ページ番号1009122 更新日 令和3年9月16日
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概要
- 中国が原材料価格上昇緩和を目的に国家備蓄原油を競売により複数回に分けて放出する方針を表明した。1回目の競売は9月24日に行われ、主に中東のサワー原油約738万バレルが市場に放出される。
- 原材料価格は世界的に高騰しているが、中国では投機的な価格の吊り上げや価格転化が問題になっており、政府は需給両面の管理を強化し、原油に先駆けて非鉄金属や石炭などの備蓄放出を行っている。
- 国際原油市場への影響は、ハリケーン「アイダ」による米原油生産の復旧の遅れから石油需給の引き締まり感が高く、限定的であった。しかし中国は「今後定期的に備蓄放出を行っていく」というメッセージが市場に一定の影響を与えると認識している。
- 今後いつ、どのようなタイミングで備蓄原油を放出するか明らかではないが、世界の石油貿易の2割を占める中国の動向に産油国は当分一喜一憂することになると思われる。
(出所:国家食糧物資備蓄局、北京事務所)
1. 中国、国家備蓄原油を初めて入札(競売)により放出
2021年9月9日、国家食糧物資備蓄局(National Food and Strategic Reserves Administration ; NFSRA)が国家備蓄原油を入札(競売)方式により複数回に分けて放出すると発表した。国内の精製・化学企業向けで原材料価格上昇圧力を緩和するために行うとしている。また国家備蓄原油を競売により定期的に放出することは国内の需給安定とエネルギー安全保障につながるとしている。NFSRAは今年6月以来銅、アルミニウム、亜鉛の備蓄を競売により放出しているが、入札方式による国家備蓄原油の放出は今回が初めてである。
NFRSAは国家発展改革委員会傘下で中国の備蓄を管理する政府機関で傘下に国家石油備蓄中心(NORC)などの管理組織が存在する。国家備蓄基地は2010年までに1期4基地(貯蔵容量1億332万バレル)が完成し、2期8基地(増強を含む、貯蔵容量2億万バレル)が2019年までに完成した。3期(貯蔵容量約2.3億バレル)の計画はあるが、立地を含め進捗状況は不明である。備蓄量について2017年12月に国家統計局が一部民間タンクの借り上げを含む備蓄量を2億7,500万バレルと公表したが、その後更新されていない。
IEAが2021年3月に公表した「Oil2021」によると、2020年時点で中国の原油貯蔵能力は計画中のSPRを含め17億バレルある。SPRの貯蔵能力が約6.3億バレル(うち2.3億バレルは計画中)、商業貯蔵設備が11億バレルある。また中国の原油・石油製品の在庫は公表されていないが、国家備蓄と商業在庫を合わせ2020年9月の9億3,800万バレルをピークに2021年7月には約8億6,300万バレルまで減少したと報じられている。油価が60ドルを超えた今年4月に国有石油企業が商業在庫を取り崩し、油価が70ドルを超えた6月以降政府が国家備蓄原油を国有石油企業に払い出したと報じられているが、これらは競売方式ではなく、詳細は公表されていない。
9月14日、NFRSAのウェブサイトに国家備蓄原油2021年第1回競争入札の公告が公示された。入札日は9月24日で、売却数量は約738万バレルである。売却対象の原油は英Fortiesを除きUAEのMurban原油など中東のサワー原油で遼寧省大連港(大連新港、長興島港)に貯蔵されている(図1、表1)。
入札に参加できるのは国有石油企業(Sinopec、PetroChina、CNOOC、Sinochem)ならびに原油輸入割り当て量の残量を有する精製・石化企業である(中国では上記の国有石油企業以外は原油輸入が割り当て制となっており、条件を満たした企業が毎年原油輸入割り当てを受ける)。企業は会員登録申請を行い、保証金(40元≒5.7ドル/バレル)を事前に納め、入札に参加する。政府が想定価格を設定し、最低増額単位は50セント/バレルである。取引手数料はない。落札者は5営業日以内に現場で検品を行い、7営業日以内にNORCと契約を締結する。そして契約締結後60日以内に受け渡しを完了する。
表 1:売却予定原油内訳
2. 原油原油備蓄放出の背景
中国の2021年上半期の実質GDP成長率は前年の反動もあり、12.7%(第1四半期が前年同期比18.3%、第2四半期が7.9%)であった。しかし新型コロナウイルスの感染拡大、半導体の不足に加え、原材料価格の上昇が経済の懸念要因となっている。国家統計局が9月9日に発表した8月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比9.5%上昇し、2008年8月以来13年ぶりの高い伸びを示した。また8月31日に発表された8月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.4と市場予想を下回り、5か月連続低下しており2020年2月以来の低水準となっている。
原材料価格の上昇は世界的な現象だが、中国では投機的な価格の吊り上げや価格の転化が問題になっており、政府は5月以降不正の取り締まりや備蓄の放出など需給両面の管理を強化している。原油に先駆けて非鉄金属の備蓄が放出されたが、中間業者が入札に参加して投機的に価格が上昇することを避けるため、競売入札参加の条件を中間の商社ではなく製造工場に限定している。国家備蓄原油の入札も同様に当事者である精製・石化企業が対象であり、過去3年に重大な法規違反がないことや、購入した原油は化学工業や化学繊維の原料に使用することという条件が付いている。
3. 国際石油市場、原油輸入への影響
9月9日にNFSRAが国家備蓄原油を競売により放出すると発表したことを受けて国際原油価格は下落した。9日のWTI先物(10月限)は前日終値比1ドル16セント安の68.14ドル/バレルに下落し8月26日以来の安値となった。しかし翌日にはハリケーン「アイダ」により生産を停止した米メキシコ湾岸の原油生産の回復が鈍いことから石油需給の引き締まり感が市場で増大し、原油価格は再び上昇した(9月10日のWTI先物(10月限)は前日終値比1ドル58セント高の69.72ドル/バレルに上昇した)。市場では「中国は今後も石油消費(原油輸入)が必要であり、備蓄放出は一時的なものである」という見方や「中国による備蓄原油放出は需給バランスの調整に十分な現物供給量とはならず、ハリケーン「アイダ」による米生産減少を部分的に相殺するに過ぎない」という見方が示された。米内務省安全環境執行局(BSEE)によると8月末に米ルイジアナ州に上陸したハリケーン「アイダ」の影響により、9月14日時点で米メキシコ湾の原油生産の4割(日量約72万バレル)が依然止まっている。
中国国内では「今回の競売による売却予定の備蓄原油は中国の1日あたりの原油輸入量の70%、1日あたりの精製処理量の50%である。また世界の1日あたりの原油消費量の8%に過ぎず、ボリュームは少ない。しかし中国や米国が備蓄原油の放出を定期的に行うことに留意すべきである。中国は2020年の低油価の際に大量の原油備蓄を行っており、今後短期間で2回目、3回目の放出を行う場合、市場心理に一定の影響を与えることができる」という指摘がある。
中国は2020年の原油生産量は日量390万バレル、消費は1,423万バレル、輸入は1,039万バレルである。世界の原油生産の5%を占め、イラクに次ぐ世界6位の産油国だが、世界の石油消費の16%を占め、米国に次ぐ世界2位の石油消費国である。2017年に米国を抜き世界最大の原油輸入国となった。
中国の原油輸入は山東省他に位置する地方製油所が2016年以降原油輸入割り当て、輸入原油使用権を得たことで急増した。政府は国有石油企業独占打破と環境対応の観点で地方製油所の原油輸入を許可したが、地方製油所が原油精製処理量増加に加え、芳香族炭化水素混合物(MA)や、ライトサイクルオイル(LCO)を輸入し、ガソリンや軽油に混合し、国有石油企業よりも安く販売したことで石油製品の供給過剰を招き、また地方製油所によるイランやベネズエラなど米制裁対象原油の貿易が横行したことで政府は2021年5月以降地方製油所の取り締まりや貿易管理強化に転じた。6月の地方製油所への原油輸入割り当てを前年同期比4割縮小し、6月12日からはブレンド石油製品向けのMAやLCO、希釈ビチューメンなどの輸入に対し1リットルあたり1.2~1.52元(20~26円)の消費税を課した。さらに国有石油会社の石油製品輸出割り当てを縮小した。これらの措置によりすでに原油輸入の伸びは鈍化している。
NFSRAは今後いつ、どのようなタイミングで備蓄原油を放出するか詳細は明らかにしていないが、500~1,000万トン(3,700万~7,300万バレル)を放出するという見方がある。世界の石油貿易の2割を占める中国の動向に産油国は当分一喜一憂することになると思われる。
以上
(この報告は2021年9月15日時点のものです)