ページ番号1009352 更新日 令和4年5月16日

原油市場他:ロシアを巡る石油等の供給懸念と中国の新型コロナウイルス感染抑制のための規制強化等に挟まれ、比較的限られた範囲内で上下に変動する原油価格

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レポートID 1009352
作成日 2022-05-16 00:00:00 +0900
更新日 2022-05-16 14:58:17 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
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年度 2022
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ページ数 47
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国・地域 グローバル
2022/05/16 野神 隆之
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概要

  1. ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に伴い、西側諸国等を中心として、ロシア産原油及び石油製品を敬遠する動きが市場で顕在化した結果、欧州等でガソリンや軽油等の石油製品の需給引き締まり感が強まったことにより、米国からガソリン及び軽油の輸出が活発化したこともあり、米国での両製品の在庫は減少傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限付近に、留出油在庫は平年幅下限付近に、それぞれ位置する量となっている。他方、米国戦略石油備蓄(SPR)の放出が一因となり、米国原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。
  2. 2022年4月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では増加した他、ロシアによるウクライナへの事実上の侵攻に伴う西側諸国等による対ロシア制裁とロシアからの原油供給への影響に対する懸念の増大に伴い、ロシア産原油を大量に輸入していた欧州での石油需給引き締まり感を市場が意識したことにより、欧州の指標原油であるブレントの価格が米国の指標原油であるWTIに比べ割高となったこともあり、かえって欧州に原油が比較的活発に流入したと見られることが一因となり、欧州での原油在庫は増加した。他方、日本では4月末の原油在庫は前月末比で若干の減少となったと推定される。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する量となっている。石油製品については、米国では、ガソリンや留出油の在庫は減少したものの、プロパン等の在庫増加により相殺された結果、石油製品在庫はほぼ横這いとなった。他方、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻により石油会社がロシアからの留出油購入を敬遠するようになったと見られることもあり、欧州では中間留分を中心として石油製品在庫は減少した。ただ、日本では、この先の製油所のメンテナンス作業実施時期を控え、石油製品在庫の積み上げが進んだものと見られることから、当該在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となったものの、平年幅下方に位置する量となっている。
  3. 2022年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場では、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に伴う、西側諸国等によるロシア産石油輸入禁止を含む対ロシア制裁検討の動き等が原油相場に上方圧力を加えた反面、新型コロナウイルス感染抑制のための中国の上海市及び北京市における個人の外出規制及び経済活動制限強化の動きが原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は1バレル当たり概ね100~110ドルを中心とする範囲で変動した。
  4. 今後米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大しやすくなることに加え、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻の継続による、西側諸国等の対ロシア制裁強化とそれによるロシアからの石油供給等への影響に対する市場の懸念、及びOPECプラス産油国による慎重な減産措置の縮小方針の遂行等が、原油相場を下支えするものと見られる。そのような中で、中国の新型コロナウイルス感染抑制のための個人の外出規制及び経済活動の制限を巡る状況、及び米国金融当局者による金融引き締め実施状況等が、原油相場に影響を与えるものと考えられる。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が2022年6月についても5月同様前月比で日量43.2万バレル減産措置を縮小する旨決定

(1) 協議内容等

2022年5月5日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合をテレビ会議形式で開催し、2021年8月以降2022年4月まで毎月前月比で日量40万バレル、2022年5月については前月比で日量43.2万バレル、それぞれ規模を縮小しながら実施中である減産措置(2022年5月現在日量336万バレル)を、2022年6月についても5月同様前月比で日量43.2万バレル規模を縮小して実施する旨決定した(表1参照)。

表1 OPECプラス

当該会合では、足元の世界石油需給は十分に均衡している状態である旨OPECプラス産油国間での認識は一致した他、継続する地政学的リスクの影響と新型コロナウイルス感染の継続に関連する事象にOPECプラス産油国は注目したとされるが、5月4日に行われた欧州連合(EU)加盟国によるロシアからの石油の段階的禁輸方針の発表を含めロシアのウクライナへの侵攻と原油価格の高騰等石油市場への影響については、具体的な言及はされなかった。

また、これまで減産目標を達成できていない減産措置参加産油国が2022年6月末までに減産目標未達成部分につき追加減産を実施(することにより減産目標を達成)することを含め、減産目標の完全遵守に固執することが極めて重要であることが当該会合で再確認されるとともに、(該当する産油国は減産目標を完全達成するための)追加減産計画を提出するよう、会合では要請された。

なお、今回の閣僚級会合は5月5日午後1時30分頃(オーストリア ウイーン時間)開始され、13分間で終了したが、これは3月31日に開催された前回閣僚級会合時の所要時間である12分間とほぼ同程度の短時間のものであった。

また、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を6月2日に開催する旨今次閣僚級会合で決定した。

 

(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

2022年2月24日以降のロシアのウクライナへの事実上の侵攻に対し、3月8日に米国のバイデン大統領がロシアからの原油等の輸入を禁止する旨の制裁の発動を発表したこと等もあり、この日原油価格(WTI)は1バレル当たり123.70ドルの終値と2008年8月1日(この時は同125.10ドル)以来の高水準の終値に到達した他、その後も原油価格は概ね100ドルを超過して推移した(図1参照)。

図1 原油価格の推移(2021~22年)

それに伴い、2月28日時点では1ガロン当たり3.701ドルであった全米平均ガソリン小売価格も上昇傾向となり、3月14日には同4.414ドルと1993年4月以降の同国週間統計史上最高水準に到達した他、その後も同4ドルを超過して推移するなど、米国の消費者の不満が高まっても不思議ではない状況となるなどしたことを含め、消費国では石油製品価格が高騰した(図2参照)。

図2 米国ガソリン平均小売価格(2019~22年)

このようなことから、一部石油消費国はサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)等に対し増産を働きかけた(3月16日に英国のジョンソン首相がサウジアラビアのムハンマド皇太子及びUAEのムハンマド皇太子と会談、エネルギー問題につき協議している)。

他方、3月16日には、国際エネルギー機関(IEA)が、2月11日時点の見通しに比べ、2022年のロシア石油供給が日量220万バレル程度減少すると見込む一方、ロシアを中心とした旧ソ連諸国の石油需要が2022年に日量52万バレル下振れすることを含め同年の世界石油需要を日量95万バレル下方修正するとの展望を明らかにしたこともあり、2022年の世界石油需給バランスは、OPECプラス産油国が毎月前月比で日量40万バレル(2022年4月まで)及び同43.2万バレル(同年5月以降)減産措置を縮小しても、年全体として概ね均衡するものと想定された(表2参照)。

表2 世界石油需給バランスシナリオ(2022年)(3月31日OPECプラス産油国閣僚級会合開催時点)

また、3月初頭以降のロシアの原油生産量(コンデンセートを含む)が日量1,111万バレルと推定され、2月の同1,106万バレルから微増となっている旨しばしば示されたこともあり、ロシアからの石油供給自体が減少しているとの証拠は見出せなかった。

さらに、大部分のOPEC産油国は、足元の原油価格の大幅上昇は、(世界石油需給の引き締まりと石油供給不足が実際に発生していることに伴うものではなく、)地政学的リスク要因(に伴う石油需給の引き締まりの可能性に対する石油市場の懸念が先行したこと)によるものであるとして、従来の減産措置の縮小方針の変更には消極的であることが示唆される旨3月22日に伝えられた。

このようなこともあり、西側諸国等の要請に応えて減産措置の縮小ペースを足元の日量40万バレルから拡大した場合、2022年の世界石油需給バランスが供給過剰に振れてしまうことにより、原油価格に下方圧力が加わるとの懸念がOPECプラス産油国間で広がったと見られたことから、2021年7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合時に決定した、減産措置の基準となる原油生産量の引き上げに伴い、2022年5月については、減産措置縮小量をそれまでの日量40万バレルから同43.2万バレルへと拡大する旨、3月31日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定したものの、それ以上の減産措置縮小幅の拡大は見送られることとなった。

前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催以降も、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻継続に伴う西側諸国等による対ロシア制裁強化の動きによる、ロシアからのエネルギー供給への影響に対する市場関係者間での懸念の増大が、原油価格に上方圧力を加えた。

ただ、中国の上海市では、新型コロナウイルス感染が拡大したこともあり、3月28日以降都市封鎖措置を実施、その後市内一部地域では当該措置は緩和されつつあるとされるものの、5月5日に至るまで依然として個人の外出制限及び経済活動は継続した。

加えて、中国北京市朝陽区においても新型コロナウイルス感染拡大により、同区の住民に対し新型コロナウイルス感染の有無を検査するよう当局が指示するとともに、同市の複数の地区を封鎖する旨4月25日に報じられた他、朝陽区以外の北京市の11区についても新型コロナウイルス感染検査を実施する旨4月25日夜(現地時間)に伝えられた他、4月30日~5月4日の同国の労働節(メーデー)に伴う連休期間には北京市の映画館等娯楽施設の営業が制限されたものの、依然として感染が拡大している可能性があるとして、5月4日以降も同市の当該施設の営業制限を継続する旨5月4日に報じられるなど、同市では個人の外出規制や経済活動の制限が強化されつつある状態であった。

また、上海市の都市封鎖の影響を受け、4月30日に中国国家統計局が発表した同国の製造業購買担当者指数(50が当該部門好不況の分岐点)は47.4と3月の49.5から低下しており、同国の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生、原油相場の上昇を抑制する格好となったこともあり、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前の3月30日には1バレル当たり107.82ドルの終値であった原油価格(WTI)は今回のOPECプラス産油国産油国閣僚級会合開催直前の5月4日には同107.81ドルの終値と、高水準を維持したものの、伸び悩み気味であった。

そして、今後も中国北京市等で新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖等が継続もしくは新たに実施された場合(そして同国では新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な規制措置(いわゆる「ゼロコロナ」政策)を引き続き推進していく旨4月21日に同国の習近平国家主席が示唆しているところからすると、厳格な規制実施の可能性はそれなりにある)、中国経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が継続する結果、石油需給緩和感が市場で醸成されることを通じ、原油相場に下方圧力を加える可能性があることが懸念された。

他方、4月1~29日のロシアの原油生産量(コンデンセート含む)は推定日量1,011万バレルと3月(同1,108万バレル)から同97万バレル減少した旨4月30日に報じられており、これは3月8日に米国バイデン大統領がロシアからの石油輸入を禁止することを内容とする制裁を発動した他、西側諸国等の石油会社がロシアから石油を調達することに伴う評判リスクを抱えることを回避しようとして、同国からの石油の調達を敬遠したことが一因であるとされる。

また、2022年1月には日量1,103万バレルであったロシアの原油生産量(コンデンセートを含む)は同年3月に同1,101万バレルへと減少した旨2022年4月16日にIEAが明らかにした他、IEAは、2022年2月11日時点の見通しに比べ、2022年4月のロシアの原油生産量が日量166万バレル、5月以降同年末にかけての当該生産量が日量296万バレル程度、それぞれ下振れする結果、2022年5月以降のロシアの原油生産量が日量825~836万バレルと2021年の同1,052万バレルから同216~227万バレル減少する旨示唆された。

ただ、ロシア側では、2022年末にかけ同国の原油生産量(コンデンセートを含んでいるものと推定される)が推定日量876~960万バレル(年間4.338~4.753億トン)と2021年の同1,058万バレル(同5.24億トン)から日量98~182万バレル程度の減少となる旨認識していると4月27日に伝えられており、同国の原油生産量見通しを巡っては不透明感が強いことが窺われた。

他方、ロシアがウクライナに対し事実上侵攻した後西側諸国等による制裁が強化されるまでの間に、西側諸国等の石油会社がロシア石油会社との間で売買契約を締結した分の原油がその後輸出されたり、米国等による対ロシア制裁の実施や企業の評判リスクの高まりに伴い、欧米諸国等がロシア産原油購入を敬遠したこともあり、ロシア産原油の代表的な油種であるウラル原油の価格が欧州の代表的な油種であるブレント原油の価格を1バレル当たり40ドル近く下回る(図3参照)など、ロシア産原油価格が他の原油価格に比べ割安になったこともあり、西側諸国以外の消費国によるロシアの原油購入が活発化したりした(インドは、ロシアのウクライナ侵攻開始以降2021年全体の2倍を超えるロシア産原油を購入するなど、ロシアからの原油調達を積極化させつつある旨4月25日に報じられる)ことから、4月1~28日においては、ロシアからの原油輸出は日量466万バレルと前月から17%(推定日量68万バレル)増加するなど、当該輸出は比較的好調であった。

図3 ロシアのウラル原油のブレント原油の価格差(2021~22年)

このように、ロシアの原油生産と輸出の状況及び見通し等がまちまちであったこともあり、OPECプラス産油国としても、ロシア石油供給減少の兆候が見られるとは判断し切れなかったと見られる他、今後も西側諸国以外の消費国等へ原油等の輸出が活発化し続ける結果、今後減少すると予想されるロシアの原油生産がかえって回復する可能性がある中で、OPECプラス産油国が減産措置縮小ペースを加速すれば、ロシアの原油生産が減少することを見込んでも必ずしも引き締まるとは示唆されない2022年の石油需給バランス(表3参照)が供給過剰に振れることにより、既に伸び悩み気味となっている原油相場に下方圧力が加わる結果、OPECプラス産油国の石油収入に影響が及ぶといった展開となりうることが不安視された。

表3 世界石油需給バランスシナリオ(2022年)(5月5日OPECプラス産油国閣僚級会合開催時点)

5月4日のOPECプラス産油国合同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)開催に際し用意された資料では、新型コロナウイルス感染抑制のために実施される中国の都市封鎖に伴う同国の経済成長減速もあり、2022年の世界石油需要の伸びが日量48万バレル下方修正されたことから、ウクライナへの事実上の侵攻に伴う西側諸国等による制裁等によりロシアの原油生産量が減少するとの予想の下、OPECプラス産油国を構成する非OPECプラス産油国の原油生産量が日量1,820万バレルと日量60万バレル下方修正されたにもかかわらず、2022年は世界の石油供給が需要を日量190万バレル上回るとし、以前の見通しよりも日量60万バレル供給過剰幅が拡大するなど、世界石油需要が下振れすることを示唆するシナリオが提示されたものと見られる(但し、JTCにおいては、最終的には2022年の世界石油需要見通しは据え置きのままとなったとされ、それを受けて閣僚級会合の声明でも「世界石油需給は均衡している」旨の認識が示された)。

以上のような状況を考慮した、世界石油需給バランスに対する認識の下、OPECプラス産油国は2022年6月についても、前月比で日量43.2万バレルの減産措置を縮小する旨の慎重な決定を行ったものと考えられる。

また、ウクライナを巡り西側諸国と対立するロシアがOPECプラス主要産油国であることもあり、サウジアラビアやUAE等とロシアとの間で石油市場における利害が一致していることにより、OPECプラス産油国間での結束をOPECプラス構成産油国が重視したことが、今般のOPECプラス産油国閣僚級会合での方針決定に影響していると示唆する向きもある。

 

(3) OPECプラス産油国閣僚級会合開催当日の原油価格の動き等

2022年6月の減産措置を前月比で日量43.2万バレル縮小する旨の今回のOPECプラス産油国閣僚級会合での決定は、当該会合開催前の時点で市場関係者から相当程度予想されており、実際そのような事前予想通りの結果となったことにより、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合の結果の原油相場への影響は限定的なものとなった。

そして、5月5日は、EU加盟国のロシアからの石油輸入の段階的禁止等を内容とする制裁実施方針が5月4日に発表されたことにより、欧州等での石油需給引き締まり観測が市場で増大した流れが引き継がれたことに加え、2022年秋にも米国戦略石油備蓄(SPR)用に6,000万バレル相当の原油を購入する方針である旨5月5日に米国バイデン政権が発表したことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、5月3~4日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で決定された0.5%の政策金利引き上げでは、物価上昇抑制には不十分であるとの見方が強まるとともに、今後さらなる積極的な政策金利引き上げが実施されることに対する観測が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落するとともに、米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日朝(米国東部時間)の取引では原油価格は一時1バレル当たり111.37ドルと前日終値比で3.56ドル上昇する場面が見られた反面、同日昼前(同)には1バレル当たり106.45ドルと前日終値比で1.36ドル下落する場面が見られるなど、原油価格は乱高下気味であったが、この日の終値は1バレル当たり108.26ドルと前日終値比0.45ドルの上昇となった。

 

2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2022年2月の米国ガソリン需要(確定値)は日量860万バレル、前年同月比で11.0%程度の増加と2022年1月の同798万バレル(同4.1%程度の増加)から需要量及び前年同月比での伸びが拡大した(図4参照)。ただ、当該需要は速報値(前年同月比で13.0%程度増加の日量875万バレル)からは下方修正されている。2月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量56万バレル程度と推定されたところ、確定値では同80万バレルへと上方修正されたことにより、この部分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。2022年1月12日に880,274人の史上最高水準に到達した米国での1日当たり新型コロナ新規感染者数は、その後2月28日には107,800人へと大幅に減少したこともあり、個人の外出が活発化した(2月の米国自動車運転距離数は1日当たり84億マイルと1月の同78億マイルから相当程度増加した他、2月の当該距離数は前年同月比10.6%の増加と1月の同4.1%の増加から増加率が相当程度拡大した)ことが、同国のガソリン需要に反映されたものと考えられる。なお、2022年2月の同国ガソリン需要は2020年2月の水準(日量905万バレル(確定値))を5.0%程度下回っている。他方、2022年4月の同国ガソリン需要(速報値)は日量879万バレル、前年同月比で0.0%程度の増加となっており、3月の当該需要(速報値)の日量869万バレルからは上振れしているものの、3月の同需要の前年同月比での増加率(1.3%)からは増加率が縮小している。3月31日には37,777人であった同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は、4月30日には22,236人へと減少するなど、当該感染は概ね低水準にとどまる中、気温が上昇してきたことにより個人の外出が促されたものと見られるものの、4月の米国ガソリン小売価格が1ガロン当たり4.1~4.2ドル程度と、米国の消費者が不満を持ち始める1ガロン当たり3ドルを大幅に上回ったままであったことに加え、4月の消費者物価指数が前年同月比で8.3%の上昇と3月(同8.5%の上昇)からは上昇率が若干低下したものの依然高止まる傾向が見られるなどしたことが、消費者のガソリンを含めた財の購買活動に影響を及ぼしたと見られることから、4月の同国推定自動車運転距離数が1日当たり88億マイルと3月の同87億マイルから若干の増加にとどまるとともに、ガソリン需要を抑制する格好となったものと見られる。なお、2022年4月の同国ガソリン需要は2019年4月の当該需要(日量941万バレル(確定値))を6.6%程度下回っている。一方、米国では春場の製油所のメンテナンス作業実施が終了に向かいつつあるとともに、夏場のドライブシーズン(2022年は5月30日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休(5月28~30日)から9月5日の労働者の日(レイバー・デー)に伴う連休(9月3~5日)まで)に伴うガソリン需要期の到来が視野に入りつつあることから、4月上旬から5月上旬にかけ製油所の原油精製処理活動は比較的堅調であった(図5参照)。このため、米国では製油所でのガソリン生産も比較的活発に行われたと見られる(ガソリン最終製品生産量は図6参照)ものの、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に伴い米国外諸国等でガソリン需給引き締まり懸念が発生したにより、米国への輸入が抑制される一方、輸出が堅調であったことから、同時期米国ガソリン在庫は減少傾向となり、平年幅上限付近に位置する量となっている(図7参照)。

図4 米国ガソリン需要の伸び(2006~22年)

図5 米国の原油精製処理量(2009~22年)

図6 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~22年)

図7 米国ガソリン在庫推移(2003~22年)

2022年2月の同国留出油需要(確定値)は日量417万バレルと前年同月比で5.9%程度の増加となり、1月の日量408万バレル、前年同月比3.7%程度の増加から需要量も需要の前年同月比増加率も拡大したが、2月の当該需要速報値である日量437万バレル(同10.6%程度の増加)からは下方修正された(図8参照)。2月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量88万バレル程度と推定されたところ、確定値では同104万バレルへと上方修正されたことにより、この部分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方修正の一因となったものと見られる。また、2月は米国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が減少傾向となったことにより、1月に見られたような、感染した労働者もしくは濃厚接触者となった労働者等が工場勤務を見送ったこと等に伴う労働力不足が緩和に向かったと見られることもあり、2月の同国鉱工業生産が前年同月比で7.5%の増加と1月の同3.3%の増加から伸び率が拡大するとともに、同月の同国の物流活動も前年同月比で4.9%の増加と1月の同1.6%の増加から伸び率が増大したことが、2月の同国の留出油需要の前年同月比での増加率拡大の背景にあるものと考えられる。なお、2022年2月の米国留出油需要は2020年2月の当該需要(日量408万バレル(確定値))を2.4%程度上回っている。他方、2022年4月の留出油需要(速報値)は日量377万バレルと前年同月比で5.4%程度の減少となり、3月の当該需要(速報値)である日量398万バレル、前年同月比1.2%程度の減少から需要量が下振れした他、前年同月比での減少率も拡大した。ロシアのウクライナへの事実上の侵攻を一因とするエネルギー等のコスト上昇(2022年2~4月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比10.4~11.5%の上昇と少なくとも2010年11月以降の前年同月比増加率統計史上で最高水準近辺に到達した)が同国の製造活動を圧迫したと見られ、4月の米国鉱工業生産(推定)は前年同月比6.3%程度の増加と3月の同5.5%程度の増加は上回ったものの、2月の伸び率を下回ったうえ、米国の軽油小売価格が3月中旬以降1ガロン当たり5ドルを超過し、少なくとも2007年2月以降の週間統計史上最高水準近辺に到達したことが、物流活動に影響を与えたものと見られることが、背景にあるものと考えられる。なお、2022年4月の米国留出油需要は2019年4月の当該需要(日量412万バレル(確定値))を8.4%程度下回っている。このように、米国留出油需要が低調であったものの、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が視野に入りつつあったこともあり、同国の製油所ではガソリン生産が活発に行われた反面、留出油生産は伸び悩み気味となった(図9参照)うえ、ロシアによるウクライナへの事実上の侵攻に伴い、欧州諸国等が対ロシア制裁を実施するとともに、西側諸国等の石油会社が対ロシア制裁抵触の可能性及びロシアから石油を調達する企業の抱える評判リスクを意識した結果、ロシアからの原油及び軽油等の石油製品の購買を敬遠する代わりに、米国で生産される軽油等留出油の購入を活発化させた結果、米国からの留出油輸出が旺盛に行われるようになったことが一因となり、4月上旬から5月上旬にかけ留出油在庫は減少傾向となった(図10参照)他、平年幅の下限付近に位置する量となっている。

図8 米国留出油需要の伸び(2006~22年)

図9 米国の留出油生産量(2009~22年)

図10 米国留出油在庫推移(2003~22年)

2022年2月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で17.2%程度増加の日量2,044万バレルとなり、1月の同1,973万バレル(前年同月比6.1%程度の増加)から需要量及び需要の前年同月比での伸び率が拡大した(図11参照)。2月のガソリン需要が前月から相当程度増加したことが影響しているといった側面はあるものの、2021年2月は寒波「ウリ(Uri)」が米国に来襲した結果、石油化学製品生産関連施設の稼働に支障が発生したと見られることもあり、石油化学産業向けの原料となるエタンの需要が落ち込んだうえ、寒波の来襲に伴う停電や凍結等による生産関連装置不具合により、ガス田等の操業に支障が発生したことから、エタンやLPGといった天然ガス液(NGL: Natural Gas Liquids)の生産が落ち込んだことにより、当該製品の購買活動が制約を受けたことが、エタンを含むその他の石油製品需要を減少させる格好となったため、その反動で2022年2月のその他の石油製品の前年同月比の増加率が37.9%程度と顕著に伸びたことが、同月の石油需要の前年同月比での伸びに影響しているものと考えられる。ただ、ガソリン、留出油及びその他の石油製品等の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたこともあり、米国石油需要は速報値(前年同月比で24.0%程度増加の日量2,164万バレル)から下方修正されている。なお、2022年2月の米国石油需要は、2020年2月の当該需要(日量2,013万バレル(確定値))を1.5%程度上回っている。他方、2022年4月の米国石油需要(速報値)は日量1,927万バレルと前年同月比で1.0%程度の減少となっている。留出油需要及びその他の石油製品の需要が前年同月比で減少となっていることが影響している(その他の石油製品は前年同月比で10.6%の減少となっているが、2022年4月に米国石油化学関連施設でメンテナンス作業等が複数実施されていたと見受けられるところから、原料となるエタン等の需要が抑制されたことが一因である可能性があるものと考えられる)。なお、2022年4月の米国石油需要は、2019年4月の当該需要(日量2,033万バレル(確定値))を5.2%程度下回っている。また、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に伴う西側諸国等による対ロシア制裁の実施とロシアからのエネルギー供給への影響に対する懸念の増大から、特にロシアからの原油輸入依存度の高い欧州の指標原油であるブレントの価格が米国の指標原油であるWTIの価格を相当程度上回るようになったこともあり、4月上旬から5月上旬にかけ米国の原油輸入が抑制気味であった反面原油輸出が概して底堅かった他、留出油を中心とする石油製品需給の引き締まり感が意識されたこともあり米国国内製油所での原油精製処理活動が比較的堅調に行われたことが、米国原油在庫を押し下げる方向で作用したものの、同国戦略石油備蓄(SPR)から原油が供給された(4月15日の週から5月6日の週にかけ291~699万バレルの原油が供給された)ことから、原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を上回る状態は継続している(図12参照)。そして、留出油在庫が平年並幅下限付近に位置する量となっているものの、ガソリン在庫が平年幅上限付近に位置する量となっている他、原油在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図13及び14参照)。

図11 米国石油需要の伸び(2006~22年)

図12 米国原油在庫推移(2003~22年)

図13 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~22年)

図14 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~22年)

2022年4月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では増加した他、ロシアによるウクライナへの事実上の侵攻に伴う西側諸国等による対ロシア制裁とロシアからの原油供給への影響に対する懸念の増大に伴い、ロシア産原油を大量に輸入していた欧州での石油需給引き締まり感を市場が意識したことにより、欧州の指標原油であるブレントの価格が米国の指標原油であるWTIに比べ割高となったこともあり、かえって欧州に比較的活発に原油が流入したと見られることが一因となり、欧州での原油在庫は増加した。他方、日本では4月末の原油在庫は前月末比で減少となったと推定されるものの、減少幅は限定的と見られ、また4月中~下旬や5月上旬においては、当該在庫は3月末時点とほぼ同水準となるなど、必ずしも日本の原油在庫は減少傾向を示しているわけではなかった。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する量となっている(図15参照)。石油製品については、米国では、ガソリンや留出油の在庫は減少したものの、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要減少によるその他の石油製品在庫の増加により相殺された結果、石油製品在庫はほぼ横這いとなった。他方、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻により石油会社がロシアからの留出油購入を敬遠するようになったと見られることもあり、欧州方面への留出油の流入が減少した(また、新型コロナウイルス流行以降の資機材や労働力の不足等に伴い世界的に精製能力が低下していることも、留出油需要の中心地の一つである欧州への留出油流入を低下させている)ものと見られることにより、欧州では中間留分を中心として石油製品在庫は減少した。ただ、日本では、この先の製油所のメンテナンス作業実施時期を控え、石油製品在庫の積み上げが進んだものと見られることから、当該在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となったものの、平年幅下方に位置する量となっている(図16参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となっている一方、石油製品在庫が平年幅下方付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上方付近に位置する量となっている(図17参照)。なお、2022年4月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は57.5日と3月末の推定在庫日数(57.7日)から減少している。

図15 OECD諸国原油在庫推移(2005~22年)

図16 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~22年)

図17 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~22年)

4月13日に1,100万バレル強程度の水準であったシンガポールのガソリンを含む軽質留分在庫は、4月20日は1,300万バレル弱程度、4月27日には1,300万バレル台前半程度、5月4日には1,400万バレル台後半程度の、それぞれ量へと増加した。5月11日には若干減少したものの1,400万バレル台半ば程度の量となっており、4月13日の水準を上回るなど、当該在庫は概して増加傾向となった。3月上旬以降中国で新型コロナウイルス感染が拡大傾向となるとともに、3月28日には同国上海市で新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖が実施されたこともあり、個人の外出が制限されるとともに、同国のガソリン需要が下振れした結果国内のガソリン在庫が積み上がったものと見られることから、中国政府による2022年第一回の石油製品輸出枠(1月4日に付与されたと伝えられる)は、低硫黄重油を除く石油製品については必ずしも多くはなかった(内訳はガソリン、ジェット燃料及び軽油が合計で1,300万トン、低硫黄重油が650万トンとなっており、ガソリン、ジェット燃料及び軽油輸出枠は2021年第一回の同輸出枠(2,950万トン)の44%程度にとどまった一方、低硫黄重油輸出枠は前年第一回の同輸出枠(500万トン)の1.3倍となった)ものの、中国からのシンガポール向けのガソリン輸出が活発化したと見られることが、シンガポールの軽質留分在庫の増加に寄与したものと考えられる。しかしながら、インドネシア等の東南アジア諸国で断食月(ラマダン: 2022年は4月2日~5月1日)後の断食明け大祭(レバラン: 2022年は5月2~3日)に伴う連休(4月29日~5月8日)時の個人の外出(帰省及び旅行)の活発化によるガソリン需要増加観測に加え、米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が市場関係者の視野に入りつつある中で同国ガソリン在庫が減少傾向となったことが、アジア市場でのガソリン価格に上方圧力を加えたことから、4月中旬から5月中旬にかけガソリンとドバイ原油価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は総じて拡大傾向を示した。

また、半導体不足が自動車を含む製品の製造に影響を及ぼしたことや、3月28日以降新型コロナウイルス感染抑制のために上海で都市封鎖が実施されるなど、中国での経済活動が制限されたこともあり、プラスチックを含む石油化学製品需要がもたつき気味となったことに伴い、ナフサからプラスチック製品を製造する際の利幅が縮小する中、日本、韓国及び台湾等で石油化学製品製造のためのナフサ分解装置に不具合が発生したり、ナフサ分解装置のメンテナンス作業を実施したりしたことに伴い、当該装置の操業が停止したことを含め、アジア地域でのナフサ分解装置の稼働が低下した。このようなことから、アジア市場においては、石油化学製品の原料となるナフサの需要が減少するとの見方が市場で増大したことが、アジア市場でのナフサ価格を抑制した。このため、この先米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来による製油所でのガソリン製造活動活発化とガソリンへのナフサ混入増加観測によるナフサ需給の相対的な引き締まり感の発生が、アジア市場でのナフサ価格を支持する格好となったものの、4月中旬から5月中旬にかけては、ナフサ価格がドバイ原油価格を下回る状態となることが多く、しかもその幅は拡大する傾向を示した。

4月13日には700万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、4月20日には900万バレル強程度の量へと増加した。しかしながら、4月27日には700万バレル強程度、5月4日には600万バレル強程度の量へと、それぞれ減少した。5月11日には700万バレル台半ば程度の量へと回復したが、4月13日の水準を若干ではあるが下回っている。2月24日のロシアのウクライナへの事実上の侵攻開始により、西側諸国等が対ロシア制裁を発動したこともあり、その影響でロシアから欧州への原油及び留出油輸出が減少する恐れがあると市場で不安視する向きが増大したことに伴い、欧州市場の軽油価格がアジア市場の軽油価格を上回る幅が拡大するとともにインド等アジア諸国から欧州方面へ軽油等が流出したことが、シンガポールでの中間留分在庫抑制の背景にあるものと考えられる。そして、このように、シンガポールでの中間留分在庫が抑制気味となったことが、アジア市場での軽油価格に上方圧力を加えた結果、4月中旬から5月初頭にかけては、アジア市場の軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向となった。しかしながら、5月1日より3~4ヶ月程度、中国南東部沿岸で禁漁期間となることから、同国での漁業関係船舶向け軽油需要が抑制されるとの観測が市場で発生したことが一因となり、アジア市場での軽油価格に下方圧力が加わった結果、5月初頭から中旬にかけての軽油とドバイ原油の価格差は縮小傾向を示した。

4月13日に1,900万バレル台半ば程度の量であったシンガポールの重油在庫は、4月20日には2,300万バレル強程度の量へと増加した。4月27日には1,900万バレル台前半程度の水準へと低下したものの、5月4日には2,000万バレル台半ば程度の量へと回復した。ただ、5月11日には1,700万バレル台半ば程度の量へと減少したうえ、4月13日の水準を下回るなどしたものの、当該在庫は明確な増加もしくは減少傾向を示すことなく推移する格好となった。北東アジア諸国では、冬場が終わり気温が上昇するとともに、冬場の空調向けの電力供給のための発電部門での重油需要が減少に向かいつつあったことが、シンガポールでの重油在庫を押し上げる方向で作用したと見られるものの、3月16日深夜(現地時間)に日本の福島県沖を震源として強い地震が発生したことに伴い、同国の複数の製油所が操業を停止したことにより、重油の代替調達活動が活発化した一方、アジア地域の製油所は、より需給の引き締まり感が強く製造利幅を確保できる軽油の生産に注力した結果、重油の生産が劣後したこと、インドを含む南アジア諸国において、気温が上昇してきたものの、LNG価格が高水準であったことにより、発電部門において相対的に安価な重油の需要が喚起されたことが、シンガポールでの重油在庫を押し下げる形で作用したものと考えられる。このようなシンガポールでの重油在庫の状況が一因となり、4月中旬から5月初頭にかけては重油とドバイ原油の価格差は明確な拡大もしくは縮小傾向を示すことなく推移した。しかしながら、中国の一部都市において新型コロナウイルス感染抑制のための経済活動の制限が強化されるとともに、4月の同国からの輸出の伸びが鈍化したことを示す統計類が発表されるなど、同国の経済成長と石油需要が打撃を受けつつあることに対する懸念が増大したことが、船舶や製造業向け燃料としての重油の価格に下方圧力を加えた結果、5月初頭以降は、高硫黄重油と原油との価格差(この場合高硫黄原油価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大する傾向を示すとともに、低硫黄重油と原油との価格差(この場合低硫黄原油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を示した。

 

3. 2022年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場等の状況

2022年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場では、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に伴う、西側諸国等によるロシア産石油輸入禁止を含む対ロシア制裁検討の動きや、ロシアからの軽油輸出の減少、ロシアによる欧州一部諸国に対する天然ガス供給停止、リビアでの原油生産減少、米国ガソリン先物価格の高騰、金融引き締めペース加速に対する米国金融当局幹部の消極的な姿勢による米ドル下落等が原油相場に上方圧力を加えた反面、国際通貨基金(IMF)による2022年の世界経済成長見通しの下方修正や、新型コロナウイルス感染抑制のための中国の上海市及び北京市における個人の外出規制及び経済活動制限強化の動きが原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は1バレル当たり概ね100~110ドルを中心とする範囲で変動したが、5月13日には1バレル当たり110.49ドルの終値と3月25日以来の高水準の終値に到達する場面も見られた(図18参照)。

図18 原油価格の推移(2003~22年)

リビアの地方武装勢力の妨害行為に伴い、同国西部のエル・フィール(El Feel)油田(原油生産量日量7万バレル)の操業が停止したことにより、同油田で生産される原油の積み出し港であるメリタ(Mellitah)石油ターミナル(石油出荷能力日量16万バレル)からの原油出荷に対する不可抗力条項の適用を4月17日に同国国営石油会社NOCが宣言したうえ、同国のドベイバ暫定首相退陣を求める抗議行動により、同国東部ズエイティナ(Zueitina)石油ターミナル(石油出荷能力日量7万バレル)の操業も4月17日に停止、さらにドベイバ暫定首相退陣を要求する地方勢力の抗議により同国西部にあるシャララ(Sharara)油田(原油生産量日量30万バレル)の操業が停止したこと等に伴い同国の原油生産量が日量53.5万バレル減少した旨4月18日に伝えられたことにより、リビアからの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、ロシア軍がウクライナ南東部の都市であるマリウポリの大部分を制圧した他、同都市に残留するウクライナ軍関係者に対し投降するよう4月17日に要求、応じなければウクライナ軍を全滅させる旨明らかにしたことに対し、ウクライナ軍は最後まで戦闘する旨4月17日に同国のゼレンスキー大統領が表明したことにより、ウクライナ及びウクライナを支援する西側諸国等とロシアとの対立の高まりに伴う、ロシアからのエネルギー供給への影響に対する懸念が4月18日の市場で拡大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.26ドル上昇し、終値は108.21ドルとなった。しかしながら、4月20日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表される予定である米国石油統計(4月15日の週分)で原油在庫が前週比で増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、4月19日に国際通貨基金(IMF)から発表された世界経済見通し(WEO: World Economic Outlook)で、2022年の世界経済成長見通しが3.6%と1月25日の前回見通し発表時から0.8%下方修正された旨明らかになったことにより、世界経済成長減速に伴い石油需要の伸びが下振れするとの観測が市場で増大したこと、2022年末までに0.50%の政策金利引き上げを複数回実施すべきである他0.75%の政策金利引き上げ実施も否定できない旨米国セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁が4月18日午後遅く(米国東部時間)に示唆したうえ、2022年中に2回の0.50%の政策金利引き上げを実施する等により年末までに当該金利を2.25~2.50%へと引き上げることを支持する旨米国シカゴ連邦準備銀行のエバンズ総裁が4月19日に明らかにしたことにより、米国金融当局による金融引き締めペース加速観測が市場で強まったこともあり、米ドルが上昇したことから、4月19日の原油価格の終値は1バレル当たり102.56ドルと前日終値比で5.65ドル下落した。ただ、4月20日には、この日EIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が前週比802万バレルの減少と市場の事前予想(同250~300万バレル程度の増加)に反し減少している旨判明したことにより米国石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、2022年夏までにドイツはロシアからの原油輸入を半分に削減したうえ、年末までには完全に停止させる他、続いてロシアからの天然ガス輸入も停止させる意向である旨4月20日にドイツのベーアボック外相が明らかにしたことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.19ドル上昇し、終値は102.75ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2022年5月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、6月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり102.19ドル(前日終値比0.14ドルの上昇)であった)。4月21日も、4月20日にEIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が市場の事前予想に反し減少している旨判明したことにより米国石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、ロシア船舶の米国港湾への寄港を禁止する旨4月21日に米国のバイデン大統領が発表したことにより、米国を含む西側諸国等による対ロシア制裁強化とロシアからのエネルギー供給への影響に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり103.79ドルと前日終値比で1.04ドル上昇した。この結果原油価格は4月20~21日の2日間で1バレル当たり合計1.23ドルの上昇となった。しかしながら、4月22日には、この日中国上海市が新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖を強化する旨発表した一方、同国の2022年4月のガソリン、ジェット燃料及び軽油の需要が前年同月比で20%(日量120万バレル程度)減少するとの観測が市場で発生している旨同日ブルームバーグ通信が報じたことにより、同国の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、カザフスタンから原油を輸送するCPC(Caspian Pipeline Consortium)パイプライン(通常の原油輸送量は日量120~140万バレルとされる)の終点であるロシアのノボロシイスク(Novorosiiysk)近郊にある黒海沿岸石油出荷ターミナルで荒天のため破損した海上係留装置2基(第二及び第三1点係留装置(SPM:Single Point Mooring))(これにより同ターミナルからの原油供給が日量100万バレル程度減少する旨3月22日夜(現地地間)にロシアエネルギー省のソローキン(Sorokin)次官が明らかにした他、当該装置の修理に最大2ヶ月間を要する旨3月23日にロシアのノバク副首相が発言した)のうち1基(第三SPM)の修理が完了したことにより、当該ターミナルからの原油出荷が平常水準に復帰した旨4月22日に伝えられたことにより、カザフスタンからの原油供給減少に伴う世界石油需給引き締まり感が市場で後退したこと、米国労働市場の過度の引き締まりを抑制するため、今後2回、もしくはそれ以上の回数に渡り、0.5%の政策金利引き上げを実施する可能性がある旨4月21日午後(米国東部時間)に同国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が示唆するなどしたことにより、この先米国金融当局による金融引き締めペースが加速するとの見方が市場で広がったこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり102.07ドルと前日終値比で1.72ドル下落した。

また、4月24日時点で中国の上海市における新型コロナウイルス感染症による死者が51人と4月23日の39人から相当程度増加し、今回の感染流行局面において最高水準に到達した旨4月25日に明らかになった他、同国北京市朝陽区においても新型コロナウイルス感染拡大により、4月25、27及び29日の3日間に渡り同区の住民に対し新型コロナウイルス感染の有無を検査するよう当局が指示したうえ、同市の複数の地区を封鎖する旨4月25日に報じられるとともに、朝陽区以外の北京市の11区についても新型コロナウイルス感染検査を4月26~30日に実施する旨4月25日夜(現地時間)に伝えられたこともあり、中国の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、地方部族との協議が進展しつつある結果、停止中(日量50万バレル程度とされる)であったリビアの原油生産が数日中に再開される可能性がある旨NOCが明らかにしたと4月24日に報じられたことで、同国での原油供給減少懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.53ドル下落し、終値は98.54ドルとなった。しかしながら、4月26日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、細心の注意を払った金融政策を実施することを通じ、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けている中小企業を中心とした実体経済への支援を積極化する旨4月26日に中国人民銀行が明らかにしたことにより、同国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したこと、4月26日までに天然ガス購入代金をロシアの通貨ルーブルで支払わなければ(通常欧州企業はロシアから輸入する天然ガス代金を米ドルもしくはユーロで支払っているとされる)、ロシア国営ガス会社ガスプロムは4月27日朝(現地時間)よりポーランドに対し天然ガス供給を停止する方針である旨4月26日に報じられた(その後同日ポーランド国営ガス会社PGNiGが4月27日よりロシアからの天然ガス供給が全面的に停止する旨通告を受けたと発表した)ことにより、欧州での天然ガス需給の引き締まりに伴い石油への燃料転換が発生するとの観測が市場で増大したこと、米国ノースダコタ州における気温の大幅低下と降雪に伴う停電により、同州バッケンシェール盆地におけるシェールオイル生産への影響に対する懸念が市場で増大したこと、ドイツは今後数日間ロシアからの原油の代替供給源を見出すことに取り組む方針である旨4月26日にドイツのベーアボック外相が示唆したことにより、欧州での石油需給引き締まり感が市場で高まった影響で、欧州へ軽油等を輸出している米国の暖房油先物価格が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり101.70ドルと前日終値比で3.16ドル上昇した。また、ロシアがポーランド等に対し4月27日より天然ガス供給を停止する旨報じられた流れを引き継いで、原油購入代金についてもロシアがルーブルでの支払いを要求するのではないかとの懸念が4月27日の市場で増大したことに加え、4月27日にEIAから発表された米国石油統計(4月22日の週分)で、ガソリン在庫が前週比で157万バレル、留出油在庫が同145万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(ガソリン在庫同81~100万バレル程度の増加、留出油在庫同29~100万バレル程度の減少)を上回って、もしくは事前予想に反し、減少していた他、留出油在庫が4月22日時点で1.07億バレルと、2008年5月9日(この時は1.07億バレル)以来の低水準に到達した旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.32ドル上昇し、終値は102.02ドルとなった。さらに、4月28日には、代替供給源を確保するための時間が十分与えられるのであれば、欧州連合(EU)によるロシアからの石油供給の完全遮断に反対しないとの姿勢を4月27日にドイツが示した旨4月28日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じたことにより、欧州を中心とする地域での石油需給引き締まりの可能性を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり105.36ドルと前日終値比で3.34ドル上昇した。この結果原油価格は4月26~28日の3日間で1バレル当たり合計6.82ドルの上昇となった。ただ、4月29日には、この日の5月渡し先物契約取引期限を控え、これまでの上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したこともあり、米国暖房油先物相場のこの日の終値が前日終値比6.9%と大幅に下落したことに加え、4月28日夕方(米国東部時間)に発表された米国情報技術(IT)大手アマゾンの2022年1~3月期の業績が市場の事前予想に反し純損失となったこともあり、4月29日に同国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり104.69ドルと前日終値比で0.67ドル下落した。

5月2日には、EUによるロシアからの原油輸入の即時停止措置に対しドイツが支持する用意がある旨この日同国のハベック経済相とリントナー財務相が明らかにしたことにより、欧州等での石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.48ドル上昇し、終値は105.17ドルとなった。ただ、5月3日には、この日格付け会社フィッチ・レーティングスが、中国の2022年の国内総生産(GDP)増加率をそれまでの4.8%から4.3%へと下方修正したことで、中国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり102.41ドルと前日終値比で2.76ドル下落した。しかしながら、EU加盟国がロシアからの原油供給受入を6ヶ月間以内に、石油製品供給受入を2022年末までに、それぞれ段階的に禁止(ロシアからの石油輸入依存度の高いハンガリー及びスロバキアは2023年末までに禁止)するとともに、ロシア最大手金融機関ズベルバンクを国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除することを内容とする制裁(第六次制裁)を実施する方針である旨5月4日に欧州委員会のフォンデアライエン委員長が発表した(遅くとも5月9日までに当該方針につき取り纏める意向である旨5月4日に伝えられる)ことで、欧州等での石油需給引き締まり観測が市場で増大したことに加え、5月4日にEIAから発表された米国石油統計(4月29日の週分)で、ガソリン在庫が前週比223万バレル、留出油在庫が同234万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(ガソリン在庫同59万バレル程度、留出油在庫同134万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少していた旨判明したこと、5月3~4日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、0.5%の政策金利引き上げを決定したものの、市場の事前予想通りであったうえ、FOMC開催後に実施された記者会見において、今後開催される予定であるFOMCの場における0.75%の政策金利引き上げ検討に対し米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が消極的な姿勢を示唆したことにより、米国金融当局による金融引き締め方策実施ペース加速に対する見方が市場で後退したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり5.40ドル上昇し、終値は107.81ドルとなった。5月5日も、EU加盟国のロシアからの石油受入の段階的禁止等を内容とする制裁実施方針が5月4日に発表されたことにより、欧州等での石油需給引き締まり観測が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、2022年秋にも米国戦略石油備蓄(SPR)用に6,000万バレル相当の原油購入を開始する(実際の原油調達はさらに後の時点になるとされる)方針である旨5月5日に米国バイデン政権が発表したことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり108.26ドルと前日終値比で0.45ドル上昇した。また、EUが、石油輸入禁止を内容とする対ロシア制裁につき、制裁実施に反対するチェコ、ハンガリー及びスロバキアに対し、輸入禁止までより長期の猶予期間(チェコは2024年6月まで、ハンガリー及びスロバキアは2024年末まで)をこれら諸国に認める等の調整策を提案している旨5月6日に報じられたことにより、当該制裁実施実現性の高まりとともに、欧州での石油需給引き締まりに対する懸念が市場で増大したことから、5月6日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.51ドル上昇し、終値は109.77ドルとなった。この結果原油価格は5月4~6日の3日間で1バレル当たり合計7.36ドル上昇した。

5月9日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、サウジアラビアが6月の欧州及びアジア向け原油販売価格を全油種につき引き下げた旨5月8日に報じられたこと、ハンガリーの反対もあり、EUによるロシア産石油輸入禁止措置が5月8日に開催された関係国間協議で決着しなかった他、EU加盟国船籍の船舶によるロシアからの石油輸送を禁止する制裁案につき、ギリシャ等が反対したことにより、同案が撤回された旨5月9日に伝えられたことにより、EUによるより厳格な対ロシア石油関連制裁実施による欧州を中心とする地域での石油需給引き締まり懸念が市場で後退したこと、5月9日に中国税関総署から発表された4月の同国輸出(米ドルベース)が前年同月比3.9%の増加と3月の同14.7%の増加から増加率が大幅に縮小した他、2020年6月(この時は同0.2%増加)以来の低水準にまで落ち込んだことにより、中国経済成長減速懸念が市場で増大するとともに米国株式相場が下落したこと、中国の上海市と北京市で個人の外出規制及び経済活動制限が強化された旨5月9日に報じられたことにより、同国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、今後開催される予定であるFOMCで0.5%の政策金利引き上げが2~3回実施される可能性がある旨アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が5月9日に明らかにした他、世界の供給網を巡る混乱が改善しても物価上昇はそれほど沈静化しないと考えている旨ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が5月9日に示唆したこともあり、米国金融当局による金融引き締め観測が市場で増大したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり6.68ドル下落し終値は103.09ドルとなった。また、5月10日も、中国の上海市と北京市で個人の外出規制等が強化された旨5月9日に報じられたことにより、同国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、EUのロシア産石油輸入禁止措置に反対するハンガリーへの説得が継続するなど、足元当該措置実施の目処が立たないことから、欧州を中心とする地域での石油需給引き締まり懸念が市場で後退したこと、物価上昇抑制のため米国金融当局は政策金利の引き上げに向け速やかに作業することになろう旨ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が5月10日に発言したことにより、この先の米国金融当局による金融引き締め加速に対する観測が市場で増大したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり99.76ドルと前日終値比で3.33ドル下落した。この結果原油価格は5月9~10日の2日間で1バレル当たり合計10.01ドルの下落となった。しかしながら、5月11日は、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、ウクライナ東部ルガンスク地方にある、ロシア産天然ガスのパイプライン経由での流入地点であるソフラニフカ(Sokhranovka)のガス送出施設を占領するロシア軍及びウクライナの親ロシア派勢力等がロシアからウクライナへの天然ガス輸送に対し妨害を行っている(親ロシア派勢力が天然ガスを抜き取っているとされる)として、5月10日にウクライナの天然ガス輸送会社GTSOUが5月11日午前7時(現地時間)以降当該地点からの天然ガス輸送を停止する旨の不可抗力条項の適用を宣言するとともに、ロシアからウクライナ経由で欧州に流入する天然ガスの量が4分の1程度削減された旨5月11日に伝えられたことにより、欧州での天然ガス需給引き締まりによる天然ガス価格上昇と相対的に割安な石油への燃料転換の促進を通じ、石油需要が押し上げられる可能性があるとの観測が市場で発生したこと、5月11日に、ロシア国営ガス会社ガスプロムが、ドイツ政府が国有化した同社の元関係会社ガスプロム・ゲルマニアを含む31社に対し制裁を発動した(制裁内容の詳細はこの時点では明らかになっていなかったとされる)ことにより、ロシアから欧州方面への天然ガス供給削減の可能性に対する懸念が市場で増大したこと、5月11日にEIAから発表された米国石油統計(5月6日の週分)で、ガソリン在庫が前週比で361万バレルの減少と、6週連続前週比で減少した他、市場の事前予想(同157万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり105.71ドルと前日終値比で5.95ドル上昇した。また、5月12日には、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで、世界的に限られた余剰精製能力とロシアからの石油製品輸出の減少により、石油製品需給が引き締まるとともに、世界の石油在庫は7四半期連続で減少している他、特に2022年3月末のOECD諸国中間留分在庫は2008年4月末以来の低水準となった旨IEAが指摘したことで、石油製品需給の引き締まりとその原油需給及び価格への影響に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.42ドル上昇し、終値は106.13ドルとなった。さらに、新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖実施を中国の北京市政府が5月12日夜(現地時間)に否定したうえ、上海市で新型コロナウイルス感染抑制のための経済活動制限が緩和されつつある旨5月13日に報じられたことにより、同国での経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことに加え、米国の夏場のドライブシーズン開始に伴うガソリン需要期が接近する中、米国ガソリン在庫が6週連続で減少していることもあり、5月12日の同国ガソリン先物価格の終値が1ガロン当たり3.7917ドルと、5月6日に到達した、2005年10月以降の同国ガソリン先物価格統計史上最高水準(同3.7590ドル)を超過して、史上最高価格記録を更新した他、5月13日にはさらに上昇し同3.9578ドルに到達するとともに、ガソリン価格が原油価格を上回る幅が拡大したことにより、製油所の原油精製処理量増加と原油購入活動活発化に関する観測が市場で増大したこと、西側諸国等の石油会社がロシアからの軽油購入を敬遠したこともあり、4月のロシア産軽油輸出量が前月比で減少している旨5月13日に報じられたことにより、当該製品需給の引き締まり感を市場が意識したこと、0.75%の政策金利引き上げについては前向きには検討していない旨のパウエルFRB議長が再表明した旨5月12日夕方(米国東部時間)に報じられたことにより、米国金融当局による金融引き締めペース加速に伴う米国経済成長減速懸念が市場で後退したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したことから、5月13日の原油価格の終値は1バレル当たり110.49ドルと、前日終値比で4.36ドル上昇した他、この日の終値は3月25日(この時は同113.90ドル)以来の高水準となった。また、この結果原油価格は5月11~13日の3日間で1バレル当たり合計10.73ドル上昇した。

 

4. 原油市場における主な注目点等

地政学的リスク要因面では、まずロシアによるウクライナへの事実上の侵攻を巡る情勢であろう。4月16日にロシアはウクライナ南東部の都市マリウポリの大半の地域を掌握した旨主張、4月17日に、ロシア国防省は、マリウポリのアゾフスターリ製鉄所を拠点とするウクライナ軍に対し同日午後1時(現地時間)までに降伏するよう要求、降伏しなければ、同製鉄所への突入を強行しウクライナ軍を一掃する作戦に着手する旨警告した。これに対し4月17日にウクライナのシュミハリ首相はロシア側の要求を拒否、4月16日にウクライナのゼレンスキー大統領もマリウポリのウクライナ軍が全滅すれば停戦交渉は打ち切る(対面での停戦交渉は3月29日以降実施されていないが、テレビ会議形式等で協議は継続している旨5月9日にロシア側協議担当者のメジンスキー大統領補佐官が明らかにしていた)方針である旨示唆した。4月21日には、ロシアのプーチン大統領は同国軍がマリウポリの大半の地域を制圧した旨宣言、ウクライナ軍が支配するアゾフスターリ製鉄所へのロシア軍による強行突入の実施を中止(但し同製鉄所に対する事実上の封鎖措置を実施)するよう指示した(但し、マリウポリのアンドリュシェンコ市長はロシア軍によるマリウポリ攻撃は停止していない旨4月21日に明らかにした)。また、4月22日には、ロシア軍のミンネカエフ中央軍管区副司令官が、ウクライナ東部のドンバス地方と同国南部をロシアが完全に掌握することにより、ロシアが事実上支配するウクライナ南部のクリミア半島からの陸上回廊を形成することが今回のロシアによるウクライナでの特別軍事作戦の目標に含まれる旨明らかにした。そして、アゾフスターリ製鉄所を包囲しているロシア軍は、同製鉄所へ突入すべく空爆等の攻撃を実施している旨ウクライナ軍関係者が明らかにしたと4月24日に伝えられる。4月25日には、ロシアのポリャンスキー国連次席大使が、現時点ではウクライナとの停戦は意味をなさない旨発言した。また、4月27日には、ロシアのプーチン大統領が、無条件で全ての目標を達成すべくウクライナに対する特別軍事作戦を遂行するとともに、強い脅威に晒された場合には、相手が保有しない方法(弾道ミサイル及び核兵器の利用を意味していると見る向きもある)による攻撃を実施する意向である旨発言した。ただ、5月9日にはロシアのプーチン大統領が、第二次世界大戦時の対ドイツ戦勝記念日の際に行われた演説で、同国のウクライナへの事実上の侵攻は、ウクライナ東部ドンバス地方及び南部クリミア地方の住民に加え、ロシア自体を、外部の侵略から防衛するとともに、ウクライナの核保有を阻止するために、先制攻撃の形で実施したものであるとし、当該行為は不可避なものであった旨主張したものの、当初予想されていた、ウクライナに対する宣戦布告や国家総動員発令等の強硬な発言は見送られる結果となった。他方、5月9日にウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの攻撃中心地域であるウクライナの東部及び南部を諦めるつもりはない旨主張した。

また、5月2日には、欧州連合(EU)によるロシアからの原油輸入の即時停止措置に対しドイツは支持する用意がある旨同国のハベック経済相とリントナー財務相が明らかにした。そして、EU加盟国はロシアからの原油供給受入を6ヶ月以内に、石油製品供給受入を2022年末までに段階的に禁止(ロシアからの石油輸入依存度の高いハンガリー及びスロバキアは2023年末までに禁止)するとともに、ロシア最大手金融機関ズベルバンクを国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除することを含む、新たな制裁を発動する方針である旨5月4日に欧州委員会のフォンデアライエン委員長が発表、遅くとも5月9日までに具体的方針を取り纏める意向である旨5月4日に伝えられた。その後、EUは、当該制裁実施に反対するチェコ、ハンガリー及びスロバキア等に対し、石油輸入禁止までより長期の猶予期間(チェコは2024年6月まで、ハンガリー及びスロバキアは2024年末まで)を認める等の調整策を提案している旨5月6日に報じられた。しかしながら、安全保障と安定したエネルギー供給を崩壊させるとともに代替の石油供給源を確保できないとして、ハンガリーは反対する旨5月12日に同国のシーヤールトー(Szijjarto)外相が発表した。そして、ハンガリーの反対が継続していることにより、ロシアからの石油輸入禁止に関するEUの対ロシア制裁発動は延期される可能性がある旨5月12日に報じられた。それでも、EU関係者は、5月末までに石油輸入禁止を内容とする制裁の発動で合意することを目標としている旨明らかにしている。

3月31日には、ロシアのプーチン大統領が、ロシア産天然ガスを購入する際の代金支払いをルーブル建としなければならないことを事実上規定した大統領令に署名、同日当該大統領令は発効した(後述)が、4月27日には、天然ガス購入代金のルーブルでの支払いを拒否したポーランド向けの天然ガス供給をロシアが停止した(また、ロシアによるブルガリア向け天然ガス供給も停止する旨の通知を受けたと4月26日にブルガリアは明らかにした)。さらに、ロシア産天然ガスのパイプライン経由での流入地点であるウクライナのルガンスク州ソフラニフカのガス送出施設を占領するロシア軍及びウクライナの親ロシア派勢力等が操業妨害を行っているとして、5月10日にウクライナの天然ガス輸送会社GTSOUが5月11日午前7時(現地時間)以降当該地点からの天然ガス輸送を停止する旨の不可抗力条項の適用を宣言するとともに、ロシアからウクライナ経由で欧州に流入する天然ガスの量が4分の1程度削減された旨5月11日に伝えられた。また、5月11日に、ロシア国営ガス会社ガスプロムが、ドイツ政府が4月4日に国有化すると発表した同社の元関係会社ガスプロム・ゲルマニアを含む31社に対し制裁を発動した(制裁内容の詳細はこの時点では明らかになっていないとされた)が、ロシアは当該制裁発動対象に対し天然ガスを供給しない旨5月12日にロシア大統領府のペスコフ報道官が明らかにした他、同日ロシア国営ガス会社ガスプロムがヤマル・ヨーロッパ・パイプライン経由での天然ガス供給を停止する旨発表した。また、5月12日には、フィンランドがこれまで実施してきた中立政策を放棄し北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請する旨同国のニーニスト大統領が発表した。これに対し5月13日にもフィンランドへの天然ガス供給を停止する可能性がある旨ロシアが警告したと5月12日に伝えられる。

このように、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻が継続する中、欧州諸国によるロシアからのエネルギー購入停止、もしくはロシアによる欧州諸国への供給制限に向けた動きが見られる。両国間での戦闘は総じて膠着状態となり長期化する様相を呈しているところからすると、今後も、ロシアによる自国産エネルギーに対する供給制限、もしくは欧州諸国等によるロシア産エネルギー禁輸措置を巡る動きが継続することにより、世界石油需給引き締まり観測(例えば、ロシアからの天然ガス供給が脅かされることに伴い、天然ガスから石油への燃料転換が図られることによる、石油需要増加観測を含む)が市場で増大するとともに、原油相場を下支えするといった展開が見られ続ける可能性がある。

イラン核合意正常化を巡る米国を含む西側諸国等とイランとの間での協議は、イランが同国革命防衛隊に対する米国の制裁措置の解除を主張する一方、当該制裁解除は核合意正常化と関係がない旨米国が主張した結果、膠着状態となった。5月4日には、米国国務省のプライス報道官が、イラン核合意正常化に向けた合意の妥結を巡っては不透明感が極めて強いことから、妥結に失敗した場合に米国政府が実施すべき行動について検討中である旨明らかにした。他方、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に伴う原油価格の上昇により、原油収入が増加していることもあり、米国との間での核合意正常化に向けた妥結は急いでいない旨イラン政府幹部が明らかにしたと5月6日に伝えられる。ただ、5月11~12日には、EU対外活動庁のモラ事務局次長がイランのバゲリ外務省次官と協議した結果、イラン核合意正常化を巡る問題が解決に向け前進した旨5月13日にEUのボレル外交安全保障上級代表が明らかにしている。このように、イラン核合意正常化を巡る西側諸国等とイランとの協議を巡っては、一時協議が停滞した格好となったものの、足元イラン核合意正常化が達成される可能性が相対的に拡大している様相を呈している。しかしながら、これまでも当該協議は進展と停滞を繰り返していたことにより、今後交渉が目に見えて進展するようでなければ、イラン核合意を巡る協議が妥結することにより、イランからの石油供給拡大に対する期待が市場で増大することを通じ原油相場に下方圧力を加えると言った展開にはなりにくいものと見られる。

リビアでは、暫定政府の指導者であるドベイバ首相の退陣を要求する抗議活動が活発化し、抗議勢力が同国の一部石油供給関連施設を占拠した結果、操業に影響を及ぼしたことにより、4月17日には、同国西部のエル・フィール(El Feel)油田(原油生産量日量7万バレル)とシャララ(Sharara)油田(同30万バレル)の操業が、さらに4月18日にはズエイティナ(Zueitina)石油ターミナル(原油出荷量日量7万バレル)とブレガ(Brega)石油ターミナル(同6万バレル)の操業が、それぞれ停止した他、エス・シデル(Es Sider)及びラス・ラヌフ(Ras Lanuf)両石油ターミナルの操業も抗議行動により脅かされつつある旨4月18日に伝えられる。そして、このような抗議行動による石油生産関連施設の操業停止により、2022年3月には日量110万バレル程度であったリビアの原油生産量は4月18日時点では日量60万バレル程度となったとされ、4月25日には、いくつかの油田の操業が再開される旨リビア石油省が明らかにしたものの、5月10日時点においても同国の原油生産量は日量60~65万バレル程度にとどまっている旨ドベイバ首相が明らかにしている。このように、リビアでは政情が不安な状態が継続しており、近い将来油田や石油ターミナルでの操業が回復したとしても、いつまた抗議活動等により石油生産関連施設の操業が影響を受けないとも限らないため、同国の原油生産状況を巡っては市場の神経質な見方が継続するとともに、そのような心理が原油相場に織り込まれやすいものと考えられる。

また、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)と、同勢力と対立し事実上の内戦状態となっていた同国のハディ暫定大統領派勢力及び同勢力を支援するサウジアラビアが主導する有志連合軍との間での停戦を仲介する国連が、4月2日夜(現地時間)から2ヶ月間停戦を実施することで両者が合意した旨4月1日に発表した。従って、6月2日には、停戦期間が終了することになるが、その間に恒久的停戦に向けた協議が両者間で開始されるようであれば、中東情勢の不安定化による当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退する結果、原油相場に下方圧力を加える反面、6月2日以降(場合によってはそれ以前)に、両者からの攻撃が再開されるようであれば、中東情勢の不安定化による当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力を加えるといった展開となる可能性がある。

5月3~4日に開催された、米国連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場の事前予想通り0.50%の政策金利引き上げが決定され、これにより政策金利は0.75~1.00%となった。他方、FOMC開催後の記者会見で、パウエルFRB議長は、今後開催されるFOMCにおける0.75%の政策金利引き上げ決定に関しては前向きではない姿勢を示したことから、米ドルが下落するとともに原油相場に上方圧力を加える場面が見られた。また、米国のクリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁は今後2回のFOMCで0.50%政策金利を引き上げることが至極適切である旨5月10日に示唆した。この他、5月9日にはアトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁、5月10日にはニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁、5月11日にはセントルイス連邦準備銀行のブラード総裁、5月12日にはサンフランシスコ連邦準備銀行のデイリー総裁が、それぞれ今後0.50%の政策金利の引き上げの実施を支持している旨明らかにした。このようなこともあり、6月14~15日に開催される予定である次回のFOMCで0.50%の政策金利引き上げ(つまり1.25~1.50%の政策金利適用)が行われる確率が、5月13日時点で92.5%と、0.75%の政策金利引き上げが行われる確率(7.5%)を大きく引き離して高くなっている。

ただ、5月11日に発表された4月の米国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で8.3%の上昇と同8.5%の上昇からは上昇率が縮小したものの、市場の事前予想(同8.1%の上昇)を上回った。また、5月12日に発表された4月の米国生産者物価指数(PPI)は前年同月比で11.0%の上昇と3月の同11.5%の上昇からは上昇幅が縮小したものの、市場の事前予想(同10.7%の上昇)を上回った。このように、4月の物価上昇率は3月のそれに比べ加速しているようには見受けられないものの、依然高水準である他、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に伴うロシアからの石油及び天然ガスの供給途絶懸念が市場で増大しつつあることから、原油及び天然ガス相場等に上方圧力が加わりやすい状態となっているうえ、中国での新型コロナウイルス感染抑制のため経済活動制限により供給網での支障が拡大する可能性があることもあり、高水準の物価上昇率がなお継続しやすいとの認識が市場で根強い状況にある。このようなこともあり、この先物価上昇が加速する兆候が見られるとともに、FOMCにおいて政策金利引き上げペース加速が決定されると言った展開となることも必ずしも排除しきれず(既に米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁は0.75%の政策金利引き上げ実施も排除できない旨5月10日に示唆した他、リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁も0.75%の政策金利引き上げの選択肢を排除すべきではない旨示唆したと5月6日に報じられる)、今後も政策金利引き上げ幅を含めた金融引き締めペース等に対する同国金融当局者の発言等や、6月10日に発表される予定の5月のCPI、6月14日に発表される予定である5月のPPIの、それぞれ内容によっては、FOMCでの政策金利引き上げ幅拡大を含めた金融政策に対する観測が市場で醸成される結果、米ドルが変動するとともに、その影響が原油相場に及ぶ可能性がある。

他方、中国では、新型コロナウイルス感染抑制のため、上海市や北京市等において都市封鎖を含む個人の外出規制や経済活動の制限等の規制を強化した。その後上海市では都市封鎖措置は緩和されつつあるが、5月11日時点においても同市で2例の市中感染が確認されるなどしており、依然個人の外出規制や経済活動の制限緩和は足踏み状態となっている(当該制限等の緩和には市中感染が全く確認できない状態が3日間連続する必要があるとされる)他、北京市では経済活動の制限が4月30日~5月4日の労働節(メーデー)に伴う連休以降も継続されている。5月6日には中国人民銀行が、新型コロナウイルス感染拡大により影響を受けた物流産業を資金面で支援する旨発表するなど、同国政府は景気刺激策を実施する意向であることが示唆されるが、同時に4月21日には中国の習近平国家主席が同国の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策(いわゆる「ゼロコロナ」政策)を継続する意向である旨示唆するなどしており、今後も新型コロナウイルス感染抑制のために、厳格な規制が実施される結果、中国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で強まることを通じ、原油相場に下方圧力を加えるといった展開と見られることもありうる。

米国では5月28~30日の連休(5月30日が戦没者追悼記念日(メモリアル・デー)の休日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入する。このため、ガソリン需要が盛り上がることに伴い、当該製品生産のため製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加することにより、原油の購入が活発化するといった観測が市場で醸成されるとともに、季節的な需給の引き締まり感が市場で強まる結果、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。

また、大西洋圏では間もなくハリケーン等の暴風雨シーズンに突入する(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2021年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量52万バレル程度の原油を輸入した)。4月7日時点のコロラド州立大学の予想によると、2021年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が予想されている(表4参照)。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2021年は当該地域で日量170万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体の約15%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2021年の当該地域の原油精製処理能力は日量817万バレルと米国原油精製処理能力全体の約47%を占めた)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。

表4 2022年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

また、ロシアの実際の石油供給状況も注目点の一つであろう。4月のロシアの原油生産量(コンデンセート除く)は日量910万バレルと3月(同1,000万バレル)から同90万バレル程度減少しており、これは3月8日に米国バイデン大統領がロシアからの石油輸入を禁止することを内容とする制裁を発動した他、西側諸国等の石油会社等がロシアから石油を調達することにより評判リスクを負うことを回避しようとして、同国からの石油の調達を敬遠したことが一因であるとされる。ただ、今後中国及びインド等西側諸国等以外の石油消費国がロシアからの石油調達を活発化させるようであれば、従来中国及びインド等がロシア以外の産油国から調達していた石油を両国が調達しなくなる反面、そのような石油が中国及びインド等以外の石油消費国に向かう結果、ある程度世界の石油供給が平準化に向かう可能性はあろう。因みに、ロシアの黒海沿岸ノボロシイスク(Novorosiiysk)、バルト海沿岸のプリモルスク(Primorsk)及びウスチ・ルーガ(Ust-Luga)の各主要原油輸出ターミナル、及び各港湾へと原油を輸送するパイプラインの能力を考慮すれば、日量58万バレル程度は海上輸送による世界各国及び地域への石油供給拡大が可能であると試算される(表5参照)。加えて、ロシアからカザフスタン経由のパイプラインによる中国に向け原油追加輸出(日量10~20万バレル程度とされる)や、鉄道貨車に原油を積載することによるロシアから中国方面への原油輸出が可能であると見られる。このようなことから、ロシアからドルージュバ(Druzhba:友好)パイプライン経由で欧州に向かう原油輸送量日量72万バレル程度(2021年実績)が欧州諸国による制裁等で途絶したとしても、大半の量は迂回した経路での輸出が可能と言うことになる。また、従来から海上輸送により西側諸国等に輸出されていたロシア産原油は仕向地を変更することにより西側諸国等以外の消費国に向かおうとすることになろう。

表5 ロシアからの主な余剰海上原油出荷能力

他方、中国は日量1,120万バレル程度、インドは同410万バレル程度の原油を、それぞれ輸入している(2020年実績)が、ロシアからの原油輸入量は中国で日量170万バレル程度、インドで同10万バレル程度となっており(図19参照)、仮に欧州が従来実施してきた日量278万バレル程度のロシアからの原油輸入(同)を完全に禁止したとしても、理論上は両国が西側諸国等で受け入れらなくなった原油を受け入れる余地はありそうである。

図19 中国及びインドの原油輸入(2020年、単位:日量100万バレル)

図19 中国及びインドの原油輸入(2020年、単位:日量100万バレル)

もちろん、欧州に向かわなくなったロシアの原油が全量中国及びインド等に向かうというのは、両国の石油供給安全保障の面からも問題となる恐れもあることから、そのような展開となる可能性はそれほど高くはないものと見られるが、ロシア産のウラル原油(ロッテルダム着価格)はブレント原油価格を1バレル当たり40ドル程度下回っていることから、タンカー費用を考慮しても、経済性がある程度確保される結果、ロシアから大型タンカー等で南アフリカの喜望峰沖合等を経由することにより、ある程度の量の原油がインドや中国に原油が向かう、といった展開はありうるものと考えられる。

もっとも、ロシアから中国やインド等に向かう原油を輸送することを巡っては、新たなタンカーの手配が必要になることを含め、原油輸送上の混乱が発生することにより、石油需給が平準化に向かい始めるまでには、それなりの時間を要する可能性があり、それまで少なくとも短期的には一部地域における石油需給引き締まり感が市場で強まる結果、原油相場が下支えされる可能性はある。

また、冬場になれば、ロシア近海は少なくとも部分的には凍結する可能性が高まる結果、砕氷船級タンカーが必要となる場合があり、西側諸国船籍以外のそのようなタンカーが容易に調達できるかどうかということも課題となりうるものと考えられる。さらに、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻の長期化に伴い、米国等の対ロシア制裁強化の一環として、ロシア産原油等を輸入する第三国に対し制裁(いわゆる「二次制裁」)を発動する方針が発表されることにより、中国及びインド等も事実上ロシア産原油等の引き取りを敬遠すると言った事態に陥る結果、事実上世界石油市場から排除されたロシアからの石油供給の代替供給源確保に石油消費国が苦慮するととともに、そのような状況が原油相場に織り込まれるといった展開となる可能性も否定できない。

また、EU加盟国は一部を除きロシアからの原油輸入を6ヶ月以内に、石油製品輸入を2022年末までに段階的に禁止する方針である旨5月4日に欧州委員会のフォンデアライエン委員長が発表したものの、石油輸入の完全禁止まで少なくとも6ヶ月間の猶予(一部諸国はさらに長期の猶予が想定されている)がある他、ハンガリーが当該方策に反対していることもあり、遅くとも5月9日までに完了する予定であった当該方針の策定が遅延しつつあることにより、中国やインド等に向かうロシアからの石油供給増加と併せ、短期的にはロシアの石油供給の落ち込み幅が限定される可能性がある結果、OPECプラス産油国としても、ロシア石油供給の相当程度の減少の兆候が明確に見極められないことにより、世界石油供給が不足しつつあるとの判断が下せないことから、6月2日に開催される予定である次回閣僚級会合においても、例えば、2022年7月の減産措置につき、前月比で日量43.2万バレルの減産措置の縮小を決定する、といった慎重な決定がなされる可能性もある。また、OPECプラス産油国の主要構成国であるロシアに配慮することもあり、政治的要因による石油供給上の問題に対しOPECプラス産油国は関与しない旨、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相が3月28日に示唆しており、このような観点からも、OPECプラス産油国はロシアのウクライナへの事実上の侵攻といった政治的な事象に対して慎重に対処していく可能性があるものと考えられる。

全体としては、今後米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大しやすくなることに加え、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻の継続による、西側諸国等の対ロシア制裁強化とそれによるロシアからの石油供給等への影響に対する市場の懸念、及びOPECプラス産油国による慎重な減産措置の縮小方針の遂行等が、原油相場を下支えするものと見られる。そのような中で、中国の新型コロナウイルス感染抑制のための個人の外出規制及び経済活動の制限を巡る状況、そして中国政府による経済支援策の実施状況、米国金融当局者による金融引き締め実施状況等が、原油相場に影響を与えるものと考えられる。

 

5. 世界天然ガス市場動向

米国では、2022年2月は前年同月に比べ温暖であった(図20参照)ことから民生部門の天然ガス需要は前年同月比で減少となった(図21参照)ものの、3~4月は特に北部を中心として気温が低下する場面が見られたことにより当該部門での天然ガス需要は前年同月比で増加した。また、2021年2月中旬頃に同国南部等に寒波「ウリ」が来襲したことにより、製造業の事業活動に支障が発生した結果、2021年2~3月は産業向け天然ガス需要が前年同月比で減少する場面が見られるなど低迷したが、2022年2~3月はその反動で産業部門向け天然ガス需要が増加する格好となった。しかしながら、2021年4月には寒波の影響が低減するとともに製造業の活動と産業部門向け天然ガス需要が回復したことから、その影響もあり2022年4月の産業部門向け天然ガス需要の前年同月比での伸びは鈍化した。さらに、2021年2月半ばに寒波「ウリ」が米国テキサス州等に来襲したことに伴い停電が発生したことが、発電部門向け天然ガス需要に負の影響を与えた他、寒波の来襲に伴う資機材の凍結等により米国テキサス州等での天然ガス生産が停止したことにより、特に発電部門向けの天然ガス供給に制約が加わるなどしたこともあり、2021年2~3月の同国の発電部門向け天然ガス需要が前年同月比で減少した格好となった反動で、2022年2~3月の同国の発電部門向け天然ガス需要は増加した他、2022年4月も、北部を中心とする地域は前年同月に比べ寒冷であった一方、南部を中心とする地域は前年同月に比べ温暖であったことにより、空調用の電力供給のための発電部門向け天然ガス需要は前年同月比で増加した。総合すると、2022年同年2月の天然ガス需要は前年同月比で減少したものの、3~4月の米国天然ガス需要は前年同月比で増加した。

図20 米国(ニューヨーク)気温(2022年)

図21 米国天然ガス消費増加量(前年同月比)(2015~22年)

他方、2022年2月においても、前年同月ほどではないにせよ、米国テキサス州等南部に寒波が到来した結果、気温が平年を大幅に割り込んで冷え込む場面が見られた(図22参照)ことにより、停電や原油及び天然ガス生産関連施設の凍結等が発生した結果、同国のシェールオイル生産に随伴して生産される天然ガスやシェールガスを含む天然ガス生産が落ち込む場面が見られたものの、原油及び天然ガス価格が上昇傾向であったこともあり、その後米国テキサス州等でシェールオイルやシェールガス開発・生産活動等が回復に向かうとともに、シェールオイル生産に随伴して生産される天然ガスの生産を含め天然ガス生産は増加傾向とはなったものの、原油価格(WTI)が1バレル当たり100ドルを超過するほど高水準になったり、天然ガス価格が上昇傾向となったのは3月頃以降と比較的最近であった(シェールオイル開発・生産等の事業開始に関する意思決定から実際の生産開始までには通常少なくとも6ヶ月程度は要するため、価格が上昇したからと言って直ちに生産が増加するわけではない)ことに加え、シェールオイル等を開発・生産する石油会社の中には、無闇に開発・生産活動を推進すれば経営効率が悪化すると懸念する経営者(従来株主等の投資家から、生産拡大よりも収益拡大を優先するように圧力を加えられていた)が存在するなど、シェールオイル等の開発・生産拡大に対する企業の姿勢がまちまちな部分があったこともあり、シェールオイルの生産に随伴して生産される天然ガスを含む天然ガスの生産拡大ペースも比較的緩やかなものであった(図23参照)(また、シェールオイル(及び随伴して生産される天然ガス)等の開発・生産のために必要な資機材類(鉄管や水圧破砕により形成された石油・天然ガスの流出経路が閉鎖しないようにするために挿入する砂類等)及び人材の不足等が、シェールオイル等の開発・生産事業推進及び生産拡大上の障害となっていると指摘する向きもある)。それでも、原油及び天然ガス価格が上昇してきていることもあり、この先2023年にかけては、米国の天然ガス生産量は以前の見通しに比べ増加ペースが加速すると予想する向きもある。

図22 米国(ヒューストン)気温(2022年)

図23 米国国内天然ガス生産量及び見通し(破線部分)(2009~23年)(EIA発表時期別)

そのような中、メキシコへのパイプラインを通じた天然ガス輸出は春場にさしかかったことにより、気温の上昇とともに空調用電力供給のための発電部門向け天然ガス需要が増加傾向となったと見られることもあり、特に4月は米国からメキシコに向けての天然ガスの輸出は堅調となった(図24参照)。

図24 米国のメキシコへのぴプラインによる天然ガス輸出(2021~22年)

また、2月24日にロシアがウクライナへ事実上の侵攻を開始したことに対し、3月8日にも米国がロシアから供給されるエネルギーの輸入を禁止する旨バイデン政権が発表する予定であると3月7日に報じられた(実際3月8日には、米国がロシアからの石油を含むエネルギー輸入を禁止する旨バイデン大統領が発表した他、同日英国のジョンソン首相も2022年末までにロシアからの原油輸入を停止する旨発表した)ことにより、実際に西側諸国等がロシアからの石油等エネルギー輸入を停止する動きが見られるようになったこともあり、そのような動きが欧州諸国のロシアからの天然ガス輸入にまで広がるのではないかとの懸念が市場で増大したことにより、欧州の天然ガス需給引き締まり観測が市場で増大するとともに、当該地域の天然ガス価格がアジア等他の地域の天然ガス価格を大きく上回る場面が見られるようになった(図25参照)。このようなことから、米国から欧州方面に向け液化天然ガス(LNG)が活発に輸出されるようになった(図26参照)。

図25 米国メキシコ湾から欧州及び日本/韓国向けLNGのネットバック価格(2021~22年)

図26 米国からLNG輸出量(2016~22年)

そして、天然ガス生産が緩やかに増加する一方、メキシコへの天然ガス輸出及び欧州を中心とする国外諸国へのLNG輸出が堅調に行われたことから、米国の天然ガス需給は引き締まり気味に推移し、2月4日には過去5年平均水準を9.3%下回っていた同国の天然ガス貯蔵量は4月8日には過去5年平均水準を17.8%下回った他、それ以降5月6日に至るまで過去5年平均水準を16.0~17.0%程度下回る状態を継続した(図27参照)。このような米国天然ガス需給の引き締まり傾向と旺盛な米国からのLNG輸出動向もあり、2022年の夏場以降に向け米国の天然ガス需給が一層引き締まるのではないかとの不安感が市場で増大したうえ、4月下旬から5月初頭にかけ米国北部で気温が平年を下回って寒くなるとの気象予報が発表されたことにより、暖房のための民生部門での天然ガス需要増加観測が、また、5月上旬に米国南部において気温が平年を上回って暑くなるとの気象予報が発表されたことにより、空調稼働に向けた電力供給用の発電部門での天然ガス需要増加観測が、それぞれ市場で増大したことにより、同国天然ガス相場に上方圧力が加わった結果、2月11日には100万Btu当たり3.941ドルの終値であった米国天然ガス価格は5月13日には同7.663ドルの終値へと上昇した他、5月5日には同8.783ドルと、2008年8月1日(この時は同9.389ドル)以来の高水準の終値に到達する場面も見られた(図28参照)。

図27 米国天然ガス貯蔵量(2017~22年)

図28 天然ガス先物価格の推移(2018~22年)

欧州では、ロシアによるウクライナへの事実上の侵攻への観測が市場で高まる中、天然ガスをロシアからドイツに輸出するために敷設された(但し、ドイツ及びEU当局等による操業開始承認待ちであった)ノルド・ストリーム2パイプライン(天然ガス輸送能力日量53億立方フィート)の操業開始承認手続きを中断する旨ドイツが2月23日に明らかにしたうえ、2月24日にロシアがウクライナへの事実上の侵攻を開始して以降、西側諸国等による対ロシア制裁強化とロシアによる報復措置としての西側諸国等向けの天然ガスを含むエネルギー供給の制限の可能性、もしくは西側諸国の石油会社等によるロシア産天然ガス購入敬遠の動きにより、欧州での天然ガス需給引き締まり感が強まった。また、2月26日には、米国、カナダ、英国及び欧州大陸諸国が、ロシアの銀行の一部を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除する旨の制裁を発動することで合意したことから、いずれロシア産天然ガス購入代金の送金に支障が発生する結果、ロシアからの天然ガス供給が減少するのではないかとの見方が市場で発生した。そして、3月2日には、米国バイデン政権のサキ大統領報道官が、ロシア石油・天然ガス産業に対する制裁発動を検討しており、実際に発動する余地は十分にある旨明らかにした他、3月8日にも米国のバイデン政権がロシアからのエネルギー輸入を禁止する旨発表すると3月7日に報じられたことにより、いずれ欧州でもロシアからの天然ガス輸入が禁止されるのではないかとの懸念が市場で増大した(また、当面ロシアからのエネルギー輸入は必要である旨3月7日にドイツのショルツ首相は主張したものの、3月8日に欧州委員会は2022年末までにEU加盟国はロシアからの天然ガス輸入を現状から3分の2削減する他、2030年よりも相当程度早期の段階でロシアからの天然ガス輸入を完全に停止するべく、加盟国間で議論を実施する意向である旨明らかにした)。このような要因により、当該地域での天然ガス価格に上方圧力が加わった結果、例えば2月11日時点では100万Btu当たり推定25.755ドルであったオランダTTF天然ガス先物価格の終値は3月7日には同72.272ドル、2月11日時点では同25.210ドルであった英国NBP天然ガス先物価格の終値は3月7日には同70.700ドルへと、それぞれ上昇、両指標は史上最高水準に到達した。

また、EU当局は2022年11月1日までに貯蔵能力の少なくとも80%に当たる天然ガスを貯蔵するよう加盟国に要請する他、翌年以降は11月1日までに貯蔵能力の90%に当たる天然ガスを貯蔵するよう加盟国に要請する案を策定した旨3月23日に伝えられたことにより、EU加盟国による天然ガス購買活動加速観測が市場で発生した。さらに、3月30日にドイツ政府が自国への天然ガス供給に対する緊急計画第一段階の実施を宣言し、ロシアからの天然ガス供給途絶時に向けた準備を開始したことにより、欧州での天然ガス需給引き締まり観測が市場で増大した。

加えて、3月31日にはロシア産天然ガス(パイプライン経由で供給される天然ガスが該当するとされる)を購入する際の代金支払いをルーブル建としなければならない(ロシアの非友好国が対象であるとされる)ことを事実上規定した大統領令にロシアのプーチン大統領が署名、同日当該大統領令が発効した。同大統領令施行に先立つ3月23日にロシアのプーチン大統領が非友好国のロシア産天然ガス購入代金をルーブル建とする方針である旨明らかにしたことに対し、EU加盟国首脳等がルーブル建での天然ガス購入代金支払いは売買契約違反となる恐れがある旨警告したと3月24日に伝えられた(なお、同大統領令では西側諸国の石油会社等はロシア国営ガス会社ガスプロムの子会社である金融機関ガスプロムバンクにユーロ建口座とルーブル建口座を開設、西側諸国の石油会社等は天然ガス購入代金をユーロで支払うが、ガスプロムバンクは入金したユーロをルーブルに交換したうえで、天然ガス販売企業に支払うこととしており、天然ガス売買契約違反になるかならないかの境界が曖昧であるとの指摘があることから、5月2日に欧州委員会は今後法的境界の詳細を公表する方針である旨明らかにしている)他、3月28日に、先進7ヶ国政府(G7)のエネルギー担当相は、ルーブル建天然ガス購入代金支払い方法を拒否する旨表明した。しかしながら、4月26日にはガスプロムがルーブル建天然ガス購入代金支払いを拒否したとされるポーランドとブルガリアへの天然ガス供給を4月27日以降停止する旨両国に通知した(ロシアからベラルーシ経由でポーランドに供給される天然ガスは4月27日より供給が停止した旨同日確認されている)ことにより、欧州を含む西側諸国等の天然ガス需要家等に対するロシア産天然ガス供給停止に対する不安感が市場で増大した。また、EU加盟国はロシアからの原油供給受入を6ヶ月以内に、石油製品供給受入を2022年末までに段階的に禁止(ロシアからの石油輸入依存度の高いハンガリー及びスロバキアは2023年末までに禁止)するとともに、ロシア最大手金融機関ズベルバンクをSWIFTから排除する旨の制裁を発動する方針である旨5月4日に欧州委員会のフォンデアライエン委員長が発表したことにより、同様の輸入禁止措置が天然ガスに広がるとの懸念が市場で拡大した。また、ウクライナ東部ルガンスク地方にある、ロシア産天然ガスのパイプライン経由での主要流入地点2ヶ所のうちの1ヶ所であるソフラニフカのガス送出施設を占領するロシア軍及びウクライナの親ロシア派勢力等が操業妨害を行っている(親ロシア派勢力が天然ガスを抜き取っているとされる)として、5月10日にウクライナの天然ガス輸送会社GTSOUが5月11日午前7時(現地時間)以降当該地点からの天然ガス輸送を停止する旨の不可抗力条項の適用を宣言したこともあり、ロシアからウクライナ経由で欧州に流入する天然ガスの量が5月11日には5月9日比で27%、5月12日には同37%、それぞれ減少した。そして、ドイツ政府が4月4日に一時国有化すると発表した同社の元関係会社ガスプロム・ゲルマニアを含む31社に対し、5月11日にガスプロムが制裁を発動、ロシアは当該制裁発動対象に対し天然ガスを供給しない旨5月12日にロシア大統領府のペスコフ報道官が明らかにした他、5月12日にガスプロムがヤマル・ヨーロッパ・パイプライン経由での天然ガス供給を停止する旨発表した。さらに、フィンランドがこれまで実施してきた中立政策を破棄し北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請する旨5月12日に同国のニーニスト大統領が発表したことに対し、5月13日にもフィンランドへの天然ガス供給を停止する可能性がある旨ロシアが警告したと5月12日に伝えられた。このような要因が、欧州天然ガス価格に上方圧力を加えた(また、足元で合計6,400万kWの能力を保有するフランスの原子力発電能力のうち約半分がメンテナンス等で休止状態となっていることに伴い、発電燃料が天然ガス等に転換する格好となっていることも、欧州での天然ガス需要を押し上げるとともに、天然ガス需給引き締まり感を増大させ、結果として同地域での天然ガス価格を下支えする形で作用した)。

しかしながら、天然ガス価格が高水準であったこともあり、欧州の天然ガス需要が概して低調であった(図29参照)(例えば、世界肥料製造大手であるノルウェーのヤラ・インターナショナル(Yara International)は天然ガス価格高騰によりフランス及びイタリアでの天然ガスを原料等にしたアンモニア及び尿素製造を削減した旨3月9日に明らかにしている)ことに加え、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用天然ガス需要期が終了しつつあったこと、3月7日に欧州天然ガス価格が史上最高水準に到達するとともに、アジアLNGスポット価格を相当程度上回ったこともあり、米国を中心とした産ガス国からのLNG輸入が活発した(図30参照)(ただ、一方で、一時欧州では、フランス及びスペイン以外のLNG受入施設においてLNG受入が能力一杯で行われるようになるなど、LNG受入能力不足が顕在化したこともあり、欧州着のスポットLNG価格が欧州のスポット天然ガス価格に比べて割安な水準で取引される場面が見られた)こともあり、欧州の天然ガス貯蔵量が増加傾向となるとともに、2022年2月11日には過去5年平均水準を28.6%下回っていた欧州天然ガス貯蔵量は、5月13日には過去5年平均水準を下回る率が11.0%へと縮小するなど、欧州での天然ガス需給の引き締まり感が後退しつつあることが示唆された(図31参照)。さらに米国は2022年にEUに対し150億立方メートル(約5,300億立方フィート、LNG換算1,100万トン)のLNGを供給することを約束する旨3月25日に米国と欧州委員会が共同声明を発表したことにより、この先の天然ガス需給の相対的な緩和感が市場で意識された。また、5月5日には従来LNG受入施設を保有していなかったドイツ政府が4基の浮遊式LNG受入ターミナル(FSRU:Floating Storage and Regasification Unite)の調達に関する契約に調印したことにより、欧州へのLNG流入が促進されることを通じて天然ガス需給がさらに緩和するとの観測が発生したこと、5月11日にイタリアのドラギ首相が、欧州の石油会社等は制裁に抵触することなくロシア産天然ガス購入代金をルーブル建で支払うことが出来るようになるであろう旨発言した(ただ、5月15日に至るまでEU当局者はドラギ首相の発言を認める旨の表明は行っていない)ことが、当該地域の天然ガス価格に下方圧力を加えた結果、天然ガス価格は3月7日以降総じて下落傾向となり、5月13日時点でオランダTTF天然ガス先物価格の終値は100万Btu当たり推定29.563ドル、英国NBP天然ガス先物価格は同18.203ドルとなっている(ただ、天然ガス輸入量に占めるロシアの割合が英国(2020年時点で推定16%)に比べ相対的に高い欧州大陸諸国(同35%)の指標であるオランダTTF価格の英国NBP価格を上回る幅が、ロシアが欧州諸国に対し天然ガス購入代金のルーブル建支払いを要求した3月31日以降拡大している)。

図29 欧州天然ガス需要増加量(前年同月日、2008~22年)

図30 欧州LNG輸入(2006~22年)

図31 欧州天然ガス在庫(2018~22年)

アジアでは、3月16日深夜(現地時間)に日本の福島県沖を震源として強い地震が発生した影響で、東北電力原町火力発電所1号機(同100万kW)、相馬共同火力発電新地発電所1号機(同100万kW)及びJERA広野火力発電所6号機(発電能力60万kW)等の石炭火力発電所等の操業が停止した。このため、代替電力供給のための天然ガス火力発電所向け天然ガス需要が増加したこともあり、スポットLNG調達が行われたと指摘する向きもある。また、特に4月に入りインドや中東諸国等で気温が大幅に上昇してきたことに伴い、空調の稼働が上昇するとともに、電力供給が増加したことにより発電向け天然ガス需要が拡大した(他方、インドでは2020年の新型コロナウイルス感染拡大の際の石炭需要低下に併せ石炭生産体制を縮小した結果、今般の電力需要の増加に石炭生産が追い付かなくなった結果、石炭供給不足が顕在化していると言われている)こともあり、スポットLNG購入活動が活発化する動きが見られた。このような要因が、アジア地域でのスポットLNG価格を下支えする格好となった。

しかしながら、中国等が2021~22年の冬場に備えて早い段階でLNGの調達を活発化させていたことに加え、2022年3月以降中国では新型コロナウイルス感染が拡大するとともに、感染抑制のために上海市が3月28日以降都市封鎖措置を実施することを通じ経済活動制限が強化されたことにより、天然ガス需要が影響を受けたと見られる他、スポットLNG価格が例年に比べ総じて高水準で推移していたこともあり、需要家は可能な限り長期契約に基づく原油価格連動体系等が適用される割安なLNGの調達に務めたり、在庫取り崩しで対応したりした。また、アジアの一部諸国の発電部門においてLNGに比べ相対的に割安な重油へと燃料転換が図られているとされることに加え、12~3月において大気汚染防止のために操業を停止した韓国で4月以降最大16基の石炭火力発電施設が操業を再開した他、中国でも大気汚染抑制のために稼働を停止していた石炭火力発電所の操業が再開しつつあったうえ、同国政府の指導により石炭生産の拡大が図られつつあった。このようなこともあり、北東アジア諸国では、2021~22年の冬場に気温が平年を下回る場面が見られたものの、春場に接近するに従って、冬場の暖房シーズンに伴う暖房向けの民生部門での、もしくは空調稼働のための電力供給向け発電部門での、天然ガス需要期の終了が市場で意識されるとともに、天然ガス需給の引き締まり感が弱まる方向に向かうとともに、スポットLNG需要も抑制される格好となったものと見られる。

また、電力供給問題で2021年12月2日に操業を停止した豪州のプレリュード(Prelude)LNG出荷施設(操業者:シェル、LNG生産能力年産360万トン)が操業を再開した旨4月11日にシェルが発表した他、液化施設に天然ガスを供給するペガガ(Pegaga)ガス田で生産される天然ガスに水銀が混入している問題が発生したと2021年9月2日に報じられたことを含め同年8月中旬以降装置不具合等が発生したことで操業がもたつき気味であるとされたマレーシアLNG出荷施設(操業者:ペトロナス、LNG生産能力年産2,920万トン)が、3月末に暫定的ながら水銀除去装置が設置されたこともあり、LNG生産を回復させつつある旨4月5日に伝えられるなどしたこと、中国政府の方針により同国国内で天然ガス生産の拡大が図られていると指摘されたこと等も、アジア太平洋地域でのLNG供給増加と需給緩和観測を市場で醸成させた。

このようなことから、全体としては、アジアのスポットLNG価格はオランダTTF価格に追随しつつ、TTF価格より割安な水準(従来欧州では、域内、北アフリカ及びロシア等からのパイプライン経由の天然ガスに加え液化天然ガス(LNG)と言ったように供給源が多様化していたことや、2010年代前半の欧州の一部諸国における債務問題の深刻化に伴う域内天然ガス需要家の天然ガス供給者に対する価格引き下げ交渉実施等もあり、欧州の天然ガス価格はアジアのLNG価格に比べ割安であった)で推移、2月11日には100万Btu当たり24.570ドルであったアジア市場のLNG先物価格の終値は3月7日に欧州天然ガス先物価格が史上最高水準に到達した際には100万Btu当たり51.765ドルの史上最高水準へと上昇したものの、その後は総じて下落傾向となっており、5月13日には同23.433ドルとなっている。

 

以上

(この報告は2022年5月16日時点のものです)

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