ページ番号1009483 更新日 令和4年10月6日
原油市場他:OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が2022年11月から2023年12月にかけての原油生産目標を2022年10月比で日量200万バレル削減する旨決定(速報)
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概要
- OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2022年10月5日に閣僚級会合を開催し、2022年11月から2023年12月にかけての原油生産目標を2022年10月比で日量200万バレル削減する旨決定した。
- 次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は12月4日に開催される予定である。
- 9月5日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、石油市場では、米国等での夏場ドライブシーズンに伴うガソリン需要期終了による季節的なガソリン需給の緩和感が市場で増大したことが、原油相場に下方圧力を加えた。
- また、9月20~21日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%の政策金利の引き上げが決定された他、FOMC開催後の記者会見で米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、物価上昇沈静化のため経済成長がある程度犠牲になる恐れがある旨明らかにしたことや、その他の米国金融当局関係者も積極的な金融引き締め政策推進を支持する旨示唆したことにより、米ドルが上昇したり、金融引き締め政策推進による経済減速懸念から米国株式相場が下落したりしたことでも、原油価格は押し下げられた。
- さらに、9月22日に英国等の中央銀行が政策金利引き上げを発表したことにより、世界的な景気後退発生に対する不安感が市場で拡大したこと等でも、原油価格は下落した。
- このようなことから、前回閣僚級会合直前の9月2日には1バレル当たり86.87ドルの終値であった原油価格(WTI)は9月26日には同76.71ドルの終値と、ロシアによるウクライナへの事実上の侵攻開始(2月24日)以前である1月3日以来の低水準に到達する場面も見られた。
- このような原油価格の下落傾向により、特にロシアを初めとする原油生産拡大余地の少ない産油国を含めOPECプラス産油国の原油収入減少懸念が同産油国間で増大した。
- また、原油相場下落の兆候に対しOPECプラス産油国による原油価格下落防止のための行動が後手に廻るようだと、OPECプラス産油国が原油価格下落に対し寛容な姿勢を示していると市場に受け取られるとともに、石油需給緩和観測が強まることにより、原油価格がさらに下げ足を早め制御不能となる恐れがあったことにより、そのような市場の認識の拡大を防止する必要性が生じた。
- このようなことから、OPECプラス産油国は日量200万バレルの原油生産目標削減を決定することにより、市場での石油需給引き締まり感の醸成を図ろうとしたものと考えられる。
- 今次閣僚級会合において日量200万バレルの原油生産目標の引き下げが決定されたことから、OPECプラス産油国の原油価格下落防止に対する断固たる姿勢を石油市場関係者が感じ取るとともに石油需給引き締まり感を意識するようになったこと等により、会合開催当日である9月5日の原油相場に上方圧力が加わった結果、この日の原油価格の終値は1バレル当たり87.76ドルと前日終値比で1.24ドル上昇した。
(OPEC、IEA、EIA他)
1. 協議内容等
(1) 2022年10月5日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を対面形式で開催し(対面形式でのOPECプラス産油国閣僚級会合開催は2020年3月5日以来のことであった)、2022年11月から2023年12月にかけてのOPECプラス産油国の原油生産目標を2022年10月比で日量200万バレル削減する旨決定した(表1及び巻末参考1参照)。
(2) この決定の背景には、世界経済及び石油市場を巡り不確実性が強まったことに加え、石油市場に対しOPECプラス産油国が長期的な対処方針の表明を強化する必要があったことがある旨当該会合後に発表された声明で示唆された。
(3) さらに、生産目標の完全遵守に固執することが極めて重要であることを当会合で再確認し、(これまで生産目標を達成できていない産油国は生産目標を完全に達成するための)追加生産調整計画(当該調整期間は2023年3月31日までとする)を速やかに提出するよう、会合で要請された。
(4) なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は12月4日に開催される予定である。
(5) また、OPECプラス産油国閣僚級会合はOPEC総会とともに6ヶ月毎に開催することを今回の会合で決定した他、市場の動向により必要とされる場合にOPECプラス産油国閣僚級会合を含めた追加の会合を開催する権利をOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)に付与することとした(なお、JMMCは2ヶ月毎に開催される予定である旨、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相が会合開催後の記者会見で明らかにしている)。
(6) 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合後の記者会見で、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は、西側諸国等による金融引き締め政策推進(に伴う原油相場への下方圧力)に対し先制的に行動する必要があった旨説明した。
(7) 他方、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合での決定に対し、10月5日に米国のバイデン大統領は減産措置の強化は必要ないものであるとして批判した。
(8) また、OPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置強化の決定を受け、米国バイデン政権の国家安全保障担当顧問のサリバン氏と国家経済会議(NEC: National Economic Council)委員長のディーズ氏が声明を発表した(巻末参考2参照)。
(9) その中で、世界経済がロシアのプーチン大統領のウクライナ侵略に伴う継続的な負の影響と格闘する中でのOPECプラス産油国による近視眼的な減産の決定に落胆した旨米国のバイデン大統領が表明した。
(10) また、バイデン大統領は、米国民を防衛しエネルギー安全保障を増進するため適切な戦略石油備蓄放出(SPR)を指示し続ける意向である他、エネルギー省長官に対し中期的な国内(原油)生産の増加を継続させるための追加の責任ある行動を検討するよう指示するとした。
(11) また、バイデン政権は、米国エネルギー企業に対しガソリン小売価格を引き下げ続けるよう要請した他、OPECのエネルギー価格に対する支配力を低減させるよう追加方策と権限につき議会と協議する方針である旨明らかにした。
(12) なお、OPECプラス産油国閣僚級会合後の記者会見においてサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は、米国バイデン政権の声明について意見を求められたが、「そのような立場にない」として発言を拒否した。
2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
(1) 8月3日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合において、2022年9月につき前月比で日量10万バレルの原油生産目標引き上げを決定したが、当該会合開催以降、石油市場では、米国ガソリン需要低迷を巡る懸念の増大が、原油価格に下方圧力を加えた(図1参照)。
(2) また、中国での新型コロナウイルス感染抑制のための一部都市における封鎖措置等の実施及び中国経済が減速しつつあることを示唆する指標類の発表も、原油価格を押し下げた。
(3) さらに、物価上昇を抑制するための政策金利引き上げを支持する旨の欧米金融当局者等の発言により、この先の世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことでも、原油価格は下振れした。
(4) このようなことから、前々回閣僚級会合開催直前の8月2日には1バレル当たり94.42ドルの終値であった原油価格(WTI、以下油種が特定されていない場合は同様)は前回閣僚級会合直前の9月2日には同86.87ドルの終値へと下落したうえ、8月16日には同86.53ドルの終値と、ロシアによるウクライナへの事実上の侵攻開始(2月24日)以前の1月25日以来の低水準に到達する場面が見られた他、特に8月29日から9月1日にかけては、1バレル当たり10.40ドル下落するなど、原油価格の下げ足が速まる兆候が見られた。
(5) このようなことから、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は、原油価格のさらなる下落による原油収入減少を防止するために先制的に行動することを優先させたものと見られ、市場での石油需給緩和感の抑制を図るべく、10月の原油生産目標を前月比で日量10万バレル引き下げる旨9月5日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定した。
(6) ただ、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降においても、米国等での夏場ドライブシーズンに伴うガソリン需要期終了による季節的なガソリン需給の緩和感が石油市場で増大したことが、原油相場に下方圧力を加えた。
(7) また、9月20~21日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%の政策金利の引き上げが決定された他、この先の政策金利予想が2022年末時点で4.4%、2023年末時点で4.6%と、6月14~15日時点に発表された前回予想である2022年末時点で3.4%、2023年末時点で3.8%から引き上げられた旨9月21日に米国連邦準備制度理事会(FRB)が明らかにしたこと、FOMC開催後の記者会見でパウエルFRB議長が、物価上昇沈静化のため経済成長がある程度犠牲になる恐れがある旨明らかにしたことや、米国のクリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁及びボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁を初めとして複数の米国金融当局関係者が積極的な金融引き締め政策推進を支持する旨示唆したことにより、米ドルが上昇したり、政策金利の引き上げを含む積極的な金融引き締め政策に伴い経済が減速するとの懸念が市場で増大したことを通じ米国株式相場が下落したりしたことでも、原油価格は押し下げられた。
(8) さらに、米国に続き、9月22日に英国、スイス、ノルウェー及び南アフリカ等の中央銀行が政策金利引き上げを発表したことにより、世界的な景気後退発生に対する懸念が市場で増大したことでも、原油価格は下落した。
(9) 加えて、1972年以来の大型減税を実施する旨9月23日に英国のトラス首相及びクワーティング財務相が発表したことにより、英国政府財政状況悪化懸念から英ポンドが大幅に下落したことに対し、前年比2%の物価上昇目標を達成するために必要とされる政策金利の調整を躊躇なく実施する方針ではあるものの、(英ポンド下落防止のための)緊急対策を講ずるつもりはない旨9月26日に英国イングランド銀行(中央銀行)のベイリー総裁が示唆したことにより、英国経済混乱観測が市場で強まるとともに英ポンドが下落し続けた反面米ドルが上昇したことでも、原油価格は下振れした。
(10) このようなことから、前回閣僚級会合直前の9月2日には1バレル当たり86.87ドルの終値であった原油価格は9月26日には同76.71ドルの終値と、ロシアによるウクライナへの事実上の侵攻開始以前の1月3日(この時の終値は同76.08ドル)以来の低水準に到達する場面が見られた。
(11) そして、原油価格下落により、増産余地のない産油国を中心として原油収入が減少する可能性が増大したことへの懸念がOPECプラス産油国間で強まったものと見られる。
(12) 特にロシアについては、2022年1月に日量1,007万バレルであった原油生産量(コンデンセート除く)が2022年9月には推定同987万バレルへと減少した(なお、同国の2022年9月の原油生産目標は日量1,103万バレルであったが、同国のウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う西側諸国等による対ロシア制裁発動及びロシア産石油を購入することに伴う西側諸国等の石油企業に対する評判リスク(Reputation Risk)への懸念による同国産石油購入敬遠の動き等もあり、同国は原油生産目標を大きく下回った水準での生産を余儀なくされていた)(図2参照)。
(13) また、西側諸国の石油企業等がロシア産石油の購入を敬遠するようになったこともあり、ロシアの主要原油であるウラル(Urals)の原油価格が他の原油に比べ大幅に下落、4月18日には欧州の指標原油であるブレントの価格を1バレル当たり40ドル強下回る場面も見られた(なお、ここではブレント原油価格はタンカーへの積載地での引き渡し価格であることに対し、ウラル原油価格はロッテルダムでの引き渡し価格である)。
(14) 9月26日時点ではウラル原油価格がブレント原油価格を下回る幅は1バレル当たり23.36ドルと、4月18日に比べれば価格差は縮小したものの、4月18日から9月26日に至るまでに原油価格自体が下落した(4月18日には1バレル当たり113.16ドルの終値であったブレント原油価格は9月26日には84.06ドルの終値となった)ことにより、9月26日のウラル原油価格も1バレル当たり60.70ドルと4月18日の水準(同72.25ドル)から13.6%下落、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻開始の相当以前の時点である2021年4月13日(この時は同60.63ドル)以来の低水準となった。
(15) このようにロシアでは、原油生産量が減少気味で推移したうえ、原油販売価格も下落したことから、ロシアの原油収入は2022年初頭に比べ相当程度減少しているものと推測される。
(16) このため、ウクライナへの事実上の侵攻実施に際しその戦費を捻出する必要のあるロシアは、国家予算の主要な部分を占める原油収入を確保する必要があるものの、同国は原油販売量を拡大することが困難であったこともあり、下落しつつあった原油価格の持ち直しに向けた方策の遂行を希望したものと見られ、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際し日量100万バレルの原油生産目標の引き下げを同国が主張する可能性が高い旨9月27日に伝えられた。
(17) なお、前述の通りロシアの原油生産量は、従来から原油生産目標を下回っていたことにより、OPECプラス産油国全体として原油生産目標を引き下げたとしても、それは、原油生産目標近辺で生産するサウジアラビア等一部の産油国の原油生産には影響するものの、ロシアの原油生産には実質的には殆ど影響がないものと考えられた。
(18) また、原油生産拡大に苦慮する他のOPECプラス産油国も、原油価格の引き上げが望ましい旨考えていたものと思われ、足元の原油価格が既に一部のOPECプラス産油国の予算に影響を与えつつあることにより、これ以上価格が下落するようであれば、OPECプラス産油国は減産措置の強化を検討するかもしれない旨9月22日にナイジェリアのシルバ石油資源相が発言した。
(19) 他方、米国では、9月3~5日の連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)が発表する週間全米平均ガソリン小売価格は、6月13日に到達した1993年4月以降の週間統計史上最高水準である1ガロン当たり5.107ドルから折り返し、10月3日には同3.909ドルへと下落したことから、この面ではガソリン小売価格引き下げのための米国によるサウジアラビア等主要OPECプラス産油国に対する原油価格引き下げを巡る働きかけを強める必要性は相対的に後退する格好となった(図3参照)。
(20) しかしながら、11月8日に予定される米国連邦議会中間選挙投票を控え、依然として米国のガソリン小売価格は低水準とは言い難い状況であったことから、原油価格の安定化を目指し、2022年10月に終了する予定であった米国連略石油備蓄(SPR)からの原油供給につき、当初予定された1.8億バレルの原油供給量に対し9月19日時点での実際の供給量が1.55億バレルにとどまっていたこともあり、11月も最大1,000万バレルの原油をSPRから供給する方針である旨9月19日に米国エネルギー省(DOE)が明らかにした他、米国国務省のエネルギー安全保障担当顧問であるホクスタイン(Amos Hochstein)氏と米国バイデン政権の中東政策調整官であるマクガーク(Brett McGurk)氏が9月23日にサウジアラビアのムハンマド皇太子との間でエネルギー安全保障やイエメン問題等の中東情勢を含む内容に関しサウジアラビアのジェッダで会合の機会を持った旨同日国営サウジ通信が伝えたうえ、10月5日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前の時点においても、米国政府関係者が中東湾岸OPECプラス産油国関係者に対し電話連絡を通じ減産措置を撤回させようとしたと伝えられるなど、引き続き米国はサウジアラビアに対し原油価格安定を巡る働きかけを行っていたものと見られる。
(21) しかしながら、原油価格が下落傾向となったことにより、特にOPECプラス産油国の重要な構成国であるロシアを初めとする原油生産拡大余地の少ないOPECプラス産油国の原油収入の減少への懸念が増大したことに加え、原油相場下落拡大の兆候に対しOPECプラス産油国が市場での石油需給引き締まり感の醸成への行動で後手に廻るようだと、OPECプラス産油国は石油需給緩和観測の強まりによる原油価格の下落に対し寛容な姿勢を示していると市場に受け取られることから、原油相場にさらなる下方圧力が加わり続ける結果、全てのOPECプラス産油国にとって原油収入が減少し続けることにより、各産油国の財政運営面での支障が増大する恐れがあったこともあり、そのような市場での認識の拡大を防止すべく石油需給の引き締まり感の醸成を図るため、日量200万バレルの原油生産目標削減を決定したものと考えられる。
(22) また、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合における2022年10月比での日量200万バレルの原油生産目標の引き下げは、OPECプラス産油国の相当部分が原油生産目標を下回る水準で原油生産を行っている状況からすると、実質的な減産規模は主要中東湾岸OPECプラス産油国(サウジアラビア、UAE及びクウェート等)を中心とした日量100万バレル程度にとどまるものと見られる(なお、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合後の記者会見でサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は実質的な減産規模は日量100~110万バレルと説明していた)。
(23) OPECプラス産油国が2022年11月以降同年10月比で実質日量100万バレルの減産を実施した場合、2022年第4四半期は日量10万バレル程度世界石油需要が供給を上回るものと見られることから、直近では石油需給はほぼ均衡することとなる(表2参照)。
(24) しかしながら、今回の減産措置の期限は2023年12月末であり、OPECプラス産油国が実質日量100万バレルの減産措置を2023年12月末まで実施した場合、2023年全体では日量140万バレル超程度世界石油需要が供給を上回ることになる(表3参照)など、石油需給引き締まり展望を相当程度強める格好となっており、この面ではOPECプラス産油国による原油価格回復に対する強い意志が現れているものと言えよう。
3. 原油価格の動き等
(1) 今回の閣僚級会合開催に際し、OPECプラス産油国が原油生産目標を2022年10月比で最大日量200万バレル削減する旨検討していると10月4日に報じられたことを受け、同日の原油価格が前日終値比で1バレル当たり2.89ドル上昇するなど(また、OPECプラス閣僚級会合で日量100万バレル超の減産措置強化が検討される旨10月2日に伝えられたことから、10月3日の原油価格も前週末終値比で1バレル当たり4.14ドル上昇していた)、閣僚級会合を前にして、日量200万バレルの減産は市場関係者の心理に織り込まれる格好となっていた。
(2) そして、実際OPECプラス産油国が日量200万バレルの減産措置実施を決定したとの情報が流れたことにより、同規模の減産措置検討の報道により上昇していた原油価格に対し、利益確定の動きが発生し始め、10月5日午前中(米国東部時間)には原油価格は一時1バレル当たり85.42ドル(前日終値比同1.10ドルの下落)にまで下落する場面が見られた。
(3) しかしながら、その後OPECプラス産油国の減産措置が2022年11月のみならず(これまで1ヶ月毎に減産措置を調整してきたことから、市場では日量200万バレルの減産措置強化は短期的なものであるとの認識があったものと見られる)2023年12月まで実施する方針であることが明らかになった。
(4) この場合、実質的に日量100万バレル規模の減産措置が実施されるとしても、2023年全体では日量140万バレル超程度世界石油需要が供給を上回ることから、より長期間石油需給が引き締り続けるとの観測が市場で広がったうえ、西側諸国等で検討されている、ロシア産石油に対し実質的に価格上限を設定する方策に対し、ロシアの原油生産を一時的に削減する可能性がある旨10月5日にロシアのノバク副首相が明らかにしたことにより、この先の一層の石油需給引き締まり感を市場が意識したことが、改めて原油相場に上方圧力を加えた。
(5) また、この日米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(9月30日の週分)で、原油在庫が前週比136万バレル、ガソリン在庫が同473万バレル、留出油在庫が同344万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫210万バレル程度の増加、ガソリン在庫同130万バレル程度の減少、留出油在庫同140万バレル程度の減少)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことも、原油相場にとって支援材料となった。
(6) この結果、OPECプラス産油国閣僚級会合開催当日である10月5日の原油価格は前日末終値比で1バレル当たり1.24ドル上昇し、87.76ドルと、9月14日(この時の終値は88.48ドル)以来の高水準の終値に到達した。
(7) この先、米国では、冬場の暖房シーズン(11月1日~翌年3月31日)に伴う暖房用石油製品需要期到来を控え(なお、欧州では既に10月1日に暖房シーズンに突入しているとされる)、製油所が秋場のメンテナンス作業等の実施を終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理活動が上向くととともに原油の購入を活発化させ始めるものと見られるため、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まるとともに、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。
(8) そして、ここで市場関係者が注目する点は、足元の気温状況及び冬場に向けての気温予報であろう。
(9) 9月8日には米国海洋大気庁(NOAA)が、ラニーニャ現象(日付変更線付近から南米沿岸にかけての太平洋赤道域での海面の水温が平年より低くなる現象)が発生する確率が、2022年9~11月は91%、2023年1~3月は54%となると予想される旨発表した。
(10) 前年同期の2021年9月9日にNOAAから発表された予報では2021~22年の冬の期間中のラニーニャ現象発生確率は70~80%、前々年同期の2020年9月10日に発表された予報では2020~21年の冬の期間中のラニーニャ現象発生確率は75%程度とされており、次の冬場は後半ラニーニャ発生確率が低下するものの前半は過去2年よりも確率が高くなっている。
(11) ラニーニャ現象が発生すると、北半球の冬場において気温が平年を相当程度下回るなど厳冬になりやすいとされる(なお、夏場となる南米諸国は渇水となりやすいとされる)。
(12) 米国、欧州及びアジア諸国の気温が大幅に低下すれば、暖房向け石油製品(日本や韓国では灯油が利用されるが、他の地域では暖房油(品質的には軽油に近い)が使用される)需要が増加したり、空調のための電力供給用に発電部門、そして暖房用に民生部門での天然ガス需要が拡大しようとしたりするが、既に天然ガス価格は石油製品価格の数倍となるなど高騰していることから、この場合天然ガスからより安価に入手できる重油等の石油製品へと燃料転換が発生しやすくなるものと考えられる。
(13) この結果、石油需給の引き締まり感が市場で増大することを通じ、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。
(14) 他方、8月16日には、ドイツ連邦ネットワーク庁のミュラー(Mueller)長官が、足元で目標としている11月1日までに95%の自国の天然ガス貯蔵充填率を達成したとしても、ロシアからの天然ガス供給が全面的に停止してしまうのであれば、ドイツの天然ガス需要の2ヶ月半程度しか賄えない旨警告した。
(15) しかしながら、2022年初頭以降、欧州の天然ガス需要は産業部門を中心として前年を10%程度下回ると指摘されるなど不振であり、このような需要の下振れにより、2022~23年の欧州の冬においては広範な天然ガス不足が発生する確率はそれほど高くないと見る向きもある(ミュラー長官も、地域的な天然ガス不足が発生することはあっても、ドイツ全土に渡り天然ガス不足が発生するわけでは必ずしもない旨示唆したと8月18日に報じられる)。
(16) ただ、9月26日には、ロシアからドイツに天然ガスを輸送する「ノルド・ストリーム1」及び「ノルド・ストリーム2」パイプラインにおいてデンマーク沖合の海底で天然ガス漏洩が発生した(当初2ヶ所での漏洩とされたが、9月27日には3ヶ所から漏洩が発生している旨伝えられた他、9月29日には4ヶ所目の天然ガス漏洩箇所が発見された旨報じられた)が、過去天然ガスパイプラインの天然ガス漏洩が複数箇所においてほぼ同時に発生するような事例は見られなかったことにより、当該事故は破壊行為によるものであると欧州当局等では推測された(一方で当該破壊行為には西側諸国が関与している旨9月30日にロシア対外情報庁のナルイシキン(Naryshkin)長官が表明している)。
(17) 「ノルド・ストリーム1」及び「ノルド・ストリーム2」両パイプラインは、今回の事故が発生する以前から事実上稼働していないかったことにより、今回の事象によっても、欧州向けの天然ガス供給が新たに減少するわけではないため、欧州での天然ガス需給を引き締めるわけではない。
(18) しかしながら、今回の事象は、欧州等での石油及び天然ガスの生産、出荷及び輸送施設等が攻撃の対象となりうることにより欧州域内での石油及び天然ガス供給が阻止される恐れがあることを市場関係者に喚起する格好となった。
(19) 既にノルウェー沖合では、石油・天然ガス生産関連施設周辺に所属不明の無人機が飛来する例があることが報告されており、ノルウェー政府は施設における警備を強化する方針を明らかにしたと9月30日に伝えられる。
(20) そして、欧州等での石油・天然ガス生産、出荷及び輸送施設等に対し破壊行為が行われようとした場合、もしくは行われた場合、従来はそのような破壊行為による供給停止を想定していなかった(従来はロシアからの石油及び天然ガス供給の削減もしくは停止可能性に対する懸念にとどまっていた)市場関係者が、欧州域内等を含めより大規模な石油及び天然ガス供給途絶発生可能性を不安視するようになること等により、欧州を中心とする地域での天然ガス需給引き締まり感の拡大、そして天然ガスから石油へのさらなる燃料転換促進を含め、石油需給引き締まり感をさらに強く意識することを通じ、原油価格が押し上げられる場面が見られることもありうる。
(21) また、例えば、天然ガス液化施設等の天然ガス供給インフラを巡る操業上の支障(10月5日にはマレーシア国営石油会社ペトロナスがマレーシアLNGの天然ガス液化施設からのLNG出荷に対し不可抗力条項の適用を宣言した(同施設に天然ガスを供給するサバ・サラワクガスパイプラインで9月21日にガス漏洩が発生したことによるものとされる))によっても、同様の理由で原油相場に上方圧力を加える場面が見られることもありうる。
(22) 他方、イラン核合意正常化に向けた西側諸国等とイランとの協議については、米国が二度と核合意から離脱しないよう保証すること、及び国際原子力機関(IAEA)によるイランでの核開発関連調査を終了させること(IAEAに未申請のイラン国内施設でウランの痕跡が認められたことに対しイランがIAEAに説得力のある説明をしていない状態が続いている旨の報告書を9月7日にIAEAが取り纏めている)が核合意正常化に向けた協議妥結の条件である旨9月22日にイランのライシ大統領が表明した一方、米国を含む西側諸国はそのような条件は受け入れられないとしており、交渉は事実上膠着状態となっている。
(23) そのような中、米国はイランで製造された石油製品の供給に関与したとして中国(2社)、香港、アラブ首長国連邦(UAE)、インドを拠点とする企業5社を対象に制裁を発動する旨9月29日に米国国務省及び財務省が発表した。
(24) このため、イラン核合意正常化による米国の対イラン制裁の緩和及びイランからの石油供給の拡大は、少なくとも短期的に実現する可能性はそれほど高くないものと見られ、従って、この面では原油相場に有意にかつ持続的に下方圧力が加わるといった展開とはなりにくいものと考えられる。
(25) また、イエメンについては、ハディ暫定大統領派勢力(及び同政権を支援するサウジアラビアが主導する有志連合軍)とフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)との間での、国連の仲介による停戦(4月2日より2ヶ月間の予定で実施、6月2日に2ヶ月間延長)につき、さらに2ヶ月間延長する旨8月2日に国連が発表したものの、新たな期限とされた10月2日までに、両当事者はさらなる停戦延長につき合意できなかった(国連を仲介者とする交渉はなお継続しているとされる)。
(26) そして、フーシ派武装勢力はサウジアラビアの石油関連施設等に対する攻撃を再開する旨警告していると10月2日に伝えられることから、中東産油国からの石油供給途絶懸念が市場で高まる結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。
(27) 以上のように、石油市場を巡っては、この先原油価格を押し上げる要因が散見される。
(28) しかしながら、これまで指摘した石油需給引き締まりをもたらす可能性のある要因にもかかわらず、米国を初めとする世界各国の金融当局等による政策金利引き上げを含む金融引き締め政策推進の流れから世界経済減速に伴い株式相場が下落するとともに米ドルが上昇することが、原油相場に下方圧力を加える可能性があるとから、OPECプラス産油国は、特に原油生産目標の引き上げには非常に慎重に対処するものと思われる。
(29) むしろ、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合に向け、原油価格が下落傾向となったり、もたつき気味となったり、もしくは急落する兆候が見られたりするようであれば、原油価格の下落が制御不能となる前に、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は先制的に原油生産目標引き下げの可能性に言及する(つまりいわゆる「口先介入」を行う)場面が見られる他、実際に次回OPECプラス産油国閣僚級会合等に際しては原油生産目標のさらなる引き下げが検討及び決定する可能性があるものと考えられる。
(参考1:2022年10月5日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)
33rd OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting
No 30/2022
Vienna, Austria
5 October 2022
The 45th Meeting of the Joint Ministerial Monitoring Committee (JMMC) and the 33rd OPEC and Non-OPEC Ministerial Meeting took place in person at the OPEC Secretariat in Vienna, Austria, on Wednesday, 5 October 2022.
In light of the uncertainty that surrounds the global economic and oil market outlooks, and the need to enhance the long-term guidance for the oil market, and in line with the successful approach of being proactive, and preemptive, which has been consistently adopted by OPEC and Non-OPEC Participating Countries in the Declaration of Cooperation, the Participating Countries decided to:
- Reaffirm the decision of the 10th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 12 April 2020 and further endorsed in subsequent meetings including the 19th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 18 July 2021.
- Extend the duration of Declaration of Cooperation until the 31st of December 2023
- Adjust downward the overall production by 2 mb/d, from the August 2022 required production levels, starting November 2022 for OPEC and Non-OPEC Participating Countries as per the attached table.
- Reconfirm the baseline adjustment approved at the 19th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting.
- Adjust the frequency of the monthly meetings to become every two months for the Joint Ministerial Monitoring Committee (JMMC).
- Hold the OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting (ONOMM) every 6 months in accordance with the ordinary OPEC scheduled conference.
- Grant the JMMC the authority to hold additional meetings, or to request an OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting at any time to address market developments if necessary.
- Extend the compensation period to the 31st of March 2023. Compensation plans should be submitted in accordance with the statement of the 15th OPEC and Non-OPEC Ministerial Meeting.
- Reiterate the critical importance of adhering to full conformity.
- Hold the 34th OPEC and Non-OPEC Ministerial Meeting on 4 December 2022.
(参考2:2022年10月5日発表米国バイデン政権関係者声明)
Statement from National Security Advisor Jake Sullivan
and NEC Director Brian Deese
OCTOBER 05, 2022•STATEMENTS AND RELEASES
The President is disappointed by the shortsighted decision by OPEC+ to cut production quotas while the global economy is dealing with the continued negative impact of Putin’s invasion of Ukraine. At a time when maintaining a global supply of energy is of paramount importance, this decision will have the most negative impact on lower- and middle-income countries that are already reeling from elevated energy prices.
The President’s work here at home, and with allies around the world, has helped to bring down U.S. gas prices: since the beginning of the summer, gas prices are down $1.20 – and the most common price at gas stations today is $3.29/gallon. At the President’s direction, the Department of Energy will deliver another 10 million barrels from the Strategic Petroleum Reserve to the market next month, continuing the historic releases the President ordered in March. The President will continue to direct SPR releases as appropriate to protect American consumers and promote energy security, and he is directing the Secretary of Energy to explore any additional responsible actions to continue increasing domestic production in the immediate term.
The President is also calling on U.S. energy companies to keep bringing pump prices down by closing the historically large gap between wholesale and retail gas prices — so that American consumers are paying less at the pump.
In light of today’s action, the Biden Administration will also consult with Congress on additional tools and authorities to reduce OPEC’s control over energy prices.
Finally, today’s announcement is a reminder of why it is so critical that the United States reduce its reliance on foreign sources of fossil fuels. With the passage of the Inflation Reduction Act, the U.S. is now poised to make the most significant investment ever in accelerating the clean energy transition while increasing energy security, by increasing our reliance on American-made and American-produced clean energy and energy technologies.
以上
(この報告は2022年10月6日時点のものです)