ページ番号1009217 更新日 令和3年12月20日
豪州WoodsideとBHP石油部門の合併およびWoodsideのScarboroughガス田開発とPluto LNG Train-2のFIDについて
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概要
豪州のWoodsideとBHP石油部門が合併にむけ大きく前進した。2021年8月17日に既に合併の方向性は発表されていたが、11月15日にWoodsideが独自に進めていたPluto天然ガス液化プラントの新設Train-2 の権益49%を豪州の資源系ファンドであるGIP (Global Infrastructure Partners) へ売却することが発表された。その後の11月22日には、Pluto Train-2へ原料ガスを供給するScarboroughガス田およびPluto Train-2のFIDが発表されるに至った。両プロジェクトのFIDを踏まえて、同日WoodsideとBHPは、WoodsideとBHPの石油部門との合併に関する株式売却契約 (SSA: Share Sales Agreement) の締結が行い、合併に向けて前進が図られた。新Woodsideはグローバルな独立系石油・天然ガス開発企業のトップ10に入ると述べている。本報告では、前半部分をWoodsideとBHP石油部門の合併について、後半部分では合併の契機にもなったPluto LNGの新設Train-2とScarboroughガス田開発について触れ今後のWoodsideのLNG戦略について述べることにする。
2021年11月22日に締結されたSSAは、8月17日の合併に向けての両社発表に沿うものである。本来ならばWoodsideとBHP石油部門(子会社BHP Petroleum International Pty Ltd)の合併は、本来、SSA締結後に発表されるべき性格と思われるが、合併交渉を行っていることがマスコミに漏れたのだろうか、問い合わせが殺到したらしい。そこで8月16日に交渉の事実を認め、翌17日にオーストラリア証券取引所からの合併に向けて交渉中である旨の発表を行ったものと思われる。その際、2021年12月10日までに新設のPluto 液化Train 2 の権益売却が行われ、かつFIDを行うことが前提になっていた。11月15日のPluto Train-2 権益売却に関し、買収するGIPが負担する額は権益49%でUS$ 3.1 billionと予定されている。Pluto Train-2のFIDは2011年にIchthys LNGがFIDになって以来10年ぶりの豪州におけるFIDとなった。
1. BHP石油部門について
BHPの石油・天然ガスの上流開発の歴史は古い。55年の歴史を持つ。1963年に旧BHP(Billitonとの2001年の合併前)は、ExxonMobilの前身であるEssoと協力し、1967年にタスマニア島との間のBass海峡で原油を発見し、生産している。現在では、世界的に上流開発を展開し、特に米国メキシコ湾、アルジェリア陸上およびトリニダード・トバゴのオフショアに鉱区を持ち探鉱開発に従事している。2021年のAnnual Report(2020/7-2021/6)によれば、2021年度の売上高と売り上げ構成は以下のとおりである。BHP 全体の中で、石油部門は全体の6.5%を占めているに過ぎない。BHPは、7月に始まり翌年6月に終わる会計年度を採用しているが、これは豪州政府の会計年度と合致している。
2021年度売上高 | (US$ million) | 比率 |
---|---|---|
鉄鉱石 | 34,475 | 56.7% |
銅 | 15,726 | 25.9% |
製鋼用石炭 | 5,154 | 8.5% |
石油部門(原油・ガス・天然ガス) | 3,946 | 6.5% |
その他(ニッケル等) | 1,516 | 2.5% |
計 | 60,817 | 100.0% |
出所 BHP Annual Report
BHPは、南アフリカに鉱山を持っていた英国Billiton社と2001年に合併した以降、オーストラリア証券取引所とロンドン証券取引所に上場する二元上場会社BHP Billitonとなり、その後2018年にBHPに改称した。メルボルンに本社、ロンドンに副本社を置き、メルボルンでの取扱高は約6割と言われている。次の表は、BHPの石油部門が豪州および海外で展開する油ガス田の鉱区数(うち生産中およびオペレータ鉱区数)である。豪州を除けば北中米および北アフリカに展開していることが分かる。
国名 | 鉱区数 | うち生産中 | うちオペレーター |
---|---|---|---|
米国メキシコ湾 | 97 | 19 | 73 |
オーストラリア | 54 | 44 | 6 |
トリニダード・トバゴ | 6 | 2 | 6 |
アルジェリア | 6 | 6 | 0 |
バルバドス | 2 | 0 | 2 |
カナダ | 2 | 0 | 2 |
エジプト | 1 | 0 | 0 |
メキシコ | 1 | 0 | 1 |
計 | 169 | 71 | 90 |
出所 各種情報に基づきJOGMEC作成
注:アルジェリアを除き、すべてオフショア鉱区である。米国メキシコ湾の鉱区の多くが大水深油田である。
2. Woodsideについて
Woodsideは1954年に設立され現在はパースに本社を置いている。1968年には、North West Shelf (NWS)で最初の原油を発見。1980年からNWSから国内向けのガスの供給を始め、1985年にLNGプラント建設に取り掛かり1989年に東京に最初のLNGカーゴを出荷した。Plutoガス田が発見されたのは2005年になってからであり、Pluto LNGの生産は2012年に始まっている。直近の2020年のアニュアルレポートから主な財務指標を拾った。
Woodsideの海外探鉱活動は限定的で、鉱区の多くがオーストラリアにあることから豪州の地場企業の性格が強いと言えよう。
国名 | 鉱区数 | うち生産中 | うちオペレーター (共同オペレーター含む) |
---|---|---|---|
オーストラリア | 52 | 26 | 47 |
アイルランド | 6 | 0 | 6 |
ミャンマー | 5 | 0 | 5 |
セネガル | 4 | 1 | 4 |
東ティモール | 3 | 3 | 2 |
韓国 | 2 | 0 | 2 |
コンゴ共和国 | 1 | 0 | 0 |
計 | 73 | 30 | 66 |
出所 各種情報に基づきJOGMEC作成
セネガルのSangomar鉱区については、2020年1月にPhase-1をFIDし、比較的開発容易な11の生産井から開発を行う。Phase-2ではより困難な9井を開発するがFID時期は未定である。Woodsideは現在同鉱区の権益の90%を保有しているが、将来の開発費を捻出するため、半分程度の権益(40%~50%)を売却すべくFarm-out先を探している。2021年9月にはインドのONGCが候補先に名前が挙がっている。また、ミャンマーではA-6鉱区ではガス資源が有望視されていたが、2021年2月の軍事クーデターにより、開発中断を表明している。
3. Woodsideから見た合併への流れ
(1) 2021年8月16日 メディアの憶測に対する回答(BHP石油部門を潜在的な合併相手として認める)
(2) 8月17日 WoodsideとBHPが両社の石油・ガス資産の合併交渉を進める誓約署を締結したことを認める。
付帯条件として;
Woodsideは、Scarboroughガス田開発のFIDを2021年12月15日までに実行すること。この場合、オプションとしてBHPは今回の合併資産に含まれていないと思われるScarborough鉱区の26.5%をUS$1billionでWoodsideに売却する権利が発生し、このオプション権は2022年下期までに行使される。また、現在50%の権益を持ちオペレーターであるWoodsideと残り50%を持つBHPとがThebe/Jupiter鉱区をFIDした場合、BHPの50%をUS$1 millionドルでWoodsideに売却する権利を得た。
(3) 11月15日 WoodsideはPlutoのLNG 液化プラント Train-2の開発権利49%をGlobal Infrastructure Partners(GIP)に売却することに合意。GIPはTrain-2の開発費用を建設費用US$5.6 billionの49%相当分のUS$2.744 billionを負担することになる。この負担額とは別に、Woodside/GIP JVは、Train-2の予備費を別途US$ 835 million積み立てることになっておりGIPはその49%分(US$ 409 million)を負担する(詳しくは6.(2)参照のこと)。売却の効力発生日は2021年10月1日、そして売却手続きが完了するのが2022年1月であるが、BHP石油部門とWoodside合併の条件としてPluto Train-2およびScarboroughガス田がFIDされること、加えてScarboroughガスのPSA(Purchase and Sales Agreement)が締結されることなどの付帯条件が付いている。
Woodsideにしてみれば、Pluto Train-2の開発権利の49%売却により、Scarborough開発に要する資金調達に目途が立ったことで、Scarboroughガス田開発FIDの道が開けたといえる。
(4) 11月22日 Scarboroughガス田およびPluto Train-2の開発(新国内向け設備およびTrain-1 改造を含む)が承認(FID)された。
(5) 11月22日 両プロジェクトのFIDを受けて、WoodsideとBHPが合併に最終的に合意し、拘束力のあるShare Sale Agreement(株式売却契約)に調印された。
4. 合併条件の内容
合併契約の内容は、公表されていないので詳細は不明だが、公表資料から読み取ると、以下の通り合意されたようだ。ただし、すべての合併手続きが完了するのは2022年6月末を目標とすることから、今後、若干の内容変更は生じるかもしれない。ただし、合併の効力発生日は2021年7月1日に遡ることが決定されており、効力発生日から合併手続き完了までの1年間、両社は各々のビジネスを展開しその結果として得られたネットキャッシュは、2022年6月末にBHPからWoodsideに、またはBHPのネットキャッシュがマイナスの場合はWoodsideがBHPに支払うことになっている。
(1) 合併は、WoodsideがBHPの完全子会社であるBHP Petroleum Pty Ltdの全株式を取得することによる。BHP Petroleumは効力発生日のバランシートでキャッシュベースかつ債務無しでWoodsideに譲渡される。ただし、幾つかのLegacy AssetsとLiabilitiesは譲渡対象から除外される(具体的な除外対象は不詳)。
(2) 合併比率は、Woodsideの全株式の48%に相当する新株を発行し、BHP経由でBHP株主に交付することによる。従いWoodsideとBHPの合併比率は52:48となる。
(3) 保証と免責
Woodsideは、制限付きではあるもののBHPの油ガス田におけるDecommissioningおよび環境保護責任を承継し、BHPを免責とする。特に、BHPは、NOPSEMA(National Offshore Petroleum Safety and Environmental Management Agency)の命令によりBass海峡において旧Essoと開発し廃坑となった3つのフィールドにおける海洋構造物およびパイプライン等を撤去する責任を負っている。BHPはこのBass海峡の3フィールドで発生する撤去費用(Decommissioning費用)、US$ 3.9 billionをWoodsideに支払うことになった。Woodsideに移ったこのDecommissioning責任は条件付きかどうか不明であるが、報道によると想定よりも低い金額であったといわれている。
(4) 合併契約破棄の権利
BHPは、Woodsideの株主承認(2022年6月予定)が得られなかった場合や信用状況の著しい悪化が生じた場合など、合併契約を破棄する権利を有する。その場合、Woodsideは、BHPにUS$160 millionの違約金を支払うことになる。また、2022年6月末もしくは別途合意した日までに合併条件が満たされなかった場合、いずれかから合併契約を破棄することが出来る。
(5) 上場証券取引所
Woodsideは引続きオーストラリア証券取引所での上場を維持する。また、ニューヨーク証券取引所(NYSE)への上場を目指し、資金調達ソースを拡大するという。
次の図は、WoodsideとBHP石油部門の合併スケジュールを示す。
5. 合併の効果
(1) 先日2021年11月19日にEnergy Intelligence社が公表した世界トップ100の石油・天然ガス企業によると、BHP単独で75位、Woodside単独では77位に位置している。両社のAnnual Reportを単純に合計すると、売上高9,000億米ドル、一日当たりの生産量は約56万バレル相当/日となり、合併すると52位に相当するとのことである。これは日本でいうとINPEX(42位)に比較的近い順位である。埋蔵量(2P)は、原油相当量で20億バレルを超え、うち59%がガス、41%が原油を含む液分である。
また、販売額の46%がLNG、29%が原油またはコンデンセート、25%が国内向けガスとなり、LNGの比率が高いのも特徴である。
(2) 表2と表4からも明らかなように、Woodsideはローカル企業のイメージが濃かったが、合併後の「新Woodside」は豪州を除くグローバル資産のバランスが良く取れることになる。BHPの米国メキシコ湾の資産は、Woodsideから見た場合、魅力的であろうし、また多くのBHPの海外資産は大水深に位置し、開発ノウハウも蓄積されていると考えられることから、これからも大水深油田・ガス田開発の経験および技術を活用した探鉱・開発を推し進めていくことが期待される。
(3) 経費節減や業務運営効率による費用面でのシナジー効果は、US$ 400 millionを見込んでいる。
(4) 一方、BHPはこの合併と並行して石炭事業の売却も進めている。まず一般炭の採掘事業の売却から始め、製鋼用石炭採掘事業も切り離し、そして石油・ガス開発部門もWoodsideに合併させて切り離し、近い将来炭化水素ビジネスに見切りをつけ、EVで必要な銅および今後も需要が見込まれる鉄鉱石事業に経営資源を集中することを目論んでいるものと思われる。同社のこの方針に対しては、「従来CO2を排出してきた企業であるにも関わらず、自らゼロエミッションに取り組まず、その責任を合併先や売却先に押し付けている」として、環境保護派から非難の声が上がったのも事実である。
6. Scarboroughガス田開発とPluto Train-2開発について
(1) 今回の合併は、新規Pluto Train-2の開発が契機になっている。資料2に添付した、豪州のLNG液化プラント一覧表でも示ししているように、Pluto LNG Train-1に原料ガスを供給しているPlutoガス田は、今後12年で枯渇することが予想されている。生産は徐々に減退していくため、フルスペックでLNGを生産できる年数は、これよりも短くなる。年間500万トンのLNGを生産するための天然ガスは、0.25 tcf/年ほど必要であり、5年で1.25 tcfのガスが消費される。Plutoガス田の2Pベースでの残存可採埋蔵量は、現在2.5 tcfであるから埋蔵量が半分の1.25 tcfを切る2026年~27年頃から生産の減退が始まるだろう。ただ、今回のScarboroughガス田開発の主眼は、Pluto LNG Train-1を延命させるためのBackfillとしての側面ばかりではなく、Scarboroughという可採埋蔵量11.1tcf(2P)の大型ガス田を供給源にしたPlutoの新設Train-2の開発にある。他の大型ガス田であるBrowseと同様にScarboroughガス田を供給源とする単独でのLNG構想もあったが、西豪州における環境規制が強まり、現在ある4つのLNG Plant(North West Shelf、Pluto、GorgonおよびWheatstone)に続く新規陸上LNG Plantの建設は西豪州政府に認められなかった。また、豪州では2012年から18年に掛けてLNG液化プラントの建設ラッシュが続き、資材および労働力不足から労賃が高騰し新規LNG建設の採算性確保が危惧されたこと、更に生産量の15%が西豪州内に供給しなければならなくなったが需要が限られていて国内販売先が見つけにくい、など複数の要因も豪州での新たな単独LNGプロジェクトに立ちはだかった。なお、Scarboroughについては、2017年にはFLNGも検討された経緯があるが、Scarborough FLNGの実現には至らなかった。
(2) Pluto Train-2新設
Pluto Train-2の開発にあたり、Woodsideは3章の(3)項に書いた通り49%の開発権利をUS$3.1 billionでGIP社へ売却した。Woodsideは、この権益の売却代金をScarboroughガス田開発の原資として賄うと共にPluto Train-2の開発ならびにTrain-1の改修費用に充てることができることになった。
- 100%ベースでのCapexは、
Scarboroughガス田 開発費 US$ 5.7 billion、およびPluto Expansion (Pluto Train-2新設およびTrain-1 の改修) US$ 6.3 billion(うち別途積立金としてUS$ 835million含む)の計US$ 12.0 billionである。 - このうち、Woodside負担分は、
Scarboroughガス田 開発費 x 73.5% (BHP 26.5%) = US$ 4.19 billion
Pluto Expansion US$ 6.3 billion x 51% = US$ 3.21 billion
計 US$ 7.4 billion である。 - しかし、GIPへの売却条件には、Pluto ExpansionのCapexがUS$ 6.3 billionに達しなかった時には、GIPは別途予備費としての積立金US$ 835millionのうち使用しなかった分の49%相当額(最大US$ 409 million)をWoodsideに支払うことになっている。従ってこの場合、Woodsideが負担するCapexは最小でUS$ 6.9 billionとなる。
ただし、GIPから積立金が幾分でも支払われる保証はない上に、3.(2)で書いたようにBHPはScarboroughの権益持分26.5%をUS$1billionでWoodside に売却するオプション権を有しており、またScarboroughガス田のバックアップと目されているThebe/Jupiter鉱区のWoodside/BHP JVのうちBHP持分50%をThebeの開発がFIDされたときにUS$1millionドルで売却するオプション権をもっている。事業の選択と集中を進めているBHPがこのオプションを行使しないとは思えないことから、Woodsideの開発資金負担という観点からは、最低でもUS$ 8.5 billion程度は必要になるのではないだろうか。 - Train-2の新設のCapexには、Scarboroughのドライガスに対応するための改修および西豪州内への国内ガス供給設備の新設が含まれている。
(3) Scarboroughガス田開発
- 現在のPluto液化プラントがあるBurrup半島より約375キロメートル沖合の海底ガス田である。水深は平均して1,000メートルである。
- 現在鉱区権益は、Woodsideが73.5%、BHPが26.5%持っている(合併完了の際に、BHPはBHP持分をWoodsideに売却しWoodsideが100%保有することになるだろう)。
- 最初は生産井8カ所を掘削する。生産されたガスは浮体式のプラットフォームに集められる(FPU:Floating Production Unit)。その後、4~5井追加開発するが数と掘削のタイミングとも未定である。
- 生産量は、年間LNG 800万トン相当量のガスに加え西豪州で州内供給義務として定められている生産量の15%相当のガスがパイプラインで供給される。15%相当はカロリー換算で225 terajoules/d (LNG換算で約150万トン/年)となるが、このうちPerdaman Chemicals and Fertilizers工場が125 terajoules/d を20年間引き取ることになっている。
- 3つのLNG販売契約を締結済みである。その相手先と各販売期間は以下のとおりであるが、各販売量は不明である。しかし、報道によれば、3つの販売契約を合わせて年間生産量800万トン/年の60%にあたる480万トン/年前後の量にあたるLNGについてHOAもしくはSPAを締結済みで売り先は確保できたようだ。
- Uniper 13年間
- Pertamina 15年間
- RWE 7年間
- 最初の数年はLNG換算で700万トン/年のガスを生産し、Pluto Train-2で500万トン、Train-1で200万トンがLNGに液化に供される。Pluto Train-2の原料ガスはすべてScarboroughからくることから、Train-2は事実上、「Scarborough LNG」と呼んでもおかしくはないだろう。Plutoガス田からの供給が将来途絶えたときは、Scarboroughから追加の100万トン相当のガスがTrain-1に供給される予定である。Train-1の生産能力約500万トン/年(設計能力470万トン/年)の原料ガスをすべてScarboroughガスに置き換えることは、ガスの性状の違いからPluto-1の大規模な改造が必要であり当面Train-1の改修を最小限に留め年間Plutoガス300万トンとScarboroughガス200万トンのブレンドを行うことになる。
また、既存の上流のパイプラインの口径(32インチ)の能力では、Train-1と2を合わせて年間LNG 1,000万トン相当のガスをScarboroughガス田から運ぶのは難しいとWoodsideは説明している。Train-1はPlutoガス田(および近傍の小型Xenaガス田、以下併せてPlutoガス田という)からの供給がしばらく続くため、あと5‐6年は生産能力を維持できるがPlutoガス田からの原料ガスの供給の減退が始まり止まった場合、Scarboroughからの供給を100万トン増やし300万トン/年を確保する(Train-2 と合わせて800万トン/年)。Train-1の500万トンキャパシティに対して不足分約200万トン/年は、近傍のガス田(ORO Gas: Other Resource Owner’s Gas)から購入またはTollingで液化業務を受託することが考えられている。
なお、Plutoガス田の権益は、Woodsideが90%、関西電力5%および大阪ガスが5%保有している。 - Scarboroughのガスの性状は、95%がメタンと非常にドライである。CO2含有率は0.1%であり、世界のLNG液化プラントの中では生産段階でのGHG排出量は非常に少なく環境負荷が小さいといえる。仮にScarborough FLNG構想が実現していた場合は、コンデンセート等液分がないためトップサイドの構造が比較的シンプルになっただろう。しかし、窒素の含有量が4%~7%であるため、これは除去しなければならない。今回FIDしたTrain-2の新設には、Train-1の改造費用も含まれているが、これはScarboroughガス田の極めてドライなガスに対応するためである。
- Scarboroughオフショアガス田開発ベンダー選定
- 既に以下のベンダーが選定されている。
- FPU: McDermott
- SURF:Subsea Production System (SPS)+Umbilical, Riser and Flowline (URF)はSubsea Integration Alliance (Subsea 7 と One Subseaによる非法人共同体)
- 掘削リグ: Valaris
- Trunkline Pipe敷設:Europipe(ラインパイプ供給)、Boskalis(オランダの代表的なマリンコントラクター)およびSaipem(ラインパイプ敷設)
次の表は、3つのガス田の成分特徴である。個々の詳細な情報は得られなかったが、おおよその特徴は捉えられていると思う。
Scarboroughガス | Plutoガス | North West Shelfガス | |
C1(メタン) | 95% | 83% | Rich(C2, C3とコンデンセート多い)かつSweet(硫化水素含まず) |
C2(エタン) | 0.1% | 4% | |
C3(プロパン) | - | 3% | |
原油/コンデンセート(液分) |
0 | CGR 12 (bbl/mmscfd) |
OKHA FPSOにてコンデンセート出荷。2021年11,000 bbl/d。 |
CO2 | 0.1% | 2% | 2.4% |
窒素 | 4~7% | 8% | <2% |
硫黄分 | 0 | 0 | 0 |
出所 Woodside HPおよび各種資料によりJOGMEC作成
注:1 mmscfd=約170 bbl, CGR= Condensate to Gas Ratio
(4) Train-2の建設について
Train-2のFEEDはBechtelが実施した。液化プロセスは、ConocoPhillipsのOptimized Cascadeが使用される。Train-1の液化プロセスは、世界で最大のシェアを持つAPCI(Air Products and Chemicals, Inc.)社のC3MR(プロパン予冷混合冷媒方式:Propane pre-cooled Mixed Refrigerant process)なのであるが、同一所有者の別Trainで液化プロセスが異なるのは、ナイジェリアLNGを除きあまり例がない。以下、主な仕様である。
- LNG生産能力 500万トン/年
- EPCは、BechtelがFEEDに引続き起用された。Optimized CascadeのEPCは、Bechtelがかつては独占して実施していた。現在は他のエンジニアリング会社でも施工は可能だが、実質的にはBechtelがほぼ独占状態である。液化プラントの心臓部である高効率ガスタービンと遠心式コンプレッサーはBaker Huges社製(旧GE Oil & Gas)が使用される。
- Bechtelとの契約は、90%ランプサム契約もしくは固定レートとのこと。
- Train-2の商業生産は2026年を予定している。
以下の図は、西豪州のBurrup半島にあるPluto液化プラントの配置図である。
以下の図は、Train-2の開発スケジュールとコストカーブを示す。
7. ScarboroughとPlutoを超えて
(1) 図1からもわかるように、Pluto LNG PlantとNorth West Shelf LNG Plantは同じBurrup半島に位置し直線距離で5キロメートルと近い場所にある。一方、North West Shelf LNGは5つのTrainを持っているが、No. 1とNo. 2の操業開始は1989年とオーストラリアにおいて最初に稼働したLNG液化Plantである。North West Shelfの2021年初めの残存可採埋蔵量は6.4 tcfあるが、LNG液化能力も年間1,690万トンあり、単純に計算すると7.9年で枯渇することになる。供給ガス田は2021年から減退が始まり、このまま何も対策を講じなければ、おそらく2024年にはTrainの一つを止めなければならない可能性があることはWoodsideも2020年の株主説明会で認めている。
(2) North West Shelfの権益保持者は、資料2の通りBP、Shell、Chevron、BHP、WoodsideおよびMiMi(Japan Australia LNG Pty Ltd.:三井物産と三菱商事の50:50のJV)の6社が同等の権益16.7%を保有している。OperatorはWoodsideが務めているが、プロジェクトの重要な意思決定には6社すべての同意が必要となっており、他の事業と同様ではあるが、権益保持者の間での意思決定に当たり調整する事項は多岐にわたるであろう。なお、WoodsideとBHPが正式に合併となる2022年6月には、Woodsideの権益が33.4%と筆頭となるが、Chevronは2020年にFarm-outの意向を示しており、今後、両社の合併後、さらに権益構造に変化が表れる可能性もある。
(3) Woodsideは、Burrup半島にInterconnectorパイプラインを建設中で、US$ 200 millionを投資し2022年に完成予定である。これは、Plutoガス田からのガスをPluto LNG Train-1 で前処理したのちNorth West Shelf LNGに流すためのパイプラインである。Scarboroughガスはその性状から極めてドライであり、North West Shelf LNGで液化するには大規模な改修が必要となり、プラントを運転しながら改修を行うのは困難だとWoodsideは見ている。Pluto JVとNorth West Shelf JV間では、Pluto JVが2022年~2025年にかけてPlutoガス田から300万トンのガス(年間75万トン)を供給するTolling契約を結んでいる。また、Perth盆地の三井物産がオペレーター(権益保有50%、Beach Energy 50%)を務めるWaitsia ガス田のWaitsia JVから2023年から2028年までの5年間に750万トン(年間150万トン)のガスを受け入れTolling契約で液化する計画にもなっている。報道によれば各Tolling(液化)代金は、US$1.5~2.0/MMBtuとのことである。
(4) North West ShelfのBackfillとしては、Woodsideが30.6%の権益を持ちオペレーターであるBrowseガス田が考えられている。Browseガス田の可採埋蔵量は、LPG 115 mmbbl, コンデンセート389 mmbblおよび天然ガス13.9 tcfとオーストラリアでも最大級のガス田である。しかし、Browseガス田の位置は、Ichthysの西100キロメートルにありNorth West Shelfまで900キロメートル(Darwinまで1,000キロメートル)と遠い。CO2含有率は8‐12%もあり、その本格的な開発と輸送には莫大なCapexが必要になる。2020年代にFIDに至るかどうか、注目される。
(5) Woodsideは2021年12月9日に、Scarboroughガス田から生産されるLNGの供給先として、石油精製企業Viva Energyが建設を計画し、2022年第3四半期にFIDを予定している豪州ビクトリア州Geelongの再ガス化ターミナルプロジェクトにWoodside自らも参画し、LNGの供給と再ガス化することを計画していると明らかにした。Vivaとは覚書を締結している。
これにより、新たなガスパイプラインを敷設せず、東海岸の産業界や家庭に西豪州からガスを供給できる可能性がある。実現すれば豪州東海岸のエネルギー不足問題を解決する一助になるだろう。また、LNGを同一国内で生産し、再ガス化するというインドネシアに続き二番目の国になる。
(6) Woodsideは、BHP石油部門がこれまで開発してきた米国GoMにも期待していると報じられている。合併交渉を継続しながらも、両社ともにそれまでの石油・ガス開発ビジネスのスピードは緩めていない。特に、BHPはルイジアナ沖195キロメートル、水深1,300メートルのShenzi石油・ガス田の開発を72%権益保有のオペレーターとして継続しており、2009年から生産を開始している。今は、2024年生産開始予定のShenzi North(GC609)鉱区の開発に期待がかかっている。
8. Woodsideのネット・ゼロ・エミッションへの取り組み
(1) 環境面では、Woodsideは2050年にネット・ゼロ・エミッション達成を目標に掲げている。また2020年代末までに排出量を30%削減する目標を掲げており、今後10年間で米$ 5 billionを新エネルギーに投資する計画である。
(2) CO2排出を抑えるため、2020年代末までにUS$50億ドル(約5,700億円)を、水素を中心とする「新エネルギー」に投資する計画だ。ただし、新エネルギー開発は従来の石油・ガス開発と比べて投資から回収までの期間が長く、投資リターンも小さくなるとしている。新エネルギー・プロジェクトの発電容量は30年までに3,000メガワットに達する可能性がある。ただ、投資回収までの期間と投資リターンは、石油開発の場合は5年で15%以上、ガス開発の場合は7年で12%以上であるのに対し、新エネルギー開発の場合は10年以内、10%が目標という。12月8日にオニールCEOは、石油・ガス開発プロジェクトはリスクが高いため、より大きな投資リターンを必要とすると説明。これに対して新エネルギー開発は参入障壁が低く、リスクも小さいため、投資リターンが小さくなっていると説明した。
(3) H2Perth計画についても触れておきたい。これは、2021年10月25日に発表された、パース南部に130ヘクタールの世界的な規模の水素とアンモニア製造基地を西豪州政府と協力して、作るものである。計画の最終段階では、1500トン/日の水素をアンモニアと液体水素で輸出する。また、地元産業と家庭に対しては、再生可能エネルギーによる電力供給の不安定さを取り除くことが出来ると地元への貢献も謳っている。この他、タスマニア島におけるH2TASプロジェクトや米国オクラホマ州におけるH2OKプロジェクト(FID 2022年下半期見込み)と計3カ所で水素製造プロジェクトを進めている。水素は電解槽と天然ガスの改質によって得られるとしているものの、水電解に必要な電力はどこから得られるのか、天然ガスの改質に伴うCO2の処理方法など詳細は不明であるものの、同時にCCSプロジェクトを素早く立ち上げている。また、大規模太陽光発電に向けても始動している。
9. まとめ
高油価、高ガス価を背景に、Woodsideは伝統的にLNGに強いという特徴を生かし、BHP石油部門と合併し大型Scarboroughガス田を開発するという世界的なE&P会社へ成長してきた。一方、オーストラリアのガス資源は手つかずのBrowseガス田を除き徐々に減退してきているのも事実である。一豪州の地元E&P企業が世界有数の鉱山会社であるBHPの石油・天然ガス資産を得る意味はポートフォリオの強化という観点から大きい。また、水素やアンモニア製造など2050年のネット・ゼロ・エミッション社会を見据えた布石を着々と打っている。現在持っているもの以上の価値を生み、これからの困難な30年~40年のエネルギー移行期を乗り越えようとするWoodsideの動きは、メジャーの動向とは別に注視していく価値は充分にあるだろう。
参考資料
以上
(この報告は2021年12月20日時点のものです)