ページ番号1009128 更新日 令和3年9月21日

原油市場他:米国当局による新型コロナウイルスワクチン正式承認、及びハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾地域来襲等により、上昇する原油価格

レポート属性
レポートID 1009128
作成日 2021-09-21 00:00:00 +0900
更新日 2021-09-21 13:17:55 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 39
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
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地域6
国6
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国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2021/09/21 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要に対応するため製油所での原油精製処理が進んだことに加え、同国メキシコ湾沖合へのハリケーン来襲により油田関連施設の操業とともに原油生産が停止したこともあり、8月上旬から9月上旬にかけ同国の原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る状態は継続している。また、米国メキシコ湾岸地域にハリケーンが来襲したことにより一部製油所の石油製品生産活動に支障が発生したこともあり、ガソリン及び留出油在庫は減少傾向となり、ガソリンは平年幅上限を超過する、留出油は平年並みの、それぞれ在庫量となっている。
  2. 2021年8月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、日本では一部製油所での稼働再開に併せ原油調達が進められたと見られることにより、原油在庫は若干ながら増加した。ただ、米国では当該在庫は減少となった他、欧州では製油所での原油精製処理が進むとともに原油在庫は減少した。このため、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では製油所の稼働上昇に伴う石油製品生産活動活発化もあり、在庫は若干ながら増加した。ただ、米国では当該在庫は減少した他、日本においても夏場のドライブシーズン到来に伴いガソリンを中心として石油製品在庫は減少した。このため、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年並みの量となっている。
  3. 2021年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場では、豪州等での新型コロナウイルス感染拡大等により、8月13日に1バレル当たり68.44ドルの終値であった原油価格(WTI)は8月20日には同62.32ドルの終値へと下落した。しかしながら、その後は8月23日に米国当局がファイザー等の開発した新型コロナウイルスワクチンを正式承認したことによるワクチン接種加速への期待増大、及び8月下旬のハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾沖合地域来襲による油田での原油生産停止等が、原油相場に上方圧力を加えたことにより、9月16日には原油価格は1バレル当たり72.61ドルの終値へと回復している。
  4. 米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことから、原油相場には下方圧力が加わりやすいものの、米国での留出油及びLPG在庫が低水準であること、そして欧州等での天然ガス価格上昇に伴い天然ガスからの燃料転換が促進されることを通じ石油需要が増加することにより、原油相場が下支えされる可能性がある。そのような中、新型コロナウイルス感染者増減に伴う世界各国及び地域の個人の外出規制及び経済活動制限状況、米国金融当局による金融緩和縮小を巡る方針、米国インフラ整備計画や増税実施に向けた連邦議会関係者等による協議の状況、米国メキシコ湾地域へのハリケーン等の暴風雨の来襲、イラン核合意正常化を巡る関係国の動向、イエメンからサウジアラビアへのミサイル等発射を含む中東地域等の情勢、そして10月4日に開催が予定されるOPECプラス産油国閣僚級会合を控えたOPECプラス産油国や米国の動き、及び当該会合での決定事項が原油価格に影響を与えるものと見られる。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が従来の方針通り2021年10月についても日量40万バレル減産措置を縮小することで合意

(1) 協議内容等

2021年9月1日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はビデオ会議形式で閣僚級会合を開催、1時間未満の短時間で終了したが、当該会合では8月以降毎月日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(9月時点で日量496万バレル)につき、10月についても日量40万バレル規模を縮小して実施する旨決定した(表1参照)。

表1 OPECプラス産油国の減産幅

また、当該会合では、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を10月4日に開催することで合意した。新型コロナウイルス感染の世界的流行の(世界経済及び石油需要に対する)影響に幾分不透明感が漂うものの、石油需給は引き締まっており、経済回復が加速するとともにOECD諸国在庫が減少し続けていくことを会合で認識した。当該会合では、メキシコを含むOPECプラス産油国による減産遵守率が2021年6月時点で110%(メキシコを除いた場合は109%)と良好であることを歓迎した。また、2020年5月1日のOPECプラス産油国減産措置実施以降平均で100%の減産目標遵守率を達成できていない減産措置参加産油国は2021年12月末までに減産目標遵守未達成部分を追加して減産する(当初期限は2021年9月30日であったが、一部減産目標遵守未達成OPECプラス産油国の要請により延長した)よう求められた。さらに、減産目標遵守達成期限の延長を有効活用しつつ、減産目標の完全達成に固執することが極めて重要である旨会合で改めて言及された。

 

(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

2021年6月1日に開催された前々回のOPECプラス閣僚級会合で8月以降の減産措置縮小に関する議論が見送られた後、新型コロナウイルスワクチン接種普及の進展に伴い欧米諸国等では新型コロナウイルス感染者数が減少することにより個人の外出規制及び経済活動制限の緩和が進められた(6月15日には米国のニューヨーク及びカリフォルニア両州が一部を除き経済活動制限を全面的に解除した)他、5月6日には1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が414,188人と過去最高水準に到達したインドでも7月17日時点では当該感染者数が41,157人と5月6日の10分の1未満の水準にまで減少するとともに、新型コロナウイルス感染拡大に伴い4月19日より都市封鎖措置を実施していた同国の首都ニューデリーを含むデリー首都圏等多くの州での経済活動制限等が6月14日に緩和されるなど、同国経済及び石油需要が持ち直す兆しがさらに明確になった。このような中で、5月29日には米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したこともあり、5月20日には1バレル当たり62.05ドルであった原油価格(WTI)は上昇傾向となり、7月13日には1バレル当たり75.25ドルと2018年10月3日(この時の原油価格の終値は同76.41ドル)以来の高水準に到達するとともに、同国のガソリン需給の引き締まり観測から全米ガソリン小売価格は5月10日以降米国国民の不満が高まり始める1ガロン当たり3ドルを超過し上昇し続けた(図1参照)ことにより、米国バイデン政権への支持率に影響が及ぶ恐れが増大しやすい状態となった。

図1 米国ガソリン平均小売価格(2019~21年)

原油及び米国ガソリン小売価格の上昇継続に対し、7月6日にはサキ米国大統領報道官が、バイデン政権は米国のガソリン小売価格に対するOPECプラス産油国間での減産措置を巡る協議の影響につき関心を持つとともに、手頃で信頼できるエネルギー供給を促進させるべく、原油価格上昇抑制に向けOPECプラス産油国に対し事実上の働きかけを行った旨示唆した。米国の働きかけもあり、7月18日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、8月以降当該減産措置が消滅するまで毎月日量40万バレル減産措置を縮小する旨合意した(同時に2021年12月に石油市場の状況及び減産措置参加国の減産目標遵守状況等をもとに減産方針につき再検討する予定とした)。また、当初2022年4月末に終了することとなっていた減産措置を2022年末まで延長することとした(石油市場の状況次第では2022年9月末に減産措置を終了させるべく努力するとした)。7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合における減産措置縮小の決定により、この先の世界石油需給の緩和感が市場で醸成されたこともあり、原油価格(WTI)は、会合開催直前の取引日である7月16日の1バレル当たり71.81ドルから会合開催直後の取引日である7月19日には同66.42ドルへと、同5.39ドル下落した(図2参照)。

図2 原油価格の推移(2021年)

しかしながら、その後OPECプラス産油国による減産措置の縮小を以てしても、2021年後半においては世界石油需要が供給を上回る結果、石油需給は引き締まる方向に向かうとの認識が市場で強まったこともあり、7月22日の原油価格の終値は1バレル当たり71.97ドルと7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合前の水準近辺へと回復した。そしてそれ以降、新型コロナウイルス感染拡大や洪水の発生等もあり中国経済が減速するとともに同国の石油精製処理活動が抑制されていることを示唆する指標類が発表されたことに加え、豪州や東南アジア等その他の諸国及び地域でも新型コロナウイルス感染拡大に伴い都市封鎖措置等を実施する動きが発生したこと、そしてそのような情勢を受け8月12日に国際エネルギー機関(IEA)が2021年後半の石油需要を下方修正したことが、原油相場に下方圧力を加えた。他方、イラン核合意正常化に向けた協議を巡り7月28~29日に米国とイランとの間で対立が高まる兆候が見られたことによる米国の対イラン制裁解除遅延の可能性、及び7月29日のオマーン沖合でのタンカー攻撃を含む中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給への影響に対する市場の懸念の増大、米国株式相場の上昇、8月23日時点の中国の新型コロナウイルス感染者数が7月20日に同国南京空港で確認されて以降で初めてゼロとなるなどした旨同日報じられたこと、米国製薬大手ファイザー及びドイツバイオ医薬製造会社ビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチンに対し米国当局が正式に使用を承認したこと等が原油相場に上方圧力を加えた。上方圧力と下方圧力に挟まれる格好となった原油価格は、7月19日から8月31日にかけ概ね1バレル当たり62~74ドルを中心とする範囲で変動するとともに、この時期明確かつ持続的な上昇及び下落を示すことなく総じて安定的に推移したことにより、OPECプラス産油国としては、このような局面では減産措置の縮小を再調整する動機は発生しにくかった。また、足元の全米平均ガソリン小売価格は米国国民がバイデン政権に対し不満を持ち始める1ガロン当たり3ドルを超過し続けていたことにより、OPECプラス産油国がここで減産措置の縮小を減速させれば原油相場とともに全米平均ガソリン小売価格が上昇することにより、米国バイデン政権のOPECプラス産油国に対する不満が高まると予想されたことから、OPECプラス産油国としては減産措置縮小を減速させることは事実上困難であった。

他方、8月11日に米国バイデン政権のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が、原油価格は2019年末よりも高水準であるとともに、ガソリン価格が世界の経済回復にとって有害になる危険性をはらんでいることから、7月18日に開催されたOPECプラス閣僚級会合で決定した8月からの毎月日量40万バレルの原油生産引き上げは不十分である旨の声明を発表した。しかしながら、サリバン大統領補佐官が声明を発表した日に発表された、7月の米国消費者物価指数(CPI)の上昇率は、前年同月比で5.4%の上昇と6月のそれと同水準であったものの、前月比では0.5%の上昇と6月の同0.9%から伸びが鈍化しているように見受けられたことから、市場では、米国の消費者物価が頭打ちの兆候を見せ始めていると受け取られた。このようなこともあり、その後8月11日(サリバン大統領補佐官が声明を発表した日と同日)に実施されたホワイトハウスによる記者会見において、サキ大統領報道官は、米国バイデン政権のOPECプラス産油国への事実上の増産要請は必ずしも短期的に対応すべき旨を意味している訳ではなく、長期的な約束を意味している旨示唆した。加えて、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了(9月4~6日の米国労働者の日(レイバー・デー)(9月6日)に伴う連休を以て終了)に接近しつつあったこともあり、このままであれば米国でのガソリン小売価格高騰を巡るバイデン政権への米国国民の不満がこれ以上大幅には増大しにくいと見られたこともあり、OPECプラス産油国としても、米国ガソリン小売価格を含めた物価上昇による同国国民のバイデン政権への不満の高まりを回避するために、直ちに同政権に配慮して減産幅の縮小を加速する必要性に迫られることもなかった。このようなこともあり、OPECプラス産油国は、従来方針通り10月についても減産措置の縮小を推進することにしたものと考えられる。

なお、8月下旬にはハリケーン「アイダ(Ida)」が米国メキシコ湾沖合を縦断したうえ、8月29日午前11時55分頃(現地時間)にはカテゴリー4の勢力(米国基準で上から2番目の勢力の強さ)でルイジアナ州ポート・フォーション(Port Fourchon)付近に上陸するとともに、8月31日昼(米国中部時間)現在米国メキシコ湾沖合油田での原油生産量171万バレル(当該地域の原油生産全体(日量182万バレル)の93.7%)が停止したうえ、米国最大の大型タンカー受入港であるLOOP(Louisiana Offshore Oil Port)(原油受入能力日量140万バレル程度とされる)が8月28日朝(現地時間)以降操業を停止したままとなった他、複数の米国メキシコ湾岸地域の港湾が操業を停止、さらに8月31日午前(同)現在ルイジアナ州の9ヶ所の製油所(原油精製能力合計日量230万バレルで同国原油精製能力(同1,813万バレル)の約13%)が停止したと伝えられる。しかしながら、ハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾沖合の原油生産、同国湾岸地域原油受入港湾及び製油所等の操業への影響については、9月1日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催時点では必ずしも全体像が明らかにはなっていなかったこともあり、当該会合では当該ハリケーンの米国石油産業及び石油需給への影響についての検討を見送るとともに、今後影響がより明確になってきた時点で、必要とされれば改めて減産措置の再調整を行うものと考えられる。

また、8月31日に開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC:Joint Technical Committee)において、OPECは2022年の世界石油需要の伸びをこれまでの前年比日量328万バレルから同420万バレルへと上方修正することにより、2022年の世界石油需給バランスが日量250万バレル供給過剰となるとのこれまでの見通しを日量160万バレルの供給過剰へと引き下げたと伝えられた。これは、当初見込みよりも2022年の世界石油供給過剰が大きなものではないとの印象を与えることにより、市場での石油需給緩和感及び原油価格先安感の醸成をOPECプラス産油国が抑制しようと試みたことによるものと考えられるが、上方修正後のOPECの2022年世界石油需要増加見通しは、この時点でのIEA(前年比316万バレル増加)及び米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)(同362万バレル増加)の見通しに比べ増加幅が相当程度大きかったこともあり、OPECによる世界石油需要の上方修正に対する市場の反応は限られたものとなった。

なお、今般のOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置縮小実施決定に対し、米国ホワイトハウスは、当該決定を歓迎するとともに、引き続きバイデン政権は原油価格決定における自由競争市場の重要性と経済回復を支持するためのさらなる行動につきOPECプラス産油国とともに関与し続ける旨明らかにしたと9月1日夕方(米国東部時間)に伝えられる。

 

(3) 原油価格の動き等

原油市場では、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で円滑に意思決定がなされたことにより、関係産油国間での結束が維持されていると市場関係者に受け取られたことが、原油相場に上方圧力を加える格好となった。また、9月1日にEIAから発表された同国石油統計(8月27日の週分)で原油在庫が前週比で717万バレルの減少と市場の事前予想(同310万バレル程度の減少)を上回って減少していた他、同国の石油製品出荷量が日量2,282万バレルと1990年後半以降の同国週間統計史上最高水準に到達している旨判明したことも、原油相場にとって支援材料となった。このようなことから、8月下旬に米国メキシコ湾岸地域に来襲したハリケーン「アイダ」通過後、当該ハリケーンの来襲に備えて生産を停止したメキシコ湾沖合油田の原油生産が比較的早期に回復する一方、メキシコ湾岸地域の製油所の稼働再開までには時間を要する結果、原油需給が緩和するとの観測が市場で発生した流れが9月1日の原油市場に引き継がれたことが原油相場に下方圧力を加えたものの、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.59ドルと前日末終値比で0.09ドル上昇している。

 

2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2021年6月の米国ガソリン需要(確定値)は日量927万バレル、前年同月比で11.8%程度の増加と2021年5月の同26.9%程度の増加から増加率が縮小している(図3参照)他、速報値(前年同月比で13.2%程度増加の日量938万バレル)から下方修正されている。6月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量78万バレル程度と推定されるところ確定値では同87万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。同国では新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展するとともに、6月の同国での1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が最高でも6月1日の22,570人と比較的低位で安定していた(因みに2021年1月8日時点の当該感染者数は300,777人であった)こともあり、米国ニューヨーク州及びカリフォルニア州では6月15日を以て一部を除き経済活動制限措置が全面的に解除されるなど、同国では個人の外出規制や経済活動制限が緩和されつつあったことにより、自動車での往来が活発化する(6月の米国自動車運転距離数は前年同月比で14.5%程度増加したものと推定される)とともにガソリン需要が増加したものと考えられる。ただ、5月7~12日に米国コロニアル・パイプライン(米国テキサス州~ニュージャージー州、ガソリン輸送能力日量150万バレル程度とされる)がサイバー攻撃を受け操業を停止したことで、米国東部海岸地域を中心とした地域でのガソリンを含む石油製品供給混乱発生に伴う消費者のガソリン購入殺到により5月のガソリン需要が一時的に押し上げられた一方、6月はその反動でガソリン需要の伸びが抑制された側面もあるものと考えられる。また、2020年4月は新型コロナウイルス感染拡大もあり個人の外出が相当程度落ち込んだ一方、同年4月16日に米国のトランプ大統領(当時)が同国国民の外出規制緩和と経済活動再開への指針を発表したことで、外出規制と経済活動制限が緩和され始めた(同年5月20日のコネチカット州を以て米国の全50州において部分的であれ個人の外出規制及び経済活動制限が緩和された)こともあり、2020年6月は米国で個人の外出が回復しつつあったことが一因となり、2021年6月の米国推定自動車運転距離数の前年同月比での増加率は同年5月の同28.9%程度から縮小するとともに、2021年6月のガソリン需要の前年同月比での増加率も5月から縮小しているものと考えられる。なお、2021年6月のガソリン需要は2019年6月の水準(日量970万バレル)に比べればなお4.4%程度の減少となっている。他方、2021年8月の同国のガソリン需要(速報値)は日量950万バレル、前年同月比で11.5%程度の増加となっており、7月の当該需要(速報値)である同944万バレルからは需要量としては若干ながら増加する一方、7月の前年同月比での11.6%程度の増加からは増加率はほぼ同水準となっている。通常夏場のドライブシーズン中最も自動車による外出が盛り上がるのは7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)の休日を含む7月とされており、8月は夏場のドライブシーズンのピークを過ぎるとともに自動車運転距離数も前月比では減少傾向となる。2021年も8月の推定自動車運転距離数は1日当たり91億マイルと7月(同94億マイル)から減少している。ただ、例年8月のガソリン需要は7月のそれから増加していることが多い。これは、厳密に言うと米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)で把握されるガソリン需要は「ガソリン出荷量」であり、製油所等から出荷されるガソリンの量を指している。そして、7月の夏場のドライブシーズンの盛り上がり時期に販売された結果減少したガソリンスタンド等でのガソリン在庫充填のため、実際のドライブシーズンの最盛期を過ぎた8月にガソリン出荷が活発化しているものと思われる。また、新型コロナウイルスワクチン接種普及は進展した(米国で少なくとも1回は当該ワクチンを接種した成人の全成人に占める割合は8月2日に70%に到達し、同国バイデン政権が掲げた目標を1ヶ月遅れではあったが達成した)ものの、7月31日には29,698人であった1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が8月31日には160,250人に到達するなど、8月の新型コロナウイルス感染者数が増加傾向になったところからすると、8月の同国ガソリン需要の確定値が発表される段階で速報値から下方修正されるといった展開となる可能性も否定できない。なお、2021年8月のガソリン需要は2019年8月の水準(日量983万バレル(確定値))に比べ依然3.4%程度の減少となっている。そして、米国では労働祭(レイバー・デー)の休日(9月6日)に伴う連休(9月4~6日)による夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了まで、最終消費段階ではガソリン需要はなお底堅かった反面、製油所は夏場のドライブシーズン終了後のガソリン不需要期を視野に入れつつ稼働を低下させたことに加え、8月下旬後半には米国メキシコ湾岸地域にハリケーン「アイダ(Ida)」が来襲したことに伴い停電や冠水等の発生により当該地域の一部製油所の操業が影響を受けた(最大日量200万バレル程度の原油精製処理能力相当分が影響を受けたと推定される)ことから、原油精製処理量は減少傾向となる(図4参照)とともに、製油所でのガソリン生産活動も混合基材を中心として不活発化したものと考えられる(なお、ガソリン最終製品の生産は図5参照)。このようなことから、ガソリン需要が供給を上回る格好となったことにより、8月上旬から9月上旬にかけての米国ガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る状態は継続している(図6参照)。

図3 米国ガソリン需要の伸び(2006~21年)

図4 米国の原油精製処理量(2009~21年)

図5 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~21年)

図6 米国ガソリン在庫推移(2003~21年)

2021年6月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量394万バレルと前年同月比で12.7%程度の増加となり、5月の同12.4%程度の増加から若干増加率が拡大したものの、速報値である日量402万バレル(同14.9%程度の増加)からは下方修正された(図7参照)。6月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量117万バレル程度と推定されるところ確定値では同125万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。2021年6月の米国鉱工業生産は前年同月比で10.1%の増加と同年5月の同16.3%の増加から伸びが鈍化した他、2021年6月の同国物流活動も前年同月比で5.6%の増加と同年5月の同7.7%から増加率が縮小するなどしている。また、2020年6月の同国留出油需要の前年同月比での減少率は12.5%程度と5月の同16.2%程度から縮小しており、この分だけ、2021年6月の同国留出油需要の伸びが縮小しやすい状態であった。このため、2021年6月の米国留出油需要の前年同月比での伸びは5月に比べ鈍化していても不思議はない状況であったが、6月は新型コロナウイルス感染者数が比較的低位で安定していたこともあり、同国では個人の外出規制や経済活動制限が緩和されつつあったことにより、製造及び物流活動の活発化期待から軽油の購入が進んだことが、6月の同国の留出油増加率の上振れに反映されたものと見られる。ただ、実際には6月の米国鉱工業生産及び物流活動の前年同月比での伸びは5月のそれよりも鈍化していたうえ、7月は米国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が増加傾向であった(7日移動平均で見ると、6月30日には12,541人であった当該感染者数は7月31日には78,481人となっている)ことにより、特に同国の物流活動が相当程度減速した(7月の同国物流活動は前年同月比で0.5%の伸びと6月のそれから大幅に縮小している)こともあり、今後発表される予定である7月の同国留出油需要(確定値)の前年同月比での伸びが6月のそれから縮小する可能性も否定できない(因みに同月の同国留出油需要(速報値)は前年同月比で4.2%の増加率にとどまっている)。なお、2021年6月の米国留出油需要は2019年6月の当該需要水準(日量399万バレル)をなお1.3%下回っている。他方、2021年8月の留出油需要(速報値)は日量409万バレルと前年同月比で11.5%程度の増加となり、7月の当該需要(速報値)の同4.2%程度の増加から伸びが加速している。2021年8月の米国鉱工業生産は前年同月比で5.9%程度の増加と7月の同6.6%程度の増加から減速しているが、新型コロナウイルスワクチン接種進展の中7月の同国留出油需要の伸びが低水準にとどまった反動が8月に現れている側面があるものと考えられる。なお、2021年8月の米国留出油需要は2019年8月のそれ(日量403万バレル(確定値))を1.5%程度上回っている。また、米国では9月6日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したものの、それまでは最終需要段階ではガソリン需要が比較的堅調であったことにより、製油所でもガソリン生産を優先する一方需要期ではない留出油の生産が劣後したと考えられる他、8月下旬にはハリケーン「アイダ」が米国メキシコ湾岸地域に来襲したことに伴い、当該地域の一部製油所の稼働が停止したこともあり、留出油生産が低迷したこと(図8参照)により、8月上旬から9月上旬の期間留出油在庫は減少傾向となった他平年並みの量となっている(図9参照)。

図7 米国留出油需要の伸び(2006~21年)

図8 米国の留出油生産量(2009~21年)

図9 米国留出油在庫推移(2003~21年)

2021年6月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で16.8%程度増加の日量2,054万バレルとなったが、同年5月の前年同月比25.0%程度の増加からは増加率が縮小した(図10参照)。ガソリン、留出油及びその他の石油製品を含め幅広く石油製品需要が前年同月比で増加したことが同国石油需要の前年同月比での増加に反映されているが、2020年5月に比べ同年6月は米国石油需要が持ち直し続けていたこともあり、その分だけ2021年6月の同国石油需要の前年同月比での伸び率が同年5月のそれから縮小しやすいといった部分もある。なお、6月のその他の石油製品需要については、ベイポート・ポリマーズ(Bayport Polymers)(仏トタルエナジーズ(Total Energies)とオーストリアのボレアリス(Borealis)の折半合弁企業)が米国テキサス州ポート・アーサー(Port Arthur)に建設中のエタン分解装置(エチレン生産能力年産100万トン)の本格操業開始が間近に迫っていることもあり、当該施設操業開始に向けた在庫積み上げのためのエタン需要が発生していると見られるうえ、同国の他のエタン分解装置での操業上の不具合が殆ど発生しなかったことから、エタン需要が堅調であったことが一因であるものと考えられる。そして、2021年6月の当該需要は2019年6月のそれ(日量2,065万バレル)をなお0.6%程度下回っているが、2021年5月の前々年同月比での減少率(1.4%程度)から縮小している。また、ガソリン及び留出油等の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたこともあり、米国石油需要も速報値(前年同月比で17.2%程度増加の日量2,060万バレル)から下方修正されている。他方、2021年8月の米国石油需要(速報値)は日量2,129万バレルと前年同月比で14.7%程度の増加となり、7月の当該需要(速報値)の同11.6%程度増加から増加率が拡大した。ガソリン及び留出油需要の伸びに加え、2021年8月のジェット燃料需要が前年同月比で54.2%程度増加している(米国では新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展しつつあったこともあり、米国の空港における国内航空便利用旅客数が前年同月を大幅に上回っている旨示唆される)ことが、8月の石油需要の増加を下支えしているものと見られる。また、2021年8月の米国石油需要は、2019年8月の当該需要(日量2,116万バレル(確定値))を0.6%程度上回っている。他方、8月上旬から下旬にかけては、米国原油生産が概ねほぼ一定の水準で推移した(シェールオイル開発・生産企業に対する株主等からの業績改善重視の圧力により、これら企業はシェールオイル生産拡大には必ずしも積極的はなかったことが足元の米国原油生産の伸び悩み傾向に反映されているものと考えられる)一方、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の下、ガソリン精製利幅が堅調に推移したこともあり、ガソリンを活発に製造すべく製油所での原油精製処理量が比較的高水準で推移した。また、8月下旬から9月上旬にかけては、8月下旬にハリケーン「アイダ」が米国メキシコ湾沖合の油田地帯を縦断して通過していったことに伴い、当該地域の原油生産量(日量182万バレル)のうち最大時で95.6%に当たる同174万バレルの原油生産が停止した他、同じくハリケーン来襲に伴い操業を停止した製油所の稼働再開に比べ、米国メキシコ湾沖合油田での原油生産再開が緩やかに進展した(図11参照)このような要因により、8月上旬から9月上旬にかけての米国原油在庫は減少する傾向が見られた。それでも当該在庫は平年幅上限を上回る状態は続いている(図12参照)。そして、留出油在庫が平年並みの量となった他、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図13及び14参照)。

図10 米国石油需要の伸び(2006~21年)

図11 ハリケーン「アイダ」来襲に伴う米国メキシコ湾沖合及び湾岸地域での原油生産及び原油精製能力停止量

図12 米国原油在庫推移(2003~21年)

図13 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~21年)

図14 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~21年)

2021年8月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、日本では一部製油所が実施していたメンテナンス作業が7月中に完了するとともに、稼働再開に併せ原油調達が進められたと見られることにより、原油在庫は若干ながら増加した。ただ、米国では当該在庫は減少となった他、欧州でも、複数の製油所におけるメンテナンス作業実施以外の理由(装置不具合等の発生と見られる)による操業停止が7月末までに概ね解消したことにより、製油所の稼働が上昇、原油精製処理が進むとともに原油在庫は減少した。そして、欧米諸国での原油在庫減少が日本での当該在庫増加を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図15参照)。石油製品については、欧州においては、製油所の稼働上昇に伴う石油製品生産活動活発化もあり、在庫は若干ながら増加した。ただ、米国では、ガソリン及び留出油在庫の減少が一因となり、石油製品全体の在庫も減少した他、日本においても夏場のドライブシーズン到来に伴い個人の外出が促されるとともにガソリン需要もそれなりに発生したと見られることから、当該製品を中心として石油製品在庫は減少した。このため、欧州での石油製品在庫の増加を米国及び日本での当該在庫の減少で相殺して余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年並みの量となっている(図16参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る量である一方、石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図17参照)。なお、2021年8月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.3日と7月末の推定在庫日数(62.3日)から低下している。

図15 OECD諸国原油在庫推移(2005~21年)

図16 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~21年)

図17 OECD諸国石油

8月11日に1,200万バレル台後半程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、8月18日には1,300万バレル台半ば程度の量へと増加した後、8月25日、9月1日及び9月8日は1,300万バレル台前半程度の量で推移した。そして9月15日は1,400万バレル弱の水準へと上昇している。8月下旬にはシンガポールの台湾からのガソリン輸入が一時的に急増する場面が見られた。しかしながら、8月9日に中国政府により2021年第二回の石油製品(ガソリン、軽油、ジェット燃料及び低硫黄重油)輸出枠が同国石油会社に対し付与されたと8月10日に伝えられたが、当該輸出枠合計が1,050万トンと第一回の輸出枠(約3,450万トン)から相当程度抑制されたこともあり、シンガポールの中国からのガソリン輸入は引き続き総じて低水準であった。また、インドでも1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が5月6日の414,188人から9月18日には30,773人へと10分の1未満の規模へと縮小したこともあり、個人の往来が活発化するとともに同国からシンガポールへのガソリン輸出も限定的な規模となった。このようなことから、シンガポールのガソリン輸入全体も総じて低調であった。他方、7月15日には1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が56,757人と史上最高水準に到達したインドネシアでは、9月18日時点の当該感染者数が3,385人と10分の1未満の水準へと縮小したこともあり、8月24日には同国の首都ジャカルタ等で飲食店の屋内営業が可能となる等経済活動制限の緩和が図られた。このため、同国での経済活動、個人の外出及び石油需要の回復展望とともにシンガポールからインドネシアへのガソリン輸出が上振れする場面が見られたものの、経済活動制限緩和の初期段階だったこともあり、なお当該輸出は不安定であった。また、豪州やベトナム等のアジア太平洋諸国の一部では1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が増加し続けていたり高止まったりしていたこともあり、個人の外出が不活発になるとともにガソリン需要も不振であったことから、シンガポールからこれら諸国へのガソリン輸出ももたつき気味となった。このようなシンガポールのガソリン輸出入状況が8月中旬から9月上旬にかけての同国での軽質留分在庫のいわば範囲内での変動に反映されたものと考えられる。ただ、9月に入り夏場のドライブシーズンが終了したことにより、アジア地域での季節的なガソリン需要の盛り上がりが消滅したことが、9月上旬から中旬にかけてのシンガポールでの軽質留分在庫増加の一因となっているものと考えられる。また、8月中旬から下旬にかけては、米国をはじめとする諸国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期によるガソリン需給引き締まり感が市場で意識されたことがアジア市場におけるガソリン価格にも上方圧力を加えたうえ、原油価格の下落にガソリン価格のそれが追い付かなかったこともあり、当該市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する場面が見られた。しかしながら、その後は夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が市場関係者の視野に入るとともに原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かなったことにより、ガソリンとドバイ原油の価格差は縮小する傾向を示した。それでも、ハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾岸地域来襲による当該地域の製油所の稼働停止及びこの先のアジア諸国での秋場の製油所メンテナンス作業実施シーズン突入に伴う石油製品供給の減少観測がガソリンとドバイ原油との価格差を下支えする格好となっている。

ナフサについては、8月中旬から下旬にかけては、中国をはじめとするアジア太平洋地域の一部諸国で新型コロナウイルス感染者数が増加したことに伴う当該感染抑制のための経済活動制限の強化の影響で、これら諸国及び地域での経済活動が減速するとともに石油化学製品需要の鈍化観測が市場で発生したことに加え、米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が残り少なくなってきたこともあり、ガソリン製造時に混入するナフサの需要が抑制されるとの見方が市場で広がり始めたこと等がアジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えた結果、ナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格のそれを総じて上回っている)は縮小傾向となった。しかしながら、石油化学産業向け原料としてナフサと競合することのある液化石油ガス(LPG)価格が底堅く推移した(2021年2月中旬に米国テキサス州を中心とする地域に寒波が来襲したことにより、同国の原油及び天然ガスの生産に支障を来したが、その際随伴で産出されるLPGの生産まで落ち込むことになった影響が現在まで継続している他、米国のシェールオイル開発・生産会社等の収益優先の経営方針により同国での原油及び天然ガスの生産とともにLPGの生産ももたつき気味となっていること、さらには米国、欧州及びアジア等で天然ガス価格が上昇していることにより、代替燃料としてのLPG需要増加観測が市場で発生していることが一因であると見られる)ことが石油化学部門でのナフサ需要を支持するとともに価格を下支えする格好となった。加えて、8月下旬にハリケーン「アイダ」が米国メキシコ湾岸地域に来襲したことに伴い当該地域の製油所の稼働が停止したことにより、欧米諸国等からアジア市場へのナフサの流れが減少するとの懸念が市場で発生したことが、当該市場でのナフサ価格に上方圧力を加えた。この結果、8月下旬から9月中旬にかけてのナフサとドバイ原油の価格差は拡大する傾向を示した。

8月11日には1,100万バレル台前半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、8月18日及び25日には1,000万バレル台後半程度の量へと減少した。その後9月1日には1,100万バレル台前半程度の水準へと回復したものの、9月8日には1,000万バレル弱の量へと減少した。そして9月15日は1,000万バレル台後半の量へと回復しているが、8月11日の水準は下回っている。シンガポールからの中間留分輸出は概ね限られた範囲で推移している(それでも2020年第一四半期の新型コロナウイルス感染拡大以前の水準と比較すると総じて軟調である)。また、中国政府から付与された2021年第二回の軽油輸出枠が限定な規模となったとされることにより、シンガポールの中国からの軽油輸入が皆無となった他、インドでも1日当たり新型コロナウイルス新規感染規模が縮小したこともあり、インドの経済とともに軽油需要が回復することにより、同国からのシンガポール向け軽油輸出が下振れ傾向を示すようになったことを含め、シンガポールの軽油輸入が総じて低調に推移したこと、そして8月下旬に米国メキシコ湾岸地域にハリケーン「アイダ」が来襲したことに伴う当該地域一部製油所の稼働停止により、米国から欧州方面への軽油の輸出に支障が生ずるとともに、欧州でも秋場の製油所メンテナンス実施時期突入を控えるとともに、冬場の暖房シーズンに伴う軽油需要期に向け軽油在庫を積み上げる必要に迫られていたところ、米国からの軽油供給減少の代替としてアジア方面からの軽油調達を活発化させつつあったことにより、特に9月に入って以降は、アジア諸国から欧州方面に向けた軽油流出が活発化したと見られることが、同国での軽油を含む中間留分在庫の減少傾向の背景にあるものと考えられる。そしてこのようなシンガポールでの中間留分在庫の減少傾向が、アジア市場での軽油需給引き締まり感を市場で醸成させることを通じ、軽油価格を下支えする格好となった他、8月中旬後半には原油価格の下落に軽油価格のそれが追い付かなかったことにより、アジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する場面が見られたものの、北東アジア諸国、東南アジア諸国及び豪州等アジア太平洋地域の一部諸国において新型コロナウイルス感染者数が拡大もしくは高止まりすることにより、これら諸国の製造部門や物流部門等の経済活動が制限されることを通じ軽油需要が下振れするとの懸念がアジア市場での軽油価格を抑制したことにより、8月中旬から9月中旬にかけては、軽油とドバイ原油の価格差は拡大及び縮小を繰り返しながらも、どちらかというと拡大する傾向を示した。

8月11日に2,200万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、8月18日には2,200万バレル強程度、8月25日には2,100万バレル台前半程度、9月1日には2,000万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。9月8日には2,400万バレル台前半程度の量へと一転して増加したが、9月15日には2,100万バレル台前半へと減少しており、8月11日の水準を下回っている。夏場の気温上昇に伴う空調用電力供給のための発電部門向けにパキスタンやバングラデシュといった南アジア一部諸国やクウェートといった中東一部諸国で重油需要が発生していることが、シンガポールからの重油輸出を促進したり、シンガポールへの重油輸入を抑制したりした結果、シンガポールでの重油在庫を減少させる方向で作用したものと見られる。そして、シンガポールでの重油在庫がどちらかというと減少傾向となったうえ、アジア地域ではLNG価格が上昇傾向にあることに加え、インドでは雨季(モンスーン)の到来や一時新型コロナウイルス感染が拡大した影響で炭鉱での石炭生産作業効率が低下したとされる他、中国でも同国最大の産炭地域である山西省にある炭鉱で9月2日に事故が発生したことに伴い、事故が発生した炭鉱は少なくとも1ヶ月間操業を停止、他の炭鉱についても2ヶ月間にわたり安全確認作業を実施するよう同省当局が指示したことにより、同国での石炭生産が影響を受ける恐れがあるとの懸念が市場で増大したこともあり、石炭価格が上昇しているなどしたことから、発電部門において、価格が上昇しているLNG及び石炭の代替燃料源として重油に対する需要がこの先堅調になるとの観測が市場で発生した。さらに、アジア地域では秋場の製油所メンテナンス作業実施時期にさしかかりつつあることにより、この先製油所での重油生産がもたつき気味となりやすくなるとの見方が広がりつつあることが、アジア市場での重油価格に上方圧力を加えたことから、例えば高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は8月中旬から9月中旬にかけ総じて縮小する傾向を示した。

 

3. 2021年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場等の状況

2021年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場では、8月中旬には豪州等での新型コロナウイルス感染拡大、2021年末までに米国で金融緩和縮小が実施されるとの観測の発生等により、8月13日には1バレル当たり68.44ドルの終値であった原油価格(WTI)は8月20日には同62.32ドルの終値へと下落した。しかしながら、その後は7月20日以来拡大していた中国での新型コロナウイルス感染の収束、8月22日に発生したメキシコでの油田火災に伴う原油生産減少、8月23日に米国当局がファイザー等の開発した新型コロナウイルスワクチンを正式承認したことによるワクチン接種加速への期待増大、8月27日のパウエルFRB議長による金利引き上げに対する慎重な姿勢の示唆、8月下旬のハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾沖合地域来襲による油田での原油生産停止等が、原油相場に上方圧力を加えたことにより、9月16日には原油価格は1バレル当たり72.61ドルの終値へと回復している(図18参照)。

図18 原油価格

中国での新型コロナウイルス感染拡大や一部地域での洪水発生もあり、8月16日に同国国家統計局から発表された7月の同国鉱工業生産が前年同月比で6.4%、小売売上高が同8.5%の、それぞれ増加と、6月の同国鉱工業生産の同8.3%、小売売上高の同12.1%の、それぞれ増加から、伸びが鈍化した他、市場の事前予想(鉱工業生産同7.8~7.9%程度、小売売上高同10.9~11.5%程度の、それぞれ増加)を下回ったことにより、同国経済の減速と石油需要の伸びの鈍化を巡る懸念が市場で増大したことに加え、8月16日に中国国家統計局から発表された同国原油精製処理量が5,906万トン(推定日量1,394万バレル)と前年同月比で0.9%減少、日量ベースでは2020年5月(この時は同日量1,367万バレル)以来の低水準であった旨判明したことにより、同国石油需要の伸びの鈍化を巡る不安感が市場で増大したこと、8月15日にアフガニスタンの反政府勢力タリバンが首都カブールに進入し大統領府を掌握したことに伴い、同国及び中東情勢不安定化に対する懸念の市場での増大により安全資産としての米ドル購入が進んだ結果米ドルが上昇したことから、8月16日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.15ドル下落し、終値は67.29ドルとなった。また、8月31日まで実施の予定であった新型コロナウイルス感染抑制のための緊急事態宣言を9月12日まで延長する旨8月17日に日本政府が発表した他、ニュージーランドでも、2021年2月以来の感染者がオークランドで発見されたことにより、8月17日深夜より3日間都市封鎖措置を実施する旨8月17日に同国政府が発表したこともあり、新型コロナウイルス感染拡大により世界各国及び地域の経済及び石油需要回復に対し悲観的な見方が市場で増大したことに加え、8月17日に米国商務省から発表された7月の同国小売売上高が前月比1.1%の減少と6月の同0.7%増加から減少に転じた他、市場の事前予想(同0.3%減少)を上回ったこともあり、米国株式相場が下落したこと、8月15日にタリバンがアフガニスタン大統領府を掌握したことにより、安全資産としての米ドルの購入が進む流れを引き継いだ結果、米ドルが上昇し続けたことから、8月17日の原油価格の終値は1バレル当たり66.59ドルと前日終値比で0.70ドル下落した。8月18日も、この日米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(8月13日の週分)で、ガソリン在庫が前週比で70万バレルの増加と市場の事前予想(同170万バレル程度の減少)に反し増加していた旨判明したことで、同国ガソリン需給緩和感を市場が意識したことに加え、新型コロナウイルスの効果が時間の経過とともに低減するとして、9月20日から米国で新型コロナウイルスワクチン追加接種を開始する旨8月18日に同国保健当局が発表したことにより、新型コロナウイルス感染収束と米国等の個人の外出、経済及び石油需要の回復に対する楽観的な見方が市場で後退したこと、8月18日に発表された米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(7月27~28日開催分)で、米国の雇用回復に対しなお金融面での支援は必要であるものの、同国経済状態が金融緩和縮小開始の条件を満たす方向に向かいつつあるとの認識を複数の金融当局関係者が明らかするとともに、2021年末までに当該金融緩和縮小開始が決定される可能性が示唆されていたこと、FOMC議事録において金融緩和縮小決定時期が迫りつつある旨示唆されたことに加え、8月18日に米国商務省から発表された7月の同国新築住宅着工件数が年率153万戸と6月の同165万戸から減少したうえ、市場の事前予想(同160万戸)を下回ったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.13ドル下落し、終値は65.46ドルとなった。8月19日も、9月20日より米国で新型コロナウイルスワクチン追加接種を開始する旨8月18日に同国保健当局が発表したことにより、新型コロナウイルス感染収束と米国等の個人の外出、経済及び石油需要の回復に対する楽観的な見方が市場で後退した流れを引き継いたことに加え、8月18日に公表された米国FOMC議事録で2021年末までに金融緩和縮小が決定される可能性がある旨示唆されていた流れを引き継いで米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.69ドルと前日終値比で1.77ドル下落した。8月20日も、この日豪州ニューサウスウェールズ州政府が新型コロナウイルス感染抑制のため8月28日にかけ同国最大の都市シドニーに対し実施中であった都市封鎖措置(当初6月26日から7月9日にかけ実施する旨6月26日に同州政府が発表、その後当該措置を7月16日まで延長する旨7月7日に、7月30日まで延長する旨7月14日に、さらには8月28日まで延長する旨7月28日に、それぞれ同州政府が発表)を最も早くても9月末まで解除しない旨発表したことに加え、同日ニュージーランド政府も当初8月20日深夜(現地時間)に解除する予定であった同国全土を対象とする都市封鎖措置を4日間延長する旨発表したことにより、新型コロナウイルス感染拡大に伴い世界各国及び地域の経済及び石油需要回復に対する悲観的な見方が市場で増大したことに加え、8月20日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で405基と前週比8基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は391基と前週比6基増加)している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.37ドル下落し、終値は62.32ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2021年9月渡し原油先物契約は取引を終了したが、同年10月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり62.14ドル(前日終値比1.36ドルの下落)であった)。この結果原油価格は8月16~20日の5日間で1バレル当たり合計6.12ドル下落した。

しかしながら、8月23日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、米国製薬大手ファイザー及びドイツバイオ医薬品製造会社ビオンテックが開発しこれまで米国で緊急使用許可の下で使用してきた新型コロナウイルスワクチンに対し、8月23日に米国食品医薬局(FDA)が正式に使用を認可したことにより、当該ワクチンに対する信頼性が向上するとともに接種が促進されることを通じ、新型コロナウイルス感染が抑制され米国等の経済が回復するとの期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したこと、新型コロナウイルスのデルタ変異株による米国での感染拡大が収束しないことが同国経済に影響を及ぼし続けるようであれば、金融緩和縮小開始を後ろ倒しすることも否定しない旨8月20日に同国ダラス連邦準備銀行のカプラン総裁が示唆した流れを引き継いだうえ、8月23日に英国経済情報サービス会社IHSマークイットから発表された8月の米国製造業購買担当者指数(PMI)(速報値)(50が好不況の分岐点)が61.2と7月の63.4(統計史上最高水準)から低下した他市場の事前予想(62.0~62.5)を下回ったうえ、8月の同国サービス業PMI(速報値)(50が好不況の分岐点)も55.2と7月の59.9から低下した他市場の事前予想(59.2~59.5)を下回ったことにより、米国金融当局による金融緩和縮小の早期開始に対する観測が市場で後退したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.32ドル上昇し、終値は65.64ドルとなった。また、8月22日にメキシコのク・マロブ・サップ(Ku-Maloob-Zaap)油田関連施設で火災が発生したことにより日量42.1万バレルの原油生産が停止した旨8月23日午後(現地時間)にメキシコ国営石油会社ペメックス(Pemex)が発表したことにより、同国から米国への原油供給低下懸念が市場で発生した流れを8月24日の石油市場が引き継いだうえ、ファイザー及びビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチンに対する8月23日のFDAの正式使用認可により、新型コロナウイルス感染が抑制され米国等の経済が回復するとの期待が市場で増大した流れを引き継いで、米国株式相場が上昇し続けたこと、8月24日にドイツ連邦統計局から発表された2021年4~6月の同国国内総生産(GDP)(改定値)が前期比で1.6%の増加と7月30日に発表されたGDP(速報値)の同1.5%から上方修正された旨判明したこともありユーロが上昇したうえ米国株式相場の上昇により投資家のリスク許容度が拡大したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.54ドルと前日終値比で1.90ドル上昇した。8月25日も、この日EIAから発表された米国石油統計(8月20日の週分)で原油在庫が前週比で298万バレル、ガソリン在庫が同224万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(原油在庫同270万バレル程度、ガソリン在庫同160万バレル程度、のそれぞれ減少)を上回って減少していた他、同国の石油需要が日量2,182万バレルと2020年3月6日の週(この時は同2,188万バレル)以来の高水準に到達している旨判明したことで、同国の石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、米国製薬及び日用品製造大手ジョンソン・エンド・ジョンソンが新型コロナウイルスワクチンの追加接種により体内の抗体が相当程度増強されるとの試験結果を発表したこともあり、この先の新型コロナウイルス感染抑制と米国等の経済及び石油需要の回復に対する市場の期待が強まったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.82ドル上昇し、終値は68.36ドルとなった。この結果原油価格は8月23~25日の3日間で1バレル当たり合計6.04ドル上昇した。ただ、8月26日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、8月22日にメキシコのク・マロブ・サップ油田関連施設で発生した火災に伴う原油生産停止につき、既に日量7.1万バレル相当分の原油生産が開始済であり、今後36時間以内にさらに日量11万バレル原油生産量が増加する他、8月30日までに全ての原油生産が回復する旨8月24日夜(現地時間)にペメックスのロメロ(Romero)最高経営責任者(CEO)が明らかにしたことにより、同国からの原油供給減少を巡る市場の懸念が後退した流れを引き継いだこと、米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムにおいて8月27日に行われる予定である米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の講演を前にした米国株式の持ち高調整が市場で発生したうえ、8月26日に米国ダラス連邦準備銀行のカプラン総裁が9月21~22日に開催される予定である次回の米国連邦公開市場委員会(FOMC)において量的緩和縮小を決定し10月以降速やかに実施すべきである旨の考えを明らかにした他、同日米国セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁も米国金融当局者間で金融緩和縮小に向けた方策につき意見が統一されつつある旨示唆したうえ、8月26日にアフガニスタンの首都カブールで2回の爆発があり米軍関係者に多数の死傷者が発生したと伝えられたこともあり、米国株式相場が下落したこと、8月26日に米国金融当局者による金融緩和縮小開始を支持する旨示唆する発言が複数なされたこともあり米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.94ドル下落し、終値は67.42ドルとなった。それでも、8月27日には、熱帯性暴風雨「アイダ(Ida)」がハリケーンへと勢力を強めつつ米国メキシコ湾沖合を縦断し、8月29日午後(米国東部時間)には同国ルイジアナ州のメキシコ湾沿岸地域に上陸するとの予報が8月26日以降発表され続けていることにより、米国メキシコ湾沖合の油・ガス田関連施設から従業員が避難しつつある(これにより8月27日昼(米国東部時間)時点で当該地域の総原油生産量(日量182万バレル)の58.5%に当たる日量106万バレルの原油生産が停止した)ことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、8月27日に行われた米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムにおいて、パウエルFRB議長が、年内に金融緩和の縮小を開始することが適切であるとの見解を明らかにしたものの、金利の引き上げについてはより慎重に対処する方針である旨表明したことにより、同国の金融緩和の縮小過程がより長期に渡り緩やかなものとなるとの観測が市場で広がったこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.74ドルと前日終値比で1.32ドル上昇した。

ハリケーン「アイダ」は8月29日午前11時55分頃(現地時間)カテゴリー4の勢力(米国基準で上から2番目の強さ)で米国ルイジアナ州ポート・フォーション(Port Fourchon)付近に上陸した後勢力を弱めつつ沿岸部を通過していったものの、8月30日時点においても同国メキシコ湾沖合油田、製油所及び石油製品パイプラインの操業の相当部分が停止したままとなっていることにより、石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日(8月30日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.47ドル上昇し、終値は69.21ドルとなった。ただ、8月31日には、過去の米国メキシコ湾岸地域へのハリケーン等の暴風雨の来襲時の経験から、ハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾岸地域通過後、当該ハリケーンの来襲に備えて生産を停止したメキシコ湾沖合油田の原油生産が比較的早期に回復する一方、同じく操業を停止した同国メキシコ湾岸地域の製油所の稼働再開までには時間を要する結果、原油需給が緩和するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.50ドルと前日終値比で0.71ドル下落した。また、9月1日には、この日EIAから発表された米国石油統計(8月27日の週分)で、原油在庫が前週比717万バレル、留出油在庫が同173万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫同310万バレル程度、留出油在庫同65万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少している旨判明したうえ、石油製品出荷量が日量2,282万バレルと1990年後半以降の米国週間統計史上最高水準に到達している旨判明したことで、石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、9月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、10月の減産措置につき、7月18日の前回会合で決定した方針通り、9月比で日量40万バレル縮小する旨合意したことにより、かえってOPECプラス産油国間の良好な結束状態と今後のOPECプラス産油国による減産措置推進の継続を通じた石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えた一方、ハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾岸地域通過後、メキシコ湾沖合油田の原油生産が比較的早期に回復する一方、メキシコ湾岸地域の製油所の稼働再開までには時間を要する結果、原油需給が緩和するとの観測が市場で発生した流れを引き継いだことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.09ドルの上昇にとどまり、終値は68.59ドルとなった。9月2日も、9月1日にEIAから発表された米国石油統計で、原油及び留出油在庫が市場の事前予想を上回って減少している旨判明したうえ、石油製品出荷量が米国週間統計史上最高水準に到達している旨判明したことで、石油需給引き締まり感を市場が意識した流れが引き継がれたうえ、9月1日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、10月の減産措置を前月比で日量40万バレル縮小する旨合意したことにより、かえってOPECプラス産油国間での良好な結束状態と今後のOPECプラス産油国による減産措置推進の継続を通じた石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大した流れが引き継がれたこと、9月2日午後零時半(米国東部時間)時点で米国メキシコ湾沖合の原油生産量日量170万バレル(当該地域総生産量(日量182万バレル)の93.6%)が停止したままとなっているうえ、LOOP(Louisiana Offshore Oil Port)(原油受入能力日量140万バレル程度で、米国で数少ない大型タンカー受入可能港とされる)が8月28日より操業を停止したままとなっていることにより、米国での原油供給減少に伴う石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、9月2日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(8月28日の週分)が、34.0万件と前週の35.4万件から減少、2020年3月13日の週(この時は25.6万件)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(34.5万件)を下回ったこともあり米国株式相場が上昇したこと、8月31日に欧州中央銀行(ECB)理事会委員のクノット氏(オランダ中央銀行総裁)及びホルツマン氏(オーストリア中央銀行総裁)が、9月9日に開催される予定のECB理事会で金融緩和縮小につき検討すべきである旨示唆したうえ、9月1日には同理事会委員のワイトマン氏(ドイツ連邦銀行総裁)も物価上昇が加速する恐れがある旨の見解を明らかにした他、同日ECBのラガルド総裁もユーロ圏経済は新型コロナウイルス感染の影響から立ち直りつつあることもあり、今後の支援は回復力の弱い部門に限定する必要がある旨明らかにしたことにより、ユーロ圏における金融緩和縮小に対する観測が増大した流れを9月2日の市場が引き継いだこともあり、ユーロが上昇したうえ、9月3日に米国労働省から発表される予定である8月の同国雇用統計(その内容がこの先の米国金融当局関係者による金融緩和縮小方針を左右する可能性があると市場関係者は認識していた)を控えた持ち高調整が市場で発生したこともあり、米ドルが下落したことから、この日(9月2日)の原油価格の終値は1バレル当たり69.99ドルと前日終値比で1.40ドル上昇した。ただ、9月3日には、前日の原油価格上昇に対し利益確定の動きが発生したことに加え、9月4~6日の米国労働者の日(レイバー・デー)の休日(9月6日)に伴う連休を控えた持ち高調整が市場で発生したうえ、9月3日に米国労働省から発表された8月の同国非農業部門雇用者数が前月比で23.5万人の増加と7月の同105.3万人の増加から伸びが大幅に鈍化、2021年1月(この時は同23.3万人の増加)以来の低水準の増加にとどまった他、市場の事前予想(72.8~73.3万人の増加)を下回ったことにより、世界経済及び石油需要の回復に対する楽観的な見方が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.70ドル下落し、終値は69.29ドルとなった。

9月6日は、米国労働者の日(レイバー・デー)に伴う休日に伴い、米国原油先物契約の通常取引は実施されなかったためこの日の終値も計上されなかったが、9月5日にサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが明らかにした10月のアジア向けアラビアンライト原油販売価格が前月比で1バレル当たり1.30ドルと相当程度引き下げられた他その他のアジア向けサウジアラビア産原油価格も前月比で大幅な引き下げとなった旨判明したことから、石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、9月9日に開催される予定である欧州中央銀行(ECB)理事会(金融緩和縮小が議論されると市場からは見られていた)を控え、これまで上昇してきたユーロに対し持ち高調整が市場で発生したこともありユーロが下落した他、医療福祉対策費用確保のため2022年より事実上の増税を実施する旨9月7日に英国のジョンソン首相が発表したことにより、英ポンドが下落した反面、米ドルが上昇したことから、9月7日の原油価格の終値は1バレル当たり68.35ドルと前週末終値比で0.94ドル下落した。9月8日には、これまで(9月3日及び7日)の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、9月9日にEIAから発表される予定である米国石油統計(9月3日の週分)で、原油、ガソリン、及び留出油の各在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、前々週及び前週の米国メキシコ湾沖合及び湾岸地域へのハリケーン「アイダ」の来襲に伴い9月8日現在米国メキシコ湾沖合において日量140万バレル(当該地域の通常の原油生産量日量182万バレルの約76.9%)相当の原油生産が停止したままとなっていること等により、米国への原油供給減少と石油需給引き締まり懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.95ドル上昇し、終値は69.30ドルとなった。ただ、9月9日には、中国国内の原料費高騰による製油所への圧力を緩和するため、同国で備蓄されている原油を入札を通じて放出する旨この日中国国家糧食物資備蓄局が発表したことにより、同国での石油需給緩和と国外からの原油輸入の鈍化観測が市場で発生したことに加え、新型コロナウイルスデルタ変異株感染拡大に伴い航空券予約が低調であることもあり、米国航空各社が2021年第三四半期の売上見通しを下方修正した旨9月9日に明らかになったことにより、航空部門向け石油需要の下振れ懸念が市場で増大したこと、9月9日に実施された米国30年物国債入札が好調であった旨この日明らかになったことにより、投資家の安全資産への志向が強まっているとの観測が市場で増大したことにより、リスク資産である原油の売却が発生したこと、9月9日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(9月4日の週分)が31.0万件と前週の34.5万件から減少したうえ、市場の事前予想(33.5万件)を下回っていたことにより、米国金融当局による金融緩和縮小が加速するとの観測が市場で発生したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日(9月9日)の原油価格の終値は1バレル当たり68.14ドルと前日終値比で1.16ドル下落した。しかしながら、9月10日には、ハリケーン「アイダ」が米国メキシコ湾沖合を通過したことに伴う油田関連施設操業中断による当該地域原油生産停止量が同日現在日量121万バレルと同地域の通常の原油生産量の約66.4%となるなど、当該地域での原油生産回復が鈍いこと等に対し、石油需給引き締まり懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.58ドル上昇し、終値は69.72ドルとなった。

また、9月13日も、ハリケーン「アイダ」通過後油田関連施設及び製油所が操業再開作業を実施中である米国メキシコ湾沖合及び湾岸地域に熱帯性暴風雨「ニコラス(Nicholas)」が接近しつつあることに伴い、再び沖合の油田関連施設及び製油所の操業が停止することにより原油及び石油製品供給に支障が発生するとの懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.45ドルと前週末終値比で0.73ドル上昇した。9月14日は、9月15日にEIAから発表される予定である米国石油統計(9月10日の週分)で原油、ガソリン及び留出油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、ハリケーン「ニコラス」が米国テキサス州のメキシコ湾岸沿岸部に沿って通過しつつあるものの、9月14日時点の米国メキシコ湾沖合油田での原油生産停止量が日量72万バレルと前日の同79万バレルから減少している他、同日時点の同国メキシコ湾岸地域の製油所の稼働停止規模が日量70万バレルと前日から横這いであったこともあり、当該ハリケーンの同国メキシコ湾沖合及び湾岸地域の石油産業への影響に対する市場の懸念が後退したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.01ドルの上昇にとどまり、終値は70.46ドルとなった。それでも、9月15日には、この日EIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が前週比642万バレルの減少と市場の事前予想(同350万バレル程度の減少)を上回って減少し、4.17億バレルと、2019年9月13日(この時は4.17億バレル)以来の低水準に到達している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.61ドルと前日終値比で2.15ドル上昇した。9月16日は、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、9月16日に米国商務省から発表された8月の同国小売売上高が前月比で0.7%の増加と市場の事前予想(同0.7~0.8%の減少)に反し増加していた旨判明したこともあり、米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、9月15日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が市場の事前予想を上回って減少している旨判明したことにより石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値から横這いの、1バレル当たり72.61ドルの終値となった。9月17日も、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、9月17日午前11時半(米国中部時間)現在の米国メキシコ湾沖合の油田関連施設における原油生産停止量が日量42万バレル(当該地域の通常の原油生産量日量182万バレルの23.2%)と前日の同51万バレル(同28.2%)から縮小したことにより、当該地域での原油生産回復に対し楽観的な見方が市場で増大したことに加え、9月17日にベーカー・ヒューズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で411基と前週比10基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は389基と前週比8基増加)している旨判明したこと、9月17日に発表された米国ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)(1966年第一四半期=100)が71.0と市場の事前予想(72.0)を下回ったことにより、米国株式相場が下落するとともに、投資家のリスク許容度が縮小したことにより、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.97ドルと前日終値比で0.64ドル下落した。

 

4. 原油市場における主な注目点等

地政学的リスク要因面での主な注目点はまず、イランを含む中東情勢であろう。イランと西側諸国等とのイラン核合意正常化に向けた協議は、6月18日に実施されたイラン大統領選挙で反米保守強硬派のライシ師が次期大統領に当選(8月3日に大統領に就任)したことで、6月20日を以て事実上中断状態となった。協議再開は8月中旬以降となる旨7月17日に伝えられていたが、8月中旬になっても協議再開に向けての動きは見られなかった。それでも、核合意正常化に向けた協議の実施が有用であるようであれば、イランとしては西側諸国等(米国は除く旨示唆している)と9月20日以降に協議する旨イラン外務省が9月19日に発表した。

ただ、そのような中で、イランは濃縮度最大20%の金属ウラン(核弾頭の部品としての利用が可能であるとされる)200グラムを製造した(2015年7月14日に妥結したイラン核合意では15年間イランによる金属ウランの製造は禁止されており、2021年2月6日にイランが少量の金属ウラン製造を行ったことを2月8日に確認した旨2月10日に国際原子力機関(IAEA)が明らかにしたが、3月4日にはイランが金属ウラン製造を中止した旨伝えられていた)旨8月14日に確認したと8月16日にIAEAが明らかにした。また、イランの製造する濃縮ウランの濃縮度を20%から60%に引き上げる(イラン核合意で規定されているイラン濃縮度は3.67%であった)べく遠心分離施設を増強した旨IAEAのグロッシ事務局長は8月17日に明らかにした。これに対し8月19日に英国、フランス及びドイツはイランの行動を深く懸念する旨表明、イランに対し核合意逸脱行為を停止するとともに核合意正常化に向けた交渉を再開するよう要求した。他方、8月27日には米国のバイデン大統領が、イスラエルのベネット首相と会談した際、バイデン大統領はイラン核合意正常化に向け外交を重視するが、外交手段が機能しない場合には、他の手段を選択することもありうる旨示唆した(これについては米国が対イラン制裁を強化することを意味していると見る向きもある)。また、8月30日にはイランのアブドラヒアン(Abdollahian)外相はイラン核合意正常化に向けた関係国間での協議再開までには2~3ヶ月を要する(どの時点からを指しているかは不明)旨明らかにした。ただ、米国の対イラン制裁下にもかかわらず、イランは原油輸出を増加させる方針である旨9月1日にイランのオウジ(Owji)石油相が明らかにしている。9月3日には、イラン政府を批判するイラン出身米国人ジャーナリストの拘束を計画したとして、イラン情報機関関係者4人に対し、米国内資産凍結や米国人との取引禁止を内容とする制裁を発動する旨米国財務省が発表した。そして、9月7日にIAEAはイラン核査察に関する報告書を取り纏めたが、その中でイランは濃縮度60%の濃縮ウラン製造を実施している他、IAEAとの間で取り決められているイラン国内の核開発関連施設査察のための当該施設での作業状況を監視するために設置されたカメラ(5月24日に国際原子力機関(IAEA)は、イランとの間でのイラン核関連施設等査察に関する3ヶ月の暫定合意(米国の対イラン制裁が解除された時点で当該核関連施設等に対する監視カメラの映像をIAEAに提供するが、暫定合意期間内に米国が対イラン制裁を解除しなければ当該映像を廃棄するとしていた)を約1ヶ月間延長し、6月24日迄とする旨発表、6月24日には当該期限が到来したが暫定合意の以降の取り扱いについてはイラン側からの明確な反応はこれまでなかった)が損傷を受けた(6月に発生したとされる)旨報告した。ただ、9月12日には、IAEAのグロッシ事務局長がイランのエスラミ(Eslami)原子力庁長官とテヘランで会談した結果、損傷を受けたカメラを新規の物に置き換える旨、そして、映像を記録する媒体も交換(この時点でカメラに組み込んである媒体は容量一杯に映像が記録されているとされた)のうえ、映像収録を継続することで合意した(但し収録した映像はイラン側が保管するとされる)。また、IAEAは9月13日~17に定例理事会を開催、欧米諸国(米国、英国、フランス及びドイツ)がIAEAによる核査察を制限するイランに対し非難決議案を採択する動きもあったが、イラン核開発関連施設の映像収録継続でイランとIAEAが合意したことにより、当該決議の採択は見送られた。他方、これまでイラン核合意に関して西側諸国等と交渉してきたイランのアラグチ外務次官が退任、アブドラヒアン外相顧問に就任するとともに、後任に反米強硬派であるバゲリ(Bagheri)元最高安全保障委員会事務局次長(同国の最高指導者ハメネイ師の親類であり、イラン核合意に関して否定的な意見を持っているとされる)を外務次官に指名した旨9月14日にイラン外務省が発表した。

このように、イラン核開発関連施設等の査察を巡ってはイランとIAEAとの間で暫定的な合意に至ったものの、イラン核合意正常化を巡るイランと西側諸国等との協議は事実上中断状態となっていた一方、イランは核合意を逸脱して核開発活動を推進するなどしており、イラン核合意正常化を巡る動きは複雑化しつつある。今後も、イランの最高指導者ハメネイ師の後継と目されるライシ大統領が、対イラン制裁全面解除及び二度とイラン核合意から離脱しないとの保証を米国に対し要求することに対し、米国は、弾道ミサイル開発及びイラン周辺の中東諸国等への介入の停止をイランに対し要求することにより、当該協議が再開されたとしても、その過程が紆余曲折を経る可能性がある。このようなことから、早期に米国が対イラン制裁を解除することにより、イランから国外に向け原油供給が急激に拡大する結果、世界石油需給の緩和感が市場で増大することを通じ、原油価格に下方圧力が加わる可能性は低下した。しかしながら、外交手段を通じてイラン核合意正常化を目指す米国が対イラン制裁の運用強化を踏みとどまる結果、イランから国外に向けた原油供給が急激ではないにせよ増加し続けることに伴い、世界石油需給の緩和観測が市場で増大することにより、原油相場の上昇が相対的に抑制されるといった展開となる可能性は否定できない。

他方、8月29日には、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)が、同勢力と対立し事実上の内戦状態となっているハディ暫定大統領派勢力を支援する、サウジアラビア主導の有志連合軍の拠点となっている、イエメン南西部にあるアルアナド(al Anad)空軍基地を弾道ミサイルや無人攻撃機で攻撃した結果、少なくとも40人の兵士が死亡した旨報じられる。また、9月4日には、サウジアラビア東部(日量650万バレルの石油を輸出するラス・タヌラ(Ras Tanura)石油ターミナル等の石油施設を有する)にイエメンのフーシ派武装勢力が発射した弾道ミサイル及び無人攻撃機が飛来したが、迎撃した旨9月5日にサウジアラビア国防省が発表した。今後も例えば、イエメンのフーシ派武装勢力がサウジアラビアに対しミサイル等を発射したり、ペルシャ湾におけるタンカー等船舶が攻撃されたりすることにより、中東情勢不安定化による当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で高まることにより、原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性もある。

リビアでは、同国国営石油会社NOCのサナラ会長の辞任を求めた抗議行動が実施されたことにより同国のエス・シデル(Es Sider)(原油出荷能力日量32万バレル)、ラス・ラヌフ(Ras Lanuf)(同22万バレル)両石油ターミナルの、そして、若年層による雇用を求める抗議行動が実施されたことにより同国のハリガ(Hariga)(同11万バレル)石油ターミナルの、それぞれ操業が妨害された他、同国最大の油田であるシャララ(Sharara)油田(原油生産能力日量30万バレル)でも抗議行動の発生により操業が脅かされつつあることから、数日間のうちに同国の原油生産量が最大で日量80万バレル減少する可能性がある旨9月8日に伝えられた。ただ、エス・シデル及びラス・ラヌフ両石油ターミナルは9月10日に操業再開、ハリガ石油ターミナルも9月15日に石油輸出を再開した(他方、シャララ油田の操業が停止したという情報は現時点では聞かれない)。また、同国では予算措置が確定しないことから、同国中央銀行からNOCに対し資金が配分されない結果、同国内の各油田で資金不足から原油生産が維持できない恐れがあるとも指摘されている。同国暫定政権のオウン(Oun)石油ガス相は、議会が予算案を承認しなければ、現在の同国の原油生産を維持することは困難である旨明らかにしたと8月16日に伝えられる。また、オウン氏は、石油ガス省は同国石油産業向けに70億ディナール(15億ドル)の予算配分を要求しているが、現行の予算案では30億ディナール分しか認められていないとして不満を述べている。さらに、オウン氏はサナラ会長を含む同国国営石油会社NOC経営陣の交代をリビア暫定政府に要求している旨8月19日に伝えられる(ただ、サナラ氏はNOC会長であり続ける旨9月14日に同国のドベイバ(Dbeiba)暫定首相は判断したと9月19日に伝えられる)。そして、NOC傘下のAGOCO(Arabian Gulf Oil Company)(メルサ(Melsa)、アルバイダ(al-Bayda)、ナフォーラ(Nafoora)、ハマダ(Hamada)の各油田(原油生産合計日量30万バレル)等で原油生産事業を実施する)も、2020~21年予算が配分されなければ、資金不足により原油生産が停止するであろう旨8月26日に明らかにしている。このように、同国では、かつてのように事実上の内戦状態に突入しているわけではないが、投資資金不足もしくは抗議活動により石油ターミナルや油田関連施設等の操業が停止するとともに、同国からの原油供給が減少する可能性が引き続きあることに留意する必要があろう。

経済面では、世界各国及び地域における新型コロナウイルス感染状況と個人の外出規制及び経済活動制限、そして新型コロナウイルスワクチン接種普及の状況等が原油相場に影響を及ぼすものと考えられる。米国では新型コロナウイルス接種が普及しつつあり、9月18日時点で2回の接種を完了した個人は全人口の55.2%である(8月18日時点では51.5%であった)。しかしながら、同国の新型コロナウイルス感染者数は増加した(6月30日には12,541人であった新型コロナウイルス感染者数の過去7日間平均は9月18日には148,252人となっている)。また、新型コロナウイルスワクチンの感染予防効果が時間の経過とともに低減するとして、9月20日に米国で追加の新型コロナウイルスワクチン接種を開始する旨8月18日に同国保健当局が発表している。他方、中国でも同国福建省の新型コロナウイルス感染者数が9月13日時点で59人と12日の22人から倍増超となるなど感染が拡大している旨9月14日に同国国家衛生健康委員会明らかにした(同省では9月10日に莆田市で直近では初となる感染者が確認されていた)。このように、新型コロナウイルスワクチン接種普及進展にもかかわらず、世界の一部諸国及び地域では新型コロナウイルス感染者数が増加していることにより、今後もこれら諸国及び地域では個人の外出規制及び経済活動制限が強化されることを通じ、石油需要の回復がもたつくとともに、原油相場の上昇が抑制される場面が見られることもありうる。

また、新型コロナウイルス感染に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の実施による米国経済成長鈍化の可能性に対処するため、2020年3月15日に同国連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をそれまでの1.00~1.25%から0.00~0.25%へと引き下げるとともに、緩和的な金融政策を推進するようになった。また、2020年8月27日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムでは、FRBのパウエル議長が、雇用を確保するために今後長期間平均で2%の物価上昇率を目標とすべく金融政策を実施する旨明らかにし、一時的に物価上昇率が2%を超過することも容認する姿勢を示唆した他、2021年2月24日にもパウエル議長はインフレ目標に到達するまでには3年を超過する期間を要する可能性がある旨の見解を披露した。さらに2021年7月27~28日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)及び開催後の記者会見でパウエル議長等は雇用状態は完全に回復したとは言えない状況である一方、物価上昇は一時的なものであるとの認識を示したことから、今後も金融緩和状況が長期的に継続するとの認識が市場で広がったことにより米ドルが下落した結果、原油相場に上方圧力が加わる場面も見られた。ただ、8月18日に明らかになったFOMC議事録(7月27~28日開催分)では、米国の雇用回復に対しなお金融面での支援は必要であるものの、同国経済状態が金融緩和縮小開始の条件を満たす方向に向かいつつあるとの認識を複数の金融当局関係者が明らかにしていた旨示唆されていたこともあり、2021年末までに当該金融緩和縮小開始が決定される可能性を市場が意識するようになった。それでも、8月27日にパウエルFRB議長は、米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウムにおいて、年内に金融緩和の縮小を開始することが適切であるとの見解を明らかにしたものの、物価上昇は一時的である旨の認識を改めて示すとともに、金利の引き上げについてはより慎重に対処する方針である旨表明したことにより、同国の金融緩和の縮小過程がより長期に渡り緩やかなものとなるとの観測が市場で発生した。また、9月14日に米国労働省より発表された同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で5.3%の上昇と市場の事前予想(同5.3%の上昇)と同水準であった一方、前月比では0.3%の上昇と市場の事前予想(同0.4%の上昇)ほど上昇していない旨明らかになり、物価上昇は一時的であることにより、米国金融当局者は金融緩和縮小を急がないとの認識が市場関係者間で増大する場面も見られた。ただ、今後も米国消費者物価指数等が高止まりしたり、伸びが加速することを示唆したりするようだと、もしくは雇用状態に対し楽観的な見方が市場で広がるようだと(9月9日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数が前週比で減少していたことにより、同国の非農業部門雇用者数の増加ペースが鈍化している(9月3日に米国労働省から発表された8月の同国非農業部門雇用者数は前月比で23.5万人増加と市場の事前予想(同72.8~73.3万人の増加)を大きく下回っていた)のは、雇用主側の労働者雇用に対する姿勢が後ろ向きであるわけではなく、求人しても労働者が集まらないことを示しており、従って雇用状態は必ずしも悪い状況にはないと受け取る向きもあった)、当初見込みよりも早期に金融緩和の縮小が開始されるとともに金利引き上げが視野に入るとの観測が市場で増大する結果、米ドルが上昇するとともに原油相場の上昇を抑制する場面が見られるようになる可能性もある(また、消費者物価上昇に加え米国連邦議会等で現在検討されている増税(後述)により、消費者の購買力が相対的に低下することで、この先米国経済が減速するとの観測の下、同国株式相場に下方圧力が加わる結果、原油価格が下振れすることがありうるとの見方も市場にはある)。そして、9月21~22日にはFOMCが開催される予定であることから、その際のパウエルFRB議長を含む金融当局関係者の金融緩和縮小方針を巡る発言も、米ドル等とともに原油相場に影響を与える可能性がある。

他方、8月24日には米国連邦議会下院が3.5兆ドルの予算決議案を承認するとともに、9月27日までに連邦議会上院超党派議員による1兆ドル規模のインフラ整備法案の決議を目指すことで合意した。このように、米国ではインフラ整備という、事実上の景気刺激策の策定に向け作業が進捗しつつある。ただ、9月13日には、米国でのインフラ整備のために増加する政府支出を手当てするための増税案を同国連邦議会下院歳入委員会の民主党議員が発表、9月15日には同委員会が増税法案(法人税の最高税率を21.0%から26.5%に、個人所得税の最高税率を37.0%から39.6%に、それぞれ引き上げること等を内容とする)を可決した。このため、今後米国におけるインフラ整備法の制定による景気刺激及び経済浮揚に対する期待と、増額された税金支払いにより企業利益が圧迫されることによる経済減速に対する懸念が市場で入り交じることになり、インフラ整備法案及び増税法案を巡る議論の方向性によっては、米国株式相場とともに原油相場がその影響を受ける場面が見られることもありうる。

ハリケーン「アイダ」は8月29日午後11時55分頃に米国ルイジアナ州ポート・フォーション(Port Fourchon)付近に上陸した。同ハリケーンは上陸する前に米国メキシコ湾沖合を縦断したことにより、ハリケーンの進路近辺に位置する油田関連施設等では従業員を避難させるとともに操業を停止したことにより、8月29日には米国メキシコ湾沖合の通常の原油生産量日量182万バレル(米国安全環境執行局(BSEE:Bureau of Safety and Environmental Enforcement)の発表から推定)の95.7%に当たる同174万バレルが生産を停止した他、それから20日が経過した9月17日時点においても、当該沖合ではなお日量42万バレルの原油生産が停止したままとなっている(米国メキシコ湾沖合にあるマーズ(Mars)油田等で生産された原油を陸上に輸送するパイプラインの沖合中継基地(ウエスト・デルタ(West Delta)-143)がハリケーンで損傷を受けた旨9月2日に操業者のシェルが発表するなど、沖合油田関連施設が被害を受けていることが示唆される)などしており、当該地域での原油生産の回復が緩やかである(図19参照)との認識が市場で発生した。他方、ハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾岸地域来襲に伴い冠水及び停電の被害が発生するとともに同国ルイジアナ州陸上一部地域の製油所が操業を停止した。停止した製油所の原油精製処理能力は8月29日には推定日量200万バレル程度に到達したが、9月17日現在同48万バレルとなっている。製油所での操業再開は必ずしも原油精製処理もしくは石油製品生産再開を指しているわけではないが、石油市場関係者の間では、ハリケーン「アイダ」来襲後、製油所の稼働再開の方が油田の操業再開よりも速やかであるとの印象を持ったようである。このため、操業を再開した製油所で原油精製処理が進む一方、油田からの原油供給の回復が遅いことにより、原油需給の引き締まり感が市場で発生するとともに9月中旬初頭前後には原油相場に上方圧力が加わる場面が見られた。今後順調に当該地域での原油生産及び製油所での原油精製処理能力が回復するようであれば、石油市場関係者間での石油需給引き締まり感に対する意識は低減していくものと考えられるが、例えば米国メキシコ湾沖合での油田もしくは原油輸送関連施設等での損傷に対する修復作業が手間取るようであれば、米国メキシコ湾沖合を含む同国原油供給に対する懸念が市場で増大する結果、この面では原油相場を下支えすることになろう。

図19 ハリケーン「アイダ」及び「マルコ/ローラ」来襲に伴う米国メキシコ湾沖合での原油生産停止量

また、大西洋圏では引き続きハリケーン等の暴風雨シーズンに突入しており(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)、特に8月後半以降10月前半迄は1年で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期となる。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設の操業に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が遮断されることを通じ操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2019年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した(2020年は米国等の石油市場が新型コロナウイルス感染拡大により影響を受けたこともあり2019年の数値を用いることとする、以下同様))。5月20日発表の国立海洋大気局(NOAA)国立ハリケーンセンター及び8月5日時点のコロラド州立大学の見通しによると、2021年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が見込まれている(表2参照)。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合ではそれなりの量の原油が生産されている(2019年は当該地域で日量188万バレルの原油を生産しており、これは同年の米国の原油生産量全体の約15%を占める)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2019年の当該地域の原油精製処理能力は日量866万バレルと米国全体の約47%を占める)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況や進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に及ぶ場面が見られることもありうる。

表2 2021年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

また、米国では、9月6日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了した。他方、通常冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房用石油製品需要期が市場の視野に入り始めるのは10月中旬頃以降となる。このため、それまではガソリン需要が低下する反面、暖房用のLPGや留出油需要期にはまだ早いとの意識が市場関係者の心理を支配する他、秋場のメンテナンス作業の実施に伴い製油所の稼働及び原油精製処理活動が低下する結果原油の購入が不活発になってくる。そして、このような季節的な需給の緩和感を市場が意識することにより、例年この時期は原油価格の上昇が抑制されやすい。

しかしながら、2021年9月10日時点の米国留出油在庫は過去5年平均を10.9%、LPG在庫は同21.7%、それぞれ下回る状態となっているなど、足元需給が引き締まり気味で推移している状況下で、従来冬場の需要期に向け当該製品在庫を積み上げなければならないところ、ハリケーン「アイダ」により製油所や沖合油・ガス田関連施設の操業停止により留出油及びLPGの生産が相対的にもたつく結果、これら石油製品の在庫積み上げがより困難となることにより、これら石油製品の需給引き締まり感が市場で強まることにより価格が上昇、原油価格もそれに引きずられて上昇するといった場面が見られる可能性もある。

また、欧州及びアジア諸国では天然ガス及び液化天然ガス(LNG)価格が相当程度上昇している。9月15日現在欧州の天然ガス価格指標であるオランダTTF先物価格は100万Btu当たり推定24.49ドル(原油換算1バレル当たり148.14ドル)、英国NBP先物価格は同推定24.54ドル(原油換算1バレル当たり147.24ドル)と足元の原油価格(9月15日時点で1バレル当たり72.61ドル(WTI))の倍程度となっている。このようなことから、現在天然ガスを利用している製造業や電力事業者等が、今後利用する燃料を割高な天然ガスから相対的に割安な軽油もしくは重要等の石油製品に移行させる結果、これら石油製品の需要が相対的に増加することを通じ、石油製品価格、そしてその原料となる原油価格に上方圧力を加えるといった展開となることも想定される。

OPECプラス産油国は、10月4日に閣僚級会合を開催する予定である。既に夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了し不需要期に突入していることもあり、この面ではガソリン需給の引き締まり感から全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3ドルを超過して上昇し続けるという展開にはなりにくくなっている。ただ、ハリケーン等の暴風雨の米国メキシコ湾沖合来襲に伴う油田関連施設の操業停止により米国の原油生産が落ち込んだこともあり、8月中旬時点では世界石油需要が供給を日量46万バレル程度上回ると見られた2021年第三四半期の石油需給バランスが、現時点では同93万バレル程度上回ると見られるようになっている(表3及び4参照)。他方、2021年第四四半期は現時点においても世界石油需要が供給を日量50万バレル上回るとのシナリオとなっており、8月中旬時点の当該シナリオから変更はない。このため、8月中旬時点では、2021年後半は世界石油需要が供給を日量48万バレル上回ると見られる状況であった世界石油需給バランスが、現時点では同72万バレル上回ると見られる状態となっており、この分だけ足元での世界石油需給引き締まり感が市場で強まる格好となっており、この面では原油価格の下落が抑制されやすいものと考えられる。そのような中で、この先も、ハリケーン「アイダ」等の通過に伴い操業を停止した米国メキシコ湾沖合油田関連施設での原油供給回復がもたついたり、米国メキシコ湾岸地域に点在する製油所での原油精製処理活動の再開が遅延気味に推移したりすることになれば、原油、ガソリン及び軽油を含む石油製品価格が上昇するといった展開となることもありうる。そしてそうなった場合、米国バイデン政権関係者からサウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国関係者へのさらなる働きかけが行われないとも限らず、これを受けてOPECプラス産油国は、毎月日量40万バレル減産措置を縮小するといった既定方針に対し、11月にさらに日量40万バレル程度減産措置を追加して縮小するといった選択を行うこともありうる。他の条件が変わらないということであれば、このように日量40万バレル減産措置を追加させた場合でも、2021年後半は世界石油需要が供給を上回る状態には変わりはないので、石油需給緩和感が市場で大幅に拡大するとともに原油価格の急落を招くといった展開とはなりにくいものと思われる。もっとも、欧米諸国等で新型コロナウイルス感染者数が拡大したり、高止まりしたりするといった展開となることにより、感染抑制のために個人の外出規制や経済活動制限が強化されるようであれば、その分だけ、世界石油需要が下振れすることにより、石油需給緩和感が市場で醸成されるとともに、原油相場に下方圧力を加えることも想定される。そしてそのような兆候が見られる等新型コロナウイルス感染の経済を巡る不透明感が強まるようであれば、それに伴う石油需要の下振れによる世界石油需給の相対的な緩和感の市場での醸成が、ハリケーン「アイダ」等の米国メキシコ湾地域来襲に伴う原油生産の減少等による世界石油需給の相対的な引き締まり感を相殺する格好となることから、10月4日のOPECプラス閣僚級会合においては、既定方針通り11月以降も毎月日量40万バレルの減産措置の緩和を実施する旨決定することになろう。また、それ以外の要因によって、10月4日に開催されるOPECプラス閣僚級会合直前の原油価格が大きく変動するか、変動する兆候が見られるようであれば、それに基づき当該閣僚級会合では減産措置の再調整が行われる可能性もある。

表3 世界石油需給バランスシナリオ(2021年)(9月1日OPECプラス閣僚級会合開催時点)

表4 世界石油需給バランスシナリオ(2021年)(9月20日時点)

全体としては、米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことから、原油相場には下方圧力が加わりやすいものの、米国での留出油及びLPG在庫が低水準であること、そして欧州等での天然ガス価格上昇に伴い天然ガスからの燃料転換を通じ石油需要が増加することにより、原油相場が下支えされる可能性がある。そのような中で、新型コロナウイルス感染者増減に伴う世界各国及び地域の個人の外出規制及び経済活動制限状況、米国金融当局による金融緩和縮小を巡る方針、同国インフラ整備計画や増税実施に向けた連邦議会関係者等による協議の状況、米国メキシコ湾地域へのハリケーン来襲、イラン核合意正常化を巡る関係国の動向、イエメンからサウジアラビアへのミサイル等発射を含む中東地域等の情勢、そして10月4日に開催が予定されるOPECプラス産油国閣僚級会合を控えたOPECプラス産油国や米国の動き、及び当該会合での決定事項が原油価格に影響を与えるものと見られる。

 

以上

(この報告は2021年9月21日時点のものです)

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