ページ番号1009431 更新日 令和4年8月8日

ウクライナ侵攻で一変するイラン・中国・ロシアのエネルギー協力

レポート属性
レポートID 1009431
作成日 2022-08-03 00:00:00 +0900
更新日 2022-08-08 09:32:43 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場基礎情報
著者 豊田 耕平
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 10
抽出データ
地域1 中東
国1 イラン
地域2 アジア
国2
地域3 旧ソ連
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中東,イランアジア旧ソ連
2022/08/03 豊田 耕平
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概要

  • イラン・中国・ロシアは「権威主義陣営」として、政治・経済・軍事と多角的な関係強化を目指してきた。石油・天然ガス分野は三か国全てにおいて重要なセクターだが、この分野での三か国関係は、単なる協力関係とは言うことができない。
  • イランと中国は石油市場での需給関係を基に、石油・天然ガス分野での協力を重ねてきた。中国は1990年代以降に海外での石油権益の獲得を目論み、その中でイランの石油・天然ガス開発事業にも積極的に参入してきた。
  • イランとロシアは天然ガス市場での潜在的な競合によって、石油・天然ガス分野では競争関係を構築してきた。ロシアはガスプロムを中心にイランの石油・天然ガス開発事業への参入を目指してきたが、それはガスプロムの他の海外事業と同様に、イランの天然ガス供給へ自国のコントロールを及ぼすための試みだったと言えるだろう。
  • 2022年2月のウクライナ侵攻に前後して、中国においてイラン産原油の輸入減少とロシア産原油の輸入増加が生じた。前者はウクライナ侵攻には直接関係しない事象であったものの、二つの出来事が重なることでイランと中国・ロシアとの関係に以下の影響を及ぼした。
  • イラン・中国関係では、中国の製油所がイラン産よりさらに割安なロシア産原油を志向することで、これまで築いてきた需給関係を基にした協力が弱体化し始めている。
  • イラン・ロシア関係では、ロシアがウクライナ侵攻による対露制裁を回避するノウハウを求め、イランとの関係強化を志向している。これは以前までのロシア企業によるイラン石油・天然ガス開発事業への参入と異なり、真に互恵的な協力関係となる可能性がある。

 

1. はじめに

イラン、中国、ロシアはしばしば「権威主義」、「反欧米」という共通した言葉で語られる。特にイランは1979年のイラン・イスラーム革命から米国と激しく対立し、欧米を中心とした経済制裁を受け続けている筋金入りの「反米国家」である。このイランに対して、中国とロシアは政治・経済・軍事と多方面で支援を提供してきた。

エネルギーはその「反欧米」志向とともに三か国関係の中核をなしている。中国は世界第2位の石油消費国として、イランとロシアも世界有数の石油・天然ガス生産国として、国際エネルギー市場において大きな存在感を発揮してきた。このイラン・中国・ロシアのエネルギー分野での関係が、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴う欧州諸国を中心としたエネルギー供給の「脱ロシア」志向によって、一変しようとしている。

ウクライナ侵攻はイラン・中国・ロシアのエネルギー関係にどのような影響をもたらしつつあるのか。本稿では、これまでのイランと中国・ロシアとの石油・天然ガス市場及び石油・天然ガス開発事業での関係を整理したうえで、ウクライナ侵攻によるエネルギー市場の変化、特に中国市場での供給構成の変化について分析する。最後に、その中国市場の変化によって、石油・天然ガス市場及び石油・天然ガス開発の双方においてイランと中国・ロシアとの関係が変化しようとしていることを論じる。

 

2. イラン石油・天然ガス開発に対する中国・ロシアの異なる目論み

まず、これまでのイランと中国・ロシアとのエネルギー関係を整理する。欧米諸国が制裁リスク等によって参入を忌避する一方で、中国・ロシアはともにイランの石油・天然ガス開発事業に最も積極的に参入してきた二か国と言える。しかし、両国の参入の背後には市場での異なる関係が存在している。

 

(1) イランと中国の協力関係

イランと中国の市場での関係は、供給国・イランが需要国・中国に原油を供給する協力関係にある。中国は1993年に石油の純輸入国に転じて以来、需要量が国内生産量を遥かに上回ってきたことで、イランを含む世界各国からの原油調達を追求した。中国は単に市場からの原油供給を求めるのみならず、「走出去戦略(“going out” strategy)」として、各国の石油・天然ガス開発事業への参画によるエクイティ・オイルの獲得を目指した。欧米諸国から数十年遅れて石油開発に参画した中国にとって、イランのように欧米諸国が事業参画しない「ならず者国家(rogue states)」は、格好の参入対象であった[1]。この戦略に基づいて、中国は国営企業の中国石油天然気集団公司(CNPC)を中心にイランの石油・天然ガス開発事業への参入を進めてきた(表1)。以上のことから、中国は、市場での需要国・供給国の協力関係に基づき、イランの石油・天然ガス開発事業へ参画してきたと総括できる。

(表1)中国企業によるイランでの主要な上流開発契約・MOU等
企業  
2001 1 シノペック ザヴァレ・カシャーン鉱区の探鉱契約を締結。
2004   CNPC シア・エナジー(キプロス)の買収によりマスジェデ・ソレイマン油田の権益49%を獲得。
2005 6 CNPC クーフダシュト鉱区の探鉱契約を締結。
2006 6 シノペック ガルムサール鉱区の探鉱開発契約を締結。
12 CNOOC ノースパース・ガス田の開発及びLNG施設建設に関するMOUを締結。
2007 12 シノペック ヤダバラン油田フェーズ1の開発契約を締結。
2009 1 CNPC 北アザデガン油田フェーズ1の開発契約を締結。
9 CNPC 南アザデガン油田フェーズ1の開発契約を締結。2014年4月に契約失効。
2017 1 CNPC サウスパース・ガス田フェーズ11の開発に関するIPCを締結(権益比率30%)。2018年12月に投資停止、2019年9月に撤退。

(出所:各種報道等からJOGMEC作成)

 

(2) イランとロシアの競争関係

これに対してイランとロシアとの市場での関係は、供給国同士の競争関係にあると言うことができる。特に欧州の天然ガス市場において、イランはロシアに代わる天然ガス供給源となる可能性を持ち、欧州市場を主要な販売先とするロシアの潜在的な競争相手であり続けてきた。しかし、この競争は経済制裁によって欧州へのパイプライン計画が何度も頓挫したように[2]、これまで表に出ることはなく、あくまで潜在的な競争関係である。天然ガス市場で潜在的な競争を抱えてきたにも拘わらず、ロシアは中国に次ぐイラン石油・天然ガス開発事業への参入国である。特にイラン核合意が成立した2015年以降、ロシアは積極的にイラン国営石油会社(NIOC)らとMOUを締結し、イランの石油・天然ガス開発に関与しようとしてきた(表2)。

(表2)ロシア企業によるイランでの主要な上流開発契約・MOU等
企業  
1997 9 ガスプロム サウスパース・ガス田フェーズ2、3の開発契約を締結(権益比率30%)。
2003 2 ルクオイル ノルスク・ハイドロ(ノルウェー)からイラン西部アナラン鉱区の探鉱権益25%を取得。
2016 12 ガスプロムネフチ チャングレ油田、チェシュメホシュ油田の調査に関するMOUを締結。
2017 3 ガスプロム イラン国内での炭化水素の探鉱・開発・生産分野の協力に関するMOUを締結。
6 ガスプロム ファルザドBガス田の開発に関する基本合意書を締結。
7 ザルベジネフチ シャデガン油田、ラグセフィド油田の開発に関するMOUを締結。
ガスプロムネフチ チャングレ油田・アザール油田の地質評価に関するMOUを締結。
8 ザルベジネフチ ユニット・インターナショナル(トルコ)、ガディール投資会社(イラン)とイラン国内油ガス田の掘削に関して合意。
10 ルクオイル カスピ海南部の石油・天然ガス地質調査に関するMOUを締結。
11 ロスネフチ 石油・天然ガス分野における戦略的協力協定を締結。
ガスプロム イラン国内の不特定油ガス田事業での協力に関するMOUを締結。
12 ガスプロム イランLNG事業に関するMOUを締結。
2018 2 ザルベジネフチ スーサンゲルド油田の調査に関するMOUを締結。
3 ザルベジネフチ アバン油田、西ペイダル油田の再開発に関するIPCを締結(権益比率80%)。2018年10月に露エネルギー省傘下のプロムシリエインポルトに権益売却と報道。
2022 7 ガスプロム イラン国内ガス田開発、LNG事業を含むエネルギー事業の共同開発に関するMOUを締結。

(出所:各種報道等からJOGMEC作成)

しかし、ここには中国とは異なる思惑があると考えることができる。イランに最も関心を有してきた国営ガス会社のガスプロムは、下図のとおり、ロシアが天然ガスを供給できる国か、ロシアの主要市場である欧州に天然ガスを供給できる国(中央アジア、北アフリカ等)のエネルギー事業に参画している(図1)。ガスプロムの主な海外事業は欧州のガス配給会社の買収であり、これは同社が欧州市場での天然ガスの需要と供給に対するコントロールを強めるという狙いを反映していると考えられている[3]

(図1)ガスプロムが探鉱・開発・生産・販売事業を行う国
(図1)ガスプロムが探鉱・開発・生産・販売事業を行う国
(出所:Gazprom 2020 Annual Report)

ガスプロムは過去に、イランが関わる海外事業にも関与している。ガスプロムは2006年にイラン・アルメニア間天然ガスパイプラインを買収し、アルメニアに対してパイプラインの口径を半分にするよう要求した。これはイランがアルメニア経由で南欧市場へ大量の天然ガスを供給できないようにする試みと言われており[4]、上記の方針に合致する。イランの石油・天然ガス開発事業への参画への意欲に関しても、イラン核合意の成立によってイランから欧州への天然ガス供給の可能性が高まってきたことに対して、潜在的な競争相手であるイランの天然ガス供給量をコントロールする目的が背後に存在したと言える。

 

(3) 中国とロシアで異なる思惑

このように、中国とロシアはいずれもイランの石油・天然ガス開発事業に積極的に参画しているが、その思惑は正反対と言ってもよい。中国は自国への石油供給を目的に、つまり市場へのイラン産エネルギーの供給量が多くなることを目指して参入してきたのに対して、ロシアは欧州への天然ガス供給量のコントロールを目的に、つまり市場へのイラン産エネルギーの供給量が少なくなることを目指して参入してきたと言える。

つまりこれまで、中国はイランに対して協力姿勢を取り、ロシアはイランに対して対立姿勢を取ってきたと要約することができる。

 

3. ウクライナ侵攻に前後する中国市場の変化

続いて、ウクライナ侵攻に前後して生じた中国市場での二つの動きを見ていく。イラン産原油の輸入量減少と、ロシア産原油の輸入量増加である。このうち前者はウクライナ侵攻に直接関係ないと言われているが、二つの動きが重なることで、次章で検討するイラン・中国・ロシアの関係変化につながっている。

 

(1) 中国でのイラン産原油の輸入量減少

ウクライナ侵攻に先立って、中国によるイラン産原油の輸入量は減少傾向を見せてきた。中国の通関統計上には表れてこないものの[5]、タンカー追跡会社によって1月には日量70万バレル程度と推計されていた中国によるイラン産原油の輸入量は、ケプラー、ボルテクサによれば、5月には日量40~60万バレルと推定されている[6]

ここで留意しておくべきなのは、このイラン産原油の輸入量減少は中国の独立系製油所が処理能力を減少したことで2月頃からすでに始まっており、ロシアのウクライナ侵攻とは直接関係がないということである。

 

(2) 中国でのロシア産原油の輸入量増加

ウクライナ侵攻は欧州を中心とする「脱ロシア」を引き起こし、エネルギー市場に甚大な影響をもたらし続けている。2022年3月、欧州委員会は2030年より前にロシアへの化石燃料依存から脱却するための計画(REPowerEU)を発表した。同計画では、供給源の多様化や化石燃料使用量の低減等によって、2022年中にロシアからの天然ガス輸入量のおよそ3分の2を削減できると見込んでいる[7]。加えて、6月にはロシアに対する制限的措置の第6次パッケージの一つとして、ロシア産の全ての海上原油及び石油製品の輸入を段階的に禁止することが決定された[8]

上記の「脱ロシア」の流れによって、ロシア産原油がアジア市場へと大規模に流入し、イランにとっての主要市場である中国においてロシア産原油の輸入が増加している。2022年2月の侵攻以来、中国のロシアからの原油輸入量は大きく増加している。2月にはレピュテーションリスクを恐れて中国企業がロシア産原油の購入を控えたと言われるが、その後輸入は順調に増加し、5月には日量198万バレルと過去最高水準に達した(図2)。

(図2)中国によるロシア産原油の輸入量
(図2)中国によるロシア産原油の輸入量
(出所:中国税関総署統計からJOGMEC作成)

4. ウクライナ侵攻の影響:イランから離れる中国、イランへ接近するロシア

最後に、ロシアのウクライナ侵攻がイランと中国、イランとロシアのそれぞれの関係にどのように影響したかを考察する。欧米諸国による対ロシア・対イラン経済制裁と前章で述べた中国市場での変化によって、これまで存在したイランと中国の協力関係、イランとロシアの競争関係が一変しつつある。

 

(1) 中国の「イラン離れ」

前章で述べた中国市場での二つの変化、イラン産原油の輸入減少とロシア産原油の輸入増加の傾向により、中国とイランが長年築いてきたエネルギー需給関係を動揺させている。

2月からの処理能力による輸入減少に加え、イラン産原油の主要な買い手である山東省の独立系製油所が、米国の対イラン制裁によって自発的にイラン産原油を買い控え始めていると噂されている[9]。5月後半に、米国財務省外国資産管理局(OFAC)はイランの革命防衛隊が主導するイラン産原油の販売に関する石油密輸ネットワークに対する制裁を発表した[10]。この制裁対象にイラン産原油を購入していた複数の中国企業が含まれたことで、中国の製油所がイラン産原油の購入を敬遠しているのである。

その空白を埋める役割を果たすのがロシア産原油である。前述したとおり、対ロシア制裁によって引取先が限定され、ロシア産原油は大幅に割り引かれたうえでアジア市場に向かった。山東省の製油所はイラン産原油と価格を比較し、ロシア産原油でイラン産を置き換えることも検討しているのである。さらには、この動きに反応して、イランが安価なロシア産原油に対抗するため、通常ブレント価格から5ドル程度のディスカウントで販売されるイラン産原油に追加で5ドル程度のディスカウントを加えており、イランとロシアによる「値引き競争」が勃発していると報じられた[11]

以上のように、中国の製油所による怜悧な経営判断によって、中国市場でのイラン産原油の重要性が低下している。中国とイランとのエネルギー協力の基盤となっている需給関係が、ウクライナ侵攻の影響が波及することで弱まりつつあると言えるだろう。

 

(2) イラン・ロシアの接近

他方、これまで競争関係を持ってきたイランとロシアの関係は、対露制裁が強化されていく中で接近する兆しを見せている。

ウクライナ侵攻以来、欧米諸国が公表したロシアのエネルギー部門に対する段階的な制裁措置を受け、ロシアはいかに制裁を回避して石油・天然ガス輸出を達成するかを模索し始めている。ロシアが求める制裁回避の方法に最も熟達しているのがイランである。イランは長年のエネルギー分野への経済制裁の中で、いかに制裁を迂回して原油取引を行うかを模索してきた(表3)。その結果として、ライーシー政権の発足以降、イラン国営タンカー会社(NITC)による石油出荷量が倍増したとして、複数の閣僚らが同社の業績を称賛している[12]

(表3)イランによる各種制裁の回避方法

船舶輸送に関する方法

  • 船から船への積み替え(STS)を活用した輸送
  • AISトランスポンダー(船舶自動識別装置)を停止した航行
  • 原油の産地偽装、第三国経由の輸出等
金融に関する方法
  • SWIFTを代替する自国通貨による決済システムの構築
  • 石油・天然ガススワップ取引を含む物々取引

(出所:JOGMEC作成)

 

ロシアは2月以降、イランの制裁回避の方法を求めて閣僚間会合を繰り返している。3月の外相会談ではイラン核交渉に関する問題とともに、欧米による対露制裁の悪影響を無効化するための経済政策について議論したと報じられている[13]。5月のオウジ石油相とロシアのノバック副首相との会談では、貿易とエネルギー取引に関する決済に自国通貨を使用することに合意し、SWIFT代替システムを接続させるための協議を継続することを明らかにした[14]。原油取引での制裁回避に関する議論は表に出てくることはないが、金融分野での制裁に対抗するための議論は一定程度進んでいると分かる。

しかし、制裁回避のためのこれらの取り組みをロシアと共有することで、ロシアの中国市場への流入はますます進む可能性があり、イランはさらなる市場競争に直面するリスクを有する。したがって、この協力と同時に、両国はイランにメリットのある石油・天然ガス開発での協力も強化している。7月のプーチン大統領のテヘラン訪問に伴い、イラン国営石油会社(NIOC)とロシアのガスプロムとの間で、石油・天然ガス事業に関する最大400億ドルのMOUが締結された(表4)。

(表4)NIOCとガスプロムとのMOUにおける主な協力内容
イラン側報道
  • キッシュガス田、ノースパース・ガス田を含むイラン油ガス田の開発
  • サウスパース・ガス田での貯留層の圧力増加
ガスプロム発表
  • 天然ガスと石油製品のスワップ取引
  • LNG事業、天然ガスパイプラインの建設

(出所:JOGMEC作成)

このMOUは、2018年以降に実現してこなかったイラン国内の石油・天然ガス開発事業に対する外国企業の新規参入を目指すものである。協力内容には特に天然ガスの増産や輸出に関するものが含まれ、自国のみでは投資・技術力を賄いきれず天然ガスの輸出を進められないできたイランが正に渇望してきた内容であると言える。

これらの協力は、これまでのロシアによるイラン石油・天然ガス開発事業への参入と全く異なる性質を持っていると言える。先述したとおり、2006年のイラン・アルメニア間天然ガスパイプラインの買収や2016年から2018年までの石油・天然ガス開発事業への参入意欲は、イランによる天然ガス供給をコントロールするための見かけ上の協力であると考えられる。この背景には、前者の事例は2010年に米国の対イラン経済制裁が強化する以前の出来事であったこと、後者の事例はイラン核合意が締結された直後であることから、イランによる欧州への天然ガス供給の可能性が十分に高かったことがあるだろう。他方で今回の協力は、イラン核合意の再建交渉が難航していると報じられ、イランから欧州への天然ガス供給が当分考えられない状況で生じている。そのため、今回のNIOCとガスプロムとのMOUは、イランとロシアが互いの経済制裁に対抗し、相互に利益を獲得するためのものであると言えるだろう。

 

5. おわりに

本稿では、イランが中国・ロシアと原油市場における関係を悪化させる一方で、イランとロシアが経済制裁下での石油・天然ガス開発分野での協力を拡大しようとしていることを論じてきた。特に、2022年7月に締結されたNIOCとガスプロムとのMOUは、もしこれが進展した場合には、イラン・ロシア間の石油・天然ガス分野での協力を大きく変化させる可能性を有している。

現在、国際危機グループ(ICG)に所属する軍縮・核不拡散の専門家のエスファンダイアリー氏らは、2018年の著作『Triple Axis: Iran’s Relations with Russia and China』において、三か国の関係を「利益と必要性に基づくプラグマティックな関係」と評した[15]。現在、イランと互恵関係を築いてきた中国は価格の低いロシア産原油にすぐさま靡き、ロシアは対露制裁を機にこれまで反目してきたイランと協力していく姿勢を見せる。エスファンダイアリー氏らの表現は、正に現在の状況を表していると言える。今後の三か国関係も、各国の利益と必要性に導かれ、予想もしないほど柔軟に変化していくだろう。

 


[1] Lee, Henry, and Dan A. Shalmon. "Searching for Oil: China's Oil Initiatives in the Middle East." ENRP Discussion Paper (BCSIA) and KSG Faculty Research Working Paper Series RWP07-017 (2007).

[2] イランはトルコ・ギリシャ・イタリアに向けたパース天然ガスパイプラインの敷設を、制裁による外国投資不足で何度も断念している。“Iran Sees Opportunity as Europe’s Energy Woes Worsen,” Amwaj.media, October 12, 2021,
https://amwaj.media/media-monitor/iran-sees-opportunity-as-europe-s-energy-woes-worsen.(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[3] Nadejda Victor and Inna Sayfer, “Gazprom: The Struggle for Power,” in Oil and Governance: State-Owned Enterprises and the World Energy Supply, ed. David G. Victor, et al. (Cambridge: Cambridge University Press, 2012), pp.663-665.

[4] Brenda Shaffer, Energy Politics (Philadelphia: University of Pennsylvania Press, 2009), pp.125-126.

[5] イランからの原油密輸、中東やマレーシアの港湾での積み替えにより原産地を偽った輸入は相当規模で存在すると言われる。竹原美佳「中国の石油における存在感」『石油・天然ガス資源情報』2021年4月
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1008924/1009008.html

[6] “Iran’s Exports Hit by Discounted Russian Crude,” International Oil Daily, June 9, 2022,
https://www.energyintel.com/00000181-492b-d578-a1dd-eb7f2b250000.(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

“Chinese Refiners Double Down on Discounted Russian, Iranian Barrels,” International Oil Daily, June 21, 2022, https://www.energyintel.com/00000181-8555-d35b-a7eb-a75fcd260000.(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[7] “REPowerEU: Joint European action for more affordable, secure and sustainable energy.” European Commission, March 8, 2022, https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_1511.(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[8] “Russia's war on Ukraine: EU adopts sixth package of sanctions against Russia.” European Commission, June 3, 2022, https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_2802.(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[9] Zhou Oceana and Sambit Mohanty, with staff reports, “New Iran Sanctions Prompt China Independent Refiners to Focus on Russian Crude.” Platts Oilgram News, June 1, 2022.

[10] “Treasury Targets Oil Smuggling Network Generating Hundreds of Millions of Dollars for Qods Force and Hizballah.” US Department of the Treasury, May 25, 2022, https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy0799.(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[11] “Iran Slashes Cost of Its Oil to Compete with Russia in China,” Bloomberg, July 4, 2022, https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-07-03/iran-slashes-the-cost-of-its-oil-to-compete-with-russia-in-china.(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[12] “Oil Shipment by NITC Fleet Doubled: Minister.” Tehran Times, May 17, 2022, https://www.tehrantimes.com/news/472683/Oil-shipment-by-NITC-fleet-doubled-minister.(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[13] “Iranian, Russian FMs discuss how to neutralize sanctions.” Press TV, March 15, 2022, https://www.presstv.co.uk/Detail/2022/03/15/678625/Russia-favor-quick-JCPOA-revival.(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[14] “Iran, Russia Sign Energy, Banking MoUs.” Tasnim News Agency, May 26, 2022, https://www.tasnimnews.com/en/news/2022/05/26/2717165/iran-russia-sign-energy-banking-mous.(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[15] Dina Esfandiary and Ariane Tabatabai, Triple Axis: Iran’s Relations with Russia and China (London: I.B. Tauris, 2018), p.191.

 

以上

(この報告は2022年8月2日時点のものです)

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