ページ番号1009062 更新日 令和3年6月14日
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概要
- 2021年5月以降、カナダの新規LNGプロジェクトをめぐり新たな動きが次々と伝えられている。脱炭素化に向けた動きの加速化を求める声が高まる中、いずれのプロジェクトも、CCSを組み込んだり、水力発電を利用したりすることで、クリーンなLNG輸出施設となることを謳っている。プロジェクトによっては、資金調達の難しさを感じさせるものもある。
- Pieridae Energyは、Nova Scotia州に建設予定のGoldboro LNGプロジェクトについて、三菱UFJ銀行から支援を受けられることと、Alberta州にCCS付設の火力発電所建設が決定したことにより、2021年6月30日までに最終投資決定(FID)を行うことを目指している。
- Woodfibre LNGは、BPと2件目のLNG売買契約を締結した。BPのWoodfibre LNGからのLNG引取量は年間150万トンとなり、Woodfibre LNGはFIDに一歩近づいたと見る向きもある。
- GNL Quebecは、カナダからドイツへ低炭素LNGを輸出するためのサプライチェーン開発を目指して、Hanseatic Energy Hubと戦略的パートナーシップを提携した。
- Pembina Pipelineは、先住民族Haisla Nationとパートナーシップ契約を締結、Cedar LNGプロジェクトの開発を行う。
- 一方で、British Columbia州で計画されているKitimat LNGプロジェクトについては、オペレーターのChevronが権益売却を計画、フィージビリティー・ワークへの資金提供を中止したのに続き、パートナーのWoodsideが同プロジェクトから撤退することを決定した。
(各社Website他)
COVID-19の感染拡大と需要の減退、価格の下落により、2020年には動きが鈍っていたカナダの新規LNGプロジェクトだが、2021年5月以降、プロジェクトを進めようとする新たな動きが次々と伝えられるようになっている。ただし、脱炭素化に向けた動きの加速化を求める声が高まる中、プロジェクトによっては、資金調達の難しさを感じさせるものもある。また、いずれのプロジェクトも、CCSを組み込んだり、水力発電を利用したりすることで、クリーンなLNG輸出施設となることを謳っている。
一方で、British Columbia州で計画されているKitimat LNGプロジェクトについては、オペレーターのChevronが権益売却を計画、フィージビリティー・ワークへの資金提供を中止したのに続き、パートナーのWoodsideが同プロジェクトから撤退することを決定した。
本稿では、これらのプロジェクトの状況について紹介する。
1. Goldboro LNG、2021年6月30日までに最終投資決定の可能性
Pieridae Energyは、Nova Scotia州東海岸に建設予定のGoldboro LNG輸出プラントについて、資金調達の目途がたったことと、炭素回収施設の設置が決定したことにより、2021年6月30日までに最終投資決定(FID)を行うべく取り組んでいることを明らかにした。6月30日までにFIDが行われれば、2025年から2026年にLNGを輸出することが可能となる。
Pieridae Energyは、2011年に設立されたCalgaryに拠点を置く企業である。天然ガスの探鉱・開発から、Goldboro LNG輸出プラントの開発・建設・操業まで、総合的なエネルギー関連事業の開発に注力している。
Goldboro LNG輸出プラントは、天然ガス液化プラントと、LNGの貯蔵・輸出施設(積み込み用の海上桟橋を含む)から構成され、年間約1,000万トンのLNGを生産し、敷地内に69万立方メートルのLNGを貯蔵することが計画されている。Pieridae Energyは、2019年10月にShellが保有するAlberta州上流、中流資産全てを1億9,000万カナダドルで買収した。Goldboro LNG輸出プラント用のガスは、Pieridae Energyがもともと保有していたAlberta州の資産に、Shellから取得した資産を併せた生産拠点から調達される。Goldboro LNGのサイトは、Nova Scotia州、カナダ大西洋岸、米国北東部で生産された天然ガスを輸送するために建設されたMaritimes & Northeastパイプライン(全長1,400キロメートル)に隣接しており、このMaritimes & Northeast Pipelineを含む既存のパイプラインでガスを輸送する計画である。
液化能力 | 最大、年間1,000万トン |
---|---|
LNG船容量 | 140,000~250,000立方メートル |
貯蔵タンク | 230,000立方メートル×3基 |
出荷予定数 | 月7~13隻 |
設備投資額 | 50億〜100億米ドル |
その他のプロジェクトコンポーネント | アクセス道路、タグボートの停泊、建設用桟橋 |
出所:Goldboro LNG Websiteを基に作成
Pieridae Energyはこれまで、Societe GeneraleをGoldboro LNG輸出プラントの財務アドバイザーとしてきた。ところが、Societe Generaleは、環境問題を理由に新規のシェールガス案件への融資を段階的に停止することとし、その一環として、Goldboro LNGへの支援を取りやめた。そこで、Pieridae EnergyはGoldboro LNG向けの100億ドルの資金調達について、三菱UFJ銀行を採用することとした。しかし、Royal Bank of ScotlandやHSBCも、炭素強度(Carbon Intensity)の高いエネルギープロジェクトへの融資を制限しており、Societe Generaleの今回の融資停止により、北米のLNGプロジェクトにとって資金調達にあたっての投資先の選択肢はさらに狭まることになると見られている。
Pieridae Energyは、坑井から欧州へのLNG輸出までのバリューチェーン全体の中で二酸化炭素排出を削減する計画である。2021年5月27日には、Goldboro LNG輸出プラントから排出される二酸化炭素を相殺するために、Alberta州CarolineにCCSを付設した火力発電所Caroline Carbon Capture Power Complex(20万kW)を建設すると発表した。Pieridae EnergyはCaroline油・ガス田の枯渇した天然ガス埋蔵層に二酸化炭素を、当初は年間約100万トン貯留、最終的には年間最大300万トン貯留する可能性があるとしている。年間300万トンは、Goldboro LNG輸出プラントの年間排出量に匹敵する量であり、二酸化炭素の貯留量は合計約1億トンとなるとされている。ただし、最終的な二酸化炭素貯留量を決定するにはパートナーの参加を待つ必要があるとしている。
Pieridae Energyは2013年2月28日にNova Scotia州環境局にGoldboro LNGを登録した。そして、Pieridae EnergyはGoldboro LNGの環境アセスメントレポートを地域コミュニティ、政府機関、先住民族コミュニティとの協議を経て、2013年10月30日に提出し、Nova Scotia州の環境大臣はパネルの勧告を受け入れ、2014年3月21日、条件付きで環境アセスメントの承認を行った。なお、カナダ環境アセスメント庁は、連邦環境アセスメントの必要はないと判断している。
Pieridaeは、2020年に、基本設計・調達・施工・試運転(Engineering, Procurement, Construction and Commissioning:EPCC)のコスト見積もりをBechtelに依頼しており、FIDと同時に契約が締結される模様である。
Goldboroは、特に欧州の主要市場までの距離が近く、LNG輸送という点では利点となっている。
Lake Charles | Qatar | Goldboro | |
---|---|---|---|
Zeebrugge(ベルギー) | 10.9 | 14.5 | 6.5 |
Isle of Grain(英国) | 10.8 | 14.5 | 6.5 |
For Sur Mer(フランス) | 12.0 | 10.5 | 7.6 |
Montoir(フランス) | 10.4 | 14.1 | 6.2 |
Bilboa(スペイン) | 10.7 | 13.5 | 6.0 |
Barcelona(スペイン) | 11.6 | 10.5 | 7.5 |
La Spezia(イタリア) | 12.5 | 10.2 | 8.3 |
Mangalore(インド) | 22.0 | 4.0 | 18.0 |
出所:Goldboro LNG Websiteを基に作成
Pieridaeは以前に、ドイツのUniperと2025年から2045年までの20年間のLNG供給契約(年間約500万トン)を締結している。LNGはWilhelmshavenの輸入ターミナルに送られると見られていたが、Wilhelmshavenではグリーン水素ハブが導入されることになった。Uniperが契約済みLNGカーゴをどのように輸入するのか、転売するのか、あるいはLNG供給契約をキャンセルするのかは明らかにされていない。
Pieridaeは建設段階においては、Goldboroのサイトで最大3,500人、継続的なオペレーションとメンテナンスにおいて最大200名を雇用するとしている。
また、周辺地域のコミュニティ、先住民族、ステークホルダーとの継続的な対話と関与を実施、コミュニティの意見や参加を確保するためにコミュニティ・リエゾン委員会を設置している。さらに、Nova Scotia州の先住民族Mi’kmaq族とのパートナーシップにより、LNG輸出プラントを建設する労働者5,000人を収容する労働者宿舎を建設することで、先住民族の和解を得ている。
PieridaeはGoldboro LNG輸出プロジェクトの投資に関する決定を、2019年7月には2020年9月30日まで延期すると発表、さらに、2020年4月にはCOVID-19感染拡大と市場の状況から遅らせると発表しており、今回発表の通り2021年6月30日までにFIDを行うことができるのか注目されている。
2. Woodfibre LNG、BP Gas Marketing Ltd.と2件目のLNG売買契約を締結
Woodfibre LNG は2021年5月6日、BP Gas Marketing Ltd.と、15年間にわたり、年間75万トンのLNGをFOBベースで供給するという内容のLNG売買契約を締結したことを明らかにした。今回の契約は両社間の2件目の契約で、BPのWoodfibre LNGからのLNG引取量は年間150万トンとなり、Woodfibre LNGの将来の年間生産量の70%以上を占めることになる。今回のBPとのLNG売買契約締結により、Woodfibre LNGプロジェクトは、FIDに一歩近づいたと見る向きもある。
シンガポールを拠点とするPacific Oil & Gas Ltd.の完全子会社であるWoodfibre LNGは、British Columbia州Squamish近郊に液化能力年間210万トンの液化プラントの建設を計画している。Woodfibre LNGは、British Columbia州政府とカナダ連邦政府、そして先住民のSquamish族から環境について承認を得ている。また、電力に再生可能な水力発電を利用することで、世界で最もクリーンなLNG輸出施設となるとしている。
Woodfibre LNGは、2015年10月26日に、5年以内にプロジェクトを実質的に開始するという条件でBritish Columbia州の環境評価局から環境アセスメント証明書の発行を受け、2020年第3四半期の着工を予定していた。しかし、本プロジェクトの設計・調達・建設の主契約者であるMcDermottが、2020年1月に米国連邦破産法第11章の適用を申請した。その後、McDermottは債務を再編しており、Woodfibre LNGのEPC契約者として作業を継続する可能性がある。また、COVID-19感染拡大により、アジアのLNGモジュール製造ヤードが一時的に閉鎖された。そのため、Woodfibre LNGは、2020年3月24日に、環境アセスメント証明書の期間を5年間延長するよう申請し、2025年10月26日までの延長を認められた。
同社は、パルプ工場があった敷地にLNGプラントの建設を計画しているが、現在はその敷地の修復に取り組んでおり、2021年第3四半期の着工を予定、2025年後半には液化プラントが完成する見込みとしている。建設が開始されればピーク時には600人、操業に当たっては110人の従業員が働くことになる。
3. GNL Quebec、ドイツへの低炭素LNGサプライチェーンを計画
GNL QuebecとHanseatic Energy Hubは2021年6月、カナダからドイツへ低炭素LNGを輸出するためのサプライチェーン開発を目指して戦略的パートナーシップを提携したと発表した。2021年3月にドイツとカナダが調印したエネルギーパートナーシップ計画に続くもので、Quebec州のSaguenay LNGプロジェクトとドイツHamburg近郊のStadeターミナルが実際に建設されることが前提となっている。ドイツのガス需要の増加に対応することを目的に、輸出されるLNGに関連して排出される温室効果ガスを監視し、削減するために、サプライチェーン全体で規制や技術的なソリューションを検討していくという。
GNL Quebecは、2014年より、Quebec州Saguenay港の工業地帯に液化プラントを建設し、カナダ西部から供給される天然ガスを液化し、LNG年間1,100万トンを輸出するÉnergie Saguenayプロジェクトの開発を進めている。Énergie Saguenayプロジェクトの投資額は90億カナダドルで、2026年の稼働を目指している。Saguenay港は水深の深い港で、人口密集地からも比較的離れており、年間を通してアクセスが可能な港である。欧州市場へも近く、道路、公共施設、鉄道路線、空港、建設中の倉庫スペースなどのインフラがすでに整備されている。天然ガスを全てカナダ西部から供給するために、Quebec州を拠点に北米で大規模な天然ガスパイプラインプロジェクトの開発にあたってきたGazoduq inc.が、Ontario州北東部の既存の主要ガスパイプラインに接続する全長750キロメートルのパイプラインを新たに建設する計画となっている。また、Hydro-Quebecが送電線(電圧345キロボルト、全長約40キロメートル)を敷設することで、水力発電を利用したカーボンニュートラルなLNG製造プラントを実現することが可能となり、温室効果ガスの排出を84%削減することができる見通しだ。そして、Énergie Saguenayプロジェクトの4年間の建設期間中に6,000人の直接・間接雇用が創出されるという。ただし、Societe Generaleが、Goldboro LNGとともにGNL Quebecへの支援も取りやめるとしており、今後、資金面で問題が生じる可能性がある。
一方、Hanseatic Energy hubは、2026年までに、Stadeの既存の工業団地に組み込む形でLNG受入ターミナルを建設する計画だ。
4. Pembina Pipelineと先住民族Haisla Nation、Cedar LNGプロジェクトの開発で提携
先住民族Haisla NationとPembina Pipelineは2021年6月8日、PembinaがHaisla Nationのパートナーとなり、Cedar LNGプロジェクトの開発を共に行うというパートナーシップ契約を締結したことを明らかにした。本契約に基づき、Pembinaは、現在PTE Cedar LPとDelfin Midstream Inc.が保有するCedar LNGの持分を取得し、その結果、Haisla NationとPembinaの所有権はそれぞれ50%となる。Pembinaは、Cedar LNGプロジェクトに今後24ヶ月間で約9,000万ドルの投資を見込んでおり、これには権益取得のための費用やFID前の開発費用も含まれている。また、Pembinaは、今後、本プロジェクトのオペレーターを務めることとなる。
Cedar LNGはBritish Columbia州KitimatのHaisla Nationの領土内に浮体式LNG施設(液化能力、年間300万トン)を建造、設置する計画である。天然ガスはMontneyから調達することとなっており、Coastal GasLinkパイプラインと送ガスに関し長期契約(日量4億立方フィート)を締結済みである。また、Coastal GasLinkパイプラインからKitimatまでは約8kmの新規パイプラインを敷設する。FIDは2023年を見込んでおり、2027年の稼働開始を予定している。Cedar LNGの総事業費は24億米ドルと見積もられている。
Cedar LNGは、すでに、カナダ連邦のエネルギー規制当局からLNG輸出ライセンスを取得し、British Columbia州政府および連邦政府による環境アセスメントを受けている。
Cedar LNGは、浮体式施設を採用したことにより、Douglas海峡沿岸の環境への影響が大幅に軽減されるほか、施設はBC Hydroの既存の送電システムに相互接続され、再生可能な電力を利用することで、世界で最も排出量の少ないLNG施設の一つとなるとしている。
Cedar LNGは、主にアジア太平洋地域をLNG輸出のターゲットとしており、パナマ運河を通過する際に高いコストとリスクを伴う米国メキシコ湾岸のLNGプロジェクトと比較して、地理的な輸送上の優位性を最大限に活かすことができると見ている。
建設ピーク時には最大500人がCedar LNGサイトで働き、操業開始後は約100人がフルタイムで同施設で働くことになる。
5. Woodside、KitimatLNGプロジェクトからの撤退を決定
Woodsideは、2021年5月18日、British Columbia州で計画されているKitimat LNGプロジェクトから撤退することを決定したと発表した。
Kitimat LNGプロジェクトは、ChevronとWoodsideの折半出資によるプロジェクトだ。Chevronがオペレーターを務めるこのプロジェクトは、British Columbia州北東部のLiard BasinおよびHorn River Basinの上流資産、Pacific Trailパイプライン(全長471キロメートル)、およびKitimat近郊のBish Coveに建設する天然ガス液化施設(最大3トレイン、合計1,800万トン/年)から構成される。BC Hydroによる水力発電を利用したオール電化プラントとなる計画であった。Kitimat LNGは、国家エネルギー委員会(National Energy Board)から20年間、年間1,000万トンのLNGを輸出することについてライセンスを取得しており、液化施設とPacific Trailパイプラインの建設に向けて、州および連邦政府より環境アセスメントを受け承認を得ている。さらに、先住民Haisla族とのパートナーシップを確立、バリューチェーン全体にわたって地元の先住民族コミュニティから強い支持を受けていた。
今回のWoodsideの撤退には、Pacific TrailパイプラインのルートとBish Coveの液化施設建設予定地をカバーする資産、リース、契約の売却または清算と復元が含まれる。Woodsideは、Liard Basinの上流ガス資源は保持し、これによりBritish Columbia州での将来の天然ガス、アンモニア、水素の可能性を低コストで調査できるとしている。
オペレーターのChevronが、2019年12月にKitimat LNGの権益を売却する計画を発表し、その後、2021年3月には更なるフィージビリティー・ワークへの資金提供を中止したことを受けて、Woodsideは同プロジェクトと自社の開発ポートフォリオを包括的に検討していたという。そして、Kitimat LNGプロジェクトは、将来のアジア市場に供給するための新たなLNG供給源を開発することを目的としているが、Woodsideは、より近い将来の株主価値を実現する機会に資本を優先的に配分することを決定したと報じられている。Woodsideは今後、オーストラリアとセネガルにおけるより価値の高い事業機会に集中する。具体的には、西オーストラリア州のScarborough LNGプロジェクトのFIDを2021年後半に行うことを目標としており、また、セネガル沖のSangomar石油プロジェクトに注力するとしている。
以上
(この報告は2021年6月11日時点のものです)