ページ番号1009152 更新日 令和4年6月22日
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概要
ブラジル国家石油庁は、2021年10月7日に4堆積盆地の92鉱区を対象に第17次ライセンスラウンドを実施した。結果は、Santos盆地南部の5鉱区しか落札されないという低調なものであった。5鉱区のうち、4鉱区をShellが単独で、1鉱区をShellとEcopetrolのコンソーシアムが落札した。石油会社が第17次ライセンスラウンドに関心を示さなかった背景には、プレソルトエリア外のリスクが高いフロンティア鉱区や大水深の鉱区が対象とされたこと、12月にプレソルトの鉱区を対象とした入札が実施されること、環境許可の取得が難しい鉱区が含まれていたこと、ブラジルの経済・政治状況や将来の世界的な石油・ガス需要が不確実であること、石油会社はすでにブラジルの探鉱鉱区を十分に確保していること等が挙げられている。
(ANP website、Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas他)
ブラジル国家石油庁(ANP)は、2021年10月7日に4堆積盆地、11セクターの92鉱区を対象に第17次ライセンスラウンドを実施した。Santos盆地南部の5鉱区に1件ずつ札が入り、うち4鉱区をShellが単独で、1鉱区をShellとEcopetrolのコンソーシアムが落札した。サインボーナスは合計で3,714万レアル(676万ドル)となり、最小探鉱計画(Minimum Exploration Program: PEM)に基づいて1億3,634.5万レアル(2,482万ドル)の投資が行われる。ANPは2022年3月31日までに契約を締結するとしている。
盆地 | セクター | 鉱区 | 落札企業・コンソーシアム(権益比率) | サインボーナス |
---|---|---|---|---|
Santos | SS-AP4 | S-M-1707 | Shell*(100%) | 9,100,000.13レアル |
S-M-1709 | Shell*(70%)、Ecopetrol(30%) | 6,560,000レアル | ||
SS-AUP4 | S-M-1715 | Shell*(100%) | 6,880,000.13レアル | |
S-M-1717 | Shell*(100%) | 7,300,000.13レアル | ||
S-M-1719 | Shell*(100%) | 7,300,000.13レアル |
https://www.gov.br/anp/pt-br/canais_atendimento/imprensa/noticias-comunicados/anp2019s-17th-bidding-round-will-generate-investments-of-r-136-millionを基に作成
今回の入札では、Chevron、TotalEnergies、Shell、Petrobras、3R Petroleum(伯)、Murphy Oil(米)、Karoon Energy(豪)、Ecopetrol(コロンビア)、Wintershall(独)の9社がANPより入札参加資格を取得していた。第14次ライセンスラウンドでは36社、第15次ライセンスラウンドでは21社、第16次ライセンスラウンドでは17社が入札参加資格を取得したのに比べ少なく、入札前から今回の入札への石油会社の関心の低さが指摘されていた。
この中から、実際に札を入れたのはShellとEcopetrolの2社のみであった。
他のメジャーや国際石油会社(International Oil Company: IOC)が入札に参加しなかった中、むしろ、Shellが5鉱区も落札したことについて、驚きを示す向きもある。
しかし、2016年にBGグループを買収して以来、ブラジル沖合はShellの戦略上の重要な拠点となっており、Shellは意欲的にブラジルでの探鉱・開発を進めている。2021年8月のShellのブラジルの生産量は石油換算、日量466,107バレル(うち石油が日量369,508バレル)で、ShellはブラジルではPetrobrasに次いで生産量の多い企業となっている。Shellの生産量のほとんどはプレソルトのTupi油田、Sapinhoa油田、Mero油田で生産されている。Shellはまた、試掘段階にある多くの鉱区でオペレーターを務めており、ブラジルは今後も同社のポートフォリオの中核となると見られている。今回Shellが取得した鉱区はプレソルトで油・ガス田発見を狙える鉱区ではないものの、ブラジルの生産量の7割を占めるSantos盆地に同社が魅力を感じたのは納得がいくと見る向きもある。
Shellはまた、ブラジルで太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギープロジェクトや、プレソルトで生産される天然ガスや輸入LNGを利用した発電等電力事業にも注力している。同社は2021年9月に、2025年までにブラジルの電力事業に30億レアル(5億6,000万ドル)の投資を計画していることを明らかにした。2021年7月にはブラジルの鉄鋼メーカーGerdauとミナスジェライス州にソーラーパークを建設する契約を締結した。そして、風力発電はグリーン水素の製造への入口となる可能性があるとし、ブラジルでの洋上風力発電にも注目している。さらに、リオデジャネイロ州マカエでは、同社が現在進めている最大の天然ガス火力発電プロジェクト、Marlim Azul発電所の建設を進めている。2023年1月に同発電所が操業を開始すれば、プレソルトで生産されるガスを利用する計画だ。加えて、ブラジル国内のLNGターミナルへの投資にも関心を持っているという。
このように、Shellにとってブラジルは探鉱・開発はもちろん再生可能エネルギー戦略等においても重要な国となっている。
これまでのライセンスラウンドで多くの鉱区を取得し、ブラジルの探鉱・開発を牽引してきたPetrobrasが札を入れなかったことも耳目を集めた。Petrobrasは、プレソルトでの探鉱・開発に注力するという戦略を取っており、それ以外の鉱区については売却を進めていることから、プレソルトで油田の発見が狙える鉱区が取得できない今回の入札に対する関心は薄かったのではないだろうか。また、12月に実施されるTransfer of Rights(TOR)払い下げPS入札ラウンド[1]において、リスクが低く多くの生産が期待できるSépia鉱区、Atapu鉱区を獲得することを計画しており、そのため、今回の第17次ライセンスラウンドには札を入れなかったと見る向きもある。
過去数年間、ブラジルのライセンスラウンドの常連であったExxonMobilやCNPC、CNOOCといった中国企業が今回の入札に参加しなかったのも、同様に、TOR払い下げPS入札ラウンド等でプレソルトにおいて油田発見が期待できる鉱区の取得を目指しているからではないかとされている。
例えば、2021年9月末にCNOOCがPetrobrasよりBúzios鉱区の権益の5%を20.8億ドルで取得することが明らかになった。Búzios鉱区は、2019年11月に実施されたTOR払い下げPS入札ラウンドで、Petrobras(90%)/CNOOC(5%)/CNODC(5%)のコンソーシアムが落札した鉱区だ。CNOOCは今回、この際締結した契約のオプションを行使して、権益を取得することとなった。一方、CNODCはBúzios鉱区の権益を追加取得するオプションを行使しないとした。2021年8月のBúzios鉱区の生産量は石油が日量535,193バレル、ガスが日量2,130万立方メートルとなっている。Petrobrasは2025年までにさらに4基のプラットフォームを導入し、2030年までに同鉱区の生産量を日量200万バレルまで引き上げる計画だ。CNOOCは、第17次ライセンスラウンドで新たに鉱区を取得し、探鉱を行うよりも、Búzios鉱区の権益を追加取得する方が、経済合理性があると判断したと考えられる。CNOOCが追加取得した権益5%はTOR払い下げPS入札ラウンドに基づいて結ばれた契約の権益であり、Búzios鉱区全体の権益保有比率は、2010年にPetrobrasに付与された権益を勘案して、Petrobrasが88.99%、CNOOCが7.64%、CNODCが3.67%となる。なお、CNOOCとCNOODCは2021年6月に、Petrobrasがこれまでに行った開発の費用の一部として29億4,000万ドルを支払うことに合意している。
[1]ブラジル連邦政府は2010年に、Transfer of Rights(TOR)エリア(6油田)のプレソルトから50億バレル相当の原油・天然ガスを生産する権利をPetrobrasに付与した。その後の探鉱で同エリアのプレソルトの確認埋蔵量が石油換算50億バレルを上回ることが明らかになったことから、政府は50億バレルを上回る量を生産する権利を入札(TOR払い下げPS入札ラウンド)で付与している。
ライセンスラウンド | 年月 | 落札鉱区数 | 入札企業数 | サインボーナス |
---|---|---|---|---|
第1次 | 1999/6 | 12 | 14 | 181 |
第2次 | 2000/6 | 21 | 27 | 260 |
第3次 | 2001/6 | 34 | 26 | 243 |
第4次 | 2002/6 | 21 | 17 | 34 |
第5次 | 2003/8 | 101 | 6 | 9 |
第6次 | 2004/8 | 154 | 21 | 221 |
第7次 | 2005/10 | 251 | 32 | 472 |
第9次 | 2007/11 | 117 | 42 | 1,200 |
第10次 | 2008/12 | 54 | 23 | 38 |
第11次 | 2013/5 | 142 | 39 | 1,408 |
第12次 | 2013/11 | 72 | 12 | 71 |
第13次 | 2015/10 | 37 | 17 | 31 |
第14次 | 2017/9 | 37 | 20 | 1,200 |
第15次 | 2018/3 | 22 | 13 | 2,424 |
第16次 | 2019/10 | 12 | 11 | 2,200 |
第17次 | 2021/10 | 5 | 2 | 6.76 |
出所:ANP website他を基に作成
(注)2006年11月に実施された第8次ライセンスラウンドは、入札件数を制限する規則を導入したところ、Petrobrasのエンジニアで組織する労働組合AEPET等が自由競争やPetrobras、政府の利益を害すると反対して裁判所に提訴、裁判所の裁定で開始後に中止された。また、サインボーナスは各時点の為替レートで換算した。
今回、Campos盆地、Pelotas盆地、Potiguar盆地の鉱区には札が入らなかった。今回の入札対象鉱区はフロンティアおよび大水深の鉱区が多く、これまでの入札で公開された鉱区に比べ地質リスクが高いとされている。さらに、Pelotas盆地、Potiguar盆地での探鉱・開発については、海洋公園やクジラの移動ルートに近接していることから環境保護団体が強く反対しており、環境面で掘削等の許可を取得できない可能性があるとされていた。また、今回の入札で公開されたCampos盆地の鉱区は同盆地の北部に位置しており、天然ガス生産のポテンシャルは高いものの、同盆地の南部に比べると有望性は低いと見られている。プレソルトエリアに隣接する鉱区もあったが、陸地から離れており、周辺に探鉱・開発中の鉱区もなく、資機材の輸送コスト等を考慮した結果、入札が行われなかった可能性がある。
第17次ライセンスラウンドが低調だった要因については、他に、ブラジルの経済・政治状況や将来の世界的な石油・ガス需要が不確実なこと、Petrobrasも主要なIOCも過去の入札ですでに十分な探鉱鉱区を確保していること等が挙げられている。
ANPのRodolfo Henrique de Saboia長官は、今回の入札は地質学的にリスクの高い新規エリアに焦点を当てた入札であったことを強調した。そして、石油会社は新型コロナ感染拡大の状況が最も深刻な2020年に2021年の予算を決めており、もともと全ての鉱区が落札されるという期待はなかったと語った。さらに、Shellがフロンティアで取得した鉱区はSantos盆地のポストソルトでの探鉱・開発を強化し、将来の入札に向けて新たな可能性を開く見込みがあり、その意味で大きな勝利であるとし、過去最低の結果となった今回の入札を成功であったと評価した。また、今回、落札されなかった鉱区についてはOpen Acreage方式の入札[2]にかけられるとした。
第17次ライセンスラウンドの低調な入札結果を受けて、政府が、今後の入札プロセスを簡素化したり、PS契約を廃止しコンセッション契約に一本化したりする可能性があるのではないかと見る向きもある。また、今回の結果から、プレソルト以外の鉱区を取得しようとする企業はそれほど多くないとの見方がなされており、12月17日に実施されるSantos盆地プレソルトのSépia鉱区およびAtapu鉱区を対象とする第2次TOR払い下げPS入札ラウンドの結果が注目される。
[2]成熟油田や過去の入札で落札されなかった鉱区、返還された鉱区を対象に、企業の要請に基づいて実施される入札。Open Acreage方式の入札はこれまでに2回、2019年と2020年に実施された。3回目の同方式による入札は2022年に実施される予定。
以上
(この報告は2021年10月15日時点のものです)