ページ番号1009413 更新日 令和4年7月19日

原油市場他:物価上昇抑制に対するFRB議長の確固たる姿勢、米国バイデン大統領の中東諸国に対する増産要請の意向等により、下落傾向となる原油価格

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レポートID 1009413
作成日 2022-07-19 00:00:00 +0900
更新日 2022-07-19 12:24:24 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2022
Vol
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ページ数 34
抽出データ
地域1 グローバル
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国・地域 グローバル
2022/07/19 野神 隆之
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概要

  1. ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施によるロシアからの石油供給減少懸念増大等もあり、ガソリン及び留出油需給の引き締まり感が市場で強まったことにより、それら製品製造を巡る利幅が拡大したことから、米国では、製油所の稼働が上昇するとともに、石油製品生産活動も活発化したと見られるものの、小売価格高騰が石油製品需要を抑制する格好となったと思われることもあり、かえってガソリン及び留出油在庫は増加するとともに、ガソリン在庫は平年幅上限を上回る水準に、留出油在庫は平年幅下限付近に位置する量に、それぞれなっている。また、米国戦略石油備蓄(SPR)からの供給もあり、原油在庫は増加傾向となったうえ、平年幅上限を上回る状態は継続している。
  2. 2022年6月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では増加となった他、欧州でも、ブレント原油価格がWTI原油価格をしばしば相当程度上回る場面が見られたことにより、欧州の原油輸入が促進されたこともあり、在庫は微増となった。他方、日本でも、夏場の石油需要期突入を控え、製油所による原油の輸入が活発化しつつあるものと見受けられることもあり、在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では、重油を中心として在庫は減少した他、日本においては、関東地方等で6月27日に梅雨明けしたと見られる旨発表されたこともあり、個人の外出が活発化したと見られることにより、ガソリン需要が堅調に推移したことが一因となり、石油製品在庫は減少した。しかしながら、米国で留出油、プロパン及びその他の石油製品在庫を中心として石油製品在庫が増加したことより相殺されて余りあったことにより、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となった。それでも当該在庫は平年幅下方付近に位置する量となっている。
  3. 2022年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場では、6月22日に行われた米国連邦議会上院銀行委員会等において、米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、物価上昇抑制のための政策金利引き上げに対する確固たる姿勢を示唆したこと、6月30日に、米国のバイデン大統領が、7月の中東諸国訪問の際、産油国に対し原油生産拡大を要請する旨表明したこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は下落傾向となり、7月14日にはWTIで1バレル当たり95.78ドルの終値と、4月11日以来の低水準の終値に到達する場面も見られた。
  4. 今後米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることにより、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることに加え、世界経済成長減速による石油需要の下振れ懸念が市場で強まる結果、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られる可能性がある。ただ、ロシアの石油を含むエネルギー供給削減への懸念等から原油相場が下支えされることもありうる。そのような中、世界各国及び地域における新型コロナウイルス感染状況と個人の外出規制及び経済活動制限を巡る動向、米国経済指標類や同国金融当局関係者による金融緩和縮小を巡る発言及び米国連邦公開市場委員会(FOMC)での政策金利等を巡る金融引き締め政策に関する決定、OPECプラス産油国の減産措置を巡る議論の状況等が原油相場に影響を与えるものと考えられる。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が2022年8月についても前月比で日量64.8万バレル減産措置を縮小する旨決定

(1) 協議内容等

2022年6月30日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を開催し、2021年8月以降2022年4月まで毎月前月比で日量40万バレル、2022年5~6月については前月比で日量43.2万バレル、2022年7月については同64.8万バレル、それぞれ規模を縮小しながら実施中である減産措置(2022年7月現在日量228万バレル)を、2022年8月についても7月同様前月比で日量64.8万バレル規模を縮小して実施する旨決定した(表1参照)。

表1 OPECプラス産油国の減産幅

また、減産目標の完全遵守に固執すること、及び(これまで減産目標を達成できていない減産措置参加産油国が減産目標を完全に達成するために)追加減産を実施することが極めて重要であることを当該会合で再確認し、(これまで減産目標を達成できていない減産措置参加産油国は減産目標を完全に達成するための)追加生産調整計画を速やかに提出するよう、会合で要請された。

さらに、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を8月3日に開催する旨今次閣僚級会合で決定した。なお、今回の閣僚級会合では、9月以降の原油生産方針については、協議されなかったとされる。

 

(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催(6月2日)の直前の6月1日を以て、中国上海市の新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖措置(3月28日より実施)が事実上解除されるなどしたことにより、中国経済成長と石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で拡大した他、海上輸送を通じたロシアからの原油及び石油製品輸入を禁止する旨5月30日に開催された欧州連合(EU)特別欧州理事会(首脳会議)でEU加盟国首脳が合意したことにより、欧州での石油需給引き締まり感が市場で強まったことが、原油相場に上方圧力を加えたこともあり、前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合(5月5日開催)開催直前の5月4日に1バレル当たり107.81ドルの終値であった原油価格(WTI)は6月1日には同115.26ドルの終値と、上昇傾向となった(図1参照)。

図1 原油価格の推移(2021~22年)

しかしながら、西側諸国等がロシア産の原油等の購入を敬遠した代わりに、中国及びインド等の消費国がロシア産の石油を他の産油国産の石油に比べ安価で調達しつつある旨5月19~20日に報じられた他、5月19日には、ロシアのノバク副首相も、4月のロシアの原油生産量は前月比で日量100万バレル減少したものの、5月は前月比で日量20~30万バレル増加する他、6月も原油生産の増加が継続する見込みである旨明らかにするなど、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施により影響を受けたロシアからの石油供給が平準化に向かい始める兆候が見られた。

加えて、5月12日に国際エネルギー機関(IEA)が発表したオイル・マーケット・レポートでも、中東産油国及び米国といった、ロシア以外の産油国での着実な石油生産量の増加と、特に中国での石油需要増加ペース鈍化に伴い、短期的には大幅な石油供給不足は発生しない旨示唆された。

このようなこともあり、足元世界石油需給は、大幅に供給不足に振れている状態である、もしくは振れる兆候が見られるとは、必ずしも認識されず、従って減産措置縮小ペース加速への動機付けが必ずしも十分ではない状況であり、むしろ大幅な供給不足に陥らないかもしれないような状況下で、減産措置縮小(つまり増産)ペースを加速すれば、石油需給バランスを巡る市場関係者の心理の急変を招くとともに原油相場に強い下方圧力が加わる恐れがあることが、主要OPECプラス産油国間で懸念されたものと見られる。

それでも、原油価格上昇に加え、5月30日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休(5月28~30日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入した米国では、5月30日時点での全国平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり4.727ドルと1993年4月以降の米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)による同国週間ガソリン小売価格統計史上最高水準に到達するなど(図2参照)、同国のバイデン大統領に対する政治的圧力が高まりつつあった。

図2 米国ガソリン平均小売価格(2019~22年)

このようなこともあり、5月23日の週に、米国バイデン政権の中東政策調整官であるブレット・マクガーク(Brett McGurk)氏と同国国務省のエネルギー安全保障担当顧問であるアモス・ホクスタイン(Amos Hochstein)氏が、世界エネルギー安定供給問題に関する協議を行うべく中東諸国を訪問した旨5月26日にジャンピエール大統領報道官が明らかにしており、その際に米国とサウジアラビアとの関係改善を働きかけた結果、制御不可能となる原油価格を回避する必要性をサウジアラビアが認識したことが示唆された。

他方、5月31日には、ロシアのラブロフ外相が、サウジアラビアのファイサル外相と会談(於リヤド(サウジアラビア))し、OPECプラスの枠内における世界石油市場安定のための協力体制による効果につき賞賛した旨同日ロシア外務省が発表するなど、ロシアがOPECプラス産油国間での結束を意識していることが窺われた。

このため、サウジアラビアは、米国等の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期におけるガソリン等石油需給引き締まり感の抑制を試みることにより、米国に配慮する一方、9月の減産措置縮小ペースについては今後の世界石油需給バランスを考慮して再調整する余地を残すことで、原油価格が大幅に下落することによるロシアの石油収入減少の可能性の抑制を試みることにより、OPECプラスの重要な構成国であるロシアとの関係を維持することを通じたOPECプラス産油国間での結束に配慮した結果、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では、OPECプラス産油国が従前想定していたと見られる7~9月の毎月前月比で日量43.2万バレルの減産措置の縮小を7~8月に前倒しして実施すべく、7月に日量64.8万バレル減産措置を縮小することを決定したものと考えられる。

前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、石油市場では、ウクライナに事実上侵攻するロシアによる、欧州一部諸国向けの天然ガス供給の削減、イラン核合意正常化への協議に際してのイランと西側諸国等との対立の高まり、リビアでの地方部族等による石油生産関連施設封鎖に伴う同国原油生産の減少、OPECプラス産油国による減産措置縮小の実効性を疑問視する市場の見方等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は6月8日には1バレル当たり122.11ドルと、2008年8月1日(この時は同125.10ドル)以来の高水準の終値となった3月8日(この時の終値は同123.70ドル)以来の高水準の終値に到達した。

しかしながら、中国上海市等で新型コロナウイルス感染が拡大する兆候が見られたうえ、原油価格の高騰等により、6月14~15日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利の0.75%の引き上げ(1994年11月15日開催のFOMC以来の大幅な引き上げ)が決定されたことに加え、その後もしばしば米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が物価上昇沈静化に向けた方策実施に対する確固たる姿勢を示唆したため、政策金利の大幅引き上げによる、世界経済成長減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことが、原油相場に下方圧力を加えた。

このようなことから、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合直前の6月29日の原油価格は1バレル当たり109.78ドルと前回のOPECプラス産油国閣僚級会合直前時から下落した。

市場では、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴うエネルギー分野における西側諸国等による対ロシア制裁実施等に伴う石油需給引き締まり感等により、原油価格が下支えされるとの見方も依然根強い。

しかしながら、高水準の原油及び石油製品価格が物価を上昇させることを通じ、世界経済成長が減速することもあり、2023年の世界石油需要の伸びが日量200万バレル以下へと鈍化する(因みに2022年は日量336万バレルの増加と予想されている)旨OPECが認識していると6月14日に報じられた。

また、2022年についても、従来の日量140万バレルの石油供給過剰予想を日量100万バレルへと縮小したものの、依然として、世界石油需給バランスはそれなりに供給過剰となる可能性がある旨6月28日に開催されたOPECプラス産油国合同専門委員会(JTC: Joint Technical Committee)向けの資料で示唆された旨6月27日に報じられた。

他方、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う西側諸国等によるロシア産原油等の購入敬遠により、ロシアからの原油供給が大幅に減少する可能性があるとの市場の懸念に対し、確かに2022年5月は欧州向けのロシア産軽油及び重油を中心として海上輸出量は同年1月に比べ日量50万バレル程度減少したものと推定される一方、2022年1月には推定日量307万バレルであったロシアの原油海上輸出量は、欧州等が引き取りを減少させつつあるものの、6月(1~24日)時点で欧州はなお推定日量155万バレル程度を引き取っている他、中国への輸出が堅調であることに加え、インドがロシア産原油の引き取りを拡大したこともあり、全体としては推定日量363万バレルとむしろ増加を示すなど、ロシア産原油の海上輸出は必ずしも減少傾向を示していない旨示唆された(図3参照)。

図3 ロシア産原油の海上輸出(2022年)

また、6月16日にはロシアのシルアノフ財務相が、2022年のロシアの原油生産は横這いか前年比で3~5%程度減少すると予想している旨明らかにした一方、2022年1月には日量1,007万バレルであったロシアの原油生産量(コンデンセートを除く)は2022年4月に日量915万バレルへと落ち込んだものの、5月には同930万バレルへと若干ではあるが増加、同国の原油生産量の減少が一服する兆候が見られた他、6月16日にはロシアのノバク副首相が、西側諸国等による対ロシア制裁を回避すべく同国産の原油が西側諸国等を迂回して輸出されることにより、足元同国の原油生産量(コンデンセートは除外されているものと推定される)は2月並みの日量1,020万バレルに接近しつつある旨発言した(なお、IEAデータから推定されるロシアの2月の原油生産量(コンデンセートを除く)は日量1,005万バレルであった)。

さらに、6月30日には、ノバク副首相が、6月のロシアの原油生産が日量990万バレルに到達した他、2022年夏場にはロシアはOPECプラス産油国で定められる目標に沿った生産水準へと回復できることを確信している旨明らかにした。

このように、足元ではロシアの原油生産及び輸出等がこの先減少を継続することにより、世界石油需給が引き締まる方向に向かうという見通しが成り立ちにくい旨示唆されたことにより、この面でOPECプラス産油国は減産措置縮小ペースのさらなる加速には慎重になったものと考えられる。

そして、原油生産拡大等につき協議することを含め、7月に米国のバイデン大統領がサウジアラビア等中東諸国を訪問する(そして、その際石油を含むエネルギー生産につき関係者間で協議する予定である旨6月14日に同国国家安全保障会議のカービー戦略広報担当調整官が明らかにしていた)ことを控え、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は、7月同様8月についても前月比で日量64.8万バレルと従来想定された規模(日量43.2万バレル)の1.5倍の減産措置縮小を図ることにより、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期への突入とともにガソリン小売価格高騰等に苦慮する米国に配慮する一方、石油需給引き締まりに対する将来展望が必ずしも描き切れない石油市場関係者の石油需給緩和に対する心理面での影響を最小限にとどめるとともに、石油収入確保の面から原油価格の下落を必ずしも好ましいものとは考えていないと見られるOPECプラス産油国主要構成国のロシアの意向も考慮する格好となったものと考えられる。

 

(3) OPECプラス産油国閣僚級会合開催当日の原油価格の動き等

今回のOPECプラス産油国閣僚級会合における、2022年8月の前月比日量64.8万バレルの減産措置縮小決定は、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際にも示唆されていたものでもあったことから、今回の閣僚級会合開催を前にして石油市場では概ね織り込み済となっていたこともあり、閣僚級会合終了直後である6月30日朝(米国東部時間)の原油価格は概ね1バレル当たり109.30~109.60ドル、前日終値比同0.15~0.50ドル程度の下落で推移するなど、今回の閣僚級会合での決定の原油相場に対する影響は限定的なものとなった。

ただ、OPECプラス産油国閣僚級会合終了後、米国のバイデン大統領が、7月の中東諸国訪問の際、中東湾岸産油国に対し原油生産拡大を要請する旨表明した(但しサウジアラビア対し原油生産拡大を直接要請するのではなく、湾岸協力会議(GCC: Gulf Corporation Council)の場で中東湾岸諸国全体に対し要請する意向である旨発言した)ことにより、これら産油国による原油生産拡大と石油需給緩和期待が市場で醸成されたことに加え、6月30日に米国商務省から発表された5月の同国実質個人支出が前月比で0.4%の減少と市場の事前予想(0.3%の減少)を上回ったことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり105.76ドルと前日終値比で同4.02ドル下落した。

 

2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2022年4月の米国ガソリン需要(確定値)は日量875万バレル、前年同月比で0.4%程度の減少と、3月の同886万バレル(前年同月比3.3%程度の増加)から需要量が減少したうえ前年同月比でも減少に転じた(図4参照)。また、当該需要は速報値(前年同月比0.0%程度増加の日量879万バレル)から若干ながら下方修正されている。3月31日には37,777人であった同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は、4月30日には22,236人へと減少するなど、当該感染は概ね抑制された水準にとどまる中、気温が上昇してきたことが個人の外出を促す方向で作用したと見られるものの、EIAによる4月の週間全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり4.1~4.2ドル程度と、米国の消費者が不満を持ち始める価格水準である同3ドルを大幅に上回ったままであったことに加え、4月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比で8.3%の上昇と3月(同8.5%の上昇)からは若干上昇率が低下したものの依然高止まる傾向が見られるなどしたことが、消費者のガソリンを含めた財の購買活動に影響を及ぼしたものと見られることから、4月の同国推定自動車運転距離数は1日当たり88億マイルと3月の同90億マイルから減少するとともに、ガソリン需要を抑制する格好となったものと見られる。なお、2022年4月の同国ガソリン需要は2019年4月の当該需要(日量941万バレル)(確定値)を7.0%程度下回っている。他方、2022年6月の同国ガソリン需要(速報値)は推定日量899万バレル、前年同月比で3.0%程度の減少となっており、5月の同需要である同894万バレルとほぼ同水準ではあったものの、前年同月比の減少率(2.2%程度の減少)から下振れしている。米国では、5月28~30日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月30日)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入するとともに、5月31日には182,368人であった同国の1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数は6月30日時点でも127,718人と当該感染水準は比較的安定していたこともあり、2020~21年の夏場には抑制されていた個人の外出が2022年の夏場には反動で活発化すると予想された(戦没将兵追悼記念日に伴う連休時に50マイル以上自動車で外出する人口は3,490万人、前年実績比で4.5%程度増加するものと見込まれる旨5月17日に米国自動車協会(AAA: American Automobile Association)が明らかにしていた)。しかしながら、EIAが発表した6月13日時点の週間全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり5.107ドルと、1993年4月以降の週間全米平均ガソリン小売価格統計史上最高水準に到達したことを含め、物価が上昇した(7月13日に米国労働省から発表された6月の同国CPIは前年同月比で9.1%の上昇と1981年11月(この時は同9.6%)以来の高水準となった)ことが、米国での個人の外出とガソリン消費に負の影響を与えたものと考えられる(因みに2022年6月の米国推定自動車運転距離数は1日当たり93億マイル、前年同月比で同2.4%程度の減少と、5月の0.7%程度の減少、及び4月の同1.5%の増加から増減率が下振れしている)。なお、2022年6月の米国ガソリン需要は2019年同月(日量970万バレル)(確定値)を7.3%程度下回っている。他方、米国では、5月28~30日の戦没将兵追悼記念日に伴う連休を以て突入する夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に向けガソリン価格が原油価格以上に上昇した結果、製油所でのガソリン製造を巡る利幅が拡大傾向となったこともあり、同国の製油所は原油精製処理量を増加させる(図5参照)とともに、ガソリンの製造活動も活発化したと見られる(ガソリン最終製品生産量は図6参照)ものの、ガソリン小売価格の高騰が需要を抑制する格好となったことにより、かえって6月上旬から7月上旬にかけ米国のガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を上回る量となっている(図7参照)。

図4 米国ガソリン需要の伸び(2006~22年)

図5 米国の原油精製処理量(2009~22年)

図6 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~22年)

図7 米国ガソリン在庫推移(2003~22年)

2022年4月の同国留出油需要(確定値)は日量381万バレルと前年同月比で4.5%程度減少し、3月の日量416万バレルから需要量が減少した他、前年同月比増減率も3月の同3.2%程度の増加から減少に転じた。ただ、3月の当該需要速報値である日量377万バレル(同5.4%程度の減少)からは若干ながら上方修正されている(図8参照)。同月の同国CPIが前年同月比で8.3%の上昇と、3月の同8.5%の上昇には及ばなかったものの、それに近い上昇率となったこともあり、4月の実質個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)が前年同月比で1.9%程度の伸びと3月の同2.3%程度の増加から増加率が縮小するなどしたことにより、個人の財の購買力の伸びが鈍化しつつある旨示唆された他、EIAから発表された4月の週間全米平均軽油小売価格が恒常的に1ガロン当たり5ドルを超過したこともあり、同月の物流活動が前年同月比で1.7%の増加と3月の同3.6%の増加から伸びが低減したことが、4月の同国留出油需要に影響したものと考えられる。なお、2022年4月の米国留出油需要は2019年4月の当該需要(日量412万バレル)(確定値)を7.6%程度下回っている。他方、2022年6月の留出油需要(速報値)は推定日量382万バレルと前年同月比で3.1%程度の減少となり、5月の当該需要(速報値)である日量383万バレル、前年同月比1.2%程度の減少と比較し、需要量が減少した他前年同月比での減少率も拡大した。EIAから発表された6月の週間全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり5.7~5.8ドル程度と1994年3月以降の週間全米平均軽油小売価格統計史上最高水準に到達したことにより、同月の米国輸送担当者指数(LMI: Logistics Manager Index、50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が65.0と5月の67.1から低下したこともあり、物流活動が不活発になりつつあることが、6月の同国の留出油需要に影響しているものと考えられる。なお、2022年6月の米国留出油需要は2019年同月(日量399万バレル)(確定値)を4.3%程度下回っている。そしてこのように、米国の留出油需要はもたつき気味であった反面、2月24日以降のロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う欧州諸国の対ロシア制裁の一環としてロシア産原油及び石油製品購入の段階的禁止決定(6月3日欧州委員会(EC)発表)もあり、欧州を中心とする大西洋圏での留出油需給引き締まり懸念が市場で強まったことにより、軽油価格が原油価格以上に上昇するとともに留出油製造を巡る利幅が拡大したことから、製油所での留出油生産が活発化したこと(図9参照)により、かえって6月上旬から7月上旬にかけ米国の留出油在庫は増加傾向となったが、平年幅下限付近に位置する量となっている(図10参照)。

図8 米国留出油需要の伸び(2006~22年)

図9 米国の留出油生産量(2009~22年)

図10 米国留出油在庫推移(2003~22年)

2022年4月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で2.6%程度増加の日量1,996万バレルとなり(図11参照)、3月の同2,051万バレル(前年同月比6.8%程度の増加)から需要量及び前年同月比での増加率が縮小した。ガソリン及び留出油の需要が前月に比べ減速気味となっていることが、4月の同国石油需要に反映されているものと考えられる。ただ、プロパン/プロピレン及びその他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたことにより、同国石油需要全体も速報値(前年同月比1.0%程度減少の日量1,927万バレル)から確定値に移行する段階で上方修正されている。その他の石油製品は特にエタンの需要が堅調であるように見受けられるが、プロパン/プロピレンと併せ、米国では石油価格が上昇したことにより、相対的に製造利幅が確保できるエタン及びプロパン/プロピレンを天然ガスから抽出して販売する動きが活発化しているものと見られることが、それら製品需要が堅調であった(そして速報値から確定値に移行する段階で上方修正された)背景にあるものと考えられる。なお、2022年4月の米国石油需要は、2019年4月の当該需要(日量2,033万バレル)(確定値)を1.9%程度下回っている。他方、2022年6月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,002万バレルと前年同月比で2.5%程度の減少となった。石油製品を含めた物価上昇によりプロパン/プロピレン、ガソリン、留出油及びその他の石油製品等幅広く石油需要が前年同月比で減少となったことが同国石油製品全体の需要減少に影響しているものと考えられる。なお、2022年6月の米国石油需要は、2019年6月の当該需要(日量2,065万バレル)(確定値)を3.1%程度下回っている。また、ガソリン等を中心とする石油製品需給の引き締まり感が市場で意識されたこともあり、米国国内製油所での原油精製処理活動が堅調に行われたことから、同国原油在庫が前週比で減少する場面が見られたものの、米国の戦略石油備蓄(SPR)から原油が供給された(6月17日の週から7月8日の週にかけ1週当たり584~695万バレルの原油が供給された)こともあり、6月上旬から7月上旬にかけ原油在庫は総じて増加傾向となり、平年幅上限を上回る状態は継続している(図12参照)。そして、留出油在庫が平年幅下限付近に位置する量となっているものの、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図13及び14参照)。

図11 米国石油需要の伸び(2006~22年)

図12 米国原油在庫推移(2003~22年)

図13 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~22年)

図14 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~22年)

2022年6月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、米国では増加となった他、欧州では、2月24日以降のロシアのウクライナに対する事実上の侵攻実施に伴うロシア産原油供給減少による欧州石油需給引き締まりに対する市場の懸念増大から、欧州の代表的原油指標であるブレントの価格が米国の代表的指標原油であるWTIの価格をしばしば相当程度上回る場面が見られたことにより、かえって欧州の原油輸入が促進されたこともあり、原油在庫は微増となった。他方、日本でも、7月の夏場のガソリンを中心とする石油需要期突入を控え、一部製油所で実施されていたメンテナンス作業の終了が視野に入るとともに、製油所で処理するための原油の輸入が活発化しつつあるものと見受けられることもあり、在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図15参照)。石油製品については、欧州では、重油を中心として在庫は減少した(ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う天然ガス供給減少及び天然ガス価格上昇から発電所の燃料が天然ガスから重油に転換しつつあることが影響している可能性がある)他、日本においては、5月31日に21,804人であった1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が6月30日においても23,325人と比較的低位で安定していた(因みに2月5日には102,275人であった)こともあり、個人の外出が促される格好となったことに加え、2022年の梅雨の時期においても降雨量が総じて少なかったうえ、関東地方等では6月27日に梅雨明けしたと見られる旨発表されたこともあり、個人の外出が一層活発化したと見られることにより、ガソリン需要が堅調に推移したことから、ガソリンを中心として石油製品在庫は減少した。しかしながら、米国では、留出油の在庫が増加したことに加え、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴い当該製品在庫が増加したり、冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要減少によりその他の石油製品在庫等が増加したりしたこともあり、同国の石油製品在庫が増加となった。このため、欧州及び日本での石油製品在庫減少が米国での石油製品在庫増加で相殺されて余りあったことにより、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となったものの、平年幅下方付近に位置する量となっている(図16参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となっている一方、石油製品在庫が平年幅下方付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上方付近に位置する量となっている(図17参照)。なお、2022年6月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.3日と5月末の推定在庫日数(58.9日)から増加している。

図15 OECD諸国原油在庫推移(2006~22年)

図16 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~22年)

図17 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~22年)

6月15日に1,500万バレル台後半程度の水準であったシンガポールのガソリンを含む軽質留分在庫は、6月22日及び29日には1,500万バレル台前半程度の量へと減少したものの、7月6日には1,600万バレル台後半程度の水準へと上昇した。ただ7月13日には1,500万バレル台前半程度の量となっており、6月中旬から7月中旬にかけ、当該在庫は減少傾向となった。中国では、2022年第一回の石油製品輸出枠(内訳はガソリン、ジェット燃料及び軽油が合計で1,300万トン、低硫黄重油が650万トンとなっており、ガソリン、ジェット燃料及び軽油輸出枠は2021年第一回の同輸出枠(2,950万トン)の44%程度にとどまった一方、低硫黄重油輸出枠は前年第一回の同輸出枠(500万トン)の1.3倍となった)の残量が減少しつつある中、石油製品補助輸出枠(ガソリン、ジェット燃料及び軽油で合計450万トン)が付与された(当該輸出枠付与は同国一部都市での新型コロナウイルス感染抑制のための封鎖措置実施に伴う石油需要低迷と在庫の積み上がりを緩和するためのものであったと指摘する向きもある)旨6月7日に伝えられる(なお、別途低硫黄重油輸出枠も付与されたと6月7日に伝えられる(推定325万トンが付与されたものと見られる))ものの、新たな輸出枠付与に伴う中国からの輸出増加がシンガポールでの輸入増加となって現れるまでに時間を要したと見られることから、その間中国からシンガポール方面へのガソリン輸出が低調となったこともあり、シンガポールの軽質留分輸入が低水準になった(なお、7月6日には、中国は、ガソリン、軽油及びジェット燃料等の石油製品輸出枠500万トン、低硫黄重油輸出枠250万トンを、それぞれ追加で付与した旨7月7日に報じられる)。他方、ガソリン価格高騰が東南アジア等の消費国でのガソリン需要を抑制したものと見る向きはあるものの、シンガポールからこれら地域向けガソリン輸出は総じて安定的に推移したことから、シンガポールでの軽質留分在庫は減少傾向となったものと考えられる。また、7月4日の米国独立記念日(インディペンデンス・デー)の休日に伴う休暇シーズン(6月30日~7月4日)に、自宅から50マイル以上の遠距離旅行を行う人口が4,200万人と2021年(実績4,180万人)及び2019年(同4,150万人)を超過し、史上最高水準に到達すると予想する旨、6月21日に米国自動車協会(AAA)が発表したこともあり、全米平均ガソリン小売価格が高止まりしているにもかかわらず、米国では個人の外出の活発化に伴いガソリンを含む石油需要が根強いとの印象を市場に与え続けたこともあり、シンガポールから米国等へのガソリン輸出が活発化する結果、シンガポールを含むアジア地域でのガソリン需給が引き締まるとの観測が市場で増大したうえ、原油価格の下落にガソリン価格の下落が追い付かない場面が見られたことから、6月中旬から下旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した。しかしながら、その後は、ガソリン価格の高騰が米国等の消費国でのガソリン需要に影響を与え始めているとの見方が市場で広がり始めたことが、世界的にガソリン価格を抑制したうえ、原油価格の上昇にガソリン価格の上昇が追い付かない場面が見られたこともあり、6月下旬から7月中旬にかけては、ガソリンとドバイ原油との価格差は縮小する傾向を示した。

また、3月28日以降新型コロナウイルス感染抑制のために上海市で都市封鎖措置が実施されるなど、中国での経済活動が制限されたこともあり、同国等でのプラスチックを含む石油化学製品需要が不振であったことが、原料となるナフサ需要に負の影響を与えたと見られる他、夏場の空調向け電力供給のための発電部門での石油製品(軽油及び重油等)の需要増加に対応するために中東諸国の製油所の稼働が上昇するとともに、活発化した軽油等の石油製品生産に併せて生産されたナフサが当該製品の需要中心地であるアジアに向け輸出されたことが、アジア市場でのナフサ需給を緩和する形で作用したうえ、冬場の暖房シーズン終了とともに暖房向けに利用されていた液化石油ガス(LPG)の需要が減少するとともに当該製品価格が下落したことにより、石油化学部門における原料としてナフサとLPGとが競合するようになったことが、アジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えた。ただ、6月の下旬前半頃及び7月上旬後半頃以降はドバイ原油価格の下落にナフサ価格の下落が追い付かなかったことから、ナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向が見られた。反面、6月下旬後半頃から7月上旬前半頃にかけては、前述の通りナフサ価格に下方圧力が加わったうえ、ドバイ原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かなかったことから、ナフサとドバイ原油の価格差は拡大する傾向を示した。そして、このようにアジア市場でのナフサとドバイ原油との価格差は拡大したり縮小したりしたものの、ナフサ価格はドバイ価格を相当程度下回る状態を維持した。

6月15日には800万バレル弱程度の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、6月22日には800万バレル台半ば程度の量へと増加した。しかしながら、6月29日には800万バレル弱程度、7月6日には700万バレル台後半、そして7月13日には700万バレル台半ば程度の、それぞれ水準へと低下するなど、当該在庫は総じて減少傾向となった。海上輸送を通じロシアから供給される原油につき6ヶ月間程度、及び石油製品につき8ヶ月間程度で、段階的に購入を禁止する措置につき旨欧州連合(EU)特別欧州理事会(首脳会議)において加盟国が合意したと5月30日夜(現地時間)に明らかになった後、6月3日には、前述の措置を含む第6次対ロシア制裁の事実上の発動(採択)を欧州委員会(EC)が発表した(同日発効)ことにより、欧州での石油製品消費の中心である留出油の需給引き締まり懸念が市場で強まったこともあり、欧州のみならず欧州へ留出油を輸出しているアジアにおいても、5月末頃から6月下旬前半頃にかけ製油所での軽油製造を巡る利幅が拡大したことにより、製油所での軽油の生産活動が活発化したと見られることから、生産された軽油の一部がシンガポールに流入したことが、シンガポールでの中間留分在庫を下支えしたものと考えられるが、他方、5月16日には67,455人であったオーストラリアの1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が6月30日には同33,746人へと減少したこともあり、経済活動とともに軽油需要が回復したと見られることにより、同国に向けたシンガポールからの軽油輸出が増加したことから、シンガポールの中間留分在庫は減少傾向となったものと考えられる。そして、前述の通り5月末頃から6月下旬前半頃にかけては、欧州を中心として留出油需給の引き締まり懸念が市場で強まったことから、アジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向となった。しかしながら、それ以降は、軽油価格高騰等に伴う世界経済減速観測が市場で強まったことがアジア市場での軽油価格に下方圧力を加えたことから、軽油とドバイ原油との価格差は7月中旬にかけ縮小傾向となった。

6月15日に2,000万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、6月22日には2,100万バレル台前半の量へと増加した。6月29日には当該在庫は2,000万バレル台後半の水準へと低下したものの、7月6日には2,100万バレル台半ば程度の量へと回復した。7月13日には2,000万バレル台後半程度の水準へと低下したものの、当該在庫は総じて増加傾向となっている。2月24日のロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施以降、西側諸国による制裁等の影響で、西側諸国等により引き取られなくなった重油が、5月を中心としてシンガポールに流入したものの、その結果欧州での重油在庫が減少したことにより、欧州での重油価格が相対的に堅調となったこともあり、中東、アフリカ諸国、及び米国等から欧州への重油の流入が活発化した反面、これら諸国からシンガポール方面への重油の流れが低調となった(因みにロシア産重油は中東及びアフリカ諸国に向かった)ことが、シンガポールでの重油在庫を抑制する形で作用したものの、原油価格上昇が重油価格に上方圧力を加えた結果、高水準となった価格に対しアジア諸国が重油購入を敬遠する動きが発生したと見受けられることが、シンガポールでの重油在庫を増加させる格好となったものと考えられる。そして6月下旬前半頃には原油価格の下落に高硫黄重油価格の下落が追い付かなかったことから、アジア市場での高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する場面が見られたものの、6月下旬後半から7月中旬にかけては、価格が高水準である高硫黄重油に対し市場関係者が購入を敬遠する動きが発生したうえ、原油価格の上昇に高硫黄重油価格の上昇が追い付かない場面が見られたこともあり、アジア市場での高硫黄重油とドバイ原油との価格差は拡大する傾向が見られた。他方、低硫黄重油については、混合基材となる軽油留分が製造利幅をより確保しやすい留出油の生産のために使用された結果、混合基材となる軽油留分の低硫黄重油製造向け利用可能性が低下したことにより、低硫黄重油供給減少懸念とともに当該製品需給の引き締まり感が市場で醸成されたことから、6月下旬から7月上旬前半頃にかけては、アジア市場での低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は概して拡大する傾向を示した。しかしながら、7月上旬後半頃以降は、世界経済減速懸念が市場で広がるとともに低硫黄重油の購入を敬遠する動きが市場で発生したことが、低硫黄重油価格に下方圧力を加えた結果、アジア市場での低硫黄重油とドバイ原油価格との価格差は縮小する傾向が見られた。

 

3. 2022年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場等の状況

2022年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場では、6月22日に行われた米国連邦議会上院銀行委員会等において、FRBのパウエル議長が、物価上昇抑制のための政策金利引き上げに対する確固たる姿勢を示唆したこと、6月30日に、米国のバイデン大統領が、7月の中東諸国訪問の際、中東湾岸産油国に対し原油生産拡大を要請する旨表明したこと、中国の上海市で新型コロナウイルス感染が拡大する兆候が見られたこと、7月13日に米国労働省から発表される予定である6月の同国CPIが極めて高い水準となるとの見解をジャンピエール大統領報道官が7月11日に発言したこと等による、世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念、OPECプラス産油国からの増産加速期待、及び米ドルの上昇が、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は下落傾向となり、7月14日にはWTIで1バレル当たり95.78ドルの終値と、4月11日以来の低水準の終値に到達する場面も見られた(図18参照)。

図18 原油価格の推移(2003~22年)

6月20日は米国奴隷解放記念日の休日に伴い米国原油先物価格の終値は計上されなかったが、6月17日の原油価格の大幅下落に対し、値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、新型コロナウイルス感染拡大時以降の投資不足により、世界石油需給はさらに3~5年程度引き締まったままとなるかもしれない旨6月21日にエクソンモービルのウッズ最高経営責任者(CEO)が発言したことにより、高水準の原油価格継続観測が市場で増大したことから、6月21日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.09ドル上昇し、終値は110.65ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2022年7月渡し原油先物契約は取引を終了したが、8月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり109.52ドル(前週末終値比1.53ドルの上昇)であった)。しかしながら、6月22日には、この日実施された米国連邦議会上院銀行委員会における同国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の証言で、パウエル氏が、消費支出は底堅く、景気後退の可能性が増大している様には見えない一方、物価上昇減速の兆候が見られないため、物価上昇を抑制すべく政策金利を引き上げる意向であるが、過去数ヶ月の間に経済を軟着陸させることがより困難になりつつある旨示唆したことにより、米国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり106.19ドルと前日終値比で4.46ドル下落した。6月23日には、この日行われた米国連邦議会下院銀行サービス委員会でのパウエルFRB議長の証言で、パウエル氏がFRBは高水準の物価上昇抑制を無条件に約束する旨表明したことにより、この先の政策金利の大幅引き上げを含めた積極的な金融引き締め策の実施に対する観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.92ドル下落し、終値は104.27ドルとなった。この結果原油価格は6月22~23日の2日間で1バレル当たり合計6.38ドル下落した。ただ、6月24日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、6月24日に発表された6月のミシガン大学消費者信頼感指数(確定値)において、1年先の物価上昇率予想が5.3%、5年先の物価上昇率予想が3.1%と、6月10日に発表された同指数(速報値)における、1年先の物価上昇率予想(5.4%)及び5年先の同予想(3.3%)から予想物価上昇率が低下したことにより、米国金融当局による政策金利の大幅引き上げ等に伴う米国経済成長減速懸念が市場で後退した(6月14~15日に開催されたFOMCにおける0.75%の政策金利引き上げ決定の際、パウエルFRB議長が、ミシガン大学消費者信頼感指数における物価上昇予想が一因となった旨6月15日に明らかにしていた)こともあり、米国株式相場が上昇するとともに、投資家のリスク許容度が拡大したことにより米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.35ドル上昇し、終値は107.62ドルとなった。

また、6月13日に開始した住民による燃料及び食料価格引き下げ等のための反政府抗議活動に伴う油田及び道路封鎖により、エクアドルの原油生産量(5月時点で日量48万バレル程度)が半分未満になった他、今後48時間以内に同国の原油生産が完全に停止する可能性がある旨6月26日に同国エネルギー省が警告したことに加え、72時間以内にリビアのシルテ(Sirte)湾沿岸にある石油ターミナル(エス・シデル(Es Cider)(石油出荷能力日量32万バレル)、ラス・ラヌフ(Ras Lanuf)(同22万バレル)及びズエイティナ(Zueitina)(同7万バレル))からの原油の出荷に対し不可抗力条項の適用を宣言するかもしれない旨リビア国営石油会社NOCが6月27日に発表した(同国の原油生産は日量10~20万バレルにまで低下した旨6月13日に同国のオウン石油ガス相が明らかにしたものの、同国の一部油田での生産再開により原油生産量は日量70~80万バレルに回復していた旨6月20日にオウン石油ガス相が明らかにしたと伝えられていた)こと、6月26日から開催されていた主要7ヶ国政府(G7)首脳会議において、ロシアから輸出される石油に対し価格上限を設定することを検討している旨6月27日に報じられたことにより、欧州等向けロシア産石油供給が減少するかもしれないとの懸念が市場で発生したことから、6月27日の原油価格の終値は1バレル当たり109.57ドルと前週末終値比で1.95ドル上昇した。6月28日も、ロシア産石油の購入価格に上限を設定する方策につき検討する旨G7首脳会議で合意したことにより、ロシアからの石油供給が削減されることにより欧州等での石油需給が引き締まる恐れがあるとの懸念が市場で増大したことに加え、6月28日に中国国家衛生健康委員会が、海外からの渡航者に対する集中隔離期間を従来の14日間から7日間に、自宅隔離期間を7日間から3日間に、それぞれ短縮する旨発表した他、6月27日時点の同国上海市及び北京市での1日当たり新型コロナウイルス新規感染者数が2月19日以降で初めて発生しなかったことにより、同国の経済成長及び石油需要の伸びの回復に対する期待が市場で増大したことから、この日(6月28日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.19ドル上昇し、終値は111.76ドルとなった。この結果原油価格は6月24~28日の3取引日で1バレル当たり合計7.49ドル上昇した。しかしながら、6月29日には、この日EIAから発表された米国石油統計(6月24日の週分)で、ガソリン在庫が前週比で263万バレル、留出油(軽油及び暖房油)在庫が同256万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫同80万バレル程度の減少、留出油在庫同20万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したことにより、米国ガソリン及び留出油先物価格が下落したことに加え、米国経済を減速させ過ぎるよりも、物価が上昇し過ぎることの方が、より大きな問題となるであろう旨FRBのパウエル議長が6月29日に発言したことにより、米国金融当局による積極的な金融引き締め政策の推進が継続されるとの観測が市場で増大したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.98ドル下落し、終値は109.78ドルとなった。6月30日も、この日米国のバイデン大統領が、7月の中東諸国訪問の際、中東湾岸産油国に対し原油生産拡大を要請する意向である旨表明した(但しサウジアラビア対し原油生産拡大を直接要請するのではなく、GCC加盟国との会議の場で中東湾岸諸国全体に対し要請する意向である旨明らかにした)ことにより、これら産油国による原油生産拡大と石油需給緩和期待が市場で醸成されたことに加え、6月30日に米国商務省から発表された5月の同国実質個人支出が前月比で0.4%の減少と市場の事前予想(0.3%の減少)を減少幅で上回ったことから米国経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこともあり、この日の原油価格の終値は1バレル当たり105.76ドルと前日終値比で4.02ドル下落した。この結果原油価格は6月29~30日の2日間で1バレル当たり合計6.00ドルの下落となった。ただ、7月1日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、2022年6月のナイジェリアの原油生産量が前月比で日量8万バレル減少したこともあり、OPECプラス産油国減産措置に参加するOPEC産油国の同月の原油生産量が前月比日量2万バレルの増加と、OPECプラス産油国閣僚級会合で決定された減産措置縮小規模(同27.5万バレル)を大きく下回った他、6月のリビアの原油生産量が前月比で日量17万バレル減少したこともあり、同月のOPEC産油国原油生産量が前月比で日量10万バレル減少している旨7月1日にロイター通信が報じたことにより、世界石油供給の伸び悩みを市場が意識したこと、給与引き上げを要求するノルウェー油・ガス田での作業に従事する一部労働者により7月5日から実施が予定されているストライキに伴い同国の原油生産量全体の6.5%程度を占める日量13万バレルの原油が生産を停止する可能性がある旨7月1日にロイター通信が伝えたことにより、世界石油需給引き締まり感が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり108.43ドルと前日終値比で2.67ドル上昇した。

7月4日は、米国独立記念日(インディペンデンス・デー)に伴う休日により、同国原油先物契約の終値は計上されなかったが、景気が後退するようであれば、原油価格は2022年末に1バレル当たり65ドル、2023年末までに同45ドルにまで下落する可能性がある旨、米国大手金融機関シティグループが7月5日付の報告書で明らかにしたことにより、原油価格の先安感が7月5日の市場で醸成されたことに加え、過去2日間で新型コロナウイルス感染者が市内で複数人確認されたことにより、中国の上海市が7月5~7日に同市16区中の9区全域、及び3区の一部地域に対し新型コロナウイルス感染の大規模検査を実施する旨同市当局が7月5日に明らかにしたことにより、上海市で新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖が再び実施される結果、経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化するのではないかとの懸念が市場で増大したこと、7月5日に国際金融サービス会社S&Pグローバルから発表された6月のユーロ圏総合購買担当者指数(PMI)(改定値)が52.0と5月の54.8から低下し、2021年2月(この時は48.8)以来の低水準となったことにより、ユーロ圏での政策金利引き上げ期待が市場で後退したこともあり、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、7月5日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり8.93ドル下落し終値は99.50ドルとなった。7月6日も、景気が後退するようであれば原油価格は下落する可能性がある旨シティグループが明らかにしたことにより原油価格の先安感が市場で醸成された流れを引き継いだことに加え、ノルウェー政府の介入に伴い同国の油・ガス田での作業に従事する労働者によるストライキの中止が決定した旨7月5日午後遅く(米国東部時間)に報じられたことにより、同国からの石油供給減少懸念が市場で後退したこと、中国の上海市での新型コロナウイルス集団感染発生を含め、同国各地で新型コロナウイルス感染拡大が示唆される旨7月6日に報じられたことにより、新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖措置等に伴う同国経済成長及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、7月5日にS&Pグローバルから発表された6月のユーロ圏総合PMIが5月から低下し、2021年2月以来の低水準となったこともあり、ユーロ圏での政策金利引き上げ期待が市場で後退した流れを引き継いで、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり98.53ドルと前日終値比で0.97ドル下落した。この結果原油価格は7月5~6日の2日間で1バレル当たり合計9.90ドルの下落となった。しかしながら、7月7日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、7月5日にロシアのノボロシイスクにあるプリモスルキー(Primorsky)地方裁判所が、原油漏洩防止措置違反によりカザフスタン産原油を主に取り扱うカスピ海パイプラインコンソーシアム(CPC:Caspian Pipeline Consortium)の黒海沿岸石油ターミナル(原油出荷能力日量140万バレル程度、6月15日に過去の戦争時に敷設された機雷除去のため、3基の係留装置中2基の操業が停止したものの、7月1~5日に操業を再開するとされていた)に対し30日間の操業停止(但しどの時点から30日間なのかは不明)を命令した旨7月5日夕方(米国東部時間)に報じられたことにより、カザフスタン産原油供給減少懸念が市場で増大した流れを7月6日の市場が引き継いだこと、景気を刺激するためのインフラ投資加速を主な目的として、2022年7~12月における地方政府に対する1.5兆元(約30兆円)規模の特別債発行許可を中国財務省が検討している旨7月7日に報じられたことにより、同国経済成長と石油需要の伸びの回復期待が市場で増大したこと、7月7日にEIAから発表された米国石油統計(7月1日の週分)で、米国石油需要が日量2,046万バレルと前週比で増加している旨判明したことで、石油製品価格高騰にもかかわらず同国石油需要が根強いとの認識が市場で増大したこと、7月26~27日に開催される予定である次回FOMCにおいては0.75%の政策金利引き上げが実施される可能性があるものの、9月20~21日に開催される予定である次々回FOMCでは0.50%の政策金利引き上げを支持することになろう旨7月7日にFRBのウォラー理事が明らかにしたことにより、米国での大幅物価上昇が峠に接近しつつある旨示唆されていると市場で受け取られたこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり102.73ドルと前日終値比で4.20ドル上昇した。7月8日も、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生した流れを引き継いだことに加え、7月8日に米国労働省から発表された6月の同国非農業部門雇用者数が、前月比で37.2万人の増加と市場の事前予想(同26.5~26.8万人の増加)を上回っていた旨判明したことにより、同国経済成長に伴う石油需要の伸びに対する楽観的な見方が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.06ドル上昇し、終値は104.79ドルとなった。この結果原油価格は7月7~8日の2日間で1バレル当たり合計6.26ドル上昇した。

ただ、7月8日に中国の上海市において新型コロナウイルス変異株BA.5.2.1の感染者が確認されるとともに、同市での新型コロナウイルス感染拡大のリスクが非常に高い旨7月10日に上海市衛生健康委員会の趙丹丹副主任が示唆した(また、上海市では7月10日に69人の新型コロナウイルス感染者を確認、この感染者数は5月20日(84人)以来の高水準であった)ことにより、同市で再び都市封鎖措置が実施されることに伴う、同国経済成長減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、7月5日にロシアのプリモスルキー地方裁判所がCPCの黒海沿岸石油ターミナルに対し操業停止を命令したことに対し、7月7日にカザフスタンのトカエフ大統領が控訴、ロシアのクラスノダール(Krasnodar)地方控訴裁判所が操業停止命令を取り消した(その代わり3,200ドルの罰金支払いを命令した)旨7月11日に報じられたことにより、カザフスタンからの原油供給が維持されるとともに、世界石油需給引き締まり懸念が市場で後退したことから、7月11日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.70ドル下落し、終値は104.09ドルとなった。7月12日も、中国の上海市等での新型コロナウイルス感染拡大に伴う都市封鎖実施による同国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、7月13日に米国労働省から発表される予定である6月の同国CPIが極めて高い水準となるとの見解を同国のジャンピエール大統領報道官が7月11日に示した旨同日夕方に報じられたことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり95.84ドルと前日終値比で8.25ドル下落した。この結果原油価格は7月11~12日の2日間で1バレル当たり合計で8.95ドルの下落となった。7月13日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり96.30ドルと前日終値比で0.46ドル上昇した。ただ、2022年のユーロ圏の経済成長率見通しを2.6%と5月16日時点の当該見通しであった2.7%から引き下げた旨7月14日に欧州連合(EU)欧州委員会(EC)が発表したうえ、イタリアのドラギ政権の経済政策への不満から連立政権に参加する五つ星運動が政権離脱の可能性を示唆したことにより、7月14日にドラギ首相が同国のマッタレッラ大統領に辞表を提出したことで、イタリア経済混乱に対する懸念が市場で増大したこともあり、ユーロが下落したうえ、7月14日に米国労働省から発表された6月の同国生産者物価指数(PPI)が前年同月比11.3%の上昇と5月の同10.9%の上昇から上振れした他、市場の事前予想(同10.7%程度の上昇)を上回ったことにより、米ドルが上昇したことに加え、7月14日朝(米国東部時間)に発表された米国大手金融機関JPモルガン及びモルガン・スタンレーの2022年4~6月期業績が市場の事前予想を下回ったうえ、7月14日に発表された米国PPIが市場の事前予想を上回ったことにより、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.52ドル下落し、終値は95.78ドルとなった。なお、この終値は、4月11日(この時の終値は同94.29ドル)以来の低水準のものであった。それでも、7月15日に予定された米国バイデン大統領のサウジアラビア訪問を以てしてもサウジアラビアが直ちに原油生産を拡大するとは考えておらず、8月3日に開催される予定の次回OPECプラス産油国閣僚級会合の結果に注目したい旨米国政府関係者が7月15日に明らかにしたと同日ロイター通信が報じたことにより、短期的なOPECプラス産油国の増産と石油需給緩和観測が市場で後退したことに加え、次回FOMCにおいては1.00%の政策金利引き上げは支持しない旨米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が7月15日に明らかにした他、7月15日にミシガン大学より発表された1年先期待物価上昇率が5.2%、5年先の期待物価上昇率が2.8%と、6月24日に発表された、それぞれ5.3%及び3.1%から期待物価上昇率が低下したことにより、米国金融当局による金融引き締めペース加速観測が市場で後退したこともあり、米ドルが下落したこと、7月15日朝(米国東部時間)に発表された米国大手金融機関シティグループの2022年4~6月期業績が市場の事前予想上回って良好であったこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり97.59ドルと前日終値比で1.81ドル上昇した。

 

4. 原油市場における主な注目点等

地政学的リスク要因面での原油市場における注目点は、まずロシアのウクライナへの事実上の侵攻を巡る情勢になろう。7月3日には、それまでウクライナ軍と戦闘状態にあったウクライナ東部ルガンスク州全域をロシアが掌握した旨発表、同日ウクライナのゼレンスキー大統領も同州からウクライナ軍が撤退したことを認めた。ロシア軍はその後ウクライナ東部ドネツク州等への攻勢を強めつつあると伝えられる。そのような中、ロシアのノボロシイスクにあるプリモスルキー(Primorsky)地方裁判所が、原油漏洩防止措置違反で、主にカザフスタン産原油を出荷しているカスピ海パイプラインコンソーシアム(CPC:Caspian Pipeline Consortium)の黒海沿岸石油ターミナル(原油出荷能力日量140万バレル程度、6月15日に過去の戦争時に敷設された機雷の除去のため、3基の係留装置中2基の操業が停止したものの、7月1~5日に操業を再開するとされていた)に対し30日間の操業停止を命令した旨7月5日夕方(米国東部時間)に報じられた(但し、どの時点から30日間なのかは不明であり、裁判所の命令後も同施設は稼働中である旨7月7日に報じられる)。ただ、この命令に対しカザフスタンのトカエフ大統領は控訴した旨7月7日に明らかにしており、ロシアのクラスノダール(Krasnodar)地方控訴裁判所が、出荷施設の操業停止命令を取り消した(その代わり3,200ドルの罰金支払いを命令した)旨7月11日に伝えられる。

他方、6月13日まで日量1.67億立方メートル(同推定59億立方フィート)であった、ロシアからドイツ等へ天然ガスを輸送するノルド・ストリーム1・パイプラインの天然ガス輸送量を最大日量1億立方メートル(同35億立方フィート)へと制限した旨ロシア国営ガス会社ガスプロムが6月14日に発表したうえ、6月16日からは輸送量を日量6,700万立方メートル(同24億立方フィート)へと削減する旨6月15日にガスプロムが発表した(カナダにおいてメンテナンス作業中である、当該パイプラインに用いられるドイツのシーメンス社製タービンが、カナダの対ロシア制裁(ロシア石油・天然ガス産業への支援の禁止)に抵触したとして、ロシアへの返送が困難になっていることが一因である旨ガスプロムは6月14日に主張している)他、6月15日にイタリア大手石油会社ENIが、ガスプロムからの天然ガス供給量が同日時点で15%削減されたうえ、6月16日にはガスプロムからの天然ガス供給量が要求した量の65%となった他、6月17日にはガスプロムから供給された天然ガスが要求した量の半分となった旨明らかにした。また、ノルド・ストリーム1パイプラインは7月11~21日に年次メンテナンス作業を実施する旨操業者(ノルド・ストリーム社)が6月13日に発表したが、6月23日には、ドイツのハーベック経済相が、メンテナンス作業終了後同パイプラインが輸送能力一杯の稼働状態に向け再開することにつき確信を持てない旨明らかにしている。このような供給面での要因により、欧州を中心として天然ガス価格は大幅に上昇した(6月8日に100万Btu当たり推定24.938ドルの終値であったオランダTTF天然ガス先物価格は7月15日には同46.764ドルの終値と約88%上昇した)。なお、7月9日には、カナダ連邦政府のウィルキンソン天然資源相が、一時的に制裁発動を停止し、タービンの返送を認める旨発表したものの、7月14日にロシア外務省のザハロワ報道官は、この先のノルド・ストリーム1の操業に関する取り扱いについては欧州の天然ガス需要及び西側諸国等による対ロシア制裁に依存する旨明らかにしている。

このように、2月24日以降のロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施を巡る西側諸国等とロシアとの対立、そして、そのエネルギー供給への影響を巡る不透明感は低減する兆候が見えない状態となっており、この先もウクライナへの支援や対ロシア制裁等を含む西側諸国等の動向及びそのような動きに対するロシアの行動如何では、エネルギー供給の制限による石油需給引き締まり(ロシアからの天然ガス供給が低下することにより石油への燃料転換が発生することを通じた石油需要増加を含む)懸念が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。

イラン核合意正常化を巡る米国とイランとの間での間接協議は6月28~29日にカタールのドーハで開催されたが、有意な成果もなく終了した(イランが核合意正常化とは直接関係のない条件の受け入れを米国に要求しているとして7月5日に米国国務省のイラン担当特使であるマリー氏が明らかにしたが、イランは米国に対し核合意正常化に関連した内容以外の要求は行っていない旨7月6日にイランのアブドラヒアン外相が反論している)。なお、米国とイランとのさらなる協議は足元予定されていない旨7月5日に米国国務省のプライス報道官が明らかにしている。そのような中、7月6日には、米国財務省が、イランで生産及び製造された石油及び石油化学製品の中国等国外への販売を支援したとして、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)及び香港等の企業及び個人に対し、米国国内資産凍結及び米国人等との取引禁止を内容とする制裁を発動した。他方、イラン革命防衛隊によるミサイル発射演習等の実施に伴う立入禁止区域で土壌採取を行ったとして、テヘランに駐在する英国外交官等外国人複数人をスパイ容疑で拘束した旨7月6日にイラン革命防衛隊が発表した。また、イランは同国中部フォルドゥにある地下核開発施設において、最高20%の濃縮度の六フッ化ウラン製造のため新たな活動を開始した旨7月9日に国際原子力機関(IAEA)が明らかにした。さらに、ウクライナに対し事実上の侵攻を実施するロシアに対し無人攻撃機を供給すべくイランが準備中である旨の見解を7月11日に米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が明らかにしたが、7月12日にイラン外務省報道官はサリバン氏の指摘を否定しなかった。そして、米国のバイデン大統領は7月13日にイスラエルを訪問したが、その際バイデン大統領は、イランの核兵器保有を防止するための最終手段として武力を行使する可能性がある旨明らかにするとともに、7月14日にはイランの核兵器保有を決して認めない旨のイスラエルとの共同宣言に署名した。これに対し、7月13~14日にイランのライシ大統領はバイデン大統領のイスラエル訪問を批判した。さらに、7月15日に行われた米国バイデン大統領とサウジアラビアのサルマン国王及びムハンマド皇太子との会談で、米国とサウジアラビアは、イランの核兵器獲得を防止することの重要性を強調することで意見が一致した。他方、米国のバイデン大統領によるイラン核兵器保有防止方針の示唆に対し7月17日にイラン外務省は根拠のない主張や非難をイランに関して行っている(イランは従来から核兵器保有の意志を否定している)として反発する旨表明した。このように、イランの核合意正常化を巡るイランと西側諸国等との間の協議は、協議の場こそもたれたものの、周辺の状況を含め、順調に進展しているとは言い難い状況となっている他、最近では、イラン産石油等の輸出に関与した組織等に対する制裁を米国が発動していると思われる動きも見られるようになっており、イランとの間での核合意正常化を視野に入れた、(イラン核合意正常化妥結前の時点での)イラン石油供給拡大を黙認する姿勢を米国が必ずしも示されていない様に見受けられる(2020年11月3日に実施された米国大統領選挙直前の同年10月には日量196万バレルであったイラン原油生産量は2021年7月には同250万バレルへと増加したが、2022年4~6月は同251~257万バレルともたつき気味である)。このようなことから、短期的には、イランからの石油供給増加の可能性が低下するとともに、この面では市場関係者間での石油需給緩和観測は発生しにくく、従って原油相場を下支えする形で作用しやすいものと考えられる。

リビアでは、エス・シデル(Es Cider)(石油出荷能力日量32万バレル)及びラス・ラヌフ(Ras Lanuf)(同22万バレル)両石油ターミナルからの原油輸出に対し6月28日に同国国営石油会社NOCが不可抗力条項の適用を宣言した旨6月29日に伝えられたことを含め、複数の石油生産関連施設の操業に対し不可抗力条項の適用が宣言されたことから、6月の同国の原油生産量は日量63万バレルと2020年10月(この時は同45万バレル)以来の低水準となった。また、NOCのサナラ会長が、同国の原油生産データを明らかにしない旨の不満をオウン石油ガス相が表明した他、同国国民統一政府(GNU: Government of National Unity)(暫定政府)のドベイバ暫定首相も、NOC取締役の変更を望んでいる旨6月23日に報じられた(なお、サナラ会長は、しばしば報道機関を通じて無責任にドベイバ暫定首相等を批判したり、内閣等の指示の実施を拒否したりしたとして、7月14日にドベイバ暫定首相は名誉毀損等の理由でサナラ氏を告訴したとされる)。そして、7月12日にはドベイバ暫定首相が、元リビア中央銀行総裁(2006~11年)であるベングダラ(Bengdara)氏をNOCの新会長に指名した旨発表、7月14日にはベングダラ氏は政府軍とともにNOC本部に突入するとともに、サナラ氏は退去した。ベングダラ新会長は1週間以内に同国の原油生産量を今般の一連の石油生産関連施設に対する不可抗力条項適用宣言前の水準である日量120万バレルに回復させる意向である旨表明したと7月15日に伝えられた後、石油生産関連施設を封鎖していた抗議活動実施者との間で合意に到達したことにより、NOCが宣言していた不可抗力条項適用を解除するとともに全ての油田の生産及び原油輸出を再開した旨7月15日に報じられた。ただ、7月15日に在リビア米国大使館は、今回のNOC会長交代を巡る動きに対し「深い懸念」を表明している。このように、リビアの政治情勢とともに原油生産状況については不透明かつ不安定な状態となっているものと見受けられることから、今後の展開次第では再び石油供給が減少する等事態が発生する可能性も排除しきれず、それによって、OPECプラス産油国による減産措置の縮小(つまり、事実上の増産)方針にもかかわらず、OPECプラス産油国全体の原油生産が伸び悩む結果、石油需給引き締まり感が市場で醸成されることを通じ、原油相場に圧力が加わるといった展開となることも否定できないため、今後の同国情勢については、注意する必要があろう。

経済面では、新型コロナウイルス感染に伴う一部諸国もしくは地域の個人の外出規制及び経済活動制限を巡る状況が原油相場に影響を及ぼすものと考えられる。中国の上海市では6月1日を以て新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖措置を解除したものの、過去2日間で新型コロナウイルス感染者が市内で複数人確認されたことにより、上海市は7月5~7日に同市16区中の9区全域、及び別途3区の一部地域において大規模検査を実施する旨同市当局が7月5日明らかにしたうえ、上海市で新型コロナウイルス集団感染が発生したことを含め、同国各地で新型コロナウイルス感染拡大が示唆される旨7月6日に報じられるなど、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、個人の外出規制及び経済活動制限が強化される可能性が高まっている。そして新型コロナウイルス感染抑制のための措置が強化された場合には、同国での経済成長が減速するとともに石油及び天然ガスを含めたエネルギー需要の伸びが鈍化するとの見方が市場で広がることにより、原油価格が抑制されるといった展開も想定される。併せて、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、2022年4月以降世界経済展望が顕著に悪化した他、2023年の世界経済が景気後退となる展開も排除出来ない旨明らかにしたと7月6日に報じられるなど、世界経済成長減速観測が市場で強まりつつある他、ガソリン及び軽油価格が高騰していることもあり、石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がりつつある影響が、原油相場に織り込まれることもありうる。

他方、7月13日に米国労働省から発表された6月の同国CPIの前年同月比での上昇率は9.1%と5月の同8.6%から拡大、1981年11月(この時は同9.6%)以来の大幅上昇率となった他、市場の事前予想(同8.8%)を上回った。加えて、7月14日に米国労働省から発表された6月の同国PPIの前年同月比での上昇率も11.3%と5月の同10.9%から上振れした他、市場の事前予想(同10.7%)を上回った。このため、CPIが発表された7月13日には、7月26~27日に開催される予定である次回FOMCにおいて1.00%の政策金利引き上げが決定される確率が80.3%(0.75%の引き上げ確率は19.7%)へと大幅に上昇した(因みに7月12日時点では1.00%の政策金利引き上げ確率は7.6%であった)。ただ、9月20~21日に開催される予定である次々回のFOMCでは0.50%の政策金利引き上げを支持することになろう旨7月7日にFRBのウォラー理事が明らかにしたうえ、次回FOMCにおいて、0.75%の政策金利引き上げを支持する旨ウォラー理事及び米国セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁(両氏とも金融引き締め推進派として知られる)が7月14日に明らかにした他、次回FOMCにおいて、1.00%の政策金利引き上げは支持しない旨米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が7月15日に明らかにした。また、7月15日に発表されたミシガン大学による1年先期待物価上昇率は5.2%、5年先の期待物価上昇率は2.8%と、6月24日に発表された同指標のそれぞれ5.3%及び3.1%から低下するなど、市場の物価上昇加速観測も後退している。このようなこともあり、7月15日時点においては、次回FOMCにおいて0.75%の政策金利引き上げが実施される確率が70.9%(残り29.1%は1.00%の政策金利引き上げ)と1.00%の政策金利引き上げ確率が相当程度低下している。しかしながら、今後次回のFOMC開催時までに発表される予定である、住宅部門を含む経済指標類の結果等に基づき、同国金融当局関係者の政策金利比上げ幅等への姿勢等が変化するとともに、そのような金融当局関係者の姿勢がFOMCで決定される金融政策に織り込まれる結果、米ドル及び原油相場が変動することもありうるので、今後発表される予定である米国経済指標類及び同国金融当局関係者による政策金利等の金融政策を巡る発言等には注意する必要があろう。

また、7月に入り米国主要企業等の2022年4~6月等の業績が発表され始めているが、それら企業の業績もしくは2022年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼすこともありうる。

米国では、9月5日の労働祭(レイバー・デー)に伴う連休(9月3~5日)まで、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が最終消費段階では継続する。しかしながら、製油所の段階では7月後半以降は秋場の石油不需要期が徐々に視野に入ってくることもあり、メンテナンス作業実施等に向け稼働を引き下げるとともに原油精製処理量を減少させ始める。それに従い原油の購入も不活発になってくるとともに、市場でも季節的な需給の緩和感が醸成され始める。このためこの面では、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと見られる。

また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入している(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の石油等生産関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が遮断されることを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2021年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量52万バレル程度の原油を輸入した)。5月24日に発表された米国海洋大気庁(NOAA)及び7月7日時点のコロラド州立大学の見通しによると、2022年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が予想されている(表2参照)。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2021年は当該地域で日量170万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体の約15%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動の中心地域である(2021年の当該地域の原油精製処理能力は日量817万バレルと米国原油精製処理能力全体の約47%を占めた)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。

表2 2022年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

OPECプラス産油国は8月3日に閣僚級会合を開催する予定である。これに先立ち、米国のバイデン大統領が7月15日にサウジアラビアのサルマン国王及びムハンマド皇太子と会談、両者は安定した世界エネルギー市場に対する確約を再確認し、今後定期的に世界エネルギー市場につき協議する旨合意したと7月16日に伝えられる。また、米国のバイデン大統領は、石油供給拡大が喫緊の課題である旨サウジアラビアも理解しており、サウジアラビアからの石油供給が一層拡大することを期待している旨7月15日に明らかにした。

ただ、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了する9月5日以降、冬場の暖房シーズンのための暖房用石油需要期(概ね11月1日以降)までは石油不需要期となることに伴い、石油需給の緩和感が市場で増大しやすくなることに加え、ロシアのウクライナに対する事実上の侵攻や中国での新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖措置を含む個人の外出規制及び経済活動制限の強化等により世界経済が減速する兆候が見られると指摘されることもあり、石油需要が下振れする(そして原油早晩下方圧力が加わりやすくなる)恐れがあるなど、世界石油需給バランスを巡る不透明感が強まりつつある中で、OPECプラス産油国が増産ペースを加速させるようだと、石油需給緩和感が市場で増幅される格好となる結果、原油相場に対する下方圧力が強まるとともに、原油価格が急落、その結果OPECプラス産油国の国家収入が減少するといった展開となる可能性もある。

さらに、2022年4~6月にサウジアラビアは西側諸国等による制裁発動により割安となったロシア産重油の購入を活発化させている(同時期の重油輸入は日量4.8万バレルと前年同期の同2.4万バレルから倍増している)旨7月14日に伝えられる(サウジアラビアは割安な重油をロシアから輸入し発電部門で利用する一方で、自国産原油の輸出を促進しているとされる)などしており、今後もOPECプラス産油国の重要な構成国であるロシアがサウジラビアに対し協力関係のさらなる緊密化に向け動く可能性もある。

このようなことから、サウジアラビアはエネルギー問題につき米国と協議する一方、OPECプラス産油国の重要な構成国であるロシアにも配慮しつつ、8月3日に開催される予定である次回OPECプラス産油国閣僚級会合開催時までの間の、世界経済情勢を反映した石油需要展望、ロシアを含む石油供給状況、原油価格といった要素等を考慮しながら、次回閣僚級会合で9月(もしくはそれ以降)の原油生産方針を決定するものと考えられる。

実際7月16日に米国とGCC加盟国との間で開催された拡大首脳会議は閉会に際し、エネルギー供給安全保障の確保を確約することを確認した旨の声明を発表したものの、同日サウジアラビアのファイサル外相は、当該会議では米国側から増産要請は行われなかった明らかにした(一方、米国や消費国とサウジアラビアとの間での(エネルギー問題に関する)協議は常時行われている旨付言した)。併せて、同外相は、消費国を含む世界中の関係者からの意見は聞き置くものの、最終的にはOPECプラス産油国としては、市場の状況に従い、必要に応じてエネルギーを供給する方針である旨表明している。

なお、サウジアラビア、UAE、クウェート、イラク及びロシアの5産油国を除くOPECプラス産油国減産措置参加国においては、2022年8月を以て、2021年7月18日に定められた今般実施中の減産措置の基準となる原油生産量概ねに到達、つまり最早さらなる減産措置の縮小余地はこの時点でほぼなくなる。このため、9月以降は減産措置縮小余地のある、もしくは短期的に利用可能な余剰生産能力を保有する産油国において、増産規模をどうするか、という議論に移行するなど、OPECプラス産油国における減産措置の縮小(あるいは増産)措置の実施メカニズムが変更される可能性がある。

また、余剰生産能力を保有するOPECプラス産油国減産措置参加産油国としては、サウジアラビア(6月時点で日量160万バレル)、UAE(同100万バレル)、クウェート(同10万バレル)、イラク(同40万バレル)、ナイジェリア(同40万バレル)で合計日量350万バレルが挙げられる他、OPECプラス産油国減産措置に参加していないものの余剰生産能力を保有するとされる産油国としてリビア(同60万バレル)が挙げられる(数値はIEAによる)。但し、このうち、イラクは、事実上の原油生産目標が4月の日量441万バレルから6月に日量451万バレルへと引き上げられたにもかかわらず、同時期同国の原油生産量は日量443~444万バレルの範囲で変動するなど伸び悩み気味である。加えて、イスラム教シーア派(但し親イランとそうではない勢力に分かれる)及び同スンニ派勢力等の間での対立もあり、特に2021年10月10日に実施された同国議会議員選挙以降は政治的な空白が続くとともに、同国の主力産油地域であるバスラ地方の原油輸出施設の整備(これにより2022年第三四半期には日量15万バレル輸出能力が拡大するとされていた)が遅延しつつあるなど、今後短期的に同国で余剰生産能力を活用できるかどうかについては、不透明感が漂う。さらに、ナイジェリアについては、同国南部の主力産油地域(ここはいわゆる貧困地域とも言われる)において、貧困に苦しむ住民等が原油を窃盗すべく、油田から沿岸部へ原油を輸送するパイプラインを破壊するなどしていることから、今後も原油生産量が安定的に増加するとは考えにくい部分がある。加えて、リビアも、NOC会長が交代したものの、これで同国の原油生産が回復し安定するかどうか未知数の部分がある。このようなことを考慮すれば、短期的に、かつ安定的に増産余力を保有しているOPECプラス産油国は主にサウジアラビア及びUAE(そしてクウェートが若干量)ということになり、それら諸国の余剰生産能力は合計で日量270万バレルとなる。そしてそのような余剰生産能力を積極的に利用して原油を市場に供給することになった場合、リビア、ナイジェリア、及びハリケーンを含む暴風雨のメキシコ湾来襲時等の米国等において、原油生産が減少するといった事態が発生する恐れがあることに対し、OPECプラス産油国による、さらなる増産対応が困難になるのではないかとの市場の懸念が発生する結果、この面で原油相場が下支えされる、といった展開となる可能性もある。

さらに、2022年4月には、サウジアラビアが日量1,190万バレル、UAEが同350万バレルの、それぞれ原油生産水準に到達した(数値はIEAによる、以下同様)ものの、それが実現したのは1ヶ月間のみであったことから、今後サウジアラビア(原油生産能力日量1,200万バレル、6月時点の原油生産量日量1,062万バレル)、UAE(原油生産能力日量410万バレル、6月時点の原油生産量日量317万バレル)が実際原油生産能力に接近した水準での原油生産を持続できるのかどうかにつき、疑問視する向きが市場で発生する結果、原油相場が支持されることもありうる。

全体としては、今後米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることにより、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることを通じ、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。加えて、世界経済成長減速による石油需要の下振れ懸念が市場で強まる結果、原油相場が抑制される場面が見られる可能性もある。ただ、ロシアの石油を含むエネルギー供給削減の可能性への懸念等から原油相場が下支えされる可能性がある。そのような中、世界各国及び地域における新型コロナウイルス感染状況と個人の外出規制及び経済活動制限を巡る動向、米国経済指標類や同国金融当局関係者による金融緩和縮小を巡る発言及びFOMCでの政策金利等を巡る金融引き締め政策に関する決定、イラン核合意正常化に向けたイランと西側諸国等の協議を含む中東情勢、OPECプラス産油国の減産措置を巡る議論等の状況、米国メキシコ湾地域におけるハリケーン等暴風雨の来襲状況及び予報等が原油相場に影響を与えるものと考えられる。

 

以上

(この報告は2022年7月19日時点のものです)

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