その他多くの国で輸出量が減少し、なかでも、トリニダード・トバゴとマレーシアがそれぞれ2.4MTと最も減少し、次いでエジプトが2.1MT減少した。
太平洋地域が引き続き最大のLNG供給源で146.2MT(41%)、次いで大西洋地域が117.4MT(33%)、中東が92.6MT(26%)と続いた。大西洋地域からの供給は、唯一増加し(3.2MT)、太平洋地域と中東はそれぞれ0.5MT、1.3MTの減少となった。
供給国については、第1位が豪州77.77MT(21.8%)、第2位がカタール77.13MT(21.7%)、その後、米国44.76MT(12.6%)、ロシア29.60MT(8.3%)、マレーシア23.85MT(6.7%)、ナイジェリア20.55MT(5.8%)と続いた。Gorgon LNGのトラブルにもかかわらず、豪州が初めて世界最大のLNG輸出国となり、カタールは僅差で2位に甘んじた。
中国に牽引され、強い需要の伸びが続くアジア太平洋地域のシェアは、2019年の69%から2020年は71%に増加した。同時に、世界最大の需要地域(254.4MT)でもあり、恒常的に、中東、および、大西洋地域からLNGが輸送されるフローが形成されている。
スポット・短期契約(取引日から4年以内に引き渡される数量)の割合は、2019年の34%から急増し、2020年には総貿易量の40%にあたる142.5MTに達した。このうち、スポット数量(取引日から3ヶ月以内に引き渡される数量)は、2019年の27%(95MT)に対し、2020年には35%(125MT)に増加した。これは、新型コロナウイルス蔓延による世界規模での経済活動の低下に起因する天然ガスおよびLNG需要の減少により、2020年のほとんどの期間、スポットLNG価格が低迷し、購入が有利となったためである。
スポット・短期LNGの供給国は、米国が30.4MT(21.3%)、豪州が28.4MT(19.9%)、マレーシア12.2MT(8.6%)と続いた。
日本
日本のLNG輸入量は、74.4MTとなった。対前年比2.4MT、3.2%減と世界で最も大きく減少したが、引き続き、シェアは世界第1位の20.9%を占めた。これは主に、新型コロナウイルスに対するロックダウンにより電力消費量が減少し、特に、2020年第2四半期のLNG輸入量が減少したためである。6月以降、LNG輸入は徐々に回復し、12月には厳冬のために急増した。
韓国
韓国のLNG輸入量は、40.8MTと、対前年比0.7MTの増加となった。第1四半期は、政府が義務付けた石炭火力発電所の一時的な閉鎖により、また、第4四半期は、経済の回復と寒波により増加したものの、夏場の過ごしやすい気候に加え、新型コロナウイルスの影響で製造業の需要が減少したため、輸入量は例年より減少した。
中国
中国のLNG輸入量は、対前年比7.2MT増の68.9MTとなった。伸び率は、11.7%と世界で最も大きな値を示したものの、2019年の伸び率14%は下回った。2020年第2四半期は、輸入パイプラインガスよりも安価となったスポットLNGの輸入が急増した。シェアを2019年の17.4%から2%伸ばし、世界第2位の19.3%とした。
インド
インドでは、スポットLNG価格低下に対応した需要増加により、輸入量が2.7MT、11%増加した。Mundra LNG受入基地の操業開始やKochi LNG受入基地の稼動率の上昇も輸入の増加を後押しした。
その他のアジア諸国
その他のアジア諸国の輸入量については、台湾が6.6%増(1.1MT)、タイが12.2%増(0.6MT)、バングラデシュが2.5%増(0.1MT)となった。2020年5月、ミャンマーが新たにLNG輸入国の仲間入りをし、0.2MTを輸入した。
欧州
2020年の欧州のLNG輸入状況は、上半期と下半期で大きく異なることになった。上半期、欧州は米国LNGを中心とした世界中の余剰LNGを最後の砦として受け入れた。下半期は、地下ガス貯蔵の在庫が満杯に近づいたため、多くの米国LNGがキャンセルされたと同時に、各国のロックダウンによりガス需要が減少した。米国LNGのキャンセルは、夏期の供給数量に柔軟性をもたらし、LNG史上初の市場リバランスに貢献することとなった。さらにその後、LNG液化設備のトラブル多発、厳寒、パナマ運河渋滞による輸送能力低下によりJKMが上昇したことで、世界のスポットLNGはアジアへ向かい、欧州での受入量は減少した。通年では、欧州のLNG輸入量は対前年比4.3MT、5%減少し、合計で81.6MTとなった。
アメリカ
メキシコのLNG輸入量は、米国からの新たなパイプラインの操業開始により61.5%(3MT)減少した。南米では、チリ(2.7MT、9.8%増)が輸入量トップで、次いでブラジル(2.4MT、3.2%増)となった。
中東
中東のLNG輸入は、6.9MTと2019年から微減となった。
(2) LNG液化基地
世界の液化能力は、24MTPAの新規液化能力が追加され、454MTPAとなった。
米国では、大型液化5基地(キャメロンLNGトレイン2・3、コーパスクリスティLNGトレイン3、フリーポートLNGトレイン2・3)がスタートした。一方、多くの液化プロジェクトが遅延し、最終的な投資決定は、メキシコCosta Azul LNG(3.25MTPA)1件のみとなった。
2020年末時点で、108MTPAの液化設備が建設中となっている。
(3) LNG船
世界のLNG船は642隻(うちFSRU43隻、5万m3未満の小型船58隻)となった。
160,000m3型LNG船の平均スポット傭船料は$59,300/日となり、2019年の$69,300/日から下落した。
2020年、47隻が新たに就航し、40隻が発注された。発注済みのLNG船は147隻で、このうち7隻がFSRUであった。2021年、72隻が就航予定となっている。
2020年は、世界初のLNG発電船のスタート、複数のバンカリング船の納入と発注、最初のLNG燃料メガコンテナ船の進水、史上最大のLNGバンカリングオペレーション実施等、LNG利用の多様化にとって画期的な年となった。
(4) LNG受入基地
世界の再ガス化能力は、947MTPAとなった。
2020年、バーレーン、ブラジル(2基地)、クロアチア、インド、インドネシア、ミャンマー、プエルトリコで再ガス化8基地(25.9MTPA)がスタートアップし、2020年末までに、このうちの5基地(インドとプエルトリコの陸上2基地、ブラジルとインドネシアのFSRU2基地、陸上設備と組み合わせたミャンマーのFSU1基地、合計能力12.3MTPA)が商業運転を開始した。
さらに、中国3基地、日本1基地の拡張工事が完了し、5.8MTPAの能力が追加された。
2020年末時点で、FSRU11基地と、陸上22基地が建設中で、これら合計の再ガス化能力は、157MTPAに上り、そのうち74%がアジアに位置している。



2. 2021年ガス・LNG需給・在庫・価格速報と見通し
(1) 世界のガス需要
2020年4月に発表されたIEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)のガスマーケットレポート2Q-2021他によると、2021年の世界のガス需要は、2019、20年を上回る、4,056Bcm(対前年比3.2%増、+125Bcm)と予測されている。ただし、地域別では、ヨーロッパ、ユーラシア、北米、アジア等の成熟市場では成長が鈍化、または、部分的な回復にとどまる。一方、アジア、中東、アフリカ等の経済成長が著しい地域では、2019年を超えて需要が増加する。
米国
今期暖房シーズン(2020年10月から2021年3月まで)の米国ガス需要は、寒波により暖房需要が増加したにもかかわらず、対前年同期比3.8%の減少となった。これは、ガス価格の高騰により火力発電用燃料ガス需要が、対前年同期比7.5%減となったことを反映している。
2021年2月は、大寒波「Uri」が到来し極端な低温により暖房・電力需要が増加した一方、坑井の凍結によりガス生産が妨げられ、米国のいくつかの州では計画停電が実施され、メキシコへのパイプラインガス輸出も減少した。一方、カナダのパイプラインガス輸出は、対前年同月比22%も増加したが、これは3月に入っても13%増加したままであった。2月中旬、メキシコはパイプライン輸入量の減少を補うためにLNG輸入量を増やしたが、それでも卸売レベルでは、ガス供給削減に直面した。
2021年の北米のガス需要は、ほぼ安定しており、増加率は1%未満となる予測である。
欧州
欧州のガス需要量は、特に1、2月の低気温、原子力発電の出力低下と風力発電の減少(それぞれ、対前年同期比2%、6%の減少)による電力部門でのガス燃焼量の増加と、産業部門の緩やかな回復により、今期暖房シーズンは対前年同期比5%以上増加した。
2021年全体では、炭素価格の急激な上昇による夏場にかけて電力部門でのガス需要増加と、経済状況の改善を背景とした産業用ガス需要の回復のため、3%の増加が予想されている。
アジア
2021年のアジアのガス消費量は、経済活動の回復とガスインフラの拡大により、5%成長が見込まれている。アジアの需要増加の56%を中国が占め、インドが14%とそれに続く。
中国
中国のガス消費量は、工業部門の堅調な回復、住宅部門の高い暖房需要に牽引され、今期暖房シーズンは、対前年同期比2桁の伸びを記録した。
2020年第4四半期の消費量は対前年同期比で15%増加し、特に12月と1月の寒波襲来時には、対前年同期比でそれぞれ17%、20%の増加となった。月間ガス消費量は、12月に過去最高の40Bcmを記録した。
2021年の中国のガス需要は、堅調なGDPの成長、石炭からガスへの転換の継続、ガスインフラの拡大を背景に、8%増加すると予測されている。
インド
インドでは、アジアのスポットLNG価格が急騰したため、価格に敏感なユーザー(特に石油精製・石油化学部門)がガス消費を抑制したことにより、12月、1月、2月の消費増加率はそれぞれ対前年同月比で5%、9%、12%減少した。
5月上旬、新型コロナウイルスの感染が拡大し、いくつかの州でロックダウンが実施され、工業用と都市ガス用を中心にガス需要が減少が予測された。これまで6隻のLNG船が他のアジア諸国に転売された。
2021年のインドのガス需要は、堅調な経済回復、インフラの改善、国内供給の増加、政策支援を背景に、10%の増加と予想されている。
日本
日本のガス需要は、10月、11月は対前年同期比でマイナスとなったが、12月、1月は寒波の影響と原子力発電や太陽光発電の稼動率が低く、電力部門のガス使用量が増加したため、大きく伸びた。12月のガス消費量は対前年同月比5%増、LNGの輸入量は2020年12月から2021年2月の間に対前年同期比14%増となった。
2021年は、原子力発電所の再稼動と、新型コロナウイルスに対する緊急事態が逆風となり、ガス需要は3%減少すると予測されている。
韓国
韓国のガス需要量は、暖房シーズンの間回復を続け、2020年第4四半期は対前年同期比で7%増加した。これは、政府が指示した石炭火力発電所の停止と、12月の厳寒によるものである。2021年に入ってからも需要は堅調に推移し、1月のKOGASの国内ガス販売量(民間の発電向けを除く)は対前年同月比20%増、2月のLNG輸入量は対前年同月比で19%の増加となった。2021年の韓国ガス需要は、電力部門における石炭からガスへの燃料転換等により、5%増加すると予測されている。
新興アジア諸国
新興アジアのガス需要は、スポットLNG価格の高騰により、価格に敏感な買主の消費が抑制されたため、2020年第4四半期から2021年初頭まで低調に推移した。このため、パキスタンとバングラデシュでは冬期にスポットLNG入札を中止せざるを得ず、ガス不足に陥った。2021年の総需要量は経済活動の回復と電力需要の継続的な強い伸びに支えられ5%増加するとみられている。
(2) 世界のガス供給
米国
3年連続で増加していた米国のガス生産量は、2020年、1%減となった。
2月中旬に北米を襲った大寒波により、坑井が凍結し、2月第3週、テキサス州ではガス生産量が対前週比でほぼ半減し、ガス不足や輪番停電が発生した。米国大陸における2月のドライガス生産量は、1月と比較して15%減少し、2018年2月以来の低水準となった。このため、2月のLNG出荷量は4.4MT/mに落ち込んだが、3月には6.4MT/mまで回復した。その後、フィードガス使用量が高いレベルで供給され続けていることから、液化事業者は春の定期修理を9月に見送った可能性があるといわれている。
天然ガス生産量は、2020年の油価低下の影響で減少していたが、その後の油価上昇に伴い2021年後半は増加に転じると見込まれている。
欧州他
低気温にもかかわらず、今期暖房シーズンの欧州へのLNG輸入は対前年比で30%(20Bcm)減少した。1月の欧州LNG輸入量は対前年同月比で50%近く減少し、2月には対前年同月比30%減となったが、3月には昨年の水準近くまで回復した。
ノルウェーのパイプラインガス供給は、対前年同期比でほぼ横ばいであった。ノルウェー以外の域内ガス生産は、オランダGroningenはじめとして引き続き減少しており、対前年同期比で10%減少した。
ロシアの欧州向けパイプラインガス輸出は、2020年末までに2019年の水準を上回るまで回復し、2021年第1四半期の平均輸出量は対前年同期比18%増となった。
北アフリカからのパイプライン輸入は、暖房シーズン中に対前年同期比で55%以上増加し、アゼルバイジャンからのパイプラインガス供給は、TANAP(Trans Anatolia National Gas Pipeline)、および、TAP(Trans Adriatic Pipeline)システム経由の流量が引き続き増加したため、10月から2月にかけて対前年同期比で40%近く増加した。
今期暖房シーズンには、高いガス需要に対応するため、欧州地下ガス貯蔵からの引き出し量が対前年同期比で50%以上増加した。これは、総供給量の20%に相当した。
欧州のガス輸入需要量は、需要の回復(対前年比3%)、国内生産量の減少、地下ガス貯蔵在庫の補充のため等により、2021年には10%近く増加すると予測される。パイプラインガス輸入は、新型コロナウイルス蔓延前に近いレベルまで回復し、また、LNG輸入量は、2019年の記録的な水準に近いレベルを維持するとみられる。


(3) 世界のLNG貿易
2021年第1四半期の世界のLNG貿易は、対前年同期比で1%の増加となった。1月、北東アジアで発生した寒波の影響を受け、日本、中国、韓国のLNG輸入量は、対前年同期比で17%増加した。2月に入り気温が上昇したにもかかわらず、北東アジア3国へのLNG輸入量は、3月まで高水準で推移した。アジア太平洋地域全体では、第1四半期のLNG輸入量は対前年同期比で11%増加したが、逆に、欧州のLNG輸入量は対前年同期比で27%減少しており、アジアの需要急増とほぼ完全にバランスした。また、1月、季節間需要差がない東南アジアのインドネシアとタイから、それぞれ中国と日本へ緊急的にLNG再輸出が初めて実施された。
2021年第1四半期のLNG輸出は、オーストラリアやノルウェーでのLNG液化設備停止の継続、トリニダードやインドネシアでのフィードガス供給問題、2月の米国大寒波を原因とするLNG生産の一時停止等により、対前年同期比1.5%と低調に推移した。
2021年の世界のLNG貿易量は、2015年から2019年の10%/年の増加には及ばないものの、4%の拡大が予測されている。世界的にパイプラインガスのフローが増加し、さらに、中国やインドでは国内ガス生産が増加しているため、これらは短期的にはLNG需要拡大に対し逆風となるとみられている。
LNG輸入量は、アジア太平洋地域では7%増加すると予想されるが、その他の地域では減少する見込みである。欧州のLNG輸入量は、第1四半期の急激な落ち込みにもかかわらず、2021年も比較的堅調に推移すると予想される。これは、地下ガス貯蔵へのガス充填ニーズの高まり、域内ガス生産量の減少、夏場にかけてのガス需要の回復によるものである。
米国のLNG生産量は、3月のCorpus Christi LNGトレイン3、年末のCalcasieu Pass LNGの追加と、既存液化設備稼動率の向上により、1.3倍に増加する。Sabine Pass LNGトレイン6からの輸出が今年中に早まるとの情報もある。
エジプトのLNG生産再開等によってもLNG生産量は小幅に増加する。一方、ノルウェーのHammerfest LNG液化基地の修理は、2022年3月末まで半年程度延長される見込みとなっている。
(4) 世界のガス在庫
米国
2020年11月、米国地下ガス貯蔵在庫は、5年平均を5%上回ったレベルであったが、気温が高かったため、12月には在庫が増加に転じ、昨年の水準を大きく上回った。
2021年2月中旬の大寒波により、2月第3週には、地下ガス貯蔵から10Bcmのガスが市場に供給された。これは、EIAが過去報告した中で2番目に大きな引き出し量であったが、ガス井の凍結による生産量急減と重なった結果、2月15日ピーク時の地下ガス貯蔵からのガス供給量は、全体の38%に上った。
2021年4月末の地下ガス貯蔵在庫は、5年平均レベルの中央値付近の54Bcmとなっている。
欧州
欧州では、地下ガス貯蔵在庫が、5年平均を12%上回るレベルで暖房シーズンを迎えた。
その後、ガス需要は回復(対前年同期比5%以上増加)したものの、LNG受入量が急減(対前年同期比28%減少)したことにより、引き出し量は、対前年同期比55%増加し、暖房シーズン中のガス供給量の20%近くを占めるに至った。
欧州のガス地下貯蔵の在庫は、2021年5月10日時点で、5年平均を13Bcm(12%)下回り、31Bcm(28%)となっている。この低在庫により、2021年夏期は、LNGとパイプラインガス両方の受入量が増加するものと考えられている。
日本、韓国
2020年10月の日本と韓国のLNG在庫は、昨年を7%下回った。
2020年12月中旬から1月初旬にかけて需給が逼迫したため、LNG在庫は減少した。これを受け、1月後半から2月にかけてLNGの輸入が増加(対前年同期比16%増)し、2月末にはLNG在庫が昨年の水準を6%下回るまでに回復した。

(5) 世界のガス・LNG価格
2020年4月に発表されたIEAのガスマーケットレポート2Q-2021、EIA(U.S. Energy Information Administration、米国エネルギー情報局)短期エネルギー見通し等に基づき、以下に世界のガス・LNG価格についてまとめる。
油価リンク長期契約LNG価格
現状、原油価格は、$60/bbl台で取り引きされ、今後は若干の下げ基調となっている。油価リンク長期契約LNG価格は、これを反映し、$10/MMBtu程度のレベルから、若干下げ基調で推移するとみられている。
JKM
北東アジアのLNG需要の増加(対前年同期比12%増)と、太平洋地域を中心としたLNG液化設備のトラブルによるLNG供給量の減少等により、2020-21年の暖房シーズンスポットLNG価格は、昨年と比べて80%上昇した。特に、12月から1月にかけての寒波等で市場が逼迫した結果、アジアのLNGスポット価格は1月12日に$32.5/MMBtuという記録的な水準まで高騰し、月平均でも2014年4月以来の高値を記録したが、その後、急落した。
スポット価格が大幅に上昇したにもかかわらず、北東アジアのLNG平均輸入価格は、10月から2月の間に対前年同期比で20%下落した。これは、輸入量の多くを占める油価リンク長期契約LNG価格が下落したためである。
現在、JKMは、一部電力会社の夏期需要に対応するための需要があるものの、TTFにつられる形で高値を維持している。
フォワードカーブによると、今後もこのまま価格は低下せず、秋以降、油価リンク長期契約LNG価格を上回る予測となっている。
2022年春以降は、$7/MMBtu台に低下するとみられている。
TTF
2020-21年の暖房シーズンのTTFは、需要の回復(対前年同期比5%増)とLNG輸入量の激減(対前年同期比30%減)に支えられ、昨年の価格水準を平均60%上回った。
4月の低気温と地下ガス貯蔵の低在庫、さらに、ノルウェーパイプラインガスの不調やEU-ETS(European Union Emissions Trading Scheme、欧州連合域内排出量取引制度)の高騰等が重なり、5月12日、炭素市場が$67/t-CO2を超えたことが支援材料となり、TTFは$9.22/MMBtuと、この時期としては、かなり高いレベルまで上昇した。
今後、夏期に向けて若干低下するものの、TTFは$7/MMBtu台を継続する予測となっている。HHガス価格との差は、第2四半期から第4四半期にかけて平均$4/MMBtu近くとなっており、2021年、米国LNGがキャンセルされるリスクは限定的である。
2022年春以降は、$6/MMBtu台に低下するとみられている。
HHガス価格
2020-21年の暖房シーズンのHHガス価格は、2019-20年の暖房シーズンを40%上回る$3.05/MMBtuとなった。これは、国内ガス生産量が引き続き減少している一方で、LNG輸出量が増加(対前年比28%増)し、ガス需要が堅調に推移したためである。
2021年2月には、大寒波によるガス需要の増加と坑井の凍結による国内ガス生産量の急減が重なり、2021年2月のHH平均ガス価格は$5.49/MMBtuと、2014年2月以来の高値となった。2月後半には、寒波が去りガス生産も回復したため、HHガス価格は低下した。
2021年5月、EIAは、2021年は$3.05/MMBtu、2022年は$3.02/MMBtuと予測している。ちなみに、2020年のHH平均ガス価格は過去最低の$2.03/MMBtuであった。
HHガス価格が上昇することにより、電力部門における天然ガスによる発電割合は、2020年の42%から、2021年には37%に減少し、短期的に天然ガス火力から石炭火力へのシフトがみられるとしている。
2020年夏期は大量のキャンセルが発生したが、今夏は、油価リンク長期契約LNG価格、JKM、TTFとも、米国LNGのLRMC(Long Run Marginal Cost、長期限界費用)を上回っており、米国LNGのキャンセルは発生しないと予測されている。


3. 2020年12月-2021年1月LNG需給逼迫分析
(1) 経緯
IEAガスマーケットレポート2Q-2021に基づき、2020年12月から2021年1月にかけての北東アジアLNG需給逼迫時の状況を以下にまとめる。
2021年1月、北東アジアは寒波に見舞われ、LNG供給量の減少やLNG輸送の物流上の制約も相まって、局所的にLNGが不足し、LNGスポット価格が前例のないレベルに高騰した。
日本の1月の電力需要は、前年を大きく上回った。再稼動した9基の原子炉はそのうち3基しか稼動しておらず、さらに積雪の影響で太陽光発電の出力も低下した。その結果、電力市場が逼迫し、卸電力価格が過去最高となった。暖房シーズンを迎えるにあたり、LNGの在庫が例年よりも少なかった電力会社は不意打ちを食らった。アジアのスポットLNG価格は史上最高値を記録し、LNG輸送のボトルネックにより多くのデリバリーが遅れた。
韓国では、暖房シーズンにおいてLNGの逼迫による影響はほとんどなかった。1月のLNGスポット価格は記録的な高値となったが、電力の卸売価格は通常の範囲内で安定していた。また、1月のLNG輸入量は対前年同月比1%減少したが、原子力発電量は18%増加した。
中国の1月のガス需要は、暖房需要の増加に加え、好調な景気回復により、対前年同月比で23%増加した。しかし、パイプラインによるガス供給ではその一部しかカバーできず、記録的な需要を満たすためにLNGを追加調達した。LNG輸入量は、1月、大幅に増加したが、優先順位の低い部門へのガス供給は不十分で、一部の都市のローリー出荷LNG価格は10,000元/t($28/MMBtu)に達し、2017-18年冬のガス不足以来の水準となった。
一方、欧州からはLNGカーゴが北東アジアに向けて流出し、12月中旬から1月中旬にかけてLNGの輸入量は対前年同期比で40%近く減少したものの、パイプラインガスの輸入が増加したことや、地下ガス貯蔵からの引き出し等が、LNG輸入の減少を補った。
(2) LNG調達状況
LNG需給逼迫期間(2020年12月から2021年2月まで)における日本、中国、韓国のLNG調達状況についてまとめる。
日本
日本へのLNG輸出国は、第1位は豪州、第2位マレーシア、第3位カタール、第4位米国の順番となった。豪州からの調達が多いものの、多くの国から広く分散調達されている。
この期間、豪州、マレーシア、米国のスポットLNGが急激に増加した。UAE、ナイジェリアからもスポットLNGが調達されたが、カタールからスポットLNGは輸入されなかった。1、2月が調達のピーク月となった。
中国
中国への輸出国は、第1位は豪州、第2位カタール、第3位米国、第4位マレーシアの順番となった。日本と同様、豪州からの調達割合が高い。また、日本よりカタールの割合が高く、スポットLNGも調達された。マレーシアの割合は低く、ブルネイからの調達がない等、日本より調達先の多様化は進んでいない。2019年度にはゼロであった米国LNGが2020年度には多く輸入された。
輸入ピーク月が12月と日本より一か月早い。LNGを気化後、地下ガス貯蔵に注入するオペレーションをピーク前に実施しているためと考えられる。
韓国
韓国への輸出国は、第1位はカタール、第2位が米国、第3位が豪州、第4位がマレーシアの順番となった。構成国は、日本、中国と似ているが、順位は大きく異なり、カタール、オマーンから、多くのスポットLNGを調達した。2020年度は、対前年同期比で米国LNGが大幅に増加した。



(3) 日本は買い負けたのか?
LNG需給逼迫期間(2020年12月から2021年2月まで)の日本、中国、韓国の長期契約等LNGとスポットLNGの輸入量を対前年同期と比較した。なお、スポットLNGの中には、寒波来襲前に、この期間を目指して手当されていたものも含まれる。
日本
毎月の長期契約等LNG輸入量は、前年度よりも低いレベルで推移した。
一方、スポットLNG輸入量は、ここ数年、LNG需要の減少に伴い減少してきていたが、2020年度は、当初から秋口まで、高いレベルで推移した。
LNG需給逼迫期間においては、スポットLNG輸入量が大幅に増加した。この期間の長期契約等LNGは1.1MT減、スポットLNGは3.6MT増、合計LNG輸入量は2.5MTの増加となった。
毎月の合計LNG輸入量は、LNG需給逼迫期間以外は、前年度より低い値を示した。
中国
従来、合計のLNG輸入量、長期契約等LNG輸入量、スポットLNG輸入量とも毎年増加し、さらに、冬期調達割合が上昇する傾向があった。
2020年度は、当初から、毎月の合計LNG輸入量、長期契約等LNG輸入量、および、スポットLNG輸入量は、ほぼ一定の比率で前年度より高いレベルで推移した。
LNG需給逼迫期間において、突出してスポットLNG輸入量が増加した傾向は大きくはみられず、対前年度実績を一定比率で上回る形で推移した。
韓国
従来、スポットLNG比率が増加する傾向があったが、2020年度も当初から、スポットLNG輸入量が前年度より高いレベルで推移した。LNG需給逼迫期間においても、スポットLNG輸入量は、前年度より高いレベルで推移した。
合計LNG輸入量は前年度とほぼ同じ値となった。長期契約等LNG輸入量は、スポットLNG輸入量が増加した分、対前年度比で減少した。

LNG需給逼迫期間のスポットLNG輸入量は、対前年同期比で、日本が3.6MT増、中国が2.2MT増、韓国が1.2MT増となった。
日本は、その期間、中国、韓国より大幅にスポットLNG輸入量を増加させた。数年前であれば、中国の合計LNG輸入量は現在よりも小さかったため、日本はより多くのスポットLNGを調達できた可能性はあるものの、今回、日本は、その購買力を十分に発揮したとみるべきではなかろうか。
表1.日本、中国、韓国のLNG需給逼迫期間のLNG輸入量比較(2019/20年)
(4) 各国のLNG出荷状況
2020年12月から2021年2月の3か月間の実績に大きな変化(対前年同期比)のみられた輸出国について、以下にその状況をまとめる。この期間のJKM高騰に対応し、各国とも北東アジアへのLNG出荷を大幅に増加させた。
豪州
豪州は、伝統的に北東アジアの買主への輸出が多く、日本、中国が2大輸出先となっている。
中国向け出荷量は11月がピークとなり、日本向けは1月がピークとなる。また、春秋のオフピーク期は生産量が低下しているが、この時期に合わせて液化設備の定期修理が実施されている。
2019年12月-2020年2月ピーク期と、2020年12月-2021年2月ピーク期を比較すると、日本向けは39%で変わりなく、中国向けは、35→38%と若干増加した。

米国
2020年夏期は、EU向けキャンセルが多発し、輸出割合が減少した。一方、相対的にキャンセルの少なかったパナマ経由アジア向け出荷の割合が増加した。
2019年12月-2020年2月ピーク期と、JKMが高騰した2020年12月-2021年2月ピーク期を比較すると、EU他向けは、65%から51%に低下し、パナマ・スエズ運河経由(パナマ運河を経由しようとしたが、渋滞によりスエズ運河へ経路を変更したLNG船を含む)アジア向け出荷が34%から48%に増加した。

ヤマル
ヤマルLNGからは、冬から春にかけては、近距離の欧州向け出荷が増加し、夏期には、輸送コスト、輸送日数を低減できる北極海航路を使い、プレミアのあるアジア向け出荷が増加する傾向がある。
2019年12月-2020年2月ピーク期と、2020年12月-2021年2月ピーク期を比較すると、北極海航路は季節的に利用できなかったものの、JKM高騰を反映し、Zeebrugge積替スエズ運河経由によりアジア向け出荷が4%から、21%に大幅に増加した。

4. 緊急時のスポットLNG供給能力(トラブル時、頼れる売主はだれか?)
(1) スポット・短期LNG出荷割合
スポット・短期LNG出荷割合が高い国々は、豪州、マレーシア、オマーン、UAE、米国、ナイジェリア、トリニダートトバゴ、アンゴラ、エジプト、カメルーン等であった。プロジェクト立ち上げから20年以上が経ち、当初の長期契約が終了した国々であることが多い。
この中で、米国は、2016年からLNG輸出をはじめたばかりの国であるが、キャンセル権等、新規スキームがスポット・短期LNGの多いフレキシブルな契約を可能としていると考えられる。
カタールのスポット・短期契約割合は、特異的に小さいが、今後はプロジェクト開始当初の長期契約が終了していく。また、既にFIDした拡張プロジェクトの長期契約獲得も最重要課題である中、既存プロジェクトの長期契約継続は、価格次第ではあるものの、かなり難しいと考えられている。
今後、世界のスポット・短期比率はさらに上昇していくとみられるが、カタールにも米国と同様、高い瞬発力を持った世界の緊急時LNG供給役を期待したい。

(2) 世界初のLNGスイングプロデューサー、瞬発力も高い(米国)
2016年以降、米国ではLNG液化プロジェクトが次々と立ち上がった。2020年春以降、当初は欧州地下ガス貯蔵に受け入れられていたものの、世界的に生産過剰となったLNGは、その後行き場を失い、米国LNG170隻分のキャンセルが発生した。一転、2020-21年冬期においては、北西アジアを中心に厳寒となり、スポットLNG価格が高騰、北東アジア向けに多くの米国LNGが出荷された。
キャンセル権は行使されても、液化プロジェクト側の経済性はキャンセル料によって担保され、かつ、買主にとっては、油価リンク長期契約LNGを購入したLNGをルースマーケットにおいてスポットLNGとして安値で転売するより損失が小さいという、Win-Winの関係が構築されていることによって、月別最大最小需要量差が拡大する中で、まさに必要とされていた需給逼迫時の緊急供給国、需給余剰時の生産調整国としてのスイングプロデューサーの地位を、米国は早々に確立したといえる。
米国LNGは、今後大きな需要の伸びが予測されている新興アジア諸国にとって重要な供給源となると同時に、日本、中国、韓国にとっては、その瞬発力を生かした緊急時のLNG供給国としてより重要さを増してくると考えられる。
今後、欧州メタン戦略の影響で、セカンドウェーブLNGプロジェクトの立ち上がりが抑制された場合、LNG一本足打法の是正が課題とされる日本が一番大きな影響を受ける可能性もでてきている。

(3) スポットLNG価格を指標に生産・停止を判断(エジプト)
エジプトのLNG液化プロジェクト(Idku、Damietta)は、スポットLNG価格が$5/MMBtuを下回ると液化を停止するパターンで運転されるようになった。
これは、国営EGPC(Egyptian General Petroleum Corporation)等は、フィードガスを$4-5/MMBtuで買い付け、それを液化しスポット市場で販売しており、スポットLNG価格が$5/MMBtuを上回らないと損失がでてしまうためである。
2020年3月、スポットLNG価格が低下したため、Idkuでは液化設備を閉鎖した。その後、スポットLNG価格が回復し、10月、液化を再開した。2021年2月、Damiettaも液化を再開した。
欧州は、米国やカタールからの輸入量が増加している。また、アジアのスポットLNG価格の方が高値であるため、エジプトは地理的な特徴を生かし、スエズ運河経由でアジア向けに出荷をはじめている。
2020-21年の冬期は、中国が最大の輸出先となった。

(4) アジア長期契約優先、高稼動維持のため欧州へも(カタール)
カタールは、高価格が期待できる北東アジアの長期契約をベースとして、上下比率を調整し冬期に厚く出荷している。北東アジアの需要の薄い春秋は、スエズ運河を経由して欧州に確保した受入容量を活用し出荷を継続することによって、年間を通して液化設備の高稼動を維持している。スポットLNG比率は1割以下と、他の液化プロジェクトと比較して極めて低い。
コストが低いため、オフピークでTTFが低下した欧州へ出荷してもある程度の利益が期待できる。また、一旦ガス化して巨大な欧州の地下ガス貯蔵設備に注入し冬期が近づきガス価格が上昇してから払い出すオペレーションも可能である。
現状、需給逼迫時にスポットLNGを緊急供給する国にはなってはいないが、今後、北東アジアを中心とした長期契約の終了とともにスポット比率が上昇していき、規模の大きさと相まって、いざという時には瞬発力高くLNGを供給するプロジェクトに変化していく可能性がある。

5. LNGサプライチェーンリスク評価(2025年までのLNG需給バランス)
(1) リスク評価とは?
LNGサプライチェーン等のリスクを評価するには、決定論的手法と、確率論的手法がある。
決定論的リスク評価(Deterministic Safety Assessment、DSA)
現実に発生する可能性のある多種多様なリスクから、最も厳しいと考えられる少数の代表事象を定めて影響評価を行い、それが判断基準を満たすかどうかでリスクを評価する方法。リスクの発生頻度は考慮せず、設定した基準をYes/Noの二者択一でクリアすれば安全と判断されるため、安全神話になりがちともいわれる。
確率論的リスク評価(Probabilistic Safety Assessment、PSA)
LNGサプライチェーン各段階の内的・外的事象や、それらの組み合わせも考えたすべての事象の発生頻度と影響を、イベントツリー解析、フォールトツリー解析等で定量評価し、それらを定量的な判断基準と比較して評価する方法。原子力、航空、海洋分野等を中心に活用されている。特に、地震等、外的要因の発生確率をどのように評価するか、また、結果として示される事故の発生確率というものが理解しされにくい、といった課題がある。
決定論と確率論はお互いに補完する関係にあり、現在では、2つを融合させたリスク評価が求められている。

(2) LNGサプライチェーンのリスクとは?
従来、LNGサプライチェーンのリスク評価は、一般的に、決定論的に以下のような事象を想定した際にも、需給バランスが確実に保たれているかどうか、検討されてきた。
内的要因
- 上流ガス田やLNG液化トレインの不調等により、LNGが輸入できなくなったケース
- パナマ運河渋滞やLNG船トラブル等の問題により、LNGが輸入できなくなったケース
- 自社LNG受入基地におけるボトルネック設備の不調等により、LNG受入やガス送出ができなくなったケース
外的要因
- 想定外のレベルの厳冬や猛暑等の気象に見舞われたケース
- LNG需給予測に大きな影響を与える想定外の経済変動が発生したケース
- 新型コロナウイルス蔓延、覇権争いによる国際的な貿易摩擦、宗教やイデオロギーの対立等による社会情勢の変化が起こったケース
- GHG(Greenhouse Gas、温室効果ガス)排出規制や脱炭素等に対する新たな環境対策や規制が課されたケース
(3) 世界のLNG需給バランス(年平均では供給過剰)
2020年6月、IEAは、2025年までLNGマーケットタイト化のリスクは小さいと予測した。2010年代後半の大量のFIDが、その後のLNG生産能力の大幅な増加につながり、2020年から2025年の間、最大120Bcm/年、20%の生産能力が追加され、2021年以降、LNG液化設備の稼動率が大きく低下するという。これを象徴するかのような2020年夏期の米国LNGのキャンセル多発は記憶に新しい。世界のLNG合計生産能力は、数件のトラブルが発生しても、残りのLNG液化設備の生産を増加させれば、マーケットはタイト化しないレベルにあるという。
一方、北東アジアにおいては、LNG液化設備のトラブル多発、突然の寒波襲来、パナマ運河渋滞によるLNG輸送能力の不足が相まって、2020-21年冬期、LNG需給逼迫が発生した。
LNG輸入量のほぼ1年分、もしくは、年間ガス需要の2ヶ月分に相当する巨大な地下ガス貯蔵設備を擁する欧州に対しては、IEAの年間ベースでの評価は妥当であるが、地下ガス貯蔵能力が小さく、貯蔵の難しいLNGの形で世界の6割を取引する北東アジアの国々のLNG供給セキュリティーを論じる際には、今冬の例を出すまでもなく、短期ベース、すなわち、ピーク期における需給/セキュリティーを確認していく必要がある。
年平均の評価では、定格設備能力(年平均)、生産能力(年平均定修込)とも、LNG需要(年平均)を上回る場合でも、月別にみると、特にピーク期において、LNG需要(月別偏差大ケース)が生産能力(月別定修込)を上回る可能性がある。ここで、ベースケースと月別偏差大ケースの年間LNG需要量は等しい。


(4) LNG需要レベルと変動実績
世界の主要国・地域のLNG需要レベル(月別LNG輸入量の最大・最小・平均値)について実績を確認した。なお、日本、中国、韓国、および、EUは、北半球の中緯度に位置しており、LNG需要は、冬期がピーク期、夏期が準ピーク期、春・秋期がオフピーク期となる。
日本
世界で最も多くのLNGを輸入し、2020年の月別LNG輸入量最大・最小値差は±1.5MT/mであった。近年、LNG輸入量は漸減しており、それとともに、月別LNG輸入量最大・最小値とも低下し、それらの差は拡大する傾向を示している。
中国
世界第2位のLNG輸入国であり、需要の伸びが著しい。早ければ、2021年、日本を超えて世界最大のLNG輸入国となる見込みである。2015年以降、月別LNG輸入量最大・最小値差が拡大し、2020年は±1.9MT/mと大きな値を示している。月別LNG輸入量最大値も上昇してきているが、これは、3大LNG輸入者に加えて、いわゆる、2nd Tiersといわれる中小エネルギー会社のスポットLNG輸入が増加していることが一因と考えられる。月別LNG輸入量最小値は、従来と同じレベルで推移している。
韓国
LNG輸入量は、ここ数年、ほぼ一定である。2020年の月別LNG輸入量最大・最小値差は、±1.3MT/mとなった。月別LNG輸入量最大値もほぼ変わっていない。
インド
世界第4位のLNG輸入国であり、LNG輸入量は増加している。月別LNG輸入量最大・最小値差も増加しているが、ピーク期が北東アジア諸国とずれる傾向があり、また、スポットLNGが安価な時期(ピーク期ではない)に多くを調達する傾向があるため、ピーク期の供給安定性には大きな影響を与えない。
台湾
LNG需要は微増傾向にある。亜熱帯に位置し、インド同様、月別LNG輸入量最大・最小値差は±0.2MT/mと小さい(2020年)。
EU
近年、米国LNG生産能力拡大とともにLNG輸入量を拡大している。2020年の月別LNG輸入量最大・最小値差は±1.3MT/mであるが、月別LNG輸入量最大値は増加、月別LNG輸入量最小値は減少し、両者の差は拡大する傾向にある。


(5) LNG需要レベルと変動予測(世界)、2022-23年ピークは需給逼迫に注意
IEA予測に従い、2021年のLNG貿易量の伸びを4%とし、それ以降2025年までの伸びも4%と仮定する。この時、2025年のLNG貿易量は、IEA予測430MTPA(585Bcm、ガスマーケットレポート2Q-2021)に一致する。なお、新型コロナウイルス拡大前の2015-19年の間は、世界のLNG貿易は10%/年で成長した。
LNG需要変動の拡大傾向がこれまでと同様に継続する場合、2021年、±3.9MT/mであった月別LNG輸入量最大最小値差は、2025年には±5.5MT/mに拡大する。月別の平均LNG輸入量が、定格LNG生産能力を超えることはないが、月別LNG輸入量最大値は、2020年の34.7MT/mから、2025年には40.8MT/mに、6MT/m増加することが見込まれる。
2021年1月には、LNG供給余力(月別の定格LNG生産設備能力と最大LNG需要量の差)は、2.3MT/mであったが、Gorgon LNG(5.2MTPA x 3基。この時、1基が修理中で、供給能力の低下は0.43MT/m相当)と、Hammerfest LNG(4.2MTPA、0.35MT/m相当)の長期停止(合計0.8MT/m)により、LNG供給余力は1.5MT/mに減少していた。ここに、寒波とパナマ運河渋滞によるLNG輸送能力減少が重なり、LNG需給逼迫の事態が生じた。
今後、LNG需要は堅調に伸びていくが、2022年ピーク期には、Hammerfest LNGの修理延長が決まっており、LNG供給余力は1.8MT/mに減少する。また、2023年1月、新規LNG生産能力の追加が小さい状況から、LNG供給余力は1.5MT/mに減少する。これは、Gorgon LNGとHammerfest LNGが停止していた2021年と同様のレベルとなる。
その後、2025年にかけて、新規LNG生産能力が順次追加されることにより、この余裕は増加する予定であるが、液化プロジェクトの進捗が新型コロナウイルスの影響等で遅れた場合は、このピンチポイントは後年にずれ込むことになる。
オフピーク期需要の平均LNG輸入量からの下振れも拡大する。従来、LNG液化プロジェクトでは、通年で稼動率を上げ採算性を高めてきたが、今後は、平均稼動率が低下し、プロジェクトの投資採算性が低下することになり、LNG液化プロジェクトのFIDを遅らせる一因となる。
同時に、ピーク期間における瞬発力を発揮するために、より多くのLNG液化設備能力が必要とされるようになる。プロジェクトのコストダウンはもちろん、オフピーク期の液化設備停止オペレーションや、米国LNGのキャンセル権等のスキーム上の工夫、さらには、エネルギーセキュリティー確保の観点からのLNG設備形成に対する財政的支援がより重要さを増していくこととなる。
今後のLNG貿易量の伸びと、ピーク期の気温、液化設備等トラブルの有無等により、状況は大きく左右されるものの、LNG供給セキュリティー全般に対し十分な注視が必要な状況となっている。


(6) LNG需要レベルと変動予測(中国)、需要変動の拡大が継続
2020年、中国の月別LNG輸入量最大・最小値差は±1.9MT/mであった。これは世界の差±3.9MT/mの半分に寄与していた。
現状と同様の傾向が続くと仮定した場合、2025年には、これが±3.2MT/mに拡大し、世界の変動の6割を占めると推測される。また、月別LNG輸入量最大値が、対2020年で3MT/m増加し、11MT/mに近づくことが見込まれる。月別LNG輸入量最小値は、現状とほぼ変わらず、4.7MT/mとなる。
4月、CNPC経済技術院は、今後中国のLNG受入基地能力は、2025年には現状の2倍以上の190MTPAに達すると発表した(2020年の中国LNG受入基地能力は87MTPA)。地下ガス貯蔵容量の拡張も進められており、LNGタンク容量の増加によるバッファー能力の拡大が期待される。

(7) 日本の方がLNG需給逼迫の影響大
中国のエネルギー消費量は、日本の8倍に相当する。日本の1次エネルギー構成全体の中に占めるLNGの割合は2割強であるが、中国はわずか2-3%と、その1/10程度である。2018年、中国のLNG輸入量はまだ日本より小さかったが、その後の増加は著しく、早ければ、2021年、中国が日本を抜いて世界第1位のLNG輸入国となるといわれている。
今後、両国のLNG調達が競合した場合、LNGの占める割合の高い日本の方が大きな影響を受けることが予測される。

(8) 世界的な太陽光発電増加でガス火力の負荷拡大
IEA 世界エネルギー見通し2020によると、世界の発電設備容量は、2030年には1.4倍、2040年には1.8倍に拡大する(対2019年比)。なかでも太陽光発電の割合は、2019年の8%から2040年には27%に急激に増加する。ガス火力発電容量も増加するものの、その伸びは太陽光発電には及ばない。ガス火力発電容量と太陽光発電容量の比は、2019年の1:0.25から、2030年には1:1と等しくなり、その後、2040年には1:1.4と、太陽光発電の割合の方が大きくなる。
高性能蓄電池の開発が大きく進展しない場合、リニューアブルの発電出力変動を補完するためのガス火力発電の負荷変動はより大きくなり、ひいては、LNGの需要変動を拡大させることが予測される。

(9) スポットLNG増加による季節的なLNG需要変動の拡大
昨年末のレポートにおいて、世界の各地域のLNG市場はますます連携を強めており、以下の要因で、短期的、地域的な需給バランスにミスマッチが生じる可能性があることを報告した。
- 生産地と消費地が離れていること
- 地域毎の需要と供給のバランスが異なること
- 輸送能力に制約があること
今回、世界各国の月別LNG輸入量について分析した結果、以下の点が明らかとなった。
- 今後ますますLNG市場は成熟が進み、スポットLNGの割合が高まる。中国はじめ多くの国・地域で、ピーク期/非ピーク期の月別LNG輸入量の変動がますます大きくなる。
- ピーク期の需要はより高くなるが、特に、2022-23年ピーク期は、スポットLNG需給が今冬同様逼迫する可能性が高まる。
- 万一の際は、米国、豪州、マレーシアをはじめとした瞬発力の高いLNG生産国からの追加供給が期待される。
- 年間ベース、および、非ピーク期のLNG液化設備稼動率は、低下傾向が拡大する。これに対しては、米国LNGキャンセル権等が効果的に機能する。また、エジプトのLNG液化設備のように、スポットLNG価格が低下した場合、一定期間稼動を停止する液化設備もみられるようになる。
- 欧州には地下ガス貯蔵があり、LNGが世界のガス市場をつなげる中、日本もこれまで副次的にそのバッファー機能の恩恵にあずかってきたが、アジアの地下ガス貯蔵能力は小さく、今後、ピーク期の需給はよりタイトになっていくと予測される。
- 貯蔵の難しいLNGについては、年平均における需給バランスを満足させるだけでなく、ピーク期の需給バランスを担保できるよう、世界のLNG液化設備等を積極的に整備していく必要がある。
6. 対策案
2020-21年冬期、想定外の事象が重なりLNG需給逼迫が発生し、社会の根幹を支える主要なエネルギーの一つであるLNGに対する社会の信頼を揺るがせた。LNGの調達は、現在、イエローカードを突き付けられた形となっているが、今後、数年間は気の抜けない状況となることが予測される中、同様の事象は2度と繰り返されてはならない。以下に短期・長期的、直接・間接的に取りうる対策案をまとめる。
貯蔵用LNGタンクの建設
緊急時のLNGを確保するために、貯蔵用のLNGタンクを建設する。費用が高価となる、建設用地の手配が難しい、BOG(Boil Off Gas)処理コストが高価になる等の課題がある。
地下ガス貯蔵の建設
日本に地下ガス貯蔵設備を建設する場合、欧州と比べ利用できる適当な枯渇ガス田が少ない、近隣との調整が難しい、さまざまな法的な制限がある等の課題がある。
LNG船のタンク代替利用
LNGを積載したLNG船を、日本近海に停泊させたり、通常より速度を落として航行させたりすれば、LNGサプライチェーンの中で量的な撓みができ、緊急時用のLNGを確保することができる。LNG船傭船費用の増加、費用負担者はだれか等の課題がある。
LNGプロジェクト上流権益の確保
上流権益の確保は、緊急時の日本への出荷に効果があることが期待され、従来実施されてきた。上流は規模が大きく実績の豊富な産ガス国やメジャーに既に固められており参入が難しい、為替や原油価格による保有権益価値の変動が経営に与える影響が大きい等の課題がある。
長期契約割合の維持
長期契約に余裕を持ってLNGを調達し、万一、需要が予測を下回り、タンクトップとなった場合には、それをスポット市場で転売するスキーム。暖冬等で日本の需要が低い場合は、世界的にも同様の状況であることがほとんどで、転売損がでるケースが多い。
欧州地下ガス貯蔵ビジネスへの参入
欧州地下ガス貯蔵ビジネスに参入し、ある程度の「保険料」を負担して在庫を高めに誘導することにより、欧州着LNG価格を低下させ、結果として、アジアのスポットLNG価格を安定させる方向に誘導する。日本とは距離が離れていること、直接的に日本向けLNGを確保できるわけではない等、効果が間接的になる懸念がある。
世界のガスパイプラインプロジェクトの推進
パイプラインガスとLNG両方を輸入する欧州のような地域に対し、安定的にパイプラインガスを供給するプロジェクトを成立させ、その地域へのLNG流入を減らすことによって、日本へのLNG供給を安定化させることができる。この観点から、年内ともいわれる、残る100kmの建設完了を待つばかりのノルドストリーム2の運転開始時期が注視される。
デマンドサイドマネジメント
緊急時、あらかじめ契約上取り決めた供給停止条項を行使して各需要家のガス使用量を削減する。
7. おわりに
新型コロナウイルスが拡大する中でもLNGは高い耐性を示し、2020年の世界のLNG貿易量は356MTPAに達した。2021年は、4%の拡大が予測されている。
スポット・短期LNG割合も40%に達したが、この増加に伴って、今後、LNGの需要変動はますます拡大していく。2020年12月から2021年1月にかけての北東アジアLNG需給逼迫時には、日本、中国、韓国の3か国は、豪州、マレーシア、カタールはじめ全世界から7MTのLNGを調達し、危機的状況は回避された。
この際、特に米国は、パナマ運河渋滞にもかかわらず大量のスポットLNGを供給し、2020年夏の大量キャンセルと合わせて、世界のLNGスイングプロデューサーとしての地位を確立した。今後、カタールにも、瞬発力高くスポットLNGを供給する役割が期待されている。地下ガス貯蔵設備が十分ではない北東アジアにとって、柔軟性の高い、瞬発力にとんだLNGサプライヤーの存在がますます重要となる。
2022-23年ピーク期のLNG供給余力は、今冬と同様レベルまで低下することが予測されている。第一に冬期の気温を注視し、次に、LNG液化設備のトラブル等のないよう、健全なLNGサプライチェーンの維持に業界一丸となって邁進する必要がある。
4月に開催された気候サミットにおいて、日本は2030年度の温室効果ガスを2013年度比46%削減する目標を公表した。さまざまな将来の代替エネルギーについて多くの議論、研究がなされてはいるものの、足元では、リニューアブルを補完する調整用電源燃料としてのLNGの重要性はますます高まっている。
激動の時代だからこそ、社会の安寧を保つための盤石なLNG供給セキュリティーの確立が必要とされている。
以上
(この報告は2021年6月2日時点のものです)
参考資料
- 石油・天然ガス資源情報:天然ガス・LNG最新動向 ―新たな脱炭素処方箋:欧州メタン戦略とカーボンニュートラルLNG、効能と副作用―(2021/04/13)
- 石油・天然ガス資源情報:天然ガス・LNG最新動向 ―スポットLNG価格急騰!2020年トラブル頻発とパナマ運河制約で激変迫るLNG物流―(2020/12/25)
- 石油・天然ガス資源情報:天然ガス・LNG最新動向 ―LNG価格システムの課題、油価上昇がもたらした一物二価―(2020/10/13)
- 石油・天然ガスレビュー:LNGニューノーマル ―2020年以降の需給・価格・FID―(2020/9/25)
- 石油・天然ガス資源情報:天然ガス・LNG最新動向 ―あふれるLNG、追い打ちをかける新型コロナと油価暴落―(2020/05/11)
- 石油・天然ガス資源情報:天然ガス・LNG最新動向 ―余剰LNGは何処へ?カギを握る欧州ガス市場―(2020/03/26)
- 石油・天然ガスレビュー:LNG供給バブルは来るか?(需給、ポートフォリオプレイヤー、価格指標、各社の戦術)(2020/03/26)
- 石油・天然ガス資源情報:新たなLNG需要:船舶燃料としてのLNG(2019/08/08)