ページ番号1009447 更新日 令和4年8月26日

米国の水素動向

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レポートID 1009447
作成日 2022-08-26 00:00:00 +0900
更新日 2022-08-26 10:00:02 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 環境基礎情報
著者
著者直接入力 ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院生(機構ワシントン事務所インターン生) 疋田 文子
年度 2022
Vol
No
ページ数 20
抽出データ
地域1 北米
国1 米国
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
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地域9
国9
地域10
国10
国・地域 北米,米国
2022/08/26 ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院生(機構ワシントン事務所インターン生) 疋田 文子
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概要

米国は豊富な地下資源と、これまで天然ガスなどで蓄積してきたインフラを活用し、水素生産をリードしている。これまでは、化学業界向けに主に使用されてきたが、バイデン大統領が宣言した「2030年までに二酸化炭素排出量を2005年比で50〜52%削減する」という目標を受けて、脱炭素化・電化が難しいセクターでの水素活用が注目されている。そのため、近年、米国政府が水素エネルギーの拡大のための目標を明確にし、多額投資を決定。今後、水素ハブと言われる大型生産拠点を全国に設置し、さらなる水素経済(生産・貯蔵・活用)を増加させようとしている。水素がもたらす米国経済への影響は大きく、2050年までに年間推定$7,500億の収益と、累積で340万人の雇用につながる可能性があり、各州政府・企業・研究機関もこの流れに乗るべく、各自、水素生産拠点の設立計画と水素エネルギー活用を進めている。しかし、さらなる拡大には水素輸送パイプラインの建設などインフラ面での大きな課題が残る。また、米国が注力しているのは、低炭素排出製法で生成する「クリーン水素」であり、こういった製法を低コストに実現するための技術開発も引き続き必要である。供給側だけでなく、強い需要を生み出すための水素エネルギーを活用したアプリケーションの拡大、水素取引市場・価格メカニズムの開発など、対応しなければならないことはまだたくさん残っている。

 

1. 米国の水素事情

米国は、水素および関連技術の研究開発の最前線に立ってきた。米国航空宇宙局(NASA)は、1950年代にロケット燃料として液体水素の使用を開始した[1]。水素技術における米国政府プログラムの起源は、エネルギー安全保障と外国の石油への高い依存からおこったオイルショックのあった1970年代半ばまでさかのぼる。1990年のSpark M. Matsunaga水素研究開発実証法、2005年のエネルギー政策法(EPACT)など、長年にわたり多くの法定当局と連携して、水素および関連技術に関する強力な研究開発活動を確立してきた[2]。2020年、主要な石油・ガス、電力、自動車、燃料電池、および水素の企業の連合が集まって、米国の水素経済へのロードマップを作成した。それには、2050年までに米国の水素経済が年間推定$7,500億の収益と、累積で340万人の雇用につながる可能性があると結論付けた。産業は、複数の地域で大規模な水素プロジェクトに投資し始めている。水素は、米国経済の脱炭素化、特に鉄鋼、セメント、肥料の生産、大型長距離輸送、建物の暖房などの「脱炭素化が難しい」とされる分野の重要な技術として広く認識されている。

現在の米国の水素生産量は、年間約1,000万トン。生産量の約95%が天然ガスの集中型スチームメタン改質(SMR)によるものである。米国で生産されるほとんどすべての水素は石油精製およびアンモニア生産の化学原料として利用され、メタノール生産などの他の産業用途でも少量が使用されている。それらの輸送方法は民間の水素生産者が所有する1,608マイルのパイプラインであり、その90%以上が大規模な水素ユーザーが集中しているテキサス、ルイジアナ、アラバマの湾岸沿いに位置し、この地域の製油所とアンモニアプラントにサービスを提供している[2]。(Figure 4)

(Figure 4)Gaseous Hydrogen Production units in the United State
(Figure 4)Gaseous Hydrogen Production units in the United State
(レポート「Department of Energy Hydrogen Program Plan」より抜粋)

水素の大きな特性は、汎用性の高さであり、電力供給源として発電用途にも使用できるほか、大規模な輸送や蓄電池などの最終用途にも使える。つまり、一次エネルギーとしても二次エネルギーとしても利用可能である。米国はこういった利点に目をつけ、水素のエネルギー源として可能性と高い汎用性が、今後米国のエネルギーシステムの重要な側面なると位置付けている[3]。米国の水素生産の特徴として、「水素ハブ」とよばれるクリーン水素をコアとする工業用水素施設(水素の生産や加工、配送、貯蔵を地理的に集積)を各地に設立しようとしている。水素ハブで大量に水素を生産し、国内でのサプライチェーンから国外向けの輸出まで対応できるようにと考えている。最低4カ所、最高で10ヵ所で地域的クリーン水素ハブの開発を支援すると発表しており、今年10月まで募集をし、連邦政府が2022~2026年の5年にかけて$80億の予算を投入する見込みとなっている[4]

 

資源

米国は多様な国内資源により水素をエネルギー源とする大きな機会がある。米国全体でシェールガスが広く利用可能(Figure 5)であることに加えて、米国全土に広がる石炭(Figure 6)も炭素回収・貯留(CCS)と合わせて水素を生成することで、二酸化炭素(CO2)を排出せずに水素を生成できる。さらに、水素はスチームクラッカーから生成することもできる。スチームクラッカーとは、炭化水素原料(天然ガス液など)を熱分解によって軽質オレフィンに変換し、プロセス中に副産物として水素を生成する。米国のスチームクラッカーから年間350万トンの副産物水素を生産できると推定されており、この資源だけでも今日の水素消費量の35%を提供できるとされる。(Figure 7)また、スチームクラッカーから水素を生成すると、従来のSMRよりもライフサイクル全体で温室効果ガスの排出量が少なくなる(15%から91%)ことから、期待されている資源の一つである。[2]

レポート「Department of Energy Hydrogen Program Plan」より抜粋
(レポート「Department of Energy Hydrogen Program Plan」より抜粋)

生産

現在、米国の水素の約95%は、既存の大規模な天然ガス中央プラントから供給されるSMRによって生成されている。CCUSを使用して$2/kg未満で炭素を含まない水素を生産できる高度なシステムが、テキサス州ポートアーサーでのCCUSプロジェクトでの水素製造施設で実証された。今後、資本コストと運用コストのさらなる削減と、改質技術の研究により $ 1/kg未満での生産という目標を掲げている[5]

SMRのような確立された水素生成プロセスに加えて、電気、熱、またはフォトニックを使用し水を分解させて水素を生成する電解槽もある。特に電気を使用した水素生成は、電力網に結合することも、分散型電源資産と直接統合して、さまざまな最終用途向けの水素を生成することもできる。低温電解から生成される水素のコストは、電力コストに大きく依存する。現在、電気料金は$ 0.05~ $ 0.07 / kWhの範囲で、水素生成コストは$5〜 $ 6/kgとなる。低コスト電力の利用可能性(例えば、風力および太陽光電力からの$ 0.02~ $ 0.03 / kWhの範囲)は、電解槽技術の継続的な進歩と相まって、競争力のある生成プロセスになると予想される。また、再生可能エネルギーや原子力発電を使用した電気分解やその他の新しいアプローチを含む水分解プロセスは、温室効果ガスを発生させることなくクリーンに水素を生成できることから注目されている。大規模な集中型水素製造は、現在の原子力施設と同じ場所(Figure 8)に配置することで、送電距離を減らし、効率的に水素を生成できる。集光型太陽光発電のほとんどが、温暖な気候に恵まれている米国の南西部に位置(Figure 11)しているが、Figure9と10に示すように、風力発電と太陽光発電からの水素生産は、集中的生産と分散的生産の両方において、幅広い地理的オプションを提供し、米国のほぼすべての地域で大きな可能性を秘めている。また、その他の化学プロセスは、バイオマスや廃棄物の資源から直接水素を生成でき、固体バイオマスの潜在的な資源は主に米国の中央部と東部に位置(Figure12)している[2]

レポート「Department of Energy Hydrogen Program Plan」より抜粋
(レポート「Department of Energy Hydrogen Program Plan」より抜粋)

輸送

米国で生産された水素は90%がパイプラインで輸送される。水素パイプラインは、大きな需要(数千トン/日)があり、その需要が長期間(15〜30年)安定していると予想される地域でよく使用される。今日、1608マイルの専用水素輸送パイプラインは主に湾岸部に集中している。パイプラインは水素を輸送するための最もエネルギー効率の高いアプローチであるが、水素パイプラインは資本集約的という課題もある。今後の水素需要が大きく伸びる場合には、時間の経過とともに均等化発電原価(LCOE)が低くなる見込みがある。また、都市ガスのような天然ガスなどの既存のパイプラインに水素を混合することも可能とされている[2]

大量の水素を輸送するその他の方法として、液化水素をタンカーで大量に運ぶ方法がある。北米の既存の液化プラントは、生産規模が6~30トン/日までさまざまである。水素液化の現在のプロセスと技術は比較的成熟しており、液体窒素を使用してガス状水素を冷却し、次に予冷したガスを-253°Cで凝縮して液体になるまで圧縮および膨張させる。このプロセスは、資本とエネルギーの両方でコスト高い。この課題に対処するために、従来のアプローチの2倍の効率で水素液化を可能にすることが必要とされている。その他には、アンモニアなどの「化学水素」として運ぶ方法があげられる。これはパイプラインやタンカー船の港がない地域へ、陸路でより多くの水素を低コストで運ぶ可能性を提供する。化学水素の使用は商業化の初期段階にあり、これらの材料の水素運搬能力を高め、充放電率、可逆性、および全体的な往復効率を改善するために、さらなる開発・研究が必要とされている[2]

 

貯蓄

米国には数千トンの水素を貯蔵できる3つの岩塩ドームと8つの液化プラント(累積容量は1日あたり200トン超)があり、また今後3つのプラントが追加される予定である。水素は通常、気体または極低温液体として、「物理的プロセス」を使用して貯蔵される。その他の貯蔵方法として化合物に水素を組み込む「材料ベースのプロセス」として保管することもできる。長期間のエネルギー貯蔵用途には大規模な地層貯蔵される。岩塩ドーム、塩水帯水層、枯渇した天然ガスまたは石油の貯留層、および設計された硬岩貯留層内などが使用される。例えば、テキサス州ボーモントにある工業規模の水素貯蔵用の岩塩ドームがあり、現在、湾岸の水素パイプラインシステムのバッファーとして機能している。さらに、ユタ州では地下の岩塩層が用いられ、5,500トン以上(発電電力量150GWh規模)の貯蔵能力を持つ2つの巨大な岩塩ドームにグリーン水素を貯蔵する世界最大のサイトがある。これにより、余剰の再生可能エネルギーを水素として蓄え、必要なときに送電網に電気として戻すことで、コストを抑えて再生可能エネルギーを無駄なく活用することができる[2]

 

2. 連邦政府の対応

クリーンな水素の開発と展開は、バイデン政権の気候目標を達成するための連邦戦略の重要な側面である。米国では、2021年11月に連邦議会が超党派で成立させたインフラ投資および雇用法(IIJA)に含まれる電力インフラ/クリーンエネルギー分野への$730億の投資の中にクリーン水素の開発・導入の支援も含まれている。DOEが支援するとしている「クリーン水素」の定義は、「1kgの水素生産に対して、生産現場で生成されたCO2換算で2㎏以下の炭素強度で生成された水素」[6]とされており、この定義内である限り原料の種類はいとわないとされている。例えば、CCSを活用したブルー水素(天然ガスからの水素生成)はこの定義内であり、クリーン水素として扱われる。

 

エネルギー省(DOE)

連邦水素プログラムの中心的遂行は、DOE内の水素燃料電池技術局(HFTO)が進めている。IIJAは、$80億の水素ハブプログラム、$10億の電解プログラム、$5億の水素製造およびリサイクルイニシアチブを含む、水素開発のための産業規模のプログラムに資金を提供する。DOEは少なくとも4つの水素ハブにこれら合計$80億の資金を提供すると発表したiv。また、最大10ヵ所のハブをDOEが承認する可能性があり、その場合にはプロジェクトごとの連邦資金が少なくなると推測されている。

DOEが2016年から中心となって推進してきた「H2@Scale」というフレームワークがある。水素製造、輸送、貯蔵、利用等の多岐にわたる関係者が協力し、多様なエネルギー分野に横断的に利益をもたらすためのコンセプトである。この中で、国立研究所と産業界は国家プロジェクトの中で協力しつつ、水素に関する基礎研究から応用開発までを推進することとされている。

DOEウェブサイト『H2@Scale』より

DOEは、研究資金として2019年8月に約$4,000万、2020年7月に約$6,400万の資金を投入してきた[7]。2020年の支援策では、電解槽製造の研究開発や圧縮水素貯蔵タンク用の炭素繊維開発や燃料電池研究といったテーマが支援対象となり、素材メーカー世界大手の3Mなどが名を連ねている。2020年11月には水素研究の開発・実証計画である「Hydrogen Program Plan」をDOEが発表した。このプログラムで水素および関連技術の目標を定義した。例えば、$2/kgでの水素製造を可能にし、運輸アプリケーション向けに$2/kgで水素を提供、産業用・固定発電用には$1/kg水素を提供、長距離輸送トラック向けの25,000時間持続する$80/kWの燃料電池システムなど目標をあげた[7]。さらに、2021年6月には、水素を大規模に展開するためのフレームワーク「Hydrogen Shot」を発表し、クリーン水素のコストを 80%まで削減し、「$1 per 1 kilogram in 1 decade ("1 1 1")」というスローガンをあげた[5]。現在、再生可能エネルギーからの水素のコストは1キログラムあたり約$5であり、80%のコスト削減目標を達成することで、鉄鋼製造、クリーンなアンモニア、エネルギー貯蔵、大型トラックなど、水素の新しい市場を開拓することが期待されている。今年2月には、バイデン政権は産業部門における気候変動対策を推進し、クリーンな製造業の育成・支援を発表し、クリーン水素への取り組みを対象とした$95億(内訳:運輸・産業分野を対象としたクリーン水素ハブの開発に$80億、クリーン水素電解の研究開発に$10億、水素製造とリサイクルに$5億)の投資の開始[8]。また6月には、ユタ州にある世界最大のグリーン水素ハブの開発にDOEから債務保証が発行されたと発表された[9]

DOEの国立研究所が2050年までの水素の生産と需要をモデリングしたところ、水素需要の経済的可能性として22~41 百万トン /年の範囲を示すさまざまなシナリオを評価した。これは、2020年時点の需要の2~4倍といえる。このDOEのモデリングに加えて、20を超える業界パートナーの団体は、「ベースケース」シナリオとして2050年までに水素需要が2倍の2,000万トンに増加し、「野心的な」シナリオでは6倍の増加を予測した。これらの2つのシナリオに基づくと、水素は米国の総エネルギー需要の1%から14%を占める可能性がある[2]

レポート「Department of Energy Hydrogen Program Plan」より抜粋
(レポート「Department of Energy Hydrogen Program Plan」より抜粋)

安全規制

連邦政府は、政府が水素インフラの建設をどのように規制するかについて、明確な決定をしていない。水素パイプラインは、天然ガスパイプラインとは異なる枠組みであり、連邦政府は水素パイプラインの設置を直接規制していない。米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、州間の天然ガスパイプラインの設置を承認する役割を担っているが、現在、米国内で運用されている産業用水素インフラストラクチャは、運輸省(DOT)内で運用されているパイプラインおよび危険物安全管理局(PHMSA)の管轄下にあり、PHMSAは、水素パイプラインに適用される安全規制を公布している。今後の水素の拡大において、引き続きDOTが中心となって規制整備を進めていくと予想される。しかし、2021年9月、マーティンハインリッチ上院議員は、州間水素輸送と貯蔵の規制におけるFERCの役割について尋ねる手紙をFERC委員長に送り、水素の州間輸送に関連する規制事項の検討を開始するよう促している[10]

 

内務省(DOI)

DOIは米国領土の約30%に相当する連邦所有地を管理している。石油、ガス、水素パイプライン、および送電および配電の建設プロジェクトには、DOI配下の土地管理局のレビュー・許認可が必要である。土地管理局は公有地での石油と天然ガスの生産に対す監督責任があり、現在石油およびガス開発のためにリースされている約2,600万エーカーの地表があり、約24,000の生産リースに96,000を超えるアクティブな井戸がある。化石燃料資源を使用した水素生成で必要になるCCSのためのパイプラインや炭素貯留でも土地管理局の責任が重要になる[11]

 

内国歳入庁(IRS)

IRSは代替燃料にかかる連邦燃料税を免除している(輸送用燃料に対する物品税の責任を負わない免税事業体には不適用)[12]。IRSが非課税とみなす代替燃料は、プロパン、天然ガス、液化水素、Fischer-Tropschプロセスを通じて石炭から得られる液体燃料、バイオマスから得られる液体炭化水素、およびPシリーズ燃料(ガソリンの代替使用できる再生可能な非石油液体燃料)と定義している。バイオディーゼル、エタノール、および再生可能ディーゼルは含まれない。「炭化水素」という用語には、酸素、水素、および炭素を含む液体が含まれ、「バイオマス由来の液体炭化水素」には、エタノール、バイオディーゼル、および再生可能ディーゼルが含まれるが、IRSはこれらを代替燃料の定義から明確に除外している[13]

 

その他省庁

米国環境保護庁(EPA)、運輸省(DOT)などが、駐車施設、公立学校、公立公園、または公道沿いなど、教育・コミュニティーでの代替燃料(天然ガス、水素、プロパン、またはバイオ燃料)への転換及び、インフラストラクチャ取得と設置の助成金を提供している。

 

3. 州政府の対応

米国では、多くの州が水素ハブの創出を進めており、複数州による連携も急速に広がっている。各州の連携状況は次のとおり。

  • 東部:ニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州、マサチューセッツ州
  • 西部:コロラド州、ニューメキシコ州、ユタ州、ワイオミング州
  • 南部:ルイジアナ州、オクラホマ州、アーカンソー州
  • 単独での取り組み:カリフォルニア州、ワシントン州、アリゾナ州、ノースダコタ州、ケンタッキー州、ネブラスカ州、イリノイ州、ペンシルベニア州、ウェストバージニア州、オハイオ州など[14]

 

以下、水素への対応について積極的に進めている、主要な州政府の対応を紹介する;

カリフォルニア州

カリフォルニア州は「2045年までにカーボンニュートラルになる」という目標から、「2030年までにカリフォルニアで1日あたり15,000トンのクリーン水素を生産または使用する」という明確な目標を設定している[15]。州議会は、クリーン水素経済を支持するいくつかの法案をすでに導入しており、温室効果ガスの削減や気候変動の緩和に向けた目標達成の手段として、水素の活用を推進することを主眼とした、「クリーン水素法案」と呼ばれる法案が州上院議会で審議中である。カリフォルニア州の経済における代替燃料としてのクリーン(グリーンとも呼ぶ)水素の重要性が大幅に高まる。州政府は、同法案が成立すれば、「カリフォルニアクリーン水素ハブ基金」を創設し、州の補助金を「クリーン水素プロジェクト」に利用できるようにする。同州の豊富な再生可能エネルギー資源(太陽光発電・風力発電)を使用したクリーン水素に重点をおいており、さらに、水素の生成・サプライチェーン・アプリケーションまで、包括的な水素経済をカバーしようとしている。例えば、水素生産では、カリフォルニア州エネルギー委員会(CEC)のクリーン輸送プログラムは、カリフォルニア州の再生可能エネルギー資源から100%クリーンな水素を生産する水素施設を設計、建設、設置、テスト、運用・保守する。施設が建設され稼働すると、輸送用燃料に利用される100%クリーンな水素の供給源になる。プロジェクトは、小型・中型・大型のあらゆるオンロード燃料電池電気自動車(FCEV)で使用するために、カリフォルニアの規制を満たす水素燃料を生成する[16]

天然ガス供給者であるSoCalGas社は、カリフォルニア州で初めてとなる水素パイプラインプロジェクト「Angeles Link」の建設承認をCECに出している(今年末までに承認される予定)。多くの風力・太陽光発電所のあるロサンゼルス郊外で水素が生成され、高エネルギー需要のあるロサンゼルス中心部まで、Angel lineによって効率的にクリーン水素を輸送する。このパイプラインにより運ばれた水素は、発電所への電力供給、エネルギーの貯蔵、FCEVへの燃料供給に使用できる[17]

FCEVについては、CECから車両免許料を通じて年間$2,000万の資金が提供されている。カリフォルニア州は、2023年末までに水素プロジェクトに約$2億3,000万を費やす予定と示している。今年6月時点で全国には48の小売水素燃料ステーションがあり、そのほとんどがカリフォルニア州にあり、さらに追加で数十の水素ステーションが建設中である[18]。2021年の終わりには、10,127台のFCEVがカリフォルニアの道路で走行しており、インセンティブと補助金によって、翌5年間で50,000台の小型FCEV増加と2030年までに1,000台の水素ステーションのネットワークの拡大を想定している[19]

日本企業もカリフォルニアで水素プロジェクトに取り組みを始めている。豊田通商グループのプロジェクトにて、株式会社三井E&Sマシナリー、PACECO CORP、日野自動車株式会社、Hino Motor Manufacturing U.S.A., Inc.の4社と共同で今年2月から、米国最大規模を誇るロサンゼルス港と隣接するロングビーチ港で、港湾の実使用環境下において、FC化した港湾荷役機械とドレージトラックおよび水素製造・供給設備を約3年間かけて、長期運用する世界初の実装実証事業を進めている[20]

 

テキサス州

テキサスは、米国での既存の水素生成・消費の大部分を行っている。テキサス海岸には1,600マイルの水素パイプラインがあり、その多くは天然ガスから改造されている。テキサス以外の州では、水素固有のパイプラインが3〜5マイルしかない[21]。同州には豊富な再生可能エネルギーと低コストの天然ガス、既存の水素生産能力、水素とCO2を貯蔵するための有利な地層、地域の水素需要など、多くの利点がある。さらに、その広範な石油とガスおよび水素パイプライン、水素貯蔵、岩塩ドーム、および開発された港湾インフラストラクチャの経験を考えると、費用効果の高い水素輸送および貯蔵の開発において利点がある。また、テキサス州を拠点にしている大手の石油企業が、これまで築いてきたインフラネットワークを生かし水素事業へ乗り出してきている。

テキサス州は、カリフォルニア州とは異なり、州政府が積極的に水素プロジェクトを推進するのではなく、各公益企業・団体や民間企業が率先して水素プロジェクトを進めている。例えば、テキサス大学オースティン校のEnergy Instituteは複数の企業スポンサーと一緒に「H2@Scale in Texas and Beyond」という3年間のプログラムを今年開始した。これには、天然ガスを使用した水素生成(ブルー水素)、CCS、燃料電池技術、天然ガスとの水素混合、および余剰の風力エネルギーを使った貯蔵用水素液化を含むアプリケーションの調査が含まれる。さらに、米国テキサス州の電力会社Entergy Texasはテキサス州南東部の電力需要増に対応するため、水素と天然ガスの両方を燃料として使用できる121.5万kWの火力発電所の建設について認可取得の作業を開始した(テキサス州公益事業委員会に発電所建設のための承認待ち)[22]。また、米国石油大手エクソンモービル(本社:テキサス州アービング)は今年3月、テキサス州ベイタウンの複合施設での水素製造とCCSを計画していると発表した。同計画では、1日当たり最大約2,830万立方メートルのブルー水素を生成するとしている。また、CCSについては、新たに年間最大1,000万トンのCO2輸送・貯留が可能になるとし、これにより同社の輸送・貯留能力は現在の2倍以上に増加するという[23]

 

ノースダコタ州

ノースダコタ州は世界最大の産油国である米国の原油を1割以上生産し、50州ではテキサス州に次いで2番目に多い。ノースダコタ州には「バッケン鉱区」があり、シェール革命を主導した地域であることから、天然ガスの生産も多いほか、石炭も多く産出する。同州は2030年までにカーボンニュートラルを目指しており、総額$3億の「クリーン持続的エネルギー基金」を設立し、水素事業を含むあらゆるクリーンエネルギー事業へ公的支援をしている[24]。例えば、同州で2027年までにCO2を回収・貯留し、年30万トン超の水素を生産する水素ハブ事業を、三菱重工業と米エネルギー会社バッケンエナジーが計画している。この総事業費は約$20億で、州政府が合計$9,000万を補助金と融資で支援する。さらに、同州は地下のCO2貯留能力が高く、州政府は米国の年間CO2排出量の50年分に相当すると指摘した。ノースダコタ州の地質学的特徴は今後の米国のカーボンニュートラルの動向に有利な条件にあり、成長の大成功を収めるよい機会と踏んでいる。連邦政府の支援策で、CCSは$45/トン程度の免税が受けられるほか、ノースダコタ州政府も独自の免税措置を導入した。CCS開発に関連するノースダコタ州政府の許認可手続きも加速している。2021年、バッケンエナジー社はノースダコタ州ビューラにあるグレートプレーンズ合成燃料プラントを買収することに合意した。これは、州内に$20億を超える低炭素水素ハブを開発する大規模な計画の一環で、バッケンエナジーは、ダコタガスを購入し、メタン自動熱改質(ATR)技術とCCUSを使用して低炭素のブルー水素を生成するように合成燃料プラントを再構成することに合意した。ノースダコタ水素ハブは2026年後半までに稼働する予定であり、合成燃料プラントは推定年間31万メートルトンの水素を生産する予定である。バッケンエナジーは、グリーンフィールドプロジェクトを建設するのではなく、ブラウンフィールドプラントを改造することで、通常10年は必要なリードタイムを半分に短縮できると見込んでいる。このプロジェクトは高度なATR技術を使用し、CO2排出量の95%を回収すると同社は語った。CO2回収率を最大化し、既存の合成燃料プラントのインフラストラクチャとプロセスを再利用するために、SMRよりもATRテクノロジーが選択された[25]

 

4. 産業・企業の対応

民間企業が主体となって立上げたFuel Cell and Hydrogen Energy Association(FCHEA)は、水素エネルギーおよび技術ソリューションを推進している80を超える主要企業および組織によって設立された。FCHEAのエネルギー、運輸、燃料電池製造、電力業界の大手企業の連合が協力して、この包括的なロードマップを作成した。このロードマップは、低炭素エネルギーミックスを達成するために、水素がいかに重要であるかを示しており、再生可能エネルギーシステムの「イネーブラー」としての水素の多様性、輸送および貯蔵可能なエネルギー、および輸送部門の燃料、建物の暖房、および産業への熱と供給原料の提供を強調している。2030年までに年間$1,400億の収益と、70万人の雇用を生み出し、2050年までに年間$7,500億の収益と340万人の雇用が創出すると推測された。さらに、適切な措置を講じれば、水素産業は2050年までに米国のエネルギー需要の14%を満たすことが可能と分析されている[26]

 

事業セクターごとの動向:米国にて水素が活用される主な4つのセクターを下記紹介していく。

産業セクター(User)

産業部門は米国のCO2排出の約4分の1を占めるており、特に鉄鋼、セメント、化学薬品は非常に高熱が必要であり、また製造プロセスにおいて大量のCO2を排出するため、脱炭素化が最も困難とされている[27]。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーでは賄いきれない領域であり、水素の活用した脱炭素の重要な機会と米国政府も認識している。さらに、化学水素として肥料用のアンモニアについてはすでにインフラが整っており、その活用可能性にも高く期待されている。

 

輸送セクター(User)

輸送部門は米国のCO2排出量の3分の1以上を占めており、大気汚染の主な原因とされている。水素と燃料電池は、長距離大型トラックなどのEV化が困難な特定のアプリケーションで使用できるため、輸送関連の排出量を削減するための重要な部分である。中型および大型車両は、自動車全体のわずか4%であるにもかかわらず、年間の車両燃料使用量の25%を占めるため、脱炭素化には大きな機会である。水素は、燃料電池での使用に加えて、CO2と組み合わせて合成燃料を生成することもでき、さまざまな輸送アプリケーションのニーズを満たす可能性がある[2]

フォークリフトおよびマテリアルハンドリング業界は、輸送における初期の水素燃料電池市場での成功例である。10年以上前のDOEの初期投資し、2020年時点では、民間部門によって35,000を超えるシステムが商業化されている。米国の路上には2020年時点はすでに8,800台以上の水素自動車(乗用車と商用車)が使用されており、48の水素燃料ステーションのインフラストラクチャが拡大している[2]

水素および水素運搬船の機会は、海洋用途を含む輸送部門全体で表れている。国際海事機関(IMO)による新しい排出規制により、船舶で使用される燃料油(バンカー燃料)の硫黄含有量が3.5%から0.5%に制限された。米国および欧州連合の特定の沿岸地域を含む排出規制地域で運航する船舶の場合、これらの制限はさらに0.1%に引き下げられる。このようなますます厳しくなる排出規制要件を考えると、水素および水素運搬船は、バンカー燃料の魅力的な代替品になる可能性がある。さらに、さまざまな船舶や港でのドレージトラック、陸上電力(ドッキング中の船舶の電力)、および貨物設備での水素の使用はすべて、CO2とその他の排出量の両方を削減し、サプライチェーン全体でのカーボンフットプリントを向上させる大きな機会である[2]

その他の機会には、鉄道、航空アプリケーション、鉱業やその他の用途などのオフロード輸送でも、水素によって車両がゼロエミッションで運転できるようになる。2019年H2@Scaleの一環でDOTと連邦鉄道局(FRA)がワークショップを開き、専門家や研究機関の代表者が招集され、燃料電池を使用した電気鉄道に関する最新技術を評価・液体水素の鉄道輸送の課題などについて話し合われた。水素の航空機については、米国ボーイング社とフランスのエアバス社で意向が分かれている。エアバスは米国大手メーカーGeneral Electricと協力しエンジンを開発し、積極的に民間水素航空機「ZEROe」のテストを実施しており、2035年に就航する計画を発表した[28]。一方ボーイング社はNASAと航空宇宙向けの水素燃料の開発はしているが、民間の水素航空機について発表はない。

 

電力セクター(User)

水素を発電所の燃料として使用することへの関心が高まっている。今年5月DOEは、発電用のクリーン水素の進歩を支援するための6つの研究開発プロジェクトに$2,490万の資金を提供すると発表した[29]。米国では、いくつかの発電所が、燃焼ガスタービンで天然ガスと水素燃料の混合物を運転する計画を発表している。一例は、オハイオ州の485 メガワット(MW)ロングリッジエネルギー生成プロジェクト施設で、最初はガスタービンで95%天然ガス/ 5%水素燃料ブレンドで稼働し、最終的に100%再生可能な資源から生産されグリーン水素を使用するガス燃焼タービンを備えている。もう1つの例は、ユタ州にある既存の石炭火力発電所をガスコンバインドサイクル火力発電所に転換するものであり、最初はガスに最大30%の水素を混焼し、最終的には100%のグリーン水素を使用する計画である[30]

2021年10月末時点で米国の113施設で約166基の燃料電池発電機が稼働しており、総発電容量は約260MWである。最大の単一燃料電池は、約16MWの発電容量を持つBridgeport(Connecticut)Fuel Cell社、次の2つの稼働燃料電池は、それぞれ6MWの発電容量を備えており、そのうちの1つはデラウェア州のレッドライオンエネルギーセンターにある。このセンターには、25MWの複合施設の総発電容量に対応する5つの小型燃料電池がある。稼働中の燃料セルの大部分は水素源としてパイプライン天然ガスを使用しているが、3つは埋立地ガスを使用し、3つは廃水処理からのバイオガスを使用している[2]

 

ガスセクター(Generator/Transporter)

ガス事業者は、ビジネスモデルが存立の危機となりかねない中で、潜在的な救世主として水素に注目すると予想される。カリフォルニアやニューヨーク市では天然ガスを禁止しており、こういった逆風に対して、現在、ガス事業者は、水素またはバイオガスをブレンドすることによってシステムを脱炭素化すること、または場合によっては産業ユーザーに純粋な水素を供給することについて話し合っている。Dominion Energy IncやSempra Energy社を含む、少なくとも20の米国の天然ガスの会社は、既存のインフラストラクチャを活用するために水素の生産または天然ガスパイプでのその実行可能性のテストを開始した[31]。天然ガスなどの公益事業者は、クリーンに燃焼する水素を既存のガス管や発電所でうまく輸送できることがわかった場合、潜在的な利点がある。

 

企業別の動向(米国大手企業の水素への取り組み)

既存の大手小売業・配送業での燃料電池(FC)を活用した車両を多く活用している。以下事例 :

  • Amazonが大量のFCフォークリフトを導入
  • Daimlerは、400台以上のPlug Power社のFCシステムを導入
  • FedExはFC宅配車(航続距離は257km)を導入
  • Nikola社がアンハイザー・ブッシュから800台のFCトラックを受注[32]

 

米国の主要な水素エネルギー企業

ますます多くの企業がグリーン水素セクターに参入している。多くのエネルギーおよび産業会社は、水素エネルギーの可能性を探求する初期段階にある。ただし、このセクターの初期リーダーとして、すでに少数の企業が浮上し始めている。注目すべき5つの主要な水素エネルギー会社は次のとおり;

1. Air Products

産業ガス供給の世界的リーダーの1つ。液化天然ガス(LNG)処理技術・設備、水素燃料インフラストラクチャのリーダーでもあり、また、商用水素の世界最大級のサプライヤーである。同社は、ガス化、CCS、クリーン水素を通じて世界のエネルギーと環境の課題にソリューションを提供するグローバルリーダーになることを目標にしている。いくつかの主要な水素プロジェクトが進行中であり、今後数年間で完了する予定。これらには、米国ルイジアナ州での$45億のブルー水素プロジェクト、サウジアラビアでの$70億の無炭素水素合弁事業、2024~26年にサービスを開始するカナダでの$10億のネットゼロ水素プロジェクトが含まれる[33]

2. Plug Power

水素燃料電池業界のパイオニアであり、水素燃料電池技術の最初の商業的に実行可能な市場を作った。業界をリードする50,000個の燃料電池システムをe-モビリティ市場に導入(車両や車両に電力を供給するために電気駆動列技術を使用)。同社は世界最大級の水素購入者であり、北米で主要な水素燃料補給ネットワークを運営している。さらに、Plug Powerは、北米でグリーン水素生成ネットワークを構築し、今年生産を開始する予定の水素プラントがいくつかある。さらに今後数年間でいくつかの水素プラントの建設を開始する予定。同社は、世界初のグリーン水素エコシステムを構築し、この巨大な市場機会のカテゴリリーダーとして位置付けている[33]

3. Bloom Energy

2021年には、Bloom Energy Serverと同じ固体酸化物技術を使用して、市場に出回っている他の製品よりも15%から45%効率的にクリーンな水素を生成する「Bloom Electrolyzer」を発表した(今年秋に出荷開始予定)。この技術により、鉄鋼、化学、セメント、ガラス製造などの重工業が脱炭素化できるようになる[33]

4. Ballard Power Systems

水素で動作するゼロエミッションプロトン交換膜(PEM)燃料電池を開発し、バス、商用トラック、電車、船舶、乗用車、フォークリフトの電化を可能にする。同社はまた、水素エネルギーを使用する新技術にも取り組んでおり、スイス産業大手ABBと提携して、2022年初頭、船舶に電力を供給する燃料電池を開発した。また、インド企業Adani Groupと提携して、インドでの商用水素燃料電池へ投資をしている。さらに、世界的な大手メーカーChart Industriesと実施した共同テストにおいて、液体水素で燃料電池に電力を供給することに成功したと発表した[33]

5. FuelCell Energy

独自の燃料電池技術による水素製造のリーダーであり、同社の製品「Sure Source」により、顧客がオンサイトでクリーンな電力を生成できる。これは、廃水処理プラント、製造施設、病院、大学などの大規模施設が、クリーンで手頃な電力を運用・生産するのに役立つ。今後、断続的な再生可能エネルギーを水素に変換して貯蔵し、必要に応じて電気に戻すことも考えている[33]

 

5. 水素技術の現状

Hydrogen Blending

米国のGTIエナジーは、天然ガスパイプラインに水素を5%混合して輸送することについて、技術研究を実施。ガス燃焼装置への水素混合を行った際の影響についての技術研究を行ったところ、得られた結果は下記のとおり。

GTIエネルギー主催セミナー「Blending Hydrogen into the Gas Grid: What are the Impacts Behind the Meter? 」2022年5月開催 より抜粋
(GTIエネルギー主催セミナー「Blending Hydrogen into the Gas Grid: What are the Impacts Behind the Meter? 」2022年5月開催 より抜粋)

6. 課題

水素および関連技術の主要な技術的課題は、コスト、耐久性、信頼性、パフォーマンス、および水素インフラストラクチャの欠如である。水素を広く商業化し、広範囲で水素を活用してもらうためには、より大きな市場に参入し、ライフサイクルコスト、性能、耐久性、環境への影響の点で既存の技術と競争できなければならない。これらの課題を水素のサプライチェーンで上流・中流・下流とカテゴリー別に紹介する。

上流(水素の原料となる資源探査と水素生産に関係するすべてのものを指す):

  • 低コスト、より効率的、そしてより耐久性のある電解槽
  • 改質、ガス化、および熱分解のための高度な設計
  • ハイブリッドおよび燃料フレキシブルを含む、再生可能エネルギー、化石エネルギー、および原子力エネルギー資源からの高度で革新的な水素製造技術アプローチ
  • 水、化石燃料、バイオマス、廃棄物から水素を製造するための低コストでより効率的な技術
  • 低コストで環境に配慮したCCS

など

中流(水素を輸送および貯蔵するために必要なあらゆるものを指す。)

  • 大量輸送を可能にするサプライチェーンの構築(例:陸路、海路、輸出入港の改築)
  • 天然ガスパイプラインの改造とその経済性の均衡
  • 水素を流通させるための低コストで信頼性の高いシステム
  • 液化および材料ベースのケミカルタンカーを含む水素分配(圧縮水素、液化水素、メチルシクロヘキサン、アンモニア、メタネーション)の高度な技術と概念
  • 流通インフラストラクチャを展開する際の通行権、許可、および投資リスクの軽減
  • 低コストの水素貯蔵システム
  • 重量と容量を削減した、より高いストレージ容量
  • オンサイトの大量の緊急供給や地層を含む大規模な保管
  • スループットと動的応答を満たすために、最終用途と同じ場所に配置された水素貯蔵戦略

など

下流(水素を使ったアプリケーション・またそれに必要なすべてのものが含まれまる。例;FCEV、発電所、製鉄セクター、化学セクターなど):

  • 大量生産が可能な、低コスト、耐久性、信頼性の高い燃料電池
  • 高濃度の水素または純粋な水素で作動できるタービン
  • 大規模ハイブリッドシステムの開発とデモンストレーション
  • 各アプリケーションに固有の課題に特定して対処するためのシステム統合、テスト、検証
  • 鉄鋼製造、アンモニア製造、水素とCO2から合成燃料を製造する技術など、最終用途のデモンストレーション
  • 検証するためのグリッド統合のデモンストレーション
  • 燃焼用途(タービンなど)や燃料電池(トラック、船舶などの大型用途向けの高スループット燃料供給など)を含む、すべての最終用途に対応する適切で統一されたコードと規格
  • あらゆる業界での水素需要の遅れ
  • 大規模な水素市場の構築、価格設定モデルのデモンストレーション
  • 水素ステーションの全国的な拡大
  • 輸送部門(水素エンジン、FCV車の普及)でのさらなる水素の活用

など

その他の課題:

技術・市場以外の障壁にも、水素に関する規制、またガバナンス統治組織の曖昧さなどで、各許認可手続きに時間がかかりすぎるという課題もある。また、市場開発が途上であることからトランザクション費用がかかる。さらに、コードと標準化の開発と調和、安全のためのベストプラクティスの促進、堅牢なサプライチェーンと労働力の開発など、対処する必要がある[2]

  • 標準化された製造プロセス、品質管理、および最適化された製造設計
  • 付加的で自動化された製造プロセス
  • リサイクル性と廃棄物削減のための設計
  • 改善された安全情報とベストプラクティスと学んだ教訓の共有

 

7. 将来への希望

水素はあらゆるところで生産できるため、大規模生産プラントの設立と大量輸送できれば、エネルギー輸出国としてLNGに続いて米国の大きな経済成長につながる。米国の再エネ価格はすでに火力発電での電力価格より下がっている。そして肥沃な天然ガス資源、またCCS用の埋蔵容量が広大な地下スペースもある。さらに、米国では原子力発電施設も55もあり93基の原子炉が稼働している。そのため、米国内におけるグリーン水素・ブルー水素・ピンク水素とあらゆる水素製造を今後拡大して行うことができる。さらに、これまでの化石燃料で築いてきたパイプラインや、液化水素運搬船のような既存のサプライチェーンインフラを生かしきれば、280兆円以上とされる世界の水素市場を取り込むことができるかもしれない。しかし、そのためには需要側の引きと水素市場の整備と水素流通インフラ整備も同時に進めていく必要がある。特に、今後の水素需要の拡大には「輸送」が重点ポイントとされ、陸路では既存パイプラインのある所から起点に広げていき、パイプラインがない地域へ輸送する際には、水素タンカーの開発、港での貯蓄が必要になる。水素はバッテリーやバイオ燃料と価格競争ができるとの見解がある一方で、個人消費者は低廉さや管理の容易さの観点で電気自動車を志向すると考えられ、水素は専ら産業向けになるだろうとの見解が広がる。

商用利用での水素の拡大にあたっては、税額控除は重要と考えられる。IRSは技術中立の立場を採っており、カーボン・ゼロ技術があるならばインセンティブを付与する方向で進めるとさらなる拡大が見込める。さらに、エネルギー安全保障の観点では、中国がリチウムイオンバッテリーのサプライチェーンをすでに占めていることから、米国でバッテリー(燃料電池など)を製造してサプライチェーンの安全保障を確保しなければならない。投資の観点からは、天然ガスや化石燃料から水素を生成するプロジェクトの場合に、ESG投資やグリーンファンディングの観点から、「天然ガス・化石燃料は環境被害がある」という理由で金融機関からの資金を調達しにくくなる可能性もある。CCSを活用した水素生成プロセス全体でのカーボンフットプリント計算方法の確立が業界で必要となる。

 


[1] https://www.eia.gov/energyexplained/hydrogen/use-of-hydrogen.php

[2] https://www.hydrogen.energy.gov/pdfs/hydrogen-program-plan-2020.pdf

[3] https://energy-shift.com/news/ec1e2cdb-2abb-49fc-a9c0-d97b25a1fecb

[4] https://www.energy.gov/articles/doe-launches-bipartisan-infrastructure-laws-8-billion-program-clean-hydrogen-hubs-across

[5] https://www.energy.gov/eere/fuelcells/hydrogen-shot

[6] https://www.energy.gov/sites/default/files/2021-12/h2iq-12082021.pdf

[7] https://www.energy.gov/eere/fuelcells/h2scale

[8] https://www.energy.gov/articles/doe-establishes-bipartisan-infrastructure-laws-95-billion-clean-hydrogen-initiatives

[9] https://www.energy.gov/articles/doe-announces-first-loan-guarantee-clean-energy-project-nearly-decade

[10] https://www.bakerbotts.com/thought-leadership/publications/2021/october/us-lawmakers-contemplate-regulatory-framework-for-hydrogen-transportation

[11] https://www.doi.gov/ocl/blm-policies-and-priorities

[12] https://afdc.energy.gov/fuels/laws/HY?state=US

[13] https://www.govinfo.gov/

[14] https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/05/05a1967058023878.html

[15] https://www.energy.ca.gov/programs-and-topics/programs/clean-transportation-program/clean-transportation-funding-areas-1#:~:text=The%20Energy%20Commission%20is%20investing,on%20California%20roads%20by%202025.

[16] https://www.energy.ca.gov/programs-and-topics/programs/clean-transportation-program

[17] https://www.socalgas.com/sustainability/hydrogen/angeles-link

[18] https://afdc.energy.gov/stations/#/find/nearest?fuel=HY&lpg_secondary=true&country=US&hy_nonretail=true

[19] https://www.nytimes.com/2020/11/11/business/hydrogen-fuel-california.html

[20] https://www.toyota-tsusho.com/press/detail/211221_005875.html

[21] https://www.utilitydive.com/news/texas-hydrogen-proto-hub-leads-the-us-in-technical-potential-for-doe-fund/622565/

[22] https://energy.utexas.edu/news/h2scale-project-launched-texas

[23] https://corporate.exxonmobil.com/News/Newsroom/News-releases/2022/0301_ExxonMobil-planning-hydrogen-production-carbon-capture-and-storage-at-Baytown-complex

[24] https://knoxradio.com/2021/12/20/nd-industrial-comm-awards-money-for-clean-sustainable-energy-projects/#:~:text=The%20North%20Dakota%20Industrial%20Commission,through%20an%20extensive%20review%20process.

[25] https://www.naturalgasintel.com/blue-hydrogen-projects-gaining-steam-across-lower-48-oil-natural-gas-patch/

[26] https://www.fchea.org/us-hydrogen-study

[27] https://www.fchea.org/transitions/2019/11/25/hydrogen-in-the-iron-and-steel-industry

[28] https://www.airbus.com/en/innovation/zero-emission/hydrogen/zeroe

[29] https://www.energy.gov/articles/doe-announces-nearly-25-million-study-advanced-clean-hydrogen-technologies-electricity

[30] https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC146WG0U2A610C2000000/

[31] https://www.reuters.com/business/sustainable-business/us-natgas-companies-put-hydrogen-test-2021-07-01/

[32] https://www.nedo.go.jp/content/100895017.pdf

[33] https://www.fool.com/investing/stock-market/market-sectors/energy/hydrogen-stocks/

 

以上

(この報告は2022年8月26日時点のものです)

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