ページ番号1009107 更新日 令和4年1月14日

メジャー企業の2021年第2四半期決算―需要回復と油価の後押しで好決算

レポート属性
レポートID 1009107
作成日 2021-08-25 00:00:00 +0900
更新日 2022-01-14 15:36:17 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業
著者 川田 眞子
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 12
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
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地域3
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地域6
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地域8
国8
地域9
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地域10
国10
国・地域 グローバル
2021/08/25 川田 眞子
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修正:2022/1/14

概要

  1. メジャー企業の2021年第2四半期決算は、パンデミックで落ち込んだ石油・ガス需要の回復と油価の上昇傾向の継続により、前期に続き全社黒字となった。COVID-19の感染拡大と油価の下落で全社赤字決算となった前年同期からV字回復を遂げた。全社ともフリーキャッシュフローが増加し、増配、自社株買いなど、好決算を受けたアクションがあった。
  2. 好決算とはいえ、設備投資の増加を明言するメジャー企業はなかった。逆にShellやTotalEnergiesは、油価上昇にもかかわらず上流投資を慎重に行う方針を明らかにした。メジャー企業は、“エネルギートランジション”や財務規律を理由に上流投資を削減してきたが、結果として長期的には石油市場のタイト化に繋がり、メジャー企業は油価上昇の恩恵を受けて巨額の利益を上げている。カーボンニュートラル対応に集中する姿勢を全面に出しつつ、投資削減の帰結である油価上昇・フリーキャッシュフロー増加の恩恵に与るところにメジャー企業の戦略の本質を垣間見ることができる。

 

1. メジャー企業の2021年第2四半期決算の概要

メジャー企業の2021年第2四半期決算は、パンデミックで落ち込んだ石油・ガス需要の回復と油価の上昇傾向の継続により、前期に続き全社黒字となった。COVID-19の感染拡大と油価の下落で全社赤字決算となった前年同期からV字回復を遂げた。

表1:決算の概要

表1:決算の概要

(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)

 

特に今期は油価の上昇を受けて、全社フリーキャッシュフローを大きく増やした(図1)。フリーキャッシュフローは、今期の油価と近い70ドル台で推移していた2018年の水準と近くなっており、油価の回復とともに財務状況が回復してきていることが分かる。

図1 過去3年のフリーキャッシュフローとブレント価格の推移 1

図1 過去3年のフリーキャッシュフローとブレント価格の推移 2
図1:過去3年のフリーキャッシュフローとブレント価格の推移
(Evaluate Energyなど各種資料を基にJOGMEC作成)

フリーキャッシュフローの増加は、企業行動に変化をもたらし、メジャー5社中4社が株主還元策を発表した。昨年、油価の下落を受けて減配が相次いでいたため、各社にとって株主還元は喫緊の課題となっている。図2のとおり、油価は回復したにもかかわらず全社とも株価は回復しておらず、投資家へのアピールに苦戦している。

図2:過去3年の株価推移
図2:過去3年の株価推移
(日経バリューサーチを基に作成)

また、低炭素事業について今回は全社とも具体的な取り組み内容への言及があった。欧州系3社は再生可能エネルギー(再エネ)発電量の増加を強調する一方で、米系はCCSやバイオ燃料などの取り組みを行っている。Chevronは、CEO直下で低炭素事業を行うChevron New Energiesを設立したが、大規模な太陽光・風力発電は行わないと明言しており、米系・欧州系の間で低炭素路線の違いが表れてきたと言えよう。

 

表2:各社の動き

表2:各社の動き

(各社資料を基にJOGMEC作成)

 

2. 各社決算動向

(1) ExxonMobil

ExxonMobilの2021年第2四半期決算は、前年同期10.8億ドルの純損失から46.9億ドルの純利益となった。全事業が好調だったが、特に化学部門は過去最高の業績を記録した。しかしExxonMobilは、株主への還元を進める他社とは異なり、増配や自社株買いは行わず負債の返済に注力し、現在の負債は606億ドル(前期比27億ドル減)となっている。

石油・ガスの生産量は、予定されていたメンテナンスにより前期の3.7mmboe/dをわずかに下回り3.6mmboe/dとなった。今期における米国・パーミアンでの生産量は、平均で40万boe/dとなり、2020年の同時期と比較して5万b/d増加した。今後の上流事業について、同社はガイアナでの継続的な探鉱・開発の進展を目指している。また、ブラジルでは今期、Bacalhauプロジェクトの最終投資決定(FID)を行い、2024年の操業開始に向けて順調に進めている。2021年下半期は、パーミアン、ガイアナ、ブラジルの上流部門のプロジェクトと化学部門で設備投資が行われる予定である。

ExxonMobilはこれまでCCS事業への注力を掲げてきたが、今期は具体的な動きがみられた。2021年7月、英国・スコットランドのAcorn CCSプロジェクト参加に関する覚書が、また、フランス・ノルマンディー地方でのCCS技術開発についての覚書がそれぞれ締結された。加えて、2025年までに低炭素燃料(low-emission fuels)の生産量を4万b/d増加させると発表した。CEOは「米国・カリフォルニア州やカナダのように、低炭素燃料政策が低排出燃料の開発にインセンティブを与える市場では、スケールアップの機会がある」と述べており、北米でも事業拡大を狙っている。

 

表3:ExxonMobil決算概要

表3:ExxonMobil決算概要

(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)

 

(2) Royal Dutch Shell

Royal Dutch Shellの2021年第2四半期決算は、前年同期181.3億ドルの純損失から34.3億ドルの純利益となった。全部門が好調で101.8億ドルのフリーキャッシュフローを記録し、前期比38%の増配と自社株買いの再開を発表した。Shellは昨年初めに、第二次世界大戦後最大となる約66%の減配を実施しており、株主への利益還元は肝要であった。

石油・ガスの生産量は、資産売却などの影響で前期7%減の3.2mmboe/dとなった。Shellは7月、トリニダード・トバゴのBlock 5Cからのガス生産が開始したことを発表し、加えて米国・メキシコ湾では同月、Whale油田のFIDを行った。

Shellは純負債を650億ドルに引き下げる長期的な目標[1]を掲げていたが、潤沢なフリーキャッシュフローにより今期時点の純負債は657億ドルとなり、前期と比較して56億ドル減少した。財務状況は順調に改善しているが、今年中は引き続き資本規律を重視するとしている。CEOのBen van Beurden氏は、「もし今年、設備投資の増加があるとすれば、将来のビジネスに使われるであろう」と述べた。“将来のビジネス”について、今期はフランスEDFとの合弁会社Atlantic Shores Offshore Windが米国・ニュージャージー州で洋上風力電力供給のための権利を得るなどしており、他企業とのパートナーシップを通じて電力事業を進めている。

また、事業戦略のリスクとして気候変動についても言及があった。決算報告書では「気候変動への懸念とエネルギートランジションが化石燃料需要や価格に影響する可能性がある。その結果、法的問題や政策の変更がありプロジェクトの中断や遅延、訴訟リスクなどが生じるかもしれない。」と述べ、オランダ・ハーグ裁判所における気候変動裁判[2]についても触れた。同裁判の展開によっては、Shellだけでなく業界全体に訴訟の波が及ぶ可能性があり、今後も動向が注視される。

 


[1] Shellは2021年7月に純負債を650億ドルに引き下げる目標を撤回し、現在は「サイクルを通じたAAクレジットメトリクス(AA credit metrics through the cycle)」に焦点を当てることにしている。
詳細:https://www.shell.com/investors/debt-information/credit-ratings.html(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[2] 気候変動活動家がShellの気候変動対応が不十分であるとしてオランダ・ハーグ地裁に提訴し、2021年5月、Shellに対して二酸化炭素排出量を2030年までに2019年比で45%削減するように求める判決が下された。Shellはこの判決を不服とし、控訴するとしている。
詳細:https://www.shell.com/media/news-and-media-releases/2021/shell-confirms-decision-to-appeal-court-ruling-in-netherlands-climate-case.html(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

表4:Royal Dutch Shell決算概要

表4: Royal Dutch Shell決算概要

(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)

 

(3) BP

BPの2021年第2四半期決算は、大幅減損を記録した前年同期168.5億ドルの純損失から31.2億ドルの純利益となった。油価の後押しで前期に続き好決算となり負債の返済を進め、さらに一株あたり4%の増配と14億ドルの自社株買いの計画を発表した。

石油・ガスの生産量(ロスネフチを含む)は、前期から7%減の3.2mmboe/dとなった。

BPが、「総合エネルギー企業(Integrated Energy ‎Company)」を目指す新戦略[3]を発表してから1年が経った。この1年、同社は21GWの再エネパイプラインの建設、100億ドル以上の資産売却、財政基盤の強化などを行ってきた。また今期は、インド、エジプト、アンゴラ、米国・メキシコ湾でのプロジェクトが生産を開始した。再エネ分野では、米国、欧州、豪州においてさらに成長し、電気自動車(EV)分野では英国初のフリート(fleet)専用EV急速充電ハブをロンドンに設置した。

このようにBPは、総合エネルギー企業への転換を図ってきたが、今期の利益の多くが油価の上昇によってもたらされたことから分かるように、その収益構造は基本的にはまだ石油・天然ガス関連事業に依存している。同社は2030年までに石油・ガスの生産量を40%削減するという目標を新戦略の中で掲げたが、収益構造がどう変化していくか注目される。


[3] 2Q 2020 results and strategy presentation, 2020年8月4日,
https://www.bp.com/en/global/corporate/investors/investor-presentations/2q-presentation-2020.html(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

表5:BP決算概要

表5: BP決算概要

(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)

 

(4) Chevron

Chevronの2021年第2四半期決算は、前年同期82.7億ドルの純損失から30.8億ドルの純利益となった。うち半分弱は米国での上流事業による利益である。同社は過去2年間で最高のフリーキャッシュフローを記録し、年間20~30億ドルの自社株買いを再開することを発表した。

石油・ガス生産量は、前期から横ばいの3.2mmboe/dとなった。

Chevronは昨年、米国・独立系企業Noble Energyを買収したが、その中流部門であるNoble Midstreamの買収が今期完了した。これにより同社は6億ドル以上のシナジー効果を達成したとしている。

2021年上半期の設備投資額は53億ドル(前年同期は77億ドル)であり、この支出の84%を上流が占めている。米国・パーミアンにおける生産量はパンデミック以降減少していたが、現在は2020年の水準(57.4万boe/d)に近づいており、年末には60万boe/dを超えると予想されている。さらに、ブレント価格がバレルあたり平均65ドルと仮定した場合、パーミアンにおけるフリーキャッシュフローは2021年に30億ドルを超えると試算されている。2021年7月には、Shellが売却を検討している同地域の資産買収に関心を示しているとの報道があった[4]。記事によれば、対象の資産は100億ドルの価値があると言われており、ConocoPhillips、Devon Energyも関心を示している。また、米国・メキシコ湾においても上流事業を活発化させており、Chevronは引き続き米国を中心に探鉱・開発を行う姿勢である。

また、Chevronは新エネルギー事業を加速させるために、CEO直属の新組織であるChevron New Energiesの設立を発表した。CEOのMichael Wirth氏は、主に水素と炭素回収の分野での成長を狙っていると話した。


[4] Devon, Conoco Study $10 Billion Shell Permian Assets, 2021年7月31日, Bloomberg,
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-07-30/devon-conoco-said-to-study-10-billion-shell-permian-portfolio(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

表6:Chevron決算概要

表6: Chevron決算概要

(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)

 

(5) TotalEnergies

TotalEnergiesの2021年第2四半期決算は、前年同期83.7億ドルの純損失に対して、22億ドルの純利益となった。特に下流部門が好調で40億ドルのフリーキャッシュフローを生み出し、余剰キャッシュフローの一部で今年中に少なくとも8億ドル相当の自社株買いを再開する予定である。しかし、財務規律を重んじ、今年の設備投資は予定通り120~130億ドルとし、そのうち半分を再生可能エネルギーと電力事業に充てる見通しだ。

石油・ガス生産量は、計画されていたメンテナンスの影響で前年同期比4%減の2.7mmboe/dとなった。

また、TotalEnergiesは、今後の石油・ガスのプロジェクトの投資について、炭素強度[5](carbon intensity)を具体的に評価すると発表した。CEOのPatrick Pouyanne氏は、「現在、当社の平均的な炭素強度は、CO2換算でバレルあたり約20kgであるが、新規プロジェクトは、それよりも低いものでなければならない。」と述べた。これまで同社の投資決定のための基準として、技術的コスト(通常20ドル/b以下)と、損益分岐点・財政的条件(30ドル/b以下)の基準が設けられてきた[6]が、これに低炭素の基準が新たに加わることになる。

この新基準に基づき、TotalEnergiesは、ベネズエラの合弁会社Petrocedeñoの株式30.32%をベネズエラ国営PDVSAに売却した。合弁会社Petrocedeñoは超重質油プロジェクトを有しており、TotalEnergiesは同プロジェクトの炭素強度の高さを理由に売却を決めたとしている。


[5] 単位エネルギー消費量あたりのCO2排出量のことを意味する。

[6] TotalEnergies to prioritize low carbon intensity in new upstream investments: CEO, Platts, 2021年7月29日:
https://www.spglobal.com/platts/en/market-insights/latest-news/electric-power/072921-totalenergies-to-prioritize-low-carbon-intensity-in-new-upstream-investments-ceo(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

表7:Total決算概要

表7: Total決算概要

(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)

 

おわりに:メジャー企業による上流投資減少がもたらしたもの

前述のとおり、メジャー企業のフリーキャッシュフローは増加したが設備投資は増えていない。余剰キャッシュフローの用途についてCEOに質問がなされたが、投資の増額を明言した企業はなかった。

図3: 設備投資額推移
図3: 設備投資額推移
(決算報告およびEvaluate Energyを基にJOGMEC作成)

Shell CEOのBen van Beurden氏は、「OPECプラス以外の国では上流投資レベルが低下しており、それが石油市場の引き締めにつながっている」、「供給は制約されているが、需要は非常に堅調である」と指摘した。また、TotalEnergies CEOのPatrick Pouyanne氏は、「かなりのボラティリティーがみられる。投資が少なければ、価格の上昇をある程度サポートすることになる。」と述べた。

これらの発言は示唆的である。メジャー企業は、“エネルギートランジション”や財務規律を理由に上流投資を削減してきたが、結果として長期的には石油市場のタイト化に繋がる。油価上昇の恩恵を受け、メジャー企業は巨額の利益を上げている。設備投資を増やさないとしながらも、パーミアン、メキシコ湾、ガイアナ、スリナム等では着々と探鉱・開発を進めている。

カーボンニュートラル対応に集中する姿勢を全面に出しつつ、投資削減の帰結である油価上昇・フリーキャッシュフロー増加の恩恵に与るところにメジャー企業のエネルギートランジション戦略の本質を垣間見ることができる。

 

以上

(この報告は2021年8月25日時点のものです)

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