ページ番号1009211 更新日 令和3年12月15日

石油生産増に向けて苦闘するアンゴラ

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レポートID 1009211
作成日 2021-12-15 00:00:00 +0900
更新日 2021-12-15 13:32:25 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場企業
著者 野口 洋佑
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 10
抽出データ
地域1 アフリカ
国1 アンゴラ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アフリカ,アンゴラ
2021/12/15 野口 洋佑
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概要

  • アンゴラは2007年にOPECに加盟したサブサハラアフリカで2番目に大きい産油国である。同国は2014年以降、主要油田での生産量の減少、設備の老朽化、開発のインセンティブ不足を理由とした上流投資不足、新規プロジェクトの遅延により原油生産量が減少を続けている。
  • アンゴラ政府は生産量の減少を抑制し、また増加に転じさせるべく主に3つの策を講じている。(1)2019年から2025年までに「Oil-licensing strategy 2019-2025」にて5回の権益付与の機会を予定、(2)「Oil-licensing strategy 2019-2025」にて権益付与されなかった鉱区に対して直接交渉を可能とする「Permanent Offer Program」を適用、(3)「Hydrocarbon Exploration Strategy」にて経済性の低いマージナル油田に対するインセンティブを与えている。以上により、地場企業への参入と主にIOCをターゲットとした外国企業の投資を促す構えである。
  • アンゴラではEniとBPにおける上流資産の地域JV化の新たな動きが注目されている。シナジーによるコストの削減、意思決定の迅速化、独自資金調達の可能性追求、環境面での配慮という点で非常に興味深い動きであり、同地域でも注目すべき動向の一つである。
  • 「Oil-licensing strategy 2019-2025」、 「Permanent Offer Program」、「Hydrocarbon Exploration Strategy」といった、アンゴラ政府による石油開発促進政策にもかかわらず、今後、アンゴラの原油生産量が短期的にどこまで回復するか、その見通しを立てることは難しい。同国の石油開発の主体であるIOCが生産を維持拡大できる低コストと良好な財務条件を実現できるか、加えて、今後の油価の動向、地場企業への技術力・資金力、国営石油会社Sonangolの再編プロセスによる生産活動への注力等、アンゴラ政府からの支援が鍵となるだろう。

 

1. アンゴラの概要

(1) 同国の主要な石油生産エリア

アンゴラは2007年にOPECに加盟したサブサハラアフリカで石油生産量が2番目に大きい産油国であり、加えて残存する可採埋蔵量も同地域内で2番目に大きい。国内の石油生産の中心を担っているのはメジャーズ等の国際石油企業(IOC)であるが、その生産活動は深海鉱区に集中している。同国の現在の石油生産を支える深海鉱区は主に1990年代に探鉱され、1997年にChevronのKuito油田が生産を開始したことを始めとする。以降、2005年までにいくつかの大規模深海油田が開発された。一方、アンゴラ籍の地場石油企業の活動は陸上や浅海部に止まっている。同国では1975年から2002年まで続いた内戦により陸上での探鉱・生産活動が軒並み停止したことから、生産量の約8割を深海や超深海に依存する構造になった。

 

(2) 探鉱・開発・生産の現状

図1:掘削装置稼働数と生産量推移
図1:掘削装置稼働数と生産量推移
各種資料よりJOGMEC作成

同国の2021年9月の原油生産量は111万b/dでありOPECプラス生産枠の133万b/dよりも22万b/dも低い(図1灰色部分)。同国の原油生産量は2015年以降、減少の一途を辿っている。特に、原油価格急落以後、アンゴラの厳しい財務条件では十分な経済性が確保できないことを理由に20件以上の新規開発が棚上げされた。掘削装置の稼働数も2014年以降は減少傾向であり、さらに2020年5月から7月にはCovid-19の影響により稼働数は0基となった。なお、2021年9月時点の掘削装置稼働数は4基となっている。

アンゴラは2015年以降の原油生産量の急激な減少を抑えることができず、OPEC参加国であるにもかかわらず、その生産枠を満たす量を生産できない国の一つである。生産量減少の主たる要因は、(1)主要油田での自然減、(2)2014年以降続いている上流投資(CAPEX)不足、(3)CAPEXや操業費の不足による設備の老朽化、(4)投資不足に伴う新規プロジェクトの遅延、等の4つが考えられる。加えて、2020年にはCovid-19による油価低迷、また一層のCapex減少による追い打ちで、生産量はさらに減少した。

図 2:各国のCapexとOPEX
図 2:各国のCapexとOPEX
出所:Woodmac

同国では2020年11月に、TotalEnergiesがオペレーターのBlock 17 Zinia phase 2が生産開始、2021年5月にEniがオペレーターのBlock 15/06のCuica油田が生産開始、2021年7月に同じくBlock 15/06のるCabaça North油田で生産を開始、さらに2021年11月にBPのBlock 18 Platina 油田の生産が開始、加えて2021年12月にBlock 17のCLOV Phase 2(Cravo、Lirio、Orquidea、Violetaの4つの油田の総称)が生産を開始するなど1年以内に5油田で生産開始に漕ぎつけた。

また、TotalEnergiesのZinia phase 2は、既存のFPSOに接続するという方式がとられているが、これは既存油田の周辺で小規模油田開発を行う「ニア・フィールド」プロジェクトの典型例的事例である。例えば、Block 15/06のCuica油田、Cabaca North Field、Block 18のPlatina 油田、Block 17のCLOV Phase 2の事例でも同様のコンセプトで開発されており、Block 15/06のCuica油田では油田の発見からわずか6ヶ月で生産が開始となった。

 

(3) 同国の主な石油開発事業

同国の主な石油開発事業は、Block 15、Block 17、Block 32の深海油田である。これら油田の生産量だけでアンゴラの原油生産量のおよそ68%を占めている。

表 1 : アンゴラの主な石油開発事業
鉱区 生産量(2020年) 企業(オペレーター) 位置

Block 15

(Kizomba A、B、C、15/06 East Hub、West Hub)

計30.2万b/d

Exxonmobil

Eni
深海

Block 17

(CLOV、Dalia/Camelia、Girassol and Jasmim等)
計34.8万b/d TotalEnergies 深海

Block 32

(Kaombo)
21.6万b/d TotalEnergies 深海

各種資料よりJOGMEC作成

 

なお、アンゴラの鉱区は一つの鉱区内でも細分化されており、Block 32の中でも生産油田周辺以外のエリアについては、改めて2021年の入札に付される鉱区の一つである。

 

2. 石油増産を促すための施策

(1) 「Oil licensing strategy 2019 – 2025」

この戦略はアンゴラ国内での原油増産を目的としており、2019年2月にアンゴラ政府によって発表された。当戦略では2019年から2025年までの間に全5回の入札と2019年には直接交渉が計画されている。具体的には、「公開入札」、必要なスキルと経験を持つ企業のみ(外国石油会社等)を対象に行われる「限定公開入札」、「直接交渉」のいずれかに基づいてより落札されることが定められている。2019年には公開入札と直接交渉、2020年は公開入札、2021年に限定公開入札、2023年には公開入札、2025年には限定公開入札、と5回の権益付与の機会が予定されている。この期間中に付与される対象の鉱区には過去の入札で対象となったことのある鉱区もある。2019年の公開入札、直接交渉ついては終了、2020年の公開入札については、パンデミックの影響でいくつかのプロセスが遅延し、2021年4月30日に応札受付が開始され、2021年9月24日に落札者が決定された。契約締結日は2022年1月28日を予定している。

表 2 : Oil licensing strategy 2019 – 2025

対象年

対象鉱区 方法
2019年 (深海鉱区)
Block 11、12、13、27、28、29、41、42、43(Namibe堆積盆地)
Block 10(Benguela堆積盆地)
公開入札
2019年 深海鉱区)
Block 6、30、44、45、46、47
直接交渉
2020年 (陸上鉱区)
CON 1、5、6(Congo堆積盆地)
KON 5、6、8、9、17、20(Kwanza堆積盆地)
公開入札
2021年 (深海鉱区)
Block 31、32、33、34
Block 7、8、9、16
限定公開入札
2023年 (陸上鉱区)
CON 2、3、7、8
KON 1、3、7、10、13
公開入札
2025年 (深海鉱区)
Block 22、23、35、36、37、38
限定公開入札

各種資料よりJOGMEC作成

 

(i)地場企業に向けた動き

「Oil licensing strategy 2019 – 2025」に基づき過去に実施された入札の中で、2020年の公開入札では陸上鉱区に地場の中小企業による石油・ガス産業への参入促進が図られた。

その内訳はCongo堆積盆地3鉱区とKwanza堆積盆地6鉱区の合計9鉱区であった。当入札の結果、計45件の応札があり、また、参加した16企業の内13企業が国内の企業であった。Alpha petroleumやSomOilといった生産経験がある地場企業の一方、全く関係のない警備業のOMEGA Risk Solutionsといった地場企業も応札をした。国家石油ガス庁ANPG(Angola’s National Oil, Gas and Biofuel‘s Agency)は今回の公開入札で、石油・ガス部門への新規参入の事業者の関心を高める意向であった。また、これらの陸上鉱区の開発により、アンゴラの生産量を4%~10%増加させる可能性があることから、新規参入事業者の関心を集めるべく、2つの策を講じた。第一に入札条件の引き下げである。入札への参加手数料を通常100万ドルのところ50万ドルへ引き下げた。また、第二に陸上鉱区についてはサインボーナスを撤廃した。

この結果、対象9鉱区のうち8鉱区が地場の中小石油企業に付与された。その内、5鉱区は地場企業がオペレーターを務めることとなり、新規事業者の参入促進の観点では大きな成果となった。African Energy Chamberも、「競争が激化し、投資を敬遠する世界的な環境の中で、珍しい結果」とこの結果を称賛している。

2021年9月にアンゴラの国家経済社会開発大臣のManuel Nunes Junior氏はAOG(Angola Oil & Gas 2021)にて、「エネルギー産業における我々の最も重要な戦略は、引き続き人的資本の育成であり、また、石油・ガス部門をサポートするアンゴラ製の製品やサービスを供給する地場企業の参加を増やすことである。」と発言しており、地場企業の育成に力を入れていることが分かる。また、2023年の公開入札においても同様のスキームで地場企業の参入促進を促す動きが見られる可能性もあると考えられる。

鉱区のポテンシャルの面ではポストソルト層の鉱区という点や公開されているデータにより、Kwanza堆積盆地の方が有望であるとの声も出ている。陸上鉱区は技術的に難易度が低いため、地場の中小企業には参入が比較的容易であり、経験を積んだのちに、沖合鉱区など、より難易度の高いプロジェクトに取り組ませるような構図を政府も期待しているのであろう。今後、これら地場の石油企業は地元の若年労働者の雇用主として、失業率引き下げにも大きな役割を果たし、自国経済を活性化するという期待がかかる。ただ、これら企業は操業経験が不足し、資金調達能力にも限界があると考えられることから、今後政府がいかなる支援をするかも重要になってくるだろう。

表 3:2020年の陸上鉱区入札に応札した企業
地場企業(13社) Somoil、PRODOIL、Alpha Petroleum、Omega Risk Solution、Tusker Energy、AIS、PRODIAMAN、Monka Oil、Mineral One、UPITE Oil Company、Simples Oil Group、Service Cab、Sonangol P&P
外国企業(3社) Briteoil 、 Intank Group 、 MTI Energy

各種資料よりJOGMEC作成

 

(ii)国際企業向け

「Oil licensing strategy 2019 – 2025」において、限定公開入札と直接交渉では、これまでのアンゴラでの実績とそれに対する政府からの信頼もあることから、すでにアンゴラに参入しているIOCに有利に働くと考えられる。加えて深海鉱区であることから、なおさら技術力の面でIOCに有利に働くものと考えられる。

2019年の深海鉱区の公開入札では、対象10鉱区のうち、3鉱区に応札があった。各鉱区のオペレーターとパートナーは表4通りである。入札手続きが開始されてから応札締め切りまでの期間が1ヶ月と短かったこともあり、応札があった鉱区数は少なかった。

表 4: 2019年公開入札実績
鉱区 オペレーター パートナー
Block 27 Sonangol(100%) ×
Block 28 Eni(60%) Sinopec(20%)、Sonangol(20%)
Block 29 TotalEnergies(46%) Equinor(24.5%)、Sonangol(20%)、BP(9.5%)

各種資料よりJOGMEC作成

また、2019年には公開入札以外にも同戦略に則り、ExxonMobilとの間で直接交渉が行われ直接交渉対象6鉱区(Block 6、30、44、45、46、47)のうち、3鉱区(Block 30、44、45)がExxonMobilに付与されることになり、リスクサービス契約を締結した。

2021年の限定公開入札については、2022年1月上旬に限定公開入札参加のための案内状を送った後、そのわずか35日後、応札が締め切られることになっている。また、入札の契約締結は2022年の5月を予定している。

 

(2) 「Permanent Offer Program」

「Oil-licensing strategy 2019-2025」により落札されなかった鉱区については、探鉱・開発をさらに促進するために策定された「Permanent Offer Program」(2021年8月下旬アンゴラ政府承認)により入札の対象になる可能性が出てきた。このプログラムは「Oil-licensing strategy 2019-2025」とは全く別の新たな政策である。このプログラムの導入により、「Oil-licensing strategy 2019-2025」にて応札されなかった鉱区(鉱区内の未付与エリアを含む)や契約期間が満了した油田につき、直接交渉が可能となった。この結果、2019年の入札で応札のなかったNamibe盆地の7鉱区Block 6、11、12、13、41、42、43、Congo堆積盆地(超深海)46、47やBenguela盆地のBlock 10については直接交渉が可能となった。また、それ以外の鉱区も公開入札や限定公開入札で落札者がなければ、直接交渉の対象となる。例えば、2025年の限定公開入札で予定されている鉱区が落札されなければ直接交渉の対象となる。

もともと同国では一部IOCがアンゴラ政府と直接交渉していると報じられていたが、このようなプログラムが打ち出されたことで直接交渉がさらに盛んになり、アンゴラへの探鉱開発投資がさらに拡大することが期待されている。

 

(3) 「Hydrocarbon Exploration Strategy 2020-2025」

また、2018年5月18日の大統領令により「Hydrocarbon Exploration Strategy 2020-2025」が定められた。これは、経済性の低いマージナル油田の開発を促進することを目的としており、もしも「マージナル油田」と認定されれば、税率は石油生産税(通常は20%)や石油収入税(通常は50%)はそれぞれ半分の25%と10%に引き下げられる。これによりプロジェクトの現在価値は15%~80%増加し、損益分岐点も15%~20%低下すると試算されている。マージナル油田の収益性が大幅に改善され、これまで経済的理由で開発が困難であった超深海、あるいは小規模の油田の開発が促進されることが期待された。この結果、既存油田の追加開発支援のための大統領令の発令以降、Block 0、14、16、17、31がマージナル油田と認定され、優遇措置を得たことから、開発が進み、生産も始まっている。

表 5 : マージナル油田の対象となるための条件とその税率
表 5 : マージナル油田の対象となるための条件とその税率
ANPGを参考にJOGMEC作成

(4) 契約延長と契約条件の変更

さらにアンゴラ政府は、特に契約延長や契約条件の緩和にも柔軟な姿勢を見せるようになってきた。徐々に見られるようになった。これは2015年以降、生産量が減少したことで、GDPの約1/3を原油販売収入に依存するアンゴラが背に腹は代えられず、国際石油会社からの契約条件変更の要求を吞まざるを得ない地合いになったためと考えられる。

加えて、石油産業に対する規制・運営機能を国営石油会社のSonangolから分離して移譲した新たなANPGが2019年に本格的に業務を開始したことにより、ANPGの契約承認プロセスが迅速になったこともこれを後押ししたと考えられる。

契約の延長や契約条件の再交渉が行われた鉱区として大きく報道されているものはBlock 14、15、17である。ExxonMobilが主導するBlock 15については、PSAの変更により、操業期間が2032年まで延長され、Totalが主導するBlock 17については、ライセンスを2045年まで延長、Chevronが主導するBlock 14では契約を2028年まで延長したことに加えて、PS契約の条件を石油会社に有利なものに変更するMOUを締結した。また、2021年12月6日にはChevronがBlock 0のコンセッション契約を2050年まで延長することを発表した。

 

3. 同国での新たな動きと考察

ところで、アンゴラではEniとBPにおける上流資産の地域JV化の動きが注目されている。両社は2021年5月19日にプレスリリースにてアンゴラで合弁会社を設立するための拘束力のないMoUを締結したと発表した。特に、BPがオペレーターを務めるBlock 31においても、Eniがオペレーターを務めるBlock 15のように追加開発のための投資の動きが活発化する可能性があり、同国の生産量の増加が見込まれる。

このJVの目的は主に4つあると考えられる。1つ目がシナジーによるコスト削減である。物流、機材の調達、施設の合理化、人的資本、知識等も共有可能であり、多くの運営コストが削減されることが期待できる。2つ目が意思決定の迅速化である。当然、新JVには独立した意思が必要にはなるが、アンゴラでの探鉱開発事業の自主性を高め、意思決定を迅速化し、ひいては石油・ガス資源の早期マネタイズが可能にしようとする目的である。3つ目は独自資金調達可能性の追求である。特に、生産中油田の資産、つまりキャッシュフローを新JVに持たせ、親会社は基本的には株主責任を果たす立場になる。これにより、JVは投資の決定を親会社にゆだねる必要がなくなるとともに、JVが必要に応じて一部の資産を売却して追加開発費用を調達する等、自らの裁量で資金調達を行えるようになる。例えば、「探鉱・開発」のための資金調達を、JVが自ら株式を上場するなど選択肢の幅が広がる。ちなみにEniとBPのアンゴラにおける資産を統合すると、アンゴラで最大の生産量になることが確実である。さらには、JVが独自に資金調達すれば、親会社が「アンゴラでの探鉱・開発」という目的で新たな資金調達をする必要もなくなる。また、新JVが廃坑義務を負うことで、親会社が廃坑等、撤退に係る義務やライアビリティを回避できる可能性もあるだろう。

4つ目の目的は環境面での配慮である。親会社の出資比率が下がることにより、新JVを子会社ではなく関係会社化させ、将来、JV会社の二酸化炭素排出量等、環境負荷を親会社に連結せずに済むように備えている可能性も考えられよう。特にBPには、コングロマリットであるAker社とのJV、「Aker BP」の事例がある。Aker BPは2016年の設立以降、株価が4倍ほど上昇している。2021年11月にAkerとBPは、合計5%の株式を6億5、500万ドルで売却し、この企業価値上昇の恩恵にあずかった。

また、BPはJV子会社であるAker BPとの間で決算を連結していない。Eniもプライベートエクイティ系のHitecVision社とのJV子会社を持っているが、EniもこのVar Energiを連結対象としていない。バランスシート上は、「株式投資(Equity Finance)」に計上しているだけで、環境負荷も連結させないで済ませることができると考えられている。なお、以前はBPはアンゴラから撤退する動きを見せていたが2021年のBP第三四半期決算の中でCEOのBernard Looney氏は「当該JVは2020年の早い時期に設立が完了する」と述べており、JVは設立するものの、BPは「撤退」という形をとる必要がなくなり、産油国の機嫌を取りつつ、JVに探鉱開発を継続させる構えであると思われる。

なお、アルジェリアでも同様にBPとEniが上流資産の統合について、話し合っていると報じられている。特に欧州系メジャーズが、将来の探鉱開発事業をSpin Offする際にこの手法を多用する可能性があり、この動きについては引き続き注視し、考察を深めていきたい。

 

4. まとめ

以上を踏まえて最後に今後の同国の生産量はどうなるのかについてまとめたい。同国の生産量は様々な探鉱開発促進策を打ち出しており、一部ではその効果も表れてきていると判断されることから、短期的には回復すると考えている。

例えば、TotalEnergiesが2021年10月から2022年2月まで超深海Ondjaba – 1の掘削すること、Eni社がBlock 15/06内の第3の生産拠点であるBlock 15/06 Agogo-3のFIDを予定していることは更なる生産量上積みに期待を抱かせるものだし、BPとEniのJV化という新たな動きに伴う投資活性化、Block 0のLifua A、B、C、Block 17のDalia Phase 3などの既存油田の周辺追加開発計画などが控えており、短期的な生産量増加は期待される。

ただ、政府の促進策による、長期的な生産量見通しを立てることは難しい。恐らく、長期的には、新たな大型油田の発見やその開発が進まない限り、生産量を底上げすることは難しいと考える。

アンゴラはCO2の含有量が高い油田が多いことからIOCが生産を継続できるコストと財務条件を実現できるかに加え、今後の油価の動向、地場企業への技術力・資金力を含む政府支援、国営石油会社Sonangolの再編による生産活動への注力などが今後のアンゴラの石油生産量に影響を与えるだろう。

Sonangolについては、2021年8月6日の会合で、Diamantino Pedro Azevedo鉱物資源・石油・ガス大臣が、「2020年から2027年までの探鉱・生産戦略を実施しており、炭化水素の探鉱活動を活発化させることと、生産量を国の現在の水準から10%以上引き上げるために操業計画と投資を遵守することに重点を置いている」と述べている。しかし、Sonangolは、石油以外にもメディア、エンターテインメント、航空、テクノロジー、金融など様々な分野の子会社を擁しており、その規模の大きさから、改革にはすでに約3年を要しており、加えて資金繰りに苦しむSonangolの合理化計画の一環として、8つの沖合鉱区の一部株式を売却している最中であることから、この計画を実現するにはさらに時間を要するだろう。

引き続き、同国の生産開発の動きに注目していきたい。

 

以上

(この報告は2021年12月13日時点のものです)

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