ページ番号1009149 更新日 令和3年10月12日

Shell、ConocoPhillipsにパーミアン資産売却―2021年は米国事業の転換年か?

レポート属性
レポートID 1009149
作成日 2021-10-11 00:00:00 +0900
更新日 2021-10-12 09:43:46 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業非在来型
著者 川田 眞子
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 11
抽出データ
地域1 北米
国1 米国
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 北米,米国
2021/10/11 川田 眞子
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概要

  1. 2021年9月、Shellは米国・パーミアン堆積盆地のシェールオイル・シェールガス資産をConocoPhillipsに95億ドルで売却することを発表した。これにより、Shellはパーミアンから完全撤退となる一方、ConocoPhillipsはパーミアンで第2位の生産者となる見通しだ。ConocoPhillipsは2020年10月に、Concho Resourcesを買収しており、この1年でパーミアンでの存在感を大きく高めた。
  2. Shellがパーミアン資産の売却を検討していることは、今年6月にすでに報道されていた。しかし、5月に発表された同社の上流事業戦略において、パーミアンは注力地域の一つとして位置付けられていたため、今回の取引は「方針転換」であり、その意味でも注目を集めた。他方、Shellはメキシコ湾も注力地域としており、今年5月にAlaminos Canyon 691で油層を発見し、7月にはWhale油田の最終投資決定を行うなど、こちらでは大変活発な動きを見せている。
  3. 今回の取引から得られる示唆は2つある。1つ目は、独立系企業が国際石油会社(IOC)から優良資産を獲得することで強みを伸ばすケースがカナダなど他国でも見られるようになっていることだ。「現地企業によるE&P集約」が一つのトレンドとなる可能性がある。2つ目は、メジャー企業は、その戦略に関わらず資産の入れ替えの好機を常に窺っていることである。Shellの今回の決断について、オランダ・ハーグでの気候変動裁判の判決が影響しているという報道もあるが、Shellのパーミアン資産の排出量はShell全体資産の平均よりも低いため、排出量削減だけが動機とは考えにくい。財務状況の改善を念頭に、「都合の良い買い手が見つかったため売却した」という単純なビジネス判断の側面が大きいかもしれない。

 

1. 取引の概要

2021年9月、Shellは、米国・パーミアン堆積盆地のシェールオイル・シェールガスの資産をConocoPhillipsに95億ドルで売却すると発表[1]した。当該資産の生産量は17.5万boe/dであり、シェール資産としては大型の取引である。

この取引により、ConocoPhillipsはパーミアン最大級の生産者となる見通しである(図1)。ConocoPhillipsは、以前からパーミアンに参入していたが、2020年10月にConcho Resourcesを97億ドルで買収してからパーミアンにおける主要プレーヤーとして台頭していた。

図1:パーミアンの上位生産者
図1:パーミアンの上位生産者
(Wood Mackenzieより引用)

Shellの資産は、パーミアン堆積盆地の中でも最も厚いシェール層の一つと言われており、地質的ポテンシャルに富むことに加えて、すべてが私有地である点も魅力的であった。というのも、もしも連邦保有地が多いと、バイデン政権の政策如何では新規の掘削やフラッキングなど、自由な石油・ガス開発が阻害されるリスクをはらむことになってしまうためである。


 

2. Shellのパーミアン資産売却の経緯と取引の考察

Shellは、上流のコア地域としてパーミアン堆積盆地とメキシコ湾を明示[2]していた(図2)。

図2:パーミアンの上位生産者
図2:パーミアンの上位生産者
(Shellより引用)

中でもパーミアンは、2021年5月に発表した上流事業戦略[3](図3)において、北米のシェール資産で唯一の注力地域として掲げていた。なお、他のシェールオイル・シェールガス資産について、米国のAppalachia、Haynesville地域とカナダのFox Creek、Rocky Mountain House、Foothills地域からは撤退することを明言していた。


図3:Shellの上流事業戦略(シェール)
図3:Shellの上流事業戦略(シェール)
(Shellより引用)

Shellは5月の戦略で、「パーミアンのシェール資産は、現状で強力なキャッシュを生み出しており、今後さらに操業費用の削減が見込まれる」と評価していた。特に米国では、知見を蓄積してより効率的な操業を実現することで、パーミアンの価値の増大ができるとしており、パーミアンはシェール資産で唯一のコア地域とされていたわけである。

この戦略発表からわずか3週間後、Shellがパーミアン資産の売却を検討しているという報道[4]があった。当時、CEOのBen van Beurden氏は「パーミアンは重要資産である」と述べ、明言を避けていた。

以前から報道があったとはいえ、「コア地域」とする資産の売却は大きなニュースとなった。この方針転換について、Shellの社内で上流戦略の変更があったのか、米国のエネルギー需要見通しが見直されたのか不明であるが、以下のような論考が可能ではなかろうか。

そもそもShellは図1で見られるように、パーミアンの主要なプレーヤーになれたとは言えず、規模が足りないのではないか、という見方も一部ではされていた。しかし、「資本集約的なシェール開発にこれ以上注力する選択肢が取りづらかった」、「もっと高い内部収益率(IRR)を獲得できる事業が他にあった」、あるいは「再生可能エネルギーに資本を回す余地を持ちたかった」のであれば、そもそも、Shellはパーミアンをコア地域に設定する必要はなかったはずだ。Shellが一旦はパーミアンをコア地域に位置付けたことから、何らかの成長戦略があったはずである。もしかしたら、それは前述の通り、操業費用の削減だったであろうし、その他にもShellが積極的に買収する算段がついていたのかもしれない。

しかし、これほどまでに急に方針を転換する背景には何があったのだろうか。オランダ・ハーグでの気候変動裁判の判決が影響しているという報道がある。炭素強度の高い資産の売却に踏み切ったという判断だ。だが、Shellはパーミアンにおいても積極的な排出量対策を進めており、2017年以降、温室効果ガス(GHG)とメタンの強度を約80%削減し、フレアリングを80%以上削減することに成功していた[5]。その結果、パーミアンでの排出量は、Shell全体の資産の平均よりも下回っていたため、必ずしも排出量対策だけが動機であるとは考えにくいだろう。もしかしたら、バランスシートの健全化を重視[6]し、「都合の良い買い手が見つかった」というビジネス判断の要素が大きかったのかもしれない。

一方、ConocoPhillipsは、Shellの資産を手に入れることでPermianでは1、2位を争う生産者となることもあり、これが大きなインセンティブになったものと考えられる。また、上述のとおり排出量対策の進んだShellの資産を手に入れたことで、ConocoPhillipsの低炭素化への取り組みは加速した。同社は以前より、「2050年までに事業におけるGHG排出量をネットゼロにする」という目標を掲げるなど、他の米国系石油企業と比較すると積極的に気候変動対策に取り組んでいたが、今回の取引の後、炭素強度に関する目標設定を強化し、従来の2016年比35~45%削減から、40~50%削減とした[7]

なお、パーミアン撤退後、Shellの米国シェール資産はSan Joaquinなどの米国西海岸の資産のみとなる。しかし2021年7月、カリフォルニアでの事業を行うExxonMobilとのJV Aeraからの撤退をShellが検討していると報道[8]があった。この報道について続報はないが、今後の動向が注視される。


[4] Shell considering sale of holdings in largest U.S. oil field, worth up to $10 billion、2021年6月13日:https://www.cnbc.com/2021/06/13/shell-considering-sale-of-holdings-in-largest-us-oil-field.html(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[8] ロイター、2021年7月1日:https://jp.reuters.com/article/shell-california-exit-idCNL2N2OC38X(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

3. Shellのその他の米国事業―メキシコ湾への注力、製油所の売却、再エネ投資

(1) メキシコ湾の深海事業

Shellはメキシコ湾で活発な動きを見せている。図4・5を見るとわかるように、パーミアン撤退後は、米国の資産はメキシコ湾が中心となる。

図4 Shellの埋蔵量地域別内訳(米国)
図4:Shellの埋蔵量地域別内訳(米国)

図5:Shellの生産量 地域別内訳(米国)

図5:Shellの生産量[9]地域別内訳(米国)
(図4と図5:Wood Mackenzieを基に作成)


[9] Wood Mackenzie Upstream Data Tool Net WI basis production

 

2021年5月に公表されたShellの上流事業戦略によると、探鉱費の7割以上を深海に注ぎ込むとしており、メキシコ湾もその重点地域の一つとなっている。その理由として、深海は一般的にブレークイーブンがバレル当たり30ドル以下と低く、加えてShellのメキシコ湾のプロジェクトは炭素強度が極めて低いことが挙げられていた。

図6:Shellの上流事業戦略(世界の注力地域とメキシコ湾)
図6:Shellの上流事業戦略(世界の注力地域とメキシコ湾)
(Shellより引用)

ShellはPerdido油田で2010年から生産をしており、その周辺で探鉱を進めてきた。2021年5月には、メキシコ湾Alaminos Canyon 691(Leopard)において層厚約183mの油層を発見した[10]。Alaminos Canyon 691の権益比率は、Shell(オペレーター)50%、Chevron 50%となっている。周辺にインフラも整っていることから、今後の早期開発が期待される。また、2017年に発見されたWhale油田では、2021年7月に、最終投資決定(FID)を行った。Whale油田では、コスト効率の高いプラットフォームデザイン(simplified, cost-efficient host design)が採用され、内部収益率が25%以上になると見込まれている[11]


 

(2) 製油所の売却

探鉱・開発の他にも、Shellは今年だけで米国で様々な動きを見せた。特に製油所の売却が目立ち、2021年5月には実に3件もの売却を発表した。1つ目は、ワシントン州のPuget Sound製油所(精製能力14.9万b/d)の米国精製企業HollyFrontierへの売却[12]である。その対価は3億5000万ドルプラス在庫評価額とされている。売却の理由は、「世界の製油所の二酸化炭素排出量を自社のトレーディングハブ、化学プラント、マーケティング事業と統合されたコアサイトに縮小する戦略の一環」と説明した。次に、アラバマ州のMobile製油所(精製能力9万b/d)を米国精製企業Vertex Energyに7,500万ドルプラス在庫評価額で売却すると発表[13]した。加えて、テキサス州Deer Park製油所(精製能力34万b/d)をメキシコ・Pemexに売却することを発表した[14]。取引額は、負債と在庫評価額を合わせて5億9,600万ドルとされている。

一方で、Shellは2021年9月、オランダ・アムステルダムに欧州最大級のバイオ燃料施設(年産82万トン)を建設することを発表[15]した。具体的には、旧Pernis製油所として知られる、Energy and Chemicals Park Rotterdamに投資を行い、廃棄物を原料とした持続可能な航空燃料(SAF/Sustainable Aviation Fuel)と再生可能ディーゼルを生産する欧州最大の施設にする計画だ。米国で複数の製油所の売却を進める傍ら、オランダで投資決定をしており、「コアサイトに縮小する」という戦略が実行に移されている。


[13] Shellプレスリリース、2021年5月26日:https://www.shell.us/media/2021-media-releases/shell-sells-alabama-refinery-to-vertex-energy.html(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

(3) 再生可能エネルギー分野への進出

Shellは、米国における再生可能エネルギー分野には積極的に進出している。今年6月、ShellはGeneral Motors(GM)と米国での再生可能エネルギー供給量の拡大に向けて合意した[16]。Shellはテキサス州のGMの自動車を購入する顧客らに再生可能エネルギー電力を提供するサービスを行う。近い将来、GMの電気自動車所有者に一定時間無料で再生可能電力を提供するサービスを開始する予定である。

また同月、ShellとEDFのJV企業であるAtlantic Shores Offshore Windがニュージャージ州で洋上風力発電による電力を供給する権利を得た[17]。Shellは、JV企業を通してマサチューセッツ州の洋上風力発電事業にも参入しており、米国での再生可能エネルギー事業を着々と進めている。


 

(4) まとめ

Shellの今年の動向を見ると、米国で継続して注力する分野はメキシコ湾での上流事業、再生可能エネルギー事業であり、シェール資産と中下流事業は資産整理が進んでいることが分かる。今回のパーミアン資産売却は、Shellの米国に対する戦略に変化が生じており、それに基づいたポートフォリオ整理の一環で行われたものと考えられる。5月の戦略策定にもかかわらず、その方針を変更したわけであり、メジャーズの臨機応変な一面が垣間見られた。

 

おわりに

今回のニュースから2つのことが言えるだろう。まず、ConocoPhillipsのように、メジャーズ等、他の国際石油会社(IOC)から優良資産を獲得することで強みを伸ばしている独立系の地場企業があることである。近年カナダ[18]でも、現地企業がIOCの資産を買収し存在感を高めているケースが見られる。今回の取引について、現地ではテキサスに本拠を置くConocoPhillipsによる買収を歓迎する声[19]もあり、「現地企業によるE&P」、「石油産業の地場産業化」が一つのトレンドとなる可能性がある。

もう一つのポイントは、メジャー企業等、欧米の石油会社は、企業の道標としての戦略はあるものの、ビジネスの好機を常に窺っていることである。戦略に過度には縛られず、好機と見れば戦略を覆してでも臨機応変にポートフォリオの入れ替えを果然と行う準備ができている。だからこそ、保有資産を高く売れるときに売ったり、優良資産を安い時に買ったりすることができるのであろう。もちろんその背景には資金力、そして世界中の探鉱・開発を通じて培われた貴重なノウハウに裏打ちされている。Shellの今回の決断について、オランダ・ハーグでの気候変動裁判の判決が影響しているという報道もあるが、Shellのパーミアン資産の排出量は同社の他の資産と比較すると多くなく、排出量対策だけが動機とは考えにくい。財政健全化を念頭に「都合の良い買い手が見つかったため売却した」という単純なビジネス判断という側面が大きいのかもしれない。


[18] カナダ:急激な生産回復を見せるも、GHG排出量削減への対応を迫られるオイルサンド、2021年9月17日:
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/seminar_docs/1008936/1009124.html

[19] The Texas Tribune、2021年9月22日:https://www.texastribune.org/2021/09/22/shell-permian-basin-texas/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

以上

(この報告は2021年10月11日時点のものです)

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