ページ番号1009439 更新日 令和4年8月15日

(短報)ロシア:サハリン1を含む外国企業が保有する燃料エネルギー産業等の指定会社株式に関連する取引を年末まで禁止する新たな大統領令を発出

レポート属性
レポートID 1009439
作成日 2022-08-10 00:00:00 +0900
更新日 2022-08-15 13:40:07 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業探鉱開発
著者 原田 大輔
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 5
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2 アジア
国2 日本
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシアアジア,日本
2022/08/10 原田 大輔
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要旨

  • 8月5日、サハリン1プロジェクトも対象として明示する新たな大統領令「複数の外国及び国際組織の非友好的な行動に関わる燃料エネルギー分野における特別経済措置の適用について」(第520号)が発出された。非友好国の外国企業が保有する燃料エネルギー産業及び金融分野における戦略的企業の株式の年内中の売却を禁じる内容。期限は2022年12月31日まで。
  • 今回の大統領令に表れているロシア政府の意図は、外資が表明し、実行に移しつつある撤退に向けた行動を止め、ロシア連邦の国益を保護することにあるとされている。国益の保護とは、ロシアに裨益(ロシア企業の利益・政府の歳入の点で)するそれらプロジェクト・事業の円滑な操業を継続・維持するため、外資に対してプロジェクトの円滑な操業・生産の継続を要求していると考えられる。

 

1. 概要

8月5日、サハリン1プロジェクトも対象として明示する新たな大統領令「複数の外国及び国際組織の非友好的な行動に関わる燃料エネルギー分野における特別経済措置の適用について」(第520号)[1]が発出された。

非友好国の外国企業が保有する燃料エネルギー産業及び金融分野における戦略的企業の株式の年内中の売却を禁じる内容で、措置の具体的対象は、ロシア法人の定款資本への出資分、有価証券の所有、利用もしくは処理に関する権利の変化、並びに、生産物分与協定(以下、PSA)、合弁活動に関する協定もしくはそれに基づきロシアにおける投資プロジェクトが実施されている法的文書で規定されている権利と義務の所有、行使もしくは処理に関わる権利の変化に直接的もしくは間接的につながる取引である。また、期限は2022年12月31日までと区切られているが、ロシア連邦大統領によって繰り返し延長され得るとされている。また、対象となるものとして、以下の5つのカテゴリーが挙げられており、サハリン1及びハリヤガの両PSAプロジェクトも名指しされている。

  1. 2004年8月4日付大統領令第1009号「戦略企業及び戦略株式会社のリスト承認について」によって承認された戦略企業及び戦略株式会社。
  2. サハリン1及びハリヤガPSAプロジェクト。
  3. 燃料エネルギー産業に関連するメンテ会社(エンジニアリング企業)。  リストは追って明らかに。
  4. ロシアの金融機関の定款資本を構成する株式。 リストは追って明らかに。
  5. ロシア連邦の領域内にあり、炭化水素資源(原油2,000万トン(約1.5億バレル)以上あるいは天然ガス20BCM以上、あるいは石炭3,500万トン以上の石炭の可採埋蔵量を持つもの)等。

同大統領令では、既に6月30日発出の大統領令(第412号)で規定されたサハリン2プロジェクトは対象でないことが明言されている。また、「本大統領に違反し行われた取引は無効とみなされ、それらの所有者は自らの保有分に関する権利を喪失することになる」と記されている一方で、大統領の特別な許可に基づき実施される取引は、禁止の対象外となるとも記されている。

 

<参考>大統領令(第520号)抄訳

(注)及び太字は筆者加筆。

複数の外国及び国際組織の非友好的な行動に関わる金融・燃料エネルギー分野における特別経済措置の適用について

アメリカ合衆国並びにこれに加わった外国国家及び国際機関がロシア連邦市民及びロシア法人に対する制限措置を発動するために行った非友好的で国際法に反する行動に関連して、ロシア連邦の国益の保護を目的として、連邦法2006年12月30日付第281-FZ号「特別経済措置及び強制措置について」、同2010年12月28日付第390-FZ号「安全について」及び同2018年6月4日付第127-FZ号「アメリカ合衆国およびその他の外国国家の非友好的行動への対応措置」に従い、以下を決定する:

  1. 2022年12月31日まで、ロシア連邦、ロシア法人及び個人に対して非友好的な行動を行う外国国家と関係のある外国人(個人がこれらの国の国籍、住所登録、主な経済活動地を持つ、あるいは主な収益源がこれらの国家である場合を含む)、及びそのような外国人の支配下にある者が、証券、持分、権利及び義務を持つ場合、ロシア法人の証券、ロシア法人の定款資本(準備金)を成す参加持分、生産物分与契約、合弁契約、あるいはその他ロシア連邦領内で投資プロジェクトを実施している契約の参加者が保有する参加シェアの保有権・利用権及び(あるいは)処分権を直接的及び(あるいは)間接的に設定、変更、停止あるいは担保差し入れを伴う取引(オペレーション)を行うことを禁止する。
  2. 大統領令第1項に定める禁止事項は、下記取引(オペレーション)に適用されるものとする:

(ア) 2004年8月4日付大統領令第1009号「戦略企業及び戦略株式会社のリスト承認について」によって承認された戦略企業及び戦略株式会社のリストに含まれる株式会社の定款資本金を構成する株式;

(イ) 本項第(ア)号に示す株式会社が直接的または間接的に株式、持分(出資)を保有する事業体の定款資本を構成する株式、持分(出資);

(ウ) サハリン1プロジェクト(サハリン島大陸棚のチャイヴォ、オドプト、アルクトゥン・ダギ油ガス田)の生産物分与契約及びハリヤガ油田の開発・生産物分与契約の参加者に属する参加持分、権利及び義務

(エ) 燃料エネルギー産業の組織のための機器製造者、そのような機器のメンテナンス及び修理サービスを提供する事業体、熱エネルギーと(あるいは)電力を生産・供給する事業体、石油及び原油を精製し、精製品を生産する事業体の株式、持分(出資)。対象となる事業体のリストは、ロシア連邦政府の助言により、ロシア連邦大統領により承認される;

(オ) ロシアの金融機関の定款資本を構成する株式、持分出資。そのリストは、ロシア連邦中央銀行と合意したロシア連邦政府の助言に基づき、ロシア連邦大統領によって承認される;

(カ) 下記の利用者である事業体の定款資本を構成する株式、持分(出資金):

  • ロシア連邦の領域内にあり、炭化水素資源(原油2,000万トン以上あるいは天然ガス20BCM以上、あるいは石炭3,500万トン以上の石炭の可採埋蔵量を持つもの)、ウラン、極めて純粋な水晶原石、希土類イットリウムグループ・ニッケル・コバルト・タンタル・ニオブ・ベリリウム・銅の鉱床が賦存する地下資源鉱区;
  • ロシア連邦の領域内にあり、ダイヤモンドの一次鉱床、金・リチウム・白金族金属の一次(鉱石)鉱床である地下資源鉱区;
  • ロシア連邦の内海、領海、大陸棚下の地下資源鉱区。
  1. 本大統領令で定める禁止事項は、2022年6月30日付大統領令第416号「複数の外国及び国際組織の非友好的な行動に関わる燃料エネルギー分野における特別経済措置の適用について」(注:サハリン2プロジェクトを対象とした大統領令[2]、及び2022年7月14日付連邦法第320-FZ号「国家および地方自治体の資産民営化に関する連邦法の改正について」によって規制される法的関係、財産関係規制を設定するロシア連邦の特定の法令(これら大統領令に基づいて実施される取引(オペレーション)及びこれら連邦法に従って外国法人の支社(駐在員事務所)を有限責任会社の形態に再編することに伴って実施される取引(オペレーション)を含む)には適用されない。
  2. 本大統領令の規定に違反して行われた取引(オペレーション)は無効とする。本大統領令の第1項に挙げられた取引(オペレーション)が本大統領令の規定に違反して行われた場合、ロシア法人の証券、ロシア法人の定款資本(準備金)を構成する持分(出資)、生産分与契約の参加者が保有する持分は、ロシア連邦法、生産分与契約、合弁契約及びその他の契約によって規定される権利の所有者に与えられないものとする。
  3. 本大統領令で禁止されている取引(オペレーション)は、ロシア連邦大統領の特別決定に基づいて実施され得る。
  4. 本大統領令で定める制限の有効期限は、ロシア連邦大統領によって繰り返し延長されうる。
  5. ロシア連邦政府は、10日以内に、下記をロシア連邦大統領の承認を得るために提出すること。

(ア) 本大統領令第2項(エ)に基づく事業体リスト。

(イ) 本大統領令の第2項(オ)に基づくロシアの金融機関のリスト(ロシア連邦中央銀行との合意の下)

  1. 本大統領令は、その公布の日から施行される。

ロシア連邦大統領 V.プーチン

モスクワ、クレムリン
2022年8月5日
第520号

 

2. 今回の大統領令に関する特記事項

今回の大統領令に表れているロシア政府の意図は、外資が表明し、実行に移しつつある撤退に向けた行動(「外国国家及び国際機関がロシア連邦市民及びロシア法人に対する制限措置を発動するために行った非友好的で国際法に反する行動」と記載)を止め、ロシア連邦の国益を保護することにあるとされている。国益の保護とは、それらプロジェクト・事業の円滑な操業を継続・維持するために、外資に対してプロジェクトの円滑な操業・生産の継続を要求し、それが、ロシアに裨益(ロシア企業の利益・政府の歳入)すると考えていると言えるだろう。言い換えれば、外資の相次ぐ撤退によって募るロシアの焦燥感が表れてきた大統領令とも考えられる。

 

(1) サハリン1及びハリヤガ両PSAプロジェクトの名指し

7月7日、ロシア政府は初めてサハリン1が直面している深刻な問題の存在を公に認めた。トルトネフ副首相が、「導入された制限の影響を受け、(6月の)サハリン1の石油生産量は22分の1にまで減少した」との発言を行った。3月1日、ExxonMobilがプロジェクトからの撤退するプロセスを開始したことを表明し[3]、自社の専門家たちを引き揚げ始めてから、生産量は急激に低下していることを指摘しており、6月の平均日産量は6,000バレルを下回った(通常は日量22万バレル程度)と言う。コメルサント紙は「米国とEUの制裁の結果プロジェクトへの設備機器の納入が制限されることになった。その結果、大陸棚のプラットフォームのメンテナンスに支障が生じている」という関係者の話を伝えている[4]

 

大統領令が出る前日、Rosneftは以下の要点での「会社声明」としてプレスリリースを発表している。このプレスリリースのタイミングや内容からは今回の大統領令発出の背後には、当然ながらロシア政府と密に連絡を取り、対応措置を協議している同社の姿も浮かび上がって来る。

Rosneft社会社声明

2022年8月4日付け

  • ExxonMobilがサハリン1プロジェクトの運営を別の当事者に譲渡しようとしているという情報に鑑み、Rosneftは以下の声明を出さなくてはならない。
  • 3月1日、ExxonMobilは(ロシアにおける)活動終了とロシアでの全てのプロジェクトからの撤退を発表した。4月26日、同社は一方的に、サハリン1プロジェクトの他の利害関係者と協議することなく、生産の段階的な縮小を開始した。5月6日、デ・カストリ石油ターミナルからの石油を積んだ最後のタンカーが出荷された。5月15日時点で、プロジェクトのオペレーションは事実上停止している。
  • 本日時点で、デ・カストリ石油ターミナルの貯蔵タンクレベルは95%。石油の出荷は行われていない。
  • ロシア連邦政府、エネルギー省及びサハリン州政府は、他のプロジェクト株主と共に、サハリン1プロジェクトでの生産活動を回復するための努力をしてきた。それにも拘わらず、残念ながら、現時点ではプロジェクトの生産は回復していない。
  • Rosneftは、Exxon Neftegas Limitedからプロジェクトのオペレータ機能を譲渡するために下された決定に関する情報を全くもたらされていない。
Rosneft社会社声明
出典:Rosneft社HP

 

ハリヤガ油田に関しては、欧米企業ではノルウェーのEquinorが保有する全権益30%をロシア国営Zarubezhneftへ譲渡することで既に合意に達していた(当初譲渡先は公開されず)[5]。ハリヤガ油田権益譲渡合意を受けて、Equinorは、5月25日、ロシアに進出してきたエネルギー会社としては初めて、ロシア事業からの完全撤退を発表している[6]。同プロジェクトに残る外資パートナーであるフランスのTOTAL Energiesも、7月初旬に保有する権益(20%)を、Equinor同様にZarubezhneftへ譲渡する方向で交渉を進めていることが明らかになっていた[7]。最終的に7月26日にミシュースチン首相がEquinor及びTOTAL Energiesの権益をZarubezhneftに譲渡する政府令を出している[8]。なお、これはZarubezhneft及びロシア政府関係機関に国営企業の資産管理手続き上で出されたもので、接収ではない。報道情報によれば、これら取引は資金の流れを伴わないもので、外資のハリヤガ・プロジェクトにおける投資義務を解除することを前提にしているとのことである。つまり、今回の大統領令は、一度は政府が譲渡を認めたものの、年末までその取引完了を凍結するという形を創り出していることになる。

今回の大統領令の背景にあるロシアの意図を読み取るとすれば、少なくともこれら2つのプロジェクトについて言えることは、外資撤退によって操業に問題が生じないよう、外資に対してプロジェクトの円滑な操業・生産の継続を要求していることが主眼にあると推察される。サハリン1については足元の生産状況に対する喫緊の課題への対処措置であり、ExxonMobilによる、ロシア側にとってみれば身勝手な撤退方針とプロセスの開始によって危ぶまれている操業に対して、再考を促すべく、年末まで同社の撤退をロシア側から凍結するものだ。ハリヤガ油田に関しては生産規模も小さく(日量2万バレル程度)、陸上油田であり、欧米メジャーなくとも操業に問題があるという情報は出てきていないが、譲渡前のオペレータであったTOTAL Energiesに対し、操業が停滞しないよう、新たなオペレータであるZarubezhneftと共に円滑な引継ぎを行うよう促しているものと見ることもできる。

 

(2) その他ロシア側の見方等

対露制裁で凍結されているロシア資産について、ウクライナ復興のための資金としての活用に関する議論が始まっている。7月4日にはスイス・ルガーノで開催された40カ国が参加した国際会議でウクライナを長期的に支援するための原則を盛り込んだ「ルガーノ宣言」を採択している。ウクライナのシュミハリ首相は同会議でウクライナの復興計画に必要な金額は推計で7,500億ドルにのぼり、主要な財源として、接収したロシアの資産を挙げたが、スイスのカシス大統領は慎重な姿勢を示していた[9]。今回の大統領令は、もし欧米諸国によって凍結されているロシア資産の流用が始まるような場合を想定し、外資を撤退させず、ロシア政府がそのような事態に対し、対抗できるカードを手元に置いておくためのものという見方もある。

 


[1] ロシア連邦大統領令(第520号):http://en.kremlin.ru/acts/news/69117(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[2] 拙稿「ロシア:サハリン2プロジェクトを対象にロシア法人への移管を求める大統領令を発出」(2022年7月6日):
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009403.htmlも参照されたい。

[4] コメルサント(2022年7月7日)

[5] コメルサント(2022年5月25日)

[7] コメルサント(2022年7月6日)

[8] PON(2022年7月27日)

[9] CNN(2022年7月4日)

 

以上

(この報告は2022年8月10日時点のものです)

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