ページ番号1009385 更新日 令和4年6月16日
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概要
- ロシア・ウクライナ戦争で欧州が天然ガス供給の「脱ロシア」を目指す中、アルジェリアが有望な代替供給源として注目されている。
- アルジェリアとパイプラインで接続されたイタリアは、アルジェリアからの天然ガス追加供給を官民双方の取り組みによって追求してきた。他方、ロシアもアルジェリアと政治・エネルギー分野での協力関係を拡大しようと試み、イタリアの「脱ロシア」資源外交を揺るがしている。
- 欧州とロシアの狭間に立たされるアルジェリアでは、政府が石油天然ガス収入の減少に伴う経済の停滞に苦しみ、国民による現体制への反発が生じている。現下の原油・天然ガス需要の増加はアルジェリアにとって逃しがたい機会であり、欧州へ天然ガスを追加供給する「意思」は存在するだろう。
- アルジェリアには、パイプライン、LNG輸出基地といった輸送インフラの面で余力があるが、上流開発面では生産量の減少や国内消費の増加によって輸出余力が圧迫されており、欧州への天然ガス供給に関する「能力」には不安が残る。
- 今後の欧州への代替エネルギー供給源としての「能力」のカギとなるのが上流開発への外国企業の投資である。ENIによる気候変動対策と上流開発への「ハイブリッド」な関与、ウィンターシャル・デアの「脱ロシア」による代替的な上流投資、中国企業との協力関係の拡大等、外国企業の積極的な動きが生じ始めている。今後間もなく開始されるという新たな入札プロセスがアルジェリアと欧州にとっての重要な岐路となるかもしれない。
1. はじめに
2022年2月24日に生じたロシアのウクライナ侵攻以来、欧州諸国はロシアへのエネルギー依存からの脱却を目指し、代替エネルギー供給源の確保に奔走している。有望な代替供給源としてしばしば挙げられるのが、欧州と天然ガスパイプラインで接続された北アフリカ、とりわけアルジェリアである。同国と天然ガスパイプラインで接続されているイタリアは、侵攻直後から積極的に同国への天然ガスの追加供給について働きかけてきた。
この動きに影を落とすのがロシアの対中東・北アフリカ外交である。ロシアのラブロフ外務大臣は5月にアルジェリアとオマーンをそれぞれ訪問し、各国の既存のエネルギー取引を尊重することを確認した。ロシアの中東・北アフリカ産油ガス国に対する関係強化の働きかけは、代替エネルギー供給源を求める欧州の資源外交を揺るがしかねない。
欧州とロシアの狭間に立つアルジェリアは、欧州への信頼できる天然ガス供給源となりうるのか。本稿では、アルジェリアが欧州に向けて天然ガスを供給する「意思」と「能力」のそれぞれを検証したうえで、今後カギとなる上流開発への外国企業の参画状況を分析し、同国から欧州への天然ガス追加供給の可能性を検討する。
2. イタリアの対アルジェリア資源外交
2022年3月8日、欧州委員会は2030年より前にロシアへの化石燃料依存から脱却するための計画(REPowerEU)を発表した。同計画では、供給源の多様化や化石燃料使用量の低減等によって、2022年中にロシアからの天然ガス輸入量のおよそ3分の2(年間100bcm(十億立方メートル))を削減できると見込んでいる[1]。もちろん、EU全体の天然ガス輸入量の45%にも及ぶロシアからの輸入を一国で代替することはできず、様々な国・地域との協議によって代替分の輸入天然ガスをかき集めることとなる。
代替供給源の有力候補として挙げられるのが北アフリカ諸国、特にアフリカ最大の天然ガス生産国のアルジェリアである。アルジェリアは生産量と既設の輸送インフラによって、代替供給源としての注目を集めている。アルジェリアには(1)イタリアに接続するトランスメッド・パイプライン(Transmed Pipeline)、(2)スペインに接続するメドガス・パイプライン(Medgaz Pipeline)、(3)モロッコを経由してスペインに向かうGMEパイプライン(Gasoduc Maghreb Europe Pipeline)が敷設されている。加えて、地中海沿岸のスキクダ(Skikda)、アルズー(Arzew)にそれぞれLNG輸出基地が存在する(図1)。

(出所:「アルジェリアーモロッコースペインをつなぐ主要ガスパイプラインが操業停止、供給再開の見通しは未だ立たず」『JOGMEC石油・天然ガス資源情報』2021年11月26日)
天然ガス輸入量の40%程度(年間29bcm、図2)をロシアに依存してきたイタリアは、ロシアからの天然ガス輸出停止が危惧され始めて以降、アルジェリアに対して天然ガスの追加供給に関する働きかけを積極的に進めてきた。その努力が結実したのがイタリアとアルジェリアとの間の一連の合意である。2022年4月11日、イタリア炭化水素公社(ENI)とアルジェリアの国営石油会社ソナトラック(Sonatrach)が、2023年から2024年にかけてアルジェリアからイタリアへの天然ガス供給量を年間9bcm(イタリアの天然ガス輸入量の12%相当)増加させることに合意した[2]。また、同年5月26日、両社はアルジェリアの既発見ガス田の開発及びグリーン水素パイロット事業に関するMOUを締結した[3]。対象のガス田からは年間3bcmのガスが生産され、イタリアへの輸出増加に寄与することが見込まれている。

(出所:イタリア・エコロジー移行省統計を基に作成)
この合意の背景には、1980年代からのENIによるアルジェリアの石油・天然ガス産業への積極的な関与、そしてロシアのウクライナ侵攻の4日後にはディマイオ外務大臣がアルジェリアを訪問したという、イタリア政府の迅速な働きかけが存在する。これらの官民双方の取り組みによって、イタリアはアルジェリアから天然ガスの追加供給に関する合意を引き出すことができたのである。
[1] “REPowerEU: Joint European action for more affordable, secure and sustainable energy,” European Commission, March 8, 2022.
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_1511(外部リンク)
[2] “Eni and Sonatrach agree to increase gas supplies from Algeria through Transmed,” ENI, April 11, 2022.
https://www.eni.com/en-IT/media/press-release/2022/04/eni-and-sonatrach-agree-to-increase-gas-supplies-from-algeria-through-transmed.html(外部リンク)
[3] “New Agreement reached by SONATRACH and Eni to accelerate the development of gas projects and decarbonization via green hydrogen,” ENI, May 26, 2022.
https://www.eni.com/en-IT/media/press-release/2022/05/new-agreement-eni-sonatrach-gas-development-green-hydrogen-draghi-tebboune.html(外部リンク)
3. 欧州に対抗するロシア外交
イタリアとアルジェリアの合意成立に拘わらず、アルジェリアから欧州への天然ガス供給を疑問視する声は少なくない[4]。その一つの大きな理由として、アルジェリアとロシアとの友好関係とそれを利用したロシアの外交攻勢が存在する。
アルジェリアは独立以来ロシアと同様の社会主義国家の建設を目指し、ロシアとの政治的関係を強化してきた。またエネルギー分野においても、アルジェリアのパイプライン事業へロシア企業が参画する等の技術協力を進めてきたほか、両国は欧州市場での競争にも拘わらず、ガス輸出国フォーラム(GECF)のメンバーとしての協力を強化してきた[5]。今回のロシアのウクライナ侵攻に際しても、アルジェリアは国連総会決議において棄権票や反対票を投じる等、ロシアとの政治的関係を維持する立場をとる。
ロシアのラブロフ外務大臣の突然のアルジェリア訪問は、両国の友好関係を改めて強化し、イタリアをはじめとする欧州各国の外交努力を弱めようとする動きに見える。ラブロフ外務大臣は5月10日、両国の外交関係樹立60周年を祝してアルジェリアを訪問し、テブーン大統領及びラマムラ外務大臣と会談を行った。ラブロフ外務大臣はエネルギー分野での協力に関して、ロシアやアルジェリア、そしてその他の産ガス国は「これまでに締結されている取引を尊重すべき」であると述べた。これはアルジェリアに対して、欧州との追加供給の前に果たすべき義務を再確認させる発言であった。またラブロフ外務大臣は、「特にエネルギーや石油化学の分野で、多くのロシア企業がアルジェリア企業との合弁事業に関心を抱いている」とも発言している[6]。近年ガスプロムがアルジェリアのE&P事業に進出していることは、欧州諸国にとっては自国に供給される天然ガスの「出元」をロシアが抑えるような動きに映る。
このほかにもロシアは、いずれも欧州への潜在的な供給源と言えるオマーンやイラクのクルディスタン地域にも同様の関係強化を試みている[7]。エネルギーの代替供給源を探す欧州諸国に対抗して、ロシアが紛争に中立的な立場をとる中東・北アフリカ諸国に水面下で手を回していることが分かる。
[4] Geoff Porter, “Ukraine Invasion Ushers in Algeria’s Return,” The Washington Institute for Near East Policy, March 28, 2022.
https://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/ukraine-invasion-ushers-algerias-return(外部リンク)
[5] Valérie Marcel, Oil Titans: National Oil Companies in the Middle East, London: Chatham House, 2012, pp. 165-166.
[6] “Algeria receives Russia FM Sergei Lavrov as EU countries search for alternative gas,” Africanews, May 11, 2022.
https://www.africanews.com/2022/05/10/algeria-receives-russia-fm-sergei-lavrov-as-eu-continues-search-for-alternative-gas/(外部リンク)
[7] Diana Galeeva, “Russia’s emerging policies in the Middle East,” Arab News, May 19, 2022.
https://www.arabnews.com/node/2085716(外部リンク)
4. アルジェリアの「意思」:体制維持のための輸出収入
では、アルジェリア自身は欧州への追加供給についてどのような考えを持っているのだろうか。
アルジェリアでは石油・天然ガスの輸出収入が国家収入の大半を占めている。政府は石油・天然ガス収入を、例えば日本では国民からの税金で賄われる公務員の給与や公共サービス、さらには食料やエネルギーに対する補助金等に充当することで、国民からの支持を取り付けている。
しかし、アルジェリアでは近年このシステムを維持することが困難になっている。原油価格が一時1バレル当たり30ドルを割り込んだ2015年以降、アルジェリアの石油・天然ガス輸出収入は大幅に減少した(図3)。2019年、自国経済の停滞や指導者層の腐敗等に関する体制への不満が蓄積し、ブーテフリカ前大統領が5期目となる大統領選挙への立候補を表明したことをきっかけに、国民による大規模な抗議運動が発生した。テブーン現大統領への交代後も体制の問題点の多くは克服されず、政権に対する抗議運動は生じ続けている[8]。石油・天然ガス輸出収入の減少に伴って、テブーン政権が国民の「忠誠を買う」ほどの経済的利益を維持できなくなっていると言えるだろう。

(出所:アルジェリア・エネルギー省統計を基に作成)
窮状にあるアルジェリアにとって、2021年以降の欧州での天然ガス供給逼迫等による石油・天然ガス需要の増加は一縷の望みである。ソナトラックのハッカールCEOは、2021年の同社収入が2021年から70%増加し345億ドルに達する見通しであると述べた。2021年以降増加した輸出収入は食料価格の安定化や失業対策への支出に用いられ、アルジェリアの政治的安定に寄与していると言われる[9]。経済的な便益を与えることで市民の政治的反発を抑制する措置は、2011年の「アラブの春」において、中東・北アフリカ地域の産油ガス国で広く採用された手法である。テブーン政権は同様の手法を用いて体制批判をかわし、政権の延命を図っているのである。
イタリアへの天然ガスの追加供給は、テブーン政権にとって体制維持のための原資を増やす機会である。同政権にとっては体制の安定が最優先であり、ロシアとの友好関係を優先することでこの機会を見逃すことは考え難い。この点で参考となるのは、アルジェリアがモロッコとの間に抱える西サハラ地域の領有権をめぐる問題である。アルジェリアにとって重要な輸入国であるスペインが、この問題においてモロッコを支持したことで、アルジェリアは6月8日に同国との友好条約の停止を発表した。しかし、このような緊張関係の顕在化に至ってもなお、スペインへの天然ガスの供給停止を示唆していない。モロッコに対しては2021年11月から天然ガス輸出を停止していることには留意する必要があるが、アルジェリアからモロッコへの天然ガス輸出量はイタリアやスペインの20分の1以下であり、国家収入に与える影響は相対的に僅かである。このことから、アルジェリアにとって最大の輸出先である欧州に対しては、今後も経済的な利得を優先し、天然ガスを供給していく「意思」があると推察できるだろう。
[8] Simon Speakman Cordall, “Algerian protesters keep up pressure as government targets activists abroad,” Al Monitor, April 7, 2022.
https://www.al-monitor.com/originals/2021/04/algerian-protesters-keep-pressure-government-targets-activists-abroad(外部リンク)
[9] Francisco Serrano, “Higher oil prices are giving Algeria’s regime breathing room,” Middle East Institute, May 25, 2022.
https://www.mei.edu/publications/higher-oil-prices-are-giving-algerias-regime-breathing-room(外部リンク)
5. アルジェリアの「能力」:制約要因としての上流開発
続いて、アルジェリアが現在の供給量以上の天然ガスを実際に生産・輸出することができるのかについて検討する。アルジェリアが有する追加供給の意思にも拘わらず、特にガス田開発の不十分さを理由に追加供給能力を疑問視する意見が多い。
パイプラインやLNG輸出基地といった輸送インフラの観点からは、アルジェリアは十分に供給余力を有している。このうち、GMEパイプラインは前述したアルジェリアとモロッコの西サハラ地域をめぐる緊張関係のため稼働停止しているが、その他の輸送インフラは余力を持って稼働している。特にイタリア向けのトランスメッド・パイプラインは輸送能力36.0bcmのうち2021年は24.9bcmのみ供給しており、4月に合意した年間9bcmの追加供給は十分可能ということができる。加えて、LNG輸出基地も60%弱程度の稼働率であり、今後他の欧州諸国へLNGを供給できる可能性もある。

(出所:CORES、Snam、JODI等を基に作成)
他方、上流開発の観点からは、アルジェリアの増産能力には疑問が残る。アルジェリアの供給能力を不安視する意見において、特に危惧されているのがアルジェリア国内の消費量増加である。図4のとおり、2010年以降アルジェリアの国内ガス需要は漸増し、2019年には消費量が輸出量を上回っている。この要因は他の中東・北アフリカ諸国と同様、人口増加に伴う電力・ガス需要の急増である。国内需要は堅調に増加していくと考えられ、今後天然ガス生産量が増加しない限りは、輸出量を縮小する必要に迫られるだろう。

(出所:BP統計を基に作成)
高まる国内需要のほか、ガス田の老朽化による生産量の減少も問題として挙げられる。具体的なガス田の現状を見てみると、同国最大のガス田であるハッシルメル(Hassi R’Mel)ガス田を含む主要ガス田は殆どがピークを過ぎている(表2、赤字は既に生産ピークを過ぎた油ガス田)。それ以外のガス田も生産ピークを間近に控えており、今後も安定的に国内需要を満たし、国外への輸出を行っていくため、既生産ガス田への生産量回復のための追加投資や新規ガス田の探鉱開発が急務と言える。

(出所:Wood Mackenzieを基に作成)
アルジェリアで現在発見されている油ガス田の70%以上は同国資源の国有化以前に発見されており、ソナトラックがこれまで十分に探鉱開発を進められなかったと言われている[10]。このことから、新たな油ガス田の発見や既存油ガス田の増産には外国企業の参画が不可欠となる。外国企業が今以上に参画せず、彼らの資本や技術が活用できなければ、アルジェリアが欧州への天然ガス供給を増加させる「能力」は時間と共に失われていくだろう。
以上のように、アルジェリアでは輸送インフラの面では追加供給の余力を有しているものの、上流開発面では、このまま外国企業の投資が喚起できなければ、今後欧州に十分かつ安定的な天然ガス供給を継続する余力は失っていくと考えられる。
[10] Valérie Marcel, Oil Titans, pp.148.
6. 「能力」向上のカギとなる外国企業の参画
最後に、今後アルジェリアの追加供給能力を左右する外国企業の参画状況について概観したい。2019年12月に炭化水素法が改正され、契約条件の柔軟化が図られて以降、いくつかの外国企業がアルジェリアにおいて積極的な動きを見せている。具体的には、ENIによる上流開発と脱炭素化の両立、ウィンターシャル・デアによる脱ロシアによる代替的な投資、中国企業との協力拡大の動きを挙げることができる。
アルジェリアにおける最も重要な外国エネルギー企業であるENIは、引き続き同国での事業を拡大していく方針である。同社は2021年12月にソナトラックとの間で炭化水素法改正以来初めてとなるE&P契約を締結した。ENIはこの契約の対象であるベルキン(Berkine)盆地を中心に、今後も既存油ガス田の周辺を開発する「ニアフィールド戦略」で生産拡大を図っていくことが想定される[11]。加えて同社は、上流開発と同時に脱炭素に向けた協力も進めていく方針である。上記のベルキン盆地におけるE&P契約の際にも、再生可能エネルギーや水素、CCUS等を対象とした協力拡大のためのMOUを締結しているほか、前述した2022年5月のソナトラックとのMOUでは、グリーン水素開発に関する協力拡大を合意した。トタルエナジーズがイラクやリビアで追求する「ハイブリッド合意」と同様[12]、ENIも上流開発と脱炭素化対応をセットにすることで、気候変動対策とエネルギー安定供給の両立を図っているといえよう。
その他に注目すべき動きとして、ドイツのウィンターシャル・デア(Wintershall Dea)が2022年5月にレガーヌ北部(Reggane Nord)事業の権益11.25%をイタリアのエディソン(Edison)から購入し、同社権益を30.75%まで拡大している。ウィンターシャル・デアはこれまで主にロシア等で事業を展開してきたが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて同国での新規投資をしないことを表明した。上記の権益獲得にあたって、同社声明ではアルジェリアを特にこの重要な時期に欧州とのエネルギー・パートナーシップを強化するための最有力国であると形容している[13]。このように、欧州企業は欧州への天然ガス供給源という観点のみならず、ロシアからの上流投資の代替先という観点からもアルジェリアに目を向け始めている。
また、2022年5月末には中国のシノペック(Sinopec)が炭化水素法の改正後二件目となるE&P契約を締結した。同社は2003年からザルザイティン油田(5万b/d)の生産量倍増を目標とする原油増進回収(EOR)事業に参画しており、今回の契約で引き続き同油田の追加生産を目指すこととなる。契約内容にはフレアガスの回収事業も含まれており、今後天然ガスの増産にも影響を与える可能性がある。また、この契約をきっかけに、中国企業がアルジェリアと上流開発における協力関係をさらに発展させる可能性があるだろう。
しかし、これらの動きを踏まえてもなお、現時点でアルジェリアに強く関心を有している企業はあくまで少数派であると言えよう。炭化水素法の改正以降、ソナトラックは米国のシェブロンやエクソンモービル等、多くの外国企業とE&P契約の締結に向けたMOUに調印した。しかしその後、2021年12月にENI、2022年5月にシノペックがE&P契約を締結した一方で、上記のMOUはいずれも契約に至っていない[14]。アルジェリアにおいて長く問題となってきた契約条件の悪さや官僚的な意思決定の遅さが十分に改善されたのかどうか、多くの企業は未だ様子を見ている段階だと思われる。
[11] “ENI Turns to North Africa in Gas Output Drive,” MEES, April 1, 2022.
https://www.mees.com/2022/4/1/corporate/eni-turns-to-north-africa-in-gas-output-drive/7db87860-b1b9-11ec-a2fa-0700a4e5b951(外部リンク)
[12] 豊田耕平「リビア:封鎖を繰り返す石油・ガス産業に見出せる希望」『JOGMEC石油・天然ガス資源情報』2022年5月24日
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009358.html
[13] “Wintershall Dea expands interest in the Algerian Reggane Nord gas project,” Wintershall Dea, May 4, 2022.
https://wintershalldea.com/en/newsroom/wintershall-dea-expands-interest-algerian-reggane-nord-gas-project(外部リンク)
[14] 2020年8月までのアルジェリア炭化水素法をめぐる動きについては下記のレポートを参照。
芦原雪絵「アルジェリア:炭化水素法改正をめぐる動きとその後の状況」『JOGMEC石油・天然ガス資源情報』2020年8月3日
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1008604/1008820.html
7. おわりに
欧州とロシアの狭間に立たされるアルジェリアは、ロシアのウクライナ侵攻に関する外交姿勢はロシアに寄っているものの、天然ガスの追加供給に関しては実利的な計算を優先し、欧州へ供給を続ける可能性が高いだろう。他方、今後の追加供給において最も重要なのは、外国企業による上流投資を通じた供給余力の確保である。
アルジェリアのエネルギー鉱物省は2022年4月5日、さらなる上流投資を呼び込むための入札プロセスを間もなく開始すると発表した。アルカーブエネルギー鉱物大臣は同日、米国大使に対して二国間のエネルギー関係の強化を呼びかけており、MOUを締結したシェブロンやエクソンモービルの参画を期待している。2020年にMOUを締結して以来、国際エネルギー市場は大きく動揺し、欧州の代替供給源候補としてのアルジェリアに注目が集まっている。そのため、今回の入札プロセスではともすれば多くの外国企業が同国に関心を持ち、アルジェリアが期待する結果が得られる可能性もある。代替エネルギー供給源の確保を目指す欧州にとって、また石油天然ガス収入の増加を見込むアルジェリア自身にとって、重要な岐路となるかもしれない。
以上
(この報告は2022年6月14日時点のものです)