ページ番号1009058 更新日 令和3年6月10日

米国:アラスカ州における石油開発を巡るバイデン政権の対応

レポート属性
レポートID 1009058
作成日 2021-06-10 00:00:00 +0900
更新日 2021-06-10 14:35:02 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 探鉱開発基礎情報
著者
著者直接入力 石田 滋陽
年度 2021
Vol
No
ページ数 9
抽出データ
地域1 北米
国1 米国
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 北米,米国
2021/06/10 石田 滋陽
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概要

  • 2021年5月、バイデン政権は、国家石油埋蔵-アラスカ(NPRA)におけるウィロー石油開発計画の承認を巡る裁判に際し、トランプ前政権における承認が適切に行われたものであると擁護して原告の訴えを退けるよう求めた。
  • 一方、トランプ前政権が推進した北極圏国立野生生物保護区(ANWR)の石油事業開放については、大統領選挙に際して反対を表明しており、大統領就任後に政府活動を暫定停止とした。
  • バイデン政権は、クリーン・エネルギーの普及を掲げているが、他方で石油関連事業を一律に抑制しようとしているわけではないことが読み取れる。ただし、バイデン政権の意向にかかわらず、石油関連事業が裁判によって停止又は遅延となる可能性がある。

(出所 連邦議会HP、各連邦議員HP、連邦政府HP、アラスカ州政府HP 他)

 

1. アラスカ州における石油天然ガス開発

アラスカ州は、2020年において、日量44.8万バレルの原油を生産しており、米国で第6位の産油州である[1]。1998年には日量200万バレルの原油生産を誇っていたが、その後は生産減少が続いている。

石油は主にノース・スロープ地域に埋蔵しており、連邦政府が管轄する国家石油埋蔵-アラスカ(National Petroleum Reserve-Alaska、以下「NPRA」という。)やその東側の州有地等で生産が行われている。北極圏国立野生生物保護区(Arctic National Wildlife Refuge、以下「ANWR」という。)でも石油が豊富に埋蔵すると期待されているが、法律により石油天然ガス開発が禁止されていた。

アラスカ州政府は歳入の約85%を石油収入に依拠しており、ダンリービー知事、そして同州選出で連邦議員を務めるマコースキー上院議員[2]、サリバン上院議員[3]及びヤング下院議員は、同州における石油開発を一貫して支持している(いずれも共和党所属)。


[1] テキサス州(日量486.9万バレル)、ノースダコタ州(日量117.8万バレル)、ニューメキシコ州(日量103.6万バレル)、オクラホマ州(日量46.9万バレル)、コロラド州(日量45.1万バレル)に次ぐ。この他、州に属さない石油生産地域として連邦管轄メキシコ湾(日量165.6万バレル)がある。https://www.eia.gov/dnav/pet/pet_crd_crpdn_adc_mbblpd_a.htm

[2] 上院エネルギー天然資源委員会の前委員長。2021年2月のトランプ前大統領に対する弾劾投票において弾劾賛成票を投じた共和党上院議員7名のうちの1名。また、2021年3月のハーランド内務長官の承認投票において承認票を投じた共和党上院議員3名のうちの1名。アラスカ州における金属開発も基本的には支持しているが、Pebble鉱山開発事業(銅・金)については、周辺環境に悪影響を与えるとして反対している。

[3] 2021年3月のハーランド内務長官の承認投票において承認票を投じた共和党上院議員3名のうちの1名。

図 1:国家石油埋蔵-アラスカ(NPRA)及び北極圏野生生物保護区(ANWR)の位置図
図 1:国家石油埋蔵-アラスカ(NPRA)及び北極圏野生生物保護区(ANWR)の位置図(出所:米国地質調査所)
図 2:北極圏野生生物保護区及び海岸平野(1002区域)の拡大図
図 2:北極圏野生生物保護区及び海岸平野(1002区域)の拡大図(出所:米国地質調査所)

2. ウィロー石油開発計画

(1) トランプ前政権による承認

コノコフィリップスは、NPRAの北東部で実施しているウィロー事業において2017年に石油埋蔵を発見し、内務省土地管理局に対してウィロー石油開発計画を提出。それに対し、同局は、2020年10月、最終環境影響評価を発表して計画を承認した[4]

同局の発表によれば、ウィロー事業は、ピーク時には日量16万バレルの石油を生産し、30年以上に亘って生産が行われるものとされている。


 

(2) 承認に対する提訴と暫定停止の仮処分命令

内務省土地管理局の承認に対して、環境保護団体(生物多様性センター、地球の友及びグリーンピース)及び先住民団体(Sovereign Iñupiat for a Living Arctic)が反対を表明し、それぞれ訴えを提起した。環境保護団体の訴状では、内務省土地管理局の承認について、悪影響を低減する合理的代替手段を検討していないこと、ウィロー事業からの温室効果ガス排出を適切に分析していないこと並びにカリブーへの影響の程度及び性質を適切に議論していないことから国家環境政策法に違反していると、指摘している。また、ホッキョクグマ生態系への影響に関する内務省魚類野生生物局の見解について、種の保存法に違反すると、指摘している[5]

2021年2月、連邦アラスカ地方裁判所は、ウィロー石油開発計画における作業に関し、種の保存法に基づく仮差止については法定期限を過ぎてから原告が提訴したことを理由に却下したものの、国家環境政策法違反の本案について原告に勝訴の可能性があり、暫定停止の仮処分がなければ原告は回復不能な損害を被る虞があるとして、暫定停止の仮処分を命令した[6]。その後、連邦第9控訴裁判所も、暫定停止の仮処分命令を支持した[7]

この後、報道によれば、コノコフィリップスは、12月1日以前には作業を行わないことで環境団体及び先住民団体と合意したとのことである。

これに対し、アラスカ州は、2021年4月、被告(内務省土地管理局)の側に立って訴訟参加する意思を表明。


[6] 裁判用語については http://www.legalxintl.co.jp/glossary-litigation.html を基に便宜的に和訳を充てているが、我が国の法令における用語の意味に必ずしも合致するわけではないことに留意ありたい。

 

(3) バイデン政権による承認擁護

バイデン政権は、5月26日、原告の法律解釈等に誤りがあり、国家環境政策法等に定める要件を充足したうえで内務省土地管理局の承認が行われたとして、原告の訴えを退けるよう求める書面を、連邦アラスカ地方裁判所に提出した[8]。例えば、最終環境影響評価ではウィロー事業で生産される石油が外国で消費される際の温室効果ガス排出について分析していないが追加の作業をすれば分析可能であったと原告が批判していることに対して、当該書面では、外国の下流における温室効果ガス排出の算定には詳細なデータが必要であり、信頼できるデータが不足していることを内務省土地管理局は適切に説明していたと、反論している。

このバイデン政権の対応について、マコースキー上院議員、サリバン上院議員及びヤング下院議員は、連名で歓迎の意を表明した[9]


 

3. 北極圏国立野生生物保護区の海岸平野における石油天然ガスのリース

(1) トランプ前政権によるリースの推進

米国地質調査所は、ANWRの海岸平野(1002区域)における原油の技術的可採埋蔵量を43~118億バレルと評価。

ANWRではアラスカ国家利益土地保護法第1003条(合衆国法典16編第3143条)により石油天然ガスの生産が禁止されていたが、2017年12月に成立したパブリック・ロー115-97(2017年減税・雇用法)により、ANWRの海岸平野における石油天然ガスのリースの実施が規定された。

(参考)パブリック・ロー115-97[10]の要旨

第20001条a項 海岸平野とは、1002区域をいう。

第20001条b項 アラスカ国家利益土地保護法第1003条(合衆国法典16編第3143条)は、海岸平野には適用しない。内務長官は、海岸平野における石油天然ガスのリース、開発、生産及び輸送に係る競争力あるプログラムを立ち上げ、管理しなければならない。ロイヤルティは16.67%とする。本プログラムから得られるロイヤルティ等の収入は、50%をアラスカ州政府に、残余を連邦政府財務省に配分する。

第20001条c項 この法律の制定日(筆者注:2017年12月22日)から10年以内に、内務長官は、2回以上のリースセールを実施しなければならない。各リースセールは、最低でも40万エーカーとし、かつ、炭化水素発見ポテンシャルが最大の地域としなければならない。内務長官は、第1回リースセールをこの法律の制定日から4年以内に、第2回のリースセールをこの法律の制定日から7年以内に、それぞれオファーしなければならない。

トランプ大統領(当時)は、2019年5月のキャメロンLNGトレイン1建設完了式典における演説で、ANWRの開放はレーガン大統領以前から承認しようとしてきたが実現できずにいたものであり、自分が承認したと述べた。

内務省は、リースに向けた手続を進め、2019年9月に最終環境影響評価書を公表した[11]。マコースキー上院議員、サリバン上院議員、ヤング下院議員及びダンリービー知事は、これを歓迎した。


 

(2) リースへの反対

しかし、民主党や環境保護団体は、野生生物に悪影響を及ぼすとして、ANWRにおける石油事業への反対を表明。共和党内でもわずかながら反対者がおり、民主党下院議員181名及び共和党下院議員1名は、リース規定の廃止を盛り込んだ北極文化・海岸平野保護法案を提出した。同法案は、2019年9月、下院本会議において賛成225(民主党221、共和党4)、反対193(民主党5、共和党187)で可決されたが、上院では審議されることなく廃案となった[12]

バイデン大統領も、2020年の大統領選挙で、ANWRにおける石油掘削への反対を表明していた。

また、シティ銀行、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース銀行、モルガン・スタンレー及びウェルズ・ファーゴといった大手銀行が、ANWRにおける石油掘削に金融を付与しない旨を発表。これに対し、サリバン上院議員をはじめとする共和党議員が批判し、トランプ政権(当時)に対し、各行の決定を連邦政府機関が阻止できるか否かの検証を行うか、又は各行に罰則を課すよう求めた。これを受けて、ブルックス通貨監督庁長官代行(当時)は、石油産業が銀行にレピュテーション・リスクをもたらすとの主張について疑義を呈し、銀行が金融サービスへの公平なアクセスを提供するように求める旨を言及した。


 

(3) トランプ前政権による入札

内務省土地管理局は、2020年12月7日に海岸平野の22鉱区について入札を公告し、2021年1月6日に開札した。その結果、11鉱区が落札された[13]。アラスカ州の企業2社が1鉱区ずつを落札し、残り9鉱区はアラスカ産業開発輸出公社(Alaska Industrial Development and Export Authority)が落札したものである。石油メジャーは応札しなかった。ただし、その後の経緯は不明であるが、最終的にアラスカ産業開発輸出公社へのリース鉱区が減って7鉱区とされた[14]


 

(4) バイデン政権による政府活動の暫定停止

バイデン大統領は、就任日の2021年1月20日に、公衆衛生及び環境を保護するとともに気候危機に対処する科学を復活させる大統領令第13990号を発出。その中で、内務長官に対し、海岸平野における石油天然ガスのリース・プログラムの実施に関する連邦政府の活動を暫定猶予するよう指示した。

(参考)大統領令第13990号[15]の要旨

第4条a項 国家環境政策法が要求する環境評価が不適切といった提訴があることに照らして、内務長官は、法律に従った範囲において、北極圏野生生物保護区の海岸平野における石油天然ガス・リース・プログラムの実施に関する連邦政府の全ての活動について暫定猶予を措置しなければならない。内務長官は、当該プログラムを見直し、法律に従った範囲において、石油天然ガス・プログラムの潜在的環境影響についての新たな包括的分析を行わなければならない。

そして、ハーランド内務長官は、6月1日、内務長官令第3401号を発出[16]。海岸平野における石油天然ガスのリース・プログラムの潜在的な環境影響について新たに包括的な分析を行い法的欠缺に対処することとし、当該プログラムに関する内務省の活動は全て暫定的に停止するとした。


 

(5) アラスカ州の反応

先住民団体(Voice of the Arctic Iñupiat)は、大統領令第13990号を受けて、地域の雇用及び経済に深刻な影響を及ぼすものであるとの懸念を示す声明を発表した[17]。これを引用しつつ、米国石油協会のブログ執筆者も、バイデン政権がANWRの海岸平野にいる先住民と協議していないのではないかと指摘。この執筆者は、以前にも、ANWR全体(1930万エーカー)の中で地表の石油開発可能区域が限定されていること(0.2万エーカー)、海岸平野にいる先住民も含めてアラスカ州民の多くが賛成していること及び米国のエネルギー安全保障において重要であることから、ANWRの海岸平野における石油開発を支持している[18]。また、ダンリービー知事も、5月のウォールストリート・ジャーナル紙への寄稿において、先住民が先祖伝来の土地でエネルギー開発を行うことを禁じられてしまったと批判。

そして、内務長官令第3401号に対しては、マコースキー上院議員、サリバン上院議員、ヤング下院議員及びダンリービー知事が連名で批判を行った[19]


 

4. おわりに

アラスカ州における2つの事例から、以下の2つのことが読み取れよう。

第一に、バイデン政権は、クリーン・エネルギーの普及を掲げているが、他方で石油関連事業を一律に抑制しようとしているわけではない。ANWRの海岸平野における石油天然ガス・リースやキーストーンXLパイプラインのように、大統領選挙に際して反対を表明していた事業については、就任日の大統領令第13990号で明確に反対を表明し、その後もそれに沿った対応を進めている[20]。他方で、ウィロー石油開発計画については、トランプ前政権における承認が法律に従って適切に行われたものであると説明して、当該承認を擁護している。このことから、バイデン政権は、適正と考える手続及び評価に基づいて行われる石油関連事業については保護する意向であると、考えられる。本稿では取り上げていないが、原油を輸送するダコタ・アクセス・パイプラインの許認可を巡る裁判においても、原告が当該パイプラインの即時稼働停止を求めたのに対して、バイデン政権は即時稼働停止を求めない立場を表明している。このようなバイデン政権の姿勢は民主党中道派や共和党との関係改善に資するとの報道も、見受けられる。ただし、ウィロー石油開発計画もダコタ・アクセス・パイプラインも以前の政権が承認した事業であり、法的安定性の確保や投資の保護という観点から擁護しているだけとも考えられ(ANWRの海岸平野における石油天然ガスのリースに関する政府活動の暫定停止はこれらの観点に反しているとも考えられるが)、今後の石油事業についてのリースセールや環境承認等を新たに行うかどうかは、未だ定かではない。現に、公有地又は海洋水域における新たな石油天然ガスのリースについては、1月27日の大統領令第14008号第208条において、連邦の石油天然ガスの許認可及びリースの慣行の包括的な見直し及び再検討を完了するまで法律に従った範囲で停止するとされており[21]、内務省が見直し及び再検討を行っている最中である。

第二に、バイデン政権の意向にかかわらず、石油関連事業が裁判によって停止又は遅延となる可能性がある。ウィロー石油開発計画はバイデン政権から擁護されているが、当該計画を実行できるか否かは裁判の結果次第である。仮に当該計画に不利な判決が確定したならば、行政府がそれを覆すことはできない。また、ウィロー石油開発計画のように裁判の途中で暫定停止命令が出た場合には、本訴の判決が出るまでは作業を行うことができず、事業に遅延が生じる。

なお、ANWRの海岸平野における石油天然ガスのリースセールについては、パブリック・ロー115-97によって内務長官による実施が義務とされており(助動詞でshallが用いられている)、行政府の判断でリースを取りやめることができるのかは疑問である。大統領令第13990号で「法律に従った範囲において」と添えてあることからも、行政府の判断で完全に停止したり取りやめたりすることができるか否かについて、バイデン政権に確証がなかったのではないか。そして、内務長官令第3401号がリース・プログラムに関する内務省の活動を暫定停止と定めたのも、完全な停止や取りやめの法的根拠を未だに見出せていないことを示している可能性がある。もしそうであるならば、バイデン政権は、パブリック・ロー115-97の義務遂行を回避する法的根拠を環境関連法律などから見出そうとするか、又はリースセール規定の廃止を盛り込んだ新たな法案を連邦上下院で可決するよう働きかけるのかもしれない。ただし、バイデン政権の取組がパブリック・ロー115-97の義務違反であるとして落札者から提訴されることも、考えられる。


[20] キーストーンXLパイプラインについては、2021年6月9日、事業主体のTCエナジーが事業終了を発表。

 

以上

(この報告は2021年6月10日時点のものです)

 

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