ページ番号1009462 更新日 令和4年9月13日
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概要
- サハリン2に参画する三井物産(12.5%)と三菱商事(10%)は、8月25日、新ロシア法人に参画することをそれぞれ決定したことを明らかに。両社の申請を受けて、3日以内にその承認の是非を決定することとなっていたロシア政府は、8月30日及び31日に発行された個別の政府令に従って、両社の申請を承認したことを発表。
- 残るシェルは新ロシア法人へは出資しないことをロシア政府に通知したと報道された。申請期限となる9月4日を過ぎても動きはなく、シェル権益の売却を目指す新たな政府令発出の動きから、シェルは新ロシア法人には出資せず、ロシア政府が進める新ロシア法人下でのサハリン2プロジェクトには関与しないことが確定したと考えられる。
- 今後、シェルが保有していた株式は、ロシア側の立場では、6月30日の大統領令に従って、政府により選ばれた独立系監査会社「B1コンサルト」(元EYのロシア支社)が査定する価格で、今後4カ月の間にロシアの企業(ロシア法人)に売却されることになる。また、プロジェクトを実現するにあたりシェルがもたらした可能性のある損害等についても今後ロシア政府が査定することとなる。
- シェルは「旧オペレータであるサハリン・エナジーの株主としての法律上認められた権利を全て我が社は保有し続けることになる」という主旨のコメントを出している。シェルはロシア政府のシェル保有権益の査定額と請求される可能性のある損害額が明らかになり、査定額がシェルの評価よりも低い場合や損失額を請求される場合等、自らの意に沿わない内容であれば、ニューヨーク仲裁裁判所に訴訟を提起することになるだろう。
- 9月6日、ミシュースチン首相は、サハリン2を担う新ロシア会社に出資を検討するロシア法人について、その基準として、LNG生産と取扱い、輸送契約に関する豊富な経験・実績を定めた新たな政府令第1566号を公示した。
- 条件に合致するのは、サハリン2パートナー(Gazprom、三井物産及び三菱商事)及びヤマルLNGプロジェクトパートナー(NOVATEK、TOTAL、CNPC、シルクロード基金)。また、LNGの生産実績はロシア国内での実績に限定されておらず、サハリン2やヤマルLNGプロジェクトだけでなく、海外におけるLNGプロジェクトで要件を満たす外資でも、今後ロシア法人を設立すれば、認められる可能性がある。
- NOVATEKミケルソン社長は、東方経済フォーラムにて、「サハリン2参画を検討することに関心がある。同プロジェクト評価を完了した後に最終決定を下す予定である」ことを明らかにした。また、シュルギノフ・エネルギー大臣は「エネルギー省としてNOVATEKがサハリン2に参画することを望んでいる」と述べ、ロシア政府はNOVATEKを有力なシェル権益後継候補と見なしている模様。
- 6月30日の大統領令は、実のところ、撤退を決定し進めてきたシェルを残留させることを目指した動きと考えられたが、今回明らかになったシェルの撤退方針の堅持は、ロシア政府の6月時点の目論見からは外れた方向に進んでいることになる。
- 今後、注目されるのはロシア政府によるシェル権益の査定額、そして、シェルが与えたとする損失額に関する情報。その内容を受けたシェルによるニューヨーク仲裁裁判所での訴訟提起に向けた動きである。この決着如何によっては、サハリン2は国際係争を抱えることとなり、新ロシア法人におけるシェル分のシェア引き受けを志向するロシア法人にも影響を与えていくだろう。
1. 経緯と現状
サハリン2に関しては、6月30日に出されたロシア連邦大統領令では、新ロシア法人設立から1カ月以内に、ロシア政府に対して新ロシア法人移行に対する同意を通知しなければならないと規定されていた[1]。続いて、8月2日に出された政府令によって、ロシア政府が示す1カ月以内という時計が動き出し、同新会社の登記が完了した8月5日から1カ月後(9月4日)が外資にとっての期限となっていた[2]。
(1) 日本企業参画継続決定とロシア政府の承認
サハリン2に参画する三井物産(12.5%)と三菱商事(10%)は、8月25日、新ロシア法人に参画することをそれぞれ決定したことを明らかにした[3]。両社の申請を受けて、3日以内にその承認の是非を決定することとなっていたロシア政府は、8月30日及び31日に発行された個別の政府令に従って、両社の申請を承認したことを発表した。他方、8月末の段階で、シェルはサハリン2からの撤退に引き続き取り組んでいると述べるに留まっていた[4]。
8月31日付のコメルサント紙は、三井物産は新ロシア法人株式をドバイ登記の子会社MIT SEL Investmentを通じて取得し、三菱商事は同社子会社DGS Japan(登記地は不明)を通じて取得すると報じている。
ロシア政府による承認後、エネルギー政策を担当するノヴァク副首相が、9月1日、三井物産幹部(野崎常務執行役員/エネルギー第二本部長)と会談し、エネルギー分野における日露間協力とサハリン2を含む事業継続について協議したと発表した[5]。
6月30日の大統領令では、外資による新ロシア法人への参画を受けてもその申請を承認するか否かはロシア政府に委ねられていたが、ロシア政府の承認によって、日本企業にとっては、今回の大統領令を巡る騒動は節目を迎えた。他方、運営ルールを決める株主間協定は今後の交渉次第との指摘もなされている。新会社の筆頭株主であるGazporm等、新法人株主との具体的な協議が始まるのは、新ロシア法人の新たな株主構成が決まった後となる見込みである[6]。
(2) シェルの撤退方針が確定
9月2日付のコメルサント紙は、残る外資であるシェルが新ロシア法人へは出資しないことをロシア政府に通知したと報道した。同社の正式リリースは出されていないが、複数のメディアが報じており、申請期限となる9月4日を過ぎても、ロシア政府から同社の動向に対するリリースは出されず、また、次項の新たな政府令発出の動きを見ても、シェルが新ロシア法人には出資せず、ロシア政府が進める新ロシア法人下でのサハリン2プロジェクトには関与しないことが確定したと考えられる。
今後、シェルが保有していた株式は、ロシア側の立場によれば、6月30日の大統領令に従って、政府により選ばれた独立系監査会社「B1コンサルト」(元EYのロシア支社)が査定する価格で、今後4カ月の間にロシアの企業(ロシア法人)に売却されることになる。その後、ロシア国内のシェルの口座に売上金が振り込まれることになるが、全額振り込まれるわけではなく、評価額から、「プロジェクトを実現するにあたりシェルがもたらした可能性のある損害及びその他の損害額を差し引いた金額」が振り込まれることになる(損失が実際にもたらされたかどうか、もたらされたとしたらその規模はどの程度になるのかといった点は今後ロシア政府が定める)。
他方、シェルは「旧オペレータであるサハリン・エナジーの株主としての法律上認められた権利を全て我が社は保有し続けることになる」という主旨のコメントを出していると言われている[7]。これは、具体的には、シェルが保有するサハリン2のシェアに相当する額(シェルは第1四半期で16億ドルの減損処理を行っている)の補償及びこれまでの逸失利益の補償をロシア政府に求める訴状をニューヨーク仲裁裁判所に提出する可能性があることを意味すると考えられる。1994年に締結されたサハリン2のPSA(生産物分与契約)では、全ての係争は米国ニューヨーク州の法律に従い解決されると記されているためである。シェルが提訴すれば、被告となるのはロシア政府となる。サハリン・エナジーにおけるシェルの権利及び義務の変更につながる決定は、ロシア連邦大統領の命令に基づき採択されたものであり、新ロシア法人への事業移管はロシア法では合法とされているのがロシア側の立場である。従って、ロシア政府は仮に敗訴しても決定に従わない可能性が高く、また、裁判自体が数年から数十年続く可能性もあるだろう。また、Gazprom及び新ロシア法人に移行した日本企業も共同被告人になる可能性も指摘されている。シェルは提訴の事実と判決を根拠に、欧米諸国におけるロシア政府保有資産を差し押さえる可能性も考えられる。いずれにしても、今後シェルは、ロシア政府によるサハリン2におけるシェル保有株式の査定と、示唆されている損害額に関する動きを見ながら、シェルが評価する現在価値に基づく保有株式の売却益、侵攻後サハリン2で生じた逸失利益を含めた最大限の額の補償を要求してくると考えられる。
(3) シェルの権益継承者に関する政府令の発出とNOVATEKのプレイアップ
1. 新たな政府令第1566号
9月6日、ミシュースチン首相は、サハリン2を担う新ロシア会社に出資を検討するロシア法人について、その基準を定めた新たな政府令第1566号を公示した(全文抄訳について末尾参照)。明らかにシェルが保有するサハリン・エナジーの株式(27.5%マイナス一株)について、シェルが新ロシア法人に移管しない決定を行ったことを受けて、同新ロシア法人株式について、オークションによって新たな参入者を募っていく動きの一環と考えられる。政府令で規定された新ロシア法人への参画要件は次の5つの点となる。
2022年9月6日付政府令で規定された新ロシア法人への参画基準
- ロシア法人であること。
- 年間400万トン以上のLNGを生産するプロジェクトに関与しており、当該プロジェクト開始後累計で4,000万トン以上の生産を行っていること。
- 年間生産量400万トン以上のLNG生産プラントを操業した経験を有すること。
- 総貨物容積量400万立方メートル以上で期間10年以上のLNG運搬船に関する発効中のタイムチャーター契約(定期用船契約)を締結していること。
- 累計4,000万トン以上のLNGの国際貿易に従事した経験を有する経験を有し、かつ5年以上の期間の発効中のLNG供給契約を締結していること。
まず、シェルの権益に対して既存株主であるGazprom、三井物産及び三菱商事が先買い権を発動しないという前提において、ロシア法人というクライテリアをはじめ、全ての条件に合致するのは、サハリン2パートナー(Gazprom、三井物産及び三菱商事)及びヤマルLNGプロジェクトパートナー(NOVATEK、TOTAL、CNPC、シルクロード基金)が抽出される。政府令に規定された「年間生産量400万トン」等は、各企業の権益比率分ではなく、そのプロジェクト全体の生産量と解釈できることから、両プロジェクト参加者はマイナー出資者を含めて全て有資格者となり得る[8]。また、LNGの生産実績はロシア国内での実績に限定されておらず、サハリン2やヤマルLNGプロジェクトだけでなく、海外におけるLNGプロジェクトで要件を満たす外資でも、今後ロシア法人を設立すれば、認められる可能性があると解釈できる。プーチン大統領は、9月5日から開催された東方経済フォーラムにおいて、「サハリン2に関心を寄せる複数の外資候補者が現れている」と述べている[9]。
なお、新政府令で示されたLNG生産量400万トンや累計4,000万トンという基準値はどのように設定されているのか、ロシア政府からの見解説明は現時点で出ていない。推察の域を出ないが、シェルの権益(27.5%マイナス一株)及び2028年に失効するシェルの年間100万トン分のポートフォリオLNG引取契約をベースに、サハリン2のLNG生産量(年間1,080万トン)×27.5%=年間297万トンを算出し、2028年までのシェルの年間引取契約100万トンを加算して、400(397)万トンを設定したということが考えられるが、若干根拠に欠けるのも事実である。この閾値の設定は、後述のNOVATEKのようにロシア政府の本命がいることを示すものでもある(本命以外をふるいに掛ける)ことから、今後新たな情報発出が注目される。
また、このような技術的・経験的実績を求める政府令が出されたことは、ロシア政府がシェルに代わる新たな有力オペレータの必要性を認めるものでもあり、シェルの今後の不在によって、新たなオペレータが用立てできなければ、サハリン2のプロジェクト運営に支障が出る可能性を示すものとも見ることができる。
外資の中でも動向が注目される中国について、中国企業はサハリン2の株式取得に消極的であるとの報道が出ている[10]。中国のバイヤーは同プロジェクトが欧米からの制裁対象となり得ることや風評リスクを懸念しており、スポットLNGの購入や出資に消極的という。LNGプロジェクトの運営経験がなく、シェル撤退後の運営・保守は誰が担うのかという点に懸念を持っており、CNPC関係者も「現時点で、サハリン2株式を購入する予定はない」と述べていると報道されている。
2.注目されるNOVATEK
NOVATEKミケルソン社長は、東方経済フォーラムにて、「サハリン2参画を検討することに関心がある。同プロジェクト評価を完了した後に最終決定を下す予定である」ことを明らかにした。また、シュルギノフ・エネルギー大臣は「エネルギー省としてNOVATEKがサハリン2に参画することを望んでいる」と述べ、ロシア政府はNOVATEKを有力なシェル権益後継候補と見なしている模様だ。ミヘルソン社長がサハリン2を同社のアジア太平洋LNG市場におけるより広範な供給スキームに組み込むことを既に考えている可能性があることを示す兆候として、9月5日にプーチン大統領が議長を務める会議の場で、同社長が「サハリン2がロシア極東カムチャツカ地域にLNGを供給する可能性がある」と示唆したことも指摘されている[11]。
他方、Gazpromは欧州市場におけるロシア産パイプラインガスとLNGに不必要な競争が引き起こされているとして、多大な優遇税制を受けるNOVATEKをしばしば批判し、NOVATEKも国内ガス市場の発展を阻害する要因として、Gazpromの独占戦略を攻撃してきた。NOVATEKのサハリン2への参入は、新規LNGプロジェクトを実現するための外国技術と設備機器の調達を困難にしている対露制裁という条件下で、Gazprom及びNOVATEKの協業の足場になる可能性もないわけではない。NOVATEKがサハリン2に参画することでロシアにおける二大ガス企業がどのような化学反応を起こすのか、プロジェクトにプラスに働くのかどうか、現時点では不明であり、NOVATEK参画となった場合の注目点のひとつとなる。
3. シェルの訴訟提起も鍵を握る
忘れてならないのは、今後徐々に燃え上がる可能性のあるシェルの既存権益を巡るロシア政府とシェルの訴訟攻防である。新ロシア法人の株式を買収する者は、その争いに巻き込まれる可能性がある。また、シェルなき後、新たな有望オペレータが見つからない、又はその能力を持たないものが参画した場合、サハリン2のプロジェクトマネジメント及びLNGの生産が順調に進むのかどうか、大きな不安定要素を抱えることになる。
2. 現状その他の動き
(1) サハリン1
サハリン1のオペレータであるExxonMobilは、8月5日に出されたサハリン1を含む外国企業が保有する燃料エネルギー産業等の指定会社株式に関連する取引を年末まで禁止する新たな大統領令を受けて[12]、サハリン1からの同社の撤退を認めるよう求める書簡をロシア政府に送付したことが明らかになった[13]。また、ウォールストリートジャーナルによれば期日までに撤退について合意できなければ訴訟を起こす意向という。
(2) シェルの合弁企業サルィム油田開発
Gazprom NeftとShellの合弁企業である西シベリア油田開発を対象とするSalym Petroleum Developmentのロシア法人への改組に関する裁判所の判決文によれば、Gazprom Neftは、シェルが同社から購入した石油代金を期限内に全額支払わなかったと主張している。問題となっているのは5月の石油供給契約で、シェルはその代金の一部・80億ルーブルを1カ月以上遅れて支払ったが、同合弁企業はそのために事業停止の危機に陥ったとGazprom Neftは主張している[14]。
(3) サハリン2LNG販売契約に関する動向
LNG供給契約に関して、新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギヤ」と需要家との契約の改訂が行われつつあるが、その条件では日本企業はガス代金の決済通貨を選べることになっていると報じられている。様々な通貨での決済が可能となっており、ドルとルーブルだけでなく円も使用することが可能となる内容。ただ、ドルを採用する場合には対露制裁の影響もあり、外国金融機関ではなく、Gazprombank経由で決済を行うことが推奨されているとされている[15]。
この決済通貨に関連して、Gazprom及びCNPCがシベリアの力パイプライン経由のガス代金支払いをルーブル・人民元に変更したとの報道も出ている。ミレルGazprom社長はCNPC・Houliang会長と東方経済フォーラムでオンライン作業会議を開催し、長期ガス売買契約のAddendum(補足条項)に合意したことを明らかにした。「中国へのロシアのガス供給の支払いを各国の自国通貨であるルーブルと人民元で行うことに変更され、新しい支払いメカニズムは、相互に有益で、適切で、確実で、実用的な決定。これが和解を簡素化し、他の企業の素晴らしい例となり、経済の発展にさらなる勢いを与えると信じている」と発表した[16]。
これらの動きは対露制裁発動に伴うルーブル減価に対抗するロシア政府の共通方針と考えられる。また、基軸通貨であるドル・ユーロ離れをさらに加速する欧米へのカウンター制裁の流れと捉えることができる。
3. 今後注目される動き
そもそも6月30日の大統領令は、実のところ、撤退を決定し進めてきたシェルを残留させることを目指した動きと推察された。それはLNGというロシアが依然後発的な分野において、サハリン2プロジェクトの立役者であるシェルが撤退を表明し、4月8日からは欧州制裁によってLNG機器禁輸が課せられる中、綱渡りの状況が始まった同プロジェクトを継続・運営させるために、シェルが撤退するのであればタダでは出さないという脅しを匂わせながら、最終的にシェルの即時撤退ではなく「ある一定期間」のプロジェクト維持・継承を意図したものだったと考えられる。
しかし、今回明らかになったシェルの意向(新ロシア法人への不出資と撤退方針の堅持)は、ロシア政府の6月時点の目論見からは外れた方向に進んでいると言えるだろう。
今後、注目されるのはロシア政府によるシェル権益の査定額、そして、シェルが与えたとする損失額に関する情報である。シェルはその二つの額を見た上で、査定額がシェルの評価よりも低い場合や損失額を請求される場合等、自らの意に沿わない内容であれば、ニューヨーク仲裁裁判所に訴訟を提起することになるだろう。また、この動きは、同プロジェクトが係争問題を抱えることから、今回出された政府令に基づく新ロシア法人におけるシェル分のシェア引き受けを志向するロシア法人にも影響を与えていく。
さらに、シェル撤退によってサハリン2の操業とLNG生産に支障が出ないのかどうかにも注目が集まる。2021年には大規模なメンテナンスを実施したばかりではあるが、欧州制裁によってLNG機器の禁輸が実施されている中、プラントに何か問題が発生した場合に、シェル無き「サハリンスカヤ・エネルギヤ」で対応することができるのかどうかが問われることとなる。
<参考>政府令(第1566号)[17]抄訳
2022年9月6日付ロシア連邦政府令第1566号
モスクワ
有限責任会社「サハリンスカヤ・エネルギヤ」の定款資本における株式売却を目的として実施される選択作業に参加するロシア法人が満たすべき基準の承認について
2022年6月30日付ロシア連邦大統領令「複数の外国及び国際組織の非友好的な行動に関わる燃料エネルギー分野における特別経済措置の適用について」第1項の小項“ク”[18]に従い、以下を定める:
- 有限責任会社「サハリンスカヤ・エネルギヤ」の定款資本における株式売却を目的として実施される選択作業に参加するロシア法人が満たすべき、以下に示す基準を承認する。
- 本政府決定は公布された日より発効する。
ロシア連邦政府議長 M.ミシュースチン
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2022年9月6日付け
ロシア連邦政府令第1566号
により承認
基準
有限責任会社「サハリンスカヤ・エネルギヤ」の定款資本における株式売却を目的として実施される選択作業に参加するロシア法人が満たすべきもの
有限責任会社「サハリンスカヤ・エネルギヤ」の定款資本における株式売却を目的として実施される選択作業に参加するロシア法人(以下、購入候補者)が満たすべき基準:
(1) 購入候補者は、年間400万トン以上のLNGを生産するプロジェクトに取り組んでおり、当該プロジェクト開始後累計で4,000万トン以上の生産を行っていること。あるいは、そのようなプロジェクトに取り組む法人格を持つ自然人・法人グループに属していること(この文書で示されている自然人・法人グループという概念は、連邦法“競争の保護”で定められた意味で用いられる);
(2) 購入候補者は、年間生産量400万トン以上のLNG生産プラントを操業した経験を有するか、あるいは、そのような経験を有する法人格を持つ自然人・法人グループに属していなければならない;
(3) 購入候補者は、総貨物容積量400万立方メートル以上で期間10年以上のLNG運搬船に関する発効中のタイムチャーター契約(定期用船契約)を締結していなければならない。あるいは、そのような契約を締結している法人格を持つ自然人・法人グループに属していなければならない;
(4) 購入候補者は、累計4,000万トン以上のLNGの国際貿易に従事した経験を有する経験を有し、かつ5年以上の期間の発効中のLNG供給契約を締結している法人格を持つ自然人・法人グループに属していなければならない。
(注)及び下線、太字、改行及び「購入候補者」条件における(1)~(4)は筆者加筆。
[1] 拙稿「サハリン2プロジェクトを対象にロシア法人への移管を求める大統領令を発出」(2022年7月6日)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009403.html
[2] 拙稿「サハリン2に関する新ロシア法人設立の政府令を発出」(2022年8月5日)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009433.html
[3] ロイター(2022年8月25日)
[4] POG(2022年8月31日)
[5] ロシア政府HP:http://government.ru/en/news/46414/(外部リンク)
[6] 時事(2022年9月2日)
[7] コメルサント紙(2022年9月1日)https://www.kommersant.ru/doc/5538040(外部リンク)
[8] 9月7日付のコメルサント紙は、「NOVATEKは事実上シェルが保有するサハリン2の権益の代替のきかない取得候補者となった。同社は、政府が示した(シェルのシェア獲得のための)基準を満たす唯一のロシア企業である。数量が年間400万トン以上、期間10年以上の発効中のタイムチャーター契約を締結しており、国際市場で累積4,000万トン以上のLNGを売却した実績を有していなければならない、との規定も為されている。ロシアの企業の中で上記の基準を満たせるのはNOVATEKだけである。ガスプロムは、そのような大量のタイムチャーター契約は締結していない」と分析している。他方、Gazpromはサハリン・エナジーを通じて同条件をクリアしているとの見方もある。
[9] Interfax(2022年9月5日)
[10] WGI(2022年9月6日)
[11] IOD(2022年9月7日)
[12] 拙稿「(短報)サハリン1を含む外国企業が保有する燃料エネルギー産業等の指定会社株式に関連する取引を年末まで禁止する新たな大統領令を発出」(2022年8月10日)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009439.html
[13] コメルサント(2022年8月30日)
[14] コメルサント(2022年8月30日)
[15] コメルサント(2022年8月26日)
[16] Interfax(2022年9月6日)
[17] ロシア連邦政府令(第1566号):http://publication.pravo.gov.ru/Document/View/0001202209060012(外部リンク)
[18] ロシア連邦大統領令第416号(抜粋):(ク)上記(オ)(カ)に従ってCompany株主に移管されなかった会社のシェアは、ロシア政府が査定し、ロシア政府により定められる手順で、ロシア法人に売却される。その査定及び売却は、ロシア政府によって、(カ)に従ってシェアの移管拒否の決定がなされた後、4カ月以内に行われる。あるいは、(エ)に従って通知が提出されない、あるいは通知手順に違反があった場合を含め)移管拒否の決定がなされていない場合、(エ)に規定される期間終了後4カ月以内に行われる。(注)全文は拙稿「サハリン2プロジェクトを対象にロシア法人への移管を求める大統領令を発出」を参照。
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009403.html
以上
(この報告は2022年9月13日時点のものです)