ページ番号1009182 更新日 令和3年11月15日
原油市場他:OPECプラス産油国による従来方針通りの減産措置縮小への支持の表明等の上昇要因と米国消費者物価指数の上昇加速等の下落要因に挟まれ、総じて範囲内で変動する原油価格
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概要
- 米国においては、製油所でのメンテナンス作業実施等で石油製品生産活動が鈍化したと見られることもあり、ガソリン及び留出油在庫は減少傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限付近、留出油在庫は平年幅下方付近に、それぞれ位置する量となっている。原油については、製油所での原油精製処理活動が減速した一方、米国の原油輸入が活発化したこともあり、在庫は増加傾向となったうえ、平年幅上限を超過する状態を継続している。
- 2021年10月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、日本では製油所でのメンテナンス作業実施に併せ原油購入を手控える動きが発生したと見られることもあり、在庫は減少した。しかしながら、米国では当該在庫は増加した他、欧州においては、燃料等に使用される天然ガス価格が高騰したことが精製利幅を圧迫する格好となった結果、一部製油所で原油精製処理活動が不活発になったと見られること等により、原油在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。他方、欧州では、ガソリンや軽油が中心となり石油製品全体の在庫水準は上昇した。しかしながら、米国ではガソリン及び留出油在庫が減少したことが一因となり石油製品全体の在庫は減少、日本においても、アジア市場等で軽油需給が引き締まるとの観測が市場で発生したこともあり国外への輸出が活発化したことが一因となり軽油在庫が減少したこと等により、同国の石油製品全体の在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年並みの量となっている。
- 2021年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場では、11月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に向け複数のOPECプラス産油国が従来の方針である前月比日量40万バレルの減産措置の縮小を支持している旨表明等したこと、及びサウジアラビアが12月の自国産原油販売価格を引き上げた旨11月5日に伝えられたこと等が原油相場に上方圧力を加えた。ただ、米国消費者物価指数(CPI)の伸びが拡大している旨判明したこと等が原油相場に下方圧力を加えた。この結果、原油価格(WTI)は1バレル当たり79~85ドルを中心とする範囲で変動するとともに、この期間明確な上昇及び下落傾向は創出されなかった。
- 米国等で冬場の暖房シーズンに伴う石油需要期に突入したことにより、今後も製油所での原油精製処理量が増加し原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されるとともに、原油相場が支持される可能性がある。そのような中、12月2日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合における2022年1月以降の減産措置縮小の取り扱いを巡るOPECプラス産油国及び米国等の動きが原油相場に影響を与えることになろう。また、米国北東部を中心とする地域の気温及び気温予報、欧州等での天然ガス等暖房用及び発電用燃料価格の推移、米国物価上昇率等の経済指標類と同国金融政策を巡る状況、イランと西側諸国等との間での核合意正常化に向けた協議の動向を含む地政学的リスク要因などでも原油相場が変動することがありうる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が従来の方針に基づき2021年11月についても前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨決定
(1) 協議内容等
2021年11月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はビデオ会議形式で閣僚級会合を開催、7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定した、8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(11月時点で日量416万バレル)につき、12月についても従来方針通り前月比で日量40万バレル規模を縮小して実施する旨確認した(表1参照)。
また、当該会合で、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を12月2日に開催することを決定した。さらに、減産目標を完全に遵守することに固執すること、及びこれまで減産目標を遵守できていない減産措置参加産油国が減産目標遵守未達成部分を追加して減産することにより2021年12月末までに完全遵守を達成することに固執することが、極めて重要である旨改めて示唆された。そして、減産目標を顕著に超過している産油国は減産目標超過を解消するための追加減産計画をOPEC事務局に提出するよう改めて要請された。
閣僚級会合開催後、ロシアのノバク副首相は、石油需要は回復しつつあるものの、10月に欧州の石油需要が減少する兆候が認められるなど、石油需要が依然新型コロナウイルス感染からの圧力に晒されていること、そして、2021年第四四半期から2022年第一四半期にかけては季節的に石油需要が落ち込むと見られることが、今次閣僚級会合での結果の背景にある旨示唆した。
また、同じく閣僚級会合開催後、サウジアラビアのアブドラアジズ エネルギー相も、2021年12月には石油在庫は積み上がり始めると予想される旨説明するとともに、11月3日時点の欧州等の天然ガス、LNG及び石炭価格が3月初頭比で109~454%程度上昇しているのに対し、原油価格(ブレント)は同時期28%の上昇にとどまったことから、足元のエネルギー危機は天然ガス、LNG及び石炭によるところが大きく、原油価格上昇はそれほど影響を及ぼしていない、つまりOPECプラス産油国はエネルギー危機に対して非難を受けるに当たらない旨示唆した。
これに対し、11月4日に米国バイデン政権は、世界経済回復を損なわないようにするための重大局面においてOPECプラス産油国は保有する能力を使用する意志がないように見受けられ、バイデン政権はエネルギー市場危機脱出のために様々な方策を利用することを検討する(後述)として、今次OPECプラス産油国閣僚級会合の結果を事実上批判する旨伝えられた。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2021年10月4日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、7月18日の当該閣僚級会合において決定した方針に則り、前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を決定した。この時点では、原油価格は上昇しつつあった(9月1日のOPECプラス閣僚級会合開催直前の8月31日に1バレル当たり68.50ドルの終値であった原油価格(WTI)は10月4日開催の当該会合開催直前の10月1日には同75.88ドルの終値となった)が、米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が9月6日を以て終了、季節的にはガソリン不需要期に突入したこともあり、全米平均ガソリン小売価格は9月27日時点で1ガロン当たり3.271ドルと、5月10日以降同3ドル超の水準を継続してはいたものの、価格は前週(同3.280ドル)から若干下落していた(図1参照)こともあり、この面ではガソリン価格高騰による米国国民のバイデン政権への不満は高まりにくい状況となっていた。また、9月14日に発表された8月の米国消費者物価指数(CPI)上昇率も前年同月比で5.3%と、7月及び6月の同5.4%の上昇からは頭打ち気味となっていた他、前月比では0.3%の上昇と7月の同0.5%及び6月の同0.9%の、それぞれ上昇から伸びが鈍化しつつあったこともあり、同国金融当局に対する金利引き上げ圧力も相対的に強まりにくい状況であった。
このようなこともあり、10月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催を控え、OPECプラス産油国が11月の減産措置につき従来方針通り前月比で日量40万バレル縮小することに対し、米国は満足している旨サウジアラビアに伝えたと10月4日に報じられるなど、米国はサウジアラビア等OPECプラス産油国に対し原油価格抑制に向け行動するようにとの強い働きかけを必ずしも行わなかったものと見受けられた。
加えて、この先新型コロナウイルス感染第四波の到来(世界全体の新型コロナウイルス感染は、2021年1月頃がピークの第一波、4月頃がピークの第二波、8月頃がピークの第三波を経験のうえ、10月中旬頃にかけ感染者数が減少傾向を示したものの、その後新型コロナウイルス感染が再び拡大する兆候を示している)により世界経済及び石油需要が影響を受ける結果、原油価格が下振れする可能性があることをOPECプラス産油国は懸念している旨、10月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前にOPECプラス産油国関係筋が明らかにしたと伝えられていた。さらに、このまま毎月前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を継続した場合、2022年は世界石油供給が需要を上回るという、いわば「供給過剰」の状態となる結果、石油在庫が積み上がることが予想された。
このような中で、OPECプラス産油国が減産措置の縮小(つまり増産)を加速させれば、世界石油需給の緩和感が拡大することにより、これまでのOPECプラス産油国の減産措置縮小加速に対する慎重な姿勢維持による世界石油需給引き締まり観測から原油を購入し続けていた市場関係者の心理が変化することを通じ、原油が売却され始めるとともに、原油価格が急落する恐れがあった。このようなことを懸念したOPECプラス産油国は10月4日に開催された閣僚級会合で従来方針通りの減産措置の縮小を決定、増産加速を見送ることとなった。
しかしながら、8月下旬に米国メキシコ湾沖合をハリケーン「アイダ」が通過したことに伴い当該地域の油田での原油生産が長期間停止した(図2参照)ことに加え、欧州及びアジアでの天然ガス価格や石炭価格等の高騰(後述)により、冬場に向け代替燃料として石油製品需要が上振れするとの観測が市場で増大したこともあり、前回のOPECプラス閣僚級会合直前の10月1日に1バレル当たり75.88ドルの終値であった原油価格は今次会合直前の11月3日には同80.86ドルの終値となるなど、一層上昇した他、10月26日には同84.65ドルの終値と、2014年10月13日(この時は同85.74ドル)以来の高水準に到達する場面も見られた(図3参照)。
それとともに、5~9月は1ガロン当たり概ね3.0~3.3ドル程度の範囲で推移していた全米平均ガソリン小売価格が、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したにもかかわらず、10月以降は上昇傾向となり、11月1日時点で同3.484ドルに到達するなど、ガソリン小売価格高騰に伴う米国消費者の同国バイデン政権に対する不満が高まる恐れが生じ始めた。また、10月13日に発表された9月の米国CPI上昇率も前年同月比で5.4%と、8月の同5.3%の上昇から伸びが加速しつつあることが示された他、前月比でも0.4%の上昇と8月の同0.3%の上昇から伸び率が拡大したこともあり、同国金融当局に対する金利引き上げ圧力が強まりやすい状態となった。
このように米国ガソリン小売価格と消費者物価の上昇の兆候が見られたこともあり、米国バイデン政権はOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速への働きかけを行っている旨しばしば明らかになった。例えば、米国バイデン政権幹部がOPECプラス産油国に対し原油価格上昇による懸念を伝えたと10月11日に報じられたことに加え、10月18日には、米国バイデン政権のサキ大統領報道官が、供給問題解決のため、OPEC産油国への働きかけを継続している旨明らかにした他、10月22日にも、OPEC産油国に対し価格水準に関しての懸念を幅広く伝えていることであり、これは継続して実施していく旨サキ報道官が改めて明らかにしている(10月26日の記者会見の際にもサキ報道官は同趣の発言をしている)。
しかしながら、新型コロナウイルス感染は抑制されているものの収束しているわけではなく(世界の新型コロナウイルス感染者数は10月中旬頃までは減少傾向となっていたが、以降増加に転じる兆候が見られる)、依然石油需要に影響を与える可能性があるとして、産油国は原油価格が上昇したからと言って安心するべきではない旨10月23日にサウジアラビアのアブドラアジズ エネルギー相が示唆した他、2022年は世界石油在庫が大幅に増加する可能性がある(表2参照)、として、同日アブドラアジズ氏は石油市場に対する警戒を正当化した。
これに対し、アゼルバイジャンのエネルギー相であるシャフバゾフ(Shahbazov)氏は、新型コロナウイルス感染拡大時からの世界経済の緩やかな回復を考慮すれば、OPECプラス産油国の既存の政策は適切であると発言、OPECプラス産油国による減産措置縮小方針は石油市場のさらなる安定をもたらすことから、当該方針を今後数ヶ月間実施することを支持する旨10月22日に明らかにした。ナイジェリアも、新型コロナウイルス感染収束までは増産加速を踏みとどまるべきであるとするサウジアラビアの姿勢を支持するとともに毎月日量40万バレルの減産措置縮小を維持すべきである旨10月24日に同国のシルバ(Sylva)石油資源相が表明した。さらに、イラクのアブドルジャバル(Abdul Jabbar)石油相も、日量40万バレルの減産措置縮小で十分であるとの見解を示したと10月30日に報じられた他、アンゴラのアゼベド(Azevedo)鉱物資源・石油相も、7月18日に合意したOPECプラス産油国による減産措置縮小方針は十分機能しており変更すべきでない旨明らかにしたと10月31日に伝えられたうえ、クウェートのファーリス(Faris)石油相も、世界石油需給を均衡させるためにはOPECプラス産油国による毎月前月比日量40万バレルの減産措置縮小で十分であり、その方針を支持する旨11月1日に表明した。そして、カザフスタンもOPECプラス産油国による漸進的な原油生産増加(つまり毎月前月比で日量40万バレルの減産措置縮小)を支持する旨の同国エネルギー省が11月2日に明らかにした。
加えて、11月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合では前月比で最大日量40万バレル原油産出量を引き上げる(つまりこれは概ね従来方針通りの減産措置の縮小となる)ものと予想すると、ロシアのノバク副首相が10月25日に明らかにするなど、11月4日開催予定の当該会合に向け、12月についても従来の方針通り前月比日量40万バレル減産措置を縮小する方針につき、OPECプラス産油国間で合意形成がなされつつあることが示唆された。11月2日にはロシア大統領府のペスコフ報道官も、OPECプラス産油国は原油生産増加を急ぐべきではない旨明らかにした。
原油価格が大幅に上昇した場合、米国のシェールオイル開発・生産に関する採算が改善することにより、同国での原油生産が大幅に拡大することを通じ、原油価格が乱高下するとして、以前ロシアは原油価格の大幅上昇を招くような原油生産調整に難色を示したこともあったが、米国のシェールオイル開発・生産企業は生産拡大よりも収益拡大を優先すべきであるとの株主等からの圧力により、シェールオイルの生産の回復が緩やかに進展している(図4参照)こともあり、足元で米国のシェールオイル生産は原油価格の乱高下をもたらすような波乱要因とは認識されにくくなっていることもあり、ロシアもOPECプラス産油国による漸進的な減産措置の縮小を支持するようになったものと考えられる。
他方、10月21日夜(米国東部時間)には、米国のバイデン大統領が、同国ガソリン小売価格の高騰はOPEC産油国及び他の産油国による供給制限によるものであると発言、10月31日にもバイデン大統領は、ロシア、サウジアラビア及び他の大産油国が増産しないという考え方は良くないと考える旨明らかにした他、11月2日にも、原油及び天然ガス価格の大幅上昇はOPEC産油国が原油生産拡大を拒否していることによるものである旨、OPECプラス産油国の減産措置を巡る方針を批判した。また、米国はOPECプラス産油国に対し、12月の原油生産増加規模を従来方針の前月比日量40万バレルから同60~80万バレルに拡大するよう求めていると11月4日に伝えられるなど、米国のOPECプラス産油国に対する増産加速に向けた働きかけが行われていることが示唆された。
しかしながら、このような米国の意向にもかかわらず、新型コロナウイルス第四波到来による世界経済及び石油需要の下振れと石油需給緩和、原油価格下落懸念に加え、そもそもこのまま減産措置縮小を継続すれば2022年は世界石油供給過剰になると予想されるとのサウジアラビアの認識等に対し、複数のOPECプラス産油国も事実上賛同する格好となり、結果として、米国等からの事実上の増産加速への働きかけにもかかわらず、OPECプラス産油国は12月についても従来方針通り前月比日量40万バレルの減産措置の縮小を決定したものと考えられる。
(3) OPECプラス産油国閣僚級会合開催当日の原油価格の動き等
今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で従来方針通り12月につき前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を決定したことについては、当該会合開催前にサウジアラビア等からしばしば示唆されていた内容と事実上一致していたこともあり、当該会合の結果を受け利益確定が市場で発生したこと等により、11月4日の原油価格は前日末終値比で1バレル当たり2.05ドル下落し同78.81ドルの終値となった。
従来方針以上に増産規模を拡大するようにとの米国の要請にもかかわらず、11月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合で、従来方針通り12月につき前月比で日量40万バレルの減産措置を決定したことを受け、11月5日朝(米国東部時間)には、米国エネルギー省のグランホルム長官が、バイデン政権は米国ガソリン小売価格上昇を非常に懸念しており、戦略石油備蓄(SPR: Strategic Petroleum Reserves)の放出を明らかに選択肢として検討している旨発言した。また、同日午後(米国東部時間)に実施された、米国バイデン政権のジャン・ピエール大統領副報道官による記者会見においても、ジャン・ピエール氏は、(バイデン政権は)連日石油市場の状況を非常に緊密に監視及び検討するとともに、可能な選択肢は実施しようとする、もしくは実施していくとしたものの、現時点で発表するものは何もない旨明らかにした。さらに、11月6日には、米国のバイデン大統領がOPECプラス産油国の減産措置を巡る方針維持決定に対し、SPR放出以外に方策がある旨示唆した他、同国エネルギー省のグランホルム長官も、全米平均ガソリン小売価格は12月には1ガロン当たり3.05ドルへと下落するものと見ており、これはSPRを放出する価格水準ではない旨明らかにした。そして、11月7日には、グランホルム長官が、バイデン政権がSPR放出を含むガソリン小売価格引き下げ策を検討する際、11月9日にEIAから発表される予定である短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)の内容を考慮する旨発言した。また、11月8日にも、グランホルム長官は、高騰する米国ガソリン小売価格に対応すべく、週末までにバイデン大統領から何かしら発表があるかもしれない旨示唆した。ただ、11月9日にEIAから発表されたSTEOでは、2022年1月には世界石油供給が需要を上回るとともに、2021年11月に1バレル当たり81.00ドルになると見られる原油価格(WTI)は同年12月に1バレル当たり79.00ドル、2022年12月に同62.00ドル、へとそれぞれ下落する他、2021年11月に1ガロン当たり3.43ドルになると見られる全米平均ガソリン小売価格は、2021年12月に同3.28ドル、2022年第一四半期平均で同3.12ドル、2022年12月に同2.80ドル、へとそれぞれ下落するとの見通しが示された。EIAから発表されたSTEOを受け、11月9日においてはSPR放出に関し発表することは何もない旨米国バイデン政権のジャン・ピエール大統領副報道官が示唆した他、米国バイデン政権はこの先の原油価格等の下落展望を歓迎している旨11月9日午後遅く(米国東部時間)に報じられる。また、11月12日にも、米国バイデン政権のサキ大統領報道官は、バイデン政権は、連邦取引委員会(FTC: Federal Trade Commission)に違法なガソリン価格設定の取り締まりを、OPECのような国外関係国及び関係者に原油供給増加を、それぞれ要請するとともに、様々な選択肢を検討しているものの、現時点では(米国政府のガソリン小売価格沈静化に対する対応策につき)発表することは何もない旨明らかにしている。他方、バイデン政権関係者は、ガソリン小売価格沈静化に向けた検討を行っているものの、SPR放出、もしくは米国原油輸出禁止の実施を主張する関係者と、SPR放出に反対する(2022年は石油供給過剰となると予想されることが一因であるとされる)関係者間で意見が分かれており、結論には至っていない旨11月12日に伝えられる。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2021年8月の米国ガソリン需要(確定値)は日量911万バレル、前年同月比で6.9%程度の増加と2021年7月の同10.1%程度の増加から増加率が縮小した(図5参照)他、速報値(前年同月比で11.5%程度増加の日量950万バレル)から下方修正された。8月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量70万バレル程度と推定されるところ、確定値では同91万バレルへと上方修正されたことにより、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。米国では、新型コロナウイルスワクチン接種普及は進展した(米国で少なくとも1回は当該ワクチンを接種した成人の全成人に占める割合は8月2日に70%に到達し、バイデン政権が掲げた目標を1ヶ月遅れではあったが達成した)ものの、7月31日には29,698人であった1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が8月31日には160,250人に到達するなど、デルタ変異株等による感染拡大に伴い8月は新型コロナウイルス感染者数が相当程度増加したことにより、個人の外出が抑制される格好となった(8月の米国自動車運転距離数は1日当たり88億マイル、前年同月比で8.3%の増加と、7月の同94億マイル、同11.6%の増加から運転距離数及び前年同月比での増加率が縮小している)ことが、8月の同国ガソリン需要の伸び率の低下に影響しているものと考えられる。なお、2021年8月のガソリン需要は2019年8月の水準(日量983万バレル(確定値))に比べ依然7.4%程度の減少となっており、2021年7月のガソリン需要の2019年7月比での減少率(2.3%程度)から減少率が拡大している。他方、2021年10月の同国のガソリン需要(速報値)は日量940万バレル、前年同月比で13.0%程度の増加となっており、9月の当該需要(速報値)である日量918万バレル、前年同月比での7.5%程度の増加から、需要水準及び増加率が拡大している。9月30日には116,209人であった同国の1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が10月31日には18,883人へと大幅に減少したことにより、個人の外出が促進される格好となったこともあり、10月の同国自動車運転距離数も、1日当たり93億マイルと9月の同89億マイルから持ち直しつつあることが、10月のガソリン需要水準及び前年同月比での伸びに影響しているものと考えられる。なお、2021年10月のガソリン需要は2019年10月の水準(日量931万バレル(確定値))を1.1%程度上回っており、速報値による比較ではあるものの、ガソリン需要が前々年同月を上回るのは2020年2月(この時は同2.9%程度の増加)以来のことであった。そしてこのように同国でのガソリン需要が堅調に推移した一方、秋場のメンテナンス作業が実施されたり、停電等が発生したりしたことにより、米国の一部製油所で操業が停止したこともあり、原油精製処理活動がもたついた(図6参照)ことが同国のガソリン生産に影響を与えたと見られることから(ガソリン最終製品の生産は図7参照)、10月上旬から11月上旬にかけての米国ガソリン在庫は減少傾向となり、平年幅上限付近に位置する量となっている(図8参照)。
2021年8月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量389万バレルと前年同月比で5.9%程度の増加となり、7月の同1.2%程度の増加から増加率が拡大したが、速報値である日量409万バレル(同11.5%程度の増加)からは下方修正された(図9参照)。8月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量107万バレル程度と推定されるところ確定値では同126万バレルへと上方修正されたことにより、この分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となっているものと見られる。また、2021年7月の同国鉱工業生産の前年同月比での伸び率(6.9%増加)が6月の鉱工業生産の前年同月比での伸び率(10.2%増加)から低下した以上に、7月の留出油需要の前年同月比での伸びが6月の伸び(前年同月比12.7%)から大幅に縮小したことにより、その反動で8月の留出油需要水準及びその前年同月比での伸びが拡大した側面があるものと考えられる。ただ、物価上昇によるコスト上昇圧力の増大が物流企業等の利益を圧迫しつつあることや、トラック運転手等労働力不足が隘路となりつつあることが、物流活動等、そしてその結果としての留出油需要の抑制の背景にあると示唆する向きもある。なお、2021年8月の米国留出油需要は2019年8月のそれ(日量403万バレル(確定値))を3.5%程度下回っている。他方、2021年10月の留出油需要(速報値)は日量397万バレルと前年同月比で1.5%程度の減少となり、9月の当該需要(速報値)の同7.7%程度の増加から減少に転じている。2021年10月の米国鉱工業生産が前年同月比で推定4.9%の増加と、9月の同4.6%から伸びが加速している他、2021年10月のトラック等の運転距離数も前年同期比で増加していると推定されるところからすると、2021年10月の留出油需要は速報値から確定値に移行する段階で上方修正されるか、もしくは反動で2021年11月の当該需要が前年同月比でそれなりの伸びを示す等する可能性も否定できない。なお、2021年10月の米国留出油需要は2019年10月の当該需要(日量422万バレル(確定値))を6.7%程度下回っている。ただ、米国の一部製油所において、秋場のメンテナンス作業実施に伴い操業が停止したり、その他の要因により操業上の支障が発生したりしたこともあり、製油所での留出油生産が伸び悩み気味となったこと(図10参照)により、留出油需要を賄いきれなかったと見られることから、10月上旬から11月上旬の期間留出油在庫は減少傾向となった他平年幅下方付近に位置する量となっている(図11参照)。
2021年8月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で10.5%程度増加の日量2,051万バレルとなり、同年7月の同1,989万バレル(前年同月比8.2%程度の増加)から需要水準も増加率も拡大した(図12参照)。8月の同国でのジェット燃料需要が前年同月比で55.3%伸びるなど相当程度増加した(米国で新型コロナウイルスワクチン接種普及が進展しつつあったこともあり、2021年8月の同国国内空港の安全検査通過人数が1日平均185万人と前年同月比で約2.7倍となっていることが、ジェット燃料需要増加の一因となっているものと考えられる)ことが同国石油需要の前年同月比での増加に反映されている。また、2021年8月の当該需要は2019年8月の水準(日量2,116万バレル)をなお3.1%程度下回っているものの、2021年7月の前々年同月比での減少率(4.1%程度)からは減少率が縮小している。ただ、留出油需要が速報値から確定値に移行する段階で相当程度下方修正されたこともあり、米国石油需要も速報値(前年同月比で14.7%程度増加の日量2,129万バレル)から下方修正されている。他方、2021年10月の米国石油需要(速報値)は日量2,028万バレルと前年同月比で8.9%程度の増加となったが、9月の当該需要(速報値)の同12.4%程度の増加からは増加率が縮小した。10月の留出油需要が前年同月比で減少したことが影響する格好となっている。このようなこともあり、2021年10月の米国石油需要は、2019年10月の当該需要(日量2,071万バレル(確定値))を1.6%程度下回っている。他方、8月下旬にハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾沖合通過に伴い沖合油田関連施設から従業員が避難したことにより当該施設が操業を停止するとともに、原油生産量が減少した(米国原油生産量はハリケーン来襲前の8月27日の週の日量1,150万バレルから来襲後の9月3日の週には同1,000万バレルとなった)こともあり、米国オクラホマ州クッシングでの原油在庫が減少傾向となるなど、当該地点での石油需給引き締まり感が強まったこともあり、クッシングで受け渡されるWTI原油の価格のブレント原油価格に対する割安感が薄れたことから、かえってその後米国の原油輸入量が持ち直したことに加え、ハリケーン通過後は当該施設に従業員が復帰するとともに操業を再開したことに伴い原油生産が回復した(11月5日の週の同国原油生産量は日量1,150万バレルとハリケーン来襲前の水準にまで回復している)一方、同国製油所での原油精製処理活動がメンテナンス作業実施等の影響でもたつき気味となったことにより、10月上旬から11月上旬にかけての米国原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を上回る状態は続いている(図13参照)。そして、ガソリン在庫が平年幅上限付近、留出油在庫が平年幅下方付近に、それぞれ位置する量となっているものの、原油在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図14及び15参照)。
2021年10月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、日本では製油所でのメンテナンス作業実施に併せ原油購入を手控える動きが発生したと見られることもあり在庫は減少した。しかしながら、米国では増加した他、欧州においては、製油所のメンテナンス作業実施や装置の不具合発生が目立った訳ではなかった一方、燃料等に使用される天然ガス価格が高騰したことが精製利幅を圧迫する格好となった結果、一部製油所で原油精製処理活動が不活発になったと見られること等により、原油在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図16参照)。石油製品については、米国での夏場のドライブシーズン終了に伴うガソリン不需要期に突入していることもあり、米国に向けガソリンを輸出している欧州でガソリン在庫が増加した他、製油所での稼働低下により軽油生産活動が鈍化することを通じ軽油需給の引き締まり観測が発生したことにより、欧州の軽油価格がアジアの当該製品価格に比べ割高になったこともあり、アジア方面から欧州へ軽油が流入したと見られる結果、かえって欧州での軽油在庫は増加した。このようなこともあり欧州での石油製品全体の在庫水準は上昇した。しかしながら、米国ではガソリン及び留出油在庫が減少したことが一因となり石油製品全体の在庫は減少した。また、日本においても、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期到来に向け灯油在庫が積み上がりつつあったものの、アジア市場等で軽油需給が引き締まるとの観測が市場で発生したこともあり国外への輸出が活発化したことが一因となり軽油在庫が減少した他、天然ガス価格高騰により発電部門での代替燃料として重油を確保する動きが見られたとされることもあり重油在庫が減少したことにより、同国の石油製品全体の在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年並みの量となっている(図17参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る量である一方、石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図18参照)。なお、2021年10月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.7日と9月末の推定在庫日数(61.0日)から増加している。
10月13日に1,100万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、10月20日及び27日には1,200万バレル台前半程度の量へと回復したものの、11月3日には1,000万バレル台前半程度、そして、11月10日は900万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少するなど、10月中旬から11月中旬にかけ、シンガポールの軽質留分在庫は減少傾向となった。7月15日には1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が56,757人と史上最高水準に到達したインドネシアでは、11月12日時点の当該感染者数が399人と大幅に減少したことにより、同国での個人の外出規制が緩和されつつあることに伴い往来が活発化するとともにガソリン需要が持ち直しつつあることもあり、シンガポールからインドネシアへのガソリン輸出が10月以降回復及び安定したことから、シンガポールからの軽質留分輸出全体も堅調となった。他方、インドでも1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が5月6日の414,188人から11月12日には11,850人へと大幅に縮小したことに加え、雨季が終了しつつあった(例年雨季中は個人の外出が敬遠される傾向にある)ことより、個人の往来が活発化するとともに国内のガソリン需要が旺盛となった(インドのプリ(Puri)石油・天然ガス相は同国の足元のガソリン需要が新型コロナウイルス感染拡大前の時点を15%程度上回っている旨明らかにしたと10月20日に伝えられる)こともあり、同国からシンガポールへのガソリン輸出が限定的な規模にとどまった。また、2021年第二回の石油製品(ガソリン、軽油、ジェット燃料及び低硫黄重油)輸出枠が8月9日に中国政府により同国石油会社に対し付与されたと8月10日に伝えられたが、当該輸出枠合計が1,050万トンと第一回の輸出枠(約3,450万トン)から相当程度縮小したこともあり、シンガポールの中国からのガソリン輸入は不安定なままであった。このようなシンガポールのガソリン輸出入状況が同国での軽質留分在庫減少に反映されたものと考えられる。そしてこのように、シンガポールでの軽質留分在庫が減少傾向となったことが、アジア市場におけるガソリン価格に上方圧力を加えたことにより、10月中旬から11月上旬にかけてはガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向を示した。しかしながら、11月10日に英国が2040年までにガソリンを燃料とする自動車の新車販売を終了、二酸化炭素を排出しない自動車の販売に切り替えることに24ヶ国が合意した旨発表した他、中国政府が2021年第三回目の石油精製品(ガソリン、軽油及びジェット燃料を指していると見られる)輸出枠157.9万トン分を付与した旨11月11日に伝えられた(また別途低硫黄重油輸出枠100万トン分が付与されたと報じられるが、この輸出枠はガソリン等の石油製品へ転用が可能であるとの指摘もある)こともあり、中国からのガソリン輸出が増加するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場でのガソリン価格に下方圧力を加えたと見られることから、11月中旬初頭以降ガソリンとドバイ原油の価格差は縮小している。
ナフサについては、東南アジア諸国等での新型コロナウイルス感染者数が減少傾向となったことに伴い経済活動が活発化したことに加え、クリスマスシーズン到来を控え贈答品等向けプラスチック製品を含む石油化学製品需要とともにその原料であるナフサ需要が盛り上がりつつあった一方、新型コロナウイルス感染沈静化に伴う個人の外出規制の緩和により往来が活発化したこともあり、ガソリン需要が持ち直したことから、ガソリンに混入するためのナフサ需要が拡大したうえ、石油化学産業向け原料としてナフサと競合することのある液化石油ガス(LPG)価格が、北半球での冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期を控えたLPG需要増加が意識され始めたこともあり、例えばサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが2021年11月に販売するLPG契約価格(CP: Contract Price)をプロパンで1トン当たり870ドルと前月(同800ドル)比で8.8%引き上げるなど、上昇傾向となった(また、2021年2月中旬に米国テキサス州を中心とする地域に寒波が来襲したことに伴う停電等の影響で同国の原油及び天然ガスの生産に支障を来した際、随伴で産出されるLPGの生産まで落ち込むことになった影響が現在まで継続している他、米国のシェールオイル開発・生産会社等の収益拡大優先(生産拡大劣後)の経営方針により同国での原油及び天然ガスの生産とともにLPGの生産がもたつき気味となったことにより、例えば、アジアにLPGを輸出する米国の当該製品在庫は11月5日時点で過去5年平均(いわゆる「平年」と認識される水準)を12.1%下回るなど引き締まり気味となっている他、欧州及びアジア等で天然ガス価格が上昇していることにより、代替燃料としてのLPG需要増加観測が市場で発生していることも、LPG価格上昇の一因となっていると見る向きもある)ことが石油化学部門でのナフサ需要増加観測を市場で発生させるとともに当該製品価格に上方圧力を加えたことあり、10月下旬から11月中旬にかけ、ナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向となった。
10月13日には1,000万バレル台前半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、10月20日には900万バレル台後半程度の水準へと落ち込んだ。10月27日には1,000万バレル台後半程度の量へと回復したものの、11月3日には再び900万バレル台後半程度の水準へと低下した他、11月10日は900万バレル台前半程度の量へとさらに落ち込むなど、当該留分在庫は減少傾向を示した。中国では、10月上旬に来襲した豪雨に伴う洪水発生による炭鉱の操業停止と石炭供給混乱等の影響もあり発電部門向けの軽油需要が旺盛となった他、同国政府から付与された2021年第二回の軽油輸出枠が限定的な規模となったとされることにより、シンガポールの中国からの軽油輸入がほぼ皆無となった他、インドでは1日当たり新型コロナウイルス新規感染規模が縮小したことにより経済活動制限が緩和されつつあるうえ、11月4日のヒンドゥー教の元旦(ディワリ)前の1ヶ月間消費が活発化することにより産業や物流部門等向け軽油需要が堅調になったことに加え、インドでの雨季(モンスーン)(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前の軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天により道路及び建設工事の進捗が減速することなどに伴い物流や製造業等での軽油の利用が抑制されることもあり、この時期同国の軽油需要は鈍化しやすい)が終了しつつあることにより、軽油需要が回復しつつある(また、発電部門での軽油需要が増加しつつあると指摘する向きもあり、天然ガス価格の高騰により発電部門で軽油への燃料転換が発生していることが示唆される)ことから、シンガポールのインドからの軽油輸入が不安定であったこと、欧州での天然ガス価格高騰に伴い天然ガスを燃料等に利用している製油所での石油製品製造に伴う採算性が悪化したことにより、当該地域の製油所の稼働が低下するとともに軽油等の石油製品の生産が不活発になった一方、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期到来を控え天然ガス価格が高騰していることから、欧州で発電部門及び民生部門向けの代替燃料としての軽油の需要が上振れするとの観測が市場で発生したことにより、欧州の軽油価格がアジアの当該製品価格に比べ割高となったこともあり、アジア方面から欧州方面へ軽油が流出しつつある反面、シンガポールへの軽油流入が鈍化したことが、シンガポールでの中間留分在庫減少傾向の背景にあるものと考えられる。そしてシンガポールでの中間留分在庫減少傾向を含め、アジア市場では軽油需給の引き締まり感が意識されつつあるうえ、アジア一部諸国で秋場の製油所メンテナンス作業等が実施されつつあることにより、これら製油所での稼働停止とともに軽油等の供給が減少するとの観測が市場で発生していると見られることが、アジア市場での軽油価格に上方圧力を加える格好となった。しかしながら、9月下旬から10月中旬にかけ、アジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)が拡大傾向を示したこともあり、アジア市場の一部製油所が軽油の生産に傾注したことにより、シンガポールでの中間留分在庫が減少傾向を示しているにもかかわらず、軽油供給は十分になされているとの認識が市場で広がっていると見られることが、かえって軽油価格に下方圧力を加えたこともあり、10月中旬から11月中旬にかけ、アジア市場での軽油とドバイ原油の価格差はむしろ縮小傾向を示した。
10月13日に2,100万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、10月20日及び27日には2,100万バレル台後半程度、11月3日には2,200万バレル台前半程度の量へと、それぞれ増加した。11月10日には2,100万バレル台後半程度の水準へと低下したものの、それでも10月13日の量を若干ではあるが上回っている。シンガポールでは新型コロナウイルス感染者数が8月下旬以降増加傾向となり、10月27日には1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が5,324人の史上最高水準に到達した。このようなこともあり、シンガポールでは貯蔵施設での重油輸出作業が滞っているとされていることが、シンガポールでの重油在庫増加に影響する一因となっている可能性があると示唆する向きもある。他方、中東地域等では気温が低下してくるとともに空調向けの電力供給のための発電部門での高硫黄重油需要が低下していることが、アジア市場での高硫黄重油価格に下方圧力を加える格好となった結果、10月中旬から11月中旬にかけてのアジア市場での高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大する傾向を示した。しかしながら、天然ガス価格高騰の影響で、北東アジア諸国では、冬場の空調(暖房)向け電力供給増加時期を控え、発電部門で天然ガスから低硫黄重油への燃料転換の動きが発生するとともに低硫黄重油需要が増加する可能性がある一方、製油所では、相対的に利幅が高く確保できる軽油等の製造に傾注している反面低硫黄重油製造が劣後していることにより、当該製品供給がもたつくとの観測が市場で発生した結果、低硫黄重油需給の引き締まり感が意識されたこともあり、10月中旬から11月中旬にかけてのアジア市場での低硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した。
3. 2021年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場等の状況
2021年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場では、中国で気温が低下したこと、11月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に向け複数のOPECプラス産油国が従来方針である前月比日量40万バレルの減産措置の縮小を支持している旨表明等したこと、サウジアラビアが自国産原油販売価格を引き上げた旨11月5日に伝えられたこと、米国企業等の市場の事前予想を上回る良好な業績や11月5日に米国連邦議会下院でインフラ整備法案が可決したこと等により米国株式相場が上昇したこと等が原油相場に上方圧力を加えた。ただ、米国原油在庫が増加傾向を示したことや、2021年11月から2022年2月にかけ米国南部及び東部の大部分で平年よりも温暖な気温となりそうである旨の予報が10月21日に発表されたことにより暖房用燃料需要増加観測が市場で後退したこと、10月21日にイランが核合意正常化に向け西側諸国等との交渉を再開する意向である旨10月27日に表明したことにより米国による対イラン制裁緩和とイランからの原油供給拡大観測が市場で増大したこと、11月10日に発表された米国消費者物価指数(CPI)が同国の物価上昇が加速しつつある旨示唆していたこと等が原油相場に下方圧力を加えた。この結果、全体としては、原油価格(WTI)は1バレル当たり79~85ドルを中心とする範囲で変動するとともに、この期間明確な上昇及び下落傾向は創出されなかった。ただ、10月26日には原油価格が1バレル当たり84.65ドルの終値と2014年10月13日(この時は同85.74ドル)以来の高水準の終値に到達する場面も見られた(図19参照)。
10月18日には、この日ロシア最大手ガス会社ガスプロムが11月のポーランド経由欧州向け天然ガスパイプライン追加輸送能力予約につき、提示された輸送能力の35%(日量11億立方フィート)という限定的な規模でしか行わない他、同月のウクライナ経由欧州向けパイプライン追加能力予約を行わない旨判明したことにより、同月のロシアの対欧州天然ガス供給増加による欧州での天然ガス需給緩和期待が市場で後退したこともあり、欧州天然ガス価格が上昇するとともに、相対的に安価な石油への燃料転換が発生するとともに石油需要が増加するとの観測が市場で増加したことに加え、9月のOPECプラス産油国減産遵守率が115%となり、投資不足やメンテナンス作業上の問題に伴いナイジェリアやアンゴラ等一部OPECプラス産油国が減産措置の縮小に苦慮している旨示唆されたことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.16ドル上昇し、終値は82.44ドルとなった。また、概ね10月16日以降中国各地で気温が平年を相当程度下回って冷え込んだことにより同国の暖房用需要が喚起されるとの観測が10月19日の市場で増大したことに加え、10月19日に発表された米国製薬・日用品製造大手ジョンソン・エンド・ジョンソンの2021年7~9月期業績が市場の事前予想を上回ったこともあり米国株式相場が上昇するとともに投資家のリスク許容度が拡大したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり82.96ドルと前日終値比で0.52ドル上昇した。10月20日も、この日米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された同国石油統計(10月15日の週分)で原油在庫が前週比43万バレルの減少と市場の事前予想(同190~200万バレル程度の増加)に反して減少していた他、ガソリン在庫が同537万バレル、留出油在庫が同391万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(ガソリン在庫同95~130万バレル程度、留出油在庫同70~115万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少していたことに加え、10月20日に発表された米国通信大手ベライゾン・コミュニケーションズの2021年7~9月期業績が市場の事前予想を上回ったこともあり米国株式相場が上昇するとともに投資家のリスク許容度が拡大したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.91ドル上昇し、終値は83.87ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2021年11月渡し原油先物契約は取引を終了したが12月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり83.42ドル(前日終値比0.98ドルの上昇)であった)。この結果原油価格は10月18~20日の3日間で1バレル当たり合計1.59ドル上昇した。10月21日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、10月21日に米国海洋大気庁(NOAA)から発表された2021年11月~2022年2月の米国気象予報で同国南部及び東部の大部分では平年よりも温暖な気温となりそうである旨の見解が示されたことで暖房用燃料需要が抑制されるとの観測が市場で発生したこと、新型コロナウイルス感染抑制のため10月28日から11月7日にかけロシアの首都モスクワで都市封鎖措置を実施する旨同市のソビャーニン(Sobyanin)市長が10月21日に発表したことにより新型コロナウイルス感染抑制策実施に伴い同国等の経済成長及び石油需要が下振れするのではないかとの懸念が市場で増大したこと、10月21日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(10月16日の週分)が29.0万件と前週比で0.6万件減少した他市場の事前予想(29.7~30.0万件)を下回ったうえ、同日全米不動産業者協会(NAR)から発表された9月の同国中古住宅販売件数が年率629万戸と8月の同588万戸から増加、2020年1月(この時は同666万戸)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(同609~610万戸)を上回ったこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.37ドル下落し、終値は82.50ドルとなった。しかしながら、10月21日の原油価格の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが10月22日の市場で発生したことに加え、10月21日夜(米国東部時間)に、米国のバイデン大統領が、ガソリン小売価格高騰はOPEC産油国及び他の産油国による供給制限によるものであるとしたものの、それら産油国と協議するかどうかについては定かではない旨示唆したこともあり、米国が積極的にOPECプラス産油国に働きかけることによりOPECプラス産油国が減産措置縮小を加速することを巡る不透明感が市場で増大したこと、10月22日に米国大手石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で443基と前週比2基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は424基と前週から横這い)となっている旨判明したこと、10月22日に発表された米国クレジットカード大手アメリカン・エクスプレスの2021年7~9月期の業績が市場の事前予想を上回っている旨判明したうえ、10月22日に英国経済情報サービス会社IHSマークイットから発表された10月の同国総合購買担当者指数(PMI)(50が好不況の分岐点)が57.3と9月の55.0から上昇したこともあり、米国株式相場が上昇したこと、10月22日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、米国での金融緩和縮小を開始する時期は到来しているものの、金利引き上げを実施するにはまだ早い旨示唆したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり83.76ドルと前日終値比で1.26ドル上昇した。
10月25日には、足元では新型コロナウイルス感染は抑制されているものの、収束しているわけではなく、現在も増加が抑制されているジェット燃料をはじめとした石油需要にこの先影響を与える可能性が依然あることにより、ここで増産を拡大すれば石油需給及び原油価格に対する問題が増大する他、2022年は世界石油在庫が大幅に増加する可能性があるとして、産油国は原油価格が上昇したからといって安心すべきではない旨10月23日にサウジアラビアのアブドラアジズ エネルギー相が示唆したことにより、原油価格上昇にも関わらずOPECプラス産油国が減産措置加速に慎重な姿勢を示しているとの認識が市場で拡大したことに加え、11月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合では最大で日量40万バレルの原油産出量引き上げが決定されると予想される旨ロシアのノバク副首相が10月25日に明らかにしたことにより、OPECプラス産油国が減産措置縮小加速を見送るとの見方が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、原油価格(WTI)が1バレル当たり85ドルに到達したこともあり利益確定の動きが市場で発生したことに加え、イラン核合意正常化を巡るイランと西側諸国等との協議再開に先立つ事前協議を10月27日にイラン側交渉責任者であるイラン外務省のバゲリ(Bagheri)次官とEUのモラ(Mora)主席調整官と間で実施する旨10月25日にバゲリ氏が明らかにしたことにより、この先イラン核合意正常化を巡るイランと西側諸国等との協議が再開することを通じ米国の対イラン制裁が緩和されることに伴いイランからの原油供給が増加する結果世界石油需給が緩和するとの観測が市場で発生したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前週末終値から横這いとなり、終値は1バレル当たり83.76ドルとなった。しかしながら、10月22日の週の米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で284万バレル減少している旨英国石油情報サービス会社ウッド・マッケンジーが明らかにした旨10月25日に伝えられたことで米国原油先物契約受渡地点での石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを10月26日の市場が引き継いだことに加え、10月27日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月22日の週分)で、ガソリン及び留出油在庫が前週比で減少しているとの観測が市場で発生したことから、10月26日の原油価格の終値は1バレル当たり84.65ドルと2014年10月13日(この日の終値は1バレル当り85.74ドル)以来の高水準に到達、前日終値比で0.89ドル上昇した。10月27日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、10月27日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で427万バレルの増加と市場の事前予想(前週比190万バレル程度の増加)を上回って増加していた旨判明したこと、10月27日にイラン外務省のバゲリ次官が、EUのモラ主席調整官との協議後、11月末までにイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議を再開する意向である旨表明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.99ドル下落し終値は82.66ドルとなった。それでも、10月28日には、前日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動き市場で発生したことに加え、10月27日にEIAから発表された米国石油統計でクッシングの原油在庫が前週比390万バレル減少の2,733万バレルと2021年1月15日(この時は同473万バレルの減少)以来の大幅減少となった他2018年10月5日(この時は2,685万バレル)以来の低水準に到達した旨判明したことにより、米国原油先物契約受渡地点での石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだこと、10月28日に発表された米国製薬大手メルク及び同国建機製造大手キャタピラーの2021年7~9月期業績が市場の事前予想を上回っている旨判明したこともあり、米国株式相場が上昇したこと、10月28日に欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が、当初見込みよりも物価上昇の沈静化までには時間を要する旨示唆したことにより、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり82.81ドルと前日終値比で0.15ドル上昇した。10月29日も、10月27日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動き市場で発生した流れを引き継いだことに加え、10月29日に発表された大手国際石油会社エクソン・モービル及びシェブロンの2021年7~9月期業績が市場の事前予想を上回っていた旨判明したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.76ドル上昇し、終値は83.57ドルとなった。この結果原油価格は10月28~29日の2日間で1バレル当たり合計0.91ドル上昇した。
また、11月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合を控え、イラクのアブドルジャバル(Abdul Jabbar)石油相が、12月のOPECプラス産油国の減産措置の規模は前月比で日量40万バレルの縮小にとどめることで十分であるとの見解を示したと10月30日に報じられた他、アンゴラのアゼベド(Azevedo)鉱物資源・石油相も、7月18日に合意したOPECプラス産油国による減産措置縮小方針(2021年8月以降毎月前月比で日量40万バレルの減産措置の規模縮小)は十分機能しており変更すべきでない旨明らかにしたと10月31日に伝えられたうえ、クウェートのファーリス(Faris)石油相も、世界石油需給を均衡させるためのOPECプラス産油国減産措置縮小規模は毎月前月比日量40万バレルで十分であることにより、従来の方針を支持する旨11月1日に表明したことから、11月1日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.48ドル上昇し、終値は84.05ドルとなった。ただ、11月2日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、11月3日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月29日の週分)で原油在庫が前週比で増加している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、11月2~3日に開催される予定である米国連邦公開市場委員会(FOMC)で金融緩和縮小開始が決定されるとの観測により、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり83.91ドルと前日終値比で0.14ドル下落した。また、11月3日も、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生した流れを引き継いだうえ、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比329万バレルの増加と市場の事前予想(同220万バレル程度の増加)を上回って増加している他、留出油在庫が同216万バレルの増加と市場の事前予想(同140万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.05ドル下落し終値は80.86ドルとなった。11月4日も、この日開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、従来方針通り12月についても前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小が決定されたことに対し、市場の事前予想通りの決定であったとして、利益確定の動きが継続したことに加え、11月2日までの1週間でクッシングの原油在庫が104万バレル程度増加しているとウッド・マッケンジーが明らかにした旨11月4日に伝えられたことにより、米国原油先物契約受渡地点での石油需給引き締まり感が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.81ドルと前日終値比で2.05ドル下落した。この結果原油価格は11月2~4日の3日間で1バレル当たり合計5.24ドルの下落となった。ただ、11月5日には、これまでの原油価格下落に対し、値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、サウジアラビアで生産される代表的な原油であるアラブ・ライト原油の12月のアジア向け販売価格がドバイ原油及びオマーン原油のスポット価格の平均に対し1バレル当たり2.70ドルの上乗せと、11月の上乗せ幅から同1.40ドルの引き上げとなった旨11月5日に報じられたことで、サウジアラビアがこの先の世界石油需給引き締まりを確信しているとの観測が市場で発生したこと、11月5日に米国労働省から発表された10月の同国非農業部門雇用者数が前月比で53.1万人の増加と市場の事前予想(同45.0万人の増加)を上回っていた旨判明したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに、投資家のリスク許容度が拡大したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり81.27ドルと前日終値比で2.46ドル上昇した。
サウジアラビアで生産される代表的な原油であるアラブ・ライト原油の12月のアジア向け販売価格が相当程度引き上げられる旨11月5日に報じられたことにより発生した、サウジアラビアがこの先の石油需給引き締まりを確信しているとの市場の観測は、11月8日へと引き継がれた。加えて、11月7日に中国税関総署から発表された10月の同国輸出が前年同月比で27.1%の増加と市場の事前予想(同22.8~24.5%の増加)を上回った。さらに、11月5日夜(米国東部時間)に、米国連邦議会下院が投資総額1兆ドル規模のインフラ整備法案を賛成多数で可決し、バイデン大統領に送付したことにより、当該方策の実施を通じ米国経済が活性化するとの期待が市場で増大したこともあり、11月8日の米国株式相場が上昇するとともに、投資家のリスク許容度が拡大したことにより米ドルが下落した。このような要因から、11月8日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.66ドル上昇し、終値は81.93ドルとなった。11月9日も、この日EIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)で、2022年1月には世界石油供給が需要を上回るとともに、2021年11月に1バレル当たり81.00ドルになると見られるWTI原油価格が同年12月には1バレル当たり79.00ドル、2022年12月には同62.00ドルへと、それぞれ下落することと併せ、2021年11月に1ガロン当たり3.43ドルになると見られる全米平均ガソリン小売価格が2021年12月は同3.28ドル、2022年第一四半期は平均で同3.12ドル、2022年12月には同2.80ドルへと、それぞれ下落するとの見通しが示されたことで、米国のバイデン政権による、戦略石油備蓄(SPR)放出の可能性が低下したとの見方が市場で広がった(米国エネルギー省のグランホルム長官は、バイデン政権の米国ガソリン小売価格引き下げ対策実施判断に際しては、11月9日に発表される予定のSTEOに示される見通しが考慮されると思う旨11月7日に示唆していた)こともあり、かえって石油需給緩和観測が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり84.15ドルと前日終値比で2.22ドル上昇した。この結果原油価格は11月8~9日の2日間で1バレル当たり合計2.88ドルの上昇となった。しかしながら、11月10日には、この日米国労働省から発表された10月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で6.2%の上昇と、9月の同5.4%の上昇から上昇率が拡大、1990年11月(この時は同6.3%の上昇)以来の大幅な上昇率となった他、市場の事前予想(同5.8%~5.9の上昇)を上回ったことにより、米国金融当局による金利引き上げ時期が前倒しされるとの観測が市場で増大したこともあり、米ドルが上昇するとともに米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり81.34ドルと前日終値比で2.81ドル下落した。ただ、11月10日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが11月11日の市場で発生したことに加え、11月11日にOPEC事務局から発表された月刊オイルマーケットレポートで、10月のOPEC産油国の原油生産量が前月比で日量21.7万バレルの増加と、毎月の減産縮小幅(同日量25.3万バレル)に達していない旨明らかになったことにより、OPEC産油国が減産措置の縮小に苦慮している旨示唆されたこと、クッシングの原油在庫が11月5日から9日にかけ3.6万バレル減少している旨ウッド・マッケンジーが明らかにしたと11月11日に伝えられたことにより米国原油先物契約受渡地点での石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.25ドル上昇し、終値は81.59ドルとなった。それでも、11月12日には、米国のバイデン政権が戦略石油備蓄(SPR)放出を含め、同国のガソリン小売価格高騰沈静化に向けた対策につき協議を継続している旨11月12日に伝えられたこともあり、バイデン政権による対策実施に伴う原油価格下落の可能性を市場が意識したことに加え、新型コロナウイルス感染抑制のため、11月13日から3週間に渡り個人の外出規制及び経済活動制限を強化する旨11月12日にオランダ政府が発表した他、ドイツ等の一部欧州諸国で新型コロナウイルス感染者数が過去最高水準に到達した旨11月12日に報じられるなど、当該感染が拡大しつつあるうえ、中国大連市でも新型コロナウイルスの集団感染が確認されたことに伴い個人の外出制限を強化したと11月12日に伝えられたことにより、この先の世界各国及び地域における経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したこと、11月12日にベーカー・ヒューズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で454基と前週比で4基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は437基と前週比で3基増加)となっている旨判明したことにより、この先の米国原油生産増加期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.79ドルと前日終値比で0.80ドル下落した。
4. 原油原油市場における主な注目点等
10月29日に、米国財務省は、イランと親密な組織に対し無人攻撃機等を供与したことを理由として、イラン革命防衛隊無人機部門幹部等計4人及びイランで無人機開発支援を行っている企業2社に対し、米国内資産凍結及び米国人との取引禁止を主な内容とする制裁を発動する旨発表した。また、11月3日には、イラン原子力庁が、イラン核合意では保有が認められていない(核合意で保有が認められているのは濃縮度3.67%以下の濃縮ウラン)、濃縮度20%の濃縮ウランを210キログラム、濃縮度60%の濃縮ウランを25キログラム保有している旨明らかにしたと11月5日に伝えられる。さらに、10月24日にイラン革命防衛隊がベトナム船籍の石油タンカーをオマーン湾で拿捕したと11月4日に報じられたが、11月10日には解放したとされる(11月3日には、米国海軍がオマーン湾でベトナム船籍と見られるタンカーを拿捕しようとしたが、イラン革命防衛隊が阻止した旨イラン報道機関が伝えていた)。
他方、10月27日には、イラン外務省のバゲリ次官と欧州連合(EU)のモラ主席調整官(欧州対外活動庁事務局次長)との間でイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議再開のための事前会合が実施され、会合開催後バゲリ氏は、11月末までに当該協議を再開する意向である旨表明した。また、11月3日にはイラン及びEUが11月29日にオーストリアのウイーンで当該協議を再開する旨発表した。米国国務省のプライス報道官も11月3日に開催された記者会見の場において、イラン核合意正常化に向けた協議が11月29日に再開されるため、マレー特使(イラン担当)が協議開催場所であるオーストリアのウイーンに向かう旨発表した。
しかしながら、再開される当該協議に際し、米国のトランプ前大統領が行ったような、一方的なイラン核合意からの離脱(2018年5月8日発表)を二度と行わないよう保証すること、米国が実施している対イラン制裁によりイランが受けた経済的被害につき米国がイランに対し補償を行うこと、イランのウラン濃縮のための施設を廃棄しないこと等を、イランは米国に対し要求する方針である旨11月8日に伝えられる。他方、米国はイランによる弾道ミサイル開発及び近隣諸国への介入を停止するようイランに対し要求すると見られており、米国とイランの間の意見の相違は容易に解決するものではないものと見られる。また、イランのライシ大統領は自国の要求の実現に関し原則にこだわる可能性がある(当該協議でイランは自国の国益に沿って結果を重要視する旨11月4日にライシ大統領は明らかにしている)こともあり、この先もイラン核合意正常化に向けた協議が紆余曲折を経ることにより、当該核合意正常化が短期的に達成される可能性はそれほど高くはないものと考えられる。このようなことから、2021年前半に見られたような、イラン核合意正常化に伴い米国が対イラン制裁を緩和するとともに同国からの原油供給が拡大する結果、世界石油需給が緩和に向かうとの観測は、現時点の市場では後退している格好となっており、この面で直ちに原油相場に下方圧力を加えると言った展開とはなりにくいものと思われる。むしろ、イランによる高濃度濃縮ウラン製造拡大等さらなる核合意逸脱行為やペルシャ湾沖合でのタンカー等への攻撃(但し実際には犯行主体は特定されにくいものと見られる)等により、イランと西側諸国等との対立が高まるとの懸念が市場で強まったり、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)が、同勢力と対立し事実上の内戦状態となっている、同国のハディ暫定大統領派勢力を支援する有志連合軍を主導するサウジアラビアに対しミサイル等を発射したりすることにより、中東情勢不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大するとともに、原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性も否定できないものと考えられる。
イラクでは、11月7日に、首都バグダッドにあるカディミ首相の自宅に無人攻撃機3機が飛来、2機は撃退したものの1機による攻撃を受けた。カディミ首相は避難し無事であった。同日米国のバイデン大統領は当該攻撃を非難する旨表明した。11月8日には、10月10日に実施された国会議員選挙で事実上敗北した親イラン派勢力政党に近いイスラム教シーア派民兵組織(カタイブ・ヒズボラ)が当該攻撃は実施した可能性がある(但し、当該組織等からの犯行声明は発表されていない)と報じられる(また、イラン政府は当該攻撃実施を事前に認識していたものの、攻撃には関与していないものとされる)。11月9日には米国のブリンケン国務長官が、イラクのサレハ大統領と電話で会談し、その場で、米国はイラクと協力のうえ、当該事件に対応していくことで意見が一致した。このようにイラクにおいても、国会議員選挙結果を巡り、国内情勢が不安定化する兆候が見られるとともに、今後さらなるテロ行為等が発生するようであれば、同国での原油生産活動に支障が発生するとの懸念が市場で増大する結果、原油相場に影響を及ぼすと言った展開となることもありうるため、動向を注視する必要があろう。
リビアでは、10月25日夜に首都トリポリ近郊にあるザウィヤ(Zawiya)製油所(原油精製処理能力日量12万バレル)近辺で小規模な武力衝突が発生した結果、製油所施設に被害が発生している旨10月26日にリビア国営石油会社NOCが発表した。また、同国では12月24日に実施される予定である大統領及び国家議員選挙投票日が接近しつつあるが、東部トブルクを拠点とする代表議会(または暫定議会 HoR: House of Representative)を支援するリビア国民軍(LNA: Libya National Army)(エジプトやUAE等が支援)の指導者であるハフタル将軍が大統領に立候補する動きが示唆されると9月22日に伝えられる。代表議会及びLNAは西部トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National Accord)(国連及びトルコ等が支援)と対立してきており、これにより、これまでリビアが事実上の内戦状態になるとともに同国の原油生産が著しく減少する場面が見られたことから、今後ハフタル氏が実際に大統領選挙に立候補するようであれば、再びGNA勢力とHoR勢力との間での対立が深刻化するとともに、同国情勢が不安定化することを通じ、同国原油生産及び原油相場に影響が及ばないとも限らないものと考えられる。
10月11日には、経口型新型コロナ感染症治療薬「モルヌピラビル」(投与により入院及び死亡のリスクが50%程度低減したとの治験結果が得られた旨10月1日に発表されていた)の緊急使用許可申請を米国食品医薬局(FDA)に対し行った旨製造元の米国製薬大手メルクが発表した(現在はFDAからの承認待ちの状態)他、11月4日には英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)がモルヌピラビルの使用を承認した。また、11月5日には米国製薬大手ファイザーが、自社で開発中の経口型新型コロナ感染症治療薬「パクスロビド」が新型コロナウイルス感染による入院及び死亡率を89%低減した旨発表、11月25日のサンクスギビング・デー(感謝祭)までには暫定の臨床試験結果をFDAに提出する旨明らかにした。このように、新型コロナウイルス感染症治療薬開発が進展しつつある他、世界各国及び地域では新型コロナウイルスワクチンの接種普及が進展しつつある。このようなことから、今後も新型コロナウイルス感染が拡大しても患者の重症化等が抑制される結果、個人の往来及び経済活動への影響は限定的であるとの見方も市場で発生しやすく、その結果、原油相場への下方圧力が限定的なものとなる一方、将来的な新型コロナウイルス感染収束と世界経済及び石油需要の回復期待から、原油相場が持ち直しやすい展開となることも想定される。
しかしながら、新型コロナウイルス感染抑制のため、11月13日より3週間に渡り個人の外出規制及び経済活動制限を強化する旨11月12日にオランダ政府が発表した他、ドイツ等の一部欧州諸国でも新型コロナウイルス感染者数が過去最高水準に到達した旨11月12日に報じられるなど当該感染が拡大しつつあるうえ、中国の大連市でも新型コロナウイルスの集団感染が確認されたことにより個人の外出制限を強化したと11月12日に伝えられる。また、世界全体の新型コロナウイルス感染は、2021年1月頃がピークの第一波、4月頃がピークの第二波、8月頃がピークの第三波を経験のうえ、10月中旬頃にかけ感染者数が減少傾向を示したものの、その後11月中旬にかけ、新型コロナウイルス感染が再び拡大する兆候を示している。このようなことから、今後新型コロナウイルスワクチンの接種及び経口型新型コロナウイルス治療薬供給が普及する前に、世界の一部諸国及び地域において、新型コロナウイルス感染が再び拡大することにより、個人の外出規制及び経済活動制限が強化されるようだと、世界経済成長の減速及び石油需要の伸びの鈍化に関する見方が市場で広がるとともに、原油相場のさらなる上昇を抑制する形で作用する可能性もあるものと考えられる。
11月2日~3に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)では、11月半ばに金融緩和縮小を開始する旨決定した。これによりこれまで実施してきた毎月800億ドルの国債及び同400億ドルの住宅ローン担保証券(MBS)の購入を、それぞれ毎月前月比で100億ドル、及び50億ドル、それぞれ縮小することになる。他方、10月29日には米国財務省のイエレン長官が米国の高水準の物価上昇は一時的なものであり2022年後半には目標とされる前年同月比2%の上昇近辺に向け沈静化して行くであろう(但し短期的に収束するとも考えていない)との見解を明らかにした他、11月3日にはパウエル米国連邦準備制度理事会(FRB)議長も、米国金融当局者は金利の引き上げについては忍耐を持って対応する旨示唆している。ただ、米国金融市場関係者間では2022年6月14~15日開催予定のFOMCで政策金利を現行の0.00~0.25%から0.25~0.50%へと引き上げる決定がなされる確率が45.8%と、現水準で据え置きとする確率(34.4%)を上回る旨示唆されており、この先の金融緩和縮小とともに金利引き上げ観測が市場で発生しやすくなっていることが、米ドルの上昇を招くとともに、原油相場を抑制する可能性がある。また、11月10日に米国労働省から発表された10月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で6.2%の上昇と、9月の同5.4%の上昇から上昇幅がさらに拡大、1990年11月(この時は同6.3%の上昇)以来の大幅な上昇率となった他、市場の事前予想(同5.8%~5.9の上昇)を上回ったことにより、今後、米国金融当局は消費への影響等経済面での混乱を回避すべく金利引き上げを急がなければならなくなるとの観測が市場で一層発生しやすくなる結果、米ドルが上昇することや、米国バイデン政権がOPECプラス産油国に対する働きかけを一層強化すること、ないしは他の方策を実施することにより、原油及び米国ガソリン小売価格の上昇を抑制しようと模索すること等により、原油相場に下方圧力が加わるといった場面が見られることもありうる。
また、11月5日夜(米国東部時間)には、米国連邦議会下院が投資総額1兆ドル程度(新規支出は5,500億ドル)規模のインフラ整備法案を賛成多数で承認(米国連邦議会上院は8月10日に同様の法案を承認済)するとともに、同日同法案はバイデン大統領に送付されたことにより、バイデン大統領の署名を経て同法は11月15日に成立する見通しである。今後米国で当該インフラ整備に関する方策が実施に移されることに伴い、米国経済がさらに活性化するとの観測が市場で拡大することにより、米国株式相場が上昇する(既に週明け11月8日の米国株式相場はインフラ整備法案承認を受け、経済成長加速期待から上昇した)とともに、原油相場に上方圧力を加える場面が見られることもありうる。また、これとは別に、1.75兆ドル規模の経済再建(ビルド・バック・ベター)法案に関し、11月15日の週に米国連邦議会下院が同法案を承認することを期待している旨11月5日夜(米国東部時間)にバイデン大統領が示唆した他、連邦議会上院ではサンクスギビング・デー(感謝祭)である11月25日までに同法案を承認したいと上院民主党のシューマー院内総務が11月4日に発言している。当該法案は今後さらに民主党内(同法案は左派が推進する一方、中道派は規模縮小を要求している)を含め議会関係者間等でなお調整が必要であるとされるが、調整が進み、議会での承認の展望が開けてくるようであれば、当該法案成立後の方策実施を通じ米国経済とともに石油需要が回復に向かうとの期待が市場で広がるとともに原油価格が上昇するといった展開となることもありうる。
米国では、既に冬場の暖房シーズンに突入し(暖房シーズンは通常11月1日~翌年3月31日である)、製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加、その結果原油購入が活発化するとともに季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大、このような市場心理が当面原油相場を下支えしてきやすいものと思われる。また、その際市場が考慮するのは足元の気温及び気温予報(特に米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部の気温及び気温予報)である。例えば、足元の気温が大幅に低下する、もしくは今後3ヶ月間の気温が平年を下回る寒冷なものとなる旨の予報が発表される、ということになれば、暖房用石油製品需要が盛り上がるとの認識が市場で強まることにより、軽油及び暖房油等の価格が上昇、それに原油価格が引きずられる、といった展開となりやすくなる。
10月14日には、米国海洋大気庁(NOAA)気象予報センターが、既に足元でラニーニャ現象(日付変更線付近から南米沿岸にかけての太平洋赤道域で海面の水温が平年より低くなる現象で、この場合北半球は厳冬となりやすいとされる)が発生している他、2021年12月から2022年2月は87%の確率でラニーニャ現象が発生し続ける旨、また11月11日にも同センターが、2021~22年の冬場は90%程度、2022年3~5月は50%程度の、それぞれ確率で、ラニーニャ現象が居座る可能性がある旨発表するなど、2020~21年に続き2021~22年も北半球では厳冬となる可能性が示唆される。
もっとも、10月21日には、NOAAが、米国南部及び東部海岸地域は2021年12月から2022年2月にかけ気温が平年を上回るとの予報を発表した(他方、同国北西部及びアラスカ地方は平年よりも冷え込むと予想している)。このように、ラニーニャ現象により北半球は2021~22年は厳冬となる可能性はあるものの、それが必ずしも人口密集地帯において気温が大幅に低下する結果暖房用燃料が相当程度喚起されることに繋がるとは限らない場合があるものの、10月21日にNOAAが発表した、米国一部地域で気温が平年を上回るとの予報も時間の経過とともに変化する場合もありうるため、注意する必要がある。特に11月において気温が急激に低下する場面が見られるようだと、2021~22年の冬が長く厳しいものになる結果、石油需要が上振れするとの見方が市場で強まることを通じ、原油相場に上方圧力がより加わりやすくなるものと考えられる。
また、欧州では、2020~21年の冬場の気温が平年を大幅に下回る場面が見られた他、低温の時期が長引いた結果、その分暖房用天然ガス需要がより旺盛であったことにより、当該地域での天然ガス在庫が大幅に減少したこと、2021年はノルウェーのガス田メンテナンス作業等が大規模に実施された(新型コロナウイルス感染拡大抑制のため2020年の当該メンテナンス作業実施が軒並み見送られた反動で、2021年の当該メンテナンス作業が大規模になったと言われている)ことにより同国の天然ガス供給が抑制気味となったこと、同じく2020~21年の冬場に気温の大幅な低下を経験した北東アジア諸国で液化天然ガス(LNG)の前倒し調達が活発化したことにより、その分だけ欧州へのLNG流入が減少したこと、ロシアから欧州への天然ガスの供給が低調であったこと、欧州当局者によるより厳しい地球環境規制導入の動きにより炭素排出権(枠)価格が史上最高水準にまで上昇したこと等の要因により、2021年の欧州天然ガス価格、及びLNG取引で欧州と競合するアジアのLNG価格が、通常下落するはずの春場及び秋場の時期でも十分に下落しないどころか、むしろ10月5日にはオランダTTF天然ガス先物価格が100万Btu当たり39.436ドル(推定)と史上最高水準にまで上昇したのみならず、10月6日には北東アジアJKMスポット価格も100万Btu当たり56.326ドルと、こちらも史上最高水準に到達した(後述)。また、石炭価格も高騰しており(中国政府による地球環境問題対策推進もあり同国の石炭生産が抑制されたこと、事故発生に伴う安全検査強化により中国での炭鉱操業が停止したこと、新型コロナウイルス感染源調査を巡る豪州と中国の対立の高まりに伴う、中国の豪州産石炭輸入削減と他の産炭国からの石炭調達活動活発化により、世界的に石炭輸送面等での混乱が発生したこと、中国やインドネシアでの豪雨来襲に伴う洪水発生によりこれら諸国の炭鉱の操業が停止したこと、新型コロナウイルス感染の世界的流行により石炭生産等のための労働力供給が円滑に行われなかったこと、世界的な脱炭素の流れの中で石炭開発投資が低調であったことが石炭供給拡大に影響したこと等が背景にあるとされる)、少なくとも短期的には天然ガスに代わる燃料としての石炭の調達促進にも限界が存在する状態となっていた。このようなことから、一部諸国においては、価格が高騰した天然ガスの調達を見送る一方、発電部門における代替燃料として重油を含む石油製品の購入を推進し始める動きが見られつつあると伝えられており、今後もこのよう流れに沿って、さらに発電用もしくは冬場の暖房用石油製品である軽油、灯油、重油及び液化石油ガス(LPG)の購入が進む、との観測が市場で増大することにより、これらの石油製品、そして石油製品を製造するために必要とされる原油の価格に上方圧力が加わることも想定される。
次回OPECプラス産油国閣僚級会合は2021年12月2日に開催される予定である。その場においては、2022年1月以降の減産措置縮小の取り扱いにつき協議がなされるものと見られる。そして、従来方針通り毎月前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を実施した場合、2022年は世界石油供給が需要を相当程度上回ることから、OPECプラス産油国は、石油需給緩和感の醸成に伴う市場関係者の心理の変化による原油価格の下落を抑制すべく、減産措置縮小(増産)ペースの減速を検討する可能性があるものと考えられる。例えば、毎月前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を2022年7月まで取りやめたうえ、同年8月以降毎月前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を復活させることにすれば、2022年全体として世界石油需給はほぼ均衡することになる(表3参照)。ただ、この先新型コロナウイルス感染第四波の到来可能性や新型コロナウイルスワクチン接種もしくは治療薬投与の普及、そして米国の金融緩和縮小の流れ等石油市場を巡る不透明感を増大させる要因が存在する中、例えば、次回OPECプラス産油国閣僚級会合において、いきなり半年程度の長期に渡る減産措置縮小に対する再調整を実施することは、かえって原油価格を乱高下させるリスクを抱えることもあり、そのような比較的長期的な減産措置再調整を次回会合で決定する可能性はそれほど高くはないものと見られるものの、例えば、2022年第一四半期、もしくはその一部につき、増産ペースを減速させるといった方向で調整が行われる可能性は否定できないものと見られる。
これに対し、この先原油価格がさらに上昇するようであれば、ガソリンや暖房用石油製品等の価格を含め米国の物価上昇が一層加速することにより、物価上昇率と雇用改善状態を主な判断材料の一部としている同国金融当局による金融緩和策の再調整が必要となる確率が上昇、その結果、同国経済の回復過程が複雑化する恐れがあることから、そのような兆候が見られるようであれば、再び米国政府からサウジアラビアを含むOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速への働きかけが強く行われるか、米国のバイデン政権による他の方策実施模索の可能性が増大するものと考えられる。
さらに、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)等における濃霧発生の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることにより当該製油所での原油在庫の積み上げに影響が及ぶことにより、結果として原油相場が変動することがありうる。また、年末の課税対策から精製業者等が原油在庫等を相当程度減少させる可能性がある(米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対し固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の在庫保有を敬遠することに伴い在庫が減少に向かいやすくなるとされる)。このようなことから、年末にかけて発表される米国石油統計で同国メキシコ湾岸地域での原油在庫等が相当程度減少傾向を示す場面が見られることにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油価格に上方圧力が加わる、といった展開となることも予想される。ただ、このような在庫減少が見られた場合、1月以降は製油所等での原油等の受け入れが再開されることから、反動で相当程度の在庫増加が見られる可能性もあり、これにより原油相場を押し下げる場面が見られることもありうる。
全体としては、米国等で冬場の暖房シーズンに突入したことにより、製油所での原油精製処理量が増加し原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されるとともに、原油相場が支持される可能性がある。そのような中、12月2日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合における2022年1月以降の減産措置縮小の取り扱いを巡るOPECプラス産油国及び米国等の動きが原油相場に影響を及ぼすことになろう。また、米国北東部を中心とする地域の気温及び気温予報、欧州等での天然ガス等暖房用もしくは発電用燃料価格の推移、米国の物価上昇率等の経済指標類と同国金融政策を巡る状況、イランと西側諸国等との間での核合意正常化に向けた協議の動向を含む地政学的リスク要因などでも原油相場が変動することもありうる。
5. 世界天然ガス市場動向
ロシアでは、同国天然ガス会社ガスプロムが、ウクライナを通過するパイプライン経由での欧州方面への天然ガス追加輸出(なお、ロシアは別途2021~24年にウクライナを通過するパイプライン経由で日量38億立方フィートの天然ガスを欧州方面に輸送する契約をウクライナ側と締結している)につき、5月以降7ヶ月連続で輸送停止可能なパイプライン輸送能力(最大日量約22億立方フィート)の月次予約を行わないなど、当該輸出を追加しない意向を示した。また、輸送停止不可能なパイプライン輸送能力の月次予約については、1月(日量15億立方フィート)及び2~8月(同約5億立方フィート)と予約量が低下した後、以降輸送能力の予約を殆ど実施していない旨示唆される。それとともに、2021年のロシアからウクライナ経由で欧州への天然ガス流入量も、概ね前年同期を下回る状態となっている(図20参照)。
また、ロシアからポーランド等を通過するヤマル-ヨーロッパパイプラインを経由してドイツに流入していた天然ガスの流量も、それまで推定日量30億立方フィートであったものが7月31日には同18億立方フィートへと落ち込んだ(図21参照)他、その後も減少傾向となり、8月11日には同7億立方フィートの低水準となった。当該流量は8月24日には同30億立方フィートへと回復したものの、9月28日には再び同12億立方フィートへと減少した。そして、10月1日以降当該パイプライン経由のロシアからドイツ向け天然ガス流入量は同4~8億立方フィートへと落ち込んだうえ、10月30日には流入量がゼロになるとともに、同日以降ドイツからポーランド方面へと天然ガスが流出(11月3日時点では推定日量5億立方フィートの天然ガスが流出)することとなった。当該パイプラインについては、それ以降ドイツからポーランドへ、そしてポーランドからドイツへと天然ガスの流れがしばしば転換した他、ポーランドからドイツへと天然ガスが流入する状態に戻ったものの、9月の水準を相当程度下回るなどした。このようなことから、欧州の天然ガス市場関係者は、ロシアの欧州方面への天然ガス供給が不安定であるとの印象を持つようになり、それに伴い冬場に向け欧州での天然ガス需要を満たすのに十分な天然ガス供給が確保されることに関しての懸念を増大させることとなった。
このようなロシアによる不安定な対欧州天然ガス輸出は、ロシアからドイツへとバルト海の海底経由で天然ガスを輸送する予定である「ノルド・ストリーム2」パイプライン(天然ガス輸送能力日量53億立方フィート)が関連していると見る向きもある。ノルド・ストリーム2パイプラインの建設工事自体は、9月10日朝(現地時間)に事実上完了したものの、操業開始のためのドイツ等による承認手続きが残っており、当該手続き完了は2022年1月頃となる旨ドイツのエネルギー規制当局が9月13日に明らかにした。その後ポーランド等欧州9ヶ国と協議した結果ノルド・ストリーム2パイプライン操業はエネルギー安全保障問題のリスクとはならない旨ドイツ経済省が10月26日に表明したが、承認手続きは依然継続していると見られ、足元操業開始予定時期は明確ではないが、これに対しロシアが早期操業開始のための圧力を加えるべく、他のパイプライン経由での欧州向けロシア産天然ガス輸出を抑制しているとの指摘もある。ただ、そもそも2020~21年の冬場にロシアで気温が平年を大幅に割り込んで低下した(図22参照)ことに伴い暖房向け等の天然ガス需要が相当程度増加したことにより同国でも天然ガス在庫が大幅に減少したとされる他、2021年の夏場はしばしば気温が平年を相当程度上回って上昇した結果、空調のための電力供給向けに発電部門での天然ガス需要が増加する中で、2021~22年の冬場に向け国内の天然ガス在庫を積み上げる必要があったことから、その分だけロシアは欧州への天然ガス輸出を抑制したと示唆する向きもある。
そして、10月20日にロシアのプーチン大統領は、欧州での天然ガス価格の高騰(後述)は(ロシアが欧州等から輸入している)食料品等の物品の価格上昇をもたらすとともに、ロシアで生産される石油及び天然ガス等に対する需要の低迷を招くことにより、ロシア経済にも悪影響を与える可能性があることから、ロシアとしては燃料価格の上昇は望ましくないと考えている旨発言、10月27日にはプーチン大統領がガスプロムに対し国内天然ガス在庫充填が完了する予定日とされる11月8日以降、欧州に対し天然ガスの供給を拡大することにより、欧州での天然ガス在庫充填を行うよう指示した他旨報じられた。
他方、欧州での天然ガス需給引き締まり感の増大に伴い、当該地域での天然ガス価格が高騰した(後述)ことにより、欧州の天然ガス価格のアジアの天然ガス価格に対する割高感が強まったこともあり、それまで液化天然ガス(LNG)が活発にアジアに向かった結果落ち込み気味であった欧州のLNG輸入が回復し始めた(図23参照)。また、欧州で天然ガス価格が高騰したことにより、天然ガスを原料とする肥料製造会社等で採算が悪化したことから、工場の操業停止を含め産業部門で天然ガス利用が敬遠されるようになったことに加え、欧州での秋場の天候が比較的穏やかであった(図24参照)ことに伴い空調向け電力供給のための発電部門及び暖房のための民生部門を中心として、当該地域での天然ガス需要は7月以降前年同月の水準を割り込むようになったものと推定される(図25参照)。
このように、ロシアから欧州への天然ガス流入量は必ずしも好調ではなかったように見受けられる一方、欧州向けLNG供給が持ち直すとともに欧州の天然ガス需要が抑制気味であったこと等から、8月1日には過去5年平均値(いわゆる平年値と言われるもの)を21.2%割り込んでいた状態であった欧州天然ガス在庫は11月12日には同16.9%の割り込みとなるなど、割り込み率は縮小した(図26参照)。
ただ、2021~22年の冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期に突入しつつあった欧州で、ロシアからのドイツへの天然ガス流入が不安定な状態となったこと、7月14日にEUがより厳しい炭素排出規制実施方針を提案するとの観測が市場関係者間で発生した(実際7月14日にEUは地球環境問題対策に関する包括案を発表したが、それは2035年に内燃機関による自動車の新車販売を事実上禁止することや、国境炭素税を導入することを主な内容としていた)こともあり、欧州での炭素排出権(排出枠)価格が上昇、9月27日には欧州排出権先物市場において二酸化炭素排出1トン当たり推定75.21ドルの史上最高水準近辺で取引を終了するなどしたこと(図27参照)により、相対的に燃焼時の二酸化炭素排出量の少ない天然ガスへと燃料転換が進むとの見方が市場で強まったこともあり、天然ガス需要増加予想が市場で強まったこと等から、8月中旬から10月上旬にかけ欧州天然ガス相場に上方圧力が加わった。
加えて、夏場の気温上昇や水力発電向けの貯水量低下により天然ガスの消費が進んだとみられるトルコで冬場に向けたLNGの調達が活発化した。例えば、同国国営石油・ガス輸送会社ボタス(Botas)は8月31日に締め切ったスポットLNG購入入札で2021年9月から2022年3月にかけ、少なくとも20隻分のLNGを、また9月27日に締め切ったスポットLNG購入入札でも2021年10月から2020年2月にかけ20隻分程度のLNGを調達、さらに19隻分のスポットLNG購入のため10月18日締め切りの入札を実施した(入札結果は明らかになっていない)と伝えられるなど、同国が積極的にスポットLNG確保を進めている旨示唆されたことも、欧州でのLNG需給引き締まり感の強まりに寄与することとなった。
このようなこともあり、8月13日にはオランダTTF天然ガス先物価格が100万Btu当たり推定15.43ドル、英国NBP天然ガス先物価格が同15.38ドルであったものが、10月5日にはオランダTTF天然ガス先物価格が100万Btu当たり推定39.44ドル、英国NBP天然ガス先物価格が同40.06ドルと、それぞれ史上最高水準の終値に到達した(図28参照)他、10月6日午前中(欧州時間)には一時オランダTTF天然ガス先物価格が同54.91ドル、英国NBP天然ガス先物価格が同55.31ドルと、史上最高水準に到達する場面も見られた(また、9月15日未明(現地時間)に英国南東部ケント(Kent)州セリンジ(Sellindge)にある変電施設(能力100万kW)で火災が発生しフランスからの電力輸入が停止した(完全復旧までに2年程度を要すると10月15日に伝えられる)ことにより、英国で消費される電力を供給するためにガス火力発電の稼働が上昇するとともに天然ガス需要が高まるとの観測が発生したことも、英国天然ガス価格を押し上げる一因となったとされる)。
ただ、その後は、天然ガス需要が抑制気味に推移しつつあったことや、欧州でのLNG輸入が増加しつつあったこと、10月6日に、ロシアのプーチン大統領が同国は世界エネルギー市場安定化に寄与する用意がある旨、さらに10月13日にも、プーチン大統領がロシアは欧州に対し必要なだけの天然ガスを供給する旨、そして10月27日にも、プーチン大統領が、11月8日以降ガスプロムが欧州天然ガス貯蔵拡大に向け天然ガス供給を実施する旨、それぞれ示唆、10月29日には、ロシア国内天然ガス在庫量が目標に到達した(但し、11月8日までロシア国内天然ガス在庫充填は継続する)旨ガスプロムが明らかにしたことにより、欧州での天然ガス需給引き締まり感が市場で後退したことが、天然ガス価格に下方圧力を加えた。このため、欧州の天然ガス価格は下落傾向となり、10月29日のオランダTTF天然ガス先物価格が100万Btu当たり推定21.97ドル、英国NBP天然ガス先物価格が同22.71ドルの、それぞれ終値となった。
しかしながら、11月に入り欧州方面では気温が平年を下回って低下するようになったり、さらに今後気温が低下するとの予報が発表されたりした。加えて、ガスプロムが欧州方面に天然ガス輸出を活発化させ始めるとされた11月8日になっても、ガスプロムによる欧州方面天然ガス輸出は活発化したようには見受けられなかった(ロシア大統領府のペスコフ報道官は日々の天然ガス供給判断はガスプロムに委ねられており、同社の動きは10月27日のプーチン大統領の指示に違反しているわけではない旨明らかにしている)。その後ガスプロムが欧州への天然ガス供給を増加させる兆候を見せ始めたことが、欧州での天然ガス価格を抑制する形で作用したものの、その規模が比較的限定的であるように見受けられたことが、欧州での天然ガス価格を下支えすることとなった。このような要因により、欧州の天然ガス価格は10月末以降緩やかではあるが回復傾向となり、11月12日のオランダTTF天然ガス先物価格が100万Btu当たり推定25.38ドル、英国NBP天然ガス先物価格が同26.03ドルの、それぞれ終値となっている。
北東アジアでは、夏場の気温が平年を大幅に上回ったというわけではなく、従ってこの面では必ずしも、空調向けの電力供給のための発電部門での天然ガス消費が促進されたというわけではなかったと見られるものの、2020年12月後半から2021年1月前半を中心とした時期における、当該地域での気温の大幅低下を一因とするLNG価格大幅上昇の経験から、一部の需要家が2021~22年の冬場のLNG需要期が到来する相当前の時点で当該需要を満たすため在庫を積み上げるべく相当量のLNGを調達する動きが見られた。例えば、中国石油化工集団(シノペック)は子会社の中国国際石油化工連合(ユニペック)を通じて9月24日に締め切ったスポットLNG購入入札で2021年11月から2022年3月にかけて中国に到着するLNG少なくとも13隻を調達した(当初当該入札では11隻のLNGを調達する予定であったとされる)と9月26日に伝えられた他、台湾中油(CPC)も2021年11月から2022年2月に到着する(台湾が仕向地であるものと見られる)LNGのスポット購入入札を実施した結果最大7隻のLNGを確保した旨9月27日に明らかになった。このようなこともあり、当該地域でのLNG輸入は総じて堅調であった(図29参照)。
他方、石炭価格が高騰した(中国政府による地球環境対策推進もあり同国での石炭生産が抑制されたうえ、事故発生に伴う安全検査強化により同国における一部炭鉱の操業が停止したこと、新型コロナウイルス感染源調査を巡る豪州と中国の対立の高まりに伴う、中国の豪州産石炭輸入削減と他の産炭国からの石炭調達活動活発化により、世界的に石炭輸送面での混乱が発生したこと、中国やインドネシアでの豪雨来襲に伴う洪水発生により炭鉱の操業が停止したこと、新型コロナウイルス感染の世界的流行により石炭生産等のための労働力供給が円滑に行われなかったこと、世界的な脱炭素の流れの中で石炭開発投資が低調であったこと等が背景にあるとされる)ことにより、発電部門での代替燃料として天然ガス需要が増加するとの観測が発生した。また、中国の大手国有エネルギー企業に対し2021~22年の冬場に停電を回避すべく燃料を確保するよう同国の韓正副首相が強く指示した旨9月30日に伝えられたことから、北東アジアでの天然ガス需給引き締まり感が市場で増大した。さらに、同地域において冬場の暖房シーズンに伴う暖房用天然ガス需要期が視野に入りつつあったことにより、天然ガス価格の先高感が市場で醸成されるとともに、石油商社等による強気なLNG購入希望価格の提示が示唆されたこと、欧州での天然ガス価格高騰に伴い、LNG供給面で競合するアジア向けのLNG供給が低下する結果北東アジア市場での天然ガス需給が引き締まるとの観測が市場で発生したこと等が、北東アジア市場でのLNG価格に上方圧力を加えた結果、8月13日には100万Btu当たり17ドル弱の終値であった北東アジアスポットLNG価格は、10月6日には同56.326ドルの史上最高水準に終値に到達した(なお、この日は欧州においても、天然ガス先物価格等が史上最高水準に到達していた)。
しかしながら、その後、10月末にかけ欧州天然ガス価格が下落し始めたこと、スポットLNG価格が高騰したことから、北東アジアの公益事業者等がスポットLNG調達を敬遠するとともに、長期LNG売買契約等に定められる一定の範囲内での調達量引き上げオプション(UQT: Upward Quantity Tolerance)を行使したり、発電部門において重油等の代替燃料調達を模索したりする動きが見られるようになった旨伝えられるようになったこと、10月19日夜に中国国家発展改革委員会が、石油生産を日量1,200万トン(9月の同国の石炭生産量は日量1,114万トン)へと拡大することを目指す他石炭価格抑制措置を講ずることを検討している旨表明、その後中国の主要石炭生産業者が石炭増産と価格引き下げに向け動き出した旨10月20日に報じられるなど、同国の石炭価格高騰沈静化の兆しが見え始めたこと等が、北東アジアでのスポットLNG価格に下方圧力を加えたことにより、11月1日の当該価格終値は100万Btu当たり28ドル台半ば程度の水準となった。
それでも、マレーシアLNG(操業者:ペトロナス)の第9液化施設(LNG生産量年産360万トン)において、少なくとも8月中旬以降当該施設に天然ガスを供給するガス田で生産される天然ガスに水銀が混入している問題が発生したと報じられたうえ、第3液化装置(同280トン)においても、当該施設に天然ガスを供給するガス田の生産が減少したことにより、LNGの生産が削減された旨しばしば伝えられた(このためペトロナスは2022年1月に開始される年間供給計画を見直す方向で調整中であると10月4日に報じられる)。また、インドネシアのボンタンLNG(操業者:プルタミナ他、LNG生産量年産1,150万トン)で、10月下旬以降当該施設に供給される天然ガスを生産するガス田で天然ガスに大量の砂が混入している旨判明したことにより当該ガス田の生産が停止するとともに、LNGの生産が減少していると11月2日に伝えられた。さらに、10月中旬には中国及び韓国で気温が平年を大幅に割り込む場面が見られる(図30及び31参照)などしており、暖房用燃料需要が喚起されるとの観測が市場で発生した。加えて、9月下旬には10隻台半ばであるとされたスポットLNGタンカー利用可能隻数が11月下旬以降しばしば9月下旬の水準の3分の1程度にまで落ち込むなどするとともに、例えば、2021年3月には100万Btu当たり1ドルを割り込んでいた、そして、同年8月中旬においても同2.5ドル前後で推移していた、米国メキシコ湾からの北東アジアに向けLNGタンカー推定傭船コストが、11月中旬には同5ドル台半ば程度にまで上昇するなどしたことが、北東アジア向けスポットLNG調達コストを押し上げた他、パナマ運河入り口において、事前予約を行っていないLNGタンカーの待機日数が、大西洋から太平洋に向かう場合、そしてその反対方向に向かう場合ともに18日となっていると11月9日に伝えられ、地域間のLNG供給が円滑に行われなくなる恐れがあることが示唆された。このような要因もあり、アジア市場でのLNG需給引き締まり感が意識されたことがLNG価格に上方圧力を加える形で作用した結果、11月12日の北東アジアでのスポットLNG価格は100万Btu当たり30ドル台後半程度の終値と11月初頭の水準から上昇している。
なお、ブラジルでは貯水量の低下による水力発電稼働の不振により、代替として天然ガス火力発電の稼働が上昇した結果、同国のLNG輸入は概ね堅調なままであった(ただ、10月初頭頃以降しばしば降雨が訪れたことにより、貯水量が回復したとされることもあり、水力発電量が持ち直すとともに天然ガス火力発電向けの天然ガス需要が抑制される場面が見られた旨11月3日に伝えられる)一方、アルゼンチンでは、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期が峠を越えつつあったことにより、10月の同国のLNG輸入は皆無となったものと推定される(図32参照)。
米国では、一部地域を除き夏場から秋場にかけての気温が前年の水準を大幅に上回っていたわけではなかった(図33参照)他、米国天然ガス価格が割高となったことにより、相対的に割安な石炭火力発電の稼働が上昇するとともに天然ガスから石炭への燃料転換が発生したと見られることにより、空調のための電力供給向けの発電部門での天然ガス需要は8月から10月にかけては前年同月を割り込む状態となった(図34参照)。また、9~10月にかけ米国では気温が概ね穏やかであったこともあり、暖房を中心とする民生用天然ガス需要も総じて低調であった。このため、新型コロナウイルスワクチンの接種普及進展に伴う個人の外出及び経済活動の活発化もあり、米国での鉱工業生産が回復しつつあったことが一因となり、産業部門での天然ガス需要は前年同月をそれなりに上回る場面も見られたものの、発電及び民生各部門での天然ガス需要の前年から落ち込みを他の部門で相殺しきれなかったことから、8~10月の米国天然ガス需要は前年同月を下回る状態となり、必ずしも堅調とは言い切れない状態であった。
米国天然ガス需要が旺盛ではなかった反面、輸出は活発であった。メキシコ向けのパイプラインによる天然ガス輸出は日量60億立方フィート近くを維持した(図35参照)(メキシコでは近年国内の天然ガス生産量が減退気味であることにより国内需要を満たせなくなってきたことが米国からの天然ガス輸入活発化の一因であるものと考えられる)他、アジア、欧州及び中南米諸国からの米国産LNG購入意欲の増大とともに、米国からのLNG輸出は日量90~100億立方フィート程度の水準で行われた(図36参照)(なお、8月はアジア諸国及び中南米諸国への輸出が活発であったが、欧州で天然ガス価格が高騰したこともあり相対的に欧州向け天然ガス価格が堅調となったことから9~10月は米国の欧州向けLNG輸出が相対的に盛り返す格好となっているように見受けられる)。
他方、米国では、シェールオイル及びシェールガス開発・生産企業に対し株主等から石油・天然ガスの生産拡大よりも収益拡大を優先するよう圧力が加わったことから、当該企業の経営陣が収益を確保できそうな鉱区に絞って開発・生産事業を実施した結果、陸上のシェールガス、もしくはシェールオイル等の原油生産に随伴して生産される天然ガスの生産が伸び悩み気味となった(図37参照)。また8月下旬に米国メキシコ湾沖合をハリケーン「アイダ」が通過したことに伴い、当該地域で操業していた油・ガス田関連施設が操業を停止し従業員を避難させたことにより、油・ガス田での天然ガス生産が中断、結果として8月下旬から9月末にかけ426億立方フィートの天然ガス供給(推定)が市場から排除される格好となった。
このように、米国国内でのシェールガスを含む天然ガス生産がもたつき気味となった反面、メキシコへのパイプライン経由での天然ガス輸出やその他国外へのLNG輸出が堅調であったこともあり、米国での天然ガス地下貯蔵量の過去5年平均(いわゆる平年値と解されるもの)を下回る率は、8月6日時点では6.0%であったものが、9月3日には7.4%へと拡大した(図38参照)。加えて欧州等での天然ガス価格上昇から、より多くのLNGが輸出される結果米国での天然ガス需給が引き締まるとの観測が市場で拡大したことが、米国天然ガス価格に上方圧力を加えた結果、8月13日には100万Btu当たり3.861ドルの終値であった同国天然ガス先物価格は10月5日には同6.312ドルの終値へと上昇した。しかしながら、その後欧州等での天然ガス価格が下落した他、米国に穏やかな気温が訪れたことにより、暖房のための民生部門、もしくは空調のための電力供給向けの発電部門で、天然ガス需要が抑制される格好となったと見られることにより、11月5日時点の同国での天然ガス地下貯蔵量の5年平均を下回る率は3.2%と9月3日の水準から縮小するとともに、天然ガス価格にも下方圧力が加わったことにより、11月12日の米国天然ガス先物価格は100万Btu当たり4.791ドルとなっている。
以上
(この報告は2021年11月15日時点のものです)