ページ番号1009463 更新日 令和4年9月15日

南ガス回廊の輸送能力拡張に向けた現状

レポート属性
レポートID 1009463
作成日 2022-09-14 00:00:00 +0900
更新日 2022-09-15 14:11:20 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG基礎情報
著者 四津 啓
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 6
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 アゼルバイジャン
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,アゼルバイジャン
2022/09/14 四津 啓
Global Disclaimer(免責事項)

このwebサイトに掲載されている情報は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。

※Copyright (C) Japan Oil, Gas and Metals National Corporation All Rights Reserved.

PDFダウンロード1016.1KB ( 6ページ )

概要

  • 2022年7月18日、EUとアゼルバイジャンは2027年までに「南ガス回廊」によるEUへの天然ガス供給量を現在の2倍の20BCM以上とすることで合意したと発表。「南ガス回廊」の輸送量拡大は従来構想されていたもので、今回の合意でその時期が明示された。
  • 「南ガス回廊」が2020年末に完成し稼働を開始してから、アゼルバイジャンは欧州への天然ガス輸出を拡大している。EUが脱ロシア依存を進める中で需要の確保に見通しがつく可能性がある一方で、上流に目を向ければ、アゼルバイジャンの輸出用のガス生産はカスピ海上のガス田Shah Denizに引き続き依存し、追加の供給源の確保が課題である。
  • アゼルバイジャンがイランを介してトルクメニスタンから天然ガスを輸入するスワップ取引が2022年1月から始まり、6月には取引量を倍増することで合意している。この3か国スワップが中長期的にアゼルバイジャンの天然ガス輸出体制の下支えになりうるのか、動向に今後注目。

(出所 各種報道)

 

1. 2022年7月18日のアゼルバイジャンとEUの覚書

2022年7月18日、アゼルバイジャンの首都バクーを訪れた欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、アゼルバイジャンのアリエフ大統領と、エネルギー分野における戦略的パートナーシップに関する覚書(MOU)に署名した。覚書には、「南ガス回廊」によるEUへの天然ガス供給量を2027年までに少なくとも現在の2倍の20BCMとすることが盛り込まれている。[1] [2]

「南ガス回廊(Southern Gas Corridor)」は、アゼルバイジャンで生産された天然ガスをジョージア、トルコ等を経由してイタリアまで輸送するパイプライン網で、2020年末に全区間での本格稼働を開始し、既に輸送能力の上限で運転している。ギリシア・トルコ国境からイタリアまでをつなぐ南ガス回廊の最終区間Trans-Adriatic Pipeline(アドリア海横断パイプライン;TAP)の現在の輸送能力(design capacity)は年間10BCMで、これを20BCMまで拡大することは従来から構想されていた。今般の覚書は輸送能力拡大の実現目標時期を初めて明示するものである。供給源となるアゼルバイジャンにとっては、脱ロシア依存を進めるEUとの間でさらなる天然ガス供給拡大への道筋を正式に得たことになる。

欧州への供給量を2倍に拡大する目標時期は2027年だが、TAPの拡張工事には4年から5年程度を要するとされ[3]、仮に2023年に着工しても時間的な余裕はほぼない。昨年夏に拡張への需要を調べるためTAPが実施したマーケットテストでは、追加供給への需要が確認されなかったため、当面の間は拡張の見通しがないと考えられていた。ところが2月以降のロシアによるウクライナ侵攻により、アゼルバイジャン産の天然ガスに関心が高まり、バルカンエリアを中心に追加供給の要請が強まったことを受けて、2022年中にも再度マーケットテストが予定されているという状況である。TAPコンソーシアム代表の9月の発言[4]によると、マーケットテストが2022年末か2023年初めに実施されて、そこで追加の需要を確認できれば、拡張のための最終決定が行われる。拡張は段階的に行われて、3年程度で追加分の輸送が始まり、最終的に5年程度で輸送量倍増が可能となる。なお、拡張工事はパイプラインの増設ではなく、コンプレッサーステーションの増強、増設が想定される。2027年という目標は野心的だが、7月の覚書を受けてアゼルバイジャンはTAPの拡張に向けた動きを今後加速させていくと見られる。

図1:アゼルバイジャンから伸びる国際パイプライン
図1:アゼルバイジャンから伸びる国際パイプライン(南ガス回廊はピンク、オレンジ、赤色の線)
(出所:各種資料からJOGMEC作成)

2. TAPの現状と南ガス回廊拡張構想

TAPはトルコ-ギリシア国境からギリシア、アルバニアを経由し、アドリア海底を通ってイタリア南部に接続する全長約880キロメートル、年間輸送能力10BCMのパイプラインである。2020年末に稼働開始し、2021年は8.7BCMを輸送した。当初は徐々にランプアップして2023年頃に能力上限の年間10BCMに到達する見込みだったが、2022年は設計容量の10BCMを超えて、12BCMを輸送する予定となっている。輸送されるガスのうち、8BCMがイタリア、1BCMがギリシア、1BCMがブルガリアに長期契約により引き取られ、それ以外の量はスポットで取引される。

ブルガリア向けの輸送にはTAPからギリシアで分岐するIGB(Interconnector Greece-Bulgaria)パイプラインが使用される。IGBパイプラインは建設が遅延していたため、TAPの完成以降これまでのアゼルバイジャンからブルガリアへの天然ガス輸送には既存のパイプラインが使用され、2021年の輸送量は0.3BCM弱にとどまっていた。IGBパイプラインは2022年夏に完成し、秋から運転が本格化する見込みで、2022年のアゼルバイジャンからブルガリアへの天然ガス輸出量は0.6BCMの予定である。ブルガリアの年間ガス消費量は約3~3.5BCMで、その大部分をロシアからの輸入に依存しているが、ガスプロムが4月末以降にブルガリアへの天然ガス輸出を停止した[5]ことから、ブルガリアは天然ガスの追加調達手段の確保を急いでいる。

TAPから分岐するパイプラインには、IGBパイプラインの他に計画中のIAP(Ionian Adriatic Pipeline)がある。IAPはTAPからアルバニアで分岐し、アドリア海沿岸を通ってモンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、クロアチアにガスを輸送する計画で、TAP拡張構想の延長線上にあると言えるが、長年具体的な進捗はない。バルカン地域は石炭への依存が強く、従来の脱炭素の流れの中でもIAP計画は石炭の代替としてのガスの供給拡大という役割が期待されていた。昨今はそれに加えてガスの脱ロシア依存の観点でIAP計画を後押しする素地ができつつあり、進展が注目される。

TAPの輸送量拡大には、南ガス回廊のそれ以前の区間であるTANAP(Trans-Anatolian Natural Gas Pipeline)、SCP(South Caucasus Pipeline)の増強も必要となる。欧州向けの供給量を拡大するという文脈で南ガス回廊の最終区間TAPに関心が集まりやすいが、南ガス回廊全体を拡張するためには相当な規模の追加投資が必要であり、ガス需要と共に資金の確保も課題と言える。

表:南ガス回廊を構成する3つのパイプイラン
  TAP
Trans Adriatic Pipeline
TANAP
Trans-Anatolian Natural Gas Pipeline
SCP
South Caucasus Pipeline
長さ 878km
ギリシア~アルバニア~イタリア
1,841km
トルコ
489km
アゼルバイジャン~ジョージア~トルコ
年間輸送能力 10BCM 16BCM 25BCM
参加者 bp, SOCAR, Snam, Fluxys, Enagas, Axpo SOCAR, Botas, bp, SOCAR Turkey bp, TPAO, AzSCP(SOCAR), Lukoil, NICO, SGC Midstream
段階的な拡張計画 第1段階:14BCM
第2段階:17BCM
第3段階:20BCM
第1段階:24BCM
第2段階:31BCM
第1段階:25BCM
第2段階:30BCM
第3段階:35BCM

(出所:各種資料からJOGMEC作成)

 

3. アゼルバイジャンの上流事業

アゼルバイジャンから欧州へのガス供給拡大に向けて、需要の面ではある程度目途がついている一方、アゼルバイジャンのガス供給サイドは相変わらずカスピ海上のShah Denizガス田に依存していて、長期的な供給源の確保が求められる。

Shah Denizの開発自体は順調で、計画通りかそれより早く2022年中にも、年間26BCMのプラトー生産に到達する見込みである。プラトーは2027年頃まで続いてその後減退が始まる。あまり情報が出てきていないが、減退を補うために近い将来フェーズ3の開発が進むことは考えられる。

以下、Shah Deniz以外で将来のガスソースとなりうるアゼルバイジャン国内の主なプロジェクトを列挙する。足元の高水準な油ガス価も追い風となって、水面下では、探鉱活動が活発化している可能性がある。

  • Shallow Water Absheron Peninsula(SWAP):アプシェロン半島南側の探鉱中プロジェクト。水深40 メートル程度の浅いエリアで陸に近く、埋蔵量が認められれば比較的容易に開発を推進できると期待された。bpが2014年にSOCARとPSAを締結。2021年9月にはロシアのLukoilがbpの権益50%から25%を取得し、参加者構成はbp25%(オペレーター)、SOCAR50%、Lukoil25%。2016年に3次元震探を実施し、2021年から2022年に探鉱井を3本掘削したが、その結果、商業化に必要な埋蔵量が確認できなかったためbpが撤退を決定したとの情報があり、行方が注目される。
  • Shafag Asiman:Shah Denizに次ぐ大規模な埋蔵量が期待される探鉱中プロジェクト。1961年に構造が発見されていたが、Shah Denizからさらに南東約60キロメートル沖合に位置し、水深、構造深度が大きいため本格探鉱が実施されてこなかった。2010年にbpがSOCARとPSAを締結。2020年から1本目の探鉱井を掘削し2021年にガスコンデンセートを確認した。現在掘削結果の評価と今後の作業計画の検討を実施中とされる。
  • ACGの深部ガス田:ACG油田の深部に存在するとされるガス田。現行のACGのPSAでは開発の対象外であり、パートナー間で扱いを協議していると見られるが、結論は出ていない模様。徐々に減退中のACG油田では拡張計画も実行中だが、将来的なガス田開発の可能性がある。
  • Dostlug:トルクメニスタンと共同開発される予定のプロジェクト。構造の発見は1959年に遡るが、トルクメニスタンとアゼルバイジャンの間で帰属問題となっていた。2021年1月に両国が共同で探鉱開発活動を行うことで合意、呼称も「ドストルク」に統一。現在の共同活動の状況は不明で事業主体も未定だが、今後探鉱が進められる予定。生産物をトルクメニスタンとアゼルバイジャンで7:3の割合で分割することで合意しているとされ、トルクメニスタンにとってはアゼルバイジャンを経由する西側への輸出経路を形成する機会になりうる。
図2:アゼルバイジャンの主な海上プロジェクト
図2:アゼルバイジャンの主な海上プロジェクト(括弧内はオペレーター)
(各種資料からJOGMEC作成)

4. トルクメニスタンからのガス供給

本稿の最後に、カスピ海を挟んでアゼルバイジャンの対岸に位置するトルクメニスタンからの西向けのガス供給について触れておく。

2021年11月に、トルクメニスタンで生産される天然ガスをイラン北部に供給し、同じ量をイランがアゼルバイジャンに供給するという3か国スワップ取引が合意され、これに基づくガス輸送が2022年1月から始まっている。当初の取引量は年間1.5BCMから2BCMとされる。トルクメニスタンは世界第4位の天然ガス埋蔵量を抱えながら、輸出先が中国に偏り、輸出ルートの多角化が大きな課題となっている。スワップ取引によって西向きの輸出が増えることはトルクメニスタンの供給多角化の意向に適う。仲介地となるイランにとっても、ガス・電力インフラが弱い北部にトルクメニスタンからガスを供給できる点にまずメリットがあり、また長引く対イラン制裁下で、イラン自身がもつ豊富な天然ガスをいかなる形であれ国外に流通させることにもモチベーションがある。イランはスワップ取引に積極的で、Owji石油相は1月のトルクメニスタン訪問時に、イランには3か国スワップの取引量を年間15BCM程度まで拡大する供給力があると発言し、また6月には、スワップの取引量を倍増させて年間3BCMから4BCMとすることで関係国と合意したとされる。さらに将来的にはトルクメニスタンとのスワップでアルメニアにもガス供給が可能という発言も出ている[6]

欧州への供給量の確保が必要なアゼルバイジャンは、イランとトルクメニスタンという2つの大ガス国を背景に、国内消費用のガスを恐らく国際価格より安価なこれらの国からの輸入で賄い、その分多くの自国産ガスを国際価格で輸出に回すことができると考えられる。

またEU側も、南ガス回廊によるガス供給拡大のガスソースとして、アゼルバイジャンだけではなくトルクメニスタンも念頭に置いていることが想像できる。7月のアゼルバイジャンとの覚書締結時にフォンデアライエン委員長から次のような発言があった。

「EUはアゼルバイジャンと共に、中央アジアやそれ以外の地域との繋がりを構築したい。したがってカスピ海を横断する経路に関する議論やアイデアに多大な関心を寄せている。(The European Union wants to work with Azerbaijan to build connections with Central Asia and beyond. So we follow with great interest the discussions and the ideas about trans-Caspian connections. [7])」

カスピ海を越えてトルクメニスタンとアゼルバイジャンにつなげるカスピ海横断パイプラインという構想があるが、今のところ具体的な実現見通しはない。南ガス回廊の輸送量拡大という文脈で今後アゼルバイジャンの探鉱・開発活動と、トルクメニスタンの関わりに注目したい。

 

[1] 欧州委員会(2022年7月18日)“EU and Azerbaijan enhance bilateral relations, including energy cooperation,” https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_22_4550

[2] アゼルバイジャン大統領府(2022年7月18日) “Ilham Aliyev, President of European Commission made press statements,” https://president.az/en/articles/view/56690

[3] Offshore (2022年3月23日)“TAP pipeline owners could speed up gas capacity auctions,”
https://www.offshore-mag.com/pipelines/article/14248428/tap-pipeline-owners-could-speed-up-gas-capacity-auctions

[4] Reuters(2022年9月6日)”Final decision on doubling TAP gas link capacity in early 2023, exec says,” https://www.reuters.com/business/energy/final-decision-doubling-tap-gas-link-capacity-early-2023-exec-says-2022-09-06/

[5] 2022年3月31日にロシアのプーチン大統領が、EUの消費者による天然ガス輸入代金をルーブル建てとする大統領令に署名。これを受けてガスプロムはガス供給取引の決済方法の変更をブルガリアに要請したが、ブルガリア側は従来の契約に基づく決済方法の維持を主張しガスプロムの要請に応じなかったため、ガスプロムはブルガリア向けの供給を停止した。

[6] Orient(2022年5月28日)”Iran is ready to transport Turkmen gas to Armenia via swap system,” https://orient.tm/en/post/37780/iran-ready-transport-turkmen-gas-armenia-swap-system

[7] 欧州委員会(2022年7月18日)” Statement by President von der Leyen with Azerbaijani President Aliyev,”
https://neighbourhood-enlargement.ec.europa.eu/news/statement-president-von-der-leyen-azerbaijani-president-aliyev-2022-07-18_en

 

以上

(この報告は2022年9月14日時点のものです)

アンケートにご協力ください
1.このレポートをどのような目的でご覧になりましたか?
2.このレポートは参考になりましたか?
3.ご意見・ご感想をお書きください。 (200文字程度)
下記にご同意ください
{{ message }}
  • {{ error.name }} {{ error.value }}
ご質問などはこちらから

アンケートの送信

送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。