ページ番号1009084 更新日 令和3年7月15日
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1. 政治・経済情勢
(1) 国内
政治・経済
サンクトペテルブルク国際経済フォーラムをハイブリッド形式で開催
- サンクトペテルブルク国際経済フォーラムが、6月2日から6月5日にかけて、対面形式とオンライン形式を合わせたハイブリッド形式で開催された。2020年は、新型コロナウイルスの影響により中止されており、パンデミック開始以来、対面形式を含めた大規模なフォーラムの開催は初めてであり、開会式も経済回復を印象付ける演出となっていた。公式発表では、141か国から13,500人以上の実際の参加者があったとされており、展示ブースや同時並行して多数の会議場で開催されるセッションなどには多くの人が参集し、例年ほどではないと思われるがかなりの賑わいを見せていた。ただし、参加者の多くはロシア人と思われ、外国人の参加者は少なく、特にアジア人は日本人を含めてほとんど見かけられなかった。
- フォーラムにおいては、例年通り数多くのセッションが開催されたが、全体として大別すると、パンデミックの影響とそこからの回復を含めた経済情勢、エネルギートランジションを含めたグリーン化や気候変動対策、ビッグデータやセキュリティなどのデジタル分野、諸外国との協力やロシアの地域経済など地域毎のセッションが多かった。
- 6月4日のプレナリーセッションでは、プーチン大統領が対面形式で出席した他、オーストリアのクルツ首相、カタールのタミーム首長がオンライン形式で出席し、アルゼンチンのフェルナンデス大統領、ブラジルのボルソナロ大統領がビデオメッセージを寄せた。
- プーチン大統領は、プレナリーセッションのスピーチの中で、昨年の初め以来、新型コロナウイルスのために多くのイベントがキャンセルされたりリモートで開催されたりしてきたが、このハイレベルのフォーラムが開催されているという事実は前向きな兆候であり、徐々に慣れ親しんだ通常の形に戻りつつあることの1つの証拠であると述べた。
- エネルギー関連では、Nord Stream 2パイプラインの進捗に言及し、6月4日に第1系列のパイプ敷設作業が完了し、Slavyanskayaコンプレッサー基地の準備も完了し、Nord Stream 2にガスを充填する準備ができていると述べた。また、同パイプラインは、欧州のエネルギー安全保障と欧州の消費者への確実なガス供給に寄与し、費用対効果が高く、最も厳しい環境技術要件に準拠していると述べ、プロジェクトの重要性を強調した。
- 地球環境問題については、ロシアが地球環境問題に関心がないという話はナンセンスであり、ロシアには永久凍土融解などの脅威があり、これを懸念していると述べた。また、全ての国は未来の世代の生活に共通の責任を負っているため、政治等の意見の不一致を脇に置き、カーボンニュートラルへの移行において、誰かが特定の利益のために投資貿易の流れを変えて不公正な競争手段としないようにすることが必要だと強調した。
- サンクトペテルブルク国際経済フォーラムの結果を受けて、プーチン大統領は、6月26日、10月1日までにロシアの経済活動より発生する温室効果ガスの削減のための行動計画を作成すること、生態系による温室効果ガス吸収を高める方策や事業を気候関連事業と分類するための基準及びその結果の評価システムの検討を含む指示のリストを承認した。
プーチン大統領との第19回「直通対話」を開催
- プーチン大統領は、6月30日、国民からの質問に直接答えるイベントを2年ぶりに実施した。2001年の開催から、ほぼ毎年開催されているが、2020年は随時国民との対話の機会があったとして例年の形式でのイベントは開催されていなかった。
- 今年は電話の他、スマートフォンのアプリで大統領への質問を送信できるシステムも利用され、プーチン大統領は3時間42分にわたり、68の質問に答え、その様子はテレビやラジオで中継された。報道によると、630万人以上がテレビで視聴し、合計で220万以上の質問が市民から送られたとされる。
- 質問はウクライナ問題、米露関係等の外交問題から、食料価格、失業問題等の生活に直結するものまで多岐にわたった。新型コロナウイルスに関連したものでは、ロシアで第3波とされる感染が広がっており、一部の地域で強制的な予防接種が導入されている根拠について質問に対し、プーチン大統領は、義務的な予防接種を支持しないと明言したが、特定の地域で流行が発生した場合、地域の主任衛生医師の推奨に基づいて、地域の指導者が特定のカテゴリの市民に強制的なワクチン接種を導入する権利があると説明した。また、強制的なワクチンはロックダウンを回避するために導入していると説明し、感染の更なる拡大はワクチン接種によってのみ防ぐことができるとしてワクチン接種への理解を求めた。
- また、プーチン大統領が本当にワクチンを接種したのか、接種したならばどのワクチンを接種したのか、という質問に対し、プーチン大統領は、競争上の優位性を生まないために、どのワクチンを接種するかは口外しないように頼まれたと言及しつつ、Sputnik Vを接種したことを明らかにした。
- ロシアの1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数は、5月末から上昇傾向にあり、6月後半から2万人を超えている。また、1日当たりの死者数も6月末に600人を超える日が続き、過去最高を更新した。モスクワ市では、特定業種の企業に対して6割の従業員へのワクチン接種義務を課し、レストラン等の入店もワクチン接種や3日以内のPCR検査の陰性結果などを求める措置を導入して、ワクチン接種の促進と感染予防対策を強化している。ロシアでは、2020年12月からワクチン接種が開始されたが、6月25日付の報道によると、少なくとも1回目のワクチンを受けた人口は1,990万人、人口の13.6%程度とされており、ワクチン接種を進めることが急務とされている。
金融
政策金利を5.50%に引き上げ
- ロシア中央銀行は、6月11日、政策金利を0.50ポイント引き上げ、5.50%とすることを決定した。
- 中央銀行は、政策金利引き上げの背景として、ロシア経済と世界経済が予測よりも早く回復しており、消費と投資が着実に成長していることを示していると分析している。消費者活動については、すでにパンデミック前の水準に達していると推測しており、経済のほとんどの部門で生産量がパンデミック前の水準を超え、労働力需要も成長、一部の部門では労働力不足も起きているとされる。さらに、中央銀行では、ロシア経済は2021年第2四半期にはパンデミック前の水準に回復すると予測されている。
- インフレについては、生産拡大能力と比較して需要が早く成長しており、予測を上回って進行していると評価している。また、景気が回復した状況でのインフレの高まりは、中央銀行のインフレ率の目標から長期的に上振れする可能性があり、今後も政策金利をさらに引き上げる必要があると述べている。一方で、現在の金融政策を考慮すると、2022年下半期での年間インフレ率は、中央銀行の目標である4%に戻り、それ以降も4%前後で留まると分析している。
- 中央銀行によると、ロシアの年間インフレ率は、4月に5.5%、5月に6.0%と上昇し、6月7日時点の推定値では6.15%となり、インフレが進行している。
国民福祉基金から米ドルを除外
- 財務省は、6月3日、国民福祉基金の構成を変更し、2021年5月20日以降、米ドルは35%から0%に減少させ、英ポンドは10%から5%に減少させることを発表した。これに伴い、新たに金が20%導入され、ユーロは35%から40%に、中国人民元は15%から30%に増加、日本円は5%で維持することとされた。Siluanov財務大臣は、同日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて、1ヶ月以内にこの変更を完了すると述べた。
- 財務省によると、この変更は、近年のマクロ経済及び地政学的状況を考慮し、ロシア経済の「脱米ドル化」を目的としており、国民福祉基金の安定性を確保することを目的とすると説明している。特に、ユーロと中国人民元はロシアの主要な外国経済パートナーの通貨であり、金はインフレリスクから国民福祉基金を保護できる資産であるとしている。
- ロシア政府は、5月21日、国民福祉基金の投資を多様化し、安全性を確保し、収益性を高めるため、国民福祉基金の資金を中央銀行の口座に金で保有できる決定をしていた。また、2月には米ドルとユーロの割合を減らし、新たに中国人民元と日本円を導入していた。
- ロシア政府は、6月1日時点で13兆9,381億ルーブル、約1,894億ドル相当の国民福祉基金を保有している。
(2) 対外関係
1) 米国
バイデン大統領と初の対面での首脳会談を実施
- プーチン大統領は、6月16日、ジュネーブで、米国のバイデン大統領と初めての対面での首脳会談を実施した。バイデン大統領とは、これまで2度の電話会談を行っているが、米国大統領との対面の会談は、2019年6月の大阪G20サミットでトランプ前大統領と会談して以来、2年振りとなる。
- 会談後の記者会見で、プーチン大統領は、両国がそれぞれ帰国させていた大使を任地に戻すことで合意したと明かした。また、ロシア外務省と米国国務省が外交分野のあらゆる協力の協議を開始することに合意したと述べた。プーチン大統領は、会談の評価として、バイデン大統領とは多くの点で意見が異なるが、互いに理解し、立場を近づける方法を模索するということで一致し、会談は非常に建設的であったと述べた。
- 首脳会談では、戦略的安定性に関する共同声明が採択された。共同声明では、緊張状態の中でも戦略的分野での予測可能性を確保し、核戦争の脅威と武装紛争のリスクを低減させるという共通の目標に向けて前進できることを証明したとして、今回の会談を評価した。また、新戦略兵器削減条約の延長は、核管理に向けた両国の責務を示したものであり、核戦争に勝者はなく、決して行われてはならないという原則を両国が再確認するとした。さらに、両国は近い将来に総合的な「戦略的安定対話」を開始し、対話を通じて将来の軍備管理とリスク軽減措置に向けた基礎作りを目指すとした。
国務省、制裁によるNord Stream 2建設阻止の可能性は非常に低いとの見解
- 米国のBlinken国務長官は、6月23日、ドイツを訪問してメルケル首相と会談した。国務省の発表によると、同国務長官は、Nord Stream 2に対する米国の反対が続いていることを強調し、ドイツがウクライナと欧州のエネルギー安全保障にもたらすリスクを軽減するための具体的な措置を講じるように促した。
- これに先立ち、国務省のReeker欧州ユーラシア局次官補代理は、6月21日、Blinken国務長官が欧州出張を行う際の事前記者会見で、制裁によってNord Stream 2の建設を阻止する可能性は非常に低いとの見解を示した。
- 国務省は、5月にもNord Stream 2の建設に関与した企業や船舶に対して制裁を課したが、制裁の候補となっていたオペレーターであるNord Stream 2 AG社及びMatthias Warnig社長については、制裁から除外した。Reeker次官補代理は、この措置について、バイデン政権が発足した1月時点でパイプラインの90%以上が完成しており、制裁措置によりパイプライン建設を阻止できる可能性は非常に低いため、困難な状況から前向きな何かを作るため、特定の制裁措置を免除したと説明した。また、同次官補代理は、更なる制裁を通じて欧州の同盟国との関係を損なうリスクを冒すのではなく、これらの免除によって、ドイツを外交的に関与させ、Nord Stream 2がウクライナと欧州のエネルギー安全保障にもたらすリスクを軽減するための措置を講じると加えた。同次官補代理は進行中の外交的議論であるとして、リスクを軽減するためにドイツに求めている措置についての質問には具体的に回答しなかったが、米国の目標は、ロシアがウクライナや欧州に対してエネルギーを強制的な手段として使用できなくすることであると述べた。
2) 中国
中露首脳会談で善隣友好協力条約延長を合意
- プーチン大統領は、6月28日、テレビ会議形式で中国の習近平国家主席と会談を行った。今年は中国と善隣友好協力条約を2001年7月に締結してから20年目にあたり、発表によると、同条約は2022年2月から5年間自動延長されることが合意された。
- 習近平国家主席は、会談の中で、中露関係は様々なリスクと試練を乗り越え、常に発展を維持してきた、両国は互いの利益に関係する問題に相互支援を行い、実りある戦略的協力を実施し、共通の利益を保護している、両国は国際問題においても緊密な協力と調整を行い、真の多国主義と国際正義を主張することに貢献しているとして、両国関係を高く評価した。また、条約の延長に伴い、二国間関係のあらゆる分野をさらに発展させるための新しい課題と目標を検討し、両国がこれからの困難や試練にも条約の精神に従って行動し、自信を持って前進することを確信していると述べた。
- プーチン大統領は、条約が国家の統一と領土保全のための相互支援、核兵器を先に使用せず、互いにミサイルの標的にしないという誓約、内政不干渉などを定めており、現代世界で大きな意味を持っていると評価した。また、両国間の貿易量は2001年から14倍に増加し、金融危機や新型コロナウイルスの流行にも関わらず拡大を続けてきたと述べた。さらに、航空宇宙産業、自動車産業、鉱業、木材セクターで多くのプロジェクトが成功していると述べ、シベリアの力パイプラインも正常に稼働していると述べ、2国間の経済関係を評価した。
- 首脳会談に際し、両首脳は共同声明を採択し、中露善隣友好協力条約に基づく協力関係の発展を確認した。
2. 石油ガス産業情勢
(1) 原油・石油製品輸出税
- 2021年4月15日から2021年5月14日までのモニタリング期間におけるウラル原油の平均価格はUSD65.45667/バレルとなり、6月の原油輸出税はUSD8.1/バレルに引き上げられた。
- 6月の石油製品輸出税はUSD17.6/トン、ガソリンについてはUSD32.3/トンに設定された。
(2) 原油生産・輸出量
- 6月、原油、ガス・コンデンセート生産量は4,264万トン(約3億1,127万バレル、平均日量1,042万バレル)で、前年同月比11.7%増。
- 6月、原油輸出量は1,887万トン(約1億3,774万バレル)で、前年同月比3.9%減。
(3) 減産合意
第17回OPECプラス閣僚会合を開催
- OPECプラスは、6月1日、テレビ会議形式で閣僚会合を開催し、2021年7月の生産調整に関して、4月1日に開催した第15回閣僚会合で決定した生産調整量を変更しないことで合意した。
- OPECプラスは、4月の生産調整の適合性は114%であったことを確認し、参加国の前向きな成果を歓迎した。また、2020年4月に合意した生産調整が終了するまで、市場のファンダメンタルズを監視し、OPECプラス閣僚会合を維持する必要性を確認した。
- 会合に参加したNovak副首相によると、新型コロナウイルスとの闘いが進む中で、世界のエネルギー需要は拡大を続けており、この数ヶ月で原油の在庫の余剰分が2億6,000万バレルから3,400万バレルまで減少し、6月には在庫の水準が過去5年平均の水準に達すると予想されており、この達成が我々の任務であると述べた。また、4月には世界のGDP成長率予測が5.5%に引き上げられ、2021年の石油需要成長は600万バレルに達すると予測されていると述べ、この成長は航空交通がパンデミック前の65~70%まで回復し、道路交通がほぼ完全に回復することに起因すると説明し、特にロシアにおいてはパンデミック前と比較して105%に達する見込みであると述べた。
- さらに、同副首相は、石油市場における国家間の協力の発展は、石油市場の安定化に貢献するだけでなく、技術協力、各国での新たなプロジェクトの実施などの二国間協力の拡大にもつながると強調した。
(4) 天然ガス生産
- 6月、天然ガス生産量は584億立方メートル(約2.1TCF)で、前年同月比で21.7%増。
3. ロシア石油ガス会社の主な動き
(1) Rosneft
Vostok Oilの株式の5%をVitol社とMercantile & Maritime Energy社に売却へ
- Rosneftは、6月10日、エネルギー貿易等を行う企業であるVitol社とMercantile & Maritime Energy社によるコンソーシアムにVostok Oil社の株式の5%を売却するための契約に署名したと発表した。契約は規制当局及び企業内の承認を得て発効する。Rosneftは、石油産業への投資欠如と世界人口の増加と繁栄によるエネルギー資源の需要の増加は、新たなプロジェクトの必要性を高めていると述べている。
- また、Sechin社長は、プレスリリースの中で、Vostok Oilプロジェクトの資源ポテンシャル、高品質の石油、その経済モデルは、このプロジェクトを世界のエネルギー産業への投資において最も魅力的なものの1つとしており、そのことは世界の大企業による強い関心と主要な投資銀行の見積もりによって確認されているとしている。また、Vostok Oilプロジェクトは、「グリーン」石油供給の将来的な必要性を検討している世界中の顧客と流通経路を持つ原料供給貿易・ロジスティクス企業にとって興味深いプロジェクトであるとし、RosneftはVitol社及びMercantile & Maritime Energy社との協力を強化していくと述べた。
- Rosneftによると、Vostok Oilプロジェクトは、世界の主要な新規石油プロジェクトより1バレル当たりの生産コストが低く、二酸化炭素排出量が75%少ない。また、硫黄含有量は0.01〜0.04%と非常に低く、その資源量は60億トンを超える。
- 2020年末、RosneftはVostok Oil社の株式の10%を貿易会社のTrafiguraに売却しており、同プロジェクトの売却は2回目、合わせて15%となる。
持続可能なエネルギー開発には市場競争が必要
- Sechin社長は、6月5日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムで講演を行った。同社長は、講演の中で、パンデミックの中で世界経済の分析を示し、市場参加者が世界の不安定性のリスクを過小評価していると主張し、また、持続可能なエネルギー開発のため、全てのエネルギーには市場競争が必要で、それにより環境フットプリントの最小化やクリーンで安価なエネルギー供給が保証されると主張し、市場性を考慮しないグリーンエネルギーを批判し、石油産業への投資の重要性を訴えた。
- Sechin社長は、新型コロナウイルスの予防接種が拡大し、パンデミックの影響が減少するにつれて石油の需要は回復するため、需要拡大に備える必要があるとし、2040年まで現在の生産水準を維持するために石油ガス産業へ約17兆ドルの投資が必要だと述べた。同社長は、需要を過小評価し、投資が不足したために鉄鉱石の価格が急騰していることを例に、石油産業は投資不足により資源不足に陥る可能性があると主張した。
- グリーンエネルギーの問題については、世界は岐路に立っていると述べ、再生可能エネルギーの補助金を含む大規模な投資にも関わらず、再生可能エネルギーは世界経済発展の基礎にはなっていないと批判した。また、低炭素のための商業的な技術開発には数十年かかるとし、この分野には年間約4兆ドルの投資が必要になるとの見通しを紹介した。さらに、電気自動車や電力貯蔵のためには特定の金属が必要になり、2040年までにリチウムは40倍以上、コバルトとニッケルは約20倍に需要が増加するとの見通しを紹介し、その約8割の生産が独占されているか、不安定な地域に集中しており、資源供給の難しさを強調した。水素についても、エネルギー需要全体の15~20%を賄うためには2050年までに約15兆ドルの投資が必要だとし、再生可能エネルギー源からの生産割合が高いほどコストは高くなり、消費者への負担が増加すると述べた。
- また、同社長は、米国ではロシアよりも4~5倍の水圧破砕による石油開発が行われていることを示して、ロシアはよりクリーンな石油を生産していると主張し、石油自体から離れていくべきという考え方を変え、環境に優しくない石油プロジェクトから離れていくべきだと主張した。同社長は、Rosneftは2035年までの炭素管理計画により野心的な目標を設定したとし、国際的な格付け機関は同社の高い業績を評価していると述べた。
(2) Gazprom
Amurガス精製プラントの稼働を開始
- Gazpromは、6月9日、Amurガス精製プラントの稼働を開始し、式典を開催した。式典にはプーチン大統領、Miller社長、Orlovアムール州知事が参加した。同プラントの建設は2015年10月に始まった。
- Amurガス精製プラントの他の系列の稼働開始は、シベリアの力パイプラインを通じて輸送されるガスの増加と並行して段階的に進められ、2025年に6系列全てが稼働をする計画となっている。Amurガス精製プラントでは、年間42BCMのガスを処理し、240万トンのエタン、150万トンのLPG、20万トンのペンタン-ヘキサン留分を生産し、主にはSiburのAmurガス化学コンプレックスに供給する計画となっている。また、Amurガス精製プラントの主な製品のヘリウムは、年間6,000万立方メートル生産され、ウラジオストク近傍に建設されているヘリウムロジスティックセンターを通じて国際市場に販売される計画となっている。プーチン大統領によると、ヘリウムの国際市場におけるロシアのシェアはわずか3%であり、このプロジェクトはロシア国内の需要を満たすだけではなく、ロシアが世界で主導的なシェアを占めることができるようにする。
- Gazpromの6月17日の発表によると、Amurガス精製プラント全体の進捗は76.5%となっており、全ての系列の作業が進展している。
(3) Gazprom Neft
Tazovskoye油田の商業生産を開始
- Gazprom Neftは、6月16日、ヤマロネネツ自治管区北部に位置するTazovskoye油田の商業生産を開始したと発表した。これは、新型コロナウイルスのパンデミックの中で開発、生産を開始した最初のプロジェクトとなる。
- 生産開始を記念した式典はテレビ会議形式でNovak副首相とGazprom NeftのDyukov社長が参加し、現地でChekunkov極東北極圏発展大臣、Artyukhovヤマロネネツ自治管区知事が参加した。
- 同油田の地質学的埋蔵量は、石油4億1,900万トンと、ガス225BCMと推定され、年間生産量は石油170万トン、ガス8BCMと計画されている。この油田は、Nadym-Pur-Taz地域の有望な生産クラスターを形成することが期待され、クラスターにはMeretoyakhinskoye油田、Severo-Samburgskoye油田、Zapadno-Yubileinyの2つの鉱区が含まれる。これらの資産の合計埋蔵量は、石油11億トンと、ガス492BCMと見込まれている。
- Novak副首相は、式典の中で、この油ガス田が西シベリアで最大の油ガス田の1つであり、新しい生産クラスターの中心になると述べ、石油ガス産業全体の発展、ヤマロ・ネネツ自治管区の経済・社会的問題の解決に更なる推進力を与えるだろうと述べた。
NOVATEKとSevero-Vrangelevsky鉱区の共同開発に合意
- Gazprom Neftは、6月3日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて、Novatekとの間でSevero-Vrangelevsky鉱区を開発するための合弁会社を設立することで合意したと発表した。同事業の協力については、2019年のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて両社が北極圏での石油ガスの探査・開発の協力を行うための覚書を締結したことが背景とされている。
- 今回の合意により、Gazprom Neftは、Severo-Vrangelevsky鉱区の探査開発権を保有するGazpromneft-Sakhalin社の権益の49%をNovatekに譲渡する。
- Severo-Vrangelevsky鉱区は東シベリア海とチュクチ海に位置し、117,620平方キロメートルの面積がある。Gazprom Neftは2018年~2019年にかけて地震探査を実施して地質モデルを作成しており、今後もNovatekと協力して探査を継続することを計画している。
(4) Novatek
カムチャツカ積替えターミナルに約210億ルーブル以上の政府予算割り当てを決定
- ロシア政府は、6月7日、NovatekがカムチャツカのBechevinskaya湾で計画しているLNGのオフショア積替えターミナルの建設に、210億ルーブル以上の政府予算を割り当てることを発表した。
- 政令によると、政府からの予算はLNG積替えターミナルへの6.6㎞の航路の建設のため、国営企業Rosmorportにあてられる。積替えターミナル全体の投資額は約2,590億ルーブルとされており、そのうち、約210億ルーブルを政府予算で支援する。政府予算は2021年に約46億ルーブル、2022年に約164億ルーブルが割り当てられる計画となっている。積替えターミナルは2023年の稼働開始を予定している。
- カムチャツカのLNG積替えターミナルは、取扱量が年間約2,170万トンとなる予定で、北極海航路から航行してきたLNG砕氷船から従来型のLNG船へのLNGの積替えを行い、アジア太平洋地域の消費者にガスを供給する。ターミナルの建設により、ロシアのLNG供給ルートを多様化し、北極海航路の貨物の回転率を高めることが可能となるとされる。また、積替えターミナルで扱うガスの一部はカムチャツカに供給される。
- 同ターミナルの計画は、同日に承認が発表された2035年までのエネルギー計画の実施計画にも含まれており、ロシアのガス産業の発展の重要なプロジェクトの1つとなっている。
- また、Novatekは、6月3日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて、Total Energiesにカムチャツカ及びムルマンスクにおいてLNG積替え事業を行うArctic Transshipment社の10%の株式を売却することで合意したと発表している。
ヤマル半島のガス化学プラント建設の資金調達の覚書に署名
- Novatekは、6月4日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて、Sberbank及びGazprombankと、ヤマル半島におけるガス化学プラント建設の資金調達に関する覚書に署名したと発表した。
- SberbankとGazprombankはヤマル半島のSabetta付近にガス化学プラントを建設し、低炭素アンモニア、水素、温室効果ガス排出を削減するその他のガス化学製品を製造するプロジェクトに資金供給を行う予定。
- Mikhelson社長は、プレスリリースの中で、アンモニアは化学産業で大きな需要がある有望な低炭素燃料であり、水素の効率的な輸送キャリアであるとし、最も効率的なオプションを選択するために、Novatekは様々なガス化学工場のコンセプトを検討しているとしている。また、欧州とアジア太平洋地域へクリーンエネルギーを供給するためにアンモニア製造で排出される二酸化炭素を捕捉し、地下の貯留層に注入する計画もしていると述べている。
Total Energiesと脱炭素化、水素、再生可能エネルギーに関する覚書に署名
- Novatekは、6月3日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて、Shulginovエネルギー大臣の立ち合いのもと、Total Energiesと脱炭素、水素、再生可能エネルギーに関する覚書に署名したと発表した。
- これにより、両社はLNGの共同プロジェクトでの炭素回収及び貯留を実施し、再生可能エネルギー源を利用することによってプロジェクトの温室効果ガス排出削減に協力するとしている。また、覚書は、低炭素燃料としての水素の生産と利用、LNGを含むカーボンニュートラル製品の販売を考慮に入れているとされている。具体的には、廃熱利用技術などLNG生産の発電効率を向上させるための技術、ガスタービンを水素燃料に転換する技術、LNGプロジェクトでの風力発電等の再生可能エネルギー源の利用のための課題解決の検討が含まれる。
- Mikhelson社長は、プレスリリースの中で、長期的なパートナーであるTotal Energiesと協力して、Yamal LNG及びArctic LNG 2プロジェクトの二酸化炭素排出量を削減し、LNG製品の競争力を高めるための技術解決策を実装する、我々の長期的な目標は安価な価格で安全な低炭素天然ガスを国際市場に提供することであり、Total Energiesとその他のパートナーとの協力は世界のエネルギー産業の脱炭素化に貢献する方法の一つであると述べた。
- Novatekはこの他にも、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて、Fortum社、Severstal社と脱炭素化に関する協力覚書に署名し、Sberbankとはグリーンファイナンスに関する覚書に署名する等、脱炭素化に向けた他企業との協力を進めている。
4. 東シベリア・極東・サハリン
(1) 東シベリア
Irkutsk Oil Companyが2番目のヘリウムプラントを建設へ
- Irkutsk Oil Companyは、6月4日、イルクーツクのMarkovskoe油ガス田に2番目となるヘリウムプラントを建設することを発表した。同プラントは2025年までに稼働を予定している。同社は、Yaraktinskoye油ガス田に最初のヘリウムプラントを建設しており、2022年に稼働を予定している。
- 最初のヘリウムプラントの生産能力は年間1,000万立方メートルとされており、両プラントを合わせると、年間1,500~1,700万立方メートルのヘリウムを生産できるようになり、Gazpromに次いでロシアで2番目のヘリウム生産者となるとされている。
5. 新規LNG・P/L事業
(1) Artic LNG 2
Zhejiang Energy社及びGlencoreとそれぞれLNG供給の基本合意契約を締結
- Novatekは、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて、中国のZhejiang Energy社及びGlencoreと、それぞれArctic LNG 2プロジェクトからのLNGの長期供給契約に関する基本合意契約を締結した。
- Zhejiang Energy社については、年間最大100万トンを15年間供給することで合意し、仕向港着船渡し条件で、LNGを中国のLNGターミナルに輸送する。
- Glencoreについては、年間50万トン以上を供給することで合意し、LNGは東アジアに輸送される予定となっている。
- Novatekは、アジア太平洋地域のLNG市場はパンデミックの影響から完全に回復し、安定した成長段階に戻っていると分析しており、これらの契約は、急速に発展するアジア太平洋市場での消費者と貿易会社等の両方を含む持続可能なLNG販売ポートフォリオを構築するという同社の商業戦略と一致しているとした。また、中国については、2060年までにネットゼロ目標を達成できるよう、よりクリーンなLNGの供給を増加させる予定だとしている。
(2) Nord Stream 2
Nord Stream 2 AG社が独立オペレーターの認証を申請
- Nord Stream 2のオペレーターであるNord Stream 2 AG社は、6月24日、ドイツ連邦ネットワーク庁の要請に基づいて、輸送システムの独立オペレーターとしての認証を申請したと発表した。
- また、Nord Stream 2 AG社は、2019年に採択されたEUガス指令の改正に関して、適用を除外するための訴訟を継続するとしており、今回の認証申請は、この訴訟における法的立場の変更または緩和を意味するものではないと強調している。
- EUでは、2019年5月のEUガス指令の改正により、EUに接続するパイプラインについて生産者と輸送者を分離するよう求める規定が陸上パイプラインだけではなく、オフショアパイプラインにも適用されるようになった。ドイツ政府は、この改正を2020年5月までに完成するパイプラインには適用しないこととしていたが、同期限までにNord Stream 2が完成せず、ドイツ政府は同パイプラインに対して改正の対象となる決定を下した。このため、Nord Stream 2 AG社は、2020年6月、同決定を取り下げるよう訴訟を起こしている。Nord Stream 2は、6月4日に第1系列のオフショア部分のパイプライン敷設が完了し、6月10日にはパイプラインのガスの充填が始まると発表された。第2系列のパイプラインについても、許可に従って、敷設作業が継続されるとされている。
以上
(この報告は2021年7月14日時点のものです)
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