ページ番号1009082 更新日 令和3年7月12日
石油・ガス輸出国への転身を目指すスリナム ―TotalEnergies/Qatar PetroleumとChevronが浅海鉱区を落札―
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概要
- スリナム国営石油会社Staatsolieが浅海8鉱区を対象とする鉱区入札を実施した。Block 5、Block 6、Block 8の3鉱区に10件の入札があり、Block 5をChevronが、Block 6とBlock 8をTotalEnergiesとQatar Petroleumのコンソーシアムが落札した。
- スリナム沖合では、2020年にApacheとTotalEnergiesがBlock 58で3坑の探鉱井を掘削し、油層を確認したことから、探鉱が活発化している。TotalEnergiesとApacheはその後、Block 58でさらに探鉱井1坑を掘削し、油・ガス層を確認した。両社は、2025年の生産開始を目指し、評価作業も実施している。Block 58の東に位置するBlock 52では、Petronas/ExxonMobilが2020年10月より試掘を行い、良好な結果を得た。一方、Tullow Oilは2021年第1四半期にBlock 47で試掘を行ったが、商業量の油・ガスを確認できなかった。ShellはKosmos Energyよりスリナムの探鉱鉱区の権益を取得し、2022年中に試掘を行う計画だ。
- 石油会社は、スリナムの良好な地質状況、低い生産コスト、有利な契約条件に惹かれ、スリナムでの探鉱に積極的になっていると考えられる。英国のコンサルタント会社Xodus Groupによると、スリナムは2030年までにガスの輸出国になる可能性があるという。スリナムでは、原油のみを輸出しているガイアナとは異なる形で開発が進む可能性があり、動向を注視していきたい。
(出所:LatAmOil、Platts Oilgram News、International Oil Daily、BNamericas他)
1. 浅海鉱区入札でTotalEnergies/Qatar PetroleumとChevronが鉱区取得
2021年6月18日、スリナムの国営石油会社Staatsolieは、ガイアナとの境界に近い8つの浅海鉱区を対象とする鉱区入札SHO Bid Round 2020/2021の結果を発表した。SHO Bid Round 2020/2021は、2020年11月16日に開始され、2021年4月30日に入札が締め切られていた。Block 5、Block 6、Block 8の3鉱区に10件の入札があり、Block 5をChevronが、Block 6とBlock 8をTotalEnergiesとQatar Petroleumから成るコンソーシアムが落札した。Staatsolieと落札企業は、現在、これらの鉱区について生産物分与契約を締結すべく、手続きを進めている。
TotalEnergiesとQatar Petroleumから成るコンソーシアムが落札したBlock 6およびBlock 8は、ApacheとTotalEnergiesが掘削した探鉱井4坑すべてで油層を確認したBlock 58の南に隣接する鉱区だ。水深が30メートルから65メートル、面積は両鉱区併せて約2,750平方キロメートルとなっている。権益保有比率は、両鉱区とも、TotalEnergiesが40%、Qatar Petroleumが20%、Staatsolieが40%で、TotalEnergiesがオペレーターを務める。TotalEnergiesは、Block 6およびBlock 8において、その可能性を確認するために3D地震探鉱を実施するとしている。
Total(2021年5月28日にTotalEnergiesに名称を変更)とQatar Petroleumは、Toqapというジョイントベンチャーを立ち上げ、Totalが保有していたガイアナのOrinduik blockとKanuku blockの権益のそれぞれ25%をToqapに引き継がせている。ガイアナ政府は2021年3月にこれを承認した。ExxonMobilが2015年以降掘削した坑井で相次いで油層を確認し、現在日量12万バレルを生産し、2026年には日量75万バレルを生産する計画のStabroek blockの南および南西にKanuku blockとOrinduik blockは位置している。TotalEnergiesとQatar Petroleumは、今回の鉱区取得によりガイアナでのパートナーシップをスリナムまで広げることに成功したと言えよう。
TotalEnergiesは、有望な堆積盆地において低コストで開発できる石油資源を探鉱するという戦略を推進しており、今回の鉱区取得は同社のコア・エリアであるGuyana-Suriname basinにおける同社の探鉱鉱区獲得の能力を示すものであるとしている。
一方、Qatar Petroleumにとって、Block 6およびBlock 8の権益獲得はスリナムへの初進出となる。同社社長兼CEOでカタールのエネルギー大臣であるSaad Sherida Al-Kaabi氏は「今回の成功は、Guyana-Suriname basinにおける当社のプレゼンスを高め、Qatar Petroleumの中南米におけるプレゼンスをさらに強化するものであり、当社の国際的な成長の野望の実現に向けた新たな成功の一歩となる」と述べている。Qatar Petroleumは、2018年1月31日実施のメキシコの鉱区入札ラウンド2.4でPerdido Areaの4鉱区を含む5鉱区を、同年3月実施のブラジルの第15次ライセンスラウンドでExxonMobilと組みSantos basinやCampos basinの有望4鉱区を、2019年4月実施のアルゼンチンの沖合鉱区入札でExxonMobilやShellなどと組んで7鉱区に札を入れ、5鉱区を落札するなど、積極的に中南米諸国の有望な沖合鉱区への参入を進めている。
Block 6の南に隣接するBlock 5についてはChevronがオペレーターを務める。ChevronとStaatsolieの出資比率は今のところ公表されていない。
なお、Chevronは2012年6月にKosmos Energyよりスリナム沖合のBlock 42とBlock 45の権益の50%を取得しファームインした。2016年には、HessにBlock 42の一部権益をファームアウトし、Block 42については3社が等しく権益を保有することとなった。そして、2018年6月にBlock 45でAnapai‐1号井、10月にBlock 42でPontoenoe‐1号井を掘削したが、商業量の油ガスを発見することはできなかった。
なお、スリナムは2023年に鉱区入札を実施するため、3D地震探鉱を実施するとしている。
2. 最近のスリナムでの探鉱などの状況
スリナムは陸上で少量の石油生産を行っているものの、隣国ガイアナのStabroek blockでExxonMobilが2015年以降、Liza油田など相次いで油層を確認、仏領ギアナでもTullow OilがZaedyus井で石油を確認したのに比べると、大きな探鉱成果を上げることができずにいた。ところが、2020年に入り、ApacheとTotalが沖合Block 58で掘削した3坑の探鉱井でいずれも油層を確認し、ガイアナと並ぶ探鉱のホットスポットとして、注目を集めるようになった。(「スリナム:ApacheとTotal、沖合Block 58で大規模な炭化水素の埋蔵を確認」参照)
この1年間の主な探鉱などの状況を中心に、以下にまとめた。
(1) TotalEnergies/Apache:Block 58で探鉱と並行し開発へ向けて評価作業実施
Block 58で掘削した探鉱井Maka Central‐1号井、Sapakara West‐1号井、Kwaskwasi‐1号井で、それぞれネットペイ123メートル、79メートル、278メートルの油層、コンデンセート層を確認したApacheとTotalは、2020年9月に、ドリルシップNoble Sam Croftを用いて水深725メートルの海域でKeskesi East‐1号井の掘削を開始した。そして、2021年1月には、同井で58メートルの油層と5メートルの天然ガス層を確認し、試掘作業を継続していると発表された。同鉱区で4番目の油・ガス層確認となったが、3月9日付の声明で両社は、貯留層の圧力が上昇したためKeskesi East‐1号井の掘削を停止し、Noble Sam Croftドリルシップを現場から離脱させることが明らかにされた。
2021年5月時点では2基のリグが同鉱区内で稼働しており、評価作業と併せて、探鉱井Bonboniを掘削する計画であるという。なお、Totalは2021年1月1日にApacheからオペレーターを引き継いだ。
今後の開発・生産については、Totalが2021年3月に、Block 58で2025年に商業生産を開始することを計画しているとした[1]。また、Apacheは2021年5月に、同鉱区の最終投資決定について、選択肢はたくさんあり、ガイアナのようにFPSOを用いる可能性も視野に入れているが、何かに着手するのは時期尚早であるとしている。そして、仮に2022年に最終投資決定がなされたとしたら、2025年には生産が開始できる可能性があるとした[2]。Staatsolieも5月に、TotalとApacheは、2021年中に同鉱区の開発に関する最終投資決定を行いたいと考えており、すでに同鉱区の開発計画を策定し始めているとしている。2025年に生産が開始されれば、Maka Centralでの最初の油田発見からわずか5年後のこととなり、ExxonMobilがガイアナStabroek blockで発見からわずか4年半後の2019年12月にLiza油田の生産を開始したことを彷彿とさせる、驚異的なスピードでの生産開始となる。IHS Markitも、Block 58は2026年に日量約65,000バレルで原油生産を開始し、2030年には生産量を日量330,000バレル以上に引き上げると予想している[3]。
なお、Rystad Energyによると、TotalとApacheが掘削した最初の3坑による石油・ガスの発見量は石油換算で13.9億バレルになるという[4]。
[1] LatAmOil, 2021/3/11
[2] Bnamericas, 2021/5/7
[3] IHS, 2021/6/25
[4] Platts Oilgram News, 2020/11/17
(2) Petronas/ExxonMobil:Block 52で試掘、良好な結果を得る
Petronas/ExxonMobilは、2020年10月よりBlock 58の東に位置するBlock 52(面積4,749平方キロメートル)で試掘井Sloanea-1号井を掘削(掘削長4,780メートル)、評価中で詳細なデータは明らかにされていないが、良好な結果を得たと同年12月に発表した。そして、今後、さらに評価作業を進めて埋蔵量を測定するとした。
Petronasは2013年4月にBlock 52を取得した。その後、2020年5月に、ExxonMobilが同鉱区の権益50%を取得してファームインした。Petronasが同鉱区のオペレーターを務めている。ExxonMobilはスリナムではこのほかに、2017年7月に、Equinor、HessとともにBlock 59のPS契約を締結、3社が等しく権益を保有している。一方、PetronasはスリナムでこのほかにBlock 48の権益100%、Block 53の権益30%を保有している。
IHS Markitは、TotalEnergies/ApacheとPetronas/ExxonMobilが発見した5油田の損益分岐点を、バレル当たり38ドルから70ドル程度と見ている[5]。
[5] IHS, 2021/6/25
(3) Tullow Oil:Block 47で試掘も、商業量の油・ガスを確認できず
Tullow Oilは2021年第1四半期に、ドリルシップStena Forthを用いて、Block 47の水深1,856メートルの海域で試掘井Goliathberg Voltzberg North-1(GVN-1)号井の掘削を行った(掘削長5,060メートル)が、同年3月に商業量の油・ガスを確認することなく、掘削を終了したことを明らかにした。GVN-1号井は良質な貯留層に遭遇したが、原油はわずかしか検出されず、閉鎖、放棄されることとなった。
GVN-1号井は、Block 47で掘削された2坑目の試掘井である。1坑目の試掘井Tanager-1号井でも炭化水素が確認されたが、Tullow Oilは2020年末に、近隣の他の坑井との関連性がない限り、非商業的な発見に分類するとした。一方、パートナーのRatio Petroleum(イスラエル)は、Tanager-1号井について楽観的な見方をしている。
Tullow Oilは2010年にBlock 47のPS契約を締結した。2017年にRatio Petroleumが同鉱区の権益の20%、2018年にPluspetrol(アルゼンチン)が権益の30%を取得し、ファームインしている。
(4) Shell: Kosmos Energyよりスリナムの鉱区権益取得、試掘を計画
Kosmos Energyは、2020年9月に、サントメ・プリンシペ、スリナム、ナミビア、南アフリカ沖のフロンティア探鉱鉱区の権益を、1億ドルの契約一時金でShellに売却することに合意したと発表した。Shellは、これらの鉱区で掘削された最初の4坑の試掘井で商業規模の油・ガス田の発見があった場合には、さらに5,000万ドル(上限1億ドル)をKosmos Energyに支払う義務を負う。
Kosmos EnergyはスリナムではBlock 42の権益の33.33%とBlock 45の権益の50%を保有しており、Shellは、この取引によりスリナムの非常に有望な盆地への参入が可能となったとしている。
同年12月に、この取引は完了した。
Kosmos Energyは、2018年にBlock 42で試掘井Pontoenoe‐1号井を掘削したが、商業量の油・ガスを確認できず、次に同鉱区で掘削予定であった試掘井Walker‐1号井の掘削を2019年以降に延期していた。ShellはこのWalker‐1号井の掘削を2022年中に行う計画である。
終わりに
石油会社各社は、スリナムの良好な地質状況からスリナムでの探鉱に興味を示していると考えられる。米国地質調査所(USGS)が、ガイアナ、スリナム、仏領ギアナの沖合と一部陸上を含むGuyana basinの埋蔵量のポテンシャルは原油150億バレル、天然ガス40兆立方フィートとするなど、スリナムの地質ポテンシャルを高く評価する機関は多い。
また、生産コストが極めて低いことも、スリナムへの石油会社の関心を高めている理由の一つだろう。スリナムで活動中のメジャーは、スリナムで生産される原油は、生産コストが低いため、原油価格がバレルあたり30~40ドルでも採算がとれる見通しだとしている。また、Rystad Energyは、スリナムの損益分岐点をバレルあたり45ドルとしているが、技術の進歩によりこの値は下がると予想し、最終的には、Guyana-Suriname basin全体でバレルあたり25ドルになると見ている。
さらに、スリナムが石油会社に対し有利な契約条件を提示していることも、石油会社がスリナムでの探鉱に興味を持つ一因となっていると考えられる。生産分与契約の契約期間は、中南米の他の地域では20年から25年であるが、スリナムでは30年とされている。ロイヤリティーは一般的に10%から15%であるが、スリナムでは一部の鉱区で6.25%とされるなど低く設定されている。
このような理由から、スリナムでの探鉱は引き続き安定したペースで行われると考えられる[6]。
英国のコンサルタント会社Xodus Groupは、スリナムが2030年までにガスの輸出国になる可能性があるとの報告を行った。Xodus Groupによると、スリナム沖合では、ガイアナ沖合で発見されているよりも多くの随伴ガスおよび非随伴ガスが発見されており、その回収可能量は約29兆立方フィートであるという。このガスの開発を進めることで、10年後にスリナムはLNG、CNG、または南米北部へのパイプラインガスの輸出を実現できる可能性があるというのだ。LNG輸出については、陸上に液化設備を建設するか、浮体式の設備を利用するか、どちらも可能性のある選択肢であり、決定するまでにはまだ時間がかかるだろうとしている。そして、陸上に液化設備を建設する場合は、許認可や用地の確保などの問題から、最大で10年かかるとした。一方、浮体式の施設であれば、スケジュールを短縮することはできるが、液化能力が限られることになるとしている。いずれにせよ、どちらも技術的な課題を抱えているため、望ましい選択肢を決定するためにはさらなる技術的作業が必要であるという[7]。
ガイアナでは、生産された原油を輸出し、随伴ガスについては現時点では再圧入しており、将来的には国内で発電用に利用することを計画している。スリナムでは、原油とガスを輸出するというガイアナとは異なる形での開発が進む可能性があり、動向を注視していきたい。
[6] Petrostrategies, 2021/3/4
[7] World Gas Intelligence, 2021/6/30
以上
(この報告は2021年7月9日時点のものです)