ページ番号1009218 更新日 令和3年12月20日
原油市場他:新型コロナウイルスオミクロン変異株による石油需要への影響に対する懸念、及び米国金利引き上げ前倒し観測等により、下落する原油価格
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概要
- 米国においては、経済活動の活発化と温暖な気候という留出油需要増減上相反する要因が発生したこともあり、留出油在庫は範囲内での変動となり、平年幅下方付近に位置する量となっている。他方、製油所の稼働上昇に併せガソリン生産も増加したと見られる一方ガソリン需要が供給に追い付かなかったと思われることによりガソリン在庫は増加、平年幅上限を超過する量となっている。また、製油所の原油精製処理量が増加した結果、原油在庫は減少したものの平年幅上限を上回る状態は継続している。
- 2021年11月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、日本では原油輸入が増加したこともあり在庫は若干ながら増加した。他方、米国では減少した他、天然ガス価格が高騰した欧州では代替燃料として暖房油の需要が増加するとの観測が市場で広がったこともあり、製油所での原油精製処理量が相当程度増加したことにより、原油在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本では、一部地域での足元の気温が平年を上回って温暖であったことにより灯油在庫が増加したことが一因となり、石油製品全体の在庫は増加した。しかしながら、米国ではプロパンやその他の石油製品の在庫が減少したことから石油製品全体の在庫は減少した。また、新型コロナウイルス感染が沈静化した米国やアフリカに向け欧州からガソリンが輸出されたことが一因となり、欧州での石油製品在庫は若干ながら減少した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年幅下限付近に位置する量となっている。
- 2021年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場では、新型コロナウイルスのオミクロン変異株が南アフリカで確認されたこと等により、石油需要が下振れするとの懸念が市場で増大したこと、米国での金利引き上げ開始の前倒し観測が市場で増大したこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は11月12日の終値である1バレル当たり80.79ドルから12月17日には同70.86ドルの終値へと下落するなどしたうえ、11月26日の原油価格の終値は前日終値比で1バレル当たり10.24ドルの下落と2020年4月20日以来の大幅な下落となった他、12月1日には同65.57ドルの終値と8月24日以来の低水準に到達する場面も見られた
- 既に北半球では冬場の暖房用燃料需要期に突入していることから、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されやすく、この面では原油相場を下支えする他、気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。ただ、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の特性が明確になるまでは、当該変異株感染抑制のため個人の外出規制及び経済活動制限が強化される等する結果、石油需要下振れ観測から原油価格に下方圧力が加わる可能性がある。そのような中、イランやロシア等を巡る情勢、及びOPECプラス産油国の減産措置を巡る姿勢等の展開次第で、原油価格が変動するものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が従来の方針に基づき2021年11月についても前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨決定
(1) 協議内容等
2021年12月2日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はビデオ会議形式で閣僚級会合を開催、7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定し、8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(12月時点で日量376万バレル)に関し、従来方針に基づき2022年1月も日量40万バレル規模を縮小して実施する旨決定した(表1参照)。
但しOPECプラス産油国としては、今次会合に関する声明を12月2日に発表したものの、当該会合自体は終了しておらず、新型コロナウイルス感染への対応については保留となっており、市場の状況を緊密に監視するとともに、必要であれば直ちに減産措置を調整する方針である旨合意した。
また、減産目標の完全遵守に固執すること、及びこれまで減産目標を達成できていない減産措置参加産油国が減産目標未達成部分につきこの先追加減産を実施することに固執することが、極めて重要である旨改めて示唆された。さらに、これまで減産目標を達成できていない減産措置参加産油国は2022年6月末(従来は2021年12月末であった)までに追加減産を実施することにより減産目標の完全遵守を達成するとともに、追加減産計画を2021年12月17日までに提出するよう要請された。
なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2022年1月4日に開催される予定である。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2021年11月4日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、7月18日に開催された当該閣僚級会合で決定した方針に則り、12月のOPECプラス産油国減産措置を前月比で日量40万バレル縮小する旨決定した。この時のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しては、新型コロナウイルスワクチン接種普及による世界経済や石油需要の回復、そして冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期突入で、価格が高騰する天然ガスからの燃料転換により石油需要が増加するとの観測が市場で発生したこと等により、上昇していた原油価格の沈静化を図るよう、米国バイデン政権からOPECプラス産油国に対し減産措置縮小(つまり増産)加速への働きかけが行われていた。例えば、米国バイデン政権幹部がOPECプラス産油国に対し原油価格上昇による懸念を伝えたと10月11日に報じられたことに加え、10月18日には、サキ大統領報道官が、供給問題解決のため、OPEC産油国への働きかけを継続している旨明らかにした他、10月22日にも、OPEC産油国に対し価格水準に関しての懸念を幅広く伝えているところであり、これは継続して実施していく旨サキ報道官が改めて明らかにしている(10月26日の記者会見の際にもサキ報道官は同趣の発言をしている)。また、10月21日夜(米国東部時間)には、米国のバイデン大統領が、同国ガソリン小売価格の高騰(全米平均ガソリン小売価格は2021年5月以降しばらくの間は概ね1ガロン当たり3.2ドル台で推移していたが、10月に入ってからは価格が上昇、11月1日には1ガロン当たり3.484ドルに到達していた)はOPEC及び他の産油国による供給制限によるものであると発言、10月31日にもバイデン大統領は、ロシア、サウジアラビア及び他の大産油国が増産しないという考え方は良くないと考える旨明らかにした他、11月2日にも、原油及び天然ガス価格の大幅上昇はOPEC産油国が原油生産拡大を拒否していることによるものであるとして、OPECプラス産油国の減産措置を巡る方針を批判した。このような、米国バイデン政権によるOPECプラス産油国に対する減産措置縮小加速の働きかけにもかかわらず、11月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、従来方針通り前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を決定したことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識したこともあり(2021年はOPECプラス産油国が8月以降毎月前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を実施しても、世界石油需要が供給を上回る状態であった、表2参照)、11月9日には原油価格(WTI)は1バレル当たり84.15ドルと、10月26日の同84.65ドル(2014年10月13日(この時は同85.74ドル)以来約7年ぶりの高水準)以来の高水準の終値に到達する場面が見られた(図1参照)。
11月4日に米国バイデン政権は、世界経済回復を損なわないようにするための重大局面においてOPECプラス産油国は保有する能力を使用する意志がないように見受けられ、バイデン政権はエネルギー市場危機脱出のために様々な方策を利用することを検討するとして、OPECプラス産油国閣僚級会合の結果を事実上批判する旨伝えられた。しかしながら、OPECプラス産油国は、従来方針通り毎月前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する場合であっても、2022年は世界石油需給バランスが供給過剰に振れる(表3参照)結果、世界石油需給緩和感が市場で強まる(11月16日にOPECのバルキンド事務局長は、早ければ2021年12月にも世界石油需給バランスは供給過剰の状態となるとともに、その状態が2022年も継続するとの見解を明らかにしている)とともに、原油価格が下落する恐れがあることを理由として(また、OPECプラス産油国は従来から新型コロナウイルス感染の世界的流行第四波が到来する恐れがあることも懸念していた)、米国の増産要求を事実上拒否し続けた。
そして、原油価格の上昇に伴い、11月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり3.5ドル超に到達した(図2参照)ことに加え、11月10日に米国労働省から発表された10月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で6.2%の上昇と、9月の同5.4%の上昇から上昇率が拡大、1990年11月(この時は同6.3%の上昇)以来の大幅な上昇率となった他、市場の事前予想(同5.8~5.9%の上昇)を上回るなど同国の物価上昇問題が深刻化するとともに、米国国民のバイデン政権に対する不満が増大しつつあることが示唆された(11月14日にはバイデン大統領の支持率が1月20日の大統領就任以来最低の41%にまで落ち込んだ旨明らかになった)こともあり、11月23日には米国政府が5,000万バレルの戦略石油備蓄(SPR)を市場に供給する旨発表した他、日本、韓国、中国、インド、及び英国が備蓄石油を供給する方針である、ないしは供給することを検討している旨伝えられた。
主要石油消費国の一部が備蓄している石油を市場に供給する方向であることに対し、従来から2022年は世界石油供給が過剰になる旨不安視していたOPECプラス産油国は、供給過剰幅がさらに拡大するとの認識を持つようになったと見られる。例えば、2021年11月23~24日に開催されたOPEC経済委員会会合(ECB: Economic Commission Board)では、2022年1月から2月にかけ合計で6,600万バレルの(追加の)石油供給が市場に対してなされた(備蓄石油の市場への供給を想定しているものとされる)場合、供給が日量約110万バレル程度上振れすることにより、2022年1月は日量230万バレル、2月は同370万バレル、それぞれ世界石油需給バランスが供給過剰となるとの見込みが明らかにされた。
さらに、人体の免疫機能を突破することにより、ワクチンの有効性を低減させるとともに、感染を拡大させる可能性のある新型コロナウイルスの新たな変異株(オミクロン株)が南アフリカで確認された他、香港、ベルギー等でも外国からの渡航者が当該変異株に感染している旨明らかになった旨11月25~26日に報じられるなどしたことにより、新型コロナウイルスの新たな変異株による感染流行に伴い、世界各国及び地域で、渡航制限を含め個人の外出規制及び経済活動制限が再び強化されるとともに世界経済成長及び石油需要の伸びが鈍化する恐れがあることに対する懸念が市場で増大したことにより、11月26日の原油価格は11月24日終値比(11月25日は米国では感謝祭(サンクスギビング・デー)に伴う休日で終値は計上されなかった)で1バレル当たり10.24ドル下落(2020年4月20日(この時は前日終値比55.90ドルの下落)以来の大幅な下落)し、終値は68.15ドルと、9月9日(この日の終値は同68.14ドル)以来の低水準の終値に到達するなどした。
このように、米国等が備蓄石油の市場への供給を実施する方向であるうえ、従来からOPECプラス産油国が抱いていた新型コロナウイルス感染が第四波にさしかかりつつあったことに加え、オミクロン株の世界的流行に伴い、この先世界石油需給バランスが一層石油供給過剰に向かうことにより、原油相場に下方圧力が加わり続ける可能性が高まることを懸念したOPECプラス産油国は、市場での石油供給過剰感を払拭するとともに原油価格のさらなる下落の防止を図るべく、当初予定された前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を2022年1月については見送ることを検討し始めたと見られる。OPECプラス産油国による減産措置縮小見送りについては、サウジアラビアとロシアが検討している旨11月24日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。一方、OPECプラス産油国は減産措置縮小の中断を検討していない旨11月24日にロイター通信が伝えるなど、この時点では情報は錯綜気味であったものの、少なくとも一部OPECプラス産油国間では減産措置縮小見送りが協議されていたことが示唆される。
しかしながら、ここで2022年1月につき前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を見送る決定をした場合、OPECプラス産油国に対し原油価格高騰沈静化のための増産の働きかけをしてきた米国との関係が一層悪化する恐れがあったことにより、サウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国は、米国に配慮すべく、従来方針に則り2022年1月についても前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を決定する方向へと動いたものと考えられる。
なお、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は新型コロナウイルスのオミクロン株については不安視していない旨11月29日に発言した他、ロシアのノバク副首相も当該変異株に直ちに対処しなければならないとは考えておらず、対処が必要ならば、改めてOPECプラス産油国間で検討することになる旨、11月29日に示唆していたが、オミクロン株を巡る情報を収集及び分析するために、当初11月29日及び11月30日に、それぞれ開催する予定であった、OPECプラス合同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)及び共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)を、12月1日及び12月2日の、それぞれ開催へと延期した旨11月29日に明らかになった。しかしながら、12月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合時点では、なおオミクロン株の特性(感染力、重症化確率、及びワクチンの効力等)につき明らかになっていない部分が相当程度あった(11月28日には世界保健機関(WHO)がオミクロン株の深刻さを把握するには数日から数週間を要する旨声明で明らかにしていた)ことにより、この先判明する可能性のあるオミクロン株の特性次第では、世界各国及び地域が個人の外出規制及び経済活動制限を強化しなければならず、従って世界経済及び石油需要、そして石油市場への影響が免れない、といった展開となる可能性があることから、そのような事態に備えOPECプラス産油国として減産措置の再調整を迅速に実施できるようにすべく、今次閣僚級会合は正式には終了していない格好となっている。
(3) OPECプラス産油国閣僚級会合開催当日の原油価格の動き等
新型コロナウイルスのオミクロン株の感染拡大の兆候が見られる前の時点においても、OPECプラス産油国が毎月前月比で日量40万バレルの減産措置の縮小を2022年にかけ継続するようであれば、2022年初頭以降世界石油需給バランスは供給過剰に振れる可能性があるとの認識を石油市場関係者が持っていた状況下において、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で従来方針通り2022年1月につき前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨合意されたことを受け、石油需給緩和感が市場で広がった結果、原油価格は12月2日朝(米国東部時間)に一時1バレル当たり62.43ドルと前日終値比で3.14ドル下落する場面が見られた。
しかしながら、その後今次閣僚級会合は正式には終了したことにしない旨声明で明らかになったことにより、OPECプラス産油国が新型コロナウイルスのオミクロン株の影響を含め流動的な世界石油市場に対し迅速に減産措置の再調整を行う意志を示唆したこともあり、原油価格は回復、この日の終値は1バレル当たり66.50ドルと前日終値比で同0.93ドルの上昇となった。
今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で前月比日量40万バレルの減産措置縮小を決定したことに対し、米国は歓迎する一方、SPRの市場への供給に関する方針を変更する予定はない旨同国バイデン政権のサキ大統領報道官が明らかにしたと12月2日に伝えられる。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2021年9月の米国ガソリン需要(確定値)は日量897万バレル、前年同月比で5.0%程度の増加と2021年8月の同6.9%程度の増加から増加率が縮小した(図3参照)他、速報値(前年同月比で7.5%程度増加の日量918万バレル)から下方修正された。9月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量62万バレル程度と推定されるところ、確定値では同74万バレルへと上方修正されたことにより、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。2021年8~9月頃はデルタ変異株を中心として米国では新型コロナウイルス感染者数が増加傾向となった(2021年9月7日の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は301,138人と史上最高水準に到達した)。しかしながら、既にこの時点で同国における新型コロナウイルスワクチン接種が進展していたこともあり、2021年9月の同国自動車運転距離数の2019年同月を下回る率は0.8%と、1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が比較的低位であった2021年7月の同国自動車運転距離数の2019年同月を下回る率(0.9%)とほぼ同水準であるなどしたところからすると、2021年9月の同国自動車運転距離数は大きく落ち込んでいるといった状態ではなかったものと考えられる。ただ、2020年8~9月は米国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が概ね低位で安定していた(当該感染者数は同年7月24日時点で73,525人と当時としての史上最高水準に到達した後、9月7日に25,166人まで減少、その後増加傾向となったものの9月30日においても42,058人と7月24日の水準の半分程度にとどまっていた)ことが、2020年9月の同国自動車運転距離数を下支えした(同月の同国自動車運転距離数の前年同月比の減少率は8.1%と同年8月の当該運転距離数の同11.8%の減少率から相当程度改善していた)ことにより、かえって2021年9月の同国自動車運転距離数の前年同月比での伸び率が圧縮される格好となった(同月の同国自動車運転距離数の前年同月比での増加率は7.9%と8月の当該運転距離数の同8.3%から伸び率が縮小している)、このような事情が2021年9月のガソリン需要の伸びの縮小に反映されているものと考えられる。そして、2021年9月のガソリン需要は2019年9月の水準(日量920万バレル(確定値))を2.5%程度下回っている。他方、2021年11月の同国のガソリン需要(速報値)は日量912万バレル、前年同月比で13.9%程度の増加となっており、10月の当該需要(速報値)である前年同月比13.0%程度の増加から、増加率が拡大している。2021年11月の同国自動車運転距離数は2019年同月を0.6%程度下回っていた一方、2021年10月の同国自動車運転距離数は2019年同月を1.2%程度上回るなどしていたことにより、2021年11月の同国自動車運転距離数が必ずしも目立って堅調であったと言うわけではない。むしろ2020年11月の同国自動車運転距離数が前年同月比で10.7%の減少と同年10月の当該減少率(8.4%)から減少率が拡大していた(米国での1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は同年10月31日時点の84,207人から11月30日には167,658人へとほぼ倍増していたこともあり、個人の外出が敬遠されたことが自動車運転距離数低迷の背景にあるものと考えられる)ことから、かえってその反動で2021年11月の増加率が拡大したものと考えられる。なお、2021年11月のガソリン需要は2019年11月の水準(日量921万バレル(確定値))を1.0%程度下回っている。また、米国では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期に突入する(暖房シーズンは11月1日から翌年3月31日である)一方、米国で暖房用に利用される留出油(軽油及び暖房油)の在庫が11月上旬時点で平年幅下方に位置するなど低水準であったこともあり、特に製油所における留出油生産利幅が拡大していたことにより、米国製油所で留出油を生産すべく精製活動が活発になるとともに原油精製処理量が増加基調となった(図4参照)。その結果、併せて混合基材を中心としてガソリンが堅調に生産された(ガソリン最終製品の生産は図5参照)一方、ガソリン需要がガソリン生産に追い付かなかったことから、11月上旬から12月上旬にかけ米国ガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を上回る量となっている(図6参照)。
2021年9月の同国留出油需要(確定値)は日量408万バレルと前年同月比で6.8%程度の増加となり、8月の日量389万バレル、同5.9%程度の増加から需要量が上振れした他増加率も拡大したが、速報値である日量411万バレル(同7.7%程度の増加)からは下方修正された(図7参照)。9月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量79万バレル程度と推定されるところ確定値では同91万バレルへと上方修正されたことにより、この分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となっているものと見られる。また、2021年9月の米国鉱工業生産が前年同月比で推定4.7%の増加と、8月の同5.4%の増加から伸びが縮小しており、これは8月下旬に米国メキシコ湾岸地域に来襲したハリケーン「アイダ」の影響(特に石油・天然ガス産業)の他、自動車産業における半導体不足が一因であるとされる。しかしながら、米国では新型コロナウイルスワクチンの接種普及が進展していたこともあり、同国での経済活動が活発化し続けた側面もあったと見られることにより、2021年9月の物流活動は前年同月比で1.7%程度の増加と8月の前年同月比で1.4%程度の増加に比べ伸び率は拡大している。そしてこのように物流活動が活発化したことが、9月の同国の留出油需要の伸びに寄与しているものと考えられる。ただ、9月の留出油需要は2019年同月比で3.9%手小渡の増加と、8月の同3.5%程度の減少から一転して相当程度の増加となるなど好調さが際立つ状態となっていることもあり、その反動が10月の当該需要に織り込まれる可能性がある(因みに10月の留出油需要(速報値)は前年同月比で1.5%程度の減少、2019年同月比で5.9%程度の減少となっている)。他方、2021年11月の留出油需要(速報値)は日量419万バレルと前年同月比で8.0%程度の増加となった。新型コロナウイルスワクチン接種の普及進展もあり、物流を含む経済活動の好調さが維持されたうえ、10月も鉱工業生産とともに物流活動が活発化したと見られる(因みに10月の鉱工業生産は前年同月比で5.3%程度の増加と9月の4.7%程度の増加から伸び率が拡大している)にもかかわらず、同月の留出油需要(出荷)が前年同月比で相当程度減少した反動が、11月の当該需要に反映されている側面があるものと考えられる。また、11月の鉱工業生産が前年同月比で5.3%程度の増加と、10月と同水準の伸び率となったことも、留出油需要の増加に寄与したものと思われる。なお、2021年11月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量420万バレル(確定値))を0.3%程度下回っている。そして、このように11月の留出油需要は堅調であるように見えるものの、一方で11月から12月にかけて米国北東部の気温がしばしば平年を上回る程度に温暖であったことにより、特に11月の下旬から12月の上旬にかけ暖房用留出油需要(出荷)が不振となったと見られることもあり、製油所で稼働が上昇するとともに留出油生産が活発化した(図8参照)にもかかわらず、11月の上旬から中旬にかけ減少傾向となっていた留出油在庫は、11月下旬に入ると増加に転じ始めた結果、12月上旬時点での当該在庫は11月上旬時点とほぼ同水準となった他平年幅下方付近に位置する量となっている(図9参照)。
2021年9月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で9.8%程度増加の日量2,022万バレルとなり、同年8月の同2,051万バレル(前年同月比10.5%程度の増加)から需要水準が低下した他増加率も縮小した(図10参照)。9月のガソリン需要量及び前年同月比での増加率が8月から縮小したことが影響する格好となっている。また、ガソリン及び留出油等の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたこともあり、米国石油需要も速報値(前年同月比で12.4%程度増加の日量2,069万バレル)から下方修正されている。そして、2021年9月の米国石油需要は、2019年9月の当該需要(日量2,025万バレル(確定値))を0.1%程度下回っている。他方、2021年11月の米国石油需要(速報値)は日量2,072万バレルと前年同月比で10.5%程度の増加となったが、10月の当該需要(速報値)である日量2,028万バレル(前年同月比8.9%程度の増加)から需要水準及び増加率が拡大した。11月の留出油需要の前年同月比で増加率が10月の留出油需要に比べ相当程度拡大したことが影響する格好となっている。そして、2021年11月の米国石油需要は、2019年11月の当該需要(日量2,074万バレル(確定値))を0.1%程度下回っている。また、8月下旬にハリケーン「アイダ」の米国メキシコ湾沖合通過に伴い沖合油田関連施設から従業員が避難したことにより当該施設が操業を停止するとともに、原油生産量が減少した(米国原油生産量はハリケーン来襲前の8月27日の週の日量1,150万バレルから来襲後の9月3日の週には同1,000万バレルとなった)こともあり、米国オクラホマ州クッシングでの原油在庫が減少傾向となるなど、当該地点での石油需給引き締まり感が強まったこともあり、クッシングで受け渡されるWTI原油の価格のブレント原油価格に対する割安感が薄れたことから、かえってその後米国の原油輸入が堅調に推移した一方、WTIの割高感を米国外市場参加者が意識したこともあり米国からの原油輸出が低調となったことに加え、ハリケーン通過後は当該施設に従業員が復帰するとともに操業を再開したことに伴い原油生産が回復した他原油価格の上昇により米国の石油開発・生産活動が活発化した結果、米国の原油生産量が増加した(12月3日の週の同国原油生産量は日量1,170万バレルと2020年5月1日の週(この時は同1,190万バレル)以来の高水準に到達している)ものの、製油所での原油精製処理量が増加したことにより相殺されて余りあったことから、11月上旬から12月上旬にかけ米国原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る状態は続いている(図11参照)。そして、留出油在庫が平年幅下方付近に位置する量となっているものの、原油在庫及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図12及び13参照)。
2021年11月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、日本では秋場の製油所のメンテナンス作業実施が峠を越えつつあることと併せ原油輸入が増加したこともあり在庫は若干ながら増加した。他方、米国では減少した他、10月に天然ガス価格が高騰した(10月5日にはオランダTTF(Title Transfer Facility)先物価格が100万Btu当たり39.44ドル(推定)の史上最高水準に到達した)欧州では、民生用を中心とする暖房向け代替燃料として暖房油(軽油)の需要が増加するとの観測が市場で広がったこともあり、暖房油の生産を巡る利幅が拡大したことを受け、11月の当該地域製油所での原油精製処理量が相当程度増加した(同月の原油精製処理量は10月に比べ日量46万バレル程度増加したと推定される)ことにより、原油在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図14参照)。石油製品については、日本では、一部地域での足元の気温が平年を上回って温暖であったことにより暖房向けに利用される灯油の需要が抑制される格好となったこともあり灯油在庫が増加したことが一因となって石油製品全体の在庫は増加した。しかしながら、米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期に突入したこともあり、プロパンの需要が増加したことにより当該製品在庫が減少した(但し2021年10~11月は米国の気温がしばしば平年を超過する程温暖であったこともあり、2021年11月末のプロパン在庫は前月末比で240万バレルの減少と、2020年11月末(同537万バレル減少)及び2019年11月末(同662万バレル減少)に比べ減少幅が限定的となった)ことに加え、冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあると見られることによりブタンを含むその他の石油製品の在庫が減少したことから、同国の石油製品全体の在庫は減少した。また、10月にかけ新型コロナウイルス感染が沈静化したことにより個人の外出が相対的に活発化したと見られる米国やアフリカに向け欧州からガソリンが輸出された(10月を中心として米国のガソリン価格の欧州のガソリン価格に対する割高感が強まっていた)ことが一因となり、欧州での石油製品在庫は若干ながらではあるが減少した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年幅下限付近に位置する量となっている(図15参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る量である一方、石油製品在庫が平年幅下限に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上方に位置する量となっている(図16参照)。なお、2021年11月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.1日と10月末の推定在庫日数(60.3日)から減少している。
11月10日に900万バレル台後半程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、11月17日には1,100万バレル台前半程度の量へと増加した。11月24日には1,100万バレル弱程度の水準へと低下したものの、12月1日には1,200万バレル台前半程度の量へと回復した。ただ、12月8日は1,200万バレル弱程度の水準へと低下した。それでも、12月15日には1,200万バレル強の量へと若干増加したうえ、11月10日の水準を上回っている。中国政府が2021年第三回の石油製品(ガソリン、軽油及びジェット燃料を指していると見られる)輸出枠157.9万トン分を付与したと11月11日に伝えられる(また別途低硫黄重油輸出枠100万トン分が付与されたと同日に報じられるが、この輸出枠はガソリン等の石油製品への転用が可能であるとの指摘もある)。このように中国で追加の石油製品輸出枠が付与されたこともあり、中国からシンガポールに向けたガソリン輸出が幾分か回復傾向を示したうえ、インドでも11月4日のヒンドゥー教の元旦(ディワリ)に伴う休日(行楽のための自動車利用が活発化するとされる)が終了したことにより、国内でのガソリン需要が落ち着くとともに需給が相対的に緩和したことにより、インドからシンガポールに向け多少なりともガソリンが輸出された(但し、インドでは新型コロナウイルス感染抑制のため公共交通機関よりも自動車の利用が指向されていることが国内ガソリン需要を押し上げた結果同国のガソリン輸出が限定されている旨示唆する向きもある)ことが、シンガポールでの軽質留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。そして、このようなシンガポールでの軽質留分在庫の増加に加え、米国でのガソリン在庫の増加、また、特に11月下旬半ば頃以降の新型コロナウイルス感染再拡大による世界各国及び地域における個人の外出規制の強化に伴うガソリン需要下振れ懸念の増大が、アジア市場でのガソリン価格に下方圧力を加える場面が見られた。しかしながら、新型コロナウイルスのオミクロン変異株については、感染力は強いものの、現時点ではワクチン接種者については軽症が主流である旨米国疾病対策センター(CDC)が12月10日に発表した他、追加接種することでワクチンのオミクロン変異株に対する有効性を高めることができることを暫定データが示している旨12月10日に伝えられるなどしたことにより、新型コロナウイルスオミクロン変異株は、当初懸念されたほどの威力がないとの認識が市場で広がったことにより、世界各国及び地域における個人の外出規制強化観測とガソリン需要への影響に対する市場の懸念が後退したことが、アジアにおいてもガソリン価格に上方圧力を加えたこともあり、11月中旬から12月中旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は若干ながら拡大傾向となった。
また、クリスマスシーズン到来を控え贈答品等向けプラスチック製品を含む石油化学製品需要が堅調であった他、年末年始の休暇期間を控えナフサの駆け込み購入を行う動きが見られたと言われているものの、10月から12月にかけ米国が比較的温暖であったこともあり、液化石油ガス(LPG)需要が総じて低調であったことにより、同国でのLPG需給が緩和しつつあった(当該在庫は9月17日時点では、過去5年平均を22.2%程度下回っていたが、12月10日時点では過去5年平均を2.1%程度下回る状態へと下回る率が大幅に縮小するなど、需給の引き締まり感が急速に後退した)ことから、米国産LPGスポット価格も大幅に下落した(当該価格は10月6日の1ガロン当たり1.498ドルから12月13日には同1.033ドルへと31.0%程度下落した)。これにより、アジア市場でもLPGの割安感が強まった結果、石油化学産業向け原料としてLPGの利用を検討する動きが発生する兆候が見られたことが、石油化学産業においてLPGと競合するナフサ価格に下方圧力を加えたこともあり、11月中旬から12月中旬にかけての、ナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小傾向となった。
11月10日には900万バレル台前半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、11月17日も900万バレル台前半程度の水準を維持したが、11月24日には800万バレル半ば程度、12月1日には800万バレル強程度、12月8日は700万バレル台半ば程度の量へと、それぞれ減少した。12月15日には800万バレル強程度の水準へと回復しているが、なお、11月10日の量は下回っている。欧州での天然ガス価格高騰に伴い天然ガスを燃料等に利用している(もしくは天然ガス等を燃焼させることにより産出される電力を利用している)製油所での石油製品製造に伴う採算性が悪化したことにより、当該地域の製油所の稼働が低下するとともに軽油等の石油製品の生産が不活発になった一方、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期到来を控え天然ガス価格が高騰していることから、欧州で発電部門及び民生部門向けの代替燃料としての軽油の需要が上振れするとの観測が市場で発生したこともあり、欧州の軽油価格がアジアの当該製品価格に比べ割高となったことにより、アジア方面から欧州方面への軽油流出が促された反面、シンガポールへの軽油流入が鈍化したことが、シンガポールでの中間留分在庫減少の背景にあるものと考えられる。そしてこのように、シンガポールでの中間留分在庫減少傾向がアジアでの軽油価格を下支えしたものの、11月中旬以降欧州において新型コロナウイルス感染が拡大しつつあることに伴い都市封鎖措置等の経済活動制限の動きが再び広がり始めたことにより、当該地域での軽油需要が下振れする恐れがあるとの観測が市場で発生したことから、アジアで生産される軽油に対する欧州からの需要が減少するとの懸念がアジア市場で拡大したと見られることに加え、2022年に入り、中国政府が同国石油会社に対し新規の石油製品輸出枠を付与することにより同国からの軽油輸出が増加するとの見方が市場で発生したことが、アジアの軽油価格に下方圧力を加えた結果、11月中旬から12月上旬にかけ、アジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小傾向を示した。それでも、12月中旬に入ると、新型コロナウイルスオミクロン変異株感染拡大による石油需要への影響に対する市場の懸念が低下したことが、アジア市場での軽油価格に上方圧力を加えた結果、軽油とドバイ原油の価格差は再び拡大する傾向を示している。
11月10日に2,100万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、11月17日には2,100万バレル台後半程度の量へと減少したが、11月24日には2,200万バレル台後半程度の水準へと上昇した。しかしながら、12月1日には1,900万バレル台後半程度の量へと減少、12月8日には増加したものの、2,000万バレル台後半程度の水準となった。そして、12月15日には2,100万バレル弱の量へと増加したものの、11月10日の水準は下回る状態となっている。欧州での天然ガス価格高騰の影響により日本及び韓国を含む北東アジア市場でもLNG価格が高水準となったこともあり、発電部門において天然ガスから重油への燃料転換が発生していると見られ、11月中旬以降シンガポールから日本及び韓国への低硫黄重油の輸出が相対的に活発化していることが、シンガポールでの重油在庫の減少に寄与しているものと考えられる。そして、このようにシンガポールからの低硫黄重油輸出の活発化が、アジア市場での低硫黄重油価格に上方圧力を加える格好となっていることから、11月中旬から12月中旬にかけての低硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した。他方、高硫黄重油については、中東等での夏場の空調用電力供給のための発電部門向け燃料需要は低下してきていることにより、必ずしも低硫黄重油ほどには需給が引き締まっているわけではなかったことが、アジア市場での高硫黄重油価格を抑制する形で作用したものの、シンガポールでの重油在庫が減少傾向となったことや、欧州でも発電部門向け重油需要が発生しているものと見られることが欧州での重油価格を押し上げるとともに同地域での重油価格の割安感が薄れたこともあり、欧州方面からシンガポール方面への重油の流れが低下するとの観測が市場で発生したことが、多少なりとも高硫黄重油価格にも影響したものと見られ、11月中旬から12月中旬にかけてのアジア市場での高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向を示した。
3. 2021年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場等の状況
2021年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場では、欧州一部諸国で新型コロナウイルス感染拡大に伴い個人の外出規制及び経済活動制限が強化されつつあったことに加え、新型コロナウイルスのオミクロン変異株が南アフリカで確認された他当該変異株感染が世界各国及び地域に拡大しつつある旨判明したことにより、石油需要が下振れするとの懸念が市場で増大したこと、11月30日に開催された米国連邦議会上院公聴会において同国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が金融緩和縮小加速を検討する意向である旨示唆したことにより米国での金利引き上げ開始の前倒し観測が市場で増大したこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は11月12日の終値である1バレル当たり80.79ドルから12月17日には同70.86ドルの終値へと下落するなどしたうえ、11月26日の原油価格の終値は前日終値比で1バレル当たり10.24ドルの下落と2020年4月20日(この時は同55.90ドルの下落)以来の大幅な下落となった他、12月1日には同65.57ドルの終値と8月24日(この時は同65.54ドル)以来の低水準に到達する場面も見られた(図17参照)。
11月14日に米国連邦議会上院民主党のシューマー院内総務が、バイデン政権に対し戦略石油備蓄(SPR)を放出することにより、高騰する同国のガソリン価格の押し下げに寄与させるよう要請したことに加え、11月15日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された「掘削生産性報告(DPR: Drilling Productivity Report)」で12月の米国主要7シェール地域での原油生産量が前月比で日量8.5万バレル増加するとの見通しが明らかになったこと、11月15日に欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が、欧州での物価上昇は一時的であり、足元で金融引き締め策を実施すれば、地域経済回復に悪影響を及ぼす旨示唆したうえ、11月15日に発表された11月のニューヨーク連銀製造業景況感指数(ゼロが当該部門好不況の分岐点)が30.9と10月の19.8から上昇した他市場の事前予想(21.2~22.0)を上回っている旨判明したこともあり、米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えた一方、11月15日に、アラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ エネルギー相が、2022年前半には世界石油需給バランスが供給不足から供給過剰に転じると予想されるためOPECプラス産油国の減産措置縮小策は現状で十分である旨示唆した他、同日オマーンのルムヒ(Rumhy)エネルギー相も、現在のOPECプラス産油国減産措置縮小策を加速させる必要はない旨の見解を示したうえ、世界石油在庫は下げ止まっていることにより足元は供給不足の状態ではなく、むしろ2022年第一~第二四半期には石油供給過剰になると誰もが予想している旨ロシアエネルギー省のソローキン次官が11月15日に説明するなど、複数のOPECプラス産油国が減産措置縮小(つまり増産)加速に対し慎重な姿勢である旨示唆したことに加え、この日米国バイデン政権からSPR放出等同国ガソリン小売価格高騰対策を発表する気配がなかったことにより、SPR放出等による石油需給緩和期待が市場で後退したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、11月15日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.09ドルと小幅に上昇し、終値は80.88ドルとなった。11月16日には、11月17日にEIAから発表される予定である同国石油統計(11月12日の週分)で原油在庫が増加しているとの観測が市場で発生したことに加え、11月16日に国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで、10月時点の世界石油生産が前月比で日量140万バレル増加しており、さらに11~12月併せて10月比で同150万バレル増加すると予想されるなど、世界石油供給が拡大しつつあることにより、これまでの原油価格上昇の潮目が変わるかもしれない旨IEAが指摘したこと、11月16日に米国商務省から発表された10月の同国小売売上高が前月比1.7%増加と市場の事前予想(同1.4%増加)を上回って増加している旨判明したこともあり米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.76ドルと前日終値比で0.12ドル下落した。また、11月15日夜(米国東部時間)に実施された、米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席との首脳会談で、バイデン大統領が習近平国家主席に対し中国の石油備蓄放出を要請したうえ、現在本件につき両国関係者が協議中である旨11月16日夕方(米国東部時間)に報じられたことにより、米国等による石油備蓄放出に伴う世界石油需給緩和観測が11月17日の市場で増大したことに加え、11月17日に米国商務省から発表された10月の同国新規住宅着工件数が年率152万戸と前月比で0.7%減少した他市場の事前予想(同157.6~158.0万戸)を下回ったこともあり米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.40ドル下落し、終値は78.36ドルとなった。この結果原油価格は11月16~17日の2日間で1バレル当たり合計2.52ドル下落した。ただ、11月18日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、米国による石油備蓄放出要請に対し日本及び韓国の政府当局者が原油価格引き下げのために石油備蓄を放出することは困難である旨示唆したと11月18日に伝えられたことにより、石油備蓄放出による石油需給緩和期待が市場で後退したこと、これまでの上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.65ドル上昇し、終値は79.01ドルとなった。11月19日には、新型コロナウイルス感染拡大を抑制するために、11月22日より少なくとも20日間全土において都市封鎖を実施する旨11月19日にオーストリア政府が発表した他、新型コロナウイルス感染拡大により都市封鎖措置も排除できない旨11月19日にドイツのシュパーン保健相が明らかにしたことにより、欧州諸国における経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことに加え、欧州における新型コロナウイルス感染拡大により当該地域での経済回復が遅延するとの観測が市場で増大したこともありユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.10ドルと前日終値比で2.91ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2021年12月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2022年1月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり75.94ドル(前日終値比2.47ドルの下落)であった)。
11月22日には、前日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、主要消費国による備蓄石油放出は、足元の市場の状況下では適切でないとして、12月2日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合において現在実施中の減産措置縮小の方針を再調整しなければならないかもしれない旨OPECプラス産油国関係者が明らかにした旨11月22日にブルームバーグ通信が報じたことにより、石油需給緩和観測が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.65ドル上昇し、終値は76.75ドルとなった。また、財政収入確保のため2018年2月9日に米国連邦議会が承認した、2022年から2027年にかけての1億バレルの同国戦略石油備蓄(SPR)放出のうち、1,800万バレル分の放出を加速して実施することに加え、新たに3,200万バレル相当分のSPRを貸し出す旨、11月23日に米国のバイデン大統領が発表したことにより、これまで米国等のSPR原油の市場への供給方針を巡る不透明感により原油を売却していた市場関係者が利益確定のため原油の買い戻しを実施したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.50ドルと前日終値比で1.75ドル上昇した。この結果原油価格は11月22~23日の2日間で1バレル当たり合計2.40ドルの上昇となった。11月24日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、この日EIAから発表された米国石油統計(11月19日の週分)で、原油在庫が前週比で102万バレルの増加と市場の事前予想(同48万バレル程度の減少)に反し増加していた他同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が同79万バレル増加している旨判明したこと、11月24日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で467基と前週末比6基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は449基と前週末比で6基増加)している旨判明したことにより、この先の米国原油生産増加期待が市場で増大したこと、11月24日にドイツ公的研究機関IFO経済研究所から発表された11月の同国企業景況感指数(2015年=100)が96.5と10月の97.7から低下、2021年4月(この時は96.4)以来の低水準となった他市場の事前予想(96.7)を下回ったこともありユーロが下落したうえ、11月24日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(11月20日の週分)が19.9万件と前週の26.8万件から減少、1967年11月14日の週(この時は19.7万人)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(26.0万件)を下回ったこと、同じく11月24日に発表された米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(11月2~3日開催分)で、高水準の物価上昇が継続するようであれば金融緩和縮小及び金利引き上げをより速やかに実施すべきである旨複数の委員が示唆していた旨明らかになったこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.39ドルと前日終値比で0.11ドル下落した。11月25日には、米国感謝祭(サンクスギビング・デー)の休日に伴い米国原油先物市場では通常取引は実施されなかったが、11月26日には、人体の免疫機能を突破することによりワクチンの有効性を低減させるとともに感染を拡大させる可能性のある新型コロナウイルスの新たな変異株が南アフリカで確認された他、香港及びベルギー等でも外国からの渡航者が当該変異株に感染している旨明らかになった旨11月25~26日に報じられるなど、当該変異株による感染が拡大する兆候が見られたこともあり、英国が南アフリカ等からの渡航制限を11月26日正午(現地時間)より実施する他、欧州連合(EU)及び香港も同様の措置を実施する方針である旨11月25日に報じられたことにより、新型コロナウイルスの新たな変異株の感染流行に伴い、世界各国及び地域で個人の外出規制及び経済活動制限が再び強化されるとともに世界経済成長及び石油需要の伸びが鈍化する恐れがあることに対する懸念が市場で増大したことから、この日(11月26日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり10.24ドル下落し終値は68.15ドルとなった。また、この日の原油価格の前日終値比の下落幅は2020年4月20日(この時は同55.90ドルの下落)以来の大幅なものであった。そして、原油価格は11月24~26日の3営業日で1バレル当たり合計10.35ドル下落した。
しかしながら、11月26日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが11月29日の市場で発生したことから、この日(11月29日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.80ドル上昇し、終値は69.95ドルとなった。ただ、11月30日には、米国バイオ医薬製造会社モデルナのバンセル最高経営責任者(CEO)が、既存の新型コロナウイルスワクチンは同ウイルスのオミクロン変異株に対し相当程度効力が低下すると認識している旨発言したと11月30日に伝えられたことにより、新型コロナウイルスの新たな変異株の感染拡大による、世界経済及び石油需要への影響に対する懸念が市場で増大したことに加え、11月30日に開催された米国連邦議会上院銀行住宅都市委員会の公聴会において、パウエルFRB議長が、米国物価上昇は一時的ではなく持続的なものになりつつあるとの認識を示唆するとともに、現在2022年6月に予定される米国金融当局による同国国債等の資産購入終了を数ヶ月間前倒することを、12月14~15日に開催する予定であるFOMCにおいて協議する意向である旨の見解を示したことにより、この先の米国での金利引き上げ等に伴う同国経済成長及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことから、この日(11月30日)の原油価格の終値は1バレル当たり66.18ドルと前日終値比で3.77ドル下落した。また、11月22日に米国カリフォルニア州に帰国した南アフリカ渡航者が新型コロナウイルスのオミクロン変異株に感染している旨判明したと12月1日に米国疾病対策センター(CDC)が発表、米国で初めてオミクロン変異株感染者が確認されたことにより、今後米国で当該変異株感染が広がるとともに同国経済及び石油需要に影響が及ぶのではないかとの懸念が市場で増大したことに加え、12月1日に開催された米国連邦議会下院金融サービス委員会での公聴会で、パウエルFRB議長が、同国で高水準の物価上昇が持続する可能性が明確に高まっている状況に対応すべく、金融当局の米国経済回復への対応策を修正する意向である旨明らかにしたことにより、今後の米国金融当局による同国国債購入の縮小加速及び金利引き上げ開始時期の前倒しに関する観測が市場で増大したことから、12月1日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.61ドル下落し、終値は65.57ドルと、8月24日(この時は同65.54ドル)以来の低水準となった。ただ、12月2日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、2022年に入り世界石油市場が供給過剰となる可能性があるとの認識を石油市場関係者が持っている状況下において、12月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では従来方針通り2022年1月につき前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨合意されたものの、併せて当該閣僚級会合は正式には終了したことにしない旨声明で明らかになったことにより、新型コロナウイルスのオミクロン変異株感染拡大による石油需要下振れの可能性を含め流動的な世界石油市場に対し、OPECプラス産油国が次回閣僚級会合(2022年1月4日開催予定)を待たずして速やかに減産措置の再調整を行う意志を示唆したことにより、石油需給緩和感が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.93ドル上昇し、終値は66.50ドルとなった。しかしながら、12月3日時点の南アフリカにおける新型コロナウイルスのオミクロン変異株感染者数が11月30日に比べ約4倍に増加している旨同日判明した他、米国では12月3日までに少なくとも6州において当該変異株による感染者を確認した旨同日明らかになったことにより、オミクロン変異株感染拡大に伴う世界各国及び地域における個人の外出規制及び経済活動制限の強化に伴う世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、12月3日に米国労働省から発表された11月の同国失業率が4.2%と10月の4.6%から相当程度低下した他市場の事前予想(4.5%)を下回るなど米国労働市場の引き締まり感が感じられることにより、米国金融当局が金融緩和縮小を加速する流れは継続するとの観測が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、12月3日の原油価格の終値は1バレル当たり66.26ドルと前日終値比で0.24ドル下落した。
12月6日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、南アフリカの主要医療機関で得られている初期のデータに基づけば、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染者は相対的に軽症であり、感染者が大幅に増加している割には入院者数が増加していないことを示している他、確定するのは時期尚早であるものの、現時点ではオミクロン変異株が感染症の重症化をもたらす確率はそれほど高くない旨米国国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長が示唆したと12月5日に伝えられたことにより、当該変異株の感染拡大による、世界各国及び地域における個人の外出規制及び経済活動制限の強化に伴う世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で後退したこと、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが2022年1月の米国及びアジア向け原油販売価格を引き上げた旨12月5日に伝えられたことにより同国が堅調な石油需要を確信していると市場関係者が認識したこと、11月29日に再開したイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議において、12月1日にイラン側から提出された合意草案が、これまでの交渉過程で合意した内容から軒並み後退しているとして、12月4日に米国政府高官がイランの姿勢を批判した一方、12月5日にイランのライシ大統領が、当該協議においては米国の対イラン制裁の全面解除を要求するとともに部分的な合意で折り合う考えはない旨表明したことで、当該核合意正常化に向けた交渉が順調に進んでいない旨示唆されたことにより、米国の対イラン制裁が速やかに緩和されるとともにイランからの原油供給が大幅に増加するとの期待が市場で後退したことから、12月6日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.23ドル上昇し、終値は69.49ドルとなった。また、12月7日も、新型コロナウイルスのオミクロン変異株による世界経済及び石油需要への負の影響が当初懸念されたほどではなさそうであるとの観測が市場で増大した流れを引き継いだこともあり、原油を買い戻す動きが市場で継続したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.05ドルと前日終値比で2.56ドル上昇した。12月8日も、既存の新型コロナウイルスワクチンの3回目の接種によりオミクロン変異株に対しても感染拡大防止効果を発揮する旨当該ワクチン試験の暫定結果で判明したと12月8日に米国製薬大手ファイザーのブーラ最高経営責任者(CEO)が明らかにしたことにより、当該変異株の感染拡大による世界経済及び石油需要への影響に対する市場の懸念が後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.31ドル上昇し、終値は72.36ドルとなった。この結果原油価格は12月6~8日の3日間で1バレル当たり合計6.10ドル上昇した。12月9日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、中国の不動産開発大手中国恒大集団及び不動産開発中堅佳兆業集団に対する信用格付けを一部債務不履行へと引き下げた旨12月9日に格付け会社フィッチ・レーティングスが発表したことにより、中国の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.42ドル下落し終値は70.94ドルとなった。それでも、12月10日には、12月9日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、12月10日に米国労働省から発表された11月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で6.8%の上昇と、10月の同6.2%から上昇率が拡大したものの、市場の事前予想(同6.8%)と一致していた他、前月比では0.8%の上昇と10月の同0.9%の上昇から伸びが鈍化していたうえ、同日米国のバイデン大統領がこの先数週間以内に事態は改善すると予想している旨表明したこともあり、米国金融当局が金融緩和縮小を加速するとの観測が市場で後退したことにより、米国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.67ドルと前日終値比で0.73ドル上昇した。
しかしながら、英国で新型コロナウイルスオミクロン変異株感染による死亡者が確認された旨12月13日に英国のジョンソン首相が発表した他、世界保健機関(WHO)も、オミクロン変異株が人体の免疫機能を突破する証拠が見られる他、依然としてオミクロン変異株感染力や重症化確率につき不透明な部分が多く引き続きリスクが高い旨12月13日に表明したこともあり、当該変異株による世界経済及び石油需要への影響に対する懸念が市場で増大したことに加え、12月13日にEIAから発表された掘削生産性報告(Drilling Productivity Report)で、EIAが2022年1月の米国主要7シェール地域における原油生産量が前月比で日量9.6万バレル増加する他、パーミアン盆地での原油生産が日量503万バレルと史上最高水準に到達する見込みである旨明らかにしたことにより、石油需給引き締まり感が市場で後退したこと、新型コロナウイルスオミクロン変異株感染拡大の世界経済への影響に対する懸念に加え12月14~15日に開催される予定であるFOMCで金融緩和縮小の加速が決定されるとの観測が市場で発生していることもあり、米国株式相場が下落するとともに米ドルが上昇したことから、12月13日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.38ドル下落し終値は71.29ドルとなった。また、12月14日も、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで、新型コロナウイルスオミクロン変異株感染抑制策実施の影響によりIEAが2022年第一四半期の世界石油需要を日量63万バレル下方修正したうえ、2021年12月にも世界石油供給が需要を超過する可能性がある他、米国、カナダ及びブラジルでの石油供給の伸びにより2022年も世界石油需給バランスは供給過剰となると見込まれる旨示唆したことにより、石油需給引き締まり懸念が市場で後退したことに加え、12月14日にWHOのテドロス事務局長が、新型コロナウイルスオミクロン変異株による感染が急激な速度で拡大しつつある他、オミクロン変異株の威力を軽視すべきではないと警告したうえ、12月14日に米国労働省から発表された11月の同国生産者物価指数(PPI)が前年同月比で9.6%の上昇と、10月の同8.8%の上昇から上昇率が拡大、2010年以降の同国月間統計史上最高水準に到達した他、市場の事前予想(同9.2%程度の上昇)を上回ったことにより、インフレ懸念が市場で広がったこともあり、米国株式相場が下落した他、米国PPI上昇率加速によるインフレ懸念増大もあり米ドルが上昇したことから、12月14日の原油価格の終値は1バレル当たり70.73ドルと前日終値比で0.56ドル下落した。この結果原油価格は12月13~14日の2日間で1バレル当たり合計0.94ドルの下落となった。ただ、12月15日には、この日EIAから発表された米国石油統計(12月10日の週分)で原油在庫が前週比458万バレルの減少と市場の事前予想(同210万バレル程度の減少)を上回って減少していた旨判明した他、ガソリン在庫が同72万バレル、留出油在庫が同281万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(ガソリン在庫同160万バレル程度、留出油在庫同70万バレル程度の、それぞれ増加)に反し減少していた旨判明したことに加え、12月14~15日に開催されたFOMCにおいて、米国国債購入等の金融緩和措置の縮小規模を倍に拡大することで2022年3月には金融緩和措置縮小を終了(当初予定は2022年6月)する旨決定した他、金融当局関係者が2022年に金利引き上げが3回実施されると予想している旨判明するなど、前回の予想(9月21~22日のFOMC開催の際に判明)である2022年に0.5回の金利引き上げ実施から上方修正されている旨明らかになったものの、概ね市場の事前予想通りであったとして、これまで株式を売却していた市場参加者が株式を買い戻したことにより、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.87ドルと前日終値比で0.14ドル上昇した。また、12月16日も、12月15日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が市場の事前予想を上回って減少していた他、ガソリン及び留出油在庫が市場の事前予想に反し減少していた旨判明した流れを引き継いだことに加え、12月16日に英国イングランド銀行(中央銀行)が政策金利をそれまでの0.10%から0.25%へと引き上げる旨決定した他、同日の欧州中央銀行(ECB)理事会開催の際に示された2022年のEU域内消費者物価上昇見通しを前年比3.2%と9月9日時点の同1.7%から相当程度上方修正したことにより、英ポンド及びユーロが上昇した反面米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.51ドル上昇し、終値は72.38ドルとなった。この結果原油価格は12月15~16日の2日間で1バレル当たり合計1.65ドル上昇した。しかしながら、12月17日には、オランダ政府の新型コロナウイルス専門家諮問委員会が同国政府に対しオミクロン変異株による感染抑制のため厳しい都市封鎖を実施するよう進言した旨12月17日に伝えられた他、同日デンマークのフレデリクセン首相も当該変異株抑制のため新規の措置を講ずる方針である旨発表、その他、英国及び米国等でオミクロン変異株と見られる新型コロナウイルス感染者数が増加しつつある旨12月17日に報じられたこともあり、当該変異株感染拡大抑制のための個人の外出規制及び経済活動制限の強化に伴う世界経済の減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、米国金融当局による金融の量的緩和縮小終了直後の、2022年3月15~16日に開催されるFOMCにおいて金利引き上げ開始が決定される可能性が高い旨米国FRBのウォラー理事が12月17日に発言したこともあり、米ドルが上昇したこと、12月17日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で475基と前週比で4基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は452基と同2基増加)となっている旨判明したことにより、将来的な米国の原油生産増加期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.52ドル下落し、終値は70.86ドルとなった。
4. 原油市場における主な注目点等
地政学的リスク要因面では、市場関係者の心理に影響することを通じ原油相場を変動させうる複数の材料が見受けられる。
まずイランであるが、8月下旬にイランは同国テヘラン西方の都市カラジ(Karaj)にある核開発関連施設でウラン濃縮に利用される遠心分離機に必要な部品の製造を再開したと11月17日に伝えられる。また、11月17日に国際原子力機関(IAEA)は11月6日時点でイランが保有する濃縮ウラン保有量が2,489.7キログラムであり、ウラン濃縮度最大60%のウランを17.7キログラム保有している(核合意で保有が認められているイランの濃縮ウランは濃縮度上限3.67%、量的上限300キログラムである)他、カラジにある核開発関連施設における監視カメラの設置を未だ承認していない(2021年6月23日の当該施設に対する無人機攻撃の際に破損したIAEA核査察監視用カメラの交換をIAEAは要求したものの、イランはカラジの施設は対象外であると主張していた)との報告書を取り纏めた。11月20日に、米国国防省のオースティン長官は、イランは最近自国での核開発活動を進展させており、核合意正常化に向けた協議に真剣に対応しないのであれば、米国としては安全保障を確保すべく全ての方策を検討する意向である旨表明した。他方、11月22日にイラン外務省は、米国に対し対イラン制裁解除、及び米国がイラン核合意を二度と離脱しない旨の保証を要求する旨表明した。そのような中で、11月22日に、IAEAのグロッシ事務局長はイランを訪問し、11月23日に、アブドラヒアン外相及びエスラミ原子力庁長官等との間で、イランがIAEAの核査察活動を制限している問題につき協議するとともに、イランが核合意を逸脱して実施している核開発活動を抑制するよう要求したものの、イラン側はそれを受け入れず、両者の協議は結論に至らなかった旨11月24日にグロッシ事務局長はIAEA定例理事会の席で明らかにしている。
11月29日には、オーストリアのウイーンでイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議が再開した(米国とは間接協議)。当初協議の場では、イラン側が過去の協議内容に基づき議論を行うことを受け入れた他、米国の対イラン制裁解除及びイラン核開発活動の抑制のための2つの専門部会を設置することで合意した旨11月29日に報じられた。12月2日には、イラン外務省のバゲリ次官が、イラン核合意正常化に向けた合意文書草案を西側諸国等に提出した旨発表した。しかしながら、当該草案に記載されている内容が、イランの革命防衛隊関係者へのものを含め米国が全ての対イラン制裁を解除するとされる他、これまで協議の過程で西側諸国等との間でなされてきた合意についても大幅に修正が加えられているなど、イランの提案は英国、フランス及びドイツ等との認識の間に大きな隔たりがあることもあり、12月3日に協議を開催した後、参加者は一旦帰国し、対処方法等につき検討することとし、当該協議は中断した。12月5日にイランのライシ大統領は、米国の対イラン制裁の全面解除を要求するとともに部分的な合意で折り合う意向はない旨表明した。当該協議は12月9日に再開したが、イランは従来の主張を繰り返したとされ、議論は平行線を辿った旨、協議に参加する欧州連合(EU)欧州対外活動庁のモラ事務局次長は12月9日に明らかにした。12月13日にも、英国、フランス及びドイツの外交幹部が、足元当該協議に関し本質的な議論は開始されていない他、イラン核合意を速やかに正常化させなければ、それほど期間を要さないうちにイラン核合意正常化の価値が消滅する旨の懸念を表明した。これに対し、イラン外務省のバゲリ次官は、英国、フランス及びドイツが責任転嫁をしているとして批判した。
ただ、イラン政府がこれまで拒否してきたカラジの核開発関連施設における監視カメラの交換を2021年末までに実施することを承認した旨12月15日にイランのアブドラヒアン外相が明らかにしたと伝えられる(但し核合意正常化までIAEAは収録した映像を見ることはできないとされる)。12月17日には核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議が少なくとも10日間は中断される旨明らかになった。同日米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、協議は順調には進捗していない一方、イランの核開発活動は相当程度進展しており、イランで核兵器製造が可能となるまでの期間が大幅に縮小してきている旨懸念を表明した。
このように、11月29日にイラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等との協議は再開されたが、米国の対イラン制裁全面解除と米国が二度とイラン核合意から離脱しないとの保証をイランが米国に対し要求する他、その協議の過程でイラン側から提出された合意草案では、これまでの協議で合意していた内容が相当程度修整されているなど、当該協議は後退する格好となっている。このようなこともあり、当該協議が短期間で容易に決着するとは考えにくく、今後も協議が紆余曲折を経ることが想定される。このため、当該協議妥結と米国の対イラン制裁緩和、及びイランからの原油供給増加と世界石油需給緩和の可能性に対する市場の期待は低下しているものと見られ、この面では、少なくとも当面は原油相場への下方圧力はそれほど強まらないものと思われる。むしろ交渉が不調気味となる一方イランによる高濃度濃縮ウラン製造拡大等さらなる核合意逸脱行為が進む等により、イラン核合意正常化の可能性が低下するとともに、米国がイランに対し核合意正常化以外の方策をより具体的に検討する旨明らかになるようであれば、米国とイランとの対立の高まり等から、中東地域情勢が不安定化、ホルムズ海峡封鎖やイエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)による、同勢力と対立し事実上の内戦状態となっている同国のハディ暫定大統領派勢力を支援する有志連合軍を主導するサウジアラビアに対するミサイルや無人攻撃機等の発射、ペルシャ湾におけるタンカー等への攻撃行為等を通じ、当該地域からの原油供給への影響に対する懸念が市場で高まることにより、原油相場に上方圧力を加えると言った展開も想定される。
ウクライナでは、ロシアとの国境付近にロシア軍10万人程度が集結している旨ウクライナのゼレンスキー大統領が明らかにしたと11月13日に報じられる(同国のクレバ外相は国境付近でのロシア軍駐留は2021年春以降継続していた旨明らかにしたと11月15日に報じられる)。これに対し、11月15日に北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は、ロシアに対し、状況悪化防止と緊張緩和を呼びかけたうえ、NATOはウクライナを支持する旨表明した。また11月17~18日には米国のオースティン国防長官もウクライナ国境付近でのロシア軍の展開に対し透明性を確保するよう要求するとともに、ウクライナの自衛、主権及び領土の一体性に対し米国は強力に支援する旨表明した。これに対し、11月18日にロシアのプーチン大統領は欧米諸国がウクライナに武器等を供与したり、欧米諸国等が軍用資機材を派遣させたりするなどして、ロシアを挑発すること等により事態を悪化させているとして批判した。12月2日には、米国のブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相がスウェーデンのストックホルムで会談を行った。その場でラブロフ氏は、ロシアは軍事的なものを含め衝突することを望まない旨表明したものの、ウクライナのNATO加盟を推進した場合にはロシアとしては軍事行動を含めた対応を行う旨示唆した一方、ブリンケン氏は外交的な解決を望む旨明らかにした。また、12月7日には、米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領がビデオ会議形式で2時間程度会談した。バイデン大統領は、ロシアがウクライナ周辺地域において軍備を拡大していることを欧州同盟国とともに深く懸念する旨表明、ロシアがウクライナに対し軍事行動を実施した際には、米国及びその同盟国はロシアに対し経済面で強力な措置を講じる他、中欧諸国やバルト3国等からの要求に応じ軍事支援を強化する等を含めこれまで例のないような強力な施策を実施することにより、深刻な結果を招く可能性がある旨表明した他、米国はウクライナの主権及び領土安全保障の確保を支持する旨ロシアに伝えるとともに、外交を通じウクライナを巡る緊張緩和に向け努力するようロシアに要求した(また、12月7日には米国連邦議会上院の公聴会で国務省のヌーランド次官が、ロシアがウクライナに対し軍事攻撃等を実施すれば、ロシアからドイツへ敷設され現在関係当局による操業開始承認待ちである「ノルド・ストリーム2」天然ガスパイプラインの操業開始を防止する可能性がある旨示唆した一方、別途米国はロシア債券売買に対し制限を課する方策について検討している他、ロシアに対し国際銀行間通信協会(SWIFT)による国際決済取引からロシアを排除することも考えている旨12月7日に伝えられる)。これに対しロシアはウクライナ国境でNATOが軍備を強化している旨反論、これ以上の東方への拡大をNATOが実施しないことに加え、ロシア周辺地域でNATOが軍事施設等を設置しない旨の法的保証を米国に要求した。これに対し米国はどの国と同盟関係を締結するかは各国の自由意志によるとして、ロシアの要求を事実上拒否した。そのうえで、今後も両国は対面形式での会談実現への努力を含め接触し続ける旨合意した。12月8日にはロシアのプーチン大統領が、ロシアは平和的外交努力を実施しているが、自国の中長期的な安全保障を確保する権利もあり、その上で、ウクライナのNATO加盟はロシアにとって懸念材料である旨主張した他、同日プーチン大統領は1週間以内に米国とロシアの首脳会談を受けた提案を米国に送付する意向である旨明らかにした。また、12月8日に米国のバイデン大統領はロシアがウクライナに対し軍事攻撃等を実施した場合でも、米国単独でウクライナ等に対し軍を派遣することは考えていない(ウクライナは現時点ではNATO加盟国ではないことがその理由とされる)旨明らかにしている。12月10日にロシア外務省は、ウクライナ(及びジョージア)が将来NATOに加盟することを確約する旨の、2008年4月3日開催のNATO首脳会議での決定(ブカレスト宣言)を正式に取り消すとともに、ウクライナのNATO加盟をロシアが事実上防止できる権利をロシアに付与する他、ロシア国境周辺での軍備を実施しないと保証することをNATOに要求する旨表明した。これに対しNATOのストルテンベルグ事務総長は、安全保障面での同盟相手の決定は各国の自由であるとして、ウクライナのNATO加盟を防止する権利を事実上ロシアに付与するというロシアの要求を拒否した旨12月10日に伝えられる。また、12月11日~12に英国のリバプールで開催された主要7ヶ国政府(G7)外相会合では、ウクライナの主権及び領土一体性、そしていかなる主権国家が自国の将来を決定する権利を保有することに関し、揺るぎない確約を行うことを再確認するとともに、ウクライナ国境付近でのロシアによる軍備増強に関し、ロシアが緊張を緩和し、外交手段に則り、軍事活動の透明性に関する国際的義務に従うよう要求する他、ロシアがウクライナへの軍事攻撃を行えば重大な結果と深刻な代償を招くことになる旨の声明を発表した。また、12月12日に米国のブリンケン国務長官は、ロシアがウクライナに対し軍事攻撃を実施した場合には、「ノルド・ストリーム2」パイプラインの操業開始可能性が低下する旨の見解を明らかにした。12月13日には、EU外相会合が開催され、ロシアがウクライナを軍事的に攻撃した場合には、ロシアは多大な経済的損失と政治的結果を招くことを、EU諸国外相は明確にする旨表明した(12月16日に開催されたEU首脳会議においてもEU外相会合と同趣の声明を発表した)。また、12月15日に開催された東方パートナーシップ首脳会議(出席者はEUとアゼルバイジャン、アルメニア、ウクライナ、ジョージア及びモルドバの首脳(ベラルーシは欠席))では、ウクライナ、ジョージア及びモルドバがEU加盟に向けた加盟手続き開始を要望した。なお、12月7日の米国及びロシア首脳会談開催後も、ウクライナ国境付近ではロシア軍が配備されたままである旨ウクライナ国家安全保証・国防会議(NSDC)のダニーロフ(Danilov)書記が12月15日に明らかにしている。他方、12月17日にはロシア外務省が、この週の前半に、ウクライナを巡る問題解決のためのロシアからの提案書を米国に対し提出した旨明らかにした。その提案では、NATOがウクライナ及び東欧において軍事活動を実施しない旨法的に保証する他、ウクライナのNATO加盟をロシアが拒否する権利を有するようにすることが含まれており、米国の政府高官はロシアの提案の一部は受諾不可能である旨12月17日に明らかにしている。
このように、ロシアがウクライナとの国境付近に軍を配備していることから、近いうちにロシアがウクライナに対し軍事攻撃を実施するのではないかとの懸念が増大しており、ロシアがウクライナに対し軍事攻撃を実施するのであれば、米国をはじめとする西側諸国がロシアに対し経済制裁等を実施する用意がある旨米国等が表明しており、選択肢の中には「ノルド・ストリーム2」パイプラインの操業開始承認防止が含まれている旨示唆されることから、今後このような欧米諸国側の動きへの対抗策として、ウクライナやポーランドを通過するものを含む、他のパイプライン経由での欧州向けロシア天然ガス供給削減等を、ロシアが実施する可能性があることに対する懸念が市場で高まることにより、欧州(そしてLNGの仕向け地として競合するアジア)での天然ガス(もしくはLNG)価格が上昇することを通じ、高価な天然ガスから相対的に安価な重油等の石油製品への燃料転換が進むことにより、石油製品需要が増加するとの見方が市場で広がる結果、石油製品価格、そして原油価格に上方圧力が加わる可能性がある。
リビアでは、12月24日に実施される予定である同国大統領選挙立候補者の申請受付が11月22日に終了した。11月14日に故カダフィ大佐の次男であるセイフイスラム氏が立候補申請したが、選挙管理委員会は当該申請を受理しなかった(2011年の反政府デモ弾圧に関与した容疑で2015年に死刑判決を受けた(2017年に恩赦で釈放された)ことが背景にあると指摘する向きがある)。また西部トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National Accord)と対立し一時内戦状態となっていた、東部トブルクを拠点とする代表議会(HoR: House of Representatives)を支援するリビア国民軍(LNA: Libya National Army)の指導者で、今回の大統領選挙に立候補しているハフタル将軍についても、内戦の当事者であるとして同国の司法当局は選挙管理委員会に対し立候補許可を取り消すよう要求している。12月16日の時点においても、大統領選挙を巡る作業は混乱したままとなっており、大統領選挙候補者が確定していない他、12月15~16日にはトリポリにおいて多数の武装集団構成員が出動している旨12月17日に伝えられるなど、同国の大統領選挙を巡る不透明感が増大しつつある旨示唆される。今後もハフタル将軍の立候補が取り下げられるかどうか等を含め、リビア大統領選挙を巡る情勢が、同国の政情及び石油生産関連施設操業状態、そして原油生産状況及び原油価格に影響を及ぼす可能性があるものと考えられる。
他方、世界各国及び地域において、新型コロナウイルスワクチン接種の普及は進展しつつあるものの、2021年8月下旬頃の世界の新型コロナウイルス感染第三波の頂点到達から感染が沈静化した後、10月中旬頃には底打ち、再び感染者数が増加する傾向を示しつつある。また、南アフリカでワクチンの有効性を低減させるとともに感染力が強いと見られるオミクロン変異株が確認されたと11月25日に伝えられた他、その後当該変異種が世界各国及び地域に拡大する兆候が見られつつある。オミクロン変異株感染拡大抑制のため、英国イングランドでは在宅勤務を推奨する他、映画館等の屋内でのマスク着用義務付け、及びナイトクラブ等でのワクチン接種証明書の提示等個人の外出規制等強化を実施する旨12月8日にジョンソン首相が発表した(これにより、企業は従業員に対し在宅勤務を実施するよう指示し始めている旨12月10日に伝えられる)。また米国のニューヨーク州でも新型コロナウイルス感染者数が増加しているとして、12月10日には同州のホークル知事が、屋内の公共の場全てでマスク着用を原則義務付ける旨発表した。
ただ、南アフリカの主要医療機関で得られている初期のデータに基づけば、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染者は相対的に軽症であり、感染者が大幅に増加している割には入院者数が増加していないことを示している旨12月5日に報じられる他、確定するのは時期尚早であるものの現時点ではオミクロン変異株が感染症重症化をもたらす確率はそれほど高くない旨米国国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長が示唆したと、12月5日に伝えられる。それでも、12月14日にWHOのテドロス事務局長は、新型コロナウイルスオミクロン変異株が急激な速度で感染を拡大しつつある他、オミクロン変異株の威力を軽視すべきではないと警告している。このように、当該変異株感染が急速に拡大することにより、世界各国及び地域における個人の外出規制及び経済活動制限の強化に伴う世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で強まっていることが一因となり、原油価格は11月24日の1バレル当たり78.39ドルの終値から12月1日には同65.57ドルへと下落したものの、その後当該変異株の重症化確率がそれほど高くないとの見解が示されたこともあり、12月16日には原油価格は同72.38ドルへと回復している。今後もオミクロン変異株の世界経済や石油需要への影響がそれほど深刻ではないことを示唆する情報が明らかになった場合には、石油需要の回復と石油需給引き締まりに対する期待が市場で持ち直す結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。ただ、新型コロナウイルスのオミクロン変異株のワクチンへの耐性、感染力の強さ、そして重症化確率等の特性が明確になるまでは、一時的にせよ世界各国及び地域で個人の外出規制及び経済活動制限が強化される動きが継続する、もしくは新型コロナウイルス感染を恐れて個人の外出や経済活動等が敬遠される(米国では2021年11月下旬の感謝祭の休日から12月上旬の期間における消費者の消費行動が2020年に比べ不活発であることが示されている旨12月17日に伝えられており、オミクロン変異株を含む新型コロナウイルス感染に対する消費者の懸念が反映されている可能性があると指摘する向きもある)等により、原油相場の上昇が抑制される場面が見られることもありうる。
また、11月30日に開催された米国連邦議会上院銀行住宅都市委員会の公聴会において、パウエルFRB議長が、米国物価上昇は一時的ではなく持続的なものになりつつあるとの認識を示唆するとともに、従来2022年6月に予定されていた米国国債等の資産購入終了を前倒しすることを、12月14~15日に開催する予定であるFOMCにおいて協議する意向である旨示唆した。そのような中、12月10日に米国労働省から発表された11月のCPIは前年同月比で6.8%の上昇と1982年6月(この時は同7.1%の上昇)以来の高水準に到達した。また、12月14日に米国労働省から発表された11月の同国PPIは前年同月比で9.6%の上昇と2010年以降の同国月間統計史上最高水準に到達した。果たして12月14~15日に開催されたFOMCでは、金融緩和縮小の加速が議論され、米国国債購入等の措置の縮小規模を倍に拡大することで2022年3月には金融の量的緩和縮小を終了する旨決定した他、FOMC開催の際に、2022年に3回の金利引き上げが実施されると金融当局関係者が予想している旨判明するなど、2022年に0.5回の金利引き上げを実施するとの前回の予想(9月21~22日のFOMC開催の際に判明)から金利引き上げ頻度予想が上方修正されている旨明らかになった。このように、米国金融当局による金融緩和縮小の加速が意識されるとともに、今後速やかに金利引き上げが実施されるとの観測が市場で発生しやすい状況となっており、金利引き上げに伴い米国経済成長が減速することにより石油需要の伸びが鈍化するとの見方が市場で広がるとともに、これまで米国金融当局による金融緩和政策の推進により、低コストで調達された資金が株式や原油を含む商品と言ったいわゆるリスク資産へと流入していた(この結果これら資産価格が押し上げられていた側面がある)流れが逆転し、資金がリスク資産市場から流出し始める結果、原油価格が下振れするといった展開となることも否定できない。
他方、2022年1月中旬頃以降、主要米国企業等の2021年10~12月期等の業績及び今後の業績見通し等が明らかになる予定であり、その結果が株式相場に織り込まれるとともに原油相場が変動する場面が見られることもありうる。
北半球では既に冬場の暖房シーズンに突入している。これに併せ、暖房用石油製品需要が増加、製油所も秋場のメンテナンス作業を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増加させるとともに、原油購入を活発化させるとの観測が市場で増大しつつある。このような市場での季節的な需給引き締まり感の醸成が当面原油相場を下支えするものと考えられる。併せて、米国の暖房油消費の中心地である北東部での気温や気温予報に対しても市場関係者は敏感に反応するものと見られ、当該地域での足元の気温が低下したり、気温が低下するとの予報が発表されたりするようだと、需給の引き締まり感が市場で強まる結果、暖房油価格が上昇、それに引きずられて原油価格に上方圧力が加わる可能性がある。
また、米国以外の北半球においても2020~21年の冬場と同様厳冬となる可能性がある(11月11日に米国海洋大気庁(NOAA)気象予報センターが、2021~22年の冬場は90%程度、2022年3~5月は50%程度の、それぞれ確率で、ラニーニャ現象が居座る可能性がある旨発表するなどしているが、ラニーニャ現象が発生した場合、北半球は厳冬となる確率が上昇するとされる)に伴い空調のための電力供給向けの発電部門、もしくは暖房向けの民生部門において、天然ガス及び石炭需要が増加することに伴い、それら燃料価格が上昇する(既に12月17日現在の北東アジア天然ガス先物価格は100万Btu当たり42.45ドル程度の終値と同日の原油価格の終値の3倍超の水準となっている)結果、灯油、軽油及び重油等の石油製品への燃料転換が発生するとの観測が市場で強まるとともに、原油価格が上昇する場面が見られる可能性がある。
なお、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)等において濃霧の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることにより当該製油所への原油供給が影響を受けるとともに原油在庫の積み上げが鈍化することがありうる他、米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の陸上在庫保有を敬遠することにより原油在庫が相当程度減少する場面が見られる可能性がある(もっとも、その間原油は沖合に停泊するタンカーに貯蔵されていると言われている)。12月10日時点の米国原油在庫は前週比で458万バレルの減少(うち同国メキシコ湾岸地域で同380万バレルの減少)と市場の事前予想を上回って減少したが、その背景には同国の原油輸入減少と原油輸出増加があり、これは年末に向けた米国メキシコ湾岸の精製業者等による原油在庫削減の動きによるものであると見る向きもある。このように、年末にかけて発表される米国石油統計では特にメキシコ湾岸地域での原油在庫等が減少傾向を示すことにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油価格が上振れする、といった展開となる場面が見られる可能性もある。ただ、1月以降は製油所等での原油等の受入が再開される(沖合で停泊していた原油貯蔵タンカーが接岸し原油を陸上タンクへと流入させ始める)ことから、反動で相当程度の原油在庫増加が見られる結果、原油相場が押し下げられる場面が見られることもありうる。
12月2日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催し、8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置につき、従来方針に基づき2022年1月も日量40万バレル規模を縮小して実施する旨決定した。
この先、通常第一四半期後半及び第二四半期前半を中心とする時期は、特に製油所の段階において、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期が峠を越え始めるとともに、春場の石油不需要期(暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期が終了する一方、夏場のドライブシーズンに伴う自動車用石油製品需要期にはまだ早い)が視野に入り始めることもあり、季節的に石油需給緩和感が市場で強まることにより、この面で原油相場に下方圧力が加わりやすい状況となる。また、米国の物価上昇が顕著になりつつあることもあり、米国金融当局が金融緩和縮小を加速させるとともに金利引き上げ開始時期を前倒しさせつつあること旨示唆されることから、今後米ドルが上昇するとともに、経済成長減速観測が市場で醸成されるといった展開も想定される。
他方、世界の新型コロナウイルス感染者数は増加基調となっている他、オミクロン変異株の感染が世界各国及び地域で拡大しつつある一方、当該変異株の特性については現時点でも不明な点が多く、そのような特性が明確になるまでは、世界各国や地域は、一時的であれ個人の外出規制及び経済活動制限を強化する(ないしは消費者が自主的に外出や購買行動等を敬遠する)結果、石油需要が下振れする可能性も否定できない。
以上のような要因を含め、この先春場にかけ、原油相場に下方圧力を加えるような要因が存在していることから、OPECプラス産油国は原油価格の下落を未然に防ぐ、もしくは下落幅を最小限に食い止める(原油価格下落が加速する段階ではOPECプラス産油国関係者の如何なる発言及び行動を以てしても、原油価格下落抑制が困難となる恐れがある)べく、先制的に石油需給引き締めに向けた方策もしくは方針を検討、表明、もしくは実施していくものと考えられる。この点においては、OPECプラス産油国は、まず、減産措置の再調整実施の意向を示唆する発言等の口先介入を行うことにより、原油価格下落を抑制しようと試みるものと見られる。そしてそれでも原油価格の下落が抑制されないようであれば、OPECプラス産油国間で実際に減産措置の再調整に関する議論を実施、そして状況によっては再調整した減産措置を実行に移す、といった展開となるものと見られる。
他方、今後オミクロン変異株の石油需要への影響がそれほど深刻ではないことを示唆する情報が出てきた場合には、石油需要の回復と石油需給引き締まりに対する観測が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。ただ、原油価格が上昇を継続するようであれば、再び米国から、サウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国に対し、原油価格沈静化のため減産措置縮小を加速するよう働きかけが活発に行われるようになる結果、OPECプラス産油国減産措置を巡る意思決定にそれが織り込まれる可能性もある。
そして、今後の季節的な石油需給状況、オミクロン変異株を含む新型コロナウイルス感染状況、それら要因等を反映した原油価格の変動状況、さらには米国のOPECプラス産油国への働きかけ等を考慮しつつ、2022年1月4日に開催される予定である次回OPECプラス産油国閣僚級会合では2月以降の減産措置の取り扱いにつき検討が行われるものと考えられるが、それ以前に事態が急変する、もしくは急変する兆候が見られるようであれば、OPECプラス産油国は次回閣僚級会合開催を待たずして、減産措置縮小再調整等に向け行動することもありうる(12月2日に開催された閣僚級会合では、この先の事態の急激な変化に備え減産措置の再調整を速やかに実施できるようにすべく、当該会合は正式には終了していない格好となっている)。
全体としては、既に北半球では冬場の暖房用燃料需要期に突入していることから、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されやすく、この面では原油相場を下支えする他、気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。ただ、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の特性が明確になるまでは、当該変異株感染抑制のため個人の外出規制及び経済活動制限が強化される等する結果、石油需要下振れ観測から原油価格に下方圧力が加わる可能性がある。そのような中、イランやロシア等を巡る情勢、及びOPECプラス産油国の減産措置を巡る姿勢等の展開次第で、原油価格が変動するものと考えられる。
以上
(この報告は2021年12月20日時点のものです)