ページ番号1009284 更新日 令和4年3月3日

原油市場他:OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が従来方針に基づき2022年4月についても前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨決定(速報)

レポート属性
レポートID 1009284
作成日 2022-03-03 00:00:00 +0900
更新日 2022-03-03 10:28:52 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2021
Vol
No
ページ数 11
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
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地域6
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地域8
国8
地域9
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地域10
国10
国・地域 グローバル
2022/03/03 野神 隆之
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概要

  1. 2022年3月2日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催し、2021年8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(2022年2月現在日量296万バレル)につき、従来方針に基づき2022年4月についても日量40万バレル規模を縮小して実施する旨決定した。
  2. 次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は3月31日に開催される予定である。
  3. 前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催以降、2月24日のロシアのウクライナへの事実上の侵攻開始等による西側諸国等の対ロシア制裁の発動、そしてその報復措置としてロシアからのエネルギー供給削減の実施可能性に対する懸念の増大により、2月1日に1バレル当たり88.20ドルの終値であった原油価格(WTI)は3月1日には同103.41ドルとなるなど上昇傾向となった。
  4. また、1月31日時点では1ガロン当たり3.464ドルであった全米平均ガソリン小売価格は、2月28日には同3.701ドルとなるなど、米国の消費者の不満が高まり始める同3ドルを超過したうえ上昇し続けるなどした。
  5. このようなことが一因となり、足元の米国バイデン大統領の支持率は2021年1月20日の就任時以降の最低水準付近にまで低下したことから、バイデン政権からサウジアラビア等のOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速に対する働きかけが行われ続けたものと見られる。
  6. しかしながら、OPECプラス産油国は、2022年の世界石油需給バランスは依然として供給過剰になるものと予想される中、現在の原油価格の上昇は実際の石油供給不足によるものではなく、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりによる、ロシアからの石油供給途絶可能性に対する懸念を織り込んだものであり、そのような懸念が後退した場合、もしくは、今後イラン核合意正常化に伴い米国からの対イラン制裁が緩和されるとともにイランからの原油供給が拡大した場合、石油供給過剰感が市場で増大する結果、原油価格が急落する恐れがあるものと認識しており、従って減産措置の緩和縮小の加速には慎重な姿勢であることが示唆された。
  7. このような慎重な姿勢に基づき、OPECプラス産油国は、従来の方針通りの規模での減産措置の縮小継続を決定したものと考えられる。
  8. 今回の閣僚級会合結果に対し、ウクライナ情勢緊迫化とロシアからのエネルギー供給減少懸念が市場で広がる中、原油価格が上昇しているにもかかわらず、OPECプラス産油国が原油価格沈静化のための減産措置縮小加速に対し消極的である旨示唆した他、3月2日に米国のバイデン大統領がロシアの石油・天然ガス産業に対し制裁を発動する可能性を排除しない旨明らかにしたことから、原油相場には上方圧力が加わった結果、OPECプラス産油国開催当日の3月2日の原油価格は前日末終値比で1バレル当たり7.19ドル上昇、同110.60ドルの終値と、2011年5月3日(この時は同111.05ドル)以来の高水準に到達した。

(OPEC、IEA、EIA他)

 

1. 協議内容等

 (1) 2022年3月2日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はビデオ会議形式で閣僚級会合を開催し、2021年7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定した、同年8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(3月時点で日量256万バレル)に関し、従来方針に基づき2022年4月についても日量40万バレル規模を縮小して実施する旨決定した(表1及び参考1参照)。

表1 OPECプラス産油国の減産幅

 (2) 現状石油需給が十分に均衡している他、今後も石油需給は十分均衡すると予想される旨OPECプラス産油国の見解は一致しており、足元の原油価格の変動は石油需給によるものではなく地政学的リスク要因の展開によるものであるとした。

 (3) また、これまで減産目標を達成できていない減産措置参加産油国が2022年6月末までに減産目標未達成部分につき追加減産を実施(することにより減産目標を達成)することを含め、減産目標の完全遵守に固執することが極めて重要である旨再確認するとともに、(減産目標を完全達成するための)追加減産計画を提出するよう要請した。

 (4) なお、今回の閣僚級会合は3月2日午後1時半頃(オーストリア ウイーン時間)に開始され、13分間という短時間で終了したとされ、これは前回の閣僚級会合の開催時間である16分間を上回る記録的な短さであった。

 (5) また、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を3月31日に開催する旨決定した。

 (6) 他方、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立に伴い、ロシアからの石油等のエネルギー供給が脅かされるとの懸念が市場で増大しつつあるが、閣僚級会合における減産措置縮小に関する決定には、そのような事象は影響を与えなかったとされる。

 

2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

 (1) 2022年2月2日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、2021年7月18日に開催された当該閣僚級会合で決定した方針に則り、3月のOPECプラス産油国減産措置の規模を前月比で日量40万バレル縮小する旨決定した。

 (2) 当初予想された程には新型コロナウイルスオミクロン変異株感染者の入院確率及び重症化確率が高くないとの見方が市場で広がったことに加え、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりに伴う、ロシアからの石油供給途絶懸念等により、1月3日に1バレル当たり76.08ドルの終値であった原油価格(WTI)は2月1日には同88.20ドルの終値となるなど概ね上昇傾向となった(図1参照)。

図1 原油価格の推移(2021~22年)

 (3) また、1月3日時点では1ガロン当たり3.381ドルであった全米平均ガソリン小売価格は、1月31日には同3.464ドルとなる(図2参照)など、米国の消費者の不満が高まり始める同3ドルを相当程度超過し続けるなどした他、1月12日に米国労働省から発表された2021年12月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で7.0%の上昇と1982年6月以来の高水準に到達した他、1月13日に同省から発表された12月の同国生産者物価指数(PPI)も前年同月比で9.7%上昇と、2010年以降の同国月間生産者物価指数統計史上最高水準に到達した。

図2 米国ガソリン平均小売価格(2019~22年)

 (4) このようなことが一因となり、足元の米国バイデン大統領の支持率は2021年1月20日の就任時(1月21日時点で支持率55%、不支持率32%)以降の最低水準(1月27日時点で支持率45%、不支持率50%)にまで低下した(ロイター/イプソス世論調査による)ことから、バイデン政権からサウジアラビア等のOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速に対する働きかけが行われ続けたものと見られる。

 (5) しかしながら、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は、2022年の世界石油需給バランスは供給過剰になると予想される中、現在の原油価格の上昇はそのような石油需給バランスを反映しているわけではなく、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの、もしくはイエメンとサウジアラビアやUAEとの、それぞれ対立の高まりによる、ロシアもしくは中東からの石油供給途絶の可能性に対する懸念等を織り込んだものであり、そのような懸念等が後退すれば、原油価格に大きな下方圧力が加わる恐れがあると認識しており、従って減産措置の緩和縮小の加速には慎重な姿勢であることが示唆された。

 (6) 従って、OPECプラス産油国としては、むしろ減産措置縮小の停止も視野に入りうる状況であったが、一方で、ガソリン小売価格高騰等に苦慮する米国との関係維持にも配慮する必要があったことにより、これまでの方針通りの規模での減産措置の縮小継続を決定したものと考えられる。

 (7) 前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催以降、2月24日にはロシアのウクライナへの事実上の侵攻が開始されたことにより、西側諸国等は対ロシア制裁を発動したが、その報復措置としてロシアからのエネルギー供給削減の実施の可能性に対する懸念が市場で増大したことにより、前回閣僚級会合開催直前の2月1日に1バレル当たり88.20ドルの終値であった原油価格(WTI)は3月1日には同103.41ドルの終値となるなど上昇傾向が継続した。

 (8) また、1月31日時点では1ガロン当たり3.464ドルであった全米平均ガソリン小売価格は、2月28日には同3.701ドルへと上昇し続けるなどした他、2月12日に米国労働省から発表された2022年1月の同国CPIが前年同月比で7.5%の上昇と1982年2月(この時は同7.6%の上昇)以来の高水準に到達した他、2月13日に同省から発表された2022年1月の同国PPIも前年同月比で9.7%の上昇と、2010年以降の月間統計史上最高水準付近(2021年12月のPPIは同9.8%の上昇へと上方修正された)の上昇率であった(図3参照)。

図3 米国消費者物価指数(CPI)及び生産者物価指数(PPI)(2019~22年)

 (9) このようなことが一因となり、足元の米国バイデン大統領の支持率は2021年1月20日の就任時以来の最低水準近辺で推移し続けた(3月1日時点で支持率43%、不支持率54%であった)。

(10) 他方、2月8日に米国バイデン政権のサキ報道官は、原油価格高騰への対処の一環として産油国との間で増産につき協議中である旨明らかにした(併せて消費国とは戦略石油備蓄からの石油の供給につき協議している旨示唆した)。

(11) 2月9日も、米国のバイデン大統領とサウジアラビアのサルマン国王との間で電話協議が行われ、イエメンのフーシ派武装勢力による攻撃やイラン問題を含む中東安全保障につき意見交換が行われたことと併せ、安定したエネルギー供給の確保を重視することで両首脳の意見が一致した。

(12) このように、バイデン政権からサウジアラビア等のOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速に対する、一層の働きかけが行われ続けたことが示唆される。

(13) しかしながら、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は、以前に比べ供給過剰幅は縮小しつつあるものの、2022年の世界石油需給バランスはなお供給過剰になると予想していた。

(14) 3月1日に開催されたOPEC合同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)のために用意された2022年の世界石油需給バランスシナリオでは、石油供給過剰幅が以前の見通しに比べ日量20万バレル下方修正されたものの、依然として日量110万バレルの供給過剰となる旨示された(なお、このシナリオにおいては、ウクライナ情勢緊迫化に伴い発生しうるロシアからの石油供給減少は考慮されていないものと見られる)。

(15) また、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合前には、ロシアからの石油供給を直接制限するような西側諸国等による制裁は発動されていなかったこともあり、足元の原油価格の上昇は実際の石油供給不足によるものではなく、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりによる、ロシアからの石油供給途絶の可能性に対する懸念等によるものであり、そのような懸念が後退した場合、石油供給過剰感が市場で増大する結果、原油価格が急落する恐れがあり、従って減産措置の緩和縮小の加速には慎重な姿勢である旨、OPECプラス産油国は示唆し続けた。

(16) 2月14日には、アラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ エネルギー相が、原油価格の上昇要因はウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立に伴う懸念によるもので、実際に供給が不足していることによるものではない旨示唆した他、OPECプラス産油国による増産加速のためには、石油供給が不足しているとの証拠が示される必要がある旨明らかにした(マズルーイ エネルギー相は2月20日も世界の石油供給はそれほど不足しておらず、原油価格はOPECプラス産油国全体の方針から離れた要因で変動しているとの認識を明らかにするなどしている)。

(17) また、イラン核合意正常化に伴う西側諸国等とイランとの協議が妥結に向け最終段階にさしかかっていたことから、今後協議妥結後米国による対イラン制裁が緩和されるとともにイランからの原油供給が拡大した場合、原油相場に下方圧力が加わる可能性がある旨OPECプラス産油国感では不安視された(2月22日にはナイジェリアのシルバ(Sylva)石油相が、イランからの原油供給が今後拡大するであろうことにより、OPECプラス産油国の減産措置縮小を加速する必要はない旨主張している)。

(18) このようなOPECプラス産油国の減産措置縮小加速に対する慎重な姿勢を反映し、今回のOPEC産油国閣僚級会合でも、従来の方針通りの規模での減産措置の縮小継続を決定したものと考えられる。

(19) また、ウクライナを巡り西側諸国と対立するロシアがOPECプラス主要産油国であることもあり、サウジアラビアやUAE等と石油市場における利害一致していることが、今般のOPECプラス産油国閣僚級会合での方針決定に影響していると示唆する向きもある。

 

3. 原油価格の動き等

 (1) 今回の閣僚級会合の結果に対し、ウクライナ情勢緊迫化に伴うロシアからの石油及び天然ガス等のエネルギー供給削減による石油需給引き締まりの可能性に対する懸念から、原油価格が上昇しつつある中、OPECプラス産油国が原油価格上昇沈静化のための減産措置縮小加速に後ろ向きの姿勢を示したと市場関係者が受け取った他、3月2日に米国のバイデン大統領がロシアの石油・天然ガス産業に対し制裁を発動する可能性を排除しない旨明らかにしたことから、会合開催当日の3月2日の原油相場には上方圧力が加わる格好となり、この日の原油価格の終値は1バレル当たり110.60ドルと、前日終値比での7.19ドルの上昇、2011年5月3日(この時は同111.05ドル)以来の高水準に到達した他、一時1バレル当たり112.51ドル(前日終値比1バレル当たり9.10ドル上昇)に到達する場面が見られた。

 (2) 石油市場では、2月24日に開始されたロシアのウクライナに対する特別軍事活動に対する、欧米諸国等の対ロシア制裁と、ロシアからのエネルギー供給への影響に対する懸念が原油価格を下支えする格好で作用している。

 (3) 当初ロシアのプーチン大統領はウクライナ問題につき、外交手段で解決する方針を受け入れていたものの、2月21日になり、ウクライナ東部のドネツク州及びルガンスク州の一部を支配する、親ロシア派勢力によるドネツク人民共和国及びルガンスク人民共和国の指導者からの両共和国独立の要請につき、それを認める法令を承認する意向をドイツ及びフランスの首脳に伝達(両国の首脳はプーチン大統領の意向に対し失望する旨表明した)、両地域の住民が集団虐殺の脅威に晒されているとして2月24日には両地域の平和を維持すべく特別軍事活動と呼ばれる事実上の軍事侵攻を開始、ウクライナ東部のみならず、首都キエフを含む同国各都市等を攻撃していると3月3日に至るまで伝えられる。

 (4) このように、プーチン大統領は欧米諸国や北大西洋条約機構(NATO)等との間での外交手段による事態の打開を少なくとも一旦は諦め、軍事力による問題(NATOの東方不拡大の法的保障とウクライナのNATO加盟防止が主要なものとされる)解決を図ろうとしているように見受けられることから、今後もプーチン大統領の意向に沿った内容でなければ、外交を通じた協議が短期的に大幅に進展する可能性はそれほど高くなく、むしろ軍事活動が継続される可能性があるものと考えられる。

 (5) また、2月25日には西側諸国等がロシアのプーチン大統領及びラブロフ外相に対し個人資産の凍結等の制裁を発動したうえ、2月26日には、欧米諸国がロシアの一部金融機関を国際銀行間通信協会(Swift)の国際決済体系から排除する他、ロシア中央銀行に対する外貨準備取引等を制限する旨の制裁を発動する旨の方針を決定した。

 (6) また、大手国際石油会社BPが保有するロシア大手石油会社ロスネフチの株式(19.75%)を全て売却する方針である旨2月27日に伝えられたうえ、大手国際石油会社シェル及びエクソンモービルもロシアで実施中の石油・天然ガス事業から撤退する方針を、それぞれ2月28日及び3月1日に発表した。

 (7) このように、ウクライナを巡り、ロシアに対する制裁措置を西側諸国等が強化する他、西側諸国等大手国際石油会社がロシアの事業からの事実上の撤退を表明したことに対し、ロシアが反発するとともに今後報復措置としてロシアが石油及び天然ガスといったエネルギー供給を削減するのではないかとの観測が市場で発生している他、既にロシア産原油購入等に際し銀行での決済に支障が発生しつつある結果、石油需要家等によるロシア産原油購入意欲が低下しており(それにより、例えばロシア産のウラル原油価格はブレント原油価格を相当程度下回るようになっている)、このような面を通じても、欧州を中心としてロシア産原油供給が事実上減少するものと考えられるうえ、今後もウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立状況に関する不透明感が強い状態にあることから、石油需給引き締まり感が市場で増大することを通じて、原油価格に上方圧力を加え続ける可能性があるものと考えられる。

 (8) 一方、ロシアからの実際の石油供給途絶の証拠が明確に見られないこともあり、OPECプラス産油国は、米国バイデン政権による減産措置縮小加速への働きかけにもかかわらず、今後の展開によっては、足元で原油価格上昇をもたらしている、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアの対立による石油供給途絶懸念が後退することにより、市場の心理が急変するとともに原油価格が急落する恐れがある(そしてそうなった場合にはOPECプラス産油国の緊急行動によっても価格急落抑制が困難になることもありうる)ことを考慮して、減産措置の縮小加速に慎重な姿勢を継続する結果、原油相場が下支えされやすいものと考えられる。

 (9) 他方、イラン核合意正常化に向けた西側諸国等とイランとの間での協議が最終段階を迎えており、そう遠くない時期に妥結する可能性があると、2月22日に伝えられる。

(10) もっとも、協議妥結後のイラン核合意正常化の手続きは段階的なものになると報じられており、第一段階としては、既存の核合意から逸脱している核開発活動をイランが核合意に定められている水準に戻すとともに、米国は現在実施中であるイランの対外資産の凍結の解除を実施する、と言われており、その後手続きの遵守状況が順調であれば、米国が対イラン制裁を緩和することにより事実上イラン産原油の輸出が認められると言った段取りになると見られることから、イラン核合意正常化に向けた協議妥結により、イランからの原油供給が直ちに拡大し始める訳ではない可能性がある。

(11) また、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりにより、イラン核合意正常化を巡る西側諸国等とイランとの協議過程が複雑化する(現在米国とイランとの間では協議は間接的に実施されており、その仲介役を欧州、ロシア及び中国が担っているが、この仲介役を担う諸国等間での作業の足並みが乱れる恐れがある)結果、協議の妥結時期が遅延する可能性もある。

(12) ただ、米国によるイランの原油輸出に関する制裁緩和前においても、早晩イラン原油輸出に関する制裁は解除される方向であるとの展望により、イランが原油輸出制裁緩和前に置いても、事実上前倒しで原油輸出拡大を開始するといった展開となることは否定できない。

(13) それでも、特にイラン陸上の油田は老朽化しているとされており、増産を急ぐと地下の圧力が異常を来し、生産が伸び悩む結果となる恐れがあることにより、イランが慎重に増産を進める結果、同国の原油生産増加ペースは緩やかなものになる可能性がある。

(14) 2016年1月16日に到達したイラン核合意による米国の対イラン制裁の事実上の解除後のイラン原油生産は最終的には対イラン制裁時に比べ日量100万バレル(日量290万バレルから同385万バレルへ)拡大したものの、毎月の増産ペースは日量1~29万バレル程度であり、増産には10ヶ月を要した。

(15) 2022年1月のイランの原油生産量は日量250万バレルであることにより、2018年5月8日の米国のイラン核合意離脱時のイランの原油生産量である日量385万バレルの水準にまで増産するとすれば、増産幅は日量130万バレル程度となるため、増産には1年程度の期間を要する可能性がある。

(16) また、イランの核合意正常化開始に伴うイランからの原油供給増加により、世界石油需給が緩和する恐れがあることから、OPECプラス産油国はイラン核合意正常化手続き開始後イランを減産措置に組み入れる(これまでは減産措置の適用外であった)方向で検討していると2月18日に伝えられるため、この面でも石油需給緩和に関し不透明感が漂う。

(17) 他方、3月15~16日には、米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、これまで0.00~0.25%であった政策金利を引き上げる旨同国金融当局が決定するとの観測が市場で広がっている。

(18) ただ、米国の消費者物価及び生産者物価の上昇率が高水準に到達する中、政策金利引き上げペースを加速すべきと示唆する関係者(ボウマン米国連邦準備制度理事会(FRB)理事等)と引き上げペースを加速し過ぎると経済に悪影響が及ぶと警告する関係者(ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁等)との間で、意見が分裂気味となっており、次回FOMCで0.25%の政策金利引き上げが決定する確率が2月14日時点では39.2%と前回FOMC終了後の1月27日時点の87.6%から低下した反面、0.50%の政策金利引き上げが決定する確率が60.8%と1月27日時点の12.4%から上昇、0.50%の政策金利引き上げを決定する確率が相当程度高まったものの、3月2日時点では、0.25%の金利引き上げ確率が96.3%、0.50%の金利引き上げ確率が3.7%と再び0.25%の金利引き上げ確率が極めて高くなるなど、市場の金利引き上げに関する認識も不安定な状態にある。

(19) このようなことから、当該会合での決定に市場の注目が集まることになるが、政策金利引き上げペースを加速する旨決定するようであれば、米国経済減速とリスク資産市場での緩和マネーの利用可能性低下観測が市場で広がる結果、原油相場を抑制する形で作用するものと考えられるが、足元の金利引き上げ確率通り0.25%の金利引き上げを決定するなど、当該金利引き上げが緩やかに実施される方向である旨示唆されるようであれば、インフレ抑制が遅延するとの観測が市場で拡大するとともにインフレ対策として原油を含む実物資産への投資が活発化する結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。

(20) また、2022年1月の減産措置参加OPECプラス産油20ヶ国による減産措置の縮小ペースは前月比で日量27万バレルと全体枠の同40万バレルを相当程度下回る状態となった。

(21) 2月の減産措置参加OPECプラス産油20ヶ国の原油生産量は明らかになっていないが、減産措置参加OPEC産油10ヶ国については前月比で推定日量23~29万バレル程度の増加となっている旨3月1日に伝えられており、OPEC産油国の増産枠相当分(日量25.4万バレル)に近い水準となっていることが示唆される。

(22) ただ、2月のロシアの原油生産量(コンデンセート含む)は日量1,106万バレルと前月比で日量6万バレルの増加となった旨3月1日に判明しており、これは1月の同国の原油生産量(コンデンセートを除く)の対前月比での増加量(同6.5万バレル)とほぼ同等の増加量であり、事実上の増加枠である同10.4万バレルを下回っている。

(23) 今後、OPECプラス産油国の前月比での減産措置縮小(つまり増産)量が事実上の増産枠を満たせないという状況が明らかになるようであれば、OPECプラスの生産能力不足による石油需給引き締まり感を市場が意識する結果、原油相場が上振れすると言った展開となることも想定される。

 

(参考1:2022年3月2日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)

26th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting concludes

No 06/2022
Vienna, Austria
02 Mar 2022

Following the conclusion of the 26th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting, held via videoconference on 2 March 2022, and based on internal consultation held exclusively by the OPEC and participating non-OPEC oil-producing countries in the Declaration of Cooperation of (DoC), it was noted that current oil market fundamentals and the consensus on its outlook pointed to a well-balanced market, and that current volatility is not caused by changes in market fundamentals but by current geopolitical developments.

The OPEC and participating non-OPEC oil-producing countries decided to:

  • Reaffirm the decision the decision of the 10th Ministerial Meeting on 12 April 2020 and further endorsed in subsequent meetings including the 19th Ministerial Meeting on 18 July 2021.
  • Reconfirm the production adjustment plan and the monthly production adjustment mechanism approved at the 19th Ministerial Meeting and the decision to adjust upward the monthly overall production by 0.4 mb/d for the month of April 2022, as per the attached schedule.
  • Reiterate the critical importance of adhering to full conformity and to the compensation mechanism taking advantage of the extension of the compensation period until the end of June 2022. Compensation plans should be submitted in accordance with the statement of the 15th Ministerial Meeting.
  • Hold the 27th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 31 March 2022.

 

以上

(この報告は2022年3月3日時点のものです)

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