ページ番号1009143 更新日 令和3年10月7日
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概要
- カーボンニュートラルが指向される昨今、JOGMECでは低炭素排出な資源開発を支援すべく二酸化炭素(CO2)の地中貯留への支援を開始した。現在予定されている国内油田貯留層におけるCO2圧入実証試験では、その試験計画立案および試験結果の評価のためには、地下貯留層の岩石物性や流体性状といった物性値を、室内試験において適切に評価する必要がある。本稿では、重要な物性値の一つである「相対浸透率」の測定について、技術センター(TRC)にある実験・分析室(インハウスラボ)にて行っている取り組みを紹介する。
1. 資源開発における脱炭素トレンドとJOGMECの取り組み
社会が低炭素・脱炭素化の流れにある昨今、大気中に排出されているCO2を分離・回収し、地下に貯留するCarbon dioxide Capture and Storage (CCS)(図1)が資源開発においても脚光を浴びている[1]。天然ガス開発においてCCSは、ガスの製造・処理で排出されるCO2の削減や、水素・アンモニアなどのクリーン燃料の製造に重要な役割を果たす。また、発電所などの排ガスから分離・回収したCO2を油層に圧入し、CO2を地中貯留しながら、原油を生産するCO2石油増進回収法(CO2-EOR)も行われている。今後は資源開発業界において、このような低炭素・脱炭素化を目指したCCSを伴う事業がトレンドとなり得る。
これまでにもJOGMECは、EOR技術開発の一環として、CO2-EORへの取組みを行ってきた。2020年度には、低炭素社会実現への貢献を目指し、本邦企業の低環境負荷型の油ガス田開発を支援していくため、資源開発と一体となったCCS事業の支援を打ち出した[2]。例えば、2020年よりJX石油開発株式会社と共同で、高濃度なCO2を含む東南アジアの天然ガス田開発を対象とする事業性評価プロジェクトを開始した。本プロジェクトでは、天然ガス生産に伴うCO2を、近隣の枯渇ガス田等に圧入するCCSを行うことで、環境負荷が低い資源開発を構想している[3]。
また2021年からは、株式会社INPEXの操業する南阿賀油田(新潟県)において、CO2圧入実証試験に着手した。この実証試験では、新規に掘削する2坑井でCO2の圧入試験を実施し、水と混合した泡状のCO2を圧入する「フォーム技術」を用いた掃攻効率改善型CO2-EORによる、原油回収効果の向上を検討するとともに、圧入したCO2の地中での挙動を把握するための各種モニタリング技術の検証を行う予定である[4]。
2. CO2圧入実証試験に向けたTRCラボの取り組み
2.1. ラボ測定データの活用
圧入したCO2の貯留層内での挙動を予測するには、一般的に、貯留層を模擬した数値モデルを用いたシミュレーションが行われる。数値モデルの作成にあたっては、実際にフィールドで得られた物理検層データや地震探査データに加え、地下から採取した岩石や地層流体サンプルのラボ分析データも活用する。
JOGMECでは、前述のCO2圧入実証試験に向けて、TRCのラボ分析設備を用いた、様々なデータ取得に取り組んでいる。本稿では、その一例として、CO2と水の相対浸透率測定について、CCSの数値シミュレーションにおける役割や、石油・天然ガス開発における相対浸透率測定との違いに着目しながら紹介する。
2.2. CO2と水の相対浸透率測定
相対浸透率とは、同時に複数の流体(例えば、水とCO2の二相)が岩石の空隙内を流れるとき、各流体相の有効浸透率の絶対浸透率に対する比率であり、貯留層内における各相の流れやすさを支配する、数値シミュレーションに必要な物性値である。その測定では、貯留層から採取した「コア」と呼ばれる円柱状の岩石試料に対象とする流体を圧入し、コア両端面の圧力と流量を測る手法が用いられることが多い。これは、石油・天然ガス開発におけるコア分析でも一般的に行われる測定方法である一方で、CCSを対象としたCO2/水の二相系の場合には、以下に示す3点を特に考慮する必要がある。
2.2.1. ヒステリシス
CO2の圧入挙動や貯留メカニズムを数値シミュレーションで予測するには、「相対浸透率曲線」や空隙内の二流体相間に働く圧力差である「毛細管圧力曲線」のヒステリシスが重要となる。ヒステリシスとは、これらのパラメーターが過去の状態からの影響を受ける不可逆性のことで、排水と吸水の過程で異なる曲線となる。ここでは、岩石空隙が地層水で満たされた地下の地層(帯水層)に、CO2を圧入する場合を考える。まず、坑井から圧入されたCO2は、坑井からの圧力勾配に従って水平方向に水を置換する。これは、CO2が水を置換する排水(Drainage)過程である。その後、CO2は浮力により上方へ移動する。その際に一部のCO2は空隙内にバブル状に取り残され、「残留ガストラップ」が生じる。この過程は、水がCO2を置換する吸水(Imbibition)過程である。数値シミュレーションを用いて、このようなCO2圧入挙動を予測するには、排水/吸水の過程に応じたヒステリシスを考慮する必要がある。例えば、JOGMECで実施した数値シミュレーション[5]によると、ヒステリシスの有無が、CO2の「残留ガストラップ」による貯留量に大きく影響することが示されている。本実証試験では、圧入するCO2は、一定期間経過後に地下から回収する計画である。CO2圧入計画策定および試験終了後のCO2回収量予測のために、排水/吸水過程の相対浸透率がそれぞれ必要であり、ヒステリシスを考慮した相対浸透率の測定を行っている。
2.2.2. 毛細管圧力の末端効果(Capillary end effect)
CO2/水間の界面張力は、原油/水間のそれと比べて大きいため、岩石空隙内で生じる毛細管圧力の影響を受けやすく、コア内の水飽和率を十分に下げて相対浸透率を測定することが難しい。図2は、一定割合のCO2と水をその割合を変えながら圧入する「定常流法」と呼ばれる手法で測定した、CO2/水系の相対浸透率の例である[6]。図からは、実験の測定値を示した点が、水飽和率の低い領域では得られていないことが分かる。これは、CO2の圧入に伴い、コア内部の各点に生じている毛細管圧力がコアの出口側端面で不連続に0となり、流動方向に毛細管圧力の勾配が生じるため、岩石表面への親和性の高い相(濡れ相)である水の飽和率が出口近傍で減少しないために起こる「毛細管圧力の末端効果(Capillary end effect)」と呼ばれる現象である。図2の実線や破線のように相関式で外挿して推定することもある一方で、JOGMECでは、X線CT装置(図3)や数値シミュレーションを活用した評価方法を検討している。CO2圧入試験において、坑井近傍では極めて低い水飽和率(高いCO2飽和率)に達することが予測されるため、圧入計画策定の数値シミュレーションでは、Capillary end effectを低減した相対浸透率の入力が必要である。
(Modified after Krevor et al. (2012) [6])
2.2.3. 溶解度
CO2の水への溶解度は、温度や圧力、地層水の塩分濃度に依存し、天然ガスに含まれる炭化水素成分と比較して高い。そのため、圧入されたCO2の一部は、地層水に溶解し「溶解トラップ」により貯留される。CO2と天然ガスの主成分であるメタン(CH4)について、(帯水層におけるCCSが行われる一般的な貯留層温度より高いものの)温度150℃における、塩分濃度55,000ppmの塩水に対する溶解度の違いを見てみると、CO2の溶解度はCH4に比べて5~10倍程度高いことが分かる(図4)。CO2の水への高い溶解度は、CO2/水の相対浸透率測定試験において注意する必要がある。例えば、試験前にCO2で十分に飽和した水を用いることで、圧入したCO2の更なる水への溶解を防ぐことができ、正確な相対浸透率測定を行える。
(Modified after Ganjdanesh et al. (2015) [7])
2.3. インハウスラボで物性値を取得する意義
インハウスラボの利点は、測定と測定結果解釈の双方向性にあると考える。まず、地質、物理探査、油層工学などの技術背景を有する技術者(測定データの解析者)と、ラボにおける測定を担当する分析技術者は、対象となる貯留層性状を踏まえて、物性値の測定計画を立案する。そして、分析技術者が測定作業を行った後、解析の結果明らかになった測定方法の問題点は分析技術者へフィードバックされ、手法の改善が行われる。さらに、場合によっては再測定を行う。このような双方向的な測定方法の改善は、物性値測定の精度を高めることに寄与する。TRCでは、すでに確立された測定手法だけでなく、研究価値のある新たな測定の確立のために、このように解析者と分析技術者が双方的な取り組みを行い、対応可能な技術範囲の拡大に努めている。
3. まとめ
JOGMECでは、低炭素・脱炭素に向けた資源開発事業を推進すべく、本邦民間企業と資源開発と一体となったCCSプロジェクトの支援を開始した。その中でも、国内油田貯留層を対象としたCO2圧入実証試験では、相対浸透率を含む各種分析によるデータ取得が重要となるため、これに対してインハウスラボを活用して取り組んでいる。
参考文献
[1] Global CCS Institute, 2020: The Global Status of CCS Report 2020, https://jp.globalccsinstitute.com/resources/publications-reports-research/global-status-of-ccs-2020/ (accessed 2021/10/5)
[2] JOGMEC News Release, 2020a: 「低炭素社会に向けた技術事業戦略」の策定およびCCS推進グループの設置について, http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_15_000001_00045.html (accessed 2021/9/1)
[3] JOGMEC News Release, 2020b: CCSを用いた高濃度CO2ガス田開発の共同スタディを開始~ペトロナス・JX石油開発・JOGMEC~, http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_15_000001_00034.html (accessed 2021/9/1)
[4] JOGMEC News Release, 2021: 新潟県阿賀野市における二酸化炭素(CO2)を用いた原油回収促進技術(EOR)の実証試験に向けた共同研究の開始について, http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_15_000001_00074.html (accessed 2021/9/1)
[5] Akai, T., Kuriyama, T., Kato, S., and Okabe, H., 2021: Numerical modelling of long-term CO2 storage mechanisms in saline aquifers using the Sleipner benchmark dataset. International Journal of Greenhouse Gas Control, 110, 103405. https://doi.org/10.1016/j.ijggc.2021.103405.
[6] Krevor, S. C. M., Pini, R., Zuo, L., and Benson, S. M., 2012: Relative permeability and trapping of CO2 and water in sandstone rocks at reservoir conditions, Water Resources Research, 48 (2), W02532, https://doi.org/10.1029/2011WR010859.
[7] Ganjdanesh, R., Pope, G. A., and Sepehrnoori, K., 2015: Production of energy from saline aquifers: A method to offset the energy cost of carbon capture and storage, International Journal of Greenhouse Gas Control, 34, 97-105, https://doi.org/10.1016/j.ijggc.2015.01.004.
以上
(この報告は2021年10月6日時点のものです)