ページ番号1009434 更新日 令和5年5月30日
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- インドはエネルギー消費、発電のいずれも国内に豊富に賦存する石炭に大きく依存しているが低炭素化、大気汚染対応、エネルギー輸入依存抑制を志向している。
- 国内ガス生産は増産基調だが、増産をけん引する東岸KG盆地深海ガス田の生産ピークは下方修正された。
- 2021年のLNG輸入はコロナと高値で前年割れ、2022年は酷暑と石炭不足で電力がひっ迫するなか、高値のスポットLNG輸入は伸びず、むしろLNG供給が減少し工業ユーザーは代替燃料にシフトしている。
- 現在LNG受入基地6基地(計4,250万トン)が操業中だがその多くは稼働率が2割未満と低迷しており、新規FLNGも遅延している。
- インドは経済成長に伴うエネルギー需要増大への対応や大気汚染対策のため天然ガスの利用拡大を進めており、1次エネルギーに占める天然ガスの割合を2030年までに15%に高める目標を設定している。
- インドの天然ガス需要でもっとも増加が見込まれるのは都市ガス分野(CGD)である。日本のガス会社が知見を活かし外資や地場企業と組みインドの都市ガス事業への参画を図っている。
- メジャーズは国営あるいは民間とLNG受入基地への出資・トレーディングの他、LNG輸送燃料、さらには再生可能エネルギーを含むハイブリッドな提携関係を構築している。なかでもTotalEnergiesとインドのコングロマリットAdani GroupとのLNGバリューチェーンから再生可能エネルギー、グリーン水素に至る幅広い提携は注目に値する。
1. はじめに
インドはエネルギー消費、発電のいずれも国内に豊富に賦存する石炭に大きく依存している。1次エネルギー消費(2021年)は石油換算8億4600万トンで、そのうち石炭の消費が全体の57%、石油が27%、天然ガスが6%、原子力と再生可能エネルギーが10%である(図1)。
発電設備容量(2021年末)は386GWで石炭火力が54.1%、水力12%、ガス火力6.5%、原子力1.8%、軽油0.1%、その他が24.5%である。発電電力量(2021年)は1,715TWhで石炭火力が74.1%、水力を除く再生可能エネルギーは10%、水力9.3%、ガス火力3.7%、原子力2.6%、その他0.1%である(図2)。
石炭の輸入比率は2割だが、石油の輸入比率は8割を超え、中国、米国に次ぐ世界第3位の輸入国である。また、天然ガスの輸入比率は5割(全量LNG)で、日本、中国、韓国に次ぐ世界第4位の輸入国である。
インドは低炭素化、大気汚染対応、エネルギー輸入依存抑制を志向している(図3)。NDC(2015年10月)では「2030年までにGDP単位あたりのCO2排出量を2005年比33~35%削減、発電設備容量に占める非化石電源の比率を40%に引き上げる目標」を設定している。再生可能エネルギーの発電設備容量を2030年に450GWとする目標を設定している。
石炭火力について新設は超臨界圧(SC)以上とし、既設の改修、効率改善を進めるとしている。しかし2018年時点でインドの96%、159GWの石炭火力が亜臨界圧(subcritical)、4%が超臨界圧という状況である。
ガスについて2030年にエネルギー消費の15%に拡大する目標を設定している。そのためにガスパイプライン網(グリッド)、LNG受入基地、圧縮天然ガス(CNG)ステーション等関連インフラの整備・拡充を図るとしている。
その他2030年に新車販売における自家用車の30%をEVとする目標やE20ガソリンの普及、そしてグリーン水素の生産・輸出ハブ国化を目指している。
2021年8月の独立記念日にモディ首相は2047年までのエネルギー自立を目指すと表明したが、2023年に中国を抜き13億人の人口を抱える同国が経済発展を進めながら、化石燃料中心のエネルギー消費構造を変え、石油と天然ガスの輸入を抑制していくことは容易ではないと思われる。本稿では様々な課題に直面するインドのエネルギーについて主に天然ガス・LNG需給、利用促進策ならびに日本企業や外資のガスサプライチェーンへの参画についてまとめた。

(出所:BP Statistical review of world energy 2022を基にJOGMEC作成)

(出所:インド中央電力庁CEAおよびBP統計を基にJOGMEC作成)

出所:各種情報に基づきJOGMEC作成
2. 天然ガス・LNG需給
2-1. 国内ガス生産は増産基調だが、東岸KG盆地深海ガス田の生産ピークは下方修正
天然ガス確認埋蔵量は45.4Tcf(1.3Tcm)、2021年の生産量は前年比20.1%増の28.5Bcm(2,080万トン)、消費量は同2.8%増の62.2Bcm(4,540万トン)である(図3)。
石油・天然ガスの主な生産者は国営の石油・天然ガス開発企業のOil and Natural Gas Corporation (以下、ONGC)とOil India(OIL)である。現在ONGCとOILが同国の天然ガス生産のそれぞれ61%、8%を占める(残りはPS契約)。国内の稼働中ガスパイプラインの総延長は2022年3月末現在2万629キロメートルで7割はGailが操業している。
天然ガス生産量は2010年にピークアウトしたが、政府が深海や非在来など技術的難易度の高い油ガス田の販売価格引き上げなどの優遇措置を設けたことで下げ止まった。2020年はCovid-19の影響で生産が落ちたが2021年に再び上向いた(図4)。PPACによると2022年1月から6月にかけて天然ガス生産は前年同期比8%増加し16.4Bcmとなった。

(出所:BP Statistical review of world energy 2022を基にJOGMEC作成)
2021年に天然ガスの生産が伸びた要因はインド東岸ベンガル湾沖合Krishna Godavari Basin(以下、KG盆地)における開発の進展が大きい。2021年は4ガス田が生産を開始したが、そのうち2ガス田はKG盆地である。一つ目は民間RelianceとBPのコンソーシアムによるKG-DWN-98/3(KG D6 Block)のSatellite Clusterで2021年4月に生産を開始した。同ガス田は2020年12月に生産を開始したR-Clusterと併せ2021年末には生産量が18MMcmdに達した。本年第3四半期(10~12月)にはMJ Fieldが生産を開始し同鉱区からの2023年度(2023年4月から2024年3月)の生産は30MMcmdのピークに達する予定である。
もう一つは国営ONGCのKG-DWN-98/2<KG D5 Block、Cluster2B>のU-1Bで2021年8月に生産を開始した。ONGCはKG D5についてCluster1~3に分けて開発を進める計画であり、Cluster2(2018年FID)はCluster 2Aと2Bに分かれ、2Aでは油田開発(随伴ガスを含む)を行い、2023年に生産開始予定である。2Bではガスを開発、2020年以降段階的に生産を開始する予定である。
RelianceとBPのKG-DWN-98/3(KG D6)は生産量が160Bcfy(4.5Bcm)でプロジェクトライフが13年、ONGCのKG-DWN-98/2(KG D5)は生産量が190Bcfy(5.4Bcm)でプロジェクトライフが15年と見積もられ同国における天然ガス生産量減退を相殺する存在として期待を集めていた。ところがRystad Energyによると、ONGCはCluster 2についてFID翌年の2019年には石油とガスのピーク生産量を3割下方修正した(図5)。原油生産ピークは12%下方修正の4.4万b/d、ガス生産ピークは32%下方修正の1,040MMcmd(3.8Bcm)となった。油層が複雑であることやガスの生産量増加が油層圧力を低下させ、原油生産量に影響を与える可能性があることが指摘されている。

(出所:Rystad Energy)
2-2. 2021年のLNG輸入はコロナと高値で前年割れ、2022年も価格高騰で低迷が続く
インドは2004年からLNGの輸入を開始した。2021年のLNG輸入量はCovid-19により減少し、GIIGNLによると前年比7.3%減(190万トン減)の2,402万トンであった。天然ガスの輸入比率は54%(全量LNG)で、日本、中国、韓国に次ぐ世界第4位の輸入国である。輸入相手先はカタールが1,020万トン(輸入の42%)と最も多く、ついで米国が386万トン(同16%)、UAE317万トン(同13%)、ナイジェリア139万トン(同6%)、オマーン115万トン(同5%)、その他18%となっている(図6)。

(出所:GIIGNLに基づきJOGMEC作成)
インドにおける最大のLNG輸入事業者はPetronetである。同社はインドの国営石油企業4社ONGC、GAIL、Indian Oil、Bharat Petroleum(BPCL)が各12.5%出資している。仏Engie(旧GDF-Suez)が戦略的なパートナーとしてPetronetに10%出資していたが、事業見直しで2016年7月に撤退した。
Petronetの他GAIL、Indian Oil、Gujarat State Petroleum Corporation(GSPC)がカタールQatar Energy、ExxonMobil、Shell、ロシアGazprom、米国事業者とLNG計2,300万トンの長期契約を締結している(表1)。

(出所:天然ガス・LNGデータハブ2022他に基づきJOGMEC作成)
2-3. 2022年は酷暑と石炭不足で電力ひっ迫もLNG輸入は伸びず、工業ユーザーは代替燃料にシフト
インドは中国と同様にエネルギー価格高騰に伴い国内のエネルギー生産を強化しており、原油の生産は伸び悩んでいるおり価格高騰にもかかわらず輸入が拡大しているが、石炭やガスの国内生産は増加している。国営Coal India(CIL)によると2022年4-6月の石炭生産量は前年同期比29%増の1億5980万トンで、6月には発電所向けに日量平均165万トンの石炭を供給した。天然ガスの2022年1-6月の生産は前年同期比8%増の1.64Bcm(約120万トン)である。
インドでは2022年3月から6月にかけて記録的な猛暑と石炭在庫の不足により電力がひっ迫した。5月には北部ハリヤナ州や、西部ラジャスタン州などの工業地域で長時間に及ぶ計画外の停電が発生したと報じられた。ハリヤナ州では1日の停電が最大10~12時間に及び、企業は、価格高騰の軽油を使った自家発電に頼らざるを得なくなり、一部の企業は操業停止の危機に追い込まれたと報じられた。
2022年5月に電力省は各州の電力公社による石炭輸入抑制が石炭在庫不足(5月17日時点の発電所の石炭在庫量は8日分相当の2,000万トンに低下)の原因と指摘し、5月5日には石炭を使用する全ての州と発電会社に対し、使用する石炭の10%を輸入石炭で賄うよう(10%混焼)指示した。さらに電力省は電力規制委員会(CERC)に対し、2023年3月までの緊急措置として輸入石炭の比率を3割に引き上げるよう指示したが、ラジャスタン州など一部の地方から反発が生じ、実行されていない模様である。ラジャスタン州のアショク・ゲロット州首相は「中央政府は国産炭より3倍高い輸入炭を押しつけようとしている」と不満を呈したという。
インドは雨季に入り7月の電力需要は前月比4.5%低下、電力需給のひっ迫は和らいでいる。一部の発電所では石炭在庫が回復しており、電力省は8月に入り在庫に余裕がある発電所については輸入石炭の混焼比率を緩和する方針である。
電力需給ひっ迫の一方でクリーンだがコストの高い(石炭火力の発電コストはガスの3分の1程度)ガスの発電向けの調達は伸びていない。電力省によると2021年度(2021年4月~2022年3月)にガス火力発電の必要量114MMcmに対し実際の供給は5分の1の23MMcmであった。また2022年3月のガス火力向けのガスの必要量92.3MMcmdに対し供給は17.9MMcmd(このうちターム契約のLNGは7.5MMcmd)にとどまったという。
政府は国営製油所のガソリンや軽油販売価格を低く統制し、5月には物品税引き下げなどの措置を取ったが、輸入LNGには何の対策も出しておらず、PPACによると2022年1-6月のインドのLNG輸入は前年同期比12%減(140万トン減)の1,070万トンと低迷している(図7)。2022年のLNGの輸入相手先上位はカタール、UAE、米国、ナイジェリアと長期契約による供給が主体で高値のスポット調達は増えていない。
また、インドはロシアの値引きされた原油を大量に輸入しているが、LNGについてはむしろGAILがGazpromとの長期契約のLNG供給を減らされ、工業、肥料、発電、石化向けの供給を削減したと報じられた。高値のスポットLNGの調達も難航し、工業ユーザーは代替燃料に切り替えたという。

(出所:Kplerに基づきJOGMEC作成)
2-4. LNG受入基地の低稼働率と新規FLNG稼働遅延
インドでは現在LNG受入基地6基地が操業中である(表2、図8)。受入能力は6基地合計4,250万トンだが、稼働率が5割以上の基地はDahej(ダヘジ)とDabhol(ダボール)の2基地のみである。
稼働中のLNG受入基地は西岸のGujarat(グジャラート)州に集中している(図7)。同州ダヘジ基地はPetronetが操業する同国最大の受入基地である。2019年に拡張工事が完了し受入能力は年1,750万トンとなった。インド石油省傘下の石油計画・分析室(PPAC)によると、2022年4月の稼働率は77.3%と最も高い。Shellが操業するHazira(ハジラ)基地(年500万トン)はTotalが26%出資していたが、2018年に全権益をShellに譲渡した。2022年4月時点の稼働率は17.3%と低い。GSPCと民間の大手都市ガス配給事業者Adaniグループが操業するMundra(ムンドラ)基地(年500万トン)は2018年10月にモディ首相立会いの下で開業式典を行ったがGSPCがAdaniに対して、同港湾の開発投資ならびにグジャラート州海洋当局への用地賃借料支払いを拒絶し係争となっていた。2022年4月現在の稼働率は12.6%と低い。2022年4月にはグジャラート州Jafrabad(ジャフラバード)港にVasant 1 FSRUが到着し、Swan Energyと商船三井(MOL)が進めるJafrabad FSRU(年500万トン)が間もなく試運転を開始見込みと伝えられたが、PACCによると稼働中とはなっていない。
この他西岸ではGAIL他が出資するRatnagiri Gas & PowerのMaharashtra(マハラシュトラ)州ダボール基地(同500万トン/年)が操業中であり、2022年4月の稼働率は50.7%とダヘジ基地に次いで高い。2022年3月にはマハラシュトラ州Jaigarh(ジャイガー)港にHoegh Giant FSRU(17万立方メートル)が到着、民間H-EnergyによるJaigarh LNG受入基地(FSRU、年400万トン)が間もなく試運転を開始予定と報じられたがPACCによると稼働中とはなっていない。
Petronetが南部Kerala(ケララ)州で操業するKochi基地(年1,000万トン)の2022年4月の稼働率は19.4%である。同基地はLNGバンカリング事業やLNGの再輸出事業を行うなど、稼働率向上に努めていると報じられている。東部ではIndian OilがTamil Nadu(タミル・ナドゥ)州で操業中のEnnore(エノール)基地(年500万トン)が2019年6月に操業を開始した。2022年4月の稼働率は10%にとどまっている。

(出所:天然ガス・LNGデータハブ2022)

(出所:天然ガス・LNGデータハブ2022)
3. 天然ガス利用促進策と中長期需要シナリオ
3-1. 天然ガス利用拡大目標と促進策
インドは経済成長に伴う発電需要増大への対応や大気汚染対策のため天然ガスの利用拡大を進めており、政府は2019年12月に1次エネルギーに占める天然ガスの割合を2030年までに15%に高める目標を設定している。
2022年7月25日にTeli石油・天然ガス担当国務大臣はあらためて天然ガス利用促進目標と、目標実現のための促進策を示した。促進策はガス幹線パイプラインを33,500キロメートルに拡大し、都市ガス流通(CGD)ネットワークを拡大する、LNG受入基地を増設するといった輸送・輸入インフラの整備に加え、高温・高圧、深海、CBMに対する販売・価格の自由化である。この他Teli石油相は圧縮バイオガス(CBG)の利用促進、手頃な価格による持続可能な代替燃料による輸送(Sustainable Alternative Towards Affordable Transportation;SATAT)イニシアティブを実施すると指摘した。SATATイニシアティブについて2020年にプラダン石油相(当時)は今後5年で5,000か所のCBGプラントを建設し同プラントには生産物引き取りの保証を与えると述べている。
2022年7月に大気質管理委員会(CAQM)は大気汚染の抑制を目的にデリー首都圏で、軽油を燃料とするオートリキシャ(三輪タクシー)を段階的に廃止する指針を策定した。廃止の期限は地域により異なり、最長で2026年末となる。また7月15日にPuri石油相は今後2年でCNGステーションを3,500か所設置し8,000か所に拡充すると述べた(PPACによると2022年5月現在CNGステーション数は4,531)。
これらの政策が迅速に実行されれば都市ガス、輸送部門における天然ガス需要の増加が見込まれるはずだが、なかには野心的な目標も含まれている。
3-2. PNGRBによる天然ガス中長期需給シナリオ
石油・天然ガス規制委員会(PNGRB)が米国貿易開発庁のサポートのもとで“National Gas Grid Technical Assessment”を作成し2022年5月に公表した。同レポートではこれまでのパイプライン建設やガス市場発展のトレンドから試算したBusiness as Usual(BAU)ケースと2030年までに1次エネルギーに占める天然ガス割合を15%とする政策に沿いバックキャストしたAccelerated Gas Usage(ACU)ケースを示している。
需要はBAUでは2021年度から2030年度にかけて46Bcm(約3,400万トン)増加し108Bcm(7,900万トン)となり、2040年度にはさらに54Bcm(約3,900万トン)増加し162Bcm(約1億1,800万トン)となる。ACUでは2021年度から2030年度にかけて73Bcm(約3,400万トン)増加し138Bcm(約1億100万トン)となり、2040年度にはさらに152Bcm(約1億1,100万トン)増え290Bcm(約2億1,200万トン)となる(図9)。
供給は2030年に66Bcm(約4,800万トン)、2040年には114Bcm(約8,000万トン)となる。同レポートでは油価60ドル/バレル、40ドル/バレル、ガス価格を最安値・中間・最高値の3ケースで既存フィールド・新規フィールド、CBM、シェールのそれぞれについて予測しているが、本稿では油価60ドル/バレル、ガス価格は中間(2030年4.58ドル/MMBtu、2040年6.21ドル/MMBtu)を採用した。
需給ギャップはBAUでは2030年に42Bcm(約3,100万トン)で2040年には48Bcm(約3,500万トン)となる。ACUでは2030年に73Bcm(約5,300万トン)、2040年には176Bcm(約1億3,000万トン)となる。なお同レポートでは2040年まで輸入は全量LNGとし、パイプラインガスによる輸入は含まれていない。かねてからトルクメニスタンやイランからパイプラインにより天然ガスを輸入する計画があるが、通過国の治安や資金調達などの問題により進んでいない。

(出所:PNGRB,“National Gas Grid Technical Assessment”)
3-3. IEAによる天然ガス中長期需要シナリオ
IEAが2021年9月に公表した世界エネルギー展望(WEO2021)によると、インドの天然ガス需要は公表政策シナリオ(STEPS)ならびに発表誓約シナリオ(APS)では2019年から2050年にかけて143Bcm(約1億400万トン)増加し207Bcm(約1億5,100万トン)となる。持続可能シナリオ(SDS)では2030年は109Bcm(約8,000万トン)増加し173Bcm(1億2,600万トン)となるが、2050年には2030年の需要を31Bcm(約2,300万トン)下回り142Bcm(約1億400万トン)となる(図10)。
IEAとPNGRBのレポートを比較すると、2030年時点ではPNGRBのBAUケースがIEAの公表政策シナリオ(STEPS)を25Bcm(約1,800万トン)下回っている。これはインドの潜在的なガス需要は高いが、足元の天然ガス促進政策や価格水準ではガス産業をインド政府の目標通りに発展させることは難しいという見方を示しているのではないか。

(出所:IEA WEO2021)
4. 日本企業、メジャーズによるインドのガスサプライチェーンへの参加
4-1. インドの天然ガス需要で増加が見込まれる都市ガス(CGD)
現在インドにおいて天然ガスは化学肥料や精製・石化の原料として5割近くが消費され、都市ガスや発電はそれぞれ消費の2割弱である(図11)。しかしPNGRBの“National Gas Grid Technical Assessment”による分野別の天然ガス需要見通しを見ると、BAU、ACUのいずれについても、もっとも増加が見込まれるのは都市ガス分野(City Gas Distribution:CGD)である(図12)。
都市ガス(CGD)は首都デリーや工業都市ムンバイのある西北部(グジャラート州、マハラシュトラ州)で主に利用されている。PPACによると2022年5月末時点の需要家件数は家庭用9,521,446件、商業35,282件、工業が13,495件であり、家庭用は67%が上記3地域に集中している。
2030年度の都市ガス需要見通しはBAUでは2021年度に比べ20Bcm(1,500万トン)増加し32Bcm(2,300万トン)となる。2030年度から2040年度にかけてさらに25Bcm(1,800万トン)増加し57Bcm(4,200万トン)となる。ガス利用が加速し2030年度にエネルギー消費の15%を天然ガスとする政府目標に基づくACUでは2030年度の都市ガス需要見通しは2021年度に比べ34Bcm(2,500万トン)増加し47Bcm(3,400万トン)となる。2030年度から2040年度にかけてさらに53Bcm(3,900万トン)増加し100Bcm(7,300万トン)となる見通しである(図12)。

(出所:石油・天然ガス規制委員会PNGRBに基づきJOGMEC作成)

(出所:PNGRBに基づきJOGMEC作成)
4-2. 知見を活かしインドの都市ガス事業に参加する日本のガス会社
インドでは都市ガスを普及させるためにPNGRBが普及エリア(Geographical Area;GA)を設定し、計11回都市ガス事業権(導管接続、CNGステーション設置)入札を実施している。2018年11月に実施した第10回入札までに230のGA(人口の70.86%をカバー)が対象となっており、国営石油会社ではGAIL、IOC、Bharat他が、民間・外資ではAdani、AGP、IRM、Torrent等が事業権を得ている(図13)。大阪ガスはシンガポール企業AGPと、静岡ガスはインド企業IRMとの提携を通じ都市ガス事業への進出を図っている。

(出所:PPAC・PNGRBに基づきJOGMEC作成)
4-2-1. 大阪ガスはシンガポール企業と提携しインド都市ガス事業に参加
2021年12月20日、大阪ガスは都市ガス調達・供給などを手掛けるシンガポール企業AGPがインドで行う都市ガス事業に参画したと発表した。(JOIN)と共同でAGPの持ち株会社に最大6,500万ドル出資すると報じられた。大阪ガスは2019年7月に子会社のOsaka Gas Singapore Pte. Ltd.を通じ、AG&P International Holdings Pte. Ltd.(AGP・IH)と資本提携した。AGP・IHに対し日本の官民ファンド海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)と共同で出資を行った。大阪ガスのプレスリリースによると、AGPは、1900年創立のエンジニアリング事業会社として、石油化学プラント、鉱業分野、電力分野、LNG分野等のモジュール製作事業をグローバルに展開しており、2015年以降インドを中心とした中・小型のLNG受入基地事業や、同国における都市ガス事業に出資参画し、LNG中・下流関連事業を展開している。
2022年7月28日の日経で大阪ガスがインドでのガス販売事業を本格化する、資本参加したシンガポール系の企業(AGP・IH)が現地で自動車や工場向け販売を開始したと報じられた。2030年までに150カ所のガス中継基地を建設するなどインフラを整備してガス販売を増やし、総投資額は30億ドル(約4,000億円)を見込む。大阪ガスは2022年5月にデリーに現地法人を設立しており、8月にも現地へ5人程度を派遣して技術などのノウハウを供与。現地でのガス販売拡大を後押しするとのことである。
4-2-2. 静岡ガスは地場企業との提携を通じ都市ガス事業に参画
2021年12月20日、静岡ガスはインドで天然ガス供給事業に参画すると発表した。グジャラート州と北部パンジャブ州において、自動車用圧縮天然ガス(CNG)ステーションや工場、家庭に対し、都市ガス導管を通じたガス供給を行っているIRMに出資し、資本提携することで基本合意した。
4-3. メジャーズのガスサプライチェーンへの参画
メジャーズは国営あるいは民間とLNG受入基地への出資・トレーディングの他、LNG輸送燃料、さらには再生可能エネルギーを含むハイブリッドな提携関係を構築している。なかでもTotalEnergiesとインドのコングロマリットAdani GroupとのLNGバリューチェーンから再生可能エネルギー、グリーン水素に至る幅広い提携は注目に値する。
【ExxonMobil/Indian Oil、GAIL(LNG輸送燃料)】
ExxonMobilはPetronetと豪GorgonのLNG長期売買契約を結んでいる。またIndian Oilと提携し、ガスパイプラインに接続していない地域の消費者にトラックでLNGを配送している。GAILともトラックや燃料補給用の輸送燃料としてのLNGの利用を検討中である。
【Shell(LNG受入基地、LNG輸送燃料、再生可能エネルギー)】
Shelllはメジャーズで唯一インドのLNG受入基地(Hazira)に出資、操業中である。2021年1月にHazira基地で小規模LNG供給インフラとして同国初のトラックローディングユニットを設置した。
2022年4月、Shell Overseas InvestmentはロンドンベースのプライベートエクイティActisからインドSprng Energyを保有する Solenergi Powerを15.5億ドルで買収した。Sprng Energyは西部Maharashtra州に拠点があり290万kWの太陽光・風力発電設備(うち稼働中210万kW)を保有しており、インド国内に電力を供給している。
【TotalEnergies/Adani(LNG、再生可能エネルギー、グリーン水素)】
2018年にTotalはインドのコングロマリットAdani GroupとLNG受入基地からマーケティングについて提携することで合意し、都市ガス事業を展開しているAdani Gasの株式37.4%を取得した。Adaniは都市ガス供給事業の他、稼働中のMundra受入基地に出資している。またTotalEnergiesはAdaniと共同でDhamra(ダムラ)LNG受入基地(建設中、年500万トン)に出資している。
2020年にTotalEnergiesはAdani Green Energy Ltd(AGEL)株式20%と、稼働中の太陽光発電資産のポートフォリオ235万kWの株式50%を25億ドルで取得した。2022年6月にはAdani New Industries Ltd.(ANIL)株式25%を取得した。Adaniによると、ANILは今後10年間、グリーン水素に500億ドル以上を投資する意向で、初期開発段階として2030年までに年間100万トンの生産を目指す。TotalEnergiesのPouyanne会長兼CEOはANILへの参入は低炭素水素戦略の実施における大きなマイルストーンである。2030年までに同社の欧州製油所で使用する水素を脱炭素化するだけでなく、この10年間で市場が本格化するグリーン水素の大量生産を先駆的に行い、需要に応えたいと考えている。今回の合意により、Adaniグループとの提携がさらに強化され、インドの豊富で低コストの再生可能エネルギーの潜在力の価値化に貢献できることを嬉しく思う。この将来のグリーン水素の生産能力年100万トンは、バイオ燃料、バイオガス、水素、e-fuelとともにTotalEnergiesの2050年までのエネルギー生産・販売に占める脱炭素化の割合を25%まで高めるための大きな一歩となると述べた。

(出所:各種情報に基づきJOGMEC作成)
おわりに
インドは経済成長に伴うエネルギー需要増大への対応や大気汚染対策のため天然ガスの利用拡大を進めており、1次エネルギーに占める天然ガスの割合を2030年までに15%に高める目標を設定している。潜在的なガス需要は高いが足元の需給が示すように現在の価格水準でガス産業(特に工業、発電分野)を発展させることは難しい。2025年前後のガスの谷を越え、世界のガス供給が拡大し、利用しやすい価格水準となることがインドのガス産業発展の転機となろう。
インドにおいてもっとも需要の増加が見込まれるのは都市ガス分野である。大阪ガスや静岡ガスが知見を活かし、都市ガス事業に参画しようとしている。
2022年7月、日米豪印四か国の枠組み「クアッド」エネルギー相会合においてアンモニアなど次世代エネルギーの技術開発や普及を協力して進めることで一致した。今後は日印の次世代エネルギーにおける提携にも期待したい。
以上
(この報告は2022年8月5日時点のものです)