ページ番号1009142 更新日 令和3年10月5日
原油市場他:OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が従来方針に基づき2021年11月についても日量40万バレル減産措置を縮小する旨決定(速報)
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
- 2021年10月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催し、8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(10月時点で日量456万バレル)につき、従来方針に基づき11月も日量40万バレル規模縮小して実施する旨決定した。
- 次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は11月4日に開催される予定である。
- 8月下旬に米国メキシコ湾沖合をハリケーン「アイダ」が通過したことに伴い当該地域の油田での原油生産が停止したことに加え、欧州及びアジアでの天然ガス価格高騰により冬場に向け代替燃料として石油製品需要が増加するとの観測が市場で増大したこともあり、前回のOPECプラス閣僚級会合直前の8月31日に1バレル当たり68.50ドルであった原油価格(WTI)は今次会合直前の10月1日には同75.88ドルとなるなど、上昇傾向となった。
- しかしながら、米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が9月6日を以て終了し、ガソリン不需要期に突入したこともあり、全米平均ガソリン小売価格は依然1ガロン当たり3ドルを超過しているもののさらに大幅に上昇する兆候は見せていないなど、この面では米国国民のバイデン政権に対する不満は高まりにくい状況となっていた。
- また、米国消費者物価指数(CPI)上昇率も頭打ち気味となっていることもあり、同国金融当局に対する金利引き上げ圧力もかつてに比べ強まりにくい状況であった。
- このため、米国バイデン政権による、原油価格抑制を図るためのOPECプラス産油国に対する減産措置縮小加速への働きかけも、それ程積極的には行われなかったものと考えられる。
- 他方、世界的な新型コロナウイルス感染流行の第三波は8月下旬初頭前後にピークを打った後沈静化しつつあるように見受けられるが、今後冬場に向け第四波が到来することをOPECプラス産油国は懸念していたとされる。
- 新型コロナウイルス感染第四波が到来し世界経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化する中でOPECプラス産油国が減産措置の縮小を加速すれば、石油需給の緩和感から市場心理が急速に冷え込むことにより、原油価格の急落を招くといった展開となる恐れもあった。
- このため、OPECプラス産油国としては、今般の会合では減産措置の縮小を踏みとどまるとともに、今後の新型コロナウイルス感染を巡る状況に対する展望が開けるまで、様子を見ることしたものと考えられる。
- 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で減産措置縮小加速を見送ったことにより、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油需要期を控えた石油需給引き締まり感を市場が意識したこと等が、原油相場に上方圧力を加えたこともあり、当該会合開催当日の原油価格は前日末終値比で1バレル当たり1.74ドル上昇し77.62ドルの終値と、2014年11月11日以来の高水準に到達した。
(OPEC、IEA、EIA他)
1. 協議内容等
(1) 2021年10月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はビデオ会議形式で閣僚級会合を開催(開催時間は25分程度であったされる)、8月以降毎月日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(10月時点で日量456万バレル)につき、11月についても従来方針通り日量40万バレル規模を縮小して実施する旨確認した(表1及び参考1参照)。
(2) また、当該会合で、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を11月4日に開催することを決定した。
(3) さらに、減産目標を完全に遵守することに固執すること、及びこれまで減産目標を遵守できていない減産措置参加産油国が減産目標遵守未達成部分を追加して減産することにより2021年12月末までに完全遵守を達成することに固執することが、極めて重要である旨改めて言及した。
(4) なお、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際し、クウェートのファーリス(Fares)石油相兼高等教育相は、石油市場に難問が発生している中でOPECプラス産油国は増産には慎重である旨10月4日に明らかにしたと伝えられる。
2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
(1) 7月18日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合で合意した、8月以降減産措置が消滅するまで毎月前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する方針につき、9月1日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、10月についても当初方針通り前月比で日量40万バレル減産措置を縮小して実施する旨決定した。
(2) 9月1日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合直前には、米国メキシコ湾沖合をハリケーン「アイダ」が通過したことに伴い、当該地域の油田の原油生産が停止した。
(3) そして、米国メキシコ湾沖合にある、マーズ(Mars)、アーサ(Ursa)(原油生産量合計日量25万バレル)及びオリンパス(Olympus)(同10万バレル)各油田等で生産された原油を陸上に輸送するパイプラインの中継基地であるWD(West Delta)-143プラットフォームで、ハリケーン通過に伴い損傷が発生、当該損傷の修理を実施するため、同施設を2021年第四四半期~2022年第一四半期頃まで停止する旨9月20日に操業者のシェルが明らかにした。
(4) 米国メキシコ湾沖合地域では9月23日時点で日量29万バレルの原油生産量(当該地域の通常の原油生産量日量182万バレルの16.2%)が停止中であったが、この程度の規模の停止が2021年末にかけ継続することになり、これに伴う石油需給引き締まり懸念が市場で発生したことが、原油相場に上方圧力を加えた(なお、10月4日にシェルはオリンパス油田の原油生産を再開した旨発表している)。
(5) また、欧州及びアジア諸国では天然ガス及び液化天然ガス(LNG)価格が相当程度上昇しており、9月30日の終値は、欧州の天然ガス価格指標であるオランダTTF先物価格で100万Btu当たり推定33.18ドル(原油換算1バレル当たり約199.08ドル)、英国NBP先物価格で同推定33.84ドル(原油換算1バレル当たり約203.04ドル)と、足元の原油価格(9月30日終値で1バレル当たり75.03ドル(WTI))の倍超となっていた。
(6) このため、従来天然ガスを利用していた製造業者や電力事業者等が、今後利用する燃料を割高な天然ガスから相対的に割安な軽油もしくは重油等の石油製品に転換させる結果、これら石油製品の需要が相対的に増加するとの観測が市場で発生したことも、原油価格を押し上げた。
(7) 以上のような要因等により、前回OPECプラス産油国閣僚級会合直前の8月31日には1バレル当たり68.50ドルであった原油価格(WTI)は10月1日には同75.88ドルと上昇傾向になるとともに、10月1日の原油価格の終値は2018年10月3日(この時は同76.41ドル)以来の高水準に到達した(図1参照)。
(8) また、9月28日には、ブレント原油価格が3年ぶりに1バレル当たり80ドルに到達したこともあり、この日の米国バイデン政権の記者会見で、サキ大統領報道官は、競争的な市場と価格設定、そして(経済)回復を支持するためのさらなる方策の重要性につき、OPEC産油国を含め米国外の当事者と協議し続けている旨明らかにした。
(9) 加えて、9月28日には米国バイデン政権のサリバン大統領補佐官がサウジアラビアのムハンマド皇太子と会談しており、その際の主たる議題はイエメン内戦問題であったが、原油価格も協議する予定とされていた旨9月30日に実施された記者会見でサキ報道官が明らかにした。
(10) しかしながら、米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が9月6日を以て終了し、足元季節的にはガソリン不需要期に突入したこともあり、全米平均ガソリン小売価格は9月27日時点で1ガロン当たり3.271ドルと、5月10日以来同3ドル超の水準を継続してはいたものの、価格は前週(同3.280ドル)から若干下落していた(図2参照)こともあり、この面ではガソリン価格高騰による米国国民のバイデン政権への不満は高まりにくい状況となっていた。
(11) また、9月14日に発表された8月の米国消費者物価指数(CPI)上昇率も前年同月比で5.3%と、7月及び6月の同5.4%の上昇から頭打ち気味となっていた他、前月比では0.3%の上昇と7月の同0.5%及び6月の同0.9%から伸びが鈍化していることもあり、同国金融当局に対する金利引き上げ圧力も強まりにくい状況であった。
(12) このようなことから、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催を控え、OPECプラス産油国が11月の減産措置につき従来方針通り前月比で日量40万バレル縮小することに対し米国は満足している旨サウジアラビアに伝えたと10月4日に報じられるなど、米国はサウジアラビア等OPECプラス産油国に対し原油価格抑制に向け行動することに関し強い働きかけを行わなかったものと見られる。
(13) 他方、世界的な新型コロナウイルス感染流行の第三波は8月下旬初頭前後にピークを打った後沈静化しつつあるように見受けられるが、今後冬場に向け第四波が到来することをOPECプラス産油国は懸念していたとされる。
(14) 加えて、2022年は世界石油供給を需要が超過する可能性があり、このまま毎月前月比で日量40万バレル減産措置を縮小すれば、2022年は通年で日量223万バレルの供給過剰となることが予想された(表2参照)。
(15) 9月29日に開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)では、OPEC事務局から、2021年の世界石油需要が前年比で日量600万バレル、2022年が同420万バレルの、それぞれ増加(因みに9月14日にIEAが明らかにした見通しでは、2021年の世界石油需要は前年比で日量523万バレル、2022年が同325万バレルの、それぞれ増加となっており、OPECの世界石油需要見通しがIEAのそれに比べ強気であることが示唆される)、その結果、2022年の世界石油需給が日量140万バレルの供給過剰と、8月31日に開催された前回のJTC開催時に提示された同160万バレルの供給過剰から過剰幅が縮小したが、それでも、2022年は世界石油供給が需要を超過することに変わりはない状態であった。
(16) また、従来から米国等で金融緩和政策を推進していたこともあり、低コストで調達された投資資金が原油等の商品市場に流入していることが、これまでの原油相場の上昇の一因であるものと考えられるが、特に最近では、冬場の暖房シーズンの到来に伴う暖房用燃料需要期を控え欧州での天然ガス需給の引き締まりによる天然ガス価格の大幅上昇から、代替燃料としての石油需要の増加観測が市場で強まっていることもあり、原油価格の先高感が醸成されるとともに、市場関係者による強気の心理が強まることにより投資資金が流入した結果原油相場を押し上げているように見受けられる部分があった。
(17) そして、新型コロナウイルス感染第四波が到来し世界経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化する中で減産措置の縮小を加速すれば、石油需給の緩和感から市場心理が急速に冷え込むことにより、原油価格の急落を招くといった展開となる恐れもあった。
(18) このため、OPECプラス産油国としては、今般の会合では減産措置の縮小を踏みとどまるとともに、今後の新型コロナウイルス感染を巡る状況に対する不透明感が低下するまで、様子を見ることとしたものと見られる。
(19) その上で、今後新型コロナウイルス感染がそれほど拡大しない結果世界経済及び石油需要が回復し続けるとともに、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用(及び発電用)燃料需要期に向け天然ガス価格高騰による代替燃料としての石油の需要が上振れする結果、原油価格が上昇し続けることにより、米国からOPECプラス産油国に対し原油価格抑制を巡る働きかけが強まるようであれば、OPECプラス産油国は、11月4日に開催される予定である次回閣僚級会合、もしくはそれ以降に開催される予定である閣僚級会合において減産措置の再検討を行うものと考えられる。
3. 原油価格の動き等
(1) 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で従来方針通り11月につき前日比で日量40万バレルの減産措置縮小を決定したことにより、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油需要期を控えた石油需給引き締まり感を市場が意識したこと等が、原油相場に上方圧力を加えたこともあり、当該会合開催当日の原油価格は前日末終値比で1バレル当たり1.74ドル上昇し77.62ドルの終値と2014年11月11日(この時は同77.94ドル)以来の高水準に到達した他、一時は同78.38ドルに到達する場面も見られた。
(2) 今後のOPECプラス産油国及び原油市場を巡る注目点としては、まず、11月1日に始まる(終了は翌年3月31日)米国等での暖房シーズン(なお、欧州では既に10月1日に暖房シーズンに突入しているとされる)に伴う暖房用燃料需要期到来による原油価格の動向であろう。
(3) 特に欧州では、2020~21年の冬場の気温が平年を大幅に下回る場面が見られた他、低温の時期が長引いた結果、暖房用天然ガス需要が旺盛であったこと、2021年はノルウェーのガス田メンテナンス作業等が大規模に実施された(新型コロナウイルス感染拡大抑制のため2020年の当該メンテナンス作業実施が軒並み見送られた反動で、2021年の当該メンテナンス作業が大規模になったと言われている)ことにより同国からの天然ガス供給が抑制されたこと、同じく2020~21年の冬場に気温の大幅な低下を経験した北東アジア諸国で液化天然ガス(LNG)の前倒し調達が活発化したことにより、その分だけ欧州へのLNG流入が減少したこと、ロシアから欧州への天然ガスの供給が低調であったこと(ロシアからドイツへ天然ガスを輸送するノルドストリーム2パイプラインの操業開始承認を速やかに行うよう欧州諸国に圧力を加える目的があったと指摘する向きがあるが、そもそもロシアも2020~21年が厳冬であったことや2021年の夏が猛暑であったことにより暖房及び発電向け天然ガス需要が旺盛であった影響で2021~22年の冬場に向けた自国内天然ガス在庫積み上げに苦慮していることが背景にあると見る向きもある)、欧州当局者による、より厳しい地球環境規制導入の動きにより、炭素排出権(枠)価格が史上最高水準(9月27日に二酸化炭素1トン当たり推定75.21ドル)にまで上昇したこと等の要因により、2021年の欧州天然ガス価格、及びLNG取引で欧州と競合するアジアのLNG価格が、通常下落するはずの春場及び秋場の時期でも十分に下落せず、前述の通り欧州天然ガスが高騰したのみならず、9月30日には北東アジアJKMスポット価格も100万Btu当たり34.47ドルと、史上最高水準に到達する場面が見られた。
(4) また、石炭価格も高騰しており(中国政府による地球環境対策推進もあり石炭生産が抑制されたこと、事故発生に伴う安全検査強化により同国における炭鉱の操業が停止したこと、新型コロナウイルス感染源調査を巡る豪州と中国の対立の高まりに伴う、中国の豪州産石炭輸入削減と他の産炭国からの石炭調達活動活発化により、世界的に石炭輸送面での混乱が発生したこと、インドネシアでの豪雨により炭鉱操業が停止したこと、新型コロナウイルス感染の世界的流行により石炭生産のための労働力供給が円滑に行われなかったこと、世界的な脱炭素の流れの中で石炭開発投資等が低調であったこと等が背景にあるとされる)、少なくとも短期的には天然ガスに代わる燃料としての石炭の調達促進にも限界があるものと見られる。
(5) このようなことから、既にパキスタン、バングラデシュ、及び中東諸国の一部は、価格が高騰した天然ガスの調達を見送る一方、発電部門における代替燃料として重油を含む石油製品の購入を推進し始めつつあるとされており、今後もこのよう流れに従って、さらに多くの消費国において発電用もしくは冬場の暖房用石油製品である軽油、灯油、重油及び液化石油ガス(LPG)の購入が進む結果、これらの石油製品、そして石油製品を製造するために必要とされる原油の価格に上方圧力が加わることが想定される。
(6) さらに、2021~22年の冬場に停電を回避すべく発電部門向け燃料を確保するよう中国の韓正副首相が同国大手国有エネルギー企業に対し強く指示した旨9月30日にブルームバーグ通信が伝えており、今後同国企業が積極的に原油購入を行う結果、世界石油需給が一層引き締まることを通じ、原油価格が上昇する可能性があるとの見方も市場で発生している。
(7) 天然ガス価格の高騰に伴う代替燃料としての石油需要の増加見通しは、冬場の気温の低下により暖房向け(そして発電向け)需要がどの程度上振れするかに大きく依存することから、現時点では相当程度不透明感が漂うが、2020~21年に引き続き2021~22年も北半球では厳冬となる可能性が示唆される(9月9日に米国海洋大気庁(NOAA)気象予報センターは2021~22年は70~80%の確率でラニーニャ現象が発生する(発生した場合北半球では厳冬となる可能性が増大するとされる)旨発表している)こともあり、OPECプラス産油国は天然ガス価格高騰による代替燃料としての石油需要の上振れ規模を日量37万バレル程度(2021年第四四半期~2022年第一四半期)と見込んでいる(但し、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコのナセル(Nasser)最高経営責任者(CEO)は天然ガス価格高騰野影響で石油需要が日量50万バレル増加するとの見解を10月4日に明らかにしている)のに対し、他の市場関係者の中には最大日量200万バレル石油需要を押し上げるとの見方もあり、今次OPECプラス産油国閣僚級会合で決定した、11月における前月比日量40万バレルの減産措置縮小では、この冬の世界石油需要増加を石油供給増加で充足し切れない結果、石油需給が引き締まるとの観測が市場で発生しつつあることにより、既に今次OPECプラス産油国閣僚級会合当日の原油価格の終値は前週末終値比で上昇している(前述)が、今後も冬場に向け原油相場に上方圧力が加わり続けるといった展開となる可能性も否定できない。
(8) また、原油価格が上昇しつつある中で、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合において減産措置の縮小加速が見送られるとともに、米国のサウジアラビア等OPECプラス産油国への働きかけがそれほど強くなかったとされることから、ガソリン小売価格高騰への懸念が低下した米国やOPECプラス産油国は、石油需給の引き締まり感の強まりや原油価格の上昇に対し減産措置の縮小加速を通じた石油需給緩和への対応が後手に回る、との印象を市場に与える格好となっており、この面でも市場の石油需給引き締まり感を根強くするとともに、原油価格が下支えされるものと考えられる。
(9) ただ、原油価格がさらに上昇するようであれば、暖房用石油製品価格を含め再び同国の物価上昇が加速することにより、物価上昇率と雇用状態を主な判断材料としている米国金融当局による金融緩和策の再調整が必要となり、その結果、同国経済の回復過程が複雑化する恐れがあることから、そのような兆候が見られるようであれば、再び米国政府からサウジアラビアを含むOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速への働きかけが行われる結果、例えば、11月4日に開催される予定である次回OPECプラス産油国閣僚級会合等で減産措置縮小方針の再検討が行われることになろう。
(10) しかしながら、新型コロナウイルスワクチン接種及び治療薬の投与(経口型新型コロナ感染症治療薬「モルヌピラビル」の投与により同感染症による入院及び死亡リスクが半減したとの中間治験結果が得られたことにより、速やかに同治療薬の緊急使用許可を米国当局に申請する意向である旨、10月1日に米国製薬大手メルクが発表している)普及促進による世界各国及び地域における個人の外出規制及び経済活動制限の緩和に伴う経済及び石油需要の回復による原油価格の先高感が市場で根強いように見受けられる中、この先気温が相当程度低下するとの予報が発表されるようであれば、天然ガス代替向けを含め暖房(及び発電)用石油需要が上振れするとの見方が市場で広がることにより、石油製品及び原油価格が上昇する可能性がある他、10月中に気温が低下した場合には、長く厳しい冬となるとの懸念から暖房用(及び発電用)需要の一層の増加観測が市場で強まる結果、原油相場に上方圧力が加わるといった場面が見られることもありうる。
(11) そして、このような世界石油需給引き締まり要因もあり、米国大手金融機関は2021年末にかけての原油価格見通しを上方修正するなどしている(9月27日にはゴールドマン・サックスが2021年末時点の原油価格(WTI)をそれまでの見通しから1バレル当たり10ドル引き上げ87ドルとする旨9月26日に伝えられた他、バンク・オブ・アメリカは2021~22年の冬場の原油価格が1バレル当たり100ドルに到達するかもれない旨10月1日に明らかにしている)ことから、少なくとも2021年末に向けた原油価格の先高感をもとにして石油市場関係者の心理も強含んでおり、このような場合短期的には原油価格下落要因が発生したことにより当該価格が下落しようとしても、かえって原油を安価で購入する良い機会であるとの投資家等の判断から原油購入が進む結果、原油価格の下落が小幅にとどまる一方、原油価格上昇要因が発生した場合には、投資資金等の流入が加速することにより、原油価格の上昇が増幅するといったように、原油価格の上下変動具合が非対称となる可能性がある。
(12) また、11月30日まで大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンである他、10月半ば頃までは、1年中で最も暴風雨が発生しやすい時期であることにより、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期を控え、今後も暴風雨等が米国メキシコ湾地域に来襲することにより、沖合の油・ガス田関連施設での操業と当該地域での原油生産への影響、及び湾岸の製油所の操業と石油製品(特に軽油等の暖房用石油製品)製造への影響に対する懸念が市場で発生すれば、原油価格が上昇するといった展開となることもありうる。
(13) 他方、原油、天然ガス、石炭及び電力等のエネルギー価格が上昇することを含め、物価上昇率がこの先拡大するようであれば、米国金融当局は金融緩和縮小を加速せざるを得なくなるとの観測が市場で発生する他、中国恒大集団の経営不安(9月23日に続き9月29日も米ドル建の同社社債の利払いが少なくとも一部については実施されなかった(但し30日間の猶予期間があるとされる)旨9月30日に伝えられる)と中国不動産開発業界を巡る動向も、今後の中国及び米国株式相場とともに世界経済及び石油需要に対する市場の認識に影響を与える結果、原油価格を変動させる他、OPECプラス産油国の減産措置を巡る方針を再調整させる可能性もある。
(参考1:2021年10月4日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)
21th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting concludes
No 30/2021
Vienna, Austria
4 Oct 2021
The 21st OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting, held via videoconference, concluded on Monday, 4 October 2021.
In view of current oil market fundamentals and the consensus on its outlook, OPEC and participating non-OPEC oil producing countries:
- Reaffirmed the decision of the 10th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 12 April 2020 and further endorsed in subsequent meetings including the 19th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on the 18 July 2021.
- Reconfirmed the production adjustment plan and the monthly production adjustment mechanism approved at the 19th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting and the decision to adjust upward the monthly overall production by 0.4 mb/d for the month of November 2021, as per the attached schedule.
- Reiterated the critical importance of adhering to full conformity and to the compensation mechanism taking advantage of the extension of the compensation period until the end of December 2021. Compensation plans should be submitted in accordance with the statement of the 15th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting.
- Will hold the 22nd OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 4 November 2021.
以上
(この報告は2021年10月5日時点のものです)