ページ番号1009292 更新日 令和4年3月14日
原油市場他:ロシアのウクライナ侵攻に伴うロシアのエネルギー供給に対する懸念の高まりにより、約13年半ぶりの高水準へと上昇する原油価格
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概要
- 2月上旬から3月上旬にかけ、米国では、ガソリン及び留出油の需要が旺盛であったこともあり、両製品在庫は減少傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、そして留出油在庫は平年並みの、それぞれ量となっている。また、製油所での不具合発生等により原油精製処理量が減少した後、不具合の改修等による原油精製処理量の回復に加え、ウクライナ問題を巡りロシア産原油購入が敬遠された反面、米国産原油調達が活発化したと見られることに伴い米国からの原油輸出が促進されたと見られる結果、同国の原油在庫は増減しつつも微増となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。
- 2022年2月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国ではほぼ横這いとなった一方、欧州及び日本においては製油所での精製利幅が改善し続けたことが一因となり、原油精製処理活動の活発化を見込んで市場関係者による原油調達が進んだものと見られることもあり、両地域での原油在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では留出油及びプロパン/プロピレン在庫が減少したこともあり石油製品全体の在庫は減少した。また、欧州では新型コロナウイルス感染者数が減少したことに伴い個人の外出が促進されたり経済活動が活発化したりしたと見られることから、石油製品在庫は減少した。日本においても、冬場の気温低下により、暖房向けに灯油が消費され続けたこともあり、当該製品を中心として石油製品在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年幅下方付近に位置する量となっている。
- 2022年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場では、ロシアのウクライナ侵攻開始と西側諸国等の対ロシア制裁の強化等による、ロシアからの石油供給途絶懸念の市場での増大等が原油相場に上方圧力を加えた結果、2月11日には1バレル当たり93.10ドルの終値であった原油価格(WTI)は、3月11日には同109.33ドルへと上昇傾向となった他、3月8日には同123.70ドルの終値と2008年8月1日(この時は同125.10ドル)以来の高水準の終値に到達する場面も見られた。
- 市場の注目点は、まず、ウクライナ情勢緊迫化を巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりとロシア石油供給への影響であり、短期的にウクライナを巡る緊張が後退するようには見受けられないところからすると、この面では原油相場が下支えされたり、上方圧力が加わったりしやすいものと考えられる。他方、イラン核合意正常化を巡る西側諸国等とイランと間での協議妥結及び米国金融当局等による金利引き上げペース加速の可能性等の要因が原油相場の上昇を抑制する方向で作用するといった展開となることも否定できないものの、当面ウクライナ情勢を巡る石油市場の懸念の方が大きいと見られることから、これら要因による原油相場への影響は限定的になりやすいものと考えられる。また、米国での夏場のドライブシーズン到来に伴うガソリン需要期の接近と季節的な石油需給引き締まり感の市場での強まり、及びOPECプラス産油国の慎重な減産措置縮小方針等も、原油相場を上振れさせる形で作用しやすいものと見られる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が従来の方針に基づき2022年2月についても前月比で日量40万バレル減産措置を縮小する旨決定
(1) 協議内容等
2022年3月2日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国はビデオ会議形式で閣僚級会合を開催し、2021年7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定した、同年8月以降毎月前月比で日量40万バレル規模を縮小しながら実施中である減産措置(3月時点で日量256万バレル)に関し、従来方針に基づき2022年4月についても日量40万バレル規模を縮小して実施する旨決定した(表1参照)。現状石油需給が十分に均衡している他、今後も石油需給は十分均衡すると予想される旨OPECプラス産油国の見解は一致しており、足元の原油価格の変動は石油需給(バランス不均衡)によるものではなく地政学的リスク要因の展開(に伴う市場の懸念)によるものであるとした。
また、これまで減産目標を達成できていない減産措置参加産油国が2022年6月末までに減産目標未達成部分につき追加減産を実施(することにより減産目標を達成)することを含め、減産目標の完全遵守に固執することが極めて重要である旨再確認するとともに、(減産目標を完全達成するための)追加減産計画を提出するよう要請した。
なお、今回の閣僚級会合は3月2日午後1時半頃(オーストリア ウイーン時間)に開始され、13分間という短時間で終了したとされ、これは前回の閣僚級会合の開催時間である16分間を上回る記録的な短さであった。
他方、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立に伴い、ロシアからの石油等のエネルギー供給が脅かされるとの懸念が市場で増大しつつあったが、閣僚級会合における減産措置縮小に関する決定には、そのような事象は影響を与えなかったとされる。なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は3月31日に開催される予定である。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2022年2月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、2021年7月18日に開催された当該閣僚級会合で決定した方針に則り、3月のOPECプラス産油国減産措置の規模を前月比で日量40万バレル縮小する旨決定した。
当初予想された程には新型コロナウイルスオミクロン変異株感染者の入院確率及び重症化確率が高くないとの見方が市場で広がったことに加え、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりに伴う、ロシアからの石油供給途絶懸念等により、1月3日に1バレル当たり76.08ドルの終値であった原油価格(WTI)は2月1日には同88.20ドルの終値となるなど概ね上昇傾向となった(図1参照)。
また、1月3日時点では1ガロン当たり3.381ドルであった全米平均ガソリン小売価格は、1月31日には同3.464ドルとなる(図2参照)など、米国の消費者の不満が高まり始める同3ドルを相当程度超過し続けるなどした他、1月12日に米国労働省から発表された2021年12月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で7.0%の上昇と1982年6月(この時は同7.1%の上昇)以来の高水準に到達した他、1月13日に同省から発表された12月の同国生産者物価指数(PPI)も前年同月比で9.7%上昇と、2010年以降の同国月間生産者物価指数統計史上最高水準に到達した。
このようなことが一因となり、足元の米国バイデン大統領の支持率は2021年1月20日の就任時(同年1月21日時点で支持率55%、不支持率32%)以降の最低水準(2022年1月27日時点で支持率45%、不支持率50%)にまで低下した(ロイター/イプソス世論調査による)ことから、バイデン政権からサウジアラビア等のOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速に対する働きかけが行われ続けたものと見られる。
しかしながら、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は、2022年の世界石油需給バランスは供給過剰になるものと予想される中、現在の原油価格の上昇はそのような石油需給バランスを反映しているわけではなく、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの、もしくはイエメンとサウジアラビアやUAEとの、それぞれ対立の高まりによる、ロシアもしくは中東からの石油供給途絶の可能性に対する懸念等を織り込んだものであり、そのような懸念等が後退すれば、原油価格に大きな下方圧力が加わる結果原油価格が急落する恐れがあると認識しており、従って減産措置の緩和縮小の加速には慎重な姿勢であることが示唆された。
従って、OPECプラス産油国としては、むしろ減産措置縮小の停止も視野に入りうる状況であったが、一方で、ガソリン小売価格高騰等に苦慮する米国との関係維持にも配慮する必要があったことにより、これまでの方針通りの規模での減産措置の縮小継続を決定したものと考えられる。
前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催以降、2月24日にはロシアのウクライナへの事実上の侵攻が開始されたことにより、西側諸国等は対ロシア制裁を発動したが、その報復措置としてのロシアからのエネルギー供給削減の実施の可能性に対する懸念が市場で増大したことにより、前回閣僚級会合開催直前の2月1日に1バレル当たり88.20ドルの終値であった原油価格は3月1日には同103.41ドルの終値となるなど上昇傾向が継続した。
また、1月31日時点では1ガロン当たり3.464ドルであった全米平均ガソリン小売価格は、2月28日には同3.701ドルへと上昇し続けるなどした他、2月12日に米国労働省から発表された2022年1月の同国CPIが前年同月比で7.5%の上昇と1982年2月(この時は同7.6%の上昇)以来の高水準に到達した他、2月13日に同省から発表された2022年1月の同国PPIも前年同月比で9.7%の上昇と、2010年以降の月間統計史上最高水準付近(2021年12月のPPIは同9.8%の上昇へと上方修正された)の上昇率であった(図3参照)。このようなことが一因となり、足元の米国バイデン大統領の支持率は2021年1月20日の就任時以来の最低水準近辺で推移し続けた(3月1日時点で支持率43%、不支持率54%であった)。
他方、2月8日に米国バイデン政権のサキ報道官は、原油価格高騰への対処の一環として産油国との間で増産につき協議中である旨明らかにした(併せて消費国とは戦略石油備蓄からの石油の供給につき協議している旨示唆した)。2月9日も、米国のバイデン大統領とサウジアラビアのサルマン国王との間で電話協議が行われ、イエメンのフーシ派武装勢力による攻撃やイラン問題を含む中東安全保障につき意見交換が行われたことと併せ、安定したエネルギー供給の確保を重視することで両首脳の意見が一致した。このように、バイデン政権からサウジアラビア等のOPECプラス産油国に対し減産措置縮小加速に対する、一層の働きかけが行われ続けたことが示唆される。
しかしながら、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は、以前に比べ供給過剰幅は縮小しつつあるものの、2022年の世界石油需給バランスはなお供給過剰になると予想していた。3月1日に開催されたOPEC合同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)のために用意された2022年の世界石油需給バランスシナリオでは、石油供給過剰幅が以前の見通しに比べ日量20万バレル下方修正されたものの、依然として日量110万バレルの供給過剰となる旨示された(なお、このシナリオにおいては、ウクライナ情勢緊迫化に伴い発生しうるロシアからの石油供給減少は考慮されていないものと見られる)。
また、今次OPECプラス産油国閣僚級会合前の時点では、ロシアからの石油供給を直接制限するような西側諸国等による制裁は発動されていなかったこともあり、足元の原油価格の上昇は実際の石油供給不足によるものではなく、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりによる、ロシアからの石油供給途絶の可能性に対する懸念等によるものであり、そのような懸念が後退した場合、石油供給過剰感が市場で増大する結果、原油価格が急落する恐れがあり、従って減産措置の緩和縮小の加速には慎重な姿勢である旨、OPECプラス産油国は示唆し続けた。
2月14日には、アラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ エネルギー相が、原油価格の上昇要因はウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立に伴う懸念によるもので、実際に供給が不足していることによるものではない旨示唆した他、OPECプラス産油国による増産加速のためには、石油供給が不足しているとの証拠が示される必要がある旨明らかにした(マズルーイ エネルギー相は2月20日にも世界の石油供給はそれほど不足しておらず、原油価格はOPECプラス産油国全体の方針から離れた要因で変動しているとの認識を明らかにするなどしている)。
また、イラン核合意正常化に伴う西側諸国等とイランとの協議が妥結に向け最終段階にさしかかっていたことから、今後協議妥結後米国による対イラン制裁が緩和されるとともにイランからの原油供給が拡大した場合、原油相場に下方圧力が加わる可能性がある旨OPECプラス産油国間では不安視された(2月22日にはナイジェリアのシルバ(Sylva)石油相が、イランからの原油供給が今後拡大するであろうことにより、OPECプラス産油国の減産措置縮小を加速する必要はない旨主張している)。
このようなOPECプラス産油国の減産措置縮小加速に対する慎重な姿勢を反映し、今回のOPEC産油国閣僚級会合でも、従来の方針通りの規模での減産措置の縮小継続が決定されたものと考えられる。また、ウクライナを巡り西側諸国と対立するロシアがOPECプラス主要産油国であることもあり、サウジアラビアやUAE等と石油市場における利害が一致していることが、今般のOPECプラス産油国閣僚級会合での方針決定に影響していると示唆する向きもある。
(3) OPECプラス産油国閣僚級会合開催当日の原油価格の動き等
今回の閣僚級会合の結果に対し、ウクライナ情勢緊迫化に伴うロシアからの石油及び天然ガス等のエネルギー供給削減による石油需給引き締まりの可能性に対する懸念から、原油価格が上昇しつつある中、OPECプラス産油国が原油価格上昇沈静化のための減産措置縮小加速に後ろ向きの姿勢を示したと市場関係者が受け取った他、3月2日に米国のバイデン大統領がロシアの石油・天然ガス産業に対し制裁を発動する可能性を排除しない旨明らかにしたことから、会合開催当日の3月2日の原油相場には上方圧力が加わる格好となり、この日の原油価格の終値は1バレル当たり110.60ドルと、前日終値比での7.19ドルの上昇、2011年5月3日(この時は同111.05ドル)以来の高水準に到達した他、一時1バレル当たり112.51ドル(前日終値比1バレル当たり9.10ドル上昇)に到達する場面も見られた。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2021年12月の米国ガソリン需要(確定値)は日量895万バレル、前年同月比で13.9%程度の増加と11月の同12.4%程度の増加から増加率が拡大した(図4参照)が、需要量としては11月の日量899万バレルから若干ながら減少となっている。また、当該需要は速報値(前年同月比で15.1%程度増加の日量904万バレル)から下方修正された。12月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量65万バレル程度と推定されたところ、確定値では同94万バレルへと上方修正されたことにより、この分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。11月30日に109,294人であった同国の1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が12月31日には446,567人へと急速に増加したこともあり、個人の外出が敬遠された(12月の米国自動車運転距離数は1日当たり86億マイルと11月の同89億マイルから減少している)ことが、同国ガソリン需要に反映されたものと考えられる。なお、2021年12月のガソリン需要は2019年12月の水準(日量897万バレル(確定値))を0.3%程度下回っている。他方、2022年2月の同国のガソリン需要(速報値)は日量875万バレル、前年同月比で13.0%程度の増加となっており、1月の当該需要(速報値)の日量834万バレル、前年同月比8.8%程度の増加から、需要量及び増加率が拡大している。1月31日には661,964人であった1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が、2月28日には107,799人へと大幅に減少したこともあり、個人の外出が促されたことにより、2月の米国自動車運転距離数(速報値)が1日当たり推定83億マイルと1月の同81億マイルから増加したことが、当該需要の伸びに影響しているものと思われる。なお、2022年2月の同国ガソリン需要は2020年2月の当該需要(日量905万バレル(確定値))を3.1%程度下回っている。一方、2月上旬の米国南部への寒波来襲に伴い同国メキシコ湾岸地域で発生した停電等により一部の製油所が稼働を停止する場面が見られたものの、その後操業が再開したことに加え、春場の製油所でのメンテナンス作業の終了したことが、米国の製油所での稼働とともに原油精製処理量を下支えするなどした(図5参照)。このため、米国では製油所でのガソリン生産はそれなりに堅調に行われたと見られる(ガソリン最終製品生産量は図6参照)ものの、ガソリン需要が比較的旺盛であったことにより相殺されて余りあったことから、2月上旬から3月上旬にかけ同国のガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る量は維持されている(図7参照)。
2021年12月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量393万バレルと前年同月比で1.1%程度の増加となり、11月の日量417万バレル、同7.6%程度の増加から需要量が減少した他前年同月比での伸びも鈍化した。また、速報値である日量408万バレル(同4.9%程度の増加)からも下方修正された(図8参照)。12月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量103万バレル程度と推定されたところ、確定値では同134万バレルへと上方修正されたことにより、この分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。オミクロン変異株等による新型コロナウイルス感染者数拡大に伴う工場等の労働者の欠勤が一因となり12月の同国鉱工業生産が前年同月比で3.7%の増加と11月の同5.0%の増加から伸びが低下したことに加え、2021年12月は前年同月に比べ米国北東部が温暖であったことにより暖房油需要が前年同月比で減少したと見られることが、留出油需要の伸びの鈍化をもたらしたものと考えられる。なお、2021年12月の米国留出油需要は2019年12月の当該需要(日量393万バレル(確定値))を0.1%程度上回っている。他方、2022年2月の留出油需要(速報値)は日量437万バレルと前年同月比で10.6%程度の増加となったが、1月の当該需要(速報値)である前年同月比12.8%程度の増加からは伸びが鈍化している。新型コロナウイルス感染者数が1月末から2月末にかけ大幅に減少したことに伴い工場等の労働者の欠勤が収束に向かったことが一因となり2月の同国鉱工業生産は前年同月比で推定7.1%の増加と1月の同3.3%の増加から増加率が拡大するとともに、物流活動が活発化したと見られることが、同月の留出油需要を押し上げる方向で作用したと見られるものの、2月は米国の暖房油需要の中心地である北東部の気温が前半を中心としてしばしば平年及び前年同月の水準を上回ったことにより、暖房油需要が低迷したことが、留出油需要の伸びを鈍化させる格好となったものと考えられる。なお、2022年2月の米国留出油需要は2020年2月の当該需要(日量408万バレル(確定値))を6.0%程度上回っている。ただ、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用留出油需要期終了が視野に入りつつあったこともあり、製油所での留出油生産活動はもたつき気味であった(図9参照)ことから、2月上旬から3月上旬にかけ留出油在庫は減少傾向となった(図10参照)他、平年並みの量となっている。
2021年12月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で10.4%程度増加の日量2,076万バレルとなり、同年11月の同2,060万バレル(前年同月比9.9%程度の増加)から需要量が増加した他前年同月比での増加率も拡大した(図11参照)。ガソリン需要の前年同月比での増加が石油需要全体の前年同月比での増加率の拡大に寄与した一方、冬場の暖房シーズンに備えてLPGの購入が進んだと見られることもあり、12月のプロパン/プロピレンの需要が11月に比べ相当程度増加したことが、同国の石油需要の前月比での伸びに反映される格好となっている。ただ、ガソリン、留出油及びその他の石油製品等の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたこともあり、米国石油需要は速報値(前年同月比で13.1%程度増加の日量2,072万バレル)から下方修正されている。なお、2021年12月の米国石油需要は、2019年12月の当該需要(日量2,044万バレル(確定値))を1.6%程度上回っている。他方、2022年2月の米国石油需要(速報値)は日量2,164万バレルと前年同月比で24.0%程度の増加となっている。その他の石油製品の需要が前年同月比で62.4%と大幅な伸びとなっていることが米国石油需要の前年同月比での需要増加率に寄与する格好となっているが、同月のその他の石油製品需要(速報値)は日量502万バレルと2021年1~12月の当該需要(確定値)である同308~462万バレルと比較しても明らかに高水準であることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正される結果、同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。なお、2022年2月の米国石油需要は、2020年2月の当該需要(日量2,013万バレル(確定値))を8.0%程度上回っている。また、2月上旬から3月上旬にかけ米国国内原油生産は概ね日量1,160万バレルで横這いとなった一方、2月上旬の寒波来襲により米国メキシコ湾岸地域の製油所で装置不具合が発生したこと等により原油精製処理量が減少する場面が見られ、これが米国原油在庫の減少を抑制する形で作用した。しかしながら、その後原油精製処理量が回復したことに加え、ウクライナ情勢の緊迫化に伴う西側諸国等とロシアとの対立の高まりにより、特に欧州諸国等の市場関係者がロシア産原油の調達を敬遠する代わりに米国等他の産油国からの原油の調達を活発化したことが一因となり、米国からの原油輸出が促進された結果、原油在庫が減少する場面が見られた。このようなことにより、2月上旬から3月上旬にかけての米国原油在庫は増加したり減少したりした結果、全体としては、微増となり、平年幅上限を上回る状態は継続している(図12参照)。そして、留出油在庫が平年並みの量となっているものの、原油在庫及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図13及び14参照)。
2022年2月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国ではほぼ横這いとなった一方、欧州及び日本においては、2021年12月後半~2022年1月初頭以降、製油所での精製利幅が改善し続けたことが一因となり、製油所での原油精製処理活動の活発化を見込んで市場関係者による原油調達が進んだものと見られることもあり、両地域での原油在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図15参照)。石油製品については、米国では留出油在庫が減少したことに加え冬場の暖房向けプロパンの季節的な需要の盛り上がりに伴いプロパン/プロピレン在庫が減少したこともあり石油製品全体の在庫は減少した。欧州では、1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が1月18日に1,898,108人で頭打ちとなった後、3月1日には736,770人へと減少したこともあり、当該地域の個人の外出が促進されたり経済活動が活発化したりしたと見られることから、当該地域の製油所の石油製品製造活動は比較的旺盛に行われたにもかかわらず、石油製品在庫は減少した。日本においても、冬場の気温低下により、暖房向けに灯油が消費され続けたこともあり、当該製品を中心として石油製品在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年幅下方付近に位置する量となっている(図16参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る量である一方、石油製品在庫が平年幅下方付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上方付近に位置する量となっている(図17参照)。なお、2022年2月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は57.3日と1月末の推定在庫日数(57.8日)から減少している。
2月9日に1,400万バレル台前半程度の水準であったシンガポールのガソリンを含む軽質留分在庫は、2月16日は前週比で減少したものの依然1,400万バレル台前半程度の量であった。2月23日には1,400万バレル台半ば程度の量へと増加したものの、3月2日及び9日には1,300万バレル台後半程度の水準へと低下するなど、当該在庫は若干ながら減少傾向となった。中国政府が、2022年第一回の石油製品輸出枠を中国企業に対し付与したと1月4日に伝えられたが、ガソリン等の石油製品輸出枠(低硫黄重油を除く)が前年第一回の輸出枠に比べ大幅に縮小している(内訳はガソリン、ジェット燃料及び軽油が合計で1,300万トン、低硫黄重油が650万トンとなっており、ガソリン、ジェット燃料及び軽油輸出枠は2021年第一回の石油製品輸出枠(2,950万トン)の44%程度にとどまった一方、低硫黄重油輸出枠は前年第一回の輸出枠(500万トン)の1.3倍となった)こともあり、中国からのシンガポール向けガソリン輸出がもたつき気味であったことに加え、北東アジアの一部諸国の製油所が春場のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあったこともあり、それら諸国からのシンガポール向けの輸出が影響を受けたこともあり、シンガポールのガソリン輸入は概して不安定であった。他方、ベトナムのニソン(Nghi Son)製油所(原油精製処理能力日量20万バレル)が原油調達のための資金手当につき株主間で意見が一致しなかったことにより80%の減産となった(1月25日にその旨伝えられた)ことに伴い、シンガポールからベトナムに向けガソリンが輸出されたことに加え、1月12日には175,271人の史上最高水準に到達した1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が3月11日には35,077人へと減少した豪州や2月16日に64,718人の史上最高水準に到達した1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が3月11日には16,110人へと減少したインドネシア等で個人の外出が活発化したと見られることとともにシンガポールからのガソリン輸出が促進され始めたことが、シンガポールでの軽質留分在庫を抑制する格好となったものと考えられる。そして、シンガポールの軽質留分在庫がもたつき気味となったことに加え、アジア諸国の製油所が春場のメンテナンス作業実施によりそれら製油所からの軽質留分供給が減少するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場でのガソリン価格に上方圧力を加えた一方、原油価格の上昇にガソリン価格の上昇が追い付かなかったことにより、2月中旬から3月初頭頃まではアジアのガソリンとドバイ原油の価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は乱高下しながらも比較的限られた範囲内で推移していたが、3月初頭から同月中旬にかけては原油価格の上昇速度が速くなったことによりガソリン価格の上昇が追い付かなくなったことから、両者の価格差が縮小する傾向が見られた。
また、半導体不足が自動車を含む製品の製造に影響を及ぼしたこともあり、それら製品に使用されるプラスチック需要がもたつき気味となっていることに伴い、ナフサからプラスチック製品を製造する利幅が縮小していることもあり、日本、韓国及び台湾等アジア地域の一部のナフサ分解装置の稼働が低下したことに加え、2月11日(現地時間午前9時26分頃とされる)に韓国の麗川NCC(YNCC)が操業する麗川(Yeochun)第三ナフサ分解装置(エチレン生産能力年産47万トン)で爆発事故が発生し同装置の操業が停止、修理のため操業再開まで長期を要するとの見方が市場で発生したうえ、2月22日には同じくYNCCの麗川第一ナフサ分解装置(同90万トン)が停電のため操業を停止した(3月2日に操業を再開したとされる)こと等により、原料となるナフサの需要が減少するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えた一方、アジアやアジアにナフサを輸出する中東での製油所の春場のメンテナンス作業実施時期突入によりナフサ供給が減少することに加え、ウクライナ情勢の緊迫化による西側諸国等のロシアに対する制裁措置発動に伴い、アジア(特に韓国)等にナフサを輸出するロシアからのナフサ輸出が影響を受ける恐れがあるとの見方が市場で発生したことがアジア市場でのナフサ価格を下支えした一方、原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かなかい場面が見られたことにより、2月中旬から3月中旬にかけてのナフサとドバイ原油の価格差は、概ねナフサ価格がドバイ原油価格を若干上回りつつ総じて限られた範囲で推移しながらも、ナフサ価格がドバイ原油価格を下回る局面もあった。
2月9日には700万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、2月16日も700万バレル台半ば程度の量であった。2月23日には700万バレル台前半程度の水準へと減少したものの、3月2日及び9日には800万バレル弱の量へと増加するなど、シンガポールでの中間留分在庫は比較的限られた範囲で変動するとともに、3月9日のシンガポールの中間留分在庫は2月9日の量を若干上回るにとどまる状態となっている。2021年12月以降シンガポールで低水準の中間留分在庫が継続していたことにより、アジアの軽油需給に引き締まり感が発生したこともあり、同地域の軽油価格が欧州の軽油価格を上回る場面が見られるようになったことにより、中東方面からシンガポールに向け軽油が輸出される場面が見られたことが、シンガポールでの中間留分在庫を下支えした一方、アジア諸国等の製油所が春場のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあることにより、これら諸国からの中間留分輸出が不活発化するとともに国外からの中間留分輸入が促進されたことが、シンガポールの中間留分在庫を抑制する形で作用したものと考えられる。そして、このようにシンガポールでの中間留分在庫が比較的限られた範囲で推移したことから、2月中旬から3月中旬にかけては、例えばアジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大もしくは縮小傾向を示すことはなかったものの、3月上旬には原油価格の上昇に軽油価格の上昇が追い付かなかった結果、軽油とドバイ原油の価格差が一時的にせよ縮小する場面が見られた。
2月9日に2,200万バレル前半程度の量であったシンガポールの重油在庫は、2月16日には2,400万バレル台前半程度の量へと増加したものの、2月23日には2,100万バレル台前半程度の量へと減少した。3月2日には2,100万バレル後半程度、3月9日には2,300万バレル強程度の量となり、3月9日のシンガポールの重油在庫の量は2月9日の量を上回る状態となった他。欧州での高水準の天然ガス価格により発電部門等において相対的に割安な重油への燃料転換が発生していることが、当該地域での重油価格を押し上げる格好となっていることもあり、アジア市場の欧州方面から重油流入が低下した他、アジア諸国等が春場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入しつつあることにより、これら諸国の国外への重油供給が低下するとともに、国外市場からの重油調達が活発化していることが、シンガポールでの重油在庫を減少させる形で作用したものの、冬場の暖房シーズンが残り少なくなってきたこともあり、空調のための発電部門等での重油需要が後退し始めたことが、シンガポールでの重油在庫を下支えする格好となった。このようなことから、2月中旬から3月上旬にかけての低硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は明確な拡大傾向及び縮小傾向を湿すことはなかったものの、この時期原油価格が乱高下気味で推移したことにより、価格差が相当程度変動する場面が見られた。ただ、3月中旬初頭頃にはドバイ原油価格の下落に低硫黄原油価格の下落が追い付かなかったことから、低硫黄重油とドバイ原油の価格差は拡大した。また、高硫黄重油とドバイ原油の価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)も2月中旬から3月上旬前半頃にかけては明確な拡大傾向及び縮小傾向は見られなかったものの、3月上旬後半頃には原油価格の上昇に重油価格の上昇が追い付かなかったこともあり、価格差が拡大する場面も見られた。それでも、3月中旬初頭頃にはドバイ原油価格の下落に高硫黄原油価格の下落が追い付かなかったことから、高硫黄重油とドバイ原油の価格差は縮小した。
3. 2022年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場等の状況
2022年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場では、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まり、ロシアによるウクライナ侵攻の開始、及び西側諸国等の対ロシア制裁の強化等による、ロシアからの石油供給途絶に伴う世界石油需給引き締まり懸念の市場での増大、3月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で原油価格が上昇基調となっているにもかかわらず4月の原油生産につき従来方針通り前月比日量40万バレルの減産措置縮小にとどめる旨決定したこと、協議妥結目前とされたイラン核合意正常化に関しロシアの要求により協議が複雑化したことに伴うイランからの早期原油供給拡大期待の後退、米国原油在庫等の減少等が原油相場に上方圧力を加えた結果、2月11日には1バレル当たり93.10ドルの終値であった原油価格(WTI)は、3月11日には同109.33ドルへと上昇傾向となった他、3月8日には同123.70ドルの終値と2008年8月1日(この時は同125.10ドル)以来の高水準の終値に到達する場面も見られた(図18参照)。
2月16日にロシアがウクライナ侵攻もしくはウクライナ国内紛争を事実上開始するとの情報がある旨ウクライナのゼレンスキー大統領が2月14日に明らかしたこともあり、ロシアのウクライナ侵攻等による、西側諸国等の対ロシア制裁発動、そして報復措置としてのロシアの石油・天然ガス輸出削減に対する懸念が市場で増大したことから、2月14日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.36ドル上昇し、終値は95.46ドルと、2014年9月29日(この時は同94.57ドル)以来の高水準の終値に到達した。ただ、2月15日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、ウクライナとの国境地帯に配備され軍事演習を実施していたロシア軍の一部(西部及び南部軍管区部隊)が2月15日に自国の恒久的基地へと撤収し始める旨ロシア国防省が発表したと同日伝えられたことにより、ウクライナを巡る西側諸国等とロシアとの対立を巡る懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり92.07ドルと前日終値比で3.39ドル下落した。しかしながら、2月16日には、ウクライナとの国境地帯からのロシア軍の撤収が確認できないばかりでなく、かえってロシアは軍備を増強しつつある旨の見解を2月16日に北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務局長及び米国国務省のブリンケン長官が明らかにしたことで、ウクライナ情勢を巡る西側諸国等とロシアとの対立に対する懸念が市場で再燃したことに加え、2月16日にEIAから発表された米国石油統計(2月11日の週分)で、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で190万バレル減少の2,583万バレルと2018年9月28日(この時は2,449万バレル)以来の低水準に到達したうえ、2月11日までの4週間平均の米国石油需要が日量2,211万バレルと1990年12月以降の米国週間石油統計史上最高水準に到達したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.59ドル上昇し、終値は93.66ドルとなった。2月17日には、イラン核合意正常化のための西側諸国等とイランとの協議が「極めて最終の段階にある」旨米国国務省のプライス報道官が2月16日午後(米国東部時間)に明らかにした一方、協議がかつてないほどに妥結に接近している旨イラン外務省のバゲリ次官が表明したと2月16日午後(同)に伝えられたうえ、韓国のイランからの原油輸入再開と韓国におけるイラン向け銀行口座の凍結解除等につき両国が協議中である旨2月17日に伝えられたこと、別途米国とイランが段階的に核合意正常化手続きを進める旨の案が策定され調整が行われている旨2月17日に報じられたことにより、当該核合意が正常化することに伴い、米国の対イラン制裁が緩和されるとともに、イランからの原油供給が拡大、石油需給が緩和するとの観測が市場で増大したことから、この日(2月17日)の原油価格の終値は1バレル当たり91.76ドルと前日終値比で1.90ドル下落した。2月18日も、イラン核合意正常化のための西側諸国等とイランとの協議が進展していることに伴い、当該協議が妥結することにより、米国の対イラン制裁が緩和するとともにイランからの原油供給が拡大するとの観測が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、米国のブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相が翌週後半に会談を実施することで合意した(ロシアがウクライナを侵攻しないことが条件)旨2月17日夜(米国東部時間)に米国国務省のプライス報道官が発表したこと(当該協議は2月24日に実施される旨2月18日夕方(同)にバイデン大統領が明らかにしている)により、外交努力によりロシアのウクライナ侵攻が回避できるかもしれないとの期待が市場で発生したこと、2月18日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で520基と前週比で4基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は499基と同6基増加)となっている旨判明したことから、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり0.69ドル下落し終値は91.07ドルとなった。この結果原油価格は2月17~18日の2日間で1バレル当たり合計2.59ドル下落した。
2月21日は、米国ワシントン大統領誕生記念日に伴う休日により、米国原油先物契約価格の終値は計上されなかったが、親ロシア派勢力が事実上支配するウクライナ東部のドネツク人民共和国及びルガンスク人民共和国から要請されていたウクライナからの独立を承認する他、当該地域での平和維持活動のためロシア軍を派遣する旨、2月21日午後(米国東部時間)にロシアのプーチン大統領が決定した一方、ロシアからドイツへと天然ガスを輸送する予定であるノルドストリーム2の操業開始承認手続きを停止する旨2月22日にドイツのショルツ首相が表明したことにより、西側諸国等とロシアとの対立の高まりと、ロシアからのエネルギー供給への影響に対する懸念が市場で増大したことから、2月22日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.28ドル上昇し、終値は92.35ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2022年3月渡し原油先物契約は取引を終了したが、4月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり91.91ドル(前日終値比1.70ドルの上昇)であった)。2月23日の原油価格の終値は1バレル当たり92.10ドルと前日終値比で0.25ドル下落したが、NYMEX4月渡し原油先物契約間では、前日終値比で1バレル当たり0.19ドルの上昇であった。これは、2月23日にウクライナ政府や議会等に対し大規模なサイバー攻撃が実施された一方、ウクライナ政府が非常事態宣言を発出したことにより、同国とロシアとの対立の高まりとロシアからのエネルギー供給に対する影響への懸念が市場で増大したことによる。2月24日は、この日ロシアのプーチン大統領がウクライナに対し特別軍事活動の実施を承認した後、ウクライナ各地でロシア軍からと見られる攻撃が実施されている旨同日伝えられたことにより、西側諸国等によるロシアからのエネルギー調達制限を含む厳しい制裁の発動の可能性と、世界エネルギー需給への影響に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.71ドル上昇し、終値は1バレル当たり92.81ドルとなった。ただ、2月25日には、ロシアのプーチン大統領にとってではなく、米国の消費者にとって有害となる恐れがあることにより、同国バイデン政権はロシア産原油に対し制裁を発動する意向はない旨、2月25日にホクシュタイン(Hochstein)米国国務省エネルギー安全保障担当上級顧問が明らかにしたことにより、西側諸国等によるロシアからの原油供給制限に対する懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり91.59ドルと前日終値比で1.22ドル下落した。
しかし、2月25日午後遅く(米国東部時間)、米国、カナダ、英国及び欧州連合(EU)が、ロシアのプーチン大統領及びラブロフ外相に対し米国内の資産凍結と米国人との取引禁止等を内容とする制裁を発動する旨明らかにしたことに加え、2月26日に、欧米諸国がロシアの一部金融機関を国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際資金決済体系から排除する他、ロシア中央銀行に対する外貨準備取引等を制限する旨の制裁を発動する方針を発表したこと、大手国際石油会社BPがロシア大手石油会社ロスネフチの株式保有分(19.75%)を全て売却する方針である旨2月27日に伝えられたうえ、大手国際石油会社シェルもロシアでの事業から撤退する方針である旨2月28日に発表したことにより、これら石油会社によるロシアからの石油調達が減少するとの観測が市場で増大したこと、核兵器使用を含む核抑止力担当部隊に対し警戒態勢を特別な段階にまで強化する様2月27日にロシアのプーチン大統領が指示したことにより、西側諸国等とロシアとの対立の高まりに対する懸念とロシアからの石油等のエネルギー供給に対する懸念が市場で増大したことから、2月28日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり4.13ドル上昇し、終値は95.72ドルとなった。また、米国等が6,000万バレル程度の戦略石油備蓄放出する旨3月1日にIEAが発表したものの、ロシアのウクライナ侵攻に伴うロシアからの石油供給途絶の可能性に対する懸念を緩和するには力不足であるとの見方が市場で発生したことに加え、ロシア軍がウクライナの住宅、学校及び病院等民間人に対して攻撃を行いつつある旨3月1日に米国のブリンケン国務長官が示唆したことにより、今後の西側諸国等によるロシアへのさらなる制裁の発動とロシアのエネルギー供給への影響に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり103.41ドルと前日終値比で7.69ドル上昇した。また、ロシアのサハリン1プロジェクトから撤退するための手続きを開始する旨大手国際石油会社エクソン・モービルが3月1日夜(米国東部時間)に明らかにしたことにより、ロシアからの石油供給等がさらに減少するとの観測が市場で増大したことに加え、3月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で、2022年4月についても、従来方針通り前月比で日量40万バレルの減産措置縮小を決定したことに対し、OPECプラス産油国が原油価格上昇沈静化のための減産措置縮小加速に後ろ向きの姿勢を示したと市場関係者が受け取ったこと、3月2日にEIAから発表された米国石油統計(2月25日の週分)で、原油在庫が前週比260万バレルの減少と市場の事前予想(同250~270万バレル程度の増加)に反し減少していた他、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比97万バレルの減少となった旨判明したこと、3月2日に米国のバイデン大統領がロシアの石油・天然ガス産業に対し制裁を発動する可能性を排除しない旨明らかにしたことにより、ウクライナ情勢緊迫化に伴う米国を含む西側諸国等の対ロシア制裁強化とロシアからの石油供給減少懸念が市場で増大したことから、この日(3月2日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり7.19ドル上昇し、終値は110.60ドルとなった。この結果原油価格は2月28日~3月2日の3日間で1バレル当たり合計19.01ドル上昇した。ただ、3月3日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、IAEAのグロッシ事務局長が、3月5日にイランを訪問し協議を行う予定であり、これがイラン核合意正常化に貢献する可能性がある旨イランの外交及び軍事政策を統括する同国国家安全保障最高評議会系報道機関であるヌール通信が3月2日夕方(米国東部時間)に報じたことにより、イラン核合意正常化に向けた西側諸国等とイランとの協議が近いうちに妥結する結果、ウクライナ問題を巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりによるロシアからのエネルギー供給への影響を一部緩和する可能性があるとの観測が3月3日の市場で発生したことから、この日(3月3日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.93ドル下落し、終値は107.67ドルとなった。それでも、3月4日には、この日ウクライナのザポリジエ(ザポリージャ:Zaporizhzhia)原子力発電所(6基の原子炉による総発電能力600万kWで単一の原子力発電施設としては欧州最大とされる)を3月4日未明(現地時間)にロシア軍が攻撃した結果、一部施設(研修用施設とされる)で火災が発生した他、その後当該発電所をロシア軍が制圧したことにより、西側諸国等により対ロシア制裁が強化されることを通じ、ロシアからのエネルギー供給が影響を受けるのではないかとの懸念が市場で増大したことに加え、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが4月の米国、欧州及びアジア向け原油販売価格を大幅に引き上げる旨3月4日に発表したこと、米国のバイデン大統領が、同国のロシア産原油輸入禁止につき検討している旨3月4日午後(米国東部時間)に報じられたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり115.68ドルと前日終値比で8.01ドル上昇した他、この日の原油価格の終値は2008年9月22日(この時は1バレル当たり120.92ドル)以来の高水準なものであった。
また、米国が欧州等の同盟国とロシアからの石油輸入禁止可能性につき協議中である旨3月6日に米国のブリンケン国務長官が示唆したことに加え、ウクライナ北東部ハリコフにある核研究施設をロシア軍がロケット弾で攻撃した旨3月6日にウクライナ保安局が発表したこと、イラン核合意正常化に向けた西側諸国等とイランとの協議に際し、米国の対ロシア制裁発動がロシアとイランの貿易等に深刻な影響を与えない旨保証するようロシアが米国に要求した旨3月7日に報じられたことにより、当該協議過程が複雑化するとともに協議の妥結及びイランからの原油供給拡大が遅延するとの懸念が市場で発生したこと、リビア西部内陸部のシャララ油田(原油生産量日量30万バレル程度)及びエル・フィール油田(同3万バレル程度)で生産された原油を沿岸部の石油ターミナルに輸送する原油パイプラインの操業が武装勢力により強制的に停止させられたことに伴い、両油田での原油生産も停止した結果、同国の原油生産量が日量33万バレル減少した旨3月6日に報じられた(なお、その後当該パイプラインの操業とともに両油田の原油生産が再開した旨同国国営石油会社NOCが3月8日に明らかにしている)ことから、3月7日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.72ドル上昇し、終値は119.40ドルとなった他、3月6日夜間(米国東部時間)の時間外取引開始時には一時1バレル当たり130.50ドルに到達する場面も見られた。3月8日も、この日米国のバイデン大統領がロシアからの原油及び天然ガス等のエネルギー輸入を禁止する旨発表した他、英国も2022年末にかけ段階的にロシア産原油輸入を停止する旨3月8日に発表したことにより、欧米諸国における石油需給引き締まり観測が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり123.70ドルと前日終値比で4.30ドル上昇、2008年8月1日の終値(この時は同125.10ドル)以来の高水準に到達した。また、この結果原油価格は3月7~8日の2日間で1バレル当たり合計8.02ドルの上昇となった。ただ、3月9日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、必要であれば、IEA加盟国の備蓄石油の追加放出を実施する可能性がある旨、3月9日に国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が示唆したこと、駐米アラブ首長国連邦(UAE)大使であるアルオタイバ(al-Otaiba)氏が、UAEは原油増産加速を支持しており、他のOPECプラス産油国にも増産加速を推奨する旨3月9日に発言したこと、ロシアとの間での事実上の戦争状態が続くウクライナのゼレンスキー大統領が、戦争終結のために妥協する用意がある旨明らかにしたと3月9日に報じられたこともあり、ロシアとウクライナの戦争終結に伴い西側諸国等の対ロシア制裁が緩和するとともにロシアからの原油等の供給への影響が限定されるとの見方が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり108.70ドルと前日終値比で15.00ドル下落、この日の下落幅は2020年4月20日(この日の原油価格の終値は1バレル当たりマイナス37.63ドルと前日終値比で55.90ドルの下落)以来の大幅なものであった。また、3月10日も、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で継続したことに加え、ロシアのプーチン大統領が、自国のエネルギー供給に関する義務を履行し続ける旨3月10日に発言したこともあり、同国からのエネギー供給途絶を巡る市場の懸念が後退したこと、3月10日に米国労働省から発表された2月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で7.9%の上昇と1982年1月(この時は同8.4%の上昇)以来の高水準に到達したこともあり、米国金融当局による金融引き締め策加速に伴う同国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化観測が市場で増大するとともに、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.68ドル下落し、終値は106.02ドルとなった。この結果原油価格は3月9~10日の2日間で1バレル当たり合計17.68ドル下落した。ただ、3月11日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、イラン核合意正常化に向けた西側諸国等とイランとの協議に関し、外生的要因(後述)により当該協議を中断する旨EUのボレル外交安全保障上級代表(外相)が3月11日に明らかにしたことにより、核合意正常化に伴う米国の対イラン制裁緩和及びイランからの原油供給拡大時期が遅延するとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.31ドル上昇し、終値は109.33ドルとなった。
4. 原油市場における主な注目点等
石油市場関係者の足元の注目の中心は地政学的リスク要因であり、またその中でも圧倒的にウクライナ情勢を巡る西側諸国等とロシアとの対立が石油(及び天然ガス)市場に与える影響についてであるものと考えられる。
2月14日には、ロシアのプーチン大統領とラブロフ外相が協議を行い、ウクライナを巡る問題解決に向け外交努力を継続することを、プーチン大統領は承認した。また、ウクライナのゼレンスキー大統領は2月14日にドイツのショルツ首相と会談したが、その際北大西洋条約機構(NATO)加盟への希望は持ち続けるものの、直ちに加盟を希望するというわけではなく、加盟への道程は依然長いものであると認識している旨示唆した。2月15日には、ロシアのウクライナとの国境地帯で軍事演習を実施していたロシア軍が自国の基地に向け撤収を開始した旨発表した。ただ、同日米国のバイデン大統領はロシアとの間での外交手段によるウクライナ問題の解決努力に対し同意する旨表明したが、ウクライナ国境付近には依然15万人超のロシア軍事関係者が配備されており、撤収を開始したとのロシア側の主張は確認できない旨明らかにした。また、2月15日にはウクライナ国防省や同国の金融機関2行がサイバー攻撃を受けた旨明らかになった。さらに、2月15日にドイツのショルツ首相はロシアのプーチン大統領と会談したが、その後の記者会見で、プーチン大統領はウクライナ東部のロシア市民である親ロシア派勢力が(ウクライナ政府により)殺害されており、それはジェノサイド(集団虐殺)に当たるものであると認識している旨明らかにした(ショルツ首相はそれはジェノサイドには当たらない旨示唆した)。2月16日にはNATOのストルテンベルグ事務局長が、ロシアはむしろウクライナ国境地帯で軍を増強しつつあるとして、ロシアの行動を批判した。同日ブリンケン国務長官も、ロシア軍はウクライナ国境にむしろ接近している他、さらに同日米国政府幹部は、ロシアは7,000人程度の軍事関係者を国境地帯に追加で配備しているとして、国境地帯から軍を撤収しているとのロシア側の発言を疑問視する旨、それぞれ示唆した。また、2月17日には、ウクライナ軍が迫撃砲を使用して攻撃するなどの停戦違反行為を行っている旨ウクライナの親ロシア派勢力が主張したとロシア報道機関が伝えたが、ウクライナ政府軍は親ロシア派勢力が攻撃を行ったと主張した(また、2月17日に英国のトラス外相は親ロシア派勢力による主張は虚偽である旨批判した)。そしてこの日(2月17日)からウクライナ東部での戦闘が激しさを増していると2月18日に伝えられ、2月18日にはロシアのプーチン大統領もウクライナ東部の状況が悪化しつつある旨表明した。また、同日米国のバイデン大統領が、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を決断したと確信できる証拠が見出せる旨表明した。さらに、ウクライナとの国境地帯等にはロシア軍事関係者16.9~19.0万人が配備されている、との見解を2月19日に米国のカーペンター欧州安全保障協力機構(OSCE)担当大使が明らかにした。
2月21日には、ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部を事実上支配する親ロシア派勢力によるドネツク人民共和国及びルガンスク人民共和国から2月21日に要請されていたウクライナからの独立につき、承認する意向である旨、ドイツとフランスの首脳に伝達した(両首脳は失望の意を表明した)。同日プーチン大統領は、両共和国の独立を承認する法令に署名するとともに、平和維持活動の実施を決定した(また、2月22日にはプーチン大統領は、ウクライナ東部におけるウクライナ政府と親ロシア派勢力との間での停戦合意であるミンスク合意(2015年2月11日締結)は今般の両共和国独立承認以前からその効力が失われていた他、独立を承認したドネツク及びルガンスク両人民共和国の領土は、それぞれウクライナのドネツク州及びルガンスク州全体であるとの認識を明らかにした)。これに対し2月22日に米国のバイデン大統領は、ロシア国営開発対外経済銀行(VEB)等ロシア大手金融機関2行に対し金融取引制限等の制裁を発動する方針である旨発表した。2月24日にロシアのプーチン大統領はウクライナに対し特別軍事活動を実施する旨決定するととともに、ロシア軍による事実上のウクライナ侵攻を開始した(ウクライナの非武装化が侵攻の目的であるプーチン大統領はこの日明らかにしている)。これに対し2月24日に米国のバイデン大統領は、プーチン大統領の側近及び新興財閥幹部(オリガルヒ)に対する米国人との取引禁止、ロシア最大手金融機関ズベルバンク等5行に対する金融取引制限、米国製半導体等の高度技術製品のロシアへの輸出規制(第三国からの輸出であっても規制対象米国製品を金額ベースで一定割合以上含んでいれば規制対象と見做される)等を内容とする制裁を発動した。ロシア軍のウクライナ侵攻は2月25日も継続、ロシア軍はウクライナの首都キエフに向け進軍する様相を呈すとともに、ウクライナの各都市等に攻撃を加えた。同日米国、カナダ、英国、EU等は、ロシアのプーチン大統領及びラブロフ外相に対し、両氏の資産を凍結することや米国人との取引禁止等を内容とする追加制裁を発動した。2月25日には、ウクライナのポドリャク大統領顧問がウクライナの政治的中立性等につきロシアとの協議を希望する旨明らかにした。一方、2月26日には、ロシア大統領府のペスコフ報道官が、ウクライナが停戦につき協議する姿勢を示したことによりロシアはウクライナ侵攻を一旦停止したものの、結局ウクライナ側が協議を拒否したとして、侵攻を再開した旨表明した。また、2月26日には、欧米諸国がロシアの一部金融機関を国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済システムから排除する他、ロシア中央銀行に対する外貨準備に関する取引を制限する旨の制裁を発動する方針を発表、3月2日にはEUがロシアの大手金融機関7行に対しSWIFTから排除する旨決定した(ロシア大手金融機関のSWIFTからの排除措置は3月12日に適用が開始されており、ロシアにより供給される天然ガスの主要送金手段となっているロシア最大手銀行ズベルバンク及びガスプロムバンクはSWIFTからの排除措置から除外されているが、これら2行に対しては別の内容の制裁を発動する方針であるとされる)。また、ロシアのミサイルや軍用航空機等の飛来及び飛行を禁止する区域の設定を欧米諸国は検討する必要がある旨2月28日にウクライナのゼレンスキー大統領が表明した。これに対し2月28日には米国バイデン政権のサキ報道官が、飛行禁止区域の設定は、米軍のウクライナとロシアとの間での戦争への直接的な関与とロシアとの直接的な衝突の可能性を高めるものであり、米国としては希望しない旨明らかにした他、3月4日にはNATOのストルテンベルク事務局長も欧州がロシアとの戦争に直接関与せざるをえなくなるとしてゼレンスキー大統領の要請には否定的である旨示唆した。2月24日にはロシア軍がチェルノブイリ原子力発電所(1986年4月26日に発生した事故により稼働停止、廃炉作業中)を占拠した他、ウクライナのザポリジエ(ザポリージャ:Zaporizhzhia)原子力発電所(発電能力600万kWで単一の原子力発電施設としては欧州最大規模とされる)を3月4日未明(現地時間)にロシア軍が攻撃した結果、一部施設(研修用施設とされる)で火災が発生した(但し原子炉等発電関連施設は攻撃を免れており、また放射線量にも変化がない旨3月4日に伝えられる)他、その後当該発電所をロシア軍が制圧したと伝えられる(ロシア側はウクライナによる挑発行為が原因であると主張している)。他方、ウクライナとロシアとの間での停戦を巡る協議が2月28日(ウクライナ国境に近いベラルーシのゴメリ)及び3月3日(ポーランド国境に近いベラルーシのブレスト州)に、それぞれ実施されたが、協議を継続することに加え、2回目の協議ではロシア軍により攻撃を受ける都市から民間人を避難させるための人道回廊を設置する必要性で合意したものの、両国の意見の隔たりは大きな状態であったと報じられる(2月28日にはフランスのマクロン大統領とプーチン大統領との間で首脳会談が電話で実施されたが、その際プーチン大統領は、ウクライナの非武装化、中立化及びロシアが事実上支配するクリミア半島におけるロシアの主権の認知等がウクライナとの停戦条件である主張している)。また、3月7日には3回目の停戦協議が実施され(ベラルーシのブレスト州とされる)、民間人の退避方法につき両国が合意したものの、その他では特筆すべき成果は得られなかったと伝えられる。さらに、3月10日にはウクライナのクレバ外相とロシアのラブロフ外相の会談が実施されたが、ここでも両国間の停戦等につき協議は進展しなかった。
このように、プーチン大統領は欧米諸国やNATO等との間での外交手段による事態の打開を少なくとも一旦は事実上諦め、軍事力による問題解決(当初はNATOの東方不拡大の法的保障とウクライナのNATO加盟防止を要求していたが、その後現在事実上支配しているクリミア半島をロシアの一部として認めるよう要求する旨2月23日に伝えられるなど要求を拡大している)を図ろうとしているように見受けられ、今後もプーチン大統領の意向に沿った内容でなければ、外交を通じた協議が短期的に実質的に大幅に進展する可能性はそれほど高くなく、むしろ事実上軍事活動が継続されるといった展開となりうるものと考えられる。他方、2月25日には米国国務省のホクスタイン国家安全保障担当上級顧問が米国の消費者に打撃を与えるとしてロシア産原油に対し制裁を発動する意向はない旨明らかにしていたものの、3月8日には米国バイデン大統領がロシア産原油、天然ガス等のエネルギー輸入禁止の大統領令に署名した他、同日英国も2022年末までに段階的にロシアからの原油輸入を停止する旨決定するなど、西側諸国等とロシアとの対立の高まりによりエネルギー分野が影響を受けつつある。また、英国を除く欧州諸国ではロシア産原油等のエネルギーの禁輸は実施されていないが、ロシア産原油購入に際し西側諸国等の金融機関が信用状の発行に消極的になっている他、ロシア産原油を取り扱うことに対する評判リスク等を懸念して西側等の石油会社の中にはロシア産原油調達を敬遠する動きが見られるなどしていることにより、今後もロシア産原油購入に対し禁止あるいは事実上の制限が加わるとともに、ロシア以外の石油及び天然ガス調達活動が西側諸国石油会社等により活発化する結果、原油(及び天然ガス)相場に上方圧力が加わる(また、天然ガス価格が上昇することにより発電部門で競合する重油等の石油製品への燃料転換が発生するとともに石油需要が上振れする結果石油需給が引き締まることもありうる)といった展開となることも否定できない。また、黒海では、航行していたパナマ船籍の「ナムラ・クイーン」(船主は日興汽船(本社:愛媛県今治市))及びモルドバ船籍の化学製品タンカーである「ミレニアル・スピリット」(船主はファイエット・シッピング(Fayette Shipping))(軽油600トンを積載していたとされる)がロシアからの砲撃により被弾したと2月25日にウクライナのインフラ省が明らかにした。このようなこともあり、一部地域を航行する(もしくは航行する予定の)船舶の運賃及び保険料が上昇基調にあると伝えられており、この面からも世界の輸送部門を含む石油供給が混乱を来すとともに、原油価格に影響が及ぶ可能性もある。
イラン核合意正常化を巡る西側諸国等とイランとの協議は最終局面にさしかかっている旨2月16日に米国国務省のプライス報道官が明らかにした。また、2月16日にはイランの核合意交渉担当者であるバゲリ外務省次官も当該協議がこれまでになく妥結に接近しつつある旨表明した。2月17日には、段階的にイラン核合意正常化を果たすための手続き方法を規定した草案が大半の部分につき関係者間で合意に至り、足元では詳細につき協議を継続している旨明らかになっており、第一段階としてイランが核開発活動を制限するとともに、米国はイランが国外に保有する資産を凍結する旨の制裁を解除、そしてそれらの手続きが順調に行われている旨確認した後、米国は対イラン石油取引制限免除を実施することになるとされる。2月18日には、EU幹部がこの先1~2週間程度で協議が妥結すると予想していると発言したが、それには関係国による政治的判断が必要となる旨の見解を明らかにしている。2月22日には当該協議関係者が2月25日の週にも協議が妥結する可能性がある旨明らかにしたと伝えられたが、2月23日にイラン側交渉団は一旦イランに帰国した。他方、イランと国際原子力機関(IAEA)は、イランの核開発活動に関するIAEAの調査(IAEAに未申告のイラン国内施設でウラン粒子が検出されたことに対しイラン側が明確な説明を実施してこなかったことを指しているものと見られる)完遂のため、必要な書類をイランが提出する(6月6日にまでに調査を完了することを目指している旨示唆される)ことで、両者が合意した旨3月5日にグロッシ事務局長とイランのエスラミ原子力庁長官が発表した。しかしながら、3月5日に突然ロシアのラブロフ外相が、ウクライナ問題を巡る米国の対ロシア制裁がロシアとイランとの貿易関係等を阻害しない旨保証するよう米国に要求し出した(米国のブリンケン国務長官はロシアの要求はイラン核合意正常化を巡る議論とは関係ないとして却下した旨3月6日に伝えられる)ことにより、協議が複雑化、これが原因と見られる理由により交渉は一旦中断する旨協議に参加していたEUのボレル外交安全保障上級代表が3月11日に明らかにした。このように、従来から、協議妥結後のイラン核合意正常化の手続きは段階的なものになるとされており、イラン核合意正常化に向けた協議妥結により、イランからの原油供給が直ちに拡大し始める訳ではないものと見られていたが、今般の協議中断を含め交渉の複雑化により、協議の妥結とともにイランからの原油供給拡大の時期が遅延するとの懸念が市場で増大しており、この面で原油相場が下支えされる可能性がある。他方、米国によるイランの原油輸出に関する制裁緩和前においても、早晩イラン原油輸出に関する制裁は解除される方向であるとの展望により、原油輸出に対する米国の制裁緩和前においても、事実上前倒しでイランが原油輸出拡大を開始するといった展開となる可能性も否定できないが、それでも、特にイラン陸上の油田は老朽化しているとされており、増産を急ぐと地下の圧力が異常を来し、かえって生産が伸び悩む結果となる恐れがあることにより、イランが慎重に増産を進める結果、同国の原油生産増加ペースが緩やかなものになる可能性がある。かつて2016年1月16日に到達したイラン核合意に伴う米国の対イラン制裁の事実上の解除後のイラン原油生産は最終的には対イラン制裁実施時に比べ日量100万バレル(日量290万バレルから同385万バレルへ)拡大したものの、毎月の増産ペースは日量1~29万バレル程度であり、増産には10ヶ月を要した(図19参照)。2022年1月時点のイランの原油生産量は日量250万バレルであることにより、2018年5月8日の米国トランプ大統領(当時)のイラン核合意離脱決定時のイランの原油生産量である日量385万バレルの水準にまで増産するとすれば、増産幅は日量130万バレル程度となり、これは増産には1年程度の期間を要する可能性があることが示唆される。このため、西側諸国等による対ロシア制裁やロシア産原油購入敬遠による、ロシアからの事実上の石油供給減少(足元市場では日量400万バレル程度減少すると見る向きもある)をイラン産原油の供給拡大で相殺するには、イラン産原油生産増加量は不十分であり、かつ生産増加ペースも遅い恐れがあり、この面では原油価格への影響は限定的になる可能性がある(また、協議妥結が遅延することによりイランからの原油供給回復時期が遅延すれば、イラン産原油供給拡大がロシア産原油供給縮小を相殺する効果は一層限定的なものとなる)。また、イランの核合意正常化開始に伴うイランからの原油供給増加により、世界石油需給が緩和する恐れがあることから、OPECプラス産油国はイラン核合意正常化手続き開始後イランを減産措置に組み入れる(これまでは減産措置の適用外であった)方向で検討していると2月18日に伝えられるため、この面でも石油需給緩和に関し不透明感が漂う状態となっている。
3月1日にリビア東部のトブルクを拠点とする代表議会(HoR: House of Representatives)はバシャガ(Bashagha)元内務相を首相として承認した。しかしながら、リビアには既に首都トリポリを拠点とする暫定政府のドベイバ首相がおり(国連はドベイバ氏が同国の首相であるとの見解を明らかにした旨2月11日に伝えられる他、ドベイバ氏は大統領選挙(現在未実施)が実施されるまで首相の職を続ける意向である旨2月8日に明らかにしている一方、代表議会は2021年12月24日(当初の大統領選挙投票日)を以て同国の暫定統一政府が有効期限を迎える旨主張したと12月22日に報じられた)。このように、リビアでは、当初2021年12月24日に実施される予定であった大統領選挙が実施できないまま、1国に2人の首相が存在する事態となり、トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National Accord)及び暫定政府と、HoRとの対立が再び高まる兆候が見られることから、同国情勢不安定化に伴い、油田、パイプライン及び石油ターミナルでの操業に支障が発生するとともに同国からの石油供給が途絶するとの懸念が市場で増大することにより、原油価格に影響が及ぶ可能性も否定できない。また、国家予算の円滑な執行に支障を来していることが同国国営石油会社NOCの油田での操業等に影響を与えることにより、同国の原油供給が停止する場面が見られている他、同国西部のシャララ油田(原油生産量日量30万バレル程度)及びエル・フィール油田(同3万バレル程度)から沿岸部の石油ターミナルに原油を輸送するパイプラインの稼働を武装勢力が強制的に停止したことにより両油田が操業を中断した結果、同国の原油生産量が日量33万バレル減少した旨3月6日に報じられる(3月8日はパイプラインとともに両油田は操業を再開した)などしており、今後もこのような場面が見られる結果、世界石油需給引き締まり感を市場が意識するとともに、原油相場に上方圧力を加えるといった展開も想定される。
世界の新型コロナコロナウイルス感染者数は、2022年1月19日に4,266,334人で頭打ちとなり以降減少傾向となっている。新型コロナウイルスオミクロン変異株は感染力が強いものの、感染者の入院及び重症化確率が低いことにより、個人の外出規制及び経済活動の制限の大幅な強化には繋がらず、従って、世界経済及び石油需要への影響も比較的限られたものとなった。今後新型コロナウイルスのさらなる変異株が出現し、感染が拡大するとともに、個人の外出規制及び経済活動制限が強化される結果、世界経済及び石油需要へ影響を及ぼすといった展開となる可能性も否定はできず、今後の新型コロナウイルス変異株の出現と感染拡大状況等には注目していく必要があろうが、短期的には新型コロナウイルス感染の世界石油需要及び石油需給バランスへの影響は限定的との認識が市場で広がりつつあることもあり、この面で原油相場への下方圧力は加わりにくいものと考えられる。
3月15~16日には、米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される予定であり、これまで0.00~0.25%であった政策金利を引き上げる旨同国金融当局が決定するとの観測が市場で広がっている。ただ、米国の消費者物価及び生産者物価の上昇率が高水準に到達する中、政策金利引き上げペースを加速すべきと示唆する関係者(ボウマン米国連邦準備制度理事会(FRB)理事等)と引き上げペースを加速し過ぎると経済に悪影響が及ぶと警告する関係者(ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁等)との間で、意見が分裂気味となっている中、パウエルFRB議長が3月2日に実施した米国連邦議会下院金融委員会及び3月3日に実施した米国連邦議会上院銀行住宅都市委員会での証言では、同議長は0.25%の政策金利引き上げを支持しつつあるものの、物価上昇が加速する、もしくは物価高騰が長期化するようであれば、将来的には0.25%を超過する金利引き上げを実施する可能性も排除しない旨示唆した。そのような中で、3月10日に米国労働省から発表された2月の同国CPIは前年同月比で7.9%の上昇と1982年1月(この時は同8.4%の上昇)以来の高水準に到達した。他方、次回FOMCで0.25%の政策金利引き上げが決定する確率は2月14日時点では39.2%と前回FOMC終了後の1月27日時点の87.6%から低下した反面、0.50%の政策金利引き上げが決定する確率が60.8%と1月27日時点の12.4%から上昇するなど、0.50%の政策金利引き上げを決定する確率が相当程度高まったものの、3月12日時点では、0.25%の金利引き上げ確率が94.9%、0.50%の金利引き上げ確率が0.0%(残りの5.1%は金利据え置き)と再び0.25%の金利引き上げ確率が圧倒的に高くなるなど、市場の金利引き上げに関する認識も不安定な状態にある。このようなことから、当該会合での決定に市場の注目が集まることになる(また、3月15日に発表される予定である2月の米国生産者物価指数(PPI)も市場から注目されることになろう)が、政策金利引き上げペースを加速する旨決定するようであれば、米国経済減速とリスク資産市場での緩和マネーの利用可能性低下観測が市場で広がる結果、原油相場を抑制する形で作用するものと考えられるが、足元の金利引き上げ確率通り0.25%の金利引き上げを決定するなど、当該金利引き上げが緩やかに実施される方向である旨示唆されるようであれば、インフレ抑制が遅延するとの観測が市場で拡大するとともにインフレ対策として原油を含む実物資産への投資が活発化する結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。
米国では、3月に入り、最終消費段階では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来にはまだ早いとの認識が強いが、製油所の段階では夏場のガソリン需要期が視野に入り始めるとともにガソリン先物価格が上昇しやすくなる一方、製油所の春場のメンテナンス作業実施も峠を越えつつあるとともに稼働を上昇、原油精製処理活動を増進するとともに原油購入を活発化するようになるものと考えられる。このため、季節的な石油需給の引き締まり観測が市場で強まるとともに、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと思われる。他方、米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなお若干は継続する(米国の暖房シーズンは概ね11月1日~翌年3月31日である)ことから、例えば米国の暖房用石油製品需要の中心地である同国北東部の気温が平年を割り込んで低下したり、低下するとの予報が発表されたりすれば、暖房用石油製品需要の増加観測と需給引き締まり感が市場で意識される結果、暖房油とともに原油の価格が上昇する場面が見られることもありうる。
OPECプラス産油国は3月31日に閣僚級会合を開催し、5月の減産措置方針を決定する予定である。2022年の世界石油需給バランスは以前程ではないにせよ供給過剰となるものとOPECプラス産油国は認識している一方、原油価格は約13年半ぶりの高水準にまで上昇しているものの、それはウクライナ情勢緊迫化を巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりに伴うロシアからの石油供給途絶に対する懸念によるものであって、実際に石油供給が途絶し供給不足に陥っているわけではないことから、そのような状況で減産措置縮小ペースを加速すれば、実際の供給不足が発生しているわけではないだけに、かえって足元で石油供給過剰が市場で発生することにより原油相場に下方圧力が加わり続けるとともに、その様な事態が発生した段階においてはOPECプラス産油国による減産措置強化を含めた原油価格浮揚努力を行っても、原油価格が回復しにくくなる場合があることから、実際にロシアからの石油供給途絶に関する明確な証拠が見られなければ、OPECプラス産油国が減産措置縮小加速に向け動く可能性は低く、従って、3月31日に開催される閣僚級会合では、従来の方針通り前月比で日量40万バレルの縮小を決定する可能性がそれなりにあるものと見られる。他方、原油価格とともに全米平均ガソリン小売価格(3月7日時点で1ガロン当たり4.196ドルと1993年4月以降の同国週間統計史上最高水準に到達している)が一層上昇したり、ロシアからの実際の原油供給減少の証拠が見られたりした場合には、米国のサウジアラビア等への減産措置縮小加速への働きかけがさらに強化されることにより、OPECプラス産油国としても減産措置縮小の取り扱いにつき難しい判断を強いられることになろう。しかしながら、OPECプラス産油国の中にウクライナを巡る紛争当事国のロシアが含まれており、サウジアラビアやUAE等の主要OPEC産油国もロシアとの協調を考慮しなければならないところからすると、米国の減産措置縮小加速に対する働きかけに対し、実際の減産措置縮小加速への対応が後手に回る結果、閣僚級会合では、やはり従来方針通り前月比で日量40万バレルの減産措置縮小が決定される可能性があるものと考えられ、従って、OPECプラス産油国は世界石油需給緩和に対し慎重な姿勢を示していると市場関係者で受け取られる結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、米国による減産措置縮小加速の働きかけに対応し、OPECプラス産油国が閣僚級会合において減産措置縮小加速を決定したとしても、OPECプラス産油国の余剰生産能力の減少が加速すると市場関係者が認識する結果、やはり原油相場に上方圧力が加わりやすいものと考えられる。
全体としては、市場の注目点は、まず、ウクライナ情勢緊迫化を巡る西側諸国等とロシアとの対立の高まりとロシアからの石油供給及び世界石油需給バランスへの影響であり、短期的にウクライナを巡る緊張が後退するようには見受けられないところからすると、この面では原油相場が下支えされたり、上方圧力が加わったりしやすいものと考えられる。他方、イラン核合意正常化を巡る西側諸国等とイランと間での協議妥結及び米国金融当局等による金利引き上げペース加速の可能性等の要因が原油相場の上昇を抑制する方向で作用するといった展開となることも否定できないものの、当面ウクライナ情勢を巡る石油市場の懸念の方が大きいと見られることから、これら要因による原油相場への影響は限定的になりやすいものと考えられる。また、米国での夏場のドライブシーズン到来に伴うガソリン需要期の接近と季節的な石油需給引き締まり感の市場での強まり、及びOPECプラス産油国の慎重な減産措置縮小方針等も、原油相場を上振れさせる形で作用しやすいものと見られる。
以上
(この報告は2022年3月14日時点のものです)