ページ番号1009220 更新日 令和3年12月24日

天然ガス・LNG最新動向 ―欧州発ガス・スポットLNG高騰からの教訓と脱炭素ネットゼロエミッションへのミッシングリンク―

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レポートID 1009220
作成日 2021-12-24 00:00:00 +0900
更新日 2021-12-24 13:41:05 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 白川 裕
著者直接入力
年度 2021
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ページ数 72
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国・地域 グローバル
2021/12/24 白川 裕
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概要

欧州の天然ガス、世界のスポットLNG価格の高騰が止まらない。

世界が脱炭素に大きく舵を切ろうとしている中で、この高騰は、未だ世界が天然ガス・LNGに大きく依存し、トランジション自体もそれなしにはうまく進まないことを浮き彫りにしている。

自粛か?経済か?新型コロナウイルス蔓延以降、繰り返し議論されてきたテーマであり、世界は否応なく、ニューノーマルを忍受せざるを得なかった。

環境か?経済か?世界が今やその必達に軌を一としたネットゼロエミッションに向け羽化していく中で、これが今後の地球の未来を決定づける命題となろう。

2050年ネットゼロエミッションは、それを能動的に行わなければ実現は難しい。しかも、なるべく大きなショックなく、このトランジションを乗り切らなければならない。

本稿では、まず、果たして発生した欧州天然ガスと世界のスポットLNG高騰の経緯と各国の対応についてまとめ、次いで、その遠因となった欧州脱炭素の動きについてポイントを整理する。そして、これらの影響によって大きく様変わりしたLNG契約・需要・価格イメージについて解説し、最後に、脱炭素ネットゼロエミッションへ至る道程のミッシングリンクについて触れてみたい。

(出所 Platts、Rystad Energy、AGSI、日本経済新聞、SAKISIRU、日経産業新聞、President、BULB、Financial Times、Wikipedia、AP、WEDGE、Energy Intelligence、Reuters、産経新聞、Kremlin、IPCC、国立環境研究所、朝日新聞、JCCCA、WWF、UNIC、環境省、UNEP、毎日新聞、IMF、IEA、OGUK、TASS、Bloomberg、海外電力調査会、ICIS、JETRO、世界経済評論、European Commission、DOT、Wall Street Journal、Foresight、NHK、原子力産業新聞、Lambert Energy Advisory、経済産業省、EIA、Kpler、Wood Mackenzie、Shell、McKinsey、FGE、日本エネルギー経済研究所、Oxford Institute、日本女子大学、it-counselor、IGU、YouTube、AMP、dutchdockland、SciTechDaily、SMFG、Yahoo News、いらすとや他)

 

1. 欧州天然ガス・世界のスポットLNG価格高騰

(1) 欧州天然ガス・世界のスポットLNG価格実績

2021年春以降、欧州天然ガス価格の高騰が続いている。連動を強める世界のスポットLNG価格も例年の数倍に上昇したまま高止まっている。

10月末、プーチン大統領の、ロシア国内地下天然ガス貯蔵設備の充填完了後、欧州への天然ガス送出を増量せよとの発言受けて、欧州天然ガス価格は一段緩んだ。11月9日、欧州域内にあるGazprom地下貯蔵設備に天然ガス注入を開始するとの発表を受け、さらに一段低下した。11月16日、ドイツのエネルギー規制当局Bundesnetzagenturは、ノルドストリーム2管理会社の独立性に修正が必要として認可手続きを一時停止したが、この結果、欧州天然ガス価格は2割近く上昇した。

ノルドストリーム2に関するドイツ、EUの許認可が完了し運用を開始できるとみられていた4月末ごろには、欧州の天然ガスと世界のスポットLNGは例年並みの価格レベルに戻ると予測されていたが、その後、上記のように日々のニュースに乱高下するありさまで、今や行方が見通せなくなってきている。万一、厳しい寒波が来ればさらなる高騰は免れない状況に変わりはない。

欧州で調達される天然ガスは、7-8割がスポット価格によって構成されるため、日々の価格変動が電力・ガス料金へ大きく影響する。このため、各国で混乱が生じている。

日本は、2021年1月のLNG需給逼迫の経験を活かし、今年は、長期契約を中心に余裕を持って調達を行ってきたため、ここまでは多くのスポットLNGを調達する事態には至っていない。また、日本では、LNGは発電用燃料の4割弱を占め、また、都市ガス価格のほとんどを決定する要素ではあるものの、その7-8割を原油価格リンクで取引される長期契約LNGで構成されているため、日本の電力・ガス料金は、欧州ほど、今回の高騰の直撃を受ける形とはなっていない。

ただし、厳冬要素に加え、マレーシアやインドネシア、オーストラリア等のLNG生産不調に絡んで、今後はスポットLNGを追加調達せざるを得ない場合も考えられ、気が抜けない状況にある。なお、11月末には、日本気象協会から、この冬は西日本を中心に例年より冷え込むとの3か月予報が出されている。

ここで、ここ数か月の日本の電力・ガス料金の上昇について、一部報道では、現在のスポットLNG価格の高騰のためとしているものもあるが、それはあたらず、2020年3月の原油価格の大幅下落とそれに引き続く1年以上にわたる回復の影響を受けた、長期契約LNG価格の上昇を主因とするのが妥当であろう。本稿執筆時において、原油価格は、その下落前の$70/bbl前後より高い$80/bblの水準で推移している。今後はさらに上昇を続けるとの予測も聞かれるが、その場合、原燃料費調整制度の数か月の時期ずれを経て電力・ガス料金は引き続き上昇していくことになる。

図1. 天然ガス・LNG価格の実績(2020-21年)
図1. 天然ガス・LNG価格の実績(2020-21年)

(2) 欧州天然ガス高騰の経緯

欧州天然ガス価格に一番大きな影響を与えた要因は、ロシアが新たに建設し、運転開始を今かと待っているノルドストリーム2に絡む欧州向けロシアパイプラインガス供給量の減少である。

2020年以降、ロシアから需要の中心地である欧州北西部へのパイプラインガス供給量は、新型コロナウイルスの影響のなかった2019年と比較して、2割程度減少している。これ以外の経路では能力一杯の天然ガス輸送を継続しているものの、特に、ウクライナ経由のパイプラインによる天然ガス輸送のみ、従来の半分以下に低下したままとなっている。2020年は新型コロナウイルスによる需要減に伴うものなので仕方ないが、2021年も減少したままだ。

ロシアのパイプラインガスは、欧州への天然ガス・LNG供給全体の4割程度を占める。したがって、この低下により、ヨーロッパ全体の天然ガス需要の1割近くが満たされていないことになる。ちなみに、ロシアは、欧州と、ここ1-2年ロシアからの輸入量を大きく伸ばしているトルコへの合計の天然ガス輸出量を参照して、過去と同等のレベルで欧州向けにパイプラインガスを供給していると、発表している。

図2.欧州向けロシアパイプラインガス輸出量(第1四半期)
図2. 欧州向けロシアパイプラインガス輸出量(第1四半期)

ロシアから欧州へのパイプラインガス供給が増えない理由は、9月に2系統目の建設も完了し、現在は使用許可手続きを進めている新たなパイプライン、ノルドストリーム2の必要性を正当化するためだといわれている。現在、ドイツエネルギー規制当局Bundesnetzagenturによる使用認可審査が行われているものの、このプロセスには、2022年1月頃までかかり、さらに、その後、欧州委員会における審査等を経る必要があるため、通常のペースであれば、運用開始は2022年5月までずれ込んでしまう。ノルドストリーム2の早期稼働が特例として認められれば、今冬のピーク期間中の天然ガス供給も可能となるが、本稿執筆時点では、そのような動きがあるとの情報は得られていない。

実は、従来ロシアから欧州へのパイプライン輸送能力は、ノルドストリーム2がなくても物理的には十分足りていた。現在でもロシアはウクライナ経由パイプラインで大量の天然ガスを欧州向けに輸送することができるのである。ただし、ロシアがウクライナ経由パイプラインを利用すれば、2004年の親欧米政権樹立以降、関係の悪化しているウクライナにガス通行料を支払わざるを得ず、その懐を潤すことになってしまう。加えて過去にロシアはガス輸送に係るトラブルで欧州向けガス輸出をウクライナに止められたこともある。そのようなリスクを避けるためにも、ロシアはノルドストリーム2が必要なものと判断したと考えられている。

欧州内での議論にとどまらず、当時の米国トランプ政権は、ロシアへの依存度を高め欧州エネルギーセキュリティーを危うくするとの懸念から、ノルドストリーム2に対し制裁を科し、その影響で完成は2年間遅延した。つまり米国からの制裁も今となっては今回の天然ガス価格高騰の遠因となっている。

一方、ウクライナがロシアとの欧州向け天然ガスパイプライン輸送契約を更改した2020年1月以降、ロシアは契約した最低数量しか天然ガスを送出していない。自国を経由してロシア産天然ガスを欧州へ輸送するパイプライン容量の7割が使用されなくなったため、ウクライナは毎月この利用者を募集してきたが、ロシアはこれに1回も入札せず、その一方で、ノルドストリーム2の建設を推し進めた。

今回、ロシアは、欧州を疑似的なガス不足にさせてでも、ノルドストリーム2を正当化し、エネルギーセキュリティーを高めたければ早く使用すべき、と迫っているとする見方が、いわゆる西側では大勢となっている。9月、IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)ビロル事務局長は「ロシアは欧州に対して、もっとできることがある」と発言し、ガス供給をさらに増やすよう促した。

これに対しロシア・ラブロフ外相は、「契約すれば天然ガスは追加販売するが、誰も要求してこない」という趣旨の発言をしている。果たして、ロシアが売らないのか、欧州企業が高過ぎて買えないのかははっきりしないが、少なくとも欧州市場では天然ガスが高価格で売れそうであるにも関わらず、それを積極的に追求しないのは商業的観点からは非常に不合理だ。ウクライナに利益を与えないためにノルドストリーム2をプレイアップしているという政治的意図が疑われても仕方がなかろう。

ここで、ロシアは、2019年末、ウクライナとの間で結ばれた欧州向け天然ガスパイプライン輸送契約の最低輸送量と欧州各社との長期天然ガス供給契約は遵守しており、契約上は全く瑕疵がない。ただし、ウクライナにはまだその2倍以上の未利用の天然ガス輸送能力が利用されないまま横たわっている。

その他、以下のようなガス価格上昇に寄与している要因もある。

  • 2020年秋以降、ポストコロナの景気回復が始まり、欧州の天然ガス需要が徐々に回復した。
  • 2021年に入ってからは風力発電の出力が低下し、それを補う天然ガス火力発電の稼動が増加した。
  • 新型コロナウイルスの影響で延期されていた分も合わせ2年分のメンテナンスを実施した影響等で、ノルウェーの天然ガス生産量が低下した。
  • 2021年1月からフェーズ4の引き締めに入った欧州炭素排出権EU-ETS(EU Emissions Trading System、EU域内排出量取引制度)価格が上昇したため、多くの排出権購入を伴う石炭から天然ガスへの発電用燃料転換が促進され、これが天然ガス需要の増加を後押しした。
  • LNGについては、アジアでポストコロナの景気回復によって需要が堅調に伸びたのに加え、従来、水力発電の割合が大きかったブラジルで記録的な渇水が発生した結果、代替の天然ガス発電用LNG輸入が急増した。
図3.欧州向けロシアパイプライン
図3. 欧州向けロシアパイプライン

ノルドストリーム2にからむロシアパイプラインガス供給量の減少が、ここまで欧州天然ガス価格を上昇させた重要な背景として、欧州地下ガス貯蔵の低在庫を忘れてはならない。

欧州には、枯渇ガス田を転用した地下ガス貯蔵設備が各国に設置されており、仮に天然ガス・LNGの生産・供給が全く停止した場合、冬期でも2か月程度は耐えられる在庫が確保されている。今年はこの在庫が、いつもなら天然ガス注入の終わる9月末時点で7割強と、例年と比べ2割程度低かった。通常、3月末の在庫は2割程度まで低下し再び春の充填期間を迎えるが、今期は、これが1割を割り込むことが予測され、後がない状況なった。脱炭素の流れの中で石炭火力発電所や原子力発電所の廃止を決定し、リニューアブル電源の間欠性を補完する重要な役割を自ら天然ガス火力発電所一本に限定していってしまった欧州において、このようなガス低在庫が、今般の天然ガス価格の高騰を決定づける背景となった。今回の状況を招いたのは単なる自業自得で、欧州は自らの脱炭素政策の失敗をロシアに転嫁しているとの主張が聞かれる所以はこの点にある。

ここで、この低在庫に至るまでは、2021年1月の北東アジアLNG需給逼迫から続く経緯がある。2021年1月の時点で、欧州地下ガス貯蔵在庫は例年以上のレベルにあったが、北東アジアへの寒波来襲により、世界のスポットLNGのほとんどが、日本、中国、韓国によって調達されてしまい、この時期、欧州はLNGが輸入できず、やむなく例年以上に地下ガス貯蔵在庫を使用せざるを得なかった。さらに、2021年春、欧州北西部を中心に気温が例年に比べ4-5℃も低く、天然ガス需要が増加したため、春になっても天然ガスを地下ガス貯蔵設備に十分に充填することができなかった。

天然ガス火力一本足打法となった状況で、そのバッファーを失った欧州のエネルギーセキュリティーは、ロシア産パイラインガスの供給変動に対する抵抗力が低下していたわけである。そしてこの構造は、今後も基本的に継続すると考えられる。

図4.欧州地下ガス貯蔵在庫
図4. 欧州地下ガス貯蔵在庫
図5.欧州天然ガス・世界のスポットLNG高騰の経緯
図5. 欧州天然ガス・世界のスポットLNG高騰の経緯

(3) 欧州天然ガス・世界のスポットLNG価格の決まり方

自由化の進んだ欧州では、LNG相当で250MTにのぼる大きな天然ガス市場が成立しており、ここでは、日々の需給バランスによって、天然ガス価格が決定される。北東アジアにはこれより小さなスポットLNG市場がある。こちらでも需給バランスによって北東アジアスポットLNG価格が決められている。

世界の天然ガス価格はスポットLNGを介してつながりを強めているが、この2つの価格は、まず、規模の大きな欧州天然ガス価格がベースとなり、そして、それが世界のスポットLNG価格に影響を与え、価格が決まるという構図が形成されている。

ここで、北東アジアLNG市場には、主に太平洋の液化設備からLNGが供給されているが、この供給は常に不足しており、不足分は中東、大西洋から輸送されている。通常時の大西洋から北東アジアまでのLNG輸送費は$2/MMBtu程度で、これが欧州天然ガス価格と北東アジアスポットLNG価格の基本的な価格差となる。なお、この価格差は、欧州天然ガス市場と北東アジアLNG市場の需給バランスの強弱によって拡大・縮小する。例えば、冬期、北東アジアに突然寒波が襲来し天然ガス需要が急増した場合、北東アジアのスポットLNG価格は上昇し、この価格差は大きくなる。

例年のように、バッファーとしての欧州地下ガス貯蔵在庫が十分にあれば、欧州天然ガス価格の変動は、北東アジアスポットLNG価格の変動よりかなり抑えられたものとなるが、2021年は、このバッファーが縮小してしまい、欧州天然ガス価格は、ロシアパイプラインガスの供給不調等を直接反映する形で大きく上昇し、日々のニュースにも乱高下する状況となっている。

このベース価格に押し上げられる形で北東アジアスポットLNG価格も大きく上昇している。

なお、同じ時期、中国のスポットLNG輸入量も大きく増加した。エネルギー安定供給に力を入れる中国は、高値でも調達を継続し、その余波を受けたアジアの発展途上国は、一時調達を停止するまでに至った。なお、2021年は1月から9月までに、世界のLNG需要は20MT増加し、その内の半分が中国により輸入された。これは価格押し上げ要因の一つではあるものの、欧州天然ガス価格上昇と比べれば、今回のスポットLNG価格高騰への寄与はそこまで大きくないと考えられる。

また、北米天然ガス市場は、米国LNG出荷を通して、世界とつながってはいるが、その割合は、米国LNG液化設備能力上、北米天然ガス消費の1割程度に限定されていることから、北米ガス価格は欧州天然ガス・世界のスポットLNG価格とは比較的独立した動きを示すことが多い。

図6.欧州天然ガス・世界のスポットLNG価格の決まり方(イメージ)
図6. 欧州天然ガス・世界のスポットLNG価格の決まり方(イメージ)

(4) 欧州各国の対応

例年にない天然ガス価格の高騰は欧州全体に大きな影響を与えている。以下に各国の対応をまとめる。

EC

欧州旗

10月13日、EC(European Commission、欧州委員会)はエネルギー危機に対する各国政府の取り組みを支援するためのツールボックスを発表した。内容は以下の通り。

(短期的な対策)

  • エネルギー弱者への緊急収入支援
  • EU炭素排出枠の販売収入を活用しての支援
  • エネルギー料金の支払いの一時的な延期
  • 配電停止を避けるためのセーフガードの設定
  • 国家支援ルールに沿った企業への支援
  • 再生可能エネルギー由来の電力購入契約へのアクセス拡大促進

(中期的な対策)

  • 再生可能エネルギープロジェクトの許認可と投資の促進
  • 電池や水素を含むエネルギー貯蔵の開発
  • 電力市場設計の見直し
  • 欧州における天然ガス貯蔵の利用と機能を向上させるための供給安定化規制の見直し

また、この状況を受けて、10月22日まで開催された欧州首脳会議において、欧州委員会と閣僚理事会に、以下の中長期案の検討が指示された。

  • 天然ガスのEU共同調達
  • 天然ガスのEU備蓄ルール
  • 電力料金とガス価格の連動性の緩和対策

 

イギリス

英国旗

イギリスは、長年脱炭素政策を進めた結果、2020年には総発電量に占める風力発電のシェアが24%に達した。一方、2021年は8月から9月にかけて偏西風が蛇行し、地域によってはこの20年間で最弱の風しか吹かなかった。これを補完するため、価格が高騰する中、天然ガス火力発電が多く稼働した。

(アンモニア工場閉鎖)

9月15日、CF Fertilizersが、天然ガス価格高騰のため2つの工場を閉鎖すると発表し、アンモニアの生産を中止した。その結果、副産物だったCO2が不足し、食肉用家畜の屠殺が滞った。また、産業製品冷却用ドライアイスの製造や、ミネラルウォーターの製造、医療用CO2の供給にも支障を来した。

(エネルギー小売企業倒産

8月以降、エネルギー小売企業25社が倒産に追い込まれた。11月22日には、イギリス全体の6%へ供給していた大手BULBが倒産し、顧客保護のために特別管理下に置かれた。

イギリスには「エネルギープライスキャップ」という急激な値上がりから消費者を守る制度がある。規制当局であるガス電力市場監督局(Ofgem、Office of Gas and Electricity Markets)が販売単価の上限を定めているが、この改定は半年ごとであるため、企業は天然ガス価格の上昇をすぐには小売価格へ転嫁できない。今回この制度によってエネルギー小売企業の収支に逆ざやが生じ、その結果、エネルギー小売企業が次々に倒産した。

BULBによると、ガス価格は1年前の50ペンス/therm(ヤード・ポンド法系の熱量単位、MMBtuの1/10)から、最近は4ポンド/therm近くまで上昇したが、現在の販売単価の上限は、ガス価格が70ペンス/thermのレベルに設定されており、コストをはるかに下回っているという。

イギリス政府にとって、風力発電がここまで落ち込むことも、また天然ガスの世界的な需給の逼迫が起こることも想定外であったのだろうか?

(LNG確保の動き?)

11月5日付のFinancial Timesは、イギリス政府が、イギリス向け最大のLNG供給国であるカタールに新たなLNG長期契約と追加LNGの供給を打診したと報道した。なお、イギリスは、年間の天然ガス消費量90Bcmのうち半分を輸入し、そのうち4分の1をカタールからLNGとして輸入している。現在、両国間で、長期契約をめぐっての協議が進んでいるという。実際、カタールはこの2週間で4隻ものLNGカーゴをイギリスに仕向地変更した。イギリスの天然ガス価格指標NBP(National Balancing Point)が1年前の3-4倍の水準まで上昇し、国内で様々な混乱が発生したことを受け、ジョンソン首相がカタールの首長であるシェイク・タミム・ビン・ハマド・アル・タニ氏に助けを求めたことがきっかけだという。

これに対し、11月8日、イギリス政府報道官は、イギリスはカタールにLNGの追加供給を要請していないと、この報道を否定した。一方、カタールLNGを長期輸入しているCentricaはコメントを控えており、カタールも複数回のコメント要請に応じていないという。

11月11日のNBPは大きく反発した。地下ガス貯蔵設備へのガス充填量がゼロとなり在庫の引き出しが続いたこと、さらに、Dragon、South Hook、Isle of Grainの各LNG受入基地でも新たな受け入れがなく、引き続きLNG在庫が減少したことが原因といわれる。

これらの混乱を受け、ビジネスエネルギー産業戦略省(BEIS、Department for Business, Energy & Industrial Strategy)は、ガスネットワークと貯蔵を含むその運用の見直し、一旦廃止された地下ガス貯蔵設備Rough復活の検討を開始した。

ちなみに、2017年6月、Centricaは、安全上の理由から、イングランド東海岸沖にある地下ガス貯蔵設備Roughの閉鎖に踏み切っている。Roughの貯蔵容量は3.3Bcmで、当時のイギリスのガス貯蔵容量(9日間分)の7割を担保し、ピーク時天然ガス需要の10%を供給していた。この閉鎖により、イギリスの天然ガスのバッファーは大きく減少し、もし輸入が滞ると、たちまちガス、および、電力の供給に支障が出かねない状況にある。

スペイン

スペイン国旗

スペイン・ポルトガル電力共通市場のスポット相場は10月15日時点で230ユーロ/MWhと、1年前と比べて6倍の水準まで上昇した。

スペインでは消費者が規制あるいは自由化料金を選択するが、電力卸売価格の上昇を受け、AP通信によると、9月時点で家庭向けの自由化料金は対前年比で4割高くなっているという。この対策として、スペイン政府は電力消費に課される付加価値税を21%から10%に下げたほか、7%の発電税を年末まで廃止し、5.1%の電力税を0.5%まで引き下げることを発表した。さらに、電力料金未払いの家庭への供給停止を実施しないことも決定した。

ここ20年で脱炭素化を大きく進めてきたスペインでは風力が電源構成の2割を占めるが、2021年上半期は、イギリスと同様、風が吹かず、そのため、風力発電設備導入量は6%増加したにもかかわらず、風力による発電量は7%減少した。9月の風力発電量は対前年同月比で20%も減少した。

スペイン政府は電力会社が不当な利益を上げているとして、今回の電力価格高騰を抑えるために、電力会社にむこう6カ月で26億ユーロを負担させるとしたが、電力会社は市場への介入を許さないとして強く反発している。

 

ノルウェー

ノルウェー国旗

9月17日、アンモニアメーカーYaraは、記録的な天然ガス価格高騰のために欧州の生産能力の40%を削減すると発表した。9月20日、Equinorは、政府が10月1日からの1年間の天然ガス輸出量を2Bcm(年間パイプラインガス輸出量の2%)増加させることを認めたと発表した。

イタリア

イタリア国旗

天然ガス価格上昇により、7月1日からの家庭用電力料金が20%上昇してしまう見込みとなったため、政府は12億ユーロを投入し、これを9.9%に抑え込んだ。また、10月1日の見直しでは、40%上昇との予測に30億ユーロの税金投入を決めた。ちなみに、イタリアの電力市場は部分的な自由化でとどまっており、家庭用電力料金は規制料金で3カ月に一度見直されるシステムとなっている。

ギリシャ

ギリシャ国旗

ギリシャ政府は、1億5,000万ユーロを投入し、大多数の家庭にエネルギー高騰に対する補助金を支給する計画を発表した。

フランス

フランス国旗

9月末、フランスでは、来年の大統領選挙をにらんで、12月までに平均月収2,000ユーロ以下の600万世帯の低所得者層に100ユーロの給付金の支給を決めた。また、ガス料金の変動を2021年10月から2022年4月まで凍結するほか、2022年の電力料金上昇幅を4%以内に抑える政策を発表した。

ポーランド

ポーランド国旗

ポーランド・モラヴィエツキ首相は、EU-ETSの高騰が石炭火力発電のコストを上昇させ、電力料金を高騰させた、とECを非難した。中東欧諸国の発電の主力は、いまだ石炭火力発電である。電力料金上昇を回避したい中欧・東欧諸国は簡単にコストの低い石炭火力を廃止できない。さらに、ポーランドなどは国内の石炭産業の雇用維持の問題もあり、石炭火力発電の早期廃止は難しい状況にある。

ブルガリア

ブルガリア国旗

ブルガリア政府は、産業部門へ2億2,500万ユーロの補助金を支出し、2カ月間産業用電力料金を0.055ユーロ/kWh引き下げることを決めた。

ロシア

ロシア国旗

10月27日、プーチン大統領は、Gazpromに対し、ロシア国内の地下ガス貯蔵設備への注入が完了したら、Gazpromがドイツとオーストリアに所有する地下ガス貯蔵設備への充填を開始するよう指示した。

Gazpromは、ドイツのRehdenとKatharina、オーストリアのHaidachをはじめとする欧州各地に地下ガス貯蔵設備を所有している。それらは全欧州地下ガス貯蔵容量の8%を占めるが、10月末の在庫は、Rehdenは9%、Haidachは2%に留まる。これらの地下ガス貯蔵設備が空に近い状態で放置されていることを一因として、10月末の欧州全体の地下ガス貯蔵在庫量は7割強と、昨年と比較して2割も少なくなっており、Gazpromは各国から批判されている。

ベラルーシ

ベラルーシ国旗

11月11日、ベラルーシ・ルカシェンコ大統領は、移民問題をめぐってEUが同国に追加の制裁を講じる可能性があることへの報復として、ベラルーシ経由のロシア産天然ガスの欧州への輸送を遮断する可能性を示唆した。ルカシェンコ大統領は、「もし、我々が天然ガスの輸送を遮断したらどうなるか?もし、欧州が受け入れがたい追加の制裁を課すなら、我々は反撃するだろう。」と述べたという。

ベラルーシは、意図的にシリアやイラクなど中東からの何千人もの難民をポーランド国境に移送しEU側に送り込んでいると非難されている。移民流入により圧力をかけ、発動済みの制裁解除をEUに迫る意図があるといわれている。

ベラルーシは、ロシアからヨーロッパへの途上に位置しており、ヤマルヨーロッパパイプラインを経由してロシア産天然ガスをポーランドとドイツに輸送している。8月に供給が抑制され始めて以来、ヤマルヨーロッパパイラインの流量は不安定な状態が続いており、10月には供給量がゼロになったこともあった。ベラルーシ国内の天然ガス輸送システムは、Gazpromの100%子会社であるGazprom Transgas Belarusが所有・運営しており、ベラルーシがこれを停止させるには、ロシア政府の承認が必要になる。

11月12日、ロシアとベラルーシはポーランド国境で軍事演習を行った。クリミア問題との関連が指摘されている。翌11月13日、プーチン大統領は、ベラルーシは中継国として理論的にはロシアからヨーロッパへの天然ガス供給を停止するよう命令することができるが、それは通過国としての契約違反であり、そのようなことにならないことを願っている、と述べた。ルカシェンコ大統領は、プーチン大統領と電話会談を重ねているとの情報もある。

ドイツ

ドイツ国旗

11月16日、エネルギー規制当局Bundesnetzagenturは、Nord Stream 2 AGを独立した輸送事業者として認証する手続きを中断したと発表し、ドイツのエネルギー産業法に定められた独立した事業者としての要件を満たすよう、新たに申請しなおす必要があると述べた。新たな書類が提出されれば審査を再開し、決定案を作成して欧州委員会に提出するという。これを受けて、欧州ガス価格は対前日比15%も上昇した。

 

(5) ロシア・カタールの忠告

今回の欧州天然ガス価格高騰について、天然ガス・LNG供給国であるロシア、カタールからエネルギーセキュリティーに関し、以下のように示唆に富んだ発言がなされている。

 

プーチン大統領、脱炭素への苦言

10月、プーチン大統領は、ロシアエネルギー週間において、以下の演説を行った。

『・・・この10年間で欧州のエネルギーミックスに占める自然エネルギーの割合は急激に上昇し、重要で目立つ役割を果たすようになった。それは良いことである。しかし自然エネルギーの最大の特徴は、出力が一定しないことである。大量の予備力が必要になる。また気象条件により発電量が大幅に減少した場合は、予備力だけでは供給力が不足する。今年は風力発電量の減少により、欧州市場は電力不足に直面した。エネルギー価格が上昇しスポット市場における価格上昇のきっかけにもなった。

重要なポイントは、季節によって天然ガスの需要量が変化することである。例年、冬期に入る前、夏期にある程度の天然ガス貯蔵量を確保する。ところが、今年、欧州は寒い冬が終わっても多くの国がガス調達に入らず、スポット市場に頼る、いわゆる「見えざる手」が働いていた。駆け込み需要が起きる前に、価格を押し上げてしまったのだ。繰り返しだが、欧州における天然ガス価格の上昇は、電力不足の結果であり、その逆ではない。これは他人に責任転嫁する話ではない。時々このテーマで欧州の方々の話を聞くと、大変驚く。彼らは数字を見ているが、現実を見ていないかのように、ただ自分のミスを隠蔽しているだけなのだ。

この10年間で、欧州のエネルギー分野ではシステムの結果が少しずつ蓄積されてきた。このような結果があるからこそ、欧州では大規模な市場危機が発生しているのだ。思い出して頂きたいのだが、原子力発電や天然ガス発電が主力電源であった間は、そのような危機はなかったし、起こるはずもない。尚、現在のロシアではありがたいことに、このような問題は考えられない。燃料・エネルギー部門の発展に向けた長期的なアプローチにより、欧州で最も低い水準で家庭や企業向けの電力料金を確保している。

よく耳にするのは、高値による追加キャッシュフローはエネルギー生産者の手に渡り、生産者は目に見える努力をすることなく、高い利益を享受しているという言説である。しかし、このような主張をする方々は、自身が何を言っているのか理解しておらず、先々を見通すことを好まず、長期的な展望を考慮していない。エネルギー価格の急激な上昇は、企業、経済、公共部門を急激なコストアップに追い込み、エネルギー消費の削減や生産量の減少を余儀なくさせる。つまり高価格の環境は、最終的には生産者を含めたすべての人に悪影響を及ぼす可能性があるということだ。どのような市場でも、安定性と予測可能性は重要である。ロシアは欧州を含むパートナーとの契約上の義務を完全に果たし、欧州に向けて継続的な天然ガス供給を保証している。

年末には、世界市場への天然ガス供給量が過去最高水準に達することが確実されている。さらに我々はいつでもパートナーとの間でガスの追加供給について話し合う準備ができている。我々は一貫して、欧州大陸全体のエネルギー安全保障の強化に取り組んでいる。パートナーであり友人でもある欧州企業とともに、トルコストリーム、ノルドストリーム、バルカンストリーム、ノルドストリーム2という大規模なインフラプロジェクトを実施している。その目的は、将来にわたって欧州が必要とする量の天然ガス供給の継続性と予測可能性を確保することである。またこれらのプロジェクトを実施することで、温室効果ガスの排出量を大幅に削減することができる。・・・』

図7.ロシア・プーチン大統領
図7. ロシア・プーチン大統領

カタール・エネルギー相、上流投資不足を懸念、天然ガスのない脱炭素は存在しない

カタール国旗

Financial Timesによると、カタール・サアド・アルカービ・エネルギー相は、需要が供給を上回っているためイギリスと欧州からその他地域へ広がった世界的な天然ガス不足は「数年間」続くと予想した。同氏は、ガス不足の原因について世界的に低水準のガスの備蓄量、アジアでの需要の急増、そしてエネルギー企業への排出削減圧力の高まりを背景にした過去5年間の新規および既存のガス・石油開発事業への投資不足を挙げた。10月半ばすぎにイギリスのジョンソン首相とクワーテング民間企業・エネルギー・産業戦略相と会談したアルカービ氏は「政治家として『2050年までにネットゼロを達成する』と言うのはすばらしいことだろう」が、「電源構成の天然ガスの比率を高めなければ、世界は現実的なエネルギー転換を成し遂げられない。」と苦言を呈した。

「在庫と冬について心配している。供給が根本的問題だ。ガス開発計画が悪いのか、それとも需要が人々の予想よりはるかに速いペースで増えているのか。恐らく後者が今起きていることだと思う。」 重要なのは各国政府がネットゼロに移行するうえで、自国の計画に天然ガスが含まれることをエネルギー企業に伝えることだとアルカービ氏は述べた。「環境保護主義者はすべて、ただエネルギー企業を叩くだけだ。大半の石油会社は『石油の生産量をいついつまでに減らし、再生可能エネルギー事業に進出する』と言っている。」と同氏は続けた。

天然ガスの需要は2050年まで年間2-4%のペースで伸びると予想されており、アルカービ氏は「この2%に追いつけるだけの投資が行われていない」と批判する。 同氏はさらに「2つ目の問題、人々は話題にしないが、より危険な問題は、既存の天然ガス田・油田に必要な莫大な投資だ」と、上流への投資不足を指摘する。「環境に注意を払うべきではないとか、『パリ協定』を達成したくないという意味ではない。それは達成する必要がある。ただ天然ガスのない脱炭素シナリオは存在しない。天然ガスはベースロード電源でなければならないからだ。」

 

(6) 欧州天然ガス高騰に対する評価

欧州天然ガス価格高騰に関して、よく聞かれるコメントは以下の2点に集約される。一つは、主にいわゆる西側諸国から聞かれる評価である。

  • ロシアが欧州向けパイプラインガス供給を抑制していることが、天然ガス価格高騰の原因である。
  • 化石エネルギーへの依存度が未だ高いことが、今回の天然ガス価格の高騰を招いた。脱炭素の流れを一層加速すべきである。

一方、ロシアをはじめ、米国、豪州等からは以下のような声も聞かれている。

  • 欧州は、自らがエネルギーセキュリティー対策を怠った過ちを、ロシアのせいにしている。
  • 欧州は、パイプラインガススポット市場に過度に依存したため、安定供給に支障をきたした。
  • ロシアは、自国のガス貯蔵に追われているため、欧州に追加送出する天然ガスの余力がない。
  • エネルギーを武器として利用する恐れのあったロシアへのエネルギー依存を高めてきたことは間違い。自業自得である。
  • 再生可能エネルギーは、気象に左右され、まだ信頼できるエネルギーではない。
  • 脱炭素のブリッジエネルギーである天然ガスの役割を軽視してきた。
  • 自然エネルギーの利用が拡大した場合のコンティンジェンシープランの検討が未熟であった。
  • 欧州の指導者はエネルギートランジション中に高い確率で起こりうるリスクを隠している。

欧州天然ガス価格の高騰は、対岸の火事ではない。世界の天然ガス・LNG価格が連係を強める中、すべからく、全世界のスポットLNG価格の高騰を引き起こしている原因であり、日本、さらにアジア諸国も直接悪影響を受けているのである。

 

2. 欧州主導脱炭素の動き

(1) 2030年に1.5℃以内は必達

脱炭素の大前提となる、地球温暖化と人類の活動によるCO2排出量の関係について、ほぼ確定的な結論が今回研究機関より発表された。以下に、IPCC、UNEPから発行されたレポートについてまとめる。

IPCC WG1 AR6報告書

2021年8月、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC、Intergovernmental Panel on Climate Change)」は第1作業部会の第6次評価報告書「気候変動2021:自然科学的根拠」(IPCC WG(Working Group)1 AR(Assessment Report)6報告書)を公表した。今後は、2022年2月に第2作業部会、3月に第3作業部会の報告書を公表し、9月に統合報告書がまとめられる予定となっている。趣旨は以下の通り。

  • 地球が人間の影響で温暖化していることに疑う余地がない。
  • 豪雨や猛暑などの異常気象の激甚化は人間活動の影響。
  • 世界の気温上昇幅は2030年前後に1.5℃を超える見通し。(2050-60年に世界のCO2排出量を実質ゼロとする今回追加された「非常に低い」シナリオのみが1.5℃以下に抑えられる)
  • 一定のラインを超えると劇的な変化が起きて元に戻れなくなる「ティッピングポイント(Tipping Point、転換点)」が存在する可能性がある。

また、気候変動対策がSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)のほかの目標に悪影響を及ぼすような方法は避けなくてはならないこと、さらに、リサイクルやシェアリングがうまくいき、大量生産・大量消費ではなく、格差が少なく、教育水準が高く、国家間関係も良好という持続可能性のある世界なら、1.5℃や2℃の目標を達成しやすくなることも指摘されている。ちなみに、IPCCは、人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988 年に国連環境計画(UNEP、UN Environment Programme)と世界気象機関(WMO、World Meteorological Organization)により設立された組織であり、1990年より、継続的にこの報告書を発表している。

図8.IPCC WG1 AR6報告書とシナリオ別世界平均気温の変化
図8. IPCC WG1 AR6報告書とシナリオ別世界平均気温の変化

表1.IPCC WG1 AR6報告書の概要

表1.IPCC WG1 AR6報告書の概要

国連グテーレス事務総長、IPCC WG1 AR6報告書に関する声明

8月9日、国連グテーレス事務総長は、このIPCC WG1 AR6報告書に関する声明を発表し、全世界に対し脱炭素へのシフトを求めた。 概要を以下にまとめる。

  • 報告書は、人類に対する厳戒警報であり、反論の余地はない。
  • 1.5℃という閾値を維持する決定的な行動を取らなければならない。
  • 全ての国々は、具体的な「自国が決定する貢献(NDC、Nationally Determined Contribution)」と政策により自国のコミットメントを強化する必要がある。
  • 2021年以降、石炭火力発電所は新設されるべきではない。OECD(Organization for Economic Co-operation and Development、経済協力開発機構)加盟国は2030年までに、他のすべての国々も2040年までに、既存の石炭火力発電所を段階的に廃止しなければならない。
  • 各国はまた、化石燃料の新たな探査と生産をすべて中止し、化石燃料への補助金を再生可能エネルギーに振り替え、今世紀半ばまでにネットゼロエミッションを達成するという道筋を維持するには、太陽光と風力による発電量を2030年までに4倍に、再生可能エネルギーへの投資を3倍に、それぞれ増やすべき。
  • 気候危機は、投資管理者や資産保有者、企業に巨大なファイナンスのリスクをもたらす。これらのリスクは測定し、開示し、緩和されるべき。私は、経営者たちに、国際的な最低限の炭素価格を支持し、組織のポートフォリオをパリ協定と整合させることを求める。
  • ネットゼロエミッションのグローバル経済への公正かつ迅速な変革を確実にするために、公共セクターと民間セクターは協力しなければならない。
     
図9.国連グテーレス事務総長
図9. 国連グテーレス事務総長

UNEP Emissions Gas Report 2021

10月26日、UNEPは、UNEP Emissions Gap Report 2021(排出ギャップレポート)を公表した。各国が現在掲げる2030年までの温室効果ガス排出削減目標のままでは、世界の平均気温は今世紀末までに産業革命前から2.7度以上上昇してしまうため、「パリ協定」の「1.5度に抑える」という目標実現には、世界の年間排出量を2030年までにほぼ半減させる必要があるという。概要を以下にまとめる。

  • 地球温暖化は、人類の活動によって大気中に放出されたCO2の総量にほぼ線形に比例する。
  • 産業革命前に比べて1.5℃の温暖化を66%の確率で抑えるために必要な残りの炭素収支は400Gt-CO2。
  • 現在の世界の年間CO2排出量は40Gt-CO2/年を超えており、今後10年以内に早急かつ大幅な排出量削減が必要。
  • 1.5℃に抑えるには、CO2排出量55%の削減が必要である。
  • G20 メンバーは、NDC目標を公表しているものの、ネット・ゼロ・プレッジに向けて排出量の削減に明確な道筋をつけている国はほとんどない。
  • 短期的な目標や行動で、これらの誓約をバックアップすることが急務。
     
図10.UNEP Emissions Gap Report 2021とシナリオごとの気温上昇
図10. UNEP Emissions Gap Report 2021とシナリオごとの気温上昇

(2) IEAの試算

2021年5月、IEAは、Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector(以下、IEA Roadmap)を、また、10月には、World Energy Outlook 2021(以下、IEA WEO2021)、Global Gas Security Report 2021(以下、IEA GGSR)を発表した。そこには、IEA検討によるネットゼロエミッションへ到達するための手がかりが記載されている。以下にそれらの中で主な内容を紹介する。

IEA WEO2021では、以下の3つのシナリオが展開されている。

比較的控えめな現行政策シナリオ(Stated Policies Scenario、STEPS)では、上流部門の支出は2020年の3,300億ドルから、2021年から2030年の間に年間平均6,470億ドルにまで拡大する。このシナリオでは、2030年の石油需要は1億bbl/日を超え、天然ガス需要は10年後には2020年比15%増の4,500Bcmまで増加すると予想されている。

より野心的な政策達成シナリオ(Announced Pledges Scenario、APS)では、石油需要がすでにピークに達しており、上流部門の支出は10年後までの平均で5,720億ドルに達する。天然ガス需要は2025年以降すぐにピークに達し、2030年には4,250Bcmに減少する。

野心的な「2050年までにネットゼロエミッション」シナリオ(Net Zero Emission Scenario、NZE)では、既存および新規の上流プロジェクトへの支出は、2030年までの平均で年間3,650億ドルに達する。2030年の石油需要は7,000万bbl/日、天然ガス需要は3,600Bcmに減少すると予想。このシナリオでは、2050年には天然ガス消費量の50%以上が低炭素水素の製造に使用され、天然ガス使用量の70%がCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage、二酸化炭素回収・利用・貯留)を備えた設備で使用される。

これ以降、本稿では、1.5℃を達成するよう描かれたNZEシナリオを中心に確認を行う。

図11.各シナリオによるCO2排出量と気温上昇
図11. 各シナリオによるCO2排出量と気温上昇

a) クリーンエネ投資が必要

2050年までに排出量をゼロにするためには、クリーンエネルギー移行関連の投資を現在の水準から2030年までに年間4兆ドルまで加速する必要がある。内訳は、以下の通り。

  • クリーンな発電と電力インフラへの投資を年間1.1兆ドル増加。
  • 建物、産業、運輸部門におけるエネルギー効率化と脱炭素化への投資を年間0.5兆ドル増加。
  • 水素やバイオエネルギーをベースとした低排出燃料を急速に拡大。

また、クリーンエネルギーへの迅速な移行を実現するには、クリーンエネルギープロジェクトへの低コストの資金調達を強化することが重要である。投資の70%は、民間の開発者、消費者、金融機関が、市場のシグナルや政府が設定した政策に対応して行う必要がある。公的な資金源を拡大することもますます重要となる。

図12.クリーンエネルギー投資とファイナンスソース
図12. クリーンエネルギー投資とファイナンスソース

新型コロナウイルスに対する各国政府の財政支援は、家計と企業が当面の危機を乗り切るのに役立ったが、その発生から2021年半ば時点で16兆ドルを超える新型コロナウイルス関連の累積支援のうち、3,800億ドルが持続可能なエネルギーに向けられていると推定される。さらに、2023年までに1兆ドルの持続可能な復興投資が追加される可能性がある。1.5℃で気温上昇を抑えるには、この額を3倍以上に増やす必要があるとIEAは指摘する。

図13.COVID-19関連財政支援の内訳
図13. COVID-19関連財政支援の内訳

NZEシナリオでは、世界の全エネルギーへの年間投資額を、過去5年間平均の2兆ドル強から、2030年には5兆ドル近くに、2050年には4.5兆ドルに拡大させなければならない。

この時、エネルギーへの年間総資本投資額は、近年の世界GDPの2.5%相当から2030年には4.5%相当に上昇し、その後、2050年には2.5%相当に低下すると試算されている。

一方、日本エネルギー経済研究所によると、ASEAN等の発展途上諸国にとっては、必要となる投資額が世界平均と比べ2-3倍にもなってしまうため、短期間でのカーボンニュートラルの追求は、巨額の負担をもたらす恐れがある、と指摘されている。

図14.NZEシナリオにおける設備投資
図14. NZEシナリオにおける設備投資

ここで、IEA試算に従って、ネットゼロエミッション達成のための投資規模イメージを確認する。

2021年度の日本の国家予算は、106兆6,097億円である。また、GDP(2021年10月IMF推計)は、553兆4,900億円と推測されている。2030年における全エネルギーへの年間投資額はGDPの4.5%相当、公的投資対民間投資の比率は3:7とされているから、これを上記に適用すると、エネルギー投資全体で25兆円、内訳としては、公的投資7.5兆円、民間投資17.5兆円となる。エネルギーへの公的投資7.5兆円は、2021年度の公共事業投資の1.2倍の規模に相当する。また、ASEAN諸国においては、その3倍の投資が必要とされており、その場合、エネルギー予算は、国家予算全体の2割を占めることになる。

このレベルでの世界の公的投資は現実的であろうか?

図15.クリーンエネルギー投資レベルと日本の国家予算との比較
図15. クリーンエネルギー投資レベルと日本の国家予算との比較

b) 上流ガス投資は継続しなければならない

NZEシナリオでは、すでに開発中のものを除き、新たな天然ガス田は必要ない。また、現在建設中または計画中のLNG液化設備の多くも必要ない。2020年から2050年にかけて、LNGとして取引される天然ガスは60%、パイプラインによる取引は65%減少する。2030年代には、世界の天然ガス需要が年平均5%以上減少するため、一部の油田が早期に閉鎖されたり、一時的に停止したりする可能性がある。2040年以降、天然ガス需要の減少は緩やかになり、2050年には世界の天然ガス使用量の半分以上がCCUSを備えた設備での水素製造に使われるようになる。

ただし、NZEシナリオにおいても、需要に見合った石油・ガス生産を継続するための既存油・ガス田に対する上流投資は、2021年から2030年までの間、毎年平均で3,500億ドル必要となる。これは、新型コロナウイルスの影響を受け減少した2020年の水準と同程度であるが、過去5年間の平均水準と比較すると30%低いレベルとなる。

図16.NZEシナリオ 石油・天然ガス供給に対する投資
図16. NZEシナリオ 石油・天然ガス供給に対する投資

イギリスの石油・ガス業界団体であるOGUK(Oil&Gas UK、UKオイルガス)は、新たな投資がない場合、イギリスの天然ガス生産は2030年までに75%減少すると警告した。

北海とアイリッシュ海にあるガス田は、イギリスのガス供給の半分を占めているが、新規ガス田の開発は少なく、その生産量は減少中である。2004年には、自給自足できていたが、現在では、天然ガス需要の半分しか満たすことができない状況にある。

残りの半分の天然ガス・LNGは、ノルウェー、カタール、ロシア、トリニダード・トバゴ、エジプト、ナイジェリアなどの他の国から輸入されているが、イギリスが新規の大陸棚ガス田に投資しない限り、輸入への依存が高まってしまうという。

図17.イギリスはどこからガスを得ているのか?
図17. イギリスはどこからガスを得ているのか?

c) IEA価格シナリオに関する考察

IEA WEO2021において、今後のLNG価格は下落していくと予測されている。

STEPSシナリオでは、天然ガス需要の増加と原油価格の上昇が、天然ガス価格に一定の上昇圧力を与えるものの、APSシナリオでは、ネット・ゼロ目標の達成により、日本、韓国、欧州連合などの主要なガス輸入国では需要が急激に減少し、価格は横ばいまたは低下する。さらに、NZEシナリオでは、新規油田や輸出プロジェクトの開発は行われず、天然ガス価格は、ガス需要が減少する中で、必要な生産量を維持するために継続的な投資を必要とする既存のプロジェクトや建設中のプロジェクトからLNGを供給するための限界費用まで下落する。

これは今般、天然ガス・スポットLNG価格高騰を経験している世界の実感とは大きくかけ離れたものである。その理由は、以下の大前提による。

(IEAシナリオの前提)需要が先行して減少し、それに沿うように供給が減少する均衡が維持される。

- In IEA scenarios, they are designed to maintain an equilibrium between supply and demand. –

需要を先行して減少させ、それにうまく沿うように供給を減少させる政策は可能であろうか?

表2.シナリオ別化石燃料価格

表2.シナリオ別化石燃料価格

d) 新たなリスク

IEA WEO2021のシナリオワークでは、スムーズで秩序ある需給変化が想定されているが、各国の利害の対立や不整合な政策によって、現実のエネルギートランジションの需要と供給はそれぞれ不安定でバラバラなものになる可能性がある。以下に脱炭素のリスクをまとめる。

投資のミスマッチ
  • NZEシナリオにおける石油・天然ガス需要の減少は急峻であるため、新規の石油・ガス田開発は必要ない。
  • ただし、将来の不確実性の中で需要の動向を見誤ると、市場のタイト化や過剰な投資による座礁資産化などのリスクが生じる可能性がある。
  • 万一、需要がより高いレベルで維持された場合、需給が逼迫し、価格の上昇と変動のリスクが高まる。
  • さらに、たとえエネルギー価格の上昇があったとしても、将来の需要を抑制する政策が施行される中、それが過去と同じ程度に供給増に向けた投資増を引き起こすかどうかは明らかではない。
  • つまり、NZEシナリオで想定されている軌道に沿って石油・天然ガス需要を削減するための強力な政策推進が鍵となる。
統合されたシステムにおける市場デザインとインフラ
  • 高性能蓄電池などの電力貯蔵システム、デマンドレスポンスシステム、分散可能な低排出電力源が不可欠。
  • 天然ガスインフラは、世界の多くの地域で、季節的な暖房需要や短期的な発電ピークを満たすために重要な役割を果たしているが、天然ガス火力発電に代わる同様の便益を再現できる革新的なシステムは現存せず、早期の開発が必要である。
エネルギー安全保障の地政学的変化
  • NZEシナリオにおいて、石油・ガスの供給は、少数の低コスト生産者へ集中する。

IEA Roadmapにおいても、エネルギー安全保障の地政学的変化について、以下のストーリーが展開されている。

  • LNG貿易は、2020年の420Bcmから今後5年間は増加するが、その後、2050年には160Bcm程度にまで減少。
  • 2050年のほぼすべてのLNG輸出は、最もコストが低く、排出量の少ない生産者から行われる可能性が高い。
  • 中東のLNG輸出国カタールは、LNG供給割合を増加させ、2045年には世界の半分のLNGを供給するようになる。価格が低下しても生産コストが低いため、商業的な生産継続が可能である。
  • ロシアからの供給も継続的に増加する。
  • 一方、米国は、一旦は世界のLNGの1/4を供給するまでになるが、2025年以降はコストが高く採算が合わず生産は大きく減少していく。
  • 多くの生産国では、石油・ガス収入が過去最低レベルにまで落ち込むため、社会の安定に影響を及ぼし、消費国への石油・ガスの円滑な供給が脅かされる可能性がある。

ここで、多くの産油・産ガス国で社会の安定に影響があるとの記載があるが、そうであれば、国体の安定化支援なくしては、欧州脱炭素政策が、多くの産油・産ガス国の賛同を得ることは難しいようにも思える。

図18.LNG供給国の偏在化(IEA RoadmapよりJOGMEC作成)
図18. LNG供給国の偏在化(IEA RoadmapよりJOGMEC作成)

(3) 脱炭素と成長は両立可能か?

RITE(Research Institute of Innovative Technology for the Earth、地球環境産業技術研究機構)によると、世界全体のGDPとCO2排出量の間には、強い正の相関関係(カップリング)が継続している。

欧州等、一部の先進国においては、経済と生産ベースCO2排出量のデカップリング傾向が見られるが、欧州の産業構造は、製造業を海外に依存し、サービス産業化する傾向が強まっており、生産ベースCO2排出量のレベルが低いのは当然ともいえる。

一方、世界の工場といわれる中国などにおいては、生産ベースCO2排出量が高い。

通常、国別CO2排出量推計においては、化石燃料を燃焼させるなど、CO2が実際に排出された国での生産ベースCO2排出量が対象とされているが、そもそもCO2排出量算定のルールがフェアではないとの指摘もある。

図19.GDP成長率とCO2排出量
図19. GDP成長率とCO2排出量
図20.各国のCO2排出量
図20. 各国のCO2排出量

欧州では、脱炭素を進めても、経済成長が可能とする議論が一般的であるが、それは、GDP成長率とCO2排出量がデカップリングしたとする認識の結果である。
なお、欧州発電ソース割合の過去5年間の推移をみると、以下の傾向が確認できる。

  • 風力発電は、毎年着実に増加(+54%)。
  • 太陽光発電は、長期的に増加(+36%)。
  • 火力発電用石炭使用量は、長期的に低下(-42%)傾向にあるが、その代替である火力発電用天然ガス使用量は、長期的に増加(+26%)。

つまり、天然ガス火力発電に代わる、リニューアブルの間欠性を補完する新たな現実的な技術はまだ確立されておらず、そのため、発電向け天然ガス使用量は、石炭火力発電と原子力発電の縮小廃止を受け、未だ年々増加している中、実態上は天然ガスに依存せざるを得ず、天然ガス価格高騰によって電力価格が大幅に上昇し、景気への深刻な影響が懸念されているのが現実の姿なのである。

これは、天然ガス使用量の増加を通じたトランジションを経ない限り、リニューアブルの拡大は実現することが難しいと考えるのが妥当ではないだろうか。

欧州において、脱炭素と経済成長を両立させるには、今後も、リニューアブルの導入に合わせてその間欠性を補完できる天然ガス火力発電所の天然ガス使用量を増やして電力の供給と価格を安定化させることを余儀なくされるのであろう。

図21.EU-ETSと欧州ソース別発電量(2016-2021年4月)
図21. EU-ETSと欧州ソース別発電量(2016-2021年4月)

(4) COP26の成果

第26回気候変動枠組条約締約国会議ロゴ

10月31日から11月13日、イギリス・グラスゴーにおいて、COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議、The 26th session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change)が開催された。以下に、その主な成果をまとめる。

  • 各国がNDCを上積み(COP26前の52.4Gtから41.9Gtに)。
  • 先進国の発展途上国資金支援を各国が増額(COP15での1,000億ドル支援の実現)。
  • 金融機関の融資連合GFANS(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)が、今後30年間で脱炭素に100兆ドルを投資。
  • グローバルメタン誓約(Global Methane Pledge)に100カ国以上が署名。
  • GHG(Greenhouse Gas、温室効果ガス)排出対策を取っていない石炭火力発電の廃止を盛り込んだ声明に46カ国が署名。
  • 米国を含む20か国と欧州投資銀行など5機関が、2022年末までに国外の化石燃料事業への直接融資を全面的に停止すると誓約。

また、COP26には直接関係ないものの、これを目指して同時期に以下の取り組みが発表された。

  • EC、北極圏に関する戦略(改訂版)を発表。北極圏での炭化水素探査と生産、その購入を禁止。
  • 米国で1.75兆ドル大型歳出法案「Build Back Better Act」が成立。このうち気候変動対策には5,550億ドルを確保。
  • 米中両政府が、メタン排出量削減、石炭消費の段階的引き下げ等で共同宣言。

表3. COP26各国のNDC

表3.COP26各国のNDC

ここで、今後最も注目しなければならないポイントは、「国外の化石燃料事業への直接融資の全面的な停止」である。11月4日、米国を含む20か国と欧州投資銀行など5機関は、2022年末までに国外の化石燃料事業への直接的な融資を全面的に停止すると誓約した。石炭・石油・天然ガス事業の主要な資金提供国である中国、日本、韓国、スペインは参加しなかった。融資停止の対象となるのは、排出される炭素を吸収する技術を導入していない上記事業である。

この誓約は、特定の海外化石燃料事業への限定的な支援を除いて、公的な開発銀行から石油、天然ガス、石炭への資金の流れを抑制する試みである。

今回の合意は、来年ドイツで開催されるG7に向けた「前哨戦」ともいえる内容になっている。米国に加えてカナダもサインし、これで日本以外のG7全ての国がサインしたことになる。この合意に拘束力はないものの、特に他のG7諸国からは、日本への圧力が高まることが予期される。

ドイツは、EU・フォンデアライエン委員長の出身国で、緑の党が気候変動・エネルギー政策をリードしているが、そこでの議論は「上流開発」及び「天然ガス火力」がターゲットとなることは明らかである。日本は、自国の事情(国内ガス生産極小で輸入依存、国際・国内幹線パイプライン不在、地下貯蔵施設も極めて限定的)に加え、電力需要の急増する東南アジアなどの新興国において発展段階に応じ、石炭火力から天然ガス火力への現実的、かつ、段階的なエネルギートランジションを追求すべきと考える。

図22.電源構成比の国際比較
図22. 電源構成比の国際比較

(5) ダイベストメント・タクソノミーの動き

化石燃料への上流投資に対するダイベストメント、タクソノミー等の動きについて以下にまとめる。

a) PCIの見直し

9月28日、欧州議会のエネルギー委員会は、天然ガスプロジェクトを2022年からEUの資金援助の対象外とすることに合意した。さらなる批准が必要ではあるものの、PCI(Projects of Common Interests、共通利益プロジェクト)の第4リストまたは第5リストに掲載されている天然ガスインフラは、今回の合意により対象外となる予定である。

第4次PCIガスプロジェクト
  • アイルランド、シャノンLNGターミナル
  • ギリシャ-ブルガリア間、インターコネクタ・パイプライン(IGB)
  • ギリシャ-イタリア間、トランス・アドリアティック・パイプライン(TAP)(そのうちのTANAP-TAP間相互接続プロジェクト)
  • デンマーク-ポーランド間、バルチック・パイプ

欧州TEN-E規則(Trans-European Networks for Energy)では、どのような国境を超えたプロジェクトを、PCIと呼ぶことができるかを定めている。リストは2年ごとに改訂され、リストアップされたプロジェクトはEU資金や迅速な許可を得ることができる。2020年末、EUはこれをグリーンディールに適合したものに変更し、提案した。

これまでは、ロシア・ウクライナ間のガスパイプライン紛争の教訓から、PCIは国境を越えるエネルギーインフラ関連プロジェクトを支援しエネルギーセキュリティーを高めようとするものであった。今回の変更は、これを欧州グリーンディールに合致した再生可能エネルギーを主力とする異なるエネルギー間の統合によるレジリエンス確保へと変更するものである。ガスプロジェクトへの資金提供の廃止、エネルギーグリッドの電化や洋上再生可能エネルギーの導入、また、自然エネルギーによる生産を優先する水素PCIのカテゴリーの新設等が提案されている。

PCIの選定基準は、2021年内に改定される予定となっている。

b) EUタクソノミー規則

9月27日、欧州議会は、サステナブルタクソノミーへの原子力発電と天然ガスの盛り込み提案を棚上げした。

EUタクソノミーとは、投資や経済活動が「グリーン」あるいは「環境的に持続可能」かどうか、分類する枠組みである。EUでは2018年から導入に向けた取り組みが進められており、2022年1月からの本格導入が予定されている。「グリーン」、「環境的に持続可能」と判断されれば、投資が可能であり、さらに、金利など諸条件において優遇が期待できる。グリーン基準を明確化することで、民間資金を脱炭素社会に貢献する経済活動に資金を集中させたい狙いがある。

EUタクソノミー規則は2020年7月に施行されたが、今回、それに基づく個々の事業をリストアップするDA(Delegated Act、委任規則)の取り扱いが延期されたことで、閣僚理事会との政治調整案件となり、最終決定は12月まで遅れる見通しとなった。タクソノミーDAは2022年1月に確定する予定となっている。

EUタクソノミーにおいては、6つの環境目的(1.気候変動の緩和、2.気候変動への適応、3.水と海洋資源の持続可能な利用と保全、4.サーキュラーエコノミーへの移行、5.環境汚染の防止と抑制、6.生物多様性と生態系の保全と回復)の1つ以上に貢献した上で、以下の適格要件すべてを満たさなければ「グリーン」とはみなされない。

  • 他の環境目的を著しく阻害しない(Does Not Significantly Harm基準)。
  • 最低限のセーフガード(人権など)を遵守(ミニマムセーフガード)。
  • スクリーニング基準の順守(Technical Screening Criteria)。
  • 枠組みの導入後は、EU域内の大企業には適格となる売上高等の割合を、金融機関には適格となる投融資の割合の開示を義務化。

なお、EUタクソノミーは、EU域内を対象とした枠組みであるが、将来的には国際的な分類基準となりうる可能性を秘めている。

c) EU・フォンデアライエン委員長の発言

10月22日、COP26に先立った欧州理事会後、EU・フォンデアライエン委員長がスピーチを行った。そこでは、最近の欧州エネルギー危機、特に電力高騰を念頭に、EUタクソノミーに関してこれまでの議論の焦点であった、原子力と天然ガスを半ば容認する内容が述べられた。

来年のG7に向けて、この姿勢がこのまま維持されるのか、大いに注目されるところである。

『まずは、昨日のエネルギー価格に関する議論についてお話したいと思います。エネルギー価格の上昇は、消費者や企業にとって真の懸念事項です。これが世界的な状況であることは承知していますが、ここ欧州でも実行しなければならない教訓を含んでいます。この日のディスカッションでは、そのことが話題になりました。

第一に、短期的には、弱い立場にある消費者や被害の大きい企業を支援する必要があります。加盟国はすでにそれを実行しています。約20の加盟国が対策を講じたり、対策を発表したりしています。しかし、これはあくまでも短期的なものです。中長期的に見た場合、私たちは追加措置に取り組みます。弾力性と独立性を高めるために、戦略的な天然ガス備蓄を確立する方法を検討し、共同調達の可能性を探ることに合意しました。また、共同調達の可能性についても検討することで合意しました。さらに、さまざまな供給者への働きかけを強化し、既存の供給を多様化していきます。また、相互接続に関する作業を加速させなければなりません。並行して、ガス・電力市場とETS市場の機能を評価します。その結果は、今年の後半、理事会でこのテーマが議題となる次の機会で報告します。

ここで、将来のエネルギーミックスの話に移ります。再生可能でクリーンなエネルギーがもっと必要なのは明らかです。再生可能エネルギーの製造単価を見てみると、かなり下がっています。太陽エネルギーは、10年前に比べて10倍も安くなっています。風力エネルギーは非常に不安定ですが、10年前に比べて50%も安くなっています。ですから、この方法がお勧めです。これらはカーボンフリーであり、国産であることから、多くの独立性があります。これに加えて、安定した供給源である原子力、そして移行期にはもちろん天然ガスも必要です。これが、4月に欧州委員会としてすでに発表したように、我々がタクソノミーの提案を行う理由です。

昨日の夜の2つ目のトピックは・・・』

 

図23.EU・フォンデアライエン委員長
図23. EU・フォンデアライエン委員長

d) 米国多国間開発銀行、新たなグリーンガイダンス

8月16日、米国財務省は、多国間開発銀行(MDB、Multilateral Development Banks)の投資に関する新しいガイダンスを発表した。これは、化石燃料よりもクリーンエネルギーへの投資を優先するものとなっており、新規石炭系プロジェクトや石油系エネルギープロジェクトへの直接投資には反対し、天然ガスへの支援は限定する内容(上流の天然ガスプロジェクトは認めない、ガスプロジェクトに代わる経済的・技術的に実現可能なクリーンエネルギーが存在しないことを示す代替案分析を行うことを条件に、貧困国や脆弱国、島嶼開発途上国における中流・下流のガスプロジェクトを支援)となっている。また、CCUS、メタンガス削減プロジェクトにも門戸を開いている。

MDBグリーンガイダンス
  • 新たな石炭プロジェクトへの投資停止。ただし、プラントの容量を拡大したり、寿命を延ばしたりしない石炭の廃止プロジェクトは検討することができる。
  • 新たな石油プロジェクトへの投資停止。ただし、危機的な状況下での石油ベースの発電や、オフグリッドのクリーンエネルギーのバックアップとして、よりクリーンな選択肢が実現できない場合など、限定的な例外がありうる。
  • 天然ガスの上流プロジェクトに反対。中下流プロジェクトについては、以下の条件がすべて満たされた場合のみ支援する。
    • 貧困国、脆弱国、島嶼開発途上国等であること。
    • 経済的・技術的に実現可能なクリーンエネルギーの代替案がないことを証明する信頼できる代替案分析があること。
    • プロジェクトがエネルギー安全保障、エネルギーアクセス、またはエネルギー開発に大きなプラスの影響を与えること。
    • プロジェクトがパリ協定の目標に沿っており、MDBが共同で開発したパリ・アラインメント手法(脱炭素化パスウェイ、温室効果ガス削減戦略、カーボンロックイン回避など)によってサポートされていること。
  • CCUSおよびメタン削減プロジェクトは支援する。ただし、既存プロジェクトの容量を拡大したり、運用期間を大幅に延長したりするものではないこと。
  • よりクリーンな選択肢が実現できない場合、家庭用熱源プロジェクト(クリーンクッキングプロジェクトなど)における天然ガスや石油製品の使用を支援する。工業用や地域用の熱源としての天然ガスや石油製品については、ケースバイケースで検討する。
  • 化石燃料を直接支援するような政策改革を伴う事業には、反対する。ただし、これらの活動を間接的に支援する可能性のある重要なマクロ経済改革や開発改革を伴う政策ベースのオペレーションについては、ケースバイケースで検討。
  • MDB資金が直接投資プロジェクトに対するアプローチとは一致しないサブプロジェクトや活動に使用されると合理的に判断できる場合、これに反対する。

e) ダイベストメント、金融機関・メジャーズの動き

すでに、EIB(European Investment Bank、欧州投資銀行)やADB(Asian Development Bank、アジア開発銀行)は、天然ガス火力発電プロジェクトに対して厳しい融資方針を示している。一方、AfDB(African Development Bank、アフリカ開発銀行)などは、途上国での天然ガス需要がまだ高いと認識されているため、条件が比較的緩くなっており、ダイベストメントの風は強くなりつつあるものの、各社の対応にはまだ温度差がみられる。

EIB

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EIBは、天然ガスを含め化石燃料関連事業への融資を2021年末に停止することを決定。2021年1月、EIBホイヤー総裁が記者会見の席上「天然ガスは終わった」と発言した。

ADB

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ADBは、以下の5つの厳しい条件下で天然ガス関連プロジェクトに融資する。

  • これまでエネルギーがなかった人々にエネルギーを提供する場合。または近代的でないエネルギー源を置き換える場合。
  • 費用対効果の高い再生可能エネルギーがない場合。
  • 国際的に利用可能な最善の技術を使用する場合。
  • グリッドの排出量を純減させる場合。
  • 今世紀半ばまでのカーボンニュートラル達成に沿うものである場合。
     
BpiFrance

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フランスの輸出金融戦略に従い、BpiFrance(フランスの政府系投資銀行)は、排出量が受益国の中央値よりも低い天然ガス関連プロジェクトに融資を行う。また、プロジェクトが以下のいずれかの条件を満たす場合にも融資を行う。

  • そのプロジェクトが安定した電力システムに不可欠であり、低炭素の代替案が高コストである場合。
  • 代替案がない場合。
  • 受益国が低炭素化戦略を持っており、プロジェクトがその基準を満たす場合。
     
UKEF

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イギリスのネットゼロコミットメントに基づき、UKEF(UK Export Finance、イギリス輸出金融公社)は4つの条件でいずれかに沿っていれば天然ガス関連プロジェクトに融資を行う。この条件は、イギリス輸出金融局が受益国の排出量に関する基準を提案していないため、比較的緩やかなものとなっている。

  • 受益国がパリ協定に沿った排出量の戦略を持っていること。
  • 受益国の再生可能エネルギーへの移行を妨げないプロジェクトであること。
  • 座礁資産のリスクが評価・管理されていること。
  • プロジェクトが環境・社会基準のベストプラクティスに従っていること。
     
AIIB

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AIIB(Asian Infrastructure Investment Bank、アジアインフラ投資銀行)は、天然ガスが途上国の低炭素エネルギーミックスへの移行に不可欠であることを認識している。ただし、具体的な融資条件は提案していない。

AfDB

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AfDBは、2012年に発表したエネルギー政策において、石油・天然ガスによる発電の支援を継続するとしている。

ABP

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10月26日、オランダ大手年金基金ABPは、石油、天然ガス、石炭など、化石燃料に関連する企業への投資を中止することを発表した。2021年9月末時点での運用残高は5,280億ユーロにのぼる。そのうち対象となる売却額は150億ユーロ、運用資産全体の3%を占める。

ExxonMobil

ExxonMobilロゴ

ExxonMobilの取締役会において、5か年投資計画について、Mozambique LNG開発プロジェクトや、ベトナムのガス開発事業の投資戦略の見直しが脱炭素の観点からおこなわれていると報じられた。なお、その後、ExxonMobilは、Mozambique LNGは継続するという声明が出ている。それに先立つ2021年5月には、アクティビストの影響で、3名が新メンバーに変更された。

Shell

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5月26日、オランダ・ハーグ地方裁判所は、Shellに対し、CO2排出量を2030年までに2019年比で45%削減するよう命じる判決を下した。これに先立つ2月、ShellはGHG排出量を50年までに実質ゼロ、また、中間目標として、2016年比で2030年に20%、2035年に45%それぞれ減らす方針を打ち出していたものの、判決は、パリ協定を法的根拠として、大幅な上積みを求めた。また、長期目標について「具体性が乏しく拘束力も無い」とも指摘した。Shellは直ちに控訴したが、10月には、2030年までにGHGの排出を半減させる、という新たな目標を発表した。

ここで、各社の天然ガス・石油の生産量を上位から順に並べてみると、天然ガスは石油と比べて上位に民間企業の占める割合が大きく、民間企業の方が脱炭素による政策変更の影響をより受けやすいことがわかる。LNGにおいては、この傾向はさらに強まり、エネルギー自給率の低い日本は大きな影響を受けることになる。

図24.天然ガス・石油開発企業ランキング(国営・民間別)
図24. 天然ガス・石油開発企業ランキング(国営・民間別)
図25.LNG企業ランキング(国営・民間別)
図25. LNG企業ランキング(国営・民間別)

(6) 各国の足並みはそろわない

このように、脱炭素に対する様々な政策・対応が提案されているが、現実とのギャップを反映し各国から反対意見が出されている。欧州内においても、天然ガス、原子力等の脱炭素に関する取扱いをめぐって各国のスタンスに大きな違いがある。

天然ガス

  • 欧州TEN-E規則PCIからガスインフラを除外する動きに関し、東欧を中心とした9カ国は共同声明を発表した。PCIのガスプロジェクトは気候中立に向けたエネルギー転換に貢献するものであり、2030年まで資金提供の対象とすべきと主張している。一方、オーストリア、ベルギー、デンマーク、ドイツ、エストニア、アイルランド、ルクセンブルグ、ラトビア、オランダ、スペイン、スウェーデンの11カ国は化石燃料排除の立場を改めて表明した。
  • ポーランドをはじめとする石炭火力発電への依存度が高い国々を中心としたグループは、自国の電源構成比を石炭火力発電からCO2排出量がより少ない天然ガス火力発電にシフトさせることで、EUのGHG排出削減目標の達成を目指している。しかし、昨年公表されたDA案では、天然ガス火力発電の適格となる排出基準が、CCS(二酸化炭素回収・貯留、Carbon dioxide Capture and Storage)を付加しない限り達成が不可能な水準(100g/kWh未満)に設定されたことを受け、欧州委員会に対し、委任法案への反対を表明した。その後、ECから調整案が提出され、現在、冬場の暖房には欠かせないコジェネレーションについては270g-CO2/kWhに緩和された案になっている。

原子力

  • 10月11日、チェコとフランスをはじめ、ブルガリア、フィンランド、クロアチア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、およびスロベニアの合計10か国は、地球温暖化の防止とエネルギーの自給に貢献する原子力を、タクソノミーの対象に含めるようEUに求める「共同宣言」を発表した。原子力はまた、環境影響面でその他の低炭素発電技術に劣るという科学的根拠がないため、これらと同等に扱われるべきとしている。これは、脱原発支持のドイツ、オーストリア等5カ国の数を上回る。
  • 11月9日、フランス・マクロン大統領は、原発の新規建設に着手すると表明した。2050年にネットゼロエミッションを達成するには、再生可能エネルギーへの投資だけでなく、原発への投資が必要と主張した。エネルギー依存を低減し気候変動目標を達成するために、原発推進の必要性を強調し、電力網が未発達な国への輸出用として小型モジュール炉(SMR、Small Modular Reactor)の開発に10億ユーロの投資を発表した。2022年4月の大統領選挙を控え、20万人が従事する原子力産業の復活を目指し、雇用問題、エネルギー価格上昇、気候変動への対応をアピールする目的もあるとみられる。

EU-ETS

欧州旗

  • EU-ETSは、EUグリーンディール政策の中の主要政策であり、排出量目標を達成できない企業に、CO2排出コストを埋め合わせるためにカーボンクレジット(排出枠)の購入を求めるものである。
  • 2021年1月のフェーズ4引き締め以降、EU-ETSは2020年の30ユーロ/t-CO2から2倍以上のレベルに大きく上昇し、現在は、60ユーロ/t-CO2程度となっているが、ポーランドとスペイン、チェコは、今回の天然ガス価格上昇に加え、EU-ETS高騰によって電力料金が上昇したと批判し、投機筋の関与にも懸念を示した。これに対しECは、「排出枠価格が電力料金上昇に与えた影響は20%に過ぎない。もっと早く再エネへシフトしていれば、天然ガス価格上昇の影響を避けられた」と説明しているが、ECが温暖化対策にのめりこみ、経済性、安定供給への配慮を欠いた結果との声も聞かれる。経済力の弱い東・南欧諸国やフランスは、今後、EU-ETSを、運輸や暖房など消費者に直結する分野に拡大することに強く反対し、最貧困層に最も打撃が大きく逆進的だと主張する。一方、ドイツやオランダ、北欧は、今回の天然ガス価格上昇は短期的なもので、気候対策の大枠を変えるべきでなく、市場介入も行うべきではないとの方針を固めた。

欧州と米国、脱炭素戦略の違い

欧州と米国においても、脱炭素のアプローチやトランジションのスピードは大きく異なる。主な原因は、投資家と政府からの圧力の違いと考えられる。

欧州規制当局は、エネルギー企業に対し再生可能エネルギーへの支援に注力することを強く求めており、化石燃料の使用自体が忌避されている雰囲気さえ感じられる。バークレーズやドイツ銀行など金融機関も、環境への配慮している企業への融資に注力すると述べている。

一方、米国メジャーズは、脱炭素への対応は重視しているものの、欧州メジャーズと比べ、リニューアブルへの直接投資が少なく、株主還元を重視している。9月、ChevronのCEOは、「木を植えるのは株主にまかせる」と発言し、ExxonMobilも、欧州エネルギー危機の一因は化石燃料への投資不足と発言している。米国では、CCUSの拡大が推奨されており、LNG液化設備のデベロッパーも、CCUSの併設や、電動モーターとグリーン電力の利用、メタン漏洩の少ないパイプライン新設など、GHG削減対策を取りながら、積極的に長期LNG売買契約を獲得すべく営業活動を継続している。

図26.欧米メジャーズのCO2排出目標
図26. 欧米メジャーズのCO2排出目標

表4. 米国CCUS実績

表4.米国CCUS実績


3. 今後のLNG需給・契約・価格イメージ

(1) 中国、米国長期LNG売買契約増加

1月のLNG需給逼迫後、政府の意向を受け、中国の複数の大手エネルギー企業は、LNGの安定供給を確保するため、米国の輸出業者との交渉を進めてきた。その後の過去最大規模の発電・暖房用燃料の逼迫と、アジアのスポットLNG価格の高止まり、さらに、今後数年間はLNG需給逼迫が懸念されることを背景に、9月、中国政府は、大手エネルギー企業に対し、停電を回避するために必要なことは何でもするように指示を出した。これが決定打となって交渉がスピードアップしたといわれている。

今回締結された一連のLNG長期売買契約の10MTPA程度が加わると、中国が輸入するLNGの内、米国LNGの占める割合は現状の1割から2割に上昇し、豪州、カタールに次ぐ第3位の地位を築く見込みである。

米国LNG選択の要因

  • 米国LNGプロジェクトは、立ち上がりが早い。ここ数年で生産を開始できるプロジェクトが多い。
  • LNG価格が、HH(Henry Hub、米国ガス取引ハブ)ガス価格リンクで安定している。
  • 万一余剰となってもキャンセルが可能で、転売・仕向地フリーでトレーディングしやすいFOBがベース。
  • PetroChinaが出資しているカナダや、PetroChinaとCNOOCが出資しているモザンビークでのLNG輸出プロジェクトが遅延。

このほかにも、米国LNGに関しては、下記のような動きがあり、来年以降、複数プロジェクトのFID(Final Investment Decision、最終投資決定)が期待される。

  • 6月、フランス・ENGIEは、Corpus Christi LNGから、0.4-1.2MTPA 、11年間の長期契約を締結した。これに先立つ、2020年11月、フランス政府からの圧力により、ENGIEはRio Grande LNGとの協議を中止した経緯がある。
  • 9月、ポーランド・PGNiGは、Venture Globalとの間で、2MTPA、 20年間の追加の長期LNG売買契約を締結した。LNGは、Plaquemines基地から出荷される。
  • 10月25日、Glencoreは、Cheniereから、0.8MTPA、 13年間、FOB、HHガス価格リンクで、長期LNG売買契約を締結。
  • 11月15日、JERAは、Freeport LNGの権益25.7%を、インフラファンドGIP(Global Infrastructure Partners)から25億ドルで取得した。これにより、0.82MTPAのLNG調達が確保される。また、既存3系列に関与するのみならず、リバンプ工事や第4系列開発(2022年FID予定)などの新規事業を進めるという。既存の安定した操業実績があるため開発リスクが小さく、転売・仕向地制約がないことから柔軟なLNG供給が可能としている。

表5. 中国、米国長期LNG売買契約締結(2021年秋)

表5.中国、米国長期LNG売買契約締結(2021年秋)

図27.米国LNG生産量の増加
図27. 米国LNG生産量の増加
図28.中国、米国LNG輸入量の増加
図28. 中国、米国LNG輸入量の増加

(2) 長期LNG売買契約の意義

IEA Global Gas Security Review 2021によれば、締結されたLNG売買契約中、長期契約のシェアは、2018年以降、70%を超える高い水準で推移している。2020年には長期契約が全体の71%を占めたが、2021年は、これまでのところ86%と、さらに高い水準にある。このうち、アジアのバイヤーが82%を占め、中国だけで半分を占める。2020年から2021年にかけて見られたスポットLNG価格の前例のない乱高下が、長期LNG売買契約によってもたらされる安定した価格の重要性を、売買主双方に認識させた可能性があるとしている。

図29.LNG売買契約の契約期間
図29. LNG売買契約の契約期間

(3) 各社中長期LNG需要予測

著名なエネルギー研究機関、コンサルタント各社、メジャーズの、世界のLNG需要予測を以下に比較する。先に行くにしたがって伸び率は減速するものの、各社とも需要は右肩上がりで上昇し、2021年から2030年の間は、3-6%/年のペースで伸びると予測されている。なお、Rystad Energyのみ、2040年のピークアウトを予測している。

これらは、いずれも、IEA NZEシナリオとは大きなギャップがある。NZEシナリオでは、ガス需要が急速に低下するため、新規ガス田、LNGプロジェクトの開発は不要とされており、現在のタクソノミーやダイベストメントの動きは、これを体現し、座礁資産化を防止する施策として実施されているものの、実際のLNG需要が各社予測に近いものとなれば、一転、今後も多くの新規プロジェクトが必要とされる。追加LNGの生産にはLNG液化設備のみでも通常5-6年間の建設期間が必要であり、万一需要が供給を上回った場合には、LNG価格が高騰することが予想される。

今後、脱炭素政策の影響がますます大きくなる中で、将来のLNG需要をどのように予測し、それとLNG供給をどうやって合致させていくかが大きな課題となる。

図30.各社中長期LNG需要予測
図30. 各社中長期LNG需要予測

(4) ピーク期供給余力確認

以下に各年ピーク月(1月)のLNG供給余力を確認する。ここで、世界のLNG貿易量は、3%/年の堅実なペースで増加すると仮定している。

2026年以降、LNG生産容量が大きく上昇していくが、これは、2019年に米国を中心にFIDした多くのLNG液化プロジェクトが、5-6年間の建設期間を経て、LNG生産を開始するためである。

月別最大LNG需要(1月)と月別最小LNG需要(春、秋)の差は年々拡大し、2030年には年間±7MT/m近くに達する。この大きな差は、主にスポットLNGの調達により埋め合わされる。したがって、スポットLNGの取引割合は今後ますます増加し、世界の月別LNG需要のボラティリティーがますます拡大していくことが示されている。北東アジア、特に中国の2nd Tiers買主の増加や、日本の買主が長期契約を継続せずスポット契約を増やす傾向により、市場で需要に応じて取り引きされるスポットLNGが増えると、冬期など必要な時期に買いが集中する傾向がますます高まる。

また、世界の太陽光発電量の増加によってもLNG需要のボラティリティーは拡大する。太陽光発電は、例えば突然の降雪などで発電量が大きく落ち込むため、これを補完するためにLNG火力発電が稼働し、LNG需要が急増する。これも、冬期のLNG需要のボラティリティーを拡大する一因となる。一方、春秋など気候が穏やかな時期には、風力発電など再生エネルギーの導入もあり、スポットLNGの需要はそれほど増加しない。

ここで、月別最大LNG需要と月別最小LNG需要の差を、LNG調達のボラティリティー、また、月別LNG生産容量(定格)と月別最大LNG需要との差を、LNG供給余力と定義している。

図31.LNG生産容量とLNG需要(最小、最大、平均)
図31. LNG生産容量とLNG需要(最小、最大、平均)
図32.新規LNG液化容量のFID
図32. 新規LNG液化容量のFID

(5) LNG供給余力、2025年の谷に注意!

この図は、LNG需要のピーク月である1月における各年の世界の天然ガス・LNG供給余力を示したものである。

2022年1月のLNG供給余力は、Hammerfest LNG修理延長とマレーシアLNGの上流トラブルにより、合計でこの図より0.6MT/m低下する。そこに、今冬は欧州地下ガス貯蔵レベルが低下しバッファー機能が大きく低下しているために、ノルドストリーム2に関連した欧州ガス供給減少分(最大2.3MT/m)の影響が加わることになる。

年平均ではLNG生産容量とLNG需要(平均月)に余裕があるようにみえても、ピーク月(1月)におけるLNG供給余力は、2025年を谷底として、2022-26年にわたって低位がキープされる。そのため、この期間は、LNG供給セキュリティーの確保に特段の注意を払う必要がある。

2025年1月は、需要の増加に比べ新規LNG生産能力追加が特に小さく、ピーク期のLNG供給余力はベースケースの場合0.7MT/mまで減少することが予測される。

今後、液化設備建設の遅れなどが発生すれば、この谷は、さらに後年にずれ込むことになる。

図33.LNG供給余力の推移
図33. LNG供給余力の推移

(6) LNG価格イメージ

ノルドストリーム2に絡む欧州向けロシアパイプラインガス供給の抑制が終了するか、または、春になり天然ガス需要が低下すれば、欧州天然ガス価格、並びに、それに下支えされる世界のスポットLNG価格は大きく低下し、例年並みのレベルに戻るとみられている。スポットLNG価格は、2025年ごろピークとなるが、2028年にかけて、追加の新規LNG供給が増加するため、一旦価格が下落する。ただし、以前のように、価格は大きく下げるのではなく、ある程度の高い水準が維持される可能性があり注意が必要である。これは、依然LNGに対する需要が堅調で、かつ、LNG液化設備の建設が、新型コロナウイルスの影響も加わり、遅延していることによる。

米国LNG、JCC(Japan Crude Cocktail、日本着月別平均原油輸入価格)リンクLNGも、HHガス価格や、原油価格の上昇予測に合わせわずかずつ上昇していくが、ただし、これらの価格レベルは、2028年を除いて、スポットLNG価格レベルを大きく下回る。

最近は、傾き10%台の長期契約も締結されているとの情報もあり、この場合、昨今売買主双方の頭を悩ませているスポットLNG価格のボラティリティーを回避できる安定性の高さに加え、価格レベル自体の低廉さも、特に買主にとって大きな魅力となる。米国LNGについては、さらに、転売・仕向地が自由で、キャンセル権の利用が可能、さらに、HHガス価格リンクでLNG価格の安定が期待できる等のメリットも加わる。これは、米国LNGを調達しておき、スポットLNG価格で転売すれば利益が出る構造となる。一方、長期契約LNGに万一供給支障が発生すると高価なスポットLNGを調達せざるを得なくなってしまう。調達先を複数に分散できない中小買主については、各社の需要を束ねた共同調達が今後現実味を帯びてくる可能性がある。

これまで、スポットLNGは、その価格が自身の需給バランスで決まるガス対ガス価格決定方式であり、長期契約では対応できない需給バランスの調整に大きな役割を果たし、LNGのコモディティー化を先導してきたが、今回そのボラティリティーの高さが露見した結果、需給双方の安定性を高めるための長期契約の重要性も改めて認識されたといえよう。

ただし、長期LNG売買契約の交渉時、価格フォーミュラのレベルについては、足元から将来のスポットLNG価格が参考にされることも増えてきている。このため、今後は、長期契約のLNG価格についても上昇圧力がかかる可能性があり注視が必要である。

図34.LNG価格イメージ
図34. LNG価格イメージ

4. 脱炭素ネットゼロエミッションへのミッシングリンク

ミッシングリンク(失われた環/鎖)とは、生物の進化の途上に位置するはずの、発見されていない中間形の化石のことを指す。化石エネルギーのみならず、全世界のすべての分野に脱炭素の影響が及ぶ中、2030年55%削減、2050年ネットゼロエミッションの目標こそ、はっきりしているものの、そこに至るまでの過程は、未だ極めて曖昧である。ネットゼロエミッションまでの道筋(Passway)は、各国の裁量に任されているが、具体的な5W1Hにまで落とし込めている国はほとんどないといわれており、まさに脱炭素のミッシングリンクである。

一方、脱炭素は待ったなしである。

これまでエネルギーを中心に対策が検討されてきたが、もっと幅広い視点を持って選択肢を広げ、他の分野ともうまく組み合わせながら、効果が高く、道を誤った際の悪影響も一番小さいと考えられる方法を、各国各地の事情に適合させ、できるものからすぐに始める現実的な対応が必要ではなかろうか。

 

(1) 時間割引(行動経済学)

子供の頃、夏休みの初めは心躍り遊び呆けていたものの、後半なるにしたがってだんだんと気持ちが重くなっていった記憶をお持ちの方々も多いのではなかろうか。結局最終日に徹夜で宿題の山を片付け、翌日から2学期に臨んでいたことが昨日のように思い出される。やらなければならないことはわかっているのになぜできないのか?

人間は、未来に起きるイベントの価値を小さく評価してしまう傾向がある。これは、時間割引と呼ばれる。時間割引が恐ろしいのは、時間とイベントの関係が正比例ではなく、反比例であることである。イベントが少しでも未来になると、その価値は急激に小さく見積もられる。つまり、目の前にある些細なことが大切に見える一方で、少し未来のことは重要に感じにくくできている。これは生物全般に広く共有されている性質である。この性質を持ち日々の生存競争の中でまず今日の空腹を満たし一日一日命をつないで来られたからこそ、人類はここまでの繁栄を手に入れることができたともいえる。

ここで、2050年ネットゼロエミッションという、未来の課題を解決するにはどうしたらよいか?

時間割引率を下げるには、面倒なことをすぐやったりご褒美をできるだけ引き延ばしたりできる精神的な余裕や、すぐに報酬を得なくても暮らしていける経済的な余裕が必要だという。生活レベルの高い欧州がこの課題解決を先導している現在の姿は納得がいく。一方、発展途上国にとっては、まず国民の今日の空腹を満たすことができるか、国体を維持することができるか等の方が重要であろう。とすると、彼らの生活レベルが高まるまでは、この溝を埋めるのは困難ということになるから、先進国からの資金援助がいかに大切か、ということが理解できる。

また、本来の締め切りよりも早い時期に、本来の目標よりもずっと小さな目標を置くことも効果があるとされている。2050年ネットゼロ達成のために、2030年目標が設定されているのが、まさにそれに該当する。

さらに、環境面での整備も提案されている。ついお菓子を食べてしまうのであれば、買い置きをしないようにすれば、衝動的な食欲がでてきても食べずに済むというのである。需要が低下する前に上流投資を制限するダイベストメントの流れがこれに相当する。

欧州脱炭素戦略は、そのような人間の近視眼的な不完全さをうまく回避しようとする、極めて巧みに設計された戦術である。

ここで注意しなければならいのは、万一食欲がうまく抑制できなかった場合には、大きなパニックに陥る可能性があることである。他方、せっかく買い置きしたのに食欲が制御できてしまった場合、そのお菓子は無駄=座礁資産になってしまう可能性もある。

 

(2) 技術の未来は不確か

11月、IGU(International Gas Union、国際ガス連盟)は、Global Renewable and Low-Carbon Gas Report 2021を発表した。それによると、現時点では、グリーン水素の価格はLNGの10倍であり、2030年の時点でも、かなり規模の経済が働いた条件においてですら、現在の高騰した欧州天然ガス価格を上回るレベルにあるという。

欧州脱炭素戦略においては、ブルー水素はCCSなどを適用しCO2を排出しないにもかかわらず、その製造に化石燃料である天然ガスが使用されることから、グリーン水素の方が強く推奨されている。今般の欧州天然ガス価格の高騰の状況を見てもわかるように、エネルギーの価格は手ごろなものでなければ社会に受け入れられにくい点にも十分注意する必要がある。

すべての再生可能ガス(ブルー水素、グリーン水素、メタネーション)は、化石燃料に比べてコストが高いため、再生可能ガスへの大規模な投資を行うためのビジネスモデルを作るには、政府の十分な政策支援が必須となる。また、最終的には、エネルギー消費者か納税者がコストを負担することになるため、政策に対する社会の十分な理解も必要となる。

今後、炭素価格が時間とともに上昇していくと仮定すると、ブルー水素はCCS等によって若干コストアップするが、グレー水素よりは経済的になる。再生可能電力や電気分解のコストが時間とともに低下するため、コストは低下する予測ではるものの、グリーン水素は、他の再生可能ガスに比べて非常に高価なレベルにとどまる。グラフでは、2030年代にグリーン水素のコストがブルー水素のコストに近づくとしているが、実際にそうなるかどうかは、生産量が十分に増加して規模の経済を実現できるかどうかにかかっている。

図35.天然ガスとバイオメタン、水素の価格比較
図35. 天然ガスとバイオメタン、水素の価格比較

(3) 各国の合意形成は可能か?

脱炭素は世界全体の課題であり、合意形成のプロセスが欠かせない。一方、各国の事情は大きく異なり、それぞれの取るべき道程も大きく異なる。これまでのCOPでも経験されてきたように、利害の異なる各国の合意形成には多くの時間と努力が必要で、決して容易なプロセスではない。

効果的な脱炭素の方法案として、6月、IMFから興味深い論文が発表されている。以下に概要をまとめる。

IMF Proposal for an International Carbon Price Floor among Large Emitters

6月、IMF(International Monetary Fund、世界通貨基金)から、「大規模排出国におけるICPF(International Carbon Price Floor、国際炭素価格フロア)の提案」が発行された。

  • 2030年のCO2排出量の57%は中国、インド、米国の3か国が占め、85%までをG20諸国が占める。
  • 削減量を2℃の範囲に収めるには、Business as Usualと比較して、2030年までに世界全体で少なくとも21%のGHG排出量を削減しなければならない。
  • 現在のNDCでは、G20のすべての国が約束を達成したとしても、GHG排出削減量の合計は14%にしかならないが、上位6カ国(中国、米国、インド、EU、イギリス、カナダ)すべてに50ドルの炭素価格フロアを適用するか、または、各国の経済レベルに応じて25ドル、50ドル、75ドルの差別化された価格フロアを適用すれば、エネルギー関連のCO2排出量をBusiness as Usualと比較して23-24%削減することができる。
  • ICPFを他のG20諸国に拡大しても、削減量は25%とわずかに向上するのみであり、6つの主要経済国がICPFに参加することで、パリ協定の実効性が大きく高まる。

石炭火力発電の割合の高い中国やインドが含まれるものの、少数の主要排出国が率先して削減すれば、合意にかかる時間を大幅に短縮でき、2030年までに残された期間の節約につながる。ちなみに、日本は、他のG7諸国同様、$75/t-CO2を適用しても3割削減が限界で、目標である46%削減までにはさらに大きな負担が必要と試算されている。

図36.世界のCO2排出量と気温上昇への経路
図36. 世界のCO2排出量と気温上昇への経路
図37.各国の2030年CO2排出量
図37. 各国の2030年CO2排出量
図38.各国の炭素価格による2030年目標からのCO2削減量
図38. 各国の炭素価格による2030年目標からのCO2削減量

(4) 様々な脱炭素の選択肢

2017年、Drawdown, The most comprehensive plan ever proposed to reverse global warming が出版された。22カ国70人の研究者が結集し、80種類もの地球温暖化対策についてどれくらいCO2が減らせるかが検討され、今後30年間で削減できる推定CO2量のランキングが作成された。第2位風力(陸上)、第8位大規模太陽光発電、10位屋上ソーラーなど、再生可能エネルギー関連の対策が並ぶほか、最もCO2を減らせる方法の第1位に冷媒の転換、第3位に食料廃棄の削減、第4位に植物性食品を中心とした食生活などが並んだ。

これまで、化石エネルギーから太陽光や風力へのエネルギー転換が強調されてきたが、その他の分野のいろいろな脱炭素の方法ともうまく組み合わせてアプローチしていくのが効果的ではないだろうか。

表6. CO2削減ランキング(エネルギー関連を抜粋)

表6.CO2削減ランキング(エネルギー関連を抜粋)

図39.Drawdown, The most comprehensive plan ever proposed to reverse global warming
図39. Drawdown, The most comprehensive plan ever proposed to reverse global warming

例.ベネチアMOSE建設

MOSE(MOdulo Sperimentale Elettromeccanico)プロジェクトは、1984年から検討が始まり、2003年、建設が開始された。2021年末の完成が予定されている。水の都として知られるベネチアは、長らく高潮や洪水と戦い続けてきたが、このプロジェクトでは、ヴェネタ潟の入口に可動式水門4基を設置する。

MOSEは防潮ゲートの原理に基づいて動作する。穏やかな気候のとき、ゲートは水で満たされた状態で海底に沈んでいるが、満潮が迫った場合、ゲート中の水が圧縮空気によって押し出されることによってゲートが浮上し、潮が干潟に入ることを防ぐ。

図40.ベネチアの水害
図40. ベネチアの水害
図41.MOSE作動原理
図41. MOSE作動原理

例.ジオエンジニアリング

ジオエンジニアリングは、気候変動の影響を緩和するために気候システムを人工的に改変する幅広い手法や技術で、大きく以下の2つに分類される。

  • 二酸化炭素除去(CDR、Carbon Dioxide Removal)は大気中の二酸化炭素濃度を低減する手法である。大規模な植林、海洋肥沃化、ケイ酸塩と炭酸塩岩の風化の促進などがある。
  • 太陽放射管理(SRM、Solar Radiation Management)は地球の反射率を高めることで人為起源の温室効果ガスによる温暖化を相殺する手法である。地球に到達する太陽光を減らすか、大気、雲、地表面の輝度を高めることによって地球の反射率を増やすかのいずれかが提案されている。

CDR とSRM はともに科学的理解の水準が低いため、リスクと副作用が伴い、また、政治、倫理、実践上の問題点もあるとの指摘もなされている。

図42.ジオエンジニアリングイメージ
図42. ジオエンジニアリングイメージ

例.干ばつに強い遺伝子組み換えイネ

2017年、干ばつ耐性が向上した遺伝子組換えイネの開発とその実証栽培を、国際農林水産業研究センターと理化学研究所が、国際熱帯農業センター及び筑波大学との国際共同研究により成功させた。単位面積あたり最大157%の収量増加が実証できたといい、地球規模の気候変動に適応した食料生産が可能になるかもしれないという。

コメは世界で2番目に多く生産されている穀物で、世界人口の半分以上を養っているが、2050年までの人口増加が特に多いインド、パキスタンなどの地域は、農業生産性が低い上に、気候変動の影響を受けやすいことが分かっており、今後は、アフリカや南米の現地で、干ばつ条件での栽培試験を行い、原品種に比べ安定的に2-3割の増収を目指すという。

図43.干ばつに強い遺伝子組み換えイネ
図43. 干ばつに強い遺伝子組み換えイネ

5. おわりに

ポストコロナの景気回復によって、エネルギーのみならず世界中のコモディティー価格が上昇している。経済は実に微妙なバランスの上に成立していることが実感される。

市場において、需要が増加すれば、需給曲線に沿って価格が上昇し、そこから得られる利益を求めて投資が増え、生産が増加し、供給が増え、再び価格は元の均衡点に戻ると学んだが、実際の天然ガス市場は地政学的に大きな影響を受けるほか、巨大装置産業というLNGの特性から柔軟性が限定され、その均衡点に達するには5年10年という長い時間が必要であることを、我々は日々目の当たりにしている。

万一、需要増に見合った投資を怠った場合、数年後には需給が逼迫し、後になってそのバランスが薄氷の上に成立していたことに気付かされることになるのである。

現在の欧州天然ガス価格と世界のスポットLNGの高騰は、脱炭素による上流ガス田開発やLNG液化設備への投資に対する制約が、その繊細なバランスの上に存在している天然ガス・LNG市場に対して、将来どのような結果をもたらすのか、疑似的に未来を投影してくれているのではなかろうか。

需要が増加する中での生産減少が引き起こす激しい価格上昇、新規供給のカタールやロシアなどへの偏在化による地政学上のリスク増大など、新規プロジェクトの積極的な立ち上げによる供給余力の拡大や産地の多様化を基本としてきたエネルギーセキュリティー確保の根本的な理念を失いかねない未来を想起し、我々はいま対策を講ずるべきではないだろうか。

脱炭素は待ったなしの状況にある。2030年、2050年断面のエネルギーシナリオを示した研究は多いが、そこに至るまでの具体的なプロセスと、それによって、いったい私たちは何を失わなければならないのか、何を変えなければならないのかを示した研究は多くない。

これまで必死に守ってきたエネルギーセキュリティーが低下したり、エネルギー価格が高騰してしまう可能性を極小化しながら、2050年のネットゼロエミッションに到着するまでのブリッジエネルギーである天然ガス・LNGをどのようにうまく利用していくべきか、また、そのために、天然ガス・LNG産業からの温暖化ガス排出をいかに抑制していくのか、そのミッシングリンクを見つけるためのかつてない艱難の道程を、我々は既に旅している。

 

以上

(この報告は2021年12月24日時点のものです)

 

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