ページ番号1009081 更新日 令和3年7月8日
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概要
- 2021年6月6日に実施された中間選挙で、与党連合は過半数を確保したものの、憲法改正に必要な総議席数の三分の二を獲得することはできなかった。Enrique Peña Nieto前政権下で実施されたエネルギー改革を逆行させ、国営石油会社Pemexや連邦電力委員会CFEを強化し、メキシコのエネルギー市場への外資の参入を制限する政策を推し進めているAndrés Manuel López Obrador(AMLO)大統領が、憲法改正を伴う改革を行うことは難しくなったと見られている。しかし、6月中旬には税務・関税当局SATが、Pemex以外の企業に対する石油輸出入許可証の発行・更新を行わないと発表、7月にはRocío Nahleエネルギー相が、ユニタイゼーションについて交渉が難航していたZama油田のオペレーターにPemexを選出しており、法律の改正などによるPemex以外の企業に対する締め付けは今後も強まる可能性がある。
- メキシコでは、COVID-19感染拡大による需要の減退や原油価格の下落により、探鉱・開発が大きく落ち込むことはなかった。むしろ、2019年11月から2020年4月にかけ日量170万バレルを上回り、生産減少に歯止めをかけるかと希望を持たせた。しかし、石油生産量はその後、再び日量160万バレル台で推移している。石油生産量の内訳を見てみると、Pemexの生産量は大きな変動がなく増減を繰り返しているのに対し、外国石油会社などPemex以外の企業の生産量はまだ量的には少ないものの、確実に増加している。
- 企業別に見てみると、Hokchi EnergyとEniは、COVID-19感染拡大により一部の作業に遅れが生じてはいるものの、生産を伸ばしている。Talos Energyが発見したZama油田については、一部がPemexの鉱区内まで広がっているため、ユニタイゼーションの後、どちらがオペレーターを務めるかで交渉が難航していたが最終的にはPemexがオペレーターに選出された。またRepsolはSalina Basin深海で評価井4坑を掘削する予定だ。Perdido褶曲帯ではShellも探鉱井を掘削中、CNOOCは探鉱井を掘削した。さらにBHPはTrion油田開発用の浮体式生産ユニットの基本設計業務をMcDermottに発注した。一方、Equinorはメキシコ深海鉱区からの撤退を決定した。Pemex保有鉱区では、資金および技術力の不足から生産量減少が続いている。
(ヒューストン事務所、Platts Oilgram News、Business News Americas、LatAmOil他)
1. Pemex中心に探鉱・開発を推進する政策が強まる可能性
メキシコでは2021年6月6日に、下院議員(500議席)や15州の知事、1,923の市町村の首長を選出する中間選挙が実施された。投票率は52.67%と、2015年(47.72%)、2009年(44.60%)の中間選挙の投票率を大きく上回り、国民の今回の選挙への関心の高さが窺われた。
下院では、与党連合が2021年4月の330議席から51議席を失ったものの、279議席と過半数を確保した。与党連合が過半数を確保している上院と併せて、与党が政策を通しやすい状況が続くこととなるが、与党連合は憲法改正に必要な総議席数の三分の二を獲得することはできなかった。Andrés Manuel López Obrador(AMLO)大統領が率いる国家再生運動(MORENA)は199議席と2021年4月の251議席から52議席を減らしたものの、引き続き圧倒的な第1党となる。一方、州知事選挙では11州でMORENAの候補者が勝利し、32州中17州の知事がMORENA所属の知事となった。
メキシコでは、2018年12月に発足したAMLO政権が、Enrique Peña Nieto前政権下で実施されたエネルギー改革を逆行させ、国営石油会社Pemexや連邦電力委員会CFEを強化し、メキシコのエネルギー市場への外資の参入を制限する政策を推し進めている。例えば、2021年3月の電力産業法の改定では、CFEの水力発電所や石炭、ディーゼル、重油を燃料とする火力発電所からの電力が優先的に供給され、民間企業の天然ガス、風力、太陽光発電所からはそれで不足する電力のみを供給すると定められた。CFEは発電しただけ電力を販売できるのに対し、民間企業の売り上げは非常に不安定なものになる。また、同年4月に議会で承認された改正炭化水素法は、規制当局CREやエネルギー省Senerは、経済的緊急事態、あるいは、エネルギー安全保障や国家安全保障に対する差し迫った脅威が認められる際には、民間企業に与えた石油精製や給油所の運営に関する許可を一方的かつ一時的に停止することができるとし、石油製品市場におけるPemexの支配力強化を図った。これに対しては、野党議員や民間事業者などからの提訴を受けて、これらの法改正はほぼ全て、裁判所が適用差し止めを命じているが、AMLO大統領は、裁判所がこれらの法改正について憲法違反の裁定を下した場合には、憲法を改正するとし、今回の中間選挙により下院で与党連合が三分の二以上の議席を獲得することができるか否かが注目されていた。(「メキシコ:炭化水素法改正の探鉱・開発への影響」参照)
AMLO大統領が下院での与党連合の議席数を増やすために水面下の働きかけを行っているとの情報もあるが、今のところは、今回の中間選挙で与党連合が下院で三分の二以上の議席を獲得できなかったことから、AMLO大統領が憲法改正を伴う抜本的な改革を行うことは難しくなったと見られている。
ただし、中間選挙の直後に、AMLO大統領は、下院で三分の二以上の議席を獲得できなかったにもかかわらず、電力・選挙・国防長官の下に国家警備隊を組み込むという3分野については引き続き憲法改正を目指すと発言している。つまり、炭化水素分野については憲法改正の対象から外されたことになる。この点に関して、AMLO大統領は、炭化水素分野においては、すでに重要な政策の多くを達成したと考えているとの見方がある。具体的には、AMLO政権は、これまで石油製品の輸入依存を止めるために、Pemexを強化し、原油生産量と精製能力の増強を優先課題としてきた。そして、炭化水素法改正などにより、精製・販売事業でPemexの優位性を高める基盤ができたこと、Deer Park製油所の権益買収[1]により重質原油の引き取りが保証され、2022年の稼働を目指す建設中のDos Bocas製油所(精製能力、日量34万バレル)と併せて、石油製品の自給を達成する見通しが立ったことで、AMLO大統領は石油・ガス分野での主要目標が達成されると確信したというのだ。なお、現在の状況からは、AMLO大統領は憲法改正を容易には実現できないと考えられるが、CFEは天然ガスを火力発電所に輸送するパイプラインの建設や運営も担っているため、万が一にも電力分野についての憲法改正が実現した場合には、炭化水素産業にも影響を与える可能性が懸念される。
炭化水素部門については憲法改正の可能性がなくなった模様だが、6月中旬には税務・関税当局SATが、Pemex以外の企業に対する石油輸出入許可証の発行・更新を行わないと発表した。石油製品の輸入依存度を減らし、Pemexの市場支配力を高めることを意図した政策で、石油生産者は、生産した原油の輸出をPemexに頼らなければならなくなる可能性が生じる。
さらに、7月5日には、Rocío Nahleエネルギー相が、後述する通りTalos Energy(米)が発見したものの一部がPemexの鉱区内まで広がっているためどちらがオペレーターを務めるかで交渉が難航していたZama油田のオペレーターにPemexを選出したことが明らかになった。
このように、法律の改正などによるPemex以外の企業に対する締め付けは今後も強まる可能性があり、動向を注視して行く必要がある。
[1]Pemexが、Shellから共同で所有しているTexas州Deer Park製油所(精製能力、日量34万バレル)の権益50%を5億9,400万ドルで取得することが2021年5月24日に発表された。Pemexは1993年に同製油所の権益50%をShellより2億ドルで取得した。同製油所では、主にサワー原油を精製しており、原油輸入分はほとんどがメキシコ産原油。メキシコ開発銀行Banobrasが、製油所取得他の費用として300億ペソ(15億ドル)をPemexに送金し、このうち120億ペソが同製油所の権益買収に充てられるという。AMLO大統領は、負債を増やすることなく資金を調達することができ、早ければ2023年に投資額を回収できるとしている。今回の取引は2021年第4四半期に完了予定。なお、Shellは、製油所に隣接する化学施設の所有権を保持する。
2. 探鉱・開発状況
図1からも分かるように、COVID-19感染拡大による需要の減退や原油価格の下落により、メキシコ以外の中南米の主要産油国では2020年3月ごろより探鉱・開発活動が停滞した。しかし、メキシコについては、メキシコ政府が石油・ガスの生産減退を食い止め、増加させようと、探鉱・開発を継続させたことや、探鉱・開発の中心となっているPemexが他の石油会社のように設備投資を大幅に削減するなど、油価下落に対応した動きをとらなかったことなどから、探鉱・開発が大きく落ち込むということはなかった(「原油価格下落にもかかわらず探鉱・開発が進展するメキシコ」参照)。メキシコでは、その後も、ほぼ同様のペースで探鉱・開発が続いている。
一方、2004年の日量383万バレルをピークに減少が続くメキシコの石油生産量は、2019年に入り9月を除き日量160万バレル台まで落ち込んでいたが、同年11月から2020年4月にかけ日量170万バレルを上回り、生産減少に歯止めをかけるかと希望を持たせた。しかし、その後は再び日量160万バレル台で推移している。
2019年以降のPemex、民間企業別の石油生産量(図3)を見てみると、Pemexの生産量はほぼ日量160万バレル台で増減を繰り返しているのに対し、外国石油会社などPemex以外の企業の生産量がまだ量的には少ないものの、確実に増加していることが見て取れる。
主要な企業の探鉱・開発状況を以下に紹介する。
(1) Hokchi Energy:COVID-19感染拡大により掘削などが遅延するも、生産を伸ばす
Hokchi Energyは2015年9月実施のラウンド1.2(浅海、生産)で獲得したTabasco州沖、Campeche湾のArea2(CNH-R01-L02-A2/2015)の水深30メートルの海域に位置するHokchi油田の生産を2020年5月に開始した。
ところが、COVID-19感染拡大の影響を受け、同社は2020年の掘削などの計画を2021年に、2021年の計画を2022年に先送りすることを、2020年3月に明らかにした。
しかしながら、Hokchi Energyによると、Area2の開発に2040年までに18.3億ドルを投じる計画に変更はなく、当初石油換算で日量2,000バレルであったHokchi油田の生産量は、2基目の生産プラットフォームの運用を開始した2021年4月には石油換算で日量8,000バレル以上に増加している。Hokchi Energyは、2021年末までに生産量を石油換算で日量14,000バレルまで、さらに、ピーク時には日量3万バレルまで増加させる計画である。Hokchi Energyの親会社であるアルゼンチンのPan American Energy[2]は、当初、Pemexのパイプラインインフラを使用すると発表していたが、新たに海底パイプラインを敷設し、既存のパイプラインに繋ぎこんだたという。
[2]Pan American Energyは1997年にBridasとAmoco(現在はBP)のジョイントベンチャーとして設立された。2010年以降はCNOOCがBridasの50%を保有している。また、2017年以降、BP、BridasはPan American Energyの50%ずつを保有している。
なお、Pemexがラウンド・ゼロで取得したAE-0151-Uchukilで2019年7月に試掘井Itta-1EXPを掘削したところ、異なる深さの油層4層を確認したが、このうち最も浅い層が、隣接するArea2内に広がっていることが判明した。Senerは2020年9月に、PemexとHokchi Energyにユニタイゼーションのプロセスを開始するよう求めた。Zama油田に続くメキシコにおける2件目のユニタイゼーションになると思われたが、2021年1月にPemexは収益性の問題を理由として、IttaについてはHokchi Energyとの共同開発を断念すると発表した。
Hokchi EnergyはArea2以外にも、2018年3月に実施されたラウンド3.1で取得したArea31(CNH-R03-L01-AS-CS-15/2018)で、2019年6月に探鉱井Xaxamani-2EXPを掘削、API比重21度から25度の石油を確認している。Hokchi Energyは、Xaxamani-2EXPの評価計画を国家炭化水素委員会CNHに提出していたが、CNHは2021年6月にこれを承認した。Hokchi Energyは、2022年までに地震探鉱など様々なスタディを実施するとともに、評価井4坑(Xaxamani-3DEL、Xaxamani-4DEL、Xaxamani-5DEL、Xaxamani-6DEL)を掘削する。投資額は1,970万ドルとなる。
(2) Eni:COVID-19感染拡大により一部遅延も、生産量は増加に向かう
Eniは、ラウンド1.2で落札したCampeche湾のArea1(CNH-R01-L02-A1/2015)でMiztón油田の生産を、当初の計画より1年早く、2019年7月に開始した。最初の坑井を掘削してから2年半、開発計画の承認から1年以内での生産開始であり、Eniはエネルギー改革後の入札で鉱区を取得した企業の中で最も早く石油生産を開始した企業となった。
Eniは、2020年には複数の生産井を掘削し、Miztón油田の生産プラットフォームへ繋ぎこんだ。その結果、生産量は2019年の石油換算で日量4,000バレルから2020年には石油換算、日量14,000バレルまで増加した。
現在Eniは、Area1全体の開発を進めている。建設中の生産プラットフォームを同鉱区内のAmoca油田に設置するとともに、FPSO(浮体式生産貯蔵積出設備)の改造・改良を行い、2022年にAmoca油田の生産を開始する予定である。Eniは、2020年3月時点では、2021年上半期に、Amoca油田の生産開始と併せて、同鉱区の生産量を石油換算で日量100,000バレルまで増加させる計画であった。遅れは見られるものの、Amoca油田の開発は進められており、生産量の増加が見込まれている。
Eniはまた、2017年に実施されたラウンド2.1で取得した沖合Sureste BasinのBlock 10(CNH-R02-L01-A10.CS/2017)で、2020年2月にSaasken-1号井を掘削(掘削長3,830メートル)し、ネットペイ80メートルの油層を確認、原始埋蔵量は2億バレルから3億バレルで、日量10,000バレル以上を生産できるとした。2021年3月には、CNHが評価計画を承認し、Eniはベースシナリオで854万ドル、最大シナリオでは8,081万ドルを投じて、評価井Saasken-2号井の掘削などを行うこととなった。
一方で、EniはBlock 10での探鉱を継続しており、2021年は、ベースシナリオで3,333万ドル、最大で3,654万ドルを投じる計画だ。2,888万ドルを投じ、探鉱井Sayulita-1号井の掘削が行われる。
また、ラウンド3.1で取得したSureste Basin、Area28(CNH-R03-L01-CS-01/2018)については、COVID-19感染拡大の影響で環境影響評価が遅れたことから、作業に遅れが見られている。Eniは、2020年に6,400万ドル、2021年に5,050万ドルを投じ探鉱を進め、2020年第4四半期にNabte-1号井を、2021年末にNacom-1号井を掘削する予定だったが、2020年には1,536万ドルしか投じておらず、2021年の投資額も200万ドル程度となる予定で、2坑の掘削は延期されることとなった。
(3) Talos Energy:評価を続けてきたZama油田のオペレーターにPemexが選出される
Talos EnergyとPemexは、Burgos Basin、Zama油田のユニタイゼーションについて、期限とされた2021年3月25日までに合意に至らなかった。そのため、Talos EnergyとPemexに代わり、Senerが国際慣行に基づいて、当事者の貢献を考慮したうえで、最終的な条件を提案し、どちらが油田のオペレーターになるかを決定することとなっていた。この結果、7月5日、Rocío Nahleエネルギー相がZama油田のオペレーターにPemexを選出したことが明らかになった。
Talos Energy/Premier Oil(英)/Sierra Oil and Gas(墨)からなるコンソーシアムは、2015年9月に実施されたラウンド1.1で、Sureste BasinのArea2とArea7を落札した。同コンソーシアムはArea7でZama 1SON号井を掘削し、2017年7月にZama油田を発見した。ところが、Zama油田は、隣接するPemexがラウンド0で取得したAE-0152-Uchukil鉱区にまで広がっていた。そこで、両社は2018年9月に、Zama油田に関するプレ・ユニタイゼーション・アグリーメントを締結、Zama油田に関する情報を共有するとともに、調整しながら探鉱、評価作業を行うこととなった。
その後、Talos Energyは評価井3坑の掘削などを計画通りに進め、2019年12月には、外部コンサルタントNetherland, Sewell & Associates(NSAI)の評価に基づいたZama油田の埋蔵量に関する報告書をSenerに提出した。これによると、Zama油田の埋蔵量(2P)は石油換算6.7億バレルで、うち60%はArea 7、40%はAE-0152-Uchukil鉱区に賦存している。Talos Energyは、これまでにZama油田の探鉱・評価に3億2,500万ドルを投じてきたという。
一方、Pemexの探鉱作業は進展が遅く、当初、2019年上半期までに掘削される予定であった探鉱井Asab-1号井も、2020年10月に2023年まで掘削が延期されることとなり、さらに、2021年6月には掘削が取りやめられることとなった。
結局、両社は、Zama油田のユニタイゼーションについて合意に達することができなったが、2021年5月にPemexは、同社がZama油田の50.43%を、Talos Energyのコンソーシアムが残りの49.57%を所有しているとの第三者機関による報告を発表し、これに対し、Talos Energyが反論するという展開があった。
同じく2021年5月には、Talos EnergyがArea7およびArea31について、最低作業義務を完了するために必要な資金、6億9,100万ドルを確保したと発表した。ExxonMobilがメキシコ湾に二酸化炭素を埋設する1,000億ドル規模の巨大な官民プロジェクトを提案したことを受けて、Talos Energyは中堅企業が二酸化炭素回収事業に参入する機会を調査、検討していることを明らかにした。
このような経緯を経て、7月5日に、Rocío Nahleエネルギー相は、CNHの調査に基づき、PemexがZama油田を開発するための好ましい技術的・運用的条件と特性を備えていると結論づけ、PemexをZama油田のオペレーターに選出したと報じられた。同相は、両社は30日以内に開発計画を提示すべきだと述べたという。Talos Energyは、「6年間にわたってZamaとメキシコ経済に多大な投資を行い、信頼性が高く、メキシコの目標に沿ったZamaの開発計画を提出してきたが、Pemexにオペレーター権を与えるという突然の決定に非常に失望している」と述べたという。
約80年間で初めてのPemex以外によるメキシコでの油田発見となるZama油田の開発の行方が注目される。
(4) Repsol:Salina Basin深海で評価井4坑を掘削予定
Repsolは、Salina Basin、Block 29(CNH-R02-L04-AP-CS-G10/2018)で、6月中旬頃から、StenaのドリルシップIceMAXを用いて、評価井Pixanなど4坑と探鉱井Chak-1号井を掘削する予定だ。
Repsolは、2018年1月に大水深を対象として実施されたラウンド2.4でBlock 29を落札した。そして、2020年5月には、同鉱区で掘削した試掘井、Polok-1号井とChinwol-1号井で高品質の原油を確認したと発表した。Repsolによると、Polok‐1号井は水深584メートルの海域で掘削(掘削長2,620メートル)、ネットペイ200メートル以上の油層を確認、12キロメートル離れたChinwol-1号井は水深464メートルの海域で掘削(掘削長1,850メートル)、ネットペイ150メートルの油層を確認したという。
Repsolは、2021年初めにCNHから承認された探鉱計画に基づき、2021年から2022年にかけて2億6,300万ドル以上を投じて、Polok-1号井およびChinwol-1号井についてそれぞれ評価井2坑を掘削する計画だ。同鉱区の権益保有比率はオペレーターRepsolが30%、Petronasが28.33%、Sierra Nevadaが25%、PTTEPが16.67%となっている。
なお、Repsolは、ラウンド3.1で取得したBurgos浅海鉱区のArea5(CNH-R03-L01-G-BG-05/2018)とArea12(CNH-R03-L01-G-BG-07/2018)について探鉱計画を修正、これをCNHに提出し、CNHは同計画と2021年の予算(266万ドル)を2021年3月に承認した。Area5の投資額は79万ドルから130万ドルに、Area12の投資額は78万ドルから136万ドルに増額されることになった。
一方、ラウンド2.1で取得したメキシコ湾浅海Area11(R02-L01-A11.CS/2017)については、2022年までに2,000万ドルを投じ探鉱を行う計画だったが、投資額を削減することを2021年3月に明らかにした。2021年は同鉱区に400万ドルを投じる予定だったが、これを90万ドルに減額しており、メキシコ内でもエリアの選別が図られていること窺われる[3]。
[3]Platts Oilgram News, 2021/3/22
(5) Shell:Perdido褶曲帯で探鉱井3坑を掘削
Shellは2021年に入り、Perdido褶曲帯のBlock 3(CNH-R02-L04-AP-PG03/2018)、Block 6(CNH-R02-L04-AP-PG06/2018)、Block 7(CNH-R02-L04-AP-PG07/2018)で、ドリルシップLa Muralla IVを使用して、各1坑の掘削を行っている。これら3鉱区は、ShellがQatar Petroleumとコンソーシアムを組み、ラウンド2.4で落札した鉱区だ。Block 7では水深1,860メートルの海域で1億1700万ドルを投じ探鉱井Xochicalco1号井が、Block 3では探鉱井Chimalli1号井が、Block 6では3,300万ドルを投じ探鉱井Xuyi‐1号井が掘削されている。
(6) CNOOC:Perdido褶曲帯で探鉱井2坑を掘削
CNOOCは、ドリルシップValaris Renaissanceを使用して、2016年12月に実施されたラウンド1.4で獲得したPerdido褶曲帯Block 1(CNH-R01-L04-A1.CPP/2016)で探鉱井Ameyali1号井を、Block 4(CNH-R01-L04-A4.CPP/2016)で探鉱井Xakpun1号井を掘削した。CNOOCは、Ameyali1号井では非商業規模の油・ガス層を確認したと発表したが、Xakpun1号井についてはまだ結果を発表していない。
なお、CNHは2021年3月に、CNOOCに対し、大水深域Block 4の権益30%をShellに売却することを承認した。CNOOCは2019年にPC Carigali(Petronras)に権益の30%を売却しており、今回の取引により、権益保有比率はCNOOCが40%、PCCarigaliが30%、Shellが30%となる。
(7) BHP:Trion油田開発用のFPUのFEEDをMcDermottに発注
BHPは、Trion油田開発で使用する浮体式生産ユニット(FPU、生産能力は日量100,000バレル)建造の基本設計業務(FEED)をMcDermottに発注した。Trion油田は、2012年に米国との境界から30キロメートル、海岸から約180キロメートル離れた水深2,500メートルの海域で発見され、その後、評価井4坑が掘削された。可採埋蔵量は、原油が3億1,900万バレル、ガスが3億900万立方フィートと推定されている。
ファームアウト入札を経て、2017年にBHPがPemexよりオペレーターを引き継いだ。権益保有比率はBHPとPemexとで60対40となっている。最終投資決定は2023年、操業開始は2025年が予定されている。
(8) Equinor:メキシコ深海鉱区から撤退へ
2021年6月、Equinorは、迅速かつ強固なリターンを得られる資産に集中する戦略の一環として、メキシコの深海2鉱区から撤退することを決定した。
Statoil(現Equinor)は、ラウンド1.4で、Saline BasinのBlock 1(R01-L04-A1.CS)とBlock 3(R01-L04-A3.CS)をTotal(現TotalEnergies)、BPとコンソーシアムを組み、落札した。権益保有比率はStatoilが33.4%、BPが33.3%、Totalが33.3%となっており、EquinorがBlock 3、BPがBlock 1のオペレーターを務めている。Block 3は放棄され、掘削を約束した坑井1坑の掘削・仕上げを行っていないため、ペナルティーを支払うことになるという。
Equinorは、メキシコ深海の他、ニカラグアやオーストラリアの探鉱資産、カナダNewfoundland沖のTerra Nova油田、米国のUticaシェールやLouisiana州Austin Chalk、アルゼンチンのAguila Mara Noreste鉱区およびBaja del Toro Este鉱区などの権益を売却するという。一方で、ブラジルやカナダなどの厳選された沖合プロジェクトには引き続き多額の投資を行うとしている。
(9) Pemex:資金および技術の不足から生産量減少が続く
Pemexは2021年の資本支出を2020年の263億ドルに比べて6.2%少ない246億5,000万ドルとする計画だ。2021年の資本支出は2019年のそれを6.1%上回っており、2020年はCOVID-19感染拡大の影響を受け、また、厳しい価格環境であったにもかかわらず、Pemexが探鉱・開発活動を維持しようと他の石油会社に比べ資本支出削減を抑えたことにより、資本支出額が比較的高かったことが、2021年の資本支出削減の原因と考えられる。資本支出の82.2%は探鉱・開発に、16%は中流・下流の子会社Transformación Industrialに充てられる。上流部門では、引き続き、Tabasco州沖合の20の重点油田を中心に、浅海の探鉱、生産に投資を行うとしている。また、陸上の成熟油田では二次・三次回収を展開するとしている。下流についてはTabasco州Dos Bocas製油所の建設や、Pemexの既存製油所6か所の改修を行うという。
このように2020年に資本支出の削減を抑え、探鉱・開発を活発化させようと試みたにもかかわらず、2019年11月から増加傾向にあり、2020年3月に一旦は日量170万バレルを上回ったPemexの石油生産量は、2020年6月には日量150万バレル台まで減少した。その後、石油生産量は日量160万バレル台まで回復したものの、そこで停滞している。このような状況から、Pemexの2020年の石油生産量は2019年の日量164万バレルから1.8%減少し日量161万バレルとなった。16年連続での生産減少であり、生産目標である日量171.3万バレルを6%下回った。
一方で、Pemexは2021年3月に、Tabasco州で掘削したDzimpona-1号井で埋蔵量5億バレルから6億バレルの炭化水素資源の埋蔵を確認したことを発表した。近隣で掘削されたRacemosa-1号井とValeriana-2号井でも9億バレルから12億バレルの炭化水素資源が確認されており、合計で石油換算、最大18億バレルにおよぶ新たな炭化水素資源の埋蔵を確認したという。これらはFrancisco J Mugicaプロジェクトと命名され、2021年末までに33坑の坑井から原油を日量289,000バレル、ガスを日量10億立方フィート生産することが見込まれている。Pemexはさらに、Francisco J Mugicaプロジェクトからの原油生産量が2023年には日量323,000バレルに増加するとしている。
また、2021年1月にHokchi Energyとのユニタイゼーションを断念し、単体で開発を進めることを決定したItta油田について、7坑の掘削と仕上げ、インフラの建設などに3億9,900万ドルを投資する計画を明らかにしていたが、2021年5月には、同油田の生産を開始した。
Pemexはこの他にも、Ixachi油田、Mulach油田、Ek-Balam油田などの開発を推進している。
このように、Pemexも探鉱・開発を進めてはいるが、資金面、技術面の制約から生産量を伸ばせていない。
Pemexは、約1,130億ドルという巨額の負債を抱えており、2021年第1四半期にも約20億ドルの損失を計上している。政府は、Pemexに対し2021年に35億ドルの減税と、最大16億ドルの資金投入を行うなどの支援を行っているが、この程度の金融支援では、資金不足の状況にあるPemexはインフラの制約や経営不振という根本的な問題にも対処できないだろうというのが大方の見方だ。5月には、エジプトのCheiron Petroleumに対して4月30日時点で約6,000万ドル、Hokchi Energyに対しては4月16日時点で約400万ドルの支払い義務があるものの、支払いが滞っていることが明らかになった。これまでPemexは、資機材調達業者や請負業者に対する支払いを遅らせることでキャッシュフローを改善しようと取り組んできたが、このように一部のパートナー企業に対しても支払いを延期したことで状況がさらに悪化しているのではないかとの懸念が深まっている。
また、Pemexは深海油田の開発技術に乏しいとされる。これまでPemexが開発を行った油・ガス田で最も水深が深いものは水深110メートルであり、水深168メートルの海域に位置するZama油田の開発をオペレーターに指名されたPemexが主導することは難しいと見られている。そのため、Pemexはこれまで浅海および陸上の重点油田を中心に開発を行ってきたわけだが、2020年12月の重点油田の生産量も、目標の日量30万バレルに対し、日量17万300バレルに留まっている。
このような状況からかPemexも、Business Plan 2019-2023で定められていた2021年の生産目標、日量206.9万バレルをBusiness Plan 2021-2025では日量194.4万バレルに引き下げた。2024年には、これを日量216万バレルに増加させる計画であるという。
終わりに
中間選挙の結果から、AMLO政権が炭化水素部門について憲法改正を伴う改革を実行することはなくなったと考えられるが、Pemexを中心に炭化水素部門の管理を進めるという政策はさらに強化されて行く可能性がある。このような傾向が続けば、積極的に探鉱・開発に取り組んで生産量も徐々に伸ばしてきているPemex以外の石油会社の探鉱・開発意欲を削ぐ恐れがあり、今後の動向が懸念される。
以上
(この報告は2021年7月6日時点のものです)