ページ番号1009056 更新日 令和4年6月16日

ベネズエラの原油生産、輸出、精製状況 ―今後の増産、外資の探鉱・開発事業参入の見通し―

レポート属性
レポートID 1009056
作成日 2021-06-04 00:00:00 +0900
更新日 2022-06-16 14:57:20 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 探鉱開発基礎情報
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 11
抽出データ
地域1 中南米
国1 ベネズエラ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,ベネズエラ
2021/06/04 舩木 弥和子
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概要

  • 減少が続いていたベネズエラの原油生産量は2020年6月の日量36万バレルを底に、その後、わずかながらも増加に転じている。2021年2月には日量50万バレルを上回り、3月には日量55万バレルまで回復した。ベネズエラは2020年6月には、米国の制裁により原油の引き取り手がなく輸出ができなくなり、そのため、在庫が減らず、生産を調整せざるを得ない状況にあった。しかし、その後、中国企業、Reliance Industries、Eni、Repsolや無名の企業などが、制裁をかわして生産量を上回る量の原油を引き取り、在庫が減少したことで、原油生産量が増加に転じたと考えられる。
  • 2018年末から稼働をほぼ停止していたPuerto La Cruz製油所が、2021年3月に再稼働したことで、2021年4月初旬のPDVSAの製油所の精製処理量は日量31万バレル、稼働率は24%となった。ベネズエラの主要生産地域であるOrinoco Oil Belt(OOB)で生産される超重質油は粘性が高く、輸送するには軽質原油やナフサなどで希釈する必要があるが、ベネズエラは制裁により十分なナフサを輸入することができなくなっており、主に国産の軽質原油を希釈剤として利用している。ところが、製油所の稼働率が上昇したことで、国産の軽質原油を製油所と超重質油の希釈用とで奪い合うという構図が出現、4月には原油生産量が日量52万バレルと、3月よりも日量3万バレル減少した。5月前半には、再び製油所の稼働率が落ちこみ、軽質原油がOOBの希釈用に回されるようになり、生産量は回復した。しかし、今後も、製油所の稼働状況により、ベネズエラの原油生産量が影響を受けることが想定される。
  • 中国は2021年6月12日から、希釈ビチューメンブレンドに1リットル当たり1.2元(1バレル当たり29.7ドル)の関税を課す。ベネズエラは、この関税が課される前に、できるだけ多くの原油を中国に輸出しようと試みた。その結果、2月から4月にかけ、日量70万バレル程度で推移していたベネズエラの石油輸出量は5月には日量75万バレルまで増加した。
  • PDVSAは、原油生産量をChávez前大統領が就任する前の1998年の水準(日量340万バレル)に戻すためには、580億ドルの投資が必要であるとしている。そしてPDVSAは、原油生産回復のために外国石油会社を誘致する方針を明らかにした。それによれば、外国石油会社は、生産サービス契約(APS)をPDVSAと締結し、油田の操業に必要な資金の100%を出資する見返りとしてプロジェクトから得られたフリーキャッシュフローの一部を支払う形となる。油田権益および関連インフラはベネズエラ政府が所有するとしている。自ら油・ガス田権益を保有できないというAPSの契約形態である限り、大手の国際石油企業が関心を示す可能性は低いであろう。さらに、PDVSAが必要としている投資額も不十分である。したがって、大幅な生産増加も期待できない。Tareck El Aissami石油相は、2021年末までに石油生産量を日量150万バレルに引き上げるという目標を掲げているが、中国が新たな関税をベネズエラ産原油に課す予定もあり、米国の対ベネズエラ制裁が解除、あるいは、緩和されない限り、この目標の達成に近づくことは非常に難しいだろう。

(Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas他)

 

はじめに

減少が続いていたベネズエラの原油生産量は2020年6月の日量36万バレルを底に、その後、わずかながらも増加に転じている。2021年2月には日量50万バレルを上回り、3月には日量55万バレルまで回復した。

そもそも、ベネズエラの原油生産量は、2015年まで日量250万バレル前後で推移していたが、2016年4月以降、国営石油会社PDVSAによる支払いの遅れからサービス会社がベネズエラでの活動を削減、稼働リグ数を減らしたことで減少を始めた。2017年には原油生産量は日量200万バレルを切り、同年末からは、生産減が加速した。この時期までのベネズエラの原油生産量減少の原因は、先述した稼働リグ数減少の他、Chávez前政権以降の失政による資金、資機材、技術力や経験、知見のある人材の不足などであった。

2019年には、これらの要因に加えて、米国財務省外国資産管理室(OFAC)がPDVSAを制裁対象としたこと、また、ベネズエラ国内で大規模停電が発生して油田操業にも影響が出たことにより、原油生産量はさらに落ち込んで、2019年3月には日量87万バレルと日量100万バレルを下回った。そして、同年8月に、米Trump大統領が原則として米国内にあるベネズエラ政府のすべての資産を凍結し、同国政府との取引を禁止するという内容の大統領令を発出、これ以降、ベネズエラはタンカー調達が困難になり、輸出カーゴの引取りキャンセルが続き、原油出荷施設にある貯蔵容量が満杯となった。このため、原油生産量を調整せざるを得なくなり、2019年9月の原油生産量は日量65万バレルまで減少した。

10月以降は、主に露国営Rosneftが原油を引き取ったことで、貯蔵設備に空きが生じ、2020年末には生産量は日量80万バレルを上回るレベルまで回復させることができた。

ところがOFACは、2020年2月18日、2019年のベネズエラ原油輸出の6割以上を扱っていた、Rosneftの子会社Rosneft Trading SAを、また3月12日にはRosneft Trading SAの後を引き継いでベネズエラ産原油の輸出を担っていた同じくRosneft子会社のTNK Trading International SAの両方を米国の経済制裁対象とした。その後、PDVSAは大幅な価格ディスカウントを行ったり、無名のメキシコ企業2社と原油と食糧のバーター取引を行ったりするなど原油輸出先確保にこれまで以上に苦慮するようになった。5月にはこれらメキシコ企業も米国の調査対象となり、ベネズエラ原油の受け取りを停止したことで、貯蔵設備が再び満杯となり、PDVSAは再度、原油生産量を削減せざるを得なくなった。原油生産量は4月の日量63万バレル、5月の日量56万バレルから6月には日量36万バレルまで減少した。6月には、原油生産量が日量30万バレルを下回った日もあったという。

図1に示す通り、2018年中ごろより25基前後で推移していた稼働リグ数も、2020年4月に14基、5月から9月は1基に減少、10月以降は稼働するリグが0となっている。

資金、資機材、人材などの不足状況は変わらず、また、ここまで原油生産を削減せざるを得ない状況であったにもかかわらず、なぜ、その後、ベネズエラは、わずかとは言え、原油生産量を増やすことができたのだろうか。

図1ベネズエラの原油生産量と稼働リグ数の推移
図1 ベネズエラの原油生産量と稼働リグ数の推移
IEA Oil Market Report、Baker Hugesウェブサイトを基に作成

1. 原油輸出に無名企業が多数参入

2020年半ば以降、ベネズエラの原油生産に最も影響を与えた要因は、原油輸出および在庫の状況と希釈剤の供給量であったと考えられる。

上述した通り、ベネズエラは、米国制裁により原油の引き取り手がなく、輸出ができなくなり、そのため、在庫が減らず、上流での生産を調整せざるを得なくなる状況を、これまでにも何度か繰り返してきた。2020年6月も同様の状況が発生していた。当時の状況をもう少し詳しく見てみよう。

米国は、この数か月前より制裁を強化し、その対象をメキシコ企業やタンカー、海運会社などにまで拡大していた。制裁が強化されたことにより、PDVSAの顧客や海運会社は自らに制裁が科されることを恐れ、ベネズエラでの原油積み込みのために航行させていたタンカーを引き返させたり、タンカーに石油を積まずにベネズエラ海域から出航させたりした。例えば、マレーシアのKemaman製油所向けにベネズエラのAmuay製油所で100万バレルのBoscan原油を引き取る予定であったタンカーSeadancer(マルタ船籍。タイの石油精製企業Tipco Asphaltがチャーター。ギリシア企業が運航)は大西洋で1週間待機した後、ジブラルタルへ引き返した。また、シンガポール向けにHamaca原油100万バレルを引き取る予定であったタンカーNovo(マルタ船籍)がカリブ海航行中に引き返した。さらに、カリブ海に停泊していた少なくとも3隻のタンカーが空船のままベネズエラ領海から離れていったという[1]

また、ベネズエラ産原油1,810万バレル積載した少なくとも16隻のタンカーが、米国の制裁強化により買い手が付かず、アフリカ、地中海、アジア、カリブなど世界中の海洋で待機しているとの報道もあった。原油を降ろせないために毎日少なくとも3万ドルの超過停泊料金が発生しているが、6ヶ月以上も荷降ろしができないタンカーもあったという[2]

ベネズエラ国内に油田の上流権益を持つRepsol、Eni向けには「自社取り分原油」と思われる輸出が行われていたが、6月の原油及び石油製品のベネズエラからの出荷量は1943年以来最低の日量36万バレルまで落ち込み、ベネズエラの主要な石油ターミナルであり、輸出可能な原油の貯蔵場所でもある東海岸のJose港の重質原油の在庫は6月中旬には1,490万バレルに達し、6月末には1,450万バレルとなった[3]

原油の在庫が積み上がり、貯蔵施設が満杯となったことで、主要な生産エリアであるOrinoco Oil Belt(OOB)のPetropiarプロジェクト(PDVSA 70%、Chevron 30%のジョイントベンチャー)は6月中旬以降生産を停止し、その他のプロジェクトも生産量を減らした。そのため、OOBの生産量は、4月の日量40万バレル、5月の日量30万バレルから6月には日量9万バレルまで落ち込み[4]、ベネズエラ全体としても、原油生産量は日量36万バレルとなった。

ところが、7月になると、インドのReliance Industriesが、4月に停止していたベネズエラ産原油とディーゼル燃料のスワップ取引を3ヶ月ぶりに再開した。Relianceは、OFACにベネズエラとの取引内容を共有し、制裁に抵触していないことを確認しており、取引は許可されていると述べた。また、EniとRepsolも、OFACからの許可を得てベネズエラ産原油とディーゼルのスワップ取引を継続していることが明らかになった[5]。原油に過度の水分、重金属、硫黄分などの不純物が含まれていたことから、原油の出荷が遅延するという事態が発生したものの、8月にかけて、この3社が、原油とディーゼルのスワップを利用し制裁に違反することなくベネズエラから原油を引き取った。

また、8月には、Novosi、Ztianjin Businessなどベネズエラ原油の新たな引き取り手が現れた。これら企業の実態はつかめていない。

さらに、PDVSAは2020年8月末に、中国向けに原油の直接輸出を再開した。米国制裁を受けて、2019年8月以降、中国はPDVSAから原油を直接、輸入することを停止し、マレーシアを経由するなど産地を分からなくする方法でベネズエラ産原油を密かに輸入していた。また、8月末には、ロシア企業Wanneng Munay所有のタンカーKyotoがJose港より180万バレルの原油を搭載し中国に向けて出航、11月初めに大連石油ターミナルで積卸しを終えたとされる。さらに、9月には、パナマ企業Umbridges Trade保有のトーゴ船籍タンカーWarrior KingがMerey原油60万バレルを積載し、11月末に中国に到着したという[6]

さらに、米国がPDVSAの長期的な顧客に対しPDVSAとの取引を停止する期限を10月から11月に設定したことから、9月にはその期限前に駆け込みでベネズエラ原油を引き取った企業も多かったという。

ベネズエラの原油及び石油製品輸出量は7月に日量38.8万バレル、8月に日量43.8万バレル、9月に日量69万バレルと増加、これにより在庫が減少し、原油生産量は7月、8月には6月より日量3万バレル増加し日量39万バレルに増加し、9月には日量43万バレルまで回復した。

ところが、10月になるとEni、Repsol、Reliance Industriesなどが、米国が設定したPDVSAとの取引停止期限を守るためPDVSAとの取引を一時停止した。タイのTipco Asphaltのように、PDVSAとの取引停止期限前に、追い込みでベネズエラ産原油を輸出する企業もあったが、10月のベネズエラの石油輸出量は日量359,000バレルまで落ち込んだ[7]。その結果、Jose港の貯蔵施設の貯蔵量は、9月の560万バレルから1,180万バレルへ倍増した[8]

再び原油生産量を抑えざるを得なくなる可能性が懸念されたが、11月には、モスクワに本拠を置く商社OGX Tradingにより2020年に登記された企業Xiamen Logistic Grass、Olympia Stly Trading、Zaguhan & Co.、Karaznbas、Kalinin Business International、Poseidon GDL Solutionsなど新たな顧客を確保できたことで、原油及び石油製品の輸出量は日量63.9万バレルに増加した。最終仕向け地は主に、中国とされている[9]

12月には、イラン国営石油会社のチャーターしたタンカーNdrosが、イランから燃料を積載してJose港に到着、燃料を積み下ろした後にベネズエラ産原油Merey16を搭載し、出航した。Ndrosは2018年に廃船とされており、PDVSA及びイラン国営石油会社は、米国制裁回避のために廃船の名前を使用したと考えられる[10]。さらに、6月以降、アラブ首長国連邦に拠点を置く企業Muhit Maritime、Issa Shipping FZE、Asia Charmもベネズエラ産原油を輸出していたことが判明した[11]

そして、2021年1月にはRepsolとRosneftがPDVSAとのスワップ取引を再開、また、無名の新規企業がベネズエラ原油を多く引き取ったことで、原油及び石油製品輸出量は、2020年12月の日量487,000バレル[12]から、1月は日量544,290バレル[13]、2月は日量718,180バレルまで増加した。主な仕向地は、中国の他、シンガポール、マレーシアとされている。原油輸出が増加した結果、在庫は減少、PDVSAは生産を強化し、OOBの超重質原油を中心に生産量が増加した。

原油及び石油製品輸出量は、3月に日量688,533バレル、4月も日量690,323万バレルとほぼ同水準を維持した。

3月は主要輸出先である中国への直接出荷量を増やすことに成功した。アジア向けのタンカーは、石油取引の実績のない企業約10社がチャーターしたという。また、Jose港で機械的な問題が発生し、タンカーへの原油の積み込みが妨げられたものの、PDVSAは西部Amuay製油所沖合で船から船へ石油を積み込むことでこれをカバーした[14]。PDVSAは、原油輸出量の3分の2以上をJose港から積み出しているが、2019年以降はAmuay製油所沖合Caquetiosで船から船へ積み込む方式による輸出も開始している。

4月には、China Concord Petroleum、Yunshu Maritimeなど新たな企業が、ベネズエラ原油を引き取っている。このうち、China Concord PetroleumはPetroSucre(PDVSA 74%、Eni 26%のジョイントベンチャー)がParia湾に位置するCorocoro油田で生産し、FSO(Floating Storage and Offloading system:浮体式海洋石油・ガス貯蔵積出設備)Nabarimaに貯蔵していた原油を引き取った。Petrosucreは、米国が2019年1月にPDVSAを制裁対象とした直後に、Corocoro油田の生産を停止し、Corocoro原油115万バレルが、乗組員がいないNabarima船内に貯蔵されていた。その後、Nabarimaは船体が25~30度傾いてしまい、積み込まれている原油が流出するのではないかと懸念されていた。EniがNabarimaから原油を積み出す作業が米国の制裁に違反することにならないことの確証を米国から取った上で、原油搬出作業が開始された。実際には、PDVSAが2020年12月から2021年4月初旬にかけて、Nabarimaからバージ船、シャトルタンカーを経由して、Jose等のPDVSA貯蔵施設に原油を移した。Nabarimaから原油が搬出されたことで、PetroSucreは1か月以内にCorocoro油田での開発、生産を再開することを検討しているという。同油田は、制裁前は日量1万5,000バレルの原油を生産していたが、生産再開後は日量1万バレル、6月末には日量2万5,000バレルまで生産量を引き上げることを計画しているという[15]

このように米国の制裁を避けながら、生産量を上回る量の輸出が続いていることで、在庫が減少した。Jose港の原油貯蔵量は2020年12月の1,387万バレルから、2021年4月には662万バレルにほぼ半減している。その結果、5月に入ると、今度は、Jose港と周辺の停泊地La Borracha島付近で原油の積み込みを待つタンカーの数が増加するようになった。5月中旬には10隻以上のタンカーが待機、1,960万バレルの原油の出荷が滞っているとの報道がなされた。また、Jose港に停泊中のVLCC 2隻が、在庫不足や品質に問題があるため、何度も積み込み作業を中断しており、そのため、主にアジア向けに原油を輸出する予定だった他のタンカーの積み込みが延期された[16]


[1] Reuters. 2020/6/9

[2] Reuters, 2020/6/24

[3] Reuters, 2020/7/2

[4] BNamericas, 2020/7/13

[5] The Telegraph online, 2020/7/11

[6] Reuters, 2020/11/26

[7] Reuters, 2020/11/3

[8] Reuters, 2020/10/26

[9] Reuters, 2020/12/2

[10] Reuters, 2020/12/14

[11] Reuters, 2020/12/29

[12] Reuters, 2021/1/4

[13] Reuters, 2021/2/2

[14] Reuters, 2021/4/6

[15] LatAmOil, 2021/4/16

[16] BNamericas, 2021/5/20

 

2. 不足する希釈剤を製油所と奪い合い

安定的に輸出が行われ、在庫が減少したことで、原油生産量はわずかながらも回復したが、その後の生産増にはつながっていない。その主な原因が希釈剤の不足だ。

OOBで生産される超重質油は粘性が通常原油より高く、輸送するためには軽質原油やナフサなどで希釈することが必要である。希釈剤には、ベネズエラ産の原油Mesa30(API比重30度)およびSanta Barbara(API比重36度)や輸入したナフサなどが用いられてきた。

ベネズエラは主に米国からナフサ日量約10万バレルを輸入していたが、2019年1月に米国がPDVSAを制裁対象に加えたことで、これを失うことになった。ベネズエラは、インドのRelianceやロシア企業から購入するナフサの量を増やすことで対応していたが、米国が制裁を強化したことでこれらの取引も困難となった。そこで、ベネズエラは韓国などが輸入を停止したために余ってしまったSouth Parsガス田産のコンデンセートをイランから輸入し、これをOOBの超重質油の希釈剤として利用するようになった。2020年9月には、イランからSouth Parsガス田産コンデンセート200万バレルがJose港に到着したと報じられた。そして、このコンデンセートを用いてPetrosinovensaが超重質油とのブレンド作業を再開、また、このコンデンセートのうち50万バレルがPetropiarに提供され、そちらの生産強化も図られた。しかし、イランからのベネズエラ向けコンデンセート出荷は2020年9月が最後となった模様だ。

このような状況から、ベネズエラは主に国内産の中質、軽質原油を希釈剤として利用しているが、OOBの開発に力を入れてきた結果、ベネズエラ産の中質、軽質原油の生産量は減退が続いている。

さらに、2021年3月末に、Puerto La Cruz製油所が再稼働し、ベネズエラの製油所全体の稼働率が上昇、これまでよりも多くの軽質原油が精製、処理されるようになった。

ベネズエラには、Amuay、Cardon、Puerto La Cruz、El Palitoなどの製油所があるが、修理やメンテナンスが十分に行われていないことや原油が供給されないことなどから、稼働している製油所は少なく、稼働率も10%を切るようになっていた。ガソリンやディーゼルの不足からベネズエラは製油所の修理に躍起となっている。2018年には中国がベネズエラを支援しCardon製油所の改修を試みたが、断念。その後も、資金、資機材、技術者の不足から製油所を十分に改修できない状態が続いた。ベネズエラは、2020年4月に、イランから製油所改修に必要な作業員や機材、接触分解装置用の触媒などの空輸を受けるなど、イランからの支援により製油所改修を進めるようになった。その結果、Cardon製油所は2020年5月に稼働を再開したが、その後も火災や設備の故障を繰り返している。また、El Palito製油所でもガス漏れや設備の故障、火災が発生し稼働が停止となるなど、いずれの製油所の操業も極めて不安定で、安定した稼働は困難と見られていた。

ところが、2018年末から稼働をほぼ停止していたPuerto La Cruz製油所が、ロシア及びイラン企業からの技術支援により、2021年3月に再稼働し、精製処理量が日量8万バレルに達した。これにより、2021年4月初旬のPDVSAの製油所の精製処理量は日量31万バレル、稼働率は24%となった。ガソリンやディーゼルの不足が続くベネズエラの石油製品市場にとっては朗報であったが、その結果、少ない国産の軽質、中質原油を国内の製油所とOOBで生産される超重質油の希釈用で奪い合うという構図が出現することになった。

 

表1 ベネズエラの製油所の稼働状況(2021年4月)
製油所 精製能力 稼働状況
Paraguana精製センター(CRP) Amuay 日量64.5万バレル 2021年4月の精製処理量は日量13万バレル。
Cardon 日量31万バレル 蒸留装置2基が稼働。
Puerto La Cruz 日量18.7万バレル 2018年12月から、数日間の断続的な稼働を除き、稼働を停止していたが、2021年3月28日に蒸留装置1号機が再稼働。4月初旬の精製処理量は日量8万バレル。
El Palito 日量14万バレル 2020年12月14日に稼働を停止。2021年4月時点では、再稼働に向け取り組み中。

各種資料を基に作成

 

2021年4月の原油生産量は日量52万バレルと、3月よりも日量3万バレル減少した。特にOOBの生産量は、この希釈剤の不足に加え、Hamacaステーションでの豪雨による電気系統の故障、資材の盗難、予定外の坑井の閉鎖などにより、3月よりも日量7万バレル少ない日量24万バレルとなった。

しかし、5月前半には、再び製油所の稼働率が15.4%まで落ちこんだという。その結果、軽質原油Mesa30やSanta BarbaraがOOBの希釈用に回されるようになり、OOBの生産量は日量34万2,000バレルまで回復した[17]。今後も、製油所の稼働状況により、ベネズエラの原油生産量が影響を受けることが想定される。

なお、ベネズエラでは、3月20日にPigap IIガスパイプラインの爆発事故が発生した。同パイプラインはMesa 30、Santa Barbara原油を生産するCarito、Pirital油田の増進回収のため必要とされるガスを供給していた。そのため、これらの原油の生産量が急激に減少した。ただし、PDVSAがガスパイプライン損傷部分を迂回するバイパスを建設したことで、生産量は6日後に回復、生産への影響は軽微なものであったが、軽質原油の在庫が打撃を受け、供給タイト化に拍車をかけたという。


[17] Platts Oilgram News, 2021/5/18

 

3. 懸念される中国の輸入関税

2021年2月から4月にかけ、日量70万バレル程度で推移していたベネズエラの石油輸出量は、5月には日量75万バレル(23カーゴ。うち、原油17カーゴ)まで増加している[18]。これには、中国が新たに課そうとしてる輸入関税が影響していると考えられる。

15年前、CNPCは硫黄分の高いベネズエラ産原油を自らの製油所で処理せずに済ます方策を検討、これを、当時、原油を輸入することが許されていなかった独立系製油所に転売することとした。独立系製油所はこのベネズエラ産重質原油しか入手できないため、これを利用する方法を模索した。その結果、現在では、中国の独立系製油所は安価で収益率が高いベネズエラの重質原油を好むようになっている。

2020年に入り、米国の制裁が強化されると、ベネズエラ産原油の輸出入を偽装するために、Merey16原油はマレーシアやシンガポールに輸送され、洋上で船から船へと移され、コンデンセートやナフサなどとブレンドされて、希釈ビチューメンブレンドとして中国に再輸出されるようになった。希釈ビチューメンブレンドとすることで、中国の消費税や輸入割当の対象とならず、中国の独立系製油所にとっては利益率が向上した。市場の需要が高まったことと相まって、2020年には希釈ビチューメンブレンドの輸入量が増加することとなった。

しかし、中国の国営石油会社は、これは不公平な競争であり、歯止めをかける必要があるとし、ロビー活動を開始した。中国政府も、税金や輸入枠の抜け道を塞ぐ必要があると考えた。2021年5月14日、中国は2021年6月12日から軽サイクル油、芳香族の輸入と併せて希釈ビチューメンの輸入に新たに関税を課すことを発表した。希釈ビチューメンブレンドには、燃料油と同率の1リットル当たり1.2元(1バレル当たり29.7ドル、1トン当たり189.17ドル)が課税されることとなる。

Merey16の輸出が中国のこの新関税の影響を受けると見られている。つまり、ベネズエラは、価格の引き下げ交渉を余儀なくされ、収益がさらに悪化する可能性がある。また、原油輸出量が減少すれば、生産削減を余儀なくされる可能性がある。そこで、ベネズエラは、新関税が課される前に少しでも多くの原油を輸出しようと試み、その結果、5月の原油輸出量が増加したのだ。なお、ベネズエラから中国への原油輸送には約5週間かかり、今後の出荷は6月12日の課税実施日以降となる。

なお、ベネズエラの5月の原油生産量は、4月を日量45,000バレル上回る日量565,000バレルとなった。OOBの5月の生産量は、Petromonagas(PDVSA60%、ロシア40%)のアップグレーダーは稼働前の段階にあり、Petropiar(PDVSA70%、Chevron30%)のアップグレーダーは5月17日から停止しているにもかかわらず、AyacuchoおよびJuninを中心とした坑井の修理やメンテナンスの実施により、4月よりも日量9万バレル多い日量35万バレルとなった[19]

S&P Global Platts Analyticsは、ベネズエラの5月から9月までの生産量を日量約50万バレルと予想しているが、米国Biden政権が人道的な理由で制裁を緩和した場合には、2022年末までに日量80万バレルまで増加、一方、制裁が緩和されなければ、中国の新たな関税制度により2020年半ばに日量30万バレルに落ち込む可能性が高いとしている[20]


[18] Platts Oilgram News, 2021/5/28

[19] BNamericas, 2021/5/27

[20] Platts Oilgram News, 2021/6/2

 

4. 今後の増産、外資の探鉱・開発事業参入の見通し

PDVSAが2021年2月に「投資機会」という文書を発表していたことが、5月に報道された。この文書の中でPDVSAは、ベネズエラの石油業界の目標として、原油・ガスの生産の安定と回復、操業の信頼性・安全性・品質の回復、国内市場への燃料の完全供給の3点を掲げている。そして、原油、ガスの生産、輸送、貯蔵、精製、販売などの事業について152の機会を特定し、ベネズエラ国内外から776億ドルの投資が必要であるとしている。原油生産量をChávez前大統領が就任する前の1998年の水準(日量340万バレル)に戻すためには、このうち580億ドルを、ガス田開発には113億ドルを投資する必要があるとしている。原油生産回復を図るため、外国石油会社による貢献にも期待が集まっており、PDVSAは外国石油会社と生産サービス契約(production services agreements:ASP)を締結し、その会社に油田の操業に必要な資金の100%を出資させ、その見返りとしてプロジェクトから得られたフリーキャッシュフローの一部を支払うこと、油田および関連インフラはベネズエラ政府が所有する方式を提案している。

そもそもベネズエラでは、Maduro政権側、野党側がともに、民間企業への探鉱・開発事業の開放を目指して炭化水素法の改正を計画している。同時にMaduro政権は直接、外国石油会社に探鉱・開発事業への参画を呼びかけており、外国石油会社もこの炭化水素法の改正を見据えて、Maduro政権やPDVSAの関係者に接触していると報じられるようになってきている。Chevron、Total、Eniなど大手の石油会社は米国の制裁解除を待つだろうが、新法が施行されれば、その時点で中小企業はベネズエラでの探鉱・開発に参入するかもしれない[21]とも報道された。ベネズエラが石油生産量を増加させるために、外資を参入させようとしている意図が窺われ、外資が参入することで、探鉱・開発が進展し、石油生産量が回復する可能性が期待されるようになったのである。

ところが、この2月のマドゥロ政権による「投資機会」文書では、Maduro大統領は石油会社との関係を改善し、経済や石油産業の再建を目指すものの、PDVSAが国内外の企業と締結するのはASPであり、参入企業には油田の権益が付与されないことが明らかになった。自ら権益を保有できないASPであれば、大手の国際石油企業は関心が相当程度下がると考えられる。実際のところ、これまでに40件のASPが締結されたが、いずれも国内の小規模企業や一部の中国企業が契約締結先となっている。ASP締結後、小人数の修理チームが到着してはいるが、実際には新たな作業を行う掘削リグは到着せず、多少の生産維持や生産減の緩和をすることはできても、大幅に生産を増加させることはないと見られている[22]

また、2020年に、野党との協力で設置された技術委員会は、ベネズエラの原油生産量を日量220万バレルに引き上げるためには980億ドルの投資が必要としていた[23]。それと比較して、「投資機会」文書で示されている金額は、あまりに小さい。目標値まで生産量を引き上げるのは難しいと考えられる。

一方でTareck El Aissami石油相は、2021年末までに石油生産量を日量150万バレルに引き上げるという目標を掲げている。この目標を達成するために、ベネズエラはAPS締結を加速しているようだ。しかし、ASPでは石油生産量を増やすことは、上記の通り困難であろう。6月12日からは中国がベネズエラ産原油に新たな関税を課すこともあり、米国の制裁が解除、あるいは、緩和されない限り、この生産目標150万b/dを短い期間で達成することは非常に難しいだろう。


[21] Bloomberg, 2021/3/19

[22] Platts Oilgram News, 2021/6/3

[23] BNamericas, 2021/5/11

 

以上

(この報告は2021年6月3日時点のものです)

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