ページ番号1009236 更新日 令和4年1月17日
原油市場他:新型コロナウイルスオミクロン変異株の石油需要への影響に対する市場の懸念後退とウクライナ情勢のエネルギー市場への影響に対する懸念増大等で、上昇傾向となる原油価格
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概要
- 米国においては、冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房油需要期突入もあり、留出油生産に伴う利幅が堅調に推移したことにより、高水準の製油所稼働のもと、石油製品生産が旺盛に行われた一方、年末年始の休暇シーズン突入に伴い需要が低迷したこと等により、ガソリン及び留出油在庫は増加傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、そして留出油在庫は平年並みの、それぞれ量となっている。他方、米国メキシコ湾岸地域の製油所が年末の課税対策を実施したと見られることもあり、米国原油在庫は減少傾向となったものの、平年幅上限を上回る状態は維持されている。
- 2021年12月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では減少となった他、日本でも冬場の暖房用石油製品需要期到来に向け製油所の原油精製処理量が増加した反面原油在庫は減少した。また、欧州では、新型コロナウイルス感染拡大による需要下振れ懸念から製油所での石油製品生産利幅が圧迫され始めたことにより原油精製処理活動が鈍化するとともに、原油購入が敬遠されたと見られることもあり、原油在庫は減少した。このため、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では、冬場の暖房シーズン到来でプロパンの需要が増加したこと等により、石油製品在庫は減少した。日本でも、冬場の気温低下で灯油需要が喚起された結果、石油製品在庫は減少した。欧州でも、製油所の稼働低下により石油製品生産活動が鈍化したこと等により、当該在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年幅下方付近に位置する量となっている。
- 2021年12月中旬から2022年1月中旬にかけての原油市場では、新型コロナウイルスオミクロン変異株感染拡大の石油需要に対する影響が当初見込みほど深刻ではないとの見方が市場で広がったことに加え、ウクライナ情勢を巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりがエネルギー市場に影響する可能性があるとの懸念が市場で増大したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は上昇傾向となり、1月14日には1バレル当たり83.82ドルの終値と11月9日以来の高水準に到達した。
- 今後、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期の終了が視野に入るとともに季節的な石油需給の緩和感が市場で強まり始めることが、原油相場のさらなる上昇を抑制する可能性がある。また、米国での金融緩和縮小及び金利引き上げ観測の市場での広がりも米ドルの上昇とともに原油相場に下方圧力を加える可能性もある。もっとも市場では新型コロナウイルスオミクロン変異株の石油需要への影響に対する懸念が後退しつつあることに加え、OPECプラス産油国が増産に苦慮しているとの見方から、この先石油需給が引き締まるとの観測が市場で発生していることや、ウクライナ情勢を巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりの石油需給への影響に対する懸念が市場で強まっていることもあり、一時的にせよ原油価格が上振れするといった展開となることも否定できない。そのような中、米国のOPECプラス産油国に対する減産措置縮小への働きかけ、そしてそのような働きかけに対するOPECプラス産油国の対応振り等が原油相場に影響を与えるものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が従来の方針に基づき2022年2月についても前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨決定
(1) 協議内容等
2022年1月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はビデオ会議形式で閣僚級会合を開催し、2021年7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定した、8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(1月時点で日量336万バレル)に関し、従来方針に基づき2022年2月についても日量40万バレル規模を縮小して実施する旨決定した(表1参照)。また、これまで減産目標を達成できていない減産措置参加産油国が2022年6月末までに減産目標未達成部分につき追加減産を実施(することにより減産目標を達成)することを含め、減産目標の完全遵守に固執することが極めて重要である旨再確認された。さらに、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を2月2日に開催する旨で決定した。
2021年12月2日に開催された前回OPECプラス産油国閣僚級会合では、新型コロナウイルスオミクロン変異株感染拡大を巡る不透明感があったことにより、石油市場の状況を監視するとともに事態の急変に速やかに対応できるようにすべく当該会合を終了しないこととした(なお、1月4日の今次OPECプラス産油国閣僚級会合開催に際し、12月2日に開催されたまま終了していなかった前回の閣僚級会合の終了がサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相により宣言された旨伝えられる)ものの、今回の当該閣僚級会合においては当該会合を終了したことにしないという措置は採用されなかった。
今回の閣僚級会合開催に際し、ロシアのノバク副首相は、新型コロナウイルスオミクロン変異株の感染拡大を巡る不透明感は継続しているものの、当該変異株は石油需要には殆ど影響していない旨明らかにしており、OPECプラス産油国がこの先の世界石油需要の回復、世界石油需給バランスの引き締まり及び原油価格の維持に対し自信を深めつつあることが示唆されており、これが当該会合を終了したことにしないという措置を採用しなかった背景であったものと考えられる。
なお、今回の閣僚級会合において、サウジアラビアの原油生産目標が日量1,023万バレルとなり、新型コロナウイルス感染が世界的に拡大する前の2019年12月6日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合時に決定した、2020年1月の同国の原油生産目標である推定同1,014万バレルを上回る格好となっている。
また、1月3日にはOPEC産油国による特別会合が開催され、2022年7月31日に任期(1期3年間を2期で計6年間)満了となるナイジェリアのバルキンド事務局長の後任として、クウェートのアルガイス(al-Ghais)元OPEC理事を次期事務局長として選出した(2022年8月1日就任予定、任期3年)。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2021年12月2日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、2021年7月18日に開催された当該閣僚級会合で決定した方針に則り、2022年1月のOPECプラス産油国減産措置を前月比で日量40万バレル縮小する旨決定した。
新型コロナウイルスワクチン接種普及拡大等に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の緩和等による世界石油需要回復期待の市場での増大を一因とする原油価格上昇に対し、米国バイデン政権は減産措置縮小(つまり増産)加速を通じ原油価格を抑制するようOPECプラス産油国に働きかけたにもかかわらず、11月4日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合では減産措置縮小加速が見送られたこと等により、11月9日には原油価格(WTI)が1バレル当たり84.15ドルと、10月26日の84.65ドル(2014年10月13日(この時は同85.74ドル)以来約7年ぶりの高水準)以来の高水準の終値に到達する場面が見られた。
他方、OPECプラス産油国は、新型コロナウイルス感染の世界的流行第四波が到来する恐れがあったこと、及び2022年はそもそも世界石油需給バランスが供給過剰に振れる結果、世界石油需給緩和感が市場で強まるとともに原油価格が下落する恐れがあったことを理由として、米国の増産要求を事実上拒否し続けた。
そして、原油価格上昇に伴い11月8日には全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.505ドルの水準に到達、米国国民のバイデン政権に対する不満が増大しつつある旨示唆された(11月14日にはバイデン大統領の支持率が2021年1月20日の大統領就任以来最低の41%にまで落ち込んだ旨明らかになった)こともあり、11月23日には米国政府が戦略石油備蓄(SPR)5,000万バレルを市場へ供給する旨発表した。
このような状況下で、2022年1月につき前月比で日量40万バレルの減産措置縮小実施を見送る決定を行った場合、原油価格高騰沈静化のためOPECプラス産油国に働きかけ続けてきた米国との関係が悪化する恐れがあったことから、米国に配慮すべく、12月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、サウジアラビアをはじめとするOPECプラス産油国は2022年1月につき前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を決定し、市場での石油需給引き締まり感を後退させることを通じ原油価格の上昇抑制を図った。
ただ、オミクロン変異株を含む新型コロナウイルス感染拡大を巡る将来展望が不透明であったことに加え、2022年に入ると恒常的に石油供給が需要を超過する状況が出現する可能性が高まる旨懸念されたことから、OPECプラス産油国としては、石油需給を巡る環境急変の影響が原油相場に大きく及ばないうちに、減産措置の再調整等の対応策を実施できるよう、12月2日に開催したOPECプラス産油国閣僚級会合は終了したことにしないこととした。
しかしながら、12月2日のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、新型コロナウイルスオミクロン変異株感染者の入院確率及び重症化確率がそれほど高くないとの見方が広がった(新型コロナウイルスオミクロン変異株感染症は1年前の同ウイルス感染症とは異なり、入院したとしても短期にとどまるなど症状が比較的軽微である旨英国オックスフォード大学のベル教授が明らかにした旨12月28日に伝えられるなどしている)こともあり、世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことが一因となり、12月1日には1バレル当たり65.57ドルの終値であった原油価格(WTI)は1月3日には同76.08ドルとなるなど概ね上昇傾向となった(図1参照)。
他方、11月29日には1ガロン当たり3.478ドルであった全米平均ガソリン小売価格は1月3日時点においても同3.381ドルと、依然として消費者の不満が増大し始める同3ドルを相当程度上回ったままとなったこと(図2参照)に加え、12月10日に米国労働省から発表された11月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で6.8%の上昇と、10月の同6.2%から上昇率が拡大、1982年6月(この時は同7.1%の上昇)以来の高水準に到達した他、12月14日に米国労働省から発表された11月の同国生産者物価指数(PPI)も前年同月比で9.6%上昇と、10月の同8.8%の上昇から上昇率が拡大、2010年以降の同国月間統計史上最高水準に到達した(図3参照)。
また、新型コロナウイルスオミクロン変異株感染の症状が限定的でありかつ短期的なものにとどまる結果、2022年前半に石油消費国が4,000万バレルの備蓄石油を市場に供給したうえ、同年第三四半期に米国が1,330万バレルの石油を備蓄施設に再充填(つまり返還)した場合でも、2022年第一四半期から第三四半期にかけてはOECD諸国石油在庫が2015~19年の平均値を下回るなど、OPECプラス産油国が従来方針通り毎月前月比で日量40万バレル減産措置縮小を継続したとしても、世界石油需給は必ずしも大幅に緩和するわけではないとの見解をOPEC事務局が取り纏めたと1月2日に伝えられた。
このようなこともあり、2022年の世界石油需給バランスが供給過剰に振れる可能性があることにより先制的に原油価格下落を抑制すべく減産措置縮小を見送ることは、かえって原油価格の一層の上昇、及び全米平均ガソリン小売価格のさらなる高騰を招くとともに、物価上昇に苦しむ米国経済がさらに困窮する恐れがあるものと見られた。
そしてその場合、OPECプラス産油国と米国との関係が悪化する可能性が高まることから、そのような事態に陥ることを回避すべく米国に配慮するため、OPECプラス産油国は従来方針通り減産措置の縮小を決定したものと考えられる。
米国バイデン政権国家安全保障会議(National Security Council)報道官は、2022年2月に前月比で日量40万バレル減産措置を縮小するという、今般のOPECプラス産油国閣僚級会合での決定を歓迎する旨明らかにしたと1月4日に報じられる。また、米国バイデン政権は、世界経済が回復する際に供給が需要を満たすことにより米国のガソリン小売価格が下落することに注目しており、最近数週間に渡るサウジアラビアやUAEを初めとしたOPECプラス産油国による原油価格上昇圧力緩和に向けた緊密な協力に米国は感謝するとともに、OPECプラス産油国の今回の決定は世界経済回復を支援するものであるとして評価する旨同日伝えられる。
(3) OPECプラス産油国閣僚級会合開催当日の原油価格の動き等
感染者の入院確率及び重症化確率が必ずしも高くないとされるものの、感染力が強いことで世界保健機関(WHO)を初めとする国際機関、研究所及び各国政府関係者等が警戒するよう警告する新型コロナウイルスオミクロン変異株の感染が拡大しつつある中、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合で従来方針通り2022年2月につき前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨合意されたものの、併せて新型コロナウイルスオミクロン変異株が世界石油需要に与える影響は限定的なものであるとのOPECプラス産油国の認識が示唆されたことにより、世界石油需給緩和感が市場で後退したことが一因となり、原油相場に上方圧力が加わったことから、1月4日の原油価格(WTI)の終値は1バレル当たり76.99ドルと前日終値比で同0.91ドルの上昇となった。
また、OPECプラス産油国閣僚級会合を前にしてロシア、アンゴラ及びナイジェリア等の一部OPECプラス産油国は、投資不足等の影響から足元で設定されている原油生産目標を充足できない可能性がある旨指摘されたことも、石油需給緩和に対する市場心理を抑制する形で作用した結果、原油相場を支援する格好となった。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2021年10月の米国ガソリン需要(確定値)は日量895万バレル、前年同月比で7.6%程度の増加と2021年9月の同5.0%程度の増加から増加率が拡大した(図4参照)一方、速報値(前年同月比で13.0%程度増加の日量940万バレル)からは下方修正された。10月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量70万バレル程度と推定されたところ、確定値では同85万バレルへと上方修正されたことにより、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。9月30日には116,209人であった同国の1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が10月31日には18,883人へと大幅に減少したことにより、個人の外出が促進される格好となったこともあり、10月の同国自動車運転距離数も、1日当たり90億マイルと9月の同89億マイルから持ち直しつつあることが、10月のガソリンの需要量及び前年同月比での伸びに影響しているものと考えられる。なお、2021年10月のガソリン需要は2019年10月の水準(日量931万バレル(確定値))を3.9%程度下回っている。他方、2021年12月の同国のガソリン需要(速報値)は日量904万バレル、前年同月比で15.1%程度の増加となっており、11月の当該需要(速報値)である前年同月比13.9%程度の増加から、増加率が拡大しているが、量としては11月の日量912万バレルとほぼ同水準となっている。2021年12月の同国自動車運転距離数は1日当たり87億マイルで同年11月(同87億マイル)とほぼ同水準となっており、このような自動車の運転状況が12月のガソリン需要に反映されているものと考えられる。なお、2021年12月のガソリン需要は2019年12月の水準(日量897万バレル(確定値))を0.8%程度上回っている。また、米国では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期に突入した(暖房シーズンは11月1日から翌年3月31日である)一方、米国で暖房用に利用される留出油(軽油及び暖房油)の在庫が11月上旬以降平年幅下方から下限付近に位置する状況となっていたこともあり、特に製油所における留出油生産利幅が堅調であったことにより、米国の製油所では留出油生産を拡大すべく精製活動が活発になるとともに原油精製処理量が概ね増加基調となった(図5参照)。そして、製油所での稼働が上昇するとともに、混合基材を中心としてガソリンが堅調に生産されたものと見られる。ただ、12月下旬から1月上旬にかけての年末年始の休暇シーズン到来に伴う個人の外出の鈍化によるガソリン需要減少を見込んで、同時期製油所等でのガソリン最終製品生産は減少した(図6参照)。加えて、米国でのオミクロン変異株を中心とすると見られる新型コロナウイルスの感染拡大(米国では1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が12月24日の183,925人から12月31日には446,567人、そして1月7日には900,047人へと急速に増加した)により、個人の外出が敬遠されたと指摘されており、この結果、年末年始のガソリン需要が低迷した。このようなことから、12月上旬から1月上旬にかけ米国ガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を上回る量となっている(図7参照)。
2021年10月の同国留出油需要(確定値)は日量389万バレルと前年同月比で3.6%程度の減少となり、9月の日量408万バレル、同6.8%程度の増加から一転前年同月比で減少に転じた他、速報値である日量397万バレル(同1.5%程度の減少)から下方修正された(図8参照)。10月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量101万バレル程度と推定されたところ、確定値では同109万バレルへと上方修正されたことにより、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。2021年10月の米国鉱工業生産が前年同月比で4.8%の増加と、9月の同4.6%の増加から伸びが加速した他、2021年10月の物流活動は前年同月比で2.1%の増加と9月の同1.7%の増加から伸び率が拡大するなどしていることから、この面では軽油の需要はそれなりに堅調であったものと考えられる。しかしながら、2021年10月は米国北東部が前年同月に比べ温暖であったことにより、当該地域における暖房向け留出油需要が不振であったと見られる(同月の米国北東部の留出油需要は日量107万バレルと前年同月(同122万バレル)比12.7%の減少となっている)ことが、同国全体の留出油需要を抑制する形で作用しているものと考えられる。なお、2021年10月の米国留出油需要は2019年10月の当該需要(日量422万バレル(確定値))を7.9%程度下回っている。他方、2021年12月の留出油需要(速報値)は日量408万バレルと前年同月比で4.9%程度の増加となったが、11月の当該需要(速報値)の前年同月比での増加率(8.0%程度)からは当該増加率が縮小している。半導体不足から自動車生産が抑制されたことが一因となり12月の同国鉱工業生産が前年同月比で3.7%の増加と11月の同5.0%の増加から伸びが低下したことに加え、オミクロン変異株等による新型コロナウイルス感染者数拡大に伴う労働者の欠勤が物流部門に負の影響を与えたと思われること、2021年12月は前年同月に比べ米国北東部が温暖であったことにより暖房油需要が前年同月比で減少したと見られることが、留出油需要の伸びの鈍化をもたらしたものと考えられる。なお、2021年12月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量393万バレル(確定値))を3.9%程度上回っている。一方で、季節的に盛り上がる留出油需要に対応するため製油所の稼働が底堅く推移するとともに留出油生産が活発に行われた(図9参照)こともあり、12月上旬から下旬にかけては留出油需要が供給によって概ね手当てされたことにより、この時期留出油在庫は総じて範囲内での変動となったが、12月下旬後半から1月上旬にかけては年末年始の休暇シーズンに突入したこともあり、経済活動が減速したことにより、留出油需要が低迷するとともに当該製品在庫が増加した結果、同在庫は概ね平年並みの量となっている(図10参照)。
2021年10月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で6.9%程度増加の日量1,989万バレルとなり、同年9月の同2,022万バレル(前年同月比9.8%程度の増加)から需要量が低下した他前年同月比での増加率も縮小した(図11参照)。10月の留出油需要量が9月から縮小した他、前年同月比で減少したことが影響する格好となっている。また、ガソリン及び留出油等の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたこともあり、米国石油需要も速報値(前年同月比で8.9%程度増加の日量2,028万バレル)から下方修正されている。そして、2021年10月の米国石油需要は、2019年10月の当該需要(日量2,071万バレル(確定値))を4.0%程度下回っている。他方、2021年12月の米国石油需要(速報値)は日量2,127万バレルと前年同月比で13.1%程度の増加となり、11月の当該需要(速報値)である日量2,072万バレル(前年同月比10.5%程度の増加)から需要量及び前年同月比の増加率が拡大している。12月のガソリン需要の需要量及び前年同月比の増加率が11月の当該需要に比べ相当程度拡大したことに加え、その他の石油製品の需要水準が日量456万バレル、前年同月比17.6%程度増加と、11月の当該需要から相当程度上振れしていること(ただ、11月の当該需要が日量399万バレルと前年同月比で6.2%の減少となっていることへの反動が12月に現れている可能性がある)が影響する格好となっている。そして、2021年12月の米国石油需要は、2019年12月の当該需要(日量2,044万バレル(確定値))を4.0%程度上回っている。
また、12月上旬から1月上旬にかけ米国原油在庫は減少傾向となった。米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の陸上在庫保有を敬遠するとされており(特に原油価格が高水準となる場合には課税対象額が増大しやすいこともあり、課税対策から年末に向け原油在庫が減少しやすいように見受けられる)、このような年末の課税対策が一因となり、12月10日の週から1月5日の週にかけ原油在庫が減少したものと考えられる。それでも1月上旬時点の米国原油在庫は平年幅上限を上回る状態は続いている(図15参照)。そして、留出油在庫が平年並みの量となっているものの、原油在庫及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図13及び14参照)。
2021年12月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では減少となった他、日本でも秋場の製油所のメンテナンス作業実施が終了するとともに、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期到来に向け製油所が稼働を上昇させた結果、原油精製処理量が増加した反面原油在庫は減少した。加えて、欧州では11月以降新型コロナウイルス感染が拡大傾向となる場面が見られたこともあり、オランダやオーストリア等で個人の外出規制や経済活動制限が強化されたり、強化されるとの観測が市場で発生したりしたこと等を通じ、経済成長及び石油需要に対し悲観的な見方が市場で増大したことが、当該地域のガソリンや軽油等の価格を抑制した結果、製油所でのこれら石油製品生産を巡る利幅が圧迫され始めたことにより、当該地域の製油所は原油精製処理活動を鈍化させるとともに、原油の受け入れを敬遠するようになったと見られることから、原油在庫は減少した。このため、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図15参照)。石油製品については、米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期に突入したこともあり、プロパンの需要が増加したことにより当該製品在庫が減少した(但し2021年12月は米国の気温が前年同月及び平年に比べ温暖であったこともあり、2021年12月末のプロパン在庫は前月末比で780万バレルの減少と、2020年12月末(同1,931万バレル減少)及び2019年12月末(同877万バレル減少)等に比べ限定的な減少幅となった)ことに加え、冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあると見られることによりブタンを含むその他の石油製品の在庫が減少したことから、同国の石油製品全体の在庫は減少した。また、日本では、製油所の稼働上昇によりガソリンや軽油等の在庫は増加したものの、冬場の暖房シーズン到来に伴う気温の低下で灯油需要が喚起された結果当該製品在庫が減少したことで相殺されて余りあったことから、石油製品全体の在庫は減少した。さらに欧州でも、製油所の稼働が低下したことにより石油製品生産活動が鈍化した一方、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期に突入した反面、天然ガス価格が高水準であったこともあり、暖房向けの民生部門における軽油、及び空調向けの電力供給のための発電部門における重油の需要が堅調であったと見られることから、当該地域での石油製品全体の在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年幅下方付近に位置する量となっている(図16参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る量である一方、石油製品在庫が平年幅下方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上方に位置する量となっている(図17参照)。なお、2021年12月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.0日と11月末の推定在庫日数(60.1日)から減少している。
12月15日に1,200万バレル強程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、12月22日も1,200万バレル強程度の量を維持した。12月29日には1,100万バレル台半ば程度の水準へと低下したものの、1月5日には1,300万バレル強程度、さらには1月12日には1,300万バレル台後半程度の量へと回復、12月15日の水準を上回っている。11~12月頃にはアジア太平洋地域での新型コロナウイルス感染者数が一部地域を除き沈静化したこともあり、個人の外出が相対的に活発化したと見られることから、シンガポールからインドネシア等へのガソリン輸出が促進されたことが、12月末にかけシンガポールでの軽質留分在庫の増加を抑制する形で作用した。このようなこともあり、12月中旬から1月上旬前半頃にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は概ね拡大傾向となった(但し原油価格の上昇にガソリン価格の上昇が追い付かなかった結果、一時的に両者の価格差が縮小した場面が見られた)。しかしながら、ガソリンとドバイ原油の価格差が拡大したことにより、精製利幅がより容易に確保できるようになったことから、アジア諸国等の製油所の稼働が上昇したと見られ、ガソリン生産活動が旺盛となるとともにガソリンが堅調にシンガポール方面に輸出されたものと考えられる。加えて、中国政府が2021年第三回の石油製品(ガソリン、軽油及びジェット燃料を指していると見られる)輸出枠157.9万トン分を付与したと11月11日に伝えられる(また別途低硫黄重油輸出枠100万トン分が付与されたと同日に報じられるが、この輸出枠はガソリン等の石油製品への転用が可能であるとの指摘もある)。そして、中国で追加の石油製品輸出枠が付与されたこともあり、中国からシンガポールに向けたガソリン輸出が増加傾向となる場面が見られた。このため、シンガポールに流入する軽質留分が増加する格好となったことが、1月に入ってからの同国の軽質留分在庫増加に寄与したものと思われる。また、このようにシンガポールの軽質留分在庫が増加したことが、アジア市場でのガソリンとドバイ原油の価格差を縮小させる形で作用した。
ナフサについては、半導体不足に起因する自動車生産の減少等の経済活動制約がプラスチック製品消費に負の影響を及ぼしつつあることに加え、2022年1月末頃以降アジア地域における一部ナフサ分解装置がメンテナンス作業を実施することに伴い稼働を低下させることにより、原料となるナフサの需要が低下するとの観測が市場で発生したことがナフサ価格を抑制した反面、冬場の暖房シーズン到来に伴う気温の低下により、暖房向けの液化石油ガス(LPG)需要が堅調となったことにより当該製品価格が上昇したことが、石油化学産業においてLPGと競合するナフサ価格に上方圧力を加えた他、2022年第一四半期において、アジア地域にナフサを供給している、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート及びバーレーン等の製油所でメンテナンス作業実施が予定されていることにより、アジア地域向けナフサ供給が低下するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格を下支えした結果、ナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を上回っている)は、12月中旬から1月上旬前半頃にかけては総じて比較的限られた範囲で変動した。しかしながら、その後1月中旬にかけては、原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かなかったことから、ナフサとドバイ原油の価格差は縮小傾向となった。
12月15日には800万バレル強程度の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、12月22日及び29日には800万バレル弱程度の量へと減少したが、1月5日には800万バレル台前半程度の水準へと回復した。それでも、1月12日は700万バレル台前半程度の量へと再び減少した結果、12月15日の量を下回った他、前年同期も相当程度下回る(概ね半減程度)状況となっている。欧州において冬場の暖房シーズンに伴う軽油需要期に突入したことに加え、天然ガス価格が高水準で推移していることから、民生部門向けの代替燃料としての軽油の需要が上振れするとの観測が市場で発生したこともあり、欧州の軽油価格がアジアの当該製品価格に比べ割高となったことにより、アジア方面から欧州方面への軽油流出が促された反面シンガポールへの軽油流入が鈍化したことが、シンガポールでの中間留分在庫減少傾向の背景にあるものと考えられる。そして、シンガポールでの中間留分在庫が減少傾向となったことが、例えばアジア市場での軽油価格に上方圧力を加えた他、中国商務省による2022年第一回の同国石油会社に対する石油製品輸出枠の付与がなかなか明らかにならなかったうえ、1月4日に明らかになった当該石油製品輸出枠が2021年第一回輸出枠から半減となっていた旨判明した(注)ことにより、この先の中国からの軽油を含む石油製品輸出量の減少に伴う軽油需給引き締まり感が意識されたこと、さらには、その後も同国から軽油を輸出する動きが見られなかったこと等が、アジア市場での軽油価格を支持した結果、12月中旬から1月中旬にかけ、同市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は概して拡大傾向を示した。
(注):中国政府は、2022年第一回の石油製品輸出枠を中国企業に対し付与したと1月4日に伝えられる。内訳はガソリン、ジェット燃料及び軽油が合計で1,300万トン、低硫黄重油が650万トンとなっており、ガソリン、ジェット燃料及び軽油輸出枠は2021年第一回の石油製品輸出枠(2,950万トン)の44%程度にとどまった一方、低硫黄重油輸出枠は前年第一回の輸出枠(500万トン)の1.3倍となった。
12月15日に2,100万バレル弱程度の量であったシンガポールの重油在庫は、12月22日には2,100万バレル弱程度の水準を概ね維持した。12月29日には1,900万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、1月5日には2,100万バレル強程度、そして1月12日には2,200万バレル台前半程度の水準へと、それぞれ増加した。天然ガス価格が高水準であることもあり、相対的に割安な重油が発電用燃料として指向されていると見られることもあり、当該製品需要が堅調であることから、シンガポールからの重油輸出は堅調であったものの、9月以降シンガポールの重油在庫が総じて減少傾向であったことにより、アジア市場の重油価格が欧州市場のそれを上回る場面がしばしば見られたこともあり、欧州方面等から重油がシンガポールに向け流入してきたことが、シンガポールでの重油在庫増加に寄与したものと考えられる。それでも、12月に入り、欧州では気温が低下するとの予報が発表された他、同じく気温が低下しているロシアからヤマル-ヨーロッパパイプラインを経由したドイツへの天然ガスの流入が12月18日に大幅に減少したうえ、12月21日には停止、同時にドイツからポーランド方向へと天然ガスの逆走が発生し始めたこともあり、例えば欧州の天然ガス指標であるオランダTTF天然ガス先物価格が同日100万Btu当たり59.62ドルの史上最高水準に到達するとともに、アジアのLNG価格指標であるJKM先物価格も同49.345ドルの過去最高水準に到達するなど、アジア地域で天然ガス価格が高騰したことに伴い、発電部門において相対的に割安な重油への燃料転換が発生するとの観測が市場で増大したことが、アジア市場での重油価格に上方圧力を加えたことから、特に12月中旬から下旬頃にかけての低硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した他、同時期高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向を示した。しかしながら、2022年1月初頭以降は原油価格の上昇に重油価格の上昇が追い付かなかったことに加え、2022年1月上旬から中旬にかけ、シンガポールでの重油在庫が増加したことが、アジア市場での重油価格を抑制したことから、この時期低硫黄重油とドバイ原油の価格差は縮小する傾向を示した他、高硫黄重油とドバイ原油の価格差は拡大する傾向を示した。
3. 2021年12月中旬から2022年1月中旬にかけての原油市場等の状況
2021年12月中旬から2022年1月中旬にかけての原油市場では、新型コロナウイルスオミクロン変異株感染拡大の石油需要に対する影響が当初見込みほど深刻ではないとの見方が市場で広がったことに加え、リビア、米国、カナダ及びカザフスタン等で原油生産が減少した旨伝えられたこと、米国の原油在庫が減少傾向となったこと、12月のOPEC産油国の原油生産増加量が減産措置縮小方針で定められた増産量に到達していない旨報じられたこと、ロシアがウクライナに対する軍事介入に向け準備を行っているとの情報を得ている旨米国バイデン政権関係者が示唆したことにより、今後西側諸国等とロシアとの対立の高まりがエネルギー市場に影響する可能性があるとの懸念が市場で増大したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、12月17日には1バレル当たり70.86ドルの終値であった原油価格(WTI)は上昇傾向となり、1月14日には同83.82ドルの終値と11月9日以来の高水準に到達した(図18参照)。
12月18日に、オランダのルッテ首相が、新型コロナウイルス感染拡大抑制のため、事実上の都市封鎖(スーパーを除く店舗、飲食店、映画館、美術館及びスポーツジム等の休業、学校の閉鎖)を12月19日から1月14日(学校は1月9日)まで実施する旨発表した一方、12月19日に英国保健安全保障庁(UKHA: UK Health Security Agency)が、新型コロナウイルスオミクロン変異株で12人が死亡した他104人が入院した旨明らかにしたうえ、12月28日にも新型コロナウイルスオミクロン変異株感染拡大抑制策が導入される可能性がある旨12月20日に報じられるなど、世界各国及び地域で新型コロナウイルスオミクロン変異株と見られる感染が拡大しつつあるとともに感染拡大抑制のための個人の外出規制及び経済活動制限が強化されつつあることにより、世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が12月20日の市場で増大したことに加え、バイデン大統領が推進している1.75兆ドル規模の気候変動及び社会保障を含む経済等再建のための歳出(ビルド・バック・ベター)法案に対し米国のマンチン連邦議会上院議員が支持は困難である旨12月19日に表明したことにより、当該法案の連邦議会上院での可決による同国景気刺激策の実施可能性が低下したこともあり、米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが2022年第一~第三四半期の米国経済成長見通しを0.25~1.00%程度下方修正した旨12月19日夜(米国東部時間)に伝えられたことから、12月20日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.63ドル下落し終値は68.23ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2022年1月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり68.61ドル(前日終値比2.11ドルの下落)であった)。12月21日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、12月22日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表される予定である米国石油統計(12月17日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、12月20日夕方(米国東部時間)に発表された米国スポーツ用品大手ナイキの2021年9~11月期業績が市場の事前予想を上回ったうえ、米国半導体製造大手マイクロン・テクノロジーの2021年9~11月業績が市場の事前予想を上回った他2021年12月~2022年2月の業績見通しも市場の事前予想を上回っていた旨判明したこともあり、12月21日の米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.12ドルと前日終値比で2.89ドル上昇した。12月22日には、南アフリカの新型コロナウイルスオミクロン変異株感染者の入院比率が他の変異株等の感染者と比較して80%程度低い旨同国国立伝染病研究所(NICD: National Institute for Communicable Diseases)が報告したと12月22日に伝えられることにより当該変異株感染抑制のための個人の外出規制及び経済活動制限に伴う世界経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことに加え、12月22日にEIAから発表された同国石油統計で、原油在庫が前週比472万バレルの減少と市場の事前予想(同250~270万バレル程度の減少)を上回ったこと、ドイツにおいてロシアからのポーランド経由(ヤマル-ヨーロッパパイプライン経由)の天然ガス流入が12月21日早朝(現地時間)に停止した後ドイツからポーランドへ天然ガスが流出し始めたことに伴い、欧州での天然ガス需給引き締まり感の強まりによる石油への燃料転換拡大観測が市場で増大したこと、大手国際石油会社シェルがナイジェリアのフォルカドス(Forcados)石油ターミナルでの原油出荷(通常時日量20万バレル超とされる)につき不可抗力条項の適用を宣言した(ターミナルの沖合1点係留装置交換に伴うものとされる)ことにより同国からの原油供給減少に対する不安感が市場で発生したこと、12月22日に全米不動産業者協会(NAR: National Association of Realtors)から発表された11月の米国中古住宅販売件数が年率646万戸と前月比で1.9%増加、2021年1月(この時は同666万戸)以来の高水準に到達したうえ、同日米国民間調査機関コンファレンス・ボードから発表された12月の同国消費者信頼感指数(1985年=100)が115.8と11月の111.9から上昇した他市場の事前予想(110.8~111.0)を上回ったこと、そして12月22日に米国食品医薬局(FDA)が、米国製薬大手ファイザーの開発した新型コロナウイルス経口治療薬の緊急使用を承認する旨発表したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに、投資家のリスク許容度が拡大したこともあり、米ドルが下落したことから、この日(12月22日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.64ドル上昇し、終値は72.76ドルとなった。12月23日も、新型コロナウイルスオミクロン変異株は同デルタ変異株に比べ入院が必要なほど症状が深刻化する確率が50~70%低い旨12月23日に英国UKHSAが発表したこともあり、新型コロナウイルスオミクロン変異株の世界経済成長及び石油需要の伸びへの影響に対する懸念が市場で後退したことに加え、12月23日午前1時頃(米国中部時間)に米国テキサス州にある大手国際石油会社エクソンモービルが操業するベイタウン(Baytown)製油所(原油精製処理能力日量56.1万バレル)の水素化精製装置(ガソリン等を生産するための原料から硫黄分を除去する装置)で火災が発生(同日午前9時頃(同)鎮火)したことにより、当該製油所での石油製品生産への影響に対する懸念が増大したこともあり、同国ガソリン先物価格が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.79ドルと前日終値比で1.03ドル上昇した。この結果原油価格は12月21~23日の3日間で1バレル当たり合計で5.56ドルの上昇となった。なお、12月24日は12月25日の米国でのクリスマスの休日に伴いニューヨーク原油先物市場は休場であった。
また、英国イングランドでは12月末にかけ新型コロナウイルスオミクロン変異株抑制のための新規規制措置を実施することはない旨12月27日に英国のジャビド保健相が発表したことにより、当該措置の導入に伴う同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことに加え、12月29日にEIAから発表される予定である米国石油統計(12月24日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、米国の年末の休暇シーズン(11月1日~12月24日)に伴う消費が前年同期比で8.5%の増加となった米国クレジットカード大手マスターカードが明らかにしたと12月26日に伝えられたこともあり、12月27日の米国株式相場が上昇したことから、この日(12月27日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.78ドル上昇し、終値は75.57ドルとなった。12月28日も、12月29日にEIAから発表される予定である米国石油統計で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生した流れを引き継いだことに加え、無症状の新型コロナウイルス感染者に対して奨励される自己隔離期間を従来の10日間から5日間に縮小する旨12月27日午後(米国東部時間)に米国疾病対策センター(CDC)が発表したうえ、新型コロナウイルスオミクロン変異株感染症は1年前の同ウイルス感染症とは異なり、入院したとしても短期にとどまるなど症状が比較的軽微である旨英国オックスフォード大学のベル教授が明らかにしたと12月28日に伝えられたことにより、新型コロナウイルス感染拡大による個人の外出規制及び経済活動制限の強化と経済成長及び石油需要への懸念が市場で後退したこともあり、米国株式相場が一時上昇したことから、12月28日の原油価格の終値は1バレル当たり75.98ドルと前日終値比で0.41ドル上昇した。12月29日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油、ガソリン及び留出油在庫が前週比で351万バレル、146万バレル及び173万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(原油在庫同310万バレル程度の減少、ガソリン在庫同90万バレル程度の増加、留出油在庫同20万バレル程度の増加)を上回って、もしくは事前予想に反して、減少していた旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.58ドル上昇し、終値は76.56ドルとなった。12月30日も、この日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(12月25日の週分)が19.8万件と前週の20.6万件(改定値)から減少した他、市場の事前予想(20.6~20.8万件)を下回ったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.99ドルと前日終値比で0.43ドル上昇した。この結果原油価格は12月27~30日の4日間で1バレル当たり合計3.20ドルの上昇となった。ただ、12月31日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.21ドルと前日終値比で1.78ドル下落した。
しかしながら、12月31日の原油価格の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが1月3日の市場で発生したことに加え、リビア東部のサマ(Samah)及びダーラ(Dhuhra)両油田で生産される原油をエス・シデル(Es Sider)石油ターミナル(原油出荷能力日量32万バレル)に輸送するパイプラインで発生した原油流出に伴う当該パイプライン修理のためのメンテナンス作業を1月4日より実施するため、1週間程度の期間中日量20万バレルの同油田の原油生産が減少する可能性がある旨1月1日夜(現地時間)に同国国営石油会社NOCが明らかにした(また、別途遅延している給与支払いを要求する石油施設警備隊(PFG:Petroleum Facility Guard)が同国西部のシャララ(Sharara)油田及びWaha油田(同4.5万バレル)等の操業を妨害したことにより、12月20日にNOCが同国西部のザウィーヤ(Zawiya)及びメリタ(Mellitah)両石油ターミナルからの原油輸出につき不可抗力条項の適用を宣言、同国の原油生産量が日量30万バレル程度減少している旨同日明らかになっており、これと併せると、同国の原油生産量は通常時の日量120万バレル程度が同70万バレル程度にまで減少する)こと、1月5日にEIAから発表される予定である米国石油統計(12月31日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.87ドル上昇し、終値は76.08ドルとなった。また、1月4日も、1月5日にEIAから発表される予定である米国石油統計で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生した流れを引き継いだうえ、1月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際し、新型コロナウイルスオミクロン変異株が世界石油需要に与える影響は限定的なものであるとの認識が一部OPECプラス産油国により示唆されたことにより、世界石油需給緩和感が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.99ドルと前日終値比で0.91ドル上昇した。1月5日も、アンゴラやナイジェリア等、投資不足等の要因により足元で付与された原油増産枠を充足できないOPECプラス産油国が散見される(後述)ことにより、2月についても日量40万バレルの増産が達成できるか疑問視する向きが市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.86ドル上昇し、終値は77.85ドルとなった。さらに、カザフスタンで行われていた国内燃料価格高騰に対する抗議活動が1月5日に暴動に発展したうえ、抗議活動の影響で同国の主力油田の一つであるテンギス油田(原油生産量日量70万バレル程度とされる)が減産している旨1月6日に伝えられたことにより、同国からの石油供給削減に伴う世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、米国北部及びカナダに寒波が来襲し気温が大幅に低下したことにより、カナダ産原油を米国に輸送するキーストーン(Keystone)パイプライン(カナダアルバータ州ハーディスティ(Hardisty)~米国オクラホマ州クッシング他、原油輸送能力日量59万バレル)が1月4日夜(現地時間)以降操業を停止した他、米国シェールオイル生産中心地域の一つである同国ノースダコタ州バッケン地域及びオイルサンド生産の中心地域であるカナダアルバータ州の原油生産関連施設の操業に影響が発生し始めている旨1月6日に報じられたことにより、米国向け石油供給の減少と石油需給引き締まり感が市場で増大したこと、2021年12月のOPEC産油国原油生産量が11月比で日量7万バレルの増加とOPECプラス産油国減産縮小措置で定められるOPECプラス産油国の増産枠相当分である日量25万バレルを相当程度下回っている旨1月6日にロイター通信が伝えたことにより、この先のOPECプラス産油国の原油生産拡大に対する懐疑的な見方が市場で増大したことから、1月6日の原油価格の終値は1バレル当たり79.46ドルと前日終値比で1.61ドル上昇した。この結果原油価格は1月3~6日の4日間で1バレル当たり合計4.25ドルの上昇となった。ただ、1月7日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、1月7日に米国労働省から発表された2021年12月の同国非農業部門雇用者数が11月比で19.9万人の増加と、市場の事前予想(40~45万人増加)を相当程度下回ったことにより、米国の経済減速と石油需要の伸びの鈍化観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.90ドルと前日終値比で0.56ドル下落した。
また、中国の天津市で新型コロナウイルスオミクロン変異株の市中感染が発生したことにより、個人の外出規制を強化する旨1月9日夜(現地時間)に発表された他、中国河南省安陽市でも新型コロナウイルスオミクロン変異株の感染が確認されたため、1月9日に個人の外出規制が強化されるなどしたことにより、同国経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が1月10日の市場で発生したことに加え、減産していると1月6日に伝えられたカザフスタンのテンギス油田の原油生産量が回復しつつある旨1月10日に報じられた他、PFGにより占拠されたリビアのシャララ油田の操業が再開した旨1月10日に伝えられたことにより、石油供給途絶に伴う石油需給引き締まり懸念が市場で後退したこと、2022年に実施される米国金融当局による金利引き上げ回数予想をそれまでの3回(3月、6月及び9月)から4回(3月、6月、9月及び12月)へと引き上げる旨1月10日に米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが明らかにしたことにより、米国金融当局による金利引き上げ加速観測が市場で増大するとともに、この先米国の経済成長が減速するとの見方が市場で広がったことにより、米国株式相場が下落するとともに、投資家のリスク許容度が低下したことにより、米ドルが上昇したことから、1月10日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.67ドル下落し、終値は78.23ドルとなった。しかしながら、1月12日にEIAから発表される予定である米国石油統計(1月7日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が1月11日の市場で発生したことに加え、1月11日に実施された米国連邦議会上院銀行委員会で、同国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、金利引き上げ時期及びFRBの保有資産縮小の詳細につき明言を避けたことにより、パウエル議長がそれら方策を急いでいないと市場で受け取られたこともあり、米国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したことから、1月11日の原油価格の終値は1バレル当たり81.22ドルと前日終値比で2.99ドル上昇した。また、1月12日も、新型コロナウイルスオミクロン変異株の石油需要への影響が予想よりも軽度であることにより、石油需要は当初見込みよりも堅調である一方、ナイジェリア及びリビアを含む主要産油国の一部では重大な石油供給上の支障が発生している旨1月12日に国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が明らかにしたことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、1月12日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で455万バレルの減少と、市場の事前予想(同190万バレル程度の減少)を上回って減少していた他、同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で247万バレル減少していた旨判明したこと、1月12日に米国労働省から発表された12月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で7.0%の上昇と11月の同6.8%の上昇から伸び率が拡大、1982年6月(この時は同7.1%の上昇)以来の高水準に到達したものの、市場の事前予想(同7.0%の上昇)と一致したことにより、米国金融当局による金融の量的緩和縮小及び金利引き上げのペース加速に対する市場の観測が後退したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.42ドル上昇し、終値は82.64ドルとなった。この結果原油価格は1月11~12日の2日間合計で1バレル当たり4.41ドル上昇した。しかしながら、1月13日は、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、1月12日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が前週比796万バレル、留出油在庫が同254万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫同240万バレル程度、留出油在庫同180万バレル程度の、それぞれ増加)を上回って増加している旨判明したことにより、当該製品需給緩和を市場が意識した流れを引き継いだこと、1月13日に、ブレイナードFRB理事が3月に金融の量的緩和を終了次第金融当局は金利引き上げを開始するよう準備ができている旨の見解を披露した他、フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁も米国物価上昇抑制のため3月に金利引き上げを開始し2022年に3~4回の金利引き上げを実施する可能性がある旨発言、シカゴ連邦準備銀行のエバンズ総裁も、物価上昇が抑制されなければ、2022年の金利引き上げは4回となることもありうる旨明らかにしたこともあり、この先米国金融当局による金融引き締め政策により同国経済が減速するとの観測が市場で発生したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり82.12ドルと前日終値比で0.52ドル下落した。それでも、ロシアがウクライナに対し軍事介入を正当化できるよう、情報操作等を実施するため、親ロシア派勢力が事実上支配するウクライナ東部に、市街戦や爆発物取扱といった破壊行為を実施できるように訓練されている要員を配置しているとの情報を得ている旨1月14日に米国のサキ大統領報道官が明らかにしたことにより、ロシアのウクライナ侵攻を通じたロシアと欧米諸国との対立の高まりが石油・天然ガスを含めたエネルギー市場に及ぼす影響に対する懸念が市場で増大したことから、1月14日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.70ドル上昇し、終値は83.82ドルとなった他、この日の終値は2021年11月9日(この日の終値は同84.15ドル)以来の高水準に到達した。
4. 原油市場における主な注目点等
地政学的リスク要因面では、複数の地域で石油需給及び石油市場参加者の心理に影響を与えうる要因が存在するが、直近ではウクライナ情勢を巡り西側諸国等とロシアとの緊張が高まっており、石油及び天然ガスを含むエネルギー市場への影響が懸念されているところである。
12月21日には、ロシアのプーチン大統領が、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナ加盟を支援することを含め東方拡大を継続するなどロシアに対し敵対的に行動し続けるようであれば、ロシアは軍事的方策により対応する(但し政治及び外交手段を通じて問題が解決されることを要望している)旨発言した。しかしながら、ロシアがウクライナに対し軍事的な攻撃を行った場合、米国政府は、ロシアの産業部門及び消費者部門での製品等の輸出に対する厳しい規制の発令を通じロシア経済に打撃を与えることを協議している旨12月21日に明らかになっている。12月30日には米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が電話会議形式で会談を行ったが、その場でバイデン大統領はロシアがウクライナに対し軍事攻撃を実施すれば、米国は大規模な対ロシア制裁の実施を含め断固たる対応を行う旨警告した他、NATOが東方に拡大しないことを法的に保証しなければならないとのロシア側の要求は、ウクライナを含む関係諸国の意向を無視することになるとして、受け入れられないと主張した。これに対し、プーチン大統領は、対ロシア制裁の実施は米国とロシア、及び欧州諸国とロシアとの関係を危機的な状況に陥れるため大きな誤りとなる旨反発した。ただ、両国間で歩み寄る可能性がある部分もある旨両首脳の意見は一致した。
1月10日には、スイスのジュネーブにおいて米国国務省のシャーマン副長官とロシア外務省のリャプコフ次官が「戦略安定対話臨時会合(Extraordinary Session of Strategic Stability Dialogue)」を実施、ウクライナ問題につき協議した。その前日の1月9日にリャプコフ次官は、ウクライナを含む旧ソ連諸国のNATO加盟拒否やロシア国境周辺における軍事的攻撃施設の排除等NATOの東方拡大停止のための法的保証については、ロシアはどのような圧力を受けても妥協することはない旨明らかにした。戦略安定対話において、米国はロシアによる軍事攻撃の脅威に晒されるウクライナにつき主権と領土一体性を確保することが重要であり、ウクライナ国境付近に配備されているロシア軍を退去させるよう主張した(ロシア側は自国領内での行為であるため撤収は行わず、今後も軍事演習を実施する意向である旨示唆した)一方、ロシアは、ウクライナのNATO加盟防止を含めNATOの東方拡大を停止すること(ロシア側は絶対的条件としたが米国側は拒否)、ロシア周辺地域で軍事攻撃のための施設を設置しないこと、1997年の東欧諸国のNATO加盟前の状態にNATOの軍備体制を戻すこと等を米国に対し要求するとともに、ロシア軍が展開しているのは自国領内であり、ウクライナ侵攻の予定も意志もない旨米国に伝達するなどしたが、議論はまとまらなかった。ロシアのリャプコフ外務次官は、米国との協議を通じ楽観的になれるような要素はなかったとして、1月12日に開催が予定されるNATOロシア理事会及び13日に開催が予定される欧州安全保障協力機構(OSCE)会合での協議内容によって、その後の協議継続を判断する旨1月10日に明らかにした。1月11日には、ロシアが同国とウクライナ東部の国境を接する部分のロシア領内で3,000人程度の兵士を動員して実弾を使用した射撃を含む軍事演習を実施した旨ロシア軍が発表したが、これに対し米国国務省のヌーランド次官が、そのようなロシアの行為はウクライナ緊張緩和への努力に反するものであり、ロシア側が協議に関し楽観視していない旨表明したことに関しても、遺憾の意を表明した。また、1月12日にはNATOロシア理事会が、1月13日にはOSCE会合が開催され、ウクライナ情勢を巡る緊張緩和に関し協議が実施されたが、欧米諸国とロシアとの間では従来通りの主張が繰り返された結果、議論は実質的に前進することはなかった(今後も議論を継続する旨関係者間で合意したものの、協議再開日程は示されていない)。1月12日のNATOロシア理事会開催後、ロシア外務省のグルシコ次官は、ウクライナ問題を巡る協議が不調であれば、自国の安全保障確保のために軍事的対応を実行に移す可能性がある旨示唆した。また、一連の協議で行われたロシアの提案に対し、近いうちに欧米諸国側の方から回答がある旨ロシア大統領府のペスコフ報道官が1月13日に明らかにした。他方、1月12日には、米国連邦議会民主党が、ロシアがウクライナに対し軍事攻撃を実施した場合に発動するための制裁法案を明らかにした。ウクライナやポーランド等の東欧諸国を経由することなくロシアからドイツへと天然ガスを輸送する予定であるノルドストリーム2(既に建設自体は完了しており、ドイツ及びEU等による操業開始承認待ちの状況にある)の稼働防止のための米国による働きかけの実施や、ロシア政府及び軍幹部、そして主要金融機関に対する制裁の実施等を制裁の主な内容としている(米国連邦議会上院議員20人が支持していると同日伝えられる)。また、米国バイデン政権も、ロシアがウクライナに対し軍事攻撃を実施した場合に即時実施できるような制裁措置を準備した旨政府関係筋が1月12日に明らかにしている。また、1月13日には、欧州連合(EU)が1月末に期限を迎える対ロシア経済制裁(親ロシア派住民が多数居住しているウクライナ東部の情勢をロシアが不安定化させていることを理由として2014年7月31日に発動)につき、2015年2月11日にミンスク(ベラルーシ)で調印された、ウクライナ東部紛争停戦に向けた合意をロシアが十分に履行していないとして、6ヶ月間延長する旨決定した。他方、1月13日にロシア外務省のリャプコフ次官は、両者の意見が大きく隔たっているとして当面ウクライナ情勢を巡る緊張緩和のための西側諸国等とロシアとの間での協議は実施されない旨示唆した。また、1月13日にはEUのボレル外交安全保障上級代表が、ウクライナを巡るロシアの対応がノルドストリーム2の稼働開始承認に影響する可能性がある旨発言している。
1月13日日夜から1月14日にかけては、ウクライナ政府関係機関のコンピュータシステムに対しサイバー攻撃が行われており、NATOのストルテンベルグ事務総長が当該行為に対し強い非難の意を示す声明を発表したと1月14日に伝えられる。また、ロシアがウクライナに対する軍事介入を正当化できるよう、情報操作等を行うため、市街戦や爆発物取扱といった破壊行為を実施できるよう訓練された要員をロシア側がウクライナ東部に派遣しているとの情報を得ている旨1月14日に米国のサキ大統領報道官が明らかにしている。ウクライナで人権侵害行為が行われているとの情報や、ウクライナ指導者に対する敵対的な情報をロシア側が流布させている他、西側諸国がウクライナを巡る緊張を高め、同国で人道問題を発生させており、それはロシアの介入がなければ解決できない旨の情報も発信されているが、それらは全て虚偽情報であるとサキ氏は指摘している。
このように、ウクライナ情勢については、米国とロシアの首脳を含めしばしば協議が実施されるなどしているが、両者間での意見には相当程度の隔たりがあることが示唆され、今後も協議を継続する旨合意しているものの、具体的な日程は明らかではない状況にある。その一方で、ロシアはウクライナに対する軍事行動を実施する準備をしていることを示唆する動きがなされている旨伝えられるなどしている。このため、今後米国等西側諸国等とロシアとの対立が一層強まることを示す事象が発生する結果、ロシアから欧州方面等への石油及び天然ガス供給に支障が見られるのではないかとの市場での懸念から、この面で当面原油相場が下支えされやすいものと考えられる。
12月22日に米国海軍第5艦隊は、アラビア海北部で国籍不明の漁船を拿捕し船内検査を実施した結果、自動小銃1400丁、22万発超の銃弾を差し押さえた(イランからイエメンに輸送する途中であったと見られている)。他方、12月22日に米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、現在実施中のイラン核合意正常化を巡るイランと西側諸国等との協議は数週間以内に終了する見込みである旨明らかにした。また、12月23日にはEU欧州対外活動庁が、イラン核合意正常化に向けた協議は12月27日に再開される旨発表した。また、12月20日よりイラン南部で実施していた軍事演習時の12月24日にイラン革命防衛隊が国連安全保障決議により使用が認められていない弾道ミサイル16発を使用したとして、英国外務省が12月24日にこのような行為を停止するよう非難する旨の声明を発表した。
12月27日に、イランと西側諸国等は、イラン核合意正常化に向けた協議をオーストリアのウイーンで再開した(協議再開前の12月25日には、イランは当該協議が妥結しなくても、濃縮度60%を超過する濃縮ウランの製造は実施しない旨明らかにしていた)。ロシアのウリヤノフ在ウイーン国際機関ロシア代表部大使は、当該協議において相当程度の進展が見られた旨明らかにしたと12月28日に報じられたが、協議が前進しているかどうか判断するには時期尚早である旨12月28日に米国政府が警告した他、1月4日には、米国国務省のプライス報道官が、当該協議は若干ながら前進した(1月14日には米国のサキ大統領報道官も協議が幾分進展している旨明らかにしている)ものの、基本的な状況に変化はない旨明らかにした。他方、1月4日には英国のジョンソン首相が、イラン核合意正常化を巡る協議の時間は尽きつつある旨警告した。また、1月11日には、フランスのルドリアン外相が、当該協議はある程度前進しているものの、解決までにはなお相当程度の道程が残されている旨の見解を明らかにしている。
このように、イランについては、11月29日以降核合意正常化に向けた同国と西側諸国等との間での次官級協議が断続的に実施されている。当該協議においては、有意に進展した旨指摘するとの見方もあるものの、それを疑問視する向きもあり、欧米諸国が交渉を完了させる期間として認識している数週間以内に協議が妥結に向かうかどうか不透明な状況にある。この期間内で核合意が正常化に向かう(もしくは向かう兆候が見られる)ようでなければ、西側諸国は対イラン制裁強化、もしくは実施中の制裁の運用強化等といった、外交交渉以外の手段を採用する可能性もあり、その場合イランと西側諸国との対立が深刻化するとともに、イランからの原油供給が減少する事態に直面するとの不安感が市場で強まる結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、イランと西側諸国等との核合意正常化に向けた交渉実施に際し、ペルシャ湾内外においてタンカー等の船舶が攻撃されたり、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)から、同勢力と対立し内戦状態となっているイエメンのハディ暫定大統領派勢力を支援するサウジアラビアに向けミサイルや無人攻撃機が発射されたり、さらには、既に核合意を逸脱して実施されつつあるイラン核開発活動がさらに核合意から逸脱する旨明らかになったりすることにより、核合意正常化に向けた交渉過程が複雑化する結果、そのような要素が原油相場に織り込まれる場面が見られることもありうる。
2021年12月24日に投票の実施が予定されていた、リビア大統領選挙については、技術的、法的及び治安的な理由(立候補資格等を巡り対立が発生していたことによるとされる)により、12月22日に同国選挙管理委員会は実施を2022年1月24日へと延期する旨発表した。他方同国東部トブルクを拠点とする国内勢力である代表議会(HoR)は、12月24日を以て暫定統一政府(2021年3月10日発足)が有効期限を迎える旨主張した。加えて、同国中部にあるサマ油田及びダーラ油田から同国中部にあるエス・シデル石油ターミナルに向け原油を輸送するパイプラインから原油が流出している旨1月1日に明らかになったことに伴い、1月4日から改修作業を実施するため、1週間程度当該油田の生産量が日量20万バレル程度減少する旨リビア国営石油会社NOCが1月1日に明らかにした。さらに、1月11日にリビアNOCは悪天候のためエス・シデル石油ターミナルの操業が中断している旨発表した。
このように、リビアでは、2021年12月24日に予定されていた大統領選挙投票が延期されたため、投票を巡る混乱は発生していない。しかしながら、遅延している給与支払いを要求する石油施設警備隊(PFG: Petroleum Facility Guard)が同国西部のシャララ油田及び同国中部のワハ油田等の油田の操業を妨害したことにより、リビアNOCは12月20日に同国西部のザウィーヤ及びメリタ両石油ターミナルからの原油輸出につき不可抗力条項の適用を宣言、同国の原油生産量が日量30万バレル程度減少した。また、1月4日以降パイプラインの修理を実施するためさらに日量20万バレル同国原油生産が減少したことで、合計日量50万バレル程度同国原油生産水準が低下、従来日量120万バレル近くの原油を生産していたリビアでは日量72.9万バレルにまで原油生産量が落ち込んだ旨1月6日にNOCが発表した。その後PFGとリビア政府との間で懸案事項につき合意に至ったことにより、シャララ油田の原油生産が再開するとともに原油輸出に関する不可抗力条項適用を解除した旨1月11日にPFGが明らかした。この結果、同国の原油生産量は同96.3万バレルへと回復した旨1月13日に同国のオウン(Oun)石油ガス相が述べている。さらにその後エス・シデル石油ターミナルの操業も再開したことにより同国の原油生産量は日量120万バレル程度の回復した旨1月16日にオウン石油ガス相が明らかにした。
しかしながら、従来から同国では給与支払い等の問題により、PFGや地方勢力が石油生産関連施設を封鎖する事例が散見される他、大統領選挙投票延期に見られるように統一政府樹立(同国では西部トリポリを拠点とする国内勢力である国民合意政府(GNA)とHoRが対立状態にあり、暫くの間事実上の内戦状態にあった)に向けた手続きが混乱するなどしていることもあり、国家予算の承認及び執行に支障が生じており、この結果、同国の石油生産関連施設のメンテナンスのための予算等が円滑に配分されないことにより、老朽化した施設で操業上の不具合が発生するとともに、関連する油田での生産が停止する可能性が高まっている旨指摘されており、今後もこのような油田関連施設での操業上の支障が頻発するようだと、同国での原油供給減少と石油需給引き締まりに対する懸念が市場で強まる結果、原油相場にその影響が織り込まれるといった場面が見られることもありうる。加えて、1月24日に延期された大統領選挙を巡り、各政治勢力間での対立が高まるとともに、国内情勢が不安定化するようなことによっても、同国の原油生産の持続性を巡り市場が疑問視するようになることから、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となることもありうる。
世界各国及び地域においては、新型コロナウイルスワクチン接種の普及は進展しつつあり、2021年8月下旬頃の世界の新型コロナウイルス感染第三波の頂点到達から一旦感染が沈静化したものの、感染者数は10月中旬頃に底打ちし再び増加、2022年1月12日には1日当たり新規感染者数が327万人と、これまでの世界的な新型コロナウイルス感染の波(概ね同80~90万人がピーク)を大幅に超過し、過去最高水準の感染者が発生した旨報告されるなど、当該ウイルス感染は収束する兆しを見せていない。ただ、現在流行している新型コロナウイルスオミクロン変異株は、感染力は強いものの、感染者の入院確率及び重症化確率がそれほど高くないとの報告もあり(南アフリカでの調査では、オミクロン変異株感染による入院患者の死亡率は4.5%と従来の新型コロナウイルス感染による入院患者の死亡率である21%から大きく低下している他、重症化確率も低く、また入院も短期間で済んでいる旨1月7日に伝えられる)、個人の外出規制及び経済活動の制限の強化を含めそれほど深刻な事態に陥ることなく、収束に向かうとの期待も現時点では市場で根強いこともあり、むしろ石油市場関係者心理面の注目は、新型コロナウイルスオミクロン変異株感染収束後の経済及び石油需要回復に向かっており、このような心理が原油相場に上方圧力を加え続ける一因となっている。そしてこの先例えば、新型コロナウイルスオミクロン変異株による感染拡大を以てしても世界経済及び石油需要への影響が軽微であるとして、主要石油市場分析機関がこれまで新型コロナウイルスオミクロン変異株による感染拡大に伴い下方修正してきた世界石油需要(そして原油価格)見通しを上方修正するようであれば、さらに石油市場関係者での石油需給引き締まり期待が強まる結果、原油先物契約購入が活発することを通じ原油相場が上振れする場面が見られることもありうる。ただ、今後も感染者数が大幅に拡大し続けるようであれば、それだけ入院患者数が増加することにより、医療体制が逼迫する可能性が増大する結果、一時的にせよ個人の外出規制及び経済活動制限を強化しなければならなくなることにより、石油需要が下振れするとともに原油相場が抑制されるといった展開となる可能性もある。
また、12月14~15日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)では、金融緩和縮小が議論され、金融当局関係者の大半は当初予定よりも早期に金利引き上げを実施することが妥当となる可能性がある旨認識していると、1月5日に公開されたFOMC議事録で示唆されるなどしたこともあり、現在0.00~0.25%である政策金利が3月15~16日に開催される予定であるFOMCで0.25~0.50%に引き上げられる確率が1月5日時点で68%に到達する(因みに12月14日時点では、当該金利を0.25~0.50%へと引き上げる確率は31%、0.00~0.25%に維持する確率は66%であった)など、金利上昇観測が市場で強まった。さらに、1月12日に米国労働省から発表された12月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で7.0%、1月13日に同省から発表された12月の同国生産者物価指数(PPI)が同9.7%、それぞれ上昇するなど、同国の物価上昇は市場の事前予想(CPI同7.0%、PPI同9.8%の、それぞれ上昇)と同等かそれを下回る程度の上昇となったものの、依然高水準を維持する格好となっており、1月14日時点でも3月に開催される予定であるFOMCにおいて政策金利が0.25~0.50%へと引き上げられる確率は79%となっている。併せて、1月13日に、ブレイナードFRB理事が3月に金融の量的緩和を終了次第金融当局は金利引き上げを開始するよう準備できている旨の見解を披露した他、フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁も米国物価上昇抑制のため3月に金利引き上げを開始し2022年に3~4回の金利引き上げを実施する可能性がある旨発言、シカゴ連邦準備銀行のエバンズ総裁は、物価上昇が抑制されなければ、2022年の金利引き上げは4回となることもありうる旨明らかにしている。このようなこともあり、市場での金利引き上げ加速観測は根強いことから、今後も米ドルが上昇する他金利引き上げに伴い経済が減速するとの見方が市場で広がる結果米国株式相場が影響を受けることにより、原油相場に下方圧力が加わりやすい状況となるものと見られる。また、次回FOMCは1月25~26日に開催される予定であるが、米国での物価上昇が高水準に到達する中、金融緩和縮小ペース及び金利引き上げ時期に関し金融当局関係者がどのように発言するかによって、米ドル及び米国株式相場がさらに変動することを通じ、それが原油相場に織り込まれる展開となることも想定される。
さらに、米国のバイデン大統領が推進していた1.75兆ドル規模の気候変動及び社会保障を含む経済等再建のための歳出(ビルド・バック・ベター)法案に対し、マンチン連邦議会上院議員(民主党)が支持は困難である旨12月19日に表明したことにより、当該法案の連邦議会上院での可決による同国景気刺激策の実施可能性が低下したことから、米国大手金融機関ゴールドマン・サックスは2022年第一~第三四半期の米国経済成長見通しを0.25~1.00%程度下方修正するなどした旨12月19日夜(米国東部時間)に伝えられたことが、12月20日の原油価格下落の一因となったが、マンチン議員の当該法案不支持表明後も、例えばバイデン大統領とマンチン議員が当該法案につき協議を継続した旨12月31日に明らかになるなどしており、今後両者間で調整が進むとともに、当該法案が法として成立するとの展望が開けてくるようであれば、市場関係者によるこの先の米国経済見通しが上方修正されるとともに、石油需要の上振れ期待が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性もある。
また、1月中旬以降、主要米国企業等の2021年10~12月期等業績が発表されつつあるので、この業績、及び一部企業から明らかにされる可能性のあるこの先の業績見通し等によっても米国株式相場とともに原油相場が変動する場面が見られることもありうる。
米国では1月後半以降も最終消費段階では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期はなお続く(暖房シーズンは概ね11月1日から翌年3月31日までである)ものの、製油所の段階では、既にある程度暖房用石油製品の生産が完了しつつあり、むしろ間もなく春場の石油不需要期(冬場の暖房用石油製品需要期は終了に向かう反面、夏場のドライブシーズン到来に伴うガソリン需要期にはまだ早い)に突入するとともに、メンテナンス作業実施が視野に入ることで製油所は稼働を引き下げ始め、原油の購入を不活発にしてくる。このため、原油に対する需要がこの先低下するとの観測を含め、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることから、この面で原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。ただ、暖房用石油製品需要の中心地である米国北東部において、この先平年を割り込む気温が長期化したり、気温が平年を大きく割り込む旨の予報が発表されたりすると、一時的であれ、市場での暖房油需給の引き締まり感の強まりから、暖房油価格、そして原油価格が上昇する場面が見られることもありうる。
1月4日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催し、8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置につき、従来方針に基づき2022年2月も日量40万バレル規模を縮小して実施する旨決定した。
前述の通り、この先春場の石油不需要期に突入する他、感染者の入院確率及び重症化確率が低いとされるものの感染力の強い新型コロナウイルスオミクロン変異株を中心とする感染者数が大幅に増加することにより、医療体制が逼迫するようだと、世界各国及び地域が都市封鎖等を含む個人の外出規制及び経済活動制限等の感染抑制策を強化しなければならなくなることから、世界経済成長及び石油需要の回復期待が市場で後退することにより原油相場に下方圧力が加わるといった展開となる可能性は否定できない。
ただ、原油価格が急激に下落し始めた場合、もしくは急激に下落する兆候が見られた場合、OPECプラス産油国は、まず、減産措置の再調整実施の意向を示唆する発言等の口先介入を行うことにより、原油価格下落を抑制しようと試みるものと見られる。そして、そのようないわゆる口先介入で以てしても原油価格の下落が抑制されないようであれば、実際にOPECプラス産油国間で減産措置の再調整に関する議論を実施、そして状況によっては再調整した減産措置を実行に移すことにより、原油価格の下落を防止しようとするものと考えられる。
もっとも、1月10日時点の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.394ドルであるとともに同国CPI及びPPIの上昇率も高水準であることに伴い、そのような物価高騰にバイデン政権が取り組み続けなければならない米国に配慮する必要があることから、少なくとも米国全米平均ガソリン小売価格が十分に下落し続ける(例えば1ガロン当たり3ドル方向に向け下落を継続する)ことにより、米国の物価上昇が頭打ちとなる兆候が見られるようでなければ、OPECプラス産油国の減産措置縮小の再調整に向けた行動がもたつき気味となることにより、一時的にせよ原油価格が下落し続ける場面が見られることもありうる。
他方、石油市場では、ウクライナやイラン情勢等の地政学的リスク要因に伴う石油需給面への影響に対する懸念、及び新型コロナウイルスオミクロン変異株の世界経済及び石油需要への影響に対する楽観的な見方が、市場で強まっているように見受けられる。加えて、市場では従来からアンゴラやナイジェリア(2021年12月はロシアについても)等一部OPECプラス産油国が減産措置縮小針に伴う増産に際し困難に直面している(つまり方針通りに増産できていない)と見る向きもある(もっとも、2021年9~11月において減産措置参加OPECプラス産油国は前月比で日量39~56万バレル程度を増産している他、2022年の世界石油需給バランスを均衡させるには、同年3月以降2022年末に向け相当長期に渡り減産措置の縮小を停止しなければならないことから、一部OPECプラス産油国が方針通り増産ができなかったからといっても直ちに世界石油需給が大幅に引き締まるわけではない)。そしてこれらの要因が2022年初来原油相場に上方圧力が加え続けている。また、全米平均ガソリン小売価格も十分に下落していない他、米国CPI及びPPIの上昇率が高水準に到達している。このため、このような原油及びガソリン小売価格を含めた物価上昇による米国経済への悪影響を懸念する同国バイデン政権からOPECプラス産油国への減産措置縮小加速に対する働きかけが強まる一方、OPECプラス産油国がそのような米国の意向に沿って減産措置の縮小を加速する方向で再調整する結果、原油価格の上昇が抑制されるといった展開も想定される。
しかしながら、米国による減産措置縮小加速への働きかけにもかかわらず、新型コロナウイルスオミクロン変異株による感染拡大の世界経済及び石油需要への影響、そしてこのまま毎月日量40万バレルの減産措置縮小を継続した場合2022年は全体として世界石油供給が需要を上回るといった、いわゆる供給過剰の状態となる恐れがあること(表2参照)に伴い、原油価格が下落することによる、原油収入減少を不安視するOPECプラス産油各国による、当該措置実施に向けた意思決定が後手に回る結果、一時的にせよ原油価格が上振れする場面が見られることも否定できない。
そして、今後の季節的な石油需給状況、ワクチン開発及び接種普及状況を含む新型コロナウイルス感染状況、米国金融政策の動向、そしてそれら要因を反映した原油価格の変動具合等を考慮しつつ、2月2日に開催される予定の次回OPECプラス産油国閣僚級会合では3月以降の減産措置の取り扱いにつき検討が行われるものと考えられるが、それ以前に事態が急変する、もしくは急変する兆候が見られるようであれば、OPECプラス産油国は次回閣僚級会合開催を待たずして、減産措置縮小再調整等に向け行動することもありうる。
全体としては、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期の終了が視野に入るとともに季節的な石油需給の緩和感が市場で強まり始めることが、原油相場のさらなる上昇を抑制する可能性がある。また、米国での金融緩和縮小及び金利引き上げ観測の市場での広がりも米ドルの上昇とともに原油相場に下方圧力を加える可能性もある。もっとも市場では新型コロナウイルスオミクロン変異株の世界経済及び石油需要への影響に対する懸念が後退しつつあることに加え、OPECプラス産油国が増産に苦慮しているとの見方から、この先石油需給が引き締まるとの観測が市場で発生していることや、ウクライナ情勢を巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりの石油需給への影響に対する懸念が市場で強まっていることもあり、一時的にせよ原油価格が上振れするといった展開となることも否定できない。そのような中、米国のOPECプラス産油国に対する減産措置縮小への働きかけ、そしてそのような働きかけに対するOPECプラス産油国の対応振り等が原油相場に影響を与えるものと考えられる。
以上
(この報告は2022年1月17日時点のものです)