ページ番号1009091 更新日 令和3年7月26日
原油市場他:OPECプラス産油国による減産措置縮小を巡る協議の不調により、終値ベースで2018年10月以来の高水準に到達する原油価格
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概要
- 米国では、新型コロナウイルス感染抑制のための個人の外出規制等が緩和しつつあったことに加え、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したこともあり、製油所でのガソリン製造活動が活発化した反面、同製品需要の増加で相殺されて余りあったことから、ガソリン在庫は減少傾向となった一方、留出油は堅調な供給に需要が追い付かなかったこともあり、在庫は増加傾向となった。そして、ガソリン在庫が平年幅上限を超過する一方、留出油在庫は平年幅上方付近に位置する、それぞれ量となっている。また、米国原油生産が概ね一定の水準を保つ反面、製油所の原油精製処理量が増加したことで、原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する水準は維持されている。
- 2021年6月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では減少となった他、欧州や日本でもメンテナンス作業実施に併せ一部製油所において原油調達を手控える動きが発生したと見られることにより、両地域での原油在庫が減少したことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州や日本では製油所の稼働低下により石油製品製造活動がもたつき気味になったこと等もあり、石油製品在庫は減少した。ただ、米国では製油所の稼働上昇による石油製品製造活動活発化によりガソリン以外の石油製品の在庫が積み上がった結果、石油製品全体の在庫は増加した。そして、欧州及び日本での石油製品在庫の減少が米国での当該在庫の増加で相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、平年幅上限付近に位置する量となっている。
- 2021年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場では、7月5 日に開催される予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合が中止となったことで、8月以降減産措置が縮小されない可能性が発生したことによる、世界石油需給引き締まり感の市場での強まり等が、原油相場に上方圧力を加えたことから、6月11日には1バレル当たり70.91ドルの終値であった原油価格(WTI)は上昇傾向となり、7月13日には同75.25ドルと終値ベースでは2018年10月3日以来の高水準に到達した。ただ、7月14日にOPECプラス産油国間で減産措置を巡り妥協に向け協議が進展しつつあると伝えられた他、世界の一部諸国及び地域で新型コロナウイルス感染が拡大しつつあることにより、石油需要の伸びの鈍化観測が市場で広がったこと等から、原油価格は下落、7月16日には同71.81ドルの終値となっている。
- 今後米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることにより、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることを通じ、原油相場には下方圧力が加わりやすくなる可能性がある。そしてそのような中で、世界各国及び地域における新型コロナウイルス感染と個人の外出規制及び経済活動制限を巡る動向、米国金融当局関係者による金融緩和縮小を巡る発言、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等の協議を含む中東情勢、OPECプラス産油国の減産措置を巡る議論等の状況、米国メキシコ湾地域におけるハリケーン等暴風雨の来襲状況及び予報等が原油相場に影響を与えていくものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 7月18日開催のOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国閣僚級会合で2021年8月以降毎月日量40万バレルずつ減産措置を縮小すること等で合意
(1) 協議内容等
2021年7月2日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は電話会議形式で閣僚級会合を開催し(当初開催予定の7月1日から1日遅延した、後述)、現在実施している減産措置(7月時点で日量576万バレル)の8月以降の取り扱いにつき協議したが、当該減産措置を2021年8月から12月にかけ毎月最大日量40万バレル縮小する他、2022年4月末で終了する予定である減産措置を2022年末まで延長する方針につき、大半の減産措置参加国が同意したとされる。ただ、アラブ首長国連邦(UAE)は、8月から12月にかけての減産措置の段階的な縮小実施については賛成したものの、自国の原油生産能力が2018年10月時点の日量316.8万バレルから現在同384万バレルへと増加していることから、これに応じて減産措置の基準となる原油生産量の引き上げが認められなければ、2022年末までの減産措置の延長には反対であると主張した。この結果、この日のOPECプラス産油国閣僚級会合では全ての減産措置参加産油国が同意する決定に到達することができず、当該会合は7月5日に継続されることとなった。
しかしながら、7月5日に継続して開催が予定されたOPECプラス産油国閣僚級会合に向けた調整においても、サウジアラビアとUAEとの意見の相違は解消されなかったことにより、7月5日に開催される予定であった同閣僚級会合は中止となった。そしてその時点では、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の日程は明示されず、「しかるべき時点に開催を決定し、それに従って発表する」旨OPEC事務局は7月5日に明らかにしている。そして、このままUAEと、サウジアラビアをはじめとする他のOPECプラス産油国との間での協議が妥結しなければ、7月に実施中のOPECプラス産油国減産措置が8月以降も同規模のまま実施される可能性があるものと伝えられる。
しかしながら、その後7月18日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は電話会議形式で閣僚級会合を開催し、現在実施している減産措置(7月時点で日量576万バレル)を、8月以降当該減産措置が消滅するまで毎月日量40万バレルずつ縮小することで合意した(表1参照)。同時に2021年12月時点で石油市場の状況及び減産措置参加国の減産遵守状況等をもとに減産措置を再検討する旨示唆した。
また、これまで2022年4月末に終了することとなっていた減産措置を2022年末まで延長することとした。さらに、今後も毎月OPECプラス産油国は閣僚級会合を開催し石油市場の状況を評価するとともに翌月の減産措置につき調整する他、石油市場の状況次第で2022年9月末に減産措置を終了させるべく努力することとした。
さらに、2022年5月1日より、イラク、クウェート、サウジアラビア、UAE及びロシアといった一部減産措置参加産油国の基準原油生産量を3~9%程度引き上げることとした(表2参照)。但し、この基準原油生産量の引き上げは毎月日量40万バレルずつの減産措置の縮小には影響しない旨7月18日にサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相が明らかにしている。
当該会合では、メキシコを含むOPECプラス産油国による減産遵守率が2021年6月時点で113%と良好であることを歓迎した。また、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産遵守率を達成できていない減産措置参加産油国は9月30日までに減産目標未達成部分を追加して減産するよう求められた。
なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は9月1日に開催される予定である。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2021年6月1日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、2021年8月以降の減産措置に関する協議は見送られた。この時の閣僚級会合開催の際には、欧米諸国等では新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展しつつあることにより新型コロナウイルス感染者数が減少するとともに個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されつつあったことから、これら地域の石油需要が回復しつつあったことに加え、5月初頭にかけ新型コロナウイルス感染が拡大していたインドでも感染者数が減少し始めたことにより同国でも経済とともに石油需要が底打ちする兆しが見え始めており、この先世界石油需給が引き締まる方向に向かうとの観測が市場で増大するとともに原油相場に上方圧力が加わる格好となっていた。また、5月29日以降米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入することにより、季節的な石油需給引き締まり感が市場で強まったことも、原油価格にとって支援材料となっていた。
一方で、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等の協議が進行中であり、核合意正常化で合意に至ることに伴い、米国の対イラン制裁が解除される等することによりイランからの原油供給が増加するとともに、世界石油需給が緩和するとの観測が市場で発生したことにより、原油相場に下方圧力を加わる場面が見られた。
また、今後新型コロナウイルス感染が再拡大した場合の石油需要に与える影響につき予測が困難な側面があることにより、世界石油需給バランスがこの先どのように展開するかについて不透明感が強い状況にあった。
そのような不透明感により、6月1日開催の閣僚級会合において、OPECプラス産油国は、8月以降の減産措置を巡る方針決定を見送ることとした(サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は実際に減産措置縮小が必要だと判明した場合に減産措置を縮小する旨6月1日に示唆しており、当該減産措置の縮小に慎重であることが覗われた)。
6月1日のOPECプラス産油国閣僚級会合での決定は、世界石油需給バランス上この先予想される展開を巡る、OPECプラス産油国の慎重な姿勢を示唆しているとの印象を市場に与える格好となり、この結果世界石油需要の回復に対し当該減産措置の縮小が後手に回るとともに石油需給が引き締まる方向に向かいやすいとの観測が市場で増大したこともあり、6月1日の原油価格(WTI)は前週末終値比で1バレル当たり1.40ドル上昇し終値は同67.72ドルと、2018年10月22日(この時は同69.17ドル)以来の高水準に到達した。
そしてその後も、新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展により、欧米諸国等では新型コロナウイルス感染者数が減少することにより個人の外出規制及び経済活動制限の緩和が進められた(6月15日には米国のニューヨーク及びカリフォルニア両州が一部を除き経済活動制限を全面的に解除した)他、5月6日には1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が414,188人と過去最高水準に到達したインドでも7月4日時点では新規感染者数が39,796人と5月6日の10分の1以下の水準にまで減少するとともに、新型コロナウイルス感染拡大に伴い4月19日より都市封鎖措置を実施していたインドの首都ニューデリーを含むデリー首都圏等多くの州では6月14日に経済活動制限等が緩和されるなど、同国の経済及び石油需要が持ち直す兆しがさらに明確になった。
このような中で、5月29日には米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したこともあり、原油価格(WTI)は6月10日以降継続的に終値ベースで1バレル当たり70ドルを超過するようになるなど上昇傾向となり(図1参照)、同国のガソリン需給の引き締まり観測から全米ガソリン小売価格は5月10日以降米国国民の不満が高まり始める1ガロン当たり3ドルを超過して上昇し続けたことにより、バイデン政権への支持率に影響が及ぶ恐れが増大しやすい状態となった(図2参照)。
ただ、OPECプラス産油国閣僚級会合が開催された7月2日の時点においても、依然としてイランと西側諸国等との協議は継続中であり、この面では、今後も、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等の協議が合意に至ることに際し、米国の対イラン制裁が解除される等することによりイランからの原油生産が増加するとともに、世界石油需給の緩和感が市場で強まる結果、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるといった展開となることも否定できなかった。また、例えば、6月10日には、米国財務省がイラン国営石油会社NIOC元幹部を含むイラン政府関係者3人及びイラン企業2社に対して科していた制裁を解除する旨報じられたことにより、当該報道直後の同日昼頃(米国東部時間)には、それまで1バレル当たり70ドルを超過する水準で推移していた原油価格(WTI)が5分足らずの間に68.68ドルまで下落する場面が見られた(その後当該制裁解除は定常的なものでありイラン核合意正常化を巡る米国とイランとの協議とは関係ない旨米国政府関係者が同日明らかにしたと報じられたことにより、原油価格は回復に向かった、図3参照)など、原油価格の動きには依然として不安定な部分が垣間見られた。
そして、緩和的な金融政策の下、低コストで調達された投資資金が活発に原油市場へ流入していることが原油相場を下支えしている側面があると見られることもあり、今後も、例えばOPECプラス産油国減産措置のさらなる緩和に、イラン核合意正常化に向けた合意到達による米国の対イラン制裁解除に伴うイランからの原油供給拡大観測が重なることや、新型コロナウイルス変異株の感染拡大で経済及び石油需要の回復が影響を受けること等により、この先の石油需給引き締まりと原油価格の上昇期待を巡る石油市場関係者の心理が変化するようであれば、これまで流入していた投資資金が一転退出し始めることにより原油価格が急落するといった展開となることも否定できなかった。
このような状況下で、OPECプラス産油国は8月以降については、減産措置の縮小し世界石油需給の引き締まり感の強まりと原油価格のさらなる大幅上昇を抑制しようとした一方、減産措置の縮小幅を毎月日量40万バレルと比較的小刻みにすることで世界石油需給の緩和感の増大と原油価格の急落を防止しようとしたものと考えられる。
2021年8月から12月にかけ日量40万バレルの減産措置の縮小を実施した場合、現時点での見通しでは2021年第三及び第四四半期は世界石油需要が供給を超過することになるものの、季節的に石油需給が緩和する2022年第一四半期は一転世界石油供給が需要を超過することになる(なお、2022年第一半期においては、さらなる減産措置の縮小は想定していない)ため、2021年後半の石油需要超過を2022年第一四半期の石油供給超過で概ね相殺する格好となり、この時期全体として世界石油需給は概ね均衡することになる(表3及び4参照)。
また、従来OPECプラス産油国による減産措置は2022年4月30日で終了することとなっていたが、もしその通りにした場合、2022年5月から12月にかけては、それまでOPECプラス産油国が減産していた結果市場への供給が排除されていた原油が再び石油市場に流入することに伴い供給過剰となることにより、世界石油市場において余剰在庫が積み上がるとともに、石油需給緩和感が市場で強まることにより原油相場に下方圧力を加える可能性があることから、2022年末までの減産措置継続を決定することにより、サウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国は将来の石油需給緩和感の醸成を抑制しようとしたものと見られる。
しかしながら、7月1日のOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)開催の際、UAEから、2018年10月時点での自国の原油生産能力日量316.8万バレルが現時点では同384万バレルへと増強されていることにより、減産措置の基準となる原油生産量を引き上げることを要求し、それが受け入れなければ、2022年末までの減産措置の延長を承認しない旨主張したことにより、議論が紛糾した結果、JMMCを7月2日にも実施することとなった。
UAEは、これまで自国の基準原油生産量が低いにもかかわらずOPECプラス産油国の減産措置に合意してきたのは、善意の姿勢を示すとともに2022年4月末に減産措置が終了するとされていたためである旨同国が明らかにしたと7月2日に伝えられる。また、UAEはOPEC加盟が同国の長期的利害(将来の世界石油需要見通しに関する不透明感が強まる中、早期に原油を生産し収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識していることが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討していた(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)とも2020年11月17日に伝えられていた。
そして、7月2日に開催されたOPECプラス閣僚級会合においても、UAEは減産措置の段階的縮小には賛成するものの、2022年4月末に終了する予定である減産措置の2022年末までの延長の決定については、自国の基準原油生産量の引き上げが認められなければ反対する旨主張した。
7月3日にも、UAEのマズルーイ エネルギー相が、石油市場が必要としていることから、2021年8月以降の減産措置の段階的縮小には無条件で賛成するものの、2022年4月末に終了する予定である減産措置の2022年末までの延長の決定については、実際に延長を決定しなければならない時期までにはなお8~9ヶ月程度の時間的余裕があるため、この先開催される予定である閣僚級会合まで決定を先送りすべきである旨改めて主張した。
しかしながら、2021年2~6月に最大日量100万バレルの自主的な減産を実施したサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は、減産措置の延長は減産措置の規模縮小と同様に直ちに決定すべき最重要課題であるため、議論の先送りは認められない旨示唆した他、OPECプラス産油国の一部の産油国につき単一の月を減産措置の基準原油生産量として採用するのは困難であり、また、採用すべきではない旨7月4日に反論した。原油価格の安定を重視するサウジアラビアは、UAEの減産措置基準原油生産量の引き上げを認めれば、他の減産措置参加産油国も原油生産目標を引き上げるべく基準原油生産量の改訂を要望する可能性があり、結果として新たな原油生産目標設定を巡る議論が複雑化することにより、市場がOPECプラス産油国の結束を疑問視するようになるとともに、原油価格に負の影響が及ぶ恐れもあったため、そのような事態は回避したいと考えていたものと見られる。
このようなことから、7月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では合意に到達することができず、7月5日に改めて当該会合を開催し協議を継続することにしたが、7月5日の会合に向けた関係産油国間での調整過程においても、サウジアラビアとUAEとの意見の相違は解消されなかったため、7月5日に開催される予定であった会合は中止となり、次回の閣僚級会合の開催日も未定となった。
7月5日に開催が予定された閣僚級会合が中止されたことにより、8月以降の減産措置の縮小(つまり事実上の増産)が見送られる可能性が高まったとの見方とともに、世界石油需給の引き締まり観測が市場で増大したことにより、原油相場に上方圧力が加わった結果、7月5日以降原油価格が上昇する場面が見られ、7月6日未明(米国東部時間)には一時1バレル当たり76.98ドルと2014年11月24日の取引日(この日の高値は同77.02ドル)以来の高水準に到達した。他方、全米平均ガソリン小売価格も7月12日には1ガロン当たり3.227ドルとさらに上昇を続けたことにより、米国国民のガソリン小売価格上昇による同国バイデン政権に対する不満が一層強まりやすい状況となった。
これに対し、7月6日にはサキ米国大統領報道官が、バイデン政権は米国のガソリン小売価格に対するOPECプラス産油国間での減産措置を巡る協議の影響につき関心を持つとともに、手頃で信頼できるエネルギー供給を促進させるべく、サウジアラビア及びUAEの関係者と接触、原油価格上昇抑制に向け両国が妥協するよう事実上の働きかけを行った旨示唆した。併せてOPECプラス産油国を構成するロシア及びクウェートがサウジアラビアとUAEとの間での妥協を図るべく仲介していると7月7日に伝えられる。このような、米国、ロシア及びクウェートによる接触や仲介努力を通じ、サウジアラビアとUAEとの間での妥協が図られ、改めて7月18日にOPECプラス産油国閣僚級会合が開催され、減産措置の規模縮小が決定したものと見られる。
既にサウジアラビアをはじめとする一部のOPECプラス産油国は需要家に対し8月販売の原油数量や価格につき通知し始めていると7月7日以降伝えられるが、OPECプラス産油国は8月の減産措置の規模についても7月のそれから日量40万バレル縮小することを決定した。
また、2022年5月1日以降減産措置に対する基準原油生産量を一部産油国につき引き上げ、そのうち、2022年末までのOPECプラス産油国減産措置延長の条件として日量384万バレルへの基準原油生産量の引き上げを主張していたUAEに対しては、半分程度の引き上げ幅に当たる日量350万バレルを認めることで、UAEとの間で妥協を図った。また、基準原油生産量の引き上げを巡るUAEとの妥協に至る過程では、イラクも基準原油生産量の引き上げを検討している旨7月14日に伝えられるなど、他の減産措置参加OPECプラス産油国の中にも基準原油生産量の引き上げを希望している産油国があったと見られ、そのような産油国の基準原油生産量を引き上げることで、それら産油国にも配慮するとともに、OPECプラス産油国感での結束の維持を図る格好となった。
さらに、減産措置の縮小を2022年においても継続する方針である他、石油市場の状況によっては2022年9月末で減産措置を終了すべく努力する旨今次OPECプラス産油国閣僚級会合では打ち出しており、これは、原油価格のさらなる上昇を抑制しようとするOPECプラス産油国による配慮であるものと考えられる。
一方、新型コロナウイルス変異株による感染拡大と世界経済及び石油需要の下振れの可能性等の要因により、市場関係者の心理が急変するとともに、投資資金が急速に退出することにより、原油価格が急激に押し下げられる可能性を含め、石油市場の状況変化にも遅滞なく対処できるよう、次回OPECプラス産油国閣僚級会合を9月1日と、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合から約1ヶ月半後という比較的短い間隔で以て開催することにした他、この先も毎月OPECプラス産油国閣僚級会合を開催し翌月の減産措置につき検討できるようにしたものと思われる。
(3) 原油価格の動き等
石油市場では、今回の閣僚級会合で8月につき日量50万バレル程度の減産措置の縮小が決定されると予想されていた(市場関係者間では8月につき日量55万バレル程度の減産措置の縮小が決定されると予想されている旨6月24日に伝えられていた)ところ、同月は日量40万バレル減産措置を縮小する方向で検討されている旨7月1日に伝えられたことから、世界石油需給の相対的な引き締まり感を市場が意識した結果、同日の原油価格(WTI)は前日終値比で1バレル当たり1.76ドル上昇の同75.23ドルの終値と、2018年10月3日(この時は同76.41ドル)以来の高水準の終値に到達した。
そして、7月5日に開催が予定された閣僚級会合の中止により、8月以降の減産措置の縮小が見送られる可能性が高まったとの見方とともに、世界石油需給の一層の引き締まり観測が市場で増大したことにより、7月5日には原油相場にさらに上方圧力が加わる結果となり、この日(7月4日の米国独立記念日(インディペンデンス・デー)に伴う休日の振替で終値は計上されなかった)は午後1時(米国東部時間)に、前週末終値比で1バレル当たり1.20ドル上昇の同76.36ドルで取引を中断した他、7月6日未明(米国東部時間)には一時1バレル当たり76.98ドルに到達する場面も見られた。
他方、7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で8月以降の減産措置の縮小が決定されたことから、相対的に世界石油需給の引き締まり感が市場で後退したこともあり、原油相場に下方圧力が加わった結果、7月18日午後6時半(米国東部時間)現在の時間外取引では、原油価格(WTI)は前週末終値比で1バレル当たり0.30ドル程度下落し、同71.50ドル近辺で推移している。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2021年4月の米国ガソリン需要(確定値)は日量879万バレル、前年同月比で50.2%程度の増加と2021年3月の同10.2%程度の増加から増加率が大幅に拡大した(図4参照)が、速報値(前年同月比で52.7%程度増加の日量893万バレル)からは下方修正された。4月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量64万バレル程度と推定されるところ確定値では同74万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。2021年1月20日の大統領就任後100日間で2億回の新型コロナウイルスワクチン接種実施の目標を4月21日に前倒しで達成するなど、同国では新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展していることに加え、気温が上昇してきたこともあり、個人の外出が促進されるとともに同国の自動車運転距離数が3月から増加した(併せて、2021年4月の同国自動車運転距離数は前年同月比で推定54.6%の伸びと3月の同18.8%の伸びから拡大している)ことが、4月の同国ガソリン需要増加率の前月からの拡大に寄与しているものと考えられる。また、2020年4月は米国では新型コロナウイルス感染拡大の個人の外出への影響が強く現れた時期であったこともあり、同月の自動車運転距離数は前年同月比で40.1%減少するとともに、同月の米国ガソリン需要も前年同月比で37.8%程度減少した反動で、2021年4月の同国ガソリン需要が大幅に増加しやすい状況となっていた側面もあり、2021年4月の同国ガソリン需要は2019年4月の当該需要(日量941万バレル)に比べれば依然として6.6%程度の減少となっている。他方、2021年6月の同国のガソリン需要(速報値)は日量938万バレル、前年同月比で13.3%程度の増加となっており、5月の当該需要(速報値)である同909万バレルからは需要量としては増加しているが、5月の前年同月比での増加率である26.4%程度からは増加率は縮小している。新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展するとともに、新型コロナウイルス感染者数が比較的低位で安定しつつあったこともあり、米国ニューヨーク州及びカリフォルニア州では、6月15日を以て一部を除き経済活動制限措置が全面的に解除されるなど、同国では個人の外出規制や経済活動制限が緩和されつつあったことにより、自動車での往来が活発化する(6月の米国自動車運転距離数は前年同月比で11.0%程度の増加と推定される)とともにガソリン需要が増加したものと考えられる。しかしながら、5月の米国ガソリン需要は同月7~12日に同国コロニアル・パイプライン(米国テキサス州~ニュージャージー州)がサイバー攻撃を受け操業を停止したことで、米国東部海岸地域を中心とした地域でのガソリンを含む石油製品供給混乱発生に伴う消費者のガソリン購入殺到により当該製品需要が一時的に押し上げられた一方、6月はその反動でガソリン需要の伸びが抑制された側面もあるものと考えられる。また、2020年4月は新型コロナウイルス感染拡大もあり個人の外出が相当程度落ち込んだ一方、同年4月16日に米国のトランプ大統領(当時)が米国国民の外出規制緩和と経済活動再開への指針を発表したことで、同国では外出規制と経済活動制限が緩和され始めた(同年5月20日のコネチカット州を以て米国の全50州において部分的であれ個人の外出規制及び経済活動制限が緩和された)こともあり、2020年6月は米国で個人の外出が回復しつつあったことが一因となり、2021年6月の米国の推定自動車運転距離数の前年同月比での増加率は同年5月の30.2%程度から縮小するとともに、2021年6月のガソリン需要の前年同月比での増加率も5月から縮小しているものと考えられる。なお、2021年6月のガソリン需要は2019年6月のそれに比べれば3.3%程度の減少となっている。そして、新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展しつつある中で、米国では5月29日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったこともあったことで、個人による自動車を利用した外出が活発化するともにガソリン需要が回復に向かい続けるとの期待が市場で強まったことにより、製油所でのガソリン製造利幅が底堅く推移したこともあり、同国の製油所の稼働が上昇するとともに、原油精製処理量も増加傾向となった(図5参照)他、製油所でのガソリン生産も拡大傾向となったものと見られる(ガソリン最終製品の生産は図6参照)。それでも、ガソリン需要の増加が製油所でのガソリン生産の増加を相殺した余りあったことにより、6月上旬から7月上旬にかけての米国ガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る状態は継続している(図7参照)。
2021年4月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量399万バレルと前年同月比で13.8%程度の増加となり、3月の同3.1%程度の増加から増加率が拡大したものの、速報値である日量409万バレル(同16.7%程度の増加)からは下方修正された(図8参照)。4月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量100万バレル程度と推定されるところ確定値では同113万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。また、2021年4月の米国鉱工業生産が前年同月比で17.5%の増加と同年3月の同1.5%の増加から増加率が拡大した他、2021年4月の同国物流活動も前年同月比で9.4%の増加となるなど、同国経済及び物流活動が回復しつつあることが、2021年4月の留出油需要の前年同月からの伸びの背景にあるものと考えられる。また、2020年4月は、米国での新型コロナウイルス感染拡大による経済活動制限強化の影響が強く現れた時期でもあり同月の同国鉱工業生産は前年同月比で16.2%の落ち込み幅を記録するとともに、同月の同国物流活動も同9.8%の減少となるなどしたことから、2020年4月の米国留出油需要は日量351万バレルと前年同月比で14.9%の減少となったことにより、その反動が2021年4月の当該石油製品需要の伸びに反映された側面もあるものと考えられ、2021年4月の留出油需要は2019年4月のそれ(日量412万バレル)を3.2%程度下回っている。他方、2021年6月の留出油需要(速報値)は日量402万バレルと前年同月比で15.0%程度増加し、5月の同13.0%程度の増加から増加率が拡大している。6月15日を以て米国ニューヨーク及びカリフォルニア両州では一部を除き新型コロナウイルス感染抑制のための経済活動制限を解除したことにより、これらの州等での経済活動が活発化した結果、2021年6月の米国鉱工業生産が前年同月比で9.8%の増加と相当程度伸びたことに伴い同国の物流活動も堅調であったと見られることが、留出油需要の増加率に反映されているものと見られる。また、2021年6月の米国留出油需要は2019年6月のそれと比べても0.6%程度の増加となっている。そして、米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったこともあり、ガソリン製造に向け同国の製油所における原油精製処理活動が上向いたことに伴い、留出油製造活動も活発化したこと(図9参照)もあり、留出油供給が同製品需要を上回る格好となった結果、6月上旬から7月上旬の期間留出油在庫は増加傾向となった他、平年幅上方付近に位置する量となっている(図10参照)。
2021年4月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で32.5%程度増加の日量1,946万バレルとなり、同年3月の前年同月比5.0%の増加から増加率が拡大した(図11参照)。ガソリン及び留出油を含め幅広く石油製品需要が前年同月比で増加したことが同国石油需要の前年同月比での増加に反映されている。また、新型コロナウイルス感染拡大による個人の外出規制や経済活動制限が強化されつつあったことにより2020年4月の同国石油需要が大幅に落ち込んだ反動で、2021年4月の石油需要の前年同月比での伸び率が大きくなりやすい側面はあったものの、米国での新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展による個人の外出規制及び経済活動制限の緩和の動きにより、ガソリン及び留出油需要等が刺激されたことが、石油需要の伸びに反映されているものと考えられる。ただ、当該需要は2019年4月の同国石油需要を4.3%下回っている。また、ガソリン及び留出油需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたこともあり、米国石油需要も速報値(前年同月比で34.1%程度増加の日量1,970万バレル)から下方修正されている。他方、2021年6月の米国石油需要(速報値)は日量2,060万バレルと前年同月比で18.2%程度の増加となった。米国での新型コロナウイルスワクチン接種普及進展等により、個人の外出及び経済活動が持ち直しつつあったこともあり、ガソリン及び留出油に加えジェット燃料の需要が前年同月比で増加したことが、同国石油需要の前年同月比の増加に寄与しているものと考えられる。ただ、2021年6月の米国石油需要は2019年6月(この時は日量2,065万バレル)を0.3%程度下回っている。また、その他石油製品の需要が日量459万バレルと2020年5月~2021年4月の当該需要(確定値)である同308~430万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正されることが同国の石油需要(確定値)に影響を及ぼすこともありうる。他方、米国原油生産が概ねほぼ一定の水準で推移した(シェールオイル開発・生産企業に対する業績改善重視の圧力により、これら企業はシェールオイル生産拡大には必ずしも積極的はないことが足元の米国原油生産の伸び悩み傾向に反映されているものと考えられる)一方、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったこともあり、ガソリン製造を活発化させるべく製油所での原油精製処理量が増加した結果、6月上旬から7月上旬にかけ米国の原油在庫は減少傾向を示したが、平年幅上限を上回る状態は続いている(図12参照)。そして、留出油在庫が平年幅上方付近に位置する量となった他、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図13及び14参照)。
2021年6月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では減少となった他、欧州や日本でもメンテナンス作業実施に併せ一部製油所において原油調達を手控える動きが発生したと見られることにより両地域での原油在庫も減少したことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図15参照)。石油製品については、欧州では製油所の稼働が低下することに伴い石油製品生産活動が鈍化したことにより石油製品供給が減少したと考えられる一方、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入した米国に向けガソリンが輸出される等した他、日本でも製油所のメンテナンス作業実施や装置の不具合等の発生により石油製品製造活動がもたつき気味になった一方、4月25日に東京都を含む4都府県で発出され、その後10都道府県にまで発出が拡大した新型コロナウイルス感染抑制のための緊急事態宣言につき、6月21日午前0時を以て沖縄県を除く9都道府県で発出を解除した際に、個人の外出や経済活動が相対的に活発化したと見られることにより、両地域で石油製品在庫が減少した。ただ、米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入に伴い製油所の稼働が上昇するとともに、石油製品製造活動が活発化したが、需要期であるガソリン以外の石油製品の在庫が積み上がった結果、石油製品全体の在庫は増加した。特に、同国では、留出油在庫が増加したことに加え、暖房シーズンが終了したことによりプロパン需要が低下したことに伴い当該製品在庫が増加したり、冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要が減少したことにより、その他の石油製品在庫が増加したりしている。そして、欧州及び日本での石油製品在庫の減少が米国での当該在庫の増加で相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、平年幅上限付近に位置する量となっている(図16参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る量である一方、石油製品在庫が平年幅上限付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図17参照)。なお、2021年6月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は63.0日と5月末の推定在庫日数(64.1日)から低下している。
6月9日に1,200万バレル強程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、6月16日には1,400万バレル台前半程度の量へと増加した。その後、6月23日には1,300万バレル台半ば程度、6月30日には1,200万バレル台後半程度の、それぞれ水準へと低下したが、7月7日には再び1,400万バレル台前半程度、そして、7月14日には1,400万バレル台半ば程度の量となり、7月14日の軽質留分在庫水準は6月9日時点のそれは上回っているものの、全体としてはかなり上下に変動する格好となった。1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が5月6日に414,188人の史上最高水準に到達したインドでは、個人の外出規制及び経済活動制限が強化されたことに伴い、同国国内での石油需要が低迷したことにより、同国からシンガポール方面へのガソリン等の輸出が促進される格好となったものの、新型コロナウイルス感染が抑制される中で個人の外出が活発化した中国では国内のガソリン需要が堅調であったと見られる他、2021年における第二回の石油製品輸出枠が石油会社に付与されないことにより石油会社の石油製品輸出枠が不足気味となっていることもあり、同国からシンガポール方面への軽質留分輸出が低迷した(むしろ中国は国外からガソリンを輸入していたとの情報も聞かれる)ことで相殺された結果、全体としてシンガポールの軽質留分輸入は伸び悩み気味となった。一方、6月1日には4,824人であったインドネシアの1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が7月15日には56,757人の史上最高水準に到達した他、タイやベトナムでも新型コロナウイルス感染者数が増加傾向となったことにより、個人の外出に伴う自動車での往来が影響を受けたと見られることもあり、シンガポールからの軽質留分輸出も不安定であった(むしろ東南アジア一部諸国がガソリンを輸出していたとの情報も聞かれる)。このような要因が、当該地点での軽質留分在庫変動に影響しているものと見られる。そして、特に6月後半を中心として原油価格の上昇にアジア市場のガソリン価格のそれが追い付かないことにより、ガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)が縮小する場面が見られた。それでも、米国では新型コロナウイルスワクチン接種の普及進展により、個人の外出規制が緩和されつつあったことに加え、同国では5月29日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したことから、同国でのガソリン需要の増加に対する期待が市場で強まったことでガソリン価格が上昇傾向となった影響がアジア(及び欧州)市場に及んでいるうえ、アジア諸国でも夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入が意識されつつあること、そしてインド、中東諸国及び日本等で製油所の稼働上の不具合が発生したことによりガソリン製造に支障が発生したと伝えられる場面が見られたこともあり、シンガポールでのガソリン価格に上方圧力が加わったことから、7月に入ってからはアジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差は総じて拡大傾向を示した。
ナフサについては、6月中旬から下旬にかけては、米国でガソリン在庫が増加する場面が見られたこともあり、米国へガソリンを輸出している欧州の製油所でガソリンに混入するナフサの量が伸び悩む結果、余剰となったナフサがアジア市場に流入するとの観測が市場で発生したことが、シンガポールでのナフサ価格を抑制した他、原油価格の上昇にナフサ価格のそれが追い付かない場面が見られたこともあり、ナフサ価格はドバイ原油を下回る状況となった。ただ、6月11日に韓国のLG化学が麗水(Yeosu)にあるナフサ分解装置(エチレン生産能力年間80万トン)を、6月18日には同国のGSカルテックス(Caltex)が同じく麗水にあるナフサ分解装置(同年間79万トン)を、それぞれ操業開始した他、7月13日には、それまでメンテナンス作業を実施していた日本の三菱ケミカル旭化成エチレンの水島工場(エチレン生産能力年間56.7万トン)が、7月15日には、同じくそれまでメンテナンス作業を実施していた台湾プラスチック工業(台湾塑膠工業: Formosa Petrochemical)の第一ナフサ分解装置(エチレン生産能力年間70万トン)が、それぞれ操業を再開するなど、北東アジア諸国各国でナフサ分解装置が操業を開始したことに加え、7月下旬には中国の福建古雷石化(Fujian Gulei Petrochemical)が同国福建省古雷に建設中であるナフサ分解装置(エチレン生産能力年間100万トン)の稼働開始に向け準備中であったことにより、原料となるナフサの需要が増加するとの見方が市場で発生した。また、石油化学産業における原料としてナフサと競合することのある液化石油ガス(LPG)の需要が中国で堅調である(石油化学製品生産のために稼働させるプロパン脱水素化装置(PDH: Propane Dehydrogenation)向けの需要と見られる)一方、米国では2月15日にテキサス州に寒波が来襲したことにより、当該地域の電力供給に支障が生じた他機器類が凍結したことが同国の油・ガス田等の操業に影響を与えた結果、原油及び天然ガスに随伴して生産されるLPGの生産が減少した他、その後も生産拡大よりも収益の改善を優先させるべく株主等がシェールオイル及びシェールガス開発・生産会社に圧力を加えたこともあり、同国の原油及び天然ガスの生産が伸び悩み気味であったことによりLPGの産出がもたついたことにより、世界的にLPG需給が引き締まるとともに当該製品価格が押し上げられたことから、LPGのナフサに対する価格優位性が後退、石油化学製品製造のための原料としてのナフサからLPGへの転換を抑制する格好となった。このような要因が、アジア市場でのナフサ需要及びナフサ価格を下支えした結果、ナフサ価格のドバイ原油価格を下回る幅は概ね限られた範囲内で推移した。また、7月初頭以降は、米国でのガソリン需要が盛り上がるとともに当該製品在庫が減少したこともあり、欧州の製油所が生産する米国向けガソリンへのナフサ混入が進むことにより、欧州方面からアジア方面へのナフサの流れが低下するとの観測が市場で増大したことが、アジア市場でのナフサ価格に上方圧力を加えたことから、ナフサ価格がドバイ原油価格を上回るようになっている。
6月9日には1,100万バレル台前半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、6月16日には1,300万バレル弱程度の水準、6月23日には1,300万バレル強程度の量、6月30日には1,300万バレル台後半程度の水準へと、それぞれ増加した。しかしながら、7月7日及び14日には1,100万バレル台半ば程度の量へと減少している。このようにシンガポールの中間留分在庫は不安定な動きをしている。シンガポールからの中間留分の輸出は比較的安定して推移している(それでも、東南アジア諸国等で新型コロナウイルス感染が拡大しつつあることもあり、経済活動が制限されるとともに、軽油等中間留分需要は盛り上がりに欠けるとの指摘もある)。他方、シンガポールは、韓国(環境への負荷の高い軽油を製造するために中国独立系石油会社が輸入していた分解軽質軽油(LCO: Light Cycle Oil)に対し中国政府が6月12日から消費税(1リットル当たり1.2元、1バレル当たり約29.7ドル)を賦課し始めたこともあり、それまで韓国から中国に輸出されていたLCOに対する中国独立系石油会社の購買意欲が低下したことにより、韓国で製造されたものの余剰となったLCOが他の諸国に振り向けられたものと考えられる)、インド(5月初旬に新型コロナウイルス新規感染者数が史上最高水準に到達したことにより、個人の外出規制及び経済活動制限を実施したこともあり、5月の軽油消費が落ち込んだことから、国内で余剰となった軽油が輸出されたものと見られる)等から軽油輸入を行ったものの、特に中国で第二回の石油製品輸出枠が付与されていないことにより、シンガポールの中国からの中間留分在庫輸入がほぼ皆無になったこともあり、総じて輸入が不安定であったことが、シンガポールでの当該製品在庫変動に影響しているものと考えられる。そして、そのような全体として方向感のないシンガポールの中間留分在庫の状況に加え、アジア諸国での春場の製油所のメンテナンス実施シーズンが終息に向かうとともに製油所の稼働が上昇、軽油を含む中間留分の製造が活発化する一方、東南アジアにおける新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の減速による軽油需要のもたつき、及びインドでの雨季(モンスーン)の接近に伴う軽油需要の抑制(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前の軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路及び建設工事の進捗が減速することなどにより物流や製造業等での軽油の利用が鈍化すること等による)が、中間留分需給緩和感を醸成させるとともに、例えばアジア市場での軽油価格の上昇を抑制する一方、原油価格はこの時期概して上昇傾向となったことから、6月中旬から7月中旬にかけアジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する方向で推移した。
6月9日に2,700万バレル弱程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、6月16日には2,400万バレル弱程度、6月23日には2,300万バレル台半ば程度の、それぞれ量へと減少した。6月30日には2,400万バレル弱程度の水準へと回復したものの、7月7日には2,200万バレル台後半程度の量へと減少しており、7月14日には2,300万バレル強程度の水準へと回復したものの、6月上旬から7月中旬にかけ当該在庫は総じて減少傾向を示した。中国で重質混合ビチューメン(主にマレーシアの製油所でベネズエラ産の重質原油に残渣重油等を混合したもので、中国では当該ビチューメンが原油輸入枠外であったことから原油輸入枠が不足気味である同国独立系石油会社が原油代替物として輸入していたと伝えられる)に対し同国政府が6月12日に消費税(1トン当たり1,218元、1バレル当たり約29.4ドル)を賦課するようになったこともあり、中国の独立系石油会社がその代替として直留重油(SRFO: Straight Run Fuel Oil)もしくは高硫黄直留重油(HSSR: High Sulphur Straight Run Fuel Oil)の輸入を始めたことによりシンガポールでの重油輸入が影響を受けたことが、重油在庫減少の背景にあるものと考えられる。そして、このようにシンガポールでの重油在庫が減少傾向となったことに加え、夏場の空調用電力供給のための発電部門向け燃料としての重油需要が堅調であったことに伴う、当該製品需給の引き締まり感の強まりがアジア市場での重油価格を押し上げたことが、シンガポールでの重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)を縮小させる方向で作用したものの、他方原油価格の上昇に重油価格のそれが追い付かなかったことに加え、アジアの製油所における春場の製油所メンテナンス作業の終了に伴う稼働上昇による重油製造活動の活発化と供給の増加観測が重油価格に下方圧力を加えたことで相殺されて余りあったこともあり、6月中旬から7月中旬のアジア市場での重油とドバイ原油の価格差は概して拡大する傾向を示した。
3. 2021年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場等の状況
2021年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場では、世界の一部諸国及び地域において新型コロナウイルス感染が拡大する兆候が見られたことで、それら諸国及び地域における経済及び石油需要の回復に対する懸念が市場で増大したことや、この先の米国金融当局による金融緩和縮小開始の観測に伴う米ドル上昇等が、原油相場に下方圧力を加える場面が見られたものの、6月19日にイランで保守強硬派候補が次期大統領に当選したこと等によるイラン核合意正常化を巡るイランと西側諸国等との協議の複雑化を巡る懸念が市場で増大したことや、米国原油在庫の減少傾向が継続したこと、7月5日に開催される予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合が中止となったことで、8月以降減産措置が縮小されない可能性が発生したことによる、世界石油需給引き締まり感の市場での強まりが、原油相場に上方圧力を加えたことから、6月11日には1バレル当たり70.91ドルの終値であった原油価格(WTI)は上昇傾向となり、7月13日には1バレル当たり75.25ドルと終値ベースでは2018年10月3日以来の高水準に到達した他、7月6日には一時同76.98ドルと2014年11月24日の取引日以来の高水準に到達する場面も見られた。しかしながら、その後7月14日にOPECプラス産油国間で減産措置を巡り妥協に向け協議が進展しつつあると伝えられた他、世界の一部諸国及び地域で新型コロナウイルス感染が拡大しつつあることにより、石油需要の伸びが鈍化するとの観測が市場で拡がったことから、原油価格は下落、7月16日には同71.81ドルの終値となっている(図18参照)。
6月14日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが発生したことに加え、新型コロナウイルス変異株による感染拡大により、6月21日に解除する予定であった英国での新型コロナウイルス感染拡大抑制のための経済活動制限措置の解除を7月19日まで延期する旨6月14日に英国のジョンソン首相が発表したことにより、同国等での経済及び石油需要回復に伴う石油需給引き締まり感が市場で後退したこと、6月14日にEIAから発表された掘削生産性報告(DPR: Drilling Productivity Report)で、EIAが2021年7月の米国主要7シェール鉱床における原油生産量が前月比で日量3.8万バレル増加し同780万バレルに到達する旨の見通しを明らかにしたことにより、世界石油需給緩和感を市場が意識したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、6月12日に実施されたイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議後、同日イラン外務省のアラグチ次官が、当該協議の決着までにはなお時間を要する旨明らかにしたことから、6月18日に実施されるイラン次期大統領選挙投票日までのイラン核合意正常化と米国の対イラン制裁解除及びイランからの原油供給拡大による世界石油需給緩和観測が市場で後退したことに加え、イラン次期大統領として有力視される同国のライシ司法代表(保守穏健派のロウハニ現大統領と異なる保守強硬派)が、自身の大統領選出後もイラン核合意正常化に向けた協議は継続するものの、当該核合意正常化に向けた努力を重要視しない旨明らかにしたと6月13日に報じられたことにより、当該核合意正常化による米国の対イラン制裁解除及びイランからの原油供給拡大時期が遅延するとの懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.03ドルの下落にとどまり、終値は70.88ドルとなった。6月15日には、6月16日にEIAから発表される予定である米国石油統計(6月11日の週分)で原油在庫が減少するとの観測が市場で発生したことに加え、6月15日に開催されたFTコモディティ・グローバル・サミットにおいて、大手国際石油商社ビトル(Vitol)のハーディ(Hardy)最高経営責任者が、米国の対イラン制裁解除によるイランからの原油供給拡大にもかかわらず、OPECプラス産油国の原油生産抑制により、2021年の残りの期間原油価格は1バレル当たり70~80ドルで推移するであろう旨の見解を明らかにした他、同じく大手国際石油商社トラフィギュラ(Trafigura)最高経営責任者ウィアー(Weir)氏も、世界石油需要がピークに到達する前に石油在庫が減少することにより、原油価格が1バレル当たり100ドルに到達する可能性もそれなりにある他100ドルの原油価格が10年程度継続する可能性がある旨発表したこともあり、この先の石油需給引き締まり感と原油価格先高感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.12ドルと前日終値比で1.24ドル上昇、終値としては2018年10月10日(この時は同73.17ドル)以来の高水準に到達した他、一時1バレル当たり72.99ドルの高値に到達する場面も見られた。6月16日には、この日午前10時半(米国東部時間)にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で736万バレルの減少と市場の事前予想(同250~330万バレル程度の減少)を上回って減少していたうえ、同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が4,355万バレルと2020年3月27日(この時は4,282万バレル)以来の低水準にまで低下した旨判明したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、6月15~16日の米国連邦公開市場委員会(FOMC)開催の際に行われた、会合参加者18人による金融政策見通しにおいて、2023年に金利引き上げが実施されると予想する参加者が13人と前回予想時(3月16~17日のFOMC開催時)の7人から増加し過半数となった他、同じく過半数の11人は2023年に少なくとも0.25%の金利引き上げを2回実施すると見込んでいる旨6月16日午後(米国東部時間)に判明したことにより、米国金融当局の金融緩和措置縮小観測が市場で発生したこともあり、米国株式相場が下落するとともに米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.03ドル上昇の上昇にとどまり、終値は72.15ドルとなった。また、6月17日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、6月16日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が前週比195万バレル増加と市場事前予想(同61~100万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことにより、当該製品需給緩和感を市場が意識した流れを引き継いだこと、6月16日現在の英国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が11,007人と前日の9,055人から増加、2月19日(この時は11,392人)以来の高水準となった旨6月17日にロイター通信が示唆したことにより、同国等での新型コロナウイルス感染再拡大と経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で発生したこと、6月15~16日のFOMC開催の際に示された、2023年における金利引き上げ見通しにより、金融緩和措置縮小に対する観測が市場で発生した流れを引き継いだこともあり、米国株式相場が下落するとともに米ドルが上昇したことから、この日(6月17日)の原油価格の終値は1バレル当たり71.04ドルと前日終値比で1.11ドル下落した。6月18日には、この日米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが、商品価格上昇の要因は、インフレリスクでも米国金融当局者の見通しでもなく、堅調な現物需要と需給の引き締まりに起因するものでのあることにより、直近のFOMCでの2023年の金利引き上げ見通しを主要因とする、原油を含む商品価格の下落は、投資家にとってはそれら商品購入の良い機会であると考えており、ブレント原油価格は2021年第三四半期には平均で1バレル当たり80ドルに到達するか、その水準を超過して上昇する可能性がある旨の見解を明らかにしたと同日報じられたことにより、原油の買い戻しが市場で発生したことに加え、6月15日に開催されたOPEC経済委員会(ECB: Economic Commission Board)で、石油産業関係者から入手した米国シェールオイル生産増加展望を検討した結果、2021年は同国シェールオイル生産増加量が日量20万バレルに止まるとの見通しに至った旨6月18日に報じられたことにより、この先も当面OPECプラス産油国が原油市場を支配する結果原油価格が上振れしやすい状況が継続するとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.60ドル上昇し、 終値は1バレル当たり71.64ドルとなった。
また、6月18日にはイランで次期大統領選挙投票が実施され、保守強硬派のライシ司法府代表が過半数の得票数を得て当選した旨6月19日に伝えられた(但し投票率は48.8%と1979年以降のイラン共和制の下においては史上最低水準となった)、ライシ師は、イラン核合意を破棄する意図は有していない旨表明しており、同国の経済回復に注力する姿勢を見せているものの、イラン核合意正常化に向けた西側諸国等との合意を必ずしも最優先事項として認識しているわけではない旨示唆したと6月13日に報じられていたうえ、6月20日に開催されたイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との間での合同委員会では依然として米国の対イラン制裁解除とイランの核開発制限に関し両国間で意見の相違があったと見られ、この日同委員会は特段の合意に至ることなく休会となった(近いうちに協議は再開されるが、日程は未定である)とされることもあり、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議が合意に至ることによる米国の対イラン制裁解除及びイランからの原油供給拡大を巡る不透明感が市場で拡大したことに加え、新型コロナウイルス感染沈静化後の世界経済回復に伴い世界石油需要が伸びる一方、主要企業が再生可能エネルギー投資を推進したり、シェールオイル開発支出を行う代わりに株主等への配当等の還元を行ったりすることに伴い、(石油探鉱・開発投資が低迷することを通じ)石油供給が制約を受けることにより、今後18ヶ月間平均で日量90万バレルの石油供給不足が見込まれるとともに、石油在庫が減少することもあり、原油価格は2022年にはブレント原油価格で1バレル当たり100ドル、WTI原油価格で同95ドルに到達する可能性があると予想する旨米国大手金融機関バンク・オブ・アメリカが6月20日付の調査書で明らかにしたと6月21日に伝えられたことで、この先の世界石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、2021年8月までに世界石油需要は2019年8月に到達した記録的水準である日量1.008億バレルを超過するかもしれない旨米国大手金融機関シディグループが明らかにしたと6月21日に伝えられたことで短期的な世界石油需給引き締まり感が市場で増大したこと、米国オクラホマ州クッシング(Cushing)の原油在庫が6月18日の週において260万バレル減少した旨米国石油関連情報サービス会社ジェンスケープ(Genscape)が明らかにしたと6月21日に報じられたことにより、米国原油先物契約受け渡し地点での石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、米国経済は急速に回復しつつあるものの同国金融当局による金融緩和措置縮小には不十分である旨の見解を6月21日に米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が明らかにしたこともあり、同国の金融政策引き締めは漸進的に進められるとの観測が市場で発生する中、これまでの下落に対し米国株式を買い戻す動きが発生したことにより米国株式相場が上昇した他、これまでの米ドルの上昇に対し同通貨を売却する動きが市場で発生したことにより、米ドルが下落したことから、6月21日の原油価格の終値は1バレル当たり73.66ドルと前週末終値比で2.02ドル上昇した。6月22日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、石油需給が引き締まっている他、米国の原油生産回復が緩やかであることもありOPECプラス産油国が8月以降減産措置をさらに緩和する方向で検討している(但しまだ最終決定はされていない)旨OPECプラス産油国関係筋が明らかにしたと6月22日に報じられたことにより、この先の石油需給引き締まり感が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.60ドル下落し 終値は73.06ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2021年7月渡し原油先物契約は取引を終了したが、8月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり72.85ドル(前日終値比0.27ドルの下落)であった)。6月23日の原油価格の終値は1バレル当たり73.08ドルと前日終値比で0.02ドルの上昇にとどまったが、8月渡し米国原油先物契約間では前日終値比で0.23ドルの上昇であった。これはこの日EIAから発表された米国石油統計(6月18日の週分)で原油在庫が前週比で761万バレルの減少と市場の事前予想(同350~390万バレル程度の減少)を上回って減少していたうえ、ガソリン在庫が同293万バレルの減少と市場の事前予想(同83~105万バレル程度の増加)に反し減少していた旨判明したことにより、同国石油需給引き締まり感を市場が意識したことによる。また、6月23日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が市場の事前予想を上回って減少している旨判明した流れは6月24日の原油市場に引き継がれたうえ、6月24日にドイツIFO経済研究所から発表された6月のドイツ企業景況感指数(2015年=100)が101.8と5月の99.2から上昇、2018年11月(この時は102.0)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(100.6~100.7)を上回ったことで、同国経済及び石油需要の回復に対する楽観的な見方が市場で増大したこと、6月24日に米国のバイデン大統領が超党派上院議員との間で8年間に渡る1.2兆ドル規模のインフラ投資案につき暫定的に合意した旨発表したことにより、同国経済成長加速に対する期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.22ドル上昇し、終値は73.30ドルとなった。また、国際原子力機関(IAEA)のイラン核関連施設等への査察に関するイランとの暫定合意期限である6月24日を過ぎても、当該合意延長に関しイラン側から連絡がない旨、6月25日にIAEAのグロッシ事務局長が明らかにしたことにより、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議に支障が発生する結果、米国の対イラン制裁解除及びイランからの原油供給拡大が遅延するとの観測が市場で増大したことに加え、6月25日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で372基と前週から1基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は358基と前週から横這い)している旨判明したことから、6月25日の原油価格の終値は1バレル当たり74.05ドルと前日終値比で0.75ドル上昇した。この結果原油価格は6月24~25日の2日間で1バレル当たり合計0.97ドルの上昇となった。
ただ、6月26日午後6時(現地時間)から7月9日午後11時59分(同)にかけ豪州最大の都市であるシドニーで都市封鎖措置を実施する旨同国ニューサウスウェールズ州政府が6月26日に発表した他、マレーシアでも新型コロナウイルス新規感染者数が高水準のままとなっていることにより6月28日に終了する予定だった全国規模の封鎖措置を延長する方針である旨同国のムヒディン首相が6月27日に明らかにしたうえ、6月27日時点のインドネシアの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が21,342人の史上最高水準に到達した旨6月28日に判明するとともに、英国でも新型コロナウイルス新規感染者数が増加しつつあるなど、世界の一部諸国で新型コロナウイルス感染が拡大しつつあることにより、この先世界経済回復が減速するとともに石油需要の増加が抑制される可能性があることに対する懸念が市場で増大したことに加え、6月28日の原油市場で、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したうえ、7月1日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合を前にした持ち高調整が市場で発生したことから、この日(6月28日)の原油価格の終値は1バレル当たり72.91ドルと前週末終値比で1.14ドル下落した。また、6月29日には、この日開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)において、OPECのバルキンド事務局長が、2021年5月の時点のOECD諸国石油在庫が過去5年平均水準を割り込んでいる他、2021年は世界石油需要が前年比で日量600万バレル増加し、うち同500万バレルの増加相当分が年後半に発生すると考えているものの、新型コロナウイルスデルタ変異株が世界石油需要にとって不透明要素である旨示唆したことにより、世界石油需要が回復する可能性があるにもかかわらずOPECプラス産油国は慎重な減産措置緩和を推進していく方針であると市場で受け取られたことが原油相場に上方圧力を加えた反面、新型コロナウイルスデルタ変異株拡大抑制のため、6月26日に豪州のシドニーで都市封鎖措置を実施して以降、6月29日にかけ都市封鎖措置の範囲が同国の他の地域にも拡大しつつあることにより、当該変異株による世界一部諸国及び地域での経済成長減速及び石油需要の回復の遅延に対する懸念が市場で増大したうえ、6月29日に開催されたOPECプラス産油国JTCで、減産措置の縮小規模につき減産措置参加産油国間で意見が調整できなかったことにより、当初6月30日に開催予定であったOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)(6月1日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際には7月1日開催予定と伝えられたが、6月15日には6月30日開催予定と報じられた)を7月1日に延期する旨6月29日に伝えられたことにより、7月1日に開催される予定であるOPECプラス閣僚級会合における減産措置の縮小方針に関する合意到達に対する懸念が市場で発生したことが原油相場に下方圧力を加えたことから、この日(6月29日)の原油価格は前日末終値比で1バレル当たり0.07ドルの上昇にとどまり、終値は72.98ドルとなった。しかしながら、6月30日には、この日EIAから発表された米国石油統計(6月25日の週分)で原油在庫が前週比672万バレルの減少と市場の事前予想(同385~470万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことに加え、今週再開される予定とされたイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との間での協議につき再開時期が不明である旨協議に近い筋が明らかにしたと6月30日に報じられたことにより、当該核合意正常化による米国の対イラン制裁解除とイランからの原油供給拡大に対する観測が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.47ドルと前日終値比で0.49ドル上昇した。また、7月1日には、この日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合で、2021年8~12月において1月当たり日量40万バレル程度の減産措置の縮小方針が決定される可能性がある旨伝えられたことで、8月は日量50万バレル程度の減産措置を縮小するとの市場の事前予想(同月は日量55万バレル程度減産措置が縮小される旨決定されると市場関係者が予想していると6月24日に伝えられていた)を下回っていたこともあり、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.76ドル上昇し、終値は75.23ドルとなり、終値ベースとしては2018年10月3日(この時は同76.41ドル)以来の高水準に到達した。また、この結果原油価格は6月30日~7月1日の2日間で1バレル当たり合計2.25ドル上昇した。ただ、7月2日には、この日開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合(当初予定の7月1日から1日遅延)において、この先の減産措置の縮小、及び当初2022年4月末までとされた減産措置実施期間の2022年末までの延長につき協議されたものの、UAEが減産の基準となる原油生産量を引き上げることを要求、それが受け入れなければ、減産措置の延長案を承認しない旨主張したことに伴い、議論が紛糾するなどしている旨示唆されたことにより、当該会合の結果を巡り市場が様子見となった(この日の原油価格の終値計上時点ではOPECプラス産油国閣僚級会合は終了していなかった)ことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.07ドルの下落に止まり、終値は75.16ドルとなった。
また、7月4日の米国独立記念日(インディペンデンス・デー)に伴う振替休日により、7月5日の米国原油先物市場においては原油価格の終値は計上されなかったが、7月5日に開催される予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合が中止となったことに伴い8月以降の減産措置が規模を縮小せず実施される可能性が高まったことにより、この先の世界石油需給引き締まり観測が市場で増大したことから、7月6日未明(米国東部時間)の時間外取引では、原油価格が一時前週末終値比で1バレル当たり1.82ドル上昇し76.98ドルと2014年11月24日の取引日(この日の高値は同77.02ドル)以来の高水準に到達する場面も見られた。それでも、その後、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、7月5~6日に米国バイデン政権がサウジアラビアやUAE等のOPECプラス産油国関係者に対し減産措置縮小のための協議進展を働きかけている旨示唆したこともあり、早晩OPECプラス産油国間で減産措置縮小が決定されるとの楽観的な見方が市場で発生した一方、OPECプラス産油国間での原油生産調整を巡る結束に対し疑問視する見方が市場で増大したこと、7月7日に発表される予定であるFOMC議事録(6月15~16日開催分)を控えた持ち高調整が発生したことにより米ドルが上昇したことから、この日(7月6日)の原油価格の終値は1バレル当たり73.37ドルと前週末終値比で1.79ドル下落した。また、7月7日も、この日ドイツ連邦統計庁から発表された5月の同国鉱工業生産が前月比で0.3%の減少と市場の事前予想(同0.5%上昇)に反し減少していた旨判明したことにより、ユーロが下落したうえ、6月15~16日に開催されたFOMCで、金融緩和縮小に向けた議論が開始され、現時点では縮小実施のための雇用最大化及び物価安定の条件は整っていないものの、整う方向に向け進展し続ける旨認識されるとともに、複数の出席者が縮小開始条件はこれまでの予想よりも幾分早期に充足されると見ている旨7月7日に発表されたFOMC議事録で明らかになったこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.17ドル下落し、終値は72.20ドルとなった。この結果原油価格は7月6~7日の2日間で1バレル当たり合計2.96ドル下落した。ただ、7月8日には、これまでの原油価格下落に対し、値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、7月8日にEIAから発表された米国石油統計(7月2日の週分)で原油在庫が前週比で687万バレル、ガソリン在庫が同608万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫同400万バレル程度、ガソリン在庫同220万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少していた他、同国ガソリン需要が日量1,004万バレルと1991年2月以降の米国週間統計史上最高水準に到達していた旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.74ドル上昇し、終値は72.94ドルとなった。また、7月9日も、7月8日にEIAから発表された米国石油統計で原油及びガソリン在庫が市場の事前予想を上回って減少していた他、同国ガソリン需要が米国週間統計史上最高水準に到達していた旨判明した流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.56ドルと前日終値比で1.62ドル上昇した。この結果原油価格は7月8~9日の2日間で1バレル当たり合計2.36ドルの上昇となった。
ただ、7月9~10日に開催された20ヶ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会合において、新型コロナウイルス変異株が世界経済を下振れさせるリスクを内包している旨を内容とする共同声明が7月10日に発表されたうえ、7月12日に東京都で新型コロナウイルス感染抑制のための緊急事態宣言が発出された他、同日韓国でも新型コロナウイルス感染抑制のためソウル首都圏で夜間の個人の外出規制を強化、欧州でも新型コロナウイルス感染者数が増加傾向となっているなどしていることにより、世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したこと、加えて、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが7月12日の市場で発生したこと、そして、世界の一部地域で新型コロナウイルス感染が拡大しつつあることもあり、安全資産である米ドルの購入が進んだこともあり、米ドルが上昇したことから、7月12日の原油価格の終値は1バレル当たり74.10ドルと前週末終値比で0.46ドル下落した。それでも、7月14日にEIAから発表される予定である米国石油統計(7月9日の週分)で原油及びガソリン在庫が前週から減少している旨判明するとの観測が7月13日の市場で発生したことに加え、7月13日に国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで、IEAが、OPECプラス産油国間での原油生産方針等を巡る協議が妥協に到達するまで、減産措置は7月の水準に留まることになり、従って新型コロナウイルス感染が沈静化に向かうとともに石油需要が回復する中で石油需給が大幅に引き締まるであろう旨指摘したこと、イラン核合意正常化を巡る西側諸国等とイランとの協議再開は8月にライシ次期大統領が就任するまで実施されない見込みである旨7月13日に報じられたことにより、当該協議が長期化することにより、米国の対イラン制裁解除及びイランからの原油供給拡大の時期が遅延するとの懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.15ドル上昇し、終値は75.25ドルと、終値ベースでは2018年10月3日(この時は同76.41ドル)以来の高水準に到達した。ただ、7月13日に中国税関総署から発表された2021年1~6月の同国原油輸入量が2.61億トンと前年同期(2.69億トン)から3.0%程度減少している旨判明したことにより、同国石油需要の減速懸念が市場で発生した流れを7月14日の市場が引き継いだことに加え、UAEの基準原油生産量を現行の日量316.8万バレルから2022年5月以降は同365万バレルに引き上げる一方UAEは2022年末までの減産措置の延長で合意する方向で両国間の妥協が成立しつつある(後述)ことにより、7月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合の際に議論したとされる、今後の減産措置の規模縮小が決定されることに伴い、世界石油需給が相対的に緩和に向かうとの観測が市場で発生したこと、7月14日にEIAから発表された米国石油統計で、ガソリン在庫が前週比104万バレルの増加と市場の事前予想(同180万バレル程度の減少)に反し増加しているうえ、留出油在庫が同366万バレルの増加と市場の事前予想(同88万バレル程度の増加)を上回って増加している旨、判明したことにより、同国石油製品需要の減速を市場が意識したこと、7月13日時点の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数がインドネシア、マレーシア及び韓国で史上最高水準に到達した旨7月14日に判明した他、オーストラリアのシドニーで導入されていた都市封鎖を延長する旨7月14日にニューサウスウェールズ州政府が発表する(後述)など、新型コロナウイルス感染拡大による世界経済及び石油需要の回復に対する懸念が市場で増大したことから、この日(7月14日)の原油価格の終値は1バレル当たり73.13ドルと前日終値比で2.12ドル下落した。また、7月15日も、UAEとサウジアラビアとの間でのOPECプラス産油国間での減産措置を巡る協議が進展しつつあることにより、この先OPECプラス産油国間で合意に到達することにより、減産措置の縮小が図られるとの観測が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、7月14日にEIAから発表された米国石油統計で、ガソリン在庫が市場の事前予想に反し増加している旨判明したことにより同国ガソリン需要の弱さを市場が意識した流れを引き継いだこと、7月15日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(7月10日の週分)が、36.0万件と前週の38.6万件から減少したこともあり米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.48ドル下落し終値は71.65ドルとなった。この結果原油価格は7月14~15日の2日間で1バレル当たり合計3.60ドル下落した。7月16日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、7月16日に米国商務省から発表された6月の同国小売売上高が前月比で0.6%の増加と市場の事前予想(同0.3~0.4%の減少)に反し増加していた旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.16ドル上昇し、終値は71.81ドルとなった。
4. 原油市場における主な注目点等
地政学的リスク要因面での主な注目点は、まず、イラン等の中東情勢動向であろう。6月18日に実施されたイラン大統領選挙投票では、反米保守強硬派候補であるライシ司法府代表が勝利した旨6月19日に報じられた。しかしながら、投票率は48.8%と2017年5月19日に実施された前回大統領選挙(73.3%で過去最高)を大幅に下回り、最高指導者ハメネイ師及びライシ師による同国の統治体制に対する国民の信任が十分に得られていない状況が示唆されることにより、今後の政権運営及び国内情勢に不安を残す格好となった。6月21日に、ライシ師は、イラン核合意の維持を希望するものの、同時に米国に対イラン制裁を全面的に解除するよう要求する他、イランの周辺地域等への支援活動及び弾道ミサイル等の兵器開発計画の制限については協議する意向はない旨表明した。また、6月20日にはイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との間での合同委員会がオーストリアのウイーンで開催され、欧州連合(EU)欧州対外活動庁(EEAS)のモラ事務局次長は正常化に向け接近しつつある旨同日明らかにししたものの、依然解決すべき問題が残っているとされ、協議は一旦中断した。6月24日には、米国政府幹部が、イラン核合意正常化に向けた協議が長期化するようであれば、米国は当該問題におけるイランへの対応を再考することもありうるとの見解を披露した。そして、7月14日に、イランは、ライシ師が大統領に就任した後に、イラン核合意正常化に向けた西側諸国等との協議を再開する意向である旨伝えられた。ライシ次期大統領は8月5日に就任するとされるが、準備の都合上協議再開は8月中旬以降になると見る向きもある旨7月14日に報じられる。
前述の通りライシ師は、イラン核合意の維持を希望するものの、同師は現在の最高指導者であるハメネイ師の後継と目されることもあり、イラン反米保守強硬派の威信をかけ、米国の対イラン制裁の全面解除を要求する他、イランによる弾道ミサイル等の兵器開発及び周辺諸国における支援活動については西側諸国等との議論を受け入れるつもりはない旨主張する等、イラン核合意正常化に向けた協議において強硬な姿勢で臨む結果、ロウハニ現大統領主導で当該協議を実施していた時に比べ、さらに交渉過程が紆余曲折を経やすくなることにより、米国の対イラン制裁解除に伴うイランからの原油供給拡大と世界石油需給緩和に対する市場の期待が後退することにより、この面では相対的に原油相場への下方圧力が軽減されることになる可能性があるものと考えられる。
ただ、既にイランの原油生産量は2020年10月(米国大統領選挙投票日である11月3日の直前月)に日量196万バレルであったものが、2021年6月には同245万バレルに到達するなど、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議を見越したものと思われるイランの原油供給拡大が見られる。そして、今後も、イラン核合意正常化に向けた協議の過程(及び米国の対イラン制裁解除がなされる前)において、イランからの原油供給が拡大することにより、相対的に石油需給緩和感が市場で醸成されるとともに、原油相場に下方圧力を加える場面が見られるといった展開となることも否定できない。
他方、6月23日朝(現地時間)には、イランのテヘラン近郊にある核開発のための遠心分離機製造施設に小型無人攻撃機が飛来し攻撃を試みたものの、イラン側が迎撃した旨同日報じられる。また、6月24日には、国際原子力機関(IAEA)によるイラン核開発関連施設等への査察に関する暫定合意(この合意が失効した場合、2月21日以降イランが収録し保管している同国核開発関連施設等の映像が廃棄される可能性がある)の延長に関する期限が到来したが、6月25日時点でイランが当該期限を延長するかどうかにつき返答がない旨IAEAのグロッシ事務局長が同日明らかにした。他方、6月28日には、イラン外務省がIAEAと同国とのイラン核査察に関する暫定合意の取り扱いについては未決定である旨明らかにした(本件については、それ以降時事上膠着状態となっている)。そのような中、イランは研究用原子炉の燃料に使用するため最大20%の濃縮度の金属ウラン(核弾頭の部品としての利用が可能であるとされる)を製造する方針である旨IAEAに通知してきたと7月6日にIAEAのグロッシ事務局長は明らかにした(2015年7月14日に到達したイラン核合意では15年間金属ウランの製造は禁止されていたものの、2021年2月6日にイランが少量の金属ウラン製造を行ったことを2月8日に確認した旨2月10日にIAEAが明らかにしたが、3月4日にはイランが金属ウラン製造を中止した旨伝えられていた)。英国、フランス及びドイツはイランのこの行為を深刻な核合意違反であると7月6日に非難した他、米国国務省のプライス報道官も同日遺憾の意を表明した。
また、6月19日に、イエメンのフーシ派武装勢力が、サウジアラビア南西部の都市ハーミス・ムシャイト(Khamis Mushait)にある同国空軍の拠点に向け無人攻撃機を発射したが、サウジアラビアの空軍は、それらを迎撃した旨同日報じられた。さらに、4月以降少なくとも5回に渡り米軍もしくは米軍が主導する連合軍の拠点に対し無人攻撃を行ったとして、米国国民を防衛するという意志を示すべく、6月28日未明(現地時間)に米軍は、シリア国内2ヶ所及びイラク国内1ヶ所にある、カタイブ・ヒズボラ(Kataib Hezbollah)及びカタイブ・サイード・アル・シュハダ(Kataib Sayyid al-Shuhada)を含む、親イラン武装勢力の拠点等を戦闘機により空爆した旨、6月27日(米国東部時間)に米国国防省が発表した。6月28日には、カタイブ・サイード・アル・シュハダが今回の空爆で関係者4人が死亡したと主張、報復を実施する旨表明した(イラン外務省も米軍による空爆実施に対し中東地域を不安定化させる行為である旨6月28日に批判した他、イラクのカディミ首相も米軍による空爆をイラクの主権を侵害する行為であるとして非難したと6月28日に伝えられる)。6月28日には、親イラン武装勢力がシリア東部デリゾール県アルオマール(Al Omar)油田付近で、シリア民主軍(SDF)を支援するために駐留している米軍部隊に対し複数のロケット弾を発射した。また、米軍は親イラン武装勢力の拠点のあるシリア東部マヤディーン(Mayadeen)を攻撃した旨6月28日に伝えられる。このような、IAEAによる対イラン核査察を巡るイランとIAEA及び西側諸国等との対立、そして中東の一部地域等におけるミサイル攻撃等により、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議の状況が一層複雑化する、もしくは複雑化するとの懸念が市場で増大することで、原油価格が変動する場面が見られることもありうる。
経済面では、新型コロナウイルス感染、新型コロナウイルスワクチンと治療薬の開発及び普及、そして世界各国及び地域の個人の外出規制及び経済活動制限の状況等が、世界経済成長及び石油需要の伸びに関する観測を市場で発生させることを通じ、原油相場に影響を及ぼすことになるであろう。インドでは7月16日現在1日当たり新型コロナウイルスワクチン新規感染者数が38,079人と5月6日に記録した過去最高水準である414,188人の10分の1以下の水準にまで低下したこともあり、6月14日には同国は個人外出規制及び経済活動制限を部分的ではあるが緩和し始めた。米国では、ニューヨーク州及びカリフォルニア州で飲食店及び小売店の入場制限等の経済活動制限措置につき一部を除き6月15日を以て解除した。欧州一部諸国でも新型コロナウイルスワクチン接種普及進展に伴い個人の外出規制及び経済活動制限の緩和を実施しつつあり、6月21日を以て大部分の制限を解除する方針である旨2月22日に決定した英国では、新型コロナウイルス感染者増加により当該制限を7月19日まで延長する旨同国のジョンソン首相が6月14日に明らかにしたものの、7月12日に英国のジャビド保健相が当該制限は一部を除き7月19日で解除する方針である旨明らかにした。
しかしながら、足元では米国及び欧州においてデルタ変異株等により新型コロナウイルス感染が再拡大しつつある。また、アジア太平洋地域でも7月15日時点の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数がインドネシアで56,757人、マレーシアで13,215人の、それぞれ史上最高水準に到達したうえ、韓国で7月13日時点の1日当たり新型コロナウイルス感染新規感染者数が1,615人の史上最高水準に到達した旨7月14日に判明した他、7月14日には豪州のニューサウスウェールズ州政府が、新型コロナウイルス感染抑制のため6月26日(午後6時)から7月16日まで実施の予定(当初7月9日まで実施の予定であったが1週間延長する旨7月7日にニューサウスウェールズ州政府が発表)であった、シドニーに対し導入された都市封鎖を7月30日まで延長する旨発表するなど、一部地域で新型コロナウイルス感染が拡大しつつある。今後も一部諸国及び地域では新型コロナウイルス感染が拡大することにより、個人の外出規制及び経済活動制限の緩和が足踏み状態となったり、規制が再強化されたりする結果、それら諸国及び地域での経済活動の減速及び石油需要の伸びが鈍化することにより、石油需給引き締まり感が市場で後退することが原油価格に織り込まれるといった展開となることもありうる。
また、バイデン政権は、3月31日に発表した2.25兆ドル規模のインフラ整備に向けた投資を中心とする追加経済対策に関し、その一部を切り離して8年間で1.2兆ドルの規模の投資とすることで、6月24日に同国連邦議会上院超党派議員との間で合意に到達した(但し米国連邦議会下院のペロシ議長は共和党が反対する部分を修正すること等により、より広範囲に渡る内容を含む法案としなければ審議及び採決する意向はない旨表明したと6月24日に伝えられる)。また、バイデン大統領と米国連邦議会超党派議員との間で合意したインフラ整備計画を修正すべく、7月1日には、米国連邦議会下院は7,150億ドル規模のインフラ投資計画法案(陸上輸送インフラ整備や気候変動問題対応等、バイデン大統領と米国連邦議会超党派議員との間で合意したインフラ整備計画には含まれていないものが含まれている)を賛成多数で承認した。他方、7月13日には米国連邦議会上院民主党が3.5兆ドル規模の予算措置につき合意した他、バイデン大統領と超党派議員との間で合意した1.2兆ドル規模のインフラ整備のための投資法案に関する審議開始のための採決を7月21日に実施すべく準備を進める旨米国連邦議会上院民主党のシューマー院内総務が7月15日に明らかにした。今後米国連邦議会上院及び下院の民主党及び共和党議会関係者等の間でさらに検討及び審議等が進められることになるものと見られるが、当該調整が前進している、もしくは前進する兆候が見られるようであれば、米国経済が一層浮揚するとともに、石油需要が増加するとの期待が市場で増大する結果、原油価格が上振れするといった展開となることも想定される。
さらに、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の実施による同国経済成長鈍化の可能性に対処するため、2020年3月15日に米国連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げるとともに、緩和的な金融政策を推進してきた。また、2020年8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均で2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価上昇率が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、2021年2月24日にもパウエル議長はインフレ目標に到達するまでには3年を超過する期間を要する可能性がある旨の見解を披露した。
しかしながら、7月13日に米国労働省から発表された6月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月で5.4%の上昇と、5月の同5.0%、4月の同4.2%、3月の同2.6%、2月の同1.7%の、それぞれ上昇から上昇率が拡大している旨判明したことに加え、例えば6月15~16日に開催されたFOMCに際し行われた、会合参加者18人による金融政策見通しにおいては、2023年に金利引き上げが実施されると予想する参加者が13人と前回予想時(3月16~17日のFOMC開催時)の7人から増加し過半数となったうえ、同じく過半数の11人は2023年に少なくとも0.25%の金利引き上げが2回実施されると見込んでいる旨6月16日午後(米国東部時間)に判明した。また、5月20日にはダラス連邦準備銀行のカプラン総裁、5月21日にはフィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁、6月18日にはセントルイス連邦準備銀行のブラード総裁、6月23日にはアトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁、6月26日にはボストン連邦準備銀行のローゼングレン総裁、7月2日にはサンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁等複数の米国金融当局幹部が金融緩和の縮小につき、それぞれ言及し始めている他、6月15~16日に開催されたFOMCでは、金融緩和縮小に向けた議論が開始され、現時点では縮小実施のための雇用最大化及び物価安定の条件は整っていないものの、今後整う方向に向け進展し続ける旨認識されるとともに、複数の出席者が縮小開始条件はこれまでの予想よりも幾分早期に充足されると見ている旨7月7日に発表された議事録で明らかになった。
他方、6月22日にFRBのパウエル議長及び6月24日にニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が、現時点では物価上昇率の拡大は一時的なものである等金融緩和縮小には時期尚早であることを示唆する見解を明らかにするなどしている(7月14日に開催された米国連邦議会下院金融サービス委員会及び7月15日に開催された同国連邦議会上院銀行委員会においてもパウエル議長は同趣の発言をしている)。
このため、米国金融当局関係者による金融緩和措置縮小に関する議論は行われ始めているものの、現時点では縮小方針については必ずしも大きな流れが形成されつつあるようにも見受けられず、市場関係者間では当面金利引き上げを含む金融緩和措置の縮小は実施されないか、実施されたとしても長期間を要するとともに比較的緩やかなものとなるとの認識が強いと見られることから、この面では少なくとも短期的には、緩和的な金融環境の下、低コストで調達された資金が原油市場に流入し続けることにより、原油相場が下支えされるといった展開が見られやすいものと考えられる。
また、7月に入り米国主要企業等の2021年4~6月等の業績が発表され始めているが、それら企業の業績もしくは2021年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼすこともありうる。
米国では、9月6日の労働祭(レイバー・デー)に伴う連休(9月4~6日)まで、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が最終消費段階では継続する。しかしながら、製油所の段階では7月後半以降は秋場の石油不需要期が徐々に視野に入ってくることもあり、メンテナンス作業実施等に向け稼働を引き下げるとともに原油精製処理量を減少させ始める。それに従い原油の購入も不活発になってくると考えられる他、市場でも季節的な需給の緩和感が醸成され始める。このためこの面では、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと見られる。
また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が遮断されることを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2019年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した(2020年は米国等の石油市場が新型コロナウイルス感染拡大により影響を受けたこともあり2019年の数値を用いることとする、以下同様))。5月20日発表の国立海洋大気局(NOAA)国立ハリケーンセンター及び7月8日時点のコロラド州立大学の見通しによると、2021年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が見込まれている他、コロラド州立大学による暴風雨発生予想は時間の経過とともに上方修正されている(表5参照)。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合ではそれなりの量の原油が生産されている(2019年は当該地域で日量188万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体の約15%を占める)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2019年の当該地域の原油精製処理能力は日量866万バレルと米国全体の約47%を占める)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間での石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に及ぶ場面が見られることもありうる。
7月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、基準原油生産量の引き上げが認められなければ2022年末までの減産措置の延長には賛成しない旨UAEが主張、サウジアラビア等との意見の相違が解消できなかった結果、当該問題を継続して議論するはずであった7月5日開催予定の閣僚級会合も中止となった。しかし、その後も調整が続けられた結果、7月18日には再度OPECプラス産油国閣僚級会合が開催された結果、UAEを含む一部OPECプラス産油国の基準原油生産量を2022年5月以降引き上げることに加え、2022年末まで減産措置を延長することと併せ、8月以降毎月日量40万バレルずつ減産措置を縮小する旨決定した。
今般OPECプラス産油国間での減産措置の取り扱いにつき妥協が成立したことにより、8月以降のOPECプラス産油国による減産措置が縮小することなく7月と同水準で推移するとの市場の懸念が後退することが原油相場に下方圧力を加えると同時に、OPECプラス産油国間での原油生産を巡る結束の乱れに関する懸念も市場で後退することが原油相場に上方圧力を加える可能性がある。
また、8月以降毎月日量40万バレルずつ減産措置を縮小した場合でも、現時点の世界石油需給バランス上は、2021年末にかけては、需要が供給を超過するため、供給不足感から原油相場に上方圧力が加わるといった展開もありうる(表6参照)。他方、2022年において毎月日量40万バレルずつ減産措置を縮小し続けた場合、2021年第三及び第四四半期における世界の石油供給不足は2022年第一四半期の石油供給過剰でほぼ相殺される他、2022年第二四半期以降はさらに相当程度石油供給過剰となることが予想される(表7参照)ことから、この時点でOPECプラス産油国は減産措置の再調整を行う必要性に迫られるとことも想定される。また、従来減産措置に参加するOPECプラス産油国各国の減産規模は基準原油生産量をもとに決定されていたことから、2022年5月1日以降一部OPECプラス産油国の基準原油生産量の改定により各国の減産目標が変更される可能性がある。
他方、今回の閣僚級会合開催に際し、改めて米国が国内ガソリン小売価格に影響を与える原油価格に関心を持っていることが確認される格好となった。これは、今後も原油価格が上昇を続け、それが米国国民の不満を高める方向で国内ガソリン小売価格に影響を及ぼすようであれば、米国はOPECプラス産油国に対し事実上の働きかけを行う場面が見られても不思議ではないということを示唆している。従って、原油市場関係者間もそうようなOPECプラス産油国と米国の関係を認識することにより、例えば、原油価格が上昇し続けようとする状況が発生したとしても、米国による事実上の圧力を通じOPECプラス産油国が増産等原油価格の上昇回避のために行動するとの観測が市場で広がる結果、かえって原油相場の上昇が抑制される格好となりやすいものと考えられる。もっとも、新型コロナウイルス感染拡大による世界経済及び石油需要回復への影響を巡る不透明感が残存している状況もあり、OPECプラス産油国は、米国から事実上の原油価格抑制圧力が加わっても、同時に原油価格の急落を回避しようと試みることで、減産措置の緩和に対する行動が後手に回る結果、市場での世界石油需給引き締まり感がより強まることを通じ、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。
全体としては、今後米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることにより、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることを通じ、原油相場には下方圧力が加わりやすくなる可能性がある。そしてそのような中で、世界各国及び地域における新型コロナウイルス感染と個人の外出規制及び経済活動制限を巡る動向、米国金融当局関係者による金融緩和縮小を巡る発言、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等の協議を含む中東情勢、OPECプラス産油国の減産措置を巡る議論等の状況、米国メキシコ湾地域におけるハリケーン等暴風雨の来襲状況及び予報等が原油相場に影響を与えていくものと考えられる。
以上
(この報告は2021年7月19日時点のものです)