ページ番号1009151 更新日 令和3年10月18日
原油市場他:天然ガス価格等が高騰する中、冬場の暖房用代替燃料としての石油需要増加観測に伴う需給引き締まり観測等から、上昇する原油価格
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概要
- 米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことに伴いガソリン需要が低下したことから、当該在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態となっている。他方、ハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾岸来襲や秋場のメンテナンス作業実施等により、製油所の稼働が低下するとともに、留出油生産が不活発となったこともあり、留出油在庫は減少傾向となり、平年並みの量となっている。また、製油所での原油精製処理量の減少により原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する水準が継続している。
- 2021年9月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では8月下旬のハリケーン「アイダ」の同国メキシコ沖合通過に伴い当該地域の油田関連施設の操業が停止したことにより原油生産量が減少したことに併せて在庫も減少となった他、日本においても、製油所でのメンテナンス作業実施に併せて原油輸入が不活発となったこともあり、在庫は減少となった。また、欧州でも原油輸出がやや堅調であったこともあり、在庫は微減となった。この結果、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では、ガソリン等の在庫増加が留出油在庫の減少で相殺された結果、石油製品在庫全体としては、ほぼ横這いとなった。また、日本においては灯油の在庫が積み上がりつつあることにより石油製品全体の在庫も増加した。しかしながら、欧州においてガソリン及び中間留分を中心として在庫が減少したことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年並みの量となっている。
- 2021年9月下旬から10月中旬にかけての原油市場では、米国金融当局による金融緩和縮小が長期に渡り緩やかに実施されるとの観測が市場で発生したことや、欧州等での天然ガス価格高騰や中国での豪雨による炭鉱での操業停止等に伴う石炭価格の上昇により、代替燃料として石油の需要が上振れするとの懸念が市場で強まったこと、そしてOPECプラス産油国が10月4日に開催した閣僚級会合で、11月の原油生産につき従来の方針通り前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を決定したことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したこと等が、原油相場に上方圧力を加えたことから、9月16日には1バレル当たり72.61ドルの終値であった原油価格(WTI)は上昇傾向となり、10月15日には1バレル当たり82.28ドルと、終値としては2014年10月21日以来の高水準に到達した。
- この先冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることに加え、天然ガス価格等の高騰に伴う代替燃料としての石油需要の上振れと相対的な石油需給引き締まり感の市場での増大が原油相場に上方圧力を加えるものと見られる。そしてそのような中で、米国等での冬場の気温予報及び足元の気温、11月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合における議論内容、米国金融緩和策を巡る同国金融当局の方針、不動産開発部門を含む中国経済に関する動向、米国メキシコ湾地域へのハリケーン等暴風雨来襲状況等が原油価格に影響していくものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が従来の方針に基づき2021年11月についても前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨決定
(1) 協議内容等
2021年10月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はビデオ会議形式で閣僚級会合を開催(開催時間は25分程度であったされる)、8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(10月時点で日量456万バレル)につき、11月についても従来方針通り前月比で日量40万バレル規模を縮小して実施する旨確認した(表1参照)。また、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を11月4日に開催することを決定した。さらに、減産目標を完全に遵守することに固執すること、及びこれまで減産目標を遵守できていない減産措置参加産油国が減産目標遵守未達成部分を追加して減産することにより2021年12月末までには完全遵守を達成することに固執することが、極めて重要である旨改めて言及した。なお、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際し、クウェートのファーリス(Fares)石油相兼高等教育相は、石油市場に難問が発生している中でOPECプラス産油国は増産には慎重である旨10月4日に明らかにしたと伝えられる。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
7月18日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合で合意した、8月以降減産措置が消滅するまで毎月前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する方針につき、9月1日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、10月についても当初方針通り前月比で日量40万バレル減産措置を縮小して実施する旨決定した。9月1日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合直前には、米国メキシコ湾沖合をハリケーン「アイダ」が通過したことに伴い、当該地域の一部油田の原油生産が停止した。そして、米国メキシコ湾沖合にある、マーズ(Mars)、アーサ(Ursa)(原油生産量合計日量25万バレル)及びオリンパス(Olympus)(同10万バレル)各油田等で生産された原油を陸上に輸送するパイプラインの中継基地であるWD(West Delta)-143プラットフォームで、ハリケーン通過に伴い損傷が発生、当該損傷の修理を実施するため、同施設を2021年第四四半期~2022年第一四半期頃まで停止する旨9月20日に操業者のシェルが明らかにした。米国メキシコ湾沖合地域では9月23日時点で日量29万バレルの原油生産量(当該地域の通常の原油生産量日量182万バレルの16.2%)が停止中であったが、この程度の規模の停止が2021年末にかけ継続することになり、これに伴う石油需給引き締まり懸念が市場で発生したことが、原油相場に上方圧力を加えた(なお、10月4日にシェルはオリンパス油田の原油生産を再開した旨発表している)。また、欧州及びアジア諸国では天然ガス及び液化天然ガス(LNG)価格が相当程度上昇しており、9月30日の終値は、欧州の天然ガス価格指標であるオランダTTF先物価格で100万Btu当たり推定33.18ドル(原油換算1バレル当たり約199.08ドル)、英国NBP先物価格で同推定33.84ドル(原油換算1バレル当たり約203.04ドル)と、足元の原油価格(9月30日終値で1バレル当たり75.03ドル(WTI))の倍超となっていた。このため、従来天然ガスを利用していた製造業者や電気事業者等が、今後利用する燃料を割高な天然ガスから相対的に割安な軽油もしくは重油等の石油製品に転換させる結果、これら石油製品の需要が相対的に増加するとの観測が市場で発生したことも、原油価格を押し上げた。以上のような要因等により、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合直前の8月31日には1バレル当たり68.50ドルであった原油価格(WTI)は10月1日には同75.88ドルと上昇傾向になるとともに、10月1日の原油価格の終値は2018年10月3日(この時は同76.41ドル)以来の高水準に到達した(図1参照)。
また、9月28日には、ブレント原油価格が3年ぶりに1バレル当たり80ドルに到達したこともあり、この日の米国バイデン政権の記者会見で、サキ大統領報道官は、競争的な市場と価格設定、そして(経済)回復を支持するためのさらなる方策の重要性につき、OPEC産油国を含め米国外の当事者と協議し続けている旨明らかにした。加えて、9月28日には米国バイデン政権のサリバン大統領補佐官がサウジアラビアのムハンマド皇太子と会談しており、その際の主たる議題はイエメン内戦問題であったが、原油価格も協議する予定とされていた旨9月30日に実施された記者会見でサキ報道官が明らかにした。しかしながら、米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が9月6日を以て終了し、足元季節的にはガソリン不需要期に突入したこともあり、全米平均ガソリン小売価格は9月27日時点で1ガロン当たり3.271ドルと、当該価格は5月10日以来同3ドル超の水準を継続してはいたものの、前週(同3.280ドル)から若干下落していた(図2参照)こともあり、この面ではガソリン価格高騰による米国国民のバイデン政権への不満は高まりにくい状況となっていた。
また、9月14日に発表された8月の米国消費者物価指数(CPI)上昇率も前年同月比で5.3%と、7月及び6月の同5.4%の上昇から頭打ち気味となっていた他、前月比では0.3%の上昇と7月の同0.5%及び6月の同0.9%から伸びが鈍化していたこともあり、同国金融当局に対する金利引き上げ圧力も強まりにくい状況であった。このようなことから、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催を控え、OPECプラス産油国が11月の減産措置につき従来方針通り前月比で日量40万バレル縮小することに対し米国は満足している旨サウジアラビアに伝えたと10月4日に報じられるなど、米国はサウジアラビア等OPECプラス産油国に対し原油価格抑制に向け行動することに関し強い働きかけを行わなかったものと見られる。他方、世界的な新型コロナウイルス感染流行の第三波は8月下旬初頭前後にピークを打った後沈静化しつつあるように見受けられるが、今後冬場に向け第四波が到来することをOPECプラス産油国は懸念していたとされる。加えて、2022年は世界石油供給を需要が超過する可能性があり、このまま毎月前月比で日量40万バレル減産措置を縮小すれば、2022年は通年で日量223万バレルの供給過剰となることが予想された(表2参照)。
9月29日に開催されたOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)では、OPEC事務局から、2021年の世界石油需要が前年比で日量600万バレル、2022年が同420万バレルの、それぞれ増加(因みに9月14日にIEAが明らかにした見通しでは、2021年の世界石油需要は前年比で日量523万バレル、2022年が同325万バレルの、それぞれ増加となっており、OPECの世界石油需要見通しがIEAのそれに比べ強気であることが示唆される)、その結果、2022年の世界石油需給が日量140万バレルの供給過剰と、8月31日に開催された前回のJTC開催時に提示された同160万バレルの供給過剰から過剰幅が縮小したが、それでも、2022年は世界石油供給が需要を超過することに変わりはない状態であった。実際一部OPECプラス産油国は、このような状態で減産措置の縮小を加速すれば、2022年はさらに供給過剰となる結果、石油在庫が増加することを懸念する声があった旨10月6日に伝えられる他、10月14日にはサウジアラビアのアブドラアジズ エネルギー相も、2022年は世界石油供給が需要を上回る結果、在庫が積み上がる可能性があることを懸念している旨明らかにしていた。また、従来から米国等で金融緩和政策を推進していたこともあり、低コストで調達された投資資金が原油等の商品市場に流入していることが、これまでの原油相場の上昇の一因であるものと考えられるが、特に最近では、冬場の暖房シーズンの到来に伴う暖房用燃料需要期を控え欧州での天然ガス需給の引き締まりによる天然ガス価格の大幅上昇から、代替燃料としての石油需要の増加観測が市場で強まっていることもあり、原油価格の先高感が醸成されるとともに、市場関係者による強気の心理が強まることにより投資資金が流入した結果原油相場を押し上げているように推察される部分があった。そして、2022年は世界石油需給が緩和する可能性があるとの観測が発生しやすい状況下、減産措置の縮小を加速する決定を行った後、新型コロナウイルス感染第四波が到来し世界経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化するようなことになれば、石油需給の緩和感が強まるとともに市場心理が急速に冷え込むことにより、原油価格の急落を招くといった展開となる恐れもあった。
このため、OPECプラス産油国としては、今般の会合では減産措置の縮小を踏みとどまるとともに、今後の新型コロナウイルス感染を巡る状況に対する不透明感が低下するまで、様子を見ることとしたものと見られる。その上で、今後新型コロナウイルス感染がそれほど拡大しない結果世界経済及び石油需要が回復し続けるとともに、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用(及び発電用)燃料需要期に向け天然ガス価格高騰による代替燃料としての石油の需要が上振れする結果、原油価格が上昇し続けることにより、米国からOPECプラス産油国に対し原油価格抑制を巡る働きかけが強まるようであれば、OPECプラス産油国は、11月4日に開催される予定である次回閣僚級会合、もしくはそれ以降に開催される予定である閣僚級会合において減産措置の再検討を行うことにしたものと考えられる。
(3) 原油価格の動き等
今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で従来方針通り11月につき前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を決定したことにより、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油需要期を控えた石油需給引き締まり感を市場が意識したこと等が、原油相場に上方圧力を加えたこともあり、当該会合開催当日の原油価格は前日末終値比で1バレル当たり1.74ドル上昇し77.62ドルの終値と2014年11月11日(この時は同77.94ドル)以来の高水準に到達した他、一時は同78.38ドルに到達する場面も見られた。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2021年7月の米国ガソリン需要(確定値)は日量931万バレル、前年同月比で10.1%程度の増加と2021年6月の同11.8%程度の増加から増加率が縮小した(図3参照)他、速報値(前年同月比で11.6%程度増加の日量944万バレル)から下方修正された。7月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量75万バレル程度と推定されるところ確定値では同84万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展する(米国で少なくとも1回は当該ワクチンを接種した成人の全成人に占める割合が8月2日時点で70%に到達し、同国バイデン政権が掲げた目標を1ヶ月遅れではあったが達成した)中、自動車を利用した個人の外出がそれなりに促進された(7月の同国の自動車運転距離数は前年同月比で11.5%程度増加している)ことが、7月のガソリン需要増加に影響しているものと考えられる。また、新型コロナウイルス感染拡大もあり2020年4月は個人の外出が相当程度落ち込んだ一方、同年4月16日に米国のトランプ大統領(当時)が米国国民の外出規制緩和と経済活動再開への指針を発表したことで、同国で外出規制と経済活動制限が実際に緩和され始めたこともあり、2020年7月は米国での個人の外出が活発化してきたことに伴い自動車運転距離数、及びガソリン需要が回復しつつあった(同月のガソリン需要は前年同月比で11.3%の減少と6月の同14.5%の減少から減少率が縮小している)ことが一因となり、2021年7月の米国自動車運転距離数の前年同月比での増加率は同年6月の14.5%程度から縮小するとともに、2021年7月のガソリン需要の前年同月比での増加率も6月から縮小したものと考えられる。なお、2021年7月のガソリン需要は2019年7月の当該需要(日量953万バレル(確定値))から依然2.3%程度の減少となっているが、2021年6月のガソリン需要の前々年同月の当該需要を下回る比率(4.4%程度)からは減少率は縮小している。他方、2021年9月の同国のガソリン需要(速報値)は日量918万バレル、前年同月比で7.5%程度の増加となっており、8月の当該需要(速報値)である日量950万バレル、及び前年同月比での11.5%程度の増加から、需要量及び増加率が縮小している。夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期は9月6日の労働者の日(レイバー・デー)を以て終了するとともに、米国では秋場のガソリン不需要期に突入したことにより、9月の推定自動車運転距離数は1日当たり89億マイルと8月の同91億マイルから減少したことが、ガソリン需要の低下に影響しているものと考えられる。ただ、2020年8~9月は米国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が概ね低位で安定していた(当該感染者数は同年7月24日時点で73,525人と当時としての史上最高水準に到達した後、9月7日に25,166人まで減少、その後増加傾向となったものの9月30日においても42,058人と7月24日の水準の半分程度であった)こともあり、2020年9月の自動車運転距離数が前年同月比で8.1%の減少と、同年8月の同11.8%の減少から減少率が縮小したこともあり、2020年9月のガソリン需要の前年同月比での減少率も前年同月比で7.1%程度の減少と同年8月の同13.3%程度の減少から減少率が縮小した。このため、2021年9月の同国ガソリン需要は、そのような局所的には堅調であった2020年9月のガソリン需要の影響で、前年同月比での伸び率が縮小する格好となっているものと見られる。そして、2021年9月のガソリン需要は2019年9月の水準(日量920万バレル(確定値))を0.2%程度下回っている。また、米国では8月下旬にハリケーン「アイダ」が同国メキシコ湾岸に来襲したことに伴い、ルイジアナ州の一部製油所が、冠水したり電力供給が途絶したりしたことにより、一時推定日量200万バレル程度の精製能力が操業を停止した後、9月半ば頃にかけ相当部分が操業を回復したものの、その後は、同国の一部製油所において秋場のメンテナンス作業が実施されたことにより操業が停止したり、9月17日に米国西海岸で発生した地震による停電で当該地域における製油所の操業に支障が発生したりしたこともあり、原油精製処理活動がもたついた(図4参照)ことがガソリン生産に影響を与えたと見られるものの(ガソリン最終製品の生産は図5参照)、ガソリン需要の低下により相殺されて余りあったことにより、9月上旬から10月上旬にかけての米国ガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を上回る状態は継続している(図6参照)。
2021年7月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量366万バレルと前年同月比で1.2%程度の増加となり、6月の同12.7%程度の増加から増加率が相当程度縮小した他、速報値である日量377万バレル(同4.2%程度の増加)から下方修正された(図7参照)。7月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量121万バレル程度と推定されるところ確定値では同130万バレルへと上方修正されたことで、この分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。また、2021年7月の米国鉱工業生産が前年同月比で6.6%の増加と6月の同10.1%の増加から伸び率が縮小した他、同月の同国物流活動も前年同月比で0.6%の増加率にとどまるなど、同国の製造及び物流活動が減速しつつあることが、留出油需要の伸びに影響しているものと考えられる。物流活動の抑制については、物価上昇(2021年6~7月の消費者物価指数は前年同月比で5.4%の上昇と2008年8月(この時は同5.4%の上昇)以来の上昇率であった)によるコスト上昇圧力の増大が物流企業の利益を圧迫しつつあることや、トラック運転手等の労働力不足等が物流上の隘路となりつつあることが背景にあると示唆する向きもある。また、2021年6月の米国鉱工業生産が前年同月比で10.1%の増加と同年5月の同16.3%の増加から伸びが鈍化した他、2021年6月の同国物流活動も前年同月比で5.6%の増加と同年5月の同7.7%の増加から増加率が縮小するなどした一方、同月の留出油需要は前年同月比で12.7%程度の増加と5月の同12.4%の増加から伸び率が拡大した反動が、7月に織り込まれている側面もあるものと考えられる。なお、2021年7月の米国留出油需要は2019年7月の当該需要(日量391万バレル(確定値))を依然6.5%程度下回っている。他方、2021年9月の留出油需要(速報値)は日量411万バレルと前年同月比で7.7%程度の増加となり、8月の当該需要(速報値)の同11.5%程度の増加から伸びが鈍化している。2021年8月の米国鉱工業生産が前年同月比で推定5.9%の増加と、7月の同6.6%から伸びが縮小している他、2021年8月の物流活動は前年同月比で1.4%の増加と7月の前年同月比での増加率に比べれば伸びは回復しているものの、それ以前の水準に比べれば低調である一方、8月の留出油需要(速報値)が前年同月比で11.5%程度の増加と比較的堅調に伸びた反動が、9月の伸び率を抑制する格好となっているものと考えられる。なお、2021年9月の米国留出油需要は2019年9月の当該需要(日量392万バレル(確定値))を4.8%程度上回っている。また、8月下旬にハリケーン「アイダ」が米国メキシコ湾岸地域に来襲したことに伴い、当該地域の一部製油所の稼働が停止した他、その後は製油所の秋場のメンテナンス作業実施に伴い操業が停止したり、その他の要因により操業に支障が発生したりしたこともあり、製油所での留出油生産が低迷したこと(図8参照)により、比較的安定していた留出油需要を賄いきれなかったと見られることから、9月上旬から10月上旬の期間留出油在庫は減少傾向となった他平年並みの量となっている(図9参照)。
2021年7月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で8.2%程度増加の日量1,989万バレルとなったが、同年6月の同2,054万バレル(前年同月比16.8%程度の増加)から需要量が低下したうえ増加率も縮小した(図10参照)。ガソリン及びジェット燃料(米国で新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展しつつあったこともあり、2021年7月の同国国内空港の安全検査通過人数が1日平均204万人と前年比で3倍超となっていることが、ジェット燃料需要増加の一因と考えられる)といった石油製品の需要が前年同月比で相当程度増加したことが同国石油需要の前年同月比での増加に反映されているが、2020年6月(日量1,758万バレル、前年同月比14.9%の減少)に比べ同年7月は米国石油需要がさらに持ち直した(同1,838万バレル、前年同月比11.4%の減少)こともあり、その分だけ2021年7月の同国石油需要の前年同月比での伸び率が同年6月の当該需要から圧縮されているといった部分もある。また、2021年7月の当該需要は2019年7月のそれ(日量2,065万バレル)をなお4.1%程度下回っており、2021年6月の前々年同月比での減少率(0.6%程度)から減少率が拡大している。また、ガソリン、留出油及びその他の石油製品等の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたこともあり、米国石油需要も速報値(前年同月比で17.2%程度増加の日量2,051万バレル)から下方修正されている。他方、2021年9月の米国石油需要(速報値)は日量2,069万バレルと前年同月比で12.4%程度の増加となったが、8月の当該需要(速報値)の同14.7%程度の増加から増加率が縮小した。9月のガソリン及び留出油需要の前年同月比での増加率が8月から縮小したことが影響する格好となっている。それでも、2021年9月の米国石油需要は、2019年9月の当該需要(日量2,025万バレル(確定値))を2.2%程度上回っている。他方、9月中旬以降、ハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾沖合通過に伴い沖合油田関連施設から従業員が避難したことにより当該施設が操業を停止するとともに、原油生産量が減少した(米国原油生産量はハリケーン来襲前の8月27日の週の日量1,150万バレルから来襲後の9月3日には同1,000万バレルとなった)ものの、ハリケーン通過後は当該施設に従業員が復帰するとともに操業を再開、原油生産は回復しつつある。しかしながら、米国メキシコ湾沖合にある、マーズ(Mars)、アーサ(Ursa)(原油生産量合計日量25万バレル)及びオリンパス(Olympus)(同10万バレル)各油田等で生産された原油を陸上に輸送するパイプラインの中継基地であるWD(West Delta)-143プラットフォームでハリケーン来襲に伴い損傷が発生、当該損傷を修理するため同施設を2021年第四四半期~2022年第一四半期頃まで停止する旨9月20日に操業者のシェルが明らかにした。当該地域では9月23日時点で日量29万バレル規模の原油生産(当該地域の通常の原油生産量日量182万バレルの16.2%)が停止している旨米国安全環境執行局(BSEE: Bureau of Safety and Environmental Enforcement)が明らかにしているものの、10月4日にはWD-143の施設の一部で修理が進んだことに伴いオリンパス油田での生産が再開されたことにより、米国メキシコ湾沖合での原油生産停止規模は日量20万バレル前後へと縮小したと見られる。ただ、この水準の原油生産停止は現時点でも継続しているものと見られる。それでも、製油所のメンテナンス作業実施等に伴う原油精製処理量の減少が、このような米国メキシコ湾沖合での原油生産減少を相殺して余りあったことにより、9月上旬から10月上旬にかけての米国原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を上回る状態は続いている(図11参照)。そして、留出油在庫が平年並みの量となった他、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図12及び13参照)。
2021年9月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では8月下旬のハリケーン「アイダ」の同国メキシコ沖合通過に伴い当該地域の油田関連施設の操業が停止したことにより原油生産量が減少したことに併せて在庫も減少した他、日本においても、製油所でのメンテナンス作業実施に併せて原油輸入が減少したこともあり、在庫は減少となった。また、欧州でも製油所のメンテナンス作業実施等により原油精製処理量が減少した一方、原油輸入はほぼ横這いであったものの原油輸出がやや堅調であった(8月下旬に米国メキシコ湾沖合をハリケーン「アイダ」が通過したことに伴う、通過周辺地域での油田関連施設の操業停止と原油生産の減少により、代替として欧州方面からの原油購入が活発化した可能性がある)こともあり、在庫は微減となった。この結果、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図14参照)。石油製品については、米国では、ガソリンやプロパン/プロピレン及びその他の石油製品の在庫が微増となったものの留出油在庫の減少で相殺された結果、石油製品在庫全体としては、ほぼ横這いの水準となった。また、日本においては、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期到来に向け灯油の在庫が積み上がりつつあることにより、石油製品全体の在庫も増加した。しかしながら、欧州においては、8月下旬に米国メキシコ湾岸地域にハリケーン「アイダ」が来襲したことに伴い、当該地域の製油所の稼働が停止したことにより、米国から欧州への軽油輸出が減少した一方で欧州から米国方面へのガソリンの輸出が活発化したと見られることから、ガソリン及び中間留分を中心として石油製品在庫は減少した。そして、欧州での石油製品在庫減少が、米国及び日本の石油製品在庫増加を相殺した結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年並みの量となっている(図15参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る量である一方、石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図16参照)。なお、2021年9月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.0日と8月末の推定在庫日数(61.8日)から低下している。
9月15日に1,400万バレル弱程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、9月22日には1,300万バレル強程度の量、9月29日及び10月6日には1,100万バレル台後半程度の水準、そして、10月13日は1,100万バレル台半ば程度の量へと、それぞれ減少となるなど、9月中旬から10月中旬にかけ、シンガポールの軽質留分在庫は減少傾向となった。7月15日には1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が56,757人と史上最高水準に到達したインドネシアでは、10月15日時点の当該感染者数が915人と大幅に減少したことにより、同国での個人の外出規制が緩和されつつあることに伴い往来が活発化するとともにガソリン需要が持ち直しつつあることもあり、シンガポールからインドネシア、そして同じく新型コロナウイルス感染が収束に向かいつつあるその他東南アジア諸国へのガソリン輸出が相対的に堅調となった。他方、インドでも1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が5月6日の414,188人から10月15日には15,981人へと感染規模が大幅に縮小したことにより、個人の往来が活発化するとともにガソリン需要が相対的に堅調となったこともあり、同国からシンガポールへのガソリン輸出が限定的な規模にとどまった。加えて、8月9日に2021年第二回の石油製品(ガソリン、軽油、ジェット燃料及び低硫黄重油)輸出枠が中国政府により同国石油会社に対し付与されたと8月10日に伝えられたが、当該輸出枠合計が1,050万トンと第一回の輸出枠(約3,450万トン)から相当程度縮小したこともあり、シンガポールの中国からのガソリン輸入は増加する一時場面も見られたものの持続しなかった。このようなシンガポールのガソリン輸出入状況が同国での軽質留分在庫減少に反映されたものと考えられる。そしてこのように、シンガポールでの軽質留分在庫が減少傾向となったことが、アジア市場におけるガソリン価格に上方圧力を加えたことにより、ガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向を示した。
ナフサについては、東南アジア諸国等での新型コロナウイルス感染者数が減少傾向となったことに伴い経済活動制限が緩和されるとともに石油化学製品需要が持ち直しつつあると見られることに加え、石油化学産業向け原料としてナフサと競合することのある液化石油ガス(LPG)価格が北半球での冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期を控えた需要増加が意識され始めたこともあり、例えば9月30日にサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコにより発表された2021年10月に販売されるLPG契約価格(CP: Contract Price)がプロパンで1トン当たり800ドルと前月(同660ドル)比で21.2%引き上げられるなど、上昇傾向となった(また、2021年2月中旬に米国テキサス州を中心とする地域に寒波が来襲したことにより、同国の原油及び天然ガスの生産に支障を来した際、随伴で産出されるLPGの生産まで落ち込むことになった影響が現在まで継続している他、米国のシェールオイル開発・生産会社等の収益優先の経営方針により同国での原油及び天然ガスの生産とともにLPGの生産がもたつき気味となったことにより、例えば、アジアにLPGを輸出する米国の当該製品在庫は過去5年平均(いわゆる「平年」と認識される水準)を19.9%下回るなど引き締まっている他、欧州及びアジア等で天然ガス価格が上昇していることにより、代替燃料としてのLPG需要増加観測が市場で発生していることも、LPG価格上昇の一因であると見られる)ことが石油化学部門でのナフサ需要増加観測を市場で発生させるとともに当該製品価格に上方圧力を加えたものの、中国における電力供給不足が同国の経済活動を制限する格好となったことあり、石油化学製品に対する需要がもたつき気味となったことや、今後日本や韓国等で石油化学製品生産のためのナフサ分解装置のメンテナンス作業実施に伴い原料となるナフサの需要が低下するとの見方が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格を抑制する形で作用した他、原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かなかったこともあり、9月下旬から10月中旬にかけ、ナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を上回っている)はどちらかというと縮小傾向となった。
9月15日には1,000万バレル台後半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、9月22日も1,000万バレル台後半程度の量であったが、9月22日には1,000台半ば程度、そして10月6日及び10月13日には1,000万バレル台前半程度の水準へと低下した。中国政府から付与された2021年第二回の軽油輸出枠が限定的な規模となったとされることにより、シンガポールの中国からの軽油輸入が低調に推移している他、インドでは1日当たり新型コロナウイルス新規感染規模が縮小したことにより経済活動制限が緩和されつつあることにより産業や物流部門等向け軽油需要が持ち直しつつあるうえ、インドでの雨季(モンスーン)(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前の軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天により道路及び建設工事の進捗が減速することなどに伴い物流や製造業等での軽油の利用が抑制されることもあり、この時期同国の軽油需要は鈍化しやすい)が終了しつつあることにより、軽油需要の回復が見込まれることから、シンガポールのインドからの軽油輸入が低迷していること、8月下旬に米国メキシコ湾岸地域にハリケーン「アイダ」が来襲したことにより、推定最大日量200万バレル程度の原油精製能力相当分の製油所の稼働が一時停止したことにより軽油生産に支障が発生したこともあり、米国の代わりにアジア諸国から中南米向けに軽油が輸出されたと見られること、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期到来を控え天然ガス価格が高騰している欧州において、発電部門及び民生部門向けの代替燃料としての軽油の需要の上振れ観測が市場で発生したこともあり、欧州における軽油価格のアジアにおける軽油価格に対する割高感が強まったことにより、欧州方面に向けアジア諸国から軽油が輸出されつつある反面、シンガポールへの軽油流入が鈍化したこと等が、シンガポールでの中間留分在庫減少傾向の背景にあるものと考えられる。そしてシンガポールでの中間留分在庫減少傾向を含め、アジア市場では軽油需給の引き締まり感が意識されつつあるうえ、アジア一部諸国で秋場の製油所メンテナンス作業が実施されつつあることにより、これら製油所からの軽油等の輸出が減少するとの観測が市場で発生している見られることが、アジア市場での軽油価格に上方圧力を加えていることから、9月下旬から10月中旬にかけての、アジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向を示した。
9月15日に2,100万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、9月22日には2,100万バレル台半ば程度の量へと増加した。しかし、9月29日には1,800万バレル台後半程度の量へと減少した。ただ、10月6日には2,000万バレル台後半程度、10月13日には2,100万バレル台半ば程度の量へと、それぞれ回復した。それでも、当該在庫は前年同期を下回る状態となっている。欧州等で軽油需給引き締まり感が強まりつつあることもあり、アジア諸国での製油所での軽油製造利幅が拡大しつつあることにより、製油所では軽油製造に注力する反面、重油の製造が劣後していることが、9月下旬のシンガポールでの重油在庫減少をもたらしたと見られるものの、一方で9月下旬以降原油価格が継続的に上昇したことにより、併せて重油価格も上昇し続けたことから、市場関係者が重油を購入する時期につき様子見となったと思われることが、10月上旬以降のシンガポールでの重油在庫増加に反映されているものと考えられる。他方、欧州やアジア等において、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期を控え、天然ガス価格が高騰していることにより、発電部門向け代替燃料としての重油の需要が増加するとの見方が市場で発生していることが、アジア市場における重油価格に上方圧力を加える格好となっているものの、9月下旬から10月中旬にかけ、原油とともに重油価格が上昇傾向となったことにより市場関係者が重油購入に対し様子見となったことが当該製品価格を抑制する格好となったことから、例えば高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は9月下旬から10月中旬にかけ総じて拡大する傾向を示した。
3. 2021年9月下旬から10月中旬にかけての原油市場等の状況
2021年9月下旬から10月中旬にかけての原油市場では、8月下旬のハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾沖合通過に伴う当該地域での原油生産停止が部分的にではあるが長期化する可能性がある旨9月21日に明らかになったことに加え、9月21~22日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)開催後米国金融当局による金融緩和縮小が長期に渡り緩やかに実施されるとの観測が市場で発生したこと、欧州等での天然ガス価格高騰や中国での豪雨による炭鉱の操業停止等に伴う石炭価格の上昇により、代替燃料として石油の需要が上振れするとの懸念が市場で強まったこと、中国大手国営エネルギー企業に対し冬場の燃料を確保するよう同国副首相が強く指示した旨9月30日に伝えられたこと、OPECプラス産油国が10月4日に開催した閣僚級会合で、11月の原油生産につき従来の方針通り前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を決定したことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、10月8日に発表された米国非農業部門雇用者数の前月比での増加数が市場の事前予想を下回ったこともあり、米ドルが下落したこと、そして、10月11日に米国製薬大手メルクが同社製新型コロナウイルス感染症治療薬の治験結果が良好であることから米国当局に対し緊急使用許可を申請したことにより、当該感染の収束と世界経済及び石油需要の回復への期待が市場で広がったこと等が、原油相場に上方圧力を加えたことから、9月16日には1バレル当たり72.61ドルの終値であった原油価格(WTI)は上昇傾向となり、10月15日には1バレル当たり82.28ドルと、終値としては2014年10月21日以来の高水準に到達した(図17参照)。
9月20日は、経営不振に陥っている中国不動産開発大手中国恒大集団の社債利払い日を9月23日に控え、中国経済等への影響に対する不安感が市場で増大したことにより米国株式相場が下落したことに加え、中国恒大集団を巡る経営不安に対する懸念から投資家のリスク許容度が縮小するとともに安全資産である米ドルの購入が進んだことにより米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.68ドル下落し、終値は70.29ドルとなった。9月21日は、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、米国メキシコ湾沖合でマーズ(Mars)、アーサ(Ursa)(原油生産量合計日量25万バレル)及びオリンパス(Olympus)(同10万バレル)各油田等で生産された原油を陸上に輸送するパイプラインの中継基地であるWD(West Delta)-143プラットフォームがハリケーン「アイダ」の通過に伴い発生した損傷の修理のため2021年第四四半期~2022年第一四半期頃まで操業を停止する旨9月20日に操業者のシェルが明らかにしたことにより、当該油田からの原油生産停止の長期化による石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだこと、9月22日にEIAから発表される予定である米国石油統計(9月17日の週分)で原油在庫が前週比で減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.56ドルと前日終値比で0.27ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2021年10月渡し原油先物契約は取引を終了したが、11月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり70.49ドル(前日終値比0.35ドルの上昇)であった)。9月22日は、この日EIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が前週比348万バレルの減少と市場の事前予想(244万バレル程度の減少)を上回って減少し、4.14億バレルと2018年10月5日(この時は4.10億バレル)以来の低水準に到達した旨判明したことに加え、中国恒大集団の中国本土不動産部門である恒大地産集団が9月23日に人民元建社債の利払いを実施する旨発表したと9月22日午前(現地時間)に伝えられたことにより、同グループの経営不安に対する懸念が市場で後退したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.67ドル上昇し、終値は72.23ドルとなった。9月23日も、中国金融当局が中国恒大集団に対し足元での債務不履行を回避するようにとの指示を発出した旨9月23日に報じられたことにより、中国恒大集団の無秩序な破綻と中国経済混乱に対する懸念が市場で後退したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに、投資家のリスク許容度が回復したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は73.30ドルと前日終値比で1.07ドル上昇した。また、9月21~22日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、パウエル米国連邦準備制度理事会(FRB)議長が、11月2~3日に開催する予定である次回FOMCにおいて金融緩和縮小開始を決定する可能性があるものの、金利の引き上げについては別途検討する方針である旨示唆したことにより、米国金融当局による金融緩和縮小が長期間にわたり緩やかに実施されるとの事前想定の範囲内であったとして、緩和的な金融政策継続への期待が市場で維持された流れを引き継いだこともあり、9月24日の一部米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.68ドル上昇し、終値は73.98ドルと、7月13日(この時は同75.25ドル)以来の高水準に到達した他、この日のブレント原油価格の終値は1バレル当たり78.09ドル(前日終値比同0.84ドル上昇)と2018年10月22日(この時は同79.83ドル)以来の高水準に到達した。また、原油価格(WTI)は9月21~24日の4日間で1バレル当たり合計3.69ドルの上昇となった。
9月27日には、米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが、自行が当初見込んでいたよりも世界石油需要が旺盛である一方、世界石油供給が低迷していることにより、供給不足が自行の予想を上回っている他、冬場に向け天然ガス需給が世界的に引き締まる影響で、発電部門向け石油需要が上振れするとして、2021年末のブレント原油価格予想をこれまでから1バレル当たり10ドル引き上げ同90ドル(WTIも同様に1バレル当たり10ドル引き上げ2021年末時点で同87ドル)とした旨9月26日夜(米国東部時間)に伝えられたことにより、この先の石油需給引き締まり感と原油価格の先高感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.45ドルと前週末終値比で1.47ドル上昇した。ただ、9月28日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.16ドル下落し、終値は75.29ドルとなった。9月29日も、この日EIAから発表された米国石油統計(9月24日の週分)で原油在庫が前週比で458万バレル、留出油在庫が同38万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同170万バレル程度、留出油在庫同140万バレル程度の、それぞれ減少)に反し増加している旨判明したことに加え、中国恒大集団(9月23日に続き9月29日に実施されるはずであった同社の米ドル建社債の利払いがなされなかった可能性がある旨9月29日朝(米国東部時間)に報じられていた)の経営不安が中国等の経済に及ぼす影響に対する懸念が市場で発生していることもあり、安全通貨としての米ドルの購入が進んだ結果、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.83ドルと前日終値比で0.46ドル下落した。この結果原油価格は9月28~29日の2日間で1バレル当たり合計0.62ドルの下落となった。それでも、9月30日には、中国の大手国有エネルギー企業に対し2021~22年の冬場の停電を回避すべく燃料を確保するよう同国の韓正副首相が強く指示した旨9月30日にブルームバーグ通信が伝えたことにより、同国企業による原油購入が進むとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.03ドルと前日終値比で0.20ドル上昇した。10月1日も、中国の大手国有エネルギー企業に対し燃料を確保するよう同国の韓正副首相が強く指示した旨9月30日に伝えられたことにより、同国企業による原油購入が進むとの観測が市場で発生した流れを引き継いだことに加え、経口型新型コロナ感染症治療薬「モルヌピラビル」の投与により同感染症による入院及び死亡リスクが半減したとの中間治験結果が得られたことにより、速やかに同治療薬の緊急使用許可を米国当局に申請する意向である旨、10月1日に米国製薬大手メルクが発表したことにより、治療薬の投与普及に伴い新型コロナウイルス感染が収束に向かうとともに米国等の経済回復が加速するとの観測が市場で広がったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.85ドル上昇し、終値は75.88ドルとなった。この結果原油価格は9月30日~10月1日の2日間で1バレル当たり合計1.05ドル上昇した。
10月4日は、この日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において、従来方針通り11月についても前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨決定したことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識した(天然ガス価格高騰に伴う燃料転換から石油需要が上振れする結果、OPECプラス産油国が減産措置縮小を加速しなければ、当初見込みよりも石油需給が引き締まると市場では見られていた)ことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.74ドル上昇し、終値は77.62ドルとなった。また、10月5日も、10月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において従来方針通りの減産措置縮小が決定されたことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.93ドルと前日終値比で1.31ドル上昇した。この結果原油価格は10月4~5日の2日間で1バレル当たり合計3.05ドルの上昇となった。ただ、10月6日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、ロシアがウクライナ経由を含め欧州に対し天然ガス供給を増加させつつある旨10月6日に同国のプーチン大統領が発言したことにより、欧州天然ガス価格が下落するとともに、天然ガスから石油への燃料転換が促進されるとの観測が市場で後退したこと、10月6日にEIAから発表された米国石油統計(10月1日の週分)で、原油在庫が前週比で235万バレル、ガソリン在庫が同326万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同42万バレル程度の減少~同100万バレル程度の増加)、ガソリン在庫同28万バレル程度の減少~同40万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり77.43ドルと前日終値比で1.50ドル下落した。しかしながら、10月7日には、ロシアが欧州に対し天然ガス供給を増加させつつある旨10月6日に同国のプーチン大統領が発言したことに対しロシア天然ガス追加供給規模を巡る不透明感に伴う懸念が市場で発生したことに加え、米国政府が戦略石油備蓄(SPR)放出を検討中である旨同国エネルギー省のグランホルム長官が発言したと10月6日午後(米国東部時間)に報じられたものの、同省は現時点ではSPR放出は計画していない旨10月7日に明らかにしたと同日伝えられた(但し、エネルギー省関係筋は当該報道は正確ではない旨10月7日に示唆している)ことにより、SPR放出による石油需給緩和期待が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.87ドル上昇し、終値は78.30ドルとなった。10月8日も、この日米国労働省から発表された9月の同国非農業部門雇用者数が前月比で19.4万人の増加と9月の同36.6万人の増加から増加ペースが鈍化、2020年12月(この時は同30.6万人の減少)以来の低水準となった他、市場の事前予想(同50万人の増加)を相当程度下回ったこともあり、米ドルが一時下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり79.35ドルと前日終値比で1.05ドル上昇した。また、この日の終値は、2014年10月31日(この時は同80.54ドル)以来の高水準なものとなった他、この日午前中(米国東部時間)には、原油価格は1バレル当たり80.11ドルの高値に到達し、2014年11月3日の取引日(この時の高値は同80.98ドル)以来の1バレル当たり80ドル超での取引も見られた。
10月11日には、中国石炭生産の中心地(同国石炭生産全体の30%を占めるとされる)である山西省で、10月8日の週に発生した豪雨に伴う洪水により同省にある炭鉱682ヶ所のうち60ヶ所の操業が停止した旨10月11日に伝えられたことにより、同国での石炭需給引き締まりとともに同国による国外石炭調達が活発化することに伴い、既に引き締まりつつある欧州等での天然ガスの燃料代替としての石油の需要がより上振れするとの観測が市場で増大したことに加え、米国製薬大手メルクが新型コロナウイルス感染経口治療薬「メルヌピラビル」の緊急使用許可を米国食品医薬局(FDA)に申請した旨10月11日に発表したことにより、新型コロナウイルス感染収束と世界経済及び石油需要の回復に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.17ドル上昇し、終値は80.52ドルとなった。10月12日も、中国山西省に加え同国陝西省の2ヶ所の炭鉱も豪雨の被害を受けた旨10月12日に報じられたことにより、同国でのさらなる石炭需給引き締まりとともに同国による国外石炭調達が一層活発化することに伴い、既に引き締まりつつある欧州等での天然ガスの燃料代替としての石油の需要がより上振れするとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.64ドルと前日終値比で0.12ドル上昇した。この結果原油価格は10月11~12日の2日間で1バレル当たり合計1.29ドルの上昇となった。ただ、10月13日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、10月14日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月8日の週分)で、原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、10月13日に中国税関総署から発表された9月の同国原油輸入量が4,105万トン(推定日量1,002万バレル)と8月の4,453万トン(同1,051万バレル)から減少した他、前年同月(4,848万トン、推定日量1,183万バレルを15.3%下回ったことにより、中国石油需要の鈍化に対する懸念が市場で増大したこと、10月13日にOPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートで、OPECが2021年の世界石油需要を日量14万バレル下方修正したことにより、世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.44ドルと前日終値比で0.20ドル下落した。しかしながら、10月14日には、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで、欧州及びアジア等において、天然ガスから石油への燃料転換が発生することにより、石油需要が日量50万バレル上振れすると見込まれる他、既にその兆候が見られつつある旨示唆されたうえ、2021年及び2022年の世界石油需要が日量17万バレル、及び同21万バレル、それぞれ上方修正されたことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、原油価格の乱高下防止のためにOPECプラス産油国は十分な努力を行っている旨サウジアラビアのアブドラアジズ エネルギー相が示唆したと10月14日に伝えられたことで、この先のOPECプラス産油国による減産措置縮小加速に対する期待が後退したこと、10月14日にEIAから発表された米国石油統計で米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で197万バレル減少の同3,355万バレルと、2018年10月26日(この時は同3,188万バレル)以来の低水準に到達したことにより、米国原油先物契約受渡地点での石油需給引き締まり感が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.87ドル上昇し、終値は81.31ドルとなった。10月15日も、10月14日にIEAから発表されたオイル・マーケット・レポートにおいて、天然ガスからの燃料転換が発生することにより石油需要が上振れすると見込まれる等示唆されたうえ、2021年及び2022年の世界石油需要が上方修正されたことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、新型コロナウイルスワクチン接種完了を条件として、米国外の個人の米国への渡航禁止措置を11月8日を以て解除する旨10月15日に米国政府が発表したことにより、今後の米国経済のさらなる活性化と国際航空便の往来の活発化を通じ、ジェット燃料等の石油需要が増加するとの期待が市場で増大したこと、10月15日朝(米国東部時間)に発表された米国大手金融機関ゴールドマン・サックスの2021年7~9月期業績が市場の事前予想を上回ったうえ、同日米国商務省から発表された9月の同国小売売上高が前月比で0.7%の増加と市場の事前予想(同0.2%減少)に反し増加している旨判明したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに、投資家のリスク許容度が拡大したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり82.28ドルと前日終値比で0.97ドル上昇、2014年10月21日(この時は同82.81ドル)以来の高水準の終値であった他、この日原油価格は一時1バレル当たり82.49ドルと、2014年10月29日の取引日(この時の高値は同82.88ドル)以来の高値に到達する場面も見られた。また、原油価格は10月14~15日の2日間で1バレル当たり合計1.84ドルの上昇となった。
4. 原油市場における主な注目点等
地政学的リスク要因面での主な注目点はまず、イランを含む中東情勢であろう。9月20~24日には、オーストリアのウイーンにある国際原子力機関(IAEA)本部で、IAEA年次総会が開催されたが、その場において、イランが核合意に定められている核開発活動制限を履行するのであれば、米国はトランプ大統領(当時)時代に離脱した核合意に復帰する用意がある旨同国が表明した。また、同日イランは、まず米国が対イラン制裁を解除すべきだと主張する一方、核合意正常化のため協議には参加する意向である旨明らかにした。そして、9月21日にはイラン外務省が、6月20日以降事実上中断状態となっているイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議につき今後数週間以内に再開する見込みである旨明らかにしたと同日伝えられる。他方、9月21日にイランのライシ大統領は国連総会において演説し、米国の対イラン制裁を全面的に解除するよう要求する旨示唆した。ただ、9月23日には米国のブリンケン国務長官が、イランの核合意逸脱が進めばイラン核合意を正常化させる意義が低減する可能性があるとして、当該核合意に向けた協議を無期限に続ける訳ではない旨事実上の警告を行った。
9月26日には、IAEAが、イランが同国西部のカラジ(Karaj)にある遠心分離機部品製造工場での査察用監視カメラ映像記録媒体交換のためのIAEA関係者の立ち入りを認めないと主張するなど、9月12日に締結した合意内容(イラン核関連施設での映像記録を継続するための、破損した監視カメラ及び映像記録媒体の交換)から逸脱していると批判した。9月27日には米国政府もIAEAの当該施設立ち入りをイランが認めなければ、数日中に然るべき措置を実施することを検討する旨表明した。これに対し、9月27日にイランのガリババディ(Gharibabadi)在ウイーン国際機関代表部大使は当該施設へのIAEAの立ち入りはイランとIAEAとの合意の範囲外である旨反論している(なお、その後本件については新たな展開は聞かれない)。
他方、イランが核合意正常化のための協議に復帰する意向である旨同国外務省のハティーブザーデ(Khatibzadeh)報道官が明らかにしたと9月30日に伝えられる他、欧州連合(EU)のボレル(Borrell)外交安全保障上級代表も容認できる期間内にイランが当該協議に復帰する方向である旨9月30日に説明した。10月2日にはイランのアブドラヒアン(Abdollahian)外相が、イラン核合意正常化への真剣な姿勢を示すべく、まずは現在凍結中であるイランの100億ドルの対外資産の凍結解除を米国が実施すべきである旨明らかにした。10月6日には、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議を間もなく再開する意向である旨10月6日にイランのアブドラヒアン外相が表明している(但しこの時点では具体的な日程には触れずじまいであった)。しかしながら、10月13日に、米国のブリンケン国務長官は、イラン核合意正常化を価値のあるものとするための時間がなくなりつつあり、イランに核合意正常化に向けた意志が見られないのであれば、米国は対イラン制裁措置強化を含め他の選択肢を検討する用意がある旨明らかにした。これに対し、10月14日にイラン外務省のバゲリ(Bagheri)次官はEUのモラ(Mora)主席調整官と会談の際、核合意正常化に向けた協議再開をイランが真剣に検討している旨伝えたものの、現時点では準備が不十分であるため、イランは本格的に核合意正常化協議を再開する前に、今後数週間以内にEU関係者との間で事実上の事前協議を実施する意向である旨、10月15日にモラ氏が明らかにしている。
また、ベネズエラはイランのコンデンセートとベネズエラの重質原油を交換するための基本契約(期間は6ヶ月間とされるが延長もありうる)で合意したと9月25日に伝えられる(9月25日の週に最初の出荷が行われる予定であるとされた)。この合意は米国の対イラン及び対ベネズエラ制裁(米国以外の諸国等の両国との取引を禁ずる条項)を逸脱する可能性があると米国財務省は認識しており、同国財務省はイランとベネズエラの合意を懸念している旨明らかにしたと9月25日に報じられる。加えて、米国政府はイラン産原油を購入しているとされる中国に対し当該原油購入を削減するよう外交手段を用いて中国に要請していると9月28日に報じられる。
このように、6月20日以降事実上中断状態となっているイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議については、イラン側は近いうちに再開する意向を示している他、米国もイランが核合意を遵守するのであれば当該核合意に復帰する用意がある旨明らかにしており、この面では直ちに米国とイランとの対立がさらに高まるこおとにより、既存のイラン核合意が破綻するとともに中東情勢が不安定化、当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大するといった事態はとりあえず回避される格好となっている。しかしながら、米国側は、イラン核合意正常化に向けた協議の時間はなくなりつつある旨警告するなど、この先必ずしもイランと米国との対立が高まらない状態が継続するとも言い切れない状態にある。反米強硬派であるイランのライシ政権は米国の対イラン制裁全面解除の原則を主張し続ける可能性がある他、米国もイランの弾道ミサイル開発やイランの周辺諸国等への事実上の介入を抑止しようと試みると見られることにより、協議が再開したとしても、少なくとある程度の期間は議論が平行線を辿る結果、米国の対イラン制裁解除とイランからの原油供給の大幅増加までには相当程度の期間を要するとの観測が市場で根強く続くことにより、市場での石油需給緩和感の醸成に伴う原油相場への下方圧力の増大と言った展開には、短期的にはなりにくいものと考えられる。むしろイランによるさらなる核合意逸脱行為やペルシャ湾沖合でのタンカー攻撃(但し実際には犯行主体は特定されにくいものと見られる)等により、イランと西側諸国等との対立が高まるとの懸念が市場で発生したり、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)が、同勢力と対立し事実上の内戦状態となっている、ハディ暫定大統領派勢力を支援する有志連合軍を主導するサウジアラビアに対しミサイル等を発射したりすることにより、中東情勢不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で高まるとともに、原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性も否定し切れないものと見られる。
リビアでは12月10日に実施される予定である大統領選挙において、東部トブルクを拠点とする代表議会(または暫定議会 HoR: House of Representative)を支援するリビア国民軍(LNA: Libya National Army)(エジプトや UAE 等が支援)の指導者であるハフタル将軍が大統領に立候補する動きが示唆されると9月22日に伝えられる。代表議会及びLNAは西部トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National Accord)(国連及びトルコ等が支援)と対立してきており、これにより、これまでリビアが事実上の内戦状態になるとともに同国の原油生産が著しく減少する場面が見られたことから、今後ハフタル氏が実際に大統領選挙に立候補するようであれば、再び国民合意政府派勢力と代表議会派勢力との間での対立が高まるとともに、同国情勢の不安定化を通じ、同国の原油生産及び原油相場に影響が及ばないとも限らないものと考えられる。
経済面では、世界各国及び地域における新型コロナウイルス感染状況と個人の外出規制及び経済活動制限、そして新型コロナウイルスワクチン接種普及を巡る動向等が世界経済とともに原油相場に影響を及ぼすものと考えられる。ただ、世界規模で見ると、現時点では、新型コロナウイルス感染第三波は収束しつつあるように見受けられる。また、経口型新型コロナ感染症治療薬「モルヌピラビル」の投与により同感染症による入院及び死亡リスクが半減したとの中間治験結果が得られたことに伴い、速やかに緊急使用許可を米国食品医薬局(FDA)に対し申請する意向である旨、10月1日に製造元の米国製薬大手メルクが発表、10月11日には実際に申請を行うなど、新型コロナウイルス感染症治療薬開発も進展しつつある。このため、市場では、新型コロナウイルスワクチン及び当該ウイルス感染治療薬の普及により、新型コロナウイルス感染の世界的流行が沈静化に向かうとともに、個人の往来、経済活動及び石油需要の回復に対する市場の期待が増大しやすい状況となっており、この面では原油相場に上方圧力が加わりやすいものと考えられる。
また、9月21~22日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、早ければ次回FOMC(11月2~3日開催予定)にも金融緩和の縮小開始を決定する可能性がある旨パウエルFRB議長が表明した。ただ、同時に金利の引き上げについては金融緩和縮小とは切り離して考える旨明らかにしており、このような決定については、市場では従来のFRBの金融政策にほぼ沿ったものであるとの理解されたことにより、この面での原油市場での反応は限定的であった。しかしながら、10月8日に発表された9月の米国非農業部門雇用者数の前月比での増加は19.4万人と2020年12月(この時は同30.6万人の減少)以来の低水準の伸びとなった他、市場の事前予想(同50.0万人の増加)を大きく割り込んだものの、同時に8月の当該雇用者数が9月3日の当該指標発表時の同23.5万人の増加から同36.6万人の増加へと上方修正されている旨判明したことから、市場関係者は米国雇用統計に関し必ずしも悪い印象を持っていない他、10月13日に発表された9月の米国消費者物価(CPI)が前年同月比で5.4%、及び前月比で0.4%の、それぞれ上昇と、8月のCPIの前年同月比5.3%、及び前月比0.3%の、それぞれ上昇から上昇率が加速した他、市場の事前予想(前年同月比5.3%、前月比0.3%の、それぞれ上昇)を上回っており、再びインフレが加速する兆候が見られるなどしている。現時点では、米国金融当局関係者間では、物価上昇の持続性と金利の引き上げ時期等に関しては、見解が分かれているようであるが、今後も雇用統計が大幅に悪化しない一方で物価上昇が継続するようであれば、これまで見込んでいるよりも速やかに金利の引き上げが実施されるとの見方が市場で高まりやすい状況となるものと見られる。このようなことから、次回FOMCでの決定事項、及びその前後の米国金融当局者の発言等によっては、米国金融当局による金利引き上げ期待が市場で高まることにより、米ドルが上昇するとともに、原油相場の上昇を抑制する形で作用する可能性がある。
また、経営が不安視されている中国不動産開発大手中国恒大集団が、9月23日に予定していた米ドル建社債の利払いにつき、少なくとも一部米ドル社債保有者に対し利払いを実施しなかった旨9月23日に判明した。その後も、9月29日及び10月11日の利払い予定日においても、少なくとも一部米ドル建社債保有者に対し利払いがなされなかった旨判明している。当該社債については30日間の猶予期間に入っているが、今後猶予期間終了日に向けた同社を巡る動向が中国経済及び同国石油需要、そして米国をはじめとする世界経済、そして石油需要へと影響を及ぼす可能性があるので注意する必要があろう。さらに、9月24日には中国人民銀行が仮想通貨の国内外での全取引を違法とする旨発表した。このため、仮想通貨取引が不活発化するとともに、それが今後世界株式市場、そして原油を含む商品市場に波及する結果、原油相場に影響を及ぼすといった場面が見られることもありうる。
また10月中旬以降主要米国主要企業の2021年7~9月期等の業績(及び今後の業績見通し)が発表され始めており、これまでのところ米国大手金融機関を中心として業績が市場の事前予想を上回っていることにより、米国株式相場が上昇するとともに、同国経済及び石油需要に対する楽観的な見方が広がることを通じ、原油相場に上方圧力を加えているように見受けられるが、今後も、米国主要企業の業績内容が株式相場とともに原油相場に影響を及ぼす可能性があるものと考えられる。
米国では、冬場の暖房シーズン(11月1日~翌年3月31日)に伴う暖房用石油製品需要期到来を控え(なお、欧州では既に10月1日に暖房シーズンに突入しているとされる)、製油所が秋場のメンテナンス作業等を終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理が進み始めるとともに、原油の購入を活発化させる。このため季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まりやすいと考えられる。従って、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなる。そして、ここで市場が注目するのは、足元の気温状況及び冬場の気温予報であろう。10月14日には米国海洋大気庁(NOAA)が、足元でラニーニャ現象(日付変更線付近から南米沿岸にかけての太平洋赤道域での海面の水温が平年より低くなる現象)が発生しており、2021年11月~2022年2月は87%の確率でそれが継続する旨発表している。ラニーニャ現象は、2020年9月時点でも発生しているとされたが、同現象が発生すると、北半球の冬場に気温が平年を下回るなど厳冬に、南米は渇水に、それぞれなりやすいとされる。このため、北半球では気温の低下に伴い暖房向けの石油需要が拡大しやすいものと考えられる。
加えて、気温の低下により暖房及び発電向け天然ガス需要が上振れする他、南米では渇水になることにより水力発電向けの水資源が減少することにより代替電源としての天然ガス火力発電の稼働が上昇することにより、やはり天然ガス需要が増加する結果、天然ガス価格に上方圧力が加わる可能性がある。
既に、欧州では、2020~21年の冬場の気温が平年を大幅に下回る場面が見られた他、低温の時期が長引いた結果、暖房用天然ガス需要が旺盛であったこと、2021年はノルウェーのガス田メンテナンス作業等が大規模に実施された(新型コロナウイルス感染拡大抑制のため2020年の当該メンテナンス作業実施が軒並み見送られた反動で、2021年の当該メンテナンス作業が大規模になったと言われている)ことにより同国からの天然ガス供給が抑制されたこと、同じく2020~21年の冬場に気温の大幅な低下を経験した北東アジア諸国で液化天然ガス(LNG)の前倒し調達が活発化したことにより、その分だけ欧州へのLNG流入が減少したこと、ロシアから欧州への天然ガスの供給が低調であったこと(ロシアからドイツへ天然ガスを輸送する予定であるノルド・ストリーム2パイプラインの操業開始承認を速やかに完了するようドイツ等欧州諸国に圧力を加える目的があると指摘する向きがあるが、そもそもロシアも2020~21年が厳冬であったことや2021年の夏が猛暑であったことにより同国での暖房及び発電向け天然ガス需要が旺盛であった影響で、2021~22年の冬場に向けた自国内天然ガス在庫積み上げに苦慮していることが背景にあると見る向きもある)、欧州当局者による、より厳しい地球環境規制導入の動きにより、炭素排出権(枠)価格が史上最高水準(9月27日に二酸化炭素1トン当たり推定75.21ドル)にまで上昇したこと等の要因により、2021年の欧州天然ガス価格、及びLNG取引で欧州と競合するアジアのLNG価格が、通常下落するはずの春場及び秋場の天然ガス不需要期においても十分に下落せず、むしろ10月5日にはオランダTTF天然ガス先物価格が100万Btu当たり推定39.436ドルの史上最高水準に到達するなど、欧州天然ガスが高騰するのみならず、10月6日には北東アジアJKMスポット価格が100万Btu当たり56.325ドルと、史上最高水準に到達する場面が見られている。
また、石炭価格も高騰しており(中国の炭鉱での事故等の発生に伴う安全検査強化により同国における炭鉱の操業に支障が発生したこと、新型コロナウイルス感染源調査を巡る豪州と中国の対立の高まりに伴う中国の豪州産石炭輸入削減と他の産炭国からの石炭調達活動活発化により世界的に石炭輸送面での混乱が発生したこと、中国やインドネシアでの豪雨に伴う洪水により炭鉱操業が停止したこと、新型コロナウイルス感染の世界的流行により石炭生産のための労働力供給が円滑に行われなかったこと、そして中国政府による地球環境問題対策推進もあり石炭生産が抑制された他、世界的な脱炭素の流れの中で中国国外でも石炭開発投資等が低調であったこと等が背景にあるとされる)、少なくとも短期的には天然ガスに代わる燃料としての石炭の調達促進にも限界があるものと見られる。
このようなことから、価格が高騰する天然ガス(及び石炭)の代替燃料として重油、軽油、灯油及び液化石油ガス(LPG)といった石油製品の需要が増加するとの観測が市場で増大しつつあり、このような観測が原油相場に上方圧力を加える格好となっている。既にパキスタン、バングラデシュ等は、価格が高騰した天然ガスの調達を見送る一方、発電部門における代替燃料として重油を含む石油製品の購入に動く兆候が見られると伝えられる。OPECプラス産油国は、天然ガス価格高騰による天然ガスから石油製品への燃料転換に伴う石油需要の上振れ規模を日量37万バレル程度(2021年第四四半期~2022年第一四半期)と見込んでいる旨9月25日に伝えられる一方、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコのナセル(Nasser)最高経営責任者(CEO)は天然ガス価格高騰の影響で石油需要が日量50万バレル増加するとの見解を10月4日に発表しており、また、IEAも2021~22年の冬場に日量50万バレル石油需要が増加する旨10月14日に明らかにしている。また、それ以外にも石油市場関係者は天然ガスから石油製品への燃料転換規模を概ね日量50~200万バレル程度と見込んでいる旨伝えられる。今後も、このような天然ガスから石油製品への燃料転換への観測により、石油製品価格とともに原油価格が上昇しやすいものと見られる他、その後は実際の燃料転換進捗の情報を通じ原油相場に影響を与えるものと考えられる。また、秋場の後半及び冬場の前半で、厳冬予想が発表されたり、実際に気温が低下したりするようであれば、市場関係者間で長く厳しい冬の到来と暖房用天然ガス及び石油製品需要増加観測及び需給引き締まり懸念が拡大、それが原油相場に上方圧力を加えることに繋がりやすい。その意味では、米国(特に暖房用石油製品消費の中心地である北東部)をはじめとする世界各地域での気温予報や実際の気温の状況に注意する必要があろう。
他方、大西洋圏において1年間で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期(8月後半~10月前半)は過ぎつつあることから、ハリケーン等の暴風雨が米国メキシコ湾沖合の石油生産関連施設や陸上の製油所等の施設に影響を及ぼすこと等に伴う石油供給途絶懸念は市場では低下していくと見られる。それでも11月末まで大西洋圏の暴風雨シーズンは続く。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設の操業に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設での原油及び石油製品の受入及び積出作業、そして製油所での原油精製処理活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が遮断されることを通じ操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2019年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した(2020年は米国等の石油市場が新型コロナウイルス感染拡大により影響を受けたこともあり2019年の数値を用いることとする、以下同様))。5月20日発表のNOAA国立ハリケーンセンター及び8月5日時点のコロラド州立大学の見通しによると、2021年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が見込まれている(表3参照)。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合ではそれなりの量の原油が生産されている(2019年は当該地域で日量188万バレルの原油を生産しており、これは同年の米国の原油生産量全体の約15%を占める)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2019年の当該地域の原油精製処理能力は日量866万バレルと米国全体の約47%を占める)こともあり、今後のハリケーン等暴風雨の実際の発生状況や進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に及ぶ場面が見られることもありうる。
また、原油価格が上昇しつつある中で、10月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては減産措置の縮小加速が見送られたことから、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことによりガソリン小売価格高騰への懸念が低下した米国やOPECプラス産油国は、石油需給の引き締まり感の強まりや原油価格の上昇にもかかわらず、減産措置の縮小加速を通じた石油需給緩和への対応が後手に回る、との印象を市場に与える格好となっており、この面でも市場の石油需給引き締まり感を根強くするとともに、原油価格を下支えするものと考えられる。
ただ、原油価格がさらに上昇するようであれば、米国ガソリン小売価格(夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したにもかかわらず、全米平均ガソリン小売価格は10月11日時点で1ガロン当たり3.360ドルと2021年初来最高水準に到達している)及び暖房用石油製品価格を含め再び米国の物価上昇が加速することにより、物価上昇率と雇用状態を主な判断材料としている米国金融当局の金融緩和策の再調整が必要となるなど、同国経済の回復過程が複雑化する恐れがあることから、そのような兆候が見られるようであれば、再び米国政府からサウジアラビアを含むOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速への働きかけが行われる可能性もある。10月14日には米国国務省のプライス報道官が、原油等のエネルギー価格上昇を懸念しているところであり、定期的に、そして足元でも外交手段を利用してOPEC産油国に接触しているところである旨明らかにしていることもあり、例えば、11月4日に開催される予定である次回OPECプラス産油国閣僚級会合等では減産措置縮小方針の再検討が行われる可能性もある。ただ、10月14日にはサウジアラビアのアブドラアジズ エネルギー相が、OPECプラス産油国は原油価格の乱高下防止のために十分な努力を行っており、原油価格の上昇は天然ガスや石炭の価格上昇に比べれば相対的に軽微である旨主張、減産措置縮小の漸進的かつ段階的な実施を希望する旨表明している。そして、新型コロナウイルス感染第四波の到来による世界経済及び石油需要への負の影響、及び2022年の世界石油需給緩和観測による原油価格下振れ懸念を背景として、OPECプラス産油国の対応が後手に回る結果、11月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合においても、既定方針通り前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を決定するにとどまるといった展開となることも否定できない。そしてその場合、減産措置縮小加速による世界石油需給引き締まりの軽減に対しOPECプラス産油国は消極的な姿勢を示しているとの認識が市場でさらに強まるとともに、原油価格が上振れする可能性もある。
また、新型コロナウイルスワクチン接種及び治療薬の投与普及促進による世界各国及び地域における個人の外出規制及び経済活動制限の緩和に伴う経済及び石油需要の回復による原油価格の先高感が市場で根強いように見受けられる中、天然ガス代替向けを含め暖房(及び発電)用石油需要が上振れするとの見方が市場で広がりつつあること、そのような中で、OPECプラス産油国が減産措置縮小加速に対し慎重な姿勢を見せつつあることにより、世界石油需給引き締まり観測もあり、米国大手金融機関は2021年末にかけての原油価格見通しを上方修正するなどしている(ゴールドマン・サックスが2021年末時点の原油価格(WTI)をそれまでの見通しから1バレル当たり10ドル引き上げ87ドルとする旨9月26日に伝えられた他、バンク・オブ・アメリカは2021~22年の冬場の原油価格が1バレル当たり100ドルに到達するかもれない旨10月1日に明らかにしている)ことから、少なくとも2021年末に向けた原油価格の先高感をもとにして石油市場関係者の心理も強含んでいる。そしてこのような状況下では、短期的には原油価格下落要因が発生することにより当該価格が下落しようとしても、かえって原油を安価で購入する良い機会であるとの投資家等の判断から原油購入が進む結果、原油価格の下落が小幅にとどまる一方、原油価格上昇要因が発生した場合には、投資資金等の流入が加速することにより、原油価格の上昇が増幅するといったように、原油価格の上下変動具合が非対称となる可能性がある。
全体としては、この先冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることに加え、天然ガス価格等の高騰に伴う代替燃料としての石油需要の上振れと相対的な石油需給引き締まり感の市場での増大が原油相場に上方圧力を加えるものと見られる。そしてそのような中で、米国等での冬場の気温予報及び足元の気温、11月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合における議論内容、米国金融緩和策を巡る同国金融当局の方針、不動産開発部門を含む中国経済に関する動向、米国メキシコ湾地域へのハリケーン等暴風雨来襲状況等が原油価格に影響していくものと考えられる。
以上
(この報告は2021年10月18日時点のものです)