ページ番号1009207 更新日 令和3年12月13日
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概要
- Petrobrasは2022年から2026年の戦略計画、Strategic Plan 2022-2026(SP 2022-2026)で、資本支出を680億ドル(前計画、SP 2021-2025比23%増)、うち探鉱・生産部門への投資額を573億ドル(同28%増)とすると発表した。プレソルトに重点を置き探鉱・開発を進めるという方針は変わらず、探鉱・生産部門の投資額の67%をプレソルトの探鉱・開発に充てるとしている。
- Petrobrasは、新型コロナウイルス感染拡大と資産売却の影響で、Petrobrasの2022年の石油生産量は、SP 2021-2025で計画していたよりも日量10万バレル少ない日量210万バレルとなるとしている。しかし、その後は、新規生産設備15基の生産開始が予定されていることから、石油生産量は着実に増加し、2026年には日量260万バレルになるとしている。ガスを含めた総生産量も、2022年の石油換算で日量270万バレルから、2026年には320万バレルに増加する見込みだ。プレソルトの生産量は、2022年時点では同社の生産量の70%を占めているが、2026年には79%を占めることになるという。
- Petrobrasは、負債額を600億ドルに削減するという目標を約1年前倒しで2021年第3四半期に達成した。これを受けて、SP 2021-2025では250億~350億ドルを計画していた資産売却を、SP 2022-2026では150億~250億ドルに引き下げた。
- Petrobrasは、OGCI(Oil and Gas Climate Initiative)に属する他のメンバー11社と歩調を合わせ、パリ協定に沿って石油・天然ガス事業でのネット・ゼロ・エミッション(スコープ1および2)を達成するとしている。そして、事業の脱炭素化、バイオ製品、再生可能エネルギーやCCUSの研究・開発のために2026年までの5年間に28億ドルを投じる計画だ。
(出所:Petrobras website、ANP website、Platts Oilgram News、BNamericas他)
Petrobras取締役会は2021年11月24日、2022年から2026年の5年間の戦略計画「Strategic Plan 2022-2026(SP 2022-2026)」を承認、11月25日と30日に行われたPetrobras Dayでこれを発表した。
1. 資本支出
Petrobrasは2022年から2026年の5年間の資本支出を680億ドルとし、そのうち84%にあたる573億ドルを石油・ガスの探鉱・生産部門に割り当てるとしている(図1)。
年別の資本支出の状況を見てみると、2022年の資本支出は前回の戦略計画SP 2021-2025と同様に110億ドルとされているが、2023年から2025年にかけてはSP 2021-2025では年間113億ドルだった資本支出を年間150億ドルに引き上げるとしている(図2)。
Petrobrasは、毎年、5年間の投資、生産等の計画を更新している。原油価格下落や同社をめぐる汚職問題の影響を受け、Petrobrasは、2014年から2018年の5カ年計画「Business and Management Plan(BMP)2014-2018」以降は資本支出を、また、BMP 2015-2019以降は探鉱・生産部門への投資額を削減していた。しかし、BMP 2018-2022以降、資本支出や探鉱・生産部門への投資額には大きな変更が行われなかったり、増額されたりするようになり、同社の経営状況は回復に向かっていると見られていた[1]。ところが、2019年発表のSP 2020-2024ではハイリターンが期待できるプロジェクトに投資を集中するとして、また、2020年発表のSP 2021-25では、新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴う石油需要の減退、原油価格の下落を受けて、資本支出を削減した。しかし、今回のSP 2022-2026でPetrobrasは、原油価格高騰を受けて、また、回復する需要に見合うよう供給を増やす必要があるとして、資本支出を増加させている(図3)。
資本支出に占める探鉱・生産部門への投資額の割合はSP 2021-2025の84%から変更なく、そのうちプレソルトでの探鉱・開発への投資額の割合は70%から67%に引き下げられた。ただし、プレソルトでの開発に限ると、投資額の割合は61%から63%に引き上げられており、プレソルトでの開発に重点を置く方針に変化はないと見られる。ポストソルトに関しては、探鉱・生産部門への投資額の26%を投じて、Marlim、Roncador、Barracuda/Caratinga油田等の開発を進めるとしている。また、Petrobrasは探鉱・生産部門への投資額の10%にあたる55億ドルを探鉱に充てるとしている(図4)。そして、その58%をCampos BasinやSantos Basin等南東部の堆積盆地の探鉱に、38%を赤道周辺部の堆積盆地の探鉱に投じる計画だ。
Petrobrasは2021年から2025年までに精製部門に61億ドル、ガスおよびエネルギー(電力)部門に10億ドル、合計で71億ドルを投じる計画だ。その52%が精製能力拡張や再生ディーゼルやバイオ・ジェット燃料等新たな製品の開発に、34%がエネルギーおよび製油所の近代化に、14%が火力発電所の近代化やプレソルトで生産される随伴ガスを輸送するルート3パイプラインの建設に充てられるという。
[1]Petrobrasは、毎年更新する5年間の投資計画の名称を2018年発表のものまでは「Business and Management Plan」としていたが、2019年以降「Strategic Plan」と変更した。
2. 探鉱・開発・生産
Petrobrasは、2022年の同社の石油・天然ガス生産量は、資産売却と新型コロナウイルス感染拡大の影響で、SP 2021-2025で計画していたよりも日量10万バレル少ない日量210万バレルとなるとしている。
CNOOCがPetrobrasよりBúzios油田の権益5%を追加取得することになったことが、この生産見通しの減少に最も影響を与えているという。2019年11月に実施されたTransfer of Rights(TOR)払い下げPS入札ラウンド[2]で、Petrobras(90%)/CNOOC(5%)/CNODC(5%)のコンソーシアムがBúzios油田を落札、PS契約を締結した。その後、2021年9月に、CNOOCが同油田のPS契約の権益5%をPetrobrasより追加取得することとなった。この取引が成立すればPetrobrasは同油田のPS契約の権益比率を90%から85%に減らすことになる。
また、Petrobrasは、Albacora油田、Albacora Leste油田等の深海の主要な成熟油田の売却についても交渉を進めており、これらの資産売却だけで生産量が日量約5万バレル減少すると見られている。
さらに、Búzios油田に設置される5基目の浮体式生産貯蔵積出設備(floating production, storage and offloading:FPSO)Almirante Barrosoは、新型コロナウイルス感染拡大により造船所での建造に遅れが生じ、2022年に予定されていた生産開始が2023年にずれ込むことになった。
しかし、2022年から2026年の5年間に、FPSO Almirante Barrosoを含め15基のFPSOが6油田に導入され、生産が開始される予定であることから、石油生産量はその後、着実に増加し、資産売却の影響を加味しても、2026年には日量260万バレルになるとしている。天然ガスを加えた総生産量も2021年の石油換算で日量270万バレルから2026年には320万バレルに増加する計画だ(図5)。SP 2021-2025では、資産売却により、同社の石油生産量は2021年の日量221万バレルから2025年には230万バレルと微増、総生産量は石油換算で日量272万バレルから270万バレルに横ばいの状況になるとしていた。
そして、資産売却に加え、ポストソルトの成熟油田の生産減退やプレソルトでの新規生産開始により、プレソルトからの生産量が総生産量に占める割合は2022年の70%から2026年には79%に高まる見通しである。
FPSOの生産開始に関するSP 2021-2025からの主な変更点は、Mero 1(FPSO Guanabara)とBúzios 5(FPSO Almirante Barroso)の生産開始が1年延期され、それぞれ2022年と2023年に生産開始とされたことである。2010年代中頃に発表されたPetrobrasの5年間の投資計画では、FPSOの生産開始時期がその前年に発表された投資計画に比べ遅延したり、プロジェクトが除外されたりすることが多々あったが、ここ数年間は、開発計画の遅延は減少していて、この点は評価されている。
また、SP 2022-2026には、2026年に生産開始が予定されているSEAP 1(FPSO P-81)、Búzios 9(FPSO P-80)、Búzios 10(FPSO P-82)が加えられた(図6)。
Petrobrasはプレソルトの中でも、特にBúzios油田とTupi油田の開発に力を入れるとしている。
Búzios油田ではFPSO4基が稼働しており、2021年9月時点で石油日量566,196バレル、天然ガス日量2281.5万立法メートルを生産し、Tupi油田に次ぐブラジル第2位の油田となっている。ブラジルで生産開始から生産量が日量60万バレルを超えるまでにかかった期間は、Marlim油田が10.7年、Tupi油田が5.9年であったのに対し、Búzios油田は1.9年と非常に短期間に生産量を伸ばしてきた。2021年9月には、石油換算で日量67,496バレルを生産した7-BUZ-10-RJS井を筆頭に同油田の7坑が石油換算でそれぞれ日量5万バレル以上を生産している。このように、Búzios油田はすでにブラジルを代表する油田となっているが、さらにPetrobrasは2022年から2026年の5年間に同油田に230億ドルを投じて、FPSOを6基追加し、2026年には生産量を日量85万8,000バレルまで増加させる計画だ。2026年には同社の石油生産量の33%をBúzios油田が占めることになるという(図7)。
一方、Tupi油田は2021年9月の石油生産量が日量948,076バレル、天然ガス生産量が日量4311.9万立法メートルとなっている。2009年以来26億バレルを生産し、すでにブラジル最大の油田である。PetrobrasはTupi油田の開発に2022年から2026年に47億ドルを投じる計画で、今後も同油田はこの地位を維持するとしている。
Campos Basinも、引き続き投資計画の中で戦略的な位置づけにあるとしている。Petrobrasは2022年から2026年に160億ドルを投じ、新たなFPSO3基を投入、100坑以上の坑井を掘削し、2021年1月から9月の生産量、石油換算で日量約70万バレルを2026年には同90万バレル(うち、新規プロジェクトからの生産分が同60万バレル)とするとしている。
[2]連邦政府は2010年にTORエリア(6鉱区)のプレソルトから50億バレル相当の原油・天然ガスを生産する権利をPetrobrasに付与、コンセッション契約を締結した。その後の探鉱で同エリアのプレソルトの確認埋蔵量が石油換算で50億バレルを上回ることが明らかになったことから、50億バレルを上回る量を生産する権利を入札にかけたのが、TOR払い下げPS入札ラウンドであり、落札企業はPS契約を締結した。Búzios油田では、当初のコンセッション契約分はPetrobrasが権益100%を保有、PS契約分に関してはPetrobrasが権益90%、CNOOCが5%、CNODCが5%を保有している。
3. 資産売却
原油価格の上昇により、Petrobrasは2014年には1,320億ドルであった総負債額を600億ドル以下にするという目標を予定よりも約1年早く達成することができた。これを受けてPetrobrasは、SP 2021-2025では250億~350億ドルを計画していた資産売却を、SP 2022-2026では150億~250億ドルに引き下げた。売却対象の資産は、探鉱・生産部門では、陸上や浅海の資産、ブラジル国外の資産に加え、Albacora油田、Albacora Leste油田、Golfinho/Canapu油田、Papa-Terra油田、Uruguá/Tambaú油田、Camarupim油田、精製部門とガスおよびエネルギー部門では、製油所、陸上のガスパイプライン、Gaspetro、Braskem、肥料工場等とされている。
表1. Petrobrasの資産売却状況(2021年1~11月)
Petrobrasは、当初、上流資産については陸上および浅海の資産を売却するとしていた。その結果、同社の石油生産見通しの地域、油田別の内訳を見てみると、2026年には陸上、浅海からの生産は0になるとしている(図7)。ただし、このうち、Santos BasinのMexilhãoガス田については、同ガス田の生産を行うだけでなく、Santos Basinの他の油・ガス田で生産されたガスを輸送するパイプラインのハブとなっており、売却されないのではないかとの見方がある。
一方で、2020年中頃以降、プレソルトで油田が開発される以前にはブラジルの主要油田であったCampos盆地深海のAlbacora油田(権益保有比率Petrobras 100%)やAlbacora Leste油田(同Petrobras 90%、Repsol 10%)等も資産売却対象に加えられた。これらの油田の生産量はそれぞれ日量2万~3万バレルで、プラトー期の日量15万バレルに比べ減退が激しいため、売却対象となったと考えられる。
また、PetrobrasはSP 2021-2025で、所有している13の製油所を2025年には5製油所まで減らし、精製能力を日量220万バレルから日量120万バレルまで削減する計画を明らかにしていた。これらの製油所の売却は、Petrobrasが資産売却で調達すると見込んでいる250億~350億ドルのかなりの部分を占めると見られていた。しかし、現在までに売却が決定したのはIsaac Sabbá Refinery(REMAN)、Shale Industrialization Unit(SIX)、Landulpho Alves Refinery(RLAM)の3製油所のみである。また、Ceara州のRefinaria Lubrificantes e Derivados do Nordeste(LUBNOR)とMinas Gerais州のRefinaria Gabriel Passos(REGAP)は売却手続きが進んでおり、2022年初頭には最終的な取引が成立する見通しであるという。一方、Rio Grande do Sul州のRefinaria Alberto Pasqualini(REFAP)、Pernambuco州のRefinaria do Nordeste(RNEST)、Parana州のRefinaria Presidente Getulio Vargas(REPAR)の3つの製油所については一旦停止した売却プロセスを再開しなければならないという。このうち、RNESTについては、投資家にとってより魅力的な製油所にすることを目的としてPertrobrasが10億ドルを投じて精製能力、日量13万バレルの処理トレインを建設し、2026年までに同製油所の精製能力を日量26万バレルまで引き上げる計画であるため、売却が遅延すると見られている。REFAPとREPARについても、2022年10月に行われる大統領選挙前に売却される可能性は低いと見られている。なお、Petrobrasが手元に残す計画の5製油所はいずれも同社の石油生産拠点であるプレソルトや消費地に近い南東部に存在する施設である。
4. 脱炭素化促進
Petrobrasは、2018年から加盟しているOGCI(Oil and Gas Climate Initiative)に属する他のメンバー11社と歩調を合わせ、パリ協定に沿って石油・天然ガス事業でのネット・ゼロ・エミッション(スコープ1および2)を達成するとしている。ブラジルで活動する同社のパートナーにも同じ目標を達成することを促すという。
同社は、石油・ガスを石油換算1バレル生産する毎に排出する温室効果ガスの排出量を、2009年の二酸化炭素換算で30キログラムから2021年1月から9月には15.7キログラムに48%削減し、石油・ガスの生産量が約40%増加したにもかかわらず、絶対的な排出量を削減することに成功した。特に、プレソルトの油田は1坑当たりの生産量が日量数万バレルと、非常に生産性が高い上に、世界最大規模の沖合での二酸化炭素再圧入プログラムを実施しているため、1バレル当たりの温室効果ガス排出量はBúzios油田で10キログラム、Tupi油田で9.3キログラムとなっている。
Petrobrasは、2030年までに操業時の温室効果ガス排出量を25%削減すること、2030年までにフレアリングをゼロにすること、2025年までにCCUSプロジェクトに4,000万トンの二酸化炭素を再圧入すること、2025年までに上流部門の炭素強度を32%削減すること等を目標としている。そして、その実現のために、Petrobrasは2026年までの5年間に、事業の脱炭素化(スコープ1、2)に20.5億ドル、再生可能ディーゼル、バイオ燃料等バイオ製品に6億ドル、再生可能エネルギーやCCUSの研究・開発に1.3億ドルの合計28億ドルを投じる計画だ。
他の大手石油会社が再生可能エネルギーへの取り組みを急ぐ中、PetrobrasはSP 2021-2025で、石油の需要が短期的、中期的に減少することはないと考えており、石油生産の拡大に注力し、今後5年間は再生可能エネルギーへの大幅な投資は予定していないとした。そして、エネルギー・トランジションや再生可能エネルギープロジェクトについては言及せず、天然ガスのフレアリングの削減、二酸化炭素の再圧入、製油所の省エネやエネルギー効率向上等を含む新たな脱炭素化技術を展開し、脱炭素化を推進するとしていた。SP 2022-2026でも、再生可能エネルギーの研究・開発への投資額は少なく、同社のこの方針に変更はないことが窺われる。
終わりに
Luiz Inácio Lula da Silva元大統領はPetrobrasから不正な資金が渡ったとの疑惑から有罪判決を受けていたが、ブラジル最高裁判事は2021年4月15日、この判決を無効とした。これにより、2022年10月の大統領選挙にLula氏が出馬する可能性が出てきた。
Lula政権下、および、それに続くDilma Vana Rousseff政権下でPetrobrasは、国際市場価格で輸入したディーゼルやガソリンを国内市場では割引価格で販売、その差額を負担して、大きな損失を抱えることになった。その後、国内の石油製品価格は国際市場価格と同等に保たれるようになったが、Lula氏はPetrobrasのこの石油製品価格に関する方針を再び廃止することを公約に掲げており、Lula氏が大統領に就任することになれば、石油製品価格への介入(国内向け価格の引き下げ)を手始めにPetrobrasに対する政府介入が再開されるのではないかと懸念する向きもある。
一方、2021年12月1日、Paulo Guedes経済相が、脱炭素化が進むことによりPetrobrasが政府の財政を圧迫する可能性が高まると主張し、政府に対し民営化を予定している公的機関のリストにPetrobrasを加えるよう求めた。
PetrobrasはSP 2022-2026で2026年までの投資額を増額し、プレソルトでの生産増を図る計画を明らかにしたが、大統領選挙の結果次第ではPetrobrasへの政府の介入が強化される可能性があり、また、逆に、Petrobrasが国営石油会社ではなくなる可能性もあり、状況を注視してゆく必要があろう。
以上
(この報告は2021年12月7日時点のものです)