ページ番号1009212 更新日 令和3年12月16日

米国上流開発企業のパイプライン事業戦略 ―マスター・リミテッド・パートナーシップを活用した持続可能な資金調達―

レポート属性
レポートID 1009212
作成日 2021-12-16 00:00:00 +0900
更新日 2021-12-16 15:43:07 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業
著者 古藤 太平
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 14
抽出データ
地域1 北米
国1 米国
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 北米,米国
2021/12/16 古藤 太平
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概要

  • 2021年10月下旬に発表された2件のマスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP)合併・買収案件はいずれも天然ガス事業でのガバナンス向上による統合効果を目指している。エネルギートランジションやESG投資に対する機運が高まる中での上流開発企業によるシェール開発・設備投資資金調達の取り組みとして注目される。
  • 米国の原油・天然ガス生産は新型コロナウィルス感染拡大前のピークに達していないが、天然ガスの増産ペースは石炭からの発電用燃料転換と液化天然ガス需要の増加により継続する見込みである。
  • 米国上流開発企業にとってエクイティファイナンスは設備投資のための持続可能な資金調達として期待される。合併・買収や中流事業資産を通じた設備投資資金の調達により投資を拡大する企業と、エネルギートランジションの流れの中で投資を拡大できない企業に二分化する傾向が見られるが、インフラ投資・雇用法案やCOP26における脱炭素関連の取組み進展により将来の不確実性が低下することで、排出削減関連のインフラ投資が加速することが期待される。
  • 上流開発企業の設備投資に対する影響としては、国内でバイデン政権が推進するインフラ投資・雇用法案、海外でCOP26を踏まえた温室効果排出削減の取組みの進展に加え、プライベートエクイティによる二酸化炭素回収貯留設備や輸送パイプライン等の中流事業資産に対する短期で高利回りの投資拡大の動きも注目される。

(各社/各機関・決算書、ホームページ、報道等)

 

1 はじめに

2010年代に急速に拡大したシェールオイル・ガス生産の主要な担い手である米国の独立系上流開発企業では中流事業資産を別会社として上場することで株式市場から資金調達を行っている[1]。この別会社はマスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP)と呼ばれる共同投資の事業形態を取っており、上流開発企業が自ら建設し操業を安定させたパイプライン、集油・集ガス、貯蔵施設等のシェール開発関連インフラ設備に対する出資持分を流動化することで財務基盤の強化に利用してきた。

2021年10月下旬、油価・ガス価が上昇傾向にある中、2つのMLP合併・買収(M&A)案件が相次いで発表された[2],[3]。いずれも上流開発企業にとっては天然ガス関連資産のガバナンス向上により統合効果を実現するものであり、エネルギートランジションやESG投資に対応した上流開発企業による持続可能な資金調達の取り組みとして注目される。


[1]   拙稿「『シェール革命』が上流開発企業の財務にもたらした変化」(石油・天然ガスレビュー Vol. 50 No. 6、2016年11月:https://oilgas-info.jogmec.go.jp/review_reports/1006577/1006600.html

[2]    “EagleClaw-Altus to create midstream ‘super system’ in Delaware Basin: CEO”, Platts Oilgram News, 2021年10月21日

[3]    “Crestwood Equity Partners to acquire Oasis Midstream for more than $1.1 bil”, Platts Oilgram News, 2021年10月27日

 

2 MLPのM&Aによる独立系上流開発企業の資金調達

MLPはパイプライン・貯蔵設備や液化設備など石油・天然ガスの中流事業資産を中心に、上流・下流を含めた設備投資を行い、運営・管理することで事業収入を得ている。収入の大宗は設備使用料であり、設備が安定的に稼働する限りキャッシュフローは安定する。投資形態にはGeneral Partner (GP)とLimited Partner (LP)の2つがあり、GPの主体は独立系上流開発企業の創業者、経営者、プライベートエクイティなどで、自己資金の2%程度を出資して経営に対する無限責任を負う。GP出資分以外の出資金はLP出資と呼ばれ、証券取引所等で売買されることが一般的であるが、GP出資者が併せて多額のLP出資を行うことで非上場となるものも多い。

MLPによる資金調達:エクイティファイナンス

1) EagleClaw MidstreamによるAltus Midstreamの合併・買収

2021年10月21日、プライベートエクイティ・ファンドのBlackstoneとI Squaredが主導する中流専業・非上場MLPのEagleClaw Midstream Company (EagleClaw)が上場MLPのAltus Midstream Company(Altus、Nasdaq上場)を14億ドルで合併・買収することを発表した。合併前のAltusに79%出資する親会社Apache (APA Corp)は、パーミアン堆積盆地内のデラウェア西部のAlpine High地域で大規模なシェールガス開発を推進中である。

AltusはAlpine Highに付随する集ガス設備のほか、天然ガスパイプラインのGulf Coast Express Pipeline、Permian Highway Pipeline、NGLのShin Oak Pipeline、原油のEPIC Pipelineといった中流事業資産を保有する。一方のEagle ClawはEagle Claw Midstream、Caprock Midstream、Pinnacle Midstreamといった集油・集ガスシステムに加え、Delaware Link Pipeline、Permian Highway Pipelineの2本の幹線パイプラインを保有する。

EagleClawとAltus (ALTM)の合併・買収

Eagle Clawの随伴ガス処理能力には余力があるためAtlasを補完することが可能であり、またメタン漏出・フレアリング管理を経験豊富なAltusに移植することで、合併・買収のシナジーを達成できると考えられる。またEagleClawとAltusはいずれも2021年1月に完成・操業中の天然ガス幹線パイプラインのPermian Highway Pipelineに各々26.7%出資しており、合併後の新MLP(ALTM)は天然ガス幹線パイプラインのPermian Highwayの53%を保有する親会社となり、パーミアン堆積盆地・デラウェア地区で最大級の集油・集ガス設備とパイプライン資産保有会社となる。

合併・買収のシナジーはメタン漏出・フレアリング管理等の移植・展開によるガバナンス態勢の高度化に加え、資金調達の合理化のメリットも指摘できる。各事業体・組合ごとの資産を担保として行っている資金調達を上場MLPに集約することで、コストを節約するだけでなく将来的にはグリーンボンドやESGボンドの発行による調達力の向上を目指すことも可能になる。

事業部門別の利益収益度では、集油・集ガス事業(66%)、天然ガスパイプライン(28%:Permian Highway Pipeline、Gulf Coast Express Pipeline)、石油パイプライン(6%:Shin Oak Pipeline、EPIC Pipeline)の順で集油・集ガス、天然ガスパイプライン事業の利益貢献が大きくなっている。

合併後 新MLPのパイプライン資産

EagleClawとAltusの両方が所有する資産であるPermian Highway Pipelineはパーミアンの天然ガスハブWahaとヒューストンのシティゲートKatyを結ぶ天然ガス幹線パイプラインであり、2021年1月に操業が開始され、また7月にはもう一つの幹線ガスパイプラインWhistler Pipelineが完成した。従来は、パーミアンから天然ガスを輸送する能力が不足していたため、多くのガスがフレアされ、天然ガスのハブであるWahaでのガス価格は大きくディスカウントされていた。しかし、これらのパイプラインが完成したことで、パーミアンの天然ガスがメキシコ湾岸のLNG設備に供給されるようになり、併せてWahaでのディスカウントもほぼ解消された。パーミアンでは掘削リグ稼働数が徐々に増加していて、石油生産量の漸増に併せて、ガス生産量も増加すると見込まれており、Permian Highwayガスパイプラインの稼働率はさらに高まり、中流部門の収益性も向上が見込めると考えられる。

パーミアンからメキシコ湾への天然ガス輸送のボトルネックが解消されたことはパーミアンのシェールガス増産にも寄与している。Permian Highway Pipelineの操業開始後1年近くが経過しキャッシュフローが安定したところで、折からの海外天然ガス市場における価格上昇のタイミングを捉えて、幹線パイプライン持分権益の一部を売却したことにより、上流開発企業のApacheにとって今後見込まれるリグ稼働増等の上流設備投資に向けた資金調達ができたとも考察される。

 

2) Crestwood Equity Partners LPによるOasis Midstream Partners LPの合併・買収

2021年10月26日、プライベートエクイティ・ファンドFirst Reserveが母体の中流専業MLPで、全米の主要な油・ガス田エリアで、集油・集ガス、パイプライン事業を行うCrestwood Equity Partners (Crestwood)が、バッケン地域でシェール開発を手掛ける中堅上流開発企業Oasis Petroleumにより 7割出資されている中流事業MLP、Oasis Midstream Partners (Oasis Midstream)を11億ドルで合併・買収することを発表した。Oasis Petroleumはシェールオイル開発が主力の独立系上流開発企業であるが、Crestwoodが目を付けたのは処理能力に余力のある自社の集ガス・処理設備を活用して随伴ガスを処理することにより合併効果を実現する点にあった。

CrestwoodとOasis Midstreamの合併・買収

CrestwoodによるOasis Midstreamの買収は、買手も売手も上場MLPであり、EagleClawとAltusのPermian Highwayのような幹線パイプラインを保有している訳ではないが、バッケンの集ガス能力に余裕のあるCrestwoodはフレアリングの多いOasis Petroleumの中流事業MLPをターゲットとして着目した。

バッケン地域全体のシェールオイル生産量は2019年12月にピーク150万b/dを記録したが、新型コロナウィルス感染拡大とOPEC・ロシアのシェア競争による生産調整のため2020年5月85.2万b/dまで減少した。その後、徐々に増加し2021年9月には109.8万b/dまで回復しているが、バイデン政権が州を跨ぐパイプライン建設許認可を停止していることに加え、随伴ガス処理能力の不足もボトルネックとなって、メキシコ湾岸の積出設備に州境を越えずにアクセスできるテキサス州パーミアンのようには生産量が増えていない。

Crestwoodの着眼点はサプライチェーンのボトルネックへの投資によるバリューアップ、ESG投資や社外取締役など中流専業MLP特有のガバナンス態勢の強みを上流開発企業子会社MLPに展開することで買収・合併のシナジー・バリューアップを実現することである。これは、プライベートエクイティにとっての出口戦略の一つとも位置付けられよう。

 

3 米国における石油・ガスの生産動向

折からの油価・ガス価の高騰とM&Aによる統合効果により企業価値向上を実現することができることは、エネルギートランジションやESG投資の要求の高まりによりシェール開発に必要なリグ追加のための設備投資資金調達に課題を抱える上流開発企業にとって新たな投資資金の調達となることが期待される。他方、プライベートエクイティにとっては新たな高利回りの投資機会として、今後は二酸化炭素回収貯留設備や二酸化炭素輸送パイプラインなど、CCS関連の中流事業資産が広がる可能性も注目される。

 

1) 原油生産・シェールオイル生産

米国における原油生産は新型コロナウィルス感染拡大に伴う需要減少等による油価下落を受け2020年4〜5月頃に一旦減少したが2021年7月には1,133万b/dまで回復していた。しかしながら8月末に上陸したハリケーン・アイダによる生産途絶の影響によりその後の生産回復のペースはやや鈍っており、米国エネルギー情報局(EIA)の見通しは2021年通年1,110万b/d、2022年1,190万b/dとなっており、新型コロナウィルス感染拡大前のピーク(2019年11月の1,297万b/d)を回復することができていない。

また、新型コロナウィルス感染拡大による生産停滞は一時的なものではなく、需要が回復しても設備投資が回復しないため、生産が拡大基調になかなか戻って来ない。投資家からの財務規律・株主還元に対する要求にエネルギートランジション・脱炭素の動きが加わって需要見通しの不確実性が高まっているため、上流開発企業は設備投資拡大に慎重になっている。

米国の原油価格・生産動向

シェールオイル生産については、新型コロナウィルスの感染が拡大する以前は原油価格が上昇してシェールオイルの採算分岐点を超えると米国の独立系上流開発企業が投資・生産を拡大するため価格を下押しする力が働いていた。しかしながら新型コロナウィルス感染拡大後の需要回復過程においてはシェールオイルの生産量回復は鈍くなっており、足許の米国シェールオイル生産量は840万b/d程度とピーク(2019年11月)の844万b/dを下回る水準で推移している。気候変動問題を重視し温室効果ガス排出削減策を推進するバイデン政権の化石燃料開発拡大に対する慎重方針や温室効果ガス排出ネットゼロ目標の実現に向けた国際的な取組みの進展により長期的な石油需要が見通し難く、シェールオイル開発に対する投資資金が米国全体では大きくは増加していない。

そのような中でもシェールオイル生産は最大生産地であるパーミアンが牽引している。現状の相対的に高い原油価格水準が続けばイーグルフォード・バッケンなど他の鉱床にもシェールオイルの増産が広がっていく可能性が指摘されるが、新型コロナウィルス感染拡大に加えてエネルギートランジションやESG投資に対する機運が高まる状況下、独立系上流開発企業がパーミアン以外の地域で掘削リグ追加投資拡大等の投資を拡大することは見通し難い。このため掘削済み未仕上げ坑井(DUC)の在庫取り崩し傾向が継続しており、掘削装置稼働数は徐々に増加しているが、新型コロナウィルス感染拡大前の水準には至っておらず、人材不足や原材料費上昇などの課題に直面するシェール開発企業にとっては生産性向上の為にIT・デジタル技術を活用する等の取組が頼らざるを得ない状況にある。

鉱床別シェールオイル生産動向


2) 天然ガス生産・シェールガス生産

米国の天然ガス生産は、新型コロナウィルス感染拡大前の水準を回復できないという点では原油と同様である。新型コロナウィルス感染拡大の影響により2020年前半にガス生産量が減少した後、同年後半から上昇傾向に転じ、2021年2月の大寒波による生産減を除けば足許の951億cf/dまで回復しているが、過去ピーク(2019年11月)の972億cf/dには達していない。

しかしながら、設備投資資金の流入が頭打ちのため、なかなか増産ペースが続かない原油とは対照的に、天然ガス生産の増加傾向は2022年も持続する見通しである。この背景には国内ではパンデミックによる一時的な需要減少後も石炭からガスへの発電用燃料需要の転換が継続していること、さらに天然ガス輸送パイプライン・液化設備(LNG)の整備が進んだことにより欧州・アジアなど海外からの液化天然ガス需要の増加への対応が進んでいることが挙げられる。原油需要にとっては制約要因となるばかりのエネルギートランジションが、天然ガスにとっては部分的ながら需要を増加させる要因となっている点が注目される。

米国の天然ガス価格・生産動向

シェールガス生産ではシェールオイル生産に比して生産拡大傾向が一段と顕著である。主要地域・鉱床毎の生産動向をみると、シェールオイルでは新型コロナウィルス感染拡大後パーミアンへの集中が進んだのに対し、シェールガスではパーミアンと並んでメキシコ湾岸の液化・積出設備へのアクセスが改善したヘインズビルで生産が増加しているほか、(イーグルフォード・バッケン・ウーチカは横ばいであるが)石炭火力発電からガスへの転換によりマーシェラスでもシェールガス生産は堅調に推移している。液化設備の増強によりシェールガス生産に対する海外からの米国産LNGに対する需要の増加への対応も進んでいる。

そして先も述べた通り、2021年1月のPermian Highway(2.1Bcf/d)、7月Whistler(2.0Bcf/d)の稼働開始により天然ガス輸送パイプラインのボトルネックが解消されたことも天然ガスの生産増加に寄与している。

鉱床別シェールガス生産動向


3) 上流開発企業の合併・統合

米国シェールオイル・シェールガスの生産の担い手である独立系上流開発企業はエネルギートランジションやESG投資に対する機運が高まる中で設備投資資金の調達に課題を抱えている。金融機関からの資金調達が難しくなったため、企業間の合併・買収による産業構造の集中化、企業の統合が進んでいる。

エネルギーインテリジェンス社がPetroleum Intelligence Weekly誌に発表している世界の石油・天然ガス企業ランキングでもこの状況を確認することができる。同社は生産量・埋蔵量、製品販売量、精製能力(量)の順位点に基づきEnergy Intelligence Top 100ランキングとして発表しており、2021年11月に発表されたランキング[4]では10位以内にExxonMobilとChevronが入っている他、11位以下に19社が入っている。Chevronが10位に繰り上がっているので米系企業は1社増えた形になっている。

世界の石油・天然ガス生産量の約8割を上位100社が占め、生産量・埋蔵量では国営石油会社、製品販売量・精製能力ではメジャー・独立系石油会社が大きな割合を占める形になっている。生産量の割合では7%にすぎない米国石油・ガス企業がTop 100社に21社もランクインしており、買収・合併による企業統合が米国で進んでいることがその背景にある。


[4]    “Nowhere to Go But Down for Majors in Rankings”, Petroleum Intelligence Weekly, 2021年11月19日

エネルギーインテリジェンスTop 100:上位10社及び11位以下の米国企業リスト

新型コロナウィルス感染拡大以降、油価が回復しても設備投資が増えないためシェール開発業界では企業統合の動きが加速しており、メキシコ湾岸アクセスで有利なパーミアンやヘインズビルに資産を持つ企業の大型買収案件が集中している。米国投資家のエネルギートランジションに対するスタンスは、欧州系メジャーに対する環境活動家のような急進的なものとは一線を画す現実的なものであると考えられ、これらの買収や統合に向けたエクイティファイナンスが活発化する動きは当面継続する見通しである。

新型コロナウィルス感染拡大後の米国シェール関連企業の合併・買収事例 (20億ドル超)

4 米国上流開発企業による持続可能な設備投資・資金調達

米国上流開発企業にとってエクイティファイナンスにより掘削装置及び関連インフラに対する設備投資・資金調達を持続していく上で、国内的にはバイデン政権が推進するインフラ投資・雇用法案、国際的にはCOP26を踏まえた温室効果排出削減の取組みの進展が注目される。

 

1) インフラ投資・雇用法案

インフラ投資・雇用法案(Infrastructure Investment and Jobs Act)は8月10日に上院で承認された後、11月5日に下院を通過し15日バイデン大統領が署名して成立した。1.2兆ドルを国民への投資を称して交通・エネルギー・水関連インフラ整備に充て雇用創出するというものであり、このうち温室効果ガス排出削減関連に5,550億ドル(出資、貸付、補助金、政府調達を含む)を支出し、年間10億トンの温室効果ガス排出削減を目標としている。

インフラ・投資雇用法では、温室効果ガス排出削減のための設備投資に対する減税措置を10年延長するほか(3,200億ドル)、低炭素投資へのインセンティブ(1,100億ドル)、気候変動対策投資(1,050億ドル)、次世代技術の研究開発・政府調達(200億ドル)等が手当てされており、二酸化炭素輸送パイプラインなどのインフラ設備や水素ハブ建設といった上流開発企業の持続可能な設備投資に対する支援策にとして期待される。このような施策により、経済性に対する不確実性を低下させることによりCCS等の低炭素投資が進めば、上流開発企業の投資拡大を後押しするベクトルとなることが期待できる。

インフラ投資・雇用法案(Infrastructure Investment and Jobs Act)


2) COP26における脱炭素化の進展

第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では石炭火力発電の削減や先進国による資金拠出の遅れなど様々の議論があったが、石油・天然ガス上流開発企業の設備投資・資金調達に関連する論点としては、CCS推進、カーボンニュートラル石油・天然ガス、グリーンファイナンス活用、革新的排出削減技術という4つのポイントが挙げられる。

メタンガス排出やフレアリングの削減は確かに上流開発企業全体にとってはコスト増であるが、すべての生産国が公平に取り組むルールができるのであればESGガバナンス態勢整備で先行する米国上流開発企業にとっては追い風になる側面もあると言える。

第26回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP26)の上流・中流事業ファイナンス関連論点


5 まとめ

米国上流開発企業にとって2010年代のシェール革命のような設備投資ブームが再現する可能性は高くなく、エネルギートランジションやESG投資に対する機運が高まりの中で投資を拡大することができない企業と、合併・買収やパイプライン・LNG関連資産のエクイティファイナンスにより投資を拡大する企業の二分化する傾向は継続すると見られる。

上場企業が設備投資を拡大しにくい中、メジャー企業と並んで上流開発投資を拡大することが期待されるプライベートエクイティであるが、インフラ投資・雇用法(および審議中のビルドバックベター法案)による税制優遇措置の拡充により、CCS・水素・CO2輸送パイプライン等のインフラに対する投資が短期・低リスク・高リターンの機会を提供する可能性も指摘される。

米国の上流開発企業の持続可能な設備投資に影響する要因として、バイデン政権が推進するインフラ投資・雇用法案やCOP26を踏まえた温室効果排出削減の取組みの進展、プライベートエクイティによる中流事業資産に対する投資拡大の動きに注目して参りたい。

 

以上

(この報告は2021年12月15日時点のものです)

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