ページ番号1009379 更新日 令和4年6月7日
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概要
- 英国政府は2022年3月8日、ロシアに対する経済制裁の一環で、ロシア産原油及び石油製品の輸入を年末までに段階的に禁止する方針を発表した。また、G7主要国首脳は2022年5月8日にゼレンスキーウクライナ大統領を交えたオンライン形式の会合を開催し、G7としてロシア産石油輸入の段階的削減または廃止のほか、化石燃料への依存を低減しつつ世界的なエネルギーの安定供給確保のために行動することに合意した。
- ウクライナ危機により、ロシアからのエネルギー供給途絶への懸念といった直接的な要因や、エネルギー価格の高騰や乱高下による経済的影響といった間接的な要因により、地政学リスクの高まりがエネルギー市場で改めて意識され、経済活動の根幹を支えるエネルギーを安定的かつ安価に確保することの重要性が高まっている。
- これらを背景に、英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省及び首相官邸は、2022年4月6日付で「エネルギー安全保障戦略」を発表。短期的には石油・天然ガスの国内生産を支援しながら、風力、原子力、太陽光、水素の導入を加速し、長期的にはエネルギー安全保障を強化するために多様な国産エネルギー源の活用を強化するとしている。
- 一方、英国財務省は2022年5月26日付で、石油・天然ガス企業に対し25%の超過利潤税(Energy Profits Levy:EPL)の導入を発表。ウクライナ危機等に起因する石油・天然ガス価格の高騰、物価高騰による家計への打撃を緩和するための総額150億ポンドの支援(光熱費補助等)の財源に充てるとした。
- EPLの導入に対して、英国石油開発業界団体であるOffshore Energies UK(OEUK、旧OGUK)は2022年5月26日にプレスリリースを発表。現在のエネルギー危機により消費者を支援することは必要だとしつつも、英領北海への投資を減退させ、輸入の増加につながり、政府が4月に発表した「エネルギー安全保障戦略」や「ネットゼロ戦略」に逆行する動きとして激しく政府の対応を批判。
- 英国財務省は、今後支出されるCAPEXに対して最大91.25%の税控除を認めるとしており(具体的対象費用は未発表)、新規投資には一定の優遇策を同時に発表した。英国政府は、2019年から保留されていた新規探鉱ライセンスラウンドを今秋から再開する予定であり、国内の新規探鉱活動を再度活性化させようとしている。探鉱に加え、既発見の未開発油ガス田の開発移行、生産中油ガス田の追加開発を加速化するため、税控除を従来の46.25%から最大91.25%まで拡大したと見られる。新規投資には一定の優遇策が設けられることになるが、主要企業の投資動向を引き続き注視する。
(出所 英国政府発表、各種報道他)
1. ウクライナ危機と高まる石油禁輸の動き
2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻を開始してから、本稿執筆時点(6月6日)で3か月余りが経過するが、事態の収束に向けた具体的な動きは見いだせない状況が続いている。この間、ロシアに対する経済制裁の一環で、2020年時点で同国の輸出総額の4割強を占める原油及び石油製品[1]に対する禁輸措置を取ることで、同国の歳入に影響を与える動きが見られた。
カナダは2月28日にロシア産原油の輸入禁止を発表した[2]ほか、米国のバイデン大統領は3月8日にロシアから原油などのエネルギーの輸入を全面的に禁止する大統領令に署名した[3]。また、英国は同日、ロシア産原油および石油製品の輸入を年末までに段階的に禁止する方針を発表[4]。続いて3月11日には、オーストラリアがロシアからの原油及び石油製品、天然ガス、石炭及びその他のエネルギー製品の輸入を禁止した[5]。また、G7主要国首脳は5月8日にゼレンスキーウクライナ大統領を交えたオンライン形式の会合を開催し、G7としてロシア産石油輸入の段階的削減または廃止のほか、化石燃料への依存を低減しつつ世界的なエネルギーの安定供給確保のために行動することに合意した[6]。
ロシアと地理的に近接しており、特に天然ガスの供給をロシアに依存する欧州諸国にとって、カナダ、米国、英国そしてオーストラリアが発表したロシア産エネルギー等の輸入禁止措置を直ちに導入することは、欧州連合(EU)加盟各国の一次エネルギー供給構成や産業構造の違いや、全会一致を必要とするEUの意思決定機構などから困難と見られていた。しかし4月ごろより、EU内でも比較的ロシア産エネルギーへの依存度が高いことからロシア産石油の禁輸に反対していたドイツ及び他のEU加盟国に代替供給源の調整に要する時間を与えつつ、段階的なロシア産石油の輸入禁止を起草していると報じられた[7]。またドイツも2022年夏までにロシアからの原油輸入を半分に削減したうえ、年末までには完全に輸入を停止させる他、これに続いてロシアからの天然ガス輸入も停止させる意向である旨4月20日に同国のベアボック外相が発表[8]するなど、EUにおけるロシア産石油の禁輸を目指した動きを主導し始めたと見られた。
こうした流れもあり、5月4日にEUは第六弾となる対ロシア経済制裁を発表[9]。今後6か月以内のロシア産原油禁輸を導入するほか、最大手のズベルバンクを国際銀行間通信協会(SWIFT)から除外するなどを盛り込んだ一方、EUの内陸国でありロシア産石油への依存度が高いハンガリーなどは、禁輸という強硬な手段に反対し、禁輸措置の免除や一定期間の猶予を求めた。経済制裁には、全会一致での賛成が求められることから、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長をはじめ、再選を果たしたフランスのマクロン大統領などが、反対をしているハンガリーとの会談を実施したほか、加盟国外相クラスでの会合等を通じた検討が実施された。そして5月30日、欧州がパイプラインを除く海上輸送によるロシア産石油の禁輸に合意したと発表[10]。具体的には、EUが輸入するロシア産原油の3分の2を占めるタンカーによる輸入がただちに対象となり、残り3分の1を占めるドルジバパイプライン経由での輸入について、今後6か月から8か月をかけてポーランドとドイツが段階的に輸入を停止することで、全輸入量の9割を停止する見込みとなっている。なお、残りの1割については一時的に禁輸措置の対象外となり、ロシア産石油の輸入依存度が高いハンガリー、スロバキア、チェコに禁輸の免除を与えることとなった。
[1] 原田大輔「敢えて今、ロシアの石油生産を深堀りする 世界最大級の生産量と輸出インフラの現状、今後想定される課題と見通し」
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/seminar_docs/1009240/1009274.html 2022年5月31日閲覧
[2] Government of Canada, Government of Canada Moves to Prohibit Import of Russian Oil,
https://www.canada.ca/en/natural-resources-canada/news/2022/02/government-of-canada-moves-to-prohibit-import-of-russian-oil.html(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[3] The White House, Executive Order on Prohibiting Certain Imports and New Investments With Respect to Continued Russian Federation Efforts to Undermine the Sovereignty and Territorial Integrity of Ukraine,
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/presidential-actions/2022/03/08/executive-order-on-prohibiting-certain-imports-and-new-investments-with-respect-to-continued-russian-federation-efforts-to-undermine-the-sovereignty-and-territorial-integrity-of-ukraine/(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[4] HM Government, UK to phase out Russian oil imports,
https://www.gov.uk/government/news/uk-to-phase-out-russian-oil-imports(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[5] Australian Government, Russia – Extension of sanctions on Russia to prohibit the import into Australia of Russian oil and other energy products,
https://www.dfat.gov.au/news/news/russia-extension-sanctions-russia-prohibit-import-australia-russian-oil-and-other-energy-products(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[6] The White House, FACT SHEET: United States and G7 Partners Impose Severe Costs for Putin’s War Against Ukraine,
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/05/08/fact-sheet-united-states-and-g7-partners-impose-severe-costs-for-putins-war-against-ukraine/(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[7] New York Times, Europe Reluctantly Readies Russian Oil Embargo,
https://www.nytimes.com/2022/04/14/world/europe/european-union-oil-embargo-russia-ukraine.html(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[8] Reuters, Germany will end oil imports from Russia by year end, says minister,
https://www.reuters.com/world/europe/germany-will-end-oil-imports-russia-by-year-end-says-minister-2022-04-20/(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[9] Reuters, EU chief proposes Russian oil ban over war in Ukraine,
https://www.reuters.com/business/energy/eu-chief-proposes-russian-oil-ban-over-war-ukraine-2022-05-04/(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[10] Reuters, EU agrees gradual Russian oil embargo, gives Hungary exemptions,
https://www.reuters.com/world/europe/best-we-could-get-eu-bows-hungarian-demands-agree-russian-oil-ban-2022-05-31/(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
2. エネルギーセキュリティへの関心の高まり
ウクライナ危機により、地政学リスクの高まりがエネルギー市場で改めて意識され、経済活動の根幹を支えるエネルギーを安定的かつ安価に確保することの重要性が高まっている。ロシアによるウクライナ侵攻が開始された直後、かつ米国のバイデン大統領がロシアから原油などのエネルギーの輸入を全面的に禁止する大統領令に署名した3月8日と時期を同じくして開催されたエネルギー業界の著名な国際会合であるCERAWeek 2022(S&P Global主催、会期は2022年3月7日~11日)においては、エネルギーセキュリティや地政学リスクについてほぼすべてのセッションで言及があった。また、エネルギーセキュリティへの対応は進めつつ、脱炭素社会の実現に向けたエネルギートランジションの取組を緩めてはならず、さらに加速する必要があるとの指摘が聞かれ、水素・燃料アンモニア・CCS・再生可能エネルギー・原子力等に関して、官民の多くが商業化の加速に向けた積極的な取組を発信していた[11]。
エネルギーセキュリティの強化は、主に(1)エネルギー供給源の多様化と、(2)一次エネルギー供給構成の変化による強靭性の確保により達成される。1970年代における二度の石油危機を受けて、特に石油資源の供給源多様化という形で広がりを見せ、我が国においては中東依存度の低減を目指し、自主開発原油比率の向上に取り組むこととなったのは(1)の例であり、同じく石油危機を受けて1973年にスタートした「サンシャイン計画」により、太陽、地熱、石炭、水素エネルギーという石油代替エネルギー技術に焦点を当て重点的に研究開発を進め、一次エネルギー供給構成の変化を目指したのは(2)に関する取組に該当する[12]。
今回のウクライナ危機を受け、ロシアからのエネルギー供給途絶への懸念といった直接的な要因や、エネルギー価格の高騰や乱高下による経済的影響といった間接的な要因により、エネルギー供給におけるロシア依存度を低減させるための代替供給先の確保((1)供給減の多様化)に向け、欧州諸国が液化天然ガス(LNG)の受入を増やしているほか、昨年の第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)を受けたエネルギートランジションの潮流も併せて、化石燃料への依存度を低減((2)一次エネルギー供給構成の変化)する動きが加速している。
本稿では、英国政府が2022年4月6日に発表した「エネルギー安全保障戦略」の概要を紹介し、大陸ヨーロッパとは地理的に隔てられており、自国内で石油・天然ガス資源を産出する英国のエネルギーセキュリティに対する見方を考察することを目的とする。
[11] 鑓田真崇 他「セキュリティとトランジションを追うエネルギー業界CERAWeek2022報告(4/21)」
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/seminar_docs/1009240/1009335.html 2022年5月31日閲覧
[12] 経済産業省資源エネルギー庁「【日本のエネルギー、150年の歴史 4】2度のオイルショックを経て、エネルギー政策の見直しが進む」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/history4shouwa2.html(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
3. 「エネルギー安全保障戦略」の概要
2022年4月6日付で、英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省及び首相官邸は、「エネルギー安全保障戦略」を発表した。同戦略の発表は、新型コロナウイルス感染症拡大からの世界経済の回復のさなか、ロシアのウクライナ侵攻を受けた世界的なエネルギー価格の上昇と国際市場が不安定化していることが背景にある。こうした中、英国のコントロールが及ばない要因により、国際市場における不安定な価格に直面する化石燃料からの脱却を目指し、長期的にはエネルギー安全保障を強化するために多様な国産エネルギー源の活用を強化するとしている。また、高騰する電力・天然ガス小売価格により困窮する世帯や事業に対する即座の支援や、低所得世帯のエネルギー効率を高めるための支援策なども盛り込まれている[13]。
同戦略は、政府がこれまで発表した「グリーン産業革命のための10項目の計画」(2020年11月発表)[14]、「ネットゼロ戦略」(2021年10月発表)[15]に基づくものであり、短期的には石油・天然ガスの国内生産を支援しながら、風力、原子力、太陽光、水素の導入を加速し、2030年までに電力の95%の低炭素化を実現し、2035年までに安定的な供給を前提に同国の電力システムを脱炭素化するとしている。これにより、輸入石油・天然ガスへの依存を低減し、クリーンで安価なエネルギー供給の実現と高給・高スキルの雇用を創出するエネルギートランジションの達成を目指すものである。以下に主要なエネルギー分野ごとの施策を記す。特に注記のない限り、記載内容は「エネルギー安全保障戦略」に基づくものである。
石油・天然ガス分野においては、自国に賦存する資源を開発しつつ、ネットゼロ達成に向けた施策を推進、これをもってエネルギーセキュリティの向上に寄与するとしている(表1参照)。英領北海は、1970年代及び1980年代に重要な産油エリアとして開発が進み、現在でもおよそ290の洋上施設、1万キロメートルを超えるパイプライン網、15の陸上施設そして2500を超える坑井が存在している。特に天然ガスについて、英国の天然ガス需要のおよそ半分を北海からの国内供給で賄っていることから、これを重要な移行燃料(transition fuel)と位置付け、2050年温室効果ガス排出ネットゼロ達成及びエネルギーセキュリティの基礎として有効に活用することが基本とされている。具体的には、2022年秋に北海の新探鉱ライセンスラウンド実施を計画中であり、今後発表される気候適合チェックポイント[16]及びエネルギーセキュリティ上の必要性の観点を考慮して実施される。また、2022年中に新組織となるGas and Oil New Project Regulatory Acceleratorsを設立し、事業化に際して関係する規制を主管する省庁等と事業者を初期段階から引き合わせ、開発まで複数年を要する複雑なプロジェクトの迅速な開発を促進することを目指す。これに加えて、ロシアからの石油と石炭の輸入を2022年末までに、天然ガスはその後できるだけ早く輸入を停止する方針も打ち出しており、昨今の地政学リスクの高まりを受けて輸入依存度を低下させる動きも加速している。
石油・天然ガス開発に関する低炭素技術分野では、2030年までに炭素回収利用及び貯蔵(CCUS)クラスター4か所への総額10億ポンドの支援を実現することを明記。こうしたCCUSの産業クラスターを通じ、炭素回収産業の立ち上げを支援することを目指すとしている。また、ビジネス・エネルギー・産業戦略省は、2022年4月8日に水素及びCCUSに関する投資家向けロードマップ(” Hydrogen investor roadmap: leading the way to net zero” [17]及び” Carbon capture, usage and storage (CCUS): investor roadmap” [18])をそれぞれ発表し、これらの低炭素技術を英領北海において活用していくという産業界に向けた明確なシグナルを示している。
石油・ガス:国産天然ガスの低炭素化とロシアからの輸入停止 | |||
主要な対策
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2022年末目標 | 2030年目標 | 2050年目標 |
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出所:「エネルギー安全保障戦略」に基づきJOGMEC作成
このほか電力供給のクリーン化を目指し、原子力分野では、2030年までに最大8基の原子炉を新設し、2050年までに現在の3倍超となる最大24GWの出力を整備、電力需要の最大約25%を賄うことを目指す。また、再生可能エネルギー分野では、洋上風力の目標を、2030年までに最大50GW(うち浮体式は最大5GW)に引き上げ、太陽光発電は、2035年までに現在の14GWの5倍となる最大70GWへ拡大させることを目指すとしている。次世代の低炭素燃料とされる水素分野については、2030年までに低炭素水素製造容量を10GW規模まで引き上げ、このうち少なくとも半分を再生可能エネルギー由来の電力を使用した電解水素製造とする目標を掲げる。これを実現するために、2025年までに1GW規模の電解水素製造プラントの建設または操業を目指すとしている。
[13] Department for Business, Energy & Industrial Strategy and Prime Minister’s Office, Policy paper British energy security strategy
https://www.gov.uk/government/publications/british-energy-security-strategy/british-energy-security-strateg(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[14] Department for Business, Energy & Industrial Strategy and Prime Minister’s Office, Policy paper
The ten point plan for a green industrial revolution,
https://www.gov.uk/government/publications/the-ten-point-plan-for-a-green-industrial-revolution(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[15] Department for Business, Energy & Industrial Strategy, Policy paper
Net Zero Strategy: Build Back Greener
https://www.gov.uk/government/publications/net-zero-strategy(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[16] Department for Business, Energy & Industrial Strategy, Closed consultation
Designing a climate compatibility checkpoint for future oil and gas licensing in the UK Continental Shelf
https://www.gov.uk/government/consultations/designing-a-climate-compatibility-checkpoint-for-future-oil-and-gas-licensing-in-the-uk-continental-shelf(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省は、英領北海における将来的な石油・ガスライセンスラウンドにおいて導入を予定する気候変動政策との適合性を確認する項目の設計に関し、2021年12月20日に素案を発表。同日より2022年2月28日までこれに係る意見を公募するコンサルテーションの手続きを実施し、現在結果を取りまとめている。
[17] Department for Business, Energy & Industrial Strategy, Policy paper
Hydrogen investor roadmap: leading the way to net zero
https://www.gov.uk/government/publications/hydrogen-investor-roadmap-leading-the-way-to-net-zero(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
[18] Department for Business, Energy & Industrial Strategy, Policy paper Carbon capture, usage and storage (CCUS): investor roadmap
https://www.gov.uk/government/publications/carbon-capture-usage-and-storage-ccus-investor-roadmap(外部リンク) 2022年5月31日閲覧
4. 超過利潤税の導入と国内資源開発
前項で記したとおり、英国政府は短期的には国内石油・天然ガス開発を進めエネルギーセキュリティの向上を図るとしているが、同国財務省は2022年5月26日付で、石油・天然ガス企業に対し25%の超過利潤税(Energy Profits Levy:EPL)の導入を発表[19]した。現行の税制において、石油・天然ガス企業には、30%のCorporate Taxに加え10%のSupplementary Charge が課されており、これに25%のEPLが追加されることで、計65%の税が課されることになる。EPL課税の対象期間は、2022年5月~2025年12月までで、向こう1年で約50億ポンドの税収を見込んでおり、ウクライナ危機等に起因する石油・天然ガス価格の高騰、物価高騰による家計への打撃を緩和するための総額150億ポンドの支援(光熱費補助等)の財源に当てられる予定である。
EPLの導入については、当初、野党・労働党が求めており[20]、英国政府は企業のエネルギー投資意欲を減退させるとして導入に抵抗していたが、方針を転換する形となった。メジャー企業であるbpは2022年5月3日、英国のエネルギーセキュリティの向上とネットゼロ目標達成への同社の確固たるコミットメントを示すために、北海油ガス田・洋上風力・電気自動車充電設備・水素・CCSなどの分野に対して2030年までに総額180億ポンドを投資すると発表[21]したほか、2022年5月25日にShellも今後10年間で200~250億ポンドを英国のエネルギーシステムに投資をすると発表[22]した。Shellは投資額の75%以上を洋上風力・水素・CCUS・電動輸送をはじめとする低炭素事業に充てるとしている。
英国石油開発業界団体であるOffshore Energies UK(OEUK、旧OGUK)は2022年5月26日にプレスリリース[23]を発表。EPLの導入に対し、現在のエネルギー危機により消費者を支援することは必要だとしつつも、英領北海への投資を減退させ、輸入の増加につながり、政府が4月に発表した「エネルギー安全保障戦略」や「ネットゼロ戦略」に逆行する動きとして激しく政府の対応を批判した。
なお、英国財務省は、今後支出されるCAPEXに対して最大91.25%の税控除を認めるとしており(具体的対象費用は未発表)、新規投資には一定の優遇策を同時に発表した。
英国政府は、2019年から保留されていた新規探鉱ライセンスラウンドを今秋から再開する予定であり、国内の新規探鉱活動を再度活性化させようとしている。探鉱に加え、既発見の未開発油ガス田の開発移行、生産中油ガス田の追加開発を加速化するため、税控除を従来の46.25%から最大91.25%まで拡大したと見られる。また、初となるCCSのライセンスラウンドも開始される予定であり、これらの施策により国内への投資を促進しようとしている。
英領北海における主要プレイヤーのHarbour Energy、TotalEnergies、bp、Shellなどのキャッシュフローに与える影響は一定程度あるものの、原油価格が100ドル/バレル超、ガス価格が30ドル/百万Btuを超える水準で高止まりしているなか、影響は限定的との見方もある。現時点において、5月に英国への投資計画を相次いで発表したbp及びShellの両社ともEPL導入を受けた投資計画の変更等は正式に表明していないが、報道[24]によれば、bp関係者のコメントとして、EPLは複数年にわたり課税されるものであり、同社の投資計画に対するEPLと税控除の影響を見る必要があるのが自然だろうとしたほか、Shell関係者は長期的な投資が計画通り実施されるには安定的な投資環境が必要だと述べたとされ、両社を含む企業の投資動向を引き続き注視する。
[19] HM Treasury, Policy paper Energy Profits Levy Factsheet - 26 May 2022,
https://www.gov.uk/government/publications/cost-of-living-support/energy-profits-levy-factsheet-26-may-2022(外部リンク) 2022年6月1日閲覧
[20] The Independent, Labour to propose windfall tax on gas and oil firms as household bills skyrocket
https://www.independent.co.uk/news/uk/labour-government-ed-miliband-energy-bills-vat-b2004637.html(外部リンク) 2022年6月1日閲覧
[21] bp, bp to invest up to £18 billion in UK energy system by 2030
https://www.bp.com/en_gb/united-kingdom/home/news/press-releases/bp-to-invest-up-to-p18-billion-in-uk-energy-system-by-2030.html(外部リンク) 2022年6月1日閲覧
[22] Shell, SHELL UK AIMS TO INVEST UP TO £25 BILLION IN THE UK ENERGY SYSTEM
https://www.shell.co.uk/media/2022-media-releases/shell-uk-aims-to-invest-up-to-euro-25-billion-in-the-uk-energy-system.html(外部リンク) 2022年6月1日閲覧
[23] OEUK, Supporting consumers through this crisis is essential – but damaging the UK energy industry with new taxes is no way to do it, warns Offshore Energies UK
https://oeuk.org.uk/supporting-consumers-through-this-crisis-is-essential-but-damaging-the-uk-energy-industry-with-new-taxes-is-no-way-to-do-it-warns-offshore-energies-uk-2/(外部リンク) 2022年6月1日閲覧
[24] Yahoo Finance, FTSE 100: BP to review investments in North Sea after Sunak's windfall tax
https://finance.yahoo.com/news/ftse-100-bp-sunak-windfall-tax-091649831.html(外部リンク) 2022年6月1日閲覧
以上
(この報告は2022年6月6日時点のものです)