ページ番号1009060 更新日 令和3年6月14日

原油市場他:新型コロナウイルスワクチン接種普及進展による石油需要回復の一方で、OPECプラス産油国の減産措置緩和に対する慎重な姿勢等により、原油価格は1バレル当たり70ドルへと上昇

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レポートID 1009060
作成日 2021-06-14 00:00:00 +0900
更新日 2021-06-14 12:11:20 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2021
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ページ数 34
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国・地域 グローバル
2021/06/14 野神 隆之
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概要

  1. 米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったこともあり、製油所での原油精製処理が促進されたことから、同国の原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る状態は継続している。また製油所での石油製品生産活動が盛んとなる一方、米国でのコロニアル・パイプラインの操業停止に伴う消費者の石油製品購入殺到の反動で後に購入が落ち込んだと見られること等から、ガソリン及び留出油の両在庫は増加しており、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する量、留出油在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている。
  2. 2021年5月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では減少したものの、欧州及び日本で製油所メンテナンス作業実施等により原油精製処理量が減少するとともに原油在庫が増加したことにより相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州の製油所の稼働低下に伴い石油製品生産活動が鈍化したと見られることもあり、当該地域の石油製品在庫は減少した。しかしながら、米国では製油所の稼働上昇に伴う石油製品生産活動活発化により、また、日本では一部地域での緊急事態宣言発出の事実上の延長が発表されるなどしたことによる往来鈍化に伴い自動車用燃料需要が抑制されたと見られること等もあり、それぞれ両国では石油製品在庫が増加した。この結果、欧州での石油製品在庫減少を米国と日本の当該在庫増加で相殺して余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、平年幅上限付近に位置する量となっている。
  3. 2021年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場では、5月中旬から下旬においては、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議が進展しつつあることにより米国の対イラン制裁が解除されるとともにイランからの原油供給が拡大するとの観測が市場で増大したこと等が原油相場に下方圧力を加えた反面、米国での航空機を利用した往来が回復しつつあることを示唆する指標類が明らかになったこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)はこの時期概ね1バレル当たり61.50~67.50ドルの範囲内で上下に変動した。しかしながら、6月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で8月以降の減産措置縮小に関する議論が見送られたこともあり、OPECプラス産油国の世界石油需給引き締まり緩和に向けた行動が後手に回るとの観測が市場で発生したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、6月初頭以降原油価格は上昇基調となった他、6月上旬後半以降は終値で1バレル当たり70ドル超の水準に到達する場面も見られた。
  4. 今後も、米国等での夏場のガソリン需要の盛り上がりに対する季節的な需給の引き締まり感が原油相場を支持するものと見られることに加え、新型コロナウイルスワクチン接種普及進展等による世界各国及び地域における新型コロナウイルス新規感染者の減少傾向による経済改善及び石油需要回復への市場の期待の増大、イラン核合意正常化によるイランからの原油供給拡大を巡る不透明感に対するOPECプラス産油国の減産措置縮小への慎重な対応等が原油相場を下支えするものと見られる。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が2021年7月の減産措置を当初予定通り実施する旨決定するも、8月以降の減産措置の方針については協議を見送り

(1) 協議内容等

2021年6月1日OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は電話会議形式で閣僚級会合を開催した(今回の会合開催は同日午後3時過ぎから午後4時前にかけて(ウイーン時間)の20分程度の記録的に短時間なものであったとされる)。今次会合では、観察される石油需給状況等に基づき、4月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において決定された、7月の日量576万バレルの減産措置(減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量1,100万バレル、その他の産油国は2018年10月の原油生産量)を当初予定通り実施することで合意した(表1参照)。2021年7月に実施する予定である減産措置の緩和規模はOPECプラス産油国による日量44.1万バレルの減産相当分に加え、サウジアラビアが自主的に実施していた減産相当分日量40万バレルの合計日量84.1万バレルとなる。

ただ、当該会合においては、2021年8月以降の減産措置に関する協議は見送られた旨6月1日に伝えられる(同日サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は実際に減産措置緩和が必要だと判明した後に減産措置を緩和する旨示唆しており、当該減産措置の緩和に慎重であることが覗われる)。

表1 OPECプラス産油国の減産幅

当該会合では、メキシコを含む減産措置に参加するOPECプラス産油国の2021年4月の減産遵守率が114%と良好なものであることを歓迎した。また、会合では、新型コロナウイルスワクチン接種プログラム進展により、米国及び中国を初めとする世界の多くの国及び地域で経済が回復し続けることにより、石油需要が改善する明確な兆候が見られる(OPECプラス産油国閣僚級会合時に行われた演説で、バルキンドOPEC事務局長は、2021年第四四半期には世界石油需要は日量9,900万バレル超と新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻ると予想している旨明らかにした)とともにOECD諸国の石油在庫が減少しつつあることが認識された(4月末時点のOECD諸国石油在庫は前月末比で690万バレル減少し、当該在庫日数は66日と前年同月を12.3日下回るものの、2015~19年平均を依然3.9日上回る旨バルキンド事務局長により報告された)。石油市場の現状と今後の展望に関する見解を考慮しつつ、会合では、産油国、消費国に対する効率的、経済的かつ確実な供給、そして投資資本に対する公正な収益といった相互の利害面での、安定した市場へのOPECプラス産油国の責務、及び2021年4月1日のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定した、同年7月にかけての合計日量214万バレルの減産措置緩和策の当初予定通りの実施を再確認した。

また、減産措置の完全遵守が極めて重要であることを再度喚起し、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産遵守率を達成できていないOPECプラス減産措置参加産油国は9月30日までに減産目標未達成部分を追加して減産すべく、追加減産計画を提出するよう求められた。

会合では石油需給状況等につき緊密に監視し協議し続けるとともに、2020年4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定された減産措置の終了時まで、毎月OPECプラス産油国閣僚級会合を実施することの必要性が強調された。なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は7月1日に開催される予定である。また、次回OPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministers Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア、及びカザフスタンとされる)についても7月1日(次回OPECプラス産油国閣僚級会合開催日と同日)に開催する旨6月1日に伝えられる。

 

(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

2021年4月27日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合(同日のJMMC開催後、事実上規模を縮小して変則的に開催)では、4月1日に開催されたその前の会合で決定した減産措置(2021年4月に実施している日量690万バレルの減産措置を、5月は日量35万バレル縮小し同655万バレル、6月にさらに同35万バレル縮小し同620万バレル、7月にさらに同44万バレル縮小し同576万バレル)につき、当初予定通り実施することを確認した。また、4月1日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際にサウジアラビアが明らかにした、同国が単独で実施している、日量100万バレル(4月時点)の自主的な追加減産措置の段階的縮小(5月は同25万バレル縮小し同75万バレルに、6月に同35万バレル縮小し同40万バレルにする他、7月は同40万バレル縮小し当該追加減産を終了)についても、当初予定通り実施することを確認した。

4月1日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催後、米国等では新型コロナウイルスワクチン接種普及が進みつつある他、経済が改善しつつあることを示す指標類が発表されるなどしたこともあり、4月6日に国際通貨基金(IMF)が発表した世界経済見通し(WEO: World Economic Outlook)では、IMFは2021年の世界経済成長見通しを6.0%と2021年1月20日発表時の5.5%から上方修正した。また、IMFが2021年の世界経済成長見通しを上方修正したこともあり、4月13日に発表されたOPEC「月刊オイル・マーケット・レポート」において、OPECが2021年の世界石油需要を日量19万バレル上方修正したことに加え、4月14日に発表された国際エネルギー機関(IEA)の「オイル・マーケット・レポート」においても、IEAが同年の世界石油需要を日量21万バレル上方修正した。このようなことにより、経済成長加速及び石油需要回復期待が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えたことにより、4月1日のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定された減産措置の縮小に伴う市場での石油需給緩和感の醸成、インド等での新型コロナウイルス感染者数増加(当時しばしば過去最高記録を更新していた)による同国等の経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する市場での懸念の増大、そしてイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議進展に伴う米国の対イラン制裁解除とイランからの原油供給拡大に対する観測等による、原油相場への下方圧力を相殺する格好となったこともあり、4月1日以降原油価格は4月27日開催のOPECプラス産油国閣僚級会合直前まで概ね58~63ドルを中心とする範囲で比較的安定して推移した(図1参照)。また、このように原油価格が比較的限られた幅で変動していたこともあり、4月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり2.9ドル台(図2参照)と、米国国民が政権に対し不満を増大させやすくなる1ガロン当たり3ドルを割り込んだ状態で推移した。

図1 原油価格の推移(2020~21年)

図2 米国ガソリン平均小売価格(2019~21年)

従って、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国としては、原油価格は上昇傾向には至っていないものの、かといってOPECプラス産油国による制御が困難となるような下落の継続も発生していないことにより、原油価格がさらに一層上昇していた場合に比べれば原油収入は低水準となる可能性が高いことにより、完全に満足できる状況というわけではなかったと見られるものの、原油価格下落が継続することに伴い原油収入が大幅に減少しているわけでもなかったことにより、足元の状況は受入可能な状態であると見られた。一方、米国側としてもガソリン小売価格が1ガロン当たり3ドル寸前ではあるもののその水準を割り込み続けていたこともあり、米国国民による不満が増大する可能性はそれほど高くないという意味で、足元の原油価格水準は受入可能な状況であると見られるなど、OPECプラス産油国及び米国双方の利害が概ね一致している状態であったこともあり、4月27日開催のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、既に決定した減産措置の縮小方針に関しては、さらなる調整を加えることなく、当初予定通り実施することとしたものと考えられる。

そして、4月27日のOPECプラス産油国閣僚級会合後も、インドでは新型コロナウイルス新規感染者数がしばしば過去最高記録を更新するほどに増加したものの、5月6日に同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が414,188人に到達した後は、新規感染者数は減少傾向に転じ、5月31日時点では127,510人と半分以下の水準にまで低下するとともに、4月20日より都市封鎖措置を実施していたインドのニューデリーにつき感染者数の減少傾向がこの先も継続するようであれば5月31日以降封鎖措置の緩和手続きを実施する旨ニューデリー首都圏政府のケジリワル首相が5月23日に明らかにするなど、同国の新型コロナウイルス感染に伴う経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化に関してはそう遠くない時期に底打ちする兆候が見られるようになった。

他方、新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展したこともあり、5月9日にはスペインで警戒事態宣言(2020年10月25日に発出)を解除、同国内の各州間での移動が可能となった他、5月15日にはオランダとポルトガルで渡航制限が緩和されたうえ、英国でも5月17日を以て個人の外出規制及び経済活動制限が緩和、5月19日にはフランスでも飲食店等の営業が再開するなどした。また、米国でも、新型コロナウイルスワクチン接種が進展(5月28日午前の時点で米国在住者の50.1%に当たる1.66億人超が少なくとも1回の新型コロナウイルスワクチンを接種)したこともあり、5月31日時点の米国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は5,602人と2020年3月19日(この時は4,043人)以来の最低水準に到達した他、1日当たりの同国空港安全検査通過者数が5月16日時点で185万人と2020年3月8日(この時は同191万人)以来の高水準に到達するなどした。このように欧米諸国等において、新型コロナウイルス感染が峠を越えつつあることに伴い、個人の外出や経済活動等が活発化することを通じ石油需要が回復するとの期待が市場で増大するとともに石油需給引き締まり感を市場が意識したことが、4月28日以降原油価格を下支えする格好となった。そして、5月29日以降米国では夏場のドライブシーズン(2021年は5月29日(5月31日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休(5月29~31日))から9月6日(9月6日の労働者の日(レイバー・デー)に伴う連休(9月4~6日))まで)に伴うガソリン需要期に突入することによる、同国での季節的な石油需給引き締まり感が市場で強まったことも、原油価格にとっては支援材料となった。

しかしながら、6月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、新型コロナウイルス感染が継続する可能性があるなど今後の展開が不透明である他、新型コロナウイルス変異株が人類の健康及び経済回復双方にとって脅威となり続けることを警戒すべきである旨OPECのバルキンド事務局長が警告した。

他方、イランは、2021年4月時点で日量240万バレルの原油を生産していた(図3参照)が、同国のザンギャネ石油相は米国が対イラン制裁を解除すれば、イランは日量650万バレルの原油生産を行うことを最優先事項にする旨5月31日に発言した。近年の同国原油生産量の最高水準は2017年9月に到達した日量386バレルであったことを考慮すれば、イランの原油生産を日量650万バレルに到達させるには新規油田等を開発する必要があると見られるところからすると、数ヶ月間でこの水準に到達するとは考えにくい。それでも、同国の原油生産の過去の実績を見ると2016年4月は前月比で日量29万バレル増加するなどしており、それは同国の原油生産増加幅がそれなりに大きなものとなる潜在性があることを示唆していた。従って、イラン核合意正常化に伴いイランの原油生産が回復し始めたとしても、7月においてはその規模が比較的限られたものに止まるとともに世界石油需給及び原油価格への影響も限定的なものになると見られる(実際今次閣僚級会合開催に際しサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相も同様な見解を披露していた)ことから、今回の閣僚級会合においては、7月の減産措置については既定の方針通りとした。

図3 イラン原油生産量(2011~21年)

それでも、8月以降はイランからの原油生産増加がより大規模になるとともに世界石油需給及び原油価格により大きな影響を与えるといった展開となる事態が排除しきれなかったことに加え、新型コロナウイルス感染が再拡大する結果一部諸国の経済成長及び石油需要が下振れする恐れがあることを含め、石油市場に関しより強い不透明感が感じられることもあり、8月以降の減産措置を巡る方針決定は見送されたものと考えられる。

そして、今回の閣僚級会合からそれほど期間を要しない7月1日に次回会合を開催し、現在より明確になっている可能性のある、新型コロナウイルス感染状況の経済成長及び石油需要への影響や、イランの原油供給増加具合やを考慮しつつ、改めて世界石油需給状況及び展望につき検討したうえで、8月以降のOPECプラス産油国減産措置につき調整することにしたものと見られる。また、今後も石油市場の状況に迅速に対応できるよう、2020年5月1日以降実施しているOPECプラス産油国減産措置の終了時まで毎月OPECプラス産油国閣僚級会合を開催することとしたものと思われる。

 

(3) 原油価格の動き等

今回のOPECプラス産油国閣僚級会合の決定はOPECプラス産油国が減産措置の緩和に対し慎重な姿勢を示唆しているとの印象を市場に与える格好となっており、この結果世界石油需要の回復に対しOPECプラス産油国減産措置の緩和が後手に回るとともに石油需給が引き締まる方向に向かいやすいとの観測が市場で増大した(イランの原油生産量が現状のままの場合、OPECプラス産油国が8月以降減産措置をさらに緩和しなければ、世界石油需給は8月~12月にかけ日量190~260万バレルの供給不足となると見られる旨のシナリオが5月31日に開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)に提出されていた)こともあり、6月1日の原油価格(WTI)は前週末終値比で1バレル当たり1.40ドル上昇し同67.72ドルの終値と、2018年10月22日(この時は同69.17ドル)以来の高水準に到達した。

また、5月10日以降全米ガソリン小売価格が米国国民の不満が高まり始める1ガロン当たり3ドルを超過し続けたものの、米国バイデン政権からサウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国に対し減産措置のさらなる縮小に関する働きかけがなされたようには見受けられなかったことでも、原油価格は上振れしたものと考えられる。

さらに、5月31日(この日は米国では戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日に伴い米国原油先物価格の終値は計上されなかった)に、イラン外務省のアラグチ次官が、イラン核合意正常化を巡るイランと西側諸国等との協議は恐らく完了までになお時間を要する旨示唆したこともあり、当該核合意正常化に伴う米国の対イラン制裁解除によるイランからの原油供給拡大の時期が遅延するとの懸念が市場で発生したことも、5月31日から6月1日にかけての原油相場に上方圧力を加える格好となった。

 

2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2021年3月の米国ガソリン需要(確定値)は日量858万バレル、前年同月比で10.2%程度の増加と2021年2月の同13.6%程度の減少から増加に転じた(図4参照)が、速報値(前年同月比で11.6%程度増加の日量869万バレル)からは下方修正された。3月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量59万バレル程度と推定されるところ確定値では同72万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。米国では2月28日の1日当たり新型コロナウイルス感染者数が50,925人と1月31日の113,826人から半減した他、3月31日においても同67,956人と感染者数が概ね安定して推移したこともあり、個人の外出が相対的に活発化したものと見られる。また、2020年3月は米国での新型コロナウイルス感染拡大により、カリフォルニア州で3月19日、ニューヨーク州で3月22日に、それぞれ外出禁止令が発令されるなどしたことで個人の往来が大きく制限されたことに伴い自動車での移動が大幅に鈍化したことによりガソリン需要が大きく落ち込んだ反動で、2021年3月の同国のガソリン需要増加幅が拡大しやすかった側面もある。このようなことから、3月の米国自動車運転距離数も前年同月比で19.0%程度の増加と、2月の同12.1%程度の減少から増加に転じるとともに、3月の米国ガソリン需要も前年同月比で増加するなど、2月の前年同月比での減少から増加に転じる結果となっているものと考えられる。ただ、それでも2021年3月の米国の自動車運転距離数は2019年同月比ではなお3.5%程度の減少となっていることもあり、同月のガソリン需要も2019年同月比では6.6%程度の減少となっている。

図4 米国ガソリン需要の伸び(2006~21年)

他方、2021年5月の同国のガソリン需要(速報値)は日量909万バレル、前年同月比で26.4%程度の増加と相当程度の増加となったものの、4月の同52.7%程度の増加からは増加幅が縮小している。1月20日の米国のバイデン大統領就任後100日間で2億回の新型コロナウイルスワクチン接種実施の目標を4月21日に前倒しで達成するなど、同国では新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展していることにより、5月31日時点の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は5,602人と4月30日の同58,555人から大幅に減少したこともあり、個人の外出が活発化するととともに5月の米国の推定自動車運転距離数が前月から増加したと見られることから、5月の米国ガソリン需要量も4月のそれ(日量894万バレル(速報値))から増加している。ただ、5月の同国ガソリン需要は5月7~12日に米国コロニアル・パイプライン(米国テキサス州~ニュージャージー州)がサイバー攻撃を受け操業を停止したことに伴う、米国東部海岸地域を中心とした地域での石油製品供給混乱発生に伴う消費者によるガソリンを含む石油製品購入殺到の影響により一時的にガソリン需要が押し上げられた側面もあるものと考えられる。また、2020年4月は新型コロナウイルス感染拡大もあり個人の外出が相当程度落ち込んだ一方、同年4月16日に米国のトランプ大統領(当時)が米国国民の外出規制緩和と経済活動再開への指針を発表したことで、同国では外出規制と経済活動制限が緩和され始めた(同年5月20日のコネチカット州を以て米国の全50州で部分的であれ個人の外出規制及び経済活動制限が緩和された)こともあり、2020年5月は米国で個人の外出が回復しつつあったことが一因となり、2021年5月の米国の推定自動車運転距離数が前年同月比で30.2%程度の増加と同年4月の同59.7%程度の増加から増加率が縮小するとともに、2021年5月のガソリン需要の前年同月比での増加率も4月から縮小しているものと考えられる。また、2021年5月のガソリン需要は2019年5月のそれに比べれば依然3.5%程度の減少となっている(それでも、2021年4月のガソリン需要の2019年4月比での減少率(5.0%程度の減少)からは減少率は縮小している)。そして、新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展に伴い、この先も個人による自動車を利用した外出が活発化するとともにガソリン需要が回復に向かい続けるとの期待が市場で強まりつつある中、米国では5月29日以降の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったこともあったことにより、季節的なガソリン需給の引き締まり感が市場で発生した他、コロニアル・パイプラインが操業を停止したこともあり、米国東海岸地域にガソリンが供給されなくなった結果、当該地域を中心としてガソリン需給逼迫感が強まるとともにガソリン価格が上昇したことにより、製油所でのガソリン製造利幅が拡大したこともあり、同国の製油所の稼働が上昇するとともに、原油精製処理量も増加傾向となった(図5参照)他、製油所でのガソリン生産も拡大傾向となったものと見られる(ガソリン最終製品の生産は図6参照)。ただ、5月末頃まではコロニアル・パイプラインの操業停止に伴う消費者のガソリン購入殺到が需要を押し上げた側面があったものの、同パイプラインが操業を再開することによりガソリン供給混乱が沈静した後の5月末頃以降は、反動でガソリン需要が落ち込んだこと(また、5月29~31日の連休時に米国東部海岸地域に雷雨がしばしば発生したことにより、個人の外出及びガソリン需要が影響を受けたと見る向きもある)により、5月上旬から下旬にかけて減少傾向を示していた米国ガソリン在庫は、以降6月上旬にかけ大幅に増加した結果、5月上旬から6月上旬にかけての期間全体としては、米国ガソリン在庫は増加となり、平年幅上限を上回る状態は継続している(図7参照)。

図5 米国の原油精製処理量(2009~21年)

図6 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~21年)

図7 米国ガソリン在庫推移(2003~21年)

2021年3月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量403万バレルと前年同月比で3.1%程度の増加となり、2月の同1.6%程度の減少から増加に転じた他、速報値である日量394万バレル(同0.6%程度の増加)から上方修正された(図8参照)。2021年3月の米国鉱工業生産が前年同月比で1.1%の増加と同年2月の同4.9%の減少から増加に転じるとともに、2021年3月の同国物流活動も前年同月比で0.6%の増加となるなど、同国経済活動が回復しつつあることが、2021年3月の留出油需要の前年同月からの伸びの背景にあるものと考えられる。もっとも、2020年3月は同国で新型コロナウイルス感染が拡大しつつあったこともあり、経済活動が制約を受け始めた時期でもあったことから、2021年3月はその反動で増加幅が大きくなりやすい傾向があり、2021年3月の同国鉱工業生産は2019年同月比では依然3.7%の減少、物流活動も同1.6%の減少となっていることもあり、2021年3月の留出油需要も2019年3月の当該需要である日量412万バレルをなお2.1%程度下回る状態となっている。また、留出油の一部である暖房油の需要の中心地である米国北東部が2021年3月は2020年同月に比べ冷え込んだことも、2021年3月の留出油需要を押し上げる形で作用したものと考えられる。他方、2021年5月の留出油需要(速報値)は日量399万バレルと前年同月比で13.0%程度の増加となっている。米国で新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展するとともに追加経済対策が実施されていることにより、2021年5月の推定米国鉱工業生産が前年同月比で15.8%の増加と相当程度伸びたと見られることが、留出油需要の増加率に反映されているものと見られる。ただ、2021年5月の米国留出油需要は2019年5月比ではなお2.8%程度の減少となっている。また、米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったこともあり、同国の製油所における原油精製処理活動は上向いたものの、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期が終了しつつあるとともに、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が石油産業関係者の視野に入りつつあったことにより、3月初頭頃以降製油所でのガソリン生産に伴う利幅が留出油生産に伴う利幅を上回ったことから、製油所ではガソリンの生産を重視する一方、留出油生産の優先度が低下したこともあり、留出油生産増加が比較的緩やかに推移したこと(図9参照)に加え、米国コロニアル・パイプラインの操業停止に伴い石油製品供給混乱による消費者の石油製品購入が活発化したことから、5月中旬から下旬にかけては、留出油在庫は減少傾向となったものの、コロニアル・パイプラインの操業再開に伴う石油製品供給混乱沈静化以降反動で留出油需要が落ち込む格好となったことにより、留出油在庫が相当程度増加したこともあり、5月上旬から6月上旬の期間全体としては留出油在庫は増加となった他、平年幅上限付近に位置する量となっている(図10参照)。

図8 米国留出油需要の伸び(2006~21年)

図9 米国の留出油生産量(2009~21年)

図10 米国留出油在庫推移(2003~21年)

2021年3月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で5.0%程度増加の日量1,920万バレルとなり、同年2月の前年同月比12.1%の減少から増加に転じた(図11参照)。ガソリン及び留出油を含め幅広く石油製品需要が前年同月比で増加したことが同国石油需要の前年同月比での増加に反映されている。もっとも、ジェット燃料需要は前年同月比で16.5%程度の減少となるなど、ばらつきも見られる。新型コロナウイルス感染拡大による個人の外出規制や経済活動制限が強化されつつあったことにより2020年3月の同国石油需要が落ち込んだ反動で、2021年3月の石油需要は前年同月比での伸び率が大きくなりやすい側面はあるものの、米国での新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展による個人の外出規制及び経済活動制限の緩和の動きにより、ガソリン及び留出油需要が刺激されたことが、石油需要の伸びに反映されているものと考えられる。ただ、当該需要は2019年3月の同国石油需要(日量2,018万バレル)を依然4.8%下回っている。また、ガソリン需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたこともあり、米国石油需要も速報値(前年同月比で5.1%程度増加の日量1,922万バレル)から下方修正されている。他方、2021年5月の米国石油需要(速報値)は日量1,896万バレルと前年同月比で17.8%程度の増加となった。米国での新型コロナウイルスワクチン接種普及進展に加え追加経済対策が実施されつつあったことから個人の外出及び経済活動が持ち直しつつあったこともあり、ガソリン及び留出油に加えジェット燃料の需要が前年同月比で増加したことが、同国石油需要の前年同月比の増加に寄与しているものと考えられる。ただ、2021年5月の米国石油需要は依然として2019年5月(この時は日量2,039万バレル)を7.0%程度下回っている。他方、米国原油生産が概ねほぼ一定の水準で推移した一方、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったこともあり、製油所での原油精製処理量が増加した結果、5月上旬から6月上旬にかけ米国の原油在庫は減少傾向を示したが、平年幅上限を上回る状態は続いている(図12参照)。そして、留出油在庫が平年幅上限付近に位置する量となった他、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図13及び14参照)。

図11 米国石油需要の伸び(2006~21年)

図12 米国原油在庫推移(2003~21年)

図13 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~21年)

図14 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~21年)

2021年5月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では減少となったものの、欧州及び日本で春場の製油所メンテナンス作業実施に加え一部製油所での装置の不具合発生による稼働低下もあり原油精製処理量が減少した結果原油在庫が増加したことにより相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図15参照)。石油製品については、米国での新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展に伴い、同国で個人による自動車を利用した外出が活発化するとともにガソリン需要が回復し続けるとの期待の高まりに加え、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が視野に入ってきていることにより、米国のガソリン価格が欧州のそれに比べ総じて堅調に推移したこともあり、欧州から米国に向けガソリンが輸出されたと見られることが、欧州でのガソリン在庫水準を低下させた他、欧州の製油所の稼働低下に伴い石油製品生産活動が鈍化したと見られることもあり、当該地域の石油製品在庫は減少した。しかしながら、米国では製油所の稼働上昇に伴う生産活動活発化により石油製品在庫が増加した他、日本では5月の連休が終了したことにより個人の外出が落ち着いたことに加え、当初5月11日までの予定で発出されていた、東京都を含む4都府県に対する緊急事態宣言(4月25日発出)につき、5月12日より計6都府県に事実上拡大したうえ、5月31日まで発出し続ける旨5月7日に発表されるなどしたこともあり、商用車等の往来の鈍化に伴いガソリンや軽油の需要が抑制されたと見られることもあり、両製品の在庫が増加したことに加え、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期が終了したことにより灯油在庫が増加したこともあり、石油製品在庫が増加した。この結果、欧州での石油製品在庫減少を米国と日本の当該在庫増加で相殺して余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、平年幅上限を超過する量となっている(図16参照)。そして、原油及び石油製品双方の在庫が平年幅上限を上回ったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図17参照)。なお、2021年5月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は64.6日と4月末の推定在庫日数(64.9日)から低下している。

図15 OECD諸国原油在庫推移(2005~21年)

図16 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~21年)

図17 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~21年)

5月12日に1,200万バレル台前半程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、5月19日には1,200万バレル台半ば程度の量へと増加した。また、5月26日も1,200万バレル台半ば程度の量を維持したうえ、6月2日には1,300万バレル台半ば程度の水準へと上昇した。しかしながら、6月9日には1,200万バレル強の量へと相当程度減少した結果、当該在庫は5月12日の水準を下回る状態となるなど、増減に関し総じて方向感のない展開となった。インド及び東南アジア等において新型コロナウイルス感染拡大抑制のため個人の往来が不活発となった影響によりこれら地域においてガソリン需要が伸び悩んだことに伴い、シンガポールにガソリンが流入したと見られることが、シンガポールでの軽質留分在庫増加の背景にあるものと考えられるが、韓国等アジアの一部諸国で春場の製油所メンテナンス作業が実施されたり、製油所の一部装置で不具合が発生したりしたことにより、5月から6月にかけてそれら製油所での稼働が低下するとともに石油製品生産活動が不活発となった影響が、これら諸国によるシンガポールへのガソリン等軽質留分の輸出を抑制する形となって現れたと見られることが、シンガポールでの軽質留分在庫を減少させる方向で作用したものと考えられる。他方、米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったこともあり、季節的なガソリン需給引き締まり感が市場で醸成されたことを通じ、世界的にガソリン相場に上方圧力を加えたものの、原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かない場面が見られたこともあり、5月中旬から6月中旬にかけてのアジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は比較的限られた範囲で変動しつつも、むしろどちらかというと縮小傾向を示した。

また、日本及び台湾等において石油化学製品生産のためのナフサ分解装置がメンテナンス作業実施により操業を停止しつつあることにより、原料となるナフサの需要が減少するとの観測が市場で発生した反面、6月14日に韓国のLG化学が麗水(Yeosu)にあるナフサ分解装置(エチレン生産能力年間80万トン)を、6月18日前後に同国のGSカルテックス(Caltex)が同じく麗水にあるナフサ分解装置(エチレン生産能力年間79万トン)を、それぞれ稼働開始することに向け、原料となるナフサの需要が増加するとの見方が市場で発生したことに加え、石油化学産業における原料としてナフサと競合することのある液化石油ガス(LPG)の需要が中国で堅調である(石油化学製品生産のために稼働させるプロパン脱水素化装置(PDH: Propane Dehydrogenation)向けの需要と見られる)ことから、LPG価格の下落が抑制されたこと、新型コロナウイルスワクチン接種普及進展に伴い個人の外出が活発化しつつあることに加え夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつある米国で消費されるガソリンを輸出すべく、欧州の製油所が生産するガソリンへのナフサの混入が進んだと見られることもあり、欧州方面からアジア方面へのナフサの流れが低下するとの観測が市場で増大したことが、アジア市場でのナフサ価格を下支えする格好となった結果、5月中旬から下旬にかけしばしばドバイ原油価格を下回る場面が見られたナフサ価格は、時間が経過するにつれその差を縮小したうえ、5月末から6月上旬前半にかけてはナフサ価格がドバイ原油価格を上回る場面が見られるようになるなど、どちらかと言うと相対的に強含みで推移した。しかしながら、原油価格の上昇にナフサ価格のそれが追い付かなかったこともあり、6月上旬後半以降は再びナフサ価格がドバイ原油価格を下回るようになっている。

5月12日には1,400万バレル弱程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、5月19日は1,300万バレル台半ば程度の水準、5月26日には1,200万バレル台半ば程度の量、6月2日には1,100万バレル台半ば程度、そして、6月9日には1,100万バレル台前半程度の量へと、それぞれ減少するなど、当該在庫は総じて減少傾向となった。欧州では新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展とともに感染が沈静化に向かいつつあったこともあり、当該地域での個人の外出活発化及び経済活動の回復に対する期待が市場で増大したことが欧州での軽油価格を押し上げた結果、アジアの軽油価格よりも割高感が拡大したこともあり、インド及び中東方面から欧州方面へ軽油が流出した反面、シンガポールへの軽油の流入が鈍化したことが、シンガポールでの中間留分在庫減少に影響しているものと考えられる。そしてこのようにシンガポールでの中間留分在庫の減少傾向に伴い需給引き締まり感を市場が意識したことが、東南アジアにおける新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の減速による軽油需要のもたつきに加え、インドでの雨季(モンスーン)の接近に伴う軽油需要の抑制(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前の軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路及び建設工事の進捗が鈍化することなどにより物流や製造業等での軽油の利用が鈍化すること等による)による、当該留分需給緩和感の市場での醸成を相殺して余りあったことから、5月中旬から6月中旬にかけアジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する方向で推移した。

5月12日に2,600万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、5月19日には2,500万バレル弱程度、5月26日には2,300万バレル弱程度の、それぞれ量へと減少した。しかしながら、6月2日には2,500万バレル台半ば程度の水準、6月9日には2,700万バレル弱の量へと増加しており、6月9日時点の当該在庫は5月12日のそれを若干ながら上回る状態となっている。アジア一部諸国が新型コロナウイルス感染抑制のため経済活動制限を強化したこともあり、船舶及び発電両部門向け重油需要が影響を受けたことが、シンガポールでの重油在庫水準を押し上げる方向で作用したと見られるものの、2月後半以降シンガポールでの重油在庫が増加傾向となったことにより、欧州市場の重油価格に比べアジア市場のそれに割安感が発生したこともあり、欧州方面からアジアへの重油が流れが鈍化したことが、シンガポールでの重油在庫を抑制する格好となっている。ただ、船舶及び発電部門での重油需要が軟調であったことがアジア市場での重油価格に下方圧力を加えたことに加え、原油価格の上昇に重油価格のそれが追い付かない場面が見られたこともあり、5月中旬から6月中旬のアジア市場での高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は4月中旬から5月中旬のそれに比べ、総じて拡大する傾向を示した他、5月中旬から6月中旬のアジア市場での低硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は4月中旬から5月中旬のそれに比べ、総じて縮小する傾向を示した。

 

3. 2021年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場等の状況

2021年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場では、5月中旬から下旬においては、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議が進展しつつあることにより米国の対イラン制裁が解除されるとともにイランからの原油供給が拡大するとの観測が市場で増大したことに加え、複数の米国金融当局関係者が金融の量的緩和縮小を検討する用意がある旨示唆したと5月19日に公表された連邦公開市場委員会(FOMC)議事録で明らかになったこと、商品相場安定化に向け需給管理を強化する意向である旨中国国務院が明らかにしたと5月19日に報じられたこと等が原油相場に下方圧力を加えた反面、米国での航空機を利用した往来が回復しつつあることを示唆する指標類が明らかになったことに加え、インドの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が減少傾向を示すようになったこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)はこの時期概ね1バレル当たり61.50~67.50ドルの範囲内で上下に変動した。しかしながら、5月31日に開催されたOPECプラス産油国JTCでこの先の世界石油需給引き締まりシナリオが提示される中、6月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、8月以降の減産措置縮小に関する議論が見送られたこともあり、OPECプラス産油国の世界石油需給引き締まり緩和に向けた行動が後手に回るとの観測が市場で発生したことに加え、米国がイラン核合意に復帰しても米国の対イラン制裁の一部は存続する旨米国のブリンケン国務長官が6月8日に明らかにしたことに伴い、イランからの原油供給回復が遅延するかもしれないとの観測が市場で発生したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、6月初頭以降原油価格は上昇基調となった他、6月上旬後半以降は終値で1バレル当たり70ドル超の水準に到達する場面も見られた(図18参照)。

図18 原油価格の推移(2003~21年)

5月16日時点の1日当たり米国国内空港安全検査通過者が185万人と2020年3月8日(この時は同191万人)以来の高水準に到達した旨5月17日に判明したこともあり、同国の航空便往来活発化とジェット燃料需要の回復に対する楽観的な見方が市場で発生したことに加え、新型コロナウイルスワクチン接種普及進展に伴い、既に新型コロナウイルス感染抑制関連規制措置が緩和されているフランスやスペインに続き、5月15日にはオランダとポルトガルで渡航制限が緩和された他、英国でも5月17日を以て個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されたことで、欧州経済回復による石油需要増加期待が市場で増大したことから、5月17日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.90ドル上昇し、終値は66.27ドルとなった。ただ、5月18日には、5月19日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表される予定である米国石油統計(5月14日の週分)で、原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、イラン核合意正常化に向けた協議で大きな進展があった旨在ウイーン国連機関ロシア駐在代表のウリヤノフ氏が明らかにしたと5月18日に報じられたことにより、間もなく当該正常化に関する合意がなされることにより、米国の対イラン制裁が解除されるとともにイランからの原油供給が増加する結果世界石油需給が緩和するとの見方が市場で増大したことから、5月18日の原油価格の終値は1バレル当たり65.49ドルと前日終値比で0.78ドル下落した。また、6月18日に実施される予定であるイラン大統領選挙投票前にイラン核合意正常化に向けたイランと米国等との協議は最終合意に到達すると予想している旨当該協議に関与する欧州連合(EU)欧州対外活動庁のモラ(Mora)事務局次長が5月19日に明らかにしたことにより、イラン核合意正常化に伴う米国の対イラン制裁解除によるイランからの原油供給増加及び世界石油需給緩和観測が市場で増大したことに加え、5月18日時点のインドでの1日当たり新型コロナウイルス死者数が4,529人と過去最高水準に到達した旨5月19日に判明したうえ、同国最大手石油精製会社インディアン・オイルが新型コロナウイルス感染拡大に伴う石油需要低迷を理由として自社の製油所の稼働率を84%と4月の96%から引き下げた旨5月19日に報じられたこともあり、世界石油需要の伸びの抑制懸念が市場で発生したこと、5月19日に公表された米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(4月27~28日開催分)で、米国金融当局者数人が、同国経済が目標に向け急速に回復し続けるのであれば、いずれかの時点で金融の量的緩和の縮小を検討し始める用意があると示唆していた旨判明したことにより、同国での金融緩和政策が早期に縮小され始めるとの観測が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落するとともに米ドルが上昇したこと、商品相場安定化に向け需給管理を強化する意向である旨中国国務院が明らかにしたと5月19日に報じられたことにより、商品市場への投資資金流入が鈍化するとの見方が市場で増大するとともに商品相場が幅広く下落したことから、5月19日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.13ドル下落し、終値は63.36ドルとなった。5月20日も、米国金融当局者数人が金融の量的緩和の縮小を検討し始める用意があると示唆していた旨5月19日に公表されたFOMC議事録で判明したことにより同国金融緩和政策が早期に縮小され始めるとの観測が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、米国が石油、船舶及び金融部門における対イラン制裁を解除する方向である旨5月20日にイランのロウハニ大統領が示唆した他、インドや欧州の石油精製会社が米国の対イラン制裁解除に伴うイランからの原油調達再開に向け準備中である旨5月20日に報じられたことにより、米国の対イランの制裁解除とともにイランからの原油供給が拡大するとの市場の観測が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.05ドルと前日終値比で1.31ドル下落した。この結果原油価格は5月18~20日の3日間で1バレル当たり合計4.22ドルの下落となった(なお、この日を以てNYMEXの2021年6月渡し原油先物契約は取引を終了したが、7月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり61.94ドル(前日終値比1.41ドルの下落)であった)。しかしながら、5月21日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、米国メキシコ湾沖合にある低気圧帯が40%の確率で今後48時間以内に熱帯性低気圧へと発達する旨5月21日に米国ハリケーンセンター(NHC: National Hurricane Center)が明らかにしたことにより、この先この低気圧が発達するとともに米国メキシコ湾沖合及び湾岸地域における油・ガス田及び製油所の操業に影響を及ぼすことを通じ原油及び石油製品供給が混乱する恐れがあることに対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.58ドルと前日終値比で1.53ドル上昇した。また、5月23日時点のインドの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が222,315人と5月6日時点の414,188人から相当程度減少した旨5月24日に明らかになった他、4月20日より都市封鎖措置を実施しているインドのニューデリーにつき感染者数の減少傾向が継続するようであれば5月31日以降封鎖措置の緩和手続きを実施する旨ニューデリー首都圏政府のケジリワル首相が5月23日に明らかにしたうえ、米国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が5月17~23日の1週間のどの1日においても3万人未満であった他5月17日には29,266人であった1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が5月23日には14,144人と減少傾向となっている旨5月24日に判明したことにより、この先のこれら諸国の経済成長の持ち直しと石油需要の回復に対する期待が市場で増大したことに加え、今後イラン核合意正常化に伴う米国の対イラン制裁解除によりイランからの原油供給が拡大しても、新型コロナウイルスワクチン接種普及進展に伴う世界石油需要増加がそれを吸収することにより、2021年第四四半期におけるブレント原油価格1バレル当たり80ドルへの上昇予想は変更しない旨、5月23日に米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが明らかにしたことで、この先の原油価格先高感を市場が意識したことから、5月24日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.47ドル上昇し、終値は66.05ドルとなった。5月25日には、5月26日にEIAから発表される予定である米国石油統計(5月21日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したうえ、5月24日時点のインドの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が196,427人と5月23日のそれよりもさらに減少した旨5月25日に判明したことにより同国の個人の外出規制及び経済活動制限の緩和と経済成長加速及び石油需要の回復に対する期待が市場で増大したこと、5月25日にドイツ公的研究機関IFO経済研究所から発表された5月の同国企業景況感指数(2005年=100)が99.2と4月の96.8から上昇するとともに市場の事前予想(98.0~98.2)を上回ったこともあり、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したことが、原油相場に上方圧力を加えた一方、これまでの原油価格の上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことが原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.07ドルと前日終値比で0.02ドルの上昇にとどまった。しかしながら、5月26日には、この日EIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が前週比166万バレル、ガソリン在庫が同175万バレル、留出油在庫が同301万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫同100万バレル程度、ガソリン在庫同61~110万バレル程度、留出油在庫同190~200万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.14ドル上昇し、終値は66.21ドルとなった。また、5月27日も、この日米国商務省から発表された4月の同国非国防耐久財受注(除航空機)が前月比で2.3%の増加と3月の同1.2%の増加から増加幅が拡大した他市場の事前予想(同1.0%の増加)を上回って増加している旨判明したうえ、同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(5月22日の週分)が40.6万件と前週の44.4万件から減少した他市場の事前予想(42.5万件)を下回ったことにより、米国経済成長加速に伴う石油需要回復期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.85ドルと前日終値比で0.64ドル上昇した。この結果原油価格は5月26~27日の2日間で1バレル当たり合計0.78ドルの上昇となった。5月28日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、5月28日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で359基と前回発表時から3基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は347基と前週比4基増加)している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.32ドルと前日終値比で0.53ドル下落した。

5月31日は、米国戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)に伴う休日によりこの日の終値は計上されなかったが、この日イラン外務省のアラグチ次官が、イラン核合意正常化を巡るイランと西側諸国等との協議は恐らく完了までになお時間を要する旨示唆したこともあり、当該核合意正常化に伴う米国の対イラン制裁解除によるイランからの原油供給拡大の時期が遅延するとの懸念が市場で発生したことに加え、同じく5月31日に開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)において、6月末までに石油供給過剰はほぼ解消するとともに、さらに9月から12月にかけ日量200万バレル超の供給不足が予想される旨示唆されたと5月31日に報じられたこともあり、この先の世界石油需給引き締まり感を5月31日から6月1日にかけ市場が意識したこと、さらに、6月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で8月以降の減産措置縮小方針に関する議論が見送られたことによりOPECプラス産油国が減産措置の緩和に慎重な姿勢を示していると市場が受け取ったことにより、この先の石油需給引き締まりに対する市場の意識がさらに拡大したことから、6月1日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.40ドル上昇し、終値は67.72ドルとなった。6月2日も、5月31日に開催されたOPECプラス産油国JTCにおいてこの先石油需給引き締まりが予想される旨示唆されたと同日報じられた他、6月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で8月以降の減産措置縮小方針に関する議論が見送られたことによりOPECプラス産油国が減産措置の緩和に慎重な姿勢を示していると市場が受け取ったことにより、この先の石油需給引き締まりに対する市場の意識が拡大した流れを引き継いだことに加え、6月3日にEIAから発表される予定である米国石油統計(5月28日の週分)で原油、ガソリン及び留出油の各在庫が前週比で減少している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、イラン核合意正常化を巡るイランと西側諸国等との協議が6月10日まで中断する旨6月2日に伝えられたことにより、イランからの原油供給拡大が遅延することに対する懸念が市場で増大したことにより、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.83ドルと前日終値比で1.11ドル上昇した。この結果原油価格は6月1~2日の2日間で1バレル当たり合計ドル2.51ドルの上昇となった。6月3日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、6月3日にEIAから発表された米国石油統計(5月28日の週分)で、ガソリン在庫が前週比150万バレル、留出油在庫が同372万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫同150万バレル程度、留出油在庫同150~170万バレル程度の、それぞれ減少)に反し増加している旨判明したこと、6月3日に米国企業向け給与計算サービスのオートマチック・データ・プロセッシング(ADP)から発表された5月の同国民間雇用者数が前月比で97.8万人の増加と2020年6月(この時は同435.0万人の増加)以来の大幅増加となった他、市場の事前予想(同65万人の増加)を上回ったうえ、同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(5月29日の週分)が38.5万件と前週の40.5万件から減少した他、市場の事前予想(38.7~39.0万件)を下回ったこと、同じく同日米国供給管理協会(ISM)から発表された5月の同国非製造業景況感指数(50が当該部門景況感改善及び悪化の分岐点)が64.0と4月の62.7から上昇、1997年7月以降の当該統計史上最高水準に到達した他市場の事前予想(63.0~63.2)を上回ったこともあり、早期の金融緩和政策見直し観測が市場で発生したことにより、米国株式相場が下落するとともに米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えた一方、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが、7月のアジア諸国向け出荷予定の同国産原油の公式販売価格の大半を引き上げた旨6月3日に伝えられたことに加え、6月3日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比508万バレルの減少と市場の事前予想(同240~253万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.81ドルと前日終値比で0.02ドルの下落にとどまった。6月4日には、この日米国労働省から発表された5月の同国非農業部門雇用者数が前月比で55.9万人の増加と市場の事前予想(同65.0~67.5万人の増加)を下回ったことにより、同国の金融緩和政策が長期化するとの観測が市場で増大したこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことに加え、6月4日にベーカー・ヒュージズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で359基と前週発表時から横這い(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は346基と前週比1基減少)となっている旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.81ドル上昇し、終値は69.62ドルとなった。

6月7日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、6月7日に中国税関総署から発表された5月の同国原油輸入量が4,097万トン(推定日量967万バレル)と前年同月比で14.6%の減少となった他、日量としては2020年12月(この時は3,847万トン、推定日量908万バレル)以来の低水準に到達した旨判明したことにより、中国石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.23ドルと前週末終値比で0.39ドル下落した。しかしながら、6月8日には、6月9日にEIAから発表される予定である米国石油統計(6月4日の週分)で原油在庫が前週比で減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、6月8日にEIAから発表された短期エネルギー展望(STEO:Short-term Energy Outlook)でEIAが2021年のWTI原油価格見通しを1バレル当たり61.85ドルと5月11日発表時点の同58.91ドルから上方修正したことにより、原油価格の先高感が市場で増大したこと、米国がイラン核合意に復帰しても、トランプ政権時代に実施したものを含め数百件の米国の対イラン制裁措置は存続であろう旨6月8日に米国のブリンケン国務長官が同国連邦議会上院外交委員会公聴会で発言したことにより、米国の対イラン制裁解除に伴うイランからの原油供給回復が遅延するかもしれないとの観測が市場で発生したこともあり、石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日(6月8日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.82ドル上昇し、終値は70.05ドルと、2018年10月16日(この時は同71.92ドル)以来の高水準に到達した。6月9日には、この日EIAから発表された米国石油統計で、ガソリン在庫が前週比で705万バレル、留出油在庫が同441万バレルの、それぞれ増加と市場の事前予想(ガソリン在庫同70~120万バレル程度、留出油在庫同140~180万バレル程度、のそれぞれ増加)を上回って増加している旨判明したことが、原油相場に下方圧力を加えたものの、当該石油統計で、原油在庫が前週比で524万バレルの減少と市場の事前予想(同200~350万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.96ドルと前日終値比で0.09ドルの下落にとどまった。また、6月10日には、この日米国労働省から発表された5月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で5.0%の上昇と4月の同4.2%から上昇幅が拡大するとともに、市場の事前予想(同4.7%の上昇)を上回ったことにより、インフレ対策として原油の購入が進んだことに加え、同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(6月5日の週分)が37.6万件と前週の38.5万件から減少、2020年3月13日(この時は25.6万件)以来の低水準に到達したことにより、米国経済と石油需要の回復に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.33ドル上昇し、終値は70.29ドルとなった。6月11日も、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートにおいて、IEAが2022年第四四半期には新型コロナウイルス感染拡大前の水準にまで世界石油需要が回復することにより、それに向けOPECプラス産油国は増産を行う必要がある旨示唆したこともあり、この先のOPECプラス産油国の石油市場及び原油価格に対する支配力の増大を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.91ドルと前日終値比で0.62ドル上昇した。この結果原油価格は6月10~11日の2日間で1バレル当たり合計0.95ドル上昇した。

 

4. 原油市場における主な注目点等

地政学的リスク要因面での主な注目点は、まず、イランを含む中東情勢であろう。イランが支援しているとされる、イエメンのフーシ派武装勢力は、同勢力と対立するハディ暫定大統領派勢力を支援する有志連合軍を主導するサウジアラビアの南西部の都市ハーミス・ムシャイト(Khamis Mushait)にある同国空軍の拠点を無人攻撃機で攻撃した旨5月31日に発表した。また、6月5日にも、イエメン中部の都市マリブ(Marib)のガソリンスタンドがフーシ派武装勢力から発射された弾道ミサイルにより攻撃され、6月6日時点で少なくとも21人が死亡した(6月7日にフーシ派武装勢力が当該攻撃を実施したことを認める旨表明したと伝えられる)。ただ、6月10日にサウジアラビア主導の有志連合軍は、フーシ派武装勢力との和平交渉を進めるため、それまでイエメンで実施してきた同武装勢力への攻撃を停止する旨明らかにした。

5月24日に国際原子力機関(IAEA)は、イランとの間でのイラン核関連施設等査察に関する3ヶ月の暫定合意(米国の対イラン制裁が解除された時点で当該核関連施設等に対する監視カメラの映像をIAEAに提供するが、3ヶ月以内に米国が対イラン制裁を解除しなければ当該映像を廃棄するとされる)を約1ヶ月間延長し、6月24日迄とする旨発表した。ただ、5月26日にIAEAのグロッシ事務局長はイランが実施した60%の濃縮度の濃縮ウランは核兵器の製造をより容易にするものであるとして懸念を表明した。また、5月22日時点でイランは濃縮ウランを3,241キログラム、うち濃縮度60%のウランを2.4キログラム保有していると推定される旨5月31日にIAEAは報告した(イラン核合意で認められているイランの濃縮ウラン保有上限は3.67%の濃縮のものを202.8キログラム)。また、IAEAが査察を実施した施設3ヶ所において、IAEAに申告することなく核開発活動を実施していた痕跡があるにもかかわらず、イラン側が適切な説明を実施していない旨の報告も同日IAEAが行うとともに、これについたIAEAは6月7日に開催した定例理事会において「深く懸念する」旨表明した。また6月7日に米国のブリンケン国務長官はイランが核合意で定められている内容を逸脱し続ければ、核兵器製造が可能となる期間が以前の1年超から数週間に短縮されるであろう旨発言した。

他方、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議につき大きな進展があった旨在ウイーン国連機関ロシア駐在代表のウリヤノフ(Ulyanov)氏が明らかにしたと5月18日に報じられた。ただ、その後、ウリヤノフ氏は依然として解決しなければならない問題は存在しており、協議にはなお時間と努力を要する旨同日明らかにしている。当該協議の期限は当初事実上5月21日とされていた(最長3ヶ月間イラン核関連施設等への査察及び監視をIAEAが事実上暫定的に実施することで2月21日にイランとIAEAが合意しており、その期限が5月21日に到来することが背景にあるとされる)が、5月24日にイランとIAEAとの間での当該核査察の暫定実施が6月24日まで1ヶ月間延長されたことにより、核合意正常化に関する協議期間も事実上延長されたものと見られる。また、5月19日に開催された核合意正常化のためのイランと西側諸国等との間での合同委員会に際しては、同協議に参加する欧州連合(EU)欧州対外活動庁のモラ(Mora)事務局次長が、イラン核合意正常化に向けたイランと米国等との協議は6月18日に実施される予定であるイラン大統領選挙投票日前に最終合意に到達すると考えている旨明らかにした(5月21日の協議期限延長を見越しての発言であったものと考えられる)。また、米国は石油、船舶、金融分野における対イラン制裁を解除する方向である旨5月20日にイランのロウハニ大統領が示唆した。ただ、イラン政府幹部は、米国は対イラン制裁を完全に解除するのではなく、長期にわたり段階的かつ部分的に執行を停止することを検討している旨明らかにしたと5月20日に報じられる。他方、インドや欧州の石油精製会社が米国の対イラン制裁解除に伴うイランからの原油調達再開に向け準備中である旨5月20日に報じられた。5月25日にはイラン核合意正常化のための合同委員会が再び実施された。5月25日にイラン政府のラビーイー(Rabiei)報道官は当該協議での合意到達を楽観している旨発言した一方、同国外務省のアラグチ次官は依然として深刻な問題が存在する旨の見解を同日に明らかにしている。当該協議は6月2日に一旦中断した。また、6月8日にイラン政府のラビーイー報道官が6月18日に実施される予定であるイラン大統領選挙後もイラン核合意正常化に向けたイランの姿勢は変更しない旨明らかにした。そして、イラン核合意正常化に向けた協議は6月12日に再開される方向となった。

6月10日には米国国務省と財務省はイランNIOC元幹部を含む個人3人と石油化学産業関連企業2社に対する制裁を解除する旨表明した(現在進行中のイランの核合意正常化を巡る協議とは一切関係ない旨同日国務省及び財務省は明らかにしている)。一方、イエメンのフーシ派武装勢力へ資金を提供するためイラン革命防衛隊の精鋭部隊である「コッズ部隊」に協力したとして個人及び法人に対し新規に制裁を科した旨米国国務省及び財務省は同日明らかにした。

このように現時点ではイラン核合意正常化を巡るイランと西側諸国等との協議は紆余曲折を経ながらも進展しつつある(少なくとも暗礁に乗り上げたままとなっているようには見受けられない)が、6月18日にはイラン大統領選挙投票が予定されている。5月15日には立候補届け出が締め切られ、同国護憲評議会の審査を通過した立候補資格保有者を5月25日にイラン内務省が発表したが、反米保守強硬派のライシ司法府代表他計7人が立候補を認められた一方、ロウハニ大統領の所属する保守穏健派に近いラリジャニ前国会議長や改革派のジャハンギリ第1副大統領の立候補は認められず、保守穏健派や改革派に近い有力候補が事実上見当たらない状態となった。ロウハニ大統領が事実上主導しているイラン核合意正常化への協議についても、イランの最高指導者ハメネイ師の承認がなければ推進できず、保守強硬派候補が次期大統領に当選したとしても、ハメネイ師は最高指導者のままであることや、次期大統領の就任が8月3日頃になると見られるところからすると、保守強硬派候補の当選によりイランが即座に核合意から離脱するといった展開にはなりにくいものの、当該核合意正常化に向けた協議を含め、イランと西側諸国、サウジアラビア等の中東湾岸諸国等との関係が微妙に複雑化する結果関係国間での緊張が高まることを通じ中東情勢が不安定化するとともに当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大することにより原油相場に上方圧力が加わる場面が見られないとも限らないので、イラン大統領選挙結果とその後の同国等の動向にいては注目する必要があろう。

他方、既にイランの原油生産量は2020年10月(米国大統領選挙投票日である11月3日の直前月)に日量196万バレルであったものが、2021年5月には同240万バレルに到達している。イラン核合意正常化に伴う石油供給面での米国の対イラン制裁が解除されて以降は、イランの原油生産増加具合は同国国内油田の生産再開作業次第といった側面はあるものの、かつて2016年1月16日にイラン核合意により対イラン制裁が解除された際には、それにより同年1月の同国原油生産量日量299万バレルが3ヶ月後の4月には同354万バレルへ増加しているといった状況から判断すると、今回についてもそれほど時間を要しないうちにイランの原油生産がさらに相当程度増加するといった展開となることもありうる。そして、そのようなイランの原油生産の大幅拡大が2021年6~9月になされるようであれば、この期間は従来から2021年第四四半期に比べ石油需給引き締まり感が相対的に弱いと見られるため、イランの原油供給増加に伴い石油需給の緩和感が市場で強まる結果、原油相場に下方圧力を加える場面が見られる確率が高まるものと考えられる。

リビアでは、6月7日に同国中部に位置する油田からエス・シデル(Es Sider)石油ターミナルに原油を輸送するパイプラインが破損したことにより原油流出が発生した(これによりパイプラインを通じて原油を供給する油田の原油生産量が日量15.5万バレル減少したとされる)他、同国南西部のシャララ(Sharara)油田でもメンテナンス作業を実施した結果同油田の生産が影響を受けたことにより、同国の原油生産量が最大で日量20万バレル程度減少した旨6月8日に伝えられる。ただ、破損したパイプラインの修理が完了した結果、エス・シデル石油ターミナル向け原油供給は6月10日より回復し始めると6月9日に同石油ターミナル関係者が明らかにしている。それでも、6月9日には、同国国営石油会社NOCのサナラ(Sanalla)会長が同国の原油生産及び出荷施設における治安面と資金面での問題が原油生産に影響を与えやすい状況は継続していると指摘しており、引き続き同国の原油生産関連インフラを巡る状況については注意する必要があろう。

経済面では、新型コロナウイルス感染、新型コロナウイルスワクチンと治療薬の開発及び普及、そして世界各国及び地域の個人の外出規制及び経済活動制限の状況等が、世界経済成長及び石油需要の伸びに関する観測を市場で発生させることを通じ、原油相場に影響を及ぼすことになるであろう。新型コロナウイルスワクチン接種普及進展に伴い、例えば、米国では5月14日には40,971人であった1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は6月12日には8,314人へと大幅に減少するとともに、同国では個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されつつあり、それに伴い個人の往来が活発化、6月11日には同国国内の空港の安全検査通過者数が203万人と2020年3月7日(この時は212万人)以来の高水準に到達するとともに、同国のジェット燃料需要も上向きになってきている。また、インドでは5月上旬半ば頃までは1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数がしばしば過去最高記録を更新するほど増加していたが、その後同国での当該感染者数は減少傾向となり6月12日時点では80,834人と過去最高水準である5月6日の414,188人の5分の1程度にまで規模が縮小した。このようなこともあり、これまでは市場参加者の心理面で欧米諸国等での新型コロナウイルス感染収束傾向に伴う石油需要の回復期待がインド等における新型コロナウイルス感染拡大傾向に伴う石油需要の減退懸念で相殺される格好となっていたことが原油相場の上昇及び下落を抑制する形で作用していたが、欧米諸国等での新型コロナウイルス感染収束が進展しつつある一方でインドの新型コロナウイルス感染も沈静化の傾向が明確になりつつあることにより、この面では欧米諸国等での石油需要がさらに上振れするとともにインド等の石油需要は下げ止まるとの期待が市場で増大する結果、原油相場への上方圧力が相対的に強まる可能性がある。

また、バイデン政権は、3月31日に発表した2.25兆ドル規模のインフラ整備を中心とする追加経済対策に関し対策規模を1.7兆ドルに縮小する旨5月21日に発表するとともに、5月28日には、6.01兆ドル規模の2022会計年度予算教書(新型コロナウイルス感染拡大前の2020会計年度予算教書の規模である4.17兆ドルを相当程度超過)を議会に提出した。今後も共和党議員等関係者間での調整が行われていくものと見られるが、当該調整が前進している、もしくは前進する兆候が見られるようであれば、米国経済が一層浮揚するとともに、石油需要が増加するとの期待が市場で増大する結果、原油価格が上振れするといった展開となることも想定される。

さらに、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の実施による同国経済成長鈍化の可能性に対処するため、2020年3月15日に米国連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げるとともに、緩和的な金融政策を推進してきた。2020年8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均で2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価上昇率が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、2021年2月24日にもパウエル議長はインフレ目標に到達するまでには3年を超過する期間を要する可能性がある旨の見解を披露した。このような緩和的な金融政策の下、低コストで調達された投資資金が原油を含む商品市場に活発に流入したこと(新型コロナウイルス感染収束後の世界経済成長の加速に伴う銅を含む金属需要の増加観測に加え、乾燥した気候が欧米諸国及びブラジルにおける農産物生産地に訪れていることによる農産物生産への影響に対する懸念も背景にある)も、原油等の価格の上昇をもたらしている一因であるものと見られる。そして、一部の金属及び農産物の価格上昇に対し原油価格の上昇には出遅れ感がある(図19参照)こともあり、今後出遅れ感を取り戻すべく商品インデックスファンド等経由で原油市場に対し投資資金が流入することにより、原油価格の上昇が継続するといった展開となることもありうる。

図19 各商品価格の上昇状況(2020~21年)

ただ、6月10日に米国労働省から発表された5月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同比で5.0%の上昇である旨判明、4月の同4.2%、3月の同2.6%、2月の同1.7%の、それぞれ上昇から上昇率が加速していることもあり、例えば、4月27~28日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)では、複数の金融当局者が、米国経済が目標に向け急速に回復し続けるのであれば、いずれかの時点で金融の量的緩和縮小を検討する用意があると示唆していた旨、5月19日に公表されたFOMC議事録で判明した他、5月20日にダラス連邦準備銀行のカプラン総裁、5月21日にフィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁、5月25日にFRBのクラリダ副議長、5月26日にはFRBのクオールズ副議長など、複数の米国金融当局幹部が金融緩和の縮小の検討につき言及し始めている。現時点では物価上昇率の拡大は一時的なものであるとの見解を披露する米国地域連邦準備銀行幹部も存在するものの、今後も同国で高率の物価上昇が継続するようだと、米国金融当局幹部の中での金融緩和政策縮小の議論が高まるととともに、それまで低コストで調達されていた投資資金のコストが上昇するとの観測のもと、原油を含む商品等のリスク資産市場から投資資金が流出するとともに、原油等の価格に下方圧力が加わり始めるといった展開となることもありうる。ただ、米国非農業部門雇用者数の前月比での増加数が市場の事前予想に届かなかった旨6月4日に判明した場合のように、米国経済成長が鈍化する兆候を示唆する経済指標類等が発表されるようであれば、米国金融当局による金融緩和措置が長期化するとの観測が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力を加えるといった展開も想定される他、物価上昇が加速する兆候を見せる一方、米国金融当局幹部の物価上昇抑制のための金融緩和措置縮小姿勢が十分に強くないと市場で受け取られるようであれば、却って物価の大幅上昇への備えとして物価上昇による価値の低減の影響を受けにくい原油を含む商品の購入が促進されるとともに、原油価格が上昇する場面が見られることも否定できない。

また、7月に入ると米国主要企業等の2021年4~6月等の業績が発表される予定であるので、それら業績もしくは2021年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼすこともありうる。

米国では5月29~31日の連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しており、製油所の稼働も上昇、原油精製処理が進むとともに製油所等による原油購入が活発化、季節的に石油需給が引き締まりやすい時期となっている。そして7月半ば頃までは同国でのガソリン需要の盛り上がり感が市場で継続するとともに(米国のガソリン需要のピークは7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)とされる)、季節的な石油需給の引き締まり感が持続する結果、少なくとも原油価格はこの面では下支えされやすいものと考えられる。

また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が遮断されることを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2019年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した(2020年は米国等の石油市場が新型コロナウイルス感染拡大により影響を受けたこともあり2019年の数値を用いることとする、以下同様))。5月20日発表の国立海洋大気局(NOAA)国立ハリケーンセンター及び6月3日時点のコロラド州立大学の見通しによると、2021年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が見込まれている(表2参照)。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合ではそれなりの量の原油が生産されている(2019年は当該地域で日量188万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体の約15%を占める)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2019年の当該地域の原油精製処理能力は日量866万バレルと米国全体の約47%を占める)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間での石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。

表2 2020年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

OPECプラス産油国は7月1日に閣僚級会合を開催する予定である。既に5~7月の減産措置については具体的な方針を決定し実施しつつあるが、次回会合においては、8月以降の減産措置の方針について協議しようとすることになろう。米国等で新型コロナウイルス感染が沈静化しつつあるとともに、個人の外出及び経済活動が活発化しつつあるうえ、北半球では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあることからガソリン等の需要が増加する結果石油需給が引き締まる方向に向かうとともに原油相場に上方圧力を加えるとの観測が市場で強まりつつある他、インド等でも1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が減少傾向となっていることもあり、同国等で個人の外出及び経済活動が今後回復するとともに石油需要が持ち直し、それが石油需給をさらに引き締めるとともに原油相場に一層の上方圧力を加える方向で作用するとの観測も市場で発生しつつある。

ただ、6月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、この先のイランからの原油供給拡大(及び新型コロナウイルス感染状況)を巡る不透明感等により8月以降の減産措置に関する方針に関し協議を見送っており、その後原油価格は上昇傾向になるとともに、6月7日時点には全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.128ドル(因みにこの価格は2014年10月27日(この時は同3.139ドル)以来の高水準である)に到達した。今後も7月の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要最盛期に向け原油価格の上昇とともに米国ガソリン小売価格がさらに上昇するといった展開となること(そしてその場合、米国国民の不満が増大するとともに、バイデン政権への支持率にも影響し始めることもありうる)も否定できず、サウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国にとっては、そのような米国の状況に配慮するべく減産措置を緩和する必要性も高まるものと考えられる。

ただ、例えば、6月10日には、米国財務省がイラン国営石油会社NIOC元幹部を含むイラン政府関係者3人及びイラン企業2社に対して課していた制裁を解除する旨報じられたことにより、同日昼頃(米国東部時間)に、それまで1バレル当たり70ドルを超過する水準で推移していた原油価格が5分足らずの間に68.68ドルまで下落する場面が見られた(その後当該制裁解除は定常的なものでありイラン核合意正常化を巡る米国とイランとの協議とは関係ない旨米国政府関係者が同日明らかにしたと報じられたことにより、原油価格は回復に向かった、図20参照)など、原油価格の動きには依然として不安定な部分が垣間見られる。緩和的な金融政策の下、低コストで調達されたものを含め資金が原油市場に活発に流入していることが原油相場を下支えしている側面があると見られることもあり、今後も、例えばOPECプラス産油国減産措置のさらなる緩和等に伴い、この先の石油需給引き締まりと原油価格の上昇期待を巡る石油市場関係者の心理が変化するようであれば、これまで流入していた投資資金が急速に退出し始めることにより原油価格が急落するといった展開となることも否定できない。OPECプラス産油国としては、不用意に減産措置を縮小することにより、原油価格急落が止まらなくなるような事態は回避したいと考えていると見られることから、今後イラン核合意正常化等に伴うイランからの原油供給が拡大する兆候が見られるような状況下では、減産措置縮小を小規模に止めるか、減産措置縮小を一旦踏み止まる、もしくは一時的にせよ減産措置を拡大する等減産措置緩和に対し慎重な姿勢を見せることにより、市場での世界石油需給緩和感の拡大による原油価格の急落の可能性を防止しようと試みることもありうる。そしてこの場合、OPECプラス産油国の減産措置縮小措置が事実上後手に回ることにより、世界石油需要の増加がOPECプラス減産措置参加産油国やイランからの原油供給の拡大を相殺して余りあることにより石油需給は引き締まり続けるとの観測が市場で根強く残ることにより、原油価格が多少なりとも上振れする可能性がある。

図20 米国のイラン政府関係者制裁解除に伴う原油価格(WTI)急落(赤丸部分)(2021年6月10日)

全体としては、今後も、米国等での夏場のガソリン需要の盛り上がりに対する季節的な需給の引き締まり感が市場に居座ることで原油相場が支持されるものと見られることに加え、新型コロナウイルスワクチン接種普及進展等による世界各国及び地域における新型コロナウイルス新規感染者の減少傾向による経済改善及び石油需要回復への市場の期待の増大、イラン核合意正常化によるイランからの原油供給拡大を巡る不透明感に対するOPECプラス産油国の減産措置縮小への慎重な対応が原油相場を下支えするものと見られる。そのような中で、米国経済指標類や同国金融緩和政策を巡る動向、イラン次期大統領選挙結果、7月1日のOPECプラス産油国閣僚級会合を控えてのOPECプラス産油国関係者等の発言、そして実際の会合の結果、さらには中東情勢を含む地政学的リスク要因等が原油価格に影響しうるものと見られる。

 

以上

(この報告は2021年6月14日時点のものです)

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