ページ番号1009486 更新日 令和4年10月12日

ロシア:サハリン1プロジェクトを対象にロシア法人への移管を求める大統領令を発出

レポート属性
レポートID 1009486
作成日 2022-10-11 00:00:00 +0900
更新日 2022-10-12 10:11:28 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業探鉱開発
著者 原田 大輔
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 9
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2 アジア
国2 日本
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシアアジア,日本
2022/10/11 原田 大輔
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概要

  • 10月7日、ロシア政府は大統領令「複数の非友好国と国際組織の非友好的活動に関連した燃料エネルギー分野における追加的特別経済措置について」(第723号)を発表[1]。サハリン1プロジェクトについて、事業形態を現状の非法人型JVから変更し、新たに設立されるロシア法人に既存の全ての権利・義務の移管を指示する内容となっている。
  • 6月30日に出されたサハリン2に対する新ロシア法人への移管を謳った大統領令を踏襲する内容だが、サハリン2の場合と同様に、サハリン1参画外資による「違反行為」と賠償請求を暗示し、外資はロシア政府が設立する新ロシア法人への参加を通知しても、最終的な承認はロシア政府が行う等、ロシア政府の敵意が見られる内容となっている。
  • 今回の大統領令に先立って出された、サハリン1も対象に年末までの株式売却を禁じることを謳った大統領令(第520号/8月5日)では、プロジェクトのパフォーマンスを下げ、撤退プロセスを続ける外資に対し、年末までに態度を決め、しかるべくロシア政府との協議を行うことを促すためのものという見方が為されていた。
  • しかし、8月下旬、ExxonMobilはサハリン1からの撤退を認めるよう求める書簡をロシア政府に送付し、期日までに合意できなければ訴訟も辞さない態度を示した。その期日を迎える前に、ロシア政府が新たな戦略として出してきたのが、今回のサハリン1の新ロシア法人への移管に関する大統領令と考えられる。サハリン2同様に、非友好国の出資者に撤退か出資継続かの踏み絵を用意し、撤退という道を選べば、「義務違反」を理由に多額の損害賠償を請求する可能性も示唆している。出て行く外資は売却益は得られず手ぶらで、又は、更に追徴金を支払わなければならない状況に追い込むことも意図している可能性も考えられる。
  • サハリン2のケースでは、大統領令(6月30日)から新ロシア法人の設立(8月5日)まで37日間の時間があった。そこから外資に対する1カ月以内のロシア政府への通知という時計が動き出し、東方経済フォーラム(9月5日~)が始まる前までに、シェルは撤退を、日本企業は新ロシア法人への移管を決定している。今回の場合も、ロシア政府による新ロシア法人設立までの時間が、サハリン1外資にとってロシア政府との条件を含めた協議の期間となるだろう。訴訟も辞さないと表明しているExxonMobilがどのような判断を行うのか注目されるが、その対応によっては、サハリン2のような時間的猶予もなく、新ロシア法人が設立される可能性もある。

 

1. 経緯と現状

サハリン1に関しては、8月5日、同プロジェクトも対象のひとつとする大統領令「複数の外国及び国際組織の非友好的な行動に関わる燃料エネルギー分野における特別経済措置の適用について」(第520号)[2]が発出されていた。非友好国の外国企業が保有する燃料エネルギー産業及び金融分野における戦略的企業株式の年内中の売却を禁じる内容である[3]

それに先立つ7月7日、ロシア政府は初めてサハリン1が直面している深刻な問題の存在を公表している。トルトネフ副首相は、「導入された制限(制裁)の影響を受け、(6月の)サハリン1の石油生産量は22分の1にまで減少した」との発言を行った。3月1日、同プロジェクトのオペレータであるExxonMobilがプロジェクトからの撤退するプロセスを開始したことを表明し[4]、自社の専門家たちを引き揚げ始めてから、生産量が急激に低下していることを指摘しており、6月の平均日産量が6,000バレルを下回った(通常は日量22~23万バレル程度)と言う。コメルサント紙は「米国とEUの制裁によって、プロジェクトへの設備機器の納入が制限されることになった。その結果、大陸棚のプラットフォームのメンテナンスに支障が生じている」という関係者の話を伝えている[5]。また、サハリン1の権益を保有するインドONGCは、欧州の制裁により原油輸送用タンカーへの保険付保が不可能となったため、4月からサハリン1の原油出荷が停止されていると述べていた。

ExxonMobilは、8月3日付けで米国証券取引委員会(SEC)に提出した書類の中で、サハリン1の権益を不特定の者に引き渡す手続きを進めている旨、報告を行っていることが明らかになり、同社の広報も「撤退作業は著しく進展している」と述べていた[6]

8月5日の大統領令が出る前日、サハリン1プロジェクトに20%参画するRosneftは「会社声明」として、「4月26日、ExxonMobilは一方的に、サハリン1プロジェクトの他の利害関係者と協議することなく、生産の段階的な縮小を開始した。5月6日、デ・カストリ石油ターミナルからの石油を積んだ最後のタンカーが出荷された。5月15日時点で、プロジェクトのオペレーションは事実上停止している。8月4日時点で、デ・カストリ石油ターミナルの貯蔵タンクレベルは95%。石油の出荷は行われていない」と、オペレータであるExxonMobilを非難するプレスリリースを出している[7]

(図1)サハリン1及び2を巡るロシア政府と外資等の動き
(図1)サハリン1及び2を巡るロシア政府と外資等の動き
出典:報道情報よりJOGMEC作成

外国企業が保有する燃料エネルギー産業等の指定会社株式に関連する取引を年末まで禁止する新たな大統領令第520号の発出を受けて、オペレータであるExxonMobilはサハリン1からの同社の撤退を認めるよう求める書簡をロシア政府に送付し[8]、期日までに撤退について合意できなければ訴訟を起こす意向を明らかにした[9]。具体的な期日は不明だが、一般的な慣行ではそのような通知から30~90日後とされることが多く、8月末から起算すれば9月末から10月中旬となる。このような中、ExxonMobilの一方的な撤退を非難しているRosneftは、サハリン1の操業を通常に戻すことこそが争いとなっている問題の解決に役立つ可能性があるということを示唆しており[10]、ExxonMobilに対して、訴訟によって事態を深刻化させ、ロシア政府と対立せず、生産活動を回復させるよう促すような動きが見られた。

(表1)3つのPSAプロジェクトの比較
(表1)3つのPSAプロジェクトの比較
出典:公開・報道情報よりJOGMEC取り纏め

サイドラインの動きとして、9月28日、サハリン2に新たに設立されたロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギヤ」が、サハリン1で生産された原油の販売についての協力を提案したとサハリン州現地紙で報道されている[11]。サハリンで行われた国際フォーラムで「サハリンスカヤ・エネルギヤ」のオホトキン営業部長が明らかにしたところによれば、同社はサハリン1の操業再開を支援するべく、滞留している原油の販売に協力する用意があることをエネルギー省に伝えたと言う。現下のサハリン1の生産量における急激な減少については、(1)オペレータであるExxonMobilによる専門家・エンジニアの引き揚げによる操業上の支障、(2)欧州による制裁によって原油輸送用タンカーへの保険付保ができなくなり、輸出可能なタンカーにボトルネックが生じているという2点によって引き起こされていると考えられているが、「サハリンスカヤ・エネルギヤ」による支援の内容は、後者に関して傭船方法に関する何らかの支援と推察される。

そして、今般、10月7日に新たな大統領令「複数の非友好国と国際組織の非友好的活動に関連した燃料エネルギー分野における追加的特別経済措置について」(第723号)が出された。その内容は、6月30日にサハリン2を対象として出された大統領令第416号[12]に類似し、サハリン1について事業形態を現状の非法人型JVから変更し、新たに設立されるロシア法人に既存の全ての権利・義務を移管する内容となっている。

 

2. 大統領令(第723号)のポイント

大統領令(第723号)のポイントは次の通りとなる。全体の抄訳については下記参考を参照されたい。

大統領令の要求は「サハリン1プロジェクトに対して現在の非法人型JVを新たに設立されるロシア法人に移管する」ことが柱となっている。その内容はサハリン2に対する大統領令を踏襲する形であり、サハリン2の場合と同様に、その内容にはロシア政府の敵意が見られる内容となっている。

 

(1) サハリン1参画外資による「違反行為」と賠償を暗示

今回の大統領令でも、ウクライナ侵攻を受けて発動された「非友好国」による制裁に対するカウンター措置であることが前提となっている。そして、「生産物分与協定(PSA)で規定された諸義務に対する複数の外国法人と自然人による違反行為の結果生じた、自然及び技術的要因に起因する非常事態発生の脅威、人々の生命と安全に対する脅威、並びに、ロシア連邦の国益と経済安全保障に対する脅威を受け、該当する外国の自然人・法人及び彼らの支配下にある自然人・法人に対し以下に示す特別経済措置を適用する」としており、サハリン1外国参画者に対して、違反行為とそれに対する賠償を暗示する内容となっている(第1条)。ロシア連邦政府は「外国法人(それらの法人の支部)及び(もしくは)外国の自然人が行った活動の財務、環境、技術面での監査及びその他のファクターに関する監査を実施」し、「損害(そこには、コンソーシアムの外国側参加者が規定された義務を遂行しなかったことにより生じる損害も含まれる)の額を計算し、その損害を補償しなければならない自然人・法人を指定」(第1条(サ)及び(シ))するとされている。

果たして「違反行為」とは何を指すものなのか。すぐに思いつくのは冒頭の通り、ウクライナ侵攻を受けて撤退プロセスを開始した結果、生産量・輸出量が著しく減退したことに対して、オペレータとしての義務を果たしていないとロシア政府及びRosneftから非難を受けているExxonMobilの行いに対するものだ。サハリン2はGazprom、シェル、三井物産及び三菱商事が出資する「サハリン・エナジー(Sakhalin Energy Investment Company)」社がオペレータとなってきたため、大統領令で規定された「外国法人が犯した義務違反」については、その対象が外資全体を指すとも読める内容ともなっていた。他方、サハリン1はサハリン2と異なり、オペレータはExxonMobil(その子会社であるバハマ法人のExxonneftegaz)が務めている。オペレータが果たす義務を違反しているということであれば、今回の大統領令のターゲットは同社をターゲットとしている可能性が高いと考えられる。

 

(2) 外資はロシア政府設立のロシア法人へ参加申請できるが、その決定権はロシア政府にある

これはサハリン2の大統領令と全く同じ内容であり、ロシア政府はサハリン1プロジェクトの新たな受け皿となるロシア法人を設立し、その設立から1カ月以内にサハリン1外資参画者はそのロシア法人のシェアを自身の所有として受け入れる同意をロシア政府に通知しなくてはならない。しかし、それで認められるのではなく、ロシア政府はその申請を審査の上で拒否する権利も有している。例えば(1)で指摘している「義務違反」を理由に、申請を拒否する可能性も考えられる。そして、移管されなかったロシア法人のシェアは、ロシア政府が査定し、ロシア政府により定められる手順で、他のロシア法人に売却されることとなっている。

 

(3) オペレータをExxonMobilからRosneftへ移管か

第2条では「ロシア連邦政府は、(設立する)有限責任会社の管理者として株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」を指名する」とある。Sakhalinmorneftegaz-Shelf(11.5%)はRosneftの子会社であり、同じ子会社であるRN-Astra(8.5%)と併せて、サハリン1のRonseftによる20%権益保有を代表する会社である。同社はRosneftがプーチン政権の国家資本主義の旗艦的役割を果たし、強大化する前の90年代からRosneftの中心母体であった古株会社であり、確かにサハリンでの上流開発経験も長いと言えるだろう。ExxonMobilの不在によってプロジェクト活動がサスペンドする中、大統領令は同社をExxonMobilに代わるオペレータとするべく、新たなロシア法人の「管理者」とするのか(それでもその技術及びプロジェクト遂行能力にはExxonMobilの代替者としては疑問が残る)。又は、今回のロシア政府が仕掛けようとしている一連のプロットの中で、単に過渡期の「管理者」に留まるのか注目される。

 

(4) その他(ロシア法支配の一方、PSAにおける財務条件は守られる模様)

サハリン2の場合同様、準拠法はロシア法、仲裁はモスクワ市商事裁判所となり、現在の外資が守られている契約条件からは大幅に後退する内容となる。そもそも生産物分与(PSA)法を連邦法レベルで発効し、PS契約を締結させた最大の理由のひとつが外国企業の権利を守ることにあった。サハリン2に続き、今回の大統領令によってサハリン1外資も残留する場合にはその条件について譲歩せざるを得ないことになるだろう。一方で、第8条において、ロシア政府は「新ロシア法人とその参加者に対し、PSAで規定された特別な税制、関税制度、関税率調整方式、ガスの独占的輸出権を維持することを認める」とも書かれている。この点は、「会社の営業活動は、PSAの条項に従って実施される」とのみ書かれたサハリン2に対する大統領令(第416号)よりも踏み込み、サハリン1参画者のPSA上のフィスカル・タームについては、新ロシア法人に移管後も確実に維持される書き方となっている。

 

<参考>大統領令(第723号)抄訳

「複数の非友好国と国際組織の非友好的活動に関連した燃料エネルギー分野における追加的特別経済措置について」 
(注)及び太線は筆者加筆。

アメリカ合衆国及び同国に同調する外国国家及び国際組織の、ロシアの自然人と法人を対象とする制限措置の導入を念頭に置いた国際法に違反した非友好的活動を受け、ロシア連邦の国家利益の保護を目的として、2006年12月30日付の連邦法第281-FZ『特別経済措置と強制的措置について』、2010年12月28日付け第390-FZ号『安全保障について』及び2018年6月4日付の連邦法第127-FZ『米国及びその他の諸外国の非友好的行動に対する対応(対抗措置)について』に従い、以下を決定する。

  1. 1995年6月30日に締結された、チャイヴォ、オドプトゥ、アルクトゥン・ダギの各鉱床(注:サハリン1プロジェクトの鉱床)の開発に関する生産物分与協定(以下、協定)で規定された諸義務に対する一部の外国法人と自然人による違反行為の結果生じた、自然及び技術的要因に起因する非常事態発生の脅威、人々の生命と安全に対する脅威、並びに、ロシア連邦の国益と経済安全保障に対する脅威を受け、該当する外国の自然人・法人及び彼らの支配下にある自然人・法人に対し以下に示す特別経済措置を適用することを決定する:

(ア)ロシア連邦政府はロシア法人(有限責任会社)を設立する。本大統領令に基づき、当該の有限責任会社には、共同活動に関する契約に従い活動し法人格を有さない法人(投資家)の集合体(以下コンソーシアム)の協定に基づく義務と権利全て(オペレータであるExxonneftegazの権利及び義務も含まれる)が譲渡される。当該の有限責任会社(以下、単に有限責任会社と称する)は、ロシア政府が定める手続きに従い設立される。有限責任会社は協定に基づき、協定の第XXXX条及び第XXXXI条にその境界が示されている契約海域の範囲内に所在する地下資源の開発に取り組み、コンソーシアムの全ての権利及び義務を引き継ぐ。ロシア連邦政府は有限責任会社の設立者(資本参加者)ではないものとする;

(イ)協定の枠内でコンソーシアムが構築もしくは取得した資産は、即座にロシア連邦の所有下に置かれる(当該の資産の構築もしくは取得のためにコンソーシアムが投下した資金の補償に関する義務をロシア政府が適切に遂行するため)。同時に、協定で定められた期間、それらの資産を無償で利用する権利が有限責任会社に供与される;

(ウ)本項の小項(イ)の規定の対象外であるコンソーシアムの資産は即座に有限責任会社に譲渡されなければならない;

(エ)有限責任会社の定款資本への出資者とその出資比率は以下の通りとなる:

  • 株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」(注:Rosneft子会社)は協定に従い保有する権益比率に応じ11.5%を出資したことになる;
  • 株式会社「RN-Astra」(注:Rosneft子会社)は協定に従い保有する権益比率に応じ8.5%を出資したことになる;
  • コンソーシアムの外国側の参加者は協定に従い保有する権益に基づき、合計で80%の権利を保有する。この80%は、本大統領令に基づき定められる自然人・法人に譲渡される。有限責任会社に帰属する当該のシェア(80%)の譲渡先が決定するまで、その管理は本大統領令に従いロシア連邦政府が実施する;

(オ)有限責任会社が設立されてから1カ月以内にコンソーシアムの外国側の参加者は協定に従い自らが保有する権益比率に応じ有限責任会社の定款資本におけるシェアを取得することに同意する旨を、ロシア連邦政府に提出する必要がある。同通知には、コンソーシアムの参加者が協定に基づき当該の比率の権益を保有していることを証明する文書及び有限責任会社の定款資本のシェア取得に関する承認(合意)を得たことを証明する文書、もしくは、そのような承認(合意)が必要ないことを証明する文書が添付されなければならない;

(カ)本項の小項(オ)で規定された文書が提出された後、ロシア連邦政府は3日以内に以下の措置を講じる;

  • 本項の小項(オ)に従い、提出された書類を確認する;
  • 協定に基づき保有する権益の比率に応じ有限責任会社の定款資本のシェアをコンソーシアムの所与の外国側参加者に供与するか否かについての決定する

(キ)ロシア連邦政府が供与することを決定した有限責任会社の定款資本のシェアは、本稿の小項(カ)に従い供与されることになったコンソーシアムの外国側参加者に即座に譲渡されなければならない。その時点で、当該のシェアについてのロシア連邦政府の管理は終了する;

(ク)本稿の小項(カ)及び(キ)に基づくコンソーシアムの外国側参加者への供与が行われなかった有限責任会社の定款資本のシェアに関しては、ロシア連邦政府による価値の査定が実施され、ロシア連邦が定める方式に基づき、定められた基準を満たすロシアの法人に売却される。定款資本のシェアの査定と売却は、本項の小項(カ)の第3段落に示された規定に従いシェアの供与の拒否に関する決定が採択されてから4カ月以内に実施される。そのような決定が採択されない場合(例えば、本項の小項(オ)で定められた通達が行われなかった場合や、期限内に通達が行われなかった場合)には、本項の小項(オ)で規定された期限が経過してから4カ月以内に査定と売却が実施される;

(ケ)本項の小項(カ)と(キ)に基づくコンソーシアムの外国側参加者への供与の対象とならなかった有限責任会社の定款資本シェアの売却により得られた資金は、そのシェアの購入者により、2022年3月5日付ロシア連邦大統領令第95号『複数の外国の債権者に対する債務履行に係る臨時規則について』に基づき、シェアの供与の対象外となったコンソーシアムの外国側参加者のために有限責任会社が開設した「C(エス)型口座」に振り込まれる。コンソーシアムの当該外国側の参加者は、本項の小項(サ)~(ス)で規定されたプロセスが全て完了するまで当該の資金に対する所有権を行使するこができない;

(コ)協定の第XX条に基づきコンソーシアムの外国側参加者により蓄積された資金と同額の資金が、即刻、外国参加者自身、もしくは、彼らの委任を受けた自然人・法人により有限責任会社の決済口座に振り込まれなければならない。有限責任会社はロシア連邦政府から権限を与えられた銀行に精算口座を開設し、当該の資金を当該口座に振り込む。精算口座に振り込まれた資金は、協定が定める目的と手続きに従い利用される;

(サ)ロシア連邦政府は、協定の実現に関連して外国法人(それらの法人の支部)及び(もしくは)外国の自然人が行った活動の財務、環境、技術面での監査及びその他のファクターに関する監査を実施する。監査の対象となる自然人・法人のリストは、ロシア連邦政府により承認される;

(シ)本項の小項(サ)に基づき実施された監査の結果を受け、ロシア連邦政府は損害(そこには、コンソーシアムの外国側参加者が本項の小項(コ)で規定された義務を遂行しなかったことにより生じる損害も含まれる)の額を計算し、その損害を補償しなければならない自然人・法人を指定する;

(ス)及ぼされた損害に相当する金額が、本項の小項(シ)に従い損害補償の義務を課せられた自然人・法人と関係を有するコンソーシアムの外国側参加者のために開設されたC型口座から引き落とされる。引き落とされた資金は有限責任会社のものとなる。

  1. ロシア連邦政府は、有限責任会社の管理者として株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」を指名する。同株式会社は、有限責任会社設立日より有限責任会社の唯一の執行機関としての全権を獲得する。本大統領令に従って定められる者に属する全てのシェアに対する所有権の移行日から10日以内に、有限責任会社の株主総会は、有限責任会社の新たな唯一の執行機関が選出するか、又は株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」」の当該権限の延長を決定するものとする。
  2. 有限責任会社設立に際し、ロシア連邦政府はその定款を承認する。定款は、有限責任会社の参加者がそれを承認した日より発効する。有限責任会社及び本大統領令で定められた自然人・法人に帰属する有限責任会社のシェアの全てにつき所有権の移行プロセスが完了してから1カ月以内に、有限責任会社の参加者は新たな定款を承認し、有限責任会社の参加者権利の実現に関する契約を締結しなければならない。
  3. 協定の実現に関する法的関係においては、ロシア連邦の法律が適用される。
  4. 協定の実現に関する法的関係に関連して発生した争いについては、モスクワ市商事裁判所で審理が行われる。
  5. 本大統領令が発効する前にコンソーシアムとオペレータに交付されていた、協定の第XXXX及びXXXXI条でその境界が定められた対象海域での地下資源鉱区の開発に必要なものをはじめとする、各ライセンスとその他の許認可文書(区画割当文書、計画文書、許可書等を含む)は、有限責任会社に交付されたものとみなされる。
  6. 公式見解を出す権利を以下の組織に与える:

(ア)ロシア連邦中央銀行      ・・・本大統領令適用における「C」型口座運用に関する点について。

(イ)ロシア政府                  ・・・本大統領令適用に関わるその他の点について。

  1. 有限責任会社とその参加者に対し、協定で規定された特別な税制、関税制度、関税率調整方式、ガスの独占的輸出権を維持することを認める
  2. ロシア連邦政府に対し6カ月以内に、本大統領令の実施に必要なしかるべき変更を協定に加えることを命じる。
  3. ロシア連邦行政機関、ロシア連邦構成主体行政機関、その他の国家機関、地方自治体行政府に対し、有限責任会社が設立されてから1カ月以内に、本大統領令の第6項で示された有限責任会社に係わるライセンス及びその他の許認可文書を更新することを命じる。
  4. 本大統領は公布された日より発効する。

ロシア連邦大統領 V.プーチン

モスクワ、クレムリン
2022年10月7日
第723号

 

3. 現状認識

サハリン1を含め非友好国の外国企業が保有する燃料エネルギー産業及び金融分野における戦略的企業株式の年内中の売却を禁じる8月5日の大統領令(第520号)は、プロジェクトのパフォーマンスを下げ、撤退プロセスを続ける外資に対し、年末までに態度を決め、しかるべくロシア政府との協議を行うことを促すためのものという見方が為されていた。同大統領令第5項にて「本大統領令で禁止されている取引(オペレーション)は、ロシア連邦大統領の特別決定に基づいて実施され得る」という例外規定を設定しているのも、今後の協議では交渉の余地を示すロシア政府の含みを示すものとも考えられていた。

しかし、8月下旬、ExxonMobilはサハリン1からの同社の撤退を認めるよう求める書簡をロシア政府に送付し、期日までに合意できなければ訴訟も辞さない態度を示した。その期日を迎える前に、ロシア政府が新たな次の一手として出してきたのが、今回のサハリン1の新ロシア法人への移管ということになるだろう。サハリン2の時と同様に、非友好国の出資者に撤退か出資継続かの踏み絵を用意し、撤退という道を選べば、「義務違反」を理由に多額の損害賠償を請求する可能性も示唆している。出て行く外資は売却益は得られず手ぶらで、又は更に追徴金を支払わなければならない状況に追い込むことも意図している可能性も考えられる。

もちろん手を拱いて見ているだけでなく、サハリン2のシェルが撤退方針を貫く道を選んだように[13]、既に訴訟提起の可能性を明らかにしているExxonMobilもロシアのプロジェクトに関与し続けることによる自社のレピュテーションリスクと株価下落リスクを排除するべく、国際司法に訴えて行くという選択肢を進む公算が高い。他方、そのような選択肢を選んでも、訴訟期間は数年に亘り、例え勝訴しても、サハリン1の権益売却益の確保はもとより、コストに見合う成果が得られるかどうかは不明という見方も多くある。

サハリン2の場合には、大統領令(6月30日)から新ロシア法人の設立(8月5日)まで37日間の間があった。そこから外資には1カ月以内のロシア政府への通知という時計が動き出し、東方経済フォーラム(9月5日~)が始まる前までに、シェルは撤退を、日本企業は新ロシア法人への移管を決定している。今回の場合もサハリン1にとって新ロシア法人設立までの時間は、ロシア政府との条件を含めた協議の時間となるだろう。訴訟も辞さないと表明しているExxonMobilがどのような判断を行うのか注目されるが、その対応によっては、サハリン2のような時間的猶予もなく、新ロシア法人が設立される可能性もある。

 

 

[1] ロシア連邦大統領令(第723号):http://publication.pravo.gov.ru/Document/View/0001202210070089?index=0&rangeSize=1(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[2] ロシア連邦大統領令(第520号):http://en.kremlin.ru/acts/news/69117(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[3] 拙稿「(短報)サハリン1を含む外国企業が保有する燃料エネルギー産業等の指定会社株式に関連する取引を年末まで禁止する新たな大統領令を発出」(2022年8月10日)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009439.html

[5] コメルサント(2022年7月7日)

[6] ロイター(2022年8月4日)

[7] Rosneft社HP(2022年8月4日)

[8] コメルサント(2022年8月30日)

[9] ウォールストリートジャーナル(2022年8月30日)

[10] ロイター(2022年8月31日)

[11] IASakha(2022年9月28日)

[12] 拙稿「サハリン2プロジェクトを対象にロシア法人への移管を求める大統領令を発出」(2022年7月6日)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009403.html

[13] 拙稿「サハリン2新ロシア法人にシェルは出資しない意向。ロシア政府がシェル分権益の継承資格に関する政府令を発出」(2022年9月13日)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009462.html

以上

(この報告は2022年10月11日時点のものです)

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