ページ番号1009150 更新日 令和3年10月14日

ガイアナ:可採埋蔵量が100億バレルとなったStabroek鉱区の探鉱・開発、さらに進展

レポート属性
レポートID 1009150
作成日 2021-10-14 00:00:00 +0900
更新日 2021-10-14 14:39:23 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 探鉱開発
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 15
抽出データ
地域1 中南米
国1 ガイアナ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,ガイアナ
2021/10/14 舩木 弥和子
Global Disclaimer(免責事項)

このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。

※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.

PDFダウンロード1.4MB ( 15ページ )

概要

  • ガイアナ沖合Stabroek鉱区ではExxonMobilによる探鉱が進んでいる。これまでに掘削された21の坑井で油・ガス層が確認された。ExxonMobilは2021年10月、同鉱区の可採埋蔵量を100億バレルとした。
  • 2019年12月に生産を開始したStabroek鉱区Liza油田は、ガス圧入機材に技術的な問題が発生し生産削減を余儀なくされていたが、その後復旧し、現在は浮体式生産貯蔵積出施設(Floating Production, Storage and Offloading:FPSO)のフル生産能力、日量12万バレルで生産を行っている。
  • Liza油田開発第2フェーズとStabroek鉱区の3件目の開発プロジェクトPayara油田はそれぞれ2022年、2024年に生産開始が予定されている。その後は、2026年に5基目、2027年に6基目のFPSOが生産を開始し、これにより生産能力を石油換算で日量100万バレルに引き上げる計画だ。最終的には10基のFPSOで生産を行うことが計画されている。
  • 随伴ガスに関しては、Stabroek鉱区から陸上までパイプラインでガスを輸送し、これを発電に使用するGas to Power(GTP)計画が進められている。
  • Stabroek鉱区以外のガイアナ沖合では、試掘を行ったものの、商業規模の油田発見に至らなかった鉱区や、新型コロナウイルス感染拡大の影響で探鉱が停滞している鉱区もある。一方、ExxonMobilはStabroekの北東に隣接するCanje鉱区で12坑の掘削キャンペーンを計画している。
  • ガイアナの環境保護派が、ExxonMobilのStabroek鉱区での探鉱・開発は、温室効果ガス排出につながり、ガイアナ人の人権を脅かし、違憲であると主張して提訴した。また、ベネズエラとの国境をめぐる係争は解決までにさらに時間がかかると考えられる。
  • 政府は、鉱区付与の方式をこれまでの国際石油企業(International Oil Company:IOC)との直接交渉からライセンスラウンドに変更し、2022年にこれを実施する計画だ。ライセンスラウンドに先立って、ロイヤルティを引き上げるなど契約条件の改定も行うとしている。

(出所:LatAmOil、Platts Oilgram News、International Oil Daily、BNamericas他)

 

1. 探鉱・開発状況

(1) Stabroek鉱区の探鉱・評価の状況

ガイアナ沖合Stabroek鉱区(面積:26,800平方キロメートル)では、2015年5月にExxonMobilがLiza-1号井で石油を確認したのを手始めに、2020年末までに掘削された18坑の坑井で油層が確認され、同鉱区の可採埋蔵量は石油換算90億バレル以上であるとされた。

2020年には、新型コロナウイルス感染拡大による需要の減少や原油価格下落、ガイアナ国内の政治状況などなどの影響で、ガイアナ沖合での探鉱・開発に多少の遅延が見られた。しかし、2021年第1四半期にドリルシップ2隻、Stena DrillMAXとNoble Sam Croftが追加配備され、現在は6隻のドリルシップにより探鉱、評価、開発が進められている。

ExxonMobilは2021年4月27日、Uaru-1号井の評価井、Uaru-2号井を水深1,725メートルの海域で掘削、36.7メートルの良質な油層を確認したと発表した。

そして、6月9日には、Stabroek鉱区で2018年に掘削され、78メートルの砂岩の油層に遭遇したLongtail-1号井の評価井、Longtail-3号井をStena DrillMAXで掘削し、70メートルの油層を確認したと発表した。加えて、評価井Mako-2号井の掘削により、Mako井で確認した貯留層の質、厚さ、面積を確認したことも明らかにした。しかし、試掘井Koebi-1号井では、商業量の炭化水素を確認することができなかったことも発表した。

さらに、7月28日、ExxonMobilはStabroek鉱区の水深1,759メートルの海域でStena DrillMAXを用いてWhiptail-1号井を掘削し、75メートルの砂岩の油層を確認したことを明らかにした。そして、同井の北東3マイル、水深1,895メートルの海域でドリルシップNoble Don Taylorを用いてWhiptail-2号井を掘削しており、こちらでも51メートルの砂岩の油層を確認したという。Whiptail油田の発見により、同鉱区の可採埋蔵量はこれまでの石油換算90億バレルよりも増加する見通しで、Whiptail油田はStabroek鉱区の将来の油田開発の中核となる可能性があるとした。さらに深い層の状況を調べるために、両坑井での掘削は続けているとした。

9月9日には、ExxonMobilが、Stabroek鉱区の水深1,810メートルの海域でNoble Sam Croftにより掘削したPinktail井でネットペイ67メートルの炭化水素層を確認、同鉱区内での20件目の油田発見となったと発表した。ExxonMobilはまた、Noble Sam Croftを用いて同鉱区の水深1,765メートルの海域で、2017年10月に油層が確認されたTurbot-1号井の評価井、Turbot-2号井を掘削し、ネットペイ13メートルの砂岩の炭化水素層を確認したことも明らかにした。

ExxonMobilは10月7日、Turbot-1号井の東約6キロメートル、水深1,807メートルの海域でドリルシップNoble Tom MaddenによってCataback-1号井を掘削、ネットペイ74メートルの砂岩の炭化水素層を確認したと発表した。そして、Cataback-1号井の掘削結果は、Turbot/Tripletailエリアの埋蔵量を追加し、開発プロジェクトの可能性を高めるものであるとした。さらに、ExxonMobilは、Stabroek鉱区の可採埋蔵量を100億バレルに引き上げるとした。

なお、Stabroek鉱区の権保有益比率は、ExxonMobil(オペレーター) 45%、Hess 30%、CNOOC 25%となっている。

表1. Stabroek鉱区での油田発見状況
  発表時期 油田 水深(m) 掘削長(m) 結果
1 2015/5 Liza 1,743 5,433 90mの砂岩の油層を確認
2 2017/1 Payara 2,030 5,512 29m以上の油層を確認
3 2017/1 Liza Deep N.A. 5,700 Liza油田直下の油層を確認
4 2017/3 Snoek 1,563 5,175 25mの油層を確認
5 2017/10 Turbot 1,802 5,622 23mの砂岩の油層を確認
6 2018/1 Ranger 2,735 6,450 70mの油層を確認。
7 2018/2 Pacora 2,067 5,597 20mの砂岩の油層を確認
8 2018/6 Longtail 1,940 5,504 78mの砂岩の油層を確認
9 2018/8 Hammerhead 1,150 4,225 60mの砂岩の油層を確認
10 2018/12 Pluma 1,018 5,013 37mの砂岩の炭化水素層を確認
11 2019/2 Tilapia 1,783 5,726 93mの砂岩の油層を確認
12 2019/2 Haimara 1,399 5,575 63mの砂岩のガス・コンデンセート層を確認
13 2019/4 Yellowtail 1,843 5,622 89mの砂岩の油層を確認
14 2019/9 Tripletail 2,003 N.A. 33mの砂岩の油層を確認
15 2019/12 Mako 1,620 N.A. 50mの砂岩の油層を確認
16 2020/1 Uaru 1,933 N.A. 29mの砂岩の油層を確認
17 2020/7 Yellowtail-2 N.A. N.A. 21mの砂岩の油層を確認
18 2020/9 Redtail 1,878 N.A. 70mの砂岩の油層を確認
19 2021/7 Whiptail 1,795 N.A. 75mの砂岩の油層を確認
20 2021/9 Pinktail 1,810 N.A. 67mの砂岩の炭化水素層を確認
21 2021/10 Cataback 1,807 N.A. 74mの砂岩の炭化水素層を確認

https://corporate.exxonmobil.com/locations/guyana/guyana-project-overview#DiscoveriesintheStabroekBlock他を基に作成

 

図1.Stabroek鉱区での油田発見状況
図1. Stabroek鉱区での油田発見状況

(2) Liza油田生産状況

ExxonMobilは2019年12月に、ガイアナ沖合190キロメートル、水深約1,500~1,900メートルの海域に位置するStabroek鉱区Liza油田の生産を開始した。油田発見から4年7か月での生産開始であった。そして、同油田の生産量は数か月のうちにFPSO Liza Destinyの生産能力、日量12万バレルに達する予定であるとされた。

しかし、2020年6月にLiza油田のガス圧入機材に技術的な問題が発生し、ExxonMobilは日量8万バレルまで増加していた石油生産量を日量2.5~3万バレルまで引き下げることとなった。ExxonMobilは6月中旬までにLiza油田の3基のコンプレッサーのうち2基を復旧させ、ガス圧入を再開、生産量を日量8万バレルに戻し、さらなる生産増に努めた。しかし、8月21日、ガスの再圧入の問題が再び深刻化し、同油田の生産量を日量10万バレルに制限していることを明らかにした。その後、ようやく12月下旬になり、ExxonMobilはガスコンプレッサーに関連するすべての問題を解決したと発表した。技術的な問題が頻繁に発生したことにより、ガス圧入ができず2020年には20億立方フィートのガスがフレアされたという。

ところが、2021年に入っても、1月下旬からガス圧入機材に不具合が発生してフレアが増加、3月にドイツから代替機器が送られてきて設置し、4月上旬まで起動とテストが続けられたが、4月13日に、さらに問題があることが判明し、生産量は日量12万バレルから3万バレルに削減された。4月下旬以降、減少していた生産量をランプアップし、ようやく5月には生産量が日量12万バレルまで回復したという。Hessによると、設計見直しにより信頼性が高まったガス圧入機材を11月に設置する予定であり、これにより12月には当初の生産能力を25%上回る日量14万~15万バレルまで生産量を引き上げることが可能になるという。

なお、Liza油田の平均石油生産量は2019年12月が日量35,607バレル、2020年は日量74,300バレルとなっている。2021年に入っても技術的な問題が繰り返されてしまったため、政府は2021年の平均石油生産目標を日量109,000バレルとしているという。

Kplerによると、2020年のLiza原油の輸出先はほとんどがアジア(特に中国)と米国となっている。2020年末からはパナマへの輸出が増加しているが、パナマから中国やその他のアジア諸国に再輸送されている模様だ。また、2021年に入ってからは、米国への輸出は減少しており、ヨーロッパ、特にオランダへの輸出が回復している[1]

契約に基づいて、ガイアナ政府も一定の生産物を引き取ることができるが、政府引取分の原油については、最初の3カーゴを、積載日確定後にBrent原油のスポット価格リンクで価格を決定し、ガイアナ政府から委託を受けたShellが販売した。2020年12月の4件目の政府取り分カーゴについては、販売を担当する企業を決定する入札に29社が札を入れたが、条件が厳しく、入札が事実上無効となってしまい、Liza油田で原油を生産中のExxonMobil/Hess/CNOOCに政府取り分の販売を担当させた。2021年に入ってからは、Hessが3カーゴを取り扱った。そして、9月21日から22日に出荷された2021年の4件目のカーゴは、Saudi Aramcoのロンドンをベースとするトレーディング子会社ATLが販売を担当した。さらに、2022年8月まで1年間にわたり政府引き取り分の原油販売を担当する企業を決定する入札にはShell、Chevron、Hess、Equinor、Gunvor、Glencoreなど15社が参加したが、ATLが落札し、Liza原油を販売する1年契約を締結した。


[1] Platts Oilgram News, 2021/6/10

 

(3) Stabroek鉱区の開発計画および開発状況

2020年10月にHessが発表したところによると、2018年時点ではStabroek鉱区の可採埋蔵量を石油換算40億バレルとみて、2026年までにFPSO5基を用いて日量75万バレルを生産することを計画していた。しかし、Uaru、Redtail、Yellowtail-2の3坑の評価を行ったところ、可採埋蔵量が石油換算80億バレから90億バレルに引き上げられたことから、FPSO10基での開発を視野に入れているとした。

オペレーターのExxonMobilも12月に、Stabroek鉱区の可採埋蔵量は石油換算80億バレル以上で、2026年までに5基のFPSOが稼働する計画で、その後合計で7~10基のFPSOを設置する可能性があることを明らかにした。

2020年3月になると、ExxonMobilがStabroek鉱区の可採埋蔵量は90億バレルであると発表した。そして、2026年までに同鉱区の生産量を日量75万バレルまで増加させるとした。さらに、2027年までにはStabroek鉱区で6基目のFPSOが生産を開始し、これにより生産能力を石油換算で日量100万バレルまで引き上げる計画であることを明らかにした。また、同社は、6基目のFPSOまでで石油換算90億バレルの可採埋蔵量のうち40~50%を開発、生産する可能性があるとした。

さらに5月には、ExxonMobilはStabroek鉱区の2025年の石油生産量見通しを日量75万バレルから日量80万バレルに引き上げるとした。

表2. Stabroek鉱区の開発計画
油田 FID 生産開始 FPSO 生産能力 開発コスト 損益分岐点
Lizaフェーズ1 2017年6月 2019年12月 Liza Destiny 12万b/d 44億ドル $35/b
Lizaフェーズ2 2019年5月 2022年初頭 Liza Unity 22万b/d 60億ドル $25/b
Payara 2020年9月 2024年 Prosperity 22万b/d 90億ドル $32/b
Yellowtail/Redtail 2022年 2025年   25万b/d    
Uaru/Mako   2026年        
Whiptail/Pinktail   2027年        

各種資料を基に作成

 

個別の開発プロジェクトの進捗状況はどうだろうか。

2019年5月に最終投資決定を行ったLiza油田開発フェーズ2は順調に進展しており、計画通り2022年初頭に生産開始の予定とされている。2021年9月には、FPSO Liza Unityの建造が完了し、9月上旬にガイアナに向けてシンガポールのKeppel Shipyardを出港したことが明らかにされている。FPSO Liza Unityは、原油生産能力が日量22万バレル、随伴ガス処理能力が日量4億立方フィートで、約200万バレルの原油を貯蔵可能である。

ExxonMobilは、Stabroek鉱区における3件目の開発プロジェクトとなるPayara油田の開発について、政府の承認を得た後、2020年9月に最終投資決定を行った。開発費用は90億ドルを見込んでおり、生産井を最大20坑、圧入井を21坑掘削する。建造中のSBM OffshoreのFPSO Prosperityを用いて、2024年に生産を開始する予定だ。開発は順調に行われており、予定より早く進んでいるという。FPSO Prosperityは船体が完成し、Keppelのヤードに到着してトップサイドの建設作業が進められている。Payara油田の埋蔵量は石油換算で約6億バレルとされている。

なお、Liza油田開発フェーズ2とPayara油田のFPSOの生産能力はいずれも日量22万バレルだが、生産量は日量24万バレルになる可能性があるという。

ExxonMobil率いるコンソーシアムは、Yellowtail油田の開発をStabroek鉱区での4件目の開発プロジェクトとして、開発計画を2021年第4四半期の早い時期に政府に提出し、2022年第2四半期までに最終投資決定、2025年に生産を開始することを計画している。Yellowtail油田のFPSOの生産能力は日量25万バレルで、これまで同鉱区内で行われたどの油田開発よりも大規模な開発となる可能性があるとしている。ExxonMobilは2020年3月に、Hammerhead油田の開発をStabroek鉱区の4件目の開発とし、開発計画をガイアナ環境保護庁(EPA)に提出していた。Liza油田開発第1、第2フェーズ、Payara油田開発と類似した計画で、2022年より開発井の掘削を開始し、26~30坑の坑井を掘削、石油生産能力日量15~19万バレル、貯蔵能力160~200万バレルのFPSOを用いて2024年中ごろに生産を開始するという内容であった。しかし、より規模の大きいYellowtail油田に開発対象が差し替えられた模様だ。

ExxonMobilはMako油田およびUaru油田を同鉱区の5件目の開発プロジェクトの候補としている。当初、Whiptail油田をこれに加える可能性もあるとされていたが、現在、Whiptail油田はPinktail油田とともに6番目の開発プロジェクトとされる見通しだ。

Stabroek鉱区の生産計画に対して、S&P Global Plattsは、2020年10月、ガイアナの石油生産量は2023年に日量263,000バレル、2025年に日量548,000バレルに増加すると予測していた[2]が、2021年6月には2040年までに日量140万バレルまで増加する[3]としている。

一方、IHS Markitは、ガイアナの石油生産量は2030年までに日量150万バレルに達するとしている[4]

また、Rystad Energyは、2020年半ばにはExxonMobilはガイアナ沖にFPSOを毎年1基ずつ設置できるようになると予測しており、それに基づくと10基目のFPSOは2031年に生産を開始することになるとしている。そして、ExxonMobilとパートナーの発表から考え合わせると、2031年末までには同鉱区で累計41.4億バレルを生産、2036年までには埋蔵量の全てを生産しつくす可能性があるとしている[5]


[2] Platts Oilgram News, 2020/10/29

[3] Platts Oilgram News, 2021/6/10

[4] IHS Markit, 2021/8/31

[5] https://www.kaieteurnewsonline.com/2021/03/04/sixth-fpso-by-2027-exxon-says-first-six-could-wipe-out-half-of-guyanas-proven-reserves/

 

(4) 随伴ガスの利用について

Liza油田の生産が2019年12月に始まり、Liza油田開発フェーズ2が2022年、Payara油田が2024年に生産を開始する予定で、ガイアナでは原油生産量の増加が見込まれるが、それに伴い、随伴ガスの生産量も増加することになる。これまで随伴ガスは、原油生産を維持するために再圧入されたり、また、一部はフレアされたりしてきた。

一時は、このガスをトリニダード・トバゴに送り、LNGとして収益化することも検討された。しかし、現在、この計画は中止され、ガイアナのエネルギー安全保障を強化するために、重油やディーゼルの輸入を代替し、エネルギーコストを半減させる可能性のあるGas to Power(GTP)計画が進められている。Stabroek鉱区からWales近郊の陸上ガス処理施設までパイプラインでガスを輸送し、ガス処理施設でNGLなどを分離した後、これを発電に使用するという計画だ。250メガワットのコンバインドサイクル発電所、工業団地、全長160キロメートルのパイプライン、ガス処理施設などの建設が計画されている。Bharrat Jagdeo副大統領は2021年4月に、同プロジェクトの資本支出の上限は9億ドルで、パイプラインは2024年までに完成させることを目指すとした。また、ガス処理施設は処理能力が日量5,000万立法フィートで、2024年に完成予定、当初はガイアナ政府が所有することになる。

ガイアナ政府は、Liza油田の随伴ガスを発電用の他、化学製品製造にも利用することを検討していることを明らかにしている。Liza油田から陸上にガスを送るために建設されるパイプラインは、当初は日量5,000万立方フィート、つまり、250メガワットの発電能力を支えるのに十分な量のガスを輸送する予定だが、最終的には日量1億2000万立法フィートのガスを輸送できるように拡張される予定であるという。

ただし、8月に、スリナム政府とガイアナ政府が、ブラジルへの輸出を視野に入れ、共同でガス開発を実施すると発表しており、今後のガス開発の動向も注目される。

 

(5) Stabroek鉱区以外のガイアナ沖合での探鉱状況

1. Kaieteur鉱区

ExxonMobilは2020年8月11日に、Stabroek鉱区の北に隣接するKaieteur鉱区の水深2,900メートルの海域でドリルシップStena Carronにより試掘井Tanager-1号井の掘削を開始した。掘削長は7,633メートルに達し、砂岩の油層(API比重20度)16メートルを確認した。隣接するStabroek鉱区と同様の地質が確認されたが、単独で商業開発を行うには十分な量ではなかった。

ExxonMobilは、Kaieteur鉱区の2坑目の試掘井で目標とする構造の選定に時間をかけている。当初、2021年8月に掘削する構造が決定される予定であったが、これを2022年3月まで延期するという。

Kaieteur鉱区の権益比率は、ExxonMobil(オペレーター)35%、Cataleya Energy 25%、Ratio Guyana 25%、Hess 15%となっていたが、Hessは同鉱区の権益5%をCataleya Energyより取得し、権益保有比率を20%とした。

2. Canje鉱区

ExxonMobilは、また、2020年12月30日より、ドリルシップStena Carronを用いてStabroek鉱区の北東に隣接するCanje鉱区の水深2,846メートルの海域で試掘井Bulletwood-1号井を掘削した(掘削長6,690メートル)が、商業規模の油・ガスを確認できなかった。

ExxonMobilは2021年3月中旬に、Canje鉱区の水深2,903メートルの海域で、同鉱区2坑目の試掘井Jabillo-1号井の掘削を開始した。Jabillo-1号井も掘削長6,475メートルまで掘削されたが、ドライホールであった。

Canje鉱区では、8月中旬以降にドリルシップStena DrillMAXを使用して同鉱区3坑目の試掘井Sapote-1号井の掘削が開始された。

ExxonMobilは、Sapote-1号井に続いて、Canje鉱区で12坑の掘削キャンペーンを計画している。

同鉱区の権益保有比率はExxonMobil 35%、Total 35%、JHI 17.5%、Mid-Atlantic Oil & Gas 12.5%となっている。

図2.ガイアナおよびスリナム鉱区図
図2. ガイアナおよびスリナム鉱区図
(各種資料を基に作成)

 

3. Orinduik鉱区およびKanuku鉱区

Tullow Oilは2019年7月4日より、Orinduik鉱区(面積1800平方キロメートル、水深70~1,400メートル)の水深1,350メートルの海域で、5,000万ドルを投じ、ドリルシップStena ForthによりJethro-1号井を掘削(掘削長4,400メートル)し、ネットペイ55メートルの油層を確認した。Tullow Oilは続いて掘削したJoe-1号井でもネットペイ14メートルの油層を確認した。しかし、両坑井で発見された原油は硫黄分が多く重質で商業的な価値があるか疑わしいとされた。Liza油田で生産される原油はAPI比重が32~34度、硫黄分が0.51%であるのに対し、Tullowが発見した原油はAPI比重が10~15度、硫黄分の含有率ははるかに高く、ベネズエラのOrinoco Beltで生産される超重質油やカナダのオイルサンドに性状が近いという。

その後、Tullow Oilは2020年2月に同鉱区の想定資源量を石油換算39.8億バレルから51.4億バレルに上方修正し、7月には同鉱区で2021年に少なくとも探鉱井2坑を掘削予定であるとしていた。そして、2021年2月には、Orinduik鉱区で6ヶ月以内に掘削ターゲットの選定を行い、2021年後半には掘削準備を開始する計画であると発表した。現在、Kanuku鉱区のCarapa-1号井の掘削結果をレビューし、モデルに組み込み、引き続き掘削ターゲットの選定を行っていると伝えられている。

同鉱区の権益保有比率はオペレーターのTullow Oilが60%、Eco Atlantic Oil & Gasが15%、TOQAP(Total 60%、Qatar Petroleum 40%)が25%となっている。

一方、Repsolは2020年1月初めに、Kanuku鉱区で探鉱井Carapa-1号井を掘削(掘削長3,290メートル)し、ネットペイ4メートルの油層を確認した。掘削前の見通しを下回ってはいるが、API比重27度、硫黄含有率1%未満の原油を確認したという。

同鉱区の権益保有比率はオペレーターのRepsolが37.5%、Tullow Oilが37.5%、Totalが25%となっている。

なお、Tullow Oilは2021年9月に、Orinduik鉱区およびKanuku鉱区から撤退するつもりはないが、両鉱区での活動を縮小し、主要なプロジェクトにより集中することを明らかにした。

4. Corentyne鉱区およびDemerara鉱区

CGX EnergyはCorentyne鉱区およびDemerara鉱区で地震探鉱の解析、評価を行い、2020年11月よりCorentyne鉱区でUtakwaaka-1号井を掘削する計画だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大により両鉱区での操業に影響が生じ、政府との協議の結果、Utakwaaka-1号井の掘削を12カ月延長することとした。

なお、2019年5月にFrontera Energyが、オペレーターであるCGX Energyとファームイン契約を締結し、Corentyne鉱区とDemerara鉱区の権益33.33%を取得した。残りの権益66.67%はCGX Energyが保有している。

 

2. 環境保護派が訴訟を提起

2021年5月、ガイアナ大学の講師Troy Thomas氏と、ガイアナ内陸部Rupununi地方の観光ガイドであるQuadad de Freitas氏が、ExxonMobilのStabroek鉱区での探鉱、開発、生産は、ガイアナ人の清潔な環境を求める権利を脅かし、気候変動を緩和するための国際的な取り組みを支持する同国の姿勢に反しており、違憲であると主張し、ガイアナ政府を相手取り提訴した。政府が締結した探鉱・開発契約が温室効果ガス排出につながり、地球温暖化の原因となるだけでなく、海を酸性化させ、ガイアナのサンゴ礁やマングローブにダメージを与えると主張している。

裁判所が、政府に探鉱・開発契約の締結を禁止したり、既存の契約を取り消すよう命じたりする可能性は低いが、環境対策を強化するよう政府に求める可能性はあると見られている。

気候変動訴訟が提起される中で、政府は探鉱・開発を迅速に進め、投資を促進するための措置を講じている。例えば、8月8日には、EPAが、ExxonMobilが申請したCanjeブロックにおける12坑の探査・評価掘削プログラムを審査し、この活動が環境に大きな影響を与えないと判断したため、環境影響評価の実施を免除するとした。また、8月9日、ガイアナ国民議会は、ExxonMobilが提案しているGTPプロジェクトに必要な私有地の取得を可能にする条項を含む石油法の改正案を可決した。

 

3. ベネズエラとの国境をめぐる係争

19世紀以来、ベネズエラは、ガイアナのEssequibo川が両国の国境であり、Essequibo川の西側のすべての土地及び関連する沖合の海域、すなわち、ガイアナの領土のおよそ3分の2は自国の領土だと主張してきた。

1899年、パリ仲裁裁判所は、Essequibo川の西の広大な地域について、ベネズエラと当時はイギリスの植民地であったガイアナの国境を、イギリス側の主張を認める形で確立する判決を下した。しかし、ベネズエラはこれに不満を抱いていた。1966年にガイアナが独立すると、ベネズエラとガイアナはジュネーブ協定を調印し、両国は国連の支援のもと、国境問題の実際的、平和的な解決を探ることで合意した。解決策を見つけるために両国間で交渉が行われてきたが、合意に至っていない。

ガイアナ沖合での探鉱が活発化し、Stabroek鉱区でLiza油田が発見され、開発、生産が開始されたことを受けて、ベネズエラはこれらの探鉱・開発に干渉を行うようになってきた。例えば、2013年にRoraima鉱区で地震探鉱を行おうとしたAnadarkoに対してベネズエラ海軍がこれを制ししたり、2018年にStabroek鉱区北西部で地震探鉱実施中のPetroleum Geo-Servicesの船舶をベネズエラ海軍が停止させたりするという事案が発生している。ExxonMobilはStabroek鉱区東部の掘削や開発に影響はないとして、同鉱区東部で集中的に探鉱・開発を行っている。

図3.ガイアナおよびベネズエラの紛争エリア
図3. ガイアナおよびベネズエラの紛争エリア
(各種資料を基に作成)

2018年1月に、Antonio Guterres国連事務総長が、領土紛争の解決に進展が見られない場合、ベネズエラとガイアナの間の問題解決を国際司法裁判所(International Court Justice: ICJ)の手に委ねると発表した。ガイアナはこれを支持したものの、ICJは当該地域の事実上の支配とベネズエラの国際社会での劣位な立場を考慮してガイアナに優勢な決定をすると予想されたことから、ベネズエラはこれを棄却した。

ICJは2020年12月に、ガイアナが提起した現在のベネズエラとの国境の批准を求める訴訟を審理する管轄権が自らにあると認めた。しかし、ベネズエラ政府は、ICJにはこの問題に関する管轄権がないとし、代わりにEssequibo川の西の広大な地域への領有権をめぐってガイアナとの直接協議を希望していると主張している。

2021年9月、ベネズエラ政府が同国の野党勢力とEssequibo川の西側のエリアに対するベネズエラの権利を主張することで一致していると発表した。ベネズエラ政府と野党は、この問題の解決をICJに委ねるべきではなく、ガイアナとベネズエラが直接交渉することを求めた。一方のガイアナはベネズエラ政府に抗議し、ICJでの解決を引き続き求めていくとしている。

Stabroek鉱区をはじめとするガイアナ沖合での探鉱・開発に係るカントリーリスクをできるだけ排除するためには、両国間の国境をめぐる係争の解決が重要と考えられるが、問題解決にはさらに時間がかかると考えられる。

 

4. 鉱区入札および契約条件変更の見通し

ガイアナのIrfaan Ali大統領は2021年5月初めに、鉱区付与の方式をこれまでの国際石油企業(International Oil Company:IOC)との直接交渉からライセンスラウンドに変更し、新たな契約モデルを導入すると発表した。ライセンスラウンド実施時期については明言しなかった。また、鉱区の一部をガイアナが自ら開発、管理するために保持するかどうかについては検討中とした。

5月中旬には政府が、2022年初頭に最初の沖合ライセンスラウンドを開始する意向であることを明らかにした。具体的な実施時期については言及しなかったが、政府はライセンスラウンドを開始する前に、生産分与契約の契約条件を改定する取り組みを終えたいとしている。また、政府は入札に先立って、石油産業を監督する新しい政府機関、石油委員会を設立し、国内の石油産業の規制構造を変更するなど、いくつかの政策変更を行うことを目指しているとした。

Ali大統領は8月17日に、年内に石油委員会を設置し、石油・ガスプロジェクトの管理と、炭化水素の販売による収入の管理を担当させるとした。また、2022年に実施することを目指している最初のライセンスラウンドについても新機関が担当するという。現在、草稿段階にある新しい石油契約案については、ロイヤルティの引き上げとその他の契約条件の見直しを計画していることを明らかにした。ガイアナ政府は、Stabroek鉱区の契約に関して企業側に有利な条件を提供したと批判を受けてきた。Bharrat Jagdeo副大統領は、ExxonMobilとの契約の不備は全て解決されており、また新しい契約はExxonMobilとの契約よりも投資企業にとって不利な内容になるだろうとし、さらに、6ヶ月程度で準備が整うだろうと述べた。

 

おわりに

2021年3月、ExxonMobilは、4基目のFPSOによるYellowtail油田の開発計画がまだ完了していないにもかかわらず、5基目のFPSOによるUaru油田とMako油田の開発、生産に関する検討を全速力で進めていると報じられた。その背景として、温室効果ガス排出削減を求める動きが加速していることから、同社が開発を急いでいるとの見方がなされていた。政府も、これらの探鉱・開発を後押しし、開発を急いでいることは先に紹介した。ガイアナの石油生産量が急増し、2020年代後半には日量100万バレルを超える可能性が高まってきた。環境保護派による気候変動訴訟やベネズエラとの国境をめぐる係争がこれに影響を与える可能性があると見る向きもあり、注視していきたい。

 

以上

(この報告は2021年10月11日時点のものです)

アンケートにご協力ください
1.このレポートをどのような目的でご覧になりましたか?
2.このレポートは参考になりましたか?
3.ご意見・ご感想をお書きください。 (200文字程度)
下記にご同意ください
{{ message }}
  • {{ error.name }} {{ error.value }}
ご質問などはこちらから

アンケートの送信

送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。