ページ番号1009399 更新日 令和4年7月1日
原油市場他:OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が2022年8月についても前月比で日量64.8万バレル減産措置を縮小する旨決定(速報)
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概要
- OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2022年6月30日に閣僚級会合を開催し、2021年8月以降2022年4月まで毎月前月比で日量40万バレル、2022年5~6月については前月比で日量43.2万バレル、2022年7月については同日量64.8万バレル、それぞれ規模を縮小しながら実施中である減産措置(2022年7月現在日量228万バレル)を、2022年8月についても7月同様前月比で日量64.8万バレル規模を縮小して実施する旨決定した。
- 次回OPECプラス産油国閣僚級会合は8月3日に開催される予定である。
- 6月2日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、原油価格の高騰等に伴う物価上昇もあり、6月14~15日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利を0.75%引き上げたこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合直前の6月29日の原油価格(WTI)は1バレル当たり109.78ドルと前回の当該閣僚級会合直前から下落することとなった。
- また、高水準の原油及び石油製品価格が物価を上昇させることを通じ、世界経済成長が減速することもあり、2023年の世界石油需要の伸びが前年比で日量200万バレル以下へと鈍化する旨OPECが認識していると6月14日に報じられた。
- さらに、当初見込みほどロシアの原油供給は減少していないことが示唆された。
- 従って、この先世界石油需給引き締まり感が持続する結果、原油相場に上方圧力が加わり続けることに対し、OPECプラス産油国は確信を持ちきれなかったものと考えられる。
- そして、原油生産拡大等につき協議することを含め、7月に米国のバイデン大統領がサウジアラビア等中東諸国を訪問することを控え、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は、7月同様8月についても前月比で日量64.8万バレルと従来想定された規模の1.5倍の減産措置縮小を図ることにより、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期への突入とともにガソリン小売価格高騰等に苦慮する米国に配慮する一方、石油需給引き締まりに対する将来展望が必ずしも描き切れない石油市場関係者の石油需給緩和に対する心理面での影響を最小限にとどめるとともに、石油収入確保の面から原油価格の下落を必ずしも好ましいものとは考えていないと見られるOPECプラス産油国主要構成国のロシアの意向にも考慮する格好となったものと考えられる。
- 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合における、2022年8月の前月比日量64.8万バレルの減産措置縮小決定は、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際にも示唆されていたものでもあったことから、今回の閣僚級会合開催を前にして石油市場では織り込み済となっていたこともあり、閣僚級会合終了直後である6月30日朝(米国東部時間)の原油価格は概ね1バレル当たり109.30~109.60ドル、前日終値比同0.15~0.50ドル程度の下落で推移するなど、今回の閣僚級会合での決定の原油相場に対する影響は限定的なものとなった。
(OPEC、IEA、EIA他)
1. 協議内容等
(1) 2022年6月30日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催し、2021年8月以降2022年4月まで毎月前月比で日量40万バレル、2022年5~6月については前月比で日量43.2万バレル、2022年7月については同64.8万バレル、それぞれ規模を縮小しながら実施中である減産措置(2022年7月現在日量228万バレル)を、2022年8月についても7月同様前月比で日量64.8万バレル規模を縮小して実施する旨決定した(表1及び参考1(巻末)参照)。
(2) また、減産目標の完全遵守に固執すること、及び(これまで減産目標を達成できていない減産措置参加産油国が減産目標を完全に達成するための)追加減産を実施することが極めて重要であることを当該会合で再確認し、(これまで減産目標を達成できていない減産措置参加産油国は減産目標を完全に達成するための)追加生産調整計画を速やかに提出するよう、会合で要請された。
(3) さらに、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を8月3日に開催する旨今次閣僚級会合で決定した。
(4) なお、今回の閣僚級会合では、9月以降の原油生産方針については、協議されなかったとされる。
2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
(1) 前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催(6月2日)の直前の6月1日を以て、中国上海市の新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖措置(3月28日より実施)が事実上解除されるなどしたことにより、中国経済成長と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で拡大した他、海上輸送を通じたロシアからの原油及び石油製品輸入を禁止する旨5月30日に開催された欧州連合(EU)特別欧州理事会(首脳会議)でEU加盟国首脳が合意したことにより、欧州での石油需給引き締まり感が市場で強まったことが、原油相場に上方圧力を加えたこともあり、前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前の5月4日に1バレル当たり107.81ドルの終値であった原油価格(WTI)は6月1日には同115.26ドルの終値と、上昇傾向となった(図1参照)。
(2) しかしながら、西側諸国等がロシア産の原油等の購入を敬遠した代わりに、中国及びインド等の消費国がロシア産の石油を他の産油国産の原油に比べ安価で調達しつつある旨5月19~20日に報じられた他、5月19日には、ロシアのノバク副首相も、4月のロシアの原油生産量は前月比で日量100万バレル減少したものの、5月は前月比で日量20~30万バレル増加する他、6月も原油生産の増加が継続する見込みである旨明らかにするなど、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施により影響を受けたロシアからの石油供給が平準化に向かい始める兆候が見られた。
(3) 加えて、5月12日に国際エネルギー機関(IEA)が発表したオイル・マーケット・レポートでも、中東産油国及び米国といった、ロシア以外の産油国での着実な石油生産量の増加と、特に中国での石油需要増加ペース鈍化に伴い、短期的には大幅な石油供給不足は発生しない旨示唆された。
(4) そして、主要OPECプラス産油国間では、足元世界石油需給は、大幅に供給不足に振れている状態である、もしくは振れる兆候が見られるとは、必ずしも認識されず、従って減産措置縮小ペース加速への動機付けが必ずしも十分ではない状況であり、むしろ大幅な供給不足に陥らないかもしれないような状況下で、減産措置縮小(つまり増産)ペースを加速すれば、石油需給バランスを巡る市場関係者の心理の急変を招くとともに原油相場に強い下方圧力が加わる恐れがあることが懸念された。
(5) それでも、原油価格上昇に加え、5月30日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休(5月28~30日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期を開始した米国では、5月30日時点での全国平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり4.727ドルと1993年4月以降の米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)による同国週間ガソリン小売価格統計史上最高水準に到達するなど(図2参照)、同国のバイデン大統領に対する政治的圧力が高まりつつあった。
(6) このようなこともあり、5月23日の週に、米国バイデン政権の中東政策調整官であるブレット・マクガーク(Brett McGurk)氏と同国国務省のエネルギー安全保障担当顧問であるアモス・ホフシュタイン(Amos Hochstein)氏が、世界エネルギー安定供給問題に関する協議を行うべく中東諸国を訪問した旨5月26日にジャンピエール大統領報道官が明らかにしており、その際に米国とサウジアラビアとの関係改善を働きかけた結果、制御不可能となる原油価格を回避する必要性につきサウジアラビアが認識したことが示唆された。
(7) 他方、5月31日には、ロシアのラブロフ外相が、サウジアラビアのファイサル外相と会談(於リヤド(サウジアラビア))し、OPECプラスの枠内における世界石油市場安定のための協力体制による効果につき賞賛した旨同日ロシア外務省が発表するなど、ロシアがOPECプラス産油国間での結束を意識していることが窺われた。
(8) このため、サウジアラビアは、米国等の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期におけるガソリン等石油需給引き締まり感の抑制を試みることにより、米国に配慮する一方、9月の減産措置縮小ペースについては今後の世界石油需給バランスを考慮して再調整する余地を残すことにより、原油価格が大幅に下落することによるロシアの石油収入減少の可能性の抑制を試みることにより、OPECプラスの重要な構成国であるロシアとの関係を維持することを通じたOPECプラス産油国間での結束に配慮した結果、OPECプラス産油国が従前想定していたと見られる7~9月の毎月前月比で日量43.2万バレルの減産措置の縮小を7~8月に前倒しして実施すべく、7月に日量64.8万バレル減産措置を縮小することにしたものと考えられる。
(9) 前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、石油市場では、ウクライナに事実上侵攻するロシアによる、欧州一部諸国向けの天然ガス供給の削減、イラン核合意正常化への協議に際してのイランと西側諸国等との対立の高まり、リビアでの地方部族等による石油生産関連施設封鎖に伴う同国原油生産の減少、OPECプラス産油国による減産措置縮小の実効性を疑問視する市場の見方等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は6月8日には1バレル当たり122.11ドルと、2008年8月1日(この時は同125.10ドル)以来の高水準の終値となった3月8日(この時の終値は同123.70ドル)以来の高水準の終値に到達した。
(10) しかしながら、中国上海市等で新型コロナウイルス感染が拡大する兆候が見られたうえ、原油価格の高騰等により、6月14~15日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利の0.75%の引き上げ(1994年11月15日開催のFOMC以来の大幅な引き上げ)が決定されたことに加え、その後もしばしば米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が物価上昇沈静化に向けた方策実施に対する確固たる姿勢を示唆したため、世界経済成長減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことが、原油相場に下方圧力を加えた。
(11) このようなことから、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合直前の6月29日の原油価格は1バレル当たり109.78ドルと前回のOPECプラス産油国閣僚級会合直前から下落した。
(12) 市場では、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴うエネルギー分野における西側諸国等による対ロシア制裁実施等に伴う石油需給引き締まり感等により、原油価格が下支えされるとの見方も依然根強い。
(13) しかしながら、高水準の原油及び石油製品価格が物価を上昇させることを通じ、世界経済成長が減速することもあり、2023年の世界石油需要の伸びが日量200万バレル以下へと鈍化する(因みに2022年は日量336万バレルの増加と予想されている)旨OPECが認識していると6月14日に報じられた。
(14) また、2022年についても、従来の日量140万バレルの石油供給過剰予想を日量100万バレルへと縮小したものの、依然として、世界石油需給バランスはそれなりに供給過剰となる可能性がある旨6月28日に開催されたOPECプラス産油国合同専門委員会(JTC: Joint Technical Committee)向けの資料で示唆された旨6月27日に報じられた。
(15) 他方、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う西側諸国等によるロシア産原油等の敬遠により、ロシアからの原油供給が大幅に減少する可能性があるとの市場の懸念に対し、確かに2022年5月は欧州向けのロシア産軽油及び重油を中心として海上輸出量は同年1月に比べ日量50万バレル程度減少したものと推定される一方、2022年1月には推定日量307万バレルであったロシアの原油海上輸出量は、欧州等が引き取りを減少させつつあるものの、6月(1~24日)時点で欧州はなお推定日量155万バレル程度を引き取っている他、中国への輸出が堅調であることに加え、インドがロシア産原油の引き取りを拡大したこともあり、全体としては推定日量363万バレルとむしろ増加を示すなど、ロシア産原油の海上輸出は必ずしも減少していない旨示唆された(図3参照)。
(16) また、6月16日にはロシアのシルアノフ財務相が、2022年のロシアの原油生産は横這いか前年比で3~5%程度減少すると予想している旨明らかにした一方、2022年1月には日量1,007万バレルであったロシアの原油生産量(コンデンセートを除く)は2022年4月に日量915万バレルへと落ち込んだものの、5月には同930万バレルへと若干ではあるが増加、同国の原油生産量の減少が一服する兆候が見られた他、6月16日にはロシアのノバク副首相が、西側諸国等による対ロシア制裁を回避すべく同国産の原油が西側諸国等を迂回して輸出されることにより、足元同国の原油生産量(コンデンセートは除外されているものと推定される)は2月並みの日量1,020万バレルに接近しつつある旨発言した。
(17) さらに、6月30日には、ノバク副首相が、6月のロシアの原油生産が日量990万バレルに到達した他、2022年夏場にはロシアはOPECプラス産油国で定められる目標に沿った生産水準へと回復できることを確信している旨明らかにした。
(18) このように、足元ではロシアの原油生産及び輸出等がこの先減少を継続することにより、世界石油需給が引き締まる方向に向かうという見通しが成り立ちにくい旨示唆されることにより、この面でOPECプラス産油国は減産措置縮小ペースのさらなる加速には慎重になったものと考えられる。
(19) そして、原油生産拡大等につき協議することを含め、7月に米国のバイデン大統領がサウジアラビア等中東諸国を訪問する(そして、その際石油を含むエネルギー生産につき関係者間で協議する予定である旨6月14日に同国国家安全保障会議のカービー戦略広報担当調整官が明らかにしていた)ことを控え、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は、7月同様8月についても前月比で日量64.8万バレルと従来想定された規模(日量43.2万バレル)の1.5倍の減産措置縮小を図ることにより、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期への突入とともにガソリン小売価格高騰等に苦慮する米国に配慮する一方、石油需給引き締まりに対する将来展望が必ずしも描き切れない石油市場関係者の石油需給緩和に対する心理面での影響を最小限にとどめるとともに、石油収入確保の面から原油価格の下落を必ずしも好ましいものとは考えていないと見られるOPECプラス産油国主要構成国のロシアの意向にも考慮する格好となったものと考えられる。
3. 原油価格の動き等
(1) 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合における、2022年8月の前月比日量64.8万バレルの減産措置縮小決定は、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際にも示唆されていたものでもあったことから、今回の閣僚級会合開催を前にして石油市場では織り込み済となっていたこともあり、閣僚級会合終了直後である6月30日朝(米国東部時間)の原油価格は概ね1バレル当たり109.30~109.60ドル、前日終値比同0.15~0.50ドル程度の下落で推移するなど、今回の閣僚級会合での決定の原油相場に対する影響は限定的なものとなった。
(2) ただ、OPECプラス産油国閣僚級会合終了後、米国のバイデン大統領が、7月の中東諸国訪問の際、中東湾岸産油国に対し原油生産拡大を要請する旨表明した(但しサウジアラビア対し原油生産拡大を直接要請するのではなく、湾岸協力会議(GCC: Gulf Corporation Council)の場で中東湾岸諸国全体に対し要請する意向である旨発言した)ことにより、これら産油国による原油生産拡大と石油需給緩和期待が市場で醸成されたことに加え、6月30日に米国商務省から発表された5月の同国実質個人支出が前月比で0.4%の減少と市場の事前予想(0.3%の減少)を減少幅で上回ったことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり105.76ドルと前日終値比で同4.02ドル下落した。
(3) 今後の原油市場を巡る主な注目点としては、まず、米国のバイデン大統領による7月15~16日に予定されるサウジアラビア訪問を含む中東諸国訪問になろう。
(4) 前述の通り、6月30日に米国のバイデン大統領は、7月のサウジアラビア等を含む中東訪問の際、GCCの場において中東湾岸産油国に対し原油生産拡大を要請する旨表明した。
(5) そして、サウジアラビア等を含む中東湾岸産油国との協議の場において、これまでイエメン問題(サウジアラビア等中東湾岸産油国等と敵対しサウジアラビア等に対し無人攻撃機等で攻撃を行ってきたフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)に対しバイデン政権が2021年2月16日にテロ組織指定を解除)やイラン問題(イラン核合意正常化に向けた協議の推進に伴う米国の中東湾岸産油国の安全保障問題の相対的軽視)を含め、サウジアラビアを初めとした中東湾岸産油国に対し、米国が政治面、外交面及び軍事面等を含めどの程度の支援等を打ち出すことができるか、ということが、今後のサウジアラビアを含む中東湾岸産油国の原油生産方針に影響する可能性があるものと考えられる。
(6) もっとも、OPECプラスは主要構成国にロシアを取り込むことを通じ、少なくとも過去数年間原油価格の下支えに努めてきた経緯もあり、サウジアラビア等の中東湾岸産油国はロシア(しかも同国は事実上欧米諸国と対立する関係となっている)等との結束を重視する必要もあることから、米国側が相当程度大規模な支援を提示した(なお、米国によるサウジアラビア等に対する支援策の提示内容及びサウジアラビア等との合意内容は直ちに全てが詳細に公表されるとは限らない)としても、サウジアラビア等のOPECプラス産油国は減産措置の大幅な加速に前向きになるかどうかについては、不透明感が残ることになろう。
(7) また、UAEのムハンマド・ビン・ザイド大統領が、サウジアラビアの短期的な原油生産余力は日量15万バレルであり、UAEについては原油生産能力の水準で原油生産を実施している旨伝えたと6月27日にフランスのマクロン大統領がバイデン大統領に明らかにしたと報じられるなどしていることから、9月(もしくはそれ以降)の原油生産方針につき協議されるものと見られる、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を控え、OPECプラス産油国による原油生産のさらなる拡大可能性に対する市場の神経質な心理が、原油相場に反映される可能性もある。
(8) 他方、ナイジェリアの産油地域における治安面が改善されれば、8月末には同国原油生産は目標を満たす可能性がある旨6月24日にナイジェリアのシルバ石油資源相が明らかにしているが、今後ナイジェリア(2022年5月現在同国の原油生産量は目標を日量49万バレル程度下回っている)を含めたOPECプラス産油国の原油生産状況も、石油需給及び原油相場に影響を与えるものと考えられる。
(9) そして、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了する9月5日(「労働者の日(レイバー・デー」の休日)以降、冬場の暖房シーズンのための暖房用石油需要期(概ね11月1日以降)までは石油不需要期となることから、石油需給の緩和感が市場で増大するとともに原油相場に下方圧力が加わりやすくなることもあり、OPECプラス産油国はより慎重な原油生産政策を検討するようになるものと見られ、結果として、次回OPECプラス産油国閣僚級会合で議論されるものと思われる、2022年9月(もしくは9月以降)の増産規模については、7~8月の規模(前月比日量64.8万バレル)を下回る水準で合意するといった展開となる可能性も排除できない。
(10) 他方、最近では、石油製品価格の上昇が原油価格の上昇に影響を与えている側面がある。
(11) 2020~21年の新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制及び経済活動制限の強化による石油需要の大幅減少及びその後の当該需要のもたつき等もあり、石油製品製造を巡る採算性の悪化から、欧米諸国等の一部製油所では稼働を低下させたり、停止させたりしたとされる。
(12) また、地球環境問題等に対応するために、米国等の石油会社は製油所等石油産業への投資を抑制する動きが見られたとも指摘される。
(13) しかしながら、新型コロナウイルスワクチン接種の普及拡大に伴い、個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されるとともに、特にガソリンや軽油といった石油製品の需要が回復し始めた一方、米国等の製油所ではサプライチェーン上の隘路(ボトルネック)の発生等に伴い、資機材等の費用が上昇したり、納入が遅延したりするようになった他、労働力も不足するようになった。
(14) さらに、米国では、ガソリン等へのバイオ燃料混入義務が毎年引き上げられている(2022年6月3日には2022年において206億ガロン(日量135万バレル)の再生可能燃料混入義務を最終決定した)ことから、石油由来のガソリン及び軽油成分に対する需要の伸び悩み観測が石油会社間で広がるとともに、石油会社は製油所をバイオ燃料製造施設へと転換しつつある(2022年5月11日には米国大手石油会社フィリップス66がサンフランシスコにあるロデオ(Rodeo)製油所(原油精製処理能力日量12万バレル)をバイオ燃料製造施設に転換する旨発表した)ことに加え、2022年4月1日には同国で製造される乗用車等に対し2026年までに1ガロン当たり49.1マイル(1リットル当たり約20.9km)へと燃費を規制する旨米国運輸省が発表した(因みに、2020年3月31日(トランプ政権時代)に同国運輸省が発表した燃費規制は2026年に製造される乗用車等に対し1ガロン当たり40.4マイルであった)他、この燃費規制を達成するには、2026年時点の乗用車等販売数量のうち少なくとも17%を電気自動車にすること(現在は米国の乗用車等販売数量の5%が電気自動車)が求められると見る向きもある。
(15) 他方、欧州では、製油所の燃料等に用いられる天然ガス価格が上昇したり、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う西側諸国等による対ロシア制裁発動もしくは将来的な発動が予想される制裁への抵触の恐れ、もしくはロシア産の石油製品を購入する企業に対する評判(Reputation)リスクへの懸念から、ロシアが製造する重油(これも欧州の製油所において燃料として利用される)等の欧州への流入に支障が発生したりしたとされる他、天然ガス及び石炭価格等の上昇により、電力価格が上昇したりしたことが、石油製品生産の採算を悪化させた結果、欧州の一部製油所の原油精製処理活動が不安定になるとともに、石油製品の生産活動に負の影響を与えた。
(16) また、2021年6月24日に欧州連合(EU)欧州議会で欧州気候法(European Climate Law)が採択され、2030年時点における温室効果ガス排出量を1990年比で55%削減へと引き上げる(従来は40%削減)など、温室効果ガス排出削減規制が強化される動きが見られた。
(17) 他方、中国の製油所では、環境に対し悪影響を及ぼす石油製品を製造する製油所の操業を規制した他、石油製品輸出枠を削減する動き(内訳はガソリン、ジェット燃料及び軽油が合計で1,300万トンとなっており2021年第一回の同輸出枠(2,950万トン)の44%程度にとどまった)が見られた(地球環境問題対応等を見据えた中国政府による国内石油市場及び産業再編の動きの一環であるものと示唆する向きがある)。
(18) このようなことにより、長期的な石油製品の販売及び収益の確保が不透明であることもあり、欧米諸国を中心として石油精製能力の増強に対する投資が伸び悩んだ結果、製油所の精製能力が不足気味となったうえ、中国からの石油製品輸出がもたつき気味となったところに、北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近したことにより、ガソリンや軽油(欧州ではディーゼル車がそれなりに利用されている)の需給引き締まり感が市場で増大した結果、これら石油製品の価格が上昇したものと考えられる。
(19) そして、石油製品価格の上昇に伴い、ガソリン及び軽油と言った石油製品と原油との価格差が相当程度拡大したことにより、足元では世界の石油精製能力は不足気味とされるものの、2022年以降は製油所の精製能力が回復すると見方が市場で広がったこともあり、今後精製能力を拡大した製油所等による原油購入が活発化するとの観測が市場で発生したと見られることが、原油相場を押し上げる格好となっている。
(20) その意味では、統計史上最高水準にまで上昇している米国のガソリン小売価格を引き下げようとして、米国のバイデン政権がサウジアラビア等を含むOPECプラス産油国に対し減産措置縮小ペースの加速を働きかけているものの、足元世界石油精製能力が不足気味等であることが、同国ガソリン小売価格高騰の一因となっていることもあり、短期的には石油製品価格は下支えされやすく、従ってその影響で原油価格も支持されやすい側面があるものと考えられる。
(21) また、米国の夏場のハリケーンシーズン(例年6月1日~11月30日)におけるハリケーン等の暴風雨の発生状況や進路(米国メキシコ湾沖合及び湾岸地域に来襲するようであれば、当該地域の油・ガス田、製油所及び国外から石油タンカーを受け入れる港湾施設の操業に支障が発生する場面が見られる可能性もある)によっては、石油需給引き締まり感が市場で強まることを通じ、原油価格が変動する場面が見られることもありうる。
(22) 他方、イラン核合意正常化に向け、米国とイランとの間での協議が6月28日に再開した(ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う西側諸国等の対ロシア制裁発動後も、ロシアが核合意正常化後のイランと取引が実施できるよう米国に要求したことに対し、米国が拒否したこと等により、当該協議は3月11日以降中断していた)が、6月29日には特段の進展がなく当該協議は終了した。
(23) イラン核合意正常化に向けた協議は、イランによる同国革命防衛隊に対する米国の制裁解除要求に対し、米国がそれは核合意正常化には関係ないとして拒否するなどしており、この点を中心として、協議は平行線を辿る格好となっている。
(24) また、5月22日にはイラン革命防衛隊の大佐が射殺されたが、イラン側はイスラエルが関与している旨主張、5月23日には同国のライシ大統領が報復する意向である旨発言している。
(25) 加えて、5月26日には、イランの首都テヘランの郊外パルチンにある同国軍事関連研究施設で爆発が発生したが、これは国内から発射された無人攻撃機によるものであると5月27日に伝えられた。
(26) このように、イラン核合意正常化のための米国を含む西側諸国等とイランとの間での協議を巡っては、協議が再開する方向とはなったものの、短期的に当該協議が妥結する方向に向かっているとは必ずしも言い切れず(米国国務省のイラン担当特使であるマレー氏も、妥結する可能性は高くない旨5月25日に米国連邦議会上院外交委員会で明らかにしている)、イラン核合意正常化を巡る米国とイランとの間での協議過程の複雑化による、中東情勢の不安定化に伴う当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で根強く存在していることから、今後もこの面で、原油相場が下支えすることがありうる。
(27) そして、西部及び東部の各地域に2つの政府が並存し対立している他、しばしば原油生産関連施設が地方部族等により占拠される結果、原油生産量が減少する場面が見られるリビア(2022年2月には日量116万バレルであった同国の原油生産量は日量10~15万バレル程度にまで減少した旨6月14日に同国石油ガス省関係が明らかにしている)を巡る情勢に対しても、原油相場が反応することもありうる。
(28) また、6月8日午前11時40分(現地時間)に米国テキサス州フリーポート(Freeport)の天然ガス液化施設(天然ガス液化能力年間1,500万トン)で火災が発生し同施設の操業が停止した。
(29) 操業停止期間は当初3週間程度とされていたが、6月14日には、9月に部分操業再開、2022年末までに全面操業再開を見込む旨の見通しに修正された。
(30) 他方、6月13日まで日量1.67億立方メートル(同推定59億立方フィート)であった、ロシアからドイツ等へ天然ガスを輸送するノルド・ストリーム1・パイプラインの天然ガス輸送量を最大日量1億立方メートル(同35億立方フィート)へと制限した旨ロシア国営ガス会社ガスプロムが6月14日に発表したうえ、6月16日からは日量6,700万立方メートル(同24億立方フィート)へと削減する旨6月15日にガスプロムが発表した(カナダでメンテナンス作業中である、当該パイプラインに用いられるドイツのシーメンス社製タービンがカナダの対ロシア制裁(ロシア石油・天然ガス産業への支援の禁止)に抵触したことにより、ロシアに返送することが困難になっていることが一因である旨ガスプロムは6月14日に主張している)他、6月15日にイタリア石油会社ENIが、ガスプロムからの天然ガス供給量が同日時点で15%削減されたうえ、6月16日にはガスプロムからの天然ガス供給量が要求した量の65%となった他、6月17日にはガスプロムから供給された天然ガスが要求した量の半分となった旨明らかにした。
(31) また、ノルド・ストリーム1パイプラインは7月11~21日にメンテナンス作業を実施する旨操業者(ノルド・ストリーム社)が6月13日に発表したが、6月23日には、ドイツのハーベック経済相が、メンテナンス作業終了後同パイプラインが稼働を再開することにつき自信を持てない旨明らかにしている。
(32) このような供給面での要因により、欧州を中心として天然ガス価格は大幅に上昇した(6月8日に100万Btu当たり推定24.938ドルの終値であったオランダTTF天然ガス先物価格は6月30日には同44.394ドルの終値と約78%上昇している)。
(33) このように、ロシアの対欧州天然ガス供給を巡り不透明感が強まる中、今後天然ガスからの燃料転換に伴い石油需要が増加するとともに石油需給が相対的に引き締まるとの観測が市場で強まることにより、原油価格に上方圧力が加わるといった展開も想定されうる。
(参考1:2022年6月30日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)
30th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting
No 19/2022
Vienna, Austria
30 June 2022
The 30th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting was held via videoconference on 30 June 2022. In view of current oil market fundamentals and the consensus on its outlook, the OPEC and participating non-OPEC oil producing countries agreed to:
- Reaffirm the decision of the 10th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 12th April 2020 and further endorsed in subsequent meetings including the 19th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on the 18th July 2021.
- Reconfirm the production adjustment plan and the monthly production adjustment mechanism approved at the 19th and 29th OPEC and non-OPEC Ministerial Meetings and the decision to adjust upward the monthly overall production for the month of August 2022 by 0.648 mb/d.
- Reiterate the critical importance of adhering to full conformity and to the compensation mechanism. Compensation plans should be submitted in accordance with the statement of the 15th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting.
- Hold the 31st OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 3 August 2022.
以上
(この報告は2022年7月1日時点のものです)