ページ番号1009371 更新日 令和4年6月3日
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概要
- 2021年の中国の天然ガス消費は過去最高の伸び。工業、発電向けガス消費が伸長。需要増加の5割はガス増産により対応。石炭からの転換とエネルギーセキュリティ強化政策で国内増産(2018~)が続く。
- 2021年のLNG輸入は前年比18%増(12MMt)の79MMtで初めて日本を抜き世界首位のLNG輸入国に。
- 2021年のLNG輸入の4割(31.5MMt)はスポットLNG。Tier-2が積極的にスポットLNGを輸入したが、価格高騰で2021年Q4以降鈍化。
- 2022年は冬季五輪に伴う工場操業制限に加え、「ゼロコロナ」政策に伴う経済減速で天然ガス需要の伸びは鈍化、割高なスポットLNGが伸び悩み、LNG輸入は前年割れ、日本が首位に返り咲く可能性。
- 中国のガス需要は、足元は鈍化も中長期的に伸長。2021年は過去最大規模(27MMt)のLNG長期契約締結。契約ラッシュの背景にエネルギーセキュリティ強化、市場化政策の進展、企業の調達最適化戦略、LNGスポット価格高騰による長期契約志向、Tier-2の自社LNG受入基地建設やLNG直接契約拡大、外交関係悪化等による調達制約回避など複数の要因が考えられる。
- CNOOCは2022年にLNG船12隻を発注・傭船、自主輸送拡充で調達最適化を図ろうとしている。中国においても今後第三国向けに供給されるLNG取引(いわゆる「外・外取引」)拡大の可能性がある。
- 国内ガスの増産やLNG輸入(輸入・貯蔵インフラ整備を含む)の拡大が見込まれる一方でパイプラインガスの輸入はロシアとの契約に基づく増量を除き当面限定的。ロシアとは基本合意・未合意案件が複数あるが供給までには時間を要する。
- エネルギートランジション政策のもとでも天然ガスは調整電源等への期待から長期的に需要が伸びる趨勢である。
- 「エネルギー14・5計画」において天然ガスはエネルギーセキュリティ強化の観点から増産ならびにサプライチェーン強化について目標が示されている。輸送・貯蔵インフラ整備、ピーク調整能力増強に加え、価格や取引などの市場化も推奨されている。
(出所 SIA Energy、CNPC他)
1. 中国の天然ガス市場における主な動き(2021年~)
中国の天然ガス市場における主な動きを図1にまとめた。2021年は天然ガス消費と国内生産がいずれも増加した。また日本を抜き、世界1のLNG輸入国となった。米国他と大量のLNG長期契約を結んだ。その他天然ガス市場化政策取り組みの一環で上海石油天然ガス取引所(SHPGX)が中国のスポットLNG参考価格を公表した。国家石油天然気管網公司(PipeChina)はLNG受入基地使用権や冬季のガス貯蔵設備容量を公開した。

1-1. 2021年の天然ガス消費は過去最高の伸び
国家発展改革委員会によると、2021年の天然ガス需要は12.7%増(42Bcm≒31MMt増)の373Bcm(272MMt)で過去最高の伸びであった。コロナからの経済復調で工業活動が活発化したことにより天然ガス需要が増加した。特に工業、発電(熱供給)が需要をけん引した。国内ガス生産は前年比8.3%増(15Bcm≒11MMt増)の208Bcmで需要増加の5割は国産ガスの増産でまかなった。石炭から天然ガスへのエネルギー転換政策に伴う需要増加と国内探鉱開発強化政策(2018~)により増産が続いている。

SIA Energy等に基づきJOGMEC作成
天然ガス輸入は前年比19%増(27Bcm≒20MMt増)の167Bcm(121MMt)で輸入比率は44%である。LNGの輸入は前年比18%増(12MMt)の109Bcm(78.9MMt)で、通年で初めて日本(2021年74.3MMt)を上回り、世界1位のLNG輸入国となった。パイプラインガスの輸入は同23%増(7.9MMt増)の58Bcm(42MMt)である(図2)。
1-2. 2021年は工業、発電向けのガス消費が伸長
CNPC経済技術研究院(CNPC-ETRI)が2022年4月に発表した2021年国内外石油・天然ガス産業発展報告」に基づく2021年の分野別ガス消費を図3に示す。コロナからの経済復調、輸出増加で前年比14.4%増加の145Bcm(106MMt)であった。工業向けはガス消費の4割を占める。発電・熱供給は48MMtでガス消費の18%を占めた。電力消費増加(前年比10.3%増の8.31兆kWh)の一方で石炭のひっ迫や降水量減少による渇水で同国のミドルピークの要である水力発電量が低下(前年比2.5%減)したことで発電向けのガス需要が増加した。コンサルタントのSIA Energyによると発電・熱供給向けのガス消費(推計)は前年比13.4%増の66Bcm(48MMt)、ガス火力発電量は前年比16%増(0.3兆kWh)であった。ただしガス火力が発電に占める比率は設備容量の4.5%、電力消費の3%に過ぎない。この他都市ガスは集中暖房の石炭から天然ガスへの転換等により10.5%増加、化学肥料は石炭由来化学肥料のコスト増等を受けて5.8%増加した。

出所:CNPC-ETRI「2021年国内外石油・天然ガス産業発展報告」に基づきJOGMEC作成
1-3. 天然ガス需要増加(エネルギー転換)と増産政策
過去5年の中国の天然ガス生産を図4に示した。2021年は若干伸びが鈍化したが、同国の天然ガス生産は過去5年間10%前後の伸びを示している。中国ではウクライナ危機に先駆け、米中関係悪化等でエネルギー安全保障意識が高まり、2018年から国内探鉱開発強化政策による増産が続いている。

中国国家統計局に基づきJOGMEC作成
中国最大の天然ガス生産者CNPCによる天然ガスの2060年までの生産見通しを図5に示した。CNPCは探鉱開発投資の拡大と技術革新により天然ガスの生産は増加を続け、2030年には現在の2割増の250Bcm(183MMt)、2060年には現在の1.7倍の350Bcm(255MMt)に達すると見込むが、技術革新の進展次第では生産が伸び悩み、輸入が拡大する可能性がある。なお、CNPCによる言及は無いが、図5で示したガスハイドレートは主に海洋のメタンハイドレートを指すと思われる(同国では国土資源部が2017年にメタンハイドレートを173番目の鉱種に認定した。2019年10月から2020年3月にかけて南シナ海北部神狐(Shenhu)海域(水深1,225メートル)において2017年に続く2度目の長期産出試験を実施し、30日間で合計86万1400立方メートルのガスを得たとしている。

出所:「世界と中国のエネルギー展望」報告書2021版(CNPC2021年12月)
1-4. 2021年の天然ガス関連主なトピックス
中国の天然ガス主要国別輸入とトピックスを図6に示した。中国は2021年に天然ガス約121MMtを輸入した。注目は米国からの輸入の増加である。米国からは前年2020年に比べ3倍、6MMt増加の9MMtを輸入した。カタールとマレーシアを抜き豪州に次ぐ2位のLNG輸入相手国に浮上し、ガス輸入の7%を占める存在となった。もっとも2022年に入り米国からのLNG輸入は欧州に向かっており、中国の米国からのLNG輸入は前年同期比7割(1.6MMt減少)鈍化し、長期契約を締結している豪州、カタール、マレーシアがLNG輸入上位3か国に戻った。
豪州からは2021年にLNG31MMtを輸入した。同国は最大のガス輸入相手先で輸入の26%を占める。トルクメニスタンを上回り3年連続で首位に立った。また豪州のLNG輸出相手先として昨年中国は日本を上回り首位に立った。
2021年に中国は豪州との関係悪化に伴い同国からの石炭輸入を非公式に停止したが、LNGの輸入は長期契約による輸入の増加でむしろ前年比16%(2MMt)増加した。中国が輸入する豪州LNGの9割は拘束力のある長期契約である。2021年5月に中国政府が小規模LNG輸入企業に対し豪州産のLNG購入を控えるよう非公式に指示したと報じられたが、中国最大のLNGバイヤーである国有CNOOC(長期契約ポートフォリオの15%を豪州が占める)は豪州との長期契約を中断するつもりはないと述べた。ただし新規の長期売買契約や資産買収の交渉は止まっており、このまま新規契約あるいは契約の更新が行われなければ、2031年から2036年頃にかけて豪州からのLNG輸入は徐々に減少することになる。
ミャンマーからは同国沖合シュエ(Swe)ガス田で生産するガスを西南部雲南省向けのパイプラインで輸入している。2021年は3MMtを輸入、ガス輸入の3%を占める。ミャンマーは軍政への批判が高まり外国企業の撤退が相次いでおり、2021年5月に中国向けのパイプライン施設への攻撃で治安部隊に死傷者が出ているが、Sweガス田の事業者(韓国POSCOが権益51%を保有しオペレーターを務め、インドONGC17%、韓国KOGAS8.5%、インドGail8.5%と続きミャンマーMOGEが15%を保有)は現在のところ撤退しておらず、輸入量は前年と同水準である。
トルクメニスタンは中国にとり豪州に次ぐガス輸入相手先で輸入の20%を占める。トルクメニスタンのガスはウズベキスタン、カザフスタンを経由し中国新疆に至る中央アジアパイプラインにより輸入している。2020年は割安なLNGに押され、中央アジア各国からのパイプラインガス輸入は前年割れの状態であったが、2021年はトルクメニスタン、ウズベキスタンからの輸入は微増した。しかしカザフスタンからの輸入は自国需要増加で前年割れであった。
一方、ロシアからの天然ガス輸入はパイプラインとLNGを合わせ前年の1.5倍の12MMt(16.5Bcm)に増加した。ガス輸入の10%を占める。このうちパイプラインは7.5MMt(10.4Bcm)、LNGは4.5MMtである。増加はPower of Siberia(「シベリアの力」)の契約に伴うものである。2021年12月に「シベリアの力」パイプインの中国国内中部区間(吉林・長嶺~河北・永清間1,110キロメートル)が開通したことでロシアのガスは北京まで届くようになった。

SIA Energy等各種資料に基づきJOGMEC作成(赤枠は輸入が増加・横ばい、青枠は輸入が減少)
1-5. LNGの輸入は世界首位だが中国のエネルギー消費の3%
LNG事業者団体のGIIGNLの年次報告によると中国は2021年の世界のLNG輸入量373MMtの21%(79MMt)を占め、日本(74MMt)を5MMt上回り世界1位のLNG輸入国となった(図7)。ただし中国のエネルギー消費(2021年)は前年比5.2%増の3,668MMtoe(石油換算トン)であり、天然ガスはエネルギー消費の9%(20年8.4%)、LNG輸入は同国のエネルギー消費の3%(天然ガス消費の29%)に過ぎず、中国のエネルギーミックスにおいて輸入LNGの存在は必ずしも大きくはない(図8)。

出所:GIIGNL

国家統計局、新華社に基づきJOGMEC作成
1-6. 2021年、LNG輸入の4割を占めたスポットだが価格高騰でQ4以降は鈍化
中国では2017年にLNGの輸入がパイプラインの輸入を上回り、その後もLNGのシェアは高まる一方である(輸入ガスに占めるLNGのシェアは2017年の44%から2021年は65%に増加)。石炭から天然ガスへの燃料転換政策による天然ガスの需要増加をLNGの輸入で対応したことに加え、LNGサプライチェーンが変化したことがその理由としてあげられる。中国のLNGサプライチェーンは元々国有石油会社3社(CNOOC、PetroChina、SINOPEC)が外資サプライヤーとLNG売買契約を締結し、LNG受入基地の操業を主導し、発電・都市ガス事業者にガスを卸販売することが一般的であったが、2016年頃からTier-2(図9参照)と呼ばれる地方政府系の深圳燃気(Shenzhen Gas)、佛然能源(Foran Energy)他民間の都市ガス事業者のENN、Jovo等、そして地域グリッド(ガス・電力)事業者の申能(Shenergy)、浙江能源(Zhejiang Energy)他による輸入が増加した。LNG受入基地の独自建設あるいは出資者としての基地利用(TUA)などを通じたTier-2によるLNGの直接輸入が増加している。

SIA Energy他各種資料に基づきJOGMEC作成
SIA Energyによると、2021年のLNG輸入79MMtのうち国有3社(PetroChina、Sinopec、CNOOC)が8割(64MMt)、残り2割(15MMt)は地方政府系Shenergy、民間ENNや広匯(Guanghui)等のTier-2事業者が輸入した(図10)。Tier-2は自ら操業するLNG受入基地で11.6MMtのLNGを輸入し、残り3.4MMtは国有PipeChinaが保有するLNG受入基地の利用(TPA)や出資者としての基地利用(TUA)により輸入した。また、2021年の中国のLNG輸入の39%(31.5MMt)がスポットLNG(2020年の28%≒19MMtから増加)であった。2021年Q1からQ3にかけてTier-2が積極的にスポットLNGを輸入したが、価格高騰でQ4以降は鈍化した。

出所:SIA Energy
1-7. SHPGX、中国スポットLNG取引参考価格を公表
上海石油天然ガス取引所(SHPGX)は2021年9月からSNSのWeChat(微信)により中国着スポットLNG取引参考価格の公表を開始した。中国のエネルギー市場化政策ならびにTier-2のスポットLNG取引拡大を受けた動きである。SHPGXの評価チームが同取引所の国際LNG取引プラットフォームを通じたオンラインの成約価格、取引所が入手した国内企業の成約状況、売買照会を抽出し、米国HH、欧州TTF価格、コスト等を考慮し3か月先までのCIF価格を評価したものである(表1)。この他SHPGXはウェブサイトにおいて中国着のスポットLNG価格(デイリー)を公表しており、5月20日はMMBtuあたり20.3ドルで、同日JKMの約22ドルとは若干異なる数値である。
ちなみにJOGMECでは2021年4月から日本着スポットLNG月次価格を公表している。こちらは評価価格ではなく実績ベースである。LNGを最終消費する企業を対象に調査を実施している。調査対象月に契約したLNGのスポット取引について、入着予定月、契約価格を調査し、契約月にかかる平均価格を契約ベース、入着月による平均価格を入着ベースとして公表(2社以上の企業により2つ以上の取引が行われている場合のみ)している。

出所:SHPGX https://mp.weixin.qq.com/s/2yXWoe4ZBcCCrR1ifRvefg(外部リンク)

出所:JOGMEC 天然ガス・LNG関連情報 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/nglng/spotprice/1009349.html
1-8. PipeChina、LNG受入基地の中長期使用権を公開
2021年8月、国家石油天然気管網公司(PipeChina)はLNG受入基地(7基地計27.6MMt)の中長期余剰能力使用権の申請受付を開始した。2022年4月から使用開始で、期間は5~20年である。47社が応札し、国有3社とTier-2の北京燃気(Beijing Gas)、Shenergy、Shenzhen Gas、Shenzhen Energy、Foran Energy、民間ではENN、Jovo他17社がショートリストされ、9月25日に14社が選定された。外資ではShellが選定された。Shellは2022年3月に広東・粤東(Yuedong)、広西・北海(Beihai)LNG受入基地の使用権について合意した模様である。
PipeChinaは政府がエネルギー供給の多角化、輸送・貯蔵設備の利用向上を目的に2019年12月に設立した国有企業である。2020年7月以降、国有石油企業3社は輸送・貯蔵資産(原油・天然ガス・石油製品輸送・貯蔵子会社株式ならびに付随するパイプライン、貯蔵設備、LNG受入基地)をPipeChinaに売却(株式交換と現金)。政府系ファンドや機関投資家がPipeChinaへの出資を行った。2021年2月にPipeChinaはLNG受入基地(大連を除く6基地)の余剰能力使用権を公開(2021年2月~22年2月の1年間)し、32社と契約した。今回の中長期余剰能力使用権の公開は2021年2月にPipeChinaが実施した期間1年の基地使用権公開と異なり、事業者はLNG中長期契約の締結(輸入の安定)や国内エンドユーザーの開拓が可能となる。

PipeChinaに基づきJOGMEC作成
1-9. PipeChina、冬季天然ガス貯蔵容量入札を実施
2022年3月、PipeChinaは上海石油天然ガス取引所(SHPGX)を通じ、東部最大規模の天然ガス地下貯蔵設備、河南省濮陽の文(Wen)-23の冬季(22年11月~23年3月)貯蔵容量(0.3Bcm)の入札を実施した。鄭州華潤燃気(Zhengzhou China Resources Gas)、山西圧縮天然気(Shanxi Compressed Gas Group)、中燃宏大能源貿易(China Gas Hongda Energy Trading)、新奥能源貿易(ENN Energy Trading)、河北新奥能源発展(Hebei ENN Energy Development)、奥徳集団(Order Group)の計6社が計0.19Bcmの使用権を獲得した。PipeChinaは2021年4月21日と29日にもSHPGXを通じ文-23貯蔵設備について貯蔵容量の入札を二度実施している。4月21日の入札時はShanghai Gasが0.15Bcmの使用権を獲得し、29日の入札時はCNOOC Gas & Power、Shanxi Compressed Gas、China Gas Hongda Energyなどが計0.21Bcmの使用権を獲得した。
中国ではPetroChinaやSinopecが枯渇油ガス田貯留層を活用した地下貯蔵設備を建設し、夏~秋季の不需要期に貯蔵し冬季の集中暖房需要期に払い出している。CNPCによると2021年のピーク調整能力は17.1Bcm(消費の4.6%)である。SHPGXのウェブサイトにおいてガス貯蔵設備の状況や入札条件の詳細を確認することができる。なお圧入費用はMMBtuあたり55¢、抽出費用が29¢、合計84¢となっており、欧州も1ドル弱であることから欧州に準拠したものと思われる。コスト面などで課題はあるようだが、エネルギー安全保障(サプライチェーン安定化とリスク対応能力増強)と市場化政策に沿った動きだ。

各種情報に基づきJOGMEC作成
参考:文23貯蔵設備概要・入札条件
文23貯蔵設備 枯渇ガス田改造、2019年完成
ガス貯蔵容量8.43Bcm(ワーキングガス3.27Bcm、クッションガス5.16Bcm、ガス貯留層圧力20.9~38.6MPa)
入札日時:3月30日11:00~11:30
貯蔵サービス期間:22年4月15日~23年3月31日
ガス圧入期間:22年4月15日~22年10月31日
(落札者は9月30日までに契約容量の80%以上の貯蔵を行う義務)
ガス抽出期間:22年11月15日~23年3月31日
圧入費用:0.1378元/cm(≒0.55ドル/MMBtu)
抽出費用:0.0742元/cm(≒0.29ドル/MMBtu)
貯蔵ロス:4%
回収可能量=実注入ガス量×(1-蓄ガス量損失率)
(SHPGX2022年3月21日公告から部分抜粋) https://www.shpgx.com/html/tzgg/20220321/4638.html(外部リンク)

各種情報に基づきJOGMEC作成(2021年末現在)
2. 「ゼロコロナ」政策に伴う中国の経済減速懸念と2022年の天然ガス需給見通し
2-1. 中国の経済減速懸念
中国政府は3月の全人代で2022年のGDP成長率目標を5.5%前後に設定した。4月18日に国家統計局が発表した2022年1-3月GDP(実質)は前年同期比4.8%増であった。4月19日にIMFは世界経済見通しで中国の2022年GDP成長見通しを1月の4.8%から4.4%に下方修正した。IMFのエコノミストは(新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に抑え込む)「ゼロコロナ」政策による都市封鎖拡大を懸念要因とし、GDP5.5%目標達成にはさらに景気対策が必要との見方を示した。
4月29日に中国共産党中央政治局会議は経済政策積極化、通年の経済成長目標(5.5%前後)を維持する方針を示した。翌日4月30日に国家統計局が発表した4月の製造業PMIは47.4で2か月連続節目の50を下回り、中国の経済減速、石油需要鈍化懸念は国際原油価格の下方圧力となった(図13)。なお、5月31日発表の製造業PMIは49.6に上向いたが依然として節目の50を下回っている。
5月16日に上海市当局が6月からの段階的なロックダウン解除を発表し、経済減速懸念はやや後退した。他方、中国国内で多くの都市が封鎖中(5月16日時点で38都市)である。北京の事務所関係者やコンサルタントから聞いた話では、基本的に在宅勤務、48時間以内のPCR検査が義務付けられている。感染者が出た集合住宅は外出禁止で隣家にすら行けない状態が数週間続くなど、北京では規制強化の方向に進んでいる印象を受ける。
5月18日に、ゴールドマンサックスは中国の22年GDP成長見通しを4.5%から4%に下方修正した。5月18日に李克強首相は各地方政府に対し迅速な経済対策実行を指示し、今年の上半期(1~6月)と通年の経済成長を実現する意向を示した。一方、「ゼロコロナ政策」の看板はおろしておらず、4-6月期の経済減速は避けられない状況である。人民銀行幹部は4-6月のGDP1.7~3.2%との見方を示している。

出所:国家統計局 http://www.stats.gov.cn/tjsj/zxfb/202205/t20220531_1857815.html(外部リンク)
2-2. 2022年の天然ガス需要鈍化、LNG輸入前年割れの可能性
2022年は冬季五輪に伴う工場操業制限に加え、「ゼロコロナ」政策により4~6月期の経済減速は避けられない状況である。経済減速と価格高騰で需要が低迷し、割高なスポットLNGを中心にLNG輸入が伸び悩み(長期契約LNGの一部転売を含む)、LNG輸入は前年割れ、日本が首位に返り咲く可能性がある。
コンサルタントのSIA Energyによる2022年の天然ガス需給見通しを図14に整理した。2022年のガス需要の伸びは2%で昨年の30MMtの増加から6MMtの増加にとどまる。エネルギー安全保障の観点から政府が国内増産政策を止めることは考えにくく、国内生産は11MMt増加の見通しである。一方、LNGの輸入は前年に比べ10MMt減少の69MMtにとどまる見通しである。割高なスポットLNGの輸入が大幅に減少し、長期契約によるLNGも一部は転売されることが予想される。パイプラインガスの輸入は4MMt増加する。これは主にロシアのPower of Siberiaからの契約に基づく供給増加によるものである。他のコンサルタントもガス需要の伸びの鈍化、LNG輸入は前年割れの見通しを示している。

SIA Energyに基づきJOGMEC作成
2-3. 2022年は国内増産、冬季五輪(工場操業制限)、経済減速、価格高騰でエネルギー輸入は軒並み減少~低迷
国内増産、冬季五輪(工場操業制限)、経済減速、価格高騰でエネルギー輸入は軒並み減少あるいは低迷している。国家統計局による今年1月から4月のエネルギー生産および輸入を図15に示した。石炭(2022年1-4月)生産は前年同期比10.5%増の1,450MMtで、輸入は同16.2%減の75.41MMtである。石炭は昨年の石炭ひっ迫、電力危機を受けて足元では増産が続いている。国内の需給緩和で石炭の輸入は前年同期比で減少している。
原油(2022年1-4月)生産は4.3%増の4.15MMb/dで、輸入は同4.8%減の10.4MMb/d、精製は同3.8%減の13.58MMb/dである。原油生産量は2022年の目標日量4MMb/dを目指し、安定した生産が続いている。中国の原油生産は2015年から2018年にかけて低油価に伴い国有石油企業が投資を縮小し、高コストの成熟油田の生産を抑制したことで減少していたが、探鉱開発強化政策のもと2019年以降増加に転じており、2021年の生産量は2018年に比べ0.2MMb/d増加の3.98MMb/dとなった。製油所は冬季五輪による操業規制と季節の定期修繕入り、さらにロックダウンによる需要減少で稼働率が低下した。国有はターム契約の原油輸入を中心に行い、地方製油所(ティーポット)も在庫が積み上がり輸入が減少した。定期修繕の終了で今後輸入が上向くと見られるが、都市封鎖による輸送・物流への影響や自動車販売の不振が懸念要因である。
天然ガス(2022年1-4月)生産は6.2%増の74.7Bcm(54.53MMt)、輸入は同8.9%減の35.87MMtである。輸入減少で輸入依存度が4割を下回った。割高なスポットLNGの輸入が減少し、中央アジアやロシアからのパイプラインガス輸入が増加している。22年1-4月のLNG輸入は中国の21.59MMtに対し、日本が25.97MMtで日本が4MMt強上回っており今年は日本がLNG輸入首位に返り咲くと見られる。また昨年は水力発電の出力低下もガス火力を押し上げた要因であったが、今年は水力他が順調で発電向けのガス需要増加も当面期待できそうにない。

出所:国家統計局 http://www.stats.gov.cn/tjsj/zxfb/202205/t20220516_1830453.html(外部リンク)
3. 中国におけるLNG長期契約ラッシュとその背景
3-1. 中国におけるLNG長期契約ラッシュ(2021~2022年)
中国は2021年に過去最大規模のLNG長期契約を締結した。13社、計23件、計27MMtといずれも過去最大規模である(図16)。新規契約の4分の3はLNG事業拡大を進める米国・ロシア、世界2位のLNG輸出国カタールと結んでいる。米国は複数事業者との契約(33%、9MMt)であり、国有はSinopecのみ、Tier-2が多数契約した。カタールはQatar Energyとの契約(28%、7.5MMt)で国有Sinopec、CNOOCとTier-2が契約、ロシアはNovatekとの契約(15%、4MMt)で国有PetroChina、CNOOCとTier-2が複数契約した。表4に契約締結企業の一覧を示したが、国有だけではなくTier-2が積極的に長期契約を締結していることがわかる。
2022年も長期契約締結の動きが継続しており、4月までに米国、ロシア、メキシコなど7件計9MMt超の契約を締結した。

SIA Energyに基づきJOGMEC作成(契約締結年ベース、一部合意やFID前プロジェクト契約を含む)

SIA Energyに基づきJOGMEC作成(契約締結年ベース、一部合意段階、FID前プロジェクトとの契約を含む)

SIA Energyに基づきJOGMEC作成

SIA Energyに基づきJOGMEC作成

SIA Energyに基づきJOGMEC作成
3-2. LNG長期契約ラッシュの背景(考察)
中国におけるLNG長期契約ラッシュの背景について考察し、図17にまとめた。まず政策面の背景としてエネルギーセキュリティ強化政策と市場化政策があげられる。中国は近年冬場の集中暖房向けのガス不足や電力危機が発生しており、政府はサプライチェーン強化政策を進めつつ、国有石油企業に対し冬季に厚めにガス(LNG)を確保するよう指示を出している。政府が発表する冬季の地下貯蔵払い出し可能量は年々増加している。
次に市場化によるPipeChinaのLNG基地中長期開放の動きやTier-2の自社基地建設、独自調達の動きも長期契約の増加につながっていると思われる。
企業の立場からはスポット価格高騰を受けた長期契約へのシフトに加え調達最適化戦略の観点から米国のLNGが買われたと考えている。米国のLNGは仕向け地制限を伴わない液化加工委託契約を締結することが可能で、多くの場合市況に合わせキャンセルすることが可能である。またFOB引き渡しの場合は販売先の柔軟な変更も可能である。契約の多くはヘンリーハブ価格に連動している。現在の油価と米国のガス価格の水準では輸送費や加工費を併せても米国のLNGは割安である。
中国のLNG事業者は米中関係の悪化による約3年の停滞期間を経て再び米国のLNGを選択するようになった。中国が初めて米国のLNGを輸入したのは2016年9月である。中国のLNG事業者は2018年前半まで調達の多様化や最適化を図る観点から米LNGをポートフォリオに組み込むことに前向きであった。2018年2月にはPetroChinaがCheniere EnergyのCorpus Christi LNGとLNG売買契約(年1.2MMt、期間25年)を締結した。しかしその後米中貿易関係が悪化し、2018年8月に中国政府が米LNGを第3次追加関税リストに加えLNGに10%の追加関税を課した。その後中国の業界アナリストや事業者は一斉に米国産のLNGは中国の天然ガス供給にとり必要不可欠なものではないと言い始め、新規の長期LNG売買契約交渉は中断した。
民間のENNは2018年に米LNGの調達を検討したが、米中貿易摩擦の影響で頓挫した。2018年11月に傘下のENN Ecological Holdingsを通じ東芝の100%連結子会社のToshiba America LNG Corporation(TAL)との間で、米国Freeport LNG(トレイン3)における年2.2MMt、期間20年の天然ガス委託加工契約(LTA)の譲渡について合意した。しかしENNの一部株主が事業リスクを懸念し、買収について反対した。さらに米中当局の認可取得も遅れ、2019年4月に東芝はENNとのLTAを解除した。同年6月東芝は米国Freeport LNG(トレイン3)のLTAを仏Totalに1,500万ドルで譲渡した。
SinopecもCheniereと2023年の納入に向けて2019年初めに締結間近だったが、2019年に交渉は頓挫した。2019年の米国からのLNG輸入は前年の2.2MMtから0.3MMtに大きく減少した。
2020年1月の米中第1段階合意に伴い、同年5月以降中国政府が企業の申告に基づき米LNGへの追加関税を免除し2020年の中国の米国からのLNG輸入量は3.2MMtに増加した。
国有石油企業は中国政府の方針が定まるまで、米国からのLNGの新規契約を手控えていたようだが2020年から2021年冬季のエネルギー安定供給に対する意識の高まりやLNG市況の引き締まり(価格高騰)を受けて、政府から企業にエネルギー調達指示が出され、2021年9月にSinopecとVenture Globalが契約を締結し、国有大手の契約を受けてTier-2を含むその他の契約締結が加速したものと思われる。
図17で示した“外交関係悪化等による調達制約回避”について、うがちすぎた見方かもしれないが、企業は政府間の関係悪化が懸念される米国のLNGについて長期契約を結ぶことで調達最適化に加え、関係悪化による制裁や禁輸等のリスク回避を図ったのではないかと考えている。昨年中国企業は関係が悪化した豪州からの石炭輸入を停止したが、長期契約に基づくLNGの輸入は続けた。LNG長期売買契約はTake or Pay条項があり、売り手または買い手が自己都合で販売や購入を停止する場合、フォース・マジュールが認められなければ全額支払わなければならず、代替供給源を探すことも容易ではない。

JOGMEC作成
3-3. CNOOC、LNG船大量発注、自主輸送拡充で調達最適化へ
中国のLNG大量契約に次いで、CNOOCが今年LNG船を12隻発注したことも中国のLNG自主輸送拡充、調達最適化に向けた動きとして注目している。
CNOOCは2022年にLNG船計12隻を発注し、LNG自主輸送を拡充し調達最適化を図ろうとしている。17.4万立方メートルのLNG船を2期に分けて6隻ずつ計12隻(160億元)を中国国有造船最大手CSSC傘下の滬東中華(Hudong)が建造する。2024~2027年に順次竣工予定である。
日本郵船(NYK)はCNOOCと初の長期定期傭船契約を締結し、中国の海運会社China Merchants Energy Shipping Co., Ltd(CMES)子会社と基本合意書を締結し、LNG船を共同保有・管理する。
CNOOC汪東進会長は調印式で「LNGの全産業チェーンを発展させ、天然ガスの生産・販売能力の強化と低炭素エネルギー供給の多角化を図り、2025年に天然ガス販売量を100Bcm(73MMt)超とする」と発言した。CNOOC Ltdの天然ガスNet生産量(2021年)は700Bcf(14.7MMt)で、CNOOC Gas & Power のLNG輸入(2021年)は日本で最もLNGを購入しているユーティリティに比肩する28.5MMt、LNG長期契約量(2021年)は13件34.24MMtある。
中国においても今後第三国向けに供給されるLNG取引(いわゆる「外・外取引」)が拡大する可能性が高い。CNOOCを含む中国企業のLNG取引拡大はLNG市場の拡大や柔軟性につながる動きであり、今後も注視したい。

https://mp.weixin.qq.com/s/vyqM944klB-pu1CDk6w1rQ(外部リンク)
https://www.nyk.com/news/2022/20220502_01.html(外部リンク)
4. パイプラインガスの輸入拡大は当面限定的
輸入LNGは大量の契約が結ばれたが、パイプラインガスの輸入拡大は当面限定的である。図18で現在パイプラインにより輸入を行っている中央アジア、ミャンマー、ロシアの現状を整理した。
中央アジアパイプラインにより中国西部新疆から入っている中央アジア各国のガスについてトルクメニスタンは現状維持、ウズベキスタンとカザフスタンは現状維持あるいは自国への供給優先で中国向けが先細りする懸念がある。ミャンマーからの輸出は現状維持の模様である。ロシアのガスはPower of Siberiaパイプラインにより中国東北部黒竜江省から入っており、2025年までに20MMt増加する見通しである。この他ロシアとは基本合意が1件と交渉段階のパイプラインが2件あるが、供給開始までには時間を要する見込みである。

各種情報に基づきJOGMEC作成
4-1. 中央アジアからのパイプラインガス輸入
中央アジアパイプラインは2009年12月から2014年5月にかけてLine A・B(輸送能力30Bcm)、Line C(輸送能力55Bcm)が操業を開始した。トルクメスタンと中国はLine A・Bについて年30Bcm、Line Cについて年10Bcm、計40Bcm(29MMt)の長期契約を結んでいる。2021年のトルクメスタンからの輸入量は33Bcm(24MMt)である。2021 年8月にCNPCはGalkynyshガス田3坑の仕上げ作業を開始、2024年には同ガス田から年17Bcm(12.4MMt)のガスを中国に供給すると表明した。また同社は9月にトルクメニスタン東部で権益を保有するBagtyyarlyk鉱区西部で新たに6ガス田を開発すると発表した。2023年10月までに年1.8Bcm(1.3MMt)の生産を開始する計画だが、年13Bcm(9.5MMt)の生産プラトーの維持が目標の模様である。トルクメスタンからウズベキスタン、タジキスタンを経由するLine D(輸送能力30Bcm)は当初2020年完成予定であったが建設は停滞している。トルクメニスタンと中国はLine Dについて25Bcm(18MMt)の契約を結んでおり、パイプラインが完成すればトルクメニスタンからの輸入は増えるはずである。
ウズベキスタンとはLine Cについて年10Bcm、カザフスタンとも同じく年10Bcmの長期契約を結んでいる。この他カザフスタンからは民間の広匯(Guanghui)が少量ではあるが権益を保有する鉱区からガスを0.2Bcm(0.15MMt)輸入している。
2021年はLine Cによりウズベキスタンから5Bcm(3.7MMt)、カザフスタンから5.7Bcm(4.2MMt)を輸入した。両国との契約はLNGのTake or Payと異なり調整の余地があるようで、ウズベキスタンやカザフスタンは自国の需要確保のために輸出を減らすことがあり、中国側もパイプラインの競争力が無ければ予定より減らすよう主張することがあるようだ。ただし気になるのがカザフスタンの動向である。2022年1月にトカエフ大統領は国内の産業振興のために天然ガス輸出を抑制する可能性について言及した。具体的な数量については述べず、国内の主要実業家との会合で「天然ガスを国内の産業プロジェクト立ち上げに使う代わりに単に輸出するという状況は、もはや受け入れられない」と語った。Line C経由のカザフスタンからのガス輸入は2027年に期限を迎えるが、契約が更新されないか契約期限を迎える前に輸出が減少する可能性がある。
4-2. ミャンマーからのパイプラインガス輸入
ミャンマーのガスは1-4で述べた通り、同国沖合Sweガス田で生産するガスを西南部雲南省向けのパイプラインで輸入している。2021年は4.2Bcm(3MMt)を輸入した。事業者(インド、韓国)の撤退は現状なく、輸入は現状維持の見通しである。
4-3. ロシアからの輸入拡大は契約に基づく逓増を除き当面限定的
中国のロシアからの天然ガス輸入は輸入の10%、12MMtである。2021年はパイプラインで7.5MMt、LNGで4.5MMtを輸入した(図19)。

SIA Energyに基づきJOGMEC作成
LNGは主にYamal LNGから輸入している。PetroChinaとNovatekの売買契約年3MMtに加え、同事業出資(CNPC20%、Silk Road Fund9.9%)のオフテーク0.7MMtがある。
ロシアからのパイプラインは“Power of Siberia”(輸送能力38Bcm)の1本のみである。CNPCとGazpromがクリミア併合の2014年5月に契約し、2019年12月から供給を開始した。輸入量は契約に基づき2021年の10.4Bcm(7.4MMt)から2025年までに38Bcm(28MMt)に逓増する。2022年は15Bcm(11MMt)の計画である。
合意・交渉中のパイプラインプロジェクトは複数ある。まず極東ルートである。これは2022年2月、プーチン訪中時CNPCとGazpromがロシア極東(経由)天然ガス購入販売取り決めで合意したもので期間25年、年10Bcmということのみで供給開始時期や価格フォーミュラなど詳細は不明である。供給源候補と目されるサハリン3鉱区はキリンスキー、南キリンスキーで商業量の埋蔵量が確認されているが、米制裁で海底生産設備入手ができず開発は進んでいない。輸送インフラ整備も必要である。
Power of Siberia 2(“Soyuz Vostok”)は2022年4月に露Gazpromが事業化調査(FS)を完了した。設計輸送能力は年50Bcmでモンゴル経由北京を含む中国北部向けである。中国の意思表明を含め交渉状況は不明である。露中が価格等で折り合い合意し、順調に建設が進んだ場合でも新たなルートでのパイプライン建設には時間を要する。
4-4. 中国の天然ガス長期供給見通し
SIA Energyによる中国のガス長期供給見通しを図20で示した。供給は現在の370Bcm(270MMt)から2030年560Bcm(410MMt)、2040年675Bcm(490MMt)に増加となっている。それぞれの供給が順調に伸びる前提のもと、中長期的に国産ガスが供給の5割、LNGの輸入で3割、パイプラインガスの輸入で2割を供給する見通しである。
LNGの輸入は2030年に180Bcm(130MMt)、2040年に215Bcm(160MMt)に増加する見通しである。LNGの長期売買契約は100MMtを超えており、LNG受入基地の新増設も進行中で受入能力は2025年に150MMt、2040年に250MMtを超える可能性がある。
パイプラインガス輸入は2030年に100Bcm(73MMt)、2040年に145Bcm(106MMt)に増加する見通しである。極東ルート(基本合意)が2026年に供給開始、中央アジアパイプラインのLine D(建設停滞中)からの供給が2027年に開始、Power of Siberia2(未合意)が2032年に供給開始の前提となっており、また供給量はPower of Siberiaと同様逓増する前提である。

出所:SIA Energy
コンサルタントだけではなく中国政府も天然ガスの需要が中長期的に伸びると示している。
2021年8月に国家能源局他が「中国天然ガス発展報告2021」を発表したが同報告では2025年の天然ガス消費は430-450Bcm、2030年550-600Bcm(402~438MMt)、2040年前後に600Bcm前後でプラトーとなっており、IEA WEO(2021年9月)の2030年438~454Bcm(320~330MMt)、2050年314~521Bcm(229~380MMt)に比べて高い(図21)。国家能源局はカーボンニュートラル政策下における中国の天然ガスについて、再エネ電源の変動調整とともにCCUSなどの技術と組み合わせ、排出実質ゼロモデルを推進する存在と位置付けている。

4-5. ロシアの欧州向け石油やガスを中国が大量に代替することは非現実的
欧米がウクライナ侵攻に伴いロシアの石油やガスの禁輸、削減を計画しており、中国が大量に代替することは可能か考察した。
まずロシアから欧州向けのパイプラインガス(150MMt)を大量に中国が肩代わりすることは、国内に立脚した中国のガス供給構造と輸送インフラの点で今後10年をかけても非現実的と考える。
ロシアからのガス輸入が中国のガス輸入全体に占めるシェアはパイプラインとLNGの長期契約からの供給が増加するため現在(2021年)のガス輸入量120MMtの10%(12MMt)から2030年には20%(40MMt)へと28MMt増加する見通しである。しかしこれはロシアのウクライナ侵攻前に締結された長期契約に基づく増加で欧州向けの肩代わりとは言えない。
SIA Energyの長期ガス供給見通しに従えば、中国のガス供給は2020年から2030年まで10年をかけて140MMt、年平均14MMtのペースで増加する。しかし中国はエネルギー安全保障の観点から全量を輸入に依存することは考えにくく、国内の探鉱開発強化政策を実施しており、当面は供給の4割から5割(年平均5.6~7MMt)を国産ガスでまかなうことになろう。残りの年平均8.4MMtも引き取り義務のある長期契約のLNGやパイプラインからの供給が優先される。
次に輸送インフラだが、現在ロシアの西シベリアから欧州向けのガスパイプラインと東シベリアから中国を含む極東向けのパイプラインはつながっておらず、欧州向けのパイプラインガスを極東に振り向けるには新たなルートを選定し、パイプラインを建設しなければならないが、それには中国との価格を巡る交渉を加え10年前後を要すると思われる。
次に原油だが、EUがロシア産石油の大半を輸入禁止とする追加制裁案に合意し欧州向けの原油輸出はパイプライン2.3MMb/dのうちドルージュバパイプラインによるハンガリー・チェコ向けを除く1.5MMb/dが禁輸対象で、海上輸送1MMb/dも禁輸対象である。
中国にとりロシア原油は中東依存度を抑制する上で有効かつ地理的優位性の高い供給源である。しかし欧州のロシア産原油の禁輸が長期化し、割安なロシア原油が中長期的に市場に出回ったとしても、すでにロシアから1.6MMb/dを輸入している中国が欧州向けの原油輸出2.5~3.3MMb/dを大量に代替することは他の中東産油国との関係維持や供給多角化の観点から考えにくい。
中国の石油消費は15MMb/dで輸入依存度は7割、2022年は原油10.3MMb/dを輸入した。ロシアからの原油輸入が中国の原油輸入に占める比率は15%、1.6MMb/dである。陸路のパイプラインによる供給は5割(0.8MMb/d)で内訳は東シベリアの原油を中国東北部黒竜江省に供給するESPOパイプライン大慶支線(輸送能力0.6MMb/d)ならびにロシアとカザフスタンのスワップ契約の0.2MMb/dである。残り0.8MMb/dが海上輸送(タンカーによる輸入)である。中国は海上輸送についてコジミノ港からタンカーで出荷されるESPO原油を主に輸入している。
足元で中国のロシア陸路からの原油輸入は横ばいから微増が続いているようだが、航跡調査会社の情報などから5月積みのESPO原油の9割以上を中国の国有石油企業や地方製油所が買い付け、前月比で0.15MMb/d程度増える可能性があると報じられている。4月はサウジアラビアの公式販売価格(OSP)が魅力的でありサウジアラビアやそのOSPに準じたクウェートからの輸入を増やし、ロシアは微増にとどまったが5月はイラン原油(ロシアに先駆けて制裁・禁輸対象)に比べてさらに割安な(対Brent最大40ドルのディスカウントとされる)ロシア原油に乗りかえる動きが加速したようだ。中国のイランからの原油輸入量は税関上2017年の0.6MMb/dから2021年は1MMb/dと0.6MMb/d落ち込んだが、航跡調査会社の情報などから2021年は実際には0.6MMb/d前後の輸入が瀬取りによるブレンドなどの手法で産地を偽装し輸入が続いていた模様である。ただしイランの原油を行っていたのは地方製油所で大手国有石油企業は制裁対象のイラン原油をほとんど輸入していなかった。いま大手国有石油企業がロシア原油を追跡が可能な海上輸送で買い付けているのは中国政府がそれを認めていることを意味する。しかしいくら安くても全量をイランからロシアに乗りかえることはないと思われる。
中国は輸入依存度抑制や低炭素化の観点から石油の代替を進めており、石油の需要は天然ガスに比べて成長の余地は大きくない。CNPCは、石油需要は2030年頃16MMb/dでピークに到達すると見ている。国内生産は4MMb/dで安定的に生産を維持する政策が取られており、今後10年の原油輸入増加分は1.4MMb/d程度となる。その全量をロシアに置き換えることは他の産油国との関係維持の観点から考えにくい。
最近中国が国家石油備蓄(SPR)用にロシア原油を買うという見方が出たが、あるコンサルタントはロシアの売却価格が60ドル/bblを下回らなければ中国は動かないという見方を示した。その見方には説得力がある。というのも2021年9月に中国は国家備蓄原油の一部を入札により放出したが、その原油は2020年の低油価期(20~40ドル/bbl)に調達し民間のタンクを借り上げ、貯蔵していたものとみられるためだ。中国は国家備蓄原油の備蓄量について2017年12月に国家統計局が民間タンクの借り上げを含み275MMbblと公表後更新していないが、調査会社Kplerによると2022年5月下旬の時点で330MMbblの模様だ。
5. 「エネルギー14次五か年計画」に見る中国の天然ガス戦略
5-1. 「エネルギー14次五か年計画」のポイント
中国政府は2021年3月に全人代で14次五か年計画を承認した。一年後の2022年3月に国家エネルギー局は「現代エネルギー発展14・5計画」(「エネルギー14・5計画」)を発表した。エネルギー供給の安定と安全(第三章)、グリーン、低炭素化への転換(第四章)、エネルギー配置、産業チェーンの現代化、向上(第五、六章)、エネルギーガバナンス(第七章)など九章41ページの構成である。
前回の五か年計画の際は全人代後1年以内(2017年1月)にエネルギー全体とエネルギー別の五か年計画が出され数値目標が示されたが、今回数値目標は断片的で多分に理念的である。
エネルギー安全保障と低炭素化(エネルギー転換)の両立を図る内容で国内に立脚し、多角的な保障と備蓄・貯蔵の強化によりサプライチェーン安定化とリスク対応能力を増強し、経済の安定的な発展を目指すことが示されている。
エネルギー安全保障(国内に立脚)について原油生産は2022年に4MMb/d(2020年3.8MMb/d)に増産し、長期安定生産を目指すとあり、天然ガスは2025年に230Bcm超(2020年193Bcm)に増産させるといずれも数値目標が示されたが、現在電力安定供給のため増産政策が取られている石炭については国際社会の非難をかわすためか生産目標が明記されていない。また電化については発電設備容量を2025年に30億kW(20年22億kW)に増強する目標が示された。
5-2. エネルギー安全保障(サプライチェーン安定化とリスク対応能力増強)と天然ガス
サプライチェーン安定化とリスク対応能力増強についてエネルギー消費の9%である天然ガスへの対応が目立つ。
ガス貯蔵能力について、前回の13次五か年計画では2020年の政府目標14.8Bcmに対し2020年の実績は23Bcmで目標を超過達成したが、華北、東北、西南、西北に貯蔵能力10Bcm級の貯蔵設備群を建設し、2025年に55~60Bcm(消費の13%)に拡充する目標が示された。
ガス供給事業者の貯蔵責任についてはインフラを保有するPipeChina、PetroChinaなどのガス生産者、地方政府系や民間Tier-2を含むガス事業者、そして地方政府が新たな枠組みを構築し、ガスの貯蔵に責任を持つことが示された。
ピーク調整能力についてはガス貯蔵設備、LNG受入基地の貯蔵・払い出し能力、季節ピークの調整レベルを向上させるとあり、冬季の天然ガスのピーク需要やエネルギー危機に対する備えという側面を感じる。
輸送インフラへの投資多角化とPipeChinaによる統一管理、公開について、石油・天然ガスパイプラインへの多角的社会資本による投資と地方ガスパイプライングリッドのPipeChinaへの編入を図り、公開を促進することが示された。セキュリティの強化と市場化の双方につながる政策である。
市場化については天然ガス価格の穏やかな市場化を進め、天然ガス取引所や石油製品、天然ガスの先物取引を整備すると示された。
5-3. 低炭素化(電源の非化石化、石油・天然ガス産業のカーボンフットプリント削減他)
低炭素化については、従来通り原子力と再生可能エネルギーの消費と電源の非化石化を拡充する目標が示された。
原子力・再生可能エネルギー消費は2025年に20%(2020年15.9%、2030年政府目標25%)とする目標が、排出抑制はGDP単位あたりエネルギー消費を2020年比13.5%削減することが示された。
電源の非化石化については原子力・再生可能エネルギーの発電設備容量を2020年の43%(9.6億kW)から2025年に39%(11.7億kW)に増加させる目標が示された(このうち揚水を除く水力は3.5億kW、原子力は0.7億kW)。
非化石電源の拡大に対し調整力を強化する方針である。石炭火力は3,000万kW削減し高度化、機動力向上を図ると示された他、機動力のある電源を24%に、デマンドレスポンス能力を最大電力負荷の3~5%に高める目標が示された。
石油・天然ガス産業における低炭素化としてはカーボンフットプリント削減策として開発時のCO2排出削減、油ガス田のメタン回収利用強化、CO2-EOR技術の推進・応用の加速ならびに洋上石油・天然ガスプラットフォームの設備電化が示された。この他エネルギー加工、輸送、貯蔵設備における省エネ、LNG冷熱利用等を進めることが示された。
石油代替品の研究開発については生態環境に留意し、秩序立てた計画のもとで西部のオルドス盆地、陝西楡林、山西晋北、新疆准東等でCoal to Oil/Gasの戦略基地を建設することや食糧生産に支障が出ない地域における燃料エタノールの開発、非食糧由来セルロース系燃料、バイオ燃料、バイオ航空燃料を開発することが示された。
以上
(この報告は2022年6月2日時点のものです)