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ロシア:Vostok Oilプロジェクトを巡る動き(続報):石油トレーダーVitol及びMercantile & Maritimeによるコンソーシアムへ5%売却する主要条件に合意

レポート属性
レポートID 1009069
作成日 2021-06-18 00:00:00 +0900
更新日 2021-06-21 10:02:30 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業探鉱開発
著者 原田 大輔
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 13
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
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地域8
国8
地域9
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地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア
2021/06/18 原田 大輔
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概要

  • 昨年末の石油トレーダーTrafigura によるVostok Oilプロジェクトへの10%参画(72.75億ユーロ)に続き、再び石油トレーダーのVitol 及びMercantile & Maritime によるコンソーシアムが5%参画することが発表された。
  • VitolによるRosneftの原油取扱量は、TrafiguraやGlencore等他のトレーダーと比較して近年大幅に減少していることが今回の参画の背景にあることも指摘されている。開発ハードルが高く脱炭素の潮流の中で外資が躊躇する巨大なVostok Oilプロジェクトへ参画することに対するRosneftからの見返りとして、原油取扱量の増加が参画条件に付随している可能性がある。
  • Vitol及びMercantile & Maritime参入条件(取得対価、両者の権益比率、資金調達方法、デットファイナンス率及び担保対象等)については現時点では明らかになっておらず、両者もリリースは控えている。両者の社内・株主手続き、ロシア政府承認(連邦独占禁止局等)取付け、資産の移転が行われるタイミングで次第に明らかになるだろう。
  • Rosneftが公開した最新の情報では、これまで3つのクラスター(パイヤハ・ヴァンコール・東タイムィル)を開発対象としていたが、それに更に3つのクラスター(パイヤハ西部を西イルキンスキー・クラスター、BPとの合弁であるYermak Neftegaz等が保有してきたパイヤハ東部を西タイムィル・クラスター、そしてギダン半島南部に新たなミンホフスキー・クラスター)が設定され、全てで6クラスターとなっている。また、2021年4月末現在、13の既発見鉱床を含む52鉱区が含まれていることを明らかにしており、この半年余りの間に当初想定されてきた30鉱区前後から大きく拡大している。
  • 5月下旬にはVostok Oilプロジェクトのために新たに建設する原油輸出ターミナルである「セーヴェル港」の建設を開始。6月初旬に開催されたサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでは、Rosneftが合計73件、6,165億ルーブル(約1兆円)相当の合意文書を各社・各機関と締結しているが、その内、50件超、5,588億ルーブルがVostok Oilプロジェクトに関連するものと言われている。
  • Vostok Oilプロジェクトにおいて、Rosneft及びBPのJVであるYermak Neftegazがその一翼を担い、BPが「パートナー」となっていることでの国際信用も期待されてきた面がある。しかし、2月から5月にかけて、BPは探鉱資産最適化の一環として、Yermak Neftegazが保有するVostok Oilプロジェクト関連資産のRosneftへの譲渡を完了。RosneftはBPに対して少数シェアで残留することを要請したが、BPが断ったと見られている。

 

図1 RosneftによるVostok Oilプロジェクト対象鉱区位置/過去の資料の変遷
図1 RosneftによるVostok Oilプロジェクト対象鉱区位置/過去の資料の変遷
出典:Rosneft

注1:2021年2月に行われたRosneftによる2020年第4四半期プレゼンテーションではこれまで3つのクラスター(パイヤハ・ヴァンコール・東タイムィル)が開発対象となっていたものが、それに更に3つのクラスター(パイヤハ西部を西イルキンスキー・クラスター、BPとの合弁であるYermak Neftegaz等が保有してきたパイヤハ東部を西タイムィル・クラスター、そしてギダン半島南部に新たなミンホフスキー・クラスター)が設定され、全てで6クラスターとなっている点が注目される。

注2:Rosneftは最新の情報として、Vostok Oilプロジェクトには、2021年4月末現在、13の既発見鉱床を含む52鉱区が含まれていると述べている。当初の想定された30鉱区前後から大きく拡大している。

 

1. はじめに

2019年12月からRosneftが外資誘致に動き出した世界最大規模の上流開発プロジェクトとも言われるVostok Oilプロジェクトについて、2020年末の石油トレーダーのTrafiguraによる10%参画(72.75億ユーロ)に続き、再び石油トレーダーのVitol及びMercantile & Maritimeによるコンソーシアムが5%参画することが、6月10日に発表された。Rosneftの同プロジェクトへの外資誘致活動では、ヴァンコール油田権益の49.9%を保有するインド企業コンソーシアム(ONGC Videsh:26%、Oil India Ltd:8%、Indian Oil Corporation:8%、Bharat PetroResources:7.9%)に対し、マイナー権益と引き換えに当該の49.9%を資産スワップすることを提案しているとの情報や、Trafiguraだけでなく、Vitol、Glencore、Gunvor等の世界的な資源トレーディング会社とも協議を行っていると言われてきたが、その一部が実現したことになる。本稿では2月に紹介した資源情報のその後の動きと今回のVitol及びMercantile & Maritimeによるコンソーシアムによる5%参画を中心に同プロジェクトの動向をアップデートする。

 

2. これまでの動向

(1) プロジェクトに関する状況報道

2020年12月末に完了したTrafiguraによるVostok Oilプロジェクトへの10%参画の後、Rosneftはその他外資の誘致を継続的に進めてきた。2月にはカシミーロ第一副社長が「2社の国際資源トレーダーとVostok Oilプロジェクトの権益売却で交渉中である」ことを明らかにしているが、タイミングからすればこの2社が今回5%参画を決定したVitol及びMercantile & Maritimeとも考えられるし、内少なくとも1社は噂も出ていたVitolと考えて良いだろう。また、Rosneftはこれら国際資源トレーダーだけでなく、インドや中国等の世界の大手石油需要者とも参画について協議しているとも述べている。しかし、その後新たな情報は5月まで出てこない。カシミーロ第一副社長は同プロジェクトの現況について、Rosneftは既にこの第一四半期で30億ドルを費やしており、今後2D震探を6,000キロメートル、3D震探を7,000平方キロメートル、2026年までに50坑の試探掘井掘削を行う予定で、Vostok Oilプロジェクトの新たなパートナーを年末までに誘致するべく、複数者と交渉中であると述べるに留まっていた。

政府からの優遇税制がプロジェクトの経済性確保に不可欠であると見られるVostok Oilプロジェクトは既に優遇税制については確保している一方で、ソヴェリンファンドである政府が留保する国民福祉基金(2021年5月1日時点で残高は1858.7億ドルに上る)についても、プロジェクトへのインフラ建設等を中心とした活用が想像されたが、Rosneftは同プロジェクトが長期公的資金にそぐわないビジネスモデルであるという理由で、国民福祉基金の活用を想定していないことを明らかにした。

5月25日には、既存の港であるカラ海に面したディクソンの南部に、RosneftがVostok Oilプロジェクトのために新たに建設する原油輸出ターミナルである「セーヴェル港」の建設を開始したことが発表された(最終的には原油だけでなく、石炭及びLNG輸出も想定されている)。港建設のために専門家、建機、仮設住宅、通信機器を含む約2万トンもの貨物がタイムィル半島に到着した様子を写真と共に報じている。同港の第一フェーズは原油年間3,000トン(日量60万バレル)、第二・第三フェーズが完了する2030年には日量2百万バレルへ拡張する計画となっている。

図2 タイムィル半島西部に建設されるセーヴェル港の位置関係と資機材搬送の様子
図2 タイムィル半島西部に建設されるセーヴェル港の位置関係と資機材搬送の様子
出典:地図は筆者取り纏め。写真はRosneft社HPより

港建設の政府評価審査機関であるGlavgosekspertizaも正式に同港の建設を承認しており(3月)、規模は長さ1,276メートルで、建設は3段階で実施され、第一段階は建設資材を降ろすための一時的なサービス港の建設を行う。第二段階でより大きな岸壁とターミナル施設を建設。第3段階で隣接する海域への航行装置と安全輸送システムの立ち上げが行われると共に、ヴァンコール鉱床群から700キロメートル超の原油パイプラインが建設されることになる。

4月には、Tatnefteprovodstroyがスズン鉱区から西イルキンスキー鉱区までの原油パイプライン(約260億ルーブル相当)を建設する契約をVostok Oil LLCとの間で締結した。工期は2021年3月~2024年。また、LLC StroyindustriyaはVostok Oil LLCと送電線建設に関して合計約180億ルーブルに相当する4つの契約を締結。工期は2021年12月から2024年5月が予定されている。また、Sovcomflotのトンコヴィドフ社長は、現在プロジェクトのオンショアセクション・ロジスティクスに関連して入札に参加する可能性について協議していると述べている。Vostok Oilプロジェクトでは、2024年以降、生産物を輸出するために50隻の船舶が必要になる予定であり、既にズヴェズダ造船所(Rosneft及びGazprombankが共同出資)に載貨重量12万トンの北極海航路仕様の10隻の砕氷タンカーを注文している。

この6月にはRosneftがVostok Oilプロジェクトのために外資コントラクタ及び資機材サプライヤーとの協議を開始していることを公表している。日本も含めた5カ国(イタリア、ドイツ、中国、韓国及び日本の各企業)と5回に亘ってロードショーを開催し、今後、さらに欧州企業及び中東企業と協議を継続していくと述べている。さらに、昨年は新型コロナウイルスで中止となったロシア版ダボス会議とも呼ばれるサンクトペテルブルク国際経済フォーラムは、今年は恒例の6月に予定通り開催され、Rosneftはフォーラムの場で計73件、6,165億ルーブル(約1兆円)相当の合意文書を各社・各機関と締結しているが、その内、50件超、5,588億ルーブルがVostok Oilプロジェクトに関連するものだったと言われている。具体的には、送電企業RAO-UESやエンジ企業レンモルニイプロエクトとのセーヴェル港建設に関する合意、鋼管企業とのパイプライン発注・供給に関する合意、Inter RAOとの発電所及び送電線建設に関する合意、ノリリスクニッケルとの輸送サービスに関する合意等となっている。

 

(2) 継続するRosneft及びNNK間の資産スワップとVostok Oilプロジェクトへの集約

1. NNKによる追加資産取得

Vostok Oilプロジェクトにおける既発見鉱床であり、既に生産中のヴァンコール・クラスターと並んで生産資産中核を成すと想定されているパイヤハ・クラスターについて、構成する鉱区ライセンス保有者である、フダイナトフ前Rosneft 社長が率いるNNK(独立石油会社)とRosneftとの間で、2020年末にかけて資産スワップディールが急速に成立してきたのは既報の通りである(注6参照)。具体的には、パイヤハ・クラスターの内、少なくとも開発2鉱区(北パイヤフスキー鉱区及びパイヤフスキー鉱区)を保有するTaimyrneftegazをRosneftが100%買収し、その対価としてNNKがRosneftの子会社であるRN-Severnaya Neft及びRN-Sakhalinmorneftegazの各株式9%を、さらにVaryeganneftegaz株式の93.89%をNNKへ移譲されたことが明らかになっていた。

4月に入るとRN-Severnaya Neft及びRN-Sakhalinmorneftegazについて、NNKの保有株式が9%から49%に増加していることが報道された。なお、追加の40%取得がRosneftに支払われた対価であるTaimyrneftegazの評価額に含まれていたのか、有償でNNKが追加取得したものかどうかは確認できていない。

図3  Vostok Oilプロジェクトに向けたRosneft及びNNKによる資産スワップの現状
図3  Vostok Oilプロジェクトに向けたRosneft及びNNKによる資産スワップの現状
出典:公開情報より筆者取り纏め

なお、サイドラインの情報として、RosneftがTaimyrburservise LLCの100%株式をVostok Oil LLCへ移管していることも判明している。Taimyrburservise LLCはTaimyrneftegazの子会社で、掘削サービスに特化した会社と考えられる。

 

2. Rosneftの財務評価を下支えするNNK資産買収の「含み益」

RosneftはTaimyrneftegazという既発見未開発鉱区(埋蔵量は依然評価段階にある)をメインアセットとする会社に対して、96億ドルと保有資産(約14億ドル相当)を加える形で価値を評価し、買収を行ったとされている。つまり、RosneftはTaimyrneftegazの価値を約110億ドルで買収したことになるが、四半期毎に財務報告書の中で、RosneftはTaimyrneftegazの買収取引によって、5,040億ルーブル(約68億ドル/)の収入を得たとも報告していることが分かっている。Taimyrneftegazの評価に当たっては、埋蔵量はPRMSベース(2P)、割引率を16%、油価をバレル当たり51ドル、2024年生産開始を前提に評価したものとされている。つまり、実際のRosneftによる資産バランス上計上している数字はこれらの合算、つまり、110億ドル(8,153億ルーブル)+68億ドル(5,040億ルーブル)=178億ドル(約1.3兆ルーブル)であったということが推察される。

写2 プーチン大統領とセーチン社長の面談(2021年2月15日)

この評価の方法と財務報告書への計上に当たっては、国際会計事務所のE&Yによる第三者監査を経たものであるが、2月15日に行われたプーチン大統領とセーチン社長との面談に際して、セーチン社長から、「2020年の活動に関して、国際基準に従って公開レポートを発表した。内容は会社にとって非常に前向きなものであり、パンデミックの劇的な影響にもかかわらず、弊社は実際に利益を出した、これまでのところ唯一の世界的メジャー企業である」という発言の背後にある疑問と回答を提供するものである。

その疑問とは、いかにRosneftがパンデミックの最中、世界のメジャーの中で唯一純利益を上げることができたのかという疑問である。この謎解きとして、モスクワベースのエネルギーコンサルタントであるRusEnergyのクルーチヒン編集長は、年末にRosneftが中国(相手は不明)との間で原油供給契約を締結し、その前払い金として130億ドル以上を受け取っており、それが2020年末までに計上されたというトリックを指摘している。また、ライファイゼンバンク・アナリストは、まさにこのTaimyrneftegaz買収に当たって、財務報告への評価益に計上された5,040億ルーブルもRosneftが利益計上できた要因と指摘している。

 

(3) 欧米メジャーBPがVostok Oilプロジェクトから離脱か

世界最大の上流開発プロジェクトであり、北極圏にあり開発環境のハードルの高さが指摘されるVostok Oilプロジェクトにおいて、RosneftとBPのJVであるYermak Neftegazがその一翼を担い、BPが「パートナー」となっていることで、同プロジェクトに対する国際信用も期待されていた側面がある。しかし、そのBPが遂にVostok Oilプロジェクトからは離脱するという動きが出始める。

2月9日、BPは探鉱資産最適化の一環として、Yermak Neftegazが保有するクラスノヤルスク地方のバイカロフスキー鉱区ライセンスを、Vostok Oil LLCへ譲渡したことを明らかにした。4月には、バイカロフスキー鉱区だけでなく、さらに2ライセンス(バイカロフスキー鉱区内で発見されたバイカロフスキー鉱床及びポソイスキー鉱区)をVostok Oil LLCに譲渡したことが判明する。さらに5月にはサハ共和国に保有するスレドネレンスキー鉱区及びオレクミンスキー鉱区の開発からも撤退し、株主協定に従って、Rosneftがこれら鉱区の100%株式を買収する予定となった。なお、RosneftはBPに対して少数シェアで残留することを要請したが、BPが断ったと見られている。

但し、Yermak Neftegazは全ての鉱区を手放したわけではなく、西シベリアの西ヤルデイスキー鉱区及びヴェルフネクビンスキー鉱区については引き続き保有している。両鉱区とも探鉱フェーズであり、西ヤルデイスキー鉱区の試掘井1号井を掘削は、2021年から2022年又は2023年の冬に延期されている。

なお、Yermak Negftegazの設立は、Rosneft及びBPによる株主間の協力の中で生み出されたものであるが、その背後には2014年に始まった石油産業も対象とし、Rosneftも金融制裁となった欧米制裁に対するロシア側の政治的な牽制という意味合いもあったことにも留意が必要だろう。タイムィル半島という前人未踏の探鉱フロンティアに対して、2016年の合意では金融制裁下にあるRosneftが50%超を有するYermak Neftegazに対して、BPが3億ドルを資金提供するという内容で合意しており、制裁抵触事案の可能性が高いことから、いかに欧米制裁を回避したのかが話題となったものだった。ロシア(Rosneft)にすれば、制裁下でも欧米メジャーはロシアに関心を示し、制裁を回避することも可能ということを示すためのプロジェクトとなったと言える。また、今回の資産譲渡は既に2019年にも2つの鉱区(ヘイギンスキー鉱区及びアノマリヌィ鉱区)について、BPがRosneftに対して権益を譲渡しており、初めてのことではないが、Rosneftが脱炭素という世界の潮流の中で、「グリーン原油」の生産プロジェクトとしてVostok Oilプロジェクトを盛り上げる中で始まったBPによる「離脱」はプロジェクトに対する特に上流開発に関心のある外資の心象にも大きく影響を与える事由と言えるだろう。

 

(4) その他の動き

1. インド勢の動き

前論考でも記した通り、ヴァンコール・クラスターに既に権益を有するインド・コンソーシアムの存在と脱炭素を依然表明せず、今後成長することが見込まれるインド市場を見据えて、RosneftがVostok Oilプロジェクトへの参画という秋風を送っているのがインド企業である。

写3 インドエネルギー事務所開所式(2021年3月2日)

参画に対するインド企業側からの目立った反応は見られない一方で、3月初旬、露印政府は二国間エネルギー協力を深化することに合意し、インド政府はロシアとの戦略的関係の中心であるエネルギー投資を促進するために、モスクワに初めてのエネルギー事務所を開設することを発表した。高級オフィス群から成るモスクワ・シティのフェデレーション・タワーに開所したオフィスを、5つのインド政府系企業であるONGC Videsh、Indian Oil、GAIL、Oil India及びEngineers Indiaが共同で管理していく方針だ。

現下の関心プロジェクトとして、ロシアではVostok Oilプロジェクトへのインド企業誘致、インドでは2番目に大きい国営石油精製業者・燃料小売業者であるBharat Petroleum株式民営化が挙げられている。エネルギー事務所を開設するというアイデアは、プラッダーン石油ガス鉄鋼大臣が2019年9月に東方経済フォーラムで検討を開始していたものだった。両国のエネルギー関係は、インドによるロシア上流(S-1及び東シベリア)に約150億ドルを投資とGazpromとのLNG供給契約に限定されているが、ロシアによるインドへの投資はRosneftによる130億ドルでのEssar買収に限定されており、インドはさらにエンジニアリング等分野を広げていきたい模様だ。

インド・コンソーシアムには動きが見られない一方で、4月にRosneftはインド・コンソーシアムと共同所有するJSC Vankorneftの株式(5,959,722株/Vankorneftのチャーター資本は11,895,655株)をVostok Oil LLCに譲渡し、資産集約を進めている。Vankorneftは、ヴァンコール・クラスターの内、ヴァンコール油田を所有しており、2020年には1,130万トン(日量22.7万バレル)の原油を生産しているが、前年より19%減少している。

 

2. タイムィルLNGが政府公認に

表1 「ロシアのLNG生産開発のための2035年までのプログラム」におけるプロジェクト一覧

表1 「ロシアのLNG生産開発のための2035年までのプログラム」におけるプロジェクト一覧
出典:「ロシアのLNG生産開発のための2035年までのプログラム」から筆者取り纏め

2月、エネルギー省燃料エネルギー産業分析センターが、Rosneftが2030年から2035年にかけてタイムィルLNGプロジェクト(年間3,500~5,000万トン)及びカラLNGプロジェクト(同最大3,000万トン)を開始する予定であることをプレゼンテーションの中で触れている。RosneftがS-1による極東LNGプロジェクト(同620万トン)に次ぐLNGプロジェクトとしてこの「タイムィルLNG」及び「カラLNG」(2014年の欧米制裁下において、ExxonMobilと共同でカラ海に試掘井を掘削し、勝利(パビェダ)油ガス田を発見したものを資源基盤とするプロジェクト)を正式名称で初めて明らかにしたのは、この時である。さらに3月22日に公開された「ロシアのLNG生産開発のための2035年までのプログラム」にても記載され、政府公認となった。

 

3. 対象鉱区拡大の動き

Rosneftは、Vostok Oilプロジェクトには、2021年4月末現在、13の既発見鉱床を含む52鉱区が含まれていると発表した。当初の想定された30鉱区前後から大きく拡大しており、実際、4月にはVostok Oil LLCがチュルコフスキー鉱区及びデリャビンスキー鉱区ライセンスを取得したという報道等、継続的にVostok Oilプロジェクトの対象となる鉱区が増加している模様であるが、含まれる鉱区に関する総括的なリストは依然公開されていない。

 

3. Vitol及びMercantile & Maritimeによるコンソーシアムへ5%売却する主要条件に合意

冒頭で紹介したカシミーロ第一副社長による言の通り、Rosneftは鋭意Trafiguraに次ぐ外資誘致活動を行ってきたことが証明される。6月10日、RosneftはVostok Oilプロジェクトの5%株式を資源トレーダーのVitol及びMercantile & Maritimeによるコンソーシアムへの売却に関する条件付き合意に署名したとのリリースを発表した。Rosneftの原油引き取り契約を有する石油トレーダーとして、同プロジェクトへの参画の可能性が指摘されてきた一方、シンガポールベースのMercantile & Maritime とのコンソーシアム組成による参画については全く新しい情報であり、コンソ組成という新たな形態を提示するものだった。

VitolによるRosneftの原油取扱量は、TrafiguraやGlencore等他のトレーダーと比較して近年大幅に減少していることが今回の参画の背景、つまり、開発ハードルが高く脱炭素の潮流の中で外資が躊躇する巨大なVostok Oilプロジェクトへ参画することに対する見返りとして、近年減少するRosneftの原油引き取り量回復を実現できるという条件が付随している可能性がある。図4の通り、2020年末に10%参画したTrafiguraは、近年、Rosneftが生産する原油取扱量ではトップの座をキープしている。一方、Vitolは2018年以降、急速に同社との契約を減らしていることが見て取れる。また、二番目の位置にあるGlencoreは、2016年12月、ロシア政府主導で進められたRosneft民営化(株式19.5%売却)において、カタール投資庁と共に参加し、同株式を102億ユーロで買収している。その際には5年間に亘り、日量22万バレルの原油引き取り契約も締結しており、Rosneftとは良好な関係を維持していると言えるだろう。新たなプレイヤーとして現れたMercantile & Maritimeについては、Rosneftがクルディスタンでの原油購入に関して同社と協力することを提案しているとブルームバーグが報じていたことがある。

図4 Rosneft生産原油の国際石油トレーダートップ3社による取扱量の推移
図4 Rosneft生産原油の国際石油トレーダートップ3社による取扱量の推移(単位:年間百万トン)
出典:公開情報より筆者取り纏め

今回の参画について、フィナンシャル・タイムズは、「Vitolのような大手石油トレーダーは供給契約を締結して巨大な貿易部門を潤すか、資産を割引価格で手に入れることができない限り、通常、生産プロジェクトに直接投資することを警戒する」と分析している。

現時点では、今回のVitol及びMercantile & Maritime参入条件(取得対価、両者の権益比率、資金調達方法、デットファイナンス率及び担保対象等)については明らかになっておらず、両者もリリースは控え、沈黙を守っている。Trafiguraの参画に当たってはRosneftの発表(2020年11月17日)から同社による発表(2020年12月30日)まで約1カ月半を要した。この間にTrafigura社内・株主手続き、ロシア政府承認(連邦独占禁止局等)取付け、資産の移転が行われる見通しが明らかになるタイミングを見計らった上で、リリースを行っている。今回のVitol及びMercantile & Maritimeによる5%参画についても、その条件詳細や当事者のリリースについては、これら手続きが完了した後、次第に明らかになるだろう。

 

<参考>Rosneftによるプレスリリース(2021年6月10日)

RosneftがVostok Oilプロジェクトの株式をVitol及びMercantile & Maritimeによるコンソーシアムに売却する主要条件に同意

  • RosneftとVitol S.A.及びMercantile & Maritime Energy Pte. Ltdによるコンソーシアムが、Vostok Oil LLCの定款資本の5%を売却に関する取引のための主要条件に合意。
  • 合意書では同コンソーシアムによるVostok Oilプロジェクトの権益の取得意向と取引の主要条件を規定しており、規制当局及び社内承認を経て発効する。
  • 石油産業への投資欠落と世界人口の増加と繁栄は、エネルギー資源の需要を押し上げ、新しいタイプのプロジェクトがますます求められている。
  • Vostok Oilプロジェクトは、1バレル当たりの生産コストが低く、二酸化炭素排出量が世界の他の主要な新規石油開発プロジェクトより75%少ない。
  • その資源量は60億トンを超えるプレミアム低硫黄原油であり、硫黄含有量は0.01?0.04%と非常に低いもの。高品質の原油は製油所に個別設備の設置を回避し、温室効果ガス排出量を大幅に削減するだろう。
  • 一度に欧州市場とアジア市場への両方向への原油供給の機会を有することは、Vostok Oilプロジェクトのロジスティック上の利点。

 

  • 合意に対するセーチン社長のコメント:
    • この合意はVitol及びMercantile & Maritimeとの成功している長期的な協力関係に基づくもの。
    • Vostok Oilプロジェクトの資源ポテンシャル、高品質の石油、そしてその経済モデルは、このプロジェクトを世界のエネルギー産業への投資にとって最も魅力的なものの1つとしており、そのことは世界の大企業による強い関心と世界の大企業の強い関心と主要投資銀行の評価に裏付けられている。
    • 間違いなく、Vostok Oilプロジェクトは、「グリーン原油」供給の将来的な必要性を検討している、世界中の広範な顧客と流通チャネルを持つ原料供給・貿易・ロジスティクス企業にとって興味深いプロジェクトである。
    • Vostok Oilプロジェクトを含め、RosneftはVitol及びMercantile & Maritimeとの協力をさらに強化していく。

 

  • 環境への配慮は、Vostok Oilプロジェクトの重要な要素。
  • 高度な環境保護技術の展開は、坑井掘削から石油輸出に使用されるパイプラインやタンカーの特殊設計に至るまで、プロジェクトの設計段階ですでに想定されている。
  • 2020年、Rosneftはプロジェクト鉱区の本格的な開発を開始した。その権益の10% は、大手国際トレーダーであるTrafiguraが取得している。

 

想定されるのは、「前例」であるTrafiguraとの取引と同等となる可能性だろう。つまり、

  • 5%対価想定:Trafiguraによる10%参画対価(72.75億ユーロ)の半分=36.375億ユーロ。
  • 資金調達:大半をロシア金融機関からのデットファイナンス。一部を自己資金。
  • 借入に対する担保はVostok Oil LLC株式に限定。
  • 参画の見返りとして、Rosneft生産原油の引き取り権/契約を確保。

となることが想定される。なお、本点は引き続き新着情報が出次第、アップデートしていく。

また、今回のディールのRosneftの利点、Vitol及びMercantile & Maritimeの利点を考えれば、次の通りとなるだろう。

OPECプラスによる協調減産が功を奏し、新型コロナウイルスの影響から世界経済が回復する期待が高まる中で原油価格が昨年に比べれば回復してきたが、依然として脱炭素の風が吹き荒れ、Vostok Oilプロジェクトを「グリーン原油」生産プロジェクトとしてイメージアップに努力するRosneftにとっては、Trafiguraに次ぐ2番目の外資がプロジェクトに参画することで、他外資の呼び水となることやプロジェクト推進に向けた体制確立に寄与することに期待がある。Vostok Oilプロジェクトからの生産原油引き取り契約が参画条件に入っていることも十分に考えられる。

Vitol及びMercantile & Maritimeにとっては、フィナンシャル・タイムズが指摘する通り、近年減少してきたRosneftとの原油引き取り契約を回復させることで、中期的に貿易部門を潤すと共に、上流資産を割引価格で手に入れることも実現している可能性がある。Trafiguraは10%対価に当たる72.75億ユーロの内、57億7,500万をロシア金融機関からの融資、15億ユーロを自己資金で賄っていることが明らかになっており、さらにロシア金融機関による融資の担保はVostok Oil LLCの取得株式(10%)に限定されている模様だ。従って、プロジェクトが遅延する場合や実現できない場合でも15億ユーロに対する損害を考慮する必要があるだけであり、その損害はRosneftとの原油引き取り契約の中で補償されるよう条件合意されている可能性も考えられるだろう。

 

以上

(この報告は2021年6月18日時点のものです)

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