ページ番号1009111 更新日 令和3年8月26日
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概要
- ナイジェリアへの石油開発投資は他のアフリカの国への投資と比べ急激に減少している。これにより、同国の原油生産能力は急速に低下しており、一般歳入の約5割、総輸出額の約7割を占める原油販売収入の減少が危惧されている。
- 深海油ガス田を含むOML118鉱区では、事業者側と国の間で係争があったが、係争解決合意書、和解合意書、過去のガス生産に関する合意書、エスクロー勘定合意書、最後に財務等の条件を明確にした新しいPS契約の計5つの合意がなされた。
- 以上の5つの合意により、Shellは、同ライセンス内のBonga Southwest Aparoに対して160億ドルを投じての開発を進めることを決定。なおBonga Southwest Aparoが跨がっているOML132とOML140との間でユニタイゼーションを検討。
- ナイジェリアは今回の合意によりOML118からの生産量が増加することを見込んで、今後数年間で同国の生産能力を現在の230万b/dから300万b/dまで引き上げることを目指す。
- 深海油田における主な開発停滞の理由は、PIB(Petroleum Industry Bill)改正遅延、深海油田のロイヤルティに関わる法の改正、油価低迷、事業当事者との係争などである。深海油田開発の見通しはOML118の成功事例の波及が期待されることやPIB可決により財政条件が明確になったことにより、以前と比較して安定的に計画が進展すると考えられる。
- 陸上油田における主な開発停滞の理由は、PIB改正遅延、治安への懸念、昨今の開発トレンド、油価低迷、係争などである。陸上油田開発の見通しは過去の陸上油田における外資撤退・開発停滞と同様の理由により、厳しいものとなるだろう。
(出所 各社Website、業界報道記事 他)
1. ナイジェリアの概要
(1) ポジション等
ナイジェリアは1971年から石油輸出国機構(OPEC)に加盟しているアフリカ最大の産油国である。2021年のBP統計によると、2019年には210.2万b/d、世界11位の生産量であったが、2020年には179.8万b/dに減少したため世界第15位に後退した。また、2020年の原油の確認可採埋蔵量は369億バレルであった。原油は主に南東部陸上のNiger Delta域で産出される。原油の主な輸出先は2019年において、1位インド(42万b/d)、2位スペイン(23.8万b/d)、3位オランダ(20.8万b/d)である。また、同国は一般歳入の約5割、総輸出額の約7割を原油販売収入に依存している。
ナイジェリアの原油開発における主要企業は国営石油会社NNPC(Nigerian National Petroleum Corporation)とShell、ExxonMobil、TotalEnergies、Eniなどである。
(2) 現状
2021年8月のIEA Oil Market Reportによると、ナイジェリアの2021年7月の原油生産量は132万b/dとなり、OPECプラスの減産目標158万b/dに対しOPECプラスの中で最も高い減産順守率である204%となった。OPECプラスの協調減産に加え、ナイジェリア国内での新規開発投資の不足、老朽化したインフラへの投資不足、パイプライン破壊行為による原油の流出、原油盗難の増加が影響し、生産量は減少している。
特に、主力生産地域のNiger Deltaに位置するForcados、Bonny、Escravos、Brass River、Qua IboeやBonga、Usan、EAなどの一部の海上油田やTrans Ramosパイプラインで技術的な問題やメンテナンスによる供給の低下が発生している。また、ナイジェリア石油資源省の担当者は、2021年4月と5月には、Nembe Creekパイプラインを利用してBonny Terminalに生産物を輸送する一部の生産者が、同パイプラインからの漏洩を原因として、操業を停止したと述べた。
加えて、図2よりナイジェリアへの投資は他のアフリカの国への投資と比べ、その額が急激に減少していることが分かる。これにより、経済を原油に依存するナイジェリア政府は原油生産能力の低下並びにそれに伴う収入の減少を危惧している。
2. ナイジェリアで深海油ガス田ニアフィールド追加開発始動の兆し
2021年5月、深海油ガス田ニアフィールドのOML118鉱区において追加開発始動へ向けて大きな進展があった。
OML118はNiger Deltaの南西120キロメートルに位置し、水深1,000メートルに位置するナイジェリア初の深海油田開発プロジェクトである。Shell(55%)がオペレーターを務め、ExxonMobil(12.5%)、Eni(12.5%)、TotalEnergies(12.5%)が権益を有する。OML118にはBonga、Bonga Northwest、Bonga Southwest、Bonga Southwest Aparo、Bonga Northの5つの構造がある。そのうちBonga、Bonga Northwestは開発が進み、それぞれ2005年、2014年に生産を開始している。
現在のOML118の合計生産量は石油で16.2万b/d(Bonga:14.3万b/d、Bonga Northwest:1.9万b/d)、ガスはBongaで生産される1.1億立方フィート/dである。
ここでの係争とは、OML118のBonga Southwest Aparoは、当初2014年にFIDの予定であったが、油価の下落を受けFIDが遅延していた。その後2019年にFIDに向けて検討があったものの、政府との係争があったことから再びFID延期した。PS契約の財政条件の解釈を巡る係争である。2019年の2月に、ナイジェリア政府がShellを含む6つのメジャーズに対してロイヤルティと税金未払いを理由にして、各社に25億ドルから50億ドルずつ、合計200億ドルをナイジェリア政府に支払うよう指示した事が挙げられる。なお、その背景としては、ナイジェリア中央政府と各州が石油・天然ガス生産による収益の分配を巡る紛争が同時期に解決したため、中央政府が各地方政府に数十億ドルを支払うこととなり、その原資をメジャーズに転嫁したと言われている。これに対してShellは、「この係争により、Bonga SouthwestのFIDが遅れることになる」と発言していた。他方、Bonga Southwest は2015年にFIDを予定していたが遅延し、2018年に「2019年にFIDの検討をする」と宣言するも最終的にはFIDには至らなかった。
OML118におけるFIDを遅らせてきたこれら係争等を打開した最初のきっかけは、2019年2月、ナイジェリアの国営石油会社NNPCとOML118の当事者との間で結ばれたHeads of Termsであった。その内容は「ライセンス20年間の更新」、「コスト回収方法」、「随伴ガスの利益配分方法」、「投資税控除の廃止の可能性」、「現在のライセンスに基づくプロフィット・オイルの水準を維持すること」について基本合意がなされた。
そして今回、2021年5月にNNPCとOML118の当事者との間で5つの正式合意がなされた。具体的には係争解決合意書(PS契約の財政条件の解釈を巡る係争)、和解合意書、過去のガス生産に関する合意書、エスクロー勘定合意書、最後に財務等の条件を明確にした新しいPS契約である。PS契約の具体的な内容は不明であるが、そのなかにはOML118のライセンス20年の更新が含まれており、これにより追加開発後、コストの回収や利益確保のために必要な生産期間が確保されたものと考えられる。加えてHeads of Termsで合意していたコスト回収方法や随伴ガスの利益配分方法もPS契約に反映されていると考えられる。
以上のように、今回の契約によりOML118の追加開発計画は、開発時期の見通しについて透明性が増し、今後、比較的安定的に開発が進展するものと期待される。
また、Shellの広報担当者は「これらの契約により、利害関係者は明確で安定した条件を得ることができ、OML118鉱区のさらなる開発を促進し、ナイジェリアの深海石油・ガス産業にさらなる機会をもたらすことになる」と述べた。加えて、第19代NNPC総裁(Group Managing Director)のMele Kyari氏は、「今回の契約は、ナイジェリアにおける深海事業の運営にとって重要な分岐点となる。これにより、100億ドル以上の投資が可能になる。」と発言した。
OML118は財政条件の不透明さを要因の一つとして追加開発が遅延していたため、係争解決合意書と財務等の条件を明確にした新しいPS契約は重要な合意だと言える。
一方でTotalEnergiesはOML118につき、12.5%の株式を売却するとの報道があり、今回の進展を受けてTotalEnergiesがこの3つのプロジェクトを受けて売却を踏みとどまるか、その是非は不明である。
3. 深海油田における開発停滞と陸上油田における外資撤退の動きについて
同国は原油生産量や可採埋蔵量のポテンシャルの一方で、OML118を含む深海油田につき開発停滞、陸上油田等については外資撤退並びに開発停滞の動きが続いている。
(1) 深海油田における開発停滞の要因
ナイジェリアにおける深海油田の一般的な開発停滞の共通要因として2008年以降のPIB[注]改正遅延による財政条件の見通しの不透明さ、2014年以降は油価低迷があげられる。また、2019年は深海と内陸におけるDeep Offshore and Inland Basin Production Sharing Contract Act,(以下、PS契約法)の改正、2020年3月以降のパンデミックによる油価の下落も開発停滞を後押しした。また個別的な要因として、事業者と政府の税制を巡る係争も開発停滞の原因となった。
特にPS契約法の改正では、深海での生産に一律10%のロイヤルティと、原油価格に連動した追加の累進的なロイヤルティが設定された。従来、水深1,000メートル以上のプロジェクトにはロイヤルティはかかっていなかったため、PS契約法の改正により企業の負担が増加した。以上により、多くの深海油田の開発計画が停滞した。
[注]PIB(Petroleum Industry Bill)とは
この法案は2008年から審議がなされ、2021年8月16日に可決した。PIBは財政条件、ガバナンス、説明責任などの透明性を改善することにより、ビジネス環境を向上させ、外資を呼び込んで最終的にはナイジェリアの石油収入を増加することを目的としている。報案は、(1)ガバナンスと制度、(2)行政、(3)地域社会への貢献、(4)石油産業の財政枠組み、(5)雑則の5つのチャプターで成り立っており、上流規制委員会、政策の運営方法、石油探鉱開発事業の財政条件、法的手続きなどがその内容として含まれている。1つ目のチャプターの中では、PIB施行から6カ月以内にNNPC Limited(有限責任会社)を設立することが規定されている。NNPC Limitedの株式は財務省が保有することとなり、NNPCの資産はNNPC Limitedへ移転されることとなる。加えて、4つ目のチャプターの石油産業の財政枠組みが重要である。これが不透明であったため、経済性の見通しが立たず、メジャーズが新規投資を延期していたという事情があった。
この法案の可決・成立が遅れていた理由として、任期4年の議員の入れ替わりが激しく、意思統一が難しかったことや利益配分の割合を巡る地域社会からの反対、過去の大統領のリーダーシップの欠如、事業の経済性を損なうような制度や改悪ロイヤルティに企業が反発したこと、などが挙げられている。
(2) 陸上油田における外資撤退・開発停滞の要因
陸上油田における外資撤退の主な理由は治安と気候変動対策などである。治安については油の窃盗が頻発していることが挙げられる。さらに窃盗団や地域社会への利益分配の増加を要求するデモ隊がパイプラインに攻撃を行ったため、事業者側も原油流出に伴う損害賠償などのリスクを許容できなくなり、かつ昨今の気候変動対策への意識の高まりから価値の低い油田に見切りをつけたことが外資撤退を後押ししている。加えて、各鉱区における事業者と政府の間の紛争も外資撤退ならびに開発停滞の要因となった。
油価低迷とPIB未成立による財政条件の不安定さは、深海油田、陸上油田の双方で外資撤退・開発停滞の要因となっていたことが分かる。その点について、ラゴス商工会議所のMuda Yusuf事務局長は「このような財政規定はナイジェリアが投資家にとって魅力のない国であることの一因であり、アフリカ大陸最大の埋蔵量を有するにもかかわらず、ナイジェリアは2015年から2019年までにアフリカの新規上流プロジェクトに約束された700億ドルのうち、わずか4%しか誘致していない。」と指摘した。
特にShellは、2021年5月25日に公表した方針でナイジェリアをコア資産の一つと位置づけていたものの、ShellのCEOであるBen van Beurden氏は原油流出リスクが同社のエネルギー移行戦略と一致しないことから深海部に注力する旨、2021年5月の年次総会で発言した。すでにShellは保有陸上資産の約50%を売却しているが、現在も残る陸上資産の売却につきナイジェリア政府と協議を行っている。主な原因は陸上資産ゆえの治安悪化の影響で操業上のリスクが投資に見合わないことにあるとされている。また、ナイジェリアではインフラ改修が十分に行われておらずメタンなどのリークも多く、その他にも温暖化対策が十分に行われていないとされており、気候変動対策の観点からもShellが陸上油田から撤退は正当化されるものであると評価されている。
4. 同国の今後の石油開発の見通し
(1) PIBの審議状況
PIBは2021年8月16日にMuhammadu Buhari大統領の承認を得て可決した。
一時、政府は、陸上や浅海についてはロイヤルティ引き下げる一方で深海油田のロイヤルティを引き上げることを計画し、深海油田のロイヤルティの引き上げは譲れないと発言していたところ、最終的にはメジャーズ等のロイヤルティ引き下げ要求を受け入れ、歩み寄りの姿勢を見せた。具体的には、下院が独自にロイヤルティを陸上では18%、浅海(水深200メートル以上)では16%、深海では10%と設定し検討していたところ最終的には陸上15%、浅海12.5%、深海7.5%として可決した。
また、石油価格連動型のロイヤルティついて、以前は35米ドル以上で適用される事になっていたのに対し、50米ドル以上で適用と条件が緩和された。他にも、現在生産を行っている企業には、既存の財政条件で開発を進めるか、新しいPS契約に基づく財政条件に変更するかどうかを決定できるとされており、外資の意向に沿った法案となったと評価されている。
これは議会の中でも2度の石油価格の暴落、パイプラインへの妨害行為、上流の投資の減少、政府の負債の増加、そして世界的なエネルギー転換と、それが炭化水素に依存する国家への影響の危惧の高まりや法案可決の遅延が及ぼすリスクの観点から、法案への抵抗感が弱まり、もはや先送りできないというコンセンサスが形成されたからであろう。加えて法案の提出当初は自国の石油収入の増加を目指し、目先の収入に焦点を当てていたところ、投資不足による原油生産能力低下への危惧から長期的な観点から投資を呼び込みグローバルな競争力を獲得することで収入を得る方向にシフトしたと考えられる。
ただ、もしも地域社会への経済的な還元が少ない財政条件となる場合には過激派組織である「Niger Delta Avengers」によるインフラ攻撃という重大な問題を抱える可能性もあるだろう。Niger Delta Avengersは、PIBが地域社会に十分に有利でないと判断した場合、石油・ガスのインフラを攻撃すると脅迫している。特に地域社会への経済的還元を定める「地域社会開発信託基金」への拠出割合について、PIBでは直前の事業年度のOPEXの3.0%分を拠出しなければならないと設定している。当該割合はNiger Delta Avengersの納得が得られない可能性があり、この点、陸上油田は引き続き警戒が必要である。一方の事業者側は、信託基金の負担増は追加のコストや複雑さが伴い、ナイジェリアの上流の経済性が低下し、新規投資が抑制される点で反発し、これを批判している。
ナイジェリア国内の反発のリスクはあるが、例えばTotalEnergiesがOML130の開発について、「PIBが有利な条件になれば再開する」と発言していたことからも、深海油田の開発計画をより確実に進展させるためにPIBの早期可決と財政条件等への法の反映が重要な要素であることが分かる。その点において、PIBの可決は改正遅延による潜在的な投資減少の要因の一つを取り除くことができた点で大きな進歩だと言えるだろう。
(2) 石油インフラへに対する攻撃の状況
なお、石油・ガスインフラへの攻撃による被害を見てみると、7月2日にナイジェリアのLai Mohammed情報大臣はパイプラインの破壊行為により生産量の10%以上にあたる平均20万b/dが失われていると発表したことをロイターは報じている。また、同大臣はアブジャでの対話集会においてパイプライン修理にかかる費用は約600億ナイラ(1億4,599万ドル)であると述べた。公式の統計では2019年1月から2020年9月の間に、全国1,161ヶ所のパイプラインが被害を受けたとされる。また、7月にアブジャで開催された2021年ナイジェリア石油・ガス会議において、Shellのナイジェリア代表のOsagie Okunbor氏は、Niger Deltaにおける石油窃盗やパイプライン破壊行為によって同社が失う石油の量について、Trans Niger Pipeline(TNP)で輸送される原油の実に約44%がターミナルに到達する前に失われていると述べた。
今後、PIBにおける「地域社会開発信託基金」への拠出割合に不満を持つNigeria Delta Avengers等により、石油関連施設への攻撃がエスカレートするリスクには留意する必要があろう。
(3) OML118鉱区におけるPS契約改定の他深海鉱区への波及
今回のPS契約は、巨大な深海資産の開発のための明確で公正な枠組みを構築したこと等により、係争を解決した点で大きな価値がある。また、紛争解決につきナイジェリアがメジャーズ等の事業者に対して歩み寄りを見せていることから、他の紛争についても動揺の歩み寄りを見せ、比較的早期に解決が見込まれるの可能性がある。
OML118鉱区のPS契約改定により鉱区内の開発に2つの直接的な効果と、他鉱区に対しては1つの波及効果が期待される。
- 鉱区内開発への直接効果
- Bonga Southwest Aparo2021年5月、Shellは、FIDを何度も先送りしていたに対して160億ドルを投じて開発を進めることを決定。
- Bonga Southwest AparoがOML132とOML140にまたがっているためOML132でオペレーターを務めるChevronとOML140でオペレーターを務めるLukoilとの間でユニタイゼーションの検討。
ナイジェリアはこれによりOML118からの生産量が増加することを見込んでおり、今後数年間で生産能力を現在の230万b/dから300万b/dまで引き上げることを目指している。
- 他鉱区への波及効果の期待
OML118の係争解決、PS契約の条件改定がロールモデルとなり、他の深海油田でも生じているナイジェリア政府との係争が解決することが期待される。
例えば、OML130でも、係争解決合意書を含む契約を行うことを検討しており、OML118の事例が実際に係争を商業面で解決する一つのロールモデルとして適用された形となった。
(4) インフラ改修投資の必要性
ナイジェリアにおけるの原油生産量の減少は既存油田インフラへの投資不足にも起因している。Shellは2021年8月13日にForcados原油の出荷に関し、フォースマジュールを宣言した。その理由につきShellは、「積み込みブイ周辺の水にいくつかの光沢が見られたため、生産を抑制し、輸出作業を停止した」と述べた。これは原油がいずれかから漏洩していることを示唆している。Forcadosは生産能力の25万b/dに対し、ここ数ヶ月は平均20万b/d程度しか生産していない。他にも、Bonny Light, Escravos, Forcados, Qua Iboeが同様の問題に直面して生産量が減少しているとも言われており、生産量の向上や滞りない生産のためにこのようなインフラ改修に投資することが喫緊の課題になっている。これら改修のための投資は、事業者側が改修費用を十分回収できるような仕組みが備わっていることが必須であるが、それが十分に備わっているのかどうかは定かではない。
(5) 陸上油田の開発について
原油の主な産出地であるNiger Delta域の陸上エリアでは、成熟油田が多く、油田の規模が小さくなっているため、採算性が低下していることが想定され、更なる投資を行う判断は、特に欧米石油会社にとっては非常に難しい状況となっている。
また、経済的困難により、Niger Delta Avengersなどによる施設や人員への攻撃など治安悪化や武力行使のリスクが高まっている。安全確保の観点から考えれば、企業にとっては開発停滞のみならず撤退という判断を促す大きな要素となりうる。
加えて、Shellがオペレーターを務める陸上鉱区OML11につき、陸上・浅海部での新たな火種となりうること事例が発生した。2019年8月23日の下級裁判所では、同鉱区につき、2019年に終了した30年のライセンス期間を、リースに関する条件を満たしていることを理由として、ライセンスを更新することを認めていた。しかし、2021年8月16日の上訴裁判所にてその判決を覆し、OML11のライセンス更新を認めず、NNPCに譲渡することとした。NNPCは同判決を歓迎し、数十年に及ぶ地域社会からの反発への対処を始めることを示唆した。これは「地域社会開発信託基金」への拠出割合に不満を持つ者に対応することや、同鉱区での操業を開始し、自国の生産量減少に歯止めをかける狙いがあるのではないかと考える。外資にとってこの事例はナイジェリアへの投資の魅力を下げる要因の一つになるだろう。また、同事例から陸上油田については深海油田のOML118の事例の適用が困難であることが分かる。
Shellの陸上鉱区の動向とともに、撤退の動きにも注目していきたい。
以上
(この報告は2021年8月26日時点のものです)